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特許7603629樹脂物性値予測装置及び樹脂物性値の予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】樹脂物性値予測装置及び樹脂物性値の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20241213BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20241213BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20241213BHJP
   G01N 21/75 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/359
G01N21/65
G01N21/75 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022039661
(22)【出願日】2022-03-14
(65)【公開番号】P2023134247
(43)【公開日】2023-09-27
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】寺内 一利
(72)【発明者】
【氏名】山地 俊則
(72)【発明者】
【氏名】金子 弘昌
(72)【発明者】
【氏名】山影 柊斗
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538536(JP,A)
【文献】特表2021-521463(JP,A)
【文献】特表2022-509222(JP,A)
【文献】特開2016-161421(JP,A)
【文献】特表2021-529935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B、G01C、G01D、G01F、G01G、G01H、G01J、G01K、G01L、G01M、G01N、G01P、G01Q、G01R、G01S、G01T、G01V、G01W
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいて樹脂組成物を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する取得部と、
予め樹脂組成物を測定したスペクトルデータと、樹脂物性値とを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記取得部により取得されたスペクトルデータを有する樹脂組成物の樹脂物性値を算出する算出部とを備え
前記算出部は、前記取得部により取得されたスペクトルデータの平滑化処理を行う前処理部を更に備え、
前記前処理部は、局所幅を41未満とする局所回帰により前記平滑化処理を行う
樹脂物性値予測装置。
【請求項2】
前記教師データに含まれるスペクトルデータは、予め分光センサにより測定されたスペクトルデータを平滑化処理したスペクトルデータであり
記前処理部により平滑化処理が行われたスペクトルデータに基づいて樹脂物性値を算出する
請求項1に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項3】
前記教師データに含まれるスペクトルデータは、予め分光センサにより測定されたスペクトルデータを微分処理したスペクトルデータであり、
前記前処理部は、前記取得部により取得されたスペクトルデータの微分処理を更に行い、
前記算出部は、前記前処理部により前記微分処理が行われたスペクトルデータに基づいて樹脂物性値を算出する
請求項2に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項4】
前記前処理部は、前記取得部により取得されたスペクトルデータの前記平滑化処理と、前記取得部により取得されたスペクトルデータの前記微分処理とをそれぞれ別個独立して行い、
前記算出部は、前記前処理部により前記平滑化処理が行われたスペクトルデータ、前記前処理部により前記微分処理が行われたスペクトルデータ、又は前記前処理部により前記平滑化処理と前記微分処理のいずれも行われていないスペクトルデータのいずれかに基づいて樹脂物性値を算出する
請求項3に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記樹脂物性値の対数変換処理を、前記平滑化処理と前記微分処理と別個独立して行い、前記対数変換処理が行われた前記樹脂物性値、又は前記対数変換処理が行われていない前記樹脂物性値のいずれか一方を出力する
請求項4に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項6】
前記取得部は、サンプリングされた樹脂組成物が所定時間放冷された後に測定されたスペクトルデータを取得する
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項7】
前記取得部は、前記バッチ式反応槽により樹脂重合反応が行われている間、所定時間毎に測定されたスペクトルデータを取得する
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、アクリル樹脂であり、
前記取得部は、アクリル樹脂を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項9】
前記取得部が取得するスペクトルデータを測定する分光センサは、少なくとも近赤外線(NIR)分光センサ、又はラマン分光センサの少なくともいずれか一方である
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の樹脂物性値予測装置。
【請求項10】
バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいて樹脂組成物を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する取得工程と、
予め樹脂組成物を測定したスペクトルデータと、樹脂物性値とを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記取得工程により取得されたスペクトルデータを有する樹脂組成物の樹脂物性値を算出する算出工程とを有し、
前記算出工程は、前記取得工程により取得されたスペクトルデータの平滑化処理を行う前処理工程を更に有し、
前記前処理工程は、局所幅を41未満とする局所回帰により前記平滑化処理を行う
樹脂物性値の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂物性値予測装置、学習装置及び樹脂物性値の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回分式反応槽を用いた重合反応を行うプロセスにおいて、製品の均一な品質を保つため、測定したプロセスデータに基づいた制御を行う技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、ポリマーの製造プロセスにおいて、サンプリング及び検査を含むプロセス全体に要する時間を短縮するため、ポリマーのラマンスペクトルに基づいて、ポリマーの品質を算出するための技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-106703号公報
【文献】特表2021-521463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているようなプロセスの制御方法によれば、サンプリングと物性検査作業とを行うことを要し、プロセスの制御に長く時間がかかってしまうといった問題があった。
また、特許文献2に開示されているような技術を用いた場合、機械学習アルゴリズムを用いるため時間の短縮化を図ることができるかもしれないが、予測精度が±20%程度であり、高精度に予測することができない。予測精度に起因して樹脂組成物の物性値が品質閾値を満たさない場合、再分析や重合条件の再調整等の是正措置を図ることを要する。是正措置には費用や労力を要し、生産性低下を引き起こす問題があり、場合によっては重合品を廃棄する必要がある。
すなわち、従来技術によれば、樹脂組成物の物性の算出には労力や時間を要し、機械学習を用いた場合であっても予測精度が低いといった問題があった。
【0006】
そこで本発明は、短時間で、精度よく樹脂組成物の物性を算出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、機械学習アルゴリズムにより、短時間で、精度よく樹脂組成物の物性を算出することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置は、バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいて樹脂組成物を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する取得部と、予め樹脂組成物を測定したスペクトルデータと、樹脂物性値とを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記取得部により取得されたスペクトルデータを有する樹脂組成物の樹脂物性値を算出する算出部とを備え、前記算出部は、前記取得部により取得されたスペクトルデータの平滑化処理を行う前処理部を更に備え、前記前処理部は、局所幅を41未満とする局所回帰により前記平滑化処理を行う
【0010】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記教師データに含まれるスペクトルデータは、予め分光センサにより測定されたスペクトルデータを平滑化処理したスペクトルデータであり、前記前処理部により平滑化処理が行われたスペクトルデータに基づいて樹脂物性値を算出する。
【0011】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記教師データに含まれるスペクトルデータは、予め分光センサにより測定されたスペクトルデータを微分処理したスペクトルデータであり、前記前処理部は、前記取得部により取得されたスペクトルデータの微分処理を更に行い、前記算出部は、前記前処理部により前記微分処理が行われたスペクトルデータに基づいて樹脂物性値を算出する。
【0012】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記前処理部は、前記取得部により取得されたスペクトルデータの前記平滑化処理と、前記取得部により取得されたスペクトルデータの前記微分処理とをそれぞれ別個独立して行い、前記算出部は、前記前処理部により前記平滑化処理が行われたスペクトルデータ、前記前処理部により前記微分処理が行われたスペクトルデータ、又は前記前処理部により前記平滑化処理と前記微分処理のいずれも行われていないスペクトルデータのいずれかに基づいて樹脂物性値を算出する。
【0013】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記算出部は、前記樹脂物性値の対数変換処理を、前記平滑化処理と前記微分処理と別個独立して行い、前記対数変換処理が行われた前記樹脂物性値、又は前記対数変換処理が行われていない前記樹脂物性値のいずれか一方を出力する。
【0015】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記取得部は、サンプリングされた樹脂組成物が所定時間放冷された後に測定されたスペクトルデータを取得する。
【0016】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記取得部は、前記バッチ式反応槽により樹脂重合反応が行われている間、所定時間毎に測定されたスペクトルデータを取得する。
【0017】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記樹脂組成物は、アクリル樹脂であり、前記取得部は、アクリル樹脂を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する。
【0018】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値予測装置において、前記取得部が取得するスペクトルデータを測定する分光センサは、少なくとも近赤外線(NIR)分光センサ、又はラマン分光センサの少なくともいずれか一方である。
【0021】
また、本発明の一態様に係る樹脂物性値の予測方法は、バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいてサンプリングされた樹脂組成物を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する取得工程と、予め樹脂組成物を測定したスペクトルデータと、樹脂物性値とを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記取得工程により取得されたスペクトルデータを有する樹脂組成物の樹脂物性値を算出する算出工程とを有し、前記算出工程は、前記取得工程により取得されたスペクトルデータの平滑化処理を行う前処理工程を更に有し、前記前処理工程は、局所幅を41未満とする局所回帰により前記平滑化処理を行う
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、短時間で、精度よく樹脂組成物の物性を算出することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る樹脂物性値予測システムについて説明するための図である。
図2】本実施形態に係るスペクトルデータの一例としてのNIRスペクトルを示す図である。
図3】本実施形態に係るスペクトルデータの一例としてのラマンスペクトルを示す図である。
図4】本実施形態に係るオンライン測定について説明するための図である。
図5】本実施形態に係る学習段階の一例を説明するための機能構成図である。
図6】本実施形態に係る教師データを作成するための重合条件の一例について説明するための図である。
図7】本実施形態に係る予測段階における樹脂物性値予測装置の機能構成の一例を示す機能構成図である。
図8】本実施形態に係る算出部の機能構成の一例を示す機能構成図である。
図9】本実施形態に係る平滑化処理の一例を説明するための図である。
図10】本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果の具体例を模式的に示した図である。
図11】本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果についての第一の例を説明するための図である。
図12】本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果についての第二の例を説明するための図である。
図13】本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果についての第三の例を説明するための図である。
図14】本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果についての第四の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[樹脂物性値予測システムの概略]
以下、本発明の実施形態に係る樹脂物性値予測システム1について、図面を参照しながら説明する。まず、本実施形態に係る樹脂物性値予測システム1の前提となる事項について説明する。樹脂物性値予測システム1は、樹脂の重合プロセスにおいて、樹脂組成物の物性測定に用いられる。
【0025】
本実施形態に係る樹脂組成物とは、ホモポリマー、コポリマー等の高分子を広く含む。また、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、ウレタン樹脂(PU)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が挙げられる。以下の実施形態においては、一例として、樹脂組成物がアクリル樹脂であり、該アクリル樹脂を含む溶液(以下、樹脂組成物を含む溶液の形態を「樹脂生成物」ともいう)を用いて予測を行う場合を説明する。
【0026】
本実施形態に係る樹脂組成物の物性とは、NV(Non-Volatile)値、粘度、残モノマー濃度、分子量等を広く含む。以下の説明において樹脂組成物の物性を、樹脂物性値、ポリマー液物性とも記載する場合がある。以下、本実施形態に係る樹脂物性値の測定方法の一例について説明する。なお、本実施形態に係る樹脂組成物の物性は上述した一例に限定されず、以下に説明する測定方法以外の方法により測定されてもよい。
【0027】
NV値(不揮発成分量)の測定方法について説明する。まず、サンプリングした樹脂組成物を、事前に重量を測定したアルミ皿に採取し、重量を測定する。その後、トルエンとメタノールとを含む希釈溶剤を加えることにより20[wt%(ウェイトパーセント)]に希釈し、108[℃]に加熱したオーブンを用いて1時間加熱し、揮発成分を除去する。加熱後にアルミ皿に残留した樹脂組成物残渣の重量を測定し、加熱前重量との差分から不揮発成分量を測定する。
【0028】
粘度の測定方法について説明する。まず、サンプリングした樹脂組成物をガードナー気泡粘度管へ一定量加えて密閉する。密閉した粘度管を25[℃]に管理した水浴中に漬けることにより樹脂組成物の温度を調節する。その後、気泡上昇速度を比較することで最も近い標準粘度サンプルを判定し、標準粘度換算表を用いて数値化する。
【0029】
残モノマー濃度の測定方法について説明する。まず、サンプリングした樹脂組成物を0.5[wt%]にN,N-ジメチルホルムアミドを用いて希釈し、測定試料を調製する。FID検出器を有するガスクロマトグラフィーを用いて樹脂組成物中のモノマー量を測定する。全モノマーの合計量から、残モノマー濃度を測定する。
【0030】
分子量の測定方法について説明する。まず、サンプリングした樹脂組成物にテトラヒドロフランを加えて0.2[wt%]に希釈し、測定試料を調製する。この測定試料から、示差屈折検出器を有するゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算分子量として分子量を測定する。
【0031】
図1は、本実施形態に係る樹脂物性値予測システムについて説明するための図である。同図を参照しながら、樹脂物性値予測システム1の概略について説明する。
樹脂物性値予測システム1は、予測モデルPMを備える。予測モデルPMは、スペクトルデータSDに基づき樹脂物性値RPを予測するよう予め学習された学習済みモデルである。換言すれば、予測モデルPMは、スペクトルデータSDを説明変数Xとし、樹脂物性値RPを目的変数Yとする学習済みモデルである。
【0032】
樹脂物性値予測システム1は、オフライン測定、又はオンライン測定のいずれかにより測定されたスペクトルデータSDに基づき、樹脂物性値RPを予測する。
樹脂物性値RPとは、具体的には、NV値、粘度、残モノマー濃度、分子量等であってもよい。
【0033】
スペクトルデータSDは、NIRセンサ(近赤外線センサ)、又はラマン分光センサ(ラマン分光光度計)を用いて、サンプリングした樹脂組成物から取得される。図2及び図3を参照しながら、NIRセンサ、又はラマン分光センサを用いて取得されたスペクトルデータSDの一例について説明する。
【0034】
図2は、本実施形態に係るスペクトルデータの一例としてのNIRスペクトルを示す図である。同図を参照しながら、NIRセンサにより取得されたスペクトルデータSDの一例について説明する。同図における横軸は波長[nm(ナノメートル)]を示し、縦軸は透過率[%]を示す。
同図には、モノマーの滴下工程が終了した直後に測定されたスペクトルデータSDの一例を示す。
【0035】
図2に示すように、NIRセンサを用いた場合、スペクトルデータSDには、各波長における透過率が示される。この場合、予測モデルPMは、各波長における透過率を説明変数Xとして用い、学習及び予測を行う。この場合、1つのスペクトルデータSDに含まれるデータ数は1300程度であってもよい。
【0036】
図3は、本実施形態に係るスペクトルデータの一例としてのラマンスペクトルを示す図である。同図を参照しながら、ラマン分光センサにより取得されたスペクトルデータSDの一例について説明する。同図における横軸はラマンシフト[cm-1]を示し、縦軸は散乱強度[任意単位]を示す。
同図には、モノマーの滴下工程が終了した直後に測定されたスペクトルデータSDの一例を示す。
【0037】
図3に示すように、ラマン分光センサを用いた場合、スペクトルデータSDには、各ラマンシフトにおける散乱強度が示される。この場合、予測モデルPMは、各ラマンシフトにおける散乱強度を説明変数Xとして用い、学習及び予測を行う。この場合、1つのスペクトルデータSDに含まれるデータ数は2900程度であってもよい。
【0038】
なお、同図に示す一例では、横軸をラマンシフト[cm-1]とし、入射光よりも長波長領域に観測されるストークス散乱を示しているが、ラマンシフトに代えて波長[nm]を横軸として用いてもよい。
【0039】
なお、学習段階及び予測段階(推論段階)において、スペクトルデータSDは、オフライン測定及びオンライン測定のいずれの測定方法により取得されてもよい。
【0040】
オフライン測定とは、重合反応容器において反応進行中の樹脂組成物からサンプルを採取し、所定期間経過後にスペクトルデータSDを測定することをいう。具体的には、まず重合反応容器からサンプリングした樹脂組成物をガラス容器に採取し、室温まで終夜で放冷する。放冷後、採取した樹脂組成物にNIRセンサまたはラマン分光センサを挿入してスペクトルを測定することによりオフライン測定を行う。
【0041】
オンライン測定とは、重合反応容器において反応進行中の樹脂組成物からサンプルを採取し、リアルタイムでスペクトルデータSDを測定することをいう。具体的には、重合反応容器にNIRセンサ又はラマンセンサを設置し、NIRセンサ又はラマンセンサが重合液に挿入された状態でアクリル樹脂合成を行いながら、規定時間毎にスペクトルを測定することにより、オンライン測定を行う。
【0042】
図4は、本実施形態に係るオンライン測定について説明するための図である。同図を参照しながら、オンライン測定におけるサンプリングタイミングの一例について説明する。同図には、重合反応槽の温度を縦軸、時間を横軸として、重合反応槽の温度の時間変化を示す。
【0043】
重合反応槽とは、例えば不図示の反応容器であり、例えば当該反応容器にスチーム等を噴射することにより、反応容器内に格納された試料の温度を制御する。このとき、重合反応槽の温度とは、反応容器それ自体の温度であるか、或いは反応容器内の温度を指す。また、反応容器を温度調整された所定のオイルバスに沈めることにより、反応容器内に格納された試料の温度を制御してもよい。この場合、重合反応槽の温度とは、反応容器を加熱するオイルバスの温度であってもよい。
【0044】
先ず、時刻t11において、反応容器内の温度を上昇させる。時刻t12において、温度が所定の反応温度(例えば、115[℃])に到達すると、オイルバスの温度は一定に保たれる。
時刻t12から時刻t14において、モノマー及び重合開始剤を滴下する滴下工程が行われる。本重合反応は発熱反応であるため、必要に応じて冷却水などで反応容器を冷却し、反応容器内に格納された試料の温度を維持する。滴下工程は、例えば5時間であってもよい。滴下工程中、例えば1回のサンプリングが行われる。図4に示す一例では、時刻t13においてサンプリングが行われる。
【0045】
アクリル樹脂を生成する際に用いられるモノマーとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。モノマーとしては、例えばアクリル酸、アクリル酸アルキル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルなどを挙げることができる。
アクリル樹脂を生成する際に用いられる重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;アゾ化合物;(2-エチルヘキサノイル)(tert-ブチル)ペルオキシドなどの有機酸化物を使用することができる。
上記滴下工程において、開始反応では重合開始剤の熱分解等によりラジカルが生成される。成長反応では、上記開始反応で生成したラジカルが順次モノマーと反応して重合体ラジカルが生成され、更に、重合体ラジカルとモノマーとが反応することにより、樹脂組成物としてのアクリル樹脂が生成される。
【0046】
滴下終了後、時刻t14から時刻t18において、温度を所定の温度に保持するホールド工程が行われる。このホールド工程は、残モノマーや重合開始剤の消費が行われる期間となる。ホールド工程は、例えば4時間であってもよい。ホールド工程中、例えば1時間ごとに複数回のサンプリングが行われる。図4に示す一例では、時刻t14から時刻t18の期間中、1時間ごとに、合計5回のサンプリングが行われる。本ホールド工程中の複数回のサンプリングにより、例えば樹脂組成物の粘度を測定することができる。
ホールド工程の後、時刻t18から時刻t19において、希釈・冷却工程が行われ、反応容器内の温度が冷却される。本希釈・冷却工程後のサンプリングにより、例えば樹脂組成物のNV値を測定することができる。
【0047】
なお、オフライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき学習された予測モデルPMを用いる場合、オフライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき予測することが好適である。また、オンライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき学習された予測モデルPMを用いる場合、オンライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき予測することが好適である。
【0048】
なお、オフライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき学習された予測モデルPMであっても、温度補正することによりオンライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき予測することが可能である。また、オンライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき学習された予測モデルPMであっても、温度補正することによりオフライン測定により取得されたスペクトルデータSDに基づき予測することが可能である。
【0049】
なお、スペクトルデータSDの測定方法は上述したオフライン測定及びオンライン測定の一例に限定されず、その他の方法により測定されてもよい。
【0050】
[学習段階]
図5及び図6を参照しながら学習段階の一例について説明する。
図5は、本実施形態に係る学習段階の一例を説明するための機能構成図である。同図を参照しながら、予測モデルPMの学習について説明する。以下の説明において、予測モデルPMを学習装置又は学習済みモデル122等と記載する場合がある。
【0051】
予測モデルPMは、教師データTDを用いて、教師あり学習により学習される。教師データTDは、予めオンライン測定又はオフライン測定により測定されたスペクトルデータSDと、樹脂物性値RPとが対応付けられている。予測モデルPMは、スペクトルデータSDに応じた樹脂物性値RPを予測する。すなわち、予測モデルPMは、バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいてサンプリングされた樹脂組成物を分光センサにより測定した結果得られるスペクトルデータSDと、樹脂組成物の樹脂物性値RPとを教師データTDとして、スペクトルデータSDに応じた樹脂物性値RPを予測するよう学習される。
【0052】
ここで、予測モデルPMは、Ridge回帰、Lasso回帰、ランダムフォレスト、サポートベクトル回帰、部分的最小二乗回帰(PLS;Partial Least Squares Regression)等の回帰手法を試みて、最も適切な手法を選択してもよい。すなわち予測モデルPMは、まず、複数の機械学習アルゴリズムにより同一の教師データTDに基づいた第1の学習を行う。次に予測モデルPMは、第1の学習が行われた複数の結果のうちいずれか1つを選択する。このように複数の機械学習アルゴリズムにより学習を試みることにより、最適な回帰手法を選択することができる。
【0053】
予測モデルPMは、複数の教師データTDを用いて学習される。複数の教師データTDは、条件を異ならせて測定されたデータであってもよい。
学習に用いられる複数の教師データTDは、温度が同一、又は同一とみなされる程度であることが好適である。同一とみなされる程度とは、例えば樹脂物性値RPに影響を与えない程度であってもよい。
【0054】
図6は、本実施形態に係る教師データを作成するための重合条件の一例について説明するための図である。同図を参照しながら、複数の教師データTDを作成するための重合条件の一例について説明する。
ここで、予測モデルPMを学習させるために、複数の(可能であれば大量の)教師データTDを作成することが望ましい。複数の教師データTDを同一の重合条件を用いて作成した場合、過学習により、予測段階において誤差が生じる場合がある。したがって、本実施形態においては、過学習を防止するため、基本条件BCを用いて複数の教師データTDを作成し、更に基本条件BCを中心とし条件を異ならせた複数の改良条件ICにより複数の教師データTDを作成する。
【0055】
図6に示す一例では、基本条件BCとして、滴下工程の温度が“115[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“115[℃]”、“4[h]”である場合の一例が示されている。教師データTDを作成するため、基本条件BCにより、例えば6ロット分のデータを取得する。図4を参照しながら説明した測定では1ロットにつき6個のデータが取得できるため、6ロット分のデータを取得することにより、合計36個のデータを得ることができる。なお、基本条件においては、ロットごとに、液温度が±1[℃]、滴下時間が±10[分]の変動が生じる場合がある。
【0056】
また、図6には、改良条件ICとして、基本条件BCの滴下工程及びホールド工程の時間及び温度を異ならせた条件が示されている。具体的には、改良条件ICとして、改良条件IC1から改良条件IC8の8個の条件が示されている。
改良条件IC1は、滴下工程の温度が“110[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“110[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC2は、滴下工程の温度が“120[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“120[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC3は、滴下工程の温度が“115[℃]”、“4[h]”であり、ホールド工程の温度が“115[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC4は、滴下工程の温度が“115[℃]”、“6[h]”であり、ホールド工程の温度が“115[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC5は、滴下工程の温度が“115[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“110[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC6は、滴下工程の温度が“115[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“120[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC7は、滴下工程の温度が“110[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“115[℃]”、“4[h]”である。改良条件IC8は、滴下工程の温度が“120[℃]”、“5[h]”であり、ホールド工程の温度が“115[℃]”、“4[h]”である。
【0057】
予測モデルPMは、例えば上述したような基本条件BCを6ロット分、及び改良条件ICを8ロット分用いて、合計14ロット分の条件により取得されたデータ(すなわち、84個のデータ)を教師データTDとして学習される。
【0058】
[予測段階]
図7から図9を参照しながら予測段階の一例について説明する。
図7は、本実施形態に係る予測段階における樹脂物性値予測装置の機能構成の一例を示す機能構成図である。同図を参照しながら、予測段階における樹脂物性値予測システム1の一例について説明する。樹脂物性値予測システム1は、分光センサSSと、樹脂物性値予測装置10と、記憶装置20とを備える。樹脂物性値予測装置10は、取得部11と、算出部12と、出力部13とを備える。
【0059】
分光センサSSは、バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいてサンプリングされた樹脂組成物を測定する。取得部11は、分光センサSSにより測定した結果得られるスペクトルデータSDを取得する。取得部11が取得するスペクトルデータSDを測定する分光センサSSは、少なくとも近赤外線(NIR)分光センサ、又はラマン分光センサの少なくともいずれか一方であってもよい。
【0060】
また、本実施形態に係る樹脂組成物の一例としては、具体的にはアクリル樹脂であり、より具体的にはアクリル樹脂を含む溶液の形態であってもよい。すなわち、取得部11は、具体的にはアクリル樹脂である樹脂生成物を、より具体的にはアクリル樹脂を含む溶液の形態である樹脂生成物を分光センサSSにより測定した結果得られるスペクトルデータを取得する。
【0061】
樹脂物性値予測装置10がオフライン測定に用いられる場合、取得部11は、サンプリングされた樹脂組成物が所定時間放冷された後に測定されたスペクトルデータSDを取得する。
樹脂物性値予測装置10がオンライン測定に用いられる場合、取得部11は、バッチ式反応槽により樹脂重合反応が行われている間、所定時間毎に測定されたスペクトルデータSDを取得する。
【0062】
算出部12は、予測モデルPMを用いて、取得部11により取得されたスペクトルデータSDを有する樹脂組成物の樹脂物性値RPを算出する。予測モデルPMとは、樹脂組成物を測定したスペクトルデータSDと、樹脂物性値RPとを教師データとして予め学習された学習済みモデルである。すなわち、算出部12は、機械学習により樹脂物性値RPを算出する。
【0063】
出力部13は、算出部12により算出された樹脂物性値RPに関する情報を、記憶装置20に出力する。記憶装置20に記憶された樹脂物性値RPに関する情報は、所定の通信ネットワークを介して不図示の情報処理端末に送信されたり、不図示の表示部に表示されたりしてもよい。
【0064】
図8は、本実施形態に係る算出部の機能構成の一例を示す機能構成図である。同図を参照しながら、算出部12の機能構成の一例について説明する。算出部12は、前処理部121と、学習済みモデル122とを備える。学習済みモデル122は、予測モデルPMの一例である。
【0065】
前処理部121は、分光センサSSにより取得されたスペクトルデータSDに対して前処理を行う。
ここで、スペクトルデータSDに含まれる情報には、樹脂物性値RPの算出に直接的に用いられる情報と、樹脂物性値RPの算出にあたり誤差となる不要な情報(ノイズ)とが含まれる場合がある。前処理部121は、スペクトルデータSDに対して前処理を行うことにより、不要な情報を除去し、主要な情報のみを抽出する。
なお、前処理部121により前処理を行う場合、学習済みモデル122は、学習段階においても予測段階と同様に、スペクトルデータSDを前処理した情報に基づいて学習される。
【0066】
前処理部121が行う前処理の一例としては例えば、平滑化処理がある。換言すれば、前処理部121は、取得部11により取得されたスペクトルデータSDの平滑化処理を行うことにより、スペクトルデータSDに対して前処理を行う。具体的には、前処理部121は、多項式に近似することにより、平滑化処理を行ってもよい。好適には、前処理部121は、局所回帰により平滑化を行ってもよい。この場合、局所幅(カーネル幅)を異ならせることにより、必要な情報が抜け落ちてしまったり、ノイズが除去しきれなかったりする場合がある。したがって、前処理部121は、最適な局所幅を選択することによりスペクトルデータSDを回帰してもよい。
【0067】
なお、前処理部121により平滑化処理が行われる場合、算出部12は、前処理部121により平滑化処理が行われたスペクトルデータSDに基づいて樹脂物性値RPを算出する。また、前処理部121により平滑化処理が行われる場合、学習済みモデル122は、学習段階においてスペクトルデータSDを平滑化処理した情報に基づいて学習される。換言すれば、教師データTDに含まれるスペクトルデータSDは、予め分光センサSSにより測定されたスペクトルデータSDを平滑化処理したスペクトルデータSDであってもよい。
【0068】
図9は、本実施形態に係る平滑化処理の一例を説明するための図である。同図を参照しながら、前処理部121が行う平滑化処理の一例について説明する。図9(A)は平滑化処理を行う前のスペクトルデータSDを示し、図9(B)から図9(D)は、それぞれ局主幅を異ならせて図9(A)に示すスペクトルデータSDについて平滑化処理を行った後の結果を示す。
【0069】
図9(A)に示すスペクトルデータSDは、平滑化処理を行っていない。したがって、図9(A)に示すスペクトルデータSDには、ノイズが多数含まれている。
【0070】
図9(B)は、局所幅を21として局所回帰により平滑化処理を行った場合の一例である。同図に示すように、局所幅を21として局所回帰を行った結果、図9(A)に示したノイズが除去されている。
【0071】
図9(C)は、局所幅を41として局所回帰により平滑化処理を行った場合の一例である。同図に示すように、局所幅を41として局所回帰を行った結果、図9(A)に示したノイズは除去されているものの、主要な情報まで抜け落ちてしまっている箇所が存在する。例えば図9(A)及び図9(B)を参照すると500から700[cm-1]の間に2つのピークが存在していることが分かる。しかしながら図9(C)を参照するとピークが1つに抜け落ちてしまっていることが分かる。
【0072】
図9(D)は、局所幅を201として局所回帰により平滑化処理を行った場合の一例である。同図に示すように、局所幅を201として局所回帰を行った結果、図9(A)に示したノイズは除去されているものの、主要な情報(ピーク)がかなり抜け落ちてしまっている。
【0073】
前処理部121は、平滑化処理を行った場合、ノイズを低減することが可能であるが、極小なピークが存在する場合、消失してしまう恐れがある。したがって、局所幅の選択には、ノイズを低減することが可能であり、重要かつ極小なピークが消失しない程度の値を選択することが望ましい。
具体的には、前処理部121は、局所幅を41未満とする局所回帰により平滑化処理を行うことが好適である。より好適には、前処理部121は、局所幅を21程度とする局所回帰により平滑化処理を行うことが好適である。
【0074】
また、前処理部121は、取得部11により取得されたスペクトルデータSDを平滑化処理することに加えて、又は代えて、微分処理を行ってもよい。前処理部121が微分処理を行う場合、算出部12は、前処理部121により微分処理が行われたスペクトルデータSDに基づいて樹脂物性値RPを算出する。
前処理部121は、微分処理を行うことにより、重複したピークからそれぞれのスペクトル情報を抽出することができ、ベースラインを補正することができる。
なお、前処理部121が微分処理を行う場合、教師データTDに含まれるスペクトルデータSDは、予め分光センサSSにより測定されたスペクトルデータSDを微分処理したスペクトルデータSDである。
【0075】
一方、前処理部121は、微分処理を行うことにより、スペクトル中のノイズを増大させてしまう恐れがある。したがって、スペクトルデータSDによっては、微分処理を行った方が良い場合と、微分処理を行わない方が良い場合とがある。したがって、前処理部121は、スペクトルデータSDに対して、平滑化処理を行い、更に別個独立して微分処理を行い、最適なスペクトルデータSDを用いて機械学習を実行してもよい。
すなわち、前処理部121は、取得部11により取得されたスペクトルデータSDの平滑化処理と、取得部11により取得されたスペクトルデータSDの微分処理とをそれぞれ別個独立して行い、算出部12は、前処理部121により平滑化処理が行われたスペクトルデータSD、又は前処理部121により微分処理が行われたスペクトルデータSDのいずれか一方に基づいて樹脂物性値RPを算出してもよい。
【0076】
なお、前処理部121は、平滑化処理が行われたスペクトルデータSDに対して微分処理を行ってもよい。
【0077】
なお、上述したような平滑化処理や微分処理の代表的な手法として、最小二乗法を基にしたSavitzky-Golay法(以下、SG法と記載する。)が知られている。前処理部121は、SG法により前処理を行ってもよい。
【0078】
また、算出部12は、取得部11により取得されたスペクトルデータSDを平滑化処理及び/又は微分処理することに加えて、樹脂物性値RPの対数変換処理を行ってもよい。例えば、スペクトルデータSDと、樹脂物性値RPとの関係がアレニウス型の物理法則にしたがう場合、樹脂物性値RPを対数変換処理することが有効である。一方、樹脂物性値RPを対数変換処理することにより、樹脂物性値RPの予測誤差が拡大する場合もある。すなわち、樹脂物性値RPの対数変換処理を行った場合、精度向上する場合としない場合とがある。
したがって、算出部12は、対数変換処理が行われた樹脂物性値RP、又は対数変換処理が行われていない樹脂物性値RPのいずれか一方を樹脂物性値RPとして出力してもよい。なお、樹脂物性値の対数変換処理は、平滑化処理及び微分処理とは別個独立して行われるものである。
【0079】
なお、スペクトルデータSDにノイズが含まれない場合には、樹脂物性値予測システム1は、前処理部121を備えない構成を採用してもよい。
【0080】
[予測結果]
次に、図10から図14を参照しながら、樹脂物性値予測システム1による予測結果の一例について説明する。図10は、本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果の具体例を模式的に示した図である。当該予測結果は、横軸に実際の測定値を、縦軸に樹脂物性値予測装置10による予測値を取り、誤差及び決定係数Rを算出したものである。図11から図14には、センサの種類がNIRセンサを用いた場合とラマンセンサを用いた場合、教師データTDとして基本条件BCのみを用いて予測モデルPMを学習させた場合と基本条件BCに加え改良条件ICを用いて予測モデルPMを学習させた場合の組み合わせの結果を示す。
【0081】
まず、図10を参照しながら樹脂物性値予測装置の予測結果の具体例について説明する。図10(A)は誤差及び決定係数Rが良い場合の一例であり、図10(B)は誤差及び決定係数Rが悪い場合の一例である。図4に示すグラフは横軸に予測値を取り、縦軸に測定値を取るため、図に示す一次直線上に測定結果の点が近い程精度が良い。図10(A)に示す一例では、具体的には、誤差が±0.49[%]であり、決定係数Rが0.996である。同様に、図に示す一次直線上に測定結果の点が遠い程精度が悪い。図10(B)に示す一例では、具体的には、誤差が±5.5[%]であり、決定係数Rが-0.077である。
【0082】
図11から図14は、それぞれ本実施形態に係る樹脂物性値予測装置の予測結果についての一例を説明するための図である。図11に示す一例は、NIRセンサを用いた場合であって、基本条件BCのみを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例である。図12に示す一例は、ラマンセンサを用いた場合であって、基本条件BCのみを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例である。
図13に示す一例は、NIRセンサを用いた場合であって、基本条件BC及び改良条件ICを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例である。図14に示す一例は、ラマンセンサを用いた場合であって、基本条件BC及び改良条件ICを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例である。
【0083】
図11から図14には、それぞれ樹脂物性値RPの一例としてガードナー粘度[mPa・s]、樹脂物性値RPの一例としてNV値[wt%]、残モノマー濃度、分子量を予測した場合の結果について示す。それぞれの結果は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理を施したか否かを「有り」又は「無し」かによって示す。
【0084】
まず、図11を参照しながら、NIRセンサを用いた場合であって、基本条件BCのみを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例について説明する。
ガードナー粘度[mPa・s]は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.958であり、誤差は±8.3[%]であった。
NV値[wt%]は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.996であり、誤差は±0.49[%]であった。
残モノマー濃度は、平滑化処理及び微分処理を行い、対数変換処理を行わなかったうえで学習及び予測を行ったこの場合、決定係数Rは0.975であり、誤差は±5.4[wt%]であった。
分子量は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.696であり、誤差は±2.5[%]であった。
【0085】
次に、図12を参照しながら、ラマンセンサを用いた場合であって、基本条件BCのみを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例について説明する。
ガードナー粘度[mPa・s]は、平滑化処理及び対数変換処理を行い、微分処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.945であり、誤差は±11.8[%]であった。
NV値[wt%]は、平滑化処理及び対数変換処理を行い、微分処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.992であり、誤差は±0.85[%]であった。
残モノマー濃度は、平滑化処理を行い、微分処理及び対数変換処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.962であり、誤差は±6.9[wt%]であった。
分子量は、平滑化処理及び対数変換処理を行い、微分処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは-0.077であり、誤差は±5.5[%]であった。
【0086】
次に、図13を参照しながら、NIRセンサを用いた場合であって、基本条件BC及び改良条件ICを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例について説明する。
ガードナー粘度[mPa・s]は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.854であり、誤差は±15.3[%]であった。
NV値[wt%]は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.990であり、誤差は±1.04[%]であった。
残モノマー濃度は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。
この場合、決定係数Rは0.934であり、誤差は±7.0[wt%]であった。
分子量は、平滑化処理、微分処理及び対数変換処理をいずれも行ったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.054であり、誤差は±5.3[%]であった。
【0087】
次に、図14を参照しながら、ラマンセンサを用いた場合であって、基本条件BC及び改良条件ICを用いて予測モデルPMを学習させた場合の一例について説明する。
ガードナー粘度[mPa・s]は、平滑化処理及び対数変換処理を行い、微分処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.820であり、誤差は±13.7[%]であった。
NV値[wt%]は、平滑化処理及び対数変換処理を行い、微分処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.971であり、誤差は±1.41[%]であった。
残モノマー濃度は、平滑化処理を行い、微分処理及び対数変換処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.981であり、誤差は±4.9[wt%]であった。
分子量は、平滑化処理及び対数変換処理を行い、微分処理を行わなかったうえで学習及び予測を行った。この場合、決定係数Rは0.083であり、誤差は±5.2[%]であった。
【0088】
[実施形態のまとめ]
以上説明した実施形態によれば、樹脂物性値予測装置10は、取得部11を備えることにより、バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいて樹脂組成物を分光センサSSにより測定した結果得られるスペクトルデータSDを取得し、算出部12を備えることにより予測モデルPMを用いて樹脂組成物の樹脂物性値RPを算出する。すなわち、樹脂物性値予測装置10によれば、試料ごとに物性検査作業を行うことを要しないため、短時間で樹脂組成物の物性を算出することができる。また、樹脂物性値予測装置10によれば、オペレータによる樹脂物性値RPの測定作業を要しないため、測定精度のブレを低減することができる。
【0089】
また、上述した実施形態によれば、予測モデルPMの学習段階において、教師データTDに含まれるスペクトルデータSDは、予め分光センサSSにより測定されたスペクトルデータSDを平滑化処理したスペクトルデータSDである。また、樹脂物性値予測装置10が備える算出部12は、前処理部121を備えることにより取得部11により取得されたスペクトルデータSDの平滑化処理を行い、前処理部121により平滑化処理が行われたスペクトルデータSDに基づいて樹脂物性値RPを算出する。前処理部121は、平滑化処理を行うことによりスペクトルデータSDに含まれるノイズを予め除去する。したがって、本実施形態によれば、平滑化処理によりスペクトルデータSDに含まれるノイズを除去することができるため、精度よく樹脂組成物の物性を算出することができる。
【0090】
また、上述した実施形態によれば、予測モデルPMの学習段階において、教師データTDに含まれるスペクトルデータSDは、予め分光センサSSにより測定されたスペクトルデータSDを微分処理したスペクトルデータSDである。また、樹脂物性値予測装置10が備える算出部12は、前処理部121を備えることにより取得部11により取得されたスペクトルデータSDの微分処理を更に行い、前処理部121により微分処理が行われたスペクトルデータSDに基づいて樹脂物性値RPを算出する、前処理部121は、微分処理を行うことによりスペクトルデータSDに含まれる重複ピーク等からスペクトル情報を抽出し、ベースラインの補正を行う。したがって、本実施形態によれば、微分処理によりスペクトルデータSDに含まれる重複ピーク等からスペクトル情報を抽出し、ベースラインの補正を行うことができるため、精度よく樹脂組成物の物性を算出することができる。
【0091】
また、上述した実施形態によれば、前処理部121は、取得部11により取得されたスペクトルデータSDの平滑化処理と微分処理とをそれぞれ別個独立して行い、前処理部121により平滑化処理が行われたスペクトルデータSD、又は前処理部121により微分処理が行われたスペクトルデータSDのいずれか一方に基づいて樹脂物性値RPを算出する。換言すれば、平滑化処理を行うことにより最適な結果が得られる場合と、微分処理を行うことにより最適な結果が得られる場合とがあるため、算出部12は、平滑化処理と微分処理とをそれぞれ別個独立して行ったうえで、いずれか一方を用いて樹脂物性値RPを算出する。したがって、本実施形態によれば、精度よく樹脂物性値RPを算出することができる。
【0092】
また、上述した実施形態によれば、前処理部121は、局所幅を41未満とする局所回帰により平滑化処理を行う。したがって、樹脂物性値予測装置10によれば、スペクトルデータSDに含まれるノイズを除去しつつ、重要かつ極小ピークが消失する可能性の低い範囲で平滑化処理を行うことができる。
【0093】
また、上述した実施形態によれば、取得部11は、サンプリングされた樹脂組成物が所定時間放冷された後に測定されたスペクトルデータSDを取得する。すなわち、樹脂物性値予測装置10は、オフライン測定された結果に基づいて機械学習を実行する。したがって、本実施形態によれば、オフライン測定された結果に基づいて樹脂物性値RPを算出することができる。樹脂物性値予測装置10は、オフライン測定された結果に基づいて樹脂物性値RPを算出することができるため、物性評価と終点管理において、従来よりも短時間で処理を終えることができる。また、樹脂物性値予測装置10は、オフライン測定された結果に基づいて樹脂物性値RPを算出することができるため、測定精度が作業者に依存しない。
【0094】
また、上述した実施形態によれば、取得部11は、バッチ式反応槽により樹脂重合反応が行われている間、所定時間毎に測定されたスペクトルデータSDを取得する。すなわち、樹脂物性値予測装置10は、オンライン測定された結果に基づいて機械学習を実行する。したがって、本実施形態によれば、オンライン測定された結果に基づいて樹脂物性値RPを算出することができる。樹脂物性値予測装置10は、オンライン測定された結果に基づいて樹脂物性値RPを算出することができるため、物性評価と終点管理において、従来よりも短時間で処理を終えることができる。また、樹脂物性値予測装置10は、オンライン測定された結果に基づいて樹脂物性値RPを算出することができるため、測定精度が作業者に依存しない。さらに、オンライン測定ではバッチ式反応槽により樹脂重合反応が行われている間サンプリングを行わないため、サンプリング作業を削減することができる。
【0095】
また、上述した実施形態によれば、取得部11は、アクリル樹脂である樹脂生成物を分光センサSSにより測定した結果得られるスペクトルデータSDを取得する。したがって、本実施形態によれば、樹脂物性値予測装置10は、アクリル樹脂の樹脂物性値RPを算出することができる。
また、取得部11は、アクリル樹脂を含む溶液の形態である樹脂生成物を分光センサSSにより測定した結果得られるスペクトルデータSDを取得することができる。したがって、樹脂物性値予測装置10は、アクリル樹脂を含む溶液の形態である樹脂生成物の樹脂物性値RPを算出することができる。
【0096】
また、上述した実施形態によれば、取得部11が取得するスペクトルデータSDを測定する分光センサSSは、少なくとも近赤外線(NIR)分光センサ、又はラマン分光センサの少なくともいずれか一方である。したがって、本実施形態によれば、近赤外線分光センサ、又はラマン分光センサにより測定されたスペクトルデータSDに基づいて、樹脂物性値RPを算出することができる。
【0097】
また、上述した実施形態によれば、予測モデルPMは、バッチ式反応槽により樹脂重合反応を行うプロセスにおいて樹脂組成物を分光センサSSにより測定した結果得られるスペクトルデータSDと、樹脂組成物の樹脂物性値とを教師データTDとして、スペクトルデータSDに応じた樹脂物性値RPを予測するよう学習される、したがって、樹脂物性値予測装置10は、予測モデルPMを備えることにより、スペクトルデータSDに基づいて樹脂物性値RPを算出することができる。
【0098】
なお、上述した実施形態における樹脂物性値予測システム1が備える各部の機能の全体あるいはその機能の一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0099】
また、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークを介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0100】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0101】
1…樹脂物性値予測システム、10…樹脂物性値予測装置、11…取得部、12…算出部、13…出力部、121…前処理部、122…学習済みモデル、SS…分光センサ、20…記憶装置、SD…スペクトルデータ、PM…予測モデル、RP…樹脂物性値、TD…教師データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14