(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】食感維持素材、およびそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20241212BHJP
A23B 7/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23B7/02
(21)【出願番号】P 2021195452
(22)【出願日】2021-12-01
【審査請求日】2024-03-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究「フードロス削減とQoL向上を同時に実現する革新的な食ソリューションの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】徳安 健
(72)【発明者】
【氏名】山岸 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 泰雅
(72)【発明者】
【氏名】白井 展也
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-208936(JP,A)
【文献】国際公開第2020/136981(WO,A1)
【文献】特開2019-201638(JP,A)
【文献】国際公開第2020/152895(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045052(WO,A1)
【文献】特開2000-050831(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118726(WO,A1)
【文献】特表2013-544092(JP,A)
【文献】特開平10-271968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(i)飲食品の粉砕物である
、
(ii
)0.5mm~1mmの粉砕物を重量比
で10%以上含む
、
(iii)長期保存される形態である、および
(iv)前記飲食品の非可食部位由来の粉砕物を含
み、前記非可食部位が、キャベツの芯、またはブロッコリーの茎葉部である
を充足する、飲食品の食感維持素材。
【請求項2】
以下:
(i)飲食品の粉砕物である
(ii)孔径1mmのメッシュを通過するが、孔径0.5mmのメッシュを通過しないものを重量比で10%以上含む
(iii)長期保存される形態である、および
(iv)前記飲食品の非可食部位由来の粉砕物を含み、前記非可食部位が、キャベツの芯、またはブロッコリーの茎葉部である
を充足する、飲食品の食感維持素材。
【請求項3】
前記素材は、孔
径0.5mmのメッシュを通過するが、孔
径0.3mmのメッシュを通過しないものを含む、請求項1
または2に記載の食感維持素材。
【請求項4】
前記素材は、孔
径0.3mmのメッシュを通過しないものを重量比
で80%以上含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項5】
前記素材は、重量比
で90%以下の孔径0.5mmメッシュ通過画分を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項6】
吸水させた前記素材は
、1kgf/cm
2の荷重を与えた場合の面積の拡大
が30%以内である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項7】
前記長期保存される形態は、乾燥形態を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項8】
前記長期保存される形態は
、80℃以下での乾燥によって達成される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項9】
以下のB/Aの値が少なくと
も1.0よりも大きい、請求項1~
8のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(A)前記素材を室温で水抽出した場合のクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの遊離量
(B)前記素材
を60℃で温水抽出した場合の、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択される、(A)で選択されたものと同じものの遊離量
【請求項10】
前記非可食部位由来の粉砕物の形状が、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項11】
前記素材は、前記非可食部位の乾燥した粉砕物であ
る、請求項1~1
0のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項12】
孔径0.3mmのメッシュを通過しないものを、重量比
で80%以上含む、請求項1
1に記載の食感維持素材。
【請求項13】
前記素材は、前記非可食部位の裁断物であり、該芯または該茎葉部の成長軸方向
に1mm以上の厚さを含む裁断物を含む、請求項1~1
0のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項14】
3Dフードプリンタの材料として使用される、請求項1~1
3のいずれか一項に記載の食感維持素材。
【請求項15】
請求項1~1
4のいずれか一項に記載の食感維持素材を吸水して得られた飲食品。
【請求項16】
請求項1~1
4のいずれか一項に記載の食感維持素材の加工成形物を吸水して得られた飲食品。
【請求項17】
請求項1
5または
16に記載の飲食品を乾燥させた加工品。
【請求項18】
請求項1~1
4のいずれか一項に記載の食感維持素材とバクテリアセルロースの懸濁物とを混合して得られた飲食品。
【請求項19】
飲食品の非可食部位を長期保存される形態に処理する
工程であって、該非可食部位が、キャベツの芯、またはブロッコリーの茎葉部である、工程と、
長期保存される形態の該非可食部位を、最小径が少なくと
も0.5mm以上となるように粉砕する工程と
0.5mm~1mmの粉砕物を重量比で10%以上含むように調整する工程と
を含む、吸水した場合に該飲食品の食感を維持した素材を製造する方法。
【請求項20】
吸水させた前記素材は
、1kgf/cm
2の荷重を与えた場合の面積の拡大
が30%以内である、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記長期保存される形態は、乾燥形態を含む、請求項
19または2
0に記載の方法。
【請求項22】
前記長期保存される形態は
、80℃以下での乾燥によって達成される、請求項
19~2
1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
以下のB/Aの値が少なくと
も1.0よりも大きい、請求項
19~2
2のいずれか一項に記載の方法。
(A)前記素材を室温で水抽出した場合のクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの遊離量
(B)前記素材
を60℃で温水抽出した場合の、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択される、(A)で選択されたものと同じものの遊離量
【請求項24】
前記非可食部位の形状が、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状である、請求項
19~2
3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飲食品の食感を維持した素材、およびそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調理加工時に廃棄される野菜の廃棄部位は、皮や種に加えて、芯、茎葉、株元、葉柄基部、根端、節部などとして副生する。例えば、廃棄部位とみなされるキャベツの芯は、結球葉生重量の約15%を構成し、ブロッコリー花序(生)の約35%が茎葉として廃棄される(日本食品標準成分表2020年版(八訂))。
【0003】
その一方で、これらの廃棄部位にも安全上の問題が無く、ミネラル、ビタミン、または食物繊維などの栄養価値をもつ部位が含まれており、その有効利用のため、主に、家庭での調理時に芯や茎を細かく切り刻むなどして料理に混ぜ込んだり、芯や茎に味付けをして一品料理としたりするような工夫が提案されている。
【0004】
このように野菜の廃棄部位は主に家庭内において有効利用するような工夫がされているが、野菜加工工場等においても、加工残渣として廃棄部位が大量に副生されるため、飲食品産業における利用性が検討されている。例えば、キャベツの芯やブロッコリーの茎などは、野菜加工工場のように大量の食材を処理する現場で纏まった量が副生するが、鮮度保持できる期間が短く、加工残渣についても腐敗前に処理する必要があるため、これらの廃棄部位も栄養価を失う前に飼料に供されたり、堆肥製造原料として処理されたりしている。
【0005】
その一方、食資源の一層の高度利用に向けて、キャベツの芯を貯蔵性の高い飲食品素材に加工するための技術に対する期待が高まっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、野菜の廃棄部位の高度利用技術の開発を進める中で、可食部よりも堅い部分に富む野菜廃棄部位について、裁断・乾燥した後に再吸水させた素材の食感が、元の生鮮食品の食感に類似することを見出した。
【0007】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
以下:
(i)飲食品の粉砕物である
(ii)約0.5mm以上の粒を重量比で約10%以上含む
(iii)長期保存される形態である、および
(iv)前記飲食品の非可食部位由来の粉砕物を含む
からなる群より選択される少なくとも1つを充足する、飲食品の食感維持素材。
(項目2)
前記素材は、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを含む、上記項目に記載の食感維持素材。
(項目3)
前記素材は、孔径約1mmのメッシュを通過するが、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目4)
前記素材は、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを重量比で約10%以上含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目5)
前記素材は、孔径約0.5mmのメッシュを通過するが、孔径約0.3mmのメッシュを通過しないものを含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目6)
前記素材は、孔径約0.3mmのメッシュを通過しないものを重量比で約80%以上含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目7)
前記素材は、重量比で約90%以下の孔径約0.5mmメッシュ通過画分を含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目8)
吸水させた前記素材は、約1kgf/cm2の荷重を与えた場合の面積の拡大が約30%以内である、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目9)
前記長期保存される形態は、乾燥形態を含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目10)
前記長期保存される形態は、約80℃以下での乾燥によって達成される、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目11)
前記飲食品が野菜、果実、穀物、きのこ、芋類、甜菜、豆類、種実類、藻類、及び茶を含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目12)
前記非可食部位が、キャベツの芯、ブロッコリーの茎葉部、カリフラワーの茎葉部、はくさいの株元、レタスの株元、アスパラガスの株元、ゴボウの先端または葉柄基部、ダイコンの先端または葉柄基部、カブの葉柄基部、ニンジンの先端または葉柄基部、レンコンの節部、たけのこの基部、きのこの石突き部、またはきのこの柄の下部を含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目13)
以下のB/Aの値が少なくとも約1.0よりも大きい、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(A)前記素材を室温で水抽出した場合のクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの遊離量
(B)前記素材を約60℃で温水抽出した場合の、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択される、(A)で選択されたものと同じものの遊離量
(項目14)
前記非可食部位由来の粉砕物の形状が、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状である、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目15)
前記非可食部位が、キャベツの芯またはブロッコリーの茎葉部であり、前記素材は、前記非可食部位の乾燥した粉砕物であり、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを、重量比で約10%以上含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目16)
前記非可食部位が、キャベツの芯またはブロッコリーの茎葉部であり、前記素材は、前記非可食部位の乾燥した粉砕物であり、孔径約0.3mmのメッシュを通過しないものを、重量比で約80%以上含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目17)
前記非可食部位が、キャベツの芯またはブロッコリーの茎葉部であり、前記素材は、前記非可食部位の裁断物であり、該芯または該茎葉部の成長軸方向に約1mm以上の厚さを含む裁断物を含む、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目18)
3Dフードプリンタの材料として使用される、上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材。
(項目19)
上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材を吸水して得られた飲食品。
(項目20)
上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材の加工成形物を吸水して得られた飲食品。
(項目21)
上記項目のいずれか一項に記載の飲食品を乾燥させた加工品。
(項目22)
上記項目のいずれか一項に記載の食感維持素材とバクテリアセルロースの懸濁物とを混合して得られた飲食品。
(項目A1)
飲食品の非可食部位を長期保存される形態に処理する工程と、
長期保存される形態の該非可食部位を、最小径が少なくとも約0.5mm以上となるように粉砕する工程と
を含む、吸水した場合に該飲食品の食感を維持した素材を製造する方法。
(項目A2)
吸水させた前記素材は、約1kgf/cm2の荷重を与えた場合の面積の拡大が約30%以内である、上記項目に記載の方法。
(項目A3)
前記長期保存される形態は、乾燥形態を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記長期保存される形態は、約80℃以下での乾燥によって達成される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記飲食品が野菜、果実、穀物、きのこ、芋類、甜菜、豆類、種実類、藻類、及び茶を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記非可食部位が、キャベツの芯、ブロッコリーの茎葉部、カリフラワーの茎葉部、はくさいの株元、レタスの株元、アスパラガスの株元、ゴボウの先端または葉柄基部、ダイコンの先端または葉柄基部、カブの葉柄基部、ニンジンの先端または葉柄基部、レンコンの節部、たけのこの基部、きのこの石突き部、またはきのこの柄の下部を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
以下のB/Aの値が少なくとも約1.0よりも大きい、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(A)前記素材を室温で水抽出した場合のクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの遊離量
(B)前記素材を約60℃で温水抽出した場合の、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択される、(A)で選択されたものと同じものの遊離量
(項目A8)
前記非可食部位の形状が、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
【0008】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0009】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の飲食品の食感維持素材は、非可食部位を原料としており、廃棄部位の高度利用に資するとともに、廃棄部位を貯蔵性が高く食感をもつ新素材として高付加価値化できる。また長期保存性をもつ食感付与食材として、3Dフードプリンタの材料として利用したり、離解されたナタデココの懸濁物を混ぜることで、農産物がもつ咀嚼感に加えて、食物繊維質感を強化した飲食品を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、キャベツ芯及びブロッコリー茎の裁断物を成形したものを示す写真である。上段:乾燥前、中段:乾燥後、下段:乾燥後に復水したものをそれぞれ示す。各写真の上段中央と下段左右はキャベツ芯由来、上段左右と下段中央はブロッコリー茎由来の試料を示す。
【
図2】
図2は、キャベツ芯及びブロッコリー茎を粗切りし、乾燥したものを示す写真である。左:キャベツ芯由来、右:ブロッコリー芯由来。
【
図3】
図3は、キャベツ芯由来粉末から得た成形物を示す写真である。上段左:粉末と水によるシート状成形物、上段右:粉末とナタピューレによるシート状成形物、中段:粉末とナタピューレによるスティック状成形物、下段:粉末とナタピューレによる匙状成形物。
【
図4】
図4は、重りを載せた場合の各試料の面積の広がりを示すグラフである。面積は、
図5の写真のメッシュ(目盛り=2.12mm)を基に上方から観察した際の被覆面積として計算した。
【
図5】
図5は、重りを載せた場合の各試料の面積の広がりを示す写真である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に係る食感維持素材(キャベツ芯由来素材)を混ぜ込んだスパゲッティサラダを示す写真である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に係る食感維持素材(ブロッコリー茎葉由来素材)を混ぜ込んだポテトサラダを示す写真である。
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態に係る食感維持素材(キャベツ芯粉末)を含むマッシュポテト様食品を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0014】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0015】
本明細書において、「非可食部位」とは、通常の食習慣において廃棄される飲食品の部分をいい、具体的には、「日本食品標準成分表 2020年版(八訂):令和2年12月 文部科学省科学技術・学術審議会 資源調査分科会 報告(https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf)」及び/または「日本食品標準成分表2020年版(八訂)のデータ(20201225-mxt_kagsei-mext_01110_012.xlsx (live.com))」における、個々の食品の廃棄部位が挙げられるが、加工食品製造時に個別の目的(例えば、形状・品質均質化、輸送適性向上等)をもって裁断時に工程から除かれる部分も、非可食部位に含まれる。また非可食部位には、個別の目的で、可食部位であるにも拘わらず主加工流通工程から除かれる部位も含まれる。非可食部位としては、限定を意図しないが以下が含まれる:
キャベツの芯、ブロッコリーの茎葉部、カリフラワーの茎葉部、はくさいの株元、レタスの株元、アスパラガスの株元、ゴボウの先端または葉柄基部、ダイコンの先端または葉柄基部、カブの葉柄基部、ニンジンの先端または葉柄基部、レンコンの節部、たけのこの基部、きのこの石突き部、またはきのこの柄の下部
【0016】
本明細書において、「食感」とは、食物(本明細書において、「食物」は「食品」と互換的に用いられ、「食物」には、食品をいう場合、飲料も含まれ得る。)を飲食した際に感じる五感のうち、歯や舌を含む口腔内の皮膚感覚を指し、具体的には歯ごたえ、舌触り、喉ごしなどが食感にあたり、これらの特徴は硬さや粘りなどの物性によって表現することができる。食感は味覚など他の感覚とともに「おいしさ」を構成するうえで重要な要素である。食感は、例えば、ヒト試験の他、動的粘弾性測定装置、咀嚼モデル等を用いた機器計測法を用いて評価することができる。
【0017】
食感はこれらの機器計測法を用いて評価することができるが、口腔内の複雑な動きを再現したり微弱な咀嚼音を計測したりするための汎用性の高い方法が存在しないため、これらの機器を適用できる食品は均質性の高い食品などに限定されている。そのため、食感を構成する主要な要素について計測することで、個々の食品試料が示す差を評価することで食感を評価することとなる。
【0018】
非可食部位が、可食性を示すにもかかわらず非可食部位と見なされる原因として、味質が悪い、不均質である、器官が連結した部分であり土などが残りやすい(大根の葉柄基部など)、加工調理がしにくい(大根、ニンジンの先など)などに加えて、硬いことが挙げられる。非可食部位は可食部位と比べて硬いため、可食部位と同じ条件で加工調理すると硬さが残ってしまい、逆に硬い部分を軟化させる条件で加工調理すると、可食部位が過度に軟化してしまう。そのため、多くの場合、まずは可食部位と非可食部位とを分離して、高品質な調理に供することができる可食部位のみを利用する。除かれた非可食部位は、非可食部位だけで加工調理することで、適度な柔らかさにまで軟化することができる。しかし、非可食部位を調理するための加工調理パターンは可食部位のものよりも少なく、また手間もかかるため、非可食部位の利用は広がっていない。特に、野菜の加工工場などでは、非可食部位を回収して加工調理し、可食性を示すまで軟化させることができるものの、腐敗性の高い製造物を迅速に供給し高付加価値製品として販売する供給先が整っておらず、低次利用に留まっている。
【0019】
生の食品やサッと茹でたり炒めたりした後の食品の可食部位は、適度に硬いシャキシャキした食感をもつ。しかしながら、これらを長期保存に耐えるよう乾燥させたものでは、復水後にシャキシャキした硬さを再現することが極めて困難となる。本開示では、可食部位よりも硬い非可食部位を利用することで、乾燥・復水した後にも硬さが残ることから、可食部位では表現しにくいシャキシャキした食感を表現できる高付加価値な素材を提供することができる。
【0020】
したがって、本明細書において、食感を評価するための指標の一つとして「硬さ」を挙げることができ、「硬さ」は、例えば、咀嚼時の噛み応えや微小な音の発生、組織の力学的な崩壊しやすさを測定することで「硬さ」を評価することができる。
【0021】
本明細書において、「おいしさ」とは、食品固有の性質であり、ヒトが、食品を接種したときに、その飲食品に対して生じる総合的な感覚であって、食品に対して肯定的な感覚を生じることをいい、味そのもの(味覚)だけでなく、料理の見た目(視覚)、香り(嗅覚)、食感(触覚)、噛んだときの音(聴覚)、食事の雰囲気や環境など、五感を総動員して感じるものとされており、飲食品の中にある特性によりコントロールできる性質である。
【0022】
本明細書において、「食感」とは、食物に対して触覚によって感知される感覚をいい、「食感維持」とは、食物が元々備えていた歯ごたえ、舌触り、喉ごしなど、またはその特徴を表現するための硬さや粘りなどの物性が、少なくとも1つ以上維持されていることをいう。硬さや粘りは、硬度計、レオメーター、インストロン試験機、ラピッドビスコアナライザー、ブラベンダーファリノグラフ、テクスチュロメーターなどで測定することができ、食品試料の形状や測定可能な範囲などに応じて適宜選択することができる。
【0023】
本明細書において、「食感維持素材」とは、食物が元々備えていた歯ごたえ、舌触り、喉ごしなどが維持された素材をいい、当該素材自体の食感、及び/または当該素材を吸水させて得た物の食感が、当該素材の材料となった食物が元々備えていた歯ごたえ、舌触り、喉ごしなど、またはその特徴を表現するための硬さや粘りなどの物性のうちの少なくとも1つを想起させ、または類似するものを含む。
【0024】
本明細書において、「粉砕」とは、ある大きさの固形形状の飲食品(固体、液体、およびそれらの混合物を含む。)に何らかのエネルギーを加えて、元の大きさよりも小さい状態にする操作をいう。例えば、微小化、断片化、衝撃による破壊、または剪断による磨砕もしくは潰砕などの各処理を挙げることができ、各処理によって粉砕物が混合されることで均質性を高めることができる。
【0025】
本明細書において、「粉砕物」とは、粉砕によって得られる物をいう。
【0026】
本明細書において、「裁断」とは、粉砕のうち、粗切り~みじん切りのように固形形状の飲食品(固体、液体、およびそれらの混合物を含む。)を元の大きさよりも小さく切断する操作をいう。
【0027】
本明細書において、「長期保存される形態」とは、飲食品に対して、変質を生じさせる酵素の活性を抑えるためにブランチング等の失活処理を施し、及び/または微生物活性や化学変化を抑制するために乾燥処理を施した後の形態をいう。
【0028】
本明細書において「長期」とは、少なくとも1ヶ月以上の期間をいう。
【0029】
本明細書において「孔径約0.5mm」とは、メッシュにおいて、目開きが約0.5mmのものをいい、目開きとは、メッシュにおける縦線と横線が交差して形成された1個(目)当たりの空間(略正方形)における天地幅または左右幅をいう。したがって、「孔径約0.5mm」とは、標準篩用金網JIS規格における目開き約0.5mmのもの(30メッシュ)をいう。
【0030】
本明細書において、「メッシュを通過」とは、メッシュにおける縦線と横線が交差して形成された1個(目)当たりの空間(略正方形)を、飲食品の粉砕物、裁断物、または粒状物が通過することをいう。
【0031】
本明細書において、「メッシュを通過しない」とは、メッシュにおける縦線と横線が交差して形成された1個(目)当たりの空間(略正方形)を、飲食品の粉砕物、裁断物、または粒状物が通過せずに、メッシュ上に残存することをいう。
【0032】
本明細書において、「孔径約0.5mmメッシュ通過画分」とは、上記「孔径約0.5mm」のメッシュにおいて、縦線と横線が交差して形成された1個(目)当たりの空間(略正方形)を通過した飲食品の粉砕物、裁断物、または粒状物をいう。
【0033】
本明細書において、「約0.5mm以上の粒を重量比で約10%以上」とは、上記「孔径約0.5mm」のメッシュにおいて、縦線と横線が交差して形成された1個(目)当たりの空間(略正方形)を通過せずに、メッシュ上に残存した飲食品の粉砕物、裁断物、または粒状物が、素材全体の重量に対して、約10%以上含まれるものをいう。
【0034】
本明細書において「乾燥」とは、水分量を減らし、または固形分を上昇させる操作またはその操作による状態をいい、通常、飲食品全体の水分量が、乾燥前と比較して低下し、または飲食品全体の質量に対する固形分の割合が乾燥前と比較して上昇すればよい。
【0035】
本明細書において「乾燥形態」とは、飲食品全体の水分量が、約20%またはそれ以下のものをいう。
【0036】
本明細書において、「B/A」または「B/A比」とは、以下のAの値に対するBの値の比をいう。
(A)前記素材を室温で水抽出した場合のクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの遊離量
(B)前記素材を約60℃で温水抽出した場合の、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択される、(A)で選択されたものと同じものの遊離量
【0037】
本明細書において、「(A)で選択されたものと同じものの遊離量」とは、例えば、「B/A」の算出において、(A)としてクエン酸の遊離量が選択された場合には、(B)として、クエン酸の遊離量が選択されることをいう。
【0038】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0039】
本開示の一局面において、飲食品の食感維持素材が提供され、本開示の飲食品の食感維持素材は、(i)飲食品の粉砕物である、(ii)約0.5mm以上の粒を重量比で約10%以上含む、(iii)長期保存される形態である、および(iv)前記飲食品の非可食部位由来の粉砕物を含む、からなる群より選択される少なくとも1つを充足することを特徴とする。
【0040】
生鮮食品である野菜の廃棄部位または非可食部位を食品素材としてリサイクルする際には、貯蔵性確保及び付加価値拡大が最大の課題となる。特に野菜は長期貯蔵により劣化が進行するため、野菜加工工場等において加工残渣として大量に副生される廃棄部位または非可食部位を有効利用する必要があるところ、本開示の飲食品の食感維持素材は、もともとの飲食品の備える食感を維持した素材として提供することが可能である。
【0041】
また野菜の貯蔵性を向上するためには、光や化学的変化による変質、野菜内酵素による変質及び微生物による腐敗を抑制する必要がある。これまでに、要求される加工品の特性に応じて、滅菌処理、塩蔵処理、砂糖漬け処理、燻製などの加工法が実用化されているが、乾燥処理は、基本的に添加物が不要である点、水分活性を低減できること、重量が低減する点、乾燥装置のみでも実施可能な点などにおいて、最も汎用性の高い加工法といえる。また野菜に関しては、大根などのような野菜可食部を保存するためにも、乾燥工程が適用されている。
【0042】
野菜の乾燥物は、直接喫食するとパサパサして吸水性が高いことから、一般的には、水または湯で戻す、あるいはジュース等の多水分素材と混合し吸水させることで喫食しやすい状態にする。しかしながら、例えば、切り干し大根のように水で戻して再調理する際には、栄養、味の一部や繊維質感は残るものの、もとの飲食品が示していたシャキシャキした食感を損失する。このように、乾燥した生鮮食品では、もとの飲食品と特徴となる食感が大きく失われてしまう。
【0043】
切り干し大根のような大きい裁断物でも、乾燥後に吸水すると軟化した組織となってしまうため、生鮮食品での噛み応えのある食感を維持できない。水や湯で戻すタイプの乾燥野菜でも、同様に軟らかい食感になってしまう。また、乾燥・粉砕することにより、高い均質性が得られる点、色や栄養が維持されている点や計量に適する点などの利点を発揮する一方で、元の生鮮物の食感は消失してしまう。
【0044】
野菜加工工場等では、洗浄後の農産物、またはそのブランチング後の素材から、サラダや冷凍食品素材などに加工するために可食部を回収するが、その際に切除・分離された非可食部から、衛生上、食感上そして食味上問題のない画分を選ぶことで、付加価値を有する飲食品素材を得ることができる。また、この画分は、栄養成分や機能性成分を有することができる。
【0045】
この画分をブランチングする際には、水溶性の栄養成分等の成分流亡を抑制するため、なるべく大きい固まりとすることが望ましい。ブランチングは、素材に内在する酵素を失活させることで、変色、異臭発生、軟化や味質低下などの好ましくない変化を抑制するものである。お湯に浸漬して熱を通す操作が一般的であるが、素材の品温や浸漬する量によって水温の低下度合いが変わることから、適切な条件を選ぶことが望ましい。時間が長すぎると、軟化、化学的変質や成分溶出が促される。例えば、沸騰水中に1~10分程度浸すことが一般的である。この熱処理後には、化学的変化を抑制するために速やかに室温以下の低温に戻すことが望ましい。
【0046】
本開示の一実施形態において、飲食品や、飲食品の非可食部位のブランチング後の画分を、粉砕物の形態、約0.5mm以上の粒を重量比で約10%以上含む形態、または長期保存される形態とすることができる。一実施形態において、長期保存される形態としては、乾燥物などの状態を挙げることができる。
【0047】
一実施形態において、乾燥は、素材の表面積が大きい場合に効率的に行うことができることから、湿潤状態においてある程度の裁断を行うことが好ましい。特に、長期保存時の形状を、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状とする際には、乾燥収縮する前に目的の形状になるように裁断しておくことが好ましい。本開示の素材において、非可食部位由来の粉砕物の形状は、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状とすることができるが、食感を維持できる形状であればこれらの形状に限られるものではない。
【0048】
粉末状の乾燥物を得る際には、(1)湿潤状態において裁断して粉末とする方法、(2)粉砕装置などに掛けやすい形状にまで粗く裁断した後に乾燥し、その乾燥物を粉砕する方法などを採用することができる。
【0049】
一実施形態において、乾燥は、飲食品の乾燥態様として許容されるものであれば特に限られないが、例えば約80℃以下での乾燥によって達成することができ、これにより、飲食品を長期保存される形態とすることができる。一実施形態において、乾燥方法としては、飲食品の乾燥に利用されるものであれば特に限られないが、例えば、通風乾燥、自然乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、低温乾燥(室温程度の低湿空気での乾燥)、真空凍結乾燥(フリーズドライ)、加圧乾燥、電磁波乾燥、天日乾燥、陰干し乾燥、流動層での乾燥などの公知の手法を用いることができる。いずれの手法においても、飲食品の種類や大きさ、また所望の乾燥の程度に応じて、時間、温度、湿度などは適宜変更することができる。
【0050】
一実施形態において、飲食品を苛酷な条件で乾燥すると、ブランチング後でも化学変化による急速な褐変や過度な収縮が起こることがあり、品質に影響を及ぼすことがあるため、乾燥は約80℃以下、約75℃以下、約70℃以下、約65℃以下、または約60℃以下の条件で行うことが好ましい。また急速な乾燥は乾燥ムラや収縮ムラが生じ、飲食品が変形する場合がある。飲食品が変形し、閉塞空間が生じると、閉ざされた空間内部が乾燥しにくくなり、微生物汚染のリスクが高まるため、過度に急速な乾燥には注意が必要となる。一実施形態において、最終的な乾燥度については、水分活性が十分に低いこと、水が配向して腐敗の原因とならないことなどを挙げることができるが、飲食品の乾燥状態として適切なものであれば特に限られない。例えば、最終的な乾燥度は、含水率約20%またはそれ以下、約15%またはそれ以下、約12%またはそれ以下、約10%またはそれ以下、約8%またはそれ以下、約5%またはそれ以下とすることができる。
【0051】
本開示の一実施形態において、乾燥状態の非可食部位を粉末化する際には、公知の乾式粉砕装置を用いることができる。ブレード等による衝撃や剪断、ハンマー等による衝撃を利用したものなどを挙げることができるが、飲食品の粉末化に供することができるものであればこれらに限られるものではない。一実施形態において、磨砕などの剪断力が強い粉砕方法やエクストルーダーなどの湿式粉砕方法を用いる際には、組織構造の破壊が促されて食感を低下させることから、組織構造を破壊せず、または食感を低下させないように使用することが好ましい。
【0052】
一実施形態において、飲食品の非可食部位の特定のサイズの粉砕物を得るためには、粉砕装置の排出部に一定の孔径のメッシュを設置する方法、粉砕物を各孔径のメッシュを通過させて分画する方法、空気抵抗などにより分画する方法などを用いることができるが、目的のサイズの粉砕物を得ることができるものであればこれらに限られない。一実施形態において、本開示の素材は、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを含むことができる。他の実施形態において、本開示の素材は、孔径約1mmのメッシュを通過するが、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを含むことができる。
【0053】
一実施形態において、本開示の素材は、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを重量比で約10%以上含むことができる。本明細書の実施例において示されているとおり、粒径0.5~1mmの粉砕物を約10%以上含むものについては元の食材の食感を維持していたのに対し、粒径0.5~1mmの粉砕物を約5%含むものについては、食感評価が低下することがわかっている。したがって、本開示の一実施形態において、非可食部位が、キャベツの芯またはブロッコリーの茎葉部であり、本開示の素材は、前記非可食部位の乾燥した粉砕物であって、孔径約0.5mmのメッシュを通過しないものを、重量比で約10%以上含むことができる。また他の実施形態において、非可食部位が、キャベツの芯またはブロッコリーの茎葉部であり、本開示の素材は、前記非可食部位の乾燥した粉砕物であって、孔径約0.3mmのメッシュを通過しないものを、重量比で約80%以上含むことができる。
【0054】
また本開示の一実施形態において、粒径の大きい粉砕物と粒径の小さい粉砕物とを混合すると、粒径の小さい粉砕物が存在することの影響を受けて噛みはじめの咀嚼感は低下するものの、咀嚼をするにつれて、小さい画分が口中で流亡するに従い、粒径の大きい粉砕物による食感を提供することができる。
【0055】
本開示の一実施形態において、本開示の素材は、孔径約0.5mmのメッシュを通過するが、孔径約0.3mmのメッシュを通過しないものを含むことができる。他の実施形態において、本開示の素材は、孔径約0.3mmのメッシュを通過しないものを重量比で約80%以上含むことができる。本開示の一実施形態において、本開示の素材は、重量比で約90%以下の孔径約0.5mmメッシュ通過画分を含むこともできる。
本開示の一実施形態において、本開示の素材は、飲食品の非可食部位の裁断物とすることもでき、例えば、飲食品の非可食部位としてのキャベツの芯またはブロッコリーの茎葉部を、約1mm以上の厚さの裁断物とした素材を提供することができる。この場合、裁断物のいずれかの辺の大きさが約1mm以上であればよく、好ましくは各辺の大きさが約1mm以上とすることができる。また他の実施形態において、飲食品の非可食部位の裁断物を用いる場合には、芯や茎葉部の成長軸方向に約1mm以上の厚さのものを利用することもできる。
【0056】
乾燥状態の非可食部位は、常温で保存可能となるが、化学的変質、光の影響、部分的加熱冷却による水や揮発性成分の再配向などを抑えるため、遮光、酸素遮断、及び/または低湿度条件下で、可能な限り低温で保存することが好ましい。その一方で、十分に乾燥されていない試料を冷凍保存する際には、氷晶成長による形状変化や破砕などが生じることがあるため、本明細書の他の箇所で説明する乾燥を行うことが好ましい。また、乾燥物は、振動や圧迫によって輸送及び/または貯蔵時に形状が変化することがあるため、形状が変化しないように輸送及び/または貯蔵を行うことが好ましい。
【0057】
本開示の一実施形態において、乾燥状態の非可食部位を飲食品とする場合、もとの農産物を想起させる食感を付与するためには、咀嚼時に、または咀嚼の前に本開示の素材を吸水させ、湿潤状態とすることが好ましい。本明細書の実施例で示すとおり、吸水により素材が組織構造物の形状に戻り、もとの農産物を想起させ、または類似するシャキシャキした食感を与えることが確認できた。この現象は、もともと軟らかい可食部位では起こりづらく、硬さをもつ非可食部位を用いることで達成することができる。一実施形態において、吸水方法は特に限られないが、例えば調理加工時に、水、調味液、または他の含水食品等によって水戻ししたり、あるいは口内で唾液によって吸水させることで行うこともできる。水戻しは、水またはお湯、あるいはこれらの調味過程を経たものに浸ける、あるいは湿潤状態の他の飲食品または飲食品素材と接触させるなどの方法により行うことができる。浸漬時間は、数秒から数時間行うことができるが、液量が多すぎたり、処理時間が長すぎたりすると、非可食部位由来の素材から栄養成分等が漏出したり、変質が進行したりすることから、素材の大きさ、形状、重量などによって、浸漬時間や浸漬のための液体量などは適宜調整することができる。
【0058】
本開示の一実施形態において、本開示の素材は、一度吸水させた後に再度乾燥しても、もとの飲食品の食感を維持することができる。したがって、本開示の素材によれば、本開示の素材による粉末を吸水させて調味し、これを他成分と混合して成形した後に乾燥した飲食品でも、非可食部位由来の特徴的な食感を提供することができる。これにより、本開示の素材による粉末を加工して棒状、板状、盤状、球状、その他の任意の形状に成形した乾燥または半乾燥食品を製造することができる。また、非可食部位の裁断または乾燥物についても、吸水させて調味した後に、再度乾燥または半乾燥させることで、もとの飲食品を想起させ、または類似する食感を提供することができる。また本開示の素材によれば、乾燥させた形態の飲食品やその粉砕物について、水が抜けた空隙部に調味液などを染み込ませた乾燥または半乾燥製品を製造することもできる。
【0059】
本開示の一実施形態において、例えば長期保存される形態の本開示の素材を、板状、千切り状、短冊状、円盤状またはダイス状として、乾燥前、あるいは乾燥させた後に、吸水させて湿潤状態とし、さらに切削、加圧変形、部分加熱などしたり、呈味性や食感を有する別の素材を埋め込んだりすることで、咀嚼時における素材の特性を改変することができる。また、このような処理を行った素材を乾燥させることで、長期保存が可能な飲食品とすることができる。
【0060】
したがって、本開示の一実施形態において、本開示の食感維持素材を吸水して得られた飲食品や、本開示の食感維持素材の加工成形物を吸水して得られた飲食品を提供することもできる。さらに他の実施形態において、このような飲食品を乾燥させた加工品も提供することができる。
【0061】
本開示の一実施形態において、本開示の素材は、長期保存性をもつ食感維持食材として、3Dフードプリンタの材料として活用することができる。これまで、3Dフードプリント用の素材で生鮮食品のもつ食感を再現する方法は提案されておらず、非可食部位由来の栄養、色や味のみならず、新食感を付与できるようになる。本開示の素材の粉末は、加工台上に散布し、乾燥粉末として直接喫食するか、必要に応じて台上で吸水させることで食感をもたせることができる。また、他の実施形態において、3Dフードプリンタの加工台上に本開示の素材の粉末を配置する前に、粉末を吸水させてペースト状にして送達することも可能である。吸水時間が短かったり、粒径が大きかったりして結着性が確保できない場合には、離解されたナタデココの懸濁物や増粘安定剤などを用いることで、粒の結着を促し、送達や成形を容易に行うことができる。離解されたナタデココの懸濁物は、弱い繊維質感をもつことから、農産物がもつ咀嚼感に加えて、食物繊維質感を強化することができる。したがって、本開示の一実施形態において、本開示の食感維持素材とバクテリアセルロースの懸濁物とを混合して得られた飲食品を提供することができる。ナタデココセルロースなどのバクテリアセルロースを主成分とする懸濁物や増粘安定剤を加えることで粉末が結着し、できた飲食品を摂食し易くすることもできる。特に、ナタデココセルロースを主成分とする懸濁物を添加することで、乾燥粉末由来のペーストに繊維質感を付与でき、元の野菜がもつ食感を噛み応え及び繊維質感の両方から再現することができる。例えば、キャベツ芯の乾燥粉末に対して、ナタデココを主成分とする懸濁物と混合した飲食品は、コールスローサラダ風、ザワークラウト風の食感を表現する。また、この成形法により、この野菜廃棄部位由来の乾燥粉末を含む棒状、板状、球状などの加工食品として製造できる。このような飲食品は、食物繊維を豊富に含み、また食感を通じて野菜由来の質感を実感させることができる。
【0062】
以上のような本開示の非可食部位由来の素材は、吸水時またはその後に必要に応じて他の成分や素材と混合することで、調理・調味及び成形された飲食品とすることができる。また、この非可食部位由来の乾燥物などの素材は、吸水させた後に再度乾燥させても、摂食時に食感が再現される。したがって、この飲食品製造時には、グリセロール、ショ糖、トレハロースなどの保湿性をもつ成分を添加することで、再乾燥させた粉末が固まらずに、摂食時におけるパサパサ感を低減することができる。
【0063】
本開示の一実施形態において、吸水させた本開示の素材は、約1kgf/cm2の荷重を与えた場合の面積の拡大が約30%以内とすることができる。一実施形態において、本開示の素材は、例えば、乾燥粉末10mg(含水率約10%)に対して室温条件下で水道水20μLを滴下して5分以上膨潤させたものを、見かけ上の面積が0.5cm2となるよう均一に分散させて、これを1kgf/cm2で3分加圧した後、粉末が潰れて拡がったことによる見かけ上の面積比が130%以下となる。本明細書の実施例では、実際に、500gの荷重を与えた場合に、124%や125%となり、一方で、本開示の素材ではないものについては、同面積比が149%になることを確認している。
【0064】
本開示の一実施形態において、本開示の食感維持素材の原料となる飲食品は、非可食部位が副生される飲食品であれば特に限られないが、例えば、野菜、果実、穀物、きのこ、芋類、甜菜、豆類、種実類、藻類、及び茶などを挙げることができる。各飲食品の非可食部位としては、例えば、キャベツの芯、ブロッコリーの茎葉部、カリフラワーの茎葉部、はくさいの株元、レタスの株元、アスパラガスの株元、ゴボウの先端または葉柄基部、ダイコンの先端または葉柄基部、カブの葉柄基部、ニンジンの先端または葉柄基部、レンコンの節部、またはたけのこの基部などを挙げることができるが、これらに限られるものではなく、家庭や飲食品加工現場において廃棄される可能性のある部位であればよい。
【0065】
また本開示の一局面において、吸水した場合に該飲食品の食感を維持した素材を製造する方法であって、飲食品の非可食部位を長期保存される形態に処理する工程と、長期保存される形態の該非可食部位を、最小径が少なくとも約0.5mm以上となるように粉砕する工程とを含む、方法が提供される。
【0066】
飲食品の非可食部位は、必要に応じて、(1)微生物汚染や異物混入の低減のための洗浄・分離工程、(2)変色・変質部の切除工程、(3)熱処理や物理的加工や乾燥の効率化のための裁断工程、(4)内在酵素失活や殺菌のための加熱工程、及び/または(5)加熱による変質を抑制するための冷却工程などを経て、長期保存される形態の処理前試料とすることができる。この処理前試料は、公知の生鮮食品に使われる乾燥法を用いて、含水率20%以下、より望ましくは10%以下、さらに望ましくは5%以下に乾燥することが好ましい。また乾燥の態様としては、本明細書の他の箇所で説明したものを利用することができる。
【0067】
これらの工程を経た飲食品の非可食部位は、任意の構造に裁断した長期保存形態として得ることができる。例えば、裁断の態様としては、軸方向に沿って薄切りしたり、軸に対する横断面方向に輪切りにしたり、千切り状または短冊状に切ったり、ダイス状に切ったりすることができるが、これらに限定されるものではない。裁断方法により、摂食サイズ、乾燥速度、乾燥時の変形、栄養等成分の流亡度合いなどの特性が変わることがあり、再吸水後に個性を与えることができる。
【0068】
また本開示の一実施形態において、飲食品の非可食部位は、乾燥粉末状とすることもできる。粉末化は、乾燥前であっても乾燥後であってもよい。また粉砕化の方法には公知の手法を用いることができる。本開示の素材の乾燥粉末の再吸水後に食感を表現させることができる粉砕度の目安としては、クエン酸やリンゴ酸を含む有機酸やグルコースなどの細胞内物質の水溶出量(A)に対する温水溶出量(B)の比(B/A比)が大きい粉砕条件を挙げることができる。粉末中には、細胞壁構造が破砕されて細胞内物質が漏出しやすくなった状態の組織と、細胞壁構造の破砕が限定的で細胞内物質が細胞内部に維持された状態の未崩壊の組織とが混在しており、未崩壊の組織構造が温水処理により崩壊する場合、この比が約1.0を越えると考えられる。一実施形態において、本開示の素材の粉末は、好ましくはこの比が約1.0より大きくなる素材とすることができ、より好ましくは、約1.2以上、または約1.4以上であってもよい。したがって、一実施形態において、(A)本開示の素材を室温で水抽出した場合のクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの遊離量に対する、(B)前記素材を約60℃で温水抽出した場合の、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択される、(A)で選択されたものと同じものの遊離量の比(B/A比)の値が少なくとも約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、または約2.0よりも大きいものを提供することができる。一実施形態において、本開示の素材は、これらのクエン酸、リンゴ酸、及びグルコースから選択されるいずれか1つの物質についてのB/A比が、少なくとも約1.0よりも大きいものとすることができる。
【0069】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0070】
(実施例1:キャベツ葉・芯の乾燥及び粉砕)
キャベツ葉を包丁で3cm角にカットし水道水中に浸漬した。水切りした試料について沸騰水中で2分間ブランチングを行い、加熱終了後に直ちに氷水中で冷却した。再度水切りした後に、乾燥機(SM4S-EH,木原製作所)内の4段トレーの各段に約400gの試料を薄く広げ、60℃で質量変化が一定となるまで乾燥した。
【0071】
キャベツを垂直方向に2分割し芯の部分のみ包丁で切り出した。沸騰水中で1分間ブランチングし、加熱終了後は直ちに氷水中で冷却した。約5mm角の賽の目状にカットしたものをトレーに並べ、乾燥機(SM4S-EH,木原製作所)内、60℃で質量変化が一定となるまで乾燥させた。
【0072】
ブロッコリーの茎部を包丁で切り出した。沸騰水中で5分間ブランチングし、加熱終了後は直ちに氷水中で冷却した。約5mm角の賽の目状にカットしたものとトレーに並べ、乾燥機(SM4S-EH,木原製作所)内、60℃で24時間乾燥させた。
【0073】
乾燥試料は、カッターミル粉砕機(MF 10.1 カッター式ヘッド、IKA Japan K.K.)で粉砕し、孔径2mm、1mm、または0.5mmスクリーンメッシュ通過物として回収した。また、微粉砕は、フードミル(TML180、株式会社テスコム)を用いて室温で1分間粉砕した試料を回収し、そのほぼ全量が粒径0.3mm未満であることを確認した。
【0074】
(評価1)
各粉砕物100mgに対して、ハンドリングを向上するため、水道水と、(1-3),(1-4)-β-グルカンと脱糖後のナタデココとを混合して得たピューレ状混合物(本明細書において「ナタピューレ」という:Tokuyasu K., et al. (2021) J. Appl. Glycosci. doi:10.5458/jag.jag.JAG-2021_0009)とを容量比1:1で混合したもの250μLを加えたものを調製し、室温で2時間静置した後、この調製物をスパーテルで1匙掬い上げ、口の中、切歯上下各4本で咀嚼した。初回数回のシャキシャキした音の強さ、100回咀嚼後の音の強さ、口中に入れた試料の100回咀嚼後の残存度を0~3の四段階で評価した(強い3、弱く感じる2、殆ど感じない1、感じない0)。オニザキのつきごま(白)では最初(最大値)3、100回後の残存値1、残存量1とした。その結果、表1のとおりとなった。
【表1】
【0075】
(評価2:メッシュ分離)
各粉砕物100mgに対して、水250μLを加えたものを調製し、室温で2時間静置した後、この調製物をスパーテルで1匙掬い上げ、評価1と同様に、口の中、切歯上下各4本で咀嚼した。初回数回のシャキシャキした音の強さ、100回咀嚼後の音の強さ、口中に入れた試料の100回咀嚼後の残存度を0~3の四段階で評価した(表2)。
【表2】
【0076】
(実施例2:芯縦横)
キャベツから芯を、ブロッコリーから茎を回収した。沸騰水中に2分(キャベツ)または5分(ブロッコリー)処理し、流水で急冷し室温に戻した。これを、内径10mmのコルクボーラーで高さ方向(垂直方向Lo)または水平方向(放射方向Ra)にくり抜いた後、円柱状のそれぞれの試料を厚さ1mmのコイン状に切り出し、60℃で16時間乾燥した(それぞれ「Raコイン」または「Loコイン」と称する)。
【0077】
キャベツのRaコインは収縮が大きかったのに対して、Loコインは収縮が限定的であった。ブロッコリーでは、両コインとも少しの収縮が見られた。これらの乾燥物を少量の水道水で復水し、切歯上下各4本で咀嚼したところ、Raでは切り干し大根様の繊維質感が大きかったのに対して、Loではシャキシャキ感(咀嚼時の音として感知)を持っていた。
【0078】
(実施例3:芯造形)
キャベツから芯を、ブロッコリーから茎を回収した。沸騰水中に2分(キャベツ)または5分(ブロッコリー)処理し、流水で急冷し室温に戻した。その後、全体を水平方向(高さ方向に対して輪切り)に幅5mm程度に裁断した。これにナイフで模様を刻み、60℃で16時間乾燥した。それを水道水で復水し、切歯上下各4本で咀嚼した結果、シャキシャキ感(咀嚼時の音として感知)を持っていた(
図1)。
【0079】
(実施例4:芯粗切り)
キャベツから芯を、ブロッコリーから茎を回収した。沸騰水中に2分(キャベツ)または5分(ブロッコリー)処理し、流水で急冷し室温に戻した。その後、これを水平方向(高さ方向に対して輪切り)に幅2mm程度に裁断した。キャベツの場合には、コイン状になった裁断物を、円を幅5mmの平行線状に切ることで帯状の試料を得た。これを60℃で16時間乾燥した後、水道水で復水し、切歯上下各4本で咀嚼した(
図2)。
【0080】
この結果、これらの試料はシャキシャキ感(咀嚼時の音として感知)を持っており、キャベツの場合には、切り干し大根様のシャキシャキ感をもつ素材が得られることが明らかとなった。
【0081】
(実施例5:粉末の成形)
キャベツ芯由来の粉末(実施例1の試料B)を1gとり、水または(1-3),(1-4)-β-グルカンと脱糖後のナタデココを混合して得たピューレ状混合物(本明細書において「ナタピューレ」という:Tokuyasu K., et al. (2021) J. Appl. Glycosci. doi:10.5458/jag.jag.JAG-2021_0009)2.5mLと混練して、幅2cm、長さ3cm、高さ5mm程度の板状に成形した後、60℃で乾燥した。また、同様の混合比で、粉末6gを用いてナタピューレを混合したものを、射出部を切って太くした10mL容プラスチックで棒状に押出し、ステンレスメッシュの平面上に置いて、あるいは匙状の金網型に載せて60℃で乾燥した(
図3)。これらを咀嚼すると、シャキシャキ感が得られるとともに、ナタピューレ添加物においては、ナタデココ由来の繊維質感がプラスされた。
【0082】
(実施例6:抽出物定量)
サンプルは、実施例1で調製したものを用いた。既出のサンプルは同じアルファベットで示した。
【0083】
リンゴ酸およびクエン酸測定:
試料溶液10μLを真空乾固後、内部標準として酪酸(0.08μL/mL)を混合した15μL/mLトリエチルアミン濃度のアセトン溶液25μLを添加した。10分室温放置後、30mg/mLフェナシルブロミド濃度のアセトン溶液を15μL添加し、40℃で60分放置した。窒素ガスでアセトン溶液を乾固した後、1mLのアセトニトリルを添加し、HPLC試料溶液とした。
【0084】
HPLC条件は、カラム Wakopack 5C8 HG(富士フィルム和光純薬) 4.6mm×250mm,5μmを使用し、室温で分析した。検出波長は254nmを使用し、流速1.0mL/minで、A液:25mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)および、B液:メタノールとアセトニトリルの7:6混合溶液を流した。分析は、初期濃度B液28%、5分まで、5~21分間で55~70%まで直線的に濃度を上げ、その後70%で30分まで保持のグラジエント分析を行った。リンゴ酸とクエン酸の定量値は、検量線から計算した。
【0085】
グルコース測定:
市販のグルコース測定キット(グルコースCII-テストワコー:富士フィルム和光純薬)により測定した。
結果を表3~5に示す。
【表3】
【表4】
【表5】
【0086】
(実施例7)
本実施例においては、実施例1の(D)、(E)、(F)をそれぞれ1、2、3と表記した(
図4および5では丸数字の1~3)。1~3の試料を10mgとり、スライドグラス(4.6g)上に直径8mmの円盤状に配置した。この試料に20μLの水道水を滴下して、室温で5分間膨潤させた。その後、この上にスライドグラスを下のグラスに重ねるように載せて、5分間保持して試料の変形を観察した(A)。その後、500gの重りをグラス上に載せて3分間保持した後、重りを取り除き、1分後に試料の変形を観察した(B)。さらに、グラス上に500gの重りを二個重ねて載せて3分間保持した後、重りを取り除き、1分後に試料の変形を観察した(C)。その後、グラス上に500gの重りを三個重ねて載せて3分間保持した後、重りを取り除き、1分後に試料の変形を観察した(D)。
【0087】
その結果、試料の拡がり(面積)は
図4および5のとおりとなった。試料1及び2では、水で膨潤した試料の圧縮による横方向への拡がりが抑えられてり、また形状が維持された粒が存在した。粒が破壊されにくいことは、破壊のために強い力での咀嚼が必要となることを示唆する。試料3では、処理Bの後に拡がった。このことから、粗い粉末は崩壊しにくく、質感が残り、また粒をかみ砕くのに力が必要となることが考えられる。
【0088】
(実施例8:飲食品の加工例1)
ハムと野菜のスパゲッティサラダ(株式会社ヤマザキ、静岡県榛原郡)40gに対して、実施例4のキャベツ芯裁断・乾燥物(70日間、遮光・室温保存したもの。)を二倍量の水を用いて室温条件下で30分間戻し、それを3g添加して混合した(
図6)。この食品は、咀嚼時にキャベツ芯由来の噛み応えが付与されており、口内で生じるシャキシャキ感を感じることができた。
【0089】
(実施例9:飲食品の加工例2)
黒胡椒と粒マスタードのベーコンポテトサラダ(株式会社ヤマザキ、北海道旭川市)40gに対して、実施例4のブロッコリー茎葉裁断・乾燥物(70日間、遮光・室温保存したもの。)を二倍量の水を用いて室温条件下で30分間戻し、それを3g添加して混合した(
図7)。この食品は、咀嚼時にブロッコリー茎葉由来の噛み応えが付与されており、口内で生じるシャキシャキ感を感じることができた。
【0090】
(実施例10:飲食品の加工例3)
実施例8及び9で得られたキャベツ芯由来素材及びブロッコリー茎葉由来素材の復水物を各1.5gずつ混合した後に、油を敷いて加熱した鉄板の上で炒めて塩を一振りすることで、噛み応えがある野菜炒めができる。
【0091】
(実施例11:飲食品の加工例4)
キャベツ芯粉末試料(表1の試料B)1.00gと乾燥マッシュポテト(北海道じゃがマッシュ、カルビーポテト株式会社、北海道帯広市)フレーク5.00gとを混合し、水20mLと混合した。これを皿の上でプラスチックラップをかけて、電子レンジで500Wで30秒加熱した(
図8)。これにより、マッシュポテトに食感をもつキャベツ芯由来の粉末が分散した食品ができた。
【0092】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示によれば、生鮮食品である野菜の廃棄部位を飲食品素材としてリサイクルする際に、食感を維持したまま長期保存が可能な素材を提供することができる。本開示による素材は、野菜などの生鮮食品のもつ食感を完全に消失させることなく、種々の加工食品の形で提供し得ることから、付加価値を付与した飲食品を提供することができる。特に、3Dフードプリンタによる次世代型食品製造には馴染まないとされてきた生鮮食品素材の用途拡大に大きく貢献するものと期待される。