(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】半導体チップが形成されたウェーハの加工方法及びそれに用いる加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241216BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20241216BHJP
C30B 33/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
B23K26/354
C30B33/00
(21)【出願番号】P 2021038951
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-38870(JP,A)
【文献】特開2011-210915(JP,A)
【文献】特開2018-129504(JP,A)
【文献】特開2007-103718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/354
C30B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に回路が形成された半導体ウェーハの周縁部を加工する加工方法において、
高速に回転する加工工具を低速で回転する前記半導体ウェーハに当接させて前記半導体ウェーハの周縁部を切削または研削加工するステップと、
低速で回転する前記半導体ウェーハに前記加工工具が当接する位置の近傍であって、前記半導体ウェーハを加工する前の加工予定位置にレーザ光を照射して、前記加工予定位置の表面を溶融して非晶質化するステップとを含み、
前記加工予定位置は、前記加工工具が配設された位置よりも前記半導体ウェーハの回転方向の後ろ側であって、前記加工工具が未だ当接していない面を有する位置であり、前記レーザ光の照射ステップを経た前記加工予定位置のみを前記切削または研削加工するよう制御装置が制御することを特徴とする半導体ウェーハの加工方法。
【請求項2】
前記加工工具が配設された位置よりも前記半導体ウェーハの回転方向の後ろ側の前記加工予定位置の代わりに、前記半導体ウェーハの回転方向の前側にある、前記半導体ウェーハの加工後の位置であって、前記加工で発生した摩擦熱が実質的には完全に放散されない位置を加工予定位置とし、前記加工予定位置を最初に切削または研削加工するパスにおいては、レーザ光を予め当該加工予定位置に照射しておくことを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの加工方法。
【請求項3】
前記半導体ウェーハがSi基板、サファイア基板、GaN基板、SiC基板、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板の少なくともいずれかで構成されているときは、前記レーザ光を波長が532nm以上の長波長のパルスレーザ光としたことを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの加工方法。
【請求項4】
前記半導体ウェーハが酸化ガリウム基板から構成されているときは、前記レーザ光を紫外エキシマレーザ光としたことを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの加工方法。
【請求項5】
表面に半導体チップが多数形成された半導体ウェーハを加工する加工装置において、
前記半導体ウェーハの周縁部を切削または研削し高速に回転する加工工具と、前記半導体ウェーハを低速に回転する回転ベッドと、前記加工工具の回転と前記半導体ウェーハの回転を制御する制御装置を備え、
前記加工工具で前記半導体ウェーハの周縁部を加工するときに、前記加工工具が前記半導体ウェーハに当接する位置の近傍であって前記加工工具が切削または研削加工する前の位置に前記ウェーハの加工表面を溶融して非晶質化するレーザ光を照射する、レーザ光照射装置を設け、
前記制御装置は、前記加工工具が切削または研削加工する加工予定位置を、予めレーザ光照射するよう制御することを特徴とする半導体ウェーハの加工装置。
【請求項6】
前記レーザ光照射装置は、パルスレーザ光を出射する装置であることを特徴とする請求項5に記載の半導体ウェーハの加工装置。
【請求項7】
前記半導体ウェーハが酸化ガリウム基板から構成されるときに、前記レーザ光照射装置は紫外エキシマレーザであることを特徴とする請求項5に記載の半導体ウェーハの加工装置。
【請求項8】
前記半導体ウェーハがSi基板、サファイア基板、GaN基板、SiC基板、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板の少なくともいずれかで構成されるときに、前記レーザ光照射装置は、波長が532nm以上の長波長のパルスレーザ光を出射可能な装置であることを特徴とする請求項5に記載の半導体ウェーハの加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に多数の半導体チップが形成されたウェーハの加工方法及びそれに用いる加工装置に係り、特にウェーハの薄板化またはテラス加工において好適な、レーザ照射を利用する、半導体チップが形成されたウェーハの加工方法及びそれに用いる加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップが多数形成されたウェーハ等では、基材の例えばシリコンウェーハを裏面から研削して薄板化し、その後各半導体チップに分割する方法が用いられている。ウェーハの周縁部に発生した亀裂や傷がウェーハの中心部まで進展して半導体チップの形成歩留まりが低下するのを防止するため、ウェーハの薄板化に先立ち、周縁部だけ所定厚み研削するテラス加工や、周縁部を整形する加工が実施される。
【0003】
ウェーハの周縁部を加工する従来技術が、特許文献1や特許文献2開示されている。特許文献1では、専用の加工装置を使用せずに、大口径のウェーハから小径のウェーハを形成する、またはレーザ加工装置を使用せずに、割れがあるウェーハから取り扱い容易な形状のウェーハを作成するために、ダイシング装置をチャックテーブルに取り付けてウェーハを加工している。さらに、チャックテーブルの回転だけでなく、チャックテーブルのX軸方向の移動とブレードのY軸方向の移動を用いて、任意の曲線状にウェーハをカットして、取り扱い容易なウェーハ形状を得ている。
【0004】
また、特許文献2では、ウェーハのエッジトリミング加工において、厚さが不均一となっているウェーハの不均一部分を認識して再加工するとともに、所望の切削深さに加工している。具体的には、回転する切削ブレードをウェーハの上方から降ろし、ウェーハの外周縁に所定深さ切り込みながら、ウェーハを回転させて外周縁を切削加工する。この時外周縁に形成される切削痕を撮像し、ウェーハの回転角度ごとの切削痕の深さを記憶し、回転角度ごとに切削痕が所定深さに達しているか否かを判断し、所定深さに達していない部分を再度切削加工している。
【0005】
半導体チップが形成されたウェーハの裏面を研削してウェーハを薄板化することが、特許文献3に記載されている。この公報に記載のウェーハの薄板化では、板厚が数十μm以下になる裏面研削でも半導体基板の周辺部に割れや欠けが発生しないようにするために、ウェーハの面取り部を、裏面研削の目標板厚より若干深い深さで切削している。そして、表面の平坦部に半導体素子保護テープを張り付け、刃物で平坦部の形状に合わせて円形に切断し、その後裏面研削用砥石でウェーハの裏面を研削している。これにより、保護テープが巻き込まれる事態に起因する、及びナイフエッジ状の面取り部が残ることに起因するウェーハの周辺の割れや欠けを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-54461号公報
【文献】特開2013-149822号公報
【文献】特開2000-173961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のウェーハの加工装置では、欠け等のあるウェーハの周囲部をダイシングブレードで切断して小径のウェーハを製作している。しかしながらこの公報に記載の装置では、ダイシングブレードで切断するだけであり、ダイシングブレードの摩耗等により加工中に新たな亀裂が発生して中心部に進展することについては考慮されていない。つまり加工部が結晶性を帯びているウェーハでは、加工方位と結晶方位が相違する場所が多々あるので、ダイシングブレードで機械的に加工すると、予期しない方向にチッピング等の微小割れが発生する虞れがある。
【0008】
特許文献2に記載のウェーハの加工方法では、ウェーハの厚みの変化に応じて切削ブレードで同一個所を複数回切削することが記載されている。しかしこの公報に記載の方法においても、切削ブレードで機械的にウェーハを加工するだけであるから、結晶方位と加工方向との相違等に起因して、予期しない方向にチッピング等の微視的な割れが発生する虞れがある。
【0009】
また特許文献3には、ウェーハの裏面研削において、保護テープを貼り付けた後に刃物で周縁部を切削することが記載されている。この公報に記載の方法でもやはり、結晶方位性のあるウェーハをただ切削工具で切削しているだけであるから、加工方向とウェーハの結晶方位が相違しそれに工具の摩耗等が加わると、ウェーハが予期しない方向等に欠けるまたは微小亀裂が発生する虞れがある。
【0010】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、半導体チップが形成されたウェーハの周縁部を切削または研削加工するときに、砥石や切削具等の工具の摩耗等が生じることが予期される場合であっても、切削深さを均一にしてまたはチッピングの発生を防止して、ウェーハの周縁部を所期の形状に高精度で加工することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の特徴は、表面に回路が形成された半導体ウェーハの周縁部を加工する加工方法において、高速に回転する加工工具を低速で回転する前記半導体ウェーハに当接させて前記半導体ウェーハの周縁部を切削または研削加工するステップと、低速で回転する前記半導体ウェーハに前記加工工具が当接する位置の近傍であって、前記半導体ウェーハを加工する前の加工予定位置にレーザ光を照射して、前記加工予定位置の表面を溶融して非晶質化するステップとを含み、前記加工予定位置は、前記加工工具が配設された位置よりも前記半導体ウェーハの回転方向の後ろ側であって、前記加工工具が未だ当接していない面を有する位置であり、前記レーザ光の照射ステップを経た前記加工予定位置のみを前記切削または研削加工するよう制御装置が制御することにある。
【0012】
そしてこの特徴において、前記加工工具が配設された位置よりも前記半導体ウェーハの回転方向の後ろ側の前記加工予定位置の代わりに、前記半導体ウェーハの回転方向の前側にある前記半導体ウェーハを加工した後の位置であって、前記加工で発生した摩擦熱が実質的には完全に放散されない位置を加工予定位置とし、前記加工予定位置を最初に切削または研削加工するパスにおいては、レーザ光を予め当該加工予定位置に照射しておくことが好ましい。
【0013】
また、前記半導体ウェーハがSi基板、サファイア基板、GaN基板、SiC基板、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板の少なくともいずれかで構成されているときは、前記レーザ光を波長が532nm以上の長波長のパルスレーザ光とするのが好ましく、前記半導体ウェーハが酸化ガリウム基板から構成されているときは、前記レーザ光を紫外エキシマレーザ光とすることが望ましい。
【0014】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、表面に半導体チップが多数形成された半導体ウェーハを加工する加工装置において、前記半導体ウェーハの周縁部を切削または研削し高速に回転する加工工具と、前記半導体ウェーハを低速に回転する回転ベッドと、前記加工工具の回転と前記半導体ウェーハの回転を制御する制御装置を備え、前記加工工具で前記ウェーハの周縁部を加工するときに、前記加工工具が前記半導体ウェーハに当接する位置の近傍であって前記加工工具が切削または研削加工する前の位置に前記ウェーハの加工表面を溶融して非晶質化するレーザ光を照射する、レーザ光照射装置を設け、前記制御装置は、前記加工工具が切削または研削加工する加工予定位置を、予めレーザ光照射するよう制御することにある。
【0015】
そしてこの特徴において、前記レーザ光照射装置は、パルスレーザ光を出射することが好ましく、前記半導体ウェーハが酸化ガリウム基板から構成されるときに、前記レーザ光照射装置は紫外エキシマレーザであることが望ましく、前記半導体ウェーハがSi基板、サファイア基板、GaN基板、SiC基板、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板の少なくともいずれかで構成されるときに、前記レーザ光照射装置は、波長が532nm以上の長波長のパルスレーザ光を出射可能であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体チップが形成されたウェーハの周縁部を切削または研削加工するときに、切削または研削加工予定位置を加工前に予めレーザ照射により非晶質化して改質したので、切削または研削加工において所期の加工位置で加工することができ、切削深さを均一にでき、またチッピングの発生を防止できる。これにより、ウェーハの周縁部を所期の形状に高精度で加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る半導体チップが形成されたウェーハの加工装置の一実施例の正面図である。
【
図2】
図1に示したレーザ加工装置の配置を説明するための、レーザ加工装置の上面図である。
【
図3】本発明に係るウェーハ加工の一実施例の手順を説明する図である。
【
図4】本発明に係る半導体チップが形成されたウェーハの加工装置の他の実施例の正面図である。
【
図5】
図4に示したレーザ加工装置の配置を説明するための、レーザ加工装置の上面図である。
【
図6】本発明に係るウェーハ加工の他の実施例の手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る半導体チップが形成されたウェーハの加工装置及び加工方法を、図面を用いて説明する。
図1は、半導体チップが形成されたウェーハWをテラス加工するのに用いるウェーハ面取り装置100を含むウェーハ加工装置300の一実施例の正面図である。ウェーハ面取り装置100は、ウェーハWや種々の脆性板状体の周縁部を加工する装置であり、例えば、Siウェーハや、サファイア、SiC、GaN、LT等の化合物半導体を加工可能である。本実施例の以下の記載では、ウェーハ面取り装置100で加工する被加工物として、シリコンウェーハWを例にとり説明するが、その他の材料製のウェーハや板状体、貼り合わせウェーハであっても同様に加工できる。
【0019】
ウェーハ面取り装置100は、ウェーハ送りユニット102と研削ユニット104を備える。ウェーハ送りユニット102は水平に配置されたベースプレート106を備え、ベースプレート106上には、1対のY軸ガイドレール108が間隔を置いて平行に配置され、各Y軸ガイドレール上にはY軸リニアガイド110が配設されている。Y軸リニアガイド110上には、Y軸テーブル112が載置されている。Y軸テーブル112は、Y軸モータ114で駆動されるY軸ボールねじ116により、Y軸ガイドレール108に沿ってY方向に直動する。
【0020】
Y軸テーブル112上にはY軸ガイドレール108に直交して、1対のX軸ガイドレール120が間隔を置いて平行に配設され、各X軸ガイドレール120上にはX軸リニアガイド122が配設されている。X軸リニアガイド122上にはX軸テーブル124が載置されている。X軸テーブル124は、X軸モータ126で駆動されるX軸ボールねじ128により、X軸ガイドレール120に沿ってX方向に直動する。
【0021】
X軸テーブル124上には、Z軸ベース130がX軸テーブル124に対して垂直に設けられており、Z軸ベース130にはZ軸ガイドレール132が配設されている。Z軸ガイドレール132にはZ軸リニアガイド134が取り付けられており、Z軸リニアガイド134の反Z軸ガイドレール面側にはZ軸テーブル136が上下方向に移動可能に配設されている。Z軸テーブル136は、Z軸モータ138で駆動されるZ軸ボールねじ140により、上下方向に移動可能になっている。すなわち、Z軸モータ138を駆動するとZ軸ボールねじ140が回動し、Z軸テーブル136がZ軸ガイドレール132に沿って昇降する。
【0022】
Z軸テーブル136上には、ワークを回転させるのに用いる保持台である回転ベッドとしての吸着テーブル160を回転駆動するθ軸モータ150が、配設されている。θ軸モータ150は、θ軸シャフト152に連結されており、θ軸シャフト152の上端部に、吸着テーブル160が水平に接続されている。吸着テーブル160はいわゆる真空チャックであり、被加工物であるウェーハWを真空吸着して載置し、その状態でウェーハWをテラス加工する。ここで、θ軸はZ軸に平行な上下方向を向いた回転軸線である。
【0023】
このように構成したウェーハ送りユニット102では、Y軸モータ114を制御装置252が駆動制御することにより、吸着テーブル160は
図1で左右方向であるY方向に移動し、同様に、制御装置252がX軸モータ126を駆動制御することにより、吸着テーブル160は
図1で紙面表裏方向であるX方向に移動する。また、制御装置252がθ軸モータ150を駆動することにより、Z軸に平行なθ軸周りに吸着テーブル160は比較的低速で回転する。
【0024】
一方、研削砥石180が取り付けられる研削ユニット104においては、ベースプレート106上に架台174が配設されている。架台174上には、外周モータ176が設けられており、外周モータ176はスピンドル178に連結されている。スピンドル178の中心軸線CHはZ軸に平行である。スピンドル178の下端部には、研削砥石180が着脱可能に取り付けられる。スピンドル178は、外周モータ176により比較的高速に回転駆動される。クーラント190を吐出するノズル192が、研削砥石180の近傍に配置されており、研削砥石180がワークに当接する研削位置へクーラント190を噴射する。
【0025】
上記のように構成したテラス加工装置では、従来のウェーハの面取り装置100と同様の構成を採用しているが、本発明においては、上述の従来の機械的な研削加工に加えて、レーザ加工を研削加工時に併用することを特徴とする。そのため、ウェーハ面取り装置100にレーザ加工装置200が付加されている。このレーザ加工装置200を備えたウェーハ面取り装置100を、以下ウェーハ加工装置300と呼ぶ。
【0026】
ウェーハ加工装置300では、ウェーハ面取り装置100の近傍に、レーザ加工装置200を配置する。この様子を
図2を用いて説明する。
図2は、レーザ加工装置200の主要部を含むウェーハ加工装置300の上面図である。
図1では、理解しやすいようにレーザ加工装置200をウェーハ送りユニット102を挟んで研削ユニット104の反対側に配置しているが、
図2に示すようにレーザ加工装置200は、研削砥石180がウェーハにWに当接する位置の近傍に、照射位置が位置するように配置される。
【0027】
レーザ加工装置200は、レーザ光源210と、このレーザ光源210から出射した光を2つに分光するビームスプリッタ212を備える。ビームスプリッタ212で分光された一方の光である第1の分光220は、ガルバノミラー222及びf-θレンズ224を介してZ軸方向に位置を調整されて照射位置PIである端面242に照射される。他方の光である第2の分光230は、同様にガルバノミラー232、f-θレンズ234を介して半径方向に位置を調整されて、照射位置PIであるテラス加工面244に照射される。ウェーハWの研削加工前の位置である照射位置PIでは、これら2つの分光が各面242、244を照射して、研削前のウェーハWを加熱する。
【0028】
なお、テラス加工の形態によっては、テラス加工で形成される上下方向に広がる端面242が、円筒面ではなく円錐面となる。その場合、第1の分光220は、角度を持って端面242に入射する。また、研削加工時に発生する摩擦熱を併用して、次回研削面をさらに改質する場合には、レーザ光の照射位置PIをクーラント190の冷却効果が進む前の位置、すなわち研削加工直後の位置(図ではウェーハの回転方向が右方向であるから、研削位置Pgよりも右側)にすることも可能である。
【0029】
レーザ加工装置200の各光学部品212、222、224、232、234は、筐体または保持具254内に配設され、これらは本実施例では、ウェーハ面取り装置100の制御装置252の上面に配置されている。すなわち、制御装置252は架台としても働き、加工スペースの有効活用を図っている。ウェーハ面取り装置100の制御装置252の上部には、レーザ加工装置200の制御装置250が組み込まれており、レーザ光源210のレーザ光の出射や、ガルバノミラー222、232の照射位置や回動等を制御する。
【0030】
このように構成したウェーハ加工装置300を用いてウェーハWをテラス加工する本発明の加工方法を
図1~3を用いて説明する。ここで、
図3は、ウェーハWのテラス加工の様子を、ウェーハの部分正面図で示した図である。
図3(a)は、テラス加工前の状態を示し、
図3(b)は研削加工前のレーザ加工状態を示し、
図3(c)は研削加工中の状態を示す。
図3(d)は、テラス加工を終えた状態を示す。ウェーハ面取り装置100を用いたテラス加工では、初めにウェーハWを吸着テーブル160に載置し、真空吸着する。それとともに、Z軸モータ138を駆動して吸着テーブル160の高さを調整して、ウェーハWの高さを研削砥石180の加工位置に合わせ、X軸モータ126を駆動してウェーハWの回転軸となるθ軸と研削砥石180の中心軸線CHのX軸方向位置に一致させる。この時、Y軸モータ114は駆動しないか、またはウェーハWが研削砥石180に接近し過ぎていたら退避位置まで退避しているように駆動する。
【0031】
次いで制御装置252が外周モータ176を高速に、θ軸モータ150を低速にそれぞれ同一方向の移動になるように回転制御する。例えば、外周モータ176に連結したスピンドル178に取り付けた研削砥石180の回転速度が3000rpm、ウェーハWの外周速度が5mm/sとなる回転速度に、それぞれのモータ176、150を制御する。
【0032】
この状態で、制御装置252がY軸モータ114を駆動して、ウェーハWを研削砥石180にY軸方向に接近させる(
図3(a)参照)。そして、ウェーハWが研削砥石180に当接する地点の近傍まで接近したら、Y軸モータ114の回転速度を低下させ、ウェーハWのY軸方向送り速度を減速し、ウェーハWに研削砥石180を当接させる。その後、1研削当たりの半径方向研削幅となるようにウェーハWのY軸方向送り量を決定し、決定した送り量の下でウェーハWの全周にわたり研削を開始する(
図3(c)参照)。一旦研削が開始されると研削位置に向けてノズル(冷却液供給手段)192からクーラント190が噴出され、研削により生じた研削屑や砥石の摩耗粉等を研削位置から排除するとともに、研削個所を冷却する。
【0033】
1研削で(1パス当たり)可能な半径研削幅が所望テラス加工部P
Tの幅以上であれば、全周にわたり研削が終了すると、Y軸モータ114を駆動してウェーハWを研削位置から退避する。1研削当たり可能な半径方向研削幅が所望テラス加工部P
Tの幅より小さければ、複数回(複数パス)だけ上記を繰り返す。また、一般にウェーハにテラス加工を施す場合は、ウェーハの厚み方向、すなわちZ方向に複数回の研削が必要であるから、Z軸モータを駆動して所定Z軸方向送り量だけZ方向にウェーハWを移動させて、研削高さ位置を変更する。ウェーハWの高さ位置が下方に変化したので、再びY軸モータ114を駆動してウェーハWに当接させ、所定Y軸方向送り量で所定半径方向幅の研削を実行する。これを繰り返し、ウェーハWにおいて所定厚さまでテラス加工を施したら(
図3(d)参照)、次のウェーハWの加工に移る。なお、
図3(b)は、以下に詳述するレーザ加工状態を示す図であり、ウェーハ送りユニット102において周方向位置を、その他の図(
図3(a)、(b)、(d))とは変えて示している。上記テラス加工においては、制御装置252が、研削砥石180の研削速度や、ウェーハWの回転速度、及び研削砥石180とウェーハWの位置を制御する。
【0034】
ところでウェーハWに研削砥石180を当接させると、それらの間の回転速度の違いから摩擦が発生し、ウェーハWの表面をダイヤモンド等の高硬度の砥粒が削り取る。そのため、ウェーハWの表面には瞬時に大きな摩擦力が加わり、砥粒が安定して研削砥石180に保持されていない状態、すなわち研削砥石180が摩耗する状態ではウェーハWを想定外に傷つけ、好ましくない欠陥が生じる虞れがある。
【0035】
そこで、研削砥石180が研削する予定の箇所(加工予定位置)PTを予めレーザ光で破壊して砥粒による研削負荷を低減する、もしくは研削のガイドとする。すなわち、ウェーハWにおける砥粒が取り去る個所をレーザ光で予め微視的に定めることで、砥粒がその部分を通り過ぎると、レーザ光で微視的に破壊して非晶質化した部分からだけウェーハが剥がれ取られ、意図しない剥離が防止されることになる。このレーザ光による破壊は、砥粒による破壊とは異なり微視的であり、ウェーハWを一時的に溶融して液相またはそれに近い状態にして非晶質化するものであるから、砥粒による剪断応力が著しく軽減される。
【0036】
このようなレーザ光によるウェーハWの予改質の状態を、
図3(b)に示す。ウェーハWの予改質であるので、研削加工の前に実施する。そのため、研削位置P
gよりもウェーハWの回転方向における後ろの位置(図ではウェーハWが右回転するので、研削位置P
gよりも左側)にレーザ光の照射位置P
Iを設定する。なお、上述したように、現在の研削加工後にさらにウェーハWの厚み方向位置を変えて研削加工するのであれば、研削加工終了後の位置、すなわちウェーハWの回転方向の前側の位置に予改質のためのレーザ照射位置P
Iを設定してもよい。この場合、研削加工による摩擦熱を利用できる、研削加工終了直後位置にレーザ照射位置P
Iを設定すると、クーラント190により摩擦熱が放散される前に、ウェーハWの表面を研削時の摩擦熱を含めて予改質して非晶質化でき、効果的にウェーハを予改質できる。
【0037】
本実施例に示したレーザ加工装置200を用いたレーザ加工について、以下にさらに説明する。レーザ光はパルスレーザ光であり、その波長は被加工物であるウェーハWの材質に応じて変化させることが好ましい。被加工物が、Si(シリコン)、サファイア、GaN(窒化ガリウム)、SiC(炭化ケイ素)、LiTaO3(タンタル酸リチウム)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)等のウェーハや基板の場合には、波長が比較的長い532nm以上のナノ秒パルスレーザを用いることがテラス加工面の熱吸収の面で好ましい。
【0038】
その際、GaNやSiC基板またはウェーハの場合には、レーザ吸収率の高い流動性物質をウェーハや基板の表面に塗布してレーザ光を照射するようにしてもよい。この場合、ウェーハWの内部に到達する前に流動性物質に吸収されるレーザ光の割合が高いので、レーザ光で発生する熱はウェーハWの界面すなわちテラス加工面242、244に集中し、より効果的にウェーハWを溶融でき、テラス加工面242、244を平坦化できる。一方、Ga2O3(酸化ガリウム)の場合には、波長の短い、例えば波長250~260nmの紫外エキシマレーザを用いることにより、ウェーハWの予改質が可能になる。
【0039】
本実施例によれば、制御装置252が、予め記憶されたプログラミングにしたがって、研削加工直前のウェーハWにレーザ光を照射して、加工表面を一旦溶融して改質したのちウェーハWをテラス加工するように制御するので、研削砥石180の砥粒がウェーハWから剥離する領域を予め定めることが可能になる。したがって、ウェーハWの意図しない部分が砥粒により剥がし取られることを防止でき、加工面における欠陥や亀裂、チッピング等の不具合の発生を防止できる。これによりテラス部に起因する亀裂が半導体ウェーハ上に形成されたチップ部へ進展するのを防止し、半導体製造の歩留まりを向上できる。
【0040】
次に、本発明に係る半導体チップが形成されたウェーハの加工の他の実施例を
図4ないし
図6を用いて説明する。本実施例の加工は、半導体チップが形成されたウェーハWの周縁部を切断する、トリミング加工である。トリミング加工であり、使用する工具は円板状のダイシングブレード182である。
図4は、
図1に対応するウェーハ加工装置301の正面図であり、
図5は、レーザ加工装置201の配置を示す、レーザ加工装置201部分の上面図である。
図6は、トリミング加工の様子を説明するための図であり、ウェーハとダイシングブレード182及びレーザ加工装置201の相対関係を示す図である。
【0041】
図4に示すウェーハ加工装置301を参照して、
図1のウェーハ面取り装置100は研削ユニット104を備えていたが、本実施例のウェーハ加工装置301はその代りに切削ユニット105を有するダイシング装置101を備える。ダイシング装置101の切削ユニット105は、
図1の研削ユニット104とほぼ同様の構成であるが、スピンドル178が横軸に形成されており、スピンドル178の先端部に円板状のカッターであるダイシングブレード182が取り付けられている点で、
図1の研削ユニット104と相違する。切削ユニット105では、ダイシングブレード182を高速で回転させながら降下させ、吸着テーブル160に載置したウェーハWに当接させて、ウェーハの周縁部を所定形状に切断する。
【0042】
また、レーザ加工装置201も
図1の場合に比べて簡単化され、レーザ光源210から出射された出射光216は、ガルバノミラー232で方向を変えられてf-θレンズ234に入射する。そして、ガルバノミラー232及びf-θレンズ234で位置を調整されて、ウェーハWのエッジトリミング部またはトリミング加工部P
TRに照射される(
図6(a)参照)。
【0043】
図5に示すように、本実施例においても、レーザ加工装置201は、ダイシングブレード182を用いたダイシング加工部(トリミング加工部)P
TRの近傍であって直前の位置に配置される。すなわち、ウェーハWが右回転しているので、トリミング加工部P
TRよりも左側にレーザ加工装置201の照射位置P
Iが設定されている。
【0044】
制御装置252は予め記憶されたプログラムにしたがって、ウェーハWのダイシング加工前にレーザ加工装置201が、加工予定位置であるトリミング加工部PTRを溶融し非晶質化するよう制御する。したがって、ウェーハWは微視的に破壊され、その破壊部分からダイシングを進める。これにより、意図しない剥離や亀裂がウェーハWの中央部へ進展するのを防止できる。
【0045】
図5では、レーザ照射位置P
Iとトリミング加工部P
TRの間にクーラント190用のノズル192を配置しているので、レーザ照射後であってダイシング加工前にウェーハWは冷却される。クーラント190による冷却熱がレーザ照射位置P
Iに伝達すると、レーザ照射の効率が低下する。このような効率の低下を嫌う場合には、レーザ加工装置201による照射位置P
Iをトリミング加工部P
TRの後ろの位置、すなわち
図5で右側に配置することも可能である。
【0046】
その場合、レーザ光が発生する熱とともにクーラント190ではまだ十分に放散されていないダイシング加工時の摩擦熱を利用できる利点がある。ただし、本方法は、ウェーハWの厚み方向に複数回(複数パス)ダイシング加工を実施する場合にのみ有効であり、その場合であっても初め(1回目の加工パス)のダイシング加工では、レーザ照射によるウェーハWの予改質の恩恵を得られない。これを回避するためには、1回目のパスでは、ダイシング加工をしないで、レーザ光の照射だけしながらウェーハを回転させ、次の回(次のパス)からは通常通りウェーハWをダイシング加工した後にレーザ加工を実施するよう制御装置252が制御する。
【0047】
この場合であってもレーザ光を用いた初回のウェーハの改質ではダイシング加工時の摩擦熱を利用することはできないので、ダイシング加工の後ろ側の位置にレーザ光の照射位置PIを設定するときは、1回目のパスだけはウェーハW上のトリミング線LTRに沿ってより大出力のレーザ光を出射するのが望ましい。
【0048】
図6に、ダイシング装置101とレーザ加工装置201を備えるウェーハ加工装置301を用いた、ダイシング加工方法を示す。ダイシングブレード182を例えば500rpmで高速にR方向(
図5参照)に回転し、ウェーハWを外周速度5mm/sで低速に回転する。レーザをウェーハWに照射位置P
Iで照射する(
図6(a))。照射位置P
Iは、ダイシングブレード182を用いてウェーハWをトリミング加工するトリミング線L
TR上に設定される。そして、照射位置P
Iは、ウェーハWにダイシングブレード182が当接するダイシング加工位置196よりウェーハWの回転方向において、後ろ側の位置に設定される。
【0049】
同一ウェーハWの、照射位置P
IよりウェーハWの回転方向に後ろ側の位置であるダイシング加工位置196では、照射位置P
Iでレーザ光が照射されて改質されたウェーハWがダイシングブレード182を用いて切削される(
図6(b))。
図6(a)と
図6(b)の工程を所望加工パスだけ繰り返す。最終的にウェーハWは、所望形状に周縁部を切断されて、トリミング加工が終了する(
図6(c))。
【0050】
本実施例においても、ダイシング直前のウェーハにレーザ光を照射して、加工表面を一旦溶融して非晶質に改質するので、ダイシングブレードが切削する領域と切削しない領域とを微視的に予め区別することが可能になる。したがって、微視的にウェーハWの意図しない部分が切削されることを防止でき、加工面における欠陥や亀裂、チッピング等の不具合の発生を防止できる。これによりエッジトリミング部に起因する亀裂が半導体ウェーハ上に形成されたチップ部へ進展するのを防止し、半導体製造の歩留まりを向上できる。
【0051】
なお、上記各実施例で説明したレーザ加工を、少なくともテラス加工またはトリミング加工における最後の工程前もしくは仕上げ工程の前に実施すれば、薄板化工程等の次工程に平坦化され亀裂やチッピングのない状態でウェーハを提供できる。したがって、加工の複雑さを排したい場合や途中の加工では亀裂やチッピングの発生する虞れが少ない場合等には、レーザ加工を省くこともできる。しかしながら、研削砥石やダイシングブレードにおける摩耗の発生タイミングを予期することは困難であるから、毎研削または切削パスの実施前に上記各実施例に示したレーザ加工を併用することが望ましい。
【符号の説明】
【0052】
100…ウェーハ面取り装置、101…ダイシング装置、102…ウェーハ送りユニット、104…研削ユニット、105…切削ユニット、106…ベースプレート、108…Y軸ガイドレール、110…Y軸リニアガイド、112…Y軸テーブル、114…Y軸モータ、116…Y軸ボールねじ、120…X軸ガイドレール、122…X軸リニアガイド、124…X軸テーブル、126…X軸モータ、128…X軸ボールねじ、130…Z軸ベース、132…Z軸ガイドレール、134…Z軸リニアガイド、136…Z軸テーブル、138…Z軸モータ、140…Z軸ボールねじ、150…θ軸モータ、152…θ軸シャフト、160…吸着テーブル(回転ベッド)、174…架台、176…外周モータ、178…スピンドル、180…研削砥石(加工工具)、182…ダイシングブレード(加工工具)、190…冷却液(クーラント)、192…冷却液供給手段(ノズル)、196…ダイシング加工位置、200、201…レーザ加工装置、210…レーザ光源、212…ビームスプリッタ、216…出射光、220…(第1の)分光、222…ガルバノミラー、224…f-θレンズ、230…(第2の)分光、232…ガルバノミラー、234…f-θレンズ、242…(テラス加工)端面、244…テラス加工面、250…(レーザ加工装置の)制御装置、252…制御装置、254…保持具(筐体)、300、301…ウェーハ加工装置、CH…中心軸線、LTR…トリミング線、PI…(レーザ)照射位置、Pg…研削位置、PT…テラス加工部(加工予定位置)、PTR…トリミング加工部(ダイシング加工部、加工予定位置))、R…回転方向、W…ウェーハ