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特許7603931水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20241216BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20241216BHJP
   B01J 20/282 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G01N1/10 C
G01N30/00 E
B01J20/282 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021070297
(22)【出願日】2021-04-19
(65)【公開番号】P2022165096
(43)【公開日】2022-10-31
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 信義
(72)【発明者】
【氏名】谷保 佐知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼阪 務
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0171409(US,A1)
【文献】国際公開第2021/033596(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
G01N 30/00
B01J 20/282
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量分析する分析方法であって、
容器中に水試料が密封され、
固相吸着剤が充填されたカラムが前記水試料中に浸漬されかつ一側に送液ポンプが接続されていて、
前記水試料は該送液ポンプにより前記カラムを介して吸引されるとともに、
前記カラムを通過した前記水試料は前記容器中に戻されて前記水試料が循環する循環工程と、
前記循環工程が複数回繰り返されて前記固相吸着剤により前記水試料中の前記揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着される捕集工程と、
前記捕集工程を経た前記カラムが前記容器内から取り出され、
前記固相吸着剤により吸着された前記揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が有機溶媒により抽出されて測定される分析工程とを有する
ことを特徴とする水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項2】
前記固相吸着剤が活性炭吸着材である請求項1に記載の水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項3】
前記カラムの形状がシリンジ型又はディスク型の固相カラムよりなる請求項1又は2に記載の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水試料中に含まれる揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
なお、ペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(i)で示される物質である。例えば、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)等がある。
【0005】
【数1】
【0006】
ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(ii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール(FTOH)等がある。
【0007】
【数2】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材の開発と該捕集材を用いた試験方法である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である水ないし空気を、捕集材に接触させてペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集し、捕集材に吸着された該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSやGC-MS/MS等の装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
既存の捕集材としては、例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材が提案されている(特許文献1)。この吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。
【0010】
また、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができないという問題があった。
【0011】
なお、これらペル及びポリフルオロアルキル化合物のうち、PFOSやPFOA等のイオン性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法としては、固相抽出法が主として用いられる。イオン性ペル及びポリフルオロアルキル化合物のような易水溶性の不揮発性化合物にあっては、固相抽出法による分析が有効であるとされている。しかしながら、FTOHのような揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、固相抽出法による分析が難しいとされている。
【0012】
水中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の測定方法としては、不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集方法がISO21675に示される。該測定方法によれば、弱アニオン交換材料からなる固相吸着材を充填した固相カラムに、不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を含む水試料を通液接触させて不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を固相カラム内の固相吸着材に捕集させ、固相吸着材に吸着された該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSで定量測定し、試料中に含まれる不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行う。しかしながら、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、その性質上、固相カラムによる捕集は困難である。
【0013】
そこで、出願人は、水試料中に含まれる揮発性ないし不揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の一斉の定量分析を可能とすべく、検討を進め、水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法を確立し、水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の効果的な捕集を可能とし、精度の高い定量測定に大きく寄与することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2012-101159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、特に、水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析方法であって、揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を一斉に定量分析を可能とする水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、第1の発明は、水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量分析する分析方法であって、容器中に水試料が密封され、固相吸着剤が充填されたカラムが前記水試料中に浸漬されかつ一側に送液ポンプが接続されていて、前記水試料は該送液ポンプにより前記カラムを介して吸引されるとともに、前記カラムを通過した前記水試料は前記容器中に戻されて前記水試料が循環する循環工程と、前記循環工程が複数回繰り返されて前記固相吸着剤により前記水試料中の前記揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着される捕集工程と、前記捕集工程を経た前記カラムが前記容器内から取り出され、前記固相吸着剤により吸着された前記揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が有機溶媒により抽出されて測定される分析工程とを有することを特徴とする水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記固相吸着剤が活性炭吸着材である水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0018】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記カラムの形状がシリンジ型又はディスク型の固相カラムよりなる水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量分析する分析方法であって、容器中に水試料が密封され、固相吸着剤が充填されたカラムが前記水試料中に浸漬されかつ一側に送液ポンプが接続されていて、前記水試料は該送液ポンプにより前記カラムを介して吸引されるとともに、前記カラムを通過した前記水試料は前記容器中に戻されて前記水試料が循環する循環工程と、前記循環工程が複数回繰り返されて前記固相吸着剤により前記水試料中の前記揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が吸着される捕集工程と、前記捕集工程を経た前記カラムが前記容器内から取り出され、前記固相吸着剤により吸着された前記揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が有機溶媒により抽出されて測定される分析工程とを有することから、現在において確立されていない水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一斉定量測定を可能とするとともに、該化合物を効率的に捕集することができ、定量分析の精度の向上を図ることができる。
【0020】
第2の発明に係る水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第1の発明において、前記固相吸着剤が活性炭吸着材であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく脱離可能に捕集することができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0021】
第3の発明に係る水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第1又は2の発明において、前記カラムの形状がシリンジ型又はディスク型の固相カラムよりなるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率を高めつつ、良好なハンドリング性を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に用いられる捕集装置の概念図である。
図2】ディスク型固相カラムを示す概要図である。
図3図2のディスク型固相カラムの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析方法において用いられる固相吸着剤としての活性炭は、水試料中に存在する、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭である。
【0024】
当該分析方法の測定精度は、用いられる固相吸着剤としての活性炭のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能に大きく依存する。このため、本発明の分析方法に用いられる活性炭には、該化合物の良好な吸着性能が要求される。
【0025】
活性炭は、図2及び図3に示されるようなディスク型固相カラム10に収容されるのがよい。該固相カラムに活性炭フィルター部20が収容されることで、該固相カラムを取り外してすぐに分析が可能となる。活性炭フィルター部20は、図3に示されるような、例えばフェルト状フィルター部21に形成されたりすると取り回しがよい。また、着脱が容易であるため、交換が容易であり連続使用が可能で取り回しがよい。
【0026】
活性炭は、繊維状活性炭又は粒状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。
【0027】
粒状活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。
【0028】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0029】
こうして出来上がる活性炭の物性により、被吸着物質の吸着性能が規定される。本願発明の目的被吸着物質であるペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着する活性炭の吸着性能は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標となる比表面積により規定される。なお、本明細書中、各試作例の比表面積はBET法(Brunauer,Emmett及びTeller法)による測定である。固相吸着剤としての活性炭の吸脱着性能が高いほど、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析の精度は向上する。
【0030】
活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着材の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分子を効果的にかつ脱離可能に吸着することである。
【0031】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、比表面積を900m2/g以上とすることにより発揮される。活性炭の細孔が一定以上形成されることにより、該化合物の吸着性能が確保される。
【0032】
本発明における水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析手法は、現場吸着法(インサイチュ(In situ)法)を応用した分析方法である。現場吸着法とは、サンプラー等の捕集装置を分析対象媒体の中に存在させ、吸着材等の捕集材に保持させるという概念である。現場吸着法の特徴は、環境水(河川水・湖沼水・海水)のサンプリング時、研究室等への輸送時等におけるコンタミネーションのリスクや濃度変化及び化学物質の変質のリスクを低減させるために、サンプリング現場で固相吸着材への捕集、必要に応じて抽出作業までを行うことであって、固相吸着材による確実な捕集が求められる。現場吸着法における対象物質の捕集は、ワンパス式又は循環式で行われ、対象物質が効率的に捕集される方法が選択される。どちらの捕集方法であっても、必要とされる感度や吸着量のために数時間単位で捕集操作が行われる。
【0033】
なお、固相抽出法における固相吸着剤への通液操作は、通常1滴/秒(1drop/second)の通液速度で行われ、これ以上に通液速度を速めると固相吸着材の捕集性能が低下するおそれがある。一方、これ以上通液速度を遅くすると、測定対象が数百ml~数lの水試料の場合には、通液にかかる時間が著しく長くなるため好ましくない。
【0034】
本発明の分析方法においては、図1に示す本発明の分析方法に用いられる捕集装置1の概要図に示されるように、水試料Wを容器Cに収容して密封状態とし、固相吸着剤Aである活性炭を充填したカラムSを浸漬させ、浸漬させたカラムSの一方から送液ポンプPにより水試料Wを吸引して該カラムS内に水試料Wを通液させ、通液した水試料Wを密閉された容器Cに戻す。この作業を繰り返してカラムS内を何度も水試料Wが通液されるのである。図中矢印方向に液体が移動する。固相吸着剤に吸着された測定対象であるペル及びポリフルオロアルキル化合物は、溶媒により固相吸着剤より脱離させて測定し分析する手法である。なお、容器C中には可能な限り気相が少なくなるように調整されるのがよい。図中の符号Tは、カラムSと送液ポンプPを接続するとともに、送液ポンプPから容器C内に水試料Wを戻すために接続されるチューブを示す。
【0035】
本発明の分析方法においては、測定対象であるペル及びポリフルオロアルキル化合物が存在する水試料を密封することから、気相への分配の懸念が少なく、揮発性ないし不揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物を包括的に一斉分析が可能となる。水試料は、2~20ml/min程度の流量で10~30時間循環されるのがよい。流量が小さすぎると水試料の時間当たりの循環数が減って対象物質の吸着効率が悪くなるおそれがあり、流量が大きすぎると水試料と固相吸着剤との接触時間が短くなるおそれがある。また、循環操作を行う時間においては、短すぎると水試料が十分に固相吸着剤に接触できず、ペル及びポリフルオロアルキル化合物が固相吸着剤に吸着されきれずに残存してしまうことがあるため、一定時間以上循環操作を行う必要がある。循環時間は流量や水試料の温度によるものの、20時間前後行うのが良いと考えられる。
【0036】
従来の固相抽出法では、固相吸着剤の充填量にも依存するものの、空塔速度が100h-1以下で設定されることはなく、固相吸着剤との接触時間が短いため、固相吸着剤に活性炭を用いた場合には吸着に必要な時間が不十分であると考えられる。このことから、水試料から揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の気相への分配の抑制及び固相吸着剤への十分な接触時間の確保を鑑み、現場吸着法(インサイチュ(In situ)法)を応用した揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集及び分析を検討することとしたのである。
【0037】
水試料中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物は、例えば、前掲のFTOHやPFOS、PFOA等が挙げられる。
【0038】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、固相吸着剤により吸着される。固相吸着剤は、前記した活性炭の他に、ポリマー系吸着剤等を用いることができる。
【0039】
ポリマー系吸着剤は、例えば、スチレンジビニルベンゼン共重合体等が挙げられ、主に極性溶媒から疎水性の成分を分離する際に使用される逆相系固相吸着剤である。活性炭と同様に多孔質構造であり、主な相互作用として分子間力(ファンデルワールス力)の働きにより、疎水性成分を吸着する。
【0040】
固相吸着剤により吸着されたペル及びポリフルオロアルキル化合物は、有機溶媒により抽出されて測定される。有機溶媒は、例えば、ジクロロメタンや酢酸エチル、メタノール又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【実施例
【0041】
〔水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定〕
次に、発明者らは下記の固相吸着剤を用いて本発明の分析方法による水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を目的とした分析実験を行った。
【0042】
[固相吸着剤]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための固相吸着剤として、下記の活性炭を使用した。
【0043】
<活性炭>
繊維状活性炭「GAIAC(登録商標)」(フタムラ化学株式会社製)90mgをPP製ディスク型固相カラムに充填した。なお、活性炭の物性は以下のとおりである。
表面酸化物量:0.48(meq/g)
BET比表面積:1474(m2/g)
平均細孔直径:1.64(nm)
【0044】
[水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回は不揮発性ペルフルオロアルキルであるPFBS(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブタン-1-スルホン酸)、PFHxS(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,-トリデカフルオロヘキサン-1-スルホン酸)、PFHpS(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,7,7,7-ペンタデカフルオロヘプタン-1-スルホン酸)、PFOS、PFDS(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘンイコサフルオロデカン-1-スルホン酸)、PFBA(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタン酸)、PFPeA(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタン酸)、PFHxA(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサン酸)、PFHpA(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-トリデカフルオロオクタン酸)、PFOA、PFNA(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-ヘプタデカフルオロノナン酸)、PFDA(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ノナデカフルオロデカン酸)、及び揮発性ポリフルオロアルキルである4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)である。
【0045】
PFBS、PFHxS、PFHpS、PFOS、PFDSは以下の化学式(iii)からなり、炭素の数が4~10の化合物である。PFBA、PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFOA、PFNA、PFDAは、以下の化学式(iv)からなり、炭素の数が3~9の化合物である。
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
超純水及び市販のミネラルウォーターをそれぞれ500mlいれたPPボトル容器に、不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物をメタノールで10ng/ml(10ppb)に希釈した標準溶液を100μl、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物をメタノールで100ng/ml(100ppb)に希釈した標準溶液200μlを添加し、水試料を作成した。各標準試薬はいずれも株式会社ウェリントン ラボラトリーズ ジャパン製のものを使用した。超純水を用いたものを試験例1、ミネラルウォーターを用いたものを試験例2とする。
【0049】
上記したディスク型固相カラムを2個直列に接続し、出口側に内径2.15mm、外径4.2mmのタイゴンチューブを接続した。該チューブをカセットチューブポンプ(アズワン株式会社製)に接続し、捕集装置とした。水試料を封入した容器のふたには直径4.2mmの穴を2か所設け、該チューブを通して循環工程時の密封性を確保した。固相カラムの入口側(一次側)を容器の底部側とし、出口側(二次側)を容器上部に配置した。カラムを通過した水試料が容器内に戻る際には、容器上部側から水面に滴下するようにチューブの先端を配置した。
【0050】
通液速度を11ml/minとし、18時間循環させて循環工程ないしは捕集工程を行った。この捕集工程の後、ディスク型固相カラムを容器から取り出し、アスピレーターを用いて約15秒間吸引脱水を行った。
【0051】
脱水後のディスク型固相カラムをマニフォールドに接続し、メタノール1ml、酢酸エチル4ml、ジクロロメタン6mlをそれぞれ1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、抽出液1を採取した。さらに、該抽出操作後のディスク型固相カラムに再度メタノール4mlを1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、抽出液2を採取した。なお、直列につないだディスク型固相カラムはそれぞれ個々に抽出操作を行った。抽出液1は、3000rpmで3分間遠心分離し、有機溶媒層と水層に分離させ、紙ワイパーを用いて水層を除去した。
【0052】
抽出液1及び抽出液2を約25℃に設定し、窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮定容し、抽出液1の濃縮液1と抽出液2の濃縮液2を得た。なお、気化熱による温度低下によって水層が再度分離した際は、紙ワイパーを用いて水層を除去した。
【0053】
抽出液1の濃縮液1を0.5ml分取し、メタノールを2ml加えて約25℃に設定し、窒素吹き付け濃縮装置により0.5mlまで濃縮定容して抽出液1の濃縮液3を得た。
【0054】
濃縮液1及び濃縮液2をGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所社製)を用いてMRMモードで揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を行い、分析結果を確認した。さらに、濃縮液2及び濃縮液3をLC-MS/MS(「Triple Quad 4500」、ABSCIEX社製)を用いて不揮発性ペルフルオロアルキル化合物を測定した。
【0055】
<比較例>
比較例として、固相吸着剤及びディスク型固相カラムを同一とした固相抽出法による分析実験を行った。
【0056】
各標準物質をメタノールで100ng/ml(100ppb)に希釈した標準溶液100μlを超純水100mlに添加し、100ng/l(100ppt)の水試料を作成した。固相吸着剤の前洗浄としてジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒15mlを1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、続いてメタノール5ml、超純水15mlの順で同様に通液した。
【0057】
調製した水試料100mlを1滴/秒(1drop/second)の速度で固相カラムに通液した後、水試料を調製した容器に5mlの超純水を加えて通液し、容器内に残存する対象成分を洗いこんだ。通液後、固相カラム内の水分を遠心分離(3500rpm、30分間)により除去した。
【0058】
遠心分離後、メタノール溶液4mlを容器内に加えて内壁に残存した対象物質を洗いこみ、1滴/秒(1drop/second)の速度で脱水後のディスク型固相カラムに通液させて抽出液Aを採取した。さらに、ジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒15mLを同様に通液させることで抽出液Bを採取した。採取した抽出液A及び抽出液Bを窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した。濃縮後、抽出液Aには芒硝(Na2SO4)を50mg加えることで混入した水を除去した。該抽出液A及び抽出液BをGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、分析結果を確認した。
【0059】
表1及び表2に、試験例1、試験例2及び比較例1の各分析実験における対象物質ごとの回収率(%)を示した。不揮発性の対象物質は、ネイティブ標準試薬としてPFBS、PFHxS、PFHpS、PFOS、PFDS、PFBA、PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFOA、PFNA、PFDAを使用し、サロゲート標準試薬として133-PFBS、133-PFHxS、138-PFOS、134-PFBA、135-PFPeA、135-PFHxA、134-PFHpA、138-PFOA、135-PFNA、136-PFDAを使用し表1に結果を示した。また、揮発性の対象物質は、ネイティブ標準試薬として4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOH、10:2FTOH、サロゲート標準試薬としてd4-4:2FTOH、d2132-6:2FTOH、d2132-8:2FTOH、d2132-10:2FTOHを使用し表2に結果を示した。なお、表中「-」は実験不実施である。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
[結果と考察]
本発明の分析方法に係る試験例1及び試験例2は、固相抽出法の比較例よりも水試料中の不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の回収率は良好であり、揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物についても高い回収率を示した。本発明の分析方法は、水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を一斉に定量測定する分析方法として優れていることが示された。
【0063】
比較例においては、いずれの揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の回収率も50%以下であり、十分な回収率が得られないことが示された。これに対し、同一の固相吸着剤を用いた試験例1及び試験例2において、いずれの対象物質においても回収率が50%以上であって良好に対象物質の回収が可能であることが示された。
【0064】
比較例における固相抽出法は、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相へ分配している可能性があること、また1滴/秒(1drop/second)の速度での1パス通液では固相吸着剤と水試料の接触が不十分であり対象物質の吸着に必要な時間が確保できていないと考えられることから、揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一斉の定量分析には不向きであることが理解される。
【0065】
これに対して、本発明の分析方法にあっては、水試料を密封容器内において繰り返し固相吸着剤に接触させて対象物質を吸着せしめるため、揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の気相への分配を抑制しつつ、循環試行により対象物質の吸着に必要な時間を確保することができると考えられるため、揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を一括して包括的に捕集することができ、一斉の定量分析が可能になったと理解される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水試料中の揮発性ないし不揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法は、現在では難しいとされていた水試料中に存在する揮発性ないし不揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の一斉の定量測定を可能とした。
【符号の説明】
【0067】
1 捕集装置
10 ディスク型固相カラム
11 吸気開口部
12 本体部
20 活性炭フィルター部
21 フェルト状フィルター部
A 固相吸着剤
C 容器
P 送液ポンプ
S カラム
T チューブ
W 水試料
図1
図2
図3