(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】蓄熱用吸着器
(51)【国際特許分類】
F25B 17/08 20060101AFI20241213BHJP
F25B 37/00 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
F25B17/08 B
F25B37/00
(21)【出願番号】P 2021119940
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】秋田 智行
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
(72)【発明者】
【氏名】神谷 啓志
(72)【発明者】
【氏名】深澤 義宏
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-107075(JP,A)
【文献】特開平08-000992(JP,A)
【文献】特表2006-517901(JP,A)
【文献】特開昭51-84789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 17/08
F25B 37/00
F28D 20/00
B01D 53/04 ~ 53/12
B01J 20/00 ~ 20/34
B32B 1/00 ~ 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着質を吸着材に吸着することで冷熱又は温熱を蓄熱する蓄熱用吸着器において、
熱媒体が流動する伝熱管の外周に、前記吸着材が網目状に複数段、積層されて吸着層が形成されているとともに、同じ段の前記吸着材は同方向に互いに間隙を介して並行して配置され、隣接する段の吸着材は互いに異なる方向に配置されている、蓄熱用吸着器。
【請求項2】
前記吸着材の線径をw(mm)及び前記吸着層の厚さをH(mm)としたとき、
0.95≦w≦1.47、かつ、13≦H≦(1100w-161)/52、又は、
1.47<w≦3.2、かつ、13≦H≦28、
である、請求項1に記載の蓄熱用吸着器。
【請求項3】
前記吸着材の線径w(mm)が
1.1≦w≦2.8
であり、
前記吸着層の厚さH(mm)が
16≦H≦21
である、請求項2に記載の蓄熱用吸着器。
【請求項4】
前記間隙は500μm以下である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の蓄熱用吸着器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱用吸着器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸発した吸着質、たとえば水、を吸着したり脱着したりする吸着材を含む吸着器が知られている。たとえば、下記特許文献1には、板状に形成されている複数の吸着体の間に配置されている流路に、吸着体に吸着される作動媒体を流通させる技術が開示されている。また、下記特許文献2には、板状の吸着体に形成されている複数の穴に作動流体を流通させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6045413号公報
【文献】特許第5900391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の吸着器では、熱交換媒体が流動する伝熱管の外周に、吸着材を充填して固めた吸着層を有している。この吸着層では、吸着材はランダムに充填されている。このような従来の吸着器において、吸着質の吸着を、たとえば1時間のような比較的長時間にわたって行うことで吸着量を増大させるようとするために、吸着層の厚みを増大させることが行われる。しかし、このような充填構造の吸着層の場合、吸着層の厚みを増大させるにつれて、熱抵抗及び吸着質の輸送抵抗の両方が増大することで、吸着材の利用率が却って低下することとなる。
【0005】
本開示は、吸着質を吸着材に吸着することで冷熱又は温熱を蓄熱する蓄熱用吸着器において、比較的長時間の吸着に適した吸着材の構造を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第一の実施態様は、吸着質を吸着材に吸着することで冷熱又は温熱を蓄熱する蓄熱用吸着器において、熱媒体が流動する伝熱管の外周に、前記吸着材が網目状に複数段、積層されているとともに、同じ段の前記吸着材は同方向に並行して配置され、隣接する段の吸着材は互いに異なる方向に配置されている。
【0007】
すなわち、吸着材が網目状に複数段、積層されているとともに、同じ段の前記吸着材は同方向に並行して配置され、隣接する段の吸着材は互いに異なる方向に配置されているので、吸着材の間に吸着質の移動経路となる流路が設けられることになる。この流路によって、吸着質の移動抵抗が低下するので、吸着層の厚みを増大させても熱抵抗の増大をもたらすことがない。
【0008】
本開示の第二の実施態様の蓄熱用吸着器は、第一の実施態様の構成に加え、前記吸着材の線径をw(mm)及び前記吸着層の厚さをH(mm)としたとき、
0.95≦w≦1.47、かつ、13≦H≦(1100w-161)/52、又は、
1.47<w≦3.2、かつ、13≦H≦28、
である。
【0009】
ここで、上記関係式において、吸着材の線径wと吸着層の厚さHとの間には、
H=nw(ただし、nは2以上の自然数)
の関係がある。すなわち、線径wの吸着材がn段積層されることで、厚さHの吸着層が形成される。
【0010】
吸着材の線径wと、吸着層の厚さHとが上記関係を満たす場合、このような吸着層を有する蓄熱用吸着器では、長時間、たとえば1時間かけて吸着質を吸着するときに、吸着材の利用率が向上するとともに、冷熱又は温熱を放出する際の出力が増大する。
【0011】
本開示の第三の実施態様の蓄熱用吸着器は、第二の実施態様の構成に加え、前記吸着材の線径w(mm)が
1.1≦w≦2.8
であり、
前記吸着層の厚さH(mm)が
16≦H≦21
である。
【0012】
吸着材の線径wと、吸着層の厚さHとが上記関係を満たす場合、このような吸着層を有する蓄熱用吸着器では、長時間、たとえば1時間かけて吸着質を吸着するときに、吸着材の利用率がさらに向上するとともに、冷熱又は温熱を放出する際の出力がさらに増大する。
【0013】
本開示の第四の実施態様は、第一から第三までのいずれかの実施態様の構成に加え、隣接する前記吸着材の間の間隙は500μm以下である。
【0014】
吸着材間の間隙を500μm以下とすることで、気体性状の吸着質が吸着層内で移動する経路が確保できるため、吸着層の表面のみならず内部での吸着材の利用率が向上する。なお、吸着材管の間隙の下限値は、0μmを上回る値であれば特に限定はされないが、吸着質の移動を確保する観点から、50μm以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の実施態様は上記のように構成されているので、吸着質を吸着材に吸着することで冷熱又は温熱を蓄熱する蓄熱用吸着器において、比較的長時間の吸着に適した吸着材の構造が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の吸着層を備える吸着式ヒートポンプの模式図である。
【
図4】吸着材が7段積層された場合の厚さHの吸着層について、(A)平均冷熱出力(VCP)、(B)総蓄熱密度(Q)及び(C)吸着材の利用率(X)の値を測定したグラフである。
【
図5】吸着材が10段積層された場合の厚さHの吸着層について、(A)平均冷熱出力(VCP)、(B)総蓄熱密度(Q)及び(C)吸着材の利用率(X)の値を測定したグラフである。
【
図6】吸着材が13段積層された場合の厚さHの吸着層について、(A)平均冷熱出力(VCP)、(B)総蓄熱密度(Q)及び(C)吸着材の利用率(X)の値を測定したグラフである。
【
図7】比較例の吸着層について、(A)平均冷熱出力(VCP)、(B)総蓄熱密度(Q)及び(C)吸着材の利用率(X)の値を測定したグラフである。
【
図8】吸着材の線径wと吸着層の厚さHとに対する平均冷熱出力(VCP)の計算結果を示すコンター図である。
【
図9】吸着材の線径wと吸着層の厚さHとに対する吸着材の利用率(X)の計算結果を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)実施形態の概略構成
図1は、実施形態の吸着層20を備える吸着式ヒートポンプ10の模式図である。吸着式ヒートポンプ10は、2つの蓄熱用吸着器6、7と、2つの蒸発凝縮器8、9と、これらを接続する接続配管3a、3b、3c、3dと、接続配管3a、3b、3c、3dにそれぞれ配置される複数のバルブ4a、4b、4c、4dと、図示しない制御部と、を備える。吸着式ヒートポンプ10は、2組の蓄熱用吸着器6、7と蒸発凝縮器8、9との組み合わせを利用して、温熱から冷熱を発生させる。
【0018】
蓄熱用吸着器6、7はそれぞれ、反応容器6a、7aと、反応容器6a、7aの内部に収容されている吸着体1と、反応容器6a、7aの内部において熱媒体を流通させる熱交換器5と、を備える。吸着体1は、蒸発凝縮器8、9において発生する吸着質の蒸気、たとえば、水蒸気を吸着する。また、水蒸気を吸着している吸着体1は、熱交換器5を流れる熱媒体、たとえば、温水の熱を用いて水蒸気を脱離する。換言すると、蓄熱用吸着器6、7は、吸着質を、吸着体1を構成する吸着材25(
図3参照)に吸着することで冷熱又は温熱を蓄熱する。
【0019】
蒸発凝縮器8、9はそれぞれ、熱媒体が流れる配管8a、9aと、吸着体1に吸着される吸着質、たとえば、水を貯留する貯留容器8b、9bと、を有する。蒸発凝縮器8、9では、接続する蓄熱用吸着器6、7のモードに応じて、貯留容器8b、9b内の吸着質が蒸発するときの気化熱によって配管8a、9aを流れる熱媒体が冷却されたり、貯留容器8b、9b内の吸着質の蒸気が凝縮されて液体に戻されたりする。
【0020】
次に、
図1の吸着式ヒートポンプ10の作用について説明する。
図1に示す状態では、制御部からの指令によって、蓄熱用吸着器6と蒸発凝縮器8とを接続する接続配管3aに配置されるバルブ4aと、蓄熱用吸着器7と蒸発凝縮器9とを接続する接続配管3bに配置されているバルブ4bとが開けられており、蓄熱用吸着器6と蒸発凝縮器9とを接続する接続配管3cに配置されるバルブ4cと、蓄熱用吸着器7と蒸発凝縮器8とを接続する接続配管3dに配置されているバルブ4dとが閉められている。
【0021】
接続配管3aを介して接続されている蓄熱用吸着器6と蒸発凝縮器8とでは、吸着工程として、図示しないポンプによって内部が減圧される。これにより、蒸発凝縮器8内に吸着質の蒸気が生成される。生成された吸着質の蒸気は、接続配管3aを通って(白抜き矢印F11)、蓄熱用吸着器6の内部に入り、吸着体1に吸着される。このとき、蒸発凝縮器8の配管8aを流れる熱媒体、たとえば水は、吸着質の気化熱によって冷却される。これにより、配管8aから冷却された熱媒体、たとえば冷水が排出されることで、冷熱が吸着式ヒートポンプ10の外部に供給される。
【0022】
接続配管3bを介して接続されている蓄熱用吸着器7と蒸発凝縮器9とでは、脱離工程として、蓄熱用吸着器7の熱交換器5に熱媒体、たとえば温水が供給される。吸着質を吸着している蓄熱用吸着器7の吸着体1では、供給される熱媒体の熱によって吸着質が吸着体1から脱離する。脱離した吸着質は蒸気として蒸発凝縮器9の内部に入り(白抜き矢印F12)、配管9aを流れる熱媒体、たとえば水によって凝縮され、液体、たとえば水になる。この液体の熱媒体は、次の吸着工程において利用される。
【0023】
図1の吸着式ヒートポンプ10では、蓄熱用吸着器6、7の一方が吸着質の蒸気を吸着し、他方が吸着質を脱離することで、たとえば温水のような比較的高温の液体状の吸着質の供給による冷熱の生成が連続的に行われる。
【0024】
吸着体1は、
図2に示すように、蓄熱用吸着器6、7内で熱交換器5における熱媒体の流路が細分化した伝熱管30の外周に吸着層20が形成された線形構造が多数束ねられた構造を有している。換言すると、熱媒体が流動する伝熱管の外周に、前記吸着材が網目状に複数段、積層されて吸着層が形成されている。吸着層20は、
図3に示すように、同方向に互いに間隙25aを介して並行して配置される吸着材25が、複数段にわたって積層された網目状の構造を有している。隣接する段の吸着材25は、
図3に示すように互いに異なる方向に配置されている。
【0025】
図3に示す吸着材25の線径をw(mm)とし、また、この吸着材25が複数段(
図3では例として4段)積層された吸着層20の厚さをH(mm)としたとき、0.95≦w≦1.47、かつ、13≦H≦(1100w-161)/52であるか、又は、1.47<w≦3.2、かつ、13≦H≦28であることが望ましい。具体的には、詳しくは後述するが、
図8のグラフにおける五角形ABCDEの内部の領域で特定される線径w及び厚さHで吸着材25を形成することが望ましい。なお、吸着材25の断面は、
図3に模式的に示すような略正方形状でも、また、略円形状でも、いずれでもよい。略正方形状の場合の線径wは一辺の長さを表し、また、略円形状の場合の線径wは直径を表す。
【0026】
さらには、1.1≦w≦2.8、かつ、16≦H≦21であることがより望ましい。具体的には、詳しくは後述するが、
図8のグラフにおける長方形A′B′C′D′の内部の領域で特定される線径w及び厚さHで吸着材25を形成することがより望ましい。
【0027】
吸着材25間の間隙25aは、10μm以上が望ましく、20μm以上がさらに望ましく、50μm以上が最も望ましい。また、吸着材25間の間隙25aは、1000μm以下が望ましく、700μm以下がさらに望ましく、500μm以下が最も望ましい。
【0028】
吸着材25の材質は、通常の熱交換器における吸着材として使用できるものであれば特に限定されないが、たとえば、シリカゲル、13Xゼオライト又はY型ゼオライトを用いることが望ましい。また、吸着材25の材質には、カーボンのような熱伝導助剤が配合されていることが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、好適な吸着材の線径w及び吸着層の厚さHについて検証した。具体的には、伝熱管の内径は1cmとした。また、以下に示す吸着層が設けられた伝熱管同士は、2mm間隔に配置した。吸着材25の材料としては、粒径74μmのシリカゲルを主材として、これに、全体の10質量%の割合で熱伝導助剤としてのカーボンを混合した。この材料を断面略正方形状の、線径wの線状に形成した吸着材を、伝熱管の外周に、
図3に示すように網目状にn段、積層して吸着層を形成した。実施例としては、n=7(
図4)、n=10(
図5)及びn=13(
図6)として形成された吸着層を有する吸着体1を備えた蓄熱用吸着器について、吸着時間を1時間としたときの、平均冷熱出力(VCP)、総蓄熱密度(Q)及び吸着材の利用率(X)を測定した。平均冷熱出力(kW/m
3)は、単位体積当たりの仕事率として算出した。総蓄熱密度(MJ/m
3)は、単位体積当たりのエネルギーとして算出した。吸着材の利用率は、理論上吸着し得る吸着質の量に対する、実際に吸着した吸着質の量の割合で算出した。また、比較例として、吸着材25と同じ材料を所定の厚さHの充填構造で伝熱管30の外周に付着させた吸着層20についても同様に平均冷熱出力(VCP)、総蓄熱密度(Q)及び吸着材の利用率(X)の測定を行った(
図7)。
【0030】
なお、
図4~
図7においては、平均冷熱出力(VCP)と吸着層の厚さ(H、単位mm)との関係をそれぞれ縦軸と横軸とにプロットしたグラフを(A)として、総蓄熱密度(Q)と吸着層の厚さ(H)との関係をそれぞれ縦軸と横軸とにプロットしたグラフを(B)として、及び、吸着材の利用率(X)吸着層の厚さ(H)との関係をそれぞれ縦軸と横軸とにプロットしたグラフを(C)として、それぞれ表している。
【0031】
図4は、n=7、すなわち、吸着材を7段積層して吸着層を形成した場合を示している。
図4(A)に示すように、吸着層の厚さHが増すにつれて平均冷熱出力(VCP)は増加し、約16.8mmのところで40kW/m
3を上回るピークを示した。厚さHがそれ以上になると、平均冷熱出力は緩やかな減少傾向を示した。一方、
図4(B)に示すように、総蓄熱密度(Q)は、吸着層の厚さHが増すにつれて増加したが、
図4(A)でピークを示した厚さHの値以上になると増加の度合いはプラトーに近づくように思われた。また、
図4(C)に示すように、吸着材の利用率(X)は吸着層の厚さHが0を上回ると急激に0.75を超える値となるが、やはり
図4(A)でピークを示した厚さHの値を境に減少傾向を示した。よって、
図4(A)~(C)を総合すると、吸着層の厚さHが約16.8mm、及びこれをnで除した吸着材の線径wが2.4mmの近傍の組み合わせが、蓄熱用吸着器としては望ましいことが分かった。
【0032】
図5は、n=10、すなわち、吸着材を10段積層して吸着層を形成した場合を示している。
図5(A)に示すように、吸着層の厚さHが増すにつれて平均冷熱出力(VCP)は増加し、約18mmのところで40kW/m
3を上回るピークを示した。厚さHがそれ以上になると、平均冷熱出力は緩やかな減少傾向を示した。一方、
図5(B)に示すように、総蓄熱密度(Q)は、吸着層の厚さHが増すにつれて増加したが、
図5(A)でピークを示した厚さHの値以上になると増加の度合いはプラトーに近づくように思われた。また、
図5(C)に示すように、吸着材の利用率(X)は吸着層の厚さHが0を上回ると急激に0.75を超える値となるが、やはり
図5(A)でピークを示した厚さHの値を境に減少傾向を示した。よって、
図5(A)~(C)を総合すると、吸着層の厚さHが約18mm、及びこれをnで除した吸着材の線径wが1.8mmの近傍の組み合わせが、蓄熱用吸着器としては望ましいことが分かった。
【0033】
図6は、n=13、すなわち、吸着材を13段積層して吸着層を形成した場合を示している。
図6(A)に示すように、吸着層の厚さHが増すにつれて平均冷熱出力(VCP)は増加し、約19.5mmのところで40kW/m
3を上回るピークを示した。厚さHがそれ以上になると、平均冷熱出力は緩やかな減少傾向を示した。一方、
図6(B)に示すように、総蓄熱密度(Q)は、吸着層の厚さHが増すにつれて増加したが、
図6(A)でピークを示した厚さHの値以上になると増加の度合いはプラトーに近づくように思われた。また、
図6(C)に示すように、吸着材の利用率(X)は吸着層の厚さHが0を上回ると急激に0.75を超える値となるが、やはり
図6(A)でピークを示した厚さHの値を境に減少傾向を示した。よって、
図6(A)~(C)を総合すると、吸着層の厚さHが約19.5mm、及びこれをnで除した吸着材の線径wが1.5mmの近傍の組み合わせが、蓄熱用吸着器としては望ましいことが分かった。
【0034】
なお、
図7に示す比較例では、吸着層が積層構造を有さないためか、
図7(C)に示すように厚さHが約3mmと各実施例に比べ5分の1を下回る値で吸着材の利用率(X)がピークに達し、しかもそれ以上の厚さHになると急激に減少した。平均冷熱出力(VCP)についても同様であった(
図7(A))。なお、
図7(B)に示す総蓄熱密度(Q)については吸着層の厚さHが増すにつれて増加したのは各実施例と同様であった。
【0035】
以上、吸着材が複数段積層された吸着層を有することで、積層構造を取らない充填構造の場合よりも、吸着材が吸着質と接触しやすくなることで、吸着材の利用率(X)が向上し、平均冷熱出力(VCP)が高くなるような吸着層の厚さHも大きくなった。なお、総蓄熱密度(Q)については、吸着材の材質に依存すると思われるため各実施例及び比較例の間では大差はなかったものの、吸着材の利用率(X)及び平均冷熱出力(VCP)を高くしつつ吸着層の厚さHを大きくできるので、蓄熱用吸着器全体としての総蓄熱量は増大すると考えられる。
【0036】
図8は、
図4(A)、
図5(A)及び
図6(A)にプロットされた各点を、x軸に吸着層の厚さH、y軸にHをnで除して得られる吸着材の線径w、z軸に平均冷熱出力(VCP)を三次元プロットした立体グラフに基づいて作成したコンター図である。
図8中に記載されている数値は、当該領域の平均冷熱出力(VCP)の数値範囲を表す。また、
図9は、
図4(C)、
図5(C)及び
図6(C)にプロットされた各点を、x軸に吸着層の厚さH、y軸にHをnで除して得られる吸着材の線径w、z軸に吸着材の利用率(X)を三次元プロットした立体グラフに基づいて作成したコンター図である。
図9中に記載されている数値は、当該領域の吸着材の利用率(X)の数値範囲を表す。なお、
図8及び
図9のグラフにおいて左上で斜線が施されていない領域は、吸着材が積層される段数であるnの値が大きくなり過ぎるために、数値の補完ができなった領域を示す。
【0037】
図8において、w=1.47かつH=28である点A、w=3.2かつH=28である点B、w=3.2かつH=13である点C、w=0.95かつH=13である点D、及びw=0.95かつH=17である点Eで囲まれる五角形ABCDEの範囲内の線径w及び厚さHを有する吸着材は、少なくとも40kW/m
3の平均冷熱出力(VCP)が得られることが分かる。
【0038】
ここで、点Aと点Eとを通る直線AEは、線径wと厚さHとの関数と見ることができる。この関数を仮に、
H=aw+b・・・式(1)
とする。ここで、上記式(1)中のaはこの直線の傾きを、bはこの直線のy切片をそれぞれ表す。
【0039】
この式1に、点Aのw=1.47及びH=28並びに点Eのw=0.95かつH=17を代入して得られる連立方程式を解くことで上記式(1)中のa及びbの値が求められる。その結果、直線AEは、
H=(1100w-161)/52・・・式(2)
と表すことができる。したがって、
H≦(1100w-161)/52
である領域は、
図8において直線AEの下側の領域である。
【0040】
すなわち、
図8中の五角形ABCDE内の範囲内の吸着材の線径wと吸着層の厚さHとの関係は、
0.95≦w≦1.47、かつ、13≦H≦(1100w-161)/52、又は、
1.47<w≦3.2、かつ、13≦H≦28、
と表される。
【0041】
すなわち、吸着材の線径w及び吸着層の厚さHが上記の関係を満たす場合、この吸着剤を使用した蓄熱用吸着器では、40kW/m
3以上と、高い値の平均冷熱出力(VCP)が得られることになる。なお、この範囲を
図9に当てはめると、吸着材の線径w及び吸着層の厚さHが上記の関係を満たす場合、吸着材の利用率(X)はほぼ0.75以上とこれも高い値が得られることになる。
【0042】
なお、
図8において、w=1.1かつH=21である点A′、w=2.8かつH=21である点B′、w=2.8かつH=16である点C′、w=1.1かつH=16である点D′で囲まれる長方形A′B′C′D′の範囲内の線径w及び厚さHを有する吸着材は、少なくとも42.5kW/m
3と、さらに高い平均冷熱出力(VCP)が得られることが分かる。なお、
図9から、この長方形A′B′C′D′の範囲内の吸着材の利用率(X)は0.75を上回っている。
【0043】
すなわち、吸着材の線径w(mm)が
1.1≦w≦2.8
であり、また、吸着層の厚さH(mm)が
16≦H≦21
であることにより、この吸着剤を使用した蓄熱用吸着器では、さらに高い値の平均冷熱出力(VCP)が安定して得られることになる。
【符号の説明】
【0044】
1 吸着体
3a、3b、3c、3d 接続配管
4a、4b、4c、4d バルブ
5 熱交換器
6 蓄熱用吸着器
6a 反応容器
7 蓄熱用吸着器
7a 反応容器
8 蒸発凝縮器
8a 配管
8b 貯留容器
9 蒸発凝縮器
9a 配管
9b 貯留容器
10 吸着式ヒートポンプ
20 吸着層
25 吸着材
25a 間隙
30 伝熱管