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特許7603864生コンクリートの品質予測方法、品質予測プログラム、生コンクリートの製造方法、及び、生コンクリートの品質予測装置
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  • 特許-生コンクリートの品質予測方法、品質予測プログラム、生コンクリートの製造方法、及び、生コンクリートの品質予測装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】生コンクリートの品質予測方法、品質予測プログラム、生コンクリートの製造方法、及び、生コンクリートの品質予測装置
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/02 20060101AFI20241213BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20241213BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B28C7/02
G01N33/38
E04G21/02 ESW
E04G21/02 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024053142
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】市川 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 実暉
(72)【発明者】
【氏名】玉滝 浩司
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-124304(JP,A)
【文献】特開2020-144099(JP,A)
【文献】特開2023-103030(JP,A)
【文献】特許第7318093(JP,B1)
【文献】特開2023-031937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/02
G01N 33/38
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサの電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する取得工程と、
前記入力情報の入力に応じて生コンクリートの出荷時における品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記取得工程において取得された前記入力情報とに基づいて、生コンクリートの出荷時における品質を予測する予測工程と、
を含む、生コンクリートの品質予測方法。
【請求項2】
生コンクリートの出荷時における品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種以上の品質を含む、
請求項1に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項3】
生コンクリートの出荷時における品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの2種以上の品質を含み、
前記予測モデルは、前記入力情報の入力に応じて、前記2種以上の品質を出力するように構築されている、
請求項2に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項4】
前記予測モデルは、前記入力情報を正規化する演算と、全結合層における一部の結合を欠損させる演算とを行わないニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されている、
請求項1に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項5】
前記第2情報は、生コンクリートの使用時における目標品質を示す情報に加えて、生コンクリートの出荷時における目標品質を示す情報を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項6】
前記予測モデルは、ニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されており、
前記予測モデルを構築する際のニューラルネットワークを用いた機械学習では、重みの更新式として、Adam、AdamBelief、Adamax、AdaBound、Adagrad、AMSGRAD、AMSBound、RMSprop、SgdW、Momentum、及び、Nesterovから成る群から選択された1つが利用されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項7】
前記予測モデルは、ニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されており、
前記予測モデルを構築する際のニューラルネットワークを用いた機械学習では、損失関数として、損失値L(a)が常に誤差aの絶対値以下になる関数が利用されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法をコンピュータに実行させる品質予測プログラム。
【請求項9】
生コンクリートを製造する製造工程と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の生コンクリートの品質予測方法により、前記製造工程において製造された生コンクリートの出荷時における品質を予測する品質予測工程と、を含む、
生コンクリートの製造方法。
【請求項10】
コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサの電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する入力情報取得部と、
前記入力情報の入力に応じて生コンクリートの出荷時における品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記入力情報取得部により取得された前記入力情報とに基づいて、生コンクリートの出荷時における品質を予測する予測演算部と、
を備える、生コンクリートの品質予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生コンクリートの品質予測方法、品質予測プログラム、及び、生コンクリートの品質予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-124304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、予測モデルを用いた品質予測を行う場合において、品質予測に伴う作業の煩雑化を避けつつ、品質の予測精度を向上させることができる生コンクリートの品質予測方法、品質予測プログラム、及び、生コンクリートの品質予測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサの電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する取得工程と、前記入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記取得工程において取得された前記入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する予測工程と、を含む、生コンクリートの品質予測方法。
【0006】
[2]生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種以上の品質を含む、上記[1]に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【0007】
[3]生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの2種以上の品質を含み、前記予測モデルは、前記入力情報の入力に応じて、前記2種以上の品質を出力するように構築されている、上記[2]に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【0008】
[4]前記予測モデルは、前記入力情報を正規化する演算と、全結合層における一部の結合を欠損させる演算とを行わないニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されている、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の生コンクリートの品質予測方法。
【0009】
[5]前記第2情報は、生コンクリートの使用時における目標品質を示す情報に加えて、生コンクリートの出荷時における目標品質を示す情報を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の生コンクリートの品質予測方法。
【0010】
[6]前記予測モデルは、ニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されており、前記予測モデルを構築する際のニューラルネットワークを用いた機械学習では、重みの更新式として、Adam、AdamBelief、Adamax、AdaBound、Adagrad、AMSGRAD、AMSBound、RMSprop、SgdW、Momentum、及び、Nesterovから成る群から選択された1つが利用されている、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の生コンクリートの品質予測方法。
【0011】
[7]前記予測モデルは、ニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されており、前記予測モデルを構築する際のニューラルネットワークを用いた機械学習では、損失関数として、損失値L(a)が常に誤差aの絶対値以下になる関数が利用されている、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の生コンクリートの品質予測方法。
【0012】
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の生コンクリートの品質予測方法をコンピュータに実行させる品質予測プログラム。
【0013】
[9]コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサの電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する入力情報取得部と、前記入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記入力情報取得部により取得された前記入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する予測演算部と、を備える、生コンクリートの品質予測装置。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、予測モデルを用いた品質予測を行う場合において、品質予測に伴う作業の煩雑化を避けつつ、品質の予測精度を向上させることができる生コンクリートの品質予測方法、品質予測プログラム、及び、生コンクリートの品質予測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、生コンクリートの製造システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、電力負荷値に係るデータを例示する図である。
図4図4は、制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5図5(a)は、学習フェーズでの処理フローの一例を示す図である。図5(b)は、評価フェーズでの処理フローの一例を示す図である。
図6図6(a)及び図6(b)は、予測モデルによる演算過程の一例を表す模式図である。図6(c)は、ニューラルネットワークの演算過程の一例を模式的に表す図である。
図7図7は、損失関数の一例を示すグラフである。
図8図8は、予測値と正解値との比較結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図1には、一実施形態に係る品質予測装置を備える生コンクリートの製造システムが模式的に示されている。
【0017】
[生コンクリートの製造システム]
最初に、生コンクリートの製造システムについて、その概要を説明する。図1に示される製造システム1は、生コンクリートを製造するシステムである。製造システム1は、コンクリート材料を練り混ぜて、生コンクリートを製造する。
【0018】
製造システム1において用いられるコンクリート材料は、セメント、混和材、粗骨材、細骨材、水、及び混和剤等を含む。粗骨材としては、例えば、砂利、砕石、スラグ粗骨材、軽量粗骨材、再生粗骨材、回収骨材、又はこれらを混合した粗骨材が挙げられる。砂利は、山砂利、陸砂利、川砂利、又は海砂利などである。スラグ粗骨材は、高炉スラグ骨材、フェロニッケルスラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材、又は石炭ガス化スラグ骨材などである。軽量粗骨材は、天然軽量骨材、副産軽量骨材、又は人工軽量骨材などである。粗骨材は、砕岩砕石、又は石灰砕石を含んでもよい。
【0019】
細骨材としては、例えば、砂、砕砂、スラグ細骨材、軽量細骨材、再生細骨材、回収骨材、又はこれらを混合した細骨材が挙げられる。砂は、山砂、陸砂、川砂、又は海砂などである。スラグ細骨材は、高炉スラグ骨材、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材、又は石炭ガス化スラグ骨材などである。軽量細骨材は、天然軽量骨材、副産軽量骨材、又は人工軽量骨材などである。
【0020】
砕石、及び砕砂の岩種には、例えば、火成岩類、堆積岩類、変成岩類、珪石、石灰岩、ドマロイト、又はかんらん岩などがある。火成岩類は、花崗岩、閃緑岩、斑れい岩、ひん岩、輝緑岩、流紋岩、安山岩、玄武岩、又は蛇紋岩などである。堆積岩類は、礫岩、砂岩、頁岩、粘板岩、又は凝灰岩などである。変成岩類は、片麻岩、又は結晶片岩などである。
【0021】
製造システム1は、製造した生コンクリートを運搬車200に積み込む。運搬車200は、生コンクリートが積み込まれた後に、生コンクリートが使用される現場(例えば、工事現場)まで生コンクリートを運搬する。運搬車200としては、例えば、アジテータ車(ミキサ車)、又はダンプトラックが挙げられる。製造システム1は、現場ごとに設定された目標品質(要求品質)を満たすように、コンクリート材料から生コンクリートを製造してもよい。例えば、製造システム1のオペレータが、現場ごとに設定された目標品質を満たすようにコンクリート材料の配合を決定し、製造システム1に対して動作指示を入力する。
【0022】
現場ごとに設定された目標品質は、製造システム1で製造され、出荷される前の(出荷時点での)生コンクリートの品質とは異なっている。例えば、製造システム1においては、現場ごとに設定された目標品質が満たされるように、製造システム1で製造され、出荷される前の生コンクリートの品質の管理(検査等)が行われる。本開示では、現場ごとに設定された目標品質のことを「生コンクリートの使用時における目標品質」という。生コンクリートの使用時とは、現場において生コンクリートを受け入れる時に相当する。生コンクリートの使用時における目標品質については、例えば、下記の(1)~(3)のように設定される。
【0023】
(1)日本産業規格(国家規格)
一例では、生コンクリートの使用時における目標品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの少なくとも1種の品質の目標値を含む。スランプ、スランプフロー、及び空気量に関する現場での目標値は、「JIS A 5308:2019(レディーミクストコンクリート)」又は「JIS A 5308:2024(レディーミクストコンクリート)」における「表1-レディーミクストコンクリートの種類及び区分」に従って、購入者又は発注者によって指定されてもよい。
(2)建築基準法(法律)
建築材料としては上記JISに規定される目標品質の他、建築基準法第37条第1項第2号において国土交通大臣の認定対象となる建築指定材料に関する目標品質が設定されていてもよい。JISに適合していない生コンクリートでも、国土交通大臣の認定を受けたものであれば建築物に使用することができる。これにより、上記JISに規定されていない目標品質(例えば、スランプが23cm、スランプフローが65cm、など)の生コンクリートを建築物(建築物の基礎、主要構造物、安全上、防火上又は衛生上重要な部分等)に使用することができる。
(3)学協会が定める基準
上述したJISに記載がない場合、生コンクリートの使用時における目標品質として、公益社団法人土木学会が制定する「コンクリート標準示方書」、一般社団法人日本建築学会が制定する「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事」といった各学会が定めた技術基準に基づいて目標品質が設定されてもよい。
なお、(1)に記載した「JIS A 5308:2019(レディーミクストコンクリート)」又は「JIS A 5308:2024(レディーミクストコンクリート)」は、建築基準法第37条第1項第1号にて規定される「国土交通大臣の指定する日本産業規格」に相当する。してみると、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報は、建築基準法第37条第1項第1号で規定された指定建築材料の目標品質であってもよい。あるいは、(2)に記載した同法第37条第1項第2号に規定される国土交通大臣の認定対象となる指定建築材料に関する目標品質であってもよい。また、(3)に記載した「コンクリート標準示方書」又は「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事」といった学協会が定める基準によって設定される目標品質であってもよい。
【0024】
出荷される前の生コンクリートの品質の管理のために、生コンクリートの使用時における目標品質に基づいて、生コンクリートの出荷時における目標品質が定められてもよい。生コンクリートの出荷時における目標品質は、工場ごとに定められた社内規格等によって設定されてもよい。生コンクリートの出荷時における目標品質の設定において、製造を行う際の使用材料の状態(品質)、季節(気温)、コンクリートの種類、使用時の目標品質、及び運搬時間のうちの少なくとも1つの情報が考慮されてもよい。生コンクリートの出荷時における目標品質は、例えば、生コンクリートの使用時における目標品質に社内規格で定めた値が加算されて設定される。
【0025】
製造システム1は、例えば、製造装置100と、制御装置10と、を備える。製造装置100は、制御装置10からの動作指示に基づいて、生コンクリートを製造する装置である。製造装置100は、コンクリート材料を練り混ぜて、生コンクリートを製造する。製造装置100は、例えば、材料置場101と、運搬装置104と、貯蔵瓶111と、計量瓶112と、集合ホッパ113と、ミキサ114と、積込ホッパ115と、を備える。
【0026】
材料置場101は、コンクリート材料を貯蔵する場所である。材料置場101は、複数のサイロ102を含む。複数のサイロ102は、コンクリート材料の少なくとも一部を、材料の種類ごとに貯蔵する容器である。複数のサイロ102は、例えば、粗骨材を貯蔵するサイロ102と、細骨材を貯蔵するサイロ102と、セメントを貯蔵するサイロ102とを含む。
【0027】
運搬装置104は、複数のサイロ102に貯蔵されたコンクリート材料を、貯蔵瓶111まで運搬する装置である。運搬装置104は、例えば、コンクリート材料を搬送するベルトコンベアを含む。運搬装置104は、互いに異なるタイミングで、材料の種類ごとにコンクリート材料を運搬してもよい。一例では、制御装置10による動作指示に基づいて、各種コンクリート材料のうちの特定の材料が運搬装置104に移され、貯蔵瓶111まで搬送される。
【0028】
貯蔵瓶111は、各種のコンクリート材料を一時的に貯蔵する。貯蔵瓶111には、材料置場101から、運搬装置104によって各種のコンクリート材料が運搬(搬送)される。貯蔵瓶111は、各種のコンクリート材料を個別に貯蔵するように構成されている。以下、「コンクリート材料」を単に「材料」と表記する場合がある。貯蔵瓶111に貯蔵されている各種材料は、必要に応じて計量瓶112に供給される。
【0029】
計量瓶112は、貯蔵瓶111の下方に配置されている。計量瓶112は、制御装置10からの動作指示に基づいて動作し、各種材料を個別に計量する。計量瓶112は、制御装置10から指示された目標量の材料を検知すると、その材料を集合ホッパ113に供給する。水が計量瓶112に供給される際に、その水に混和剤が混合されてもよい。集合ホッパ113は、計量瓶112の下方に配置されている。集合ホッパ113は、計量瓶112から排出される各種材料を集約し、集約した各種材料をミキサ114に供給する。なお、製造装置100は集合ホッパ113を備えていなくてもよく、計量瓶112から各種材料がミキサ114に供給されてもよい。
【0030】
ミキサ114は、集合ホッパ113の下方に配置されている。ミキサ114は、コンクリート材料を練り混ぜる装置である。ミキサ114は、骨材、セメント、水、及び混和剤等を練り混ぜる(混練する)ことで、生コンクリートを製造する。すなわち、ミキサ114は、コンクリート材料の練混ぜにより生コンクリートの製造を行う。ミキサ114の底部から、生コンクリートが積込ホッパ115に排出される。ミキサ114は、傾動ミキサ、水平1軸型のミキサ、水平2軸型のミキサ、又はパン型のミキサであってもよい。ミキサ114は、例えば、2つの攪拌部材114aと、ミキサ駆動部114bと、を含む。
【0031】
攪拌部材114aは、ミキサ114に供給された各種材料を攪拌する部材である。2つの攪拌部材114aは、ミキサ114の本体部分(容器部分)の内部において並んで配置され、回転自在に設けられている。2つの攪拌部材114aそれぞれは、水平な一方向に延びる回転軸を含む。ミキサ駆動部114bは、制御装置10からの動作指示に基づいて、2つの攪拌部材114aそれぞれの回転軸を回転させる。ミキサ駆動部114bは、例えば、攪拌部材114aに駆動力を付与するモータ等の駆動源を含む。ミキサ114の本体部分の底部には、製造された生コンクリートを積込ホッパ115に排出するための開閉口が設けられている。
【0032】
積込ホッパ115は、ミキサ114の下方に配置されており、生コンクリートを一時的に収容する。積込ホッパ115は、一時的に収容した生コンクリートを運搬車200に供給する。
【0033】
以上に説明した製造装置100は、生コンクリートの製造装置の一例であり、生コンクリートの製造装置は、ミキサによりコンクリート材料を練り混ぜて、生コンクリートを製造可能であれば、どのように構成されていてもよい。
【0034】
本開示では、ミキサ114において1回の練混ぜによって製造され、運搬車200に積み込まれる生コンクリートの単位を「1バッチ」と定義する。1バッチ分の生コンクリートを製造するための製造システム1が実行する処理を「バッチ処理」と定義する。一例では、1~3バッチ分の生コンクリートが1台の運搬車200に積み込まれる。例えば、2バッチ分の生コンクリートが1台の運搬車200に積み込まれる場合、同じ製造条件に従った2回のバッチ処理が、互いに異なるタイミングで(順に)行われる。
【0035】
<制御装置(品質予測装置)>
制御装置10は、製造装置100を制御する装置である。制御装置10は、1つ又は複数のコンピュータによって構成される。制御装置10が複数のコンピュータで構成される場合、これらのコンピュータは、互いに通信可能に接続される。制御装置10は、設定された動作条件に従って製造装置100を制御する。動作条件の少なくとも一部は、作業員等のオペレータからの指示によって定められてもよい。
【0036】
制御装置10には、入力デバイス12とモニタ14とが接続されてもよい。入力デバイス12は、作業員等からの指示を示す情報を制御装置10に入力する機器である。入力デバイス12は、所望の情報を入力可能であればいかなるものであってもよく、キーボード(キーパッド)、操作パネル、又はマウスであってもよい。モニタ14は、制御装置10からの情報を作業員等に表示するためのデバイスである。モニタ14は、グラフィック表示が可能であればいかなるものであってもよく、液晶ディスプレイであってもよい。入力デバイス12及びモニタ14は、タッチパネルのように一体化されていてもよい。制御装置10、入力デバイス12、及びモニタ14は、タブレットコンピュータ(タブレット端末)のように一体化されていてもよい。
【0037】
制御装置10は、製造装置100に対する制御に加えて、製造装置100によって製造された生コンクリートの品質を予測する機能を有してもよい。この場合、制御装置10が、生コンクリートの品質を予測する品質予測装置(生コンクリートの品質予測装置)を構成する。以下の説明において、制御装置10による予測対象の生コンクリートの品質は、製造装置100によって製造された後、且つ、現場に出荷される前の品質(すなわち、生コンクリートの出荷時における品質)である。
【0038】
制御装置10による予測対象の生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種以上の品質を含んでもよい。制御装置10による予測対象の生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの2種以上の品質を含んでもよい。制御装置10による予測対象の生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種の品質であってもよく、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの2種以上の品質であってもよい。
【0039】
制御装置10は、少なくとも、取得工程及び予測工程を実行するように構成されている。取得工程は、ミキサ114の電力負荷値に係る情報、及び、品質が予測される対象の(予測対象の)生コンクリートの使用時における目標品質に係る情報を含む入力情報を取得する工程である。予測工程は、上記入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、上記取得工程において取得された入力情報とに基づいて、予測対象の生コンクリートの品質を予測する工程である。
【0040】
図2には、制御装置10が備える機能上の構成要素(以下、「機能ブロック」という。)の一例が示されている。制御装置10は、例えば、機能ブロックとして、動作制御部22と、動作情報取得部24と、目標品質情報取得部26と、モデル構築部30と、モデル保持部32と、予測演算部28と、表示出力部34と、を有する。これらの機能ブロックが実行する処理は、制御装置10が実行する処理に相当する。
【0041】
動作制御部22は、予め定められた動作条件に従って、生コンクリートを製造するように製造装置100を制御する。上記動作条件の少なくとも一部は、生コンクリートの製造が実行される度に、作業員等のオペレータによって定められてもよい。動作制御部22は、ミキサ114のミキサ駆動部114bの回転速度が、動作条件において規定される目標回転速度に追従するように、ミキサ駆動部114bを制御してもよい。動作制御部22は、ミキサ駆動部114bを制御する際に、ミキサ駆動部114bに対して供給される電力(例えば、電流値)を調節してもよい。製造される生コンクリートが硬いと、電力負荷値は大きくなる傾向があり、製造される生コンクリートが柔らかいと、電力負荷値は小さくなる傾向がある。
【0042】
動作情報取得部24は、生コンクリートを製造した際の動作に関連する情報を取得する。動作情報取得部24は、ミキサ114の電力負荷値に係る情報(以下、「第1情報」という。)を取得する。ミキサ114の電力負荷値は、ミキサ114に供給される電力(kW)そのものを示す値であってもよく、ミキサ114に供給される電流値(A)を示す値であってもよい。あるいは、ミキサ114の電力負荷値は負荷油圧力(MPa)を示す値に代えられてもよい。ミキサ114の電力負荷値に係る情報は、1バッチ分の処理の間にミキサ114が動作している間の連続した時系列データであってもよく、その時系列データから得られる統計量データであってもよい。
【0043】
図3には、1バッチ分の処理におけるミキサ114の電力負荷値に係る時系列データが模式的に示されている。電力負荷値に係る時系列データは、例えば、所定のサンプリング周期でミキサ114に供給される電力(kW)を繰り返し計測することで得られるデータである。動作情報取得部24は、統計量データとして、変動範囲(最大値と最小値との差分)、下降幅(最大値と終局値との差分)、任意に設定された時間内の合計値、平均値、標準偏差、変動係数、中央値、第一四分位点、第三四分位点、尖度、及び歪度から成る群から選択される少なくとも1種以上を算出(取得)してもよい。動作情報取得部24は、統計量データとして、上記群から選択される少なくとも1種以上に加えて、最小値及び最大値の少なくとも一方を算出してもよい。動作情報取得部24により取得される統計量データは、時系列データに含まれる2以上の電力負荷値を用いた演算から求まる統計値を含んでもよい。
【0044】
図3に示されるグラフにおいて、「P1」は、時系列データにおける初期値を表す。初期値P1は、時系列データにおいて、練混ぜ開始時点の電力負荷値である。「P2」は、時系列データにおける最小値を表す。最小値P2は、初期値P1が得られた時刻以降において、最小となる電力負荷値である。なお、練混ぜ開始時点の電力負荷値(初期値P1)が、最小となる場合もある。「P3」は、時系列データにおける最大値を表す。最大値P3は、初期値P1が得られた時刻よりも後において、最大となる電力負荷値である。「P4」は、時系列データにおける終局値を表す。終局値P4は、動作制御部22が、ミキサ114による練混ぜを終了させるための条件を満たすと判断した時点での電力負荷値である。動作制御部22は、例えば、攪拌部材114aの駆動を開始した時点から所定時間が経過した場合に、上記条件を満たすと判断して、攪拌部材114aの駆動を停止する。
【0045】
目標品質情報取得部26は、生コンクリートの使用時における目標品質に係る情報(以下、「第2情報」という。)を取得する。制御装置10による予測対象の品質にスランプが含まれる場合、目標品質情報取得部26は、第2情報として、生コンクリートの使用時におけるスランプの目標値を示す情報を取得してもよい。制御装置10による予測対象の品質にスランプフローが含まれる場合、目標品質情報取得部26は、第2情報として、生コンクリートの使用時におけるスランプフローの目標値を示す情報を取得してもよい。制御装置10による予測対象の品質に空気量が含まれる場合、目標品質情報取得部26は、第2情報として、生コンクリートの使用時における空気量の目標値を示す情報を取得してもよい。目標品質情報取得部26は、第2情報として、生コンクリートの出荷時における目標品質を示す情報を更に取得してもよい。すなわち、第2情報には、生コンクリートの使用時における目標品質を示す情報に加えて、生コンクリートの出荷時における目標品質を示す情報が含まれてもよい。
【0046】
目標品質情報取得部26は、例えば、作業員等のオペレータからの入力デバイス12を介した入力に基づいて、上記第2情報を取得する。一例では、目標品質情報取得部26は、製造対象の生コンクリートの製造に関する動作条件と共に、上記第2情報を取得する。目標品質情報取得部26は、制御装置10による品質予測を行うタイミングにおいて、作業員等のオペレータの入力デバイス12を介した入力に基づいて、上記第2情報を取得してもよい。以上の動作情報取得部24及び目標品質情報取得部26は、第1情報及び第2情報を含む入力情報を取得する入力情報取得部として機能する。
【0047】
モデル構築部30は、生コンクリートの品質を予測するためのモデル(以下、「予測モデルM」と表記する。)を構築する。予測モデルMは、上記第1情報及び第2情報を含む入力情報の入力に応じて、生コンクリートの品質を示す品質情報(品質値)を出力するモデルである。モデル構築部30は、入力情報と、当該入力情報に対応付けられた品質の正解値とに基づく機械学習により、予測モデルMを構築する。予測モデルMは、品質情報として、スランプの予測値、スランプフローの予測値、及び、空気量の予測値のうちの1種以上の予測値を出力するように構築されてもよい。予測モデルMは、上記1種以上の予測値に代えて又は加えて、品質情報として、スランプに対するスランプフローの比(スランプフロー/スランプ)の予測値を出力するように構築されてもよい。
【0048】
機械学習とは、機械(コンピュータ)が与えられた情報に基づいて反復的に学習することで、法則又はルールを自律的に見つけ出す手法をいう。予測モデルMは、アルゴリズム及びデータ構造を用いて構築することができる。予測モデルMは、例えば、人間の脳神経の仕組みを模した情報処理のモデルであるニューラルネットワークを用いて実現される。予測モデルMを構築する際に行われる機械学習の具体的なアルゴリズムは特に限定されない。ニューラルネットワークは、例えば、入力層と、1層又は複数層の中間層と、出力層とを有する。1以上の中間層を含むことでより複雑な予測モデルMを構築でき、予測精度を向上できる。
【0049】
モデル構築部30は、機械学習の入力として与えられるデータと、機械学習の出力の正解データ(スランプ等の正解値)とを用いて機械学習を行うことで、生コンクリートの品質を予測するための予測モデルMを自律的に構築してもよい。機械学習の入力は、第1情報及び第2情報を含む入力情報の種々のデータセットである。機械学習の出力は、生コンクリートの品質を示すデータ(数値)である。モデル構築部30は、入力情報のデータセット及びスランプ等の正解値の複数の組合せを用いて、スランプ等の予測値を出力するモデルを反復的に学習する。
【0050】
予測モデルMを自律的に構築する段階は、学習フェーズに相当する。上記学習フェーズが、生コンクリートの製造を行う生産フェーズの前に行われてもよく、又は、生産フェーズの初期段階で行われてもよい。モデル保持部32は、モデル構築部30によって構築された予測モデルMを保持する。学習済みのモデルである予測モデルMは、コンピュータ間で転用可能であってもよい。従って、制御装置10において構築された予測モデルMが、製造システム1とは異なる他の製造システムで用いられてもよく、モデル保持部32は、他の製造システムで構築された予測モデルMを保持してもよい。
【0051】
予測演算部28は、評価フェーズにおいて、動作情報取得部24及び目標品質情報取得部26(入力情報取得部)により取得された入力情報と、予測モデルMとに基づいて、予測対象の生コンクリートの品質を予測する。予測演算部28は、取得された入力情報を予測モデルMに入力し、予測モデルMから出力される予測値を取得する。評価フェーズにおいて取得される入力情報(評価用の入力情報)は、生コンクリートの品質が未知な情報である。
【0052】
表示出力部34は、予測演算部28により予測された品質を示す情報(品質値)をモニタ14に出力する。これにより、モニタ14に品質の予測値が表示され、作業員等のオペレータが、予測対象の生コンクリート(製造された生コンクリート)の品質の予測値を把握できる。
【0053】
図4に示されるように、制御装置10は、回路50を備える。回路50は、プロセッサ51と、メモリ52と、ストレージ53と、入出力ポート54と、を有する。ストレージ53は、フラッシュメモリ、又はハードディスク等の1以上の不揮発性メモリデバイスにより構成されている。ストレージ53は、少なくとも、取得工程及び予測工程をコンピュータに実行させる品質予測プログラムを記憶している。ストレージ53は、制御装置10の各機能ブロックを構成するための品質予測プログラムを記憶する。
【0054】
メモリ52は、例えばランダムアクセスメモリ等の1以上の揮発性メモリデバイスにより構成されている。メモリ52は、ストレージ53からロードされた品質予測プログラムを一時的に記憶する。プロセッサ51は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等の1以上の演算デバイスにより構成されている。プロセッサ51は、メモリ52にロードされた品質予測プログラムを実行することで、制御装置10の各機能ブロックを構成する。プロセッサ51による演算結果は一時的にメモリ52に格納される。入出力ポート54は、プロセッサ51からの要求に応じ、入力デバイス12、モニタ14、及びミキサ114等との間で情報の入出力を行う。
【0055】
タイマ55は、例えば一定周期の基準パルスをカウントすることで経過時間を計測する。なお、回路50は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば回路50は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。品質予測プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、又は半導体メモリなどの有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、品質予測プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0056】
[生コンクリートの製造方法]
続いて、製造システム1において実行される生コンクリートの製造方法の一例について説明する。生コンクリートの製造方法は、製造工程と、品質予測工程と、を含む。製造工程は、生コンクリートを製造する工程である。品質予測工程は、製造工程において製造された生コンクリートの品質を予測する工程である。製造工程が繰り返し実行されている期間の少なくとも一部と重複する期間において、品質予測工程が実行されてもよい。
【0057】
製造工程は、例えば、搬送工程と、計量工程と、投入工程と、練混ぜ工程と、排出工程と、積込工程と、を含む。搬送工程では、運搬装置104によって、各種のコンクリート材料が貯蔵瓶111まで搬送されて、貯蔵瓶111に各種材料が個別に供給される。計量工程では、貯蔵瓶111から計量瓶112に各種材料が個別に供給され、計量瓶112において各種材料が計量される。計量工程では、材料ごとに、計測量が所定の設定量に達した場合に、その材料が集合ホッパ113に排出される。投入工程では、集合ホッパ113に全ての種類の材料が集約された後に、集合ホッパ113内の材料がミキサ114に投入(供給)される。
【0058】
練混ぜ工程では、ミキサ114において複数種のコンクリート材料が練り混ぜられる。練混ぜ工程では、予め定められた動作条件に従って、制御装置10がミキサ駆動部114bを制御してもよい。練混ぜ工程において、ミキサ駆動部114bの回転速度が、目標の回転速度に追従するように、制御装置10からミキサ駆動部114bに対して供給される電力が調節されてもよい。
【0059】
排出工程では、ミキサ114においてコンクリート材料の練混ぜが終了した後に、ミキサ114から積込ホッパ115に生コンクリートが排出される。積込工程では、積込ホッパ115内に排出された生コンクリートが、運搬車200に積み込まれる。
【0060】
品質予測工程(品質予測方法)は、学習フェーズでのモデル構築工程と、評価フェーズでの品質評価工程とを含む。品質予測工程において、モデル構築工程は、品質評価工程の前に実行される。以下、モデル構築工程の一例と、品質評価工程の一例とについて説明する。
【0061】
(モデル構築工程)
図5(a)は、モデル構築工程において実行される一連の処理の一例を示すフローチャートである。このモデル構築工程は、製造装置100での上記製造工程が実行される前、又は、上記製造工程が開始された初期段階において実行される。このモデル構築工程では、例えば、製造装置100において実際に製造された生コンクリートが、学習用の生コンクリートとして利用される。
【0062】
モデル構築工程では、最初にステップS11が実行される。ステップS11では、例えば、作業員等のオペレータによって、機械学習を行うための学習用のデータが準備される。学習用のデータは、複数のデータセットから構成される。複数のデータセットそれぞれでは、学習用の生コンクリートを製造した際に得られた上記第1情報及び上記第2情報を含む入力情報(学習用の入力情報)と、その入力情報に対応付けられた品質情報(例えば、スランプ)の正解値とが含まれる。
【0063】
品質情報の正解値は、学習用の生コンクリートの品質を実測して得られる値であってもよい。一例では、学習用の生コンクリートが運搬車200に積み込まれた後、一部の生コンクリートが作業員等によって抜き出される。そして、抜き出された生コンクリートのスランプ、スランプフロー、及び空気量等が作業員等によって計測され、これらの実測値の少なくとも一部が、学習用のデータにおける正解値として利用される。
【0064】
次に、ステップS12が実行される。ステップS12では、例えば、制御装置10のモデル構築部30が、ステップS11で準備された学習用のデータ(複数のデータセット)を用いて機械学習を行うことで、予測モデルMを構築する。モデル構築部30は、ニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデルMを構築してもよい。
【0065】
図6(a)及び図6(b)のそれぞれには、モデル構築部30により構築される予測モデルMが模式的に示される。図6(a)に示される予測モデルMは、入力情報の入力に応じて、単一の品質予測値を出力するモデルである。図6(b)に示される予測モデルMは、入力情報の入力に応じて、2種以上の品質予測値を出力するモデルである。本開示では、予測モデルMが単一の品質予測値(1種類の品質の予測値のみ)を出力するように行う機械学習を、「シングルタスク学習」と称する。また、予測モデルMが、2種類以上の品質の予測値を出力するように行う機械学習を「マルチタスク学習」と称する。
【0066】
モデル構築部30は、シングルタスク学習を行って予測モデルMを構築してもよい。この場合、モデル構築部30は、品質の種類ごとに、予測モデルMを構築してもよい。例えば、モデル構築部30は、スランプの予測値を出力する予測モデルM、スランプフローの予測値を出力する予測モデルM、及び、空気量の予測値を出力する予測モデルMのうちの2以上のモデルを構築する。モデル構築部30は、マルチタスク学習を行って予測モデルMを構築してもよい。例えば、モデル構築部30は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの2種以上の品質それぞれの予測値を出力する予測モデルM(1つの予測モデルM)を構築する。モデル構築部30は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種以上の品質に加えて、スランプに対するスランプフローの比を出力する予測モデルM(1つの予測モデルM)を構築してもよい。
【0067】
以下、予測モデルMの一例について、理解を容易にするために簡素化された数式を用いて説明する。モデル構築部30によって構築される予測モデルMは、例えば、次の式(1)及び式(2)のように簡易的に表すことができる。
【数1】

【数2】
【0068】
式(2)において、Yは品質の出力値を表し、シングルタスク学習により構築された予測モデルMでは、単一の品質の出力値である。マルチタスク学習により構築された予測モデルMでは、Yは、2種類以上の品質のいずれか1つの品質の出力値であり、品質の種類ごとに、式(1)及び式(2)が演算される。Nは、2以上の整数であり、入力データの個数を表す。xは入力データに含まれる各種の入力値を表し、入力データは上記入力情報に対応しており、入力データには、少なくとも、第1情報に含まれる電力負荷値に係る値(例えば、2以上の統計量)、及び、第2情報に含まれる目標品質を示す値が含まれる。
【0069】
wiは、重み(係数)であり、bは、バイアス項(係数)である。f(U)は、活性化関数を表す。活性化関数は、線形関数(恒等関数)、又は、多項式、絶対値、step関数、sigmoid関数、hardsigmoid関数、logsigmoid関数、softmax関数、logsoftmax関数、softmin関数、softplus関数、softsign関数、tanh関数、tanhShrink関数、hardtanh関数、tanhexp関数、ReLU関数、ReLU6関数、Leaky-ReLU関数、PReLU関数、ELU関数、SELU関数、CELU関数、Swith関数、Mish関数、ACON関数、などの非線形関数である。
【0070】
モデル構築部30は、学習用のデータを用いて、式(2)によって得られるY(予測値)と、品質の正解値との誤差及び損失値を評価することを繰り返して、誤差が最小化されるように、式(1)における重みwiとバイアス項bとを定めてもよい。モデル構築部30は、式(2)によって得られるY(予測モデルMを構築する途中段階での中間モデルからの出力値)と品質の正解値との誤差を評価する関数として、いずれの種類の損失関数を用いてもよい。モデル構築部30は、例えば、損失関数として、Huber損失関数(HuberLoss)、平均絶対誤差(MAE:Mean AbsoluteError)、及び、ε-許容損失関数(ε-insensitiveloss)から成る群から選択された1つを利用することができる。
【0071】
Huber損失関数は、例えば、次の式(3)のように表すことができる。ε-許容損失関数は、例えば、次の式(4)のように表すことができる。L(a)は、損失値であり、aは、予測値と正解値との誤差である。δ及びεは、任意に設定可能なパラメータであり、例えば、1.0のように設定される。
【数3】

【数4】

損失関数の役割を説明すると、予測値及び正解値を損失関数に入力し、予測値と正解値との誤差aから損失値L(a)を出力することにある。そして、損失値L(a)を用いて重みwiを計算する。
【0072】
図7には、各種の損失関数が例示されている。具体的には、図7には、Huber損失関数(δ=1.0)、平均絶対誤差、及び、ε-許容損失関数(ε=0.5)のそれぞれにおける誤差aと損失値L(a)との関係に加えて、平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)における誤差aと損失値L(a)との関係が示されている。図7のグラフにおいて、横軸は誤差aであり、縦軸は損失値L(a)である。平均二乗誤差においては、誤差aが1を超えると、損失値L(a)が誤差aの絶対値よりも大きくなるのに対して、他の3つの損失関数では、損失値L(a)が誤差aの絶対値以下となる関係が、誤差aの値に関わらず成立している。予測精度を向上させる観点から、損失関数として、損失値L(a)が常に誤差aの絶対値以下になる関数を用いることが好ましい。損失値L(a)が常に誤差aの絶対値以下になる関数として、平均絶対誤差、又はε-許容損失関数が用いられてもよく。あるいは、Huber損失関数のδを1.0以下とすることで、損失値L(a)が常に誤差aの絶対値以下になる関数として用いることも可能である。
【0073】
モデル構築部30は、損失関数で評価される誤差及び損失値が最小となるように、勾配法により重みwiを更新することを繰り返してもよい。モデル構築部30は、重みwiを更新する際に、いずれの種類の更新式(重みの更新式)を利用してもよい。モデル構築部30は、例えば、重みの更新式として、Adam、AdamBelief、Adamax、AdaBound、Adagrad、AMSGRAD、AMSBound、RMSprop、SgdW、Momentum、及び、Nesterovから成る群から選択された1つを利用する。重みの更新式は、最適化アルゴリズム、又は最適化手法とも称される。
【0074】
モデル構築部30は、入力情報を正規化する演算と、全結合層における一部の結合を欠損させる演算とを行わないニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデルMを構築してもよい。入力情報を正規化する演算とは、予測モデルMの入力となる入力情報に含まれる各値を、平均が0となり、標準偏差が1となるように正規化(標準化)する演算(Batch Normalization)を意味する。
【0075】
全結合層における一部の結合を欠損させる演算とは、ニューラルネットワークを用いた機械学習を実行する際に、任意の割合のノードを不活性化させながら学習を行うこと(Dropout)を意味する。全結合層における一部の結合を欠損させた場合(Dropoutを行う場合)の予測モデルMの演算過程の様子が、図6(c)に模式的に示されている。なお、モデル構築部30は、入力情報を正規化する演算と、全結合層における一部の結合を欠損させる演算との少なくとも一方を行うニューラルネットワークを用いた機械学習により予測モデルMを構築してもよい。
【0076】
図5(a)に戻り、ステップS12の実行後に、ステップS13が実行される。ステップS13では、例えば、モデル保持部32が、ステップS12で構築された予測モデルMを記憶する。以上により、モデル構築工程が終了する。
【0077】
(品質評価工程)
図5(b)は、品質評価工程において実行される一連の処理の一例を示すフローチャートである。この品質評価工程は、例えば、製造装置100による上記製造工程が実行されている期間の少なくとも一部と重複する期間において行われる。
【0078】
品質評価工程では、最初に、制御装置10がステップS21を実行する。ステップS21では、例えば、制御装置10が、評価対象の生コンクリートの品質を評価するタイミングである評価タイミングとなるまで待機する。評価対象の生コンクリートは、製造装置100による製造対象の生コンクリートでもある。上記評価タイミングは、1日のうちのある時間帯に予め定められていてもよく、1日のうちのある何番目かのバッチ処理を実行するタイミングに予め定められていてもよい。上記評価タイミングは、作業員等のオペレータから、評価を実行する指示を受けたタイミングであってもよい。
【0079】
次に、制御装置10は、ステップS22を実行する。ステップS22では、例えば、動作情報取得部24及び目標品質情報取得部26が、評価対象の生コンクリートを製造した際の上記第1情報(電力負荷値に係る情報)及び上記第2情報(目標品質に係る情報)を含む入力情報を取得する。ステップS22で取得される入力情報は、品質情報(例えば、スランプ)が未知である評価用の入力情報である。
【0080】
次に、制御装置10は、ステップS23を実行する。ステップS23では、例えば、予測演算部28が、ステップS22で取得された入力情報と、モデル保持部32に保持されている予測モデルMとに基づいて、評価対象の生コンクリートの品質情報を予測する。一例では、予測演算部28は、ステップS22で取得された入力情報を予測モデルMに入力して、予測モデルMから出力される、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種以上の品質の予測値を取得する。
【0081】
次に、制御装置10は、ステップS24を実行する。ステップS24では、例えば、表示出力部34が、ステップS23で取得された品質の予測値をモニタ14に表示させる。これにより、作業員等のオペレータが、品質の予測値を確認することができる。
【0082】
以上により、品質評価工程が終了する。制御装置10は、1バッチ分の生コンクリートの製造が行われる度に(1回のバッチ処理ごとに)、ステップS21~S24の一連の処理を実行してもよい。制御装置10は、複数バッチ分の生コンクリートの製造が行われる度に(複数回のバッチ処理ごとに)、ステップS21~S24の一連の処理を実行してもよい。
【0083】
[変形例]
図5(a)及び図5(b)に示される一連の処理は、一例であり適宜変更可能である。上記一連の処理において、1つのステップと次のステップとが並列に実行されてもよく、上述した例とは異なる順序で、いくつかのステップが実行されてもよい。上記一連の処理の少なくとも一部のステップに代えて、又は、上記一連の処理に加えて、上述した例とは異なる内容のステップが実行されてもよい。
【0084】
上記第1情報には、電力負荷値に係る時系列データにおける初期値、最小値、最大値、及び終局値のうちの少なくとも1つの値が含まれてもよい。制御装置10(入力情報取得部)によって取得され、予測モデルMの入力となる入力情報に、ミキサ114による練混ぜに係る情報(電力負荷値以外の情報)が含まれてもよい。練混ぜに係る情報として、例えば、1バッチ分のコンクリートの練混ぜ量、練混ぜ時間、電力負荷値が最大値に到達した時間、及び、電力負荷値が最大値に到達してから、ミキサ114から生コンクリートが排出されるまでの時間が挙げられる。予測モデルMの入力となる入力情報に、呼び強度、セメントの種類を示す情報、混和剤の種類を示す情報、細骨材の種類を示す情報、粗骨材の種類を示す情報、及び、添加剤の添加量を示す情報が含まれてもよい。
【0085】
予測モデルMの入力となる入力情報に含まれる第1情報は、ミキサ114の電力負荷値に代えて、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動に係る情報であってもよい。上記振動に係る情報は、ミキサ114からの生コンクリートの落下又は流下に起因した振動に係る情報であってもよい。図1に示されるように、製造システム1は、振動センサ18を備えてもよい。
【0086】
振動センサ18は、ミキサ114によって製造された生コンクリートの落下又は流下に起因した振動(振動の大きさ)を検出するセンサである。落下又は流下に起因した振動には、生コンクリートの落下及び流下の双方に起因した振動も含まれる。振動センサ18は、生コンクリートの落下又は流下に起因した2方向以上での振動の大きさを検出可能であってもよい。振動センサ18は、例えば、積込ホッパ115に取り付けられて積込ホッパ115の振動の大きさを検出する。振動センサ18は、積込ホッパ115のいずれかの側壁に設置されていてもよい。振動センサ18が設置された側壁に対して、ミキサ114から排出された生コンクリートが落下してもよい。
【0087】
振動センサ18は、積込ホッパ115の振動の大きさを検出することが可能であれば、いかなる方式のセンサであってもよい。振動センサ18は、例えば、積込ホッパ115の加速度を検出するセンサである。振動センサ18は、積込ホッパ115の側壁に沿い、且つ互いに直交する2方向それぞれでの加速度、及び、積込ホッパ115の側壁に直交する方向での加速度を検出してもよい。振動センサ18は、所定のサンプリング周期にて、各方向での加速度を検出してもよい。振動センサ18は、検出結果を示す情報を制御装置10に出力する。
【0088】
予測モデルMへの入力となる入力情報のうちの振動に係る情報は、積込ホッパ115に生コンクリートが排出された時点を含む期間(以下、「排出期間」という。)に得られた振動センサ18による検出値の時系列データであってもよい。振動に係る情報は、上記排出期間における時系列データに代えて、又は加えて、その時系列データから得られる統計量であってもよい。
【0089】
予測モデルMの入力となる入力情報に含まれる第1情報は、ミキサ114の電力負荷値に代えて、生コンクリートの画像に係る情報であってもよい。生コンクリートの画像に係る情報は、製造装置100において製造中の生コンクリートを撮像して得られる画像に係る情報である。図1に示されるように、製造システム1は、画像センサ16を備えてもよい。
【0090】
画像センサ16は、製造中の生コンクリートを撮像するセンサ(カメラ)である。本開示において、製造装置100において製造中の生コンクリートを撮像することには、ミキサ114で製造された後の生コンクリートを撮像することに加えて、ミキサ114において製造中の生コンクリートを撮像することも含まれる。ミキサ114で製造された後の生コンクリートを撮像することには、積込ホッパ115内の生コンクリートを撮像することと、積込ホッパ115から運搬車200に投入されている途中の生コンクリートを撮像することと、が含まれる。画像センサ16の撮像によって得られる画像データは、静止画データ又は動画データのいずれであってもよい。画像センサ16は、制御装置10からの動作指示に基づいて、撮像を実行してもよい。画像センサ16は、撮像により得られた画像データを制御装置10に出力する。
【0091】
画像センサ16は、ミキサ114内で製造されている生コンクリートを撮像可能となるように配置されていてもよい。画像センサ16は、積込ホッパ115内の空間に収容されている生コンクリートを撮像可能となるように配置されていてもよい。画像センサ16は、ミキサ114又は積込ホッパ115において生コンクリートが跳ね返る可能性がある場合に、跳ね返った生コンクリートによる撮像への影響を受け難い位置に配置されてもよい。画像センサ16は、積込ホッパ115から排出されている生コンクリートを撮像可能となるように配置されていてもよい。製造システム1は、互いに異なる2箇所以上に設けられた2以上の画像センサ16を備えてもよい。
【0092】
制御装置10による生コンクリートの品質の予測に加えて、製造装置100において、定期的に(例えば、1日に数回)、生コンクリートの品質が実測されてもよい。この場合、生コンクリートの品質の実測値と、その実測値が得られた際の入力情報(例えば、電力負荷値に係る情報、又は、生コンクリートの画像)とに基づいて、予測モデルMが更新されてもよい。上記予測工程においては、更新後の予測モデルMによって、生コンクリートの品質が予測されてもよい。なお、更新後の予測モデルMが使用される場合であっても、予測モデルMと、上記取得工程において取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質が予測される工程が行われることに変わりがない。
【0093】
制御装置10の入力情報取得部によって取得され、予測モデルMの入力となる入力情報に含まれる第1情報は、ミキサ114からの生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、生コンクリートの画像、及び、ミキサ114の電力負荷値のうちの2種類以上に係る情報であってもよい。以上のように、制御装置10の入力情報取得部によって取得され、予測モデルMの入力となる入力情報に含まれる第1情報は、ミキサ114からの生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、生コンクリートの画像、及び、ミキサ114の電力負荷値のうちの少なくとも1つに係る情報であってもよい。
【0094】
製造システム1は、制御装置10とは別に、機能ブロックとして、少なくとも、動作情報取得部24、目標品質情報取得部26、予測演算部28、及びモデル保持部32を有する品質予測装置(生コンクリートの品質予測装置)を備えてもよい。その品質予測装置を構成するコンピュータは、制御装置10と通信可能に接続されてもよい。以下、少なくとも、動作情報取得部24、目標品質情報取得部26、予測演算部28、及びモデル保持部32を有する品質予測装置を、単に「品質予測装置」と表記する。
【0095】
以上の例では、品質予測装置として機能する制御装置10が、製造装置100によって製造された後、且つ、現場に出荷される前の生コンクリートの品質を予測する。品質予測装置により品質が予測されるタイミングは、この例に限られない。品質予測装置は、生コンクリートを使用する現場に向けて運搬中(現場到着時も含む)の生コンクリートの品質を予測してもよい。例えば、運搬車200には、生コンクリートの攪拌を行うミキサ204が設けられており(図1を参照)、品質予測装置の入力情報取得部は、第1情報の少なくとも一部として、ミキサ204の電力負荷値に係る情報を取得する。なお、アジテータ車等の運搬車200におけるミキサ204はドラムとも称される。以上のように、第1情報の少なくとも一部は、コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造、又は、製造後の生コンクリートの攪拌を行うミキサ(114,204)の電力負荷値に係る情報であってもよい。
【0096】
以上の例では、生コンクリートが、現場とは別の場所(製造装置100)で製造される。生コンクリートが製造される場所は、この例に限られない。コンクリート材料(例えば、水を除くコンクリート材料)が運搬車によって現場まで運ばれたうえで、現場において生コンクリートが製造されてもよい。その際、上記運搬車に設けられたミキサによって、当該運搬車で運搬されたコンクリート材料に水を加えたうえで、材料が練混ぜられて、生コンクリートが製造されてもよい。品質予測装置は、現場において生コンクリートが製造される場合に、その現場で生コンクリートの品質を予測してもよい。品質予測装置の入力情報取得部は、第1情報の少なくとも一部として、現場において生コンクリートを製造する際に、上記運搬車に設けられたミキサの電力負荷値に係る情報を取得してもよい。
【0097】
以上に説明した種々の例のうちの1つの例において、他の例で説明した事項の少なくとも一部が組み合わせられてもよい。
【0098】
[予測モデルによる予測結果の検証]
続いて、正解値が既知であるデータセットを用いて、上記第1情報及び上記第2情報を含む入力情報を入力とする予測モデルMを用いた品質情報の予測結果を検証した結果について説明する。
【0099】
(目標品質の影響)
生コンクリートの使用時の目標品質を示す情報である第2情報の影響を検証した。この検証では、機械学習を行って予測モデルを構築するための2765個の学習用データセットを準備し、正解値が既知であり、評価するための789個の評価用データセットを準備した。学習用データセット及び評価用データセットでは、入力情報に含まれる各種入力値と、品質情報の正解値とが対応付けられている。学習用データセット及び評価用データセットにおける入力情報の第1情報として、電力負荷値に係る時系列データから得られた統計量が用いられている。2765個の学習用データセットを用いて、第1情報及び第2情報を含む入力情報を入力とする予測モデルMを構築した。スランプ、スランプフロー、及び空気量を出力するようにマルチタスク学習により予測モデルMを構築した。
【0100】
第2情報による予測精度への影響を検証するために、入力情報から第2情報を除いたうえで、同じ2765個の学習用データセットを用いて、比較用モデルを構築した。スランプ、スランプフロー、及び空気量のそれぞれについて、第2情報による予測精度への影響を評価した。789個の評価用データセットを用いて、予測モデルM及び比較用モデルのそれぞれについて、モデルによる予測結果と、評価用データセットにおける正解値とを比較した。モデルによる予測結果が、評価用データセットにおける正解値に所定の許容差を加算した範囲に含まれる場合を正解と定義し、正解率を評価指標として用いた。図8には、第2情報の影響を検証した結果を示すグラフが示されている。
【0101】
図8におけるスランプでの検証結果に関して、許容差が「±0.5cm」である場合には、モデルによる予測結果(予測値)が正解値の±0.5cmの範囲に含まれるデータセットを正解とし、正解と判定されたデータセットの割合が正解率(%)として示されている。許容差が、「±1.0cm」、「±1.5cm」、「±2.0cm」、及び「±2.5cm」である場合も同様に正解率(%)が算出されている。「有」は、第2情報(目標品質)を入力情報に含む予測モデルMによる評価結果を示し、「無」は、第2情報を入力情報に含まない比較用モデルによる評価結果を示す。予測モデルMを用いてスランプを予測した場合の正解率(%)が、比較用モデルを用いてスランプを予測した場合に比べて、高くなっていることが分かる。
【0102】
図8におけるスランプフローの検証結果に関して、スランプでの検証と同様に、許容差を「±2.5cm」、「±3.0cm」、「±5.0cm」、及び「±7.5cm」に変化させて、許容差ごとに、正解率(%)を求めた結果が示されている。スランプフローに関しても、予測モデルMを用いてスランプフローを予測した場合の正解率(%)が、比較用モデルを用いてスランプフローを予測した場合に比べて、高くなっていることが分かる。
【0103】
図8における空気量の検証結果に関して、スランプでの検証と同様に、許容差を「±0.3%」、「±0.5%」、「±1.0%」、及び「±1.5%」に変化させて、許容差ごとに、正解率(%)を求めた結果が示されている。空気量に関しても、予測モデルMを用いて空気量を予測した場合の正解率(%)が、比較用のモデルを用いて空気量を予測した場合に比べて、高くなっていることが分かる。
【0104】
(Batch Normalization・Dropoutの影響)
生コンクリートの品質情報を予測するためのモデルを構築する際の、入力情報を正規化する演算(Batch Normalization)と、全結合層における一部を欠損させる演算(Dropout)との影響を検証した。これらの演算の有無、及び、一部を欠損させる際の欠損率を変化させながら、予測モデルMを構築したうえで、スランプ、スランプフロー、及び空気量のそれぞれについて、許容差別の正解率(%)を算出した。検証では、上述した2765個の学習用データセットと、上述した789個の評価用データセットとを用いた。スランプに関する許容差別の正解率(%)を下記の表1に示し、スランプフローに関する許容差別の正解率(%)を下記の表2に示し、空気量に関する許容差別の正解率(%)を下記の表3に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
表1~表3の条件における「BN」は、Batch Normalization(正規化する演算)を表し、「DO」は、Dropout(一部の結合を欠損させる演算)を表し、「P」は、Dropoutにおける欠損率を表す。「BN、DO未使用」は、Batch Normalization及びDropoutを含まないニューラルネットワークで学習して、予測モデルMを構築したことを示す。「BN」のみが記載された欄は、Batch Normalizationを含み、Dropoutを含まないニューラルネットワークで学習して、予測モデルMを構築したことを示す。「DO」のみが記載された欄は、Batch Normalizationを含まずに、Dropoutを含むニューラルネットワークで学習して、予測モデルMを構築したことを示す。「BN+DO」と記載された欄は、Batch Normalization及びDropoutを含むニューラルネットワークで学習して、予測モデルMを構築したことを示す。
【0109】
表1及び表2に示される結果から、スランプ及びスランプフローに関しては、Batch Normalization及びDropoutの使用有無の違いによって、正解率(%)に大きな差がないことが分かる。表3に示される結果から、空気量に関しては、Batch Normalization及びDropoutを使用しない場合の正解率(%)が、Batch Normalization及びDropoutの少なくとも一方を使用する場合に比べて、高い傾向があることが分かる。
【0110】
(重み更新式の種類の影響)
生コンクリートの品質情報を予測するためのモデルを構築する際に利用する重みの更新式の種類の影響を検証した。重みの更新式の種類を変化させながら、予測モデルMを構築したうえで、空気量について、許容差別の正解率(%)を算出した。検証では、上述した2765個の学習用データセットと、上述した789個の評価用データセットとを用いた。検証結果を、下記の表4及び表5に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
表5において、「(×0.01)」は、学習用データセットにおける入力情報に含まれる各値が、-1~1の範囲に収まるように、各値に対して0.01を乗算したうえで、機械学習を行ったことを表す。表4及び表5に示される結果から、重みの更新式として、Adam、AdamBelief、Adamax、AdaBound、Adagrad、AMSGRAD、AMSBound、RMSprop、SgdW、Momentum、及び、Nesterovから成る群から選択される1つを利用する場合に、AdamW、Lars、Adadelta、及びSgdを利用する場合に比べて、正解率(%)が高くなっていることが分かる。なお、データの記載は省略するが、スランプ及びスランプフローに関しても、表4及び表5に示される更新式ごとに正解率(%)を算出したところ、Lars及びSgdを利用した場合に、他の更新式を利用する場合に比べて、正解率(%)が低くなっていた。
【0114】
(損失関数の種類の影響)
生コンクリートの品質情報を予測するためのモデルを構築する際に利用する損失関数の種類の影響を検証した。損失関数の種類を変化させながら、予測モデルMを構築したうえで、スランプ、スランプフロー、及び空気量のそれぞれについて、許容差別の正解率(%)を算出した。Huber損失関数として、上述した式(3)に示される関数を用い、δの値を1.0に設定した。ε-許容損失関数として、上述した式(4)に示される関数を用い、εの値を1.0に設定した。検証では、上述した2765個の学習用データセットと、上述した789個の評価用データセットとを用いた。検証結果を、下記の表6、表7、及び表8に示す。
【0115】
【表6】
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
表6、表7、及び表8に示される結果から、損失関数として、Huber損失関数、平均絶対誤差、及び、ε-許容損失関数から成る群から選択される1つを利用する場合に、平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)を利用する場合に比べて、正解率(%)が高くなっていることが分かる。平均二乗誤差とその他の損失関数との相違点は、平均二乗誤差では誤差が大きい場合の損失値が大きい点である。表6、表7、及び表8に示される結果から、損失値が常に誤差の絶対値以下となる損失関数を選定することが、予測精度の向上の観点から好ましいことが確認された。
【0119】
(学習方法の影響)
生コンクリートの品質情報を予測するためのモデルを構築する際の学習方法の影響を検証した。スランプ、スランプフロー、及び空気量について、シングルタスク学習により個別に予測モデルM(3種の品質それぞれについて予測モデルM)を構築した場合と、マルチタスク学習を行って、3種の品質の予測値を一緒に出力する予測モデルMを構築した場合とで正解率(%)を比較した。検証では、上述した2765個の学習用データセットと、上述した789個の評価用データセットとを用いた。検証結果を、下記の表9、表10、及び表11に示す。
【0120】
【表9】
【0121】
【表10】
【0122】
【表11】
【0123】
表9のマルチタスク学習の欄では、予測モデルMからのスランプに関する出力値を用いて正解率(%)が算出されている。表10のマルチタスク学習の欄では、予測モデルMからのスランプフローに関する出力値を用いて正解率(%)が算出されており、表11のマルチタスク学習の欄では、予測モデルMからの空気量に関する出力値を用いて正解率(%)が算出されている。表9、表10、及び表11に示される結果から、シングルタスク学習、又はマルチタスク学習のどちらの学習方法を採用しても、正解率(%)に大きな違いがないことが分かる。
【0124】
[本開示のまとめ]
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法は、コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサ(114,204)の電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する取得工程と、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデル(M)と、取得工程において取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する予測工程と、を含む。
【0125】
生コンクリートの製造を行う際には(例えば、製造システム(1)が設けられる工場等で製造が行われる際には)、製造予定の生コンクリートの使用時の(現場での)目標品質が指定され、その目標品質を満たすように生コンクリートの製造が行われている。そのような目標品質を機械学習で構築される予測モデル(M)の入力情報の1つにすることで、上述したように、品質の予測精度が向上するという知見が得られた。目標品質を情報として取得することは簡便である。よって、上記方法では、予測モデル(M)を利用した品質の予測を行う場合において、品質予測に伴う作業の煩雑化を避けつつ、品質の予測精度を向上させることができる。
【0126】
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法において、生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの1種以上の品質を含んでもよい。この場合、製造された生コンクリートのスランプ、スランプフロー、又は空気量が、生コンクリートの使用時の目標品質を満たし得るか否かの管理を容易に行うことができる。
【0127】
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法において、生コンクリートの品質は、スランプ、スランプフロー、及び空気量のうちの2種以上の品質を含んでもよい。予測モデル(M)は、入力情報の入力に応じて、2種以上の品質を出力するように構築されていてもよい。上述したように、1種の品質のみを出力する予測モデル(M)を構築するシングルタスク学習と、2種以上の品質を出力する予測モデルMを構築するマルチタスク学習との間で、予測精度に大きな違いがないという知見が得られた。上記方法のように、予測モデル(M)をマルチタスク学習で構築することによって、予測精度を維持しつつ、モデルの構築に要する作業を簡素化することができる。
【0128】
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法において、予測モデル(M)は、入力情報を正規化する演算と、全結合層における一部の結合を欠損させる演算とを行わないニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されていてもよい。一般的には、ニューラルネットワークを用いた機械学習において、学習の安定化と過学習の抑制との観点から、入力情報を正規化する演算と、全結合層における一部の結合を欠損させる演算とを行うことが好ましいとされている。しかしながら、上述したように、これらの演算の有無によっても、予測精度に大きな違いはなく、特定の品質(空気量)においては、これらの演算を行わない場合に予測精度が高くなる傾向が示された。従って、上記方法のように予測モデル(M)を構築することで、予測精度を維持しつつ、モデルの構築に要する作業を簡素化することができる。
【0129】
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法において、上記第2情報は、生コンクリートの使用時における目標品質を示す情報に加えて、生コンクリートの出荷時における目標品質を示す情報を含んでもよい。製造システム(1)が設けられる工場等では、生コンクリートの使用時における目標品質(すなわち、受入時の要求品質)を満たすように、出荷時における目標品質が設定される。そのため、出荷時における目標品質は、生コンクリートの使用時における目標品質に相関する。上記方法では、予測モデル(M)の入力情報に、出荷時における目標品質が更に含まれることで、品質の予測精度を更に向上させることができる。
【0130】
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法において、予測モデル(M)は、ニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されていてもよい。予測モデル(M)を構築する際のニューラルネットワークを用いた機械学習では、重みの更新式として、Adam、AdamBelief、Adamax、AdaBound、Adagrad、AMSGRAD、AMSBound、RMSprop、SgdW、Momentum、及び、Nesterovから成る群から選択された1つが利用されててもよい。上述したように、これらの更新式を利用することで、他の更新式を利用する場合に比べて、予測精度が高くなるという知見が得られた。従って、上記方法では、予測精度を更に向上させることができる。
【0131】
以上に説明した生コンクリートの品質予測方法において、予測モデル(M)は、ニューラルネットワークを用いた機械学習により構築されていてもよい。予測モデル(M)を構築する際のニューラルネットワークを用いた機械学習では、損失関数として、損失値L(a)が常に誤差aの絶対値以下になる関数が利用されてもよい。上述したように、このような損失関数を利用することで、他の損失関数を利用する場合に比べて、予測精度が高くなるという知見が得られた。従って、上記方法では、予測精度を更に向上させることができる。
【0132】
以上に説明した品質予測プログラムは、上記品質予測方法をコンピュータに実行させるプログラムである。この品質予測プログラムでは、上記品質予測方法を実行させることができるので、予測モデル(M)を利用した品質の予測を行う場合において、品質予測に伴う作業の煩雑化を避けつつ、品質の予測精度を向上させることができる。
【0133】
以上に説明した品質予測装置(10)は、コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサ(114,204)の電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する入力情報取得部(24,26)と、入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデル(M)と、入力情報取得部(24,26)により取得された入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する予測演算部(28)と、を備える。この品質予測装置(10)では、上記品質予測方法と同様に、予測モデル(M)を利用した品質の予測を行う場合において、品質予測に伴う作業の煩雑化を避けつつ、品質の予測精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0134】
1…製造システム、10…制御装置、24…動作情報取得部、26…目標品質情報取得部、28…予測演算部、30…モデル構築部、M…予測モデル、100…製造装置、114…ミキサ、114a…攪拌部材、114b…ミキサ駆動部、204…ミキサ。
【要約】
【課題】予測モデルを用いた品質予測を行う場合において、品質予測に伴う作業の煩雑化を避けつつ、品質の予測精度を向上させる。
【解決手段】コンクリート材料の練混ぜによる生コンクリートの製造又は生コンクリートの攪拌を行うミキサの電力負荷値、生コンクリートの落下又は流下に起因した振動、及び、生コンクリートの画像のうちの少なくとも1つに係る第1情報、及び、生コンクリートの使用時における目標品質に係る第2情報を含む入力情報を取得する取得工程と、前記入力情報の入力に応じて生コンクリートの品質を示す品質情報を出力するように機械学習により予め構築された予測モデルと、前記取得工程において取得された前記入力情報とに基づいて、生コンクリートの品質を予測する予測工程と、を含む、生コンクリートの品質予測方法。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8