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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】改良発酵食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20241216BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20241216BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20241216BHJP
   A23L 11/50 20210101ALN20241216BHJP
   A23C 9/13 20060101ALN20241216BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20241216BHJP
   A23L 19/00 20160101ALN20241216BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L29/00
A23D9/00 518
A23L11/50 209Z
A23L11/50 103
A23C9/13
A23L27/50 104Z
A23L19/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020048386
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021145602
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】引地 進
(72)【発明者】
【氏名】高木 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】本多 数充
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101157(JP,A)
【文献】特開2016-182076(JP,A)
【文献】特開2014-018086(JP,A)
【文献】特開2004-075653(JP,A)
【文献】特開2021-023294(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113115831(CN,A)
【文献】特開2017-212957(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076392(WO,A1)
【文献】特開2015-198586(JP,A)
【文献】MCTオイル&もろみ味噌で簡単スプレッド,クックパッド[online],2019年09月10日,Retrieved from the Internet:<URL: https://cookpad.com/recipe/5819600>, [2023年11月2日検索]
【文献】MCTオイルヨーグルトベリースムージー,クックパッド[online],2019年02月05日,Retrieved from the Internet:<URL: https://cookpad.com/recipe/5489478>, [2023年11月2日検索]
【文献】MCTオイルの相性抜群!納豆・豆腐の大豆パワーを活用しよう!,Cocoil[online],2018年03月22日,<URL: https://www.shozankan-shop.com/lab/?p=1781>,[2023年11月2日検索]
【文献】中鎖脂肪酸サロン,日清オイリオHP[online],2016年12月12日,<URL: https://web.archive.org/web/20161212083719/https://www.nisshin-mct.com/contents/page195.html>,[2023年11月27日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを有効
成分として含有する、発酵食品用発酵による不快臭改良剤であって、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみから構成されており、発酵食品が、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上であり、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が、前記発酵食品100質量部に対して0.5~15質量部で使用される、発酵食品用発酵による不快臭改良剤。
【請求項2】
味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上の発酵食品と、請求項1に記載の発酵食品用発酵による不快臭改良剤とを含有前記不快臭改良剤によって発酵による不快臭が抑制されて風味が改良された改良発酵食品であって、前記発酵食品100質量部に対して前記不快臭改良剤を0.5~15質量部含有する、前記改良発酵食品。
【請求項3】
発酵食品と、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとを、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が前記発酵食品1
00質量に対して0.5~15質量部となるように混合する工程を含む、発酵による不快臭が抑制された改良発酵食品の製造方法であって、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみから構成されており、発酵食品が、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上である、改良発酵食品の製造方法。
【請求項4】
発酵食品と、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとを、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が前記発酵食品1
00質量部に対して0.5~15質量部となるように混合する工程を含む、発酵食品の発酵による不快臭改良法であって、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみから構成されており、発酵食品が、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上である、発酵食品の発酵による不快臭改良法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味が改良された改良発酵食品に関する。詳しくは、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、良好な風味を有する改良発酵食品およびその製造方法に関する。本発明は、また、発酵食品の風味改良法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の食の健康に対する関心は益々高まっている。また、特に高齢者を中心に、毎日気軽に食べられる健康食品へのニーズが高まっている。
発酵食品は、微生物などの作用によって食材を発酵させることで加工した食品である。発酵によって、旨味の素となるグルタミン酸やイノシン酸ができるので、食品本来の味に加えて、独特の風味が加わり、より味わい深い食品となる。また、発酵によって有益な成分も増えるので、栄養価の高い食品となる。さらに、乳酸菌の働きで野菜などの糖分から乳酸が生成されるので、雑菌の繁殖が抑制され、保存性の高い食品となる。加えて、発酵食品には、生きた有用菌が多数含まれており、腸内環境の改善を通じて、健康に資する食品となる。最近では、発酵食品の中に大量に含まれるグルタミン酸やヒスチジンに、抗肥満機能があることもわかってきている。
また、発酵食品は、日本人の食生活にとっては古くから馴染みのある食品であるため、毎日飽きずに食べ続けられる食品の1つである。それに加えて、複数の発酵食品を組み合わせて食べることもできるので、食べる目的に合わせた健康食品を作ることも容易である。そのため、発酵食品は毎日気軽に食べられる健康食品の1つであるといえる。
【0003】
発酵食品の中には、大豆を原料とする大豆発酵食品がある。大豆には、イソフラボン、大豆オリゴ糖、サポニンなどの機能性成分が含まれている。ここで、大豆発酵食品の代表例としては、味噌、醤油、納豆などが挙げられる。また、発酵により、様々な機能性成分が生じることもわかっている。例えば、味噌や醤油では、その製造工程で生じるメラノイジンに抗酸化作用のあることが知られている。また、納豆では、ナットウキナーゼに血栓溶解作用が知られている。なお、味噌や醤油は有塩大豆発酵食品であるのに対し、納豆は無塩大豆発酵食品である。
一方、大豆発酵食品には、大豆に由来する豆臭、青臭み、渋味などがあり、また、発酵に由来する発酵臭などの課題があるため、大豆発酵食品は万人に向いている食品とは言い難いものがある。そこで、様々な食品添加物を利用して、大豆特有の豆臭、青臭み、渋味などを低減する研究が数多く行われている。例えば、特許文献1には、豆乳に、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを添加して、大豆特有の青臭みや渋味を低減する技術が提案されている。また、特許文献2には、大豆粉に、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを添加して、大豆特有の青臭みや渋味を低減する技術が提案されている。
しかしながら、これらの先行技術には、大豆を原料して発酵させた大豆発酵食品について、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを添加すると、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強され、良好な風味を有することになることは何ら具体的に記載されていない。
【0004】
また、発酵食品の中には、乳酸菌で発酵させた乳酸発酵食品がある。乳酸菌は広く自然界に存在し、様々な食品中にも分布している。乳酸発酵食品の代表例としては、ヨーグルト、チーズ、漬物、キムチ、味噌、醤油などが挙げられる。乳酸菌は、ヨーグルトにおいて、有害微生物の増殖を阻止し、ヨーグルトの安全性と保存性を高め、腸内環境の改善を通じて、健康に資する機能を果たしている。また、チーズでは、pHを低下させて乳タンパク質の凝集を助け、適度の酸味を付与する機能を果たしている。漬物やキムチでは、特有の風味を醸成し、保存性を付与する機能を果たしている。さらに、味噌や醤油では、乳酸菌が大豆などの原料臭をマスキングし、塩なれや色の冴えを良くする効果があるといわれている。
一方、乳酸発酵食品には、乳酸菌や乳酸発酵に由来する不快臭、異味、酸味などがあるため、万人に向いている食品とは言い難いものがある。そこで、様々な食品添加物を利用して、乳酸菌や乳酸発酵に由来する不快臭、異味、酸味を低減する研究が数多く行われている。例えば、特許文献3には、乳酸菌含有飲料における乳酸菌由来の異味のマスキング剤であって、カルシウムおよび/またはマグネシウムを有効成分とする異味マスキング剤が提案されている。
しかしながら、これらの先行技術には、乳酸菌で発酵させた乳酸発酵食品に対して、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを添加すると、乳酸菌や乳酸発酵に由来する不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味も増強された、良好な風味を有することになることは何ら具体的に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/072570号
【文献】国際公開第2015/129107号
【文献】特開2017-209090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、良好な風味を有する改良発酵食品及びその製造方法、並びに、発酵食品の風味改良法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、発酵食品に対し様々な油脂を添加して、発酵による不快臭や酸味などが抑制されるかどうかについて鋭意研究を行ったところ、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを特定量配合することにより、本課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。また、発酵による旨味が増強されることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の態様であり得る。
【0008】
[1]構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを有効成分として含有する発酵食品用発酵による不快臭改良剤であって、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみから構成されており、発酵食品が、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上であり、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が、前記発酵食品100質量部に対して0.5~15質量部で使用される、発酵食品用発酵による不快臭改良剤
[2]発酵食品と、請求項1に記載の発酵食品用発酵による不快臭改良剤とを含有する、風味が改良された改良発酵食品であって、前記発酵食品100質量部に対して前記不快臭改良剤を0.5~15質量部含有する、前記改良発酵食品
[3]発酵食品と、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとを、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が前記発酵食品100質量に対して0.5~15質量部となるように混合する工程を含む、発酵による不快臭が抑制された改良発酵食品の製造方法であって、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみから構成されており、発酵食品が、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上である、改良発酵食品の製造方法
[4]発酵食品と、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとを、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が前記発酵食品100質量部に対して0.5~15質量部となるように混合する工程を含む、発酵食品の発酵による不快臭改良法であって、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみから構成されており、発酵食品が、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上である、発酵食品の発酵による不快臭改良法
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発酵食品に、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを特定量含有させることにより、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、風味の良い改良発酵食品を誰でも簡単に製造することができる。本発明の改良発酵食品は、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、良好な風味を有するため、従来の発酵食品では満足できなかった人々の需要を満足することができる。特に、これまで発酵食品を苦手としていた消費者でも食べられるものとなるので、需要の拡大が期待できる。また、中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含むため、高齢者や運動における効果的なエネルギー補給用の健康食品として、又は中鎖脂肪酸の生理効果を発揮するための健康食品として、毎日気軽に食べられるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[発酵食品用風味改良剤]
本発明の一態様は、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを有効成分とする、発酵食品用風味改良剤である。以下、当該風味改良剤について説明する。なお、この風味改良剤は、発酵食品の風味を改良するものであり、例えば、発酵による不快臭や酸味などを抑制するため、発酵による旨味を増強するために使用できるものである。
【0011】
[構成脂肪酸]
本発明の発酵食品用風味改良剤は、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール(即ち、油脂)を含有する。当該中鎖脂肪酸の炭素数は、より好ましくは8~12、さらに好ましくは、8及び/又は10の組み合わせであることが適当である。当該トリアシルグリセロールは、構成脂肪酸を炭素数6~12、より好ましくは8~12、さらに好ましくは、8及び/又は10等の中鎖脂肪酸のみとするトリアシルグリセロールであってもよい。さらに、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸と他の脂肪酸を含む混酸基トリアシルグリセロールであってもよい。ここで、各々の中鎖脂肪酸のグリセリンへの結合位置は、特に限定されない。また、混酸基トリアシルグリセロールである場合には、構成脂肪酸の一部に炭素数6~12以外の脂肪酸を含んでいてもよく、例えば、炭素数が14以上の長鎖脂肪酸を含んでいてもよい。
また、本発明において用いられる中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールは、例えば、トリオクタノイルグリセロールとトリデカノイルグリセロールとの混合物等、複数の異なる分子種の油脂が混ざり合った混合物であってもよいし、液体状、固体状、または粉末体状など、その形態は問わない。ここで、炭素数6~12の中鎖脂肪酸は、直鎖状の飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0012】
本発明で使用され得る中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとしては、構成脂肪酸が炭素数6~12の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロール(以下「MCT」とも表す。)が好ましく、特に、構成脂肪酸が炭素数8及び/又は10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールがより好ましい。
本発明で使用され得る中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールは、従来公知の方法で製造できる。例えば、炭素数6~12の脂肪酸とグリセロールとを、触媒下、好ましくは無触媒下で、また、好ましくは減圧下で、50~250℃、より好ましくは120~180℃に加熱し、脱水縮合させることにより製造できる。
ここで、触媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、通常のエステル交換に用いられる酸触媒又は塩基触媒等を使用することができる。減圧下とは、例えば、0.01~100Pa、好ましくは、0.05~75Pa、より好ましくは、0.1~50Paである。このとき系内の水分は少ない方が好ましく、更に好ましくは0.2重量%以下である。
【0013】
本発明の発酵食品用風味改良剤は、有効成分であると上述した炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含有したものであればよく、この他に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分、すなわち、例えば、大豆油、菜種油などの油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、他の品質改良剤等を含有させたものであってもよい。
【0014】
[改良発酵食品]
本発明の好ましい態様は、発酵食品と、上記発酵食品用風味改良剤とを含有することを特徴とする、風味が改良された改良発酵食品を含む。
本発明において「発酵食品」とは、微生物などの作用によって食材を発酵させることで加工した食品を意味する。発酵食品には、穀物加工品(納豆、味噌、醤油など)、魚介類加工品(鰹節、塩辛など)、野菜果実加工品(漬物、キムチなど)、酪農製品(ヨーグルト、チーズ)、酒類(日本酒、ワイン、ビールなど)、茶類(紅茶、ウーロン茶など)など、様々なものがあるが、本発明の発酵食品としては、大豆発酵食品または乳酸発酵食品が好ましい。より具体的な好ましい例としては、味噌、醤油、納豆、ヨーグルト、チーズ、漬物、及びキムチからなる群から選ばれる1種または2種以上を挙げることができる。さらに好ましい例としては、味噌、醤油、及び納豆からなる群から選ばれる1種または2種以上を挙げることができる。
【0015】
本発明の改良発酵食品は、上記発酵食品と、上記発酵食品用風味改良剤とを含有する。特に、発酵食品用風味改良剤中に含有する炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールが、前記発酵食品100質量部に対して、例えば、0.5~15質量部であることが適当である。そこで、本発明の改良発酵食品に含まれる前記トリアシルグリセロール含量は、前記発酵食品100質量部に対して、好ましくは1~10質量部であり、より好ましくは1~8質量部であり、さらに好ましくは1.5~7質量部である。なお、20質量部を超えると、発酵食品に対する油脂の量が多すぎて、喫食に適さなくなる可能性がある。
そして、改良発酵食品に含まれる炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含量が上記範囲内にあると、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、風味の良好な改良発酵食品が得られるので好ましい。なお、本発明においては、上述した0.5質量部未満の含量であっても、発酵による不快臭や酸味などの抑制効果はある程度期待できると思われる。
【0016】
本発明の改良発酵食品は、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを好適な量で含む限り、他のどのような油脂原料をさらに含有していてもよい。例えば、本発明の改良発酵食品は、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ココアバター等やこれらの混合油、加工油脂等をさらに含有することができる。
【0017】
本発明の改良発酵食品は、上記トリアシルグリセロール以外にも、発酵食品に一般的に配合される原材料を含有することができる。具体的には、例えば、糖類、甘味料、酸味料、塩類、ミネラル、安定剤、pH調整剤、増粘多糖類、乳化剤、香料、フレーバー、着色料等を含有することができる。
【0018】
[改良発酵食品の製造方法]
以下、本発明の改良発酵食品の製造方法について順を追って記述する。
本発明の改良発酵食品の製造方法は、上述したような発酵食品を原料とし、該発酵食品と、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとを、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が前記発酵食品100質量部に対して0.5~15質量部となるように混合する工程を含む。
ここで、原料となる発酵食品、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール、当該中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量の定義や好ましい範囲については、上述したとおりである。
本発明の発酵食品と炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとの混合は、従来から公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、従来公知の方法で発酵食品を用意する。そして、この発酵食品に、上記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを添加し、例えば、両者を良く撹拌混合して、前記トリアシルグリセロールがよく分散された状態の発酵食品を製造する方法が挙げられる。前記のよく分散された状態が乳化された状態であってもよい。ここで、混合の温度は、常温(25℃)程度であってよく、前記撹拌混合には、通常の撹拌などで使用されるミキサーなどを用いてもよいし、箸やスプーンを用い、手でよく撹拌混合してもよい。
【0019】
[発酵食品の風味改良法]
ところで、以上述べたように、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを発酵食品に添加すると、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、良好な風味を有する発酵食品に改変できることから、本発明は、発酵食品と、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとを、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量が前記発酵食品100質量部に対して0.5~15質量部となるように混合する工程を含む、発酵食品の風味改良法にも関する。以下に示すように、本発明の発酵食品用風味改良剤を改良発酵食品の製造に用いることにより、従来の発酵食品を、発酵による不快臭や酸味などが抑制され、発酵による旨味が増強された、良好な風味を有するものへと改良することができる。ここで、上記原料として用いられる発酵食品、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール、当該中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの含有量の定義や好ましい範囲については、上述したとおりである。
【実施例
【0020】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0021】
油脂のトリアシルグリセロール組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS、vol70、11、1111-1114(1993)準拠)を用いて行った。
油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)を用いて行った。
【0022】
<原料油脂>
〔MCT〕:トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸が、オクタン酸(炭素数8)とデカン酸(炭素数10)であり、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸の割合(質量比)がオクタン酸:デカン酸=75:25である炭素数8及び10の中鎖脂肪酸のみから構成されているトリアシルグリセロール(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「O.D.O」)をMCTとした。
〔キャノーラ油〕:トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸が、パルミチン酸(炭素数16)、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)及びその他であり、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸の割合(質量比)がパルミチン酸:オレイン酸:リノール酸:その他=約4:61:20:15であるキャノーラ油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「日清キャノーラ油」)をキャノーラ油として用いた。
【0023】
<原料発酵食品>
〔味噌〕:マルサンアイ株式会社製、商品名「純正こうじみそ」
〔醤油〕:キッコーマン株式会社製、商品名「いつでも新鮮しぼりたて生しょうゆ」
〔納豆〕:タカノフーズ株式会社製、商品名「極小粒ミニ3」
〔ヨーグルト〕:株式会社明治製、商品名「明治ブルガリアヨーグルト」
〔キムチ〕:株式会社美山製、商品名「イチオシ焼き肉屋の味キムチ」
【0024】
[実施例1~5]
上記原料発酵食品を試験管内に50gとなるように分注した。そして、試験管内に上記MCTを、上記原料発酵食品100質量部に対して0質量部(対照)、1質量部、10質量部、20質量部となるように添加した。この混合物をスプーンで良く撹拌混合して、試験用発酵食品を製造した。なお、分離しやすいものは、撹拌混合後すぐに喫食した。
なお、実施例1は味噌、実施例2は醤油、実施例3は納豆、実施例4はヨーグルト、実施例5はキムチである。
【0025】
[比較例1~5]
上記発酵食品を試験管内に50gとなるように分注した。そして、試験管内に上記キャノーラ油を、上記発酵食品100質量部に対して0質量部(対照)、1質量部、10質量部、20質量部となるように添加した。この混合物をスプーンで良く撹拌混合して、試験用発酵食品を製造した。なお、分離しやすいものは、撹拌混合後すぐに喫食した。
なお、比較例1~5は、実施例1~5と同様である。
【0026】
[官能評価]
上記で得られた試験用発酵食品(室温:25℃)について、社内規定の味覚テスト及び嗅覚テスト(第一薬品産業(株)製のパネル選定用基準臭を使用)に合格した5名のパネラーによる官能評価を行った。その結果を表1~10に示す。なお、評価は、上記MCT又はキャノーラ油が0質量部であるものを対照として行い、評点の多い方が良好であることを示す。また、評点は、パネラー5名の平均値を示す。
・発酵食品が味噌(表1~2)である場合は、不快臭、塩味、旨味を3点法で評価し、風味を5点法で総合評価した。
・発酵食品が醤油(表3~4)である場合は、不快臭、塩味、旨味を3点法で評価し、風味を5点法で総合評価した。
・発酵食品が納豆(表5~6)である場合は、不快臭、異味(苦味、エグ味)、旨味を3点法で評価し、風味を5点法で総合評価した。
・発酵食品がヨーグルト(表7~8)である場合は、不快臭、酸味、旨味を3点法で評価し、風味を5点法で総合評価した。
・発酵食品がキムチ(表9~10)である場合は、不快臭、酸味、旨味を3点法で評価し、風味を5点法で総合評価した。
<不快臭の場合>
3点:対照品よりも不快臭が抑えられて良い
2点:対照品(原料発酵食品)と同等
1点:対照品よりも不快臭が感じられて悪い
<塩味、異味、酸味の場合>
3点:対照品よりも塩味、異味、酸味が抑えられて良い
2点:対照品(原料発酵食品)と同等
1点:対照品よりも塩味、異味、酸味が感じられて悪い
<旨味の場合>
3点:対照品よりも旨味が増強されて良い
2点:対照品(原料発酵食品)と同等
1点:対照品よりも旨味が減退しており悪い
<総合評価(風味)の場合>
5点:対照品よりも良好な風味が増しておりおいしい
4点:対照品よりもやや良好な風味が増している
3点:対照品(原料発酵食品)と同等
2点:対照品よりもやや不良な風味が生じている
1点:対照品よりも不良な風味が生じておりおいしくない
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
【表8】
【0035】
【表9】
【0036】
【表10】
【0037】
上記表1及び表2の結果から明らかであるように、MCTを添加した改良味噌では、キャノーラ油を添加した味噌に比べて、不快臭(味噌臭さ)が抑制されたものとなった。また、MCTを添加した改良味噌は、塩味のカドが取れており、旨味が増強され、全体としてマイルドで良好な風味となっていた。一方、キャノーラ油を添加した味噌は、塩味のカドがとれておらず、対照品よりも塩味が感じやすく感じられた。
このように、改良味噌では、発酵による不快臭が抑制され、塩味が抑えられて、旨味が増強された、良好な風味の味噌となっていた。
【0038】
また、上記表3及び表4の結果から明らかであるように、MCTを添加した改良醤油は、キャノーラ油を添加した味噌に比べて、不快臭(醤油臭さ)がやや抑制されたものとなった。また、MCTを添加した改良醤油は、醤油本来の味を損なわずに、塩味のカドが取れており、旨味がやや増強されているように感じられた。また、全体としてマイルドで良好な風味が感じられた。一方、キャノーラ油を添加した醤油は、塩味のカドがとれておらず、やや塩味が強く感じられた。ただし、味噌の場合と比べると、キャノーラ油は醤油の場合に相性が良いように感じられた。
このように、改良醤油では、発酵による不快臭が抑制され、塩味が抑えられて、旨味が増強された、良好な風味の醤油となっていた。
【0039】
また、上記表5及び表6の結果から明らかであるように、MCTを添加した改良納豆は、キャノーラ油を添加した納豆に比べて、不快臭(納豆臭)が抑制されたものとなった。また、MCTを添加した改良納豆は、キャノーラ油を添加した納豆に比べて、大豆に由来する苦味やエグ味(以下、これらを総称して「異味」という)が減っていた。
このように、改良納豆では、不快臭が抑制され、異味が抑えられて、その結果として、旨味が増強された、良好な風味の納豆となっていた。
なお、納豆に油脂を加えた場合、油脂が離型剤となって、かき混ぜてもあまり納豆の糸が立たず、塊となって食べやすいという効果が得られた。また、納豆を入れた容器に、納豆の残りがこびりつかないので、容器の洗浄が楽になるという効果も確認された。
【0040】
また、上記表7及び表8の結果から明らかであるように、MCTを添加した改良ヨーグルトは、キャノーラ油を添加したヨーグルトに比べて、ヨーグルトに由来する不快臭(乳臭)が抑制されていた。また、MCTを添加した改良ヨーグルトは、キャノーラ油を添加したヨーグルトに比べて、ヨーグルトに由来する酸味を程よくマスキングしていた。さらに、MCTを添加した改良ヨーグルトは、キャノーラ油を添加したヨーグルトに比べて、クリームのような濃厚さが強く感じられ、旨味が増強されていた。このような旨味の増強はMCT濃度が低くても感じられた。
このように、改良ヨーグルトでは、不快臭が抑制され、余分な酸味が抑えられて、クリームのような濃厚さの旨味が増強され、良好な風味のヨーグルトとなっていた。
【0041】
また、上記表9及び表10の結果から明らかであるように、MCTを添加した改良キムチは、キャノーラ油を添加したキムチに比べて、キムチに由来する不快臭(キムチ臭)が抑制されていた。そして、野菜に由来する青臭さもやや抑制されているように感じられた。また、MCTを添加した改良キムチは、キャノーラ油を添加したキムチに比べて、過度に酸味が抑制されており、唐辛子に由来する辛味のカドもとれており、旨味が増強されているように感じられた。
このように、改良キムチでは、発酵による不快臭が抑制され、過度な酸味や辛味も抑えられて、キムチ本来の旨味が感じられ、よりマイルドで良好な風味のキムチになっていた。
なお、改良キムチは、不快な臭いも少なく、辛味も適度に緩和されているので、キムチが苦手な人でも食べられると思われる。また、キムチを食べた後の口臭が少なくなることも期待できる。
【0042】
以上まとめると、発酵食品に、構成脂肪酸として炭素数6~12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを適量加えると、不快な原料臭や発酵臭などを抑制し、旨味を増強することができる。また、発酵に由来する酸味や異味などを抑制し、塩味や辛味などのカドをとるので、発酵食品本来の旨味が一層感じられやすくなることがわかった。その結果、従来の発酵食品よりも良好な風味を有する改良発酵食品が得られた。