(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】マーカ及びマーカ識別装置、並びに、それらのプログラム
(51)【国際特許分類】
G06K 19/07 20060101AFI20241212BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G06K19/07 280
G06K19/077 108
(21)【出願番号】P 2021001798
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三須 俊枝
(72)【発明者】
【氏名】三ツ峰 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】洗井 淳
【審査官】田名網 忠雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-050720(JP,A)
【文献】特開2006-085594(JP,A)
【文献】国際公開第2004/094943(WO,A1)
【文献】特開2011-134058(JP,A)
【文献】特開平09-068409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/07
G06K 19/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の切替タイミングで発光素子を点灯又は消灯させることで、固有の識別子に対応した発光パターンで発光するマーカであって、
異なるスペクトル特性で発光する
第一発光素子、第二発光素子及び第三発光素子の3つの前記発光素子で構成された発光部と、
隣接する2つの切替タイミングにわたって、全ての前記発光素子が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子が点灯状態を継続しない前記発光パターンを前記識別子毎に格納した発光パターンテーブルが予め設定される発光パターンテーブル記憶部と、
前記発光パターンテーブルを参照し、外部から入力された前記識別子に対応した前記発光パターンを決定する発光パターン決定部と、
前記発光パターン決定部が決定した発光パターンに基づいて、前記切替タイミングで前記各発光素子の点灯又は消灯を制御する制御部と、
を備え
、
前記発光部は、前記第一発光素子、前記第二発光素子及び前記第三発光素子の点灯状態又は消灯状態を組み合わせることで第一発光色又は第二発光色で発光可能であり、
前記発光パターンテーブル記憶部は、前記第一発光色又は前記第二発光色で前記発光部が発光する前記発光パターンテーブルが予め設定され、
前記第一発光素子、前記第二発光素子及び前記第三発光素子が全て消灯状態のとき発光色Kとなり、
前記第一発光素子が点灯状態、かつ、前記第二発光素子及び前記第三発光素子が消灯状態のとき発光色Rとなり、
前記第二発光素子が点灯状態、かつ、前記第一発光素子及び前記第三発光素子が消灯状態のとき発光色Gとなり、
前記第一発光素子及び前記第二発光素子が点灯状態、かつ、前記第三発光素子が消灯状態のとき発光色Yとなり、
前記第一発光素子及び前記第二発光素子が消灯状態、かつ、前記第三発光素子が点灯状態のとき発光色Bとなり、
前記第一発光素子及び前記第三発光素子が点灯状態、かつ、前記第二発光素子が消灯状態のとき発光色Mとなり、
前記第二発光素子及び前記第三発光素子が点灯状態、かつ、前記第一発光素子が消灯状態のとき発光色Cとなり、
前記第一発光素子、前記第二発光素子及び前記第三発光素子が全て点灯状態のとき発光色Wとなり、
前記発光パターンテーブルは、
前記識別子+1に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色R、
前記識別子+2に対して、前記第一発光色が前記発光色R、かつ、前記第二発光色が前記発光色G、
前記識別子+3に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色G、
前記識別子+4に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色Y、
前記識別子+5に対して、前記第一発光色が前記発光色Y、かつ、前記第二発光色が前記発光色B、
前記識別子+6に対して、前記第一発光色が前記発光色G、かつ、前記第二発光色が前記発光色B、
前記識別子+7に対して、前記第一発光色が前記発光色G、かつ、前記第二発光色が前記発光色M、
前記識別子+8に対して、前記第一発光色が前記発光色R、かつ、前記第二発光色が前記発光色B、
前記識別子+9に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色B、
前記識別子+10に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色M、
前記識別子+11に対して、前記第一発光色が前記発光色R、かつ、前記第二発光色が前記発光色C、
前記識別子+12に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色C、
前記識別子+13に対して、前記第一発光色が前記発光色K、かつ、前記第二発光色が前記発光色Wと予め設定されていることを特徴とするマーカ。
【請求項2】
前記制御部は、前記切替タイミングを示す同期信号が入力され、前記発光パターン決定部が決定した発光パターンに基づいて、前記同期信号に同期するように前記各発光素子の点灯又は消灯を制御することを特徴とする請求項1に記載のマーカ。
【請求項3】
前記同期信号は、映像信号における奇数番目又は偶数番目の
フィールド又はフレームであることを示す映像同期信号であり、
前記制御部は、前記映像同期信号が入力され、前記発光パターン決定部が決定した発光パターンに基づいて、前記映像同期信号に同期するように前記各発光素子の点灯又は消灯を制御することを特徴とする請求項2に記載のマーカ。
【請求項4】
前記切替タイミングを示すクロック信号を発生させるクロック発生部、をさらに備え、
前記制御部は、前記発光パターン決定部が決定した発光パターンに基づいて、前記クロック信号に同期するように前記各発光素子の点灯又は消灯を制御することを特徴とする請求項1に記載のマーカ。
【請求項5】
マーカの発光パターンを検出し、前記発光パターンに対応した固有の識別子を判定するマーカ識別装置であって、
前記マーカからの光を異なるスペクトル特性で受光する複数の受光素子で構成された受光部と、
隣接する2つの演算タイミングの間で、各受光素子の検出結果の差分値を演算する差分演算部と、
前記差分演算部が演算した差分値を正負の閾値により閾値処理し、前記閾値処理の結果を、点灯状態から消灯状態への変化と、前記消灯状態から前記点灯状態への変化と、前記消灯状態又は前記点灯状態の継続とを示す三値に分類する三値化部と、
前記三値化部が分類した三値を三進数の各桁に対応付けることで前記識別子を判定する識別子判定部と、
を備えることを特徴とするマーカ識別装置。
【請求項6】
前記差分演算部は、前記演算タイミングを示す同期信号が入力され、前記同期信号が示す2つの前記演算タイミングの間で、前記各受光素子が受光した受光レベルの差分値を演算することを特徴とする請求項
5に記載のマーカ識別装置。
【請求項7】
前記同期信号は、映像信号において奇数番目又は偶数番目の
フィールド又はフレームであることを示す映像同期信号であり、
前記差分演算部は、前記映像同期信号が入力され、前記映像同期信号が示す2つの前記演算タイミングの間で、前記各受光素子が受光した受光レベルの差分値を演算することを特徴とする請求項
6に記載のマーカ識別装置。
【請求項8】
前記演算タイミングを示すクロック信号を発生させるクロック発生部、をさらに備え、
前記差分演算部は、前記クロック信号が示す2つの前記演算タイミングの間で、前記各受光素子が受光した受光レベルの差分値を演算することを特徴とする請求項
5に記載のマーカ識別装置。
【請求項9】
前記受光部は、三原色を受光するカラー受光素子であることを特徴とする請求項
5から請求項
8の何れか一項に記載のマーカ識別装置。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から請求項
4の何れか一項に記載のマーカとして機能させるためのプログラム。
【請求項11】
コンピュータを、請求項
5から請求項
9の何れか一項に記載のマーカ識別装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーカ及びマーカ識別装置、並びに、それらのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
強校正とは、三次元的な形状および大きさが既知の物体や、三次元的な位置関係が既知の複数のマーカを用いて、カメラの位置、姿勢、画角などのカメラパラメータを推定する手法のことである。
【0003】
例えば、同一平面内に存在する位置関係が既知の4個以上の点を用いて、カメラパラメータを推定することが可能であり、透視4点問題(P4P問題:Perspective 4-Point Problem)と呼ばれている。このP4P問題の解法を用いる強校正では、カメラが撮影した画像上において、各点がどの像に対応するかを設定する必要がある。
【0004】
この強校正において、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などの点状の光源である発光マーカや、形状及び大きさが既知の矩形状パターンを印刷した平面状の非発光マーカを区別する手法が知られている(以後、従来第1手法)。この従来第1手法では、発光ダイオードや矩形状パターンと共に、印刷した識別用パターンを併用することがある。
【0005】
三次元位置が既知の付近にあるパターンを用いて、カメラ校正を行う従来手法が知られている(非特許文献1)。この非特許文献1に記載の手法では、制御点近傍に存在する視覚的な特徴点を抽出し、これらの配置と見た目を手掛かりにして制御点の画像座標を推定する。
【0006】
小惑星探査機等の宇宙機の着陸時、再帰性反射素材によるマーカ(ターゲットマーカ)を着陸目標点近傍に投下し、該マーカを目印として誘導を行うことがある。このとき、マーカ近傍に向けて点滅光を照射し、光の照射時と非照射時の両時点で宇宙機搭載のカメラによる撮影を行い、両時点の画像の差分を演算することで、マーカを際立たせて抽出する手法が知られている(非特許文献2)。
【0007】
夜間における船舶の航法で用いる灯台は、緯度及び経度が既知の場所に設置されており、強校正のマーカに近い性質を有する。この灯台は、灯質と呼ばれる灯台固有の光り方が決められており、発光色、発光周期、時間パターン(不動光、明暗稿、閃光、急閃光、等明暗光、群閃光、モールス符号光など)、時間・色の組み合わせパターン(互光、互閃光など)によって、何れの灯台であるかを識別することが可能である(以後、従来第2手法)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】三須俊枝、藤井真人、柴田正啓、“校正制御点近傍のSIFT特徴を用いるカメラパラメータ推定法”、第8回情報科学技術フォーラム(FIT 2009)講演論文集、no.3、H-049、pp.207-212(2009年)
【文献】照井冬人、津田雄一、尾川順子、三枡裕也、“小惑星探査機「はやぶさ2」の航法誘導制御における自動・自律機能”、人工知能、vol.29,no.4、pp.327-334(2014 年7 月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した従来第1手法では、非発光マーカに光が当たらない場合、その非発光マーカを強校正に用いることが困難になる。また、従来第1手法では、印刷した識別用パターンの一部が他の被写体に隠蔽される場合や、識別用パターンの一部に影が落ちる場合、均一な照明が得られず誤認識することがある。
【0010】
非特許文献1に記載の技術では、パターンに類似した模様の物体が校正対象のカメラの視野内に存在する場合、誤認別により校正精度や頑健性が低下することがある。パターンを複雑化すれば、周囲に類似したパターンが存在する可能性を減らせるが、パターンの識別精度が低下して校正の頑健性が低下するおそれがある。
【0011】
非特許文献2に記載の技術では、複数のターゲットマーカを識別することが考慮されていない。
従来第2手法では、灯台付近に明るい発光物体や点滅物体がある場合や、観視者の周囲の環境光の強度や色が顕著である場合、灯質の明暗や色を誤認識する可能性がある。
以上のように、被写体の色・模様及び外光の影響を抑制し、複数の識別子を頑健に判定できる従来技術は提案されていない。
【0012】
そこで、本発明は、被写体の色・模様及び外光の影響を抑制し、複数の識別子を頑健に判定できるマーカ及びマーカ識別装置、並びに、それらのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明に係るマーカは、所定の切替タイミングで発光素子を点灯又は消灯させることで、固有の識別子に対応した発光パターンで発光するマーカであって、異なるスペクトル特性で発光する第一発光素子、第二発光素子及び第三発光素子の3つの発光素子で構成された発光部と、発光パターンテーブル記憶部と、発光パターン決定部と、制御部と、を備える構成とした。
【0014】
かかる構成によれば、発光パターンテーブル記憶部は、隣接する2つの切替タイミングにわたって、全ての発光素子が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子が点灯状態を継続しない発光パターンを識別子毎に格納した発光パターンテーブルが予め設定される。
また、発光パターン決定部は、発光パターンテーブルを参照し、外部から入力された識別子に対応した発光パターンを決定する。
そして、制御部は、発光パターン決定部が決定した発光パターンに基づいて、切替タイミングで各発光素子の点灯又は消灯を制御する。
発光部は、第一発光素子、第二発光素子及び第三発光素子の点灯状態又は消灯状態を組み合わせることで第一発光色又は第二発光色で発光可能である。
発光パターンテーブル記憶部は、第一発光色又は第二発光色で発光部が発光する発光パターンテーブルが予め設定される。
【0015】
このように、マーカは、隣接する2つの切替タイミングにわたり、固有の識別子に対応した発光パターンで発光するので、マーカ識別装置で頑健な識別子判定が可能となる。このとき、マーカは、全ての発光素子が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子が点灯状態を継続しないので、マーカ識別装置で発光パターンを検出する際に外光の影響を抑制できる。
【0016】
また、前記課題を解決するため、本発明に係るマーカ識別装置は、マーカの発光パターンを検出し、発光パターンに対応した固有の識別子を判定するマーカ識別装置であって、マーカからの光を異なるスペクトル特性で受光する複数の受光素子で構成された受光部と、差分演算部と、閾値処理部と、識別子判定部と、を備える構成とした。
【0017】
かかる構成によれば、差分演算部は、隣接する2つの演算タイミングの間で、各受光素子の検出結果の差分値を演算する。
また、閾値処理部は、差分演算部が演算した差分値を正負の閾値により閾値処理し、閾値処理の結果を、点灯状態から消灯状態への変化と、消灯状態から点灯状態への変化と、消灯状態又は点灯状態の継続とを示す三値に分類する。
そして、識別子判定部は、三値化部が分類した三値を三進数の各桁に対応付けることで識別子を判定する。
【0018】
このように、マーカ識別装置は、隣接する2つの演算タイミングの間で受光レベルの差分を演算するので、複数の識別子を頑健に判定できる。このとき、全ての発光素子が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子が点灯状態を継続しないので、マーカ識別装置は、発光パターンを検出する際に外光の影響を抑制できる。
【0019】
なお、本発明は、コンピュータを、前記したマーカとして機能させるためのプログラムで実現することもできる。
また、本発明は、コンピュータを、前記したマーカ識別装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被写体の色・模様及び外光の影響を抑制し、複数の識別子を頑健に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】各実施形態に係るマーカ識別システムの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るマーカの構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態において、発光部の発光色を説明する説明図である。
【
図4】第1実施形態において、発光パターンテーブルを説明する説明図である。
【
図5】第1実施形態において、同期信号の一例を説明する説明図である。
【
図6】第1実施形態において、同期信号の一例を説明する説明図である。
【
図7】第1実施形態において、同期信号の一例を説明する説明図である。
【
図8】第1実施形態において、制御部の動作を示すフローチャートである。
【
図9】第2実施形態に係るマーカ識別装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】第2実施形態に係るマーカ識別装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】第3実施形態に係るマーカの構成を示すブロック図である。
【
図12】第3実施形態において、発光パターンテーブルを説明する説明図である。
【
図13】第4実施形態に係るマーカ識別装置の構成を示すブロック図である。
【
図14】変形例に係るマーカ識別システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に説明する各実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。また、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0023】
[マーカ識別システムの概要]
図1を参照し、各実施形態に係るマーカ識別システム100の概要について説明する。
例えば、マーカ識別システム100は、撮影スタジオに設置されており、被写体である計測対象αに取り付けられた各マーカ1の三次元位置を計測すると共に、各マーカ1に固有の識別子を判定するものである。そして、マーカ識別システム100は、各マーカ1の三次元位置及び識別子に基づいて、所望の画像処理(例えば、カメラキャリブレーションや三次元モデルの生成)を行う。
図1に示すように、マーカ識別システム100は、マーカ1と、マーカ識別装置2と、画像処理装置3と、撮影カメラCとを備える。
【0024】
マーカ1は、所定の切替タイミングで発光素子を点灯又は消灯させることで、固有の識別子に対応した発光パターンで発光するものである。この発光パターンとは、マーカ1が発光する色の時間変化(パターン)のことである。つまり、マーカ1は、固有の識別子が予め割り当てられており、その識別子を示す発光パターンで発光する。本実施形態では、3個のマーカが、計測対象αである人物の頭部及び両膝に取り付けられており、異なる発光パターンで発光するものとする。なお、各マーカ1は、同一構成であり、その詳細を後記する。
【0025】
マーカ識別装置2は、各マーカ1の発光パターンを検出し、発光パターンに対応した固有の識別子を判定するものである。本実施形態では、マーカ識別装置2は、撮影カメラCに内蔵されているものとする。ここでは、撮影カメラCは、計測対象αの撮影画像と、撮影画像内での各マーカ1の座標及び識別子とを対応付けて、画像処理装置3に出力する。なお、マーカ識別装置2の詳細は、後記する。
【0026】
画像処理装置3は、撮影カメラCから入力された計測対象αの撮影画像と、撮影画像内での各マーカ1の座標及び識別子とを用いて、任意の画像処理を行うものである。例えば、画像処理装置3は、画像処理として、撮影カメラCのキャリブレーション処理、又は、計測対象αの三次元モデル生成処理を行う。
撮影カメラCは、前記したマーカ識別装置2を内蔵している以外、一般的な放送番組撮影用カメラと同様である。
【0027】
なお、マーカ識別システム100は、その構成や用途が
図1の例に限定されないことは言うまでもない。
また、第1実施形態に係るマーカ1を用いた場合、第2実施形態に係るマーカ識別装置2を用いるものとする。一方、第3実施形態に係るマーカ1Aを用いた場合、第4実施形態に係るマーカ識別装置2Aを用いるものとする。
【0028】
(第1実施形態)
[マーカの構成]
図2を参照し、第1実施形態に係るマーカ1の構成について説明する。
図2に示すように、マーカ1は、発光パターンテーブル記憶部10と、発光パターン決定部12と、制御部13と、発光部14とを備える。
【0029】
発光パターンテーブル記憶部10は、発光パターンテーブル11(
図4)を記憶するメモリなどの記憶装置である。この発光パターンテーブル11は、隣接する2つの切替タイミング(同期信号)にわたって、全ての発光素子15が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子15が点灯する状態を継続しない発光パターンを識別子毎に格納する。例えば、発光パターンテーブル11は、マーカ識別システム100の管理者が予め設定するものであり、その詳細を後記する。
【0030】
発光パターン決定部12は、発光パターンテーブル記憶部10が記憶する発光パターンテーブル11を参照し、外部から入力された識別子に対応した発光パターンを決定するものである。そして、発光パターン決定部12は、決定した発光パターンを制御部13に出力する。
【0031】
制御部13は、発光パターン決定部12が決定した発光パターンに基づいて、各発光素子15の点灯又は消灯を制御するものである。すなわち、制御部13は、発光部14の発光色を時間的に切り替える。ここで、時間的な切り替えは、予め設定された周期で繰り返すものであってもよいし、任意のタイミングで自動又は手動で切り替えるものであってもよい。本実施形態では、この時間的な切り替えが、各発光素子15の点灯又は消灯の切替タイミングを示す同期信号に基づいて行われるものとする。
【0032】
発光部14は、異なるスペクトル特性で発光する複数の発光素子15で構成されたものである。すなわち、発光部14は、可視光線又はその他の電磁波を発する(以下、「点灯」する)こと、及び、電磁波を停止する(以下、「消灯」する)ことが可能である。本実施形態では、発光部14は、第一発光素子151、第二発光素子152及び第三発光素子153という3つの発光素子15で構成されている。
【0033】
発光素子15は、固有かつ異なるスペクトル(以下、「原色」と呼ぶ)で発光するものであり、点灯状態及び消灯状態の2状態をとるものとする。例えば、発光素子15としては、フルカラーの発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)があげられる。具体的には、第一発光素子15
1、第二発光素子15
2及び第三発光素子15
3は、それぞれ、フルカラーLEDに内蔵されている赤色LED、緑色LED及び青色LEDとなる。この場合、発光素子15は、黒色(K)、赤色(R)、緑色(G)、黄色(Y)、青色(B)、赤紫色(M)、青緑色(C)、白色(W)の8色で発光可能である(
図3参照)。
【0034】
<マーカの発光>
マーカ1の発光について具体的に説明する。
以下、発光部14の発光状態を、発光色(消灯状態も含む)と呼ぶものとする。発光部14の発光色は、前記した各原色の消灯及び点灯を区別する2値を各成分に持つベクトルV(1),V(2)で表すことができる。すなわち、発光部14は、3つの発光素子15の点灯状態又は消灯状態を組み合わせることで、第一発光色V(1)又は第二発光色V(2)で発光可能である。また、発光部14における発光状態の切り替えは、第一発光色V(1)と第二発光色V(2)とを交互に繰り返すものとする。
【0035】
第一発光色V(1)は、以下の式(1)に示すように、第一発光素子151の原色V1
(1)、第二発光素子152の原色V2
(1)、及び、第三発光素子153の原色V3
(1)からなる三原色成分を含むベクトルとして表記する。
【0036】
【0037】
これと同様、第二発光色V(2)は、以下の式(2)に示すように、第一発光素子151の原色V1
(2)、第二発光素子152の原色V2
(2)、及び、第三発光素子153の原色V3
(2)からなる三原色成分を含むベクトルとして表記する。なお、第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)の各成分は、「0」が消灯を表し、「1」が点灯を表すものとする。
【0038】
【0039】
原色V
1が赤色を表し、原色V
2が緑色を表し、原色V
3が青色を表すものとする。
図3に示すように、発光色V=[0,0,0]
Tは、第一発光素子15
1の原色V
1、第2光素子14
2の原色V
2、第三発光素子15
3の原色V
3が全て消灯のため、黒色(K)を表す。また、発光色V=[1,0,0]
Tは、第一発光素子15
1の原色V
1のみが点灯のため、赤色(R)を表す。また、発光色V=[0,1,0]
Tは、第二発光素子15
2の原色V
2のみが点灯のため、緑色(G)を表す。また、発光色V=[1,1,0]
Tは、第一発光素子15
1の原色V
1及び第二発光素子15
2の原色V
2が点灯のため、黄色(Y)を表す。また、発光色V=[0,0,1]
Tは、第三発光素子15
3の原色V
3のみが点灯のため、青色(B)を表す。また、発光色V=[1,0,1]
Tは、第一発光素子15
1の原色V
1及び第三発光素子15
3の原色V
3が点灯のため、赤紫色(M)を表す。また、発光色V=[0,1,1]
Tは、第二発光素子15
2の原色V
2及び第三発光素子15
3の原色V
3が点灯のため、青緑色(C)を表す。また、発光色V=[1,1,1]
Tは、第一発光素子15
1の原色V
1、第2光素子14
2の原色V
2、第三発光素子15
3の原色V
3が全て点灯のため、白色(W)を表す。
【0040】
図4に示すように、発光パターンテーブル記憶部10には、第一発光色V
(1)又は第二発光色V
(2)で発光部14が発光する発光パターンテーブル11が予め設定されている。つまり、発光パターンテーブル11は、外部から入力された識別子に応じて、発光部14の第一発光色V
(1)及び第二発光色V
(2)を決定するためのルックアップテーブルである。この発光パターンテーブル11において、各識別子IDに対応する第一発光色V
(1)及び第二発光色V
(2)は、以下の2つの条件を満たすものとする。
【0041】
(条件1)第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)がともに消灯状態とならないこと(すなわち、V(1)≠0又はV(2)≠0)
(条件2)第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)において、同一の原色がともに点灯状態とならないこと(すなわち、V(1)・V(2)=0)
【0042】
前記した2つの条件を満たすことにより、第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)の差分ベクトルV(2)-V(1)は、必ず0以外のベクトル値をとり、かつ、各識別子に関して固有となる。
【0043】
例えば、発光素子15が、赤色、緑色及び青色を原色とするフルカラーの発光ダイオードの場合を考える。この場合、
図4に示すように、発光パターンテーブル11には、第一発光色V
(1)及び第二発光色V
(2)の順序を区別し、発光パターンを26通り設定できる。ここで、識別子とは、各発光パターンに一意に割り当てた番号のことであり、本実施形態では、「+1~+13」及び「-1~-13」の整数値である(但し、「0」以外)。
【0044】
図4の発光パターンテーブル11において、番号+kの発光パターンと番号-kの発光パターンは、互いに第一発光色V
(1)及び第二発光色V
(2)の順序を入れ替えたものになっている。なお、
図4では説明を簡易にするため、発光パターンテーブル11を2つに分けて図示したが、実際には1つのテーブルである。
【0045】
後記するマーカ識別装置2が同期信号を用いるため、第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)の順序が区別可能である。このため、マーカ1は、同一の整数値で正負の符号が異なる番号の発光パターンテーブル11を用いることが可能となり、26通りの発光パターンを表現できる。
【0046】
ここで、第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)の順序が区別可能な場合とは、撮影カメラCの撮影タイミングと、発光素子15の点滅・変色のタイミングとが同期しており、奇数番目及び偶数番目の撮影画像に対応して第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)が切り替わる場合のことである。例えば、映像信号における奇数番目又は偶数番目の画像(フィールド又はフレーム)を示す識別信号を映像同期信号から抽出し、この識別信号に同期して第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)を切り替えることができる。従って、マーカ1は、映像同期信号の取得が容易な環境に適している。
【0047】
発光パターン決定部12は、外部から識別子が入力されると、発光パターンテーブル11から識別子(番号)に対応した発光パターン(第一発光色V(1)及び第二発光色V(2))を取得する。そして、発光パターン決定部12は、取得した発光パターンを制御部13に出力する。
【0048】
制御部13は、発光パターン決定部12から入力された発光パターン(V(1),V(2))に相当する発光状態を発光部14が交互にとるよう制御する。すなわち、制御部13は、切替タイミングを示す同期信号S(t)が入力され、発光パターン決定部12が決定した発光パターン(V(1),V(2))に基づいて、同期信号S(t)に同期するように各発光素子15の点灯又は消灯を制御する。
【0049】
例えば、制御部13は、同期信号S(t)のレベルが2値(0,1)である場合、以下の式(3)に示すように、発光部14の発光状態L(t)を制御できる(tは時間)。ここでは、制御部13は、同期信号S(t)のレベルが「0」の場合、発光部14を第一発光色V(1)で発光させる一方、同期信号S(t)のレベルが「1」の場合、発光部14を第二発光色V(2)で発光させる。
【0050】
【0051】
同期信号S(t)は、
図5に示すように、一定の時間周期で2値(0,1)のレベルを交互に示す信号であってもよい。例えば、同期信号S(t)は、NTSC(National Television Committee)のブラックバースト信号など映像同期信号から、同期分離回路4が生成したものであってもよい。例えば、同期分離回路4が、NTSCのブラックバースト信号から生成した奇数番目又は偶数番目の画像を示す識別信号を同期信号S(t)として制御部13に出力する。
【0052】
また、同期信号S(t)は、
図6に示すように、任意のタイミングで2値「0,1」のレベルを交互に示す信号であってもよい。
また、同期信号S(t)は、
図7に示すように、撮影カメラCで撮影の都度生じるトリガ信号T(t)をトリガとして、2値「0,1」のレベルを交互に示す信号であってもよい。例えば、トリガ信号T(t)としては、レリーズ信号(電磁レリーズの接点信号)、シンクロ接点信号(フラッシュ等の発光のトリガに用いるX接点やFP接点)、又は、フィルム巻き上げ用のモータドライブ制御信号があげられる。
【0053】
発光部14は、制御部13から入力された発光状態L(t)となるように、各発光素子15を点灯又は消灯させる。ここで、発光部14は、以下の式(4)で表される発光状態L(t)に応じて、第一発光素子151、第二発光素子152及び第三発光素子153を点灯又は消灯させる。
【0054】
【0055】
ここで、第一発光素子151は、式(4)の第一成分L1(t)が「0」のときに消灯し、「1」のときに点灯する。また、第二発光素子152は、式(4)の第二成分L2(t)が「0」のときに消灯し、「1」のときに点灯する。また、第三発光素子153は、式(4)の第三成分L3(t)が「0」のときに消灯し、「1」のときに点灯する。
【0056】
[制御部の動作]
図8を参照し、制御部13の動作を説明する。
なお、制御部13には、発光パターン決定部12から発光パターン(V
(1),V
(2))が入力されているものとする。
【0057】
図8に示すように、ステップS1において、制御部13は、1つ前の切替タイミングの同期信号レベルを、変数S(t-1)に代入する。
ステップS2において、制御部13は、現在の切替タイミングの同期信号レベルを、変数S(t)に代入する。
【0058】
ステップS3において、制御部13は、同期信号S(t)と同期信号S(t-1)とが等しいか否かを判定する。すなわち、制御部13は、切替タイミングが隣接する2つの同期信号レベルが変化したか否かを判定する。
【0059】
2つの同期信号S(t)と同期信号S(t-1)とが等しい場合(ステップS3でYes)、制御部13は、ステップS2の処理に戻る。
2つの同期信号S(t)と同期信号S(t-1)とが異なる場合(ステップS3でNo)、制御部13は、ステップS4の処理に進む。
【0060】
ステップS4において、制御部13は、同期信号S(t)が「0」であるか否かを判定する。すなわち、制御部13は、発光部14を第一発光色V(1)で発光させるか否かを判定する。
【0061】
同期信号S(t)が「0」の場合(ステップS4でYes)、制御部13は、ステップS5の処理に進む。
同期信号S(t)が「0」でない場合(ステップS4でNo)、制御部13は、ステップS6の処理に進む。
【0062】
ステップS5において、制御部13は、発光部14の発光状態L(t)を第一発光色V(1)に設定する。
ステップS6において、制御部13は、発光部14の発光状態L(t)を第二発光色V(2)に設定する。
ステップS7において、制御部13は、ステップS5又はステップS6で設定した発光状態L(t)で発光部14を発光させる。
ステップS8において、制御部13は、同期信号S(t-1)に同期信号S(t)を代入した後、ステップS2の処理に戻る。
【0063】
[作用・効果]
以上のように、マーカ1は、隣接する2つの切替タイミングにわたり、固有の識別子に対応した発光パターンで発光するので、マーカ識別装置2で頑健な識別子判定が可能となる。このとき、マーカ1は、全ての発光素子15が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子15が点灯状態を継続しないので、マーカ識別装置2で発光パターンを検出する際、計測対象αの色・模様及び外光の影響を抑制できる。
【0064】
さらに、マーカ1は、奇数番目及び偶数番目の撮影画像に対応して第一発光色V(1)及び第二発光色V(2))の順序を区別できるので、発光パターンで表現可能な識別子の総数を倍増することができる。このとき、マーカ1は、NTSCのブラックバースト信号のような従来の映像同期信号を利用できるので、利便性を向上させることができる。
【0065】
(第2実施形態)
[マーカ識別装置の構成]
図9を参照し、第2実施形態に係るマーカ識別装置2の構成について説明する。
図9に示すように、マーカ識別装置2は、受光部20と、差分演算部22と、識別部25とを備える。
【0066】
受光部20は、マーカ1(
図2)からの光を異なるスペクトル特性で受光する複数の受光素子21で構成されたものである。すなわち、受光部20は、マーカ1からの光を受光し、複数のスペクトル分布における検出結果(受光レベル)を差分演算部22に出力する。本実施形態では、受光部20は、第一受光素子21
1、第二受光素子21
2及び第三受光素子21
3という3つの受光素子21で構成されている。
【0067】
受光素子21は、撮影カメラCに備えられた、三原色を受光するカラー受光素子である。例えば、受光素子21としては、三板型の撮像センサや単板型の撮像センサがあげられる。また、受光素子21は、色付きフィルタ、干渉フィルタなどの光学的フィルタ、又は、分光用プリズム、ダイクロイックプリズムなどプリズムによって、光の波長に対する感度特性を調整してもよい。
【0068】
第一受光素子211、第二受光素子212及び第三受光素子213の分光感度特性は、第一発光素子151、第二発光素子152及び第三発光素子153の発光を直接的又は間接的に分離できるものとする。なお、間接的に分離とは、線形又は非線形の変換により分離するものである。
【0069】
以下、第一受光素子21
1、第二受光素子21
2及び第三受光素子21
3のそれぞれが、
図2の第一発光素子15
1、第二発光素子15
2及び第三発光素子15
3に対応するものとして説明する。すなわち、第一受光素子21
1が第一発光素子15
1の発光を検出し、第二受光素子21
2が第二発光素子15
2の発光を検出し、第三受光素子21
3が第三発光素子15
3の発光を検出する。
【0070】
差分演算部22は、隣接する2つの演算タイミングの間で、各受光素子21の検出結果の差分値を演算するものである。本実施形態では、差分演算部22は、演算タイミングを示す同期信号が入力され、同期信号が示す2つの演算タイミングの間で、各受光素子21が受光した受光レベルの差分値を演算する。ここで、受光レベルは、多値の輝度値であり、例えば「0~255」の範囲で表される。
【0071】
図9に示すように、差分演算部22は、遅延部23と、減算部24とを備える。本実施形態では、差分演算部22は、第一受光素子21
1、第二受光素子21
2及び第三受光素子21
3に対応するように、3つの遅延部23
1~23
3と、3つの減算部24
1~24
3とを備える。
【0072】
遅延部23
kは、同期分離回路5から入力された同期信号に従って、第k受光素子21
kから入力された受光レベルを1周期分だけ遅延するものである(但し、kは1以上3以下の整数)。例えば、同期分離回路5が、NTSCのブラックバースト信号から生成した識別信号を同期信号として遅延部23
kに出力する。また、同期分離回路5は、
図2の同期分離回路4と共通化してもよい。
【0073】
減算部24kは、以下の式(5)に示すように、第k受光素子21kから入力された受光レベルJk(t)と、遅延部23kが遅延させた受光レベルJk(t-1)との差分値Dk(t)を算出する。
【0074】
【0075】
識別部25は、差分演算部22から入力された差分値Dk(t)に基づいて、検出した発光パターンに固有の識別子を認識するものであり、三値化部26と、識別子判定部27とを備える。本実施形態では、識別部25は、第一受光素子211、第二受光素子212及び第三受光素子213に対応するように、3つの三値化部261~263を備える。
【0076】
三値化部26kは、差分演算部22から入力された受光レベルの差分値Dk(t)を正負の閾値pk,qkにより閾値処理し、閾値処理の結果を三値に分類するものである。本実施形態では、この閾値処理は、以下の式(6)で表されるものとする。すなわち、三値化部26kは、正の閾値pk及び負の閾値qkを用いて、入力された差分値Dk(t)を「0」,「1」,「2」の三値に分類し、三値分類Ek(t)として識別子判定部27に出力する。このとき、受光素子21の検出結果が受光レベルを表す場合、正の閾値pkを「128」、負の閾値qkを「-128」のように予め設定しておく。
【0077】
【0078】
なお、三値分類Ekは、点灯状態から消灯状態への変化と、消灯状態から点灯状態への変化と、消灯状態又は点灯状態の継続とを示す。例えば、式(6)の三値分類Ekでは、「0」が点灯状態から消灯状態への変化を示し、「1」が消灯状態又は点灯状態の継続を示し、「2」が消灯状態から点灯状態への変化を示す。
【0079】
識別子判定部27は、三値化部26kが分類した三値を三進数の各桁に対応付けることで識別子を判定するものである。そして、識別子判定部27は、判定した識別子を外部(例えば、画像処理装置3)に出力する。
【0080】
具体的には、識別子判定部27は、以下の式(7)に示すように、三値化部261~263から入力された三値分類E1(t)~E3(t)を三進数の各桁とみなした整数値F(t)を求める。つまり、この三進数は、1桁目が三値分類E1(t)を表し、2桁目が三値分類E2(t)を表し、3桁目が三値分類E3(t)を表す。これにより、番号F(t)と番号(26-F(t))が示す発光パターンは、互いに奇数番目・偶数番目の発光色を入れ替えたものとなる。
【0081】
【0082】
次に、識別子判定部27は、以下の式(8)に示すように、整数値F(t)を引数とする関数Gに基づいて識別子ID^を推定する。
【0083】
【0084】
本実施形態では、差分演算部22の演算タイミングが発光部14の切替タイミングに同期し、かつ、発光部14の発光状態が奇数番目又は偶数番目であるかを区別可能なため、関数G(F(t))が任意の全射であってもよい。さらに、関数G(F(t))は、以下の式(9)に示すように、全単射としてもよい。
【0085】
【0086】
なお、ID^(t)=0の場合、「識別子なし」を意味するものとする。これにより、識別子判定部27は、発光部14の発光状態が奇数番目又は偶数番目であるかを区別し、
図4の発光パターンテーブル11と対応させて、26個の識別子を判定できる。
【0087】
[マーカ識別装置の動作]
図10を参照し、マーカ識別装置2の動作について説明する。
図10に示すように、ステップS10において、マーカ識別装置2は、変数kを1で初期化する。
ステップS11において、差分演算部22は、同期信号に同期させて、第k受光素子21
kの受光レベルを変数J
k(t)に代入する。
【0088】
ステップS12において、減算部24kは、式(5)に示すように、受光レベルJk(t),Jk(t-1)の差分値Dk(t)を算出する。
ステップS13において、遅延部23kは、受光レベルJk(t)を1周期分だけ遅延させ、受光レベルJk(t-1)とする。
【0089】
ステップS14において、三値化部26kは、差分値Dk(t)が負の閾値qk未満であるか否かを判定する。
差分値Dk(t)が負の閾値qk未満の場合(ステップS14でYes)、マーカ識別装置2は、ステップS16の処理に進む。
差分値Dk(t)が負の閾値qk未満でない場合(ステップS14でNo)、マーカ識別装置2は、ステップS15の処理に進む。
【0090】
ステップS15において、三値化部26kは、差分値Dk(t)が正の閾値pkを超えるか否かを判定する。
差分値Dk(t)が正の閾値pkを超える場合(ステップS15でYes)、マーカ識別装置2は、ステップS17の処理に進む。
差分値Dk(t)が正の閾値pkを超えない場合(ステップS15でNo)、マーカ識別装置2は、ステップS18の処理に進む。
【0091】
ステップS16において、三値化部26kは、三値分類Ek(t)を「0」とする。
ステップS17において、三値化部26kは、三値分類Ek(t)を「2」とする。
ステップS18において、三値化部26kは、三値分類Ek(t)を「1」とする。
【0092】
ステップS19において、マーカ識別装置2は、変数kが「3」であるか否かを判定する。
変数kが「3」の場合(ステップS19でYes)、マーカ識別装置2は、ステップS20の処理に進む。
変数kが「3」でない場合(ステップS19でNo)、マーカ識別装置2は、ステップS23の処理に進む。
【0093】
ステップS20において、識別子判定部27は、式(7)に示すように、三値分類Ek(t)を三進数の各桁とみなした整数値F(t)を求める。
ステップS21において、識別子判定部27は、式(8)に示すように、整数値F(t)を引数とする関数Gに基づいて識別子ID^を推定する。
ステップS22において、識別子判定部27は、推定した識別子ID^を外部に出力した後、ステップS10の処理に戻る。
【0094】
ステップS23において、マーカ識別装置2は、変数kをインクリメントした後、ステップS11の処理に戻る。
【0095】
[作用・効果]
以上のように、マーカ識別装置2は、隣接する2つの演算タイミングの間で受光レベルの差分を演算するので、複数の識別子を頑健に判定できる。このとき、全ての発光素子15が消灯状態を継続せず、かつ、各発光素子15が点灯状態を継続しないので、マーカ識別装置2は、発光パターンを検出する際、計測対象αの色・模様及び外光の影響を抑制できる。
【0096】
さらに、マーカ識別装置2は、奇数番目及び偶数番目の撮影画像に対応して第一発光色V(1)及び第二発光色V(2))の順序を区別できるので、発光パターンで表現可能な識別子の総数を倍増することができる。このとき、マーカ識別装置2は、NTSCのブラックバースト信号のような従来の映像同期信号を利用できるので、利便性を向上させることができる。
【0097】
(第3実施形態)
[マーカの構成]
図11を参照し、第3実施形態に係るマーカ1Aの構成について、第1実施形態と異なる点を説明する。
マーカ1Aは、同期信号の代わりにクロック信号を用いる点が、第1実施形態と異なる。
図11に示すように、マーカ1Aは、発光パターンテーブル記憶部10Aと、発光パターン決定部12と、制御部13Aと、発光部14と、クロック発生部16とを備える。
なお、発光パターン決定部12及び発光部14は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0098】
発光パターンテーブル記憶部10Aは、発光パターンテーブル11A(
図12)を記憶するメモリなどの記憶装置である。後記するマーカ識別装置2Aにおいて、第一発光色V
(1)及び第二発光色V
(2)の順序が区別不可能なため、発光パターンテーブル11Aには、同一の整数値で正負の符号が異なる番号を混在させることができない。このため、発光パターンテーブル11Aには、
図12に示すように、第一発光色V
(1)及び第二発光色V
(2)の順序を区別せず、発光素子15の発光パターンを13通り設定できる。本実施形態では、識別子は、「+1~+13」の整数値である。
【0099】
制御部13Aは、発光パターン決定部12が決定した発光パターン(V(1),V(2))に基づいて、クロック発生部16から入力されたクロック信号S(t)に同期するように各発光素子15の点灯又は消灯を制御するものである。なお、制御部13Aは、各発光素子15の点灯又は消灯の切替タイミングを示す信号としてクロック信号S(t)を用いる以外、第1実施形態と同様のため、これ以上の説明を省略する。
【0100】
クロック発生部16は、任意の切替タイミングを示すクロック信号S(t)を発生させるものである。例えば、クロック発生部16としては、一般的な発振回路があげられる。そして、クロック発生部16は、発生させたクロック信号S(t)を制御部13Aに出力する。
【0101】
ここで、第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)の順序が区別不可能な場合について補足する。これらの順序が区別不可能な場合とは、撮影カメラCの撮影タイミングと、発光素子15の点滅・変色のタイミングとが同期していない場合、又は、両タイミングが同期していても、映像同期信号で奇数番目又は偶数番目の撮影画像が区別できない場合のことである。従って、マーカ1Aは、映像同期信号の取得が困難な環境に適している。
【0102】
[作用・効果]
以上のように、マーカ1Aは、第1実施形態と同様、計測対象αの色・模様及び外光の影響を抑制し、複数の識別子を頑健に判定可能である。さらに、マーカ1Aは、映像同期信号の取得が困難な環境でも利用できるので、汎用性を向上させることができる。
【0103】
(第4実施形態)
図13を参照し、第4実施形態に係るマーカ識別装置2Aの構成について、第2実施形態と異なる点を説明する。
マーカ識別装置2Aは、同期信号の代わりにクロック信号を用いる点が、第2実施形態と異なる。
図13に示すように、マーカ識別装置2Aは、受光部20と、差分演算部22Aと、識別部25Aと、クロック発生部28とを備える。
なお、差分演算部22Aの遅延部23A、識別部25Aの識別子判定部27A、及び、クロック発生部28以外の各手段は、第2実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0104】
遅延部23Akは、クロック発生部28から入力されたクロック信号に従って、第k受光素子21kから入力された受光レベルをクロック信号1つ分遅延するものである。なお、遅延部23Akは、差分値の演算タイミングを示す信号としてクロック信号を用いる以外、第2実施形態と同様のため、これ以上の説明を省略する。
【0105】
識別子判定部27Aは、三値化部26kが分類したスペクトル特性毎の三値を三進数の各桁に対応付けることで識別子を判定するものである。本実施形態では、第一発光色V(1)及び第二発光色V(2)の順序が区別不可能なため、関数G(F(t))が全射であり、かつ、F=13に関して線対称である。例えば、識別子判定部27Aは、以下の式(10)で表される関数G(F(t))を用いる。
【0106】
【0107】
なお、ID^(t)=0の場合、「識別子なし」を意味するものとする。これにより、識別子判定部27Aは、発光部14の発光状態が奇数番目又は偶数番目であるかを区別せず、
図12の発光パターンテーブル11Aと対応させて、13個の識別子を判定できる。
【0108】
クロック発生部28は、任意の演算タイミングを示すクロック信号を発生させるものである。そして、クロック発生部28は、発生させたクロック信号を遅延部23A
kに出力する。このとき、クロック発生部28が発生させるクロック信号の周波数は、
図11のクロック発生部16が発生させるクロック信号の周波数以上とする。すなわち、差分演算部22Aの演算タイミングは、マーカ1Aにおける発光状態の切替タイミングの最小値以下となる。また、クロック発生部28は、
図11のクロック発生部16と共通化してもよい。
【0109】
[作用・効果]
以上のように、マーカ識別装置2Aは、第2実施形態と同様、計測対象αの色・模様及び外光の影響を抑制し、複数の識別子を頑健に判定可能である。さらに、マーカ識別装置2Aは、映像同期信号の取得が困難な環境でも利用できるので、汎用性を向上させることができる。
【0110】
(変形例)
以上、本発明の各実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0111】
前記した各実施形態では、マーカ識別装置が撮影カメラに内蔵されているものとして説明したが、これに限定されない。つまり、マーカ識別装置が独立した装置であってもよい。
前記した各実施形態では、マーカが3個であるものとして説明したが、マーカは4個以上であってもよい。また、マーカは、人物以外の計測対象に取り付けてもよいことは言うまでもない。
【0112】
前記した各実施形態では、受光素子の検出結果が受信レベル(輝度値)であるものとして説明したが、これに限定されない。例えば、受光素子の検出結果は、発光の検出の成否を示す2値としてもよい。具体的には、受光素子の検出結果は、発光を検出できない場合を「0」、発光を検出できた場合を「1」とする。この場合、正の閾値pkを「0.5」、負の閾値qkを「-0.5」のように予め設定すればよい。さらに、三値化部は、式(6)の代わりに以下の式(11)を用いることで、閾値処理を不要にできる。
【0113】
【0114】
前記した各実施形態では、マーカを被写体に取り付けることとして説明したが、これに限定されない。
図14に示すように、マーカ識別システム100Bでは、複数のマーカ1をスタジオの壁90や台座91に取り付けて、各マーカ1の検出結果に基づいて、カメラCの位置、姿勢及び画角を算出してもよい。なお、
図14のマーカ識別システム100Bでは、マーカ識別装置2がカメラCから独立しているが、カメラCに内蔵してもよい。
【0115】
前記した各実施形態では、マーカ及びマーカ識別装置をハードウェアとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、本発明は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記したマーカ及びマーカ識別装置として動作させるプログラムで実現することもできる。これらのプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【符号の説明】
【0116】
1,1A マーカ
2,2A マーカ識別装置
3 画像処理装置
4,5 同期分離回路
10,10A 発光パターンテーブル記憶部
11,11A 発光パターンテーブル
12 発光パターン決定部
13、13A 制御部
14 発光部
15 発光素子
16 クロック発生部
20 受光部
21 受光素子
22,22A 差分演算部
23,23A 遅延部
24 減算部
25,25A 識別部
26 三値化部
27,27A 識別子判定部
28 クロック発生部
100 マーカ識別システム
C 撮影カメラ
α 計測対象