(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20241212BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B3/113
(21)【出願番号】P 2022509387
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005216
(87)【国際公開番号】W WO2021192704
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020059001
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「視線検出技術を利用した簡易認知機能スクリーニングシステムの開発による社会システムの負荷軽減」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】武田 朱公
(72)【発明者】
【氏名】森下 竜一
【審査官】後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171022(JP,A)
【文献】特開2020-032077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部と、
前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部と、
を備え、
前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、
前記記銘画像と類似し前記記銘画像と同じ位置に視覚的な強調なしで表示される評価用画像を含む第3領域と、前記複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、
前記第1映像は、前記第1領域と前記複数の第2領域とを有する第1記銘映像、および、前記第1領域を有し前記複数の第2領域を有しない第2記銘映像を時間順に含み、
前記診断部は、
前記評価用映像に対する分布マップにおいて前記第3領域の注視率を算出し、
前記注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する
認知機能障害診断装置。
【請求項2】
診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部と、
前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部と、
を備え、
前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、
前記記銘画像と類似し前記記銘画像と同じ位置に視覚的な強調なしで表示される評価用画像を含む第3領域と、前記複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、
前記診断用映像は、
前記第1映像と前記評価用映像との間に表示される他の映像を含み、且つ、前記第1映像と前記他の映像とを2回以上繰り返す映像を含
み、
前記診断部は、
前記評価用映像に対する分布マップにおいて前記第3領域の注視率を算出し、
前記注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する
認知機能障害診断装置。
【請求項3】
診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部と、
前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部と、
を備え、
前記診断用映像は、診断用の
正解文字列画像を含む第1領域と、
不正解文字列画像を含む複数の第2領域とを有し、
前記診断部は、
前記診断用映像に対する前記分布マップにおける前記第1領域の注視
率を算出し、
前記注視率
がしきい値
より低い場合、失語症の疑いがあると診断する
認知機能障害診断装置。
【請求項4】
前記診断用映像は、
既知の物を示す画像を含む画像領域と、
当該物の名称を問う質問文を含む質問領域と、
当該物の名称を示す文字列画像を含む前記第1領域と、
当該物の名称以外の文字列画像を含む前記第2領域とを有する
請求項
3に記載の認知機能障害診断装置。
【請求項5】
前記診断用映像は、
意味のある文字列を含む前記第1領域と、
意味のない文字列を含む前記第2領域とを有する
請求項
3に記載の認知機能障害診断装置。
【請求項6】
前記診断用映像は、
行列状に配置された複数の文字を含み、
前記第1領域は、意味のある文字列で構成された行または列に対応し、
前記第2領域は、意味のない文字列で構成された行または列に対応する
請求項
5に記載の認知機能障害診断装置。
【請求項7】
診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、
前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、
前記記銘画像と類似し視覚的な強調なしで前記記銘画像と同じ位置に表示される評価用画像を含む第3領域と、前記複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、
前記第1映像は、前記第1領域と前記複数の第2領域とを有する第1記銘映像、および、前記第1領域を有し前記複数の第2領域を有しない第2記銘映像を時間順に含み、
前記認知機能障害診断プログラムは、
前記評価用映像に対する分布マップにおいて前記第3領域の注視率を算出し、
前記注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する
ことを前記コンピュータに実行させる
認知機能障害診断プログラム。
【請求項8】
診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、
前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、
前記記銘画像と類似し視覚的な強調なしで前記記銘画像と同じ位置に表示される評価用画像を含む第3領域と、前記複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、
前記診断用映像は、前記第1映像と前記評価用映像との間に表示される他の映像を含み、且つ、前記第1映像と前記他の映像とを2回以上繰り返す映像を含み、
前記認知機能障害診断プログラムは、
前記評価用映像に対する分布マップにおいて前記第3領域の注視率を算出し、
前記注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する
ことを前記コンピュータに実行させる
認知機能障害診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能障害を診断する認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、認知機能障害を診断する装置に関連する技術として次のようなものがある。
【0003】
特許文献1および特許文献2は、被検者の頭部と視線の動きを検出して、脳機能に関係する疾患を客観的に診断できるような視線検出を用いた医療診断装置を提案している。
【0004】
特許文献3は、神経障害の診断のために被検者の眼球運動を検出するシステムを提案している。
【0005】
特許文献4および特許文献5は、網膜や視神経等の目の疾患または頭蓋内疾患等の際に現れる視神経障害を検査するための視覚検査用チャートを提案している。
【0006】
特許文献6から特許文献9は、撮像カメラ部を少なくとも具備する視線検出ユニットを用いて、被検者の自閉症を診断する自閉症診断支援システムを提案している。
【0007】
特許文献10は、被検者の視線および瞳孔を検出して、被検者の脳疾患の可能性を判定する脳機能疾患診断支援装置を提案している。
【0008】
特許文献11は、視覚認知障害の診断を効果的に支援できる診断支援装置を提案している。
【0009】
特許文献12は、粗い画像からでも眼球運動の初動時間が検出可能な眼球運動計測装置および計測方法を提案している。
【0010】
特許文献13は、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備える認知機能障害診断装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平6-70884号公報
【文献】特開平6-70885号公報
【文献】特表2016-523112号公報
【文献】特許第4560801号公報
【文献】特許第4116354号公報
【文献】特許第5926210号公報
【文献】特許第5912351号公報
【文献】特許第5761048号公報
【文献】特許第5761049号公報
【文献】特許第5817582号公報
【文献】特開2017-158866号公報
【文献】特開2017-176302号公報
【文献】国際公開第2019/098173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に、認知機能障害や認知症の診断には、対面での問診形式による認知機能検査(神経心理学検査)が従来用いられてきた。認知機能検査において、検査者が、認知機能を評価するための複数の質問を被検者に問いかけ、それに対する口頭や書字・図形描写による回答の内容を採点し、認知機能スコアを算出する方法である。この方法では、検査に時間がかかるという問題がある。例えば、最も簡略なMini-Mental State Exam (MMSE)でも15~30分程度の時間がかかる。問診形式の性質上、被検者の心理的ストレスが非常に大きいという問題もある。また、問診を行う検査者の技量の差や、回答の解釈が検査者によって異なる場合があり、スコアのばらつきが大きいという問題もある。
【0013】
これらの課題を解決するために、本発明者らは、特許文献13の認知機能障害診断装置を提案している。さらに、新たな認知機能障害診断装置が望まれる。
【0014】
本発明は、認知機能障害の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備え、新たな診断手法を用いる認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様に係る認知機能障害診断装置は、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部と、前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部と、を備え、前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、前記記銘画像と類似し前記記銘画像と同じ位置に視覚的な強調なしで表示される評価用画像を含む第3領域と、前記複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、前記診断部は、前記評価用映像に対する分布マップにおいて前記第3領域の注視率を算出し、前記注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する。
【0016】
本発明の一態様に係る認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、前記分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む前記第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の前記第2領域とを有する第1映像、および、前記記銘画像と類似し視覚的な強調なしで前記記銘画像と同じ位置に表示される評価用画像を含む第3領域と、前記複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、前記認知機能障害診断プログラムは、前記評価用映像に対する分布マップにおいて前記第3領域の注視率を算出し、前記注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断することを前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係る認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラムは、認知機能障害の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態における認知機能障害診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図1B】
図1Bは、実施の形態における認知機能障害診断装置の他の構成例を示すブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態における認知機能障害診断装置の外観例を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、実施の形態における認知機能障害診断装置の他の外観例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態における記憶部の記憶内容の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態における症例特徴データの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態における認知機能障害診断装置による診断処理例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施の形態における第1診断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図6の第1診断処理における診断用映像等の例を示す図である。
【
図8】
図8は、記憶障害のない被検者に対する第1診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図9】
図9は、記憶障害のある被検者に対する第1診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態における第2診断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いる診断用映像の例を示す図である。
【
図12】
図12は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いる診断用映像の他の例を示す図である。
【
図13】
図13は、失語症のない被検者に対する、
図11を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図14】
図14は、失語症のある被検者に対する、
図11を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図15】
図15は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いない診断用映像の第1の例を示す図である。
【
図17】
図17は、失語症のない被検者に対する、
図15を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図18】
図18は、失語症のある被検者に対する、
図15を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図19】
図19は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いない診断用映像の第2の例を示す図である。
【
図21】
図21は、失語症のない被検者に対する、
図20を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図22】
図22は、失語症のある被検者に対する、
図20を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【
図23】
図23は、実施の形態における第3診断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図26】
図26は、認知機能障害のない被検者に対する
図24を用いた第3診断処理における分布マップの例を示す図である。
【
図27】
図27は、第3診断処理における
図25の指示文領域の注視率とMMSEスコアの相関を示す図である。
【
図28】
図28は、第3診断処理における
図25の的外れ不正解画像の注視率とMMSEスコアの相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0020】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0021】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、同じ構成部材については同じ符号を付している。
【0022】
(実施の形態)
以下、実施の形態における認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラムについて図面を参照しながら説明する。
【0023】
[1.認知機能障害診断装置の構成]
図1Aは、実施の形態における認知機能障害診断装置の構成例を示すブロック図である。また、
図2Aは、実施の形態における認知機能障害診断装置の外観例を示す図である。
【0024】
図1Aに示すように認知機能障害診断装置1は、表示部10、撮像装置20およびPC(Personal Computer、パソコン)30を備える。この認知機能障害診断装置1は、市販されている一般的なPC30を主な制御装置として、さらに、PC30に表示部10および撮像装置20を付加した構成例を示している。
【0025】
表示部10は、表示面11を有するフラットパネル型のディスプレイであり、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示する。表示部10は、
図2Aに示すように、診断用映像を被検者に見せるために、高齢者でも見やすい大型の液晶ディスプレイ、または有機ELディスプレイである。なお、表示部10は、パソコン用のモニターでもよいし、市販の大型テレビをモニターとしてもよい。また、表示部10は、フラットパネル型のディスプレイの代わりに、表示面11としてのスクリーンとプロジェクタとから構成してもよい。
【0026】
撮像装置20は、表示部10に取り付け可能なモジュールであり、少なくとも被検者の目を撮像するための撮像部21および光源部24を備える。
【0027】
撮像部21は、カメラ22およびカメラ23を有するステレオカメラである。カメラ22およびカメラ23は、それぞれ例えば赤外線カメラでよい。他の例では、カメラ22およびカメラ23は、それぞれ可視光カメラでよい。また、撮像部21は、ステレオカメラではなく単体のカメラでもよいし、3つ以上のカメラであってもよい。
【0028】
光源部24は、赤外線を照明光として被検者に照射する光源25および光源26を備える。光源25および光源26はそれぞれ、例えば、1つまたは複数の赤外線LED(Light Emitting Diode)を有する構成でよい。他の例では、光源25および光源26はそれぞれ、1つまたは複数の白色LED(Light Emitting Diode)でもよい。なお、被検者の照明環境が十分に明るい場合には、撮像装置20は光源部24を備えなくてもよい。また、撮像装置20は、表示部10の上部に取り付けても良いし、分割して左右に取り付けてもよい。
【0029】
PC30は、プロセッサ31、記憶部32、入力部33、出力部34、表示部35、インターフェース部36、検出部37、作成部38および診断部39を備える。
図1Aに示す機能ブロックのうち、プロセッサ31、記憶部32、入力部33、出力部34、表示部35およびインターフェース部36は、市販されているコンピュータの一般的なハードウェアおよびソフトウェアにより構成される。他の機能ブロック、つまり検出部37、作成部38および診断部39は、主に本実施の形態における認知機能障害診断プログラムをプロセッサ31が実行することによって実現される構成要素を示している。
【0030】
プロセッサ31は、記憶部32に記憶されたプログラムを実行するいわゆるCPU(Central Processing Unit)である。
【0031】
記憶部32は、プロセッサ31によって実行されるプログラムと、プロセッサ31により処理されるデータとを記憶する。さらに、記憶部32は、データベース324を構成する。記憶部32に記憶されるプログラムには、各種ファームウェア、OS(Operating System)、ドライバソフトウェア等のソフトウェアに他に、本実施形態における認知機能障害診断プログラムを含む。また、記憶部32に記憶されるデータには、診断用映像データ、症例特徴データ、視点データ、分布マップデータなどが含まれる。診断用映像データは、認知機能障害の診断用に作成された静止画像または動画像である。症例特徴データは、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示すデータである。視点データは、検出部37によって検出された視点の位置と時刻とを示す時系列的なデータである。分布マップは、作成部38によって作成され、視点データに従って時系列的な視点を二次元平面に順次リアルタイムにプロットしたものであり、視点の二次元的な分布を示す。
【0032】
なお、記憶部32は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成されるメインメモリまたは一次メモリと、HDD(Hard Disc Drive)装置やSSD(Solid State Drive)装置で構成される補助メモリまたは二次メモリと、キャッシュメモリとを含む。つまり、本書では記憶部32は、プログラムおよびデータを記憶する機能を有する構成要素の総称として用いている。
【0033】
入力部33は、例えばキーボード、マウス、トラックパッド等を含み、操作者の操作を受け付ける。
【0034】
出力部34は、例えばスピーカであり、音声を出力する。
【0035】
表示部35は、例えば液晶ディスプレイであり、ユーザ(ここでは検査する人)のモニター用に分布マップが重畳された診断用映像などを表示する。
【0036】
インターフェース部36は、ケーブルを介して表示部10および撮像装置20を接続して通信する機能を有する。インターフェース部36は、例えば、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)ポートおよびUSB(Universal Serial Bus)ポートを有する。この場合、インターフェース部36は、HDMI(登録商標)ケーブルを介して表示部10を接続し、USBケーブルを介して撮像部21および光源部24を接続する。
【0037】
検出部37は、撮像部21により撮像された画像に基づいて、表示面11における被検者の視点を時系列的に検出する。例えば、検出部37は、撮像部21により撮像された画像から被検者の視線を検出し、視線が表示面11に交差する点の座標を表示面11における被検者の視点の位置として検出する。視点の位置の検出は、周期的に行われる。周期は、数10mSから数100mSの間で定めればよく、例えば100mSでよい。検出部37は、例えば、時刻を含む座標データ(x、y、t)の集合を、時系列的な視点の位置を表す視点データとしてリアルタイムに生成する。ここで、x、yは平面(例えば、表示面11または診断用映像)の座標、tは時刻である。
【0038】
作成部38は、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する。分布マップは、例えば、上記座標データ(x、y、t)に対応するマーク(例えば色付きドット)を二次元平面上にプロットした図であり、PC30の表示部35に表示される診断用映像にリアルタイムに重畳される。上記のマークは、例えば、最新の視点ほど明るく表示してもよい。
【0039】
診断部39は、分布マップが症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって被検者の認知機能を診断する。
【0040】
以上のように、認知機能障害診断装置1は、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、前記撮像部21により撮像された画像に基づいて、前記表示面11における前記被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、前記検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部38と、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示す症例特徴データ310を記憶する記憶部32と、前記分布マップが前記症例特徴データ310の特徴を有するかどうかを判定することによって前記被検者の認知機能障害を診断する診断部39とを備える。
【0041】
この構成によれば、認知機能障害診断装置1による認知機能の診断において、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備えることができる。
【0042】
なお、
図1Aおよび
図2Aに示すPC30は、ノート型のコンピュータであってもタブレット型のコンピュータであってもデスクトップ型のコンピュータであってもよい。
【0043】
次に、認知機能障害診断装置1の他の構成例について説明する。
【0044】
図1Bは、実施の形態における認知機能障害診断装置1の他の構成例を示すブロック図である。
図1Bは、
図1Aと比べて、表示部10、撮像部20、検出部37および作成部38が削除された点と、取得部41が追加された点とが異なっている。以下、同じ点については重複説明を避け、異なる点を中心に説明する。
【0045】
図1A中の表示部10、撮像部20、検出部37および作成部38は、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップデータを作成するためのアイトラッキング用の構成に対応する。
図1Bの構成例では、
図1Aから分布マップデータを作成するため構成を切り離して、認知機能障害を診断するための中心的な構成を示している。
【0046】
取得部41は、外部の装置が作成した分布マップデータを取得し、記憶部32に格納する。当該分布マップデータは、認知機能障害の診断対象となる。
【0047】
なお、取得部41は、外部の装置から、分布マップデータ、診断用映像データ、症例特徴データ、および視点データを取得可能であればよい。例えば、分布マップデータに対応する診断用映像データ、症例特徴データ等が既に記憶部32に保存されていれば、取得部41は分布マップデータのみを取得してもよい。また例えば、取得部41は、1番目の被検者については、当該被検者に対応する分布マップデータ、診断用映像データ、症例特徴データ、および視点データを取得し、2番目以降の被検者については、分布マップデータのみを取得してもよい。
【0048】
なお、
図1Aの認知機能障害診断装置1は、
図1Bの取得部41をさらに備える構成としてもよい。
【0049】
また、外部の装置は、アイトラッキングにより被検者の時系列的な視点の分布を示す分布マップを作成する機能を有していればよく、アイトラッキングの手法および分布マップを作成する構成は問わない。また、外部の装置は、認知機能障害診断装置1とインターネット、電話回線または専用線を介して接続されていてもよい。
【0050】
なお、認知機能障害診断装置1は、
図2Aの外観例のような大型の表示部10を有する装置でなくてもよく、スマート装置として構成することができる。
【0051】
図2Bは、認知機能障害診断装置1の他の外観例を示す図である。同図の認知機能障害診断装置1は、タブレット型のスマート装置であって、表示部10および撮像部22など
図1Aと機能的に同じ構成要素を備える。
【0052】
図2Bの表示部10は、
図2Aの表示部10およびPC30の表示部35を兼用する。表示面11の表面にはタッチパネルが形成されている。
【0053】
撮像部22は、スマート装置の前面カメラである。撮像部22は、例えば、顔認証技術で目の位置や動きを検出することでアイトラッキングに使用される。この場合、光源部24は、備えなくてもよい。被検者に対する映像表示は、表示部10になされる。また、検査者のタッチパネル操作に従って、認知機能障害診断プログラムがタブレット装置内部のプロセッサにより実行される。たとえば、スマート装置は、被検者と検査者が交互に使用することで、または、検査者が被検者に表示部10を見せることで、認知機能障害を診断する。
【0054】
このようなスマート装置としての認知機能障害診断装置1は、タブレット型端末、スマートフォン、ノートパソコンなどで構成してもよい。また、認知機能障害診断プログラムは、これらの装置のアプリとして作成される。なお、
図2Bの認知機能障害診断装置1は、
図1Bと機能的に同じ構成要素を備える構成としてもよい。
【0055】
[1.1 記憶部32のプログラムおよびデータ]
次に、記憶部32に記憶されるプログラムおよびデータについて説明する。
【0056】
図3は、実施の形態における記憶部32の記憶内容の一例を示す図である。同図において記憶部32は、診断用映像データ300、症例特徴データ310、プログラム320、視点データ322、分布マップデータ323を記憶する。プログラム320は、認知機能障害診断プログラム321を含む。さらに、記憶部32は、データベース324を含む。
【0057】
診断用映像データ300は、第1映像データ301から第映像データ303を含む複数の映像データの集まりである。複数の映像データのそれぞれは、認知機能障害の有無もしくは程度を診断するために作成された映像、または、認知機能障害の症例を鑑別するために作成された映像である。
【0058】
症例特徴データ310は、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示すデータであって、第1特徴データ311から第3特徴データ313を含む複数の特徴データの集まりである。第1特徴データ311から第3特徴データ313は、第1映像データ301から第3映像データ304とそれぞれ対応する。
【0059】
プログラム320は、各種ファームウェア、OS(Operating System)、ドライバソフトウェア等のソフトウェアと、認知機能障害診断プログラム321とを含む。認知機能障害診断プログラム321は、コンピュータつまりPC30が実行するプログラムであって、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示し、撮像部21によって被検者の目を撮像し、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面11における被検者の視点を時系列的に検出し、検出された視点の分布を示す分布マップを作成し、分布マップが症例特徴データの特徴を分布マップが有するかどうかを判定することによって被検者の認知機能障害を診断することをコンピュータに実行させる。このうち、PC30が撮像部21により撮像された画像に基づいて前記表示面11における被検者の視点を時系列的に検出することは、検出部37の機能である。PC30が、検出された視点の分布を示す分布マップを作成することは、上記の作成部38の機能である。PC30が、分布マップが症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって被検者の認知機能障害を診断することは診断部39の機能である。
【0060】
視点データ322は、検出部37により検出された視点の位置と時刻とを示す時系列的なデータであり、例えば、既に説明した時刻を含む座標データ(x、y、t)の集合である。
【0061】
分布マップデータ323は、既に説明した分布マップを示すデータである。
【0062】
データベース324は、各種データ等を蓄積する。なお、データベース324は、記憶部32の一部でなくてもよく、記憶部32の外部に備えてもよい。また、データベース324は、インターネット等のネットワークを介して接続されていてもよい。
【0063】
なお、記憶部32は、
図3に示したプログラムおよびデータ以外に、被検者の診断結果を示す診断データや、被検者毎の視点データ322、分布マップデータ323および診断データを関連づけるデータも記憶する。
【0064】
続いて、症例特徴データ310の具体例について説明する。
【0065】
図4は、実施の形態における症例特徴データ310の一例を示す図である。同図の症例特徴データ310は、第1特徴データ311から第3特徴データ313を含む。同図では、第1特徴データ311から第3特徴データ313それぞれの特徴と対応する認知機能障害の症例とを記してある。
【0066】
第1特徴データ311は、第1特徴と記憶障害とを対応付けている。第1特徴は、記憶障害のある者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第1特徴は、記憶障害のある者に記銘映像を提示した後に記憶想起画像を提示したとき、視点の分布マップにおいて記憶想起画像への注視率が低いという特徴を示す。第1特徴は、第1映像データ301による診断用映像である記銘映像を被検者に見せて、さらに、記憶想起用の画像を提示することを前提とする。
【0067】
第2特徴データ312は、第2特徴と失語症とを対応付けている。すなわち、第2特徴は、失語症のある者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第2特徴は、正解画像と不正解画像とを含む複数の選択肢を有する画像に対する視点の分布マップにおいて正解への注視率が小さいという特徴を示す。この第2特徴は、第2映像データ302による診断用映像である第2映像を被検者に見せていることを前提とする。
【0068】
第3特徴データ313は、第3特徴と認知機能障害とを対応付けている。すなわち、第3特徴は、認知機能障害のある者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第3特徴は、正解画像と不正解画像とを含む複数の選択肢を有する画像に対する視点の分布マップにおいて不正解画像への注視率が小さくないという特徴を示す。この第3特徴は、第3映像データ303による診断用映像である第3映像を被検者に見せていることを前提とする。
【0069】
[1.2 認知機能障害診断装置1の処理例]
以上のように構成された実施の形態における認知機能障害診断装置1について、その処理例を説明する。
【0070】
図5は、実施の形態における認知機能障害診断装置1による診断処理例を示すフローチャートである。
【0071】
図5に示すように、認知機能障害診断装置1は、第1診断処理(S10)から第3診断処理(S30)を逐次実行する。
図5診断処理例は、主にPC30が認知機能障害診断プログラム321を実行することにより実現する処理である。
【0072】
第1診断処理は、第1映像データ301および第1特徴データ311を用いる診断処理である。第2診断処理は、第2映像データ302および第2特徴データ312を用いる診断処理である。第3診断処理は、第3映像データ303および第3特徴データ313を用いる診断処理である。
【0073】
第1診断処理から第3診断処理のそれぞれの時間は、0.5分から数分程度である。
【0074】
なお、第1診断処理から第3診断処理の順番は、
図5とは異なる順番であってもよい。
【0075】
また、
図5において、第1診断処理から第3診断処理のうちの少なくとも1つを選択して実行してもよい。
【0076】
なお、
図5の診断処理例の開始前に、視点検出のキャリブレーション処理を行ってもよい。
【0077】
[2.1 第1診断処理]
次に、
図5のステップS10における第1診断処理について詳しく説明する。第1診断処理は、上記の第1特徴を利用して記憶障害を診断する。
【0078】
図6は、実施の形態における第1診断処理(S10)の一例を示すフローチャートである。
図7は、
図6の第1診断処理における診断用映像等の例を示す図である。
【0079】
図6のようにPC30は、まず、検出部37による視点の検出を開始し(S61)、被検者に特定の画像または文字列の領域を記銘させるための処理であるループ1(S62~S65)を実行する。
【0080】
ループ1においてPC30は、記銘するための診断用映像を表示し(S63)、その直後に他の映像を表示する(S64)。ループ1の繰り返し回数Nは、2以上でよい。
【0081】
ステップS63では、被検者の視線を、画面上の特定の図形あるいは領域に無意識に、つまり言語指示を介在さずに集中させるような記銘用映像が提示される。
図7の例では、診断用映像は、記銘映像b11と記銘映像b12とを時間順に含む。記銘映像b11はTa秒間表示され、その直後に記銘映像b12がTb秒間表示される。例えば、時間Taは5秒程度、時間Tbは3秒程度でよい。
【0082】
記銘映像b11は、表示面11の上部に10個、下部に10個の合計20個の時計画像を含む。20個の時計画像の内、最下段右から2番目の時計画像M1のみが回転している。この回転は、時計の針の高速な回転でもよいし、時計画像自体の回転でもよい。他の19個の時計画像は静止している。これは、時計画像M1に被検者の注意を集中させるためである。
【0083】
記銘映像b12では、回転している時計画像M1のみが強調されるように点線枠が付加され、かっ、他の時計画像が消失する。これにより、言語指示を用いないで被検者の注意を時計画像M1に注意を集中させるようにしている。
【0084】
ステップS64では、Tc秒間他の映像を表示し、記銘のインターバル時間を設けている。Tcは例えば60秒程度でよい。
【0085】
図7における2回目の繰り返しにおける表示時間Td、TeおよびTfは、1回目の繰り返しにおけるTa、TbおよびTcと同じであってもよいし、異なる時間であってもよい。
【0086】
このようなループ1の繰り返しにより、被検者の、画面上の時計画像M1に無意識に注意が集中し、記憶が強化される。
【0087】
PC30は、ループ1の後、記憶を想起させるための評価用映像b3をTg秒間表示する(S66)。時間Tgは例えば5秒程度でよい。
図7の評価用映像b3は、時計画像M1の代わりに時計画像M3を有する。つまり、評価用映像b3は、20個のいずれの時計画像も静止しており、本来は特定の図形のみに注意を引くことがないように構成されている。
【0088】
記憶障害のない被検者では記銘用映像(記銘映像b11およびb12)で、見た内容が記憶に残っているため、記銘用映像で注意が集中していた特定の図形または領域に無意識に視線を向けてしまう。特定の図形または領域は、記銘映像で記銘した図形または領域であり、
図7では、時計画像M1と同じ位置の静止した時計画像M3である。
【0089】
これに対して、記憶障害のある被検者では、記憶が維持されないので、または、記銘されていないので、時計画像M3に無意識に視線が向くことはなく、ランダムに見る傾向を示す。
【0090】
そこで、PC30は、記憶力の定量的評価として、記憶想起のための評価用映像における特定の図形または領域を関心領域として設定し、関心領域内の注視率Vbを記憶カのスコアとして算出する(S67)。ここで、注視率Vbは、評価用映像に対応する視点の分布パターンにおいて関心領域である時計画像M3の領域に視点が存在する割合(%)でよい。
【0091】
さらに、PC30は、算出した注視率Vbがしきい値th1より大きいか否かを判定する(S68)。注視率Vbがしきい値th1より大きいと判定した場合には、被検者に記憶障害なしと診断する(S69)。
【0092】
さらに、PC30は、算出した注視率Vbがしきい値th1より小さく、かつ、しきい値th2より大きいか否かを判定する(S70)。注視率Vbがしきい値th1より小さく、かつ、しきい値th2より大きいと判定した場合には、被検者に記憶障害の疑いありと診断する(S71)。
【0093】
さらに、PC30は、算出した注視率Vbがしきい値th2より小さいか否かを判定する(S72)。注視率Vbがしきい値th2より小さいと判定した場合には、被検者に記憶障害ありと診断する(S73)。
【0094】
しきい値th1およびしきい値th2は、記憶障害の有無が予め判明している複数の被検者を対象に注視率Vbを算出することにより、適切に設定することができる。
【0095】
なお、
図6では、「記憶障害なし」、「記憶障害の疑いあり」、「記憶障害あり」の3種類の診断結果を出力する例を示したが、これに限らず、診断結果を記憶障害の有無を示す2種類としてもよいし、記憶障害の有無および程度を示す4種類以上としてもよい。
【0096】
なお、
図6のフローチャートは、ステップS61~S66の代わりに、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得するステップを有していてもよい。取得するステップに置き換えたフローチャートは、
図1BのPC30で容易に実施できるし、また、
図1AのPC30で実施してもよい。 次に、第1診断処理で得られた分布マップの例について説明する。
【0097】
図8は、MMSE30点の記憶障害のない被検者に対する第1診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。また、
図9は、MMSE14点の記憶障害のある被検者に対する第1診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。なお、MMSEのスコアは30点満点であり、30点は健常者を示し、スコアが低いほど重い認知機能障害があることを示す。
【0098】
図8および
図9は、PC30の表示部35に表示される記銘映像b11、記銘映像b12および評価用映像b3に分布マップを重畳した例を示す。
【0099】
図8および
図9に示すように、記銘映像b11および記銘映像b12において、被検者の視点は、時計画像M1に集中している。記銘映像b11および記銘映像b12は、視覚的に強調表示される記銘用画像である時計画像M1を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像である静止した時計画像を含む複数の第2領域とを有する診断用映像である。記銘映像に対する視点は、
図8および
図9に示すように、記憶障害のない被検者も記憶障害のある被検者もほぼ同じであり、第1領域の時計画像M1に視点が集中している。
【0100】
図8の評価用映像b3において、記憶障害のない者の視点分布は、記銘の効果の現れとして、関心領域の時計画像M3への注視率81%と高くなっている。
【0101】
これに対して、
図9の評価用映像b3において、記憶障害のある者の視点分布は、記銘の効果が現れることなく、関心領域の時計画像M3への注視率0%と低くなっている。
【0102】
第1診断処理では、記憶を想起させる評価用映像における、関心領域内の注視率を記憶カのスコアとして、被検者の記憶の程度を定量的に評価して記憶障害を診断する。
【0103】
以上のように、第1診断処理を行う認知機能障害診断装置は、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部41と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、前記診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、記銘画像と類似し記銘画像と同じ位置に視覚的な強調なしで表示される評価用画像を含む第3領域と、複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、診断部39は、評価用映像に対する分布マップにおいて第3領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する。
【0104】
また、第1診断処理を行う認知機能障害診断装置は、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部38と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断部39は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像を表示部10に表示させ、さらに、記銘画像と類似し記銘画像と同じ位置に視覚的な強調なしで表示される評価用画像を含む第3領域と、複数の第2領域とを有する評価用映像を表示部10に表示させ、評価用映像に対する分布マップにおいて第3領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断する。
【0105】
これによれば、認知機能障害のうち記憶障害の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備える認知機能障害診断装置を提供することができる。しかも、文字による指示および音声による指示を用いなくても診断することがきる。母国語の異なる複数の被検者に対しても実施することができる。さらに、わずか数分間の間に記憶障害の診断をすることができる。
【0106】
ここで、第1映像は、第1領域と複数の第2領域とを有する第1記銘映像と、第1領域を有し複数の第2領域を有しない第2記銘映像とを時間順に含んでいてもよい。
【0107】
これによれば、被検者に対する第1領域の記銘力を高めることができる。
【0108】
ここで、診断用映像は、第1映像と評価用映像との間に表示される、他の映像を含んでいてもよい。
【0109】
これによれば、記銘と評価との間に他の映像の表示期間を設けることにより、被検者が記憶力を維持できているか、できていないかをより明確にすることができ、診断結果の信頼性を高めることができる。
【0110】
ここで、前記診断用映像は、第1映像と他の映像とを2回以上繰り返す映像を含んでいてもよい。
【0111】
これによれば、繰り返しにより被検者に対する第1領域の記銘力を高めることができる。
【0112】
また、第1診断処理を行う認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、診断用映像は、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する第1映像、および、記銘画像と類似し視覚的な強調なしで記銘画像と同じ位置に表示される評価用画像を含む第3領域と、複数の第2領域とを有する評価用映像を時間順に含み、前記認知機能障害診断プログラムは、評価用映像に対する分布マップにおいて第3領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断することを前記コンピュータに実行させる。
【0113】
また、第1診断処理を行う認知機能障害診断プログラムは、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備えるコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、視覚的に強調表示される記銘画像を含む第1領域と、強調なしで表示される通常画像を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、さらに、記銘画像と類似し視覚的な強調なしで記銘画像と同じ位置に表示される評価用画像を含む第3領域と、複数の第2領域とを有する評価用映像を表示部10に表示させ、評価用映像に対する分布マップにおいて第3領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、記憶障害の疑いがあると診断することを前記コンピュータに実行させる。
【0114】
[2.2.1 第2診断処理(言語指示を用いる例)]
次に、
図5中のステップS20における第2診断処理について言語指示を用いる例を説明する。第2診断処理は、上記の第2特徴を利用して失語症を診断する。
【0115】
図10は、実施の形態における第2診断処理の一例を示すフローチャートである。また、
図11は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いる診断用映像の例を示す図である。
【0116】
図10においてPC30は、まず、検出部37による視点の検出を開始し(S101)、表示面11に診断用映像を表示し(S102)、診断用映像中の正解領域の注視率Vcを算出する(S103)。
【0117】
ここでの診断用映像は、正解文字列画像を含む第1領域と、不正解文字列画像を含む複数の第2領域とを有する映像である。
【0118】
図11の例では、診断用映像c11がTa秒間表示された後に診断用映像c12がTb秒間表示される。時間Ta、Tbのそれぞれは、例えば5秒から10数秒程度でよい。
【0119】
診断用映像c11は、中央部に時計画像を有し、周囲に選択肢となる4つの領域を有する。診断用映像c12は、診断用映像c11に対して、中央部の時計画像に指示文を重ねた点が異なっている。指示文は「これの名前は何ですか?」である。指示文の周囲の4つの領域は、正解文字列画像「とけい」を含む第1領域と、不正解文字列画像「とまと」、「えび」、「けいと」を含む複数の第2領域とが配置されている。
【0120】
このように、診断用映像では、例えば既知の物品の画像と、その物品の正しい呼称と間違った呼称とを含む選択肢としての複数の領域を有する。選択肢の数は任意である。また「これの名前は何ですか?」という指示文を表示する。被検者は、指示文により正解の選択肢を見つめるように促される。
【0121】
なお、
図11のような2つの診断用映像c11およびc12の代わりに、
図12に示すような1つの診断用映像c13を表示してもよい。
【0122】
さらに、PC30は、診断用映像の表示後に正解文字列画像を含む第1領域への視点の注視率Vcを算出する(S103)。ここで、注視率Vcは、診断用映像に対応する視点の分布パターンにおいて第1領域に視点が存在する割合(%)でよい。
【0123】
次に、PC30は、算出した注視率Vcがしきい値th3より大きいか否かを判定する(S104)。注視率Vcがしきい値th3より大きいと判定した場合には、被検者に失語症なしと診断する(S105)。
【0124】
さらに、PC30は、算出した注視率Vcがしきい値th3より小さく、かつ、しきい値th4より大きいか否かを判定する(S106)。注視率Vcがしきい値th3より小さく、かつ、しきい値th4より大きいと判定した場合には、被検者に失語症の疑いありと診断する(S107)。
【0125】
さらに、PC30は、算出した注視率Vcがしきい値th4より小さいか否かを判定する(S108)。注視率Vcがしきい値th4より小さいと判定した場合には、被検者に失語症ありと診断する(S109)。
【0126】
しきい値th3およびしきい値th4は、失語症の有無が予め判明している複数の被検者を対象に注視率Vcを算出することにより、適切に設定することができる。
【0127】
なお、
図10のフローチャートは、ステップS101、S102の代わりに、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得するステップを有していてもよい。取得するステップに置き換えたフローチャートは、
図1BのPC30で容易に実施できるし、
図1AのPC30で実施してもよい。
【0128】
なお、
図10では、「失語症なし」、「失語症の疑いあり」、「失語症あり」の3種類の診断結果を出力する例を示したが、これに限らず、診断結果を失語症の有無を示す2種類としてもよいし、失語症の有無および程度を示す4種類以上としてもよい。
【0129】
次に、第2診断処理で得られた分布マップの例について説明する。
【0130】
図13は、MMSE30点の失語症のない被検者に対する第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。また、
図14は、MMSE14点の失語症のある被検者に対する第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【0131】
図13における診断用映像c12において、失語症のない者の視点分布は、正解文字列画像を含む第1領域c111への注視率が高くなっている。
【0132】
これに対して、
図14における診断用映像c12において、失語症のある者の視点分布は、正解文字列画像を含む第1領域の注視率が低くなっている。
【0133】
正解となる第1領域への注視率Vcがしきい値th3を超える場合、その指示文に正解したと判断、すなわち物品呼称の能力が正常であると判断できる。言い換えれば、失語症のない被検者は、「とけい」の正解選択肢をしきい値以上の割合で眺めることができる。これに対して、失語症のある被検者は、正解以外の選択肢を眺める相対的な割合が大きくなる。よって、第2診断処理では、正解選択肢への注視率を指標として被検者の失語症の有無および程度を診断することができる。
【0134】
[2.2.2 第2診断処理(言語指示を用いない第1の例)]
上記の第2診断処理では言語指示を用いる例を示した。続いて、第2診断処理において言語指示を用いない第1の例について説明する。
【0135】
図15は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いない診断用映像の第1の例を示す図である。
【0136】
図15の診断用映像c21は、被検者用の表示面11の表示例を示し、意味のある文字列を含む正解領域と、意味のない文字列を含む不正解領域とを有している。具体的には、診断用映像c21は、行列状に配置された複数の文字を含む。正解領域は、意味のある文字列で構成された行または列に対応する。不正解領域は、意味のない文字列で構成された行または列に対応する。「だんご」の文字列を含む行は正解領域である。これ以外の行および列は意味のある文字列を含まない不正解領域である。
【0137】
図16は、
図15に対応する評価用映像の例を示す図である。また、
図16は、操作者用の表示部35の表示例を示し、
図15の診断用映像c21に対して、評価用領域としての正解領域c211を破線枠で明示している。
【0138】
次に、
図15の診断用映像c21に対する被検者の視点分布の例について説明する。
【0139】
図17は、MMSE30点の失語症のない被検者に対する、
図15を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。また、
図18は、MMSE14点の失語症のある被検者に対する、
図15を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【0140】
図17に診断用映像c21において、失語症のない者の視点分布は、正解領域c211への注視率が高くなっている。
【0141】
これに対して、
図18の診断用映像c21において、失語症のある者の視点分布は、正解領域c211とは無関係に、ランダムな傾向がある。
【0142】
診断用映像c21では、行列状または升目状に文字が並べられている。この中で、ある特定の部分にのみ「意味のある繋がりとしての文字列」が存在している。その他の部分は、どのような方向に読んでも意味のある繋がりとしての文字列にはなっていない。
【0143】
このような行列状の文字列を表示された場合に、失語症のない被検者では、その中から意味のある繋がりの文字列を見つけることができ、その部分を眺める注視率が無意識のうちに高くなる。
【0144】
一方で、失語症のある被検者では、意味のある繋がりを持つ文字列を見つけることができないため、その特定部分への注視率が相対的に高くならず、全体をランダムに眺める傾向がある。そこで、第2診断処理では、意味のある繋がりを持つ文字列の部分(つまり正解領域)への注視率がしきい値を超えているかどうかを指標として、客観的な失語症の診断が可能である。
【0145】
図15の診断用映像c21では、3文字×3文字の平仮名の文字列が表示される。この中で、最下行3文字を左から右へ向かつて読むと「だんご」(団子)と意味のある文字列として認識することが出来る。これ以外の組み合わせは基本的に意味を持たない文字列となっている。この「だんご」を見つけるように促す指示文としての文字および音声は一切提示されないが、失語症のない健常者では無意識のうちにこの意味のある繋がりの文字列「だんご」に対する注視率が相対的に上昇する。
【0146】
これに対して、失語症のある被検者では、この意味のある繋がりをもつ文字列を認識できず、「だんご」に対する注視率が高まることは無く、別の領域、或いは画面全体をランダムに眺める傾向にある。
【0147】
[2.2.3 第2診断処理(言語指示を用いない第2の例)]
さらに、第2診断処理において言語指示を用いない第2の例について説明する。
【0148】
図19は、
図10の第2診断処理において言語指示を用いない診断用映像の第2の例を示す図である。
図20は、
図19に対応する評価用映像の例を示す図である。
【0149】
図19の診断用映像c31は、被検者用の表示面11の表示例を示し、意味のある文字列を含む正解領域と、意味のない文字列を含む不正解領域とを有している。具体的には、診断用映像c31は、「たなばた」の文字列を含む列が正解領域であり、これ以外の行および列は意味のある文字列を含まない不正解領域である。
【0150】
また、
図20は、操作者用の表示部35の表示例を示し、
図19の診断用映像c31に対して、評価用領域としての正解領域c311を破線枠で明示している。
【0151】
次に、
図19の診断用映像c31に対する被検者の視点分布の例について説明する。
【0152】
図21は、MMSE30点の失語症のない被検者に対する、
図19を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。また、
図22は、MMSE14点の失語症のある被検者に対する、
図19を用いた第2診断処理で得られた分布マップの例を示す図である。
【0153】
図21に診断用映像c21において、失語症のない者の視点分布は、正解領域c311への注視率が高くなっている。これに対して、
図22の診断用映像c31において、失語症のある者の視点分布は、正解領域c311とは無関係に、ランダムな傾向がある。
【0154】
図19の診断用映像c31では、4文字×4文字の平仮名の文字列が表示される。この中で、右から2列目4文字を上から下へ向かつて読むと「たなばた」(七夕)と意味のある文字列として認識することが出来る。これ以外の組み合わせは基本的に意味を持たない文字列となっている。この「たなばた」を見つけるように促す指示文および指示音声は一切提示されない。失語症のない無い健常者では無意識のうちに意味のある繋がりの文字列「たなばた」に対する注視率が相対的に上昇する。これに対して、失語症のある被検者では、この意味のある繋がりをもつ文字列を認識できないため、この部位に対する注視率が高まることは無く、別の領域、或いは画面全体をランダムに眺めることになる。
【0155】
以上のように、第2診断処理を行う認知機能障害診断装置1は、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部41と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断用映像は、診断用の正解画像または記銘画像を含む第1領域と、他の画像を含む複数の第2領域とを有し、診断部39は、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域の注視率または第2領域の注視率を算出し、注視率としきい値と比較することによって認知機能障害の有無を診断する。
【0156】
また、第2診断処理を行う認知機能障害診断装置1は、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断部39は、診断用の正解画像または記銘画像を含む第1領域と、他の画像を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域の注視率または第2領域の注視率を算出し、注視率としきい値と比較することによって認知機能障害の有無を診断する。
【0157】
これによれば、認知機能障害の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備える認知機能障害診断装置を提供することができる。しかも、わずか数秒から数十秒の間に認知機能障害の診断をすることができる。
【0158】
また、第2診断処理を行う認知機能障害診断装置1は、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部41と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断用映像は、正解文字列を含む第1領域と、不正解文字列を含む複数の第2領域とを有し、診断部39は、診断用映像に対する分布マップにおいて第1領域への注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、失語症の疑いがあると診断する。
【0159】
また、第2診断処理を行う認知機能障害診断装置1は、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断部39は、正解文字列を含む第1領域と、不正解文字列を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、診断用映像に対する分布マップにおいて第1領域への注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、失語症の疑いがあると診断する。
【0160】
これによれば、認知機能障害のうち失語症の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備える認知機能障害診断装置を提供することができる。しかも、わずか数秒から数十秒の間に認知機能障害の診断をすることができる。
【0161】
ここで、診断用映像は、既知の物を示す画像を含む画像領域と、当該物の名称を問う質問文を含む質問領域と、当該物の名称を示す文字列画像を含む正解領域である第1領域と、当該物の名称以外の文字列画像を含む不正解領域である第2領域とを有していてもよい。
【0162】
これによれば、質問文という言語指示を用いて物の名称に関する失語症の診断をすることができる。
【0163】
ここで、診断用映像は、意味のある文字列を含む正解領域と、意味のない文字列を含む正解領域とを有していてもよい。
これによれば、指示文および音声指示を用いることなく失語症の診断をすることができる。
【0164】
ここで、診断用映像は、行列状に配置された複数の文字を含み、正解領域は、意味のある文字列を構成する行または列に対応し、不正解領域は、意味のない文字列を構成する行または列に対応していてもよい。
【0165】
これによれば、診断用映像を単純化して、指示文および音声指示を用いることなく失語症の診断をすることができる。
【0166】
また、第2診断処理を行う認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、診断用映像は、診断用の正解画像または記銘画像を含む第1領域と、他の画像を含む複数の第2領域とを有し、認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域の注視率または第2領域の注視率を算出し、注視率としきい値と比較することによって認知機能障害の有無を診断することをコンピュータに実行させる。
【0167】
また、第2診断処理を行う認知機能障害診断プログラムは、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備えるコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、診断用の正解画像または記銘画像を含む第1領域と、他の画像を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域の注視率または第2領域の注視率を算出し、注視率としきい値と比較することによって認知機能障害の有無を診断することをコンピュータに実行させる。
【0168】
また、第2診断処理を行う他の認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、診断用映像は、正解文字列を含む第1領域と、不正解文字列を含む複数の第2領域とを有し、認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する分布マップにおいて第1領域への注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、失語症の疑いがあると診断することをコンピュータに実行させる。
【0169】
また、第2診断処理を行う他の認知機能障害診断プログラムは、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備えるコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、正解文字列を含む第1領域と、不正解文字列を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、診断用映像に対する分布マップにおいて第1領域への注視率を算出し、注視率がしきい値より低い場合、失語症の疑いがあると診断することをコンピュータに実行させる。
【0170】
[2.3 第3診断処理]
次に、
図5中のステップS30に示した第3診断処理について説明する。第3診断処理は、上記の第3特徴を利用して認知機能障害を診断する。
【0171】
図23は、実施の形態における第3診断処理の一例を示すフローチャートである。また、
図24は、
図23の第3診断処理における診断用映像の例を示す図である。
【0172】
図23においてPC30は、まず、検出部37による視点の検出を開始し(S201)、表示面11に診断用映像を表示し(S202)、診断用映像中の不正解領域の注視率Vaを算出する(S203)。
【0173】
ここでの診断用映像は、正解画像を含む第1領域と、不正解画像を含む複数の第2領域とを有する映像である。例えば、診断用映像は、第1の図形を示す正解画像を含む第1領域と、第1の図形の直視を誘導する指示文を含む指示文領域と、第1の図形と類似の図形を示す不正解画像を含む第2領域と、第1の図形と類似しない図形を示す不正解画像を含む他の第2領域とを有する映像である。
【0174】
図24の例は、被検者用の表示面11の表示される診断用映像a1を示す。この診断用映像a1は、「六角形を見つめてください」という指示文の周りに、五角形、六角形、七角形および三角形の各図形を有する。
【0175】
図25は、
図23の第3診断処理における評価用映像の例を示す図である。
図25の例は、PC30の表示部35に表示される評価用映像としての診断用映像a1を示す。
図25の診断用映像a1は、第1の図形としての六角形の正解画像a11を含む第1領域と、「六角形を見つめてください」との指示文領域a12と、不正解画像を含む複数の第2領域とを有している。複数の第2領域は、第1の図形と類似の五角形の不正解画像を含む第2領域と、第1の図形と類似の七角形の不正解画像を含む第2領域と、第1の図形と類似しない三角形の含む的外れ不正解画像a13を含む第2領域とを含む。
【0176】
さらに、PC30は、診断用映像の表示後に不正解画像を含む不正解領域への視点の注視率Vaを算出する(S203)。ここで、注視率Vcは、診断用映像に対応する視点の分布パターンにおいて第1領域に視点が存在する割合(%)でよい。また、注視率Vaの算出対象となる不正解領域は、的外れ不正解画像a13の第2領域でもよいし、指示文領域a12でもよいし、的外れ不正解画像a13の第2領域と指示文領域a12とを合わせた領域でもよい。
【0177】
次に、PC30は、算出した注視率Vaがしきい値th5より大きいか否かを判定する(S204)。注視率Vaがしきい値th5より大きいと判定した場合には、被検者に認知機能障害ありと診断する(S205)。
【0178】
さらに、PC30は、算出した注視率Vaがしきい値th5より小さく、かつ、しきい値th6より大きいか否かを判定する(S206)。注視率Vaがしきい値th5より小さく、かつ、しきい値th6より大きいと判定した場合には、被検者に認知機能障害の疑いありと診断する(S207)。
【0179】
さらに、PC30は、算出した注視率Vaがしきい値th6より小さいか否かを判定する(S208)。注視率Vaがしきい値th6より小さいと判定した場合には、被検者に認知機能障害なしと診断する(S209)。
【0180】
しきい値th5およびしきい値th6は、認知機能障害の有無が予め判明している複数の被検者を対象に注視率Vaを算出することにより、適切に設定することができる。
【0181】
なお、
図23のフローチャートは、ステップS201、S202の代わりに、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得するステップを有していてもよい。取得するステップに置き換えたフローチャートは、
図1BのPC30で容易に実施できるし、
図1AのPC30で実施してもよい。
【0182】
図26は、認知機能障害のない被検者に対する
図24を用いた第3診断処理における分布マップの例を示す図である。同図のように、認知機能障害のない被検者は画面上の指示文に従って選択肢の中から正解画像a11を選び、それを注視する。不正解画像へ注視率は低く、特に的外れ不正解画像a13への注視率は極端に低い。
【0183】
第3診断処理は、正解画像への注視率ではなく、不正解画像への注視率や、指示文領域に対する注視率を指標として利用して被検者の認知機能を評価する。すなわち、診断用映像の中の指示文領域への注視率や不正解画像への注視率は、被検者の認知機能と逆相関するため、これらの注視率を指標に認知機能を評価することが出来る。
【0184】
不正解画像への注視率に関しては、特に、「的外れ不正解画像Jへの注視率が被検者の認知機能と逆相関する。例えば、4つの選択肢を提示し、その中で1つを正解画像とした場合、残りの3つは不正解画像とする。この3つの不正解画像の中の1つを正解からかけ離れた内容の画像にして特に的外れ不正解画像とする。つまり、的外れ不正解画像は、認知機能が正常であれば明らかに不正解であると判定される選択肢である。正解画像への注視率は被検者の認知機能と正の相関を示すが、的外れ不正解画像への注視率は被検者の認知機能と負の相関を示す。
【0185】
図24に示した診断用映像は、4つの画像が選択肢(五角形、六角形、七角形、三角形)として表示され、かつ、「六角形を見つめて下さい」という指示文が表示される。六角形が「正解画像」となり、この場合、三角形が「的外れ不正解画像」となる。五角形と七角形は正解となる六角形と類似しているため選択を迷わせるが、健常者にとって、三角形は選択を迷わせることはない。
【0186】
図27は、第3診断処理における
図25の指示文領域の注視率とMMSEスコアの相関を示す図である。また、
図28は、第3診断処理における
図25の的外れ不正解画像の注視率とMMSEスコアの相関を示す図である。
【0187】
図27および
図28に示すように、指示文領域a12に対する注視率、および、的外れ不正解画像a13に対する注視率は、いずれも被検者の認知機能スコア(MMSEスコア)と統計学的有意に負の相関を示している。
【0188】
この観点から第3診断処理は、正解画像への注視率ではなく、不正解画像への注視率や、指示文領域に対する注視率を指標として利用して被検者の認知機能を評価する。
【0189】
以上のように、第3診断処理を行う認知機能障害診断装置1は、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得する取得部41と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断用映像は、正解画像を含む第1領域と、不正解画像を含む複数の第2領域とを有し、診断部39は、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域以外の領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より高い場合、認知機能障害の疑いがあると診断する。
【0190】
また、第3診断処理を行う認知機能障害診断装置1は、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備え、診断部39は、正解画像を含む第1領域と、不正解画像を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域以外の領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より高い場合、認知機能障害の疑いがあると診断する。
【0191】
これによれば、認知機能障害の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性を兼ね備える認知機能障害診断装置を提供することができる。しかも、不正解画像への注視率を指標として認知機能障害の診断をすることができる。さらに、わずか数秒から数十秒の間に認知機能障害の診断をすることができる。
【0192】
ここで、診断用映像は、第1の図形の直視を誘導する指示文を含む指示文領域と、第1の図形を示す正解画像を含む第1領域と、第1の図形と類似の図形を示す不正解画像を含む第2領域と、第1の図形と類似しない図形を示す不正解画像を含む他の第2領域とを含み、診断部39は、指示文領域または他の第2領域の注視率を算出してもよい。
【0193】
これによれば、指示文領域または他の第2領域の注視率を指標として、認知機能障害を診断することができる。
【0194】
また、第3診断処理を行う認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する被検者の視点の分布を示す分布マップを取得し、分布マップに基づいて認知機能障害を診断するコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、診断用映像は、正解画像を含む第1領域と、不正解画像を含む複数の第2領域とを有し、認知機能障害診断プログラムは、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域以外の領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より高い場合、認知機能障害の疑いがあると診断することをコンピュータに実行させる。
【0195】
また、第3診断処理を行う認知機能障害診断プログラムは、表示面を有する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面における被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部と、分布マップに基づいて認知機能障害を診断する診断部39と、を備えるコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、診断部39は、正解画像を含む第1領域と、不正解画像を含む複数の第2領域とを有する診断用映像を表示部10に表示させ、診断用映像に対する分布マップにおける第1領域以外の領域の注視率を算出し、注視率がしきい値より高い場合、認知機能障害の疑いがあると診断することをコンピュータに実行させる。
【0196】
なお、認知機能障害診断装置1は、同時に複数の被検者を対象としてもよい。この場合、撮像部21は複数の被検者を撮像し、検出部37は被検者毎に視点を検出し、作成部38は被検者毎に分布マップの作成し、診断部39は被検者毎に診断すればよい。また、認知機能障害診断装置1が、同時に複数の被検者を対象とする場合に、撮像装置20を複数備えてもよい。この場合、撮像装置20と被検者とは、1対1でもよいし、1対多でもよい。これにより、認知機能障害診断装置1は、さらに、集団検診の効率を向上させることができる。
【0197】
上述の実施の形態及びその変形例は、本発明の技術内容を説明することを目的とする例示として記載されたものであり、本願に係る発明の技術的範囲をこの記載の内容に限定する趣旨ではない。本願に係る発明の技術的範囲は、明細書、図面および請求の範囲またはこれに均等の範囲において当業者が想到可能な限り、変更、置き換え、付加、省略されたものも含む。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明は、認知機能障害を診断する認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラムに利用することができる。
【符号の説明】
【0199】
1 認知機能障害診断装置
10 表示部
11 表示面
20 撮像装置
21 撮像部
22、23 カメラ
24 光源部
25、26 光源
30 PC
31 プロセッサ
32 記憶部
33 入力部
34 出力部
35 表示部
36 インターフェース部
37 検出部
38 作成部
39 診断部
300 診断用映像データ
301 第1映像データ
302 第2映像データ
303 第3映像データ
310 症例特徴データ
311 第1特徴データ
312 第2特徴データ
313 第3特徴データ
320 プログラム
321 認知機能障害診断プログラム
322 視点データ
323 分布マップデータ
324 データベース