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特許7604110セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/00 20060101AFI20241216BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20241216BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20241216BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20241216BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241216BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20241216BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C04B7/00
C04B7/38
C04B18/10 A
C04B18/08 Z
C04B22/14 B
C04B14/28
C04B22/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020064850
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160992
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】長井 正明
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/077251(WO,A1)
【文献】特開2017-154905(JP,A)
【文献】特開2019-196276(JP,A)
【文献】特表平10-504511(JP,A)
【文献】特開2017-065963(JP,A)
【文献】特開2012-201532(JP,A)
【文献】参納千夏男,北陸地方におけるフライアッシュコンクリートの利活用を目的としたフライアッシュの品質保証と地域実装,コンクリート工学年次論文集,日本,2019年,Vol. 41, No. 1,P. 233-238
【文献】山本 武志,フライアッシュのポゾラン反応に伴う組織緻密化と強度発現メカニズムの実験的考察,土木学会論文集E,日本,2007年,Vol. 63, No. 1,P. 52-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bogue式によって算出されるCA量が9.5~14.0質量%であるセメントクリンカーと、
石膏と、
石炭灰及び石灰石を含む混合材と、を含有し、
前記石炭灰のブレーン比表面積が4100~10000cm/gであり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計の含有量を100質量%とする、
前記混合材の含有量が17.5~32.5質量%であり、
前記石炭灰の含有量が7.518.0質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が10.022.0質量%である、セメント組成物。
【請求項2】
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計の含有量を100質量%とする前記石膏の含有量がSO換算で0.5~3.5質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記セメントクリンカーは、Bogue式によって算出されるCS量が35.0~65.0質量%である、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記石炭灰は、4μm残分が40~85体積%であり、且つ32μm残分が0~20.0体積%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
硬化促進剤を更に含有し、
前記硬化促進剤の含有量が、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量100質量部に対して、0.1~20質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
Bogue式によって算出されるCA量が9.5~14.0質量%であるセメントクリンカー、石膏、及び、ブレーン比表面積4100~10000cm/gである石炭灰と、石灰石とを含む混合材を混合する工程を備え、
前記工程において、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計の含有量を100質量%として、前記石炭灰の含有量が7.518.0質量%となり、前記石灰石の含有量が10.022.0質量%となり、且つ前記混合材の含有量が17.5~32.5質量%となるように、前記セメントクリンカー、前記石膏、前記石炭灰及び前記石灰石を混合する、セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海外の高温地域では、セメント組成物の硬化時における温度上昇に起因する遅延エトリンガイト形成(DEF)の発生が問題となっている。DEFとは、以下のようなエトリンガイトの再生成現象のことをいう。まず、初期の高温養生及びセメント組成物の発熱によって、コンクリート内部の温度が著しく上昇することで、本来初期に生成するべきエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HOで表される化合物)の分解が発生する。その後、コンクリートの供用中に水分が供給されることによって、エトリンガイトが再生成する現象が生じる。エトリンガイトの再生成に伴い硬化体組織に膨張が生じるため、コンクリートにひび割れ等の深刻な劣化を引き起こしている。
【0003】
DEFを低減するために、例えば、硬化体組織を緻密化しコンクリートの供用時における硬化体内部への水分供給を抑制してエトリンガイトの再生成を抑制する、エトリンガイト形成の原料となるセメント組成物中のSOの含有量を低減させる、及び、セメント組成物の硬化に伴う発熱による最高到達温度を下げ(断熱温度上昇を抑制し)エトリンガイトの分解を抑制する等の方法が有効とされている。
【0004】
高温地域では流動性改善や耐久性改善のため、セメント(セメントクリンカー及び石膏の混合物)に石炭灰が混和されることが多い。セメントの一部を石炭灰に置き換えることで、セメント組成物中のSOの含有量の低減や硬化体組織の緻密化などが生じ、DEFの抑制効果も期待される。しかし、セメント組成物中への石炭灰の添加が10質量%程度である場合、エトリンガイトの再生成に伴うセメント硬化体の膨張を抑制する効果は十分とはいえない(例えば、非特許文献1)。一方、セメント組成物中への石炭灰の添加が25質量%以上となると、DEFを生じやすい条件下であっても、セメント硬化体の膨張を抑制できるという結果が報告されている(例えば、非特許文献2)。つまり、DEF自体の抑制又はDEFに伴うセメント硬化体の膨張を抑制する観点からは石炭灰の配合が有効である。しかし、セメント組成物中における石炭灰の含有量を増大させた場合、一般にセメント組成物としての強度発現性が低いといった問題が生じ得る。
【0005】
セメントの原料であるセメントクリンカーは、その製造工程におけるCO排出量が多いことが知られている。地球温暖化防止の観点からは、今後、セメント組成物におけるセメントクリンカーの含有量を低下させるために、石炭灰等の混合材の含有量をさらに増加させることが望まれている。混合材としては石炭灰以外に、例えば、石灰石等も知られている。海外の高温地域でも、石灰石が混合材として配合されたセメント組成物が、Portland limestone Cementとして利用されている。CO排出量の削減の観点からは石灰石の配合が有効である。しかし、石灰石の添加はDEFを促進することが報告されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】池田隆徳他,「混和材による高温養生を行ったモルタルのDEF膨張の抑制効果」,コンクリート工学年次論文集,2008,Vol.30,No.1,p.135-140
【文献】浅本晋吾他,「遅延エトリンガイト生成に及ぼす炭酸イオンの影響に関する検討」,コンクリート工学年次論文集,2016,Vol.28,No.1,p.819-824
【文献】丸谷英二他,「少量サンプル用断熱熱量計によるセメントの品質管理手法の開発」,セメント・コンクリート論文集,2007,Vol.61,No.1,p.86-91
【文献】「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」,2016,公益社団法人 日本コンクリート学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート等のセメント硬化体におけるDEFの発生を評価するための室内試験では、DEFを誘発するために、あえて外部から熱を加えて、80℃以上の前養生が行われることが多い。しかし、屋外で調製される実際のマスコンクリート等を想定すると、セメント組成物の硬化に伴う発熱による熱がセメント硬化体中にこもりDEFを誘発することが考えられる。そこで、DEFが発生するリスクをより低減するためには、セメント組成物の断熱条件下での温度上昇を抑制することが望ましい。
【0008】
本開示は、CO排出量を従前よりも低減して製造することが可能であり、DEFに伴う膨張が抑制され、かつ十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、Bogue式によって算出されるCA量が8.0~14.0質量%であるセメントクリンカーと、石膏と、石炭灰及び石灰石を含む混合材と、を含有し、上記石炭灰のブレーン比表面積が3900~10000cm/gであり、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%とする、上記混合材の含有量が5.0~32.5質量%であり、上記石炭灰の含有量が2.5~30.0質量%であり、且つ上記石灰石の含有量が2.5~24.0質量%である、セメント組成物を提供する。
【0010】
上記セメント組成物は、所定のセメントクリンカーに対して、所定のブレーン比表面積を有する石炭灰と、石灰石とを所定量で含む混合材を、所定量で含有することによって、DEFに伴うセメント硬化体の膨張を抑制することができる。また上記セメント組成物は、所定のセメントクリンカーと組み合わせ、混合材の含有量を所定量とすることによって、混合材を使用しつつ、セメント硬化体の圧縮強さを十分なものとすることができる。
【0011】
上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%とする上記石膏の含有量が、SO換算で0.5~3.5質量%であってよい。石膏の含有量が上記範囲内であることによって、当該セメント組成物の硬化に伴うDEFの発生をより低減することができる。石膏の含有量が上記範囲内であることによってまた、当該セメント組成物を用いて調製されるセメント硬化体の圧縮強さを更に向上させることができる。
【0012】
上記セメントクリンカーは、Bogue式によって算出されるCS量が35.0~65.0質量%であってよい。セメントクリンカーにおけるCS量が上記範囲内であることによって、当該セメント組成物の硬化に伴うDEFの発生をより低減することができる。セメントクリンカーにおけるCS量が上記範囲内であることによって、当該セメント組成物を用いて調製されるセメント硬化体の圧縮強さを更に向上させることができる。
【0013】
上記石炭灰は、4μm残分が40~85体積%であり、かつ32μm残分が0~20.0体積%であってよい。石炭灰が上述のような粒度分布を有することによって、当該セメント組成物の硬化に伴うDEFの発生をより低減することができる。石炭灰が上述のような粒度分布を有することによって、当該セメント組成物を用いて調製されるセメント硬化体の圧縮強さを更に向上させることができる。さらに石炭灰が上述のような粒度分布を有することによって、セメント組成物の硬化に伴う断熱温度上昇の抑制が期待できる。
【0014】
上記セメント組成物は、硬化促進剤を更に含み、上記硬化促進剤の含有量が、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、0.1~20質量部であってよい。セメント組成物が硬化促進剤を上記範囲内となるように含有することで、当該セメント組成物を用いて調製されるセメント硬化体の初期材齢における圧縮強さをより向上させ、早期での脱型を可能にすることができる。これによって、適切なワーカビリティが得られる。
【0015】
本開示の一側面は、Bogue式によって算出されるCA量が8.0~14.0質量%であるセメントクリンカー、石膏、及び、ブレーン比表面積が3900~10000cm/gである石炭灰と、石灰石とを含む混合材を混合する工程を備え、上記工程において、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%として、上記石炭灰の含有量が2.5~30.0質量%となり、上記石灰石の含有量が2.5~24.0質量%となり、且つ、上記混合材の含有量が5.0~32.5質量%となるように、上記セメントクリンカー、上記石膏、上記石炭灰及び上記石灰石を混合する、セメント組成物の製造方法を提供する。
【0016】
上記セメント組成物の製造方法は、所定のセメントクリンカーに対して、石炭灰及び石灰石を含む混合材を所定の割合となるように混合することからCO排出量を従前よりも低減してセメント組成物を製造することが可能である。また、上記セメント組成物の製造方法においては、所定のセメントクリンカーに対して、所定のブレーン比表面積を有する石炭灰と、石灰石とを所定量で含む混合材を、所定量で配合することから、得られるセメント組成物は、DEFに伴うセメント硬化体の膨張を抑制することができる。上記製造方法において得られるセメント組成物は、更に、所定のセメントクリンカーと組み合わせ、混合材の含有量を所定量とすることによって、セメント硬化体の圧縮強さを十分なものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、CO排出量を従前よりも低減して製造することが可能であり、DEFに伴う膨張が抑制され、かつ十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0019】
セメント組成物の一実施形態は、Bogue式によって算出されるCA量が8.0~14.0質量%であるセメントクリンカーと、石膏と、所定の混合材と、を含む。ここで、Bogue式とは、化学組成の含有比率からセメントクリンカー中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、セメントクリンカー中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO,CSで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO,CSで示す。)、及びアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al,CAで示す。)の含有量を算出することができる。なお、下記式中の「%」は「質量%」を意味する。化学式は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0020】
<Bogue式>
S[%]=(4.07×CaO[%])-(7.60×SiO[%])-(6.72×Al[%])-(1.43×Fe[%])-(2.85×SO[%])
S[%]=(2.87×SiO[%])-(0.754×CS[%])
A[%]=(2.65×Al[%])-(1.69×Fe[%])
AF[%]=3.04×Fe[%]
【0021】
セメントクリンカーにおける、CA及びCAFといった間隙相量が多くなるように設計することによって、セメントクリンカー原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させることができ、環境負荷低減の観点から望ましいセメント組成物を提供できる。
【0022】
セメントクリンカーにおけるCA量の下限値は、8.0質量%以上であるが、好ましくは8.5質量%以上であり、より好ましくは9.0質量%以上であり、更に好ましくは9.5質量%以上であり、特に好ましくは10.0質量%超である。CA量の下限値を上記範囲内とすることによって、セメントクリンカー原料となる石炭灰等の廃棄物・副産物利用量を増加させたセメント組成物を製造することができる。セメントクリンカーにおけるCA量の上限値は、14.0質量%以下であるが、好ましくは13.0質量%以下であり、より好ましくは12.0質量%以下であり、更に好ましくは11.0質量%であり、特に好ましくは10.5質量%未満である。CA量の上限値を上記範囲内とすることによって、エトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HOで表される化合物)の再生成を抑制することができ、またセメント組成物の硬化時における断熱温度上昇の増加をより低減し、またDEFに伴うセメント硬化体の膨張を更に抑制することができる。
【0023】
セメントクリンカー中のCS量は、好ましくは35.0~65.0質量%であり、より好ましくは40.0~60.0質量%であり、更に好ましくは45.0~57.5質量%であり、特に好ましくは47.5~54.0質量%である。CS量の下限値が35.0質量%以上であることによって、セメント組成物の硬化における初期強度をより向上させることができる。またCS量の上限値が65.0質量%以下であることによって、セメント組成物の硬化時における発熱をより抑制し、DEFの発生を更に抑制することができる。
【0024】
本明細書におけるCA量、及びCS量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定されたセメントクリンカーの化学分析値を用いて、Bogue式によって算出される値を意味する。
【0025】
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を使用することができる。石膏は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。セメント組成物における石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏の含有量と同等であってよい。セメント組成物における石膏の含有量は、SO換算で、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%として、好ましくは0.5~3.5質量%であり、より好ましくは1.0~3.0質量%であり、更に好ましくは1.0~2.5質量%である。
【0026】
混合材は、少なくとも石炭灰及び石灰石を含有する。上記セメント組成物における上記混合材の合計の含有量は、セメント組成物の製造におけるCO発生量低減を含む低炭素化の観点からは多い方が望ましく、一方でセメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点では少ない方が望ましい。上記セメント組成物において上記混合材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%として、5.0~32.5質量%含むが、好ましくは9.5~31.0質量%であり、より好ましくは14.0~30.5質量%であり、更に好ましくは17.5~30.0質量%であり、特に好ましくは20.0~30.0質量%である。
【0027】
石炭灰は、例えば、石炭火力発電所から排出される石炭灰を好適に使用できる。上記混合材は、石炭灰及び石灰石に加えて、その他の成分を含んでもよい。例えば、石炭火力発電所の発電ボイラ燃料として、主燃料である石炭と、木屑、やし殻、及び下水汚泥等に由来するバイオマス燃料とを投入して混焼した場合に得られる灰も、混合材として使用することができる。
【0028】
石炭灰のブレーン比表面積は、3900~10000cm/gであるが、好ましくは4200~8000cm/gであり、より好ましくは4500~6500cm/gであり、更に好ましくは5000~6000cm/gであり、特に好ましくは5100~5500cm/gである。石炭灰のブレーン比表面積は、例えば、石炭灰の分級、破砕等によって調整することができる。石炭灰のブレーン比表面積はまた、ブレーン比表面積の異なる石炭灰を混合して調整してもよく、粉砕した石炭灰と、分級した石炭灰とを混合することによって調整してもよい。石炭灰の分級方法としては、例えば、空気分級、静電分級、篩い分級、重力場分級、及び遠心力場分級などが挙げられる。石炭灰の粉砕方法としては、例えば、ボールミル、ジェットミル、ロッドミル、ブレードミル等の機器を用いる方法が挙げられる。
【0029】
本明細書における「ブレーン比表面積」は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。
【0030】
石炭灰は、好ましくは、4μm残分が40~85体積%であり、かつ32μm残分が0~20.0体積%以下であり、より好ましくは、4μm残分が65~80体積%であり、かつ32μm残分が10.0体積%以下であり、更に好ましくは、4μm残分が70.5~77.5体積%であり、かつ32μm残分が5.0体積%以下である。石炭灰の4μm残分が40体積%以上であることで、微細な石炭灰粒子の含有量を低減し、ハンドリング性の低下を抑制することができる。石炭灰の4μm残分が40体積%以上であることでまた、セメント組成物の硬化時における断熱温度上昇の増加をより抑制することができ、DEF抑制効果をより長期に維持することができる。石炭灰の32μm残分が20.0体積%以下であることで、石炭灰の粗大粒子の含有量が少なく、ポゾラン反応性の低下を抑制し、セメント硬化体の強度(例えば、圧縮強さ等)の低下を抑制し、及びDEF抑制の効果が低下することをより抑制できる。
【0031】
本明細書における石炭灰の粒度は、レーザー回折式粒度分布計によって求められる値を意味する。本明細書における石炭灰の4μm残分とは、石炭灰全量に対する粒子径が4μm以上である粒子の含有割合を意味し、石炭灰の32μm残分とは、石炭灰全量に対する粒子径が32μm以上である粒子の含有割合を意味する。
【0032】
石炭灰の含有量は、DEF抑制の観点からは多い方が望ましく、一方で、セメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点からは少ない方が望ましい。石炭灰の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%として、2.5~30.0質量%であるが、好ましくは6.5~28.0質量%であり、より好ましくは7.0~23.0質量%であり、更に好ましくは7.5~20.0質量%であり、特に好ましくは8.0~18.0質量%である。
【0033】
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0034】
石灰石のブレーン比表面積は、好ましくは2500~10000cm/gであり、より好ましくは4000~9000cm/gであり、更に好ましくは6000~8000cm/gである。石灰石のブレーン比表面積が2500cm/g以上であることで、セメント組成物の反応性を向上させることができる。石灰石のブレーン比表面積が10000cm/g以下であることで、ハンドリング性の低下を抑制できる。
【0035】
石灰石の含有量は、DEF抑制の観点からは少ない方が望ましく、一方で、セメント組成物の製造におけるCO発生量低減を含む低炭素化の観点からは多い方が望ましい。石灰石の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計の含有量を100質量%として、2.5~24.0質量%であるが、好ましくは3.0~23.5質量%であり、より好ましくは7.5~23.0質量%であり、更に好ましくは10.0~22.0質量%であり、特に好ましくは12.5~20.0質量%である。石灰石の含有量が上述の範囲内であることで、セメント組成物の水和に伴う発熱を低減し、セメント硬化体の強度もより増進することができる。石灰石の含有量が上述の範囲内であることで、セメント硬化体の初期及び長期の強度発現性をより向上させることができる。
【0036】
上述のセメント組成物に、例えば、細骨材、粗骨材、水及び/又は混和剤、並びに硬化促進剤等を加えることによってモルタル組成物又はコンクリート形成用組成物を製造することができる。上述のセメント組成物を用いて形成されるモルタル及びコンクリートは、優れた断熱温度上昇抑制、強度増進、及びDEF抑制効果を発揮し得る。
【0037】
細骨材は、JIS A 5005「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の細骨材等を用いることができる。細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、硬質高炉スラグ細骨材、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等が挙げられる。細骨材は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における細骨材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、例えば、50~500質量部であってよい。
【0038】
粗骨材は、JIS A 5005「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の粗骨材等を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、及び電気炉酸化スラグ粗骨材等が挙げられる。粗骨材は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における粗骨材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは50~500質量部である。
【0039】
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水等が挙げられる。上述のセメント組成物における水の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上60質量部以下である。セメント組成物における水の含有量を上述の範囲内とすることで、所定のフレッシュ性状(流動性、空気量等)及び成形性を十分に確保することができ、得られるセメント硬化体の圧縮強さ及び耐久性の低下も十分抑制することができる。
【0040】
混和剤としては、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等が挙げられる。混和剤は、求められる性能に応じて、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における混和剤の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部である。
【0041】
硬化促進剤としては、例えば、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、無水石膏、生石灰、消石灰、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、アルミン酸アルカリ、炭酸アルカリ、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ギ酸カルシウム、無水マレイン酸、ロダン酸カルシウム、C-S-Hナノ粒子、及びチオシアン酸カルシウム等が挙げられる。硬化促進剤は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。上述のセメント組成物における硬化促進剤の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは3.0~15質量部であり、更に好ましくは6.0~10質量部以下である。硬化促進剤の含有量が上述の範囲内であることで、硬化促進効果を十分に発揮させると共に、凝結の促進及び流動性の低下などを抑制することができる。
【0042】
上述のセメント組成物は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。セメント組成物の製造方法の一実施形態は、Bogue式によって算出されるCA量が8.0~14.0質量%であるセメントクリンカー、石膏、及び、ブレーン比表面積が3900~10000cm/gである石炭灰と、石灰石とを含む混合材を混合する工程(混合工程)を備える。上記製造方法においては、セメントクリンカー、石膏及び混合材の合計の含有量を100質量%として、石炭灰の含有量が2.5~30.0質量%となり、石灰石の含有量が2.5~24.0質量%となり、且つ混合材の含有量が5.0~32.5質量%となるように、セメントクリンカー、石膏、石炭灰及び石灰石を配合する。
【0043】
混合工程における各種成分の混合順序は適宜調整してよく、例えば、セメントクリンカー及び石膏を先に混合し、その後に石炭灰及び石灰石を混合してもよく、セメントクリンカー、石膏及び石炭灰を先に混合し、その後に石灰石を混合してもよく、セメントクリンカー、石膏、石炭灰及び石灰石を一度に混合してもよい。混合工程は、各種成分を粉砕する粉砕工程を兼ねてもよい。例えば、上記製造方法は、セメントクリンカー、石膏、及び石炭灰を粉砕機に投入し混合及び粉砕する混合工程を備えてもよい。
【0044】
混合工程における各種成分の混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよい。
【0045】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[セメント(セメントクリンカー及び石膏の混合物)の調製]
表1に後述する実施例及び比較例で使用したセメント(NC1~NC4)を示す。セメント(NC1~NC4)は、いずれも少量添加成分である混合材を添加せずに、まずセメントクリンカーに二水石膏を添加して、ボールミルで粉砕し、セメントクリンカー及び二水石膏の混合物であるセメントを調製した。
【0048】
セメントNC1の調製には、Bogue式によって算出されるCA量が10.2%である普通ポルトランドセメントクリンカー(宇部興産株式会社製)を用いた。セメントNC2の調製には、Bogue式によって算出されるCA量が15.8質量%であるテストキルン焼成クリンカーを用いた。セメントNC3及びセメントNC4の調製には、電気炉焼成クリンカーを用いた。
【0049】
表1には、セメントのブレーン比表面積、及び化学成分、セメントの調製に使用したセメントクリンカーの鉱物組成(Bogue式によって算出されるクリンカーの鉱物組成)を示した。なお、セメントのブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に基づき求めた。セメントの化学組成、及びセメントクリンカーの鉱物組成は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に基づき、分析を行なった。蛍光X線分析には株式会社リガク製のSimultix12を用いた。
【0050】
【表1】
【0051】
[石炭灰(フライアッシュ)]
表2に後述する実施例及び比較例で使用した石炭灰(FA1~FA4)を示す。石炭灰(FA1~FA4)は、異なる火力発電所から採取した石炭灰を使用した。なお、FA3及びFA4については、旋回気流式分離機(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)を用いて3000rpmの条件下で分級し、粗粉分を除去して、得られた微粉の分画を更に6000rpmの条件下で分級し、極細かい微粒分を除去して、粒度を調整したうえで用いた。
【0052】
表2には、石炭灰のブレーン比表面積、及び粒度を示す。石炭灰のブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に基づいて求めた。石炭灰の粒度分布は、株式会社島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD2200を用いて、石炭灰をエタノール中に分散させて測定した。
【0053】
【表2】
【0054】
[石灰石]
後述する実施例及び比較例で使用した石灰石(CC)は、宇部マテリアルズ株式会社製の325メッシュ品(45μmふるい通過分)を用いた。当該325メッシュ品は、ブレーン比表面積が7470cm/g、炭酸カルシウム含有量が90質量%以上、酸化アルミニウム含有量が1.0質量%以下であり、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」の少量混合成分に適合する。
【0055】
[細骨材]
DEF試験及び活性度指数測定では、細骨材として、セメント協会(一社)のセメント強さ試験用標準砂を用いた。また簡易断熱温度上昇試験では、細骨材として、山口県宮野産の砕砂を用いた。
【0056】
(実施例1~10、及び比較例1~9)
セメント、石炭灰及び石灰石を表3に示す配合割合(質量%)で、混合及び粉砕することで、セメント組成物を調製した。
【0057】
【表3】
【0058】
実施例1~8及び比較例1~8で調製した各セメント組成物を用いて、DEF試験及び活性度指数測定を行った。
【0059】
[DEF試験及び活性度指数測定]
(モルタル組成物の調製)
まず、実施例及び比較例で調製した各セメント組成物に対して、細骨材としてセメント協会(一社)のセメント強さ試験用標準砂、及び水を配合し、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠してモルタル組成物を調製した。モルタル組成物の配合は表4に示した。
【0060】
【表4】
【0061】
(DEF試験)
DEF試験は、上述のモルタル組成物に対して、硬化促進剤として硫酸カリウムを加え、セメント組成物中の全SO量が6質量%となるように調整し、更に90℃の高温での前養生を施すことで、DEFを生じやすい条件の下で行った。これは、高温養生及びSO量の増加が無い場合には、DEFによる膨張を生じない場合があり得、観測を容易なものとするために、上述の調整を行った。
【0062】
より具体的には、まずモルタル組成物に硬化促進剤を添加した後、練り混ぜ及び型詰めを行った。次に、型枠を封かん状態にして恒温槽に入れ、20℃において4時間かけて養生し、2時間かけて90℃まで上昇させ、90℃において12時間保持した。12時間経過後、4時間かけて20℃まで温度を下げ、20℃において2時間養生した。その後、脱型し、モルタル硬化体を得た。
【0063】
上述の方法で調製されたモルタル硬化体について、20℃の恒温室にて水中養生を行い、各水準について3本のモルタル硬化体の長さ変化量を測定した。長さ変化量の測定方法は、JIS A 1129-3:2010「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」の記載に準拠して、ダイヤルゲージを用いて、脱型時を基長として、水中養生材齢7日目、14日目、28日目、その後は28日間経過毎にモルタル硬化体を水中から取り出して、長さ変化量を測定した。3本のモルタル硬化体の表裏の6か所にて、長さ変化量を測定し、その平均値を、対象とするモルタル硬化体の長さ変化量とした。得られた長さ変化量をストレインゲージの間隔(100mm)で除した値を、モルタル硬化体の膨張率とし、水中養生材齢280日目のモルタル硬化体について以下の基準でDEFに伴うモルタル硬化体の膨張抑制の程度を評価した。結果を表5に示す。
A:モルタル硬化体の膨張率が0.10%以下である。
B:モルタル硬化体の膨張率が0.10%超1.00%以下である。
C:モルタル硬化体の膨張率が1.00%超である。
【0064】
なお、膨張抑制の程度に関しては、通常のポルトランドセメントに相当する比較例1のモルタル硬化体を基準として、同じ操作によって水中養生材齢280日目での膨張率が1.0%以下であれば、膨張抑制効果を有し、十分な膨張抑制効果があると判断した。また、膨張率が0.1%以下であるモルタル硬化体を与えるモルタル組成物は、優れた膨張抑制効果を有し、膨張抑制効果が極めて高いと判断した。
【0065】
(活性度指数測定)
各モルタル硬化体の圧縮強さの測定は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に準拠して行った。圧縮強さ測定用のモルタル硬化体の作製は、まず、表3及び表4の配合で調製したモルタル組成物を20℃の恒温室にてモルタルとして練り混ぜて型詰めを行い、型枠を湿気箱内に貯蔵して24時間養生をした。24時間養生の後に脱型し、モルタル硬化体を得た。得られたモルタル硬化体は、材齢28日まで20℃の恒温室で水中養生を行った後に、圧縮強さを測定した。活性度指数とは、基準モルタル硬化体の圧縮強さに対する測定対象のモルタル硬化体の圧縮強さの比を百分率で表したものをいう。また基準モルタル硬化体は、セメントNC1(混合材を添加していない普通ポルトランドセメント)を用いて、上述の活性度指数測定用のモルタル硬化体の調製と同様にして調製され、20℃において脱型後に、材齢28日まで水中養生したモルタル硬化体を用いた。基準モルタル硬化体の圧縮強さを、同様に測定し、得られた値を用いて、各モルタル硬化体の活性度指数を算出した。各モルタル硬化体について、下記の基準で評価した。結果を表5に示す。
A:活性度指数が90%以上である。
B:活性度指数が90%未満である。
【0066】
なお、モルタル硬化体の活性度指数の評価に関しては、石炭灰のみを25%添加した比較例6と比べて高い活性度指数を示す場合、すなわち活性度指数が90%以上であれば、実用上、十分な圧縮強さを有すると判断した。比較例6では、DEF試験におけるモルタル硬化体の膨張は抑制されたが、活性度指数の低下が確認された。
【0067】
【表5】
【0068】
表5中、「-」は測定を実施していないことを意味する。
【0069】
表5に示すとおり、混合材として石炭灰を含まず、石灰石単独で使用した比較例1、3~5の組成物では、石灰石の含有量を増加させてもDEF試験におけるモルタル硬化体の膨張を抑制する効果は得られないことが確認された。なお、比較例1及び5の組成物に対する活性度指数測定の結果から、活性度指数の低下も生じることが確認された。これに対して、混合材として石炭灰及び石灰石を所定の配合で含有する実施例1~8のモルタル組成物は、いずれも優れたDEF試験におけるモルタル硬化体の膨張を抑制する効果が確認された。また同様に実施例1~8のモルタル組成物は、いずれも十分な活性度指数を示し、圧縮強さが十分に維持されることが確認された。
【0070】
表5に示すとおり、ブレーン比表面積の小さな石炭灰(FA2)を使用した比較例2の組成物に比べて、所定のブレーン比表面積を有する石炭灰(FA1,FA3,又はFA4)を比較例1と同時割合で配合した実施例1~3のモルタル組成物は、優れたDEF試験におけるモルタル硬化体の膨張を抑制する効果が得られることが確認された。また実施例1~3のモルタル組成物よりも、石炭灰の含有量を増大させた実施例4~7のモルタル組成物は、より優れるDEF試験におけるモルタル硬化体の膨張を抑制する効果を発揮することが確認された。
【0071】
表5に示すとおり、石灰石を同じ割合で含み、石炭灰の含有割合が異なる比較例1の組成物、実施例3,4,及び8のモルタル組成物の比較から、石炭灰の含有量が増大することによって、DEF試験におけるモルタル硬化体の膨張を抑制する効果が向上することが確認された。
【0072】
表5に示すとおり、石灰石を含有しない比較例6の組成物と、石灰石を所定量含有する実施例8のモルタル組成物との比較から、石炭灰及び石灰石の併用によって、活性度指数により優れるモルタル組成物を調製でき、圧縮強さを向上できることが確認された。また、石炭灰及び石灰石の併用系であっても、混合材の含有量が多い比較例7の組成物では、活性度指数が低下することが確認された。同様に、実施例4及び6のモルタル組成物、並びに比較例8の組成物の活性度指数の対比から、石灰石の含有率及び混合材の含有量が過剰になると、DEF試験におけるモルタル硬化体の膨張を抑制する効果が低減し、活性度指数の低下も生じることが確認された。
【0073】
実施例1,7,9,10及び比較例1,5~9で調製した各セメント組成物を用いて、簡易断熱温度上昇試験を行った。
【0074】
[断熱温度上昇量の測定]
(モルタル組成物の調製)
まず、実施例及び比較例で調製した各セメント組成物に対して、細骨材としての山口県宮野産の砕砂、及び水を配合し、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠してモルタル組成物を調製した。モルタル組成物の配合は表6に示した。
【0075】
【表6】
【0076】
(簡易断熱温度上昇試験)
上述のように調製されたモルタル組成物の一部について、断熱温度上昇量の測定を行った。断熱温度上昇量の測定は、株式会社東京理工製の少量サンプル用断熱熱量計ATR-6Lを用いて行った。より具体的には、まず、表6の配合割合で各材料を計量し、手練でモルタル組成物をスパチュラで練り混ぜ、一定量を測定容器に移し、熱電対を挿入した。本測定では、熱電対によってモルタル組成物の温度を測定し、測定される温度と同じ温度になるようにモルタル組成物の周囲の槽内温度を制御することによって、断熱条件に近い状態にすることで、得られた終局の温度上昇量(℃)を断熱状態における温度上昇量とみなした。ただし、本試験で用いた少量サンプル用断熱熱量計の装置では、断熱条件に近いものの、装置からの熱損失があるため、非特許文献3の記載の方法に準拠し、装置からの熱損失分を補正し、断熱温度上昇量を求めた。その他の測定条件・計算の詳細は、非特許文献3の記載に準拠して行った。断熱温度上昇量の終局値(℃)に、測定開始時のモルタル組成物の温度(20℃)を加えた値を、断熱状態での最高温度(℃)(以下、断熱最高温度)とし、以下の基準で評価した。結果を表7に示す。
A:断熱最高温度が68℃以下である。
B:断熱最高温度が68℃超である。
【0077】
なお、断熱温度上昇量について、JCIのマスコンクリートのひび割れ防止制御指針(非特許文献4)によれば、一般にコンクリート最高温度の限界値について70℃を基本としている。したがって、上記の判断基準は、断熱最高温度が68℃以下であれば、エトリンガイトの分解を抑制し、十分にDEFの発生リスクを低減することができ、抑制効果があると判断した。
【0078】
【表7】
【0079】
表7に示すとおり、混合材の含有量が同じ、実施例7のモルタル組成物と、比較例6の組成物との対比から、石炭灰と石灰石の併用によって、断熱最高温度の上昇を抑制することができると確認された。また、セメントクリンカーの鉱物組成におけるCA量の異なるセメントを用いた比較例9の組成物と、実施例9及び10のモルタル組成物との対比からセメントクリンカーのCA量が低下するに伴って断熱最高温度の上昇をより低減でき、DEFの原因である、エトリンガイトの分解を更に抑制することを期待できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示によれば、CO排出量を従前よりも低減して製造することが可能であり、DEFに伴う膨張が抑制され、かつ十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供できる。