(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物、およびそれを用いた多層構造体および包装材
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20241216BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241216BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241216BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241216BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L29/04 S
C08K3/34
B65D65/40 D
B32B27/00 A
(21)【出願番号】P 2021528280
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025380
(87)【国際公開番号】W WO2020262667
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019119081
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019148045
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】坂野 豪
(72)【発明者】
【氏名】尾下 竜也
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-502306(JP,A)
【文献】特表2007-514043(JP,A)
【文献】特開昭56-086944(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125739(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/068105(WO,A1)
【文献】特表2016-515647(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102690(WO,A1)
【文献】特開2008-201432(JP,A)
【文献】特開平05-247258(JP,A)
【文献】特開昭54-088951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
C08L 29/04
C08K 3/34
B65D 65/40
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるエチレン単位と置換基R
1を有するノルボルネン単位との繰り返し単位を含むエチレン-環状オレフィン共重合体(A)、および遷移金属触媒(B)を含有する樹脂組成物であって、
【化1】
式中、R
1はエチレン基または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基を表し、lおよびnはそれぞれ該エチレン単位および該置換基R
1を有するノルボルネン単位の含有比率を表し、lとnとの比(l/n)が4以上2000以下であり、
該エチレン-環状オレフィン共重合体(A)が、n-ブチル基、n-ペンチル基、およびn-ヘキシル基からなる群から選択される少なくとも1種のアルキル基で構成される分岐鎖を有する共重合体であり、該エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の
13C NMRを用いて得られた、1000炭素原子あたりの該分岐鎖を構成する該アルキル基の合計数が0.001~5である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)が、下記式(II)で表される、エチレン単位と置換基R
2を有するエチレン単位と置換基R
1を有するノルボルネン単位との繰り返し単位を含み、
【化2】
(式中、R
1はエチレン基または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基を表し、R
2は炭素数1~8の脂肪族炭化水素基を表し、l、mおよびnはそれぞれ該エチレン単位、該置換基R
2を有するエチレン単位、および該置換基R
1を有するノルボルネン単位の含有比率を表す)
l、mおよびnが下記式(III)の関係を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
0.0005≦n/(l+m+n)≦0.2 (III)
【請求項4】
前記式(I
)におけるR
1が、炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基;炭素数2~3のアルキニル基;および炭素数2~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキリデン基;からなる群から選択される少なくとも1種の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基である、請求項
1
に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(II)におけるR
1
が、炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキ
ル基;炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基;炭素数2~3のアル
キニル基;および炭素数2~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキリデン基;からなる群か
ら選択される少なくとも1種の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基である、請求項
2または3に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記式(II)におけるR
1
がエチリデンエチレン基である、請求項2または3に記載
の樹脂組成物。
【請求項28】
前記内容物が食品である、請求項
27に記載の包装製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、およびそれを用いた多層構造体および包装材に関し、より詳細には、優れた酸素吸収性を有する樹脂組成物、およびそれを用いた多層構造体および包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性樹脂、例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略すことがある)は、酸素バリア性に優れた材料である。このような樹脂は溶融成形が可能であるので、耐湿性、機械的特性等に優れた熱可塑性樹脂(ポリオレフィン、ポリエステル等)の層と積層され、多層包装材として好ましく用いられている。しかし、これらのガスバリア性樹脂の気体透過性は完全にゼロであるわけではなく、無視し得ない量の気体を透過する。このような気体の透過、とりわけ、包装体の内容物、特に食品の品質に大きな影響を及ぼす酸素の透過を低減するために、また、内容物の包装時点ですでに包装体内部に存在する酸素を吸収させて除去するために、包装材料に酸素吸収性を有する成分を含有させた樹脂組成物を使用することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1は、包装材料を構成する酸素吸収性樹脂層として、5-エチリデン-2-ノルボルネンを含むエチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびステアリン酸マンガンを含有する樹脂組成物を用いることを開示している。特許文献2は、メタロセン触媒のようなシングルサイト触媒を用いて重合したポリオレフィン樹脂を含有する酸素吸収性樹脂を開示している。特許文献3は、ポリオレフィン系樹脂および担体に担持されていない酸化触媒を含有する酸素吸収性樹脂組成物を開示している。
【0004】
また、EVOHは低湿度下では優れた酸素バリア性を示す一方で、EVOHを含む多層構造体の容器をレトルト処理等の高温高圧の熱水処理を施すと、酸素バリア性が著しく低下するレトルトショック現象を引き起こし、容器の内容物の品質を低下させることがある。レトルト処理後でも高い酸素バリア性を示す樹脂組成物として、特許文献4にEVOH、ポリオクテニレンおよび遷移金属触媒からなる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-234718号公報
【文献】特開2005-320513号公報
【文献】特開2007-076365号公報
【文献】特開2008-201432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3に記載の酸素吸収性樹脂組成物はいずれも、相応の酸素吸収性を有するものの、当該酸素吸収性を発揮する主要成分の樹脂の構造の一部が酸素分子との反応によって分解され、不快な臭気の原因となる種々の揮発性分解生成物(例えば、脂肪酸であるギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸やカプロン酸、アルデヒドであるアセトアルデヒド、プロパナール、ブタナール、バレルアルデヒドやヘキサナール)を発生することがある。特許文献4に記載の樹脂組成物は、レトルト処理後の酸素バリア性は良好である一方で、レトルト処理後に樹脂が着色することや、酸化反応の副反応に伴う揮発性分解生成物の発生に由来して不快な臭気を発することがあった。特に、人よりも臭いに敏感な犬や猫などの食品(ペットフード)の用途等では、こうした揮発性分解生成物による不快な臭気は包装材料によって包装された商品を購入する食品生産者および消費者にとって敬遠され、当該商品に対する信頼性や購買意欲の低下を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、優れた酸素吸収性を有し、酸素吸収後に生じる臭気強度が低く、酸素吸収後の揮発性分解生成物の種類が少ない樹脂組成物、およびそれを用いた多層構造体および包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]下記式(I)で表されるエチレン単位と置換基R
1を有するノルボルネン単位との繰り返し単位を含むエチレン-環状オレフィン共重合体(A)、および遷移金属触媒(B)を含有する樹脂組成物であって、
【化1】
式中、R
1はエチレン基または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基を表し、lおよびnはそれぞれ該エチレン単位および該置換基R
1を有するノルボルネン単位の含有比率を表し、lとnとの比(l/n)が4以上2000以下である、樹脂組成物。
[2]前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)が、下記式(II)で表される、エチレン単位と置換基R
2を有するエチレン単位と置換基R
1を有するノルボルネン単位との繰り返し単位を含み、
【化2】
(式中、R
1はエチレン基または炭素数1~3の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基を表し、R
2は炭素数1~8の脂肪族炭化水素基を表し、l、mおよびnはそれぞれ該エチレン単位、該置換基R
2を有するエチレン単位、および該置換基R
1を有するノルボルネン単位の含有比率を表す)
l、mおよびnが下記式(III)の関係を満たす、[1]に記載の樹脂組成物。
0.0005≦n/(l+m+n)≦0.2 (III)
[3]式(II)におけるR
2が、炭素数1~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基;および炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のまたはアルキニル基;からなる群から選択される少なくとも1種の基である、[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記式(I)または(II)におけるR
1が、炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基;炭素数2~3のアルキニル基;および炭素数2~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキリデン基;からなる群から選択される少なくとも1種の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記式(I)または(II)におけるR
1がエチリデンエチレン基である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の主鎖が単結合のみで構成されている、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)が、n-ブチル基、n-ペンチル基、およびn-ヘキシル基からなる群から選択される少なくとも1種のアルキル基で構成される分岐鎖を有する共重合体であり、該エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の
13C NMRを用いて得られた、1000炭素原子あたりの該分岐鎖を構成する該アルキル基の合計数が0.001~50である、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]60℃、10%RHの条件下にて、7日間に0.1~300mL/gの酸素吸収性を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]前記遷移金属触媒(B)の含有量が、金属原子換算で20~10000ppmである、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]前記遷移金属触媒(B)の金属原子換算の含有量X(ppm)と、前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を構成する全単量体単位における前記置換基R
1を有するノルボルネン単位の含有比率Y(モル%)とが下記式(IV)を満たす、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
11≦X/Y≦10000 (IV)
[11]前記遷移金属触媒(B)の金属原子換算の含有量X(ppm)と、前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を構成する全単量体単位における前記置換基R
1を有するノルボルネン単位の含有比率Y(モル%)と、該エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を構成する全単量体単位における前記置換基R
2を有するエチレン単位の含有比率Z(モル%)とが下記式(V)を満たす、[2]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物。
0.1≦X/(Y+Z)≦150 (V)
[12]前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量が樹脂組成物の全量に対して25.0~99.9質量%である、[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13]さらにエチレン-ビニルアルコール共重合体(C)を含有する、[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14]前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.5~50質量%である、[13]に記載の樹脂組成物。
[15]前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の含有量が、樹脂組成物の全量に対して50~99.5質量%である、[13]または[14]に記載の樹脂組成物。
[16]さらにアルカリ土類金属塩を含有し、アルカリ土類金属塩の含有量が、金属元素換算で1~1000ppmである、[13]~[15]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[17]さらにアルミニウム化合物(D)を含有し、該アルミニウム化合物がアルミニウム金属原子換算で0.1~10,000ppm含む、[1]~[16]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[18]さらに酢酸吸着性材料(E)を含有する、[1]~[17]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[19]前記酢酸吸着性材料(E)がゼオライトを含有し、かつ該ゼオライトの含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.1~20質量%である、[18]に記載の樹脂組成物。
[20]前記ゼオライトが0.3~1nmの平均細孔径を有する、[19]に記載の樹脂組成物。
[21]さらに酸化防止剤(F)を含有し、かつ該酸化防止材料含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.001~1質量%である、[1]~[20]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[22]前記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の190℃、荷重2160g下におけるMFR値が2g/10分以下であり、さらに190℃、荷重2160g下におけるMFRが10g/10分以上である粘度調整剤を含有し、該粘度調整剤の含有量が、樹脂組成物の全量に対して1~30質量%である、[1]~[21]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[23]上記[1]~[22]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む酸素吸収層を少なくとも1層有する多層構造体。
[24]少なくとも1層のガスバリア性樹脂層を有する、[23]に記載の多層構造体。
[25]上記[24]に記載の多層構造体から構成されている包装材。
[26]内容物と該内容物を包囲する[25]に記載の包装材とを含み、
該包装材内の前記酸素吸収層が、該包装材内の前記ガスバリア性樹脂層と該内容物との間に配置されている、包装製品。
[27]前記内容物が食品である、[26]に記載の包装製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸素吸収性に優れるとともに、酸素吸収の際に揮発性分解生成物の発生を防止して、これに伴う不快な臭気の発生を抑制することができる。これにより、例えば、多層フィルム、多層容器等の、酸素による劣化を受け易い食品等の製品を保存するのに適した容器および包装材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例I-1および比較例I-3で作製された酸素吸収性フィルムに酸素を吸収させた際に生じる揮発性分解生成物の有無を確認するためのGC-MSのグラフであって、図中の下方が実施例I-1で作製された酸素吸収性フィルムの当該グラフであり、図中の上方が比較例I-3で作製された酸素吸収性フィルムの当該グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)および遷移金属触媒(B)を含有する。
【0012】
(エチレン-環状オレフィン共重合体(A))
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)は、例えばエチレン単位と置換基R1を有するノルボルネン単位との繰り返し単位を含む、式(I)で表されるランダム共重合体である:
【0013】
【0014】
式(I)において、R1はエチレン基、またはエチレン基を構成する少なくとも1つの水素原子が炭素数1~3の脂肪族炭化水素基で置換されたエチレン基を表す。R1に含まれる炭素数1~3の脂肪族炭化水素基のより具体的な例としては、炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基(すなわち、炭素数1~3の直鎖状のアルキル基、炭素数3の分岐鎖状のアルキル基および炭素数3の環状のアルキル基を包含する);炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基(すなわち、炭素数1~3の直鎖状のアルケニル基、炭素数3の分岐鎖状のアルケニル基および炭素数3の環状のアルケニル基を包含する);炭素数2~3のアルキニル基(すなわち、炭素数2~3の直鎖状のアルキニル基を包含する);および炭素数2~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキリデン基(すなわち、炭素数2~3の直鎖状のアルキリデン基、炭素数3の分岐鎖状のアルキリデン基を包含する);が挙げられる。
【0015】
R1を構成し得る炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基およびシクロプロピル基が挙げられる。R1を構成し得る炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基の例としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基およびシクロプロペニル基が挙げられる。R1を構成し得る炭素数2~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキニル基の例としてはエチニル基、1-プロピニル基、および2-プロピニル基(プロパルギル基)が挙げられる。R1を構成し得る炭素数2~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキリデン基の例としてはエチリデン基、1-プロピリデン基、および2-プロピリデン基が挙げられる。式(I)において、R1はエチリデンエチレン基であることが好ましい。
【0016】
式(I)において、lおよびnはそれぞれエチレン単位および置換基R1を有するノルボルネン単位の含有比率を表し、lとnとの比(l/n)が4以上2000以下であり、好ましくは5以上500以下であり、より好ましくは10以上100以下である。式(I)において、lとnとの比が4を下回ると、樹脂のガラス転移温度が高くなり十分な酸素吸収速度が得られないことがある。lとnとの比が2000を上回ると、共重合体を構成するノルボルネン単位の割合が少なすぎて、得られる共重合体が十分な酸素吸収性を発揮できないことがある。
【0017】
なお、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)中の置換基R1を有するノルボルネン単位は、置換基R1が1種類の単量体単位で構成されるものあってもよく、異なる2種以上の単量体単位で構成されるものであってもよい。
【0018】
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)はエチレン単位と置換基R2を有するエチレン単位と置換基R1を有するノルボルネン単位との繰り返し単位を含む、式(II)で表されるランダム共重合体であることが好ましい。
【0019】
【0020】
式(II)において、R1は上記式(I)で定義されたものと同様である。式(II)において、R1はエチリデンエチレン基が好ましい。R2は炭素数1~8の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基;あるいは炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキニル基;であり、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;炭素数2~3の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基;あるいは炭素数2~3のアルキニル基;である。ここで、本明細書中に用いられる用語「炭素数1~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基」は、炭素数1~8の直鎖状のアルキル基、炭素数3~8の分岐鎖状のアルキル基、および炭素数3~8の環状のアルキル基を包含する。本明細書中に用いられる用語「炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基」は、炭素数2~8の直鎖状のアルケニル基、炭素数3~8の分岐鎖状のアルケニル基、および炭素数3~8の環状のアルケニル基を包含する。本明細書中に用いられる用語「炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキニル基」は、炭素数2~8の直鎖状のアルキニル基、炭素数3~8の分岐鎖状のアルキニル基、および炭素数3~8の環状のアルキニル基を包含する。
【0021】
R2を構成し得る炭素数1~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、3-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、4-ヘプチル基、n-オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R2を構成し得る炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルケニル基の例としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、イソペンテニル基、シクロペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、3-ヘプテニル基、4-ヘプテニル基、5-ヘプテニル基、6-ヘプテニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、3-オクテニル基、4-オクテニル基、5-オクテニル基、6-オクテニル基、7-オクテニル基等が挙げられる。R2を構成し得る炭素数2~8の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキニル基の例としてはエチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、3-ヘキシニル基、4-ヘキシニル基、5-ヘキシニル基、1-ヘプチニル基、2-ヘプチニル基、3-ヘプチニル基、4-ヘプチニル基、5-ヘプチニル基、6-ヘプチニル基、1-オクチニル基、2-オクチニル基、3-オクチニル基、4-オクチニル基、5-オクチニル基、6-オクチニル基、7-オクチニル基等が挙げられる。式(II)において、R2はメチル基またはエチル基が好ましい。
【0022】
式(II)において、l、mおよびnはそれぞれエチレン単位、置換基R2を有するエチレン単位、および置換基R1を有するノルボルネン単位の含有比率を表し、nと、l、mおよびnの和(l+m+n)との比(n/(l+m+n))が以下の関係式(III):
0.0005≦n/(l+m+n)≦0.2 (III)
を満たすことが好ましい。さらに、当該比(n/(l+m+n))は0.008以上0.08以下がより好ましく、0.01以上0.05以下がさらに好ましい。式(II)において、比(n/(l+m+n))が0.0005を下回ると、十分な酸素吸収性を発揮できないことがある。比(n/(l+m+n))が0.2を上回ると、樹脂のガラス転移温度が高くなり十分な酸素吸収速度が得られないことがある。
【0023】
なお、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)中の置換基R1を有するノルボルネン単位および置換基R2を有するエチレン単位は、置換基R1および置換基R2がそれぞれ1種類の単量体単位で構成されるものであってもよく、異なる2種以上の単量体単位で構成されるものであってもよい。
【0024】
本発明において、上記式(I)または(II)で表されるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)は、式(I)または(II)に示す構造中の主鎖が単結合のみで構成されていること、すなわち主鎖には二重結合等の不飽和結合が含まれていないこと、が好ましい。
【0025】
一般に、繰り返し単位の構造を構成する主鎖に不飽和結合(二重結合や三重結合)が含まれている場合、当該構造において主鎖を構成しない環部分に含まれる不飽和結合の反応性は主鎖を構成する不飽和結合と比較して高いため、当該環部分における室温での酸素吸収量の増加を期待することができる。このため、環部分が不飽和結合を含む場合、主鎖部分の不飽和結合が酸素を吸収する前に、主鎖を構成しない環部分の不飽和が酸素を優先的に吸収し、主鎖部分の不飽和結合による酸素吸収の機会をできるだけ遅延させることができる。その結果、主鎖切断が起きにくく、当該切断による臭気成分の新たな発生が抑制される。しかし、このような場合であっても、主鎖に不飽和結合が含まれていれば、仮に僅かであったとしても当該主鎖切断の可能性を内在させることになる。
【0026】
これに対し、上記式(I)または(II)で表されるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の主鎖が単結合のみで構成されていると、酸素吸収のための反応は、主にその環部分に含まれる不飽和結合を通じて行われ、主鎖切断の可能性がさらに低減した状態を保持できる。
【0027】
これにより、本発明では、主鎖切断に伴って臭気成分、特に主鎖切断による低分子量の臭気成分(例えば、脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸、吉草酸やカプロン酸、アルデヒドであるアセトアルデヒド、ペンタナール、ブタナールやヘキサナール等の揮発性分解生成物)が発生する可能性が一層低減される。
【0028】
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000~500,000であり、より好ましくは10,000~300,000であり、さらに好ましくは20,000~200,000である。エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が5,000未満であると、樹脂組成物の成形加工性、ハンドリング性、成形品とした場合の強度や伸度等の機械的性質が低下するおそれがある。エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が500,000を超えると、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)が高粘度となり成形加工性が悪化することや、ガスバリア性樹脂等の他の樹脂と混合して使用する際に、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)自体の分散性が低下することで酸素吸収機能が低下し、かつガスバリア性樹脂の性能(例えば、ガスバリア性)を十分に発揮できないことがある。
【0029】
なお、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)は、共重合体全体として、すなわち、上記式(I)および(II)のR1、または上記式(II)のR2以外で炭素数4以上の分岐鎖(以下、他の分岐鎖という)を一定の範囲で有していることが好ましい。このような他の分岐鎖としては、例えばn-ブチル基、n-ペンチル基、およびn-ヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。さらに、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)において、例えば、後述の実施例に記載するような13C NMRを用いて得られた1000炭素原子あたりの当該他の分岐鎖を構成するアルキル基の合計数は好ましくは0.001~50、より好ましくは0.002~5、さらにより好ましくは0.003~3である。アルキル基の合計数がこのような範囲内にあることにより、結晶性が程よく低下し成形加工性が良好になることに加えて、酸化反応に伴う副反応により生成する炭素数4以上の脂肪酸やアルデヒドに由来する臭気の発生を抑制できる。
【0030】
本発明に用いられるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)は、配位重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を用いて合成することができる。配位重合法の具体例としては、非特許文献Polymers,2017,9,353に記載のような方法が挙げられる。
【0031】
配位重合法によるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の合成に用いる重合触媒としては、公知のオレフィン配位重合用の触媒を用いることができる。オレフィン配位重合用の触媒としては、例えばチーグラー・ナッタ触媒やフィリップス触媒等のマルチサイト触媒、メタロセン触媒等のシングルサイト触媒等が挙げられる。
【0032】
中でも、シングルサイト触媒を用いると分岐量を低く制御してエチレン-環状オレフィン共重合体(A)を合成することができる。また、可溶性のバナジウムオキシエトキシドジクロライド等のバナジウム化合物、エチルアルミニウムジクロリドとジエチルアルミニウムクロリドとの等量ブレンド物の組み合わせからなるチーグラー・ナッタ触媒を用いると、一定量の分岐量を与えながら、分子量分布を狭く制御してエチレン-環状オレフィン共重合体(A)を合成することができる。分岐量は、必要に応じて触媒を選択することで好ましい範囲に調整することができる。また、別々に重合した複数の種類のエチレン-環状オレフィン共重合体(A)を混合することにより、樹脂組成物中の分岐量を調整することもできる。
【0033】
また、触媒または助触媒としてアルミニウム化合物を使用すると、それにより得られるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)と後述の遷移金属触媒(B)およびEVOH(C)との混練物(樹脂組成物)の酸素吸収性を一層高めることができる。
【0034】
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を合成する際、触媒または助触媒としてアルミニウム化合物を使用すると、当該アルミニウム化合物は周囲に存在するポリマーと反応してポリマー内に組み込まれることがある。このようにして取り込まれたアルミニウム化合物の含有量は、例えばエチレン-環状オレフィン共重合体(A)と後述の遷移金属触媒(B)およびEVOH(C)との樹脂組成物から定量する場合は、当該樹脂組成物からエチレン-環状オレフィン共重合体(A)をシクロヘキサンまたはトルエン等の非極性溶媒中で抽出し、その後濃縮またはアセトン等の極性溶媒中で再沈殿することにより単離されたエチレン-環状オレフィン共重合体(A)を強酸中でマイクロ波加熱により湿式分解し、ICP-MS等の分析手段を用いて定量できる。
【0035】
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、EVOH(C)のMFRに対する比MFR(A)/MFR(C)が0.1~10の範囲にあることが好ましい。MFR(A)/MFR(C)の比がこの範囲にある場合、溶融混練時の両者の分散性が良好になり、溶融混練時のダイスで生成するメヤニの発生量が低減して生産性が良好になり、成形加工品中のブツ量が低減して良好な外観が得られる。ここで言及するMFRは、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を、190℃、2160gの荷重下で測定した際の値である。
【0036】
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)のいくつかは市販されており、例えばエチレン、プロピレン、エチリデンノルボルネンの単量体から構成されるEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)エラストマーや、エチレンおよびノルボルネンの単量体から構成されるシクロオレフィンコポリマーが知られている。市販されている製品を用いた場合、添加剤として滑剤や酸化防止剤が含まれることがあるが、必要に応じて再沈殿や有機溶剤中で撹拌洗浄することで、添加剤を除去してもよい。具体的には、EPDMエラストマーやシクロオレフィンコポリマーを90℃のオイルバス中でシクロヘキサン溶剤を加えて溶解させ、貧溶媒であるアセトン中で再沈殿することで添加剤を除去できる。より簡単には、EPDMエラストマー等のペレットをアセトン中で還流撹拌することでも添加剤を除去できる。なお、本発明においては、市販されているエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の製品においても、アルミニウム化合物を含有していることが好ましい。その中でも、上記のような添加剤の除去処理を行ってもアルミニウム化合物が残存しているものがさらに好ましい。このような市販のエチレン-環状オレフィン共重合体(A)製品の例としては、三井EPT K-9720」(三井化学株式会社製、MFR(190℃、2160g荷重)=2g/10分)、「NORDEL IP4820P」(ダウ・ケミカル社製、MFR=1g/10分)、「NORDEL IP4770P」(ダウ・ケミカル社製、MFR=0.07g/10分)、「NORDEL IP4725P」(ダウ・ケミカル社製、MFR=0.7g/10分)、「TOPAS E-140」(ポリプラスチックス株式会社製、MFR=3g/10分)などが挙げられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物において、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物の全量に対して、例えば0.01~99.99質量%である。
【0038】
ここで、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量について、本発明の樹脂組成物が後述のEVOH(C)を含有しない場合、好ましくは25.0~99.9質量%、より好ましくは30~99.8質量%、さらに好ましくは40~99.6質量%である。本発明の樹脂組成物がEVOH(C)を含有しない場合、樹脂組成物中におけるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量が25.0質量%を下回ると、得られる樹脂組成物の酸素吸収性が不十分となることがある。エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量が99.99質量%を上回ると、酸化のための遷移金属触媒等の添加量が少量になり、十分な酸素吸収性を発現しないことがある。
【0039】
あるいは、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量について、本発明の樹脂組成物が後述のEVOH(C)を含有する場合、好ましくは0.01~99.0質量%、より好ましくは0.5~50質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。本発明の樹脂組成物がEVOH(C)を含有する場合、樹脂組成物中におけるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量が0.01質量%を下回ると、得られる樹脂組成物の酸素吸収性が不十分となることがある。エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の含有量が90質量%を上回ると、相対的にEVOH(C)の含有量が少なくなり、十分なガスバリア性を示さないことがある。
【0040】
(遷移金属触媒(B))
遷移金属触媒(B)は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の酸化により酸素吸収を促す役割を果たす化合物である。遷移金属触媒(B)は、遷移金属の無機酸塩、有機酸塩、または錯塩の形態を有していることが好ましい。遷移金属触媒(B)を構成する遷移金属原子としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族に属する金属原子;銅、銀等の周期律表第I族に属する金属原子;錫、チタン、ジルコニウム等の周期律表第IV族に属する金属原子;バナジウム等の周期律表第V族に属する金属原子;クロム等の周期律表第VI族に属する金属原子;マンガン等の周期律表第VII族に属する金属原子;ならびにこれらの組合せから選択される。汎用性に富みかつ上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の酸化を効率的に行うことができる点から、遷移金属触媒(B)を構成する遷移金属原子はマンガンまたはコバルトが好ましい。
【0041】
遷移金属触媒(B)の無機酸塩としては、上記遷移金属原子を含む、塩化物等のハライド;硫酸塩等のイオウのオキシ酸塩;硝酸塩等の窒素のオキシ酸塩;リン酸塩等のリンオキシ酸塩;ケイ酸塩;等が挙げられる。遷移金属触媒(B)の有機酸塩としては、上記遷移金属原子を含む、酢酸塩、プロピオン酸塩、イソプロピオン酸塩、ブタン酸塩、イソブタン酸塩、ペンタン酸塩、イソペンタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプタン酸塩、イソヘプタン酸塩、オクタン酸塩、2-エチルヘキサン酸塩、ノナン酸塩、3,5,5-トリメチルヘキサン酸塩、デカン酸塩、ネオデカン酸塩、ウンデカン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、マーガリン酸塩、ステアリン酸塩、アラキン酸塩、リンデル酸塩、ツズ酸塩、ペトロセリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、アラキドン酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、スルファミン酸塩、ナフテン酸塩等が挙げられる。遷移金属触媒(B)の錯塩としては、上記遷移金属原子とβ-ジケトンまたはβ-ケト酸エステルとの錯体が挙げられ、β-ジケトンおよびβ-ケト酸エステルの具体的な例としては、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、1,3-シクロヘキサジオン、メチレンビス-1,3ーシクロヘキサジオン、2-ベンジル-1,3-シクロヘキサジオン、アセチルテトラロン、パルミトイルテトラロン、ステアロイルテトラロン、ベンゾイルテトラロン、2-アセチルシクロヘキサノン、2-ベンゾイルシクロヘキサノン、2-アセチル-1,3-シクロヘキサンジオン、ベンゾイル-p-クロルベンゾイルメタン、ビス(4-メチルベンゾイル)メタン、ビス(2-ヒドロキシベンゾイル)メタン、ベンゾイルアセトン、トリベンゾイルメタン、ジアセチルベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタン、ラウロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタン、ビス(4-クロルベンゾイル)メタン、ビス(メチレン-3,4-ジオキシベンゾイル)メタン、ベンゾイルアセチルフェニルメタン、ステアロイル(4-メトキシベンゾイル)メタン、ブタノイルアセトン、ジステアロイルメタン、アセチルアセトン、ステアロイルアセトン、ビス(シクロヘキサノイル)-メタン、ジピバロイルメタン等が挙げられる。
【0042】
遷移金属触媒(B)は、汎用性に富みかつ上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の酸化を効率的に行うことができる点から、ステアリン酸マンガン、ステアリン酸コバルト、2-エチルへキサン酸マンガン、2-エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸マンガン、およびネオデカン酸コバルト、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0043】
遷移金属触媒(B)は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の質量を基準として、金属原子換算で好ましくは20~10000ppm、より好ましくは50~1000ppm、さらに好ましくは100~500pmである。遷移金属触媒(B)の含有量が金属原子換算で20ppmを下回ると、得られる樹脂組成物の酸素吸収性が不十分となることがある。遷移金属触媒(B)の含有量が金属原子換算で10000ppmを上回ると、得られる樹脂組成物内で遷移金属触媒(B)が凝集し、異物やストリークが発生し外観が低下することがある。
【0044】
本発明の樹脂組成物はまた、遷移金属触媒(B)の金属原子換算の含有量X(ppm)と、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を構成する全単量体単位における上記置換基R1を有するノルボルネン単位の含有比率Y(モル%)との比(X/Y)が下記関係式(IV):
11≦X/Y≦10000 (IV)
を満たすことが好ましい。当該比(X/Y)は30以上3000以下がより好ましく、100以上1000以下がさらに好ましい。比(X/Y)が上記範囲であると、成形品の良好な外観を維持しつつ十分な酸素吸収性が得られる。式(IV)において、比(X/Y)が11を下回ると、十分な酸素吸収速度が得られないことがある。比(X/Y)が10000を上回ると、得られる樹脂組成物の色相が悪化したり、樹脂組成物内で遷移金属触媒(C)が凝集し、異物やストリークが発生し外観が低下することがある。
【0045】
あるいは、本発明の樹脂組成物は、遷移金属触媒(B)の金属原子換算の含有量X(ppm)と、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を構成する全単量体単位における置換基R1を有するノルボルネン単位の含有比率Y(モル%)と、該エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を構成する全単量体単位における置換基R2を有するエチレン単位の含有比率Z(モル%)とから構成される比(X/(Y+Z))が下記関係式(V):
0.1≦X/(Y+Z)≦150 (V)
を満たすことが好ましい。当該比(X/(Y+Z))は1.5以上100以下がより好ましく、10以上40以下がさらにより好ましい。比(X/(Y+Z))が上記範囲であると、不快な臭気を発生させること無く、十分な酸素吸収性が得られる。式(V)において、比(X/(Y+Z))が0.1を下回ると、十分な酸素吸収速度が得られないことがある。比(X/(Y+Z))が150を上回ると、酸素吸収時に不快な臭気を発生することがある。
【0046】
(EVOH(C))
本発明の樹脂組成物は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)および遷移金属触媒(B)に加えて、さらにEVOH(C)を含有していてもよい。
【0047】
EVOH(C)は、例えば、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することにより得ることができる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法により行うことができる。当該方法に用いることができるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0048】
本発明において、EVOH(C)のエチレン含有量は、好ましくは5~60モル%、より好ましくは15~55モル%、さらにより好ましくは20~50モル%である。エチレン含有量が5モル%を下回ると、その溶融形成性および高温下での酸素バリア性が低下する傾向にある。エチレン単位含有量が60モル%を上回ると、酸素バリア性が低下傾向にある。このようなEVOH(C)のエチレン単位含有量は、例えば、核磁気共鳴(NMR)法によって測定することができる。
【0049】
本発明において、EVOH(C)のビニルエステル成分のケン化度の下限は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらにより好ましくは99モル%以上である。ケン化度を90モル%以上とすることによって、例えば、樹脂組成物の酸素バリア性を高めることができる。他方、EVOH(C)のビニルエステル成分のケン化度の上限は、例えば100モル%以下、99.99モル%以下であってもよい。EVOH(C)のケン化度は、1H-NMR測定によってビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出され得る。EVOH(C)のケン化度が上記範囲内にあることにより、本発明の樹脂組成物に良好な酸素バリア性を提供できる。
【0050】
EVOH(C)はまた、本発明の目的が阻害されない範囲において、エチレンならびにビニルエステルおよびそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(C)がこのような他の単量体単位を有する場合、EVOH(C)の全構造単位に対する当該他の単量体単位の含有量の上限は、例えば、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下または5モル%以下である。さらに、EVOH(C)が当該他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量の下限は、例えば、0.05モル%以上または0.1モル%以上である。
【0051】
EVOH(C)が有していてもよい他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0052】
EVOH(C)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法を経て変性されたEVOHであってもよい。このように変性されたEVOHは本発明の樹脂組成物の溶融成形性を向上させる傾向にある。
【0053】
EVOH(C)として、エチレン単位含有量、ケン化度、共重合体成分、変性の有無または変性の種類等が異なるEVOHを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
EVOH(C)は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法で得ることができる。1つの実施形態では、無溶媒またはアルコール等の溶液中で重合が進行可能な塊状重合法または溶液重合法が用いられる。
【0055】
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールである。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とするEVOH(C)の粘度平均重合度や溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は例えば、0.01~10であり、好ましくは0.05~3である。
【0056】
上記重合に用いられる触媒としては、例えば、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(2-シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾ系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0057】
重合温度は20℃~90℃が好ましく、40℃~70℃がより好ましい。重合時間は2時間~15時間が好ましく、3時間~11時間がより好ましい。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10%~90%が好ましく、30%~80%がより好ましい。重合後の溶液中の樹脂含有率は5%~85%が好ましく、20%~70%がより好ましい。
【0058】
上記重合では、所定時間の重合後または所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤が添加され、未反応のエチレンガスを蒸発除去して、未反応のビニルエステルが取り除かれ得る。
【0059】
次いで、上記共重合体溶液にアルカリ触媒が添加され、上記共重合体がケン化される。ケン化の方法には、連続式および回分式のいずれも採用されてもよい。添加可能なアルカリ触媒の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。
【0060】
ケン化反応後のEVOH(C)は、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有する。このため、必要に応じて中和や洗浄することにこれらを除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOH(C)を、所定のイオン(例えば、金属イオン、塩化物イオン)をほとんど含まない水(例えば、イオン交換水)で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の副生塩類を完全に除去せず、一部を残存させてもよい。
【0061】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(C)の含有量は、樹脂組成物の全量に対して、10~99.99質量%であってもよく、好ましくは50~99.5質量%であり、より好ましくは80~99質量%である。樹脂組成物中におけるEVOH(C)の含有量が10質量%を下回ると、得られる樹脂組成物の酸素バリア性が不十分となることがある。EVOH(C)の含有量が99.99質量%を上回ると、得られる樹脂組成物の酸素吸収性が不十分となることがある。
【0062】
(アルミニウム化合物(D))
本発明の樹脂組成物は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)および遷移金属触媒(B)に加えて、さらにアルミニウム化合物(D)を含有していてもよい。
【0063】
アルミニウム化合物(D)は、本発明の樹脂組成物において、上述の通りエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の合成の際に触媒または助触媒として添加されたものであってもよく、または添加剤として別途新たに添加されたものであってもよい。
【0064】
アルミニウム化合物(D)がエチレン-環状オレフィン共重合体(A)に含まれている場合は、ポリマー鎖に共有結合、イオン結または配位結合等によって直接結合していてもよい。アルミニウム化合物(D)としては、例えばアルミニウム金属またはアルミニウムを含む酸化物;塩(例えば塩化物、硫酸化物、硝酸化物、水酸化物、カルボン酸塩);有機アルミニウム;有機アルミノキサン(トリアルキルアルミニウムと水との反応により得られるポリアルキルアルミノキサン);等が挙げられる。アルミニウム化合物は1種またはそれ以上の組み合わせが用いられ得る。アルミニウム酸化物の例としては、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ等が挙げられる。アルミニウム塩化物の例としては、無水塩化アルミニウム、塩化アルミニウム(III)6水和物、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられる。アルミニウム硫化物の例としては、硫化アルミニウムが挙げられる。アルミニウムカルボン酸塩の例としては、酢酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、リンゴ酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム等が挙げられる。有機アルミニウムの例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等が挙げられる。有機アルミノキサンの例としては、ポリメチルアルミノキサン、ポリエチルアルミノキサン、ポリプロピルアルミノキサン、ポリブチルアルミノキサン、ポリイソブチルアルミノキサン、ポリメチルエチルアルミノキサン、ポリメチルブチルアルミノキサン、ポリメチルイソブチルアルミノキサン等が挙げられる。中でも、有機アルミニウムおよびポリアルキルアルミノキサンが好ましく、ポリメチルアルミノキサンおよびポリメチルイソブチルアルミノキサンがさらに好ましい。
【0065】
アルミニウム化合物(D)の含有量は、樹脂組成物全体の質量を基準として、アルミニウム金属原子換算で好ましくは0.1~10,000ppmであり、より好ましくは0.5~10,000ppmであり、さらに好ましくは1~50ppmである。アルミニウム化合物(D)の含有量がこのような範囲を満足することにより、樹脂組成物の溶融混練時および成形加工時の着色を抑制し、かつ良好な酸素吸収性を示す樹脂組成物を得ることができる。
【0066】
(酢酸吸着性材料(E))
本発明の樹脂組成物は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)および遷移金属触媒(B)に加えて、さらに酢酸吸着性材料(E)を含有していてもよい。
【0067】
ここで、本明細書中に用いる用語「酢酸吸着性材料」は、樹脂の酸化により発生し得る酢酸または酢酸ガス)を吸着可能な材料であるが、酢酸または酢酸ガス以外の他の低分子量化合物を吸着可能な材料も含む。酢酸吸着性材料(E)が吸着可能な低分子量化合物は、例えば樹脂の酸化を通じて臭気成分として発生し得る揮発性分解生成物である。酢酸吸着性材料(E)が吸着可能な揮発性分解生成物としては、必ずしも限定されないが、例えば、酢酸の他、アセトアルデヒド、ギ酸、およびtert-ブチルアルコール、ならびにそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0068】
酢酸吸着性材料(E)としては、必ずしも限定されないが、例えばゼオライト、シリカゲル、ハイドロタルサイト等の層状無機化合物、ポリカルボジイミド等が挙げられる。上記揮発性分解生成物を効率よく吸着することができ、かつ汎用性が高いことから、ゼオライトが好ましい。当該ゼオライトは、上記揮発性分解生成物の吸着効率を高めるために所定サイズの細孔を有することが好ましい。当該ゼオライトの平均細孔径は好ましくは0.3~1nm、より好ましくは0.5~0.9nmである。ゼオライトの平均細孔径が上記範囲外であると、上記揮発性分解生成物がゼオライトに効率的に吸着されず、得られる樹脂組成物について酸素吸収による不快な臭気を適切に低減できないことがある。
【0069】
酢酸吸着性材料(E)として有用なゼオライトは、例えばシリカ/アルミナ比が5以上の疎水性ゼオライトが挙げられる。該ゼオライトは、例えばハイシリカゼオライト(HSZ)(登録商標)として東ソー株式会社より市販されている。
【0070】
酢酸吸着性材料(E)の含有量は樹脂組成物の全量に対して、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.2~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~8質量%である。樹脂組成物中における酢酸吸着性材料(E)の含有量が0.1質量%を下回ると、仮に上記のような揮発性分解生成物が発生した場合に、樹脂組成物中で適切にこれらの化合物を吸着し、外周囲への臭気成分の拡散を防止することが困難になることがある。樹脂組成物中の酢酸吸着性材料(E)の含有量が20質量%を上回ると、得られる樹脂組成物の成形加工性、ハンドリング性、成形品とした場合の強度や伸度等の機械的性質を低下させたり、成形加工品の色相や透明性が悪化したりすることがある。
【0071】
(酸化防止剤(F))
本発明の樹脂組成物は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)および遷移金属触媒(B)の他に、さらに酸化防止剤(F)を含有してもよい。
【0072】
酸化防止剤(F)は、例えば、酸素存在下で生じる過酸化物ラジカルを補足することにより樹脂の酸化による劣化を防止できる化合物(例えば、フェノール系一次酸化防止剤)である。
【0073】
酸化防止剤(F)としては、例えば3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス-(n-オクチル)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(例えば、IRGANOX1010(BASF社製)という商品名で市販されている)、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、IRGANOX1076(BASF社製)という商品名で市販されている)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト、オクチル化ジフェニルアミン、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、およびイソオクチル-3-(3,5ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ならびにそれらの組合せが挙げられる。これらの中で、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)への分散性が良好であることから、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシルが好ましい。
【0074】
酸化防止剤(F)の含有量は樹脂組成物の全量に対して、好ましくは0.001~1質量%であり、より好ましくは0.002~0.2質量%であり、さらに好ましくは0.005~0.02質量%である。樹脂組成物中における酸化防止剤(F)の含有量が0.001質量%を下回ると、保管中および押出機内で発生する過酸化物ラジカルにより、例えばエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の酸化反応や架橋反応が進行し、ペレット化または製膜した後のフィルムの外観が不良となることがある。酸化防止剤(F)の含有量が1質量%を上回ると、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の酸化が抑制され、得られる樹脂組成物の酸素吸収性が低下することがある。
【0075】
(他の熱可塑性樹脂(G)および添加剤(H))
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)や上記EVOH(C)以外の他の熱可塑性樹脂(G)を含有してもよい。
【0076】
熱可塑性樹脂(G)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンまたはプロピレン共重合体(エチレンまたはプロピレンと次の単量体のうち少なくとも1種との共重合体:1-ブテン、イソブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネート等のカルボン酸ビニルエステル類;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;不飽和スルホン酸およびその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類等)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン;ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)等のポリエステル;ポリスチレン;ポリカーボネート;およびポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート;ポリビニルアルコール;ならびにそれらの組合せが挙げられる。他の熱可塑性樹脂(G)の含有量は本発明の樹脂組成物全体の質量を基準として、30質量%以下が好ましい。
【0077】
本発明の樹脂組成物には、本発明の作用効果が阻害されない範囲内で他の添加剤(H)を含有させてもよい。他の添加剤(H)としては、粘度調整剤、可塑剤、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、乾燥剤、充填剤、加工助剤、難燃剤、防曇剤等が挙げられる。他の添加剤(H)の含有量は特に限定されず、本発明の効果を阻害しない範囲で適切な量が選択できる。
【0078】
他の添加剤(H)の中でも、本発明の樹脂組成物の加工性を向上させるために、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)よりもメルトフローレート(MFR)が高い熱可塑性樹脂を粘度調整剤として添加することが好ましい。粘度調整剤としては例えば190℃、荷重2160g下におけるMFRが10~1000g/10分の熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタアクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、高密度ポリエチレン等が挙げられる。MFRが上記範囲内であると、少ない添加量で加工性の向上が達成できる。その含有量は、本発明の樹脂組成物全体の質量を基準として、1質量%以上30質量%以下が好ましい。粘度調整剤の添加量が1質量%を下回ると、加工性の改善効果は小さく、粘度調整剤の添加量が30質量%を超えると、粘度が過剰に低下し、多層構造体を製造する際に膜厚ムラが大きくなる場合がある。
【0079】
(アルカリ土類金属塩(I))
本発明の樹脂組成物は、上記エチレン-環状オレフィン共重合体(A)および遷移金属触媒(B)に加えて、さらにアルカリ土類金属塩(I)を含有していてもよい。
【0080】
アルカリ土類金属塩(I)は、本発明の樹脂組成物において、上述の通りエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の合成の際に触媒または助触媒として添加されたものであってもよく、および/または添加剤として別途新たに添加されたものであってもよい。
【0081】
アルカリ土類金属塩(I)がエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の合成の際に触媒または助触媒として添加されたものである場合、当該アルカリ土類金属塩(I)は、例えばエチレン-環状オレフィン共重合体(A)のポリマー鎖に共有結合、イオン結または配位結合等によって直接結合した状態で含まれていてもよい。アルカリ土類金属塩(I)としては、例えばカルボン酸塩などが挙げられる。カルボン酸塩の例としては、酢酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、酒石酸カルシウム等が挙げられる。中でも、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウムが好ましい。
【0082】
アルカリ土類金属塩(I)の含有量は、樹脂組成物全体の質量を基準として、アルカリ土類金属原子換算で好ましくは0.1~10,000ppmであり、より好ましくは1~1,000ppmであり、さらに好ましくは10~500ppmである。アルカリ土類金属塩(I)の含有量がこのような範囲を満足することにより、樹脂組成物の溶融混練時および成形加工時のトルク上昇を抑制し、かつ良好な酸素吸収性を示す樹脂組成物を得ることができる。中でも、樹脂組成物にEVOH(C)を含む場合は、アルカリ土類金属塩(I)の含有は酸素吸収速度の向上の観点から特に好ましい。
【0083】
本発明の樹脂組成物は、60℃、10%RHの条件下にて、7日間に好ましくは0.1~300mL/g、より好ましくは0.5~200mL/g、さらにより好ましくは1.0~150mL/gの酸素吸収性を有する。本発明の樹脂組成物がこのような範囲内の酸素吸収性を有することにより、樹脂組成物が長期間に亘って高い酸素バリア性を維持できたり、樹脂組成物を含む多層構造体がレトルト処理後でも高い酸素バリア性を維持できる。
【0084】
(2)樹脂組成物の製造
本発明の樹脂組成物は、上記成分(A)および(B)と、必要に応じて成分(C)~(F)のいずれか1種またはそれ以上とを混合することにより製造することができる。本発明の樹脂組成物の製造にあたり、これらの各成分を混合する方法は特に限定されず、各成分を混合する際の順序も特に限定されない。
【0085】
混合の具体的な方法としては、工程の簡便さおよびコストの観点から溶融混練法が好ましい。このとき、高い混練度を達成することのできる装置を使用し、各成分を細かく均一に分散させることが、酸素吸収機能、透明性を良好にすると共に、ゲル・ブツの発生や混入を防止できる点で好ましい。
【0086】
高い混練度を達成し得る装置としては、連続式インテンシブミキサー、ニーディングタイプ二軸押出機(同方向または異方向)、ミキシングロール、コニーダー等の連続型混練機;高速ミキサー、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、加圧ニーダー等のバッチ型混練機;株式会社KCK製KCK混練押出機等の石臼状の摩砕機構を有する回転円板を使用した装置、単軸押出機に混練部(ダルメージ等)を設けた装置;リボンブレンダー、ブラベンダーミキサー等の簡易型の混練機等が挙げられる。中でも、連続型混練機が好ましい。本発明においては、これらの連続式混練機の吐出口に押出機およびペレタイザーを接続し、混練、押出およびペレット化を同時に実施する装置を採用することが好ましい。また、ニーディングディスクまたは混練用ロータを有する二軸混練押出機を用いることもできる。混練機は1機でもよく、2機以上を連結して用いてもよい。
【0087】
混練温度は、例えば、120℃~300℃の範囲が好ましい。樹脂組成物の製造段階におけるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)の酸化防止のためには、ホッパー口を窒素シールし、低温で押出すことが好ましい。混練時間は特に限定されず、使用する成分(A)~(H)の種類および量に応じて適切な時間が当業者によって適宜選択され得る。
【0088】
(3)多層構造体
上記樹脂組成物を多層構造体の酸素吸収層として使用できる。
【0089】
1つの実施形態では、多層構造体は、本発明の樹脂組成物以外の樹脂からなる層をx層、本発明の樹脂組成物でなる層をy層、接着性樹脂層をz層とすると、x/y、x/y/x、x/z/y、x/z/y/z/x、x/y/x/y/x、x/z/y/z/x/z/y/z/xなどの層構成を有するが、これらに限定されるものではない。
【0090】
多層構造体において複数のx層が設けられる場合、各x層の種類は同じであっても異なっていてもよい。また、成形時に発生するトリムなどのスクラップからなる回収樹脂を用いた層が別途設けられてもよく、回収樹脂を他の樹脂にブレンドしたもので層を構成してもよい。多層構造体の各層の厚みは、特に限定されるものではないが、成形性およびコストなどを良好なものとする場合、全層厚みに対するy層の厚み比は好ましくは2~20%である。
【0091】
上記x層を構成する樹脂としては、加工性などの観点から熱可塑性樹脂が好ましい。x層に使用可能な熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンまたはプロピレン共重合体(エチレンまたはプロピレンと次の単量体の少なくとも1種との共重合体:1-ブテン、イソブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-オレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネートなどのカルボン酸ビニルエステル類;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類など)、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ1-ブテンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリε-カプロラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリメタキシリレンアジパミドなどのポリアミド;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート等が挙げられる。このような熱可塑性樹脂層は無延伸のものであってもよいし、一軸もしくは二軸に延伸または圧延されたものであってもよい。
【0092】
上記熱可塑性樹脂層構成において、当該酸素吸収層以外のうち層には、多層構造体内部の酸素を吸収し易くする観点から、多層構造体の内層を形成する樹脂として、比較的ガス透過性が高くかつ疎水性の樹脂から構成されていることが好ましい。また、多層構造体の用途によってはヒートシール可能であることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。一方、多層構造体の外層は、成形性および機械的物性に優れる樹脂で構成されていることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0093】
本発明の多層構造体は、さらに、多層構造体を容器等の包装材として利用する場合、酸素が当該包装材の外側から侵入することを防止するため、ポリアミド、エチレンービニルアルコール共重合体等からなるガスバリア性樹脂層を含むことが好ましい。また、ガスバリア性樹脂層は本発明の上記樹脂組成物を含んでもよく、包装体内部に存在する酸素を効率的に吸収させて除去する観点からは、上記樹脂組成物を含む酸素吸収層がガスバリア性樹脂層と内容物との間に配置されることが好ましい。さらに、酸素吸収層とガスバリア性樹脂からなる層との間に、他の層が含まれていてもよい。
【0094】
例えば、本発明の多層構造体を、レトルト用の包装材や容器の蓋材として用いる場合、外層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、またはポリプロピレン等のポリオレフィンが用いられ、特にポリプロピレンが好ましく用いられる。内層には、ポリプロピレンが好ましく用いられる。ポリオレフィンは耐湿性、機械的特性、経済性、ヒートシール性等の点で好ましい。ポリエステルは機械的特性、耐熱性等の点で好ましい。
【0095】
本発明の多層構造体をレトルト用の包装材として用いる場合、高湿度下に曝されることから、酸素吸収層の両側または包装材を使用する際に高湿度となる側に、水蒸気バリア性の高い層を設けることが好ましい。このような層を設けた成形体は、酸素吸収性能の持続期間が特に延長され、そのため、極めて高度なガスバリア性がより長い時間継続される。
【0096】
z層に使用される接着性樹脂としては、各層間を接着できるものであれば特に限定されず、ポリウレタン系またはポリエステル系の一液型または二液型硬化性接着剤、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂等が好適に用いられる。カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸など)を共重合成分として含むオレフィン系重合体または共重合体;または不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系重合体または共重合体にグラフトさせて得られるグラフト共重合体が挙げられる。中でも、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。特にx層がポリオレフィン樹脂である場合、z層にカルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を用いると、y層との接着性が良好となる。カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE))、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステルまたはエチルエステル)共重合体等をカルボン酸変性したものが挙げられる。
【0097】
本発明の多層構造体を得る方法としては、例えば押出ラミネート法、ドライラミネート法、共射出成形法、共押出成形法等が挙げられる。共押出成形法としては、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法、共押出ブロー成形法等が挙げられる。このような方法により得られる多層構造体の例としては、シート、フィルム、パリソン等が挙げられる。
【0098】
(4)用途
本発明の多層構造体のシート、フィルム、パリソン等を、当該多層構造体に含有される樹脂の融点以下の温度で再加熱し、絞り成形等の熱成形法、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法、インフレーション延伸法、ブロー成形法等により一軸または二軸延伸することで所望の成形体を得ることができる。
【0099】
得られた成形体は、例えば所定の内容物を包装するための包装材として使用され得る。
【0100】
当該包装材は、優れた酸素吸収性を有し、かつ酸化に伴う揮発性分解生成物による臭気の発生、および内容物への移動等が極めて小さく、酸素の影響で何らかの劣化が生じやすい内容物の包装に好適に使用できる。このような内容物の例としては、食品(例えば、生鮮食品、加工食品、冷蔵食品、冷凍食品、フリーズドライ食品、惣菜、半調理食品等);飲料(例えば、飲料水、茶飲料、乳飲料、加工乳、豆乳、コーヒー、ココア、清涼飲料水、スープ類、酒類(例えばビール、ワイン、焼酎、清酒、ウイスキー、ブランデー等);ペットフード(例えばドッグフード、キャットフード);家畜、家禽、養殖魚用飼料または餌料;油脂類(例えば食用油、工業用油等);医薬品(例えば、薬局用医薬品、要指導医薬品、一般医薬品、動物用医薬品);その他の薬剤;等が挙げられる。酸素の影響により変質、腐敗等の影響を受け易く、酸素吸収性に優れた包装材のニースが大きい等の理由から、本発明の多層構造体は食品の包装体として使用することが特に好ましい。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例I:酸素吸収性フィルムおよび多層構造体の作製)
(I-a)酸素吸収性の評価
実施例I-1~I-24および比較例I-1~I-5で得られた酸素吸収性フィルム100mgをサンプルとして切り出し、内容積35.5mLの耐圧ガラス瓶の中に空気下で入れ、ナフロン・ゴムパッキン付きのアルミキャップで密栓し、40℃、22%RHの条件下で14日間保管した。保管後の容器内の酸素濃度をパックマスター(飯島電子工業株式会社製)で測定した。
【0103】
(I-b)酸素吸収後の臭気の評価
上記(I-a)と同様にして作製し同様に保管したサンプルを開封し、容器内の臭気を5人の専門家が以下の基準でそれぞれ判定し、得られた判定結果の平均点を算出した。点数が低いものほど臭気が少なかったことを表す。
5:むせるような強い不快臭を感じた。
4:鼻をつまみたくなるような強い不快臭を感じた。
3:十分な不快臭を感じた。
2:弱い不快臭を感じた。
1:僅かに不快臭を感じた。
0:全く不快臭を感じなかった。
【0104】
(I-c)酸素吸収後の臭気成分の分析
上記(I-a)と同様にして作製したサンプルを、空気下で蛍光型酸素濃度センサーを備えた耐圧ガラス瓶の中に入れ、テフロン(登録商標)・ゴムパッキン付きのアルミキャップで密栓し、実施例1では60℃で1日間保管し、比較例I-3では60℃で3日間保管して、ガラス容器内の一部の酸素2.5ccをサンプルに吸収させた。サンプルが酸素2.5ccを吸収したことは、ポータブル非破壊酸素計 Fibox4 trace(PreSens社製)で容器内の酸素濃度をモニターし、酸素濃度が20.9%から14.9%まで低下したことで確認した。次いで、ガラス瓶を60℃に保持した状態で、保管後の容器内のガスを60℃に加温したガスタイトシリンジで1.5cc取り出し、GC-MS(GCシステム7890B、検出器5977B MSD、アジレントテクノロジー社製、カラム:DB-624(カラム長:60m、カラム直径:0.25mm、アジレントテクノロジー社製)、昇温条件:40℃で5分間保持後、5℃/分で150℃まで昇温し、続いて10℃/分で250℃まで昇温)に投入して発生したガス成分の分析を行った。
【0105】
(I-d)MFR(メルトフローレート)の測定
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)、粘度調整剤および二軸混練で得られた樹脂組成物のMFRは、190℃、荷重2160g下でメルトフローインデクサーを用いて測定を行った。
【0106】
(実施例I-1:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン、プロピレン、5-エチリデン-2-ノルボルネンの単量体から構成されるEPDMエラストマー(ダウ・ケミカル社製「NORDEL IP4770P」、Mw=200,000、MFR=0.07g/10分)100質量部に、遷移金属触媒(B)としてステアリン酸マンガン0.4質量部を混合し、二軸混練押出機(スクリュ径25mmφ、L/D=30、株式会社東洋精機製作所製)でシリンダ温度230℃、スクリュ回転数毎分50回転の条件で溶融混練した後、ダイスから5℃の冷却水槽中にストランド状に押し出し、ストランドカッターでペレタイズすることによりペレットを得た。
【0107】
次いで、このペレットを、単層押出機(スクリュ径20mmφ、L/D=20、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、シリンダ温度230℃、スクリュ回転数毎分40回転で溶融混練し、ダイスから20℃の冷却ロールにキャストすることにより、厚さ20μmの酸素吸収性フィルムを得た。
【0108】
この酸素吸収性フィルムを用いて、上記酸素吸収性の評価および酸素吸収後の臭気の評価を行った。また、GC-MSによる酸素吸収後の臭気成分の分析も行った。この酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。また、評価(I-c)のGC-MSのグラフを
図1に示す。
【0109】
(実施例I-2~I-6:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を、表1に記載の単量体単位で構成されるEDPMエラストマーに変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0110】
なお、表1中の種類欄に記載された各EDPMエラストマーは以下の製品に対応する:
「NORDEL IP3745P」(ダウ・ケミカル社製、Mw=140,000、MFR=0.2g/10分)
「NORDEL IP4820P」(ダウ・ケミカル社製、Mw=75,000、MFR=1g/10分)
「三井EPT K-9720」(三井化学株式会社製、Mw=60,000、MFR=2g/10分)
「三井EPT X-3012P」(三井化学株式会社製、MFR=5g/10分)
「RoyalEdge5041」(Lion Copolymer Geismar社製)
【0111】
(実施例I-7:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を、住友化学株式会社製「エスプレン301A」(EPDMエラストマー、Mw=210,000)に変更したこと、ベール状のエスプレン301Aを0.5cm角に切断して二軸押し出し機に投入したこと、および遷移金属触媒(B)をステアリン酸コバルトに変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0112】
(実施例I-8:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)をエチレン-ノルボルネン共重合体(ポリプラスチックス株式会社製「TOPAS E-140」に変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0113】
(実施例I-9:酸素吸収性フィルムの作製)
遷移金属触媒(B)をステアリン酸コバルトに変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0114】
(実施例I-10:酸素吸収性フィルムの作製)
ステアリン酸コバルトの含有量を0.021質量部に変更したこと以外は、実施例I-9と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0115】
(実施例I-11:酸素吸収性フィルムの作製)
ステアリン酸コバルトの含有量を1.073質量部に変更したこと以外は、実施例I-9と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0116】
(実施例I-12:酸素吸収性フィルムの作製)
ステアリン酸マンガンの添加量を0.416質量部に変更し、さらに酢酸吸着剤(C)として0.9nm平均細孔径を有するゼオライト(東ソー株式会社製「ゼオラムF-9」)4質量部をEPDMエラストマーおよびステアリン酸マンガンとともに混合して二軸押出機で溶融混練したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0117】
(実施例I-13~I-16:酸素吸収性フィルムの作製)
ステアリン酸マンガンの添加量、ならびに酢酸吸着剤(C)の種類および含有量を表2および3に記載の通りに変更したこと以外は、実施例I-12と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0118】
なお、表2中の酢酸吸着剤(C)の種類欄に記載された製品は以下に対応する:
「HSZ940HOA」(東ソー株式会社製ハイシリカゼオライト)平均細孔径0.65nm
「カルボジライトLA-1」(日清紡ケミカル株式会社製ポリカルボジイミド)
「サイリシア310P」(富士シリシア化学株式会社製非晶質シリカゲル)平均粒子径2.7μm、平均細孔径21nm
【0119】
(実施例I-17:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の添加量を80質量部に変更し、さらにその他の熱可塑性樹脂(G)として部分水添スチレンブタジエンゴム(旭化成ケミカルズ株式会社製「タフテックP1083」)20質量部をEPDMエラストマーおよびステアリン酸マンガンとともに混合して二軸押出機で溶融混練したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0120】
(実施例I-18:酸素吸収性フィルムの作製)
酢酸吸着剤(C)としてハイシリカゼオライト「HSZ940HOA」8質量部をさらに添加かつ混合して二軸押出機で溶融混練したこと以外は、実施例I-17と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0121】
(実施例I-19:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の添加量を80質量部に変更し、さらにその他の熱可塑性樹脂(G)としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(三井化学株式会社製「エバフレックスV56113」(酢酸ビニル含有量=20wt%、MFR=20g/10分)20質量部をEPDMエラストマーおよびステアリン酸マンガンとともに混合して二軸押出機で溶融混練したこと以外は実施例I-17と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。高MFRのエチレン-酢酸ビニル共重合体を添加したことで、二軸混練で得られた樹脂組成物のMFRは0.2g/10分となり、酸素吸収性フィルムの押出時に実施例I-1の場合に比べて低トルクで効率よく製膜を行うことができた。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0122】
(実施例I-20:酸素吸収性フィルムの作製)
酸化防止剤(F)として3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル(BASF社製「Irganox1076」)0.01質量部をEPDMエラストマーおよびステアリン酸マンガンとともに混合して二軸押出機で溶融混練したこと以外は、実施例I-4と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0123】
(実施例I-21およびI-22:酸素吸収性フィルムの作製)
酸化防止剤(F)の含有量を表2および3に記載の通りに変更したこと以外は、実施例I-21と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0124】
(実施例I-23:酸素吸収性フィルムの作製)
EPDMエラストマー「三井EPT X-3012P」の添加量を20質量部に変更し、さらに1-ヘキセン変性L-LDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ハーモレックスNF325N」)80質量部をEPDMエラストマーおよびステアリン酸マンガンとともに混合して二軸押出機で溶融混練したこと以外は、実施例I-5と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0125】
(実施例I-24:酸素吸収性フィルムの作製)
EPDMエラストマー「三井EPT X-3012P」の添加量、および1-ヘキセン変性L-LDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ハーモレックスNF325N」)の添加量を50質量部に変更したこと以外は、実施例I-24と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0126】
(比較例I-1:酸素吸収性フィルムの作製)
エチレン-環状オレフィン共重合体(A)をエチレン-ノルボルネン共重合体(ポリプラスチックス株式会社製「TOPAS 6013」)に変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0127】
(比較例I-2:酸素吸収性フィルムの作製)
EPDMエラストマーの代わりに1-ヘキセン変性L-LDPE(日本ポリエチレン株式会社製「ハーモレックスNF325N」)を用いたこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0128】
(比較例I-3:酸素吸収性フィルムの作製)
EPDMエラストマーの代わりにエチレン-オクテン共重合物(ダウ・ケミカル社製「ENGAGE8407」)を用いたこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。また、評価(I-c)のGC-MSのグラフを
図1に示す。
【0129】
(比較例I-4:酸素吸収性フィルムの作製)
ステアリン酸マンガンを添加しなかったこと以外は、実施例I-2と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0130】
(比較例I-5:酸素吸収性フィルムの作製)
EPDMエラストマーの代わりにイソプレンゴム(JSR株式会社製「IR2200」)を用い、ベール状のイソプレンゴムIR2200を0.5cm角に切断して二軸押出機に投入したこと以外は、実施例I-1と同様にして酸素吸収性フィルムを作製し、各種評価を行った。酸素吸収性フィルムの組成を表1および2に示し、評価(I-a)および(I-b)の結果を表3に示す。
【0131】
(実施例I-25:多層構造体の作製)
基材樹脂としてメタロセンL-LDPE(宇部丸善ポリエチレン株式会社製「ユメリット3540N」)を1台目の押出機に、接着性樹脂として無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(三井化学社株式会社製「アドマーNF-539」)を2台目の押出機に、酸素吸収性樹脂として実施例I-3で作製したEPDMエラストマー「三井EPT K-9720P」を含有する樹脂組成物ペレットを3台目の押出機に、エチレン-ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製「EVAL F101B」を4台目の押出機にそれぞれ投入し、4種6層の多層押出機を用いて、押出温度180~220℃、ダイス温度220℃の条件で、層構成がL-LDPE(30μm)/酸素吸収層(20μm)/接着層(10μm)/EVOH(20μm)/接着層(10μm)/L-LDPE(30μm)で構成される4種6層の多層フィルムを作製した。
【0132】
得られた多層フィルムを22cm×12cmの大きさに切り出し、各4辺の端部1cmを150℃でヒートシールを行い、空気の入った内容積100mL、内表面積200cm2のパウチ状の多層構造体を作製した。多層構造体を40℃で2週間保管したのち、パウチ内の酸素濃度をパックマスター(飯島電子工業株式会社製)で測定し、多層構造体の酸素吸収性を評価した。酸素吸収後の多層構造体内の臭気を、同様に作製したパウチを2週間保管後に開封し、パウチ内の臭気を5人の専門家が以下の基準でそれぞれ判定し、得られた判定結果の平均点を算出した。点数が低いものほど臭気が少なかったことを表す。
5:むせるような強い不快臭を感じた。
4:鼻をつまみたくなるような強い不快臭を感じた。
3:十分な不快臭を感じた。
2:弱い不快臭を感じた。
1:僅かに不快臭を感じた。
0:全く不快臭を感じなかった。
【0133】
このパウチを構成する多層構造体の組成を表1および2に示し、上記結果を表4に示す。
【0134】
(比較例I-6:多層構造体の作製)
4種6層の多層押出において、3台目の押出機に酸素吸収性樹脂として比較例I-1で作製したエチレン-ノルボルネン共重合体(ポリプラスチクス社製「TOPAS 6013」)を含有する樹脂組成物ペレットを投入したこと以外は、実施例I-25と同様にして4種6層の酸素吸収性フィルムおよびそれを用いたパウチを作製し、多層構造体の酸素吸収性および酸素吸収後のパウチ内の臭気を評価した。このパウチを構成する多層構造体の組成を表1および2に示し、上記結果を表4に示す。
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
表3に示すように、例えば比較例I-1のフィルムと比較して、実施例I-1~I-24で作製された酸素吸収性フィルムはいずれも上記評価における酸素濃度が低く、当該フィルムの酸素吸収量の数値が高かった。こうした低い酸素濃度は比較例I-2およびI-5でも見出されたが、臭気評価(官能評価)の結果がいずれも高いものであった。この臭気評価についても、実施例I-1~I-25で作製された酸素吸収性フィルムはいずれも低い値を示しており、総合して実施例I-1~I-24で作製された酸素吸収性フィルムは優れた酸素吸収性を有するとともに、酸素吸収後の揮発性分解生成物に起因する臭気の発生も抑えられていたことがわかる。
【0140】
酸素吸収後に残存する揮発性分解生成物の種類について着目すると、
図1に示すように実施例I-1で作製された酸素吸収性フィルムは、比較例I-3で作製されたフィルムと比較して、酸素吸収後に残存する揮発性分解生成物の種類が極めて少なく、GC-MSにおいてせいぜいアセトアルデヒド、tert-ブチルアルコールおよび酢酸が検出されたに過ぎないことがわかる。特に、実施例I-1では比較例I-3で検出された臭気の強い炭素数4以上の脂肪酸はまったく検出されなかった。
【0141】
表4に示すように、実施例I-25で作製された多層構造体についても、比較例I-6の多層構造体と比較して、上記評価における酸素濃度が低く、作製したパウチ内の酸素吸収量の数値が高いものであった。そして、この臭気評価についても、実施例I-25で作製された多層構造体は不快臭も十分弱いものであった。このことから総合すると、実施例I-25で作製された多層構造体もまた優れた酸素吸収性を有し、かつ酸素吸収後の揮発性分解生成物に起因する臭気の発生も抑えられていたことがわかる。
【0142】
(実施例II:ペレット、酸素吸収性フィルムおよび熱成形カップの作製)
(II-a)エチレン-環状オレフィン共重合体(A)の組成評価
実施例II-1~II-16および比較例II-1~II-3で合成されたエチレン-環状オレフィン共重合体(A)を1.5質量%のクロム(III)アセチルアセトナートを含んだ1,2-ジクロロベンゼン-d4(重水素化溶媒)に溶解し、130℃で1H NMR(日本電子社製核磁気共鳴装置、600MHz、TMSを基準ピークとする)により共重合比率の組成分析を行った。重合中に生じた微量の分岐成分であるブチル基、ペンチル基およびヘキシル基の含有量は、同様に調製したサンプルで13C NMR分析により含有率を決定した。具体的には、溶媒に由来するシグナルを除く測定される全炭素原子の積分値に対して、ブチル基はブチル末端炭素の1つ隣のメチレン基量(22.8ppmに現れるピーク)から、ペンチル基はペンチル末端炭素の2つ隣のメチレン基量(33.2ppmに現れるピーク)から、ヘキシル基はヘキシル末端炭素の2つ隣のメチレン基量(32.1ppmに現れるピーク)から微量の分岐成分の含有量を決定した。
【0143】
(II-b)エチレン-環状オレフィン共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)
実施例II-1~II-16および比較例II-1~II-3で合成されたエチレン-環状オレフィン共重合体(A)についてメルトインデクサ(株式会社宝工業製「L244」)を用い、温度190℃、荷重2160gの条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定しメルトフローレートを得た。
【0144】
(II-c)樹脂組成物またはエチレン-環状オレフィン共重合体(A)に含まれる含有アルミニウム金属量の分析
実施例II-1~II-16で得られた樹脂組成物またはエチレン-環状オレフィン共重合体(A)0.1gに、濃硝酸(比重1.38g/mL)1mLを添加し、常温で60分以上放置した後、マイクロウェーブにより湿式分解を行い、さらに純水で希釈して溶液濃度を調製し、ICP-MSで定量分析を行った。
【0145】
(II-d)酸素吸収性の評価
実施例II-17~II-32および比較例II-4~II-6で得られた厚み20μmの酸素吸収性フィルム200mgをサンプルとして切り出し、23℃、湿度65%下で内容積35.5mLの耐圧ガラス瓶の中に入れ、ナフロン・ゴムパッキン付きのアルミキャップで密栓し、60℃で7日間保管した。60℃で保管中の容器内の湿度は、仕込み時に含まれる空気中の水蒸気量から10%であった。保管後の容器内の酸素濃度を、23℃、湿度65%下にてパックマスター(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定した。
【0146】
(II-e)酸素吸収後の臭気の評価
上記(II-d)と同様にして作製しかつ同期間同条件で保管したサンプルを23℃の室温下で開封し、容器内の臭気を5人の専門家が以下の基準でそれぞれ判定し、得られた判定結果の平均点を算出した。点数が低いものほど臭気が少なかったことを表す。
5:1秒間以上においを嗅ぎ続けることができない程度のむせるような強い不快臭を感じた。
4:1~3秒間しかにおいを嗅ぎ続けることができない程度の鼻をつまみたくなるような強い不快臭を感じた。
3:3秒間を超えてにおいを嗅ぎ続けることはできるが、はっきりとした不快臭を感じた。
2:弱い不快臭を感じた。
1:最初に嗅いだときは不快臭はしなかったが、再度よく嗅いでみると僅かに不快臭を感じた。
0:全く不快臭を感じなかった。
【0147】
(II-f)酸素吸収後の臭気成分(酪酸およびバレルアルデヒド生成量)の分析
上記(II-d)と同様にして作製したサンプルを、60℃で7日間保管し、次いで、ガラス瓶を60℃に保持した状態で、保管後の容器内のガスを60℃に加温したガスタイトシリンジで1.5cc取り出し、GC-MS(GCシステム7890B、検出器5977B MSD、アジレントテクノロジー社製、カラム:DB-624(カラム長:60m、カラム直径:0.25mm、アジレントテクノロジー社製、昇温条件:40℃で5分間保持後、5℃/分で150℃まで昇温し、続いて10℃/分で250℃まで昇温)に投入して発生した酪酸およびバレルアルデヒド成分の分析を行った。酪酸の検出時間は25分30秒であり、バレルアルデヒドの検出時間は20分10秒であった。各サンプルの測定時に同時に行った質量分析結果から酪酸およびバレルアルデヒドの生成を確認できたものについて、酪酸、バレルアルデヒドの生成量(ppm)を事前に作成した検量線を用いて定量した。各成分の検出下限は5ppmであり、ピーク強度が5ppm以下の場合は検出下限以下とした。なお、酪酸やバレルアルデヒドは、微量でも強い臭気を放つ化合物であり、これらの化合物の生成量が少ないほど酸素吸収後に発生する臭気が少ない材料であり好ましい。
【0148】
(II-g)レトルト処理前後の溶存酸素濃度の分析
実施例II-33~II-48および比較例II-7~II-9で作製された熱成形カップに、窒素バブリングにより溶存酸素濃度を1.5ppmまで低減させたイオン交換水を満水充填し、さらに酸素濃度センサーを取り付けた蓋材(二軸延伸ポリプロピレンフィルム50μmと二軸延伸ナイロンフィルム50μmと酸素・水蒸気ハイバリアフィルム(クラレ社製「クラリスタC」)12μmとをこの順でドライラミネートしたもの)を二軸延伸ポリプロピレン側がカップ側になるようにヒートシールし、イオン交換水を封止した。室温20℃下で溶存酸素濃度を測定後、120℃の温度下、ゲージ圧0.17MPaの条件で、30分間熱水式レトルト処理を行った。レトルト処理後、水を拭き取り、室温20℃の部屋で4時間放置して冷却し、レトルト処理後の溶存酸素濃度を測定した。
【0149】
(II-h)ペレットの色相
実施例II-1~II-16および比較例II-1~II-3で得られたペレットの色相(YI値、b値)を、ASTM-D2244(color scale system2)に準拠して、日本電色工業株式会社製測色色差計「ZE-2000」を用いて測定した。また、酸化後の色相の指標として、各実施例および比較例で得られたペレットを空気下で120℃にて3時間熱風乾燥した後の色相も、同様の方法で測定した。
【0150】
(実施例II-1:ペレット(EP1)の作製)
(1)エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体の重合
撹拌翼を備える容量5Lの連続重合器に、エチレン(供給速度:150L/時間)、1-ブテン(供給速度:35L/時間)および5-エチリデン-2-ノルボルネン(反応器内濃度5g/L)を連続的に供給し、内温が40℃になるようにジャケット内の水温を調整しながら、0.7MPaの条件で共重合反応を行った。重合器の上部からシクロヘキサン溶媒を3L/時間の速度で連続的に供給し、一方で重合器の下部から重合器中の重合液の体積が常に3Lとなるように重合液を連続的に抜き出した。なお、重合触媒として三塩化酸化バナジウム(V)のシクロヘキサン溶液、ジエチルアルミニウムクロリドのシクロヘキサン溶液およびエチルアルミニウムジクロリドのシクロヘキサン溶液をそれぞれ金属原子濃度0.5ミリモル/L、1.5ミリモル/Lおよび1.5ミリモル/Lの比率で連続的に供給した。さらに、分子量調整剤として水素を使用し、これを重合器中のガス相の水素濃度が1モル%となるように供給した。
【0151】
次いで、抜き出した重合液に少量のメタノールを加えて重合反応を停止させ、スチームストリッピングにて重合体を溶媒から分離した後、水洗を行った。さらに、80℃にて終夜真空下で乾燥させた。これによりエチレン、1-ブテンおよび5-エチリデン-2-ノルボルネンからなるエチレン-環状オレフィン共重合体(A)を毎時90g/時間の速度で得た。
【0152】
(II-2)ペレットの作製
上記で得られたエチレン-環状オレフィン共重合体(A)10質量部、遷移金属触媒(B)としてステアリン酸コバルト(II)0.4質量部、およびエチレン-ビニルアルコール共重合体(C)として株式会社クラレ製「エバール F171」(190℃、2160g荷重下におけるMFR=1g/10分)90質量部を混合し、二軸混練押出機(スクリュ径25mmφ、L/D=30、株式会社東洋精機製作所製)でシリンダ温度230℃、スクリュ回転数毎分100回転の条件で溶融混練した後、ダイスから20℃の冷却水槽中にストランド状に押し出し、ストランドカッターでペレタイズすることにより樹脂組成物のペレット(EP1)を得た。得られたペレット(EP1)について色相を評価した。ペレット(EP1)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0153】
(実施例II-2:ペレット(EP2)の作製)
重合温度を40℃代わりに50℃に変更したこと以外は、実施例II-1と同様にしてエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を得た。このエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP2)を作製した。得られたペレット(EP2)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0154】
(実施例II-3:ペレット(EP3)の作製)
重合にあたり、1-ブテンの変わりにプロピレンを用い、当該プロピレンの供給速度を50L/時間に設定し、かつ5-エチリデン-2-ノルボルネンの反応器内濃度を2g/Lに変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を得た。このエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP3)を作製した。得られたペレット(EP3)の組成とともに、色相の評価結果を表5に示す。
【0155】
(実施例II-4:ペレット(EP4)の作製)
重合にあたり、1-ブテンの変わりにプロピレンを用い、当該プロピレンの供給速度を50L/時間に設定し、5-エチリデン-2-ノルボルネンの反応器内濃度を2g/Lに変更し、かつ触媒の種類および反応器内濃度を、メタロセン触媒のジクロロ[rac-エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)]ジルコニウム(IV)(アルドリッチ社製)0.1ミリモル/Lのシクロヘキサン溶液および非特許文献(J.Polym.Sci.,PartA1988,26,3089.)に記載の方法で調製したメチルアルミノキサンを3ミリモル/Lのシクロヘキサン溶液に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を得た。このエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP4)を作製した。得られたペレット(EP4)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0156】
(実施例II-5:ペレット(EP5)の作製)
重合にあたり、1-ブテンの変わりにプロピレンを用い、当該プロピレンの供給速度を50L/時間に設定し、5-エチリデン-2-ノルボルネンの反応器内濃度を2g/Lに変更し、かつ触媒の種類および反応器内濃度を、メタロセン触媒のジクロロ[rac-エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)]ジルコニウム(IV)(アルドリッチ社製)0.1ミリモル/Lのシクロヘキサン溶液およびトリフェニルメチリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニルボラート)(東京化成工業株式会社製)0.1ミリモル/Lのシクロヘキサン溶液に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を得た。このエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を用いたこと以外は実施例II-1と同様にしてペレット(EP5)を作製した。得られたペレット(EP5)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0157】
(実施例II-6:ペレット(EP6)の作製)
重合にあたり、1-ブテンの変わりにプロピレンを用い、当該プロピレンの供給速度を80L/時間に設定し、5-エチリデン-2-ノルボルネンの反応器内濃度を2g/Lに変更し、かつ触媒の種類および反応器内濃度を、メタロセン触媒のジクロロ[rac-エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)]ジルコニウム(IV)(アルドリッチ社製)0.1ミリモル/Lのシクロヘキサン溶液および非特許文献(J.Polym.Sci.,PartA1988,26,3089.)に記載の方法で調製したメチルアルミノキサンを3ミリモル/Lのシクロヘキサン溶液に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を得た。このエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP6)を作製した。得られたペレット(EP6)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0158】
(実施例II-7:ペレット(EP7)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(ダウケミカル社製NORDEL IP4820P)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄により、ペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP7)を作製した。得られたペレット(EP7)の組成を表5に示す。
【0159】
(実施例II-8:ペレット(EP8)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(ダウケミカル社製NORDEL IP4770P)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄により、ペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP8)を作製した。得られたペレット(EP8)の組成を表5に示す。
【0160】
なお、このペレット(EP8)の作製のために樹脂組成物を二軸混練した際、ダイスにメヤニが多量に発生したことを確認した。
【0161】
(実施例II-9:ペレット(EP9)の作製)
エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体のベール(住友化学株式会社製エスプレン 301A)を3cm角に切り出し、この共重合体5質量部をシクロヘキサン100質量部に80℃で溶解させた。得られた溶液を室温まで冷却し、多量のアセトンを用いて高速撹拌しながら再沈殿し、析出した固体を80℃で真空乾燥させた。得られた固体を5mm角に切断した。この切断した固体を用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP9)を作製した。得られたペレット(EP9)の組成を表5に示す。
【0162】
なお、このペレット(EP9)の作製のために樹脂組成物を二軸混練した際、ダイスにメヤニが多量に発生したことを確認した。
【0163】
(実施例II-10:ペレット(EP10)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・2-ノルボルネン共重合体のペレット(ポリプラスチックス株式会社製TOPAS E-140)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄により、ペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・2-ノルボルネン共重合体のペレットを用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP10)を作製した。得られたペレット(EP10)の組成を表5に示す。
【0164】
(実施例II-11:ペレット(EP11)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(三井化学株式会社製三井EPT K-9720)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄により、ペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP11)を作製した。得られたペレット(EP11)の組成を表5に示す。
【0165】
(実施例II-12:ペレット(EP12)の作製)
ステアリン酸コバルト(II)の代わりに、ステアリン酸マンガン(II)を0.4質量部用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP12)を作製した。得られたペレット(EP12)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0166】
(実施例II-13:ペレット(EP13)の作製)
ペレットの作製にあたり、二軸混練押出機にさらに酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製Irganox1076)0.01質量部を添加し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の含有量を89.99質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP13)を作製した。得られたペレット(EP13)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0167】
(実施例II-14:ペレット(EP14)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(三井化学株式会社製三井EPT K-9720)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄により、ペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用い、かつ二軸混練押出機にさらに可塑剤(三井化学株式会社製HI-WAX800P;低分子量HDPE、分子量8000、密度0.970kg/cm3)を2質量部添加し、アセトンにより添加剤を除去したエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネンのペレットの含有量を8質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP14)を作製した。得られたペレット(EP14)の組成を表5に示す。
【0168】
(実施例II-15:ペレット(EP15)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(三井化学株式会社製三井EPT K-9720)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄により、ペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用い、かつ二軸混練押出機にさらに可塑剤(三井化学株式会社製HI-WAX800P;低分子量HDPE、分子量8000、密度0.970kg/cm3)を4質量部添加し、アセトンにより添加剤を除去したエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネンのペレットの含有量を16質量部に変更し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の含有量を80質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP15)を作製した。得られたペレット(EP15)の組成を表5に示す。
【0169】
(実施例II-16:ペレット(EP16)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(ダウケミカル社製NORDEL IP4770P)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄によりペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用い、かつ二軸混練押出機にさらにエチレン-メタクリル酸メチル共重合体(住友化学株式会社製アクリフトWK-402;メタクリル酸メチル含有量25wt%、MFR=20g/10分)3質量部を添加し、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネンのペレットの含有量を7質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP16)を作製した。得られたペレット(EP16)の組成を表5に示す。
【0170】
(実施例II-17:ペレット(EP17)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(ダウケミカル社製NORDEL IP4770P)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄によりペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用い、かつ二軸混練押出機にさらにエチレン-メタクリル酸共重合体(三井・ダウポリケミカル株式会社製ニュクレルN1035;メタクリル酸含有量10wt%、MFR=35g/10分)3質量部を添加し、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネンのペレットの含有量を7質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP17)を作製した。得られたペレット(EP17)の組成を表5に示す。
【0171】
(実施例II-18:ペレット(EP18)の作製)
撹拌翼を備える5Lのセパラブルフラスコの中に、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレット(ダウケミカル社製NORDEL IP4770P)30質量部およびアセトン70質量部を添加し、窒素雰囲気下にて、60℃のオイルバスで加熱して終夜還流を行い、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体中に含まれるアセトンに可溶な成分を溶出させた。ろ過および大量のアセトン洗浄によりペレットを洗浄し、60℃にて真空乾燥させてペレット中に含まれるアセトンを除去した。このようなエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体のペレットを用い、かつ二軸混練押出機にさらにアルカリ土類金属塩としてステアリン酸カルシウム(II)0.45質量部を添加し、エチレン-メタクリル酸共重合体(三井・ダウポリケミカル株式会社製ニュクレルN1035;メタクリル酸含有量10wt%、MFR=35g/10分)3質量部を添加し、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネンのペレットの含有量を7質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(EP18)を作製した。得られたペレット(EP18)の組成を表5に示す。
【0172】
なお、上記ペレット(EP16、17、18)の作製のために樹脂組成物を二軸混練した際、実施例8(ペレット(EP8)の作製)で確認されたようなダイスへのメヤニの発生が大幅に低減されていることを確認した。
【0173】
(比較例II-1:ペレット(CP1)の作製)
エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体の代わりにポリオクテニレン(シクロオクテンの開環メタセシス重合品)(EVONIK社製Veatenamer8020)10質量部を用い、かつステアリン酸コバルト(II)の含有量を0.2質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にしてペレット(CP1)を作製した。得られたペレット(CP1)の組成とともに色相の評価結果を表5に示す。
【0174】
(比較例II-2:ペレット(CP2)の作製)
エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体を含有させず、かつエチレン-ビニルアルコール共重合体(C)の含有量を100質量部に変更したこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(CP2)を作製した。得られたペレット(CP2)の組成を表5に示す。
【0175】
(比較例II-3:ペレット(CP3)の作製)
エチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体の代わりに、1-ヘキセン変性L-LDPE(日本ポリエチレン株式会社製ハーモレックスNF325N)10質量部を用いたこと以外は実施例II-1と同様にして、ペレット(CP3)を作製した。得られたペレット(CP3)の組成を表5に示す。
【0176】
【0177】
(実施例II-19:酸素吸収性フィルム(EF1)の作製)
実施例II-1で得られたペレット(EP1)を単層押出機(スクリュ径20mmφ、L/D=20、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、シリンダ温度220℃にてスクリュ回転数毎分100回転で溶融混練し、ダイスから80℃の冷却ロールにキャストすることにより、厚さ20μmの酸素吸収性フィルム(EF1)を得た。この酸素吸収性フィルム(EF1)について、上記酸素吸収試験、酸素吸収後の臭気評価、および分解物評価を行った。得られた結果を表6に示す。
【0178】
(実施例II-20~II-36:酸素吸収性フィルム(EF2)~(EF18)の作製)
実施例II-1で作製したペレット(EP1)の代わりに、実施例II-2~II-18で作製したペレット(EP2)~(EP18)をそれぞれ用いたこと以外は実施例II-19と同様にして酸素吸収性フィルム(EF2)~(EF18)を得た。これらの酸素吸収性フィルム(EF2)~(EP18)について、上記酸素吸収試験、酸素吸収後の臭気評価、および分解物評価を行った。得られた結果を表6に示す。
【0179】
なお、実施例II-26およびII-27で得られた酸素吸収性フィルム(EF8)および(EF9)にはフィッシュアイが多く観察された。これに対し、実施例II-32~II-34で得られた酸素吸収性フィルム(EF16~EF18)では、例えば当該酸素吸収性フィルム(EF8)と比較してフィッシュアイの発生が著しく低減されていることを確認した。
【0180】
(比較例II-4~II-6:酸素吸収性フィルム(CF1)~(CF3)の作製)
実施例II-1で作製したペレット(EP1)の代わりに、比較例II-1~II-3で作製したペレット(CP1)~(CP3)をそれぞれ用いたこと以外は実施例II-17と同様にして酸素吸収性フィルム(CF1)~(CF3)を製膜した。これらの酸素吸収性フィルム(CF1)~(CF3)について、上記酸素吸収試験、酸素吸収後の臭気評価、および分解物評価を行った。得られた結果を表6に示す。
【0181】
【0182】
表6に示すように、実施例II-19~II-36で作製された酸素吸収性フィルム(EF1)~(EF18)は、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を含有させなかった比較例II-5およびII-6で得られたフィルム(CF2)および(CF3)と比較して、高い酸素吸収量を示していた。なお、比較例II-4のフィルム(CF3)は酸素吸収量が高かったが、臭気評価の平均点が、実施例II-19~II-36で作製された酸素吸収性フィルム(EF1)~(EF18)の評価と比較して著しく高かった。さらに、実施例II-19~II-36で作製された酸素吸収性フィルム(EF1)~(EF18)では、比較例II-4およびII-6で測定されたようなバレルアルデヒドの生成もほとんど観察されていなかったことがわかる。
【0183】
(実施例II-37:熱成形カップ(EC1)の作製)
基材樹脂としてポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製ノバテック EA7AD)を1台目の押出機に、接着性樹脂として無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三井化学社株式会社製アドマーQF-500を2台目の押出機に、そして酸素吸収性樹脂として実施例1で得られたペレット(EP1)を3台目の押出機にそれぞれ投入し、3種5層の多層押出機を用いて、押出温度180~230℃、ダイス温度230℃の条件で、層構成がポリプロピレン(320μm)/接着層(45μm)/酸素吸収性樹脂層(80μm)/接着層(40μm)/ポリプロピレン(320μm)で構成される3種5層の多層シートを作製した。
【0184】
この多層シートを真空/圧空成形機(株式会社浅野研究所製)を用いて、シート表面温度190℃、圧力0.3MPaの条件で絞り比0.5にて成形することにより熱成形カップ(EC1)を作製した。この熱成形カップ(EC1)について、上記レトルト処理時の酸素バリア性の評価を行った。得られた結果を表7に示す。
【0185】
(実施例II-38~II-54:熱成形カップ(EC2)~(EC18)の作製)
実施例II-1で作製したペレット(EP1)の代わりに、実施例II-2~II-18で作製したペレット(EP2)~(EP18)をそれぞれ用いたこと以外は実施例II-37と同様にして熱成形カップ(EC2)~(EC18)を作製した。これらの熱成形カップ(EC2)~(EC18)について、上記レトルト処理時の酸素バリア性の評価を行った。得られた結果を表7に示す。
【0186】
(比較例II-7~II-9:熱成形カップ(CC1)~(CC3)の作製)
実施例II-1で作製したペレット(EP1)の代わりに、比較例II-1~II-3で作製したペレット(CP1)~(CP3)をそれぞれ用いたこと以外は実施例II-33と同様にして熱成形カップ(CC1)~(CC3)を製膜した。これらの熱成形カップ(CC1)~(CC3)について、上記レトルト処理時の酸素バリア性の評価を行った。得られた結果を表7に示す。
【0187】
【0188】
表7に示すように、実施例II-37~II-54で作製された熱成形カップ(EC1)~(EC18)は、エチレン-環状オレフィン共重合体(A)を含有させなかったペレット(CP2)および(CP3)を用いた、比較例II-8およびII-9の熱成形カップ(CC2)および(CC3)と比較して、レトルト処理後の溶存酸素濃度を低く抑えることができ、レトルト処理を行うにあたり優れた酸素バリア性を有していたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の樹脂組成物は、例えば、食品および飲料分野、ペットフード分野、油脂工業分野、医薬品分野等の技術分野における各種製品の包装に有用である。