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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】水素吸蔵材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20241216BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20241216BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20241216BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C01G25/02
B01J23/42 M
B01J23/44 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021040237
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139730
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】屋 隆了
(72)【発明者】
【氏名】青木 芳尚
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-100902(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235025(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/114684(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0099195(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-6/34
C01G 25/00-47/00;49/10-99/00
C04B 35/00-35/047;35/053-35/106
C04B 35/109-35/22;35/45-35/457
C04B 35/42-35/447;35/46-35/515
C04B 35/547-35/553
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本構造がABOで表されるペロブスカイト型酸化物構造を有し、Aサイトがバリウム(Ba)、Bサイトがジルコニウム(Zr)であり、Aサイト及び/又はBサイトの一部が金属(M)で置換され、上記ペロブスカイト型酸化物構造内に水素(H)を含有する水素吸蔵材料であって、
元素組成が、
バリウム(Ba)が12~21原子%、
ジルコニウム(Zr)が8~21原子%、
酸素(O)が50~62原子%、
金属(M)が4~16原子%、
水素(H)が2~13%原子%、の範囲内であり、
X線回折スペクトルのリートベルト解析により得られるペロブスカイト第1相とペロブスカイト第2相とを有し、上記ペロブスカイト第1相の含有量が少なくとも60mol%以上であることを特徴とする水素吸蔵材料。
但しMはインジウム(In)またはイットリウム(Y)を表す。
【請求項2】
上記金属(M)が、上記ABO構造のAサイトとBサイトの両方に配置していることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
上記ペロブスカイト第1相の含有量が、90mol%以下であることを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
上記ペロブスカイト第2相の結晶格子定数が上記ペロブスカイト第1相の結晶格子定数よりも0.02Å以上大きく、
かつ、このペロブスカイト第2相を少なくとも5mol%以上含むことを特徴とする請求項3に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
電気伝導度が4.0×10 -4 S/cm以上であることを特徴とする請求項3又は4に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
さらにIn又はInの酸化物でなる第3の相を2.0?11mol%含み、
上記第3の相のXPSのIn3d5/2スペクトルから計測される結合エネルギーが、443.851eV以下であることを特徴とする請求項3~5のいずれか1つの項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項7】
さらに金属触媒を表面に有し、
上記金属触媒が、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)から成る群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つの項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項8】
形状が粒子状であり、
その表面に上記金属触媒を担持したことを特徴とする請求項7項に記載の水素吸蔵材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料に係り、更に詳細には、バリウムとジルコニウムとを含み、ペロブスカイト型酸化物構造を有する水素吸蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属水素吸蔵材料のように、水素の吸蔵・放出が進むセラミックス材料が知られている。例えば水素吸蔵材料として水素吸放出能を有する、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物が知られている。
【0003】
このペロブスカイト型酸化物は、Aサイト及びBサイトを占める陽イオン(Aサイトイオン、Bサイトイオン)と、陰イオンである酸素イオン(O2-)と、から構成される複合酸化物であり、Aサイトを占める陽イオンはイオン半径が比較的大きく、Bサイトを占める陽イオンはイオン半径が比較的小さい。
【0004】
ペロブスカイト型酸化物構造を有する化合物は、Aサイト、Bサイトに種々の陽イオンの組み合わせが知られ、全体の電荷バランスを維持する範囲で、酸素欠損、ホール、電子を生成して、電気的中性条件が成立する構造を取りうる。
【0005】
このうち、AサイトにBa、Sr、Ca等のアルカリ土類金属を配置し、BサイトにはZr、Tiなどの4価のカチオンを配置した複合酸化物は、プロトン伝導体として機能することが知られている。
【0006】
特に、バリウムジルコネート(BaZrO)は、中高温域の燃料電池用電解質材料として頻繁に利用されている。
【0007】
また、プロトン伝導体として利用されるバリウムジルコネートは、そのBサイトの4価カチオンの位占有位置の一部を、金属M(Y、Er、Sc, In、Ce、Gd, Al等の3価の不純物カチオン)でドープすることで、AB1-y3-δのδに相当する酸素欠損を形成することができる。
【0008】
その酸素欠損内に、気相中の水蒸気を取込むことで、周辺の格子酸素との間で水素結合を伴う2つのヒドロキシル基を形成して、プロトン伝導性を発現することが知られている。
【0009】
カチオンMをYとした、Ba1.0Zr1-yYyO3-δ は、400℃~600℃の利用において、最もイオン伝導性に最も優れる材料系であることが実験的に知られており、第一原理計算に基づいた原理効果が検証されている。
【0010】
このようなペロブスカイト酸化物からなる水素吸蔵材料は、元来酸化物であることから、高温耐性、耐水蒸気酸化、高温酸化性に富み、金属系水素吸蔵材料の利用が難しい環境での利用を可能とする期待が持たれる。
【0011】
すなわち、温度や圧力差により水素を貯蔵・放出させることができる材料であって、前述の水素貯蔵用途、水蒸気改質、燃料電池アノード触媒や、脱水素反応や排ガス中の窒素酸化物浄化反応等の、一時的な水素の貯蔵-放出を司る触媒または触媒担体としての利用も期待される水素吸蔵材料である。
【0012】
一方、同じくAサイトにBaを、BサイトにTiを配したチタン酸バリウム(BaTiO)は、元来、セラミックスコンデンサー向けの誘電体材料として知られている。
【0013】
このチタン酸バリウムの水素放出性能に関して、特許文献1では450℃以下の温度で水素を放出するチタン含有ペロブスカイト型酸化物が開示されている。
【0014】
しかしながら、この水素放出体としてのチタン酸バリウムへの水素の導入は、強還元材である金属ヒドリド試薬のCaH共存下、加熱処理を行う方法であり、熱処理後に残留物として残る酸化カルシウムを、合成した化合物中から、アンモニア水溶液等を用いて除去する工程を必要とする。
【0015】
そのため、水素吸蔵材の使用環境下において、水素の放出が進んだ材料では、使用環境における自発的再生に課題が残る。また、当該特許文献において、水素ガス、特に、希薄な水素ガスを利用する吸蔵方法、放出に関わる課題についての記述はみられていない。
また、ペロブスカイト水素吸蔵材料の水素貯蔵並びに、触媒・触媒担体としての利用温度の低温化や利用温度域の拡大という視点では、より低温度での水素を放出する特性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際公開2013/008705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、より低温化された水素放出温度を有するペロブスカイト型酸化物構造を有する水素吸蔵材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、Aサイトにバリウムイオン、Bサイトにジルコニウムを有するペロブスカイト型酸化物において、水素ガスを原料に用いて水素吸蔵(初期の活性化)をすること、および、水素乖離と脱酸素能に優れる金属触媒と原料酸化物とを接触させ、より温和な条件で、水素吸蔵(初期の活性化)をすることで、低温度で水素を吸蔵・放出できる水素吸蔵材料を合成可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明の水素吸蔵材料は、基本構造がABOで表されるペロブスカイト型酸化物構造であり、Aサイトがバリウム(Ba)、Bサイトがジルコニウム(Zr)であり、Aサイト及び/又はBサイトの一部が金属(M)で置換され、上記ペロブスカイト型酸化物構造内に水素(H)を含有する。
そして、元素組成が、バリウム(Ba)が12~21原子%、ジルコニウム(Zr)が8~21原子%、酸素(O)が50~62原子%、金属(M)が4~16原子%、水素(H)が2~13%原子%、の範囲内であり、
X線回折スペクトルのリートベルト解析により得られるペロブスカイト第1相とペロブスカイト第2相とを有し、上記ペロブスカイト第1相の含有量が少なくとも60mol%以上であり、
上記金属(M)が、インジウム(In)またはイットリウム(Y)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Aサイトイオンがバリウムイオンであり、Bサイトイオンがジルコニウムであるペロブスカイト型酸化物において、構造中の酸素配位を不安定化させた状態で水素を導入し、所望量の水素を含有させることで、より低温で水素を放出する水素吸蔵材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】比較例3の水素吸蔵・活性化工程におけるd-DTAH2-N2値の変化と水素濃度変化を示すグラフである。
図2】比較例4の水素吸蔵・活性化工程におけるd-DTAH2-N2値の変化と水素濃度変化を示すグラフである。
図3】比較例3と比較例4の水素吸蔵・活性化工程におけるDTA値の変化を示すグラフである。
図4】比較例3と比較例4の水素吸蔵・活性化工程における昇温過程での水素検出電流値を示すグラフである。
図5】実施例4と実施例5の水素吸蔵・活性化工程におけるd-DTA値の変化を示すグラフである。
図6】実施例4と実施例5の水素放出挙動を示すグラフである。
図7】水素の放出量とBa含有量との関係を示す図である。
図8】比較例4と実施例5のXRDスペクトル図である。
図9】実施例4,5比較例3,4のSIMSの測定の結果を示すグラフである。
図10】原料酸化物の組成と酸素空孔との関係を示す図である。
図11】活性化工程における原料酸化物の電気的挙動と放出ガスの特性を測定した装置の概略図である。
図12】金属触媒付の原料酸化物の活性化処理中の温度と酸素・水素検出電流との関係を示す図である。
図13】比較例4のリートベルト解析におけるRwp値の比較である。
図14】Ba含有量によりInが生成することを示すXRDスペクトル図である。
図15】Inのバンディングエナジーの関係を示すグラフである。
図16】水素吸蔵時の処理温度と水素吸蔵材料中の水素原子濃度との関係を示す図である。
図17】水素の透過を確認する際の比較例6の水素吸蔵材料とガスの流れとの関係を説明する図である。
図18】比較例6と実施例9の金属触媒の効果の差を示すグラフである。
図19】本発明の水素吸蔵材料と担体触媒として利用するときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の水素吸蔵材料について詳細に説明する。
上記水素吸蔵材料は、基本構造が一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物構造を有し、バリウム(Ba)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含み、さらに、金属(M)と、水素(H)を含有する。
そして、元素組成が、バリウム(Ba)が12~21原子%、ジルコニウム(Zr)が8~21原子%、酸素(O)が50~62原子%、金属(M)が4~16原子%、
水素(H)が2~13%原子%、の範囲内であり、上記金属(M)は、インジウム(In)またはイットリウム(Y)である。
【0023】
上記水素吸蔵材料の組成は、Aサイトのバリウムイオンのサイト占有率が1.0よりも小さくなる組成であり、上記占有率を1.0よりも減じる程、水素の吸蔵-放出量が増加する。
【0024】
Aサイトのバリウムイオンのサイト占有率を1.0よりも減じると、例えばAサイトにInが配置された構造の存在が有効となる。Aサイトに金属(M)が位置することで、格子が局所的に歪むため、ペロブスカイト酸化物構造中の酸素のエネルギー的に不安定化するので、水素放出温度が低温化する。
【0025】
一方、バリウム(Ba)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、金属(M)とを含む水素吸蔵前の原料酸化物(以下、単に「原料酸化物」といことがある。)中への水素の導入工程において、特に、低温域における反応は、原料酸化物からの脱酸素が先んじて進み、脱酸素サイトにヒドロキシル基として水素の導入が進む工程を経るため、その導入反応の逆反応である水素放出の開始温度も低温化されることになる。
【0026】
<水素吸蔵材料の作製:原料酸化物の作製>
上記水素吸蔵材料は、原料酸化物に水素を吸蔵させる活性化処理を行うことで作製できる。
【0027】
また、原料酸化物は、焼成・焼結法や、物理蒸着法など、公知の複合酸化物製造法を用いればよく、以下の方法が利用できる。
【0028】
例えば、炭酸バリウム、ジルコニウム、イットリウム、インジウムの酸化物、水酸化物、硝酸塩や金属錯体を所定配合となるよう計量し、乾式、または、ビーズミルを用いて、粉砕混合を行う湿式での混合・粉砕・乾燥を行った後に、1000℃~1500℃の大気雰囲気中で1~12時間焼成することで得ることができる。
【0029】
前述のような、焼成・焼結を用いる手法とは別に、一般的な酸化物薄膜を形成する手法として知られる、スパッタリング、PLD(パルスでレーザディポジション)、大気プラズマ等の物理蒸着法も原料酸化物の製造が適用可能である。
【0030】
<水素吸蔵材料の作製:原料酸化物の初期活性化工程の条件>
原料酸化物に所望量の水素を吸蔵させる方法としては、金属触媒と接触させた状態で水素濃度が5vol%以上の水素雰囲気下で150℃~800℃に加熱することで水素を吸蔵させることができる。
【0031】
原料酸化物に水素を吸蔵させることにより、新たな相が生成して水素吸蔵材料とすることができる。
上記新たな相の形成としては、150℃~400℃において、水素放出の低温化に寄与するペロブスカイト第2相が形成され、また、400℃~800℃以上において、輸送および構造安定性を担う水素放出の低温化に寄与するペロブスカイト第1相が形成される。
【0032】
<金属触媒の種類>
上記金属触媒としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などを挙げることができる。
【0033】
<金属触媒との接触方法>
原料酸化物に金属触媒と接触させる方法のうち、原料酸化物上に直接金属触媒を接触させる方法としては、金属ペーストの塗布、無電解メッキ、蒸着、含侵、担持等の公知の方法が利用できる。また、原料酸化物中に不純物酸化物相として混合または、前述のInの例のように工程において金属相を分離析出させ、工程内において触媒として機能させることも可能である。
【0034】
別の形態として、後述するような前記の触媒作用を有する水素透過性金属を利用する形態でも実施可能である。前記の触媒作用を有する水素透性の金属箔上に、スパッタ法、PLD法、大気プラズマ、ゾルゲル法、ペーストによって、原料酸化物を堆積・形成させる事で原料酸化物に水素吸蔵・放出の機能を付与することができる。
【0035】
一方、原料酸化物上に直接金属触媒を設けずに、Pt皿の様に、活性化工程に利用される設備に金属触媒を被覆する事で、処理中の接触を確保することでも効果が得られることから、表面に金属触媒を有する容器の内表面や攪拌子を用い、原料酸化物を攪拌しながら水素を吸蔵させることでも、原料酸化物に上記金属触媒と接触させ、水素を吸蔵させることができる。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1・比較例1の原料酸化物と触媒接触方法>
炭酸バリウム(BaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)粉末を所定の金属組成比となるよう計量し、湿式混合した後に、10MPaの一軸成型を行い、錠剤成型機を用いて100MPaでφ12mm、厚み2mmに成型した。
【0038】
得られたCIP成型体を大気焼成炉にて、1500℃,12時間焼結して比較例1のペレットを得た。
更に、得られたペレット焼結体の片面にパラジウム(Pd)を50nmの厚み蒸着することで実施例1の活性化処理前の金属触媒付きペレットを用意した。
【0039】
<実施例2~8および比較例2~5の原料酸化物と触媒接触方法>
炭酸バリウム(BaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化インジウム(In)の粉末を所定の金属組成比となるよう計量の後、湿式混合し焼結助剤 硝酸亜鉛Zn(NOをZn:Ba=0.035:1の割合で添加して湿式混合した。
【0040】
その後、10MPaの一軸成型を行い、錠剤成型機を用いて100MPaで成型して得られるCIP成型体を、1500℃12hr大気焼成炉を用いて焼結処理を実施して、比較例2のペレットを得た。また、金属組成比を変える他は比較例2と同様にして、比較例3、比較例4のペレットを得た。
【0041】
比較例2のペレットの片面にパラジウム(Pd)を50nm蒸着することで実施例2の活性化処理前の金属触媒付のペレットとした。
【0042】
また、比較例2、比較例3、比較例4のペレットに、市販のPtペーストを塗布・乾燥後、800℃で焼成して、それぞれ、実施例3、実施例4、実施例5の活性化処理前の金属触媒付ペレットとした。
【0043】
実施例6、7、8も金属組成比を変える他は、比較例2と同様の工程で、焼結ペレットを作製した後に、市販のPtペーストを塗布・乾燥後、800℃で焼成し、後述の条件で水素化処理を行った後に、Ptペーストをサンドペーパーにて除去して、黒色ペレットを得た後に乳鉢で粉砕することで得た。
【0044】
実施例6で得られた黒色粉末をN雰囲気下昇温900℃で水素の放出を確認しながら加熱して得られる白色化サンプルを比較例5とした。
【0045】
<比較例6および実施例9、10の原料酸化物と触媒接触方法>
比較例6および実施例7、8の原料酸化物はすべて、市販の50μmの純パラジウム箔上に、マグネトロンスパッタを用いて、1.0μmの酸化物薄膜を形成することで得られた。
【0046】
市販の50μmの純パラジウム箔をマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に配置し、厚さ50μm、寸法100mm角のPd箔を配置し、3×10-6Paまで高真空排気を行い、その後、チャンバー内に、Arガスを導入し、チャンバー内圧力を3.0×10-1Paに保ちながら、800V、5kWの条件下で8時間~10時間成膜を行い、厚み1.0μmの原料酸化物をPd箔上に形成させて、比較例6、実施例9、実施例10のサンプルを得た。
【0047】
酸化物ターゲットには、金属モル組成比 Ba:Zr:In=37:32:32からなるターゲットを用いて成膜して、比較例6、実施例9の原料酸化物膜を得た。
同様に、金属モル組成比 Ba:Zr:Y=39:41:20からなるターゲットを用いて成膜することで、実施例10の原料酸化物膜を得た。
【0048】
成膜後の酸化物膜は、アモルファス質であるが、400℃~700℃で熱処理することで結晶性を示す。
【0049】
<初期活性化:水素の吸蔵>
実施例1~10、比較例1~6の原料酸化物について、表1に記載の条件の初期活性化処理を行って水素を吸蔵させ、水素吸蔵材料を得た。
【0050】
<組成分析:金属組成分析>
原料酸化物および該原料酸化物に水素を吸蔵させて作製した水素吸蔵材料について、Ba、Zr,In,およびYの含有量を分析した。
分析は、X線光電子分光分析装置(PHI製 Quantum-2000)を用いX線源としてMonochromated-Al-Kα線(1486.6EV)40Wを用いて行った。
【0051】
なお、ペレットサンプルでは、サンプルを割断した断面の分析を実施し、厚み方向の平均組成を分析した。また、粉末および小片サンプルならびに薄膜サンプルは、サンプル表面の分析を実施した。
【0052】
原料酸化物の金属組成は、ペロブスカイト型酸化物(ABO)のAサイト、BサイトにXPSの分析結果からカチオン組成から組成決定し、電気的中性を維持するための酸素量を算出して組成を決定した。
【0053】
水素を吸蔵させた後の水素吸蔵材料の水素原子の分析は、SIMS二次イオン質量分析(SIMS)を用いて固体中の水素濃度(H atom/cm)を求めた。
【0054】
ペロブスカイト型結晶の格子定数をXRD回折より求めた。
実施例および比較例の中から6サンプルの分析を実施した結果から、平均的な格子定数を4.20Åとして格子容積(cm/単位格子)を算出し、単位格子当たりの水素原子量(aom/単位格子)とした。
【0055】
また、XPSの分析結果と、ペロブスカイト構造内の組成比率とから、Ba、Zr、In、酸素の各元素の単位格子当たりの原子数(atom/単位格子)とし、1格子中に存在するBa、Zr、In、O、Hの原子%での比率によって組成を記述した。
【0056】
実施例1~実施例10および比較例1~比較例6の原料酸化物形態、厚み、金属触媒水素と水素熱処理条件並びに金属Mの元素を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~実施例10および比較例1~比較例6の原料酸化物の組成と、水素吸蔵後の水素吸蔵材料の組成を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例6~10の活性化後の水素吸蔵材料の水素放出温度および放出量と原料酸化物との関係を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
詳細は後述するが、水素放出温度の低温化には、その活性点となるペロブスカイト第2相が必要であり、これはBa含有量の減量時に、金属Mの一部が構造の不安定化を発生させることで生ずる。
【0063】
水素の吸蔵放出に預かる活性点となるペロブスカイト第2相の量は、Ba含有量の低下によって増加させることができる。
【0064】
実施例6、7、8の比較から、Ba含有率を減ずることで、水素原子としての放出可能量が増加することが分かる。
【0065】
一方で、活性化処理後において吸蔵された水素原子のすべてが出入りするわけではなく、全体の4.51%~12.76%程度が吸蔵-放出の双方に寄与できる。
【0066】
それ以外の水素は、使用温度域が、800℃程度以下であれば、相内に残留しており、ペロブスカイト第1相およびその他の相に残留する。このうち特に、ペロブスカイト第1相は、プロトンとして吸蔵された水素の活性点までの輸送と構造としての安定性を確保の機能を有している。
【0067】
表3に示す実施例6,7,8の活性化処理における放出特性は、放出中の水素吸蔵材料への水素供給がないことから、固体中の残留水素濃度が減衰することから、初期濃度非定常な状態での放出である。
これに対して、実施例9、10では、水素吸蔵材料の活性化後の、連続的な定常状態における吸蔵・放出の現象を示した。
【0068】
また、実施例9と実施例10では金属Mが異なることから、金属Mの種別によらずに、200℃程度までは、活性化前の状態に比して、十分な水素放出性と吸蔵が同時に進んでいることを示している。
【0069】
<水素放出の挙動・要因>
水素吸蔵材料・原料酸化物の水素吸蔵‐放出の挙動・要因について検討した。
以下、詳細に説明する。
【0070】
<水素吸蔵材料(原料酸化物)への水素導入過程の熱的挙動>
比較例3 比較例4(原料酸化物)について、その初期の水素吸蔵・活性化工程の現象について、TG-DTA-MASSの検討を実施した。
【0071】
窒素95%、水素5%からなる混合ガスした雰囲気下において、Pt皿上に粉砕したサンプルペレットを載せ、トータルガス流量を70Ncc/minを流通し、10℃/minの昇温速度で室温から800℃まで昇温させて観測した。
比較例3のd-DTA値の変化と4重極型質量分析計において観測したm/z=2(水素)の濃度変化を図1、比較例4の結果を図2にそれぞれ示す。
【0072】
d-DTAの挙動については、まず窒素雰囲気下で計測した結果をベースとして、水素ガス導入時の測定値との差分を得て、更に各計測点間のDTA値の差分をd-DTAH2-N2としてプロットした。
【0073】
図1図2に示した比較例3、比較例4における4重極型質量分析計において観測されるm/z=2(水素)の挙動から、比較例3、比較例4のいずれの場合にも、150℃~200℃以上の領域で減少が始まり、水素消費反応が存在することが分かる。
なお、図1図2は、原料酸化物自体が有する窒素雰囲気中での熱的挙動は除いて、水素混合雰囲気中の反応に関する挙動を抽出して示している。
【0074】
また、d-DTA値は、150℃付近から増加に転じ発熱反応が進み、それぞれ、185℃、280℃でピークを迎え、発熱量全体としては、Ba含有率がより少ない比較例4においてより大きいことが分る。
【0075】
400℃以上で熱的な挙動は確認されなかった。一方で、水素の消費は800℃まで継続した。試験終了後にサンプルを確認するとペレットのPt皿と接触している面のみ変色が観察された。一方で、同時に計測されるT.Gに関して減量は認められなかった。
【0076】
<水素吸蔵材料の再昇温時の特異挙動>
続いて、水素5vol%の雰囲気で加熱した後の比較例3、および比較例4について、水素を含まない窒素ガス雰囲気下において、10℃/minの昇温速度でTG-DTA分析を進めた。
【0077】
図3に示すように、150℃~200℃の昇温工程の微小ではあるが、比較例3,4のいずれも吸熱的な微小熱挙動が観測された。
【0078】
また、比較例3、比較例4は、図4に示すように、上記昇温工程において、質量分析計により水素ガス(m/z=2)の放出が観測された。この水素放出は、水素濃度が低く処理時間が短かった。
【0079】
次に、実施例4、5の原料酸化物を純水素雰囲気下で、800℃で30hr以上の熱処理を行って水素を吸蔵させ、Ptペーストを除去し、実施例4、5の水素吸蔵材料を得た。
この水素吸蔵材料を前述と同様の条件下で窒素雰囲気においてTG-d-DTAの測定を実施した。
【0080】
その結果、図5に示すように、比較例3,4で観測された吸熱的挙動よりも明確な吸熱的挙動が150℃~200℃の近傍にて観測された。
【0081】
また、実施例4、5の水素放出試験を実施した。実施例4,5の水素放出挙動を図6に示す。
【0082】
図6から、実施例4、5においても、比較例3,比較例4と同様に150~200℃の温度域において水素の放出が開始されることが確認できた。
【0083】
<水素吸蔵材料のBa含有量と活性化工程の熱挙動・放出量の関係>
実施例6の原料酸化物に、実施例4,5と同条件で水素を吸蔵させ水素吸蔵材料を得た。
実施例4,5の水素の放出量とBa含有量の関係を、実施例6の水素の放出量と合わせて図7に示す。
【0084】
図7から、Ba量の少ない程、水素放出量が増加することがわかる。
この傾向は、最初の水素吸蔵(初期の活性化)工程における、150℃~280℃において観測される発熱量と傾向が合致する。
【0085】
<原料酸化物の活性化工程および低温水素放出性・放出量の制御因子>
原料酸化物中への水素の導入反応について、熱的挙動及び水素放出の挙動から、検討した。
【0086】
一般的にバリウムジルコネート等のプロトン伝導体と水素の反応については、(1)の反応が知られている。(2)は脱酸素還元(吸熱)、(3)は水の生成(発熱)、(4)は水和(発熱)である。
【0087】
(g) + 2Ox → 2OH・ + 2e Qt (1)(全反応)
Ox → 1/2O + Vo: +2e Q (2)(脱酸素)
(g) + 1/2O(g) → HO(g) Q (3)(水生成反応)
O(g) + Ox + Vo: → 2OH・ Q (4)(水和反応)
【0088】
d-DTAでは、昇温過程で生じるQt =Q+Q+Qの総熱に起因する熱応答を観測しており、これらの(2)+(3)+(4)は、(1)と等価であることから、(2)~(4)は、それぞれ、(1)に対する素過程である。
【0089】
最初の水素吸蔵(初期の活性化)工程では、150℃~280℃において発熱的であり(2)、(3)が支配的と考えられるが、まず、(2)が先んじて進むことが寛容である。
【0090】
すなわち、低温下、または、低水素濃度条件下での脱酸素反応を促進するためには、原料酸化物(ペロブスカイト酸化物)中の酸素がエネルギー的に不安定な組成・構造の採用や、脱酸素能を有する金属触媒との接触が有用となる。
【0091】
(2)の反応の低温化により、その逆反応である水素の放出反応に関わる挙動が、低温化側にシフトし、これが放出時の吸熱的な挙動として観測されている。
【0092】
また、水素の吸蔵-放出量がBa含有量の減量に依存することも、構造中の不安定酸素が増加して、Ba組成の減量に伴って、(2)の反応量の増加に繋がることで、後続する(3)、(4)の反応量も増進される結果、吸蔵量の差が生じる。
【0093】
<水素量吸蔵・放出に寄与する相と結晶相の特定:リートベルト解析>
そこで、水素吸蔵・放出とペロブスカイト相の構造に関して、X線回折像の比較による検討を実施した。X線回折装置(XRD)には、リガク SmartLab9kW(X線:Cu Kα1)を用いた。
【0094】
実施例5については、室温測定後にN雰囲気を保ったまま測定ステージ上で昇温し、水素放出温度に達する200℃において、室温と同一面をついて、再度XRDのプロファイルを取得した。
【0095】
図8に、N下における比較例4と実施例5 のXRDのプロファイルを示す。
図8において、比較例4と実施例5とは、いずれもペロブスカイト構造を示すが、各ピーク位置は僅かにシフトしている。また、実施例5を200℃に再度昇温した後には、一部のペロブスカイト相が消失した。
【0096】
このペロブスカイト相の消失とDTAの吸熱ピークの生じる温度域とは一致しており、水素の吸蔵放出は、この層の消失に伴う熱的挙動であることがわかる。
【0097】
実施例5の熱的挙動は、温度による熱膨張の影響があるものの、残留する相のピーク位置は、比較例4に比べ、低角度側へシフトした相であり、半値幅(結晶子径)、ピーク位置(格子定数)とも比較例4と異なる相が残留する。
【0098】
そこで、より詳細な構造解析のために、比較例3,4と実施例4,5のペレットを粉末状に粉砕し、XRD回折像を取得し、下記の条件でリートベルト解析し、水素の放出・放出に関する有効相の詳細な特定を進めた。
また、リートベルト解析で同定された比較例4,および5と実施例4および5のペロブスト構成相の比較を表4に示す。
【0099】
(リートベルト解析条件)
利用データベース:ICDD、利用ソフト:PDXL2(リガク製)
解析ソフト :RIETAN-FP(プロファイル:拡張擬フォークト関数)
データベース :ICSD
【0100】
【表4】
表4に示すように、ペロブスカイト第1相とペロブスカイト第2相とを有しており、ペロブスカイト第1相の含有量が少なくとも60mol%以上である。
【0101】
表4に示すように、活性化処理を行って水素を吸蔵させた実施例4、実施例5は、それぞれ、比較例4、比較例5に比して、ペロブスカイト第2相のモル存在比率が増加し、格子定数も僅かに膨張する。
【0102】
また、実施例4と実施例5の比較において、ペロブスカイト第2相の増加の活性化処理工程における生成量と図6に示す水素放出量との間には、正の相関が認められる。
【0103】
したがって、原料酸化物におけるBaの添加量を減少することで、水素導入後に特に第2ペロブスカイト相がより多く得られることが分かる。
【0104】
さらに、格子定数の膨張は、上記反応式(1)~(4)を通じて、2つの水素原子が原料酸化物構造内に新たに侵入する反応であることから、水素の導入により膨張したものと言える。
【0105】
前述の水素吸蔵後の再昇温工程において、1つのペロブスカイト相が消失することを踏まえれば、解析された第2ペロブスカイト相が、低温での水素の吸蔵放出に直接的に関与する相である。
【0106】
<低温吸蔵・放出に寄与するペロブスカイト第2相の含有量の規定>
すなわち、上記ペロブスカイト第2相は、低温での水素放出に直接的に関与しており、結晶格子定数が上記ペロブスカイト第1相の結晶格子定数よりも0.02Å以上大きい。
実施例4から、このペロブスカイト第2相を5mol%以上含むことで、水素の吸蔵・放出が増加することが分かる。
【0107】
<水素量吸蔵放出に寄与する相と結晶相の特定:固体内水素原子の収支>
比較例3,4と実施例4,5の水素吸蔵材料について、二次イオン質量分析(SIMS)を用いて水素吸蔵材料中の水素濃度を求めた。
【0108】
なお、金属触媒を用いるものは、Pd触媒(50nm)の場合には、Arイオンにより表面エッチングで除去した下面を、更にArイオンでエッチングしながら分析を実施した。
また、金属触媒がPtペースト層の場合には、サンドペーパーで研磨した後に分析を行った。金属触媒を用いないサンプルは、前記の処理をせずに実施した。
【0109】
比較例3と実施例4、比較例4と実施例5におけるSIMSの測定プロファイルを図9に示す。図9から、水素雰囲気での活性化処理を行った後に、1桁程度の水素吸蔵材料中の水素濃度が増加上昇していることが分る。
【0110】
上述の図6の水素放出試験において検出されるm/z=2のイオン電流についてECOS法に基づき、記載の定量化係数を用いて定量化し、室温~800℃の範囲で放出された水素分子量を積算した。
ECOS法に基づくm/z=2のイオン電流の水素分子換算係数=3.96×1022(N/C) N:分子数 、 C:クーロン
【0111】
また、評価に供したサンプル重量と元素分析の結果から得られる組成式と、前述のXRDの解析結果から求まる格子定数として4.20Åを用いて、当該水素吸蔵材料の真密度を求めた。
【0112】
得られた真密度と、水素放出試験に供したサンプル重量より、水素吸蔵材料の容積を求めて、放出された全水素分子量の2倍値を水素原子量とし、水素放出前の水素吸蔵材料の固体内での放出された水素原子の平均的な濃度を求めた。
【0113】
以上の2通りの方法によって、実施例4および実施例5の水素放出前の水素濃度について、水素吸蔵材料の固体内全体の全水素原子濃度と放出寄与濃度とその割合を表5に示す。
【0114】
【表5】
【0115】
表5より、SIMSで計測された水素吸蔵材料中の水素濃度は、放出された水素の水素吸蔵材料中の存在量に比べ濃度が高い。室温から800℃への昇温過程において、水素吸蔵材料の外部に水素ガスとして放出される水素原子の割合は、全体の数%~10%であった。
【0116】
Ba含有量がより高く、ペロブスカイト第2相のモル比率が小さい実施例4では、水素吸蔵材料の内と外とでやり取りが可能な水素の比率も小さく、Ba含有量の少なく、ペロブスカイト第2相のモル比率が大きい実施例5では、より放出水素の比率が高いことが分る。
【0117】
このように、第2相のモル比率と、水素吸蔵材料内の全水素原子のうちの外部やり取りの可能な水素原子の比率に関する大小関係も一致しており、第2相が水素の吸蔵・放出に寄与していることが明確となった。
【0118】
一方、低温での水素の放出後に残留するペロブスカイト第1相にも、水素が残留している。低温放出側で残留するペロブスカイト第1相内の水素を放出するには、より高温環境が必要であることから、より安定(エンタルピー的に放出に不利な)な水素原子が残留していることが自明である。
【0119】
<ペロブスカイト第1相の特徴と機能>
低温放出後に残留するペロブスカイト第1相にも未放出の水素原子が含まれており、より高温域でも残留する。その機能について以下の検討により特定した。
【0120】
ペロブスカイト第1相への水素の導入は、同様に(1)に従うか、または、前述の(2)および後述する(9)式に記載の不純物ドープにより、原料酸化物内に予め形成された酸素空孔、残留電子や、後述する(11)式によるホールとの反応によって、以下の、(1)および(5)~(8)の数の形態を取りうる。
【0121】
(g) + 2Ox → 2OH・ + 2e (電子生成) (1)
(g) + O + Vo: → {H-Vo:} + OH・ (5)
(g) + 2Vo: + 2e → 2{H-Vo:} (電子消費) (6)
(g) + 2O + 2h・ → 2OH・ (ホール消費) (7)
e + h・ → null (再結合) (8)
【0122】
前述の(5)は、(6)+(7)が等量に進んだ場合の全体反応であり、どちらが優勢に進むかは、水素吸蔵材料内の電子・ホールの存在量に依存し、初期のホール量が、図10の通り、原料酸化物の組成によりコントロールされる。
【0123】
一方、本発明者は、活性化工程における電子消費反応の存在について、以下の実験検討に基づき見出している。
【0124】
Pd膜上にMをInとした原料酸化物を実施例に記載の方法で、マグネトロンスパッタリングにより金属触媒の1つであるPd箔(50μm)上に形成し、実施例9の金属触媒付の原料酸化物を得た。
【0125】
得られた原料酸化物の薄膜が厚みおよそ1μmである。図9のSIMS分析プロファイルからわかるように、この1μmの厚さは水素活性化処理を施すことで、原料酸化物の厚み方向全域に水素原子が吸蔵されうる厚みである。
【0126】
図11に示すように、原料酸化物の薄膜(1μm)/Pd箔(50μm)からなる積層体(水素吸蔵材料)の両面に、高温ガスケット(サーミキュライト)をそれぞれ1枚ずつ設置することで、隔離された2室セルを形成した。
Heガスで水素導入室に50kPa_gの圧力をかけて原料酸化物側へのガスの流通がないことを確認した。
【0127】
図11に示すように、両面には電極として、Ptメッシュを設置し溶接されたPtワイヤーを通じて、セル外部に引き出してセル外部で電圧を計測した。
原料酸化物の面に窒素ガス、Pd箔側に窒素ベースのH50%を含むガスを流通し、原料酸化物面をプラス端子、Pd箔をマイナス端子に繋いだ。
【0128】
また、原料酸化物側に流通する窒素ガス側の出口側に、4重極質量分析計を設置して、Nガス中のHガス、Nガス、O2、並びにHOの生成挙動と両端電位差の観測を同時に行いながら、当該セル温度を、室温~550℃まで10℃/minで昇温した。
なお、原料酸化物には、直接的に水素ガスには触れない。
【0129】
但し、金属触媒であるPd箔が水素透過膜であるため、Pdを通じて、原料酸化物は界面で原子状水素と接触して水素の供給が受けられる。また、Pdが、前述の触媒能を有するので、原料酸化物が直接的に水素ガスに接触せずとも、原料酸化物の活性化が進むと考え、この装置を用いて、活性化工程における原料酸化物の電気的挙動と放出ガスの特性を検討した。
【0130】
図12に、実施例9の金属触媒付の原料酸化物の活性化処理中のプロファイルを示した。
167℃~200℃におけるO発生ピークは、前述の脱酸素の発生を示すもので、その直後に電圧が一旦低下する。水素の導入後に水素吸蔵材料の両面で電位差が異なるため、電圧が一旦上がるが、前述の脱酸素反応により電子を生じて、原料酸化物相が電子伝導性を帯びるため、両端子間が短絡して電圧が低下する。低下した電圧は300℃~550℃より増加し、これが短絡状態の改善を示し、水素吸蔵材料内での電子消費に対応する。
【0131】
その後350℃~400℃の間で、N中の水素濃度が上昇する。これは、原料酸化物の薄膜のPd箔側界面で水素吸蔵しており、同時に窒素ガスに接する面では、水素放出することの双方を同時に示している。
【0132】
350℃~550℃まで電圧上昇とともに、一旦減少したHOの生成も増加することから、上記反応式で示した、(2)の脱酸素、(3)水生成(4)の電子消費反応が、550℃以降も継続していると推察できる。
【0133】
また、これら、室温での両端子間抵抗をDC4端子法で計測した結果から、初期 1.77×10-11 (S/cm)、試験後8.82×10-4 (S/cm)であり、電気伝導性は改善していた。
【0134】
固体内のプロトンの輸送は、ヒドロキシル基のプロトンは、近傍格子酸素との間で水素結合を形成し、新たなヒドロキシル基を形成して移動するので、水素結合性が強いと輸送が遅い。
上記反応式(5)によって、格子酸素周辺の分極率が変化によって、水素結合性に変化が生じることでプロトンの輸送性が改善されうる。輸送性が高ければ、水素吸蔵材料内部から放出面までの物質輸送の拡散係数が高く、その結果、より多くの水素原子を固体内に貯蔵・放出することが可能となるため、ペロブスカイト第1相は、水素放出点となるペロブスカイト第2相への、OH・の固体内の輸送性を促進する役割を担う。水素吸蔵材料の吸蔵量および放出量増加の一機能を担う。
【0135】
前述の活性化工程の熱的挙動について、400℃以上で熱的な挙動は確認されず、一方で、水素の消費は800℃まで継続することから、400℃~800℃といった高温域において比較的緩やかな速度で形成される熱的に安定な相を製造することができる。
【0136】
<ペロブスカイト第1相の含有量の規定>
ペロブスカイト第1相は、前述の機能を担保しており、全体の含有量のうち、少なくとも60mol%以上であることが好ましい。ペロブスカイト第1相の含有量が60mol%以上であることで、基本構造並びに、OH・の輸送が維持されて水素の吸蔵放出を繰り返しに寄与する。
【0137】
また、上記ペロブスカイト第1相の含有量は、90mol%以下であることが好ましい。本発明の水素吸蔵材料においては、ペロブスカイト第2相が水素の吸蔵・放出に大きく寄与していると考えられ、ペロブスカイト第1相の含有量が90mol%を超えると、低温での水素放出に直接的に関与するペロブスカイト第2相が減少してしまうことによる。
【0138】
<原料酸化物中の酸素不安定化により脱酸素を促進する手段の説明>
Ba量を減じることによる、酸素の不安定化メカニズムは、ペロブスカイト構造内のカチオンの配置に起因して生じる。
【0139】
本発明において用いたペロブスカイト酸化物を構成するカチオンの各カチオン半径は下記の通りである。
【0140】
(カチオン半径)
Ba:1.35 Å
In:0.81 Å
Y :0.93 Å
Zr:0.80 Å
【0141】
Ba含有量を1.0より減じることにより、格子定数が低下する。これは、Ba位置をより小さなInやYが占有することで、収縮力歪を生じることによる。
【0142】
上記収縮力歪は、XRDによって観測される水素吸蔵材料全体のよりマクロな平均的格子定数にも影響を与える程であって、In、YがBaのAサイトを占有した単位格子近傍では、局所的に大きな歪を有するため、近傍の酸素原子の安定性が低下する。
【0143】
水素放出温度の低下の視点において、Ba量を減じることが材料・構造設計上有効な手段であり、Ba減量を強化することで、放出量が増加する手段となる。
【0144】
本発明の実施例の水素吸蔵材料に、金属MがBaサイトの一部を占有することを以下のように確認した。
【0145】
Bサイトの3価のカチオンにイットリウム(Y)を用いた系において、Ba占有率を1より欠損させた組成において、不足したBa位置をイットリウム(Y)が占有することが知られている。
【0146】
この方法を用いて、インジウム(In)の場合について、反応式の(3)式による 原料酸化物への水蒸気吸着量とBa量との傾向を比較することで確認を行った。
【0147】
反応式(2)に記載の酸素空孔は、格子酸素が、還元雰囲気により脱酸素して生じる空孔であるが、低原子価カチオンの不純物ドープによる酸素空孔は、ドープ元素の添加量に応じて、酸素空孔量が増減する。

+ 2Zrzr + Oo → 2Yzr + Vo:+2ZrO(9)
O(g) + Oo + Vo: → 2OHo・ (10)
2BaBa + Vo:+ Y→2YBa・+ Oo +2BaO(11)
【0148】
Ba欠損がある場合には、反応式(11)式により3価のカチオンが、Baサイトを占める構造をとるため、酸素空孔量は減少し、反応式(3)式における水和量が減少する。
【0149】
比較例3と比較例4は、金属(M)のYがInに置き換わったペロブスカイト酸化物であり、Ba量を減少の構造効果を検証するため、TG-DTAを用いて、乾燥N雰囲気下で、室温~850まで、10℃/minの速度で昇温乾燥させたのちに、850℃に保持して、23℃、Rh100%相当の水蒸気を混合し、20minの保持時間の後に、100℃ずつ、50℃まで冷却し、その際の重量増加量から、比較例3と比較例4の水和量を計測した。計測結果を表6に示す。
【0150】
【表6】
【0151】
表6より、Ba量が比較例3より少ない組成の比較例4は、その水和量が1/10程度と低い。すなわち、不純物型の酸素空孔量が1/10程度にあることを意味する。前記反応式(11)のYをInに置き換えた式によって理解されるように、3価のInがAサイト位置を占めることで、酸素空孔を大きく減少させたと分かる。
【0152】
一方、図13に示すように、リートベルト解析の結果から、AサイトにBa、Inの双方を含む構造をとることを確認した。
【0153】
<原料酸化物の活性化工程における触媒効果と触媒材料>
原料酸化物の活性化は、前記反応式(1)の素過程となる、(2)、(3)式の反応を触媒作用によって促進することが可能であり、一般的に脱酸素および水素、酸素の接触による水の生成反応を促進する、水素乖離、酸化、並びに酸素・還元に富む触媒から好適に選択できる。
【0154】
一般には、脱酸素能に富む金属は、Pd、Ni、Co、Mo等の金属が知られる。
また、水素乖離・酸化反応には、Pt、Pt、Pd等貴金や金属Ni等が有用であり、酸素吸着・還元には、Pt、Pd等の貴金属やNi、Co、Mnなどの金属が利用できる。
【0155】
酸化物も高温かつ低酸素雰囲気において機能を有する酸化状態を保持できるものであれば有効に作用する。このような金属のうち、Pt、Pd、Ni、Coの触媒は、反応促進に必要とされる機能について1つの材料として持ち合わせるマルチファンクショナルな材料であるため、最も容易に利用できる。
また、各機能を1つ、2つの機能を分担する、モノファンクショナル、ビファンクショナル触媒の混合物や合金化の利用によっても、前記反応式(2)、(3)の工程を促進可能である。
【0156】
<原料酸化物活性化における触媒金属の実施の形態>
このような触媒は、原料酸化物に接触させる状態は、活性化工程において原料酸化物との固体-固体接触が確保されるように設置されればよい。
【0157】
実施の形態として、TG-DTA-MASS分析におけるPt皿の機能のように、活性化工程に利用される機器との接触でもよい。別の実施の形態として、金属ペーストの塗布、無電解メッキ、蒸着、含侵、担持によって、原料酸化物と金属触媒の固体-固体接触を確保すればよい。
【0158】
原料酸化物中に不純物酸化物相として混合または、前述のInの例の様に工程において金属相を分離析出させ、工程内において触媒として機能させることも可能である。
【0159】
さらに別の形態として、後述するような前記の触媒作用を有する水素透過性金属を利用する形態でも実施可能である。
【0160】
前記の触媒作用を有する水素透性の金属箔上に、スパッタ法、PLD法、大気プラズマ、ゾルゲル法、ペーストによって、原料酸化物を堆積・形成させることで原料酸化物に水素吸蔵・放出の機能を付与することができる。
【0161】
<触媒金属に活性化された材料の利用形態>
前述の方法によって、原料酸化物を活性化して得られる本発明のペロブスカイト型水素吸蔵材料は、必要に応じて、触媒の剥離、溶解処理を行うことで、ペロブスカイト型酸化物材料担体とて利用できる。
【0162】
また、最終的な利用形態が触媒担体である場合には、金属触媒の選択において、別の目的とする反応の触媒活物質として機能をも加味して金属触媒の選択を行えば、原料酸化物に水素を吸蔵させる活性化工程用の触媒を剥離除去し、新たに目的とする反応の触媒活物質を担持させることなく、所望の金属活物質を担持した、本発明記載のペロブスカイト酸化物水素吸蔵材料を得ることが可能である。
【0163】
また、水素透過性の金属箔上に、スパッタ法、PLD法、大気プラズマ、ゾルゲル法、ペースト乾燥などによって原料酸化物を堆積・形成し、活性化処理を行った場合は、目的に応じてそのままの形態で利用してもよく、上記水素透過性の金属箔の一部、または全部を酸により溶解除去して利用しても構わない。
【0164】
工業的には、燃料電池などの、水素または金属水素化物を利用する電池負極材、水蒸気改質等の反応を促進するシート材としての利用が可能である。
【0165】
<原料酸化物の活性化工程における電子伝導性の発現>
Ba量を過剰に減じることで、相平衡上の都合によりペロブスカイト型相ではない不純物相を生じさせることができる。後述の通り、不純物相に意図的に機能を付与することも可能である。
【0166】
酸化物のバンドギャッフ幅の小さい元素の選択によって、より電子伝導に富む水素吸蔵材を得ることが可能となる。また、Aサイトのバリウムの過剰な原料により、Mからなるペロブスカイトと異なる酸化物相を意図的に与えることが可能である。
【0167】
金属(M)がYである場合もBa量を減じることで、Yが生成されることが知られており、図14のXRDスペクトル図に示すように、金属(M)がInであるときについても、Ba量を減じることで、多量のInが生成されることを確認した。
【0168】
このような不純物相は、ペロブスカイト相ではない相に関する、比較例4および実施例5のリートベルト解析に示されるように、活性化工程において、酸化物から金属Inにまで還元される。
【0169】
ペロブスカイト構造に含まれない相を敢えて形成することで、水素吸蔵材料に、電子伝導性を付与する手段に用いることも可能である。
非ペロブスカイト構造をとる不純物相の含有量の分析を表7示す。
【0170】
【表7】
【0171】
このような相は、金属(M)がIn場合は、In又はInの酸化物で成り、XPSスペクトルによって、酸化物-金属の状態を検出可能である。
XPSのIn3d5/2スペクトルから計測される結合エネルギーが、443.851eV以下であれば、図15の関係性より酸化物よりもむしろ、金属的なInであると特定できる。このような相の付与によって電気伝導度を確保するには、第3の相を2.0~11mol含有することが好ましい。これを5mol%以上含むことで電気伝導性が高くなり、水素の吸蔵放出に関与する電子の授受を促進する。
【0172】
水素吸蔵材料の電気伝導度は、原料酸化物に比して高ければ機能発現を確認できるが、とりわけ室温で、直流4端子法に依って計測される電気伝導度として、4.0×10-4S/cm以上であることが実用上は好ましい。表9に実施例9,10の水素吸蔵前後の電気伝導度を示す。
【0173】
【表8】
【0174】
<金属触媒効果の説明>
金属触媒の有と無のケースで比較した。
図16は、水素吸蔵時の最高処理温度と、表6記載の水素吸蔵材料中の水素原子濃度との関係である。
【0175】
図16より、金属触媒を接触させることで、特に金属Mの種類によらず、より多量の水素原子をペロブスカイト酸化物中に吸蔵させることが可能であることが分かる。
【0176】
また、実施例9の水素吸蔵材料と比較例6の水素吸蔵材料について水素透過膜からの水素の放出を試みた。
実施例9では、図11の実験装置において、Pd箔面を50%水素ガスに接触させ、窒素ガス面に原料酸化物を面して配置した。
比較例6では、ガスの流れを反転して、図17に示すように、原料酸化物を50%水素ガスに接触させ、Pd箔面を窒素ガス面に配置した。
比較例6では、600℃まで昇温させたが水素の透過は認められなかった。
そこで、比較例6についてのみ原料酸化物に接する水素濃度を100%に高めて、水素透過の確認を行った結果の比較を図18に示す。
【0177】
図18の結果からも、原料酸化物に高濃度の水素ガスを接触させるよりも、水素ガスと金属触媒を接触させることで金属触媒を介するか、または、金属酸化物と原料酸化物の界面に水素ガスの供給がなされることで金属触媒の作用が得られ、原料酸化物への水素原子の導入が促進されることを示す。
【0178】
この結果より、図19に示すような原料酸化物とそこに金属触媒が担持されたケースにおいても、同様の効果が得られることが、本発明の実施の一形態として利用可能なことが容易に理解されるものと考える。
【0179】
また、原料酸化物の厚みが1μmであっても、一般的な触媒担体の粒径がサブミクロン~数ミクロンであることに鑑みれば、図19のような、粒子状の触媒担体としての利用形態においても、特に金属触媒の存在下において、持続的に水素放出-吸蔵が執り行えることは、当業者は容易に理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の水素吸蔵材料は、水素貯蔵用途、水蒸気改質、燃料電池アノード触媒や、脱水素反応や排ガス中の窒素酸化物浄化反応等の、一時的な水素の貯蔵-放出を司る触媒または触媒担体としての利用できる。
図1
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