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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】連続液液分離器及び連続液液分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 17/00 20060101AFI20241216BHJP
   B01D 17/022 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B01D17/00 503A
B01D17/022 501
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021106599
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023004718
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-03-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】石坂 孝之
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴史
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130484(JP,A)
【文献】特開平5-146606(JP,A)
【文献】実開昭63-6007(JP,U)
【文献】実開平4-37501(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00
B01D 17/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、該流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口から、軽液及び重液をそれぞれ排出する構造を有する連続液液分離器であって、
前記チャンバー内に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるとともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備え、
前記軽液排出口及び前記重液排出口の高さが同じであり、前記軽液排出口の上方端が前記液面メッシュ板の上面の高さを超え、かつ前記軽液排出口の下方端が前記液面メッシュ板の下面から上面までの高さの範囲内にある、連続液液分離器。
【請求項2】
互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、該流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口から、軽液及び重液をそれぞれ排出する構造を有する連続液液分離器であって、
前記チャンバー内に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるとともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備え、
前記液面調整メッシュ板が、前記流入口よりも上方で、かつ前記軽液排出口より下方に位置し、前記液面調整メッシュ板の上面から前記軽液排出口の下方端までの高さh及び前記液面調整メッシュ板の上面から前記重液排出口の下方端までの高さhが、下記の式を満たす、連続液液分離器。
【数1】
(式中、h及びhは正の値、ρは軽液の密度、ρは重液の密度、rはメッシュ開口の半径、γは重液と軽液の界面張力、θは接触角を表す。)
【請求項3】
互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、軽液及び重液を前記流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口からそれぞれ排出する、連続液液分離方法であって、
内部に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるととともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備えたチャンバーを用い、
前記軽液排出口及び前記重液排出口を同じ高さにするとともに、前記液面調整メッシュ板を、前記軽液排出口の上方端が前記液面調整メッシュ板の上面の高さを超え、かつ前記軽液排出口の下方端が前記液面調整メッシュ板の下面から上面までの高さの範囲内にあるにように配置する、連続液液分離方法。
【請求項4】
互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、軽液及び重液を前記流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口からそれぞれ排出する、連続液液分離方法であって、
内部に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室を備えるととともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備えたチャンバーを用い、
前記液面調整メッシュ板を、前記流入口よりも上方で、かつ前記軽液排出口より下方に配置し、前記液面調整メッシュ板の上面から前記軽液排出口の下方端までの高さh及前記液面調整メッシュ板の上面から前記重液排出口の下方端までの高さhが、下記の式を満たすようにする、連続液液分離方法。
【数1】
(式中、h及びhは正の値、ρは軽液の密度、ρは重液の密度、rはメッシュ開口の半径、γは重液と軽液の界面張力、θは接触角を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽液と重液に分離する二相液体を、それぞれの比重に応じて連続的に分離する、連続液液分離器及び連続液液分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学品の合成プロセスにおいて、従来は反応と分離・精製を多段階に繰り返すバッチ法による製造が行われていたが、この製造方法では、多量の廃棄物が生じると共に、生成物の収量が低かった。そこで、近年では、環境負荷の低減と、コスト競争力の向上のために、多段階の反応と合成された生成物の分離・精製とを連続的に行い、廃棄物の減少と高い収量、選択性を両立するフロー法への転換が図られてきた。
フロー法における生成物の分離・精製手段として、生成物を含む被抽出液を該被抽出液と混和しない抽出液剤と接触させ、被抽出液と、生成物を含む抽出液からなる二相液体を、それぞれの比重に応じて液液分離する先行技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、液体流入部からチャンバー内に流入した比重が異なる液体の混合液体を層分離した後、上層の液体及び下層の液体を上側流出部及び下側流出部からそれぞれ流出させる連続分液装置であって、チャンバー内の界面の位置を界面検出手段により監視し、この界面の位置を所定位置に保持するように、流出経路の少なくとも一方に設けた流量調整手段を制御することが記載されている。
【0004】
一方、非特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレン製の疎水性多孔質膜の上下にそれぞれ膜面と平行に微小な流路を設け、上側流路の一方の端には流入口、もう一方には排出口、下側流路の一方の端に排出口を設けた連続液液分離器が記載されている。該分離器では、水/ヘキサンのスラグ流を疎水性多孔質膜上側の流路に流すことで、ヘキサンは前記疎水性多孔質膜を透過し、該疎水性多孔質膜の下側流路端の排出口から排出され、一方、水は疎水性多孔質膜を透過せずに該疎水性多孔質膜の上側流路の排出口から排出されることで液液分離が行われるものである。
【0005】
また、特許文献2には、軽液と重液に分離する二相液体を、軽液は軽液排出口、重液は重液排出口から排出する連続液液分離器であって、重液排出口には、重液透過用多孔質膜が設置され、前記重液透過用多孔質膜が、前記重液透過用多孔質膜の上流と下流の間の差圧によっても、軽液の透過を妨げる重液保持力を発生させる材質、孔径を有し、軽液排出口には、前記重液透過用多孔質膜の上流の圧力が前記重液保持力を超えない孔径、膜面積を有する軽液透過用多孔質膜が設置されている分離器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-6387号公報
【文献】特開2019-130484号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ind. Eng. Chem. Res. 2013, 52, 10802-10808
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の連続液液分離器では、特許文献1に記載のように、層分離した上層と下層の界面位置を一定に保つため、界面監視装置や流量調整手段等の送液量や送液速度条件を調整するための付帯デバイスが必要であった。
一方、非特許文献1及び特許文献2に記載された連続液液分離器においては、重液又は軽液のどちらか一方のみを透過させ、もう一方を透過させない多孔質膜を用いることで、重液と軽液を分離しているため、界面の監視や流量の調整を行う付帯デバイスを必要としない。しかしながら、多孔質膜の透過、非透過の選択性を利用しており、重液、軽液それぞれの濡れ性に応じて多孔膜の材質や孔径を調整する必要があり、汎用性に乏しい。
【0009】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、界面の監視や流量の調整を行う付帯デバイスを必要とせず、種々の溶液系において汎用性の高い連続液液分離器及び連続液液分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意、検討したところ、重液及び軽液の双方を、二相液体の流入口より高い位置から排出するとともに、軽液の排出口付近に、二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板を設けることで、非特許文献1や特許文献2に記載のような汎用性に乏しい多孔質膜を用いずとも、二相液体を連続的に分離できることを見出した。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、前記知見に基づいて、以下の手段を採用するものである。
[1]互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、該流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口から、軽液及び重液をそれぞれ排出する構造を有する連続液液分離器であって、
前記チャンバー内に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるとともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備え、
前記軽液排出口と前記重液排出口の高さが同じであり、前記軽液排出口の上方端が前記液面調整メッシュ板の上面の高さを超え、かつ前記軽液排出口の下方端が前記液面調整メッシュ板の下面から上面までの高さの範囲内にある、連続液液分離器。
[2]互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、該流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口から、軽液及び重液をそれぞれ排出する構造を有する連続液液分離器であって、
前記チャンバー内に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるとともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備え、
前記液面調整メッシュ板が、前記流入口よりも上方で、かつ前記軽液排出口より下方に位置し、前記液面調整メッシュ板の上面から前記軽液排出口の下方端までの高さh及び前記液面調整メッシュ板の上面から前記重液排出口の下方端までの高さhが、下記の式を満たす、連続液液分離器。
【0012】
【数1】
(式中、h及びhは正の値、ρは軽液の密度、ρは重液の密度、rはメッシュ開口の半径、γは重液と軽液の界面張力、θは接触角を表す。)
[3]互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、軽液及び重液を前記流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口からそれぞれ排出する、連続液液分離方法であって、
内部に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるとともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備えたチャンバーを用い、
前記軽液排出口及び前記重液排出口を同じ高さにするとともに、前記液面調整メッシュ板を、前記軽液排出口の上方端が前記液面調整メッシュ板の上面の高さを超え、かつ前記軽液排出口の下方端が前記液面メッシュ板の下面から上面までの高さの範囲内にあるように配置する、連続液液分離方法。
[4]互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、チャンバーの側面に設けた流入口から導入して、軽液及び重液を前記流入口より高い位置に設けた軽液排出口及び重液排出口からそれぞれ排出する、連続液液分離方法であって、
内部に、二相液体の流入方向に順に、前記軽液排出口をいずれかの側壁に有する第一室と、前記重液排出口をいずれかの側壁に有する第二室とを備えるとともに、前記第一室と第二室を仕切る隔壁と、該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路と、前記軽液排出口に配置された二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板とを備えたチャンバーを用い、
前記液面調整メッシュ板を、前記流入口よりも上方で、かつ前記軽液排出口より下方に配置し、前記液面メッシュ板の上面から前記軽液排出口の下方端までの高さh及び前記液面メッシュ板の上面から前記重液排出口までの高さhが、下記の式を満たすようにした、連続液液分離方法。
【0013】
【数1】
(式中、h及びhは正の値、ρは軽液の密度、ρは重液の密度、rはメッシュ開口の半径、γは重液と軽液の界面張力、θは接触角を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、界面の監視や調整を行う付帯デバイスを必要とせず、種々の溶液系において汎用性の高い連続液液分離器及び連続液液分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】重液と軽液の比重差を用いた分離について説明する図
図2】軽液(油)の密度(ρ)に対して、重液と軽液の界面の高さ(how)をプロットした図
図3】本発明の液面調整メッシュ板の開口による界面固定を説明する図
図4】水がメッシュ板の通過を妨げる圧(F/S)が毛管圧であることを実証した実験について説明する図
図5】実証実験における油相(シクロヘキサン)の高さ(h)に対して、水相の高さ(h)をプロットした図
図6】メッシュ板の開口半径rの逆数(r-1)と実験から求めた毛管圧Pc(=F/S)の関係を示す図
図7】本発明の第一の実施形態を説明する図
図8】本発明の第一の実施形態に係る装置の一例を模式的に示す後面断面図
図9】本発明の第一の実施形態に係る装置の一例を模式的に示す上面断面図
図10】本発明の第二の実施形態を説明する図
図11】実施例に用いた連続液液分離器を前面から撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、互いに完全に混和しない軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類以上の成分からなる二相液体を、その重液と軽液の比重差を用いて連続的に分離する分離器及び分離方法であって、重液及び軽液の双方を、二相液体の流入口より高い位置から排出するとともに、軽液及び重液の各排出口と同じ高さ、又は軽液の排出口と流入口の間の所定の高さ位置に、二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板を設けることで、軽液と重液の界面を固定して、重液及び軽液のそれぞれを連続的に分離・排出することを特徴とするものである。
【0017】
本発明においては、軽液のみが液面調整メッシュ板の開口を浮力によって通過するため、液面調整メッシュ板への濡れ性の制御は重液に対してのみでよく、非特許文献1や特許文献2における多孔質膜のように軽液及び重液の両者に対して濡れ性を制御する必要がなくなるので、汎用性のある連続液液分離が可能となる。
【0018】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」ということもある。)について説明するが、これらは、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0019】
<重液及び軽液の比重差を用いた連続液液分離>
最初に、重液及び軽液の双方を、両者の比重差を用いて、二相液体の流入口より高い位置から排出する連続液液分離について説明する。
図1は、一例として、重液及び軽液にそれぞれ水及び油を用いた場合の比重差を用いた分離について説明する図である。
二相液体の流入口より高い位置に、油相出口及び水相出口を有している分離器においては、該図に示すとおり、油相出口の高さ、水相出口の高さ、二相液の界面の高さを、それぞれH、H、及びhowとし、油相の密度及び水相の密度を、それぞれρ及びρとすると、
(H-how)ρ=(H-how)ρ
(但し、すべての変数は正)
の時に、油相出口及び水相出口から、それぞれ水相及び油相が排出される。
【0020】
例えば、ρ=1、H=10とすると、
(H-how)ρ=(10-how
ow=(10-H・ρ)/(1-ρ
となる。
図2は、ρに対して、howをプロットした図である。
図中、〇:H=12、□:H=11、◆:H=10、×:H=9
【0021】
ow>0でなければならないため、油相出口高さ(H)が水相出口高さ(H)よりも高い場合は、図2に図示するとおり、適用可能な油(軽液)の密度範囲が狭くなる。
一方、図2に図示するとおり、油相出口高さ(H)=水相出口高さ(H)=界面高さ(how)の時は、すべての油(軽液)に対して適用可能となる。
しかしながら、この場合には、油相出口から水相が排出しないように界面を固定することが必要となる。
また、油相出口高さ(H)が水相出口高さ(H)よりも低い場合もすべての油(軽液)に対して適用可能となる。
しかしながら、この場合も、油相出口から水相が排出しないように界面上昇を抑え界面を固定することが必要である。
本発明では、界面を固定する手段として、液面調整メッシュ板を用いるものである。
【0022】
液面調整メッシュ板は、軽液は通過するが、重液の通過を抑える圧(毛管圧)を有する開口を有する。軽液は、浮力によってメッシュ板の開口を通過するため、メッシュ板における毛管圧(濡れ性)の制御は、重液に対してのみで良い。
開口の形は、角形でも丸形でもよいが、角形の場合は半径rの円形に換算した開口径を有するものとする。
【0023】
図3(A)は、重液が水相であり、メッシュ板の素材が疎水性である場合の毛管圧を示しているが、図3(B)は、重液が水相であり、メッシュ板の素材が親水性である場合の毛管圧を説明する図である。メッシュ板が疎水性であっても、親水性であっても、メッシュ板の開口の毛管圧により、重液(水相)の通過が抑えられる。
なお、重液が油相である場合は、軽液が油相、水相のいずれであっても、親水性のメッシュ板である方が、大きな毛管圧が得られ、好ましい。
【0024】
<実証実験>
以下、水が液面調整メッシュ板の通過を妨げる圧が毛管圧であることを、実証した実験について説明する。
図4は、疎水性メッシュ板(PTFE製、幅20mm×奥行10mm×厚み0.5mm)を用いた実証実験の説明図である。
水の通過を妨げる圧をF/S、油の荷重圧をF/S、水の荷重圧をF/S´、チャンバー内の第一室の底面積をS、第二室の底面積をS´、油の密度ρ、水の密度ρ、油相(シクロヘキサン)の高さh、水相の高さh、とすると、
/S´=Fo/S+F/S
ρw・=ρo・+F/S
であるから、水相の高さ(h)は、以下の関係式で表される。
【0025】
【数2】
【0026】
疎水性メッシュ板として、穴径0.75mm(ピッチ1mm)、穴径1.0mm(ピッチ1.5mm)、穴径1.5mm(ピッチ2.5mm)、及び穴径2mm(ピッチ1.5mm)の丸形開口(ピッチ:穴と穴の間隔)を有する4種を用いて、チャンバー内の第一室、第二室ともに、疎水性メッシュ板の下面の高さまで水相を満たした後、チャンバー内の第一室の上方から油相(シクロヘキサン)を一定の高さになるように滴下し、その状態からチャンバー内の第二室の上方から水相(重液)を滴下、水位を高くしていき、水がメッシュを通過した時のメッシュ板下面からの水相の高さを測定した。
図5は、油相(シクロヘキサン)の高さ(h)に対して、水相の高さ(h)をプロットした図である。
前記の式から明らかなように、図中、傾きが、油の比重(ρ)を示し、Y切片が水の通過を妨げる圧を示している。
表1は、図5における、疎水性メッシュ板の穴(開口)径、傾き、及びY切片をまとめたものである。
【0027】
【表1】
【0028】
半径rの開口における重液の毛管圧Pcは以下の式で表される。
Pc=2γcosθ/r
(式中、γは、重液と軽液の界面張力、θは、重液の接触角を表す。)
液面調整メッシュ板の重液の通過を妨げる圧(F/S)が、毛管圧(Pc)であると仮定すると、下記の式で表される。
/S=Pc=2γcosθ/r
(γ:重液と軽液の界面張力、θ:重液の接触角、r:メッシュの開口半径)
以下の表は、上記の仮定に基づき、メッシュ穴の半径rの逆数(r-1)と、前記のY切片から求めた毛管圧を示す表である。
【0029】
【表2】
【0030】
図6は、メッシュ穴の半径rの逆数(r-1)と実験から求めた毛管圧の関係を示す図である。
図6の傾きは、いずれも、界面張力の文献値 シクロヘキサン-水γcw=50.49mN、水-PTFEγwt=40.25mN,シクロヘキサン-PTFEγct=1.22mNを用いた時の傾き0.078と概ね一致している。
このことは、上記の仮定が正しく、水がメッシュ板を通過するのを妨げる圧は、毛管圧であるといえる。
【0031】
<液面調整メッシュ板>
本発明の実施形態において液面調整メッシュ板の開口径は、0.2~5.0mm程度であることが好ましく、より好ましくは0.75~2.0mm程度であれば、種々の二液の組み合わせによる二相溶液の分離を行うことができる。
また、水が液面調整メッシュ板を通過するのを妨げる圧は、液面調整メッシュ板が有する開口数やその配置(ピッチや均等配置か否か)によっては変わらないので、開口の数やその配置は特に限定されない。
【0032】
本発明の実施形態においてメッシュ板の厚みは、たわむことがなければ特に制限はなく、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.5~2mmであり、0.5mmであることが更に好ましい。
【0033】
また、本発明の実施形態においてメッシュ板の材質は、疎水性であっても、親水性であっても良く、特に限定されないが、例えば、疎水性の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられ、重液が水である場合は、PTFEが好ましい。
また、親水性の材質としては、親水化ポリテトラフルオロエチレン、ポリメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、セラミックス、金属などが挙げられ、重液が有機溶媒である場合は、ポリメタクリレートが好ましい。
【0034】
<二相液体>
本発明の実施形態において使用可能な二相液体は、互いに完全に混和せず、軽液、重液の二相に分離する少なくとも二種類の成分からなる二相液体であり、例えば、水/ペンタン、水/ヘキサン、水/ヘプタン、水/オクタン、水/ノナン、水/デカン、水/シクロヘキサン、水/デカリン、水/ベンゼン、水/トルエン、水/キシレン、水/ニトロベンゼン、水/アニリン、水/フェノール、水/酢酸メチル、水/酢酸エチル、水/酢酸プロピル、水/酢酸ブチル、水/ジエチルエーテル、水/ジプロピルエーテル、水/ジブチルエーテル、水/ジフェニルエーテル、水/ブタノール、水/ヘキサノール、水/ヘプタノール、水/オクタノール、水/ノナノ-ル、水/デカノール、水/ブトキシエタノール、水/トリエチルアミン、水/クロロホルム、水/四塩化炭素、フロリナート/水、メタノール/ヘキサン、メタノール/シクロヘキサン、N,N-ジメチルホルムアミド/ヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン/ヘキサンなどが挙げられる。
【0035】
また、前記二成分からなる二相液体に無機塩や有機化合物を溶解させた三成分以上の二相液体が挙げられ、また、水/アセトン、水/ホルムアルデヒド、水/テトラヒドロフラン、水/N,N-ジメチルホルムアミド、水/ジメチルスルホキシド、水/メタノール、水/エチレンカーボネート、水/酢酸などの混和した液体に、無機塩や有機化合物を溶解させて、軽液、重液の二相に分離したものが挙げられる。
【0036】
[第一の実施形態]
図7は、本発明の第一の実施形態を示す図である。
本発明の第一の実施形態は、軽液排出口の高さと重液排出口の高さが同じである場合([0021]参照)の実施形態であり、本実施形態においては、図7に示すとおり、軽液排出口に、二相液体中から浮遊してくる油相(軽液)のみを通過させる液面調整メッシュ板を設けることで軽液(上層)と重液(下層)の界面を固定し、軽液排出口の高さと重液排出口の高さが同じであっても、軽液排出口(上層出口)から重液(下層)が排出しないようにしている。
【0037】
軽液が二相液体中から浮遊してメッシュ板を通過して排出口から排出するためには、軽液排出口に設置される液面調整メッシュ板の厚みが軽液排出口の径を超えないことは当然であるが、軽液排出口の上方端が液面メッシュ板の上面の高さを超え、かつ軽液排出口の下方端が液面メッシュ板の下面から上面までの高さの範囲内にある必要がある。
【0038】
図8及び図9は、本発明の第一の実施形態に係る装置の1例を模式的に示す後面断面図及び上面断面図である。
チャンバーの側面には、二相液体を導入する流入口が設けられている。
該チャンバー内には、二相液体の流入方向に順に位置し、第一室と第二室、前記第一室と第二室を仕切る隔壁、及び該隔壁の下方に設けられた第一室と第二室を連結する流路が設けられており、第一室及び第二室は、それぞれ軽液排出口及び前記重液排出口を有している。
軽液排出口及び前記重液排出口は、チャンバーの他の側壁の、前記流入口より高い位置に、軽液排出口及び重液排出口が、それぞれが同じ高さとなるように設けられており、両排出口より、二相液体の軽液及び重液をそれぞれ排出する構造とされている。
また、前記第1室の前記軽液排出口には、二相液体中から浮遊してくる軽液のみを通過させる液面調整メッシュ板が設けられており、該液面調整メッシュ板により、軽液と重液の界面が固定されている。
【0039】
(軽液及び重液の排出)
流入口から導入された二相液体は、第一室において、比重差によって軽液相、重液相へ分離し、軽液のみが液面調整メッシュ板を通過して、第一室の側壁に設けられた軽液排出口より排出される。
一方、導入された二相液体のうち、重液は隔壁の下に設けられた流路から第二室に流入し、第二室の側壁に設けられた重液排出口より排出される。
【0040】
(流入口)
チャンバーの一側壁に設けられた流入口は、ポンプ(図示せず)などを用いて二相液体を連続的に導入するために使用され、ポンプと流入口とは管(図示せず)で連結され、管の材質、内径、外径、長さ等は限定されない。
流入口の位置は、導入された二相液体が、チャンバー内の第一室と第二室を連結する流路内に流入しうる位置であれば、特に限定されないが、できるだけ分離器の下方にあることが望ましい。
【0041】
(軽液排出口及び重液排出口)
本実施形態においては、チャンバーの側壁に設けられる軽液排出口と重液排出口の高さを同じにすることで、重液と軽液との密度差があっても、連続的に分離・排出できるものである。
したがって、両排出口が、流入口よりも高い位置にある必要がある他は、軽液排出口と重液排出口が配置されるチャンバーの側壁は特に限定されないが、軽液が第一室に設けられた軽液排出口から排出されるように、前記流入口と軽液排出口とは、二相液体中の軽液が第一室において比重差によって分離・浮遊するのに必要な間隔を有している必要がある。
軽液排出口及び重液排出口には、排出液体の採取を容易にするため、それぞれ軽液採取用チューブ及び重液採取用チューブを連結することができるが、その材質、内径、外径、長さ等は限定されない。
【0042】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態は、軽液排出口の高さ(h)が重液排出口の高さ(h)よりも低い場合([0021]参照)の実施形態であって、本実施形態においては、液面調整メッシュ板を、二相液体の流入口より上方で、かつ軽液排出口より下方に設けることで軽液と重液の界面を固定するとともに、前記液面メッシュ板の上面からの、前記軽液排出口の下方端の高さh及び前記重液排出口の下方端の高さhが、下記の式を満たすようにしたものである。
【0043】
【数1】
(式中、h及びhは正の値、ρは軽液の密度、ρは重液の密度、rはメッシュ開口の半径、γは重液と軽液の界面張力、θは接触角を表す。)
【0044】
以下、第二の実施形態における、上記の軽液排出口の下方端の高さh及び重液排出口の下方端の高さhの関係について説明する。
前記のとおり、重液がメッシュ板を通過するのを妨げる圧は毛管圧F/Sであるといえるので、本実施形態においては、重液がメッシュ板を押す圧がある程度ある場合に、液面調整メッシュ板をどこまで下げられるか、或は重液排出口をどこまで上げられるかについて検討した。
【0045】
図10に示すとおり、軽液排出口の高さ(h)が重液排出口の高さ(h)よりも低い場合、
/S≧F/S´-F/S=Pw-o・・・・(1)
(式中、Sは第一室の底面積、S´は第二室の底面積、F/Sは水の通過を抑える圧、F/S´は水(重液)の荷重圧、F/Sは油(経液)の荷重圧、Pw-oは荷重圧差を表す。)
が成り立てば、連続液液分離器として機能する。
【0046】
w-o=ρ・h・g-ρ・h・g
=(ρ・h-ρ・h)・g・・・・(2)
(式中、ρは密度、hはメッシュ板上面から排出口の下方端の高さ、Sは管の断面積、gは重力加速度を表す。)
であるから、式(1)に式(2)を代入すると
/S≧(ρ・h-ρ・h)・g
となる。
該式を、hに対してまとめると、以下の式(3)で表される。
【0047】
【数3】
【0048】
一方、毛管圧Pcは、以下の式(4)で表すことができる。
Pc=2γcosθ/r=F/S・・・・(4)
前記式(3)と式(4)より、メッシュ板上面からの、軽液排出口の下方端の高さh及び重液排出口の下方端の高さhは、以下の式(5)で表される。
【0049】
【数4】
(式中、h及びhは正の値、ρは軽液の密度、ρは重液の密度、rはメッシュ開口の半径、γは重液と軽液の界面張力、θは接触角を表す。)
以上のとおり、上記の式(5)により、液面調整メッシュ板をどこまで下げられるか、或は重液相出口をどこまで上げられるかを規定できることがわかる。
【実施例
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、実施例は、本発明の好適な例を示すものであり、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
図8、9に図示する、本発明の第一の実施形態に係る装置を用いて、二相液体の連続的な分離を行った。
図11は、実施例に用いた連続液液分離器を前面から撮影した写真である。
該分離器は、アクリル系モノマーを用いて、光造形方式の3Dプリンター(formlabs社製 form3)により、チャンバー部(外形サイズ、幅46mm×奥行15mm×高さ22mm)、軽液排出部及び重液排出部(外形サイズ、径6mm×長さ30mm、穴径3mm)、流入口(外形サイズ、幅15mm×奥行9mm×高さ14mm)、隔壁(幅2mm×奥行10mm×高さ15mm)、第一室及び第二室(サイズ、幅20mm×奥行10mm×高さ20mm)、第一室と第二室を連結する流路(サイズ、幅2mm×奥行10mm×高さ5mm)とともに、液面調整メッシュ板(幅20mm×奥行10mm×厚み0.5mm)を、その上面が前記軽液排出口(穴)の下端と一致する高さ(第一室の底面から14mm)に、一体成形したものである。
なお、上記液面調整メッシュ板の開口形状は、線径1mm、目開き1mmの角形とした。
【0052】
流入口に、液体流入チューブ(PTFE製、1/16インチ、内径1mm)を接続して、シクロヘキサンと水からなる二相液体(スラグ流)を、各々1mL/minで導入した。
図11の写真から明らかなように、水(食紅で着色)は、メッシュ板を抜けずに、軽液排出口からはシクロヘキサン(無色透明な液)のみが排出され、綺麗に分離することができた。
また、シクロヘキサンと水からなる二相液体を、各々5mL/minに変更して導入した場合にも、同様に水(食紅で着色)は、メッシュ板を抜けずに、綺麗に分離することができた。
【0053】
さらに、二相液体、並びに液面調整メッシュ板の材質及び開口サイズを、表3に示すように変更した以外は、同様にして二相液体の分離を行った。
なお、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の液面調整メッシュ板には、前述の実証実験で用いたものと同じ丸形開口を有するものを用いた。
以上の結果を、表3に記載する。なお、表中、「×」は、下層(重液)がメッシュ板を通過したことを表し、「-」は、未実施を表している。
【0054】
【表3】
【0055】
この結果、水(重液)/低極性溶媒(軽液)、水(重液)/高極性溶媒(軽液)、高比重有機溶媒(重液)/水(軽液)、有機溶媒(重液)/有機溶媒(軽液)の種々の二液の分離が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、簡単な構成を有する連続液液分離器を用いて、高い収量、選択性を有する生成物を得ることができるから、機能性化学品の連続精密生産プロセスに利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11