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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】腎臓機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/62 20060101AFI20241212BHJP
   A61K 36/8968 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/076 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/68 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/481 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/815 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K36/62
A61K36/8968
A61K36/076
A61K36/23
A61K36/68
A61K36/539
A61K36/481
A61K36/815
A61K36/484
A61P13/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020105343
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021195358
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴大
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-195357(JP,A)
【文献】日本東洋医学雑誌, 1998, vol. 49, no. 2, pp. 241-248,1998年,vol. 49, no. 2,pp. 241-248
【文献】昭和医会誌,2004年,vol. 64, no. 1,pp. 31-34
【文献】アグリバイオ,2018年01月20日,vol. 2, no. 1,pp. 48-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清心蓮子飲エキスを含有する、腎臓機能改善剤(但し、六味丸を含むものを除く)
【請求項2】
クレアチニンの低減のために用いられる、請求項1に記載の腎臓機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓には、尿を作るという排泄機能のみならず、体内環境のバランスを保つ、血圧を調整する、赤血球をつくる働きを助ける、ビタミンDを活性化する等の多様な機能を有する。腎臓は加齢とともにその機能が低下することが知られており、高齢者では慢性腎臓病の割合が高い。腎臓機能の低下は、排泄機能の低下のみならず、腎性貧血やビタミンD活性化等の代謝面での異常も悪化させるため、腎臓機能を維持又は向上させることは極めて重要である(非特許文献1)。
【0003】
近年、体調不良を自分で対処するセルフメディケーションへの関心も高まってきており、その手段として漢方薬を利用する機会が増えている。漢方医学において、腎臓の機能が衰えた状態を「腎虚」と呼んでおり(非特許文献2)、腎虚に対する漢方薬が複数知られている。また、近年では、西洋医学の観点から漢方薬の作用メカニズムを研究する動きも活発である。
【0004】
具体的に、腎虚に対する漢方薬としては、微小循環改善、糖尿病に対する血糖降下、同腎症の予防効果、ラジカルの減少等の作用により加齢に伴う症状を改善する八味地黄丸(非特許文献3)、レニン・アンジオテンシン系に働く治療薬との併用により慢性腎臓病の治療に用いられる七物降下湯、アレルギーの関与が考えられるネフローゼ症候群、及び小児のIgA腎症に対して効果を示す柴苓湯(非特許文献4)、慢性腎不全の進行に対して効果を示す温脾湯(非特許文献5)等が挙げられる。
【0005】
一方、頻尿に対する漢方薬として、清心蓮子飲が知られている。頻尿とは、尿量に異常はない(1日に3リットル以下)ものの回数の異常がある症状をいい、膀胱の膀胱平滑筋が過剰に収縮している状態にある(非特許文献7)。また、膀胱は、尿を貯め、尿量が適当量になった場合に収縮すると同時に尿道括約筋が弛緩するという複雑な神経支配に依存するため、頻尿は、このような神経の疾患(膀胱神経症)に付随することも少なくない(非特許文献6)。
【0006】
また、清心蓮子飲の作用メカニズムについては、尿道平滑筋の収縮を抑制することで頻尿を改善すること(非特許文献7)、及び膀胱神経症に対して100%の極めて高い改善度が認められたこと(非特許文献8)が確認されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本老年医学会雑誌 51:385-400, 2014
【文献】日本東洋医学雑誌 47:532-538, 1997
【文献】薬理作用から見えてきたフレイルに対する漢方治療の可能性 phi漢方 No. 63
【文献】日本東洋医学雑誌 64(1), 10-15, 2013
【文献】日本腎臓学会誌 41(8): 769-777, 1999
【文献】「臨床検査のガイドライン2005/2006」、日本臨床検査医学会、第1章 症候編、腎、13.多尿・頻尿
【文献】アグリバイオ、48(48) vol.2(1), 2018
【文献】泌尿器外科 1998 11(10), 1307-1311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでに腎臓機能の改善効果を示す漢方薬は複数存在するが、漢方薬が個々に有する副作用等や、漢方薬が体質に応じて処方されることに鑑みると、さらなる選択肢があることが望まれる。なお、清心蓮子飲に関しては、尿道平滑筋の収縮抑制や膀胱神経症へアプローチする作用メカニズムを利用することで頻尿を改善するものであるため、本質的に腎機能低下と関連しない症状に対して用いられてきた。このため、清心蓮子飲が腎臓機能を改善できる効果は当然に見込めなかった。
【0009】
本発明は、腎臓機能を改善できる新たな漢方薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、意外にも、清心蓮子飲に、腎臓機能を改善できる作用があることを見出した。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 清心蓮子飲エキスを含有する、腎臓機能改善剤。
項2. クレアチニンの低減のために用いられる、項1に記載の腎臓機能改善剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、腎臓機能を改善できる漢方薬が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腎臓機能改善剤は、清心蓮子飲エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の腎臓機能改善剤について詳述する。
【0014】
有効成分
本発明の腎臓機能改善剤は、清心蓮子飲エキスを含有する。清心蓮子飲は、中国明時代の医書「万病回春」に記載されており、レンニク、バクモンドウ、ブクリョウ、ニンジン、シャゼンシ、オウゴン、オウギ、ジコッピ、カンゾウを含む混合生薬である。
【0015】
本発明において、清心蓮子飲を構成する生薬の混合比については特に制限されないが、通常、レンニク2~5重量部、好ましくは3~4重量部;バクモンドウ1.5~4重量部、好ましくは2~3重量部;ブクリョウ2~4重量部、好ましくは2.5~3.5重量部;ニンジン1.5~5重量部、好ましくは2~4重量部;シャゼンシ1.5~3重量部、好ましくは2~2.5重量部;オウゴン1.5~3重量部、好ましくは2~2.5重量部;オウギ1~4重量部、好ましくは2~2.5重量部;ジコッピ1~3重量部、好ましくは2~2.5重量部;カンゾウ0.7~2重量部、好ましくは0.7~1重量部が挙げられる。
【0016】
本発明で使用される清心蓮子飲エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、レンニク3.5重量部、バクモンドウ2.1重量部、ブクリョウ2.8重量部、ニンジン3.5重量部、シャゼンシ2.1重量部、オウゴン2.1重量部、オウギ2.8重量部、ジコッピ2.1重量部、カンゾウ0.7重量部が挙げられる。
【0017】
清心蓮子飲のエキスの形態としては、流エキス、軟エキス等の液状のエキス、又は固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0018】
清心蓮子飲の液状のエキスは、清心蓮子飲に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、清心蓮子飲の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、スプレードライ法や、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0019】
本発明において、清心蓮子飲エキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。例えば、清心蓮子飲の乾燥エキス末としては、清心蓮子飲乾燥エキス-Q(日本粉末薬品株式会社製)、清心蓮子飲乾燥エキス-F(アルプス薬品株式会社製)等が商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0020】
本発明の腎臓機能改善剤において、清心蓮子飲エキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、清心蓮子飲エキスの乾燥エキス末量換算で、通常10~100重量%、好ましくは20~90重量%、より好ましくは40~80重量%、更に好ましくは60~70重量%が挙げられる。なお、本発明において、清心蓮子飲の乾燥エキス末量換算とは、清心蓮子飲の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり清心蓮子飲の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、清心蓮子飲の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0021】
その他の成分
本発明の腎臓機能改善剤は、清心蓮子飲エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、腎臓機能改善剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0022】
また、本発明の腎臓機能改善剤は、清心蓮子飲エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0023】
製剤形態
本発明の腎臓機能改善剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、チュアブル剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、丸剤等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられ、好ましくは顆粒剤又は錠剤が挙げられる。
【0024】
製造方法
本発明の腎臓機能改善剤の製造方法は、上記生薬成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0025】
用途
本発明の腎臓機能改善剤は、腎臓の機能を改善する目的で使用される。つまり、本発明の腎臓機能改善促進剤は、いわゆる腎虚の症状に対して特に制限なく用いることができる。
【0026】
クレアチニンは、筋肉が運動するエネルギー源であるクレアチンリン酸の代謝により生じる老廃物であり、腎臓で濾過されて尿として排出されることから、血中のクレアチニンの濃度上昇は腎臓機能の低下を意味している。本発明の腎臓機能改善剤によれば、腎臓機能を改善することで、血中のクレアチニンの濃度を低減することができる。従って、本発明の腎臓機能改善剤の好適な例として、血中クレアチニンの低減の目的で使用することができる。
【0027】
用量・用法
本発明の腎臓機能改善剤は、経口投与によって使用される。本発明の腎臓機能改善剤の用量については、投与対象者の年齢、体質、症状の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒトに対して1日当たり、清心蓮子飲エキスの乾燥エキス末量換算で1500~5000mg程度、好ましくは2000~3000mg程度、より好ましくは2200~2500mg程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0028】
また、本発明の腎臓機能改善剤による腎臓機能の改善効果は、継続的な服用によって奏されるので、本発明の腎臓機能改善剤は、継続的な服用(具体的には1週間以上、好ましくは2週間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(1)腎臓機能改善剤の調製
原料生薬として、レンニク3.5重量部、バクモンドウ2.1重量部、ブクリョウ2.8重量部、ニンジン3.5重量部、シャゼンシ2.1重量部、オウゴン2.1重量部、オウギ2.8重量部、ジコッピ2.1重量部、カンゾウ0.7重量部を用い、これらを刻んだ後、水10倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、清心蓮子飲エキス末を得た。得られた清心蓮子飲エキス末は、原料生薬混合物21.7g当たり2238mgであった。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。
【0031】
(2)実験方法
実験動物として高齢マウス(C57BL/6Jマウス、80週齢、雄)を使用した。この高齢マウスをコントロール群と清心蓮子エキス飲投与群と(それぞれN=10)に分けた。コントロール群に対しては通常食(CE-2餌)を自由摂食させて3週間飼育し、清心蓮子飲エキス投与群には、当該通常食に4重量%の清心蓮子飲エキスを混ぜた餌を自由摂食させて3週間飼育した。それぞれの群に関して、試験後に血液を採取し、血中のクレアチニン量の測定を行った。コントロール群の血中クレアチニン量を100%とした場合の清心蓮子飲投与群の血中クレアチニン量の相対量(%)を導出した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示す通り、清心蓮子飲エキスの投与によって、血中クレアチニン量が低減され、これによって、腎機能が改善したことが認められた。