(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241216BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20241216BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/205
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2020068771
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】田中 優貴
(72)【発明者】
【氏名】一野 貴雅
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-150100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0088655(US,A1)
【文献】特開2016-115819(JP,A)
【文献】特開平07-086382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0188021(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内部に配置され内側でプラズマが形成される処理室と、この処理室内に配置され上面に前記プラズマを用いた処理対象のウエハが載置されて保持される試料台と、この試料台の上面に配置され内側に前記ウエハを静電吸着させる直流電力が供給される複数の膜状の静電吸着電極を有する誘電体膜と、この誘電体膜の下方の前記試料台の内部に配置され高周波電力が供給される電極と、前記誘電体膜の上面に開口を有して内側に前記ウエハを当該上面から上方に押し上げて先端で保持するピンが収納された複数の貫通孔と、前記誘電体膜上面に配置され、前記複数の貫通孔の開口を含む内側を囲んで当該誘電体膜上面の外周縁に配置されたリング状の第1の凸部及びこのリング状の
第1の凸部の内側の複数の前記貫通孔各々の周囲を囲んで配置された
リング状の第2の凸部とを備え、
前記第1、第2の
凸部の上面が前記ウエハが載せられて静電吸着された状態で当該ウエハの裏面と当接する吸着面を構成するものであって、前記第1または第2の
凸部の吸着面の温度に応じて
前記高周波電力の振幅の大きさVppおよび当該高周波電力による前記ウエハの自己バイアス電圧Vdcを用いて、前記静電吸着電極の電圧と前記自己バイアス電圧Vdcとの差を算出して、当該差を用いて得られた前記静電吸着電極の電圧の目標値となるように前記静電吸着電極に供給される前記直流電力を調節する制御装置とを備えたプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記制御装置が、前記第1または第2の
凸部の吸着面のうち上方から見た投影面が前記複数の静電吸着電極各々と重なる面積の割合に応じて検出された当該吸着面の温度に応じて前記静電吸着電極に供給される前記直流電力を調節する請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記制御装置が、検出された当該吸着面の温度に比例して変化する前記静電吸着電極と前記ウエハとの間の電位差に基づいて、前記ウエハを静電吸着する静電気力を許容範囲内の値となるように、前記静電吸着電極に供給される前記直流電力を調節する請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記試料台内部の前記複数の静電吸着電極各々の上方から見た投影面内の箇所に配置された複数の温度センサを備え、前記制御装置が、これら温度センサ各々からの出力から検出された温度を前記複数の静電吸着電極各々と重なる前記吸着面の面積の割合に応じて重み付けして当該吸着面の温度を算出した結果に応じて前記静電吸着電極に供給される前記直流電力を調節する請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
真空容器内部の処理室内にウエハを配置して当該処理室内にプラズマを形成してウエハを処理するプラズマ処理装置に係り、特に、ウエハを静電吸着して試料台上の保持し、試料台の温度を異なる温度に調節しつつウエハを処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなプラズマ処理装置の例としては、特開2010-010236号公報(特許文献1)に開示のものが知られていた。本従来技術は、真空容器内部の処理室内に配置された試料台の電極に供給される高周波バイアス電力のVppを監視して、そのVpp値からウエハ電位(Vdc)を自己バイアス電圧算出手段を用いて算出し、そのVdcと、当該VdcとESC電圧との電位差であるVchuckとを比較して、その大小に応じてESC電源から出力するESC電圧を、Vesc+=Vdc+VchuckとVesc-=Vdc-Vchuckとの間で切り替える制御することで、異常放電の生起を抑制して、好適な吸着力を得ることができるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、次の点について考慮が不十分であったため問題が生じていた。
【0005】
すなわち、上記従来技術では、Vppに応じて設定した吸着電圧からESC電源から出力するESC電圧を設定していた。ところが、JRタイプの電極では、温度によってJR膜の抵抗が変化するため、吸着電圧が一定であっても膜を流れる電流が温度によって変化する。吸着力は流れる電流によって変化する。すなわち、高温時には抵抗値が小さくなることで、電流値が大きくなり、吸着力過多による脱着エラー、ウエハ割れが発生する可能性がある。また、低温時には、逆に吸着力不足によるウエハ吸着不良が発生する虞がある。
【0006】
このため、従来の技術では、デバイスを製造するためのウエハの処理の歩留まりが損なわれ、処理の効率が低下してしまうという問題が生じていた。このような点について、上記従来技術では考慮されていなかった。
【0007】
本発明の目的は歩留まりを向上させたプラズマ処理装置を提供することに在る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、真空容器内部に配置され内側でプラズマが形成される処理室と、この処理室内に配置され上面に前記プラズマを用いた処理対象のウエハが載置されて保持される試料台と、この試料台の上面に配置され内側に前記ウエハを静電吸着させる直流電力が供給される複数の膜状の静電吸着電極を有する誘電体膜と、この誘電体膜の下方の前記試料台の内部に配置され高周波電力が供給される電極と、前記誘電体膜の上面に開口を有して内側に前記ウエハを当該上面から上方に押し上げて先端で保持するピンが収納された複数の貫通孔と、前記誘電体膜上面に配置され、前記複数の貫通孔の開口を含む内側を囲んで当該誘電体膜上面の外周縁に配置されたリング状の第1の凸部及びこのリング状の第1の凸部の内側の複数の前記貫通孔各々の周囲を囲んで配置されたリング状の第2の凸部とを備え、前記第1、第2の凸部の上面が前記ウエハが載せられて静電吸着された状態で当該ウエハの裏面と当接する吸着面を構成するものであって、前記第1または第2の凸部の吸着面の温度に応じて前記高周波電力の振幅の大きさVppおよび当該高周波電力による前記ウエハの自己バイアス電圧Vdcを用いて、前記静電吸着電極の電圧と前記自己バイアス電圧Vdcとの差を算出して、当該差を用いて得られた前記静電吸着電極の電圧の目標値となるように前記静電吸着電極に供給される前記直流電力を調節する制御装置とを備えたことにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸着力の過多によるウエハが割れたり吸着力の不足によりウエハが剥がれたりするウエハの吸着不良が抑制され、ウエハの処理の歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の全体の較正の概略を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す実施例の試料台の主要部の構成の概略を模式的に説明する縦断面図である。
【
図3】
図1に示す実施例の試料台の誘電体膜の上面の構成を模式的に示す上面図である。
【
図4】
図1に示す実施例の試料台の誘電体膜の上面の構成を模式的に示す上面図である。
【
図5】
図1に示す実施例の試料台の誘電体膜の上面の構成を模式的に示す上面図である。
【
図6】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置においてESC電圧を設定する流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置が実施するエッチング処理中の時間の経過に伴う温度及びESC電圧の変化の例を模式的に示すグラフである。
【
図8】
図1に示す本実施例に係るプラズマ処理装置の試料台に供給される静電吸着用電源から出力される直流電圧、高周波バイアス電圧および静電吸着電圧の関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を以下図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例を
図1乃至8を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の全体の較正の概略を模式的に示す縦断面図である。本実施例のプラズマ処理装置100は、真空容器116内部に配置されプラズマが内部で形成される空間である処理室105内に配置されたウエハ113上面に予め形成されたマスク層及びその下方の処理対象の膜層を含む膜構造の当該処理対象の膜層をエッチング処理するエッチング処理装置である。
【0013】
プラズマ処理装置100は、処理室105内にプラズマ106を発生させるために当該処理室105に供給される高周波電界を形成するプラズマ生成用高周波電源101と、処理室105内に配置されその上面上にウエハ113が載せられてこれを保持する試料台109とを備えている。試料台109の内部には、処理中にプラズマとの間で電位差を有するバイアス電位をウエハ113上面上方に形成するための高周波バイアス電力が生成されるバイアス用高周波電源110と電気的に接続された金属製の円板または円筒形状を有した電極108が配置され、電極108の上部に配置され中央部上面が上方に高くされた円筒形の凸部の上面には、当該上面を覆って酸化アルミニウムや酸化イットリウム等のセラミクス材料から構成された誘電体製の皮膜である誘電体膜120が配置されている。
【0014】
誘電体膜120内部には、直流電源111と電気的に接続され供給された直流電力により誘電体膜120上面上方に載せられたウエハ113を当該上面に対して誘引して吸着し保持するための静電気力を形成する複数の膜状の電極と、別の直流電源と接続され供給された直流電力によって発熱してウエハ113を加熱する複数の膜状のヒータ用電極が配置されている。これらの誘電体膜120内部に配置された膜状の電極については
図2を用いて後述する。本図では、1つの膜状の電極121として示されている。
【0015】
さらに、本実施例では、試料台109に接続され高周波バイアス電源110から供給された高周波バイアス電力の振幅(ピークトゥピーク)の値を検知するするVppモニタ112と、Vppモニタから出力された電極108に供給された高周波バイアス電力のピークトゥピークを示す信号値を用いてウエハ113の自己バイアス電圧を算出する自己バイアス電圧算出器114と、自己バイアス電圧算出器114からの出力信号を受信してこれが示す自己バイアス電圧に基づいて直流電源111が出力する直流電圧の大きさを調節する制御装置115が備えられている。なお、自己バイアス電圧算出器114は制御装置115の内部の回路であっても良い。
【0016】
なお、本実施例の試料台109の上方の処理室105の内側壁に沿って、接地箇所と電気的に接続された円筒形またはリング形状のアース電極107が配置されて、プラズマ106あるいは高周波バイアス電力が供給される電極108に対する接地電極として、これらの電位を安定させる機能を有している。さらに、円筒形を有した処理室105の周囲を囲む真空容器116の側壁の上端上方には当該上端上にOリング等のシール手段を挟んで載せられた酸化アルミニウム等のセラミクス製の円板状の窓部材104と、窓部材104の上方の真空容器116の外側で同心または螺旋状に巻かれて配置されプラズマ生成用高周波電源101からの高周波電力が供給されて窓部材104下方の処理室105上部に誘導磁界を形成する誘導コイル103とが備えられている。さらに、誘導コイル103と高周波電源101との間を電気的に接続するケーブル等の給電経路上には整合器102が配置されている。
【0017】
さらにまた、図示されていないが、真空容器116は、処理室105内に誘導コイル103からの誘導磁界によりプラズマ106が形成される処理用のガスを処理室105内に供給する処理用ガス供給路が接続されている。処理用ガス供給路は、真空容器116の円筒形上端部に連結され、当該供給路内部を通って供給された処理用ガスは、窓部材104の下方の処理室105内に配置され当該処理室105の天面を構成する図示しない石英等のセラミクス材料から構成された円板状のシャワープレートと窓部材104との間の隙間に供給されて内部で拡散した後、シャワープレート中央部に配置された複数の貫通孔から処理室105内に下向きに導入される。
【0018】
図2に、本実施例のプラズマ処理装置100の試料台109の金属製の円板形状の基材であって高周波バイアス電力が供給される電極108とその上面上に配置された誘電体膜120の構成の概略を説明する。
図2は、
図1に示す実施例の試料台の主要部の構成の概略を模式的に説明する縦断面図である。
【0019】
本図において、試料台109の基材である金属製の電極108の上部に配置された誘電体膜120は、電極108の上部の中央部に配置された凸部の上面を覆って配置され、内部に上下方向に2つの層をなす膜状の電極121が備えられている。下層の膜状の電極は、上方から見て凸部または誘電体膜120の上面の複数の領域(ゾーン)を占めるヒータ電極202であって、本実施例では後述の通り、誘電体膜120の中心を含む中央の円形の領域とその外周側でこれを囲んで当該中心について同心状に配置された複数個のリング状の領域内で各領域を実質的に占有するようい配置され、さらに、リング状の領域は上記中心周りに複数(本例では3つ以上)の円弧状の小領域に分けられて各小領域を占めてヒータ電極202が配置されている。すなわち、本実施例のヒータ電極は誘電体膜120内で、中央部の円形のゾーンとその周囲の円弧状の複数のゾーン内に、実質的にこれらと同じ面積を占めて、電極108の凸部上面の全体を覆って配置されている。
【0020】
一方、膜状の電極121の上層のものは、上方から見て誘電体膜120の中心を含む円形の領域とその外周側でこれを当該中心に対して同心状に囲む少なくとも1つのリング状の領域とを占有する静電吸着用のESC電極201である。後述の通り、本例の試料台109または中心からの半径方向について、隣接する2つのESC電極同士の分離された箇所も、当該中心についての特定の同じ半径位置上に位置して、同心状に分離されており、その分離の位置は、ヒータ電極202が配置された隣接する2つのリング状の領域同士が、中心についての特定の同じ半径位置で同心状に分離されて分離されている箇所に重なっており、上方から見て一方が他方のものの投影された領域を含んでいる。
【0021】
本実施例の複数のESC電極201の各々には直流電源111が接続され、制御装置115からの指令信号に応じて定められた電圧が印加され、これらに応じた極性が付与される。これら電圧に応じた極性に対応して上方のウエハ113内の各電極の上方の領域に電荷が集積されて静電気力が生起される。本例の複数のESC電極201は、正または負の極性の何れかが付与され相互に正極、負極の電極の対が構成される、所謂双極型を構成する。これら正、負の各々の極性が付与されるESC電極201同士の面積の和は、同値またはこれと見做せる程度に近似する値を有する形状にされる。
【0022】
さらに、本実施例の試料台109は、電極108の内部であって、上方から見て誘電体膜120内のヒータ電極202が配置された領域またはゾーンの投影された領域内の各々に電極108の温度を検知する複数の温度センサ203が配置されている。なお、電極108または試料台109の温度は、当該ヒータ電極202の発熱と共に電極108内部で温度センサ203の温度を検知する先端部より下方の位置に、試料台109の上下方向の中心軸周りに同心または螺旋状に配置された冷媒流路204を有して、内部を循環して流れる所定の温度に調節された冷媒によっても調節される。
【0023】
本例では、各ゾーン内のヒータ電極202各々に対応する1つの温度センサ203が下方に配置されていても良い。また、本実施例に示すように、円形またはリング状の各領域に対応する温度センサが当該領域の投影される範囲内の箇所に1つ配置されていても良い。
【0024】
誘電体膜120のESC電極201の上方の上面は、最外周縁部に配置されて内側を囲むリング状凸部206とこの内側の誘電体膜120上部に配置された複数個の凸部207とを備えて、これらの凸部の上面が誘電体膜120上面に載せられて静電吸着されるウエハ113の裏面と当接してこれと相互に押し付け合う。このような誘電体膜120内部のESC電極201に対して、直流電源111から直流電力が供給され特定の電位が付与されると、当該ESC電極201内部の電荷に応じてウエハ133の裏面を含む部材内の分子または原子が分極して電荷が生起され、ESC電極の上方の誘電体膜120の誘電体製の材料を挟んで静電気力が発生してウエハ113とESC電極201との間に引き付け合う静電気力が発生して、結果としてウエハ113が所定の吸着力で誘電体膜120上に吸着される。
【0025】
一方、真空容器116の底部下方には、ターボ分子ポンプとロータリーポンプ等の粗引き用ポンプとを含む真空ポンプを有する排気装置が、当該底部と接続されて処理室105と真空容器116底部の排気開口を介して連通されて配置されている。真空ポンプが駆動されることで、処理室105内部の圧力がウエハ113を内部に含んだ状態で高い真空度に維持される。通常、ウエハ113の処理中の処理室105内の圧力は、処理用ガス供給路からの処理用ガス及び希釈ガスとの混合ガスの供給の流量または速度と、排気開口からの排気の流量または速度とのバランスにより、ウエハ113の処理に適した範囲内の値にされる。
【0026】
このようなプラズマ処理装置100では、ウエハ113は、図示しない真空容器116の円筒形の側壁部材に予め形成され開口の内側をウエハ113が搬送されて、プラズマ処理装置100内部の処理室105内に搬入またはこれから搬出されるウエハ113の通路であるゲートを通して、処理室105内の試料台109の誘電体膜120上面に載せられて、直流電源111から電力が誘電体膜120内部の膜状の電極に供給されて静電気力が生起されウエハ113が誘電体膜120上面に誘引されて吸着されて保持される。この状態で、図示しないガス通路を通してガス源からのHeガス等の熱伝達性の高いガスがウエハ113と誘電体膜120上面との間の隙間(以下、ギャップ、gapとも呼称する)に供給されて、電極108内に形成された冷媒流路内に循環して通流する冷媒とウエハ113との間の熱の伝達が促進される。
【0027】
この状態で処理室105内に処理用ガスが供給され、高周波電源101から供給された高周波電力により誘導コイル103が窓部材104またはシャワープレートの直ぐ下方の処理室105の上部に形成した誘導磁界によって形成された誘導電流と処理用ガスとの相互作用により、処理室105内部にプラズマ106が形成され、当該プラズマ106の粒子を用いてウエハ113上面の処理対象の膜層のエッチング処理が行われる。本実施例で実施される1つのウエハ113上の処理対象の膜層のエッチング処理は、後述のように、実施に好適な温度の範囲を含む処理の条件が異なる複数の工程(ステップ)を備え、前後のエッチング処理の工程の間にウエハ113またはこれを載せて保持する試料台109或いは誘電体膜120上面の温度を前の工程の条件から後の工程の条件に遷移させるための遷移ステップを備えている。
【0028】
エッチング処理が目標の残り膜厚さ或いは終点まで到達したことが図示しない終点検出器からの出力信号を受けた制御装置115により検出されると、当該制御装置115からの指令信号に応じてプラズマ106が消火され高周波バイアス電源110からの高周波バイアス電力の供給が停止される。この後、誘電体膜120上面上に静電吸着されたウエハ113の静電気または静電気力を解除する工程が実施されて、ウエハ113が試料台109内部に配置された図示しない複数(本例では3本)の貫通孔内に各々格納された複数のピンが駆動されて試料台109の電極108の内部から上方に移動した結果、これらのピン先端上に接して載せられたウエハ113が誘電体膜120上面上方に遊離して持ち上げられて保持される。
【0029】
この状態で、ウエハ113がプラズマ処理装置100外部に搬出され、次に処理されるべき未処理のウエハ113が在る場合には未処理のウエハ113が上記と同様に処理室105内に搬入されて上記複数のピン上に載せられた後、ピンが駆動されて下降して再度試料台109内部に格納された結果、ウエハ113が誘電体膜120上面と接して載せられる。この後、上記と同様にして、ウエハ113が誘電体膜120上面上に吸着され保持されて、処理が開始される。
【0030】
次に処理されるべきウエハ113が無いことが制御装置115において判定された場合には、制御装置115からの指令信号に基づいて、プラズマ処理装置100の半導体デバイスを製造するウエハ113のエッチング処理が停止される。
【0031】
誘電体膜120内に設けられている膜状の電極121のうちの静電吸着用の電極には、直流電源111からの電力により直流電圧が印加されて静電気力が生起されるようになっている。この直流電圧の値を静電吸着用の電源のESC電圧(出力電圧)と呼ぶ。高周波バイアス電源110の出力が電極108に印加されることによって生じるウエハ113の平均電位を自己バイアス電圧(以下、Vdc)と呼ぶ。通常、Vdcは負の直流電圧である。
【0032】
このとき電極108とウエハ113間の電位差、即ちESC電圧とVdcの差(Vesc-Vdc)が静電吸着電圧(以下、Vchuck)になる。Vdcはウエハ113にかかる高周波バイアス電力の振幅(ピークトゥピーク、Vpp)の値に依存し、次式のような関係がある。
【0033】
α=|Vdc/Vpp|≦0.5
ここで、αはプラズマ処理装置100の構成に依存して変わる定数であり、一般的な半導体製造用のエッチング処理装置においては0.3から0.45程度の値になる。また、本実施例ではVppはVppモニタ112からの出力を受けて自己バイアス電圧算出器114によって算出される。
【0034】
図8に、本実施例のESC電圧、Vdc,Vpp及びVchuckの関係を示す。
図8は、
図1に示す本実施例に係るプラズマ処理装置の試料台に供給される静電吸着用電源から出力される直流電圧、高周波バイアス電圧および静電吸着電圧の関係を模式的に示すグラフである。
【0035】
本図において、Vdcは正の値であるVppの正の実数の係数α倍の大きさで負の値として現れる。また、Vdcの値に対して同じ絶対値の電圧値Vchuckを生じるESC電圧が正側と負側との2つ存在することが分かる。ここでVdcに対して正側のESC電圧をVesc+と呼び、負側のESC電圧をVesc-と呼ぶ。
【0036】
上記の通り、この場合のESC電圧とVchuckおよびVdcとの関係は次式で表される。
【0037】
Vesc+ = Vdc + Vchuck
Vesc- = Vdc - Vchuck
ただしVdcは負の値、Vchuckは正の値である。
【0038】
ここで、Vchuckが小さすぎる場合にはウエハ113が静電気力によって吸着されずに処理中に試料台109から遊離してしまう虞がある。一方、Vchuckが過度に大きい場合には静電気による吸着力が強すぎてウエハ113が割れてしまったり、静電気力を解除する工程を実施しても静電気が残留して試料台109から脱離させられない状態となってしまったり、大きな力を欠けて剥がそうとしてウエハ113を損傷あるいは脱落させてしまたりする虞がある。そのため、ウエハ113を処理する効率を向上するためにはVchuckの値を適切な範囲に調節してウエハ113のはがれや損傷に問題が生じないようにする必要がある。
【0039】
また、プラズマ106が接触する処理室105の内壁での抵抗が高い場合、プラズマ106と内壁の間で異常放電が起きる問題がある。例えば、モノポール方式で正のESC電圧を電極108に印加し、処理のためにプラズマ106を発生させるとプラズマに
図1中の点線で示した微小なリーク電流Iが流れ込む。このとき処理室105の内壁の抵抗Rが高い場合にV=IRだけプラズマは正に帯電し、プラズマ電位は正になり、一定のレベルよりプラズマ電位が高くなると処理室内壁表面の絶縁体層の絶縁破壊に伴う異常放電が発生する。そして、異常放電に伴う異物の発生により、処理室105内部やウエハ113に汚染が生起するという問題が生じる虞がある。
【0040】
以下、
図6を用いて、本実施例において制御装置115がESC電圧を設定する動作の流れを説明する。
図6は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置においてESC電圧を設定する流れを示すフローチャートである。
【0041】
まず、予めVchuckの値を設定しておき、高周波電源110からの高周波バイアス電力が膜状の電極121の静電吸着用の電極に供給された状態で、Vppモニタ112がVppを検知して制御装置115及び自己バイアス電圧算出器114に信号を出力する(ステップ601)。制御装置115は、自己バイアス電圧算出器114が送信されたVppの値と予め行われた試験もしくは理論により決定した定数αとを用いてVdcを算出し、制御装置115に送信する(ステップ602)。
【0042】
次に、制御装置115は、図示しない記憶装置に格納されたソフトウエアを読み出して記載されたアルゴリズムに沿って、後述する誘電体膜120上面に配置され、この上方に載せられて保持されるウエハ113の裏面と静電吸着により当接し相互に押し付けられて内側と外側とを封止するリング状の凸部上面のシール部の面積を算出する(ステップ603)。その後、当該シール部の面積を考慮して、Vpp,Vdcの値からVchuckを算出する(ステップ604)。さらに、制御装置115は、算出したVchuckの値からESC電圧Vesc+あるいはVesc-を算出して直流電源111に当該ESC電圧となるように出力を調節する指令信号を発信する(ステップ605)。
【0043】
なお、この際制御装置115では、Vesc+の正負、即ちVdcの絶対値とVchuckとの大小を比較する。Vesc+が正(>0)、即ち|Vdc|<Vchuckの場合にはESC電圧としてVesc―が用いられ、Vesc+が負(<0)、即ち|Vdc|>Vchuckの場合ではVesc+が用いられる。
【0044】
更に、制御装置115は、Vesc+が用いられる場合では、|Vesc+|<βならプラズマ106の着火時にESC電圧を負の範囲で絶対値を大きくするように負方向に電圧を追加する与え、プラズマ106の着火後はESC電圧をVesc+に調節し、|Vesc+|>βならプラズマ106の着火時からESC電圧をVesc+に調節するように、直流電源111に指令信号を発信する。ここで、βは予め定められる正の値の電圧の閾値である。
【0045】
以上のチャートに従いESC電圧を決定することで、異常放電を起こさず、好適な静電吸着力を得ることが出来るプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することが出来る。
【0046】
一方で、エッチング処理の工程が終了した後に、静電気力によって吸着されたウエハ113を静電気力または静電気を解除する工程で予め定められた動作を行っても、この後のピンの上方への移動によってウエハ113を誘電体膜120上面から引き剥がして持ち上げられるだけ十分に静電気力または静電気の量が低減できず、プラズマ処理装置100のデバイスを製造する運転を継続出来ない場合があることが判った。このような現象が生起すると、プラズマ処理装置100を用いたウエハ113を処理してデバイスを製造する効率が著しく損なわれてしまうという問題が生じる。この現象は、エッチング処理中に当該処理の好適な結果が十分に得られる以上の静電気力が形成されて過度にウエハ113が誘電体膜120に吸着されてしまい、予め定められた工程に沿って静電気を低減しても、ウエハ113を尚も吸着する静電気が残留しているためである。このような現象の生起を抑制する課題を達成するには、ウエハ113を吸着させるために誘電体膜120内の静電吸着用の膜状の電極に供給される直流電力を、ピンを用いてウエハ113を試料台上方に脱離させられる範囲内の吸着力となるように適切に増減させ調節することが必要となる。
【0047】
本実施例において、上記静電吸着用の膜状の電極に静電吸着用電源111の出力する直流電力の電圧(ESC電圧)の値は、Vppモニタ112が用いられて検出された高周波バイアス電力のVppの値と予め設定された静電吸着電圧Vchuck、予め定められた定数α,βを用いて算出、あるいは選択される。
【0048】
例えば、Vchuck=300V,α=0.4,β=200Vである場合では、まず、Vppモニタ112からの出力から検出されたVpp=300Vであると、自己バイアス電圧算出手段114は、VdcをVpp*α=-120Vと算出し、これを制御装置115に信号として送信する。当該信号を受信した制御装置115は、内部の図示しない記憶装置内に格納されたソフトウエアを読み出して、そのアルゴリズムに沿って当該検出されたVdcを所定の条件と比較し、|Vdc|<Vchuckの本例ではVesc+=Vdc+Vchuck>0となり、ESC電圧Vesc-を-420Vとなるように直流電源111に対して指令信号を発信する。
【0049】
また、Vppモニタ112が検知したVpp=1000Vのとき、自己バイアス電圧算出手段114では、Vdc=-400Vとして算出される。そして、制御装置115は、VdcとVchuckとを比較して|Vdc|>Vchuckであることを判定し、Vesc+<0であるのでESC電圧としてVesc+となるように出力を調節するようい直流電源111に指令信号を発信する。ここで、Vesc+は-100Vなので、|Vesc+|<βとなり、プラズマ106の着火の際にのみ、ESC電圧としてVesc-にさらに負方向に電圧を-700V程度追加するように調節する指令信号を直流電源111に発信する。なお本実施例の直流電源111は、主力電圧を可変に増減させて調節できる機能を備えた可変電圧電源である。
【0050】
更に、Vppモニタ112が検知したVpp=2000Vの場合、その出力を受けた自己バイアス電圧算出手段114は、Vdcを-800Vと算出する。そして、制御装置115は、VdcとVchuckとを比較して|Vdc|>Vchuckと判定し、さらにVesc+<0であるからESC電圧の値をVesc+とするように指令信号を直流電源111に送信する。ここで、Vesc+は-500Vとなるため|Vesc+|>βであるからプラズマ106の着火の際に電圧を負方向に追加する必要は無いと判定され、プラズマ106の着火の際にESC電圧は-500Vに維持される。
【0051】
以上のように、本実施例では、処理中に検出されたVpp及びVdcの値とシール部面積との値に基づいてVchuckの値が検出され、これらを用いてVesc+またはVesc-の値が算出され、ESC電圧が算出された値となるように調節される。このことにより、ウエハ113を静電吸着する電圧はVchuckの値の許容される範囲内のものに維持され、ウエハ113の割れやはがれや落下による損傷が生起することが抑制される。また、正のリーク電流によるプラズマ106の電位の上昇が低減され異常放電の発生が抑制される。
【0052】
上記のような複数の処理ステップと温度を遷移させる遷移ステップとを有するウエハ113のエッチング処理の工程の例を
図7を用いて説明する。
図7は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置が実施するエッチング処理中の時間の経過に伴う温度及びESC電圧の変化の例を模式的に示すグラフである。
【0053】
図7(a)は、ステップ1およびステップ2の各々でウエハ113上の処理対象の膜層が異なる温度の条件にされて処理され、ステップ1の終了後に試料台109またはウエハ113の温度を上昇させてステップ2の温度の条件に近づける遷移ステップが配置されている。この際、試料台109の温度は誘電体膜120のヒータ電極202に所定の直流電力が供給されて発熱量が増大されウエハ113及び試料台109が加熱されることで上昇する。
【0054】
本図に示す通り、ステップ1でのウエハ113の処理が終点に達するとプラズマ106が消火され高周波バイアス電力が停止される。この後、ウエハ113の温度が高くされる次のステップでの処理に適合するようにESC電極201に供給された電力により生起するESC電圧Vesc+,Vesc-の絶対値は低減される。ステップ1が終了すると、遷移ステップとしてヒータ電極202に供給される直流電流とこれによるヒータ電極202からの発熱量が増大されてウエハ113または試料台109の温度が、次の処理のステップであるステップ2の処理の条件である温度の設定値に向けて増大する。
【0055】
遷移ステップにおいて、所定の許容範囲内に到達したことが温度センサ203からの出力を受信した制御装置115で判定されると、当該ステップ2の温度の設定値の許容範囲内となるようにヒータ202の発熱量及び冷媒流路204の冷媒の通流が調節される。この後ステップ2が開始されてウエハ113の処理対象の膜層の次のエッチング処理の工程が実施される。本例では、当該工程中のESC電極のESC電圧Vesc+,Vesc-は、前のステップの値に維持されている。
【0056】
図7(b)は、ステップ2の温度の条件がステップ1のものより低くされる場合の例が示されている。本例においても、ステップ1のエッチング処理の終点に到達したことが制御装置において判定されると、直流電源111からの出力が調節されて、ESC電極201に生起するESC電圧Vesc
+,Vesc
-の絶対値が増大されて次のステップ2の条件に適合した範囲内の値にされる。この後遷移ステップが開始されて、ヒータ電極202からの発熱量が低減されて、試料台109またはウエハ113の温度が低減されて次のステップ2のエッチング処理の工程における温度の条件の許容範囲内の値に調節される。
【0057】
当該許容範囲内に到達したことが制御装置115により検出されると、当該温度が維持されるようにヒータ電極202の発熱量が調節され、この状態でステップ2のエッチング処理の工程が開始される。なお、
図7(a)及び(b)の何れの例においても、Vesc+,Vesc-の絶対値はVppより小さい値にされている。
【0058】
[吸着電圧の決定手段]
本実施例ではウエハ113はジョンソン・ラーベック(Johnson・Rahbek、以下JR)効果が用いられた静電吸着により誘電体膜120上面上に吸着されて保持される。このようなJR効果あるいはJR力を用いた静電吸着はJR型と呼称して類型される。ESCESC電極201とウエハ113との間に生起する吸着力Fchuckは、Fchuck=Fgap+Fbulkのように表される。
【0059】
Fgapは誘電体膜120上に保持されたウエハ113と誘電体膜120との隙間の上面であるウエハ113の裏面と隙間の下面である誘電体膜120上面との間に生じる静電気の吸着力であり、Fbulkは隙間の下面である誘電体膜120上面とESC電極との間の誘電体膜120内部の誘電体材料の箇所を挟んだ吸着力である。JR型の場合、吸着力Fchuckは誘電体膜上面とウエハ裏面との隙間での吸着力Fgapが支配的に影響しており、当該Fgapは隙間での電位差Vgapによって定められる。すなわち、
Fgap=1/2*(εgap*S*Vgap2/Tgap2)
ここで、εgapは隙間内の誘電率、Sは隙間の上方から見た面積、Vgapは隙間での電位差、Tgapは隙間内の温度の代表値である。一方、電位差Vgapはウエハ113と誘電体膜120との間を流れる電流i(T)および隙間の抵抗値Rgapにより次のように決まる。但しTは温度を表している。
【0060】
Vgap(T)=i(T)*Rgap
また、電流i(T)は、i(T)=Vbulk(T)/Rbulk(T)で算出される。VbulkおよびRbulkは、ESC電極とセラミクス製の誘電体膜上面との間の電圧および誘電体膜の部材の抵抗値である。
誘電体膜を構成するセラミクス材は温度が上昇すると抵抗値Rbulkが下がるので、電圧Vbulkが一定の場合は電極の温度が上昇するに伴って電流i(T)が大きくなる。電流i(T)が大きくなるとVgapが大きくなるためFgapが大きくなりESCの吸着力が過大になる虞がある。このため、電圧VgapあるいはVgapが許容範囲内になるように維持するためにはウエハ113または試料台109上のESC電極を含む誘電体膜の温度の上昇に伴って電圧Vbulkを小さくする必要がある。
【0061】
そこで、本実施例では、Vbulk=A(T)*V0の様に、予め定められた初期値V0に温度に応じて比例的に変化する係数A(T)を乗じて電圧値を算出して、当該Vbulkになるように電源からの出力を調節する。さらに、係数A(T)を温度Tの関数として用いても良い。例えば、誘電体膜の温度25℃の場合にA(T)=1.0として、ある負の傾きA0を有した温度の線形の一次関数として、A(T)=A0*(T-25)+1.0としても良い。この傾きA0は予め実験等によって検出して取得しておく。一方、処理の条件としてウエハ113または試料台109の温度が低下させる場合は、電圧Vbulkの値を大きくする。
【0062】
このように値が求められたVbulk(T)から、制御部115においてVchuck=Vgap+Vbulkが算出される。さらに、このVchuckの値と自己バイアス電圧算出器114から出力され信号から得られたVdc値を用いてESC電極の電圧(ESC電圧)がVesc+=Vdc+Vchuck、Vesc-=Vdc-Vchuckの値となるように、直流電源111からの出力が調節される。
【0063】
[温度依存係数の重み付けの手段]
本実施例では、誘電体膜120内の半径方向または周方向について複数に分けられたゾーンを有して各ゾーン内にこれらを各々占有する複数のヒータ電極202が配置され、各々が接続された図示しないヒータ用の直流から供給される電流が制御装置115により調節されての発熱を行う。このため、各ゾーンの上方の誘電体膜120上面とその上方のウエハ113の箇所は、他のゾーン上方の箇所と異なる温度にされる場合がある。このことから、Vgap(T)により影響される吸着力をウエハ113の割れや脱離を抑制できるように精度良く許容範囲内に維持するように調節する上では、各ゾーン毎に高い精度でその温度に基づいて目標の電圧値になるように調節する必要がある。
【0064】
本実施例では、上記温度は、誘電体膜120上の外周縁部で当該周縁に沿って内側の誘電体膜120上面を囲んで配置されたリング状凸部207と、誘電体膜120を貫通して配置されウエハ113を誘電体膜120の上面上方で上下させるためのプッシャピンが内部に収納されたプッシャ孔の上部の開口の周囲に配置され誘電体材料で構成されたリング状の凸部との上面である吸着面とを考慮して算出される。誘電体膜120を上方から見て、中心からの径方向の特定の箇所で分割された複数のESC電極201の領域(ESC領域)の各々に上記リング状凸部207の吸着面およびプッシャピン孔開口周囲のリング状凸部上の吸着面の投影面が重なっている割合に応じて係数の値により重み付けされた、ヒータ電極202の領域の温度を用いて算出された値に設定される。
【0065】
以下、
図3乃至
図5に本実施例の試料台109の誘電体膜120内の膜状の電極121および凸部206,207の配置を説明する。
図3乃至
図5は、
図1に示す実施例の試料台の誘電体膜の上面の構成を模式的に示す上面図である。これらの図では、誘電体膜120の上面に配置された外周縁部に配置されたリング状凸部206の上面である外周吸着面301及びプッシャピン孔308の上端の開口周囲を囲んで配置されたリング状の凸部の上面であるピン孔吸着面302が実線で示され、さらに、ESC電極201が配置されたESC領域とヒータ電極202が配置されたゾーンと、重ねて表示し、各々破線で示されている。
【0066】
図3では、ESC電極は201は、中央部の円形を有したESCin電極303とその外周側に配置されたリング状のESCout電極304とを備えている。さらに、ヒータ電極202は、最内側の中心を含む円形を有したゾーン305、その外周側で隣接したリング状の領域に配置され、同じ半径方向の長さで同じ中心周りの周方向について同じ角度の範囲にわたって延在する円弧状短冊形状を有した3つのゾーン306、さらにこれらゾーン306の外周側に隣接して同心状に配置され同様に4つの円弧状短冊形状を有した4つのゾーン307を有している。半径方向について領域を区分した場合には、ゾーン305は中央の領域を、4つのゾーン307は周縁の領域を、3つのゾーン306はこれらの間の中間の領域に属するように分けられる。
【0067】
なお、本実施例では、各領域のヒータ電極202は、同じ量に調節された電流が供給され、同じ領域内のゾーン内のヒータ電極302は実質的に同じ材料で寸法、形状を備えていることから、実質的に同じ発熱量になるように調節されている。さらに、ゾーン305の属する中央領域およびゾーン306の属する中間の領域は、ESCin電極303の投影されるESCin領域に全て含まれ、ゾーン307の属する周縁の領域はESCout電極304の投影されるESCout領域に含まれて、相互に分離されている。加えて、上方から見てESCin領域の投影される領域と3つのピン孔吸着面302全てとが重複しており、ピン孔吸着面302は全てESCin領域内に在ると言える。
【0068】
このような構成において、複数のヒータ電極202の領域がESC電圧が印加される複数のESC電極201のin-out領域の各々に重なるプッシャ孔吸着面302面積の割合で重み付けされたた係数B及び周縁吸着面301の面積の割合で重み付けした係数Cを用いて各吸着面の温度Tが検出され、当該検出された温度におけるVgap(T)からESC電圧が算出され、当該ESC電極201の電圧がESC電圧なるように制御装置115が直流電源111の出力を調節する。
【0069】
図3に示す実施例に対して、制御装置115は、ESCin領域でのESC電圧を設定する上で必要なESCin領域のVgap(T)を算出する上で必要となる当該領域の温度を算出する。この温度はVgap(T)を算出するためESCin領域を代表させる温度Tinである。当該温度Tinは、プッシャ孔吸着面302のESCin領域に重なる部分の温度を他の領域の温度または熱を補間した温度に相当する。当該温度Tinは、他の領域からの影響を示す係数Bi(i=c,m,e)として
Tin=Bc
in*Tc+Bm
in*Tm+Be
in*Te
と表される。係数Bi(i=c,m,e)は、プッシャ孔吸着面302全体のうちで、ESCin領域とESCout領域の各々に重なる面積の割合から次のよう定められる。すなわち、例えばプッシャ孔吸着面302の面積が200mm
2の場合は、
Dc
in=200mm
2
Dm
in=0mm
2
De
in=0mm
2
となる。
【0070】
そこで、係数Bを
Biin=Diin/ΣDiin(i=c,m,e)
とすると、
Bcin=200/(200+0+0)=1
Bmin=0/(200+0+0)=0
Bein=0/(200+0+0)=0
となる。よって、ESCin領域の温度Tinは
Tin=Bcin*Tc+Bmin*Tm+Bein*Te=Tc+0+0
となり、中央部の領域の温度と同じとなる。このTinの値を用いてESCin領域304のVbulk(T)が求められ、Vgap(T)、Vchuck(T)が算出される。一方、ESCout領域を代表させる温度Toutは0となるが、ESCin領域304のVchuck(T)の値から、Vesc+およびVesc-が算出され、ESCout電極303のESC電圧の目標値が定められる。
【0071】
一方、
図4や
図5に示す例では、プッシャ孔吸着面302はその投影される領域がESCin領域及びESCout領域の両方に重なって各々の領域に重なっている面積を有している。この場合の各面積を
Dc
in=150mm
2
Dm
in=50mm
2
De
in=0mm
2
となることから、係数Bi
inは、
Bc
in=150/(200+0+0)=0.75
Bm
in=50/(200+0+0)=0.25
Be
in=0/(200+0+0)=0
となる。よって、プッシャ孔吸着面302のESCin領域の部分の温度Tinは
Tin=Bc
in*Tc+Bm
in*Tm+Be
in*Te=0.75Tc+0.25Tm+0
となる。同様に、プッシャ孔吸着面302の各ESC領域に重なる部分の温度Tmの温度も算出される。
【0072】
さらに、本例では、ESCout領域にはプッシャ孔吸着面302の上方から見た投影される領域は重なっておらず、ESCout領域を代表させる温度は周縁吸着面301の温度を他の領域からの温度又は熱を補間した温度に対応するToutである。当該温度Toutは、他の領域からの影響を示す係数をCi(i=c,m,e)として、
Tout=Ccout*Tc+Cmout*Tm+Ceout*Te
で表され、係数Ci(i=c,m,e)は、周縁吸着面301全体の面積のうちでESCout部にかかる割合によって決定されるので、例えば周縁吸着面301の面積が5000mm2の場合は、
Dcout=0mm2
Dmout=0mm2
Deout=5000mm2
となる。
【0073】
そこで、係数Cを
Ciout=Ciout/ΣCiout(i=c,m,e)
とすると、
Ccout=0/(0+0+5000)=0
Cmout=0/(0+0+5000)=0
Ceout=5000/(0+0+5000)=1
となる。よって、ESCout領域の温度Toutは
Tout=Ccout*Tc+Cmout*Tm+Ceout*Te=0+0+Te
となり、外周部の領域の温度と同じとなる。このToutの値を用いてESCout領域303のVbulk(T)が求められ、Vgap(T)、Vchuck(T)が算出される。一方、ESCin領域304を代表させる温度Tinは0となるが、ESCout領域303のVchuck(T)の値から、Vesc+およびVesc-が算出され、ESCin電極304のESC電圧の目標値が定められる。
【0074】
以上の実施例によれば、各ESC領域に重なる吸着面の温度に応じて各領域のESC電圧が調節され、過度な吸着力が生起されてウエハ113の割れや脱落、あるいは吸着の不足といった吸着の不良が生起することが抑制され、ウエハ113の処理の効率または歩留まりが向上される。
【符号の説明】
【0075】
101 高周波電源、
102 整合器、
103 誘導コイル、
104 窓部材、
105 処理室、
106 プラズマ、
107 アース電極、
108 電極、
109 試料台、
110 高周波バイアス電源、
111 直流電源、
112 Vppモニタ、
113 ウエハ、
114 自己バイアス電圧算出器、
115 制御装置。
116 真空容器。