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特許7603584球状結晶性シリカ粒子、球状シリカ粒子混合物およびコンポジット材料
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  • 特許-球状結晶性シリカ粒子、球状シリカ粒子混合物およびコンポジット材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】球状結晶性シリカ粒子、球状シリカ粒子混合物およびコンポジット材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20241213BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20241213BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241213BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01B33/12 B
C08K3/36
C08L101/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021521923
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2020021662
(87)【国際公開番号】W WO2020241902
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019102558
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】矢木 克昌
(72)【発明者】
【氏名】田中 睦人
(72)【発明者】
【氏名】阿江 正徳
(72)【発明者】
【氏名】青山 泰宏
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第16/031823(WO,A1)
【文献】国際公開第18/186308(WO,A1)
【文献】特開2012-102016(JP,A)
【文献】国際公開第17/188301(WO,A1)
【文献】特開2008-120877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C01B 33/12
C08K 3/36
C08L 101/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性クリストバライト相及び結晶性石英相を合計で60%以上含み、前記結晶性クリストバライト相または石英相を構成する多結晶グレインの平均径が2μm以上であり、遮断円筒導波管方法(JIS R1660-1:2004)によって求められる10GHzにおける誘電正接が0.0020以下であることを特徴とする、球状シリカ粒子。
【請求項2】
アルミニウムを酸化物換算で0.5質量%を上回り2.0質量%以下含む、請求項1に記載の球状シリカ粒子。
【請求項3】
前記球状シリカ粒子中の結晶性石英相の比率が30%以上である、請求項1または2に記載の球状シリカ粒子。
【請求項4】
前記球状シリカ粒子中の粒径10μm以上の粒子の円形度が0.83以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の球状シリカ粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の球状シリカ粒子95質量%以上99.9質量%以下と、平均粒径0.1μm以下の超微粒子0.1質量%以上5質量%以下を含むことを特徴とする、球状シリカ粒子混合物。
【請求項6】
樹脂中に、請求項1~4のいずれか1項に記載の球状シリカ粒子を85質量%以上95質量%以下含有することを特徴とする、コンポジット材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数3GHz以上の高周波信号に対応した高周波用の半導体封止材、ならびに配線基板を形成するために好適な、誘電特性に優れた、球状結晶性シリカ粒子と、これを含む球状シリカ粒子混合物、およびこれと樹脂との複合化したコンポジット材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信技術の高度化に伴う情報量の増大、ミリ波レーダ等のミリ波帯域の急速な利用拡大により、周波数の高周波数化が進行している。これらの高周波信号を扱う半導体や、伝送する回路基板は、回路パターンとなる電極と誘電体から構成される。信号の高速伝送には、信号の伝播遅延の抑制が重要であるので、低い比誘電率(εr)が求められる。加えて、信号の伝送の際のエネルギー損失を抑えるには、誘電体材料の誘電正接(tanδ)が小さいことが必要となる。低誘電損とするには、誘電性材料は低極性および低双極子モーメントを有していなければならない。これらの誘電特性に加え、基板の実装の際には、ICチップからの発熱、電極材料との熱膨張のミスマッチ抑制から熱伝導率や熱膨張係数といった熱的特性、また、高抗折強度等のため機械的特性も重要となる。
【0003】
誘電体材料としては、主にセラミックスフィラー、樹脂およびそれらを複合させたコンポジットが用いられている。特に、近年のミリ波帯域の利用拡大に伴い、より一層の低εr、低tanδのセラミックスフィラー、樹脂が求められている。樹脂は、εrは比較的小さく高周波に適しているが、tanδや熱膨張係数がセラミックスフィラーより大きい。このため、ミリ波帯域用のフィラーと樹脂を複合させたコンポジットには、(1)セラミックスフィラー自体の低εr、低tanδ化、(2)セラミックスフィラーを高充填し大きなtanδを示す樹脂の量を減らすことが適している。
【0004】
セラミックスフィラーとしてシリカ(SiO)粒子が従来から用いられている。シリカ粒子の形状が、角張った形状であると樹脂中での流動性、分散性、充填性が悪くなり、また製造装置の摩耗も進む。これらを改善するため、球状のシリカ粒子が広く用いられている。球状シリカフィラーは真球に近いほど充填性、流動性、耐金型磨耗性が向上すると考えられ、円形度の高いフィラーが追求されてきた。さらに、フィラーの粒度分布の適正化を図ることによる一層の充填性の向上も検討されてきた。しかし、フィラー形状の球状化、粒度分布の適正化によって充填率を高めすぎると、封止材としてコンポジットの流動性が低下し、成形性が悪化してしまう。高い流動性を確保するには、シリカフィラー充填率は85質量%以上にすることが困難であり、従来は85質量%未満に限られていた。
【0005】
球状シリカの製法として溶射が知られている。溶射では、原料となる破砕シリカ粒子を2000℃以上の火炎中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。溶融球状化された粒子どうしが融着しないように気流搬送して回収させて、溶射後の粒子は急冷される。溶融状態から急冷されるため、このシリカ(溶融シリカ)は、非晶質(アモルファス)構造を有する。
【0006】
この球状の溶融シリカは非晶質であるため、その熱膨張率および熱伝導率が低い。非晶質シリカの熱膨張率は、0.5ppm/Kであり、熱伝導率は1.4W/mKである。これらの物性は、結晶構造を有さず非晶質(アモルファス)構造を有する、石英ガラスの熱膨張率と概ね同等である。このため、高熱膨張率の樹脂に混合することで封止材自体の熱膨張を下げる効果が得られる。封止材としてコンポジットの熱膨張率はSiに近い値とすることで、ICチップを封止する場合に、熱膨張挙動に起因する変形を抑えることができる。
【0007】
しかし、熱膨張率が低い非晶質シリカを過度に高充填した封止材(コンポジット)は、熱膨張率がSiに比べて小さくなることがあり、リフロー時の加熱温度や半導体デバイスの作動温度により、反りやクラックが生じることがある。また、熱伝導率が低いことにより、半導体デバイスから発生する熱の放散も問題となっている。
【0008】
以上述べてきたとおり、3GHz以上の高周波対応シリカフィラーに求められる特性としては、優れた誘電特性を示すとともに、樹脂に大量に配合して封止材としての性能を維持できる充填性、流動性、熱的特性、機械的強度性能及び耐金型磨耗性等のすべての要求を満たす必要があるが、そのようなシリカフィラーおよびシリカ-樹脂コンポジットは存在しなかった。
【0009】
このような状況に鑑みて、本発明者らは、周波数が3GHz以上となる5G(第5世代移動通信方式)用のデバイス・基板、並びに60GHz以上のミリ波帯域を使用する車載レーダ等において優れた誘電特性のセラミックスフィラー(球状シリカ粒子)を提供することを目指した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2016/031823号
【文献】国際公開第2018/186308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れた誘電特性を有し、また優れた熱特性や流動性を兼ね備えることもできる、球状シリカ粒子、球状シリカ粒子混合物、およびコンポジット材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決することを目的とし鋭意研究した。その結果、低誘電率、低誘電正接等の優れた誘電特性、高熱伝導率、高熱膨張率等の優れた熱特性、を兼ね備えたシリカ粒子を得るには、球状の溶融(非晶質)シリカを、熱処理し結晶化させ、特定の結晶構造とすることが有効であることを見出した。すなわち本発明の球状シリカ粒子は、3GHz以上の高周波における誘電正接が、非晶質に比べて大幅に低下し、かつ高熱伝導率を示すことが初めて確認され、本発明が完成された。
【発明の効果】
【0013】
本発明による球状シリカ粒子は、特定の結晶構造を有するため、誘電特性が優れており(誘電率、誘電正接が低い)、また従来の球状結晶性シリカ粒子に比べて優れた熱特性()を示す。また、球状であり、さらに粒度分布が狭く、円形度を高くすることができるために、高流動・高分散性と高充填性の両立がなされている、そのため、フィラーとして、高周波信号伝送を行うための半導体、基板等に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、粒子の撮影面積と周囲長の算出について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明明により、以下の態様が提供される。
[1]
結晶性クリストバライト相及び結晶性石英相を合計で60%以上含み、前記結晶性クリストバライト相または石英相を構成する多結晶グレインの平均径が2μm以上であり、遮断円筒導波管方法(JIS R1660-1:2004)によって求められる10GHzにおける誘電正接が0.0020以下であることを特徴とする、球状シリカ粒子。
[2]
アルミニウムを酸化物換算で0.5質量%を上回り2.0質量%以下含む、[1]に記載の球状シリカ粒子。
[3]
前記球状シリカ粒子中の結晶性石英相の比率が30%以上である、[1]または[2]に記載の球状シリカ粒子。
[4]
前記球状シリカ粒子中の粒径10μm以上の粒子の円形度が0.83以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の球状シリカ粒子。
[5]
[1]~[4]のいずれか1項に記載の球状シリカ粒子95質量%以上99.9質量%以下と、平均粒径0.1μm以下の超微粒子0.1質量%以上5質量%以下を含むことを特徴とする、球状シリカ粒子混合物。
[6]
樹脂中に、[1]~[4]のいずれか1項に記載の球状シリカ粒子を85質量%以上95質量%以下含有することを特徴とする、コンポジット材料。
【0016】
シリカ(SiO)の結晶構造として、クリストバライト、石英、トリディマイト等がある。これらの結晶構造を有するシリカは非晶質シリカと比べると、高い熱膨張率および熱伝導率を有する。このため、溶融(非晶質)シリカを、結晶性シリカに適切な量、置き換えることで、ICチップとの熱膨張差異を抑制しつつ、熱伝導率を向上させることができる。さらに、溶融(非晶質)シリカおよび結晶性シリカの粒度分布を適正化することで、さらに高充填性を示すシリカフィラー(球状シリカ粒子)を得ることでできる。
【0017】
本発明の球状シリカ粒子は、結晶性クリストバライト相及び結晶性石英相(以下、合わせて「結晶性相」ということがある。)を合計で60%以上含む。すなわち、球状シリカ粒子中の結晶性相の含有量は、60%以上である。60%以上であれば優れた誘電特性が発現する。概して、結晶性シリカの割合は多ければ多いほど誘電特性は向上する。結晶性シリカ以外のシリカは、非晶質である。結晶性相は、結晶性クリストバライト相あるいは、結晶性石英相の一方でも良いし、結晶性クリストバライト相と結晶性石英相が共存していてもよい。なお、本発明の球状シリカ粒子は、結晶性クリストバライト相及び結晶性石英相の他に、結晶性トリディマイトを含んでもよい。
【0018】
クリストバライトや石英等の結晶性相の存在比は、例えばX線回折(XRD)により測定することができる。XRDで測定する場合、結晶性ピークの積分強度の和(Ic)と非晶質のハロー部分の積分強度(Ia)から、以下の式で計算することができる。
【0019】
X(結晶相割合)=Ic/(Ic+Ia)×100 (%)
【0020】
本発明に係る球状シリカ粒子に含まれる結晶相中における各種結晶相の割合は、特に断りの無い限り、以下記載の要領でXRDにより測定したものである。結晶性石英相はPDF 33-1161、結晶性クリストバライト相はPDF11-695、結晶性トリディマイト相はPDF18-1170のピークのデータを用いて、それぞれのピークの積分強度の和の比率から、それぞれの結晶相の割合を質量比率で算出する。また、クリストバライト相由来とトリディマイト相由来の最大強度のピーク位置は近接しているため、それぞれのピークをピーク分離して強度を算出するか、2番目以降の強度のピークをpdfデータの強度比を元に補正して計算に用いることができる。
【0021】
前記結晶性クリストバライト相と結晶性石英相は、多数の微結晶、すなわち多結晶グレインから構成されている。本発明の球状シリカ粒子において、多結晶グレインの平均径は2μm以上である。ここで平均径は試料を樹脂詰めした後に断面を切断し、その断面に現れた多結晶グレインの面積から、面積加重で平均して求めた。結晶性シリカは、非晶質シリカに比して熱伝導率が高いことが期待できるが、多結晶のグレインサイズが小さすぎる場合、粒界に起因する散乱によって十分な熱伝導率が得られない。従って、十分な熱伝導率を得るためには多結晶グレインサイズの平均径は2μm以上であることが必要である。
【0022】
本発明の球状シリカ粒子において、多結晶グレインサイズ(平均径)はエポキシ樹脂中に結晶粉末を分散充填して、その断面を切り出し、EBSD法(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)によって測定する。
【0023】
また本発明の球状シリカ粒子による熱伝導率向上効果を検証するため、樹脂と本発明の球状シリカ粒子を混練して熱伝導シートを作製して、その熱伝導率を測定することができる。まず球状シリカ粒子はシリコーン樹脂(ダウコーニング社製CY52-276A/B)とフィラー率80質量%で混合し、5Torr以下まで真空脱気して混練する。続いて金型にて成型する。金型は120℃に加熱し、6~7MPaで型締めし、40分成型する。金型から樹脂組成物を取り出し、140℃で1時間の硬化を施す。室温まで冷却後、樹脂組成物を厚み1.5,2.5,4.5,6.5,7.5,8.5mmにそれぞれスライスし、2cm角のシート状サンプルに加工する。それぞれのサンプルはASTM D5470に準じて熱抵抗を測定した。サンプルはSUS304製ブロックで挟み込み0.123MPaで圧縮し、圧縮後の厚みを記録する。このようにして得た熱抵抗値と圧縮後の厚みの関係を線形近似して、その傾きから熱伝導率を導出することができる。
【0024】
本発明の球状シリカ粒子は、遮断円筒導波管方法(JIS R1660-1:2004)によって求められる10GHzにおける誘電正接が0.0020以下である。特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明の球状シリカ粒子は、上記の結晶構造(結晶相比率および多結晶グレインサイズ)を有することにより、非晶質に比べて大幅に低い誘電正接を備え、かつ高い熱伝導率が得られると考えられる。
【0025】
本発明の球状シリカ粒子に関する、誘電率、誘電正接を測定する方法について説明する。測定は、コンポジット材料を用いて行う。コンポジット材料の作製は、球状シリカ粒子の粉末とエポキシ樹脂(三菱化学製YX-4000H)を用い、エポキシ樹脂に対して0,30,50,83~89質量%の球状シリカ粒子を、温度100℃、二本ロールミルで混練した。混練後のサンプルは乳鉢・乳棒で粉砕した。金型(50φ)に粉砕後のサンプルを充填しプレス機にセットした。成形温度175℃で約1分間1MPaにて加圧した後、5MPaで9分間保持した。その後、金型を水冷プレスに移し、約10分間冷却した後、硬化した球状シリカ粒子-エポキシ樹脂板(シリカ-樹脂板)を金型から取り出した。作製したシリカ-樹脂板を外周刃切断し、約10mm×10mmに加工した。硬化したシリカ-樹脂板の厚みを変えるために、高精度平面研削(秀和工業製SGM-5000)で研削し、厚みを0.2mm~1.0mmの間で変動させた。
誘電特性の測定は、上記、シリカ-樹脂複合体を、遮断円筒導波管法(JIS R1660-1:2004)に基づき、10GHz周波数帯で測定した。エポキシ樹脂に対して0,30,50,83~89質量%の球状シリカ粒子との複合化体と誘電正接との関係から、球状シリカ粒子100%の数値を外装し、得られた数値を球状シリカ粒子の誘電正接とした。
【0026】
本発明に係る球状シリカ粒子の製造方法について説明する。
【0027】
本発明に係る球状シリカ粒子は、大気中の溶射法にて製造したシリカ粒子粉末(非晶質)を、アルミナ製の容器に充填し熱処理温度が800℃~1600℃の温度域で、熱処理時間が50分~16時間、大気雰囲気下で処理して製造することができる。好ましい熱処理時間は1~12時間である。1時間未満では結晶化が十分ではない場合があり、12時間を超える熱処理時間を要すると製造コストの負担が大きくなる。クリストバライトの結晶化を促進させる場合、微量のAlを添加し、900℃~1600℃で処理するとよい。処理温度、時間を調整することで、非晶質と結晶性シリカ(クリストバライト相及び石英相)の存在比を制御することができる。
【0028】
ここで、Alの添加量は、酸化物換算で0.5質量%を超え2.0質量%以下であることが好ましい。この範囲であれば、十分な結晶化度が得られ、またAlに起因するアルカリ分の上昇や比重の上昇などを抑制した球状シリカ粒子を得ることができる。0.5質量量%以下であると結晶化度が低下傾向にあり、2.0質量%を超えるとアルカリ成分の上昇・比重の上昇が顕著になり、その結果、樹脂硬化特性に悪影響を与え、また軽量化が求められるモバイル機器や車載用途に適用しにくくなる傾向にある。
【0029】
なお、特許文献1、特許文献2ではアルミニウム添加量を酸化物換算で5000質量ppm(0.5質量%)以下に制限しており、十分な結晶化を実現するにはより高温長時間の熱処理が必要になり、粒子同士が融着しやすくなることがあった。
【0030】
石英の結晶化を促進させる場合は、アルカリ金属やアルカリ土類金属を微量添加し、クリストバライト結晶化温度に比べると低温である800~1150℃で処理すると石英が主相として出現する。アルカリ金属やアルカリ土類金属の添加量は、酸化物換算で0.1~3質量%であってよい。少なすぎると石英化が促進されず、多すぎるとシリカ粒子の純度が低下する。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが挙げられる。石英化促進の効率の観点から、より好ましくはLi、Caである。なお、アルミニウム、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量は、例えば原子吸光法、ICP質量分析(ICP-MS) により測定することができる。
【0031】
本発明の一態様では、球状シリカ粒子中の結晶性石英相の比率が30質量%以上であってもよい。クリストバライトは200-250℃において低温相と高温相の相転移点を持つため、実効的に大きな熱膨張を伴い、使用する用途によっては障害となる場合がある。このような点を重視する場合、石英相を30質量%以上とすることが望ましい。石英は低温相と高温相の相転移点は500℃以上であるため、実用上の障害にはならない。この範囲であれば、半導体パッケージに好適な熱膨張特性を備えた球状シリカ粒子を得ることができる。30質量%未満であるとクリストバライト相の相転移に起因する熱膨張が大きくなりすぎる。
【0032】
本発明の球状シリカ粒子の原料となる、球状シリカ粒子(非晶質)粉末の製造は、溶射法で製造することができる。具体的には、可燃性ガス供給管、助燃性ガス供給管、破砕状の高純度シリカ(石英)供給管で組まれた管構造のバーナーを製造炉の頂部に設置する一方、製造炉の下部を捕集系(生成粉末をブロワーで吸引しバッグフィルターにて捕集)に接続されてなる装置を用い、溶射により球状シリカ粒子(非晶質)粉末を製造した。なお、可燃性ガス供給管からLPGを、助燃性ガス供給管から酸素を供給して、製造炉内に高温火炎を形成した。破砕状シリカ粉末(石英)をシリカ供給管から供給し、球状シリカ粉末をバグフィルターにて捕集した。溶射して得られた球状シリカ粒子は、円形度が0.83以上とすることができる。円形度が高いほど流動性は向上するので、円形度が0.83以上であることが好ましい。溶射手段であれば、容易に円形度の高い粒子を得ることができる。溶射して得られる球状シリカ粒子の円形度を0.83以上にするためには、原料のシリカ粉末を溶融状態にして球状にすることが必要であるため、溶射する際の火炎の温度はシリカが溶融する温度より高くする必要がある。より円形度の高い球状シリカを得るためには、火炎の温度が2000℃以上であることが望ましい。
また、溶射の際のシリカ粒子同士が接触すると、粒子同士が結合して、いびつな形状になりやすいため、火炎中への原料の供給は、ガス気流中に原料を分散させて供給したり、供給量を調整することが望ましい。
【0033】
また、本発明の球状シリカ粒子は、上述した結晶化のための加熱処理の前後で、ほとんどの円形度が低下せず、溶射で得られた球状シリカ粒子(非晶質)の円形度を維持することができる。
【0034】
本明細書において、特に断りのない限り、円形度はマルバーンパナリティカル社製のFPIA-3000を用いて、6000個の10um以上サイズについて測定する。10um以下のサイズを含めて測定すると、概して測定装置の解像度が不足し、円形度が高めに算出されることがある。その場合、円形度を流動性の指標として採用することができない。そのため、10μm以上のサイズについて円形度の測定を行う。まず測定対象となるシリカ粒子等の粉末試料10gと蒸留水200mlをビーカに入れ、超音波ホモジナイザーによって、超音波を、周波数20~30kHzで150~500Wとし、30秒以上分散処理を行って、十分に分散する。分散後のビーカを1分間静止させて、上澄み側180mlを捨て、新たに蒸留水を加えて200mlにする。ここから必要量をピペット等で取り出して光学測定装置で測定する。粒径は円相当径で定義する。これは測定画像上の投影面積に等しい面積を持つ円形の直径であって、
【数1】
によって計算される。
投影面積は画像処理して計算されるが、図1のように、粒子を2値画像化等の画像処理をして、粒子の輪郭部の各画素セルの中央を直線で結んで、囲まれる面積と定義する。測定装置の対物レンズは画素数に応じて0.5-1μm/pixel程度になるよう選定した。
【0035】
本発明の一態様では、前記の球状シリカ粒子95質量%以上99.9質量%以下と、平均粒径0.1μm以下の超微粒子0.1質量%以上5質量%以下を含む、球状シリカ粒子混合物が提供される。
本発明の球状シリカ粒子に、0.1μm以下の超微粒子を適切に配合すると、球状シリカ粒子を充填材として用いたときにその充填率を向上することが可能となる。これは、球状シリカ粒子どうしの間隙に、超微粒子が入り込み、間隙の占める体積が減少することにより、充填率が向上するためである。球状シリカ粒子と超微粒子の配合比率は、球状シリカ粒子を95質量%以上99.9質量%以下、超微粒子0.1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。超微粒子の比率が低すぎると、球状シリカ粒子間の間隙が埋まらず、充填率が向上しない。超微粒子の比率が高すぎると、球状シリカ粒子間の間隙から溢れて、全体の体積が増加する。
ここで、超微粒子とは、球状シリカ粒子であって、粒径が0.1μm以下のものを指す。球状シリカ粒子の製造工程で、粒径が0.1μm以下のもの(超微粒子)を分離しておき、最終製品化の際に、超微粒子を所定の量、配合することが可能である。
また、球状シリカ粒子の粒度分布を調整することもできる。溶射原料に用いる破砕状シリカ粉末(石英)の粒度分布を調整することで、溶射後の球状シリカ粒子(非晶質)の粒度分布を調整できる。結晶化のための熱処理により、得られた球状シリカ粒子は、球状シリカ粒子(非晶質)とは若干異なる粒度分布と異なることがあるが、その粒度分布の変化量を予測することや、後工程での篩分け等によって、本発明の球状シリカ粒子の粒度分布の調整も可能である。本発明のシリカ粒子は、平均粒径(D50)が1~100μmであってもよい。平均粒径が100μmを超えると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、粒径が粗くなりすぎてゲートづまりや金型摩耗を引き起こしやすくなることがあり、平均粒径が1μm未満では粒子が細かくなりすぎて多量に充填することができなくなることがある。平均粒径のより好ましい上限は50μmであり、さらに好ましくは40μmである。一方、平均粒径のより好ましい下限は3μmであり、さらに好ましくは5μmである。なお、ここでの平均粒径は、湿式のレーザー回折法(レーザー回折散乱法)による粒度分布測定により求めることができる。
ここで言う平均粒径は、メディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法で粒径分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とする。
【0036】
本明細書において、特に断りのない限り、球状シリカ粒子や超微粒子等の粒度分布に関わる平均粒径は、レーザー回折法による粒度分布測定等により求める。レーザー回折法による粒度分布は、例えばCILAS社製CILAS920で測定することができる。ここで言う平均粒径は、メディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法等の方法で粒径分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とする。
【0037】
また、本発明の一態様では、前記球状シリカ粒子と樹脂のコンポジット材料が提供される。
コンポジット材料の誘電特性を向上させるためには、シリカフィラーの樹脂コンポジット内での充填率(フィラー充填率)をあげて、低誘電率特性の劣る樹脂(例えば、エポキシ樹脂)の量を減らすことが有効である。本発明のコンポジット材料では、高い流動性を維持しつつ、85質量%以上95質量%未満のフィラー充填率を達成できる。高い流動性を確保するには、シリカフィラー充填率は、従来85質量%以上にすることが困難であり、従来は85質量%未満に限られていたが、本発明のシリカ粒子に0.1μm以下の超微粒子を適切に配合すると更に、充填率を更に上げることが可能となる。一般に、フィラー充填率を上げると流動性が低下するが、0.1μm以下の超微粒子の添加量を0.1質量%以上5質量%以下にすると、高充填性と高流動性の両立が実現できる。これにより、周波数の高周波化に適した誘電率、誘電正接の低いシリカフィラーと樹脂との複合体を得ることができる。ただし、シリカフィラー充填率が95質量%を越えると、相対的に樹脂の量が少なくなり、樹脂コンポジットを得ることが困難になる。
【0038】
本発明の一態様では、前記球状シリカ粒子と樹脂のコンポジット材料を含む。コンポジット材料の組成について、説明する。スラリー組成物を用いて、パッケージ用基板や層間絶縁フィルム等の樹脂基板を製造する場合には、樹脂としてエポキシ樹脂を採用することが好ましい。エポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重要分子量を有する2種類以上を併用もでき、1種類または2種類以上することもできる。これらエポキシ樹脂中でも、入手性や取扱性の観点から、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0039】
例えば、パッケージ用基板や層間絶縁フィルム等の半導体関連材料を製造する場合には、樹脂複合組成物に使用する樹脂として、公知の樹脂が適用できるが、エポキシ樹脂を採用することが好ましい。エポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等を用いることができる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる分子量を有する2種類以上を併用することもできる。これらの中でも、硬化性、耐熱性等の観点から、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等のグリシジルエーテル、フタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエポクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル酸エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、アルキル変性多官能エポキシ樹脂、β-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、1,6-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、2,7-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、更には難燃性を付与するために臭素等のハロゲンを導入したエポキシ樹脂等が挙げられる。これら1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂中でも特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0040】
また、半導体封止材用複合材料以外の用途、例えば、プリント基板用のプリプレグ、各種エンジニアプラスチックス等の樹脂複合組成物に使用する樹脂としては、エポキシ系以外の樹脂も適用できる。具体的には、エポキシ樹脂の他には、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリルーアクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。
【0041】
前記樹脂を硬化するために、公知の硬化剤を用いればよいが、フェノール系硬化剤を使用することができる。フェノール系硬化剤としてはフェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類などを単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
前記フェノール系硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比(フェノール性水酸基当量/エポキシ基当量)が1.0未満、0.1以上が好ましい。これにより、未反応のフェノール硬化剤の残留がなくなり、吸湿耐熱性が向上する。
【0043】
コンポジット材料に配合される球状シリカ粒子の量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましい。コンポジット材料の全体質量に対して、通常、70質量%以上95質量%以下、好ましくは80質量%以上95質量%以下、更に好ましくは85質量%以上95質量%以下であるのが適当である。これは、シリカ粉体の配合量が少なすぎると、封止材料の強度向上や熱膨張抑制などの効果が得られにくいためであり、また逆に多すぎると、シリカ粉体の表面処理に関わらず複合材料においてシリカ粉の凝集による偏析が起きやすく、複合材料の粘度も大きくなりすぎるなどの問題から、封止材料として実用が困難となるためである。
【0044】
また、シランカップリング剤については、公知のカップリング剤を用いればよいが、エポキシ系官能基を有するものが好ましい。
【実施例
【0045】
以下の実施例・比較例を通じて、本発明について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0046】
[実施例1-4]
平均粒径29μmの球状溶融(非晶質)シリカ粒子を溶射法によって作成した。シリカ粒子中のカルシウム濃度、およびアルミニウム濃度を酸化物換算でそれぞれ1質量%,0.6質量%となるように、溶射時の原料粉末に酸化カルシム、アルミナを配合した。作成したシリカ粒子をアルミナ容器に入れ、1400-900℃の熱処理を実施した。各実施例の条件および得られた測定結果は表1に詳細に示す。
【0047】
[実施例5-8]
平均粒径9μmの球状溶融(非晶質)シリカ粒子(0.1μm以下の超微粒子の添加量は3.0質量)を溶射法によって作成したこと以外は実施例1-4と同様に、作成したシリカ粒子をアルミナ容器に入れ、1400-900℃の熱処理を実施した。各実施例の条件および得られた測定結果は表1に詳細に示す。
【0048】
[比較例1-4]
平均粒径29μmの球状溶融(非晶質)シリカ粒子を溶射法によって作成した。シリカ粒子中のカルシウム濃度、およびアルミニウム濃度を酸化物換算でそれぞれ<0.01質量%, 0.1質量%となるように、溶射時の原料粉末に酸化カルシム、アルミナを配合した。作成したシリカ粒子をアルミナ容器に入れ、1400-900℃の熱処理を実施した。各比較例の条件および得られた測定結果は表2に詳細に示す。
【0049】
[比較例5-8]
平均粒径9μmの球状溶融(非晶質)シリカ粒子を溶射法によって作成した。シリカ粒子中のカルシウム濃度、およびアルミニウム濃度を酸化物換算でそれぞれ<0.01質量%, 0.1質量%となるように、溶射時の原料粉末に酸化カルシム、アルミナを配合した。作成したシリカ粒子をアルミナ容器に入れ、1400-900℃の熱処理を実施した。各比較例の条件および得られた測定結果は表2に詳細に示す。
【0050】
[実施例3、9―10、比較例9]
熱処理時間以外は実施例3と同じ条件によって球状シリカ粒子を作製した。また作製した球状シリカ粒子を前述の通りシリコーン樹脂中に80質量%充填して、その断面サンプルのEBSDによって多結晶粒サイズ分布を測定した。また同じサンプルから切り出したサンプルから熱伝導率を測定した。比較例9の条件では結晶粒の成長が不十分であり、熱伝導率にやや劣る結果となったが、実施例3、9、10では十分な熱伝導率が得られた。表3にこれらの条件および測定結果をまとめて示す。
【0051】
[比較例10-11]
実施例3で使用したものと同一の溶射後シリカにアルミニウム濃度を酸化物換算で0.4質量%(比較例10)および0.2質量%(比較例11)に変更して、実施例3と同一の熱処理条件で結晶化を行った。この結果、比較例10,11では非晶質の比率が高い結果となった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
図1