(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】照明制御システムおよび照明制御方法
(51)【国際特許分類】
H05B 47/11 20200101AFI20241213BHJP
H05B 47/18 20200101ALI20241213BHJP
H05B 47/19 20200101ALI20241213BHJP
H05B 47/16 20200101ALI20241213BHJP
【FI】
H05B47/11
H05B47/18
H05B47/19
H05B47/16
(21)【出願番号】P 2021105152
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2024-03-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年7月20日に「2020年度大会(関東)学術講演梗概集 建築デザイン発表梗概集2020,第563-564頁,一般社団法人日本建築学会」において公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 比奈子
(72)【発明者】
【氏名】張本 和芳
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 望
(72)【発明者】
【氏名】米倉 裕修
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-75317(JP,A)
【文献】特開2017-37746(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/042780(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 39/00-39/10
H05B 45/00-45/59
H05B 47/00-47/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の照明制御システムであって、
前記室内に設置される照明器具と、
窓面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第一検出値として検出する窓面輝度センサと、
天井面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第二検出値として検出する天井面輝度センサと、
前記室内の空間の明るさ評価を目的変数とする数式を用いて、前記第一検出値および前記第二検出値から前記室内の空間の現状の明るさを算出し、算出した現状の明るさに基づいて前記照明器具を制御する制御装置と、を備え、
前記数式は、前記窓面の輝度、前記天井面の輝度ならびに当該窓面および当該天井面の立体角を説明変数とするものであり、当該数式には、前記窓面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる窓面向き用数式と、壁面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる壁面向き用数式とがあり、
前記制御装置は、前記室内の状況に応じて前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式の何れか一方を使用し、前記室内の空間の現状の明るさを評価する、
ことを特徴とする照明制御システム。
【請求項2】
前記数式は、以下のものである、ことを特徴とする請求項1に記載の照明制御システム。
【数1】
【請求項3】
前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式を以下の三つの条件に基づいて分類することで、前記係数が異なる合計で六つの数式が存在する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の照明制御システム。
(1)窓面輝度が基準窓面輝度以上である場合
(2)窓面輝度が基準窓面輝度よりも小さく、かつ、天井面輝度に対する窓面輝度の比率が基準輝度比以上である場合
(3)窓面輝度が基準窓面輝度よりも小さく、かつ、天井面輝度に対する窓面輝度の比率が基準輝度比よりも小さい場合
【請求項4】
前記室内は、調光を制御する複数の領域に区分されており、
前記制御装置は、区分された各々の領域の代表点における複数の方角の明るさを、前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式の何れか一方を用いて方角毎に算出し、明るさが最も低い方角での明るさ評価に基づいて当該領域の調光を制御する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の照明制御システム。
【請求項5】
前記窓面輝度センサおよび前記天井面輝度センサは、天井に設置されている、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の照明制御システム。
【請求項6】
前記窓面輝度センサは、床面方向の照度を検出する第一照度センサ素子と、前記第一照度センサ素子を収容するハウジングと、前記ハウジングに装着されたアタッチメントとを有し、
前記アタッチメントは、前記窓面の方向から到来する光を前記第一照度センサ素子に導く光反射部を有し、
前記制御装置は、前記窓面輝度センサが検出した光の量と、前記窓面の輝度との関係を示した情報を有しており、当該情報に基づいて前記窓面の輝度を算出する、
ことを特徴とする請求項5に記載の照明制御システム。
【請求項7】
前記天井面輝度センサは、床面方向の照度を検出する第二照度センサ素子と、前記第二照度センサ素子を収容するハウジングと、前記ハウジングに装着された半透明のカバーとを有し、
前記カバーを透過した光が前記第二照度センサ素子に導かれ、
前記制御装置は、前記天井面輝度センサが検出した光の量と、前記天井面の輝度との関係を示した情報を有しており、当該情報に基づいて前記天井面の輝度を算出する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の照明制御システム。
【請求項8】
室内の照明制御方法であって、
前記室内には、照明器具と、窓面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第一検出値として検出する窓面輝度センサと、天井面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第二検出値として検出する天井面輝度センサと、が設置されており、
前記窓面輝度センサおよび天井面輝度センサを用いて、前記第一検出値および前記第二検出値を検出する検出ステップと、
前記室内の空間の明るさ評価を目的変数とする数式を用いて、前記第一検出値および前記第二検出値から前記室内の空間の現状の明るさを算出し、算出した現状の明るさに基づいて前記照明器具を制御する制御ステップと、を有し、
前記数式は、前記窓面の輝度、前記天井面の輝度ならびに当該窓面および当該天井面の立体角を説明変数とするものであり、当該数式には、前記窓面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる窓面向き用数式と、壁面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる壁面向き用数式とがあり、
前記制御ステップでは、前記室内の状況に応じて前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式の何れか一方を使用し、前記室内の空間の現状の明るさを評価する、
ことを特徴とする照明制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明制御システムおよび照明制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の照明制御手法は、空間内の一部の面(机上面)の照度が設計照度を満たしているかどうかを基準に制御するものであった。また、空間の明るさによる照明制御手法も開発が進められている(例えば、特許文献1,2参照)。
特許文献1に記載される技術は、窓面に設けられたブラインドの制御に関するものである。この技術では、窓面に正対する屋外の輝度分布を撮影し、過剰な窓面輝度にならないようブラインドの角度を制御する。さらに、屋外の輝度分布から算出した窓面輝度分布により、明るさ感や眩しさ感の指標の分布を求め、窓面輝度分布或いは前記明るさ感や眩しさ感の指標の分布が許容範囲に収まるようブラインドを制御する。
特許文献2に記載される技術は、空間の昼光導入量と、目標とする明るさ感(NSB値)から制御パターンを作成する手法である。例えば特許文献2には、昼光を導入可能な窓面を有する空間において、昼光導入量に応じ、かつ明るさ感を表すNSB値を満たす照明制御パターンの作成方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-023428号公報
【文献】特開2018-181613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の照明制御においては、在室者(特に執務者)が目にする全体の光の量が考慮されていなかった。その為、在室者が目にする空間の光環境は、時に暗すぎたり、あるいは明るすぎるという課題が生じていた。
例えば、特許文献1の技術においては、窓面に対し正対する向きのみを撮影し制御対象としているため、他の方向を考慮していないという問題点がある。また、輝度カメラを必要とするため、輝度カメラの設置および得られたデータの処理に必要な高度なシステムおよびコストがかかるという問題点が想起される。
また、特許文献2の技術においては、在室者の視線方向の先にある対象物の違いに応じて在室者が感じる明るさが異なることを考慮していない。
このような観点から、本発明は、在室者が感じる明るさを考慮した照明の制御を行うことができる照明制御システムおよび照明制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る照明制御システムは、室内の照明制御システムである。この照明制御システムは、前記室内に設置される照明器具と、窓面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第一検出値として検出する窓面輝度センサと、天井面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第二検出値として検出する天井面輝度センサと、制御装置とを備える。
前記制御装置は、前記室内の空間の明るさ評価を目的変数とする数式を用いて、前記第一検出値および前記第二検出値から前記室内の空間の現状の明るさを算出し、算出した現状の明るさに基づいて前記照明器具を制御する。
前記数式は、前記窓面の輝度、前記天井面の輝度ならびに当該窓面および当該天井面の立体角を説明変数とするものであり、当該数式には、前記窓面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる窓面向き用数式と、壁面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる壁面向き用数式とがある。
前記制御装置は、前記室内の状況に応じて前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式の何れか一方を使用し、前記室内の空間の現状の明るさを評価する。
【0006】
前記数式は、例えば以下に示すものである。
【数1】
本発明に係る照明制御システムによれば、在室者が感じる明るさを考慮して室内の空間の評価を行うことができるので、在室者にとって暗すぎず/明るすぎない丁度よい光環境を提供することができる。つまり、在室者の視線方向に応じたきめ細やかな照明制御が可能になる。
【0007】
前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式を以下の三つの条件に基づいて分類することで、前記係数が異なる合計で六つの数式が存在するようにしてもよい。
(1)窓面輝度が基準窓面輝度以上である場合
(2)窓面輝度が基準窓面輝度よりも小さく、かつ、天井面輝度に対する窓面輝度の比率が基準輝度比以上である場合
(3)窓面輝度が基準窓面輝度よりも小さく、かつ、天井面輝度に対する窓面輝度の比率が基準輝度比よりも小さい場合
このようにすると、在室者が感じる明るさをより詳細に評価することが可能であるので、在室者にとってより好適な光環境を提供することができる。
【0008】
前記室内が調光を制御する複数の領域に区分されている場合、前記制御装置は、区分された各々の領域の代表点における複数の方角の明るさを、前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式の何れか一方を用いて方角毎に算出し、明るさが最も低い方角での明るさ評価に基づいて当該領域の調光を制御するようにしてもよい。
このようにすると、室内に複数の在室者がおり、各々の在室者が異なる方向を向いている場合であっても、多くの在室者にとって暗すぎない光環境を提供することができる。
【0009】
前記窓面輝度センサおよび前記天井面輝度センサは、天井に設置されているものであってもよい。
前記窓面輝度センサは、床面方向の照度を検出する第一照度センサ素子と、前記第一照度センサ素子を収容するハウジングと、前記ハウジングに装着されたアタッチメントとを有する。前記アタッチメントは、前記窓面の方向から到来する光を前記第一照度センサ素子に導く光反射部を有する。前記制御装置は、前記窓面輝度センサが検出した光の量と、前記窓面の輝度との関係を示した情報を有しており、当該情報に基づいて前記窓面の輝度を算出する。
前記天井面輝度センサは、床面方向の照度を検出する第二照度センサ素子と、前記第二照度センサ素子を収容するハウジングと、前記ハウジングに装着された半透明のカバーとを有する。前記カバーを透過した光が前記第二照度センサ素子に導かれる。前記制御装置は、前記天井面輝度センサが検出した光の量と、前記天井面の輝度との関係を示した情報を有しており、当該情報に基づいて前記天井面の輝度を算出する。
【0010】
本発明に係る照明制御方法は、室内の照明制御方法である。前記室内には、照明器具と、窓面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第一検出値として検出する窓面輝度センサと、天井面の輝度または当該輝度に相関する光の量を第二検出値として検出する天井面輝度センサと、が設置されている。
この照明制御方法は、前記窓面輝度センサおよび天井面輝度センサを用いて、前記第一検出値および前記第二検出値を検出する検出ステップと、前記室内の空間の明るさ評価を目的変数とする数式を用いて、前記第一検出値および前記第二検出値から前記室内の空間の現状の明るさを算出し、算出した現状の明るさに基づいて前記照明器具を制御する制御ステップとを有する。
前記数式は、前記窓面の輝度、前記天井面の輝度ならびに当該窓面および当該天井面の立体角を説明変数とするものであり、当該数式には、前記窓面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる窓面向き用数式と、壁面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が含まれる壁面向き用数式とがある。
前記制御ステップでは、前記室内の状況に応じて前記窓面向き用数式および前記壁面向き用数式の何れか一方を使用し、前記室内の空間の現状の明るさを評価する。
本発明に係る照明制御方法によれば、在室者が感じる明るさを考慮して室内の空間の評価を行うことができるので、在室者にとって暗すぎず/明るすぎない丁度よい光環境を提供することができる。つまり、在室者の視線方向に応じたきめ細やかな照明制御が可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、在室者が感じる明るさを考慮した照明の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る照明制御システムの全体構成図である。
【
図4】窓面輝度センサにおけるアタッチメントを説明するための図であり、(a)は斜視図であり、(b)は正面図であり、(c)は側面図である。
【
図5】窓面輝度センサにおけるアタッチメントの機能を説明するための図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る照明制御に使用する明るさ概算式を説明するための図である。
【
図7】在室者の視野を説明するためのイメージ図であり、(a)は在室者が窓面を向いている場合を示し、(b)は在室者が壁面を向いている場合を示している。
【
図8】本発明の実施形態に係る照明制御方法のフローチャートの例示である。
【
図10】他の照明制御方法のフローチャートの例示であり、(a)~(f)は第1~第6の調光区分に対応している。
【
図11】空間の明るさの感覚値(BR値)に用いる数式を検証するために行った実験の内容を説明するための図であり、(a)は実験空間の概要を示す表であり、(b)は実験空間の概略図面である。
【
図12】予測式の決定係数の変化を説明するための図であり、(a)は窓面平均輝度による決定係数の変化を示し、(b)は輝度比による決定係数の変化を示す。
【
図13】窓面向きの空間の明るさの評価値・予測値のプロットであり、(a)は窓面輝度1500cd/m
2以上の場合であり、(b)は窓面輝度1500cd/m
2未満かつ輝度比0.7以上の場合であり、(c)は輝度比0.7未満の場合である。
【
図14】窓面向きの空間における各変数の係数の推定値とp値との関係を説明するための図であり、(a)は窓面輝度1500cd/m
2以上の場合であり、(b)は窓面輝度1500cd/m
2未満かつ輝度比0.7以上の場合であり、(c)は輝度比0.7未満の場合である。
【
図15】壁面向きの空間の明るさの評価値・予測値のプロットであり、(a)は窓面輝度1500cd/m
2以上の場合であり、(b)は窓面輝度1500cd/m
2未満かつ輝度比0.7以上の場合であり、(c)は輝度比0.7未満の場合である。
【
図16】壁面向きの空間における各変数の係数の推定値とp値との関係を説明するための図であり、(a)は窓面輝度1500cd/m
2以上の場合であり、(b)は窓面輝度1500cd/m
2未満かつ輝度比0.7以上の場合であり、(c)は輝度比0.7未満の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
<実施形態に係る照明制御システムの構成について>
図1を参照して、実施形態に係る照明制御システム1について説明する。
図1は、照明制御システム1の全体構成図である。
照明制御システム1は、室内の照明を制御するシステムである。照明制御システム1では、室内において人が感じる明るさを考慮した制御を行うことで、暗すぎず/明るすぎない丁度よい光環境を提供する。なお、「人が感じる明るさ」は、「照度」ではなく「輝度」によって表され、丁度よい空間の明るさを保つためにはアンビエント照明の適切な制御が必要であることが一般的に知られている。
【0014】
照明制御システム1における室の用途や形状は特に限定されず、様々な室の照明制御に照明制御システム1を適用できる。室は、例えばビルや家屋などの建築物(建築物の一部である部屋も含む)であってよい。本実施形態では、室の形状として下面を床、上面を天井、側面を複数の壁で覆われた空間を想定する。また、室の用途として執務を想定する。その為、室に在室する在室者は、デスクワークを行う執務者であり、室内において執務者が業務を行う座席の位置や座った状態での執務者の視線方向は予め決まっているものとする。
図1に示すように、室の壁には窓が形成されており、自然光が窓から室内に入射する。窓が形成された壁面を「窓面」と称する。
【0015】
照明制御システム1は、照明器具2と、窓面輝度センサ3と、天井面輝度センサ4と、制御装置5とを備える。照明器具2、窓面輝度センサ3および天井面輝度センサ4は室内に設置され、制御装置5の設置場所は特に限定されない。本実施形態では、照明器具2、窓面輝度センサ3および天井面輝度センサ4が天井に設置され、制御装置5は室外(例えば、ビルの制御室)に設置される。
照明器具2は、光で室内を照らす器具であり、例えばアンビエント照明である。室内に設置される照明器具2の数に限定はなく、単数または複数であってよい。照明器具2は、調光が可能であり、照射する光の量を段階的に変更できる。照明器具2は、制御装置5から制御信号を受信し、例えば調光率によって照射する光の量を調整する。
【0016】
窓面輝度センサ3は、窓面の輝度を検出するセンサ(検出手段)である。窓面輝度センサ3は、窓面の輝度を検出できる場所に設置される。窓面輝度センサ3が窓面の輝度を検出する方法に限定はない。窓面輝度センサ3は、窓面の輝度に相関する光の量を検出し、検出した光の量により窓面の輝度を算出してもよい。輝度の算出を行う場所は限定されず、例えば制御装置5が輝度の算出を行ってよい。窓面輝度センサ3は、検出した検出値(「第一検出値」と称する)を制御装置5に送信する。
図2に示すように、本実施形態では、窓面輝度センサ3を照度センサで代用することを想定し、照度センサによって検出した検出値に基づいて窓面の輝度を算出する。
図2は、窓面輝度センサ3の外観図である。詳細は後記するが、天井面輝度センサ4も同様であり、天井面輝度センサ4を照度センサで代用することを想定する(
図3参照)。
図3は、天井面輝度センサ4の外観図である。つまり、本実施形態では、天井に一般的に設置される照度センサに対して検出対象ごとに工夫した付属品を取り付けることで、窓面および天井面の輝度を算出できるようにしている。
【0017】
図2を参照して、窓面輝度センサ3の構成を説明する。窓面輝度センサ3は、センサ本体31と、アタッチメント32とを備える。センサ本体31は、アタッチメント32を取り付けずに単体で使用する場合には、床面方向の照度を検出することが可能である。
センサ本体31は、円盤状のハウジング31aと、受光部31c(第一照度センサ素子)とを有する。ハウジング31aの床側の面には、ハウジング31a内に光を取り込む凹部31bが形成されており、受光部31cは、凹部31b内に配置されている。受光部31cは、受けた光を電気信号に変換する電子部品である。受光部31cには、凹部31bに取り込まれた光が到達する。
アタッチメント32は、受光部31cが受け取る光の方向を窓側に変更する部品であり、凹部31bに嵌め込むようにして設置される。
【0018】
図4を参照してアタッチメント32の構成を説明する。
図4はアタッチメント32を説明するための図であり、(a)は斜視図であり、(b)は正面図であり、(c)は側面図である。ここで、アタッチメント32の説明における「上下」、「前後」、「左右」は、
図4の矢印に従う。なお、当該方向は、説明の便宜上定めるものであり、本発明を限定するものではない。
アタッチメント32は、光が通過する貫通孔32aを有する。貫通孔32aの一方の開口部32aaは正面に形成されており、他方の開口部32abは上部に形成されている。正面の開口部32aaは、光を取り込む入口の役割を担い、上部の開口部32abは、光を放出する出口の役割を担う。貫通孔32aには、光反射部32mが設置されている。光反射部32mは、例えば鏡であり、
図5に示すように、正面の開口部32aaから入ってきた光を上方に反射するように設置されている。
図5は、アタッチメント32の機能を説明するための図である。光反射部32mによって反射された光は、上部の開口部32abを介して受光部31cに到達する。アタッチメント32は、入口となる開口部32aaが窓面を向くように設置される。これにより、光反射部32mは、窓面の方向から到来する光を受光部31cに導く役割を担う。
【0019】
図3を参照して、天井面輝度センサ4の構成を説明する。天井面輝度センサ4は、天井面の輝度を検出するセンサ(検出手段)である。天井面輝度センサ4は、天井面の輝度を検出できる場所に設置される。天井面輝度センサ4が天井面の輝度を検出する方法に限定はない。天井面輝度センサ4は、天井面の輝度に相関する光の量を検出し、検出した光の量により天井面の輝度を算出してもよい。輝度の算出を行う場所は限定されず、例えば制御装置5が輝度の算出を行ってよい。天井面輝度センサ4は、検出した検出値(「第二検出値」と称する)を制御装置5に送信する。前述した通り、本実施形態では、天井面輝度センサ4を照度センサで代用することを想定し、照度センサによって検出した検出値に基づいて天井面の輝度を算出する。
【0020】
図3に示すように、天井面輝度センサ4は、センサ本体41と、カバー42とを備える。センサ本体41は、窓面輝度センサ3のセンサ本体31と同じものであり、カバー42を取り付けずに単体で使用する場合には、床面方向の照度を検出することが可能である。窓面輝度センサ3と天井面輝度センサ4とでは、付属品であるカバー42が異なる。
センサ本体41は、円盤状のハウジング41aと、図示しない受光部(第二照度センサ素子)とを有する。ハウジング41aの床側の面には、ハウジング41a内に光を取り込む凹部41bが形成されており、受光部は、凹部41b内に配置されている。受光部は、受けた光を電気信号に変換する電子部品である。受光部には、凹部41bによって取り込まれた光が到達する。
カバー42は、天井面の輝度を算出しやすいように受光部が受け取る光をならすための部品である。本実施形態におけるカバー42は、板状(またはシート状)を呈しており、凹部41bを覆う(閉塞する)ように設置される。カバー42は、例えば白色半透明であり、通過する光を拡散させる。カバー42を通過する光は、拡散されることによりならされ、天井面の輝度を算出するのに適した光となる。
【0021】
図1に示す制御装置5は、照明器具2を制御して室内の快適な光環境を実現する装置である。制御装置5は、例えば大型の商業ビルや病院・工場などに設置されるサーバである。制御装置5は、複数の装置(例えば、エリアコントローラとフロアコントローラなど)で構成されていてもよい。
制御装置5は、記憶部と制御部とを備える。記憶部は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成される。記憶部には、照明の制御に必要な情報が格納されている。制御部は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。制御部がプログラム実行処理により実現する場合、制御装置5は、照明制御を実現するために必要なプログラム(照明制御プログラム)を有する。制御部は、記憶部に代えてまたは記憶部に加えて、例えばネットワークを介して照明の制御に必要な情報を取得してもよい。
制御装置5は、照明器具2、窓面輝度センサ3および天井面輝度センサ4と、データを送受信可能に接続されている。接続形態は、有線、無線の何れであってもよい。
【0022】
制御装置5は、窓面輝度センサ3が検出した検出値(第一検出値)を取得する。窓面輝度センサ3の検出値は、窓面の輝度、窓面の輝度に相関する光の量などであってよい。また、制御装置5は、天井面輝度センサ4が検出した検出値(第二検出値)を取得する。天井面輝度センサ4の検出値は、天井面の輝度、天井面の輝度に相関する光の量などであってよい。
制御装置5は、窓面輝度センサ3の検出値および天井面輝度センサ4の検出値に基づいて照明器具2を制御する。制御装置5は、在室者が感じる明るさに応じた制御を行い、特に在室者の視線方向の明るさ(つまり、在室者の視野に入る光の量(輝度))に応じた制御を行う。制御装置5は、例えば制御対象となるエリアごとに代表者(仮想の在室者でもかまわない)を設定し、当該代表者の視線方向の明るさに応じた制御を行う。また、制御装置5は、異なる方角を向く複数の代表者を設定し、複数の代表者の各々の視線方向の明るさに基づいた制御(例えば、感じる明るさが最も低い代表者に応じた制御)を行ってもよい。詳細は後述する。制御装置5は、照明の制御に関する制御信号(例えば調光率)を照明器具2に送信する。
なお、制御装置5は、窓面輝度センサ3の検出値および天井面輝度センサ4の検出値に対してキャリブレーション(較正)を行うのがよい。制御装置5は、キャリブレーション(較正)に必要な情報を、例えば記憶部に格納している。
【0023】
(照明制御の原理について)
図6および
図7を参照して、本実施形態に係る照明制御の原理について説明する。
図6は、本実施形態に係る照明制御に使用する明るさ概算式を説明するための図である。
図7は、在室者の視野を説明するためのイメージ図であり、(a)は在室者が窓面を向いている場合を示し、(b)は在室者が壁面を向いている場合を示している。
人の明るさの感覚は、視野に入る光の量(輝度)の影響を受けることが知られている。また、室内で人が感じる明るさにおいて、影響を受けやすいのは「窓面」と「天井面」の明るさであるということが実験から分かってきた。本実施形態では、室内の空間の明るさ評価(感覚値)を目的変数とし、窓面の輝度、天井面の輝度ならびに当該窓面および当該天井面の立体角を説明変数とする以下の式(A)を用いて、現状の室内の空間の明るさを算出する。
【0024】
【0025】
上記式(A)において、「BR」は「空間の明るさの感覚値」あり、「a,b」は係数(定数)であり、「L」は輝度であり、「ω」は立体角である。また、下付き文字で使用される「w」は窓面であることを示し、「c」は天井面であることを示している。
上記式(A)における説明変数の具体例を
図6に示す。
図6では在室者として、座席に座って執務を行う執務者を想定している。そのため、在室者の視点の高さは、執務者が座った状態での一般的な目線の高さ(例えば、床から「1.2m」)である。
【0026】
発明者は、上記式(A)を用いた空間の明るさの感覚値(BR値)の算出において、在室者の視線方向の違いによって、係数「a,b」として異なる値を用いることが有効であることを見出した。特に、一般的な室の構成や座席の配置を考慮した場合、在室者が窓面を向いているか壁面を向いているかのどちらかの場合が多いことに着目し、「在室者が窓面に正対した状態(
図7(a)参照)」と「在室者が壁面に正対した状態(例えば、窓面に対して90°の横向きの状態)(
図7(b)参照)」とに分けて異なる係数「a,b」を用いることが有効であることを見出した。
図7(a)に示す窓面を向いている場合に用いる数式(A)を特に「窓面向き用数式(B)」と呼ぶ。窓面向き用数式(B)では窓面を向いた在室者が感じる明るさを考慮した係数が使用される。一方、
図7(b)に示す壁面を向いている場合に用いる数式(A)を特に「壁面向き用数式(C)」と呼ぶ。窓面輝度が基準窓面輝度より大きい場合、窓面向き用数式(B)で使用される係数は、壁面向き用数式(C)に比べ小さい傾向にある。
【0027】
また、発明者は、「窓面輝度Lw」および「天井面輝度Lcに対する窓面輝度Lwの比率(単に「輝度比」と呼ぶ場合がある)」によって、上記式(A)の係数「a,b」として異なる値を用いることが有効であることを見出した。本実施形態では、以下の三つの条件に基づいて分類し、分類ごとで係数「a,b」が異なる値を用いることにする。
(1)窓面輝度Lwが基準窓面輝度Lw_standard以上である場合。
(2)窓面輝度Lwが基準窓面輝度Lw_standardよりも小さく、かつ、天井面輝度Lcに対する窓面輝度Lwの比率が基準輝度比Lw/c_standard以上である場合。
(3)窓面輝度Lwが基準窓面輝度Lw_standardよりも小さく、かつ、天井面輝度Lcに対する窓面輝度Lwの比率が基準輝度比Lw/c_standardよりも小さい場合。
【0028】
さらに、「在室者の視線方向の違い」による分類、ならびに、「窓面輝度」および「天井面輝度に対する窓面輝度の比率(輝度比)」による分類とを組み合わせることによって、在室者が感じる明るさに基づいたより詳細な制御を行える。上記した二つの分類の組合せによって、以下に示す係数が異なる合計で六つの数式(式(1)~式(6))ができあがる。
【0029】
(窓面に正対した状態のBR値算出式)
・窓面輝度Lw≧Lw_standardの場合は、式(1)を用いる。
BR=Aw_win_1・log10(Lw・ωw)+Ac_win_1・log10(Lc・ωc)+B_win_1 ・・式(1)
・窓面輝度Lw<Lw_standard、およびLw/Lc≧Lw/c_standard以上の場合は、式(2)を用いる。
BR=Aw_win_2・log10(Lw・ωw)+Ac_win_2・log10(Lc・ωc)+B_win_2 ・・式(2)
・窓面輝度Lw<Lw_standard、およびLw/Lc<Lw/c_standardの場合は、式(3)を用いる。
BR=Aw_win_3・log10(Lw・ωw)+Ac_win_3・log10(Lc・ωc)+B_win_3 ・・式(3)
ここで、「BR:明るさ予測値」、「Aw:窓面係数」、「Ac:天井面係数」、「B:係数」、「Lw:窓面輝度」、「Lc:天井面輝度」、「ω:立体角」、「Lw_standard:基準窓面輝度」、「Lw/c_standard:基準輝度比」である。また、添え字の意味は「w:窓面」、「c:天井面」、「_win:窓向き」、「_1:条件1」、「_2:条件2」、「_3:条件3」である。
【0030】
(壁面に正対した状態(例えば窓面に対して90°の横向きの状態)のBR値算出式)
・窓面輝度Lw≧Lw_standardの場合は、式(4)を用いる。
BR=Aw_wall_1・log10(Lw・ωw)+Ac_wall_1・log10(Lc・ωc)+B_wall_1 ・・式(4)
・窓面輝度Lw<Lw_standard、およびLw/Lc≧Lw/c_standard以上の場合は、式(5)を用いる。
BR=Aw_wall_2・log10(Lw・ωw)+Ac_wall_2・log10(Lc・ωc)+B_wall_2 ・・式(5)
・窓面輝度Lw<Lw_standard、およびLw/Lc<Lw/c_standardの場合は、式(6)を用いる。
BR=Aw_wall_3・log10(Lw・ωw)+Ac_wall_3・log10(Lc・ωc)+B_wall_3 ・・式(6)
ここで、「BR:明るさ予測値」、「Aw:窓面係数」、「Ac:天井面係数」、「B:係数」、「Lw:窓面輝度」、「Lc:天井面輝度」、「ω:立体角」、「Lw_standard:基準窓面輝度」、「Lw/c_standard:基準輝度比」である。また、添え字の意味は「w:窓面」、「c:天井面」、「_wall:壁向き」、「_1:条件1」、「_2:条件2」、「_3:条件3」である。
【0031】
上記式(1)~式(6)で用いる係数の一例を表1,表2に示す。式(1)~式(6)に用いる係数、および窓面輝度・天井面輝度に対する窓面輝度比による場合分けのしきい値は、被験者による明るさの検証実験により導き出されたものである。実験では、実験対象としたオフィス空間において、窓面のブラインド角度や天候状態により異なる光環境空間を構築した。その異なる光環境条件下において、被検者は窓面向きおよび窓面から90°横を向いた壁面向きに設置された被験者席から、別途用意した基準の明るさ(300lx)に調整された箱の中の光環境を「100」として覚え、それに対し実験空間内の明るさを正の数値で評価した。被験者の向く方向毎にこの値を統計的に分析し、被験者が評価した空間の明るさを推定する式および係数を導き出している。実験の詳細は後記する。
【0032】
【0033】
【0034】
<実施形態に係る照明制御システムの動作について>
図8を参照して、実施形態に係る照明制御システム1の動作について説明する。
図8は、照明制御システム1における照明制御方法のフローチャートの例示である。
図8に示すフローチャートの処理は、例えば任意のタイミングで実行されてよく、また、所定の間隔で繰り返し実行されてもよい。
制御装置5は、照明制御に必要な室内の明るさに関する情報を取得する(ステップS1)。具体的には、窓面輝度センサ3から検出した検出値(「第一検出値」と称する)を取得し(ステップS1A)、また、天井面輝度センサ4から検出した検出値(「第二検出値」と称する)を取得する(ステップS1B)。ここでの検出値は、例えば窓面や天井面の輝度に相関する光の量である。
【0035】
次に、制御装置5は、窓面輝度センサ3によって検出された検出値に基づいて窓面輝度を算出し(ステップS2A)、また、天井面輝度センサ4によって検出された検出値に基づいて天井面輝度を算出する(ステップS2B)。
制御装置5は、例えば窓面輝度センサ3によって検出された光の量と、窓面輝度とを関連付けた情報(または、窓面輝度センサ3によって検出された光の量から窓面輝度を算出する計算式など)を有している。また同様に、制御装置5は、例えば天井面輝度センサ4によって検出された光の量と、天井面輝度とを関連付けた情報(または、天井面輝度センサ4によって検出された光の量から天井面輝度を算出する計算式など)を有している。
【0036】
次に、制御装置5は、上記式(A)を用いて、センサの検出値に基づいた現状のBR値を算出する(ステップS3)。制御装置5は、例えば室内に居る在室者(代表者であってもよい)の視線方向、並びに「窓面輝度」および「天井面輝度に対する窓面輝度の比率(輝度比)」に基づいてBR値を算出する式(1)~式(6)を決定し、決定した式を用いて現状のBR値を算出する。
ここで、在室者の視線方向を特定する方法は特に限られず、様々な技術を用いることが可能である。例えば、室内に設置されるPC(Personal Computer)の起動状況から在室者の視線方向を特定してもよい。また、在室者と座席との関係を予め保有しておき、入退室情報から在室者を特定して視線方向を特定してもよい。また、室内にカメラを設置し、カメラの撮像画像を解析することによって在室者の視線方向を特定してもよい。このように、照明制御システム1は、在室者の視線方向を検出する検出手段を備えていてもよい。また、制御対象となるエリアとBR値を算出する式(1)~式(6)とを予め対応づけておき、その対応関係に基づいた式を用いてBR値を算出してもよい。制御対象となるエリアとBR値を算出する式(1)~式(6)との対応関係は、例えば曜日や時間帯ごとに設定されるものであってもよい。この制御は、例えば、曜日や時間帯ごとに決まった在室者が居る場合に有効である。なお、ここで説明した在室者の視線方向は「室内の状況」の一例である。
【0037】
次に、制御装置5は、算出した現状のBR値と目標とするBR値との関係に基づいて調光率を制御する。具体的には、現状のBR値が目標とするBR値よりも大きい場合(ステップS4で「Yes」)、制御装置5は、調光率を減少させる(ステップS5)。一方、現状のBR値が目標とするBR値よりも大きくない場合(ステップS4で「No」)、制御装置5は、調光率を増大させる(ステップS6)。そして、制御装置5は、ステップS5またはステップS6で決定した調光率を照明器具2に制御信号として送信する。これで照明制御に関する一連の動作は終了する。
【0038】
次に、
図9および
図10を参照して、制御対象エリアのBR値の他の算出方法について説明する。
図9は、制御対象となる室のイメージ図である。
図10は、照明制御システム1における他の照明制御方法のフローチャートの例示である。
図9に示すように、室内の空間には、六つの調光区分A
1~A
6が設定されている。調光区分A
1~A
6は、照明制御の単位であり、個別に調光可能である。調光区分A
1~A
6には、例えば複数の執務者の座席が配置されている領域である。
室内の空間には、二つの窓面輝度センサ3
1,3
2と、六つの天井面輝度センサ4
1~4
6が設置されている。室には、
図9の紙面下側および紙面左側に窓がL字状に設けられており、一方の窓面輝度センサ3
1は下側の窓に向けられて配置され、他方の窓面輝度センサ3
2は左側の窓に向けられて配置されている。天井面輝度センサ4
1~4
6は、各々の調光区分A
1~A
6に一つずつ配置されている。すなわち、一つの調光区分に一つの天井面輝度センサが配置されている。また、調光区分A
1~A
6には、区分ごとに基準位置P
1~P
6が設定されている。基準位置P
1~P
6は、BR値を算出するための基準となる位置であり、任意の位置であってよい。
【0039】
制御装置5は、各々の基準位置P1~P6において、90°ごとに合計で四つの方向(「p方向」、「q方向」、「r方向」、「s方向」)のBR値を算出する。例えば、制御装置5は、基準位置P1においてp方向を見た場合のBR値である「BR1-p」、q方向を見た場合のBR値である「BR1-q」、r方向を見た場合のBR値である「BR1-r」、s方向を見た場合のBR値である「BR1-s」を算出する。基準位置P2~P6についても同様である。
BR値の算出においては、「各方向が窓および壁の何れを向いているか」、並びに、「窓面輝度」および「天井面輝度に対する窓面輝度の比率(輝度比)」が考慮され、前述した式(1)~式(6)の内の対応するものが用いられる。例えば、基準位置P1におけるp方向のBR値の算出を想定する。基準位置P1におけるp方向は窓向きなので、式(1)~式(3)の中で窓面輝度などの条件が一致するものが用いられる。次に、基準位置P1におけるr方向のBR値の算出を想定する。基準位置P1におけるr方向は壁向きなので、式(4)~式(6)の中で窓面輝度などの条件が一致するものが用いられる。
【0040】
制御装置5は、算出した四方向のBR値に基づいて、各々の調光区分A
1~A
6の調光率を制御する。制御装置5は、例えば、算出した四方向のBR値の中で最も低いBR値を制御の基準とする。つまり、BR値が最も低く暗いと感じる視線方向の明るさが、丁度よい明るさとなるように調光区分内の照明器具2を調光する。四方向のBR値の中で最も低いBR値に基づく制御の一例を
図10に示す。
図10の(a)~(f)は、第1~第6の調光区分A
1~A
6に対応しており、
図8のステップS3~ステップS7に相当する処理である。
例えば、調光区分A
1を例に挙げて説明する。制御装置5は、p方向を見た場合のBR値である「BR
1-p」、q方向を見た場合のBR値である「BR
1-q」、r方向を見た場合のBR値である「BR
1-r」、s方向を見た場合のBR値である「BR
1-s」を算出し、四つの内の最小値を調光区分A
1の現状値とする。次に、制御装置5は、調光区分A
1の現状のBR値が目標とするBR値よりも大きい場合に調光率を減少させ、目標とするBR値よりも大きくない場合に調光率を増大させる。そして、制御装置5は、決定した調光率を調光区分A
1内の照明器具2に制御信号として送信し、照明器具2を調光させる。
【0041】
以上のように、照明制御システム1によれば、在室者が感じる明るさを考慮して室内の空間の評価を行うことができるので、在室者にとって暗すぎず/明るすぎない丁度よい光環境を提供することができる。つまり、在室者の視線方向に応じたきめ細やかな照明制御が可能になる。
また、照明制御システム1は、天井に一般的に設置される照度センサを用いてシステムを構築できる。つまり、輝度カメラの設置やデータ処理のための高度なシステムを必要とせず、従来の明るさセンサと照明の出力を制御するコントローラを基本とし、簡易なシステムおよび低コスト化を実現可能である。
【0042】
<被験者による明るさの検証実験について>
発明者は、空間の明るさの感覚値(BR値)に用いる数式を検証するために実験を行ったので説明する。
図11は、空間の明るさの感覚値(BR値)に用いる数式を検証するために行った実験の内容を説明するための図であり、(a)は実験空間の概要を示す表であり、(b)は実験空間の概略図面である。
図11に示す実験は、被験者が窓面に正対した状況、および被験者が壁面に正対した状況において感じる明るさを評価するものである。
図11(b)に示す窓のある実験空間(W:4.3m×D:9.7m×H2.7m)で、2020年1月8日・9日(天候:快晴)に実験を実施した。実験を実施した時間帯は午前・夜間の2水準、窓に設置されたベネシャンブラインドのスラット角度は水平・45度・閉の3水準、実験空間中央の机上面照度を200lx,400lx,750lxの3水準とし、計18条件について被験者に空間の明るさを評価させた。被験者の評価はME法を用いて基準の空間を「100」としたときの実験空間の明るさを正の整数で評価させた。輝度測定は各評価席の視点位置に円周魚眼レンズを用いたカメラを設置し5分間隔で輝度分布を計測した。被験者はいずれの条件も20代前半の学生12人であった。
【0043】
(窓向きの空間の明るさ概算式の検討)
窓面が高輝度の場合について、窓面平均輝度によるしきい値を「50cd/m
2」ずつ変化させて、それぞれの場合の予測式の決定係数を確認した。
図12(a)に示すように、それぞれの決定係数が高い窓面平均輝度のしきい値は「1500cd/m
2」であった。さらに輝度比によるしきい値を「0.1」ずつ変化させて、それぞれの場合の予測式の決定係数を確認すると、
図12(b)に示す通り輝度比「0.7」を境界に決定係数が変化した。以上より、(1)窓面平均輝度1500cd/m
2以上、(2)窓面平均輝度1500cd/m
2未満かつ輝度比0.7以上、(3)輝度比0.7未満に場合分けした新たな空間の明るさ概算式を作成した。
図13および
図14に結果を示す。窓面輝度が1500cd/m
2以上では窓面の係数がマイナスとなり、決定係数は0.62であった。一方、窓面輝度1500cd/m
2未満かつ輝度比0.7以上では窓面の係数のp値が0.382と高く、天井面の輝度・立体角のみで空間の明るさをある程度説明できていた。
【0044】
(壁向きの空間の明るさ概算式の検討)
視線方向が壁面向きの場合の空間の明るさについて、窓面向きと同様に窓面・天井面「照明なし」の平均輝度のそれぞれの対象面の立体角を説明変数とし、窓面向きの概算式同様のしきい値を設けて解析を行った。結果を
図15および
図16に示す。それぞれの窓面輝度の係数を見ると、どの場合においても空間の明るさ評価に対して窓面がマイナスに働いている傾向があるが、ただし係数の推定値のp値が十分に小さくなく、特に輝度比0.7未満の場合は天井面と立体角の変数のみで空間の明るさが十分に予測できると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 照明制御システム
2 照明器具
3 窓面輝度センサ
4 天井面輝度センサ
5 制御装置
31 センサ本体
31a ハウジング
31b 凹部
31c 受光部
32 アタッチメント
41 センサ本体
41a ハウジング
41b 凹部
42 カバー