(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】低温液化ガス混合試料の温度推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/50 20060101AFI20241213BHJP
【FI】
G01N25/50 B
(21)【出願番号】P 2021146574
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 全
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096793(JP,A)
【文献】上森 一範 他,液化酸素燃焼試験装置の開発,大陽日酸技報,2014年,No.33,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/50
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガス混合試料に浸漬させた溶断線に該溶断線を溶断する溶断電流を供給することで着火する燃焼・爆発試験において前記低温液化ガス混合試料の温度を推定する低温液化ガス混合試料の温度推定方法であって、
前記低温液化ガス混合試料を構成する予め蒸気圧が既知の2種以上の純物質を用いて、各種類の物質ごとに前記溶断線に溶断電流未満の電流を通じた際の抵抗値を求め、該抵抗値に基づいて抵抗値と温度との関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、
被検体である前記低温液化ガス混合試料に前記検量線作成工程で通じたのと同じ電流値の電流を通じたときの抵抗値を求める被検体抵抗値算出工程と、
該被検体抵抗値算出工程で求めた抵抗値と前記検量線作成工程で求めた検量線に基づいて前記低温液化ガス混合試料の温度を推定する温度推定工程と、を含み、
前記検量線作成工程及び前記被検体抵抗値算出工程における抵抗値の算出は、前記溶断電流未満の電流を投入したときの電圧の変化を記録し、該電圧の上昇率が一定になった直線部分の電圧値を電流投入時に外挿し、該電流投入時の電圧を推定し、該電圧と前記電流に基づいて抵抗値を算出することを特徴とする低温液化ガス混合試料の温度推定方法。
【請求項2】
低温部分である溶断電極部分以外の、常温である導線部分の室温と抵抗値の関係を予め計測しておき、検量線作成工程における室温と、被検体抵抗値算出工程における室温に差異がある場合に、前記関係に基づいて前記被検体抵抗値算出工程における抵抗値に補正を加える被検体抵抗値補正工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の低温液化ガス混合試料の温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験、特に溶断法による着火方法を用いた低温液化ガス混合試料の温度推定方法に関するものである。
低温液化ガス混合試料には、支燃性の低温液化ガス(例えば、液体酸素(LO2))と不燃性の低温液化ガス(例えば、液体酸素(LO2))に固体の可燃性物質(例えば、金属粉や樹脂粉等)を混合したもの、また、支燃性の低温液化ガス(例えば、液体酸素(LO2))に液体の可燃性物質(例えば、液体メタン(LCH4)や液体プロパン(LC3H8)等)を混合したもの等を含む。
また、可燃性物質には、機械油やグリスなどの油脂類も含む。
【背景技術】
【0002】
支燃性の低温液化ガスと可燃性物質の混合物を安全に取り扱うために、爆発範囲、最小着火エネルギー、爆発の威力の測定など、燃焼や爆発を起こす条件を測定する必要がある。
このような測定を行う試験装置としては、例えば特許文献1に開示された燃焼・爆発試験装置等がある。
【0003】
また、上記燃焼・爆発試験装置に使用できる着火方法として、(1)放電法、(2)加熱法、(3)溶断法がある。
(1)放電法は、離隔配置した一対の電極間で放電させることにより着火する方法であり、特許文献2~4や非特許文献1中に火薬類・高圧ガス取締月報第37号(昭和43年1月15日、通商産業省化学局保安課発行)の通達のうちB法として記述がある。
放電法は、放出エネルギーの定量が容易で、再現性がよく、電極の繰り返し利用が可能であるため、一般的に多く利用されている。
【0004】
(2)加熱法は、例えば特許文献5~7などに開示されるように、ニクロム線(以下、「Ni-Cr線」と表記)などに電流を通じて加熱し、その熱でガスを加熱し、ガスが自然発火温度を超えることで着火する方法である。加熱法は、低電圧、低電流で済む上に、入熱量の推定が簡便である。
【0005】
(3)溶断法は、非特許文献1、2にも開示されるように、白金線(以下、「Pt線」と表記)やNi-Cr線に線が切断する電流(以下、「溶断電流」という)を突入させて溶断させ、溶断時に放つ火花を着火源とする方法である。溶断法は、交流、直流どちらも使用でき、低電圧ですむため、電源設備や給電のための費用が安価で、数J~数十Jの放出エネルギーが得られる。
【0006】
支燃性の低温液化ガスと可燃性物質の混合物である低温液化ガス混合試料を調整し、上記燃焼・爆発試験装置において爆発性の有無を実験的に確認する際には、低温液化ガス混合試料の温度、組成を推定する必要がある。
そのため、温度を正確に測定(推定)することは必須である。
【0007】
また、可燃性物質が液体メタン(以下LCH4)のように、LO2に対して非常によく溶解する物質であれば、時間をかければ溶解は可能であるが、LO2と個体CH4の密度が大きく異なることから、溶解したかどうかや液組成の把握は、液化容器内の温度と圧力から推定する必要がある。この意味でも、液化容器内の温度を測定する必要がある。
【0008】
液化容器内の温度が精度よく測れないと推定される組成も大きな誤差を含むことになる。
したがって、液化容器内の温度を精度よく測定することは、組成を正確に推定するためにも重要である。
【0009】
液化ガスの温度を測定する方法として、(1)熱電対、(2)白金測温抵抗体を用いるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6178645号公報
【文献】特開2013-152196号公報
【文献】特開平11-201925号公報
【文献】特許第6596264号公報
【文献】特開2006-29629号公報
【文献】特開2001-113156号公報
【文献】特許4764728号公報
【文献】特開2016-53487号公報
【文献】特開2010-101859号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】平成28年度 経済産業省委託 高圧ガス保安対策事業(2)高圧ガス保安規則及び高圧ガスを利用した各種製品に関する法技術的課題の検討 報告書(2017)、高圧ガス保安協会、p.11~p.12第6行
【文献】水素の爆発危険性についての研究、労働省産業安全研究所、産業安全研究所研究報告RR-18-1(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
液化ガスの温度測定には、上記のセンサー端を液中に設備することで精度よく測定ができるが、上記燃焼・爆発試験装置においては、被検体までに真空断熱槽や被検体容器(以下「液化容器」という)を信号線が貫通する。このため、精度が高い温度測定には、これらの部分には補償導線と同じ材質のコネクタを用いる必要があるが、真空断熱槽の経由とともに、耐圧容器では5MPaの耐圧が必要である。
【0013】
白金測温抵抗体では、精度向上のために3線式、または4線式のセンサーが一般的であるが、センサーから受信器までの配線の接続部分の仕様が3線または4線で完全に同仕様にする必要があり、また熱電対、測温抵抗体いずれも専用の受信機が必要である。
更に、白金測温抵抗体には通常1mA程度の電流を通じ、そのときの電圧を測定し、抵抗値から温度を決定していることから、低温領域では白金測温抵抗体の自己発熱の影響が避けられず、指示値の信頼性が低下する。自己加熱の影響をキャンセルする方法として、特許文献8、9に開示の方法があり、固定パラメータを利用したり複数の電源やセンサーを利用する方法であった。
このように、上記のような液化ガスの温度測定は、温度ドリフトやセンサー設置位置、前述の接続方法などを含め、誤差を生じる要因が多い。
【0014】
また、液化ガスの温度測定は、液化容器内の液中にセンサーを設置して測定することが理想的な温度測定方法ではある。しかし、被検体の燃焼・爆発に伴い、その都度センサー及び導線が破損するため、交換や都度の校正が不可避となるため、煩雑である。
さらに、液化容器内にセンサーを設置するためには、液化容器にセンサー導線を貫通させる必要があり、真空槽、耐圧容器の貫通部分と同様、低温下でも十分なガス漏洩対策と冷却に伴うガス漏洩検査(以下コールドリークチェック)が欠かせないという課題もある。
【0015】
またさらに、温度センサーを設備するうえで、その材料がLO2など支燃性液化ガスと燃焼反応を起こす物質で構成されると、燃焼反応が被検体のそれと区別がつかなくなる。そのため、温度センサーは可能な限り不燃性物質のみで構成されるべきである。
また、導電性物質の共存では、導線を含む溶断電極等が容器内壁と電気的に接触し、電流投入時に漏電の可能性が高くなることから、必要最小の部品点数で構成する必要がある。
以上のように、低温液化ガス混合試料の温度測定するに際して温度センサを設備する方法には種々の課題が存在する。
【0016】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、温度センサーを使用することなく、液化容器内の低温液化ガス混合試料の温度を精度よく推定する低温液化ガス混合試料の温度推定方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討した。
爆発試験装置の構成は前述した着火方法によって異なるため、まずは、低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験を実施するに際して最適な着火方法を検討した。
上述した放電法は、放出エネルギーの定量に直流電源が必要であり、低温液化ガス雰囲気での利用は、大電圧が必要なためその設備や電路施工に多額の費用が必要である。
また、加熱法は線の表面積や温度差によりエネルギー密度が変化するとともに、エネルギー密度も低い。また、再現性にも乏しく着火試験に用いる着火方法として不適当である。
【0018】
上記に対して、溶断法は、交流、直流どちらも使用でき、低電圧ですむため、電源設備や給電のための費用が安価で、放出エネルギーも数~数十Jが得られる。このため、可燃性混合物かどうかの判定に用いるには適当な手法である。
上記のことから、低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験に用いる着火方法として溶断法が適しており、着火法として溶断法を採用した。
【0019】
そして、溶断法を着火方法として採用することで、溶断線を温度測定に用いることができるとの知見を得、本発明はかかる知見を基になされたものであり、具体的には以下の構成を備えたものである。
【0020】
(1)本発明に係る低温液化ガス混合試料の温度推定方法は、低温液化ガス混合試料に浸漬させた溶断線に該溶断線を溶断する溶断電流を供給することで着火する燃焼・爆発試験において前記低温液化ガス混合試料の温度を推定する方法であって、
前記低温液化ガス混合試料を構成する予め蒸気圧が既知の2種以上の純物質を用いて、各種類の物質ごとに前記溶断線に溶断電流未満の電流を通じた際の抵抗値を求め、該抵抗値に基づいて抵抗値と温度との関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、
被検体である前記低温液化ガス混合試料に前記検量線作成工程で通じたのと同じ電流値の電流を通じたときの抵抗値を求める被検体抵抗値算出工程と、
該被検体抵抗値算出工程で求めた抵抗値と前記検量線作成工程で求めた検量線に基づいて前記低温液化ガス混合試料の温度を推定する温度推定工程と、を含み、
前記検量線作成工程及び前記被検体抵抗値算出工程における抵抗値の算出は、前記溶断電流未満の電流を投入したときの電圧の変化を記録し、該電圧の上昇率が一定になった直線部分の電圧値を電流投入時に外挿し、該電流投入時の電圧を推定し、該電圧と前記電流に基づいて抵抗値を算出することを特徴とするものである。
【0021】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、低温部分である溶断電極部分以外の、常温である導線部分の室温と抵抗値の関係を予め計測しておき、検量線作成工程における室温と、被検体抵抗値算出工程における室温に差異がある場合に、前記関係に基づいて前記被検体抵抗値算出工程における抵抗値に補正を加える被検体抵抗値補正工程をさらに含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、温度計測のためのセンサー及び受信器等の設備を設けることなく低温液化ガス混合試料の温度を直接計測し、推定することが可能である。
また、液化容器内に異物を共存させることがなく、燃焼・爆発ごとの交換部品を最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス混合試料の温度推定方法の各工程とその順序を説明する説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス混合試料の温度推定方法に用いる燃焼・爆発試験装置の全体構成を示す図であって、燃焼・爆発試験装置の一部縦断面図である。
【
図3】
図2に示す燃焼・爆発試験装置における耐圧恒温容器の内部に設置される液化容器の設置状態を示す図である。
【
図4】低温液化ガス混合試料の温度制御に際し、温度を計測する位置を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における着火及び温度推定に用いる装置構成を示す図である。
【
図6】Pt線又はNi-Cr線をLN
2に浸漬させた場合に各線を溶断する溶断電流の値を示すグラフである。
【
図7】溶断線に溶断電流未満の電流を印加したときの電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図8】本実施の形態における抵抗値と液化容器温度の関係を示す検量線の一例を示すグラフである。
【
図9】導線抵抗値と室温との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態1に係る低温液化ガス混合試料の温度推定方法は、溶断法を用いて着火する燃焼・爆発試験において、着火前に溶断線を用いて低温液化ガス混合試料の温度を推定するものである。
本実施の形態における低温液化ガス混合試料の温度推定方法を説明するのに先立ち、まずは、上記燃焼・爆発試験に用いる試験装置の一例を
図2~
図6に基づいて説明する。
【0025】
図2は、溶断法を用いて着火する低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験装置1の全体構造を示すものである。
燃焼・爆発試験装置1は、特許文献1に記載の「燃焼・爆発試験装置」と同様の構成であるので詳細な説明は省略し、以下、主要部分を概説する。なお、説明に用いる部材の名称は特許文献1の「燃焼・爆発試験装置」と同一とは限らない。
また、特許文献1の「燃焼・爆発試験装置」は放電着火を用いるものであり、着火に関わる構成部分は異なるが、この点については後述にて詳細に説明する。
【0026】
燃焼・爆発試験装置1は、
図2、
図3に示すように、低温液化ガス混合試料3を貯留する液化容器5と、低温液化ガス混合試料3を所定の温度に保持する耐圧恒温容器7と、耐圧恒温容器7に伝達する冷熱を生成する冷凍機9とを備えている。
【0027】
耐圧恒温容器7は、液化容器5を収容し、爆発を想定した耐圧性能を有する容器本体11と、容器本体11内に冷熱を伝達する第1冷熱伝達機構13と、容器本体11への侵入熱を遮断する第2冷熱伝達機構15と、液化容器5を保持する容器保持機構17を有している。
【0028】
第1冷熱伝達機構13は、容器本体11の底部を覆うコールドベース19と、コールドベース19に一端側が接続され、他端側が容器本体11を貫通して容器本体11の外部に配置されるコールドロッド21を備えている(
図3参照)。コールドロッド21は、冷熱伝達部材23を介して冷凍機9に接続している。
【0029】
第2冷熱伝達機構15は、容器本体11の外周面に接触して該外周面に冷熱を伝達する固体熱伝導部材25を備えており、固体熱伝導部材25は冷凍機9に接続している。
【0030】
また、第1冷熱伝達機構13及び第2冷熱伝達機構15は、コールドロッド21及び固体熱伝導部材25の温度調整を行う温度調整装置(図示なし)を備えている。コールドロッド21及び固体熱伝導部材25の温度調節は、後述する保持部材29に設けられた温度センサー31(
図4参照)、コールドロッド21及び固体熱伝導部材25に装備されたヒーター(図示なし)を用いて行われ、温度センサー31の温度が所定の温度になるようにヒーターを制御することで、液化容器5内の低温液化ガス混合試料3を所定の温度に保持することができる。
【0031】
容器保持機構17は、
図3、
図4に示すように、第1冷熱伝達機構13のコールドベース19に接触するベース板27と、ベース板27から立設するブリッジ状の保持部材29とを有しており、保持部材29には液化容器5が取り付けられている。また、保持部材29における液化容器5が固定されている部分の近傍には温度センサー31が設けられている。
【0032】
本実施の形態における燃焼・爆発試験装置1は、上記のように構成された耐圧恒温容器7を備えたことにより、冷凍機9によって生成された冷熱を、第1冷熱伝達機構13の冷熱伝達部材23、コールドロッド21を介してコールドベース19に伝達し、さらに、ベース板27、保持部材29を介して液化容器5に伝達して、液化容器5を冷却している。
また、冷凍機9によって生成された冷熱は、第2冷熱伝達機構15の固体熱伝導部材25を介して容器本体11に伝達して、容器本体11を冷却している。
さらに前述のとおり、第1冷熱伝達機構13と第2冷熱伝達機構15は保持部材29の温度に基づいて冷熱伝達部材23及び固体熱伝導部材25の温度を調節し、液化容器5内の温度は平衡状態で保持される。
【0033】
液化容器5は、被検体である低温液化ガス混合試料3を密封するものであり、上述のように保持部材29に固定されて耐圧恒温容器7の容器本体11の中央部に配置される(
図3参照)。
液化容器5は、
図4に示すように、保持部材29に固定される冷却ブロック33と、有底の筒状の液溜部35とを備えている。
冷却ブロック33はガスを導入するためのガス導入口37を有しており、ガス導入口37から導入されたガスは冷却ブロック33で冷却されて液状になり、液溜部35に貯留される。
なお、可燃性物質が常温で液体または個体の場合には、可燃性物質をあらかじめ液溜部35に導入しておいてもよい。
【0034】
冷却ブロック33の上方には、導入継手39が突設されており、一対の導線41が導入継手39を貫通して液化容器5に挿入されている。導線41の一部は、液化容器5の内壁等に接触短絡しないようにするため絶縁材43を用いて被覆している。絶縁材43には燃焼の可能性のない材料(必要であれば碍子など)の使用が望ましい。可燃性の材料は被検体以外の燃焼が生じるため望ましくない。
【0035】
なお、
図4に示す例は導入継手39としてハーメチックシール(ネジ継手部、パイプ、碍子からなる絶縁継手)を用いた例である。
導入継手39にはハーメチックシールの他、シーリンググランドなどを用いてもよく、低温下で絶縁と気密が確保できるものであればよい。
また、図示しない圧力検知装置によって、液化容器5の内圧は常時監視可能になっている。
【0036】
液化容器5に挿入された一対の導線41の端部には溶断線45が取り付けられており、溶断線45は液溜部35に配置される。低温液化ガスの液化調整時には溶断線45が液中に浸漬されるよう調整する。溶断線45は、Pt線の利用が推奨されるが、液調製に長時間必要な系や、調製中にPt表面の触媒効果が影響する場合には、Ni-Cr線やタングステン線、その他の材料を用いることができる。溶断線45と導線41の接続は銀ローが望ましく、着火時に反応の虞れがあるが、ハンダも使用可能である。
貫通する導線41や溶断線45が液化容器5の内壁等に接触短絡しないよう施工する必要があるが、液化容器5内に可燃性の絶縁物で施工することは、被検体以外の燃焼の発生が生じるため、望ましくない。必要であれば碍子などの燃焼の可能性のない材料の使用が推奨される。
【0037】
一対の導線41における液化容器5の外側の端部は、
図5に示すように溶断線45に電流を供給するための定電圧発生装置47が接続されている。定電圧発生装置47は、溶断線45を溶断可能な電流(溶断電流)を供給でき、さらに電流値の設定・変更が可能なものである。また、手動または外部からの信号によりスイッチ49をON/OFFすることで、電流の供給を開始及び停止できる。
なお、定電圧発生装置47と溶断線45を接続する導線41は、定電圧発生装置47から供給される電流に対応した十分な材質・線径を有するものであり、かつ、安定して使用できるように定電圧発生装置47及び溶断線45に接続されている。
高圧ガスA法に示されている溶断線はPt線φ0.3であるので、LO
2温度(-183℃)程度であれば30A程度の容量の定電圧発生装置で十分である。また電流値の設定が可能であれば直流/交流を問わない。
図5に示す電流及び電圧は、その変化が記録できるよう、データロガーやレコーダーなどに接続する。
一方、定電圧発生装置47から溶断線45までの導線41は、30A以上の電流が突入することを想定して十分な容量と接続方法であることが必要である。
【0038】
次に、上記のように構成された本実施の形態の燃焼・爆発試験装置1を用いて行う燃焼・爆発試験において、被検体である低温液化ガス混合試料の温度推定方法について、
図1~
図9に基づいて、具体的な実施例を示しながら以下に説明する。
本実施の形態に係る低温液化ガス混合試料の温度推定方法は、
図1に示すように、検量線作成工程と、被検体抵抗値算出工程と、被検体抵抗値補正工程と、温度推定工程と、を含むものである。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0039】
<検量線作成工程>
検量線作成工程は、予め蒸気圧が既知の2種以上の純物質を用いて、各種類の物質ごとに溶断線45に溶断電流未満の電流を通じた際の抵抗値を求め、該抵抗値に基づいて抵抗値と温度との関係を示す検量線を作成する工程である。
【0040】
本工程を実施するに際して、まず、使用温度付近において溶断線45を溶断する溶断電流の値を予め計測しておく。一例として、液体窒素(以下、「LN
2」と表記)に浸漬させた状態で使用した場合のPt線、Ni-Cr線の溶断電流を示すグラフを
図6に示す。
図6に示されるように、例えば線径φ0.3のPt線をLN
2に浸漬させた場合、Pt線に約30A以上の電流を供給するとPt線が溶断する。
溶断電流は、溶断線種固有の電気抵抗と溶融温度、線径、溶融温度と液化ガスとの温度差及び熱伝達率によって決まるので、これらの条件が同じであればLN
2と例えばLO
2で大きな差異はない。
この例では、溶断電流が30Aなので、溶断電流未満の電流として例えば20Aとする。
【0041】
定電圧発生装置47は、(株)テクシオ・テクノロジー社製PSW-360L30を使用することができる。溶断線45を含む経路の抵抗値が低い場合は、予め設定した電流が流れ、抵抗値が十分大きいときには自動的に予め設定した電位差になる電流値が流れる設定とした。
【0042】
抵抗値の算出は、溶断電流未満の電流を投入したときの電圧の変化を記録し、電圧の上昇率が一定になった直線部分の電圧値を電流投入時に外挿し、該電流投入時の電圧を推定し、該電圧と前記電流に基づいて抵抗値を算出する。
このように、電圧のトレンドを外挿する方法を用いることで、定電圧電源の出力応答遅延について補正が可能である。
【0043】
具体的には、液化容器5を冷却し、支燃性ガスである純酸素ガスと可燃性ガスである純メタンガスをそれぞれ導入、液化し、十分に平衡になったことを確認したうえで、溶断線45に20Aを投入する。投入時の電圧変化例を
図7に示す。
図7の薄いグレーの線が外挿補助線である。大気圧におけるLO
2中及びLCH
4中の電圧外挿値は、それぞれ4.0128Vと4.1054Vであった。
電圧V=電流A・抵抗Ωであり、これにより抵抗値を求めると、LO
2は0.20064Ω、LCH
4は0.20527Ωとなる。
大気圧のLO
2、LCH
4の温度はそれぞれ90K、111.6Kなので、抵抗値と温度との関係を示す検量線を示す
図8を得ることができる。
【0044】
<被検体抵抗値算出工程>
被検体抵抗値算出工程は、被検体である低温液化ガス混合試料3に、検量線作成工程と同じ電流値の電流を通じたときの抵抗値を求める工程である。
具体的には、酸素O2及びメタンCH4の混合ガスを液化容器5に導入して冷却液化し、検量線作成工程と同様に、溶断線45に20Aを投入し、投入時電圧を求める。投入時電圧の求め方は検量線作成工程と同じように、電圧の上昇率が一定になった直線部分の電圧値を電流投入時に外挿し、該電流投入時の電圧を推定する。本例における投入時電圧は、4.0214Vであった。
投入電流が20A、投入電圧が4.0214Vであるから、抵抗値は、0.20107Ωとして求まる。
【0045】
<被検体抵抗値補正工程>
被検体抵抗値補正工程は、低温部分である溶断電極部分以外の、常温である導線部分の室温と抵抗値の関係を予め計測しておき、検量線作成工程における室温と、被検体抵抗値算出工程における室温に差異がある場合に、前記関係に基づいて被検体抵抗値算出工程における抵抗値に補正を加える工程である。
【0046】
常温である導線部分の室温と抵抗値の関係の求め方は、
図5に示す導線部分における室温域の端部を短絡し、上記検量線作成工程と同様の操作を導線の長さ(以下「こう長」という)、接続部の部材等を変更せず、室温のみを変更して抵抗値を計測する。これによって、得られた室温と抵抗値の関係を
図9に示す。
検量線作成時と低温液化ガス混合試料3の被検体抵抗値算出工程時で室温が異なる場合には
図9を参考に補正をおこなう。
図9の条件では、直線の傾きから室温の差あたり、0.75×10
-3Ω/K増減させれば良い。
【0047】
<温度推定工程>
温度推定工程は、被検体抵抗値算出工程で求めた抵抗値と検量線作成工程で求めた検量線に基づいて低温液化ガス混合試料3の温度を推定する工程である。
具体的には、本例においては検量線作成工程と被検体抵抗値算出工程で室温が同じであり、被検体の抵抗値は0.20107Ωであったので、
図8から低温液化ガス混合試料3の温度として、92.0Kを得た。
また、低温液化ガス混合試料3の温度が分かると、気液平衡曲線から各低温液化ガスの濃度を推定することができる。
本例では、大気圧(0.1MPaAbs)で92.0Kの低温液化ガス混合試料3におけるメタン濃度は、O
2-CH
4気液平衡曲線から20vol%(気相濃度は約6%)と推定することができた。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、温度計測のためのセンサー及び受信器等の設備を用いることなく、被検体液温度を直接計測し、推定することが可能となった。
また、液化容器5内に異物を共存させることがなく、燃焼・爆発ごとの交換部品を最小にすることができる等のメリットが享受できる。
【0049】
また、本実施の形態においては、上記の効果に加えて一般の測温抵抗体よりも分解能に優れるという効果も奏することができる。
この点を以下に詳細に説明する。
JIS C 1604の規格における測温抵抗体(Pt100Ω)の抵抗値の規定を、簡略化して示すと下表に示す通りである。
【表1】
【0050】
上記の表から、温度と抵抗値の関係を線形と捉えると、-100℃と-200℃間の傾きは、(60.2-18.5)/100=0.417(Ω/K)となる。一般的な白金測温抵抗体への供給電流は1mAなので、分解能はI・R=Vより、1×10
-3A×0.1417Ω/K=0.417×10
-3(V/K)となる。
一方、本発明では
図8の傾きは、0.2143×10
-3(Ω/K)であるが、供給電流が20Aなので、0.2143×10
-3Ω/K×20A=4.28×10
-3V/Kとなり、約10倍の分解能が期待できる。このため、汎用の電圧計測機器で使用可能であるというメリットがある。
【0051】
なお、上記において被検体抵抗値補正工程の説明をしたが、これは検量線作成工程と被検体抵抗値算出工程で室温が異なる場合に行うものであり、本例のように前記両工程において室温に差異がなければ行う必要はない。
【0052】
もっとも、被検体抵抗値補正工程は溶断線が極低温下にある本発明において極めて重要な意義を有しているので、この点について以下に説明する。
図8に示した溶断線における抵抗値と温度との関係を示す直線の方程式は、
R(Ω)=0.2143×10
-3×T(K)+0.18136 ・・・(1) となる。
また、
図9に示した導線41における抵抗値と温度との関係を示す直線の方程式は、
R(Ω)=0.75×10
-3×T(K)-0.03975 ・・・(2) となる。
【0053】
例えば、温度T=92Kのとき、Ptの抵抗値は(1)式の回帰直線より、
R=0.2143×10
-3×92K+0.18136=0.2011Ωとなる。
また、室温が10℃のときは、(2)式の回帰直線より、
R=0.75×10
-3×283K-0.03975=0.1725Ωとなる。
ここで、室温が11℃のときには、
図9の直線に基づき、0.1725Ωよりも0.00075Ω増えて0.17325Ωとなる。
しかし、抵抗値の補正をしない場合、すなわち室温の違いを考慮しないとすれば、0.00075Ωが溶断線(Pt)由来と誤認されてしまう。その場合、(1)式より、
0.2011+0.00075=0.2143×10
-3×T(K)+0.18136となる。これより、T=95.6Kとなる。
この温度は、92.0Kに対して、3.6Kの差が出てしまう。換言すれば、被検体抵抗値補正工程を行うことでこのような誤差が生ずることがなく、室温差に基づいて抵抗値を補正する被検体抵抗値補正工程は重要な意義を有している。
【0054】
なお、本発明では、検量線作成のため溶断線抵抗値(
図8)を事前に採取する必要があるが、低温液化ガス混合試料3の燃焼・爆発試験に用いる液化容器5は事前にコールドリークチェックを行うことが必須であるため、コールドリークチェック作業の前後に検量線作成作業等が可能であるため、この作業が大きな負担となることはない。
ここで、コールドチェックについて簡単に説明する。
室温で装置の組み立て(液化容器5の組み込みなど)を実施し、その後冷却操作をおこなうと、配管や容器の継手部に熱収縮により歪みが発生し、継手部分から微小なガス漏れが発生する場合がある。このような漏れの有無は実際に冷却してみないと確認できないため、事前に冷却、漏れチェックをするが、これをコールドリークチェックと呼んでいる。
【符号の説明】
【0055】
1 燃焼・爆発試験装置
3 低温液化ガス混合試料
5 気密容器
7 耐圧恒温容器
9 冷凍機
11 容器本体
13 第1冷熱伝達機構
15 第2冷熱伝達機構
17 容器保持機構
19 コールドベース
21 コールドロッド
23 冷熱伝達部材
25 固体熱伝導部材
27 ベース板
29 保持部材
31 温度センサー
33 冷却ブロック
35 液溜部
37 ガス導入口
39 導入継手
41 導線
43 絶縁材
45 溶断線
47 定電圧発生装置
49 スイッチ