IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】トリオン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20241213BHJP
【FI】
C07D487/04 138
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021551398
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037241
(87)【国際公開番号】W WO2021066043
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019181512
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04014895(US,A)
【文献】特開昭49-127994(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025722(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104926817(CN,A)
【文献】米国特許第04403096(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、及びN,N-ジメチルイミダゾリドンから選択される1種又は2種以上の有機溶媒中、
下記式(I)
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ、水素原子又はウレイン基保護基であり、同一であっても、異なる基であってもよい。)
で表されるジカルボン酸化合物、および
下記式(II)
【化2】
(式中、R及びRは、前記式(I)におけるものと同義である。)
で表される無水化合物から選ばれる少なくとも1種の原料化合物と、
下記式(III)
【化3】
(式中、Rは、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基であり、Arは、置換基を有していてもよい芳香族環基である。)
で表される光学活性アミン化合物と、
を混合して得られる混合液から水を除去することにより、
下記式(IV)
【化4】
(式中、R及びRは、前記式(I)におけるものと同義であり、RおよびArは、前記式(III)におけるものと同義である。)
で表されるトリオン化合物を製造することを特徴とする、トリオン化合物の製造方法。
【請求項2】
記有機溶媒の使用量が、前記原料化合物1gに対して、0.5~5mLである、請求項1に記載のトリオン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記原料化合物が、前記式(I)で表されるジカルボン酸化合物である、請求項1又は2に記載のトリオン化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の方法により、前記有機溶媒中に前記式(IV)で表されるトリオン化合物を製造した後、
前記トリオン化合物、および前記有機溶媒を含む溶液と、水と、を混合することにより、前記トリオン化合物を析出させることを特徴とする、トリオン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリオン化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリオン化合物は、3つのカルボニル基を含む化合物である。この化合物は、様々な分野において材料や合成中間体、原料として有用である。
【0003】
トリオン化合物を合成中間体として活用した合成法の一つとして、以下に表されるビオチン(水溶性ビタミンの一種)の製造法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
【化1】
【0005】
従来、前記トリオン化合物は、例えば、以下の方法で製造されてきた(特許文献1、2、および3参照)。
【0006】
特許文献1、および2の実施例には、ジカルボン酸化合物の無水化合物を含むトルエン中に、光学活性アミン化合物を添加し、還流温度で混合することが記載されている。また、特許文献2の該実施例には、ジカルボン酸化合物の無水化合物を含むメシチレン中に、光学活性アミン化合物を添加し、還流温度で混合することが記載されている。
【0007】
また、特許文献3の実施例には、前記方法の他、ジカルボン酸化合物、光学活性アミン化合物、およびo-キシレンの混合物を、還流温度で混合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第3876656号明細書
【文献】特開2018-108978号公報
【文献】国際公開第2018/025722号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者等の検討により、前記特許文献に記載の方法によりトリオン化合物を製造しようとした場合、以下の点で改善の余地があることが分かった。
【0010】
即ち、前記したとおり、トリオン化合物の従来の製造方法は、通常、芳香族炭化水素系有機溶媒中で反応を実施している。しかしながら、これらの溶媒は引火点が低い。そのため、工業的使用の観点から、安全性に優れ、取扱が容易な溶媒中での反応の実施が望まれていた。なお、メシチレンの引火点は、49℃、o-キシレンの引火点は、32℃、トルエンの引火点は、4℃である。なお、上記引火点の値は、いずれも密閉式で測定された値である。
【0011】
加えて、トリオン化合物の原料となる化合物(ジカルボン酸化合物やこの脱水物である無水化合物等)は、前記有機溶媒に対する溶解性が低い。そのため、比較的多量の有機溶媒を使用しないと、反応系中に前記原料となる化合物が析出して均一な反応を行えない場合がある。
【0012】
しかも、多量の有機溶媒を使用すると、原料濃度が低下し、原料同士を十分に接触させるためには、比較的長時間反応させる必要がある。また、反応後にトリオン化合物を反応系から取り出す際、多量の有機溶媒を除去するのに多大な労力を費やすことがある。
【0013】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決する、トリオン化合物の新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。そして、特定の有機溶媒中で前記反応を行うことにより、安全性が高く、安定的にトリオン化合物を製造できることを見出した。さらには、該有機溶媒を使用することにより、反応時間を比較的短くすることができ、後処理も容易となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
沸点が100℃以上の非プロトン性極性有機溶媒(以下、反応溶媒ともいう。)中、
下記式(I)
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R及びRは、それぞれ、水素原子又はウレイン基保護基であり、同一であっても、異なる基であってもよい。)
で表されるジカルボン酸化合物(以下、単にジカルボン酸化合物ともいう。)、および
下記式(II)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、R及びRは、前記式(I)におけるものと同義である。)
で表される無水化合物(以下、単に無水化合物ともいう。)から選ばれる少なくとも1種の原料化合物と、
下記式(III)
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、Rは、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基であり、Arは、置換基を有していてもよい芳香族環基である。)
で表される光学活性アミン化合物(以下、単に光学活性アミン化合物ともいう。)と、
を混合して得られる混合液から水を除去することにより、
下記式(IV)
【0022】
【化5】
【0023】
(式中、R及びRは、前記式(I)におけるものと同義であり、Arは、前記式(III)におけるものと同義である。)
で表されるトリオン化合物(以下、単にトリオン化合物ともいう。)を製造することを特徴とする、トリオン化合物の製造方法
である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、効率よくトリオン化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、特定の有機溶媒中、原料化合物と、光学活性アミン化合物と、を混合して得られる混合液から水を除去することにより、トリオン化合物を製造する方法である。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
<沸点が100℃以上の非プロトン性極性有機溶媒(反応溶媒)>
本発明の特徴は、反応溶媒として、沸点が100℃以上であって、プロトン供与性の基は含まず、かつ極性基を有する溶媒を使用する点にある。そして、特に制限されるものではないが、引火点が50℃を超える温度となる溶媒、より好ましくは引火点が55℃以上の温度となる溶媒が好ましい。
【0028】
本発明において、前記沸点を有する反応溶媒を使用することにより、以下に詳述する<混合液からの水の除去>において、主として水を反応系外に容易に取り出すことができる。そのため、反応溶媒の沸点は高いほどよく、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上、一層好ましくは140℃以上である。該沸点の上限について特に制限はないが、その溶媒そのものを除去することが容易等の実用上の点から、300℃以下が好ましい。沸点が100℃未満の有機溶媒を使用した場合、水が気化し難く、水の除去が困難になる傾向にある。
【0029】
反応溶媒の種類は、上記要件を満足し、反応に影響を及ぼさず、前記原料化合物、前記光学活性アミン化合物を溶解するものであれば、特に制限されない。そのため、通常の市販の有機溶媒を利用できる。このような有機溶媒としては、例えば、アミド類、スルホキシド類、スルホン類等が挙げられる。
【0030】
アミド類としては、ジメチルアセトアミド(DMA、沸点:165℃、引火点(密閉式):66℃)、ジメチルホルムアミド(DMF、沸点:153℃、引火点(密閉式):58℃)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、沸点:204℃、引火点(密閉式):86℃)、N,N-ジメチルイミダゾリドン(DMI、沸点:222℃、引火点(密閉式):95℃)等が挙げられる。
【0031】
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド(DMSO、沸点:189℃、引火点(密閉式):89℃)等が挙げられる。
【0032】
スルホン類としては、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド(スルホラン、沸点:285℃、引火点(開放式):177℃)等が挙げられる。
【0033】
中でも、安定性、収率、価格等を考慮すると、アミド類が好ましく、特にジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0034】
なお、反応溶媒は、複数種類から成る混合溶媒を使用することもできるし、単独で使用することもできる。操作性等を考慮すると、溶媒を単独で使用することが好ましい。
【0035】
反応溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、できるだけ少ない方が、反応速度、経済性、取扱の点において好ましい。ただし、あまり少ないと、以下に詳述する<後処理>において、ろ過等の操作が困難になる傾向にある。そのため、反応溶媒の使用量は、具体的には、原料化合物1gに対して好ましくは0.5~5mL、より好ましくは0.7~3mL、一層好ましくは1~2mLである。なお、反応溶媒は、2種類以上の前記溶媒を混合したものを使用できるが、この場合は、混合した溶媒の合計量が上記範囲を満足すればよい。
【0036】
<原料化合物(基質)>
本発明においては、ジカルボン酸化合物および無水化合物から選ばれる少なくとも1種を原料(基質)とする。
【0037】
(ジカルボン酸化合物)
ジカルボン酸化合物は、下記式(I)
【0038】
【化6】
【0039】
で表される化合物である。
【0040】
[R、およびRの説明]
式中、R、およびRは、それぞれ、水素原子、又はウレイン基保護基であり、同一であっても、異なる基であってもよい。ウレイン基とは-NHCONH-基であり、ウレイン基保護基は、該ウレイン基の窒素原子に結合する水素原子と置換して、該ウレイン基を目的の反応において不活性である官能基に変換する保護基である。該ウレイン基保護基は、目的の反応が終了した後、前記ウレイン基の窒素原子から脱離することができる限り特に限定されない。該ウレイン基保護基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアシル基が挙げられる。中でも、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~11のアラルキル基、または炭素数1~11のアシル基が挙げられる。特に、それぞれがベンジル基(Bn基)であることが好ましい。
【0041】
このジカルボン酸化合物は、公知の化合物であり、特許文献1~3に例示されている化合物である。
【0042】
[好適なジカルボン酸化合物]
本発明において、より有用なトリオン化合物を製造するために、特に好適なジカルボン酸化合物を例示すれば、下記式(I-A)のもの(上記式(I)において、R、およびRがベンジル基(Bn基)の化合物)が挙げられる。
【0043】
【化7】
【0044】
(無水化合物)
無水化合物は、下記式(II)
【0045】
【化8】
【0046】
で表される化合物である。
【0047】
式中、R、およびRは、前記式(I)におけるものと同義である。
【0048】
無水化合物の製造方法は特に制限されない。例えば、前記ジカルボン酸化合物を脱水して環化することにより製造できる。
【0049】
[好適な無水化合物]
本発明において、より有用なトリオン化合物を製造するために、特に好適な無水化合物を例示すれば、下記式(II-A)のもの(上記式(II)において、R、およびRがベンジル基(Bn基)の化合物)が挙げられる。
【0050】
【化9】
【0051】
(原料化合物)
本発明においては、ジカルボン酸化合物および無水化合物から選ばれる少なくとも1種を原料化合物とする。そのため、ジカルボン酸化合物単独、無水化合物単独、またはこれらの混合物を原料化合物とすることができる。混合物の場合には、合計量を原料化合物の使用量(質量、モル数)とする。
【0052】
前記無水化合物を原料化合物の一部または全量として使用する場合、前記したように、前記ジカルボン酸化合物を脱水して環化することにより製造したものを使用できる。そのため、反応容器に前記ジカルボン酸化合物および有機溶媒を導入した後、加熱脱水し、得られた無水化合物をそのまま原料化合物とすることができる。なお、このとき使用する有機溶媒は、特に制限されるものではないが、操作性等を考慮すると、前記<沸点が100℃以上の非プロトン性極性有機溶媒(反応溶媒)>に記載の反応溶媒を使用することが好ましい。また、前記ジカルボン酸化合物を脱水して得られた無水化合物は、一旦反応溶媒から取り出して使用することもできる。
【0053】
[好適な原料化合物]
無水化合物は、環境大気中に置いておくと、該環境大気中に含まれる水分と徐々に反応しジカルボン酸化合物に戻る。このことから、ジカルボン酸化合物単独を原料化合物とすることが好ましい。こうすることによって、反応溶媒からの無水化合物の取り出し、無水化合物の保存状態の厳密な管理等を行う必要がなく、操作性に優れるようになる。また、この場合、不安定な化合物を使用することがないため、安定して反応を進行できる。そのため、先ずは、反応溶媒とジカルボン酸化合物とを混合することが好ましい。
【0054】
<光学活性アミン化合物(基質)>
本発明において、もう一方の原料(基質)となる光学活性アミン化合物は、下記式(III)
【0055】
【化10】
【0056】
で表される化合物である。
【0057】
[Arの説明]
上記式(III)において、Arは、置換基を有していてもよい芳香族環基である。
【0058】
Arの芳香族環基としては、1~4環式、好ましくは1~3環式、より好ましくは1又は2環式の芳香族環基である。芳香族環基における環構成炭素の数は、6~18、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。前記芳香族環基としては、単環式(1環式)の芳香族環基でもよいし、縮合多環式の芳香族環基であってもよい。前記芳香族環基は縮合多環式の場合、部分的に飽和された縮合多環式の芳香族環基であってもよい。
【0059】
Arの前記芳香族環基が有し得る置換基の数は、芳香族環基の炭素数、員数等に応じて適宜決定することができる。前記芳香族環基が有し得る置換基の数は、好ましくは0~3、より好ましくは0~2、より一層好ましくは0又は1である。
【0060】
Arは、以下の式(III-a)又は(III-b)で表される基であることが好ましい。
【0061】
【化11】
【0062】
、R、およびRは、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子である。中でも、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、またはハロゲン原子であることが好ましい。中でも、R、R、およびRは、全てが水素原子であることが好ましい。
【0063】
[Rの説明]
は、アルキル基、アラルキル基、アリール基である。中でも、炭素数1~10のアルキル基、炭素数7~11のアラルキル基、または炭素数6~10のアリール基が好ましい。中でも、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、特に、メチル基であることが好ましい。
【0064】
[好適な光学活性アミン化合物]
本発明において、より有用なトリオン化合物を製造するために、特に好適な光学活性アミン化合物を例示すれば、下記式(III-aa)のもの(上記式(III)において、Rがメチル基、Arがフェニル基(上記式(III-a)において、R、R、およびRは、全てが水素原子))が挙げられる。
【0065】
【化12】
【0066】
用いる光学活性アミン化合物の量は、特に制限されるものではないが、原料化合物1モルに対して、1~2モル使用することが好ましく、1~1.5モル使用することが好ましい。
【0067】
<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>
本発明において、前記反応溶媒中、前記原料化合物と前記光学活性アミン化合物とを混合する方法は、特に制限されるものではない。例えば、攪拌機能を有する反応器内に、前記原料化合物、および前記反応溶媒を導入し、その反応器内に、前記光学活性アミン化合物を加え、攪拌混合する方法が挙げられる。
【0068】
これらを混合する際の温度(混合温度)は、特に制限されない。具体的には、10~60℃、中でも、操作のし易さの観点から、15~40℃の温度範囲で実施することが好ましい。
【0069】
また、混合させる際の圧力も、特に制限されるものではない。具体的には、大気圧下、減圧下、加圧下の何れの雰囲気で実施してもよい。また、混合時の雰囲気も、特に制限されるものではない。具体的には、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下で実施することができる。
【0070】
これらを混合する時間(混合時間)も、前記原料化合物と前記光学活性アミン化合物との混合状態を確認して適宜決定すればよい。上記混合条件であれば、これらの全量が前記反応器内に導入されてから、0.5~1時間、攪拌混合すれば十分である。なお、この時間は、脱水する前の混合する時間のみである。そのため、この混合時間は、後述する反応時間とは異なるものである。
【0071】
以上の方法により、混合液を得た後、以下に詳述する<混合液からの水の除去>を行うことができる。
【0072】
<混合液からの水の除去(反応)>
本発明において、前記混合液から水を除去することによって、反応が進行し、前記式(IV)で表されるトリオン化合物を製造できる。なお、この水は、原料混合物と光学活性アミン化合物との反応中に生成する水、例えば、ジカルボン酸化合物が無水化合物になる際に生じる水、無水化合物と光学活性アミン化合物とが反応し得られるアミド化合物が閉環しトリオン化合物となる際に生じる水、と考えられる。
【0073】
前記水を除去する操作は、反応系内が十分に混合されているような状態で行うことが好ましく、攪拌混合しながら水を除去することが好ましい。
【0074】
また、前記水の除去(反応)は、前記混合液を加熱した状態で実施することが好ましい。さらには、前記混合液に含まれる原料化合物等が均一に溶解した溶液から水を除去することが好ましい。これらのことから、前記水を除去する際の温度(反応温度)を、100~200℃の温度範囲、さらには100~180℃の温度範囲を維持しながら行うことが好ましい。反応温度がこの温度範囲内であれば、大気圧下で十分に脱水が行われ、反応が進む。
【0075】
このような温度範囲を維持しながら除去する水は、前記混合液から主として水を含む蒸気として前記混合液から遊離する。そのため、例えば、冷却器を備えた装置(例えば、ディーンスターク脱水装置)を使用して水の除去を実施できる。
【0076】
前記水を除去する時間(反応時間)は、特に制限されるものではなく、トリオン化合物の生成状態をHPLC等の分析機器で確認しながら適宜決定すればよい。本発明によれば、従来に比べて短時間で反応が進行するため、反応時間は0.5~5時間、好ましくは1~3時間で十分である。
【0077】
なお、前記<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>において、混合温度が100~200℃の温度範囲である場合には、前記原料化合物と前記光学活性アミン化合物とを攪拌混合しながら、そのまま維持すればよい。この場合の混合時間は、反応時間に含まれる。また、前記混合温度が100℃未満である場合には、これらの全量を攪拌混合した後、得られた混合液が100~200℃の温度範囲となるように、攪拌混合しながら昇温(温度調整)すればよい。この場合の混合時間は、反応時間に含まれない。反応時間は、該混合液の温度が100~200℃の温度範囲に達してから該温度範囲内で維持する時間である。
【0078】
<後処理>
本発明において、前記混合液からの水の除去後、以下の後処理を行うことが好ましい。具体的には、得られた反応液の温度を75~130℃、好ましくは75~100℃の温度範囲にした後、この反応液と、水と、を混合し、固体(トリオン化合物)を析出させることが好ましい。こうすることによって、水に難溶なトリオン化合物が反応液中に析出するため、ろ過等の公知の操作により、容易に目的物が得られる。
【0079】
なお、反応液と水との前記混合途中において、該反応液が前記温度範囲を満足していることが好ましい。こうすることによって、固体(トリオン化合物)の析出を効果的に行うことができる。
【0080】
このとき使用する水の量は、特に制限されるものではなく、得られるトリオン化合物が十分に析出できる量であればよい。具体的には、原料化合物1gに対して3~6mL、好ましくは3.5~5mLの水を使用することが好ましい。また、該水の量を、反応溶媒1mLに対して、2~4mLの水とすることが好ましく、2.5~3.5mLの水とすることがより好ましい。
【0081】
また、反応液と水との前記混合は、固体(トリオン化合物)の析出に必要な量の水を一度に混合することも可能であるし、任意に分割して間欠的に混合することも可能である。
【0082】
前記量の水を一度に混合する場合、例えば、前記反応液に、原料化合物1gに対して3~6mLの量の水を一度に添加することにより実施できる。
【0083】
前記量の水を任意に分割して間欠的に混合する場合、例えば、前記反応液に、前記量の水を0.5~2時間程度の時間をかけて滴下することにより実施できる。また、例えば、前記反応液に、原料化合物1gに対して0.1~0.6mLの量の水を滴下した後、5~15分間攪拌し、その後、原料化合物1gに対して0.3~1.3mLの量の水を滴下後、さらに原料化合物1gに対して2.6~4.1mLの量の水を一度に添加し、5~15分間攪拌することにより実施できる。
【0084】
中でも、前記量の水を間欠的に混合することが好ましい。こうすることによって、該反応液の温度が前記温度範囲を満足し易くなる。また、固体(トリオン化合物)の析出を、時間をかけてゆっくり行える。これらのことから、該析出を効果的に行うことができる。
【0085】
また、前記量の水を間欠的に混合することによって、析出した固体(トリオン化合物)がほぐし易く、ろ過等の分離操作が簡便に行える。このように、製造のし易さの点のおいても、間欠的に水を混合することが好ましい。
【0086】
得られた反応液と、水と、の混合後、該反応液の温度をさらに15~35℃の温度範囲とし、0.5~1.5時間攪拌混合することが好ましい。
【0087】
析出した固体(トリオン化合物)はろ過し、乾燥する。
【0088】
得られたトリオン化合物が十分高純度である場合、そのまま次の反応に用いても良いが、さらに精製しても良い。かかる場合の精製方法としては、例えば、得られたトリオン化合物と、溶媒と、を攪拌混合し洗浄する方法が挙げられる。このとき使用する溶媒としては、水、エタノール等のアルコール類が挙げられる。中でも、溶媒を入手するのに必要な費用、得られるトリオン化合物の収率の面から、水が好ましい。
【0089】
本発明の製造方法の好適な一例を反応式で示すと以下の通りである。
【0090】
【化13】
【0091】
以上の方法を行うことにより、医薬の原料・中間体など、様々な用途に使用可能なトリオン化合物を高収率で製造できる。特に、このような方法により得られたトリオン化合物は、ビオチンの合成中間体である下記アミドアルコール化合物の製造方法に供する原料として好適に使用することができる。
【0092】
【化14】
【実施例
【0093】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、具体例であって、本発明は、これらにより限定されるものではない。
【0094】
なお、実施例および比較例における評価は、以下の方法で行った。
【0095】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定条件>
装置:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)。
カラム、充填剤:X Bridge C18 5μm(4.6×150)
カラム温度:30℃
移動相:[A液]アセトニトリル、[B液]酢酸:水=1:400
移動相A、Bの混合比を、下表1のように変えて濃度勾配制御する。
【0096】
【表1】
【0097】
流速:0.6mL/分。
【0098】
なお、上記HPLCの測定条件において、トリオン化合物は約18.0分にピークが確認される。
【0099】
以下の実施例、比較例において、トリオン化合物の純度の値は、上記HPLCの測定条件に準じて測定される全ピークの面積値(溶媒由来のピークを除く)の合計に対する各化合物のピーク面積値の割合から求められる値である。
【0100】
[実施例1]
下記式で表されるジカルボン酸化合物からトリオン化合物を製造した場合の例である。
【0101】
【化15】
【0102】
<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>
500mL4つ口フラスコに、cis-1,3-ジベンジル-2-オキソ-4,5-イミダゾリジンジカルボン酸(50.00g、0.141mol;ジカルボン酸化合物)と、N-メチル-2-ピロリドン(65mL;反応溶媒)と、を加えて室温(25℃程度)で撹拌した。得られた懸濁液に、同温で(R)-α-メチルベンジルアミン(17.10g、0.141mol;光学活性アミン化合物)と、N-メチル-2-ピロリドン(10mL;反応溶媒)と、を加えて、10分間攪拌し、混合液を得た。なお、前記混合液に含まれる反応溶媒(N-メチル-2-ピロリドン)の量は、75mL(ジカルボン酸化合物1gに対して1.5mL)である。
【0103】
<混合液からの水の除去>
前記4つ口ナスフラスコにDean-Stark管と冷却管を取り付け、窒素を1分流し窒素置換をした。前記混合液を、160℃に昇温し、1時間攪拌した。Dean-Stark管に溜まった水は適時除去した。
【0104】
<後処理>
攪拌後、得られた反応液の温度を100℃まで降温し、その中に水225mLを30分かけて滴下した(前記水の使用量は、ジカルボン酸化合物1gに対して4.5mL、反応溶媒1mLに対して3mLである。)。さらに反応液の温度を室温(25℃程度)付近まで冷却し、同温で1時間撹拌を行って固体(トリオン化合物)をろ過した。ろ過した結晶をエタノール(50mL)で2回洗浄した。洗浄後の固体(トリオン化合物)を60℃で48時間送風乾燥して、トリオン化合物(57.28g、収率92.4%、HPLC純度98.85%)を得た。
【0105】
[実施例2]
<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>
実施例1の<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>において、反応溶媒を、ジメチルアセトアミドとした。これ以外は、実施例1の<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>と同様の操作を行った。
【0106】
<混合液からの水の除去>
実施例1の<混合液からの水の除去>において、前記混合液を、140℃に昇温し、2時間攪拌した。これ以外は、実施例1の<混合液からの水の除去>と同様の操作を行った。
【0107】
<後処理>
実施例1の<後処理>において、攪拌後、得られた反応液の温度を120℃まで降温し、その中に水225mLを60分かけて滴下した。また、エタノールで洗浄後の湿体を60℃で8時間送風乾燥した。これ以外は、実施例1の<後処理>と同様の操作を行った。
【0108】
その結果、トリオン化合物(58.21g、収率93.9%、HPLC純度99.23%)を得た。
【0109】
[実施例3]
<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>
実施例1の<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>において、四つ口フラスコの容量を100mL、ジカルボン酸化合物を10.00g(0.028mol)、反応溶媒とその使用量(混合液に含まれる反応溶媒)をジメチルアセトアミド15mL、光学活性アミン化合物の使用量を3.42g(0.028mol)とした。これ以外は、実施例1の<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>と同様の操作を行った。
【0110】
<混合液からの水の除去>
実施例1の<混合液からの水の除去>において、前記混合液を、140℃に昇温し、2時間攪拌した。これ以外は、実施例1の<混合液からの水の除去>と同様の操作を行った。
【0111】
<後処理>
攪拌後、得られた反応液の温度を85℃まで降温し、その中に同温を維持しながら水4mL(ジカルボン酸化合物1gに対して0.4mL)をゆっくり滴下した。さらに同温で10分間攪拌した。その後、同温を維持しながらさらに水11mL(ジカルボン酸化合物1gに対して1.1mL)をゆっくり滴下した。その後、さらに水30mL(ジカルボン酸化合物1gに対して3.0mL)を一度に加えて同温で10分間攪拌した。このとき使用した水の量は、45mL(ジカルボン酸化合物1gに対して4.5mL)である。
【0112】
その後、30分間かけて反応液の温度を室温(25℃程度)付近まで冷却し、同温で1時間攪拌を行って固体(トリオン化合物)をろ過した。
【0113】
ろ過した結晶をエタノール(10mL)で2回洗浄した。洗浄後の固体(トリオン化合物)を60℃で17時間送風乾燥して、トリオン化合物(11.10g、収率89.5%、HPLC純度99.23%)を得た。
【0114】
[実施例4]
<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>
実施例1の<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>において、四つ口フラスコの容量を100mL、ジカルボン酸化合物を10.00g、反応溶媒とその使用量(混合液に含まれる反応溶媒)をジメチルアセトアミド15mL、光学活性アミン化合物の使用量を3.42g(0.028mol)とした。これ以外は、実施例1の<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>と同様の操作を行った。
【0115】
<混合液からの水の除去>
実施例1の<混合液からの水の除去>において、前記混合液を、150℃に昇温し、2時間攪拌した。これ以外は、実施例1の<混合液からの水の除去>と同様の操作を行った。
【0116】
<後処理>
攪拌後、得られた反応液の温度を85℃まで降温し、その中に同温を維持しながら水3.5mL(ジカルボン酸化合物1gに対して0.35mL)をゆっくり滴下した。さらに同温で10分間攪拌した。その後、同温を維持しながらさらに水0.45mL(ジカルボン酸化合物1gに対して0.045mL)をゆっくり滴下した。その後、さらに水37mL(ジカルボン酸化合物1gに対して3.7mL)を一度に加えて同温で10分間攪拌した。このとき使用した水の量は、40.95mL(ジカルボン酸化合物1gに対して4.10mL)である。
【0117】
その後、30分間かけて反応液の温度を室温(25℃程度)付近まで冷却し、同温で1時間攪拌を行って固体(トリオン化合物)をろ過した。
【0118】
ろ過した結晶を水(20mL)で洗浄した。洗浄後の固体(トリオン化合物)を60℃で4時間送風乾燥して、トリオン化合物(11.37g、収率91.7%、HPLC純度98.83%)を得た。
【0119】
[実施例5]
実施例2でジメチルアセトアミドの量を50mL(ジカルボン酸化合物1gに対して1.0mL)とする以外は、同じ条件で反応、及び後処理を行い、トリオン化合物(59.44g、収率95.88%、HPLC純度96.23%)を得た。
【0120】
[実施例6]
実施例2でジメチルアセトアミドの量を100mL(ジカルボン酸化合物1gに対して2.0mL)とする以外は、同じ条件で反応、及び後処理を行い、トリオン化合物(43.66g、収率70.43%、HPLC純度99.53%)を得た。
【0121】
[参考例1]
<反応溶媒中、原料化合物と光学活性アミン化合物との混合>
4つ口ナスフラスコ中、cis-1,3-ジベンジル-2-オキソ-4,5-イミダゾリジンジカルボン酸(100g、282mmol;ジカルボン酸化合物)、(R)-α-メチルベンジルアミン(90.2g、737mmol;光学活性アミン化合物)およびo-キシレン(400mL、ジカルボン酸化合物1gに対して4mL)を混合し、混合液を得た。
【0122】
<混合液からの水の除去>
4つ口ナスフラスコにDean-Stark管と冷却管を取り付け、窒素を1分流し窒素置換をした。前記混合液を、還流温度(154℃)に昇温し、10時間攪拌した。Dean-Stark管に溜まった水は適時除去し、水が溜まらなくなった時を反応終了時と判断した。
【0123】
<後処理>
得られた反応液を減圧留去後、濃縮残渣を220℃、1時間、加熱後、2-プロパノールを加えて結晶化し、ろ過することにより、トリオン化合物(112g、収率90%)を得た。
【0124】
[参考例2]
参考例1と同じ反応で得た反応混合物を室温へ冷却後、水400mL(ジカルボン酸化合物1gに対して4.0mL、反応溶媒1mLに対して1mL)を加えて晶析しようとしたが攪拌が困難となり後処理できなかった。