(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】グラフト共重合体、グラフト共重合体の製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08G 64/18 20060101AFI20241212BHJP
C08G 64/34 20060101ALI20241212BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241212BHJP
C09J 169/00 20060101ALI20241212BHJP
C09D 11/102 20140101ALI20241212BHJP
C09D 169/00 20060101ALI20241212BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20241212BHJP
【FI】
C08G64/18
C08G64/34
C08L69/00
C09J169/00
C09D11/102
C09D169/00
C09K23/52
(21)【出願番号】P 2021539257
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030301
(87)【国際公開番号】W WO2021029337
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2019147344
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 聖司
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-243935(JP,A)
【文献】特開2014-001262(JP,A)
【文献】特開昭60-225843(JP,A)
【文献】特表2008-525571(JP,A)
【文献】特開平08-208706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/18
C08G 64/34
C08B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有するグラフト共重合体であって、
前記幹ポリマーがセルロース系樹脂を含み、
前記セルロース系樹脂がアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記枝ポリマーがポリカーボネートを含む、グラフト共重合体。
【請求項2】
前記セルロース系樹脂に対し、ポリカーボネートの割合が10質量%以上、300質量%以下である、請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
前記ポリカーボネートが脂肪族ポリカーボネートである、請求項1又は2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
前記脂肪族ポリカーボネートがポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート及びポリトリメチレンカーボネートからなる群より選ばれる1種以上である、請求項3に記載のグラフト共重合体。
【請求項5】
前記セルロース系樹脂がエチルセルロースである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
【請求項6】
質量平均分子量が5万以上、100万以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
【請求項7】
セルロース系樹脂の存在下、エポキシドと二酸化炭素との共重合を行う工程を備え、
前記セルロース系樹脂がアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロースからなる群より選ばれる1種以上である、グラフト共重合体の製造方法。
【請求項8】
セルロース系樹脂の存在下、環状カーボネートの開環重合を行う工程を備える、グラフト共重合体の製造方法。
【請求項9】
グラフト共重合体を含む、ペースト組成物
であって、
前記グラフト共重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、
前記幹ポリマーがセルロース系樹脂を含み、
前記枝ポリマーがポリカーボネートを含む、ペースト組成物。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、成形体。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、接着剤組成物。
【請求項13】
グラフト共重合体を含む、インク組成物
であって、
前記グラフト共重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、
前記幹ポリマーがセルロース系樹脂を含み、
前記枝ポリマーがポリカーボネートを含む、インク組成物。
【請求項14】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、コーティング組成物。
【請求項15】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、バインダー樹脂。
【請求項16】
グラフト共重合体を含む、分散剤
であって、
前記グラフト共重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、
前記幹ポリマーがセルロース系樹脂を含み、
前記枝ポリマーがポリカーボネートを含む、分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体、グラフト共重合体の製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有するグラフト共重合体は、従来から種々検討されており、幹ポリマーの特長と、枝ポリマーの特長とを活かした新規な機能性樹脂として利用価値が高い材料である。
【0003】
このようなグラフト共重合体として、セルロース誘導体が幹ポリマーであり、ビニル重合体が枝ポリマーである構造を有する材料が知られている。例えば、特許文献1には、セルロース繊維を水に分散させ、その中でビニル系モノマーをラジカル重合させることにより得られるグラフト共重合体が提案されている。また、特許文献2には、セルロース誘導体の存在下で環状エステル化合物を開環重合させることにより得られる、セルロース系樹脂にカプロラクトン等をグラフト化させたグラフト共重合体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-67817号公報
【文献】特開昭59-86621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにセルロース系樹脂を幹ポリマーとするグラフト共重合体においては、グラフト部分の特長に基づく機能の発現が期待される。しかし、その半面、セルロース系樹脂の欠点が改善されないままであったり、あるいは、セルロース系樹脂単独よりも劣る性能もあったりし、必ずしも、従来のグラフト共重合体は、セルロース系樹脂の欠点を解消できているわけではなかった。斯かる問題があったことから、従来のセルロース系樹脂を幹ポリマーとするグラフト共重合体では、適用できる用途に制限があった。この観点から、セルロース系樹脂を幹ポリマーとするグラフト共重合体においては、グラフト部分に起因にする機能が発現しつつ、セルロース系樹脂が有する性能については一定の水準を維持することが重要となる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、グラフト部分(幹ポリマー部分)に起因にする機能が発現しつつ、セルロース系樹脂が有する性能については一定の水準が維持されたグラフト共重合体、グラフト共重合体の製造方法及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、幹ポリマーをセルロース系樹脂、枝ポリマーをポリカーボネートとすることで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有するグラフト共重合体であって、
前記幹ポリマーがセルロース系樹脂を含み、
前記枝ポリマーがポリカーボネートを含む、グラフト共重合体。
項2
前記セルロース系樹脂に対し、ポリカーボネートの割合が10質量%以上、300質量%以下である、項1に記載のグラフト共重合体。
項3
前記ポリカーボネートが脂肪族ポリカーボネートである、項1又は2に記載のグラフト共重合体。
項4
前記脂肪族ポリカーボネートがポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート及びポリトリメチレンカーボネートからなる群より選ばれる1種以上である、項3に記載のグラフト共重合体。
項5
前記セルロース系樹脂がアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上である、項1~4のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
項6
前記セルロース系樹脂がエチルセルロースである、項1~5のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
項7
質量平均分子量が5万以上、100万以下である、項1~6のいずれか1項に記載のグラフト共重合体。
項8
セルロース系樹脂の存在下、エポキシドと二酸化炭素との共重合を行う工程を備える、グラフト共重合体の製造方法。
項9
セルロース系樹脂の存在下、環状カーボネートの開環重合を行う工程を備える、グラフト共重合体の製造方法。
項10
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、ペースト組成物。
項10-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体のペースト組成物への使用。
項11
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、樹脂組成物。
項11-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体の樹脂組成物への使用。
項12
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、成形体。
項12-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体の成形体への使用。
項13
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、接着剤組成物。
項13-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体の接着剤組成物への使用。
項14
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、インク組成物。
項14-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体のインク組成物への使用。
項15
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、コーティング組成物。
項15-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体のコーティング組成物への使用。
項16
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、バインダー樹脂。
項16-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体のバインダー樹脂への使用。
項17
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体を含む、分散剤。
項17-1
項1~7のいずれか1項に記載のグラフト共重合体の分散剤への使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るグラフト共重合体は、グラフト部分に起因にする機能が発現しつつ、セルロース系樹脂が有する性能については一定の水準が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られたグラフト共重合体の重クロロホルム中の
1H-NMRスペクトルを示す
【
図2】実施例1で得られたグラフト共重合体のIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0012】
1.グラフト共重合体
本発明のグラフト共重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、前記幹ポリマーがセルロース系樹脂を含み、前記枝ポリマーがポリカーボネートを含む。斯かるグラフト共重合体によれば、グラフト部分に起因にする機能が発現しつつ、セルロース系樹脂が有する性能については一定の水準が維持される。
【0013】
ここで、グラフト部分に起因にする機能とは、例えば、グラフト共重合体を含む成形体の優れた機械特性、グラフト共重合体の優れた熱分解特性、グラフト共重合体を含むペースト組成物の優れたチキソトロピー性等をいう。また、セルロース系樹脂が有する性能とは、例えば、ペースト組成物にしたときの曵糸性、成形体にしたときの透明性、分散安定剤として使用したきの分散安定性をいう。
【0014】
本発明のグラフト共重合体において、幹ポリマーを構成するセルロース系樹脂の種類は特に限定されず、例えば、公知のセルロース系樹脂を広く適用することができる。セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、n-プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、n-ブチルセルロース、tert-ブチルセルロース、n-ヘキシルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロースエステル;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;その他、ニトロセルロース、アルデヒドセルロース、ジアルデヒドセルロース、スルホン化セルロース等のセルロース誘導体またはセルロースが挙げられる。幹ポリマーを構成するセルロース系樹脂の種類は1種又は2種以上とすることができる。
【0015】
中でも熱分解性がより優れるという観点から、セルロース系樹脂は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、アルキルセルロースであることがより好ましく、エチルセルロースであることが特に好ましい。
【0016】
本発明のグラフト共重合体において、セルロース系樹脂の置換度は特に限定されず、本発明の効果が阻害されない限りは種々の値とすることができる。例えば、セルロース系樹脂の置換度は2以上3以下であり、一般的には3となる。
【0017】
本明細書において、セルロース系樹脂の置換度とは、セルロース系樹脂の構造単位中の全水酸基のうち、枝ポリマーに置換された総数をいう。
【0018】
幹ポリマーはセルロース系樹脂以外の構造単位を含むことができ、あるいは、幹ポリマーはセルロース系樹脂のみで形成することもできる。幹ポリマーはセルロース系樹脂以外の構造単位を含む場合、その含有割合は、幹ポリマーの全構造単位に対して30質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下とすることができる。
【0019】
本発明のグラフト共重合体において、枝ポリマーはポリカーボネートを含む。ポリカーボネートは、通常は、幹ポリマーであるセルロース系樹脂に化学結合により結合して存在する。より具体的に本発明のグラフト共重合体は、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基又は該水酸基の水素原子がポリカーボネートに置換されている。
【0020】
ポリカーボネートの種類は特に限定されず、例えば、公知のポリカーボネートを広く適用することができる。例えば、ポリカーボネートは、脂肪族ポリカーボネートとすることができる。この場合、グラフト共重合体を製造しやすく、また、グラフト共重合体は、熱分解後の残渣がより少なく、より優れた成形性を有することができる。
【0021】
本発明のグラフト共重合体において、ポリカーボネートが脂肪族ポリカーボネートである場合、その種類は特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表される構造単位を有する構造とすることができる。
【0022】
【0023】
ここで、式(1)中、R1、R2、R3及びR4は同一又は異なって、水素原子、置換基で置換されていてもよい炭素数1から10の直鎖又は分岐のアルキル基、もしくは置換基で置換されていてもよい炭素数6から20のアリール基を示す。また、R1、R2、R3及びR4のうち、2つが互いに結合し、置換基で置換されていてもよい環員数3から10の脂肪族環を形成しても良い。
【0024】
式(1)において、炭素数1から10の直鎖又は分岐のアルキル基とは、炭素数1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の、直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。このアルキル基の炭素数は、1から4が好ましく、1又は2が特に好ましい。具体的にはアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0025】
式(1)において、炭素数1から10の直鎖又は分岐のアルキル基が置換基で置換されている場合、置換基の数は1又は2以上とすることができる。この場合の置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、カルボキシ基、アリール基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。ここでのアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。また、アリール基としては、例えばフェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0026】
式(1)において、炭素数6から20のアリール基とは、炭素数6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20のアリール基である。このアリール基の炭素数は、6から14が好ましい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。
【0027】
式(1)において、炭素数6から20のアリール基が置換基で置換されている場合、置換基の数は1又は2以上とすることができる。この場合の置換基としては、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、カルボキシ基、アリール基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。ここでのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。また、アリール基としては、例えばフェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
【0028】
式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、同一とすることができ、あるいは、一部又は全部が異なっていてもよい。例えば、式(1)において、R1、R2、R3及びR4が全て同一でもよく、R1、R2、R3が同一でR4は異なっていてもよく、R1、R3、R4が同一でR2は異なっていてもよく、R1、R2、R3、及びR4が全て異なっていてもよい。
【0029】
式(1)において、R1、R2、R3及びR4のうち、2つが互いに結合し、置換基で置換されていてもよい環員数3から10の脂肪族環を形成することもできる。具体的には、R1、R2、R3、R4のうちの二つが、互いに結合して、これらが結合する炭素原子と共に、置換若しくは非置換の飽和若しくは不飽和の環員数3から10の脂肪族環を形成することもできる。当該脂肪族環は、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0030】
このような脂肪族環としては、例えば、置換基で置換されていてもよい3から8員環の脂肪族環が挙げられる。当該脂肪族環としては、より具体的には、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環等が挙げられる。また、当該脂肪族環が置換基で置換されている場合、置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。ここでのアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。また、アリール基としては、例えばフェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。また、アシルオキシ基としては、例えばアセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。また、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0031】
式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1から4のアルキル基であることが好ましい。特に、R1、R2及びR3は水素原子であり、R4は水素原子又は炭素数1から4のアルキル基であることが好ましい。また、中でも、R4は水素原子、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
【0032】
前記式(1)で表される構造単位を有する脂肪族ポリカーボネートの他、脂肪族ポリカーボネートとしては、ポリトリメチレンカーボネート、ポリテトラメチレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリ-2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート、ポリ1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート等を挙げることができる。
【0033】
枝ポリマーを構成するポリカーボネートの種類は1種又は2種以上とすることができる。
【0034】
本発明のグラフト共重合体において、枝ポリマーである脂肪族ポリカーボネートとしては、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート及びポリトリメチレンカーボネートからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。この場合、グラフト共重合体を製造しやすく、また、グラフト共重合体は、熱分解後の残渣がより少なく、より優れた成形性及び透明性を有することができる。脂肪族ポリカーボネートがポリエチレンカーボネートである場合、式(1)で表される構造単位において、R1、R2、R3及びR4は水素原子である。脂肪族ポリカーボネートがポリプロピレンカーボネートである場合、式(1)で表される構造単位において、R1、R2及びR3は水素原子であり、R4はメチル基である。
【0035】
枝ポリマーを構成するポリカーボネートは、例えば、式(1)以外の他の構造単位を有していても良く、また、末端基が修飾されていてもよい。式(1)以外の他の構造単位としては、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレートなどの構造単位、カルボキシ基やヒドロキシ基、アミノ基などの反応性基を有する構造単位などが挙げられる。末端基の修飾としては、酸無水物、環状酸無水物、酸ハロゲン化物、イソシアネート化合物などによる修飾が挙げられる。ポリカーボネートが式(1)以外の他の構造単位を有する場合、その含有量は、ポリカーボネートの全構造単位に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、3モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが最も好ましい。
【0036】
本発明のグラフト共重合体は、幹ポリマーを構成するセルロース系樹脂と、枝ポリマーを構成するポリカーボネートの含有割合は、本発明の効果が阻害されない限り、特に制限されない。熱分解後の残渣がより少なく、より優れた成形性を有しやすいという観点から、グラフト共重合体は、セルロース系樹脂に対し、ポリカーボネートの割合が10質量%以上、300質量%以下であることが好ましい。中でも、セルロース系樹脂に対し、ポリカーボネートの割合が50質量%以上、200質量%以下であることが好ましい。
【0037】
セルロース系樹脂に対するポリカーボネートの割合は、核磁気共鳴分光分析(NMR分析)により求めることができる。なお、グラフト共重合体において、セルロース系樹脂に対するポリカーボネートの割合は、「グラフト率」ともいう。
【0038】
本発明のグラフト共重合体の質量平均分子量は特に制限されず、例えば、5万以上、100万以下とすることができる。この場合、グラフト共重合体は、より優れた強度、伸び及び破壊靭性等の機械物性を有することができ、また、成形性にも優れる。グラフト共重合体の質量平均分子量は15万以上、60万以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明のグラフト共重合体の形態は特に限定されず、使用用途に応じて種々の形態とすることができ、例えば、粉末、顆粒、塊状、ペレット状、ストランド状、繊維状、液状、分散体、溶液、成形体等、種々の形態とすることができる。
【0040】
本発明のグラフト共重合体は、以上のような形態とすることで、熱分解後の残渣が少なく、成形性や透明性にも優れ、加えて、セルロース系樹脂及びポリカーボネートの両者の特長がバランスよく発揮される。例えば、本発明のグラフト共重合体は、溶液にしたときの曵糸性及びチキソトロピー性に優れるので、印刷性に優れ、例えば、ペースト、インク、コーティング液等の用途に好適に用いることができる。また、本発明のグラフト共重合体の成形体は、透明性が高く、かつ、優れた機械特性(機械強度及び伸び)を示すので、例えば、シート、フィルム等の成形体として好適に使用することができる。また、本発明のグラフト共重合体は、前述のように熱分解性に優れることから、熱分解性のバインダー樹脂として好適に使用することができる。さらに、本発明のグラフト共重合体は、各種分散媒に対する分散性に優れ、分散剤としても好適に使用することができる。
【0041】
本発明のグラフト共重合体は、従来のセルロース系樹脂を幹ポリマーとしたグラフト共重合体の種々の問題が起こりにくい。例えば、熱分解後の残渣が多いという問題、グラフト部分の結晶化によって、幹ポリマーの高い透明性が発現されにくいという問題、あるいは、シート化するのに十分な硬さを維持できないという問題が本発明のグラフト共重合体では起こりにくい。
【0042】
2.グラフト共重合体の製造方法
本発明のグラフト共重合体の製造方法は、セルロース系樹脂の存在下、エポキシドと二酸化炭素との共重合を行う工程を備える。あるいは、本発明のグラフト共重合体の製造方法は、セルロース系樹脂の存在下、環状カーボネートの開環重合を行う工程を備える。以下、前者の工程を備える製造方法を「製造方法1」と表記し、後者の工程を備える製造方法を「製造方法2」と表記する。製造方法1又は製造方法2によって、例えば、前述の本発明のグラフト共重合体が製造される。
【0043】
(製造方法1)
製造方法1では、セルロース系樹脂の存在下、エポキシドと二酸化炭素との共重合を行う。製造方法1で使用するセルロース系樹脂は、グラフト共重合体の幹ポリマーを形成するための原料である。また、製造方法1において、エポキシドと二酸化炭素との共重合で形成される重合体はポリカーボネートである。つまり、製造方法1で使用するエポキシドと二酸化炭素は、グラフト共重合体の枝ポリマーを形成するための原料である。
【0044】
製造方法1で使用するセルロース系樹脂の種類は特に限定されず、例えば、公知のセルロース系樹脂を広く適用することができる。セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、n-プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、n-ブチルセルロース、tert-ブチルセルロース、n-ヘキシルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロースエステル;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;その他、ニトロセルロース、アルデヒドセルロース、ジアルデヒドセルロース、スルホン化セルロース等のセルロース誘導体またはセルロースが挙げられる。製造方法1で使用するセルロース系樹脂は1種又は2種以上とすることができる。
【0045】
中でも熱分解性がより優れるという観点から、セルロース系樹脂は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸酪酸セルロースであることがさらに好ましく、エチルセルロースであることが特に好ましい。
【0046】
製造方法1で使用するセルロース系樹脂の質量平均分子量は、特に限定されない。例えば、製造方法1で使用するセルロース系樹脂の質量平均分子量は、5千以上が好ましく、1万以上がより好ましく、10万以上がさらに好ましい。また、製造方法1で使用するセルロース系樹脂の質量平均分子量は、100万以下が好ましく、75万以下がより好ましく、50万以下がさらに好ましい。セルロース系樹脂の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法で製造することができる。あるいは、本発明で使用するセルロース系樹脂は、市販品等から入手することもできる。
【0047】
製造方法1で使用するエポキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド(オキセタン)、3,3-ジメチルトリメチレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ペンテンオキシド、2-ペンテンオキシド、1-ヘキセンオキシド、1-オクテンオキシド、1-ドデセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキサンオキシド、3-フェニルプロピレンオキシド、3,3,3-トリフルオロプロピレンオキシド、3-ナフチルプロピレンオキシド、2-フェノキシプロピレンオキシド、3-ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3-ビニルオキシプロピレンオキシド及び3-トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。なかでも、高い反応性を有する観点から、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド及び1,2-ブチレンオキシドが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びトリメチレンオキシドであることがより好ましい。エポキシドがエチレンオキシドを含む場合、得られるポリカーボネートはポリエチレンカーボネート、エポキシドがプロピレンオキシドを含む場合、得られるポリカーボネートはポリプロピレンカーボネート、エポキシドがトリメチレンオキシドを含む場合、得られるポリカーボネートはポリトリメチレンカーボネートである。
【0048】
製造方法1において、エポキシドと二酸化炭素とを共重合するための重合反応は、金属触媒の存在下で行うこともできる。金属触媒としては、例えば、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、クロム系触媒、コバルト系触媒等が挙げられる。これらの中でも、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛系触媒又はコバルト系触媒が好ましい。
【0049】
亜鉛系触媒としては、例えば、ジエチル亜鉛-水系触媒、ジエチル亜鉛-ピロガロール系触媒、ビス((2,6-ジフェニル)フェノキシ)亜鉛、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3,5-ジ-tert-ブチルサリチルアルドイミナト亜鉛、2-((2,6-ジイソプロピルフェニル)アミド)-4-((2,6-ジイソプロピルフェニル)イミノ)-2-ペンテン亜鉛アセテート、アジピン酸亜鉛、グルタル酸亜鉛等が挙げられる。
【0050】
コバルト系触媒としては、酢酸コバルト-酢酸系触媒、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトアセテート、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトペンタフルオロベンゾエート、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトクロリド、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトナイトレート、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルト2,4-ジニトロフェノキシド、テトラフェニルポルフィリンコバルトクロリド、テトラフェニルポルフィリンコバルトアセテート、N,N´-ビス[2-(エトキシカルボニル)-3-オキソブチリデン]-1,2-シクロヘキサンジアミナトコバルトクロリド、N,N´-ビス[2-(エトキシカルボニル)-3-オキソブチリデン]-1,2-シクロヘキサンジアミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート等が挙げられる。
【0051】
コバルト触媒を用いる場合は、助触媒を用いることが好ましい。助触媒としては、ピリジン、N,N-4-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムアセテート、トリフェニルホスフィン、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムアセテート等が挙げられる。
【0052】
重合反応に用いられる金属触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、公知のエポキシド及び二酸化炭素の共重合条件と同様とすることができ、重合反応の進行を促進する観点から、エポキシド1モルに対して好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.005モル以上である。また、重合反応に用いられる金属触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、使用量に見合う効果を得る観点から、エポキシド1モルに対して好ましくは0.2モル以下、より好ましくは0.1モル以下である。
【0053】
重合反応には、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、特に限定されないが、種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0054】
反応溶媒の使用量は、反応を円滑に進行させる観点から、エポキシド100質量部に対して、100から10000質量部が好ましい。
【0055】
エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法としては、特に限定されないが、例えば、オートクレーブに、セルロース系樹脂、エポキシド、触媒、及び必要により助触媒、反応溶媒等を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0056】
重合反応において用いられる二酸化炭素の使用量は、エポキシド1モルに対して、好ましくは0.5から10モル、より好ましくは0.6から5モル、さらに好ましくは0.7から3モルである。
【0057】
重合反応において、二酸化炭素の圧力は特に限定されないが、反応を円滑に進行させる観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であり、使用圧力に見合う効果を得る観点から、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下である。
【0058】
重合反応における重合反応温度は、特に限定されないが、反応時間短縮の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であり、副反応を抑制し、収率を向上させる観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0059】
反応時間は、重合反応条件により異なるために一概には決定できないが、通常、1から40時間程度であることが好ましい。
【0060】
製造方法1において、セルロース系樹脂と、エポキシドとの使用割合は特に限定されず、目的とするグラフト率及び、セルロース系樹脂の置換度に応じて、適宜設定することができる。得られるグラフト共重合体の熱分解後の残渣がより少なく、より優れた成形性を有しやすいという観点から、セルロース系樹脂100質量部あたり、エポキシドの使用量が100質量部以上、5000質量部以下であることが好ましく、250質量部以上、2500質量部以下であることがさらに好ましい。
【0061】
上記のように、セルロース系樹脂の存在下、エポキシドと二酸化炭素との共重合を行うことで、エポキシドと二酸化炭素とが重合してポリカーボネートが生成すると共に、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基も、エポキシドと反応する。この結果、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基又は該水酸基の水素原子がポリカーボネートに置換された構造を有するグラフト共重合体が得られる。
【0062】
製造方法1においては、重合反応の後、必要に応じて適宜の方法で得られたグラフト共重合体の精製等をすることができる。
【0063】
(製造方法2)
製造方法2では、セルロース系樹脂の存在下、環状カーボネートの開環重合を行う。製造方法2で使用するセルロース系樹脂は、グラフト共重合体の幹ポリマーを形成するための原料である。また、製造方法2において、環状カーボネートの開環重合で形成される重合体はポリカーボネートである。つまり、製造方法2で使用する環状カーボネートは、グラフト共重合体の枝ポリマーを形成するための原料である。
【0064】
製造方法2で使用するセルロース系樹脂の種類は特に限定されず、製造方法1と同様のセルロース系樹脂を挙げることができる。従って、製造方法2で使用するセルロース系樹脂は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸酪酸セルロースであることがさらに好ましく、エチルセルロースであることが特に好ましい。
【0065】
製造方法2で使用する環状カーボネートの種類は特に限定されず、開環重合によりポリカーボネートを形成することが可能な公知の環状カーボネートを広く適用することができる。具体的に環状カーボネートとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート、テトラメチレンカーボネート等が挙げられる。なかでも、高い反応性を有する観点から、環状カーボネートは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネートが好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートであることがより好ましい。エポキシドがエチレンカーボネートを含む場合、得られるポリカーボネートはポリエチレンカーボネート、エポキシドがプロピレンカーボネートを含む場合、得られるポリカーボネートはポリプロピレンカーボネート、エポキシドがトリメチレンカーボネートを含む場合、得られるポリカーボネートはポリトリメチレンカーボネートである。
【0066】
製造方法2において、環状カーボネートを開環重合する方法は特に限定されず、公知の開環重合の条件を広く採用することができる。例えば、環状カーボネートの開環重合は触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、ナトリウム、カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、n-ブチルリチウム、チタンテトライソプロポキシド、四塩化チタン、ジルコニウムテトライソプロポキシド、四塩化スズ、スズ酸ナトリウム、オクタン酸スズ、ジブチルスズジラウレート等の金属系触媒;ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)等の塩基触媒;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジフェニルリン酸、フェノール等の酸触媒;1,3-ビス(2-プロピル)-4,5-ジメチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-i-プロピルイミダゾール-2-イリデン等のN-ヘテロ環状カルベン等を挙げることができる。開環重合で使用する触媒は1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることもできる。
【0067】
環状カーボネートの開館重合は、助触媒を用いることもできる。助触媒としては、N-シクロヘキシル-N´-フェニルチオ尿素、N,N´-ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]チオ尿素、N-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-N´-シクロヘキシルチオ尿素、(-)-スパルテイン等が挙げられる。
【0068】
環状カーボネートの開環重合に用いられる触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、公知の環状カーボネートの開環重合条件と同様とすることがでる。重合反応の進行を促進する観点から、環状カーボネート1モルに対して好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.005モル以上である。また、重合反応に用いられる触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、使用量に見合う効果を得る観点から、環状カーボネート1モルに対して好ましくは0.2モル以下、より好ましくは0.1モル以下である。
【0069】
環状カーボネートの開環重合では、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、特に限定されないが、種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0070】
反応溶媒の使用量は、開環重合を円滑に進行させる観点から、エポキシド100質量部に対して、100から10000質量部が好ましい。
【0071】
開環重合は、例えば、ガラスフラスコに、セルロース系樹脂、環状カーボネート、触媒、及び必要により助触媒、反応溶媒等を仕込み、混合して反応させる方法が挙げられる。
【0072】
開環重合の反応温度は特に限定されないが、反応時間短縮の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であり、セルロース系樹脂の劣化を抑制する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。
【0073】
反応時間は、重合反応条件により異なるために一概には決定できないが、通常、1から40時間程度であることが好ましい。
【0074】
製造方法2において、セルロース系樹脂と、環状カーボネートとの使用割合は特に限定されず、目的とするグラフト率及び、セルロース系樹脂の置換度に応じて、適宜設定することができる。得られるグラフト共重合体の熱分解後の残渣がより少なく、より優れた成形性を有しやすいという観点から、セルロース系樹脂100質量部あたり、環状カーボネートの使用量が100質量部以上、5000質量部以下であることが好ましく、200質量部以上、2000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0075】
上記のように、セルロース系樹脂の存在下、環状カーボネートの開環重合を行うことで、環状カーボネートが開環重合してポリカーボネートが生成すると共に、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基も、環状カーボネートと反応する。この結果、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基又は該水酸基の水素原子がポリカーボネートに置換された構造を有するグラフト共重合体が得られる。
【0076】
製造方法2においては、重合反応の後、必要に応じて適宜の方法で得られたグラフト共重合体の精製等をすることができる。
【0077】
製造方法1及び製造方法2で得られるグラフト共重合体は、例えば、前述の本発明のグラフト共重合体であることから、熱分解後の残渣が少ない。また、しかも、製造方法1及び製造方法2で得られるグラフト共重合体は、成形性や透明性にも優れる。
【0078】
3.グラフト共重合体の用途及び使用方法
本発明のグラフト共重合体又は本発明の製造方法で得られるグラフト共重合体は、種々の用途に適用することができる。例えば、グラフト共重合体は、ペースト組成物、樹脂組成物、接着剤組成物、インク組成物、コーティング組成物の構成成分として使用することができる。また、グラフト共重合体を含む材料によって成形体を形成することもできる。その他、グラフト共重合体は、バインダー樹脂、分散剤等にも使用することができる。
【0079】
グラフト共重合体をペースト組成物として使用する場合、ペースト組成物以外の成分は公知のペースト組成物と同様とすることができる。公知のペースト組成物は、例えば、各種電子材料や電子部品等の用途に広く使用されている導電性ペーストやガラスペースト等を挙げることができる。従って、ペースト組成物は例えば、本発明のグラフト共重合体と、溶剤と、導電性材料とを含有することができ、導電性材料としては、公知の金属、例えば、金、銀、銅、パラジウム、ニッケル等を挙げることができる。また、ペースト組成物は例えば、本発明のグラフト共重合体と、溶剤と、ガラス粉末とを含有することができ、ガラス粉末としては、例えば、CaO-Al2O3-SiO2系、MgO-Al2O3-SiO2系、LiO2-Al2O3-SiO2系等のケイ素酸化物;酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末等を挙げることができる。ペースト組成物におけるグラフト共重合体の含有量は、公知のペーストに含まれる樹脂成分と同様とすることができる。
【0080】
グラフト共重合体を接着剤組成物、インク組成物、コーティング組成物として使用する場合も、樹脂成分がグラフト共重合体であることを除いては、公知の各組成物と同様とすることができる。
【0081】
グラフト共重合体を成形体として使用する場合、その成形方法は特に限定されず、公知の成形方法及び成形条件を広く適用することができる。成形体の形状も特に限定されず、シート、フィルム、板、ブロック等の他、種々の形状とすることができる。特にグラフト共重合体は成形性に優れるものであり、従来のグラフト共重合体では困難であったシート、フィルムの成形を容易に行うことができる。
【0082】
グラフト共重合体を成形する場合、成形に使用する原料はグラフト共重合体のみであってもよいし、グラフト共重合体とその他の樹脂材料を含む原料を使用することもできる。
【0083】
グラフト共重合体をバインダー樹脂として使用する場合、バインダー樹脂はグラフト共重合体のみであってもよいし、バインダー樹脂の性能が阻害されない程度であれば、グラフト共重合体に加えてその他の成分を含むこともできる。前述のようにグラフト共重合体は熱分解後の残渣が少ないことから、熱分解で焼失させることを目的とするバインダー樹脂として好適に使用することができる。
【0084】
グラフト共重合体を分散剤として使用する場合、分散剤はグラフト共重合体のみであってもよいし、分散剤の性能が阻害されない程度であれば、グラフト共重合体とその他の成分を含むこともできる。前述のようにグラフト共重合体は各種分散媒に対する分散性に優れ、分散剤として好適に使用することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0086】
各実施例及び比較例で得られたでグラフト共重合体の質量平均分子量(Mw)は、以下の方法により行った。
〔グラフト共重合体の質量平均分子量(Mw)〕
グラフト共重合体濃度が0.2質量%であるテトラヒドロフラン溶液を調製し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、グラフト共重合体の質量平均分子量(Mw)を測定した。この測定値を、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、グラフト共重合体の質量平均分子量Mwを算出した。測定条件は、以下の通りとした。
・カラム:GPCカラム(昭和電工株式会社の商品名、Shodex OHPac SB-804,SB-805)
・カラム温度:40℃
・溶出液:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
【0087】
(製造例1;コバルト触媒の製造)
50mLフラスコに,(R,R)-N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルト(II)(Aldrich社より購入)150mg(0.25mmol)、ペンタフルオロ安息香酸53mg(0.25mmol)、及び塩化メチレン5mLを仕込み、空気雰囲気下で18時間攪拌した。揮発成分を減圧留去した後、減圧乾燥させ、コバルト錯体を暗緑色固体として得た(収量195mg,収率96%)。
【0088】
(実施例1)
190mL容のオートクレーブに、製造例1で得られたコバルト錯体0.5質量部、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)0.4質量部、エチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)30質量部を仕込み、当該オートクレーブ内を二酸化炭素雰囲気に置換した。次いで、プロピレンオキシド120質量部を仕込み、オートクレーブ内の圧力が1.0MPaとなるまで二酸化炭素を充填し、その後、40℃で10時間攪拌することで反応混合物を得た。反応終了後、オートクレーブを脱圧し、反応混合物をクロロホルムで希釈したのち、塩酸酸性メタノール30質量部を加えて反応を停止させた。この混合物を減圧下で濃縮し、得られた残渣にクロロホルム100質量部を加えて溶解させ、この溶液をメタノール2000質量部中に滴下して固体を析出させた。得られた固体をろ過し、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト共重合体体を得た。得られたグラフト共重合体は、グラフト率200質量%、Mwは38万であった。
【0089】
(実施例2)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、エチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)30質量部、プロピレンカーボネート100質量部、スズ酸ナトリウム1質量部及びジグライム250質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で150℃まで昇温し、同温度で24時間攪拌して反応させた。得られた反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液500質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率53質量%、Mwは29万であった。
【0090】
(実施例3)
スズ酸ナトリウム1質量部の代わりに、オクタン酸スズ0.5質量部及び1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)0.5質量部の組み合わせに変更したこと以外は、実施例2と同様の方法でグラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率90質量%、Mwは30万であった。
【0091】
(実施例4)
スズ酸ナトリウム1質量部の代わりに、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)1質量部に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法でグラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率10質量%、Mwは25万であった。
【0092】
(実施例5)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、エチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)30質量部、エチレンカーボネート100質量部、スズ酸ナトリウム0.2質量部及びジグライム250質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で150℃まで昇温し、同温度で10時間攪拌して反応させた。得られた反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液1000質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率80質量%、Mwは49万であった。
【0093】
(実施例6)
スズ酸ナトリウム1質量部の代わりに、オクタン酸スズ0.1質量部及びTBD0.1質量部の組み合わせに変更したこと以外は、実施例5と同様の方法でグラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率140質量%、Mwは52万であった。
【0094】
(実施例7)
スズ酸ナトリウム1質量部の代わりに、DBU0.2質量部に変更したこと以外は、実施例5と同様の方法でグラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率40質量%、Mwは28万であった。
【0095】
(実施例8)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、エチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)20質量部、トリメチレンカーボネート100質量部、メタンスルホン酸1質量部及びジグライム250質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で60℃まで昇温し、同温度で10時間攪拌して反応させた。得られた反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液500質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率250質量%、Mwは68万であった。
【0096】
(実施例9)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、ヒドロキシプロピルセルロース(Mw=18万)30質量部、プロピレンカーボネート60質量部、ジブチルスズジラウレート1質量部及びジグライム250質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で150℃まで昇温し、同温度で24時間攪拌して反応させた。得られた反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液500質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率70質量%、Mwは27万であった。
【0097】
(実施例10)
ヒドロキシプロピルセルロースの代わりに酢酸酪酸セルロース(Mw=9万)に変更したこと以外は実施例9と同様に操作し、グラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率150質量%、Mwは21万であった。
【0098】
(比較例1)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、エチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)30質量部、ε-カプロラクトン100質量部、キシレン55質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下に置換し、チタン酸ブチル0.24質量部をキシレン30質量部に溶解させた溶液を加え、145℃まで昇温し、同温度で14時間攪拌して反応させた。得られた反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液500質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体はグラフト率280質量%、Mwは66万であった。
【0099】
(参考例1)
エチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)を単独で準備した。
【0100】
図1には、実施例1で得られたグラフト共重合体の重クロロホルム中の
1H-NMRスペクトルを、
図2には、実施例1で得られたグラフト共重合体のIRスペクトルを示す。
【0101】
表1には、各実施例のグラフト共重合体の製造条件と、得られたグラフト共重合体のグラフト率及び質量平均分子量Mwの結果を示している。
【0102】
【0103】
これらの結果から、実施例1で得られたグラフト共重合体は目的とする構造を有していることがわかった。
【0104】
(評価例1;ペースト評価)
実施例1から10で得られたグラフト共重合体、比較例1で得られたグラフト共重合体、または参考例1のエチルセルロースをトルエンに3質量%の濃度に溶解させペースト組成物を作成した。得られたペースト組成物の曵糸性、チキソトロピー性をそれぞれ以下の方法で評価した。
【0105】
<曵糸性の評価>
ペースト組成物を収容した容器内に、ポリテトラフルオロエチレン製の直径2.9mmである円柱棒を沈め、その後、その円柱棒を5mm/秒の速度で液面に対して真上方向に引き上げた。このときの、液面最表面からの曵糸性を計測して曵糸性の評価を行った。
【0106】
<チキソトロピー性>
B型粘度計(英弘精機株式会社性LVDV-I+)を用いて、温度25℃、回転数5rpm及び50rpmでのペースト組成物の粘度をそれぞれ測定した。そして、回転数50rpmの時の粘度に対する回転数5rpmの粘度の比をチキソトロピーインデックス(TI値)として算出してチキソトロピー性の指標とした。
【0107】
表2に示す曵糸性及びチキソトロピー性の結果から、各実施例で得られたグラフト共重合体は、溶液にした時の印刷性に優れているものと判断することができる。従って、各実施例で得られたグラフト共重合体は、ペースト組成物の他、インク組成物、コーティング組成物等に適しているといえる。一方、比較例1で得られたグラフト共重合体は、溶液にしたときにゲル状の不溶成分が発生し、均一なペースト組成物が得られなかった。従って、表2に示す比較例1の結果は、不溶成分が存在したまま測定した値を参考値として記載した。
【0108】
【0109】
(評価例2;フィルム評価)
各実施例で得られたグラフト共重合体、比較例1で得られたグラフト共重合体、または参考例1のエチルセルロースを厚さ100μmのフィルムに成形し、透明性と機械強度の評価を行った。透明性の評価は、ヘイズメーター(日本電色工業製300A型)を用いてヘイズ値を測定した。機械強度の評価は引張試験機(島津製作所製万能試験機ASG-J)を用いて、25℃、50mm/分の速度で引張試験を行い、破断応力と破断ひずみを測定した。
【0110】
表3に示す破断応力及び破断ひずみの結果から、各実施例で得られたグラフト共重合体のシートは優れた透明性と、機械強度及び伸びを示すことがわかり、シートの他、フィルム等の成形体として好適に使用するできることが示された。一方、比較例1で得られたグラフト共重合体は機械強度および伸びは優れるものの、透明性に劣るものであり、透明性が求められる用途には使用できないことが示された。
【0111】
【0112】
(評価例3;熱分解性評価)
各実施例で得られたグラフト共重合体、比較例1で得られたグラフト共重合体、または参考例1のエチルセルロース(Mw=22万、エトキシ化率48.0%)の熱分解開始温度及び500℃における分解残渣量を測定した。熱分解温度及び分解残渣量はエスアイアイ・ナノテクノロジー社製「TG/DTA7220を用い、空気雰囲気下、10℃/minの昇温速度で室温(20℃)から500℃まで昇温しながら、熱重量の変化を計測した。熱分解開始温度は、JIS K7120:1987の定義に従った。具体的には、得られた分解曲線において、試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線と、分解曲線における屈曲点間の勾配が最大となるように引いた接線との交点における温度を、熱分解開始温度とした。分解残渣量(分解残渣率)は、測定前及び測定終了後のサンプルの質量を元に、測定前のサンプル質量に対する残渣量の割合を算出した。
【0113】
表4に示す結果から、各実施例で得られたグラフト共重合体は、優れた低温分解性を有し、また、低残渣となることがわかった。従って、各実施例で得られたグラフト共重合体は、熱分解性のバインダー樹脂として好適に使用できることが示された。一方、比較例1で得られたグラフト共重合体は分解開始温度が高く、残渣も多いものであり、バインダー樹脂としては実施例で得られたグラフト共重合体の方が優れていた。
【0114】
【0115】
(評価例3;分散性評価)
各実施例で得られたグラフト共重合体、比較例1で得られたグラフト共重合体又は参考例1のエチルセルロース5質量部と、銀粒子(レーザー回折法による中位粒子径0.5μm)20質量部と、N-メチルピロリドン75質量部とを150rpmで1時間攪拌した。このように得られたペースト組成物を透明な円筒状容器に入れ、1時間後、8時間後及び24時間後のそれぞれの分散状態を確認した。目視判断で初期の状態を維持していた場合をA、沈降が起こり、全体の2割未満の上澄みが観測された場合をB、2割以上の上澄みが観測された場合をCとして評価した。
【0116】
表5に示す結果から、各実施例で得られたグラフト共重合体は、優れた分散安定性を有していることがわかった。従って、各実施例で得られたグラフト共重合体は、分散剤として使用できることが示された。一方、比較例1で得られたグラフト共重合体は、グラフト共重合体の一部がゲル状になり不溶化し均一なペースト組成物は得られなかった。不均一なペースト組成物のまま評価を続けると、2時間後から明らかな沈降が確認され、分散剤としては好適ではないことが示された。
【0117】