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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】含ホウ素化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20241213BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020571277
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004682
(87)【国際公開番号】W WO2020162575
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019021791
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】平野 雅文
(72)【発明者】
【氏名】小峰 伸之
(72)【発明者】
【氏名】清田 小織
(72)【発明者】
【氏名】島田 恵太
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2018年,Vol.140,pp.3443-3453,Supporting Information (S1-S18, S67-S70)
【文献】Angew. Chem. Int. Ed.,2018年,Vol.57,pp.14276-14280
【文献】Chem. Commun.,2019年08月09日,Vol.55,pp.10527-10530
【文献】Angew Chem Int Ed Engl.,2013年,Vol.52, No.34,pages 1-11,doi:10.1002/anie.201302724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I-1)で表される第一の原料化合物と、下記式(II-1)で表される第二の原料化合物と、をルテニウム及びコバルトからなる群より選択される少なくとも一種を含む金属触媒の存在下で反応させて、下記式(III-1)で表される含ホウ素化合物を得る工程を備える、含ホウ素化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

[式中、
A1は、炭素数1~8のアルキル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基及び含ホウ素基からなる群より選択される一価の基であり
A2 及びR A3 は、水素原子であり、
B1は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は含ホウ素基であり、
B2は、水素原子であり、
B3及びRB4は、水素原子、又は炭素数1~8のアルキル基であり、
B5は、水素原子であり、
B6は、水素原子、又は炭素数1~8のアルキル基であり、
41は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示し、
42は、炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示し、
43及びR44は、それぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示し、
45は、炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示す。
但し、RA1及びRB1のうち少なくとも一つは、結合対象に対してホウ素原子を介して結合する含ホウ素基である。]
【請求項2】
A1が結合対象に対してホウ素原子を介して結合する含ホウ素基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
B1が結合対象に対してホウ素原子を介して結合する含ホウ素基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属触媒が不斉触媒であり、前記含ホウ素化合物が光学活性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属触媒が、ルテニウム触媒である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
下記式(III-1)で表される含ホウ素化合物。
【化4】

[式中、
A1は、炭素数1~8のアルキル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基及び含ホウ素基からなる群より選択される一価の基であり
A2 及びR A3 は、水素原子であり、
B1は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は含ホウ素基であり、
B2は、水素原子であり、
B3及びRB4は、水素原子、又は、炭素数1~8のアルキル基であり
B5は、水素原子であり、
B6は、炭素数1~8のアルキル基であり、
41は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示し、
42は、炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示し、
43及びR44は、それぞれ独立に炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示し、
45は、炭素数1~8のアルキル基又はアリール基を示す。
但し、RA1及びRB1のうち少なくとも一つは、結合対象に対してホウ素原子を介して結合する含ホウ素基である。
【請求項7】
A1が結合対象に対してホウ素原子を介して結合する含ホウ素基である、請求項6に記載の含ホウ素化合物。
【請求項8】
B1が結合対象に対してホウ素原子を介して結合する含ホウ素基である、請求項6に記載の含ホウ素化合物。
【請求項9】
光学活性を有する、請求項6~8のいずれか一項に記載の含ホウ素化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジエン骨格を有する含ホウ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの炭素-炭素二重結合が1つの炭素原子を隔てて結合している1,4-ジエンは、スキップジエンとも呼ばれ、生理活性物質、天然物等に多く見られる構造である。スキップジエンの構築法として、例えば、ホモアリルリンイリドとアルデヒドとのWittig反応による構築法が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Chem.Commun.2015,51,p.8034-8036
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スキップジエンは、後続反応において過酷な反応条件を適用した場合により安定な共役ジエンに簡単に異性化してしまう。このため、スキップジエン骨格を含む生理活性物質等の合成では、多段階反応の終末段階付近でスキップジエン骨格を導入することが望ましい。
【0005】
しかし、非特許文献1に記載の方法等の従来の方法では、官能基の制約、保護・脱保護による反応段階の増加といった課題があり、終末段階付近でスキップジエン骨格を導入することは困難であった。
【0006】
本発明は、多段階反応の終末段階付近で導入可能なビルディングブロックとして有用な、1,4-ジエン骨格(スキップジエン骨格)を有する含ホウ素化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、1,4-ジエン骨格を有する含ホウ素化合物の製造方法に関する。この製造方法は、炭素-炭素二重結合を有する第一の原料化合物と、共役ジエン骨格を有する第二の原料化合物と、を金属触媒の存在下で反応させて、1,4-ジエン骨格を有する含ホウ素化合物を得る工程を備える。また、この製造方法では、上記第一の原料化合物及び上記第二の原料化合物のうち少なくとも一つが、上記炭素-炭素二重結合又は上記共役ジエン骨格を構成する炭素原子に結合した含ホウ素基を有している。これにより、上記含ホウ素化合物は、上記1,4-ジエン骨格と上記含ホウ素基とを有するものとなる。
【0008】
上記製造方法によれば、1,4-ジエン骨格とそれに結合した含ホウ素基とを有する含ホウ素化合物を容易に得ることができる。このような含ホウ素化合物は、含ホウ素基を起点とする反応(例えばクロスカップリング反応)によって、1,4-ジエン骨格を容易に目的化合物に導入することができる。また、含ホウ素基は、鈴木・宮浦カップリング反応等の官能基許容性の高い反応に適用できるため、上記含ホウ素化合物は、多段階反応の終末段階付近で導入可能なビルディングブロックとして有効に利用することができる。このような考えは、合成後期多様化法と呼ばれ、共通する母体化合物から飛躍的に多くの類縁体の合成が可能になり、一定の生理活性を保った一連の類縁体が必要となる医農薬探索及び医農薬製造において重要となる。
【0009】
一態様において、上記第一の原料化合物は、下記式(I-1)で表される化合物であってよく、上記第二の原料化合物は、下記式(II-1)で表される化合物であってよく、上記含ホウ素化合物は、下記式(III-1)で表される化合物であってよい。
【化1】
【化2】
【化3】
【0010】
上記式(I-1)、(II-1)及び(III-1)中、RA1、RA2、RA3、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6は、それぞれ独立に水素原子又は一価の基を示す。但し、RA1、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6のうち少なくとも一つは含ホウ素基である。
【0011】
一態様において、上記RA1は含ホウ素基であってよい。
【0012】
一態様において、上記RB1は含ホウ素基であってよい。
【0013】
一態様において、上記RB5及び上記RB6の少なくとも一方は水素原子であってよい。
【0014】
一態様において、上記金属触媒は不斉触媒であってよく、このとき、上記含ホウ素化合物は光学活性を有するものとなってよい。
【0015】
一態様において、上記金属触媒は、ルテニウム触媒であってよい。
【0016】
本発明の他の一側面は、下記式(III-1)で表される含ホウ素化合物に関する。
【化4】
【0017】
式(III-1)中、RA1、RA2、RA3、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6は、それぞれ独立に水素原子又は一価の基を示す。但し、RA1、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6のうち少なくとも一つは含ホウ素基である。
【0018】
一態様において、上記RA1は含ホウ素基であってよい。
【0019】
一態様において、上記RB1は含ホウ素基であってよい。
【0020】
一態様に係る含ホウ素化合物は、上記RB5及び上記RB6の一方が水素原子、他方が一価の基であってよい。
【0021】
一態様に係る含ホウ素化合物は、光学活性を有していてよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多段階反応の終末段階付近で導入可能なビルディングブロックとして有用な、1,4-ジエン骨格(スキップジエン骨格)を有する含ホウ素化合物及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
<含ホウ素化合物の製造方法>
本実施形態に係る含ホウ素化合物の製造方法は、炭素-炭素二重結合を有する第一の原料化合物と、共役ジエン骨格を有する第二の原料化合物と、を金属触媒の存在下で反応させて、1,4-ジエン骨格を有する含ホウ素化合物を得る工程(1,4-ジエン形成工程)を備える。ここで、第一の原料化合物及び第二の原料化合物のうち少なくとも一つは、炭素-炭素二重結合又は共役ジエン骨格を構成する炭素原子に結合した含ホウ素基を有しており、これにより、含ホウ素化合物は、1,4-ジエン骨格と含ホウ素基とを有するものとなる。
【0025】
本実施形態に係る製造方法によれば、1,4-ジエン骨格及び含ホウ素基を有する含ホウ素化合物を容易に得ることができる。このような含ホウ素化合物は、含ホウ素基を起点とする反応(例えばクロスカップリング反応)によって、1,4-ジエン骨格を容易に目的化合物に導入することができる。また、含ホウ素基は、鈴木・宮浦カップリング反応等の官能基許容性の高い反応に適用できるため、上記含ホウ素化合物は、多段階反応の終末段階付近で導入可能なビルディングブロックとして有効に利用することができる。
【0026】
本明細書中、含ホウ素基は、ホウ素化合物におけるホウ素原子上の官能基を1つ除去した残りの原子団であってよい。すなわち、含ホウ素基は、結合対象に対して、ホウ素原子を介して結合する一価の基であってよい。
【0027】
含ホウ素基は特に限定されず、第一の原料化合物と第二の原料化合物との反応が進行する範囲で適宜選択できる。含ホウ素基としては、例えば、ボリル基、ボロノ基、ボラート基、及び、これらの誘導体基が挙げられる。
【0028】
ボリル基は、-BHで表される基を示す。ボリル基の誘導体基としては、例えば、ジオルガノボリル基が挙げられる。
【0029】
ジオルガノボリル基は、例えば、-B(R21で表される基であってよい。R21は一価の基を示す。2つのR21は同一でも異なっていてもよく、互いに連結してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。R21は、例えば、一価の有機基であってよく、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってもよい。
【0030】
21におけるアルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。R21におけるアルキル基の炭素数は特に限定されず、例えば1~8であってよい。
【0031】
21におけるアリール基は、芳香族化合物から芳香環上の水素原子を一つ除去した残りの原子団を示す。芳香族化合物が有する芳香環は、単環であっても縮合環であってもよく、複素環であってもよい。芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、フラン、ピロール、チオフェン、ピリジン等が挙げられる。
【0032】
21におけるアルキル基及びアリール基が有していてもよい置換基は、第一の原料化合物と第二の原料化合物との反応が進行する範囲であれば特に限定されない。当該置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、エステル基、アミノ基、チオール基等が挙げられる。
【0033】
ジオルガノボリル基の具体例としては、例えば、ジフェニルボリル基、ジシクロへキシル基、ビシクロ[3.3.1]ノナン-1,5-ジイル基、ジシアミル基等が挙げられる。
【0034】
ボロノ基は、-B(OH)で表される基を示す。ボロノ基の誘導体基としては、例えば、例えば、ボロナト基、保護されたボロノ基等が挙げられる。
【0035】
ボロナト基は、例えば、-B(OR22で表される基であってよい。R22は一価の基を示す。2つのR22は同一でも異なっていてもよく、互いに連結してホウ素原子及び酸素原子と共に環を形成していてもよい。R22は、例えば、一価の有機基であってよく、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってもよい。R22におけるアルキル基、アリール基及びこれらが有していてよい置換基としては、R21におけるアルキル基、アリール基及びこれらが有していてよい置換基と同じものが例示できる。
【0036】
ボロナト基の具体例としては、例えば、ジイソプロピルボロナト基、ジtert-ブチルボロナト基等が挙げられる。
【0037】
保護されたボロノ基は特に限定されず、例えば、ボロノ基の保護として公知の方法により保護された基であってよい。
【0038】
保護されたボロノ基としては、例えば、ジオール、ジアミン、ジカルボン酸等の2官能化合物とボロノ基との反応により形成される基が挙げられる。ジオールとしては、例えば、ピナコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ピナンジオール、1、2―ジシクロへキシルジオール等が挙げられる。ジアミンとしては、例えば、1,8-ジアミノナフタレン等が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、N-メチルイミノ二酢酸等が挙げられる。
【0039】
また、保護されたボロノ基としては、トリオールボラート基等のボラート基も例示できる。トリオールボラート基は、トリオールとボロノ基との反応により形成される。トリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン(1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタン)等が挙げられる。ボラート基の対カチオンは特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、オルガノホスフォニウムイオン(PR )等であってよい。
【0040】
ボラート基としては、上述のトリオールボラート基に加え、トリフルオロボラート基(-BF )等が例示できる。ボラート基の対カチオンは特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、オルガノホスフォニウムイオン(PR )等であってよい。
【0041】
金属触媒は、炭素-炭素二重結合と共役ジエンとの反応によって1,4-ジエン骨格を形成できる触媒であればよい。
【0042】
金属触媒としては、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも一種を含む触媒が好ましく、ルテニウム及びコバルトを含む触媒がより好ましく、ルテニウムを含む触媒(ルテニウム触媒)が更に好ましい。
【0043】
ルテニウム触媒は、後述する反応機構によって第一の原料化合物と第二の原料化合物とを効率良く反応させることができる観点から、反応系中で0価のルテニウム(Ru(0))を形成可能な触媒であることが好ましい。すなわち、上記1,4-ジエン形成工程は、第一の原料化合物と第二の原料化合物とをRu(0)の存在下で反応させる工程であってよい。
【0044】
上記1,4-ジエン形成工程の反応機構の一例について以下に説明する。なお、以下の例では、第一の原料化合物として1置換ブタジエン、第二の原料化合物として1置換エチレン、金属触媒として[(ナフタレン)(1,5-シクロオクタジエン)ルテニウム]を用いて反応機構を説明しているが、本発明はこれらに限定されない。以下の例において、RA1及びRB1は少なくとも一方が含ホウ素基であり、両方が含ホウ素基であってもよい。また、1,4-ジエン形成工程の反応機構は以下の例に限定されない。
【0045】
【化5】
【0046】
上記反応機構では、ルテニウム触媒から解離容易なナフタレン配位子が解離し、代わりに第一の原料化合物及び第二の原料化合物がルテニウム上に配位する。次いで、酸化的カップリング機構により、炭素-炭素結合が形成されて、ルテニウム原子を含む環状中間体(メタラサイクル)が生じ、更にβ-ヒドリド脱離及び還元的脱離により1,4-ジエン骨格を有する含ホウ素化合物が生成する。
【0047】
反応系中でRu(0)を形成可能な触媒としては、例えば、Ru(0)を有する0価ルテニウム錯体、Ru(II)を有する2価ルテニウム錯体等が挙げられる。
【0048】
0価ルテニウム錯体としては、例えば、[(ナフタレン)(1,5-シクロオクタジエン)ルテニウム(0)]、[(ナフタレン)(ジベンゾシクロオクタテトラエン)ルテニウム(0)]、[(ブタジエン)(1,5―シクロオクタジエン)(アセトニトリル)ルテニウム(0)]等が挙げられる。
【0049】
2価ルテニウム錯体としては、例えば、[ビス(アセチルアセトナト)(1,5-シクロオクタジエン)ルテニウム(II)]、[テトラクロロジ(アニソール)二ルテニウム]等が挙げられる。2価ルテニウム錯体は、反応系中で還元されてRu(0)を形成してよい。2価ルテニウム錯体は、反応基質(第一の原料化合物及び/又は第二の原料化合物)との反応によって還元されてよく、ルテニウム錯体同士の反応によって還元されてよく、別途添加された還元剤との反応によって還元されてもよい。還元剤としては、例えば、ブチルリチウム、水素化アルミニウムリチウム、ナトリウムナフタレン、炭酸ナトリウムとイソプロピルアルコールの組み合わせ等が挙げられる。
【0050】
なお、ルテニウム触媒の種類は上記のものに限定されず、メタラサイクルを形成可能な触媒であればよい。例えば、ルテニウム触媒は、メタラサイクル形成時に4価のルテニウム(Ru(IV))を形成する触媒であってもよい。すなわち、ルテニウム触媒は、反応系中で4価のルテニウム(Ru(IV))を含むメタラサイクルを形成可能な触媒であってもよい。
【0051】
また、ルテニウム触媒としては、不斉触媒を用いることもできる。不斉触媒は、光学活性を有する配位子を含む触媒であってよい。光学活性を有する配位子としては、例えば、置換基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプタジエン、置換基を有するビシクロ[2.2.2]オクタジエン、置換基を有するビシクロ[3.3.1]ノナジエン等が挙げられる。これらの配位子を有する不斉触媒の具体例としては、例えば、下記式(IV-1)で表される化合物、下記式(IV-2)で表される化合物、下記式(IV-3)で表される化合物及び下記式(IV-4)で表される化合物等が挙げられる。なお、下記不斉触媒において、ナフタレン配位子は、ルテニウム触媒から解離し易い他の配位子であってよい。
【0052】
【化6】
【0053】
コバルト錯体としては、反応系中で、反応系中で1価のコバルト(Co(I))又は0価のコバルト(Co(0))を形成可能な触媒が好ましい。このような触媒としては、例えば、Co(II)を有する2価コバルト錯体等が挙げられる。2価コバルト錯体は、還元剤と併用されてよい。還元剤としては、上記と同様のものが例示できる。また、還元剤としては、金属亜鉛、活性化マグネシウム等の金属還元剤を用いることもできる。
【0054】
また、コバルト錯体としては、不斉触媒を用いることもできる。不斉触媒は、光学活性を有する配位子を含む触媒であってよい。光学活性を有する配位子としては、例えば、Binap、Pinap、Segphos、DuPhos、QuinoxP、ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、ホスホロアミダイト等の光学活性リン化合物等が挙げられる。
【0055】
含ホウ素化合物は、2つの炭素-炭素二重結合を隔てる炭素原子が不斉炭素原子となってよく、この場合、金属触媒として不斉触媒を用いることで、光学活性を有する含ホウ素化合物を得ることができる。
【0056】
金属触媒の量は特に限定されず、第一の原料化合物に対して、例えば0.01mol%以上であってよく、好ましくは1mol%以上、より好ましくは5mol%以上である。また、金属触媒の量は、第一の原料化合物に対して、例えば30mol%以下であってよく、好ましくは20mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。
【0057】
1,4-ジエン形成工程において、第一の原料化合物と第二の原料化合物との反応は、無溶媒で行ってよく、有機溶媒中で行ってもよい。有機溶媒の種類は特に限定されず、第一の原料化合物及び第二の原料化合物を溶解可能な溶媒であればよい。有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、第一の原料化合物と第二の原料化合物との反応を阻害し難い観点からはテトラヒドロフラン、アセトン、ベンゼン、トルエン等が好ましい。
【0058】
有機溶媒の量は特に限定されず、第一の原料化合物及び第二の原料化合物の合計100質量部に対して、例えば100質量部以上であってよく、好ましくは1000質量部以上であり、例えば100000質量部以下であってよく、好ましくは10000質量部以下である。
【0059】
1,4-ジエン形成工程において、反応温度は特に限定されず、例えば0~100℃であってよい。また、反応時間は特に限定されず、反応基質及び触媒の種類、所望の収量等に応じて適宜調整してよい。反応時間は、例えば0.1~72時間であってよく、好ましくは1~24時間である。
【0060】
好適な態様において、第一の原料化合物は、下記式(I-1)で表される化合物(以下、化合物(I-1)ともいう。)であってよく、第二の原料化合物は、下記式(II-1)で表される化合物(以下、化合物(II-1)ともいう。)であってよい。このような第一の原料化合物及び第二の原料化合物を用いることで、含ホウ素化合物として下記式(III-1)で表される化合物(以下、化合物(III-1)ともいう。)が得られる。
【0061】
【化7】
【化8】
【化9】
【0062】
上記式(I-1)、(II-1)及び(III-1)中、RA1、RA2、RA3、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6は、それぞれ独立に水素原子又は一価の基を示す。但し、RA1、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6のうち少なくとも一つは含ホウ素基である。
【0063】
B5とRB6とは異なる基であってよく、このとき、化合物(III-1)は不斉炭素原子を有するものとなってよい。
【0064】
A1における一価の基は特に限定されず、化合物(I-1)と化合物(II-1)との反応が進行する範囲で適宜選択できる。RA1における一価の基は、例えば、一価の有機基又はハロゲノ基であってよい。
【0065】
A1は、例えば、水素原子、ハロゲノ基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基、含ホウ素基等であってよく、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0066】
A1におけるハロゲノ基は、フルオロ基(-F)、クロロ基(-Cl)、ブロモ基(-Br)又はヨード基(-I)であってよく、好ましくはフルオロ基(-F)、クロロ基(-Cl)又はブロモ基(-Br)である。
【0067】
A1におけるアルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。RA1におけるアルキル基の炭素数は特に限定されず、例えば1~8であってよい。
【0068】
A1におけるアルケニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。RA1におけるアルケニル基の炭素数は特に限定されず、例えば1~8であってよい。
【0069】
A1におけるアリール基は、芳香族化合物から芳香環上の水素原子を一つ除去した残りの原子団を示す。芳香族化合物が有する芳香環は、単環であっても縮合環であってもよく、複素環であってもよい。芳香族化合物としては、ベンゼン、ナフタレン、チオフェン等が挙げられる。
【0070】
A1におけるアルキル基、アルケニル基及びアリール基が有していてもよい置換基は、第一の原料化合物と第二の原料化合物との反応が進行する範囲であれば特に限定されない。当該置換基としては、例えば、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシル基、ホルミル基、カルボニル基、アミノ基、ハロゲノ基等が挙げられる。
【0071】
41は水素原子又は一価の基を示す。R41は、例えば、水素原子又は一価の有機基であってよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってよい。
【0072】
42は水素原子又は一価の基を示す。R42は、例えば、水素原子又は一価の有機基であってよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってよく、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってよい。
【0073】
43及びR44は、それぞれ独立に水素原子又は一価の基を示す。R43及びR44における一価の基は、例えば一価の有機基であってよく、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってよい。
【0074】
45は水素原子又は一価の基を示す。R45は、例えば、水素原子又は一価の有機基であってよく、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってよく、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であってよい。
【0075】
41、R42、R43、R44及びR45におけるアルキル基、アリール基及びこれらが有していてよい置換基としては、上述のRA1におけるアルキル基、アリール基及びこれらが有していてよい置換基と同じものが例示できる。
【0076】
A2及びRA3における一価の基は特に限定されず、化合物(I-1)と化合物(II-1)との反応が進行する範囲で適宜選択できる。RA2及びRA3における一価の基は、例えば、一価の有機基又はハロゲノ基であってよい。RA2及びRA3は、例えば、水素原子、ハロゲノ基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基、含ホウ素基等であってよく、これらの基は置換基を有していてもよい。RA2及びRA3における各基としては、上述のRA1における各基と同じものが例示できる。
【0077】
化合物(I-1)において、RA1は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基又は含ホウ素基であることが好ましい。
【0078】
化合物(II-1)が含ホウ素基を有しないとき(RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6がいずれも含ホウ素基でないとき)、RA1は含ホウ素基であることが好ましい。RA1が含ホウ素基であると、1,4-ジエン骨格の末端に含ホウ素基が結合した構造を有する含ホウ素化合物が得られる。
【0079】
また、化合物(II-1)が含ホウ素基を有するとき(RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6のうち少なくとも一つが含ホウ素基であるとき)、RA1は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、又は、含ホウ素基であることが好ましい。このとき、RA1の含ホウ素基として、化合物(II-1)が有する含ホウ素基と異なる含ホウ素基を選択すると、反応性の違いを利用して含ホウ素基毎に異なる反応を実施でき、化合物の構築により有用となる。
【0080】
また、化合物(I-1)において、RA2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基又は-OR45で表される基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0081】
また、化合物(I-1)において、RA3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基又は-OR45で表される基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0082】
B1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6における一価の基は特に限定されず、化合物(I-1)と化合物(II-1)との反応が進行する範囲で適宜選択できる。RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6における一価の基は、例えば、一価の有機基又はハロゲノ基であってよい。RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6は、例えば、水素原子、ハロゲノ基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基、含ホウ素基等であってよく、これらの基は置換基を有していてもよい。RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6における各基としては、上述のRA1における各基と同じものが例示できる。
【0083】
化合物(II-1)において、RB1は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基又は含ホウ素基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アルケニル基又は含ホウ素基であることがより好ましい。
【0084】
化合物(I-1)が含ホウ素基を有しないとき(RA1、RA2及びRA3がいずれも含ホウ素基でないとき)、RB1は、含ホウ素基であることが好ましい。RB1が含ホウ素基であると、1,4-ジエン骨格と含ホウ素基とが炭素原子を一つ隔てて結合した構造を有する含ホウ素化合物が得られる。
【0085】
また、化合物(I-1)が含ホウ素基を有するとき(RA1、RA2及びRA3のうち少なくとも一つが含ホウ素基であるとき)、RB1は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基又は含ホウ素基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アルケニル基又は含ホウ素基であることがより好ましい。このとき、RB1の含ホウ素基として、化合物(I-1)が有する含ホウ素基と異なる含ホウ素基を選択すると、反応性の違いを利用して含ホウ素基毎に異なる反応を実施でき、化合物の構築により有用となる。
【0086】
化合物(II-1)において、RB2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基又は含ホウ素基であることが好ましく、水素原子、アルキル基又はアルケニル基であることがより好ましい。
【0087】
化合物(II-1)において、RB3及びRB4は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基又は含ホウ素基であることが好ましく、水素原子、アルキル基又はアルケニル基であることがより好ましい。
【0088】
化合物(II-1)において、RB5及びRB6は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-C(=O)R41で表される基、-C(=O)OR42で表される基、-C(=O)NR4344で表される基、-OR45で表される基又は含ホウ素基であることが好ましい。また、RB5及びRB6のうち少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。RB5とRB6とは異なる基であってよく、このとき、化合物(III-1)は、RB5及びRB6に結合する炭素原子が、不斉炭素原子となってよい。
【0089】
好適な一態様において、RB5及びRB6は、一方が水素原子、他方が一価の基であってよく、一方が水素原子、他方がアルキル基であってもよい。
【0090】
<含ホウ素化合物>
本実施形態に係る含ホウ素化合物は、上述の製造方法により製造される化合物であり、1,4-ジエン骨格と、当該1,4-ジエン骨格に直接又は炭素原子1つを介して結合した含ホウ素基と、を有する。
【0091】
本実施形態に係る含ホウ素化合物としては、式(III-1)で表される含ホウ素化合物(化合物(III-1))が挙げられる。
【0092】
【化10】
【0093】
式中のRA1、RA2、RA3、RB1、RB2、RB3、RB4、RB5及びRB6は、それぞれ上記と同じであってよい。
【0094】
好適な一態様として、RA1は含ホウ素基であってよい。これにより、含ホウ素化合物は、1,4-ジエン骨格を直接導入可能なビルディングブロックとして有効に用いることができる。
【0095】
好適な他の一態様として、RB1は含ホウ素基であってよい。これにより、含ホウ素化合物は、炭素原子一つを隔てて1,4-ジエン骨格を導入可能なビルディングブロックとして有効に用いることができる。
【0096】
また、化合物(III-1)において、RB5及びRB6は、一方が水素原子、他方が一価の基であってよく、一方が水素原子、他方がアルキル基であってもよい。このような化合物(III-1)は、公知の方法で製造することが難しい。また、このような化合物(III-1)は、光学活性を有する化合物となる場合、生物活性物質等の合成中間体としての有用性も高い。
【0097】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0098】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-1)の合成を行った。
【化11】
【0100】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(10.0μL、0.0590mmol)及び1,3-ペンタジエン(6.0μL、0.060mmol)をベンゼン-d(0.5mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(cod)]([(ナフタレン)(1,5-シクロオクタジエン)ルテニウム(0)])(1.6mg、0.0047mmol)を加えた。30℃にて1時間反応させたところ、(1E,4Z)-3-メチル-1,4-ヘキサジエニルボロン酸ピナコールエステル(含ホウ素化合物(B-1))が収率91%で生成した。なお、含ホウ素化合物の生成は、H-NMR測定、13C-NMR測定及び高分解能質量分析により確認した。測定結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,C,r.t.):δ 0.99(d,3H,J=6.4Hz),1.07(s,12H),1.42(dd,3H,J=6.8,1.7Hz),3.18(sext,1H,J=7.4Hz),5.23(dq,1H,J=10,7Hz),5.36(ddq,1H,J=10,9,1.7Hz),5.79(dd,1H,J=17.8,1.7Hz),6.93(dd,1H,J=17.8,5.7Hz).
13C{H} NMR(100MHz,C,r.t.):δ 12.92(s),20.12(s),24.91(s),37.34(s),82.90(s),123.83(s),126.02(s),133.80(s),157.87(s).
HRMS (APCI):m/z calcd for C1323BO+H: 223.1866 [M+H]; found:223.1864.
【0101】
(実施例2)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-2)の合成を行った。
【化12】
【0102】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(10.0μL,0.0590mmol)及びイソプレン(6.0μL,0.060mmol)をベンゼン-d(0.5mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(cod)](1.4mg,0.0042mmol)を加えた。30℃にて17時間反応させたところ、(1E)-5-メチル-1,4-ヘキサジエニルボロン酸ピナコールエステル(含ホウ素化合物(B-2))が収率51%で生成した。H-NMR測定、13C-NMR測定及び高分解能質量分析の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,C,r.t.):δ 1.08(s,12H),1.40(s,3H),1.56(s,3H),2.77(t,2H,J=6.3Hz),5.16(tq,1H,J=6.8,1.1Hz),5.82(dt,1H,J=17.8,1.7Hz),6.95(dt,1H,J=17.8,6.3Hz).
13C{H} NMR(100MHz,CDCl,r.t.):δ 17.66(s),24.77(s),25.69(s),34.28(s),83.01(s),118.17(br.s),120.44(s),133.49(s),152.77(s).
HRMS (APCI):m/z calcd for C1323BO+H: 223.1866[M+H]; found:223.1865.
【0103】
(実施例3)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-3)の合成を行った。
【化13】
【0104】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(22.0μL,0.130mmol)をベンゼン-d(0.5mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(cod)](4.8mg,0.014mmol)を加えた。凍結脱気し、減圧下においてブタジエン(2.94mL,0.13mmol)加え、50℃にて24時間反応させたところ、(1E,4E)-1,4-ヘキサジエニルボロン酸ピナコールエステル(含ホウ素化合物(B-3))が収率24%で生成した。H-NMR測定、13C-NMR測定及び高分解能質量分析の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,C,r.t.):δ 1.07(s,12H),1.40(d,3H,J=4.6Hz),2.78(t,2H,J=5.8Hz),5.40-5.46(m,2H),5.81(d,1H,J=17.8Hz),6.93(dt,1H,J=17.8,5.7Hz).
13C{H} NMR(100MHz,C,r.t.):δ 12.67(s),24.89(s),33.40(s),82.90(s),119.64(br.s),125.66(s),126.86(s),152.36(s).
HRMS (APCI):m/z calcd for C1221BO+H:209.1710[M+H]; found:209.1709.
【0105】
(実施例4)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-4)の合成を行った。
【化14】
【0106】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(100μL,0.59mmol)及びβ-オシメン(100μL,0.59mmol)をテトラヒドロフラン中(3mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(dbcot)](5.5mg,0.013mmol)を加えた。30℃にて7時間反応させ、反応後にシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、(1E)-3-(2-ブテニル)-6-メチル-1,5-へプタジエニルボロン酸ピナコールエステル(含ホウ素化合物(B-4))が収率67%で生成した。H-NMR測定、13C-NMR測定及び高分解能質量分析の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ 1.07(s,12H),1.49(s,3H),1.58(s,6H),1.66(d,3H,J=9.2Hz),2.19(dt,1H,J=14,7.4Hz),2.27(dt,1H,J=14,7.4Hz),3.43(q,1H,J=6.9Hz),5.14(t,1H,J=5.7Hz),5.83(dd,1H,J=17.8,1.7Hz),7.00(dd,1H,J=18.4,6.3Hz).
13C{H} NMR(100MHz,CDCl,r.t.):δ 12.98(s),17.90(s),19.13(s),24.78(s),25.75(s),29.83(s),45.55(s),83.02(s),117.55(br.s),121.06(s),122.34(s),132.17(s),135.91(s),155.35(s).
HRMS (APCI):m/z calcd for C1831BO+H:291.2493[M+H]; found:291.2494.
【0107】
(実施例5)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-5)の合成を行った。
【化15】
【0108】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(10.0μL,0.059mmol)及び3,4-ジメチル-2,5-ヘキサジエン(7.4μL,0.059mmol)をベンゼン-d(0.5mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(cod)](1.9mg,0.0056mmol)を加えた。50℃にて24時間反応させたところ、(1E,4Z)-3-メチル-1,4-へプタジエニルボロン酸ピナコールエステル(含ホウ素化合物(B-5))が収率35%で生成した。H-NMR測定、13C-NMR測定及び高分解能質量分析の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,C,r.t.):δ 0.82(t,3H,J=7.6Hz),0.99(d,3H,J=6.9Hz),1.07(s,12H),1.89(dq,2H,J=7.4,1.5Hz),3.18(sext,1H,J=6.9Hz),5.19(ddt,1H,J=9.2,7.7,1.4Hz),5.31(dtd,1H,J=10.7,7.2,0.9Hz),5.80(dd,1H,J=18,1.6Hz),6.94(dd,1H,J=18,6.1Hz).
13C{H} NMR(100MHz,CDCl,r.t.):δ 14.38(s),20.16(s),20.72(s),24.75(s),37.21(s),83.02(s),115.89(br.s),131.37(s),131.88(s),157.78(s).
HRMS (APCI):m/z calcd for C1425BO+H:237.2023[M+H]; found:237.2016.
【0109】
(実施例6)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-6)の合成を行った。
【化16】
【0110】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(10.0μL,0.059mmol)及び1,3-ペンタジエン(6.0μL,0.059mmol)をベンゼン-d(0.5mL)に溶解し、下記式(IV-1)で表されるRu触媒(0.3mg,0.5μmol)を加えた。30℃にて4時間反応させたところ、含ホウ素化合物(B-6)を、収率20%、不斉収率70%eeで得た。なお、不斉収率は、ラセミサンプル及び生成物サンプルをそれぞれ光学異性体分割カラム(「Rt-βDEXsm」、島津ジーエルシー社製)で分離した分離結果から求めた。また、H-NMR測定の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,C,r.t.):δ 0.99(d,3H,J=6.4Hz),1.07(s,12H),1.42(dd,3H,J=6.8,1.7Hz),3.18(br.sext,1H,J=7Hz),5.23(dq,1H,J=10,7Hz),5.36(ddq,1H,J=10,9,1.7Hz),5.79(dd,1H,J=17.8,1.7Hz),6.93(dd,1H,J=17.8,5.7Hz).
【化17】
【0111】
(実施例7)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-7)の合成を行った。
【化18】
【0112】
具体的には、アクリル酸メチル(9.1μL,0.1mmol)及び(1E,3E)-1,3-ペンタジエニルボロン酸ピナコールエステル(17.6μL,0.10mmol)をベンゼン-d(0.5mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(cod)](3.0mg,0.0089mmol)を加えた。30℃にて1時間反応させたところ、収率41%で含ホウ素化合物(B-7)を得た。H-NMR、13C-NMR測定の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,C,r.t.):δ 0.88(d,3H,J=6.9Hz),1.0-1.06(s,12H),1.71(t,2H,J=7.4Hz),3.12-3.20(sext,1H,J=6.9Hz)3.3-3.40(s,3H),5.08(ddt,1H,J=10.3,9.16Hz),5.68(dt,1H,J=9.8,8Hz),5.93(dd,1H,J=16,1.7Hz),7.05(dd,1H,J=16,6.3Hz).
13C{H} NMR(100MHz,CDCl,r.t.):δ 19.74(s),24.70(s),34.25(s),51.36(s),77.20(s),83.34(s),118.86(s),125.46(s),130.87(s),152.83(s),167.42(s).
【0113】
(実施例8)
下記方法により、含ホウ素化合物(B-1)及び(B-1’)の合成を行った。
【化19】
【0114】
具体的には、窒素置換した25mLシュレンクにCHCl(1mL)、1,3-ペンタジエン(100μL,1.00mmol)及びビニルボロン酸ピナコールエステル(170μL,0.99mmol)を加えた。次いで、[CoBr(dppp)](39.55mg,0.06266mmol)、ZnI(71.60mg,0.2243mmol),Zn(18.0mg,0.2753 mmol)を加えて、室温(30℃)で4時間反応させた。反応溶液にエーテルを加え、不溶性物質をチューブろ過にて取り除き、溶媒を留去した。その後、ショートカラム及びGPCで精製し、含ホウ素化合物(B-1)((1E,4Z)体,186.1mg,82%)及び含ホウ素化合物(B-1’)((1Z,4Z)体,41.9mg,18%)を定量的に得た。
含ホウ素化合物(B-1)のH-NMR測定の結果は上記のとおりであった。
また、含ホウ素化合物(B-1’)のH-NMR測定の結果は以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ 0.99(d,3H,J=6.8Hz),1.24(s,12H),1.65(d,3H,J=6.4,2Hz),4.01(sext,1H,J=6.8Hz),5.18(d,1H,J=13.2Hz),5.22(ddq,1H,J=10.4,9.2,1.2Hz),5.35(dq,J=10.4,6.8,1H),6.20(dd,1H,J=13.2,10.4Hz).
【0115】
(参考実施例1)
下記方法により、含ホウ素化合物を経た1,4-ジエン骨格含有化合物の合成を行った。
【化20】
【0116】
具体的には、ビニルボロン酸ピナコールエステル(100μL,0.59mmol)及び1,3-ペンタジエン(60μL,0.60mmol)をTHF(4mL)に溶解し、[Ru(naphthalene)(cod)](10.1mg,0.030mmol)を加えた。30℃にて3時間反応させた。そこへ炭酸セシウム(385.9mg,1.184mmol)、Pd(PPh(35.0mg,0.030mmol)及びヨードベンゼン(65μL,0.59mmol)を加えた。60℃にて6時間反応させたところ、収率81%で目的の化合物を得た。得られた化合物のH-NMR測定の結果は以下のとおりであった。
HNMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ 1.16(d,3H,J=6.3Hz),1.68(dd,3H,J=6.9,1.7Hz),3.36(sext,1H,J=7.4Hz),5.33(ddq,1H,J=10.9,9.2,1.7Hz),5.50(dq,1H,J=10.9,6.9Hz),6.17(dd,1H,J=16.0,6.3Hz),6.36(d,1H,J=16Hz),7.18(t,1H,J=6.9Hz),7.29(t,2H,J=6.9Hz),7.35(d,2H,J=7.4Hz).
【0117】
参考実施例1により、本発明に係る含ホウ素化合物が、カップリング反応によって1,4-ジエン骨格を導入可能なビルディングブロックとして有用であることが確認された。