(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】光学フィルム製造用フィルム及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241216BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEX
(21)【出願番号】P 2022561279
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2021029522
(87)【国際公開番号】W WO2022102185
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020187736
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】中谷 匡希
(72)【発明者】
【氏名】清水 さやか
(72)【発明者】
【氏名】練苧 喬士
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/173127(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/112625(WO,A1)
【文献】特開2011-53234(JP,A)
【文献】特開昭58-59203(JP,A)
【文献】特開2002-275218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08J 5/18
C08F216/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを含む光学フィルム製造用フィルムであって、
前記ポリビニルアルコールの濃度が12質量%となるように前記光学フィルム製造用フィルムを溶解させた水溶液の動的粘度測定において、
複素粘度η
*
1(30)と複素粘度η
*
1(80)との比Rt(η
*
1(30)/η
*
1(80))が4.5以上50以下であ
り、
前記ポリビニルアルコールのけん化度が99.0モル%以上である、光学フィルム製造用フィルム。
[前記複素粘度η
*
1(30)は、30℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。前記複素粘度η
*
1(80)は、80℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。]
【請求項2】
前記複素粘度η
*
1(30)と複素粘度η
*
500(30)との比R
ω(30)(η
*
1(30)/η
*
500(30))が5以上150以下である、請求項1に記載の光学フィルム製造用フィルム。
[前記複素粘度η
*
500(30)は、30℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数500rad/秒における複素粘度である。]
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールが、ケイ素含有基を有する変性ポリビニルアルコールを含む、請求項1または請求項2に記載の光学フィルム製造用フィルム。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアルコールにおける全構造単位に対する前記ケイ素含有基の含有量が0.01モル%以上2モル%以下である、請求項3に記載の光学フィルム製造用フィルム。
【請求項5】
前記光学フィルムが偏光フィルムである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の光学フィルム製造用フィルム。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の光学フィルム製造用フィルムを一軸延伸する工程を備える、光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記光学フィルムが偏光フィルムである、請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム製造用フィルム及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過及び遮蔽機能を有する偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。多くの偏光板は、偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護フィルムが貼り合わされた構造を有している。偏光フィルムとしては、ポリビニルアルコールフィルム(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある。)を一軸延伸してなるマトリクス(延伸フィルム)にヨウ素系色素(I3
-やI5
-等)や二色性有機染料といった二色性色素が吸着しているものが主流となっている。
【0003】
LCDは、電卓及び腕時計などの小型機器、スマートフォン、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器など広範囲で用いられている。近年、これらの機器には表示品質の向上が求められている。これに伴い、偏光フィルムに対しても高性能化が求められており、具体的には、偏光度、透過度などの光学性能に優れる偏光フィルムが求められている。
【0004】
光学性能等が改善された偏光フィルムとして、重合度が高いPVAが用いられた偏光フィルムが知られている(特許文献1)。この特許文献1においては、高重合度のPVAがジメチルスルホキシドを主成分とする溶媒に溶解されたPVA製膜溶液を用いて、製膜が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工業的なPVAフィルムの製造には、環境面、経済性等を考慮し、溶媒として水が用いられたPVA水溶液を製膜溶液として使用することが一般的である。しかし、特許文献1のように重合度の高いPVAは、その水溶液の粘度が上昇するため、製膜性が悪く、工業生産上好ましくない。従って、生産性の悪化を防ぎつつ光学フィルムの光学性能を高める方法が望まれている。
【0007】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、良好な生産性を有し、光学性能が優れる光学フィルムを得ることができる光学フィルム製造用フィルム、およびこのような光学フィルム製造用フィルムを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的は、
[1]PVAを含む光学フィルム製造用フィルムであって、前記PVAの濃度が12質量%となるように前記光学フィルム製造用フィルムを溶解させた水溶液の動的粘度測定において、複素粘度η*
1(30)と複素粘度η*
1(80)との比Rt(η*
1(30)/η*
1(80))が4.5以上50以下である、光学フィルム製造用フィルム;
[前記複素粘度η*
1(30)は、30℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。前記複素粘度η*
1(80)は、80℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。]
[2]前記複素粘度η*
1(30)と複素粘度η*
500(30)との比Rω(30)(η*
1(30)/η*
500(30))が5以上150以下である、[1]の光学フィルム製造用フィルム;
[前記複素粘度η*
500(30)は、30℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数500rad/秒における複素粘度である。]
[3]前記PVAが、ケイ素含有基を有する変性PVAを含む、[1]または[2]の光学フィルム製造用フィルム;
[4]前記変性PVAにおける全構造単位に対する前記ケイ素含有基の含有量が0.01モル%以上2モル%以下である、[3]の光学フィルム製造用フィルム;
[5]前記光学フィルムが偏光フィルムである、[1]~[4]のいずれかの光学フィルム製造用フィルム;
[6][1]~[5]のいずれかの光学フィルム製造用フィルムを一軸延伸する工程を備える、光学フィルムの製造方法;
[7]前記光学フィルムが偏光フィルムである、[6]の光学フィルムの製造方法;
のいずれかを提供することで達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な生産性を有し、光学性能が優れる光学フィルムを得ることができる光学フィルム製造用フィルム、およびこのような光学フィルム製造用フィルムを用いた光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の光学フィルム製造用フィルム(PVAフィルム)をPVAの濃度が12質量%となるように溶解させた30℃のPVA水溶液の動的粘弾性測定から得られる複素粘度のフローカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<光学フィルム製造用フィルム>
本発明の光学フィルム製造用フィルムは、PVAを含む光学フィルム製造用フィルムであって、前記PVAの濃度が12質量%となるように前記光学フィルム製造用フィルムを溶解させた水溶液の動的粘度測定において、複素粘度η*
1(30)と複素粘度η*
1(80)との比Rt(η*
1(30)/η*
1(80))が4.5以上50以下である、光学フィルム製造用フィルムである。
【0012】
複素粘度η*
1(30)は、30℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。複素粘度η*
1(80)は、80℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。すなわち、複素粘度η*
1(30)は、PVAの濃度が12質量%となるように当該光学フィルム製造用フィルムを溶解させた30℃の水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。複素粘度η*
1(80)は、PVAの濃度が12質量%となるように当該光学フィルム製造用フィルムを溶解させた80℃の水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数1rad/秒における複素粘度である。
【0013】
(動的粘弾性測定)
動的粘弾性測定とは、試料に時間によって変化(振動)する歪みまたは応力を与えて、それによって発生する応力または歪みを測定することにより、試料の力学的な性質を測定する方法である。動的粘弾性は動的粘弾性測定装置(レオメーター)を用いることにより測定することができる。
【0014】
本発明において、動的粘弾性測定は、TA instruments社製「ARES-G2」により、以下の条件により測定される値である。
【0015】
ジオメトリー :円錐角0.02radのコーンプレート及び円盤型プレート
プレート直径 :40mm
ストレイン :1%
角周波数範囲 :1~500rad/秒
測定温度(水溶液の温度):30℃又は80℃
【0016】
本発明において、動的粘弾性測定は光学フィルム製造用フィルムをPVA濃度が12質量%となるようにPVA水溶液を用いて行う。このPVA水溶液は、容器に光学フィルム製造用フィルム及び蒸留水を秤量した後、撹拌しながら95℃で4時間加熱溶解することで調製することができる。光学フィルム製造用フィルム中にPVA以外の物質が含まれる場合には、あらかじめPVA含有量を求めてから溶解を行う。例えば、光学フィルム製造用フィルム中に水分や可塑剤などの水溶性の物質が含まれる場合、光学フィルム製造用フィルムを水で膨潤させ、洗浄することで、これらの物質を溶出させ、その後、105℃の乾燥機内で17時間以上乾燥させて秤量することで、光学フィルム製造用フィルム中のPVA含有量を求めることができる。但し、光学フィルム製造用フィルム中にPVA以外の物質が含まれる場合においても、動的粘弾性測定に供される水溶液は、PVA以外の物質が含まれる状態の光学フィルム製造用フィルムを水に溶解して調製される。また、動的粘弾性測定に際しては、PVAの濃度が12質量%の水溶液を30℃又は80℃に設定して行われる。
【0017】
(複素粘度)
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、複素粘度η*
1(30)と複素粘度η*
1(80)との比Rt(η*
1(30)/η*
1(80))は4.5以上50以下であることが必要である。Rtが4.5未満の場合、複素粘度η*
1(30)が低すぎるか、複素粘度η*
1(80)が高すぎる。複素粘度η*
1(30)が低すぎることは、当該光学フィルム製造用フィルム中のPVAの架橋等による相互作用が不十分であることを意味し、当該光学フィルム製造用フィルムを延伸しても十分な配向が生じず、光学性能の優れる光学フィルムが得られない。一方、複素粘度η*
1(80)が高すぎる場合、当該光学フィルム製造用フィルムの製膜原液を高温にしても粘度が十分に低下しないことを意味し、良好な生産性を発揮することができない。このような点から、複素粘度η*
1(30)が15Pa・s以上であり、且つ前記複素粘度η*
1(80)が15Pa・s以下であることが好ましい。また、Rtが50超となる光学フィルム製造用フィルムは、製造が容易ではない。このようにRtが前記範囲であることで、良好な生産性を維持しつつ、光学性能が優れる光学フィルムを得ることができる。Rtは5以上が好ましく、7以上がより好ましい。一方。Rtの上限は40が好ましい。
【0018】
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、複素粘度η*
1(30)の下限は15Pa・sが好ましく、30Pa・sがより好ましい。複素粘度η*
1(30)が前記下限以上である場合、当該光学フィルム製造用フィルム中のPVAの架橋等による相互作用が特に十分な状態となっているため、延伸により特に十分な配向が生じ、得られる光学フィルムの光学性能をより高めることができる。複素粘度η*
1(30)の上限は500Pa・sが好ましく、400Pa・sがより好ましい。複素粘度η*
1(30)が前記上限以下の場合、当該光学フィルム製造用フィルムの製膜原液において、製膜原液の温度が低温(30℃)の場合でも粘度上昇が抑えられ、より良好な生産性を発揮することができる。
【0019】
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、複素粘度η*
1(80)は3Pa・s以上15Pa・s以下であることが好ましい。複素粘度η*
1(80)の上限は12Pa・sがより好ましく、10Pa・sまたは5Pa・sがさらに好ましい場合もある。複素粘度η*
1(80)が前記上限以下の場合、光学フィルム製造用フィルムの製膜原液において、特に製膜原液の温度が高温(80℃)の場合の粘度上昇がより抑えられ、より良好な生産性を発揮することができる。
【0020】
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、複素粘度η*
1(30)と複素粘度η*
500(30)との比Rω(30)(η*
1(30)/η*
500(30))の下限は、例えば3であってもよいが、5が好ましく、10がより好ましい。Rω(30)が前記下限以上である場合、光学フィルム製造用フィルムの製膜原液において、製膜原液の粘度が剪断速度に対して大きく低下するため、より良好な生産性を発揮することができる。一方、前記比Rω(30)の上限は、150が好ましく、100がより好ましい。
【0021】
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、複素粘度η*
500(30)は1Pa・s以上12Pa・s以下であることが好ましい。複素粘度η*
500(30)の上限は10Pa・sがより好ましく、5Pa・sがさらに好ましく、4.5Pa・sが特に好ましい。複素粘度η*
500(30)が前記上限以下の場合、光学フィルム製造用フィルムの製膜原液において、剪断速度が速いときの粘度が十分に低いため、より良好な生産性を発揮することができる。
【0022】
ここで、複素粘度η*
500(30)は、30℃の前記水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数500rad/秒における複素粘度である。すなわち、複素粘度η*
500(30)は、PVAの濃度が12質量%となるように当該光学フィルム製造用フィルムを溶解させた30℃の水溶液の動的粘弾性測定から得られる角周波数500rad/秒における複素粘度である。
【0023】
(PVA)
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、PVAは、通常、主成分となる成分である。主成分とは、質量基準で最も含有量が多い成分をいう。本発明の光学フィルム製造用フィルムにおけるPVAの含有量の下限としては、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。PVAの含有量を前記下限以上とすることで、本発明の効果をより高めることができる。一方、この含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってよく、99質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。PVAは、1種のみであってもよく、2種以上が含まれていてもよい。なお、光学フィルム製造用フィルムにおける各成分の含有量(質量%)は、乾燥状態、すなわち水以外の全成分の合計含有量を基準とした値である。
【0024】
PVAは、ビニルアルコール単位(-CH2-CH(OH)-)を構造単位として有する重合体である。PVAは、ビニルアルコール単位以外に、ビニルエステル単位、及びさらにその他の構造単位を有しているものであってよい。
【0025】
PVAの粘度平均重合度の下限は1,000が好ましく、1,500がより好ましく、2,000がさらに好ましく、2,200が特に好ましい。PVAの粘度平均重合度が前記下限以上であることにより、本発明の光学フィルム製造用フィルムは延伸加工性に優れたものとなり、光学性能等がより優れた光学フィルムを製造することができる。一方、前記粘度平均重合度の上限は、5,000が好ましく、4,000がより好ましく、3,000がさらに好ましく、2,700が特に好ましい。PVAの粘度平均重合度が前記上限以下であることにより、良好な水溶性を発揮し、また、水溶液の粘度の上昇が抑制される。このため、PVAの粘度平均重合度が前記上限以下であることで、製膜性が高まり、本発明の光学フィルム製造用フィルムの生産性を高めることができる。
【0026】
粘度平均重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味する。すなわち、本明細書中において、粘度平均重合度は、PVAの残存ビニルエステル基を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から、下記式により求められる。
粘度平均重合度Po=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0027】
PVAのけん化度の下限は、98.7モル%が好ましく、99.0モル%がより好ましく、99.5モル%がさらに好ましく、99.8モル%がよりさらに好ましく、99.9モル%が特に好ましい。けん化度が前記下限以上であることにより、光学性能及び耐湿熱性により優れた光学フィルムが得られる。一方、けん化度の上限に特に制限はないが、PVAの生産性の観点から、99.99モル%以下が好ましい。
【0028】
PVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換されうる構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合(モル%)をいう。PVAのけん化度はJIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0029】
(変性PVA)
PVAは、ケイ素含有基を有する変性PVA(以下、ケイ素含有基を有する変性PVAを「変性PVA」と称することがある。)を含むことが好ましい。前記変性PVAを含むことで、本発明に係る動的粘弾性のパラメータが満たされやすくなる。
【0030】
変性PVAは、ビニルアルコール単位(-CH2-CH(OH)-)を構造単位として有し、かつケイ素含有基を有する重合体である。変性PVAは、ケイ素含有基を含む構造単位を含んでいてよく、酢酸ビニル単位等のビニルエステル単位やその他の構造単位をさらに有していてもよい。
【0031】
変性PVAが有するケイ素含有基は、ケイ素原子を含む基であれば特に限定されないが、シラノール基又は水の存在下でシラノール基に転化し得る基であることが好ましい。シラノール基とは、ケイ素原子とこのケイ素原子に結合する少なくとも1つのヒドロキシ基とを有する基をいう。シラノール基が有するヒドロキシ基の数は、通常1~3のいずれかであり、3であることが好ましい。シラノール基が有するヒドロキシ基は、塩(例えば、-ONa、-OK等)の状態で存在していてもよい。
【0032】
水の存在下でシラノール基に転化し得る基とは、PVAを水中で、反応時間2時間、反応温度150℃の条件下で加熱した場合に、シラノール基に転化し得る基を意味する。このシラノール基への転化は、加水分解により生じるものであってよい。水の存在下でシラノール基に転化し得る基としては、ケイ素原子に少なくとも1つのアルコキシ基又はアシロキシ基が結合した基等を挙げることができ、具体的にはトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基、トリアセトキシシリル基等を挙げることができる。
【0033】
シラノール基又は水の存在下でシラノール基に転化し得る基としては、下記式(1)~(3)のいずれかで表される基を挙げることができる。これらの中でも、下記式(1)で表される基が好ましい。
【0034】
【0035】
式(1)~(3)中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数1~20のアシル基である。R2は、それぞれ独立して、置換又は非置換の炭素数1~20の炭化水素基である。
【0036】
R1及びR2で表される炭素数1~20の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基(シクロヘキシル基等)、芳香族炭化水素基(フェニル基等)等を挙げることができ、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基等を挙げることができ、アルキル基が好ましい。R1及びR2で表される炭化水素基の炭素数としては、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。R1及びR2で表される炭化水素基が有する水素原子の少なくとも一部は、ハロゲン原子、カルボキシ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等で置換されていてもよい。
【0037】
R1で表される炭素数1~20のアシル基としては、水素原子又は炭素数1~19の炭化水素基にカルボニル基(-CO-)が結合した基を挙げることができる。炭素数1~19の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。アシル基としては、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。R1で表されるアシル基の炭素数としては、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。R1で表されるアシル基が有する水素原子の少なくとも一部は、ハロゲン原子、カルボキシ基、アルコキシ基(メトキシ基等)等で置換されていてもよい。
【0038】
前記式(1)~(3)のいずれかで表される基において、R1の少なくとも一つが水素原子である場合、この基はシラノール基である。また、前記式(1)~(3)のいずれかで表される基において、全てのR1が水素原子では無い場合、この基は水の存在下でシラノール基に転化し得る基である。R1としては、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~20の炭化水素基であることが好ましい。
【0039】
得られる光学フィルムの光学性能の観点などから、ケイ素含有基はケイ素-炭素結合により、重合体主鎖中の炭素原子に直接結合していることが好ましい。
【0040】
変性PVAの全構造単位に対するケイ素含有基の含有量の下限としては、0.01モル%が好ましく、0.05モル%がより好ましく、0.1モル%がさらに好ましく、0.2モル%がさらに好ましい。ケイ素含有基の含有量を前記下限以上とすることで、前記複素粘度η*
1(30)が十分に高くなることなどにより、得られる光学性能をより高めることができる。一方、変性PVAの全構造単位に対するケイ素含有基の含有量の上限は、2.0モル%が好ましく、0.8モル%が好ましく、0.6モル%がより好ましい。ケイ素含有基の含有量を前記上限以下とすることで、変性PVAの水溶性が高まることなどにより、生産性(製膜性)を高めることなどができる。
【0041】
変性PVAにおいて、ケイ素含有基の含有量(モル%)は、例えば、けん化する前のビニルエステル重合体のプロトンNMRから求められる。ここで、けん化する前のビニルエステル重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、ビニルエステル重合体をヘキサン-アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のモノマーを完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl3溶媒に溶解して分析に供する。
【0042】
変性PVAの粘度平均重合度の好適範囲は、前記したPVAの粘度平均重合度の好適範囲と同様である。また、変性PVAのけん化度の好適範囲は、前記したPVAのけん化度の好適範囲と同様である。
【0043】
変性PVAの粘度平均重合度とケイ素含有基の含有量との積の下限は、100モル%が好ましく、300モル%がより好ましく、500モル%がさらに好ましく、700モル%が特に好ましい。前記積が前記下限以上であることにより、得られる光学フィルムの光学性能等がより優れたものとなる。一方、前記積の上限は、2,000モル%が好ましく、1,500がより好ましく、1,200がさらに好ましい。前記積が前記上限以下であることにより、変性PVAの水溶性をより高め、当該光学フィルム製造用フィルムの生産性をより高めることなどができる。
【0044】
変性PVAは、ケイ素含有基を有する構造単位を有することが好ましい。ケイ素含有基を有する構造単位としては、下記式(4)で表される構造単位を挙げることができる。
【0045】
【0046】
式(4)中、R3は、水素原子又はメチル基である。R4は、単結合又は2価の連結基である。R5は、ケイ素含有基である。
【0047】
R3としては、水素原子が好ましい。
【0048】
R4で表される2価の連結基としては、-(CH2)n-(nは、1~5の整数である。)又は-CONR6-R7-(R6は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。R7は、前記-(CH2)n-で表される基、又は酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を含む2価の炭化水素基である。)で表される基を挙げることができる。
【0049】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を含む2価の炭化水素基としては、-CH2CH2NHCH2CH2CH2-、-CH2CH2NHCH2CH2-、-CH2CH2NHCH2-、-CH2CH2N(CH3)CH2CH2-、-CH2CH2N(CH3)CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2-、-CH2CH2OCH2-等を挙げることができる。酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を含む2価の炭化水素基の炭素数としては、例えば2以上6以下とすることができる。
【0050】
R4は、単結合であることが好ましい。
【0051】
R5で表されるケイ素含有基の具体例としては、上述したとおりであり、前記式(1)~(3)のいずれかで表される基を挙げることができ、前記式(1)で表される基が好ましい。
【0052】
ケイ素含有基を有する構造単位に含まれるケイ素含有基の数は、特に限定されないが、1であってよい。変性PVAの全構造単位に対するケイ素含有基を有する構造単位の含有量の範囲は、上述した全構造単位に対するケイ素含有基の含有量の範囲であってよい。また、変性PVAの粘度平均重合度とケイ素含有基を有する構造単位の含有量との積の範囲は、上述した粘度平均重合度とケイ素含有基の含有量との積の範囲であってよい。
【0053】
変性PVAは、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位及びケイ素含有基を有する構造単位以外のその他の構造単位を有していてもよい。但し、変性PVAの全構造単位に対する前記その他の構造単位の含有量は、15モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、0.1モル%以下がよりさらに好ましい場合もある。変性PVAが、実質的にビニルアルコール単位、ビニルエステル単位及びケイ素含有基を有する構造単位から構成されていることで、本発明の効果がより十分に奏される場合がある。
【0054】
当該光学フィルム製造用フィルムは、1種の変性PVAを単独で含有してもよく、重合度、けん化度及びケイ素含有基の含有量等が互いに異なる2種以上の変性PVAを含有してもよい。
【0055】
当該光学フィルム製造用フィルムにおける変性PVAの含有量の下限は特に限定されないが、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。変性PVAの含有量を前記下限以上とすることで、本発明の効果をより高めることができる。一方、この含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってよく、99質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。
【0056】
また、本発明の光学フィルム製造用フィルムに含まれる全てのPVAに対する変性PVAの含有量としては、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。本発明の光学フィルム製造用フィルムにおいて、PVAとして変性PVAを主に用いることで、本発明の効果がより十分に発揮できる。この含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってよい。
【0057】
(変性PVAの製造方法)
ケイ素含有基を有する変性PVAの製造方法は特に限定されない。例えば、ビニルエステルモノマーと、ケイ素含有基を有するモノマーとを共重合させ、得られるビニルエステル重合体をけん化することにより製造することができる。
【0058】
ビニルエステルモノマーとしては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリアン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0059】
ケイ素含有基を有するモノマーとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、2-(メタ)アクリルアミド-エチルトリメトキシシラン、1-(メタ)アクリルアミド-メチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロピルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-イソプロピルトリメトキシシラン、N-(2-(メタ)アクリルアミド-エチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン、(3-(メタ)アクリルアミド-プロピル)-オキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリアセトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-エチルトリアセトキシシラン、4-(メタ)アクリルアミド-ブチルトリアセトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリプロピオニルオキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロピルトリアセトキシシラン、N-(2-(メタ)アクリルアミド-エチル)-アミノプロピルトリアセトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルイソブチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-エチルジメチルメトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルメチルジアセトキシシラン、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロピルハイドロジェンジメトキシシラン、3-(N-メチル-(メタ)アクリルアミド)-プロピルトリメトキシシラン、2-(N-エチル-(メタ)アクリルアミド)-エチルトリアセトキシシラン等を挙げることができる。
【0060】
ビニルエステルモノマーとケイ素含有基を有するモノマーとを共重合させる方法としては特に限定されず、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。これらの方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法、及びアルコール等の溶媒を用いて行う溶液重合法が好ましい。溶液重合時に溶媒として使用される溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール等の低級アルコール等が挙げられる。
【0061】
共重合反応に使用される開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。過酸化物系開始剤としては、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、例示した前記過酸化物系開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることができる。レドックス系開始剤としては、前記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0062】
共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、0℃以上180℃以下が好ましく、20℃以上160℃以下がより好ましく、30℃以上150℃以下がさらに好ましい。
【0063】
ビニルエステルモノマーとケイ素含有基を有するモノマーとを共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な他のモノマーを共重合させることができる。この他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数2~30のオレフィン;アクリル酸又はその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸又はその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-メチロールアクリルアミド又はその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-メチロールメタクリルアミド又はその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸又はその塩、エステル若しくは酸無水物;イタコン酸又はその塩、エステル若しくは酸無水物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。ビニルエステル重合体は、上述の他のモノマーのうちの1種又は2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0064】
ビニルエステル重合体に占める前記他のモノマー(ビニルエステルモノマー及びケイ素含有基を有するモノマー以外のモノマー)に由来する構造単位の割合は、本発明の効果を妨げない限り必ずしも制限されないが、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、0.1モル%以下がよりさらに好ましい場合もある。
【0065】
ビニルエステル重合体は、次いで、公知の方法に従って溶媒中でけん化され、変性PVAへと導かれる。けん化反応に使用される溶媒としては、アルコールが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好適に使用される。けん化反応に使用される溶媒には、アルコールの他、アセトン、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル、トルエン等の有機溶媒がさらに含有されていてもよい。けん化反応に用いられる触媒としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒、鉱酸等の酸触媒等が挙げられる。けん化反応の温度としては、例えば20℃以上60℃以下とすることができる。けん化反応の進行に伴って、ゲル状生成物が析出してくる場合には、その時点で生成物を粉砕し、洗浄後、乾燥することにより、変性PVAが得られる。
【0066】
その他、ケイ素含有基を有する変性PVAとしては、非変性のPVA等に対してシリル化剤によってケイ素含有基を導入させた変性PVA、グラフト共重合によりケイ素含有基を有する構造単位を導入させた変性PVAなどであってもよい。前記シリル化剤としては、トリエトキシクロロシラン、メチルトリクロロシラン等、PVAのヒドロキシ基と反応可能な反応性シラン化合物が挙げられる。また、ケイ素含有基を有する変性PVA以外のPVAとして、架橋剤等によって架橋させたPVAを用いることなどによっても、本発明の光学フィルム製造用フィルムが得られやすくなる。
【0067】
(可塑剤)
本発明の光学フィルム製造用フィルムは、可塑剤を含むことが好ましい。光学フィルム製造用フィルムが可塑剤を含むことにより、延伸性を高めることなどができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましい。多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。可塑剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0068】
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおける可塑剤の含有量の下限としては、PVA100質量部に対して、1質量部が好ましく、3質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量が前記下限以上であることにより、フィルムの延伸性が向上し、得られる光学フィルムの光学性能をより高めることなどができる。一方、この可塑剤の含有量の上限としては、PVA100質量部に対して、20質量部が好ましく、17質量部がより好ましく、15質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量が前記上限以下であることにより、フィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを抑制することなどができる。
【0069】
(界面活性剤)
当該光学フィルム製造用フィルムは、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤を含む製膜原液を用いて製膜することにより、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用する金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤を含む製膜原液から光学フィルム製造用フィルムを製造した場合には、得られるフィルム中には界面活性剤が含有され得る。
【0070】
界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点などから、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0071】
アニオン性界面活性剤としては、例えばラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などを挙げることができる。
【0072】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などを挙げることができる。
【0073】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
当該光学フィルム製造用フィルムが界面活性剤を含む場合、その含有量の下限は、PVA100質量部に対して、0.01質量部が好ましく、0.02質量部がより好ましく、0.05質量部がさらに好ましい。界面活性剤の含有量を前記下限以上とすることで、製膜性及び剥離性がより向上する。一方、この含有量の上限は、PVA100質量部に対して、0.5質量部が好ましく、0.3質量部がより好ましく、0.1質量部がさらに好ましい。界面活性剤の含有量を前記上限以下とすることで、界面活性剤がフィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングが生じ、取り扱い性が低下することを抑制することができる。
【0075】
(他の添加剤等)
本発明の光学フィルム製造用フィルムには、さらに、充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤が必要に応じて適宜含有されていてもよい。
【0076】
本発明の光学フィルム製造用フィルムにおける、PVA、可塑剤及び界面活性剤の合計含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい場合もある。本発明の光学フィルム製造用フィルムが、PVA、可塑剤及び界面活性剤から実質的に構成されていることで、本発明の効果がより十分に発揮できる。
【0077】
また、本発明の光学フィルム製造用フィルムにおける、ケイ素含有基を有する変性PVA、可塑剤及び界面活性剤の合計含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい場合もある。本発明の光学フィルム製造用フィルムが、ケイ素含有基を有する変性PVA、可塑剤及び界面活性剤から実質的に構成されていることで、本発明の効果がより十分に発揮できる。
【0078】
(形状・物性等)
本発明の光学フィルム製造用フィルムは、光学フィルムの材料として用いられる、いわゆる原反フィルムである。但し、本発明の光学フィルム製造用フィルムは、ロール状になっているものに限定されるものではない。
【0079】
本発明の光学フィルム製造用フィルムの平均厚さは特に制限されないが、下限としては1μmが好ましく、5μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。平均厚さが前記下限以上であることで、光学フィルムを製造するときの一軸延伸処理の際の切れを抑制することができる。また、この平均厚さの上限としては、75μmが好ましく、60μmがより好ましく、45μmがさらに好ましく、35μmがよりさらに好ましい。平均厚さが前記上限以下であることで、一軸延伸処理の際の延伸斑を抑制することができる。なお、「平均厚さ」とは、任意の5点で測定した厚さの平均値をいう(以下、平均厚さについて同様である。)。
【0080】
本発明の光学フィルム製造用フィルムは、1層のPVA層(PVAを含む層)からなる単層フィルムであってもよいし、1層のPVA層を含む多層フィルムであってもよい。但し、偏光フィルムの製造に用いる場合などは、単層フィルムであることが好ましい。本発明の光学フィルム製造用フィルムが有するPVA層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。平均厚さが前記下限以上であることで、光学フィルムを製造するときの一軸延伸処理の際の切れを抑制することができる。また、この平均厚さの上限としては、75μmが好ましく、60μmがより好ましく、45μmがさらに好ましく、35μmがよりさらに好ましい。平均厚さが前記上限以下であることで、一軸延伸処理の際の延伸斑を抑制することができる。
【0081】
光学フィルム製造用フィルムにおけるPVA層の具体的組成及び好適組成は、上述した光学フィルム製造用フィルム自体の具体的組成及び好適組成の記載を引用することができる。
【0082】
本発明の光学フィルム製造用フィルムが単層フィルムである場合、ハンドリング性を確保するために、平均厚さは20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。一方、本発明の光学フィルム製造用フィルムが多層フィルムの場合、PVA層の平均厚さを20μm以下にすることもできるし、15μm以下にすることもできる。
【0083】
多層フィルムとは、2層以上の層を有するフィルムをいう。多層フィルムの層数は、5層以下であってよく、3層以下であってよい。多層フィルムとしては、基材樹脂層とPVA層との積層構造を有する光学フィルム製造用フィルムが挙げられる。基材樹脂層の平均厚さは、例えば20μm以上500μm以下である。多層フィルムにおける基材樹脂層は、PVA層とともに一軸延伸できるものであることが好ましい。基材樹脂層を構成する樹脂としては、ポリエステル、ポリオレフィン等を用いることができる。なかでも、非晶質ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレートにイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの共重合成分を共重合させた非晶質ポリエステル樹脂が好適に用いられる。基材樹脂層とPVA層との間には、接着剤層が設けられていてもよい。
【0084】
本発明の光学フィルム製造用フィルムの幅は特に制限されず、その用途などに応じて決めることができる。例えば、光学フィルム製造用フィルムの幅の下限は3mが好ましい。近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行している点から光学フィルム製造用フィルムの幅を3m以上にしておくと、これらを最終製品とする用途に好適である。一方、光学フィルム製造用フィルムの幅の上限は7mが好ましい。幅を7m以下とすることで、実用化されている装置で光学フィルムを製造する場合に、効率的に一軸延伸処理を行うことなどができる。
【0085】
本発明の光学フィルム製造用フィルムの膨潤度は、光学フィルムの生産性や光学性能の観点などから、140%以上400%以下の範囲内であることが好ましい。この膨潤度の下限は、180%がより好ましく、190%がさらに好ましい。また、膨潤度の上限は、220%がより好ましく、210%がさらに好ましい。フィルムの膨潤度は、例えば、熱処理の条件を強くすることによって、より小さい値に調整することなどができる。
【0086】
ここで、「フィルムの膨潤度」とは、次式により求めた値をいう。
膨潤度(%)=100×N/M
式中、Nはフィルムから採取したサンプルを30℃の蒸留水中に30分間浸漬後、表面の水を除去した後のサンプルの質量(g)を表す。Mはそのサンプルを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後のサンプルの質量(g)を表す。
【0087】
本発明の光学フィルム製造用フィルムは、通常、実質的に延伸されていないフィルム(非延伸フィルム、未延伸フィルム)である。当該光学フィルム製造用フィルムの面内位相差は、好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは50nm以下である。通常、本発明の光学フィルム製造用フィルムを延伸処理(一軸延伸処理又は二軸延伸処理)することなどにより、光学フィルムを得ることができる。
【0088】
本発明の光学フィルム製造用フィルムによれば、良好な生産性を有し、光学性能が優れる光学フィルムを得ることができる。なお、光学性能とは、光透過性、偏光性等が挙げられる。当該光学フィルム製造用フィルムにより製造できる光学フィルムとしては、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等が挙げられ、偏光フィルムであることが好ましい。
【0089】
<光学フィルム製造用フィルムの製造方法>
本発明の光学フィルム製造用フィルムの製造方法は特に限定されないが、製膜後のフィルムの厚み及び幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができる。例えば、PVA、並びに必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤及びその他の添加剤などのうちの1種又は2種以上が液体媒体中に溶解した製膜原液を用いて製造することができる。製膜原液が可塑剤、界面活性剤及びその他の添加剤の少なくとも1種を含有する場合、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0090】
製膜原液の調製に使用される液体媒体としては、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。また、PVAとして、上述したケイ素含有基を有する変性PVAを用いる場合、この変性PVAは、水溶性も良好であり、また、比較的高温(例えば80℃)の水溶液とした場合の粘度上昇も抑制されている。この点からも、液体媒体として水を好適に用いることができる。
【0091】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は、例えば50質量%以上95質量%以下が好ましく、55質量%以上90質量%以下がより好ましく、60質量%以上85質量%以下がさらに好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないフィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なフィルムの製造が容易になる。
【0092】
製膜の際の製膜原液の温度としては、例えば70℃以上100℃以下とすることができる。このような比較的高温で製膜を行うことで、製膜原液の粘度を比較的低く抑えられ、製膜性を高めることができる。
【0093】
製膜原液を用いて製膜する際の製膜方法としては、例えばキャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられる。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でも、キャスト製膜法及び押出製膜法が、厚み及び幅が均一で物性の良好なフィルムが得られることから好ましい。製膜されたフィルムには必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0094】
本発明の光学フィルム製造用フィルムの具体的な製造方法の例としては、例えば以下の例を挙げることができる。T型スリットダイ、ホッパープレート、I-ダイ、リップコーターダイ等を用いて、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出又は流延する。この第1ロール(あるいはベルト)の周面上に吐出又は流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥させる。続いてその下流側に配置した1個又は複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、又は熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥させる。その後、巻き取り装置により、フィルムを巻き取る。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0095】
なお、本発明の光学フィルム製造用フィルムが多層フィルムである場合、例えば基材樹脂フィルム(基材樹脂層)上に製膜原液を塗布することによって多層フィルムを製造することができる。このとき、PVA層と基材樹脂層との間の接着性を改善するために、基材樹脂フィルムの表面を改質したり、基材樹脂フィルムの表面に接着剤を塗布したりしてもよい。
【0096】
<光学フィルムの製造方法>
本発明の光学フィルムの製造方法は、上述した光学フィルム製造用フィルムを一軸延伸する工程を備える。以下には、光学フィルムの製造方法の一例として、偏光フィルムの製造方法を挙げて具体的に説明する。
【0097】
偏光フィルムの製造方法としては、光学フィルム製造用フィルム(以下、「PVAフィルム」とも称する。)をそれぞれ、染色する染色工程、一軸延伸する延伸工程、及び必要に応じてさらに、膨潤させる膨潤工程、架橋させる架橋工程、固定処理する固定処理工程、洗浄する洗浄工程、乾燥させる乾燥工程、熱処理する熱処理工程などを備える方法が挙げられる。この場合、各工程の順としては特に限定されないが、例えば、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程、固定処理工程などの順に行うことができる。また、1つ又は2つ以上の工程を同時に行うこともでき、各工程を2回又はそれ以上行うこともできる。
【0098】
膨潤工程は、PVAフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20℃以上55℃以下が好ましく、22℃以上50℃以下がより好ましく、25℃以上45℃以下がさらに好ましい。また、水に浸漬する時間としては、例えば0.1分以上5分以下が好ましく、0.5分以上3分以下がより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0099】
染色工程は、PVAフィルムに対して二色性色素を接触させることにより行うことができる。二色性色素としてはヨウ素系色素を用いるのが一般的である。染色のタイミングとしては、一軸延伸前、一軸延伸時及び一軸延伸後のいずれの段階であってもよい。染色はPVAフィルムを染色浴であるヨウ素-ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行う方法が好適に採用される。染色浴におけるヨウ素の濃度は0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。また、染色浴の温度は20℃以上50℃以下、特に25℃以上40℃以下とすることが好ましい。好適な染色時間は0.2分以上5分以下である。
【0100】
PVAフィルム中のPVAを架橋させる架橋工程を行うことにより、高温で湿式延伸する際にPVAが水へ溶出するのを効果的に抑制することができる。この観点から架橋工程は染色工程の後であって延伸工程の前に行うのが好ましい。架橋工程は、架橋剤を含む水溶液にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種又は2種以上を使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度は1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上7質量%以下がより好ましく、2質量%以上6質量%以下がさらに好ましい。架橋剤の濃度が前記範囲内にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液はヨウ化カリウム等を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度は、20℃以上60℃以下、特に25℃以上55℃以下とすることが好ましい。温度を前記範囲内にすることで効率良く架橋することができる。
【0101】
PVAフィルムを一軸延伸する延伸工程は、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、上述した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また、乾式延伸法の場合は、室温のまま延伸を行ってもよいし、加熱しながら延伸してもよいし、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で行うこともできる。これらの中でも、幅方向に均一性高く延伸することができることから湿式延伸法が好ましく、ホウ酸を含む水溶液中で一軸延伸するのがより好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は、0.5質量%以上6.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上4.0質量%以下が特に好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。一軸延伸における延伸温度は、30℃以上90℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましく、50℃以上75℃以下が特に好ましい。
【0102】
一軸延伸における延伸倍率(非延伸のPVAフィルムからの全延伸倍率)は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から5倍以上であることが好ましく、5.5倍以上であることがより好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、延伸倍率は8倍以下であることが好ましい。
【0103】
長尺のPVAフィルムを一軸延伸する場合における一軸延伸の方向に特に制限はなく、長尺方向への一軸延伸や横一軸延伸を採用することができる。偏光性能に優れる偏光フィルムが得られることから、長尺方向への一軸延伸が好ましい。長尺方向への一軸延伸は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横一軸延伸はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
【0104】
偏光フィルムの製造にあたっては、PVAフィルムへの二色性色素(ヨウ素系色素等)の吸着を強固にするために、延伸工程の後に固定処理工程を行うことができる。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物の1種又は2種以上を含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素化合物の濃度は、2質量%以上15質量%以下、特に3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。ホウ素化合物の濃度を前記範囲内にすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度は、15℃以上60℃以下、特に25℃以上40℃以下が好ましい。
【0105】
洗浄工程は、蒸留水、純水、水溶液等にフィルムを浸漬して行われることが一般的である。このとき、偏光性能向上の点からヨウ化カリウム等のヨウ化物を助剤として含有する水溶液を用いることが好ましく、ヨウ化物の濃度は0.5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。また、洗浄処理における水溶液の温度は一般的に5℃以上50℃以下であり、10℃以上45℃以下が好ましく、15℃以上40℃以下がさらに好ましい。水溶液の温度を前記範囲とすることで、偏光性能をより高めることなどができる。
【0106】
乾燥工程の条件は特に制限されないが、30℃以上150℃以下、特に50℃以上130℃以下の温度でPVAフィルムの乾燥を行うことが好ましい。前記範囲内の温度で乾燥することで寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
【0107】
なお、位相差フィルム等、偏光フィルム以外の光学フィルムも、本発明の光学フィルム製造用フィルムを一軸延伸する工程を備える方法により製造することができる。具体的な製造方法は、本発明の光学フィルム製造用フィルムを用いること以外は、従来公知の方法を採用することができる。
【0108】
<光学フィルム>
本発明の光学フィルム製造用フィルムを用いて上述した製造方法により光学フィルムを得ることができる。
【0109】
前記光学フィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等であってよく、偏光フィルムであることが好ましい。この場合、偏光フィルムには、通常、二色性色素が含まれており、また、PVAは架橋されていてよい。
【0110】
前記光学フィルムは、延伸フィルムであることが好ましく、一軸延伸フィルムであることがより好ましい。また、当該光学フィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよいが、単層フィルムであることが好ましい。このようなフィルムである場合、当該光学フィルムは、偏光フィルムなどとしてより好適に用いることができる。
【0111】
前記光学フィルムが偏光フィルムである場合、偏光フィルムの二色性比(R)が100以上であることが好ましい。上述した動的粘弾性のパラメータを満たすPVAフィルムを用いることにより、このような高い二色性比(R)を有する偏光フィルムを生産性良く製造することができる。二色性比(R)は150以上がより好ましく、190以上がさらに好ましい。この二色性比(R)の上限としては、例えば350であり、300または260であってもよい。
【0112】
偏光フィルムの二色性比(R)の算出方法は以下のとおりである。まず、表面反射を排除した透過率(T’)と単体透過率(T)との関係は式(a)で示される。このとき、偏光フィルムの屈折率は1.5であるとし、表面での反射率は4%であるとする。透過率(T’)と偏光度(V)と二色性比(R)との関係は式(b)で示される。したがって、単体透過率(T)及び偏光度(V)を計測した上で、それらの値を用いて式(a)及び(b)を解くことで偏光フィルムの二色性比(R)を算出することができる。
T’=T/(1-0.04)2 ・・・(a)
R={-ln[T’(1-V)]}/{-ln[T’(1+V)]} ・・・(b)
【0113】
偏光フィルムは、通常、その両面又は片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリレート系紫外線硬化型接着剤などを挙げることができる。すなわち、偏光板は、偏光フィルムと、この偏光フィルムの片面又は両面に直接又は接着剤層を介して積層された保護膜とを有する。
【0114】
偏光板は、例えば、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせてLCDの部品として使用することができる。なお、偏光板には、さらに、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等が貼り合わせられていてもよい。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。各測定及び評価の方法は以下のとおりである。
【0116】
[PVAの重合度(粘度平均重合度)]
以下の合成例で合成されたPVAについて、JIS K6726-1994の記載に準じて、粘度平均重合度を測定した。
【0117】
[PVAのけん化度]
以下の合成例で合成されたPVAについて、JIS K6726-1994の記載に準じて、けん化度を測定した。
【0118】
[PVAにおけるケイ素含有基の含有量]
以下の合成例で合成されたPVAについて、全構造単位に対するケイ素含有基の含有量をけん化する前のビニルエステル重合体のプロトンNMRから測定した。けん化する前のビニルエステル重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、ビニルエステル重合体をヘキサン-アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のモノマーを完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl3溶媒に溶解して分析に供した。
【0119】
[フィルムの膨潤度]
以下の実施例又は比較例で得られたフィルム(光学フィルム製造用フィルム)を1.5gとなるようにカットし、30℃の蒸留水1000g中に30分間浸漬した。30分間浸漬後にフィルムを取り出し、濾紙で表面の水を吸い取った後、その質量(N)を測定した。続いて、そのフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、乾燥後の質量(M)を測定した。得られた質量(N)及び質量(M)から、以下の式によって、フィルムの膨潤度を求めた。
膨潤度(%)=100×N/M
【0120】
[偏光フィルムの二色性比(光学性能)]
以下の実施例又は比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向に4cmの長方形のサンプルを採取した。このサンプルに対して、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行った上で、単体透過率(T)及び偏光度(V)を測定した。
得られた単体透過率(T)及び偏光度(V)の値から下記式(a)及び(b)を解くことで、偏光フィルムの二色性比(R)を算出した。ここで、偏光フィルムの屈折率は1.5であるとし、表面での反射率は4%であるとした。また、このようにして、実施例及び比較例の一軸延伸処理浴の温度条件で製造された偏光フィルムの二色性比(R)をR0とした。
T’=T/(1-0.04)2・・・(a)
R={-ln[T’(1-V)]}/{-ln[T’(1+V)]}・・・(b)
【0121】
[偏光フィルムの収縮力]
以下の実施例又は比較例で得られた偏光フィルムを用いて、島津製作所製の恒温槽付きオートグラフ「AG-X」とビデオ式伸び計「TR ViewX120S」にて、偏光フィルムの収縮力を測定した。測定には20℃/20%RHで18時間調湿した偏光フィルムを使用した。オートグラフ「AG-X」の恒温槽を20℃にした後、偏光フィルム(長さ方向15cm、幅方向1.5cm)をチャック(チャック間隔5cm)に取り付け、引張り開始と同時に、80℃へ恒温槽の昇温を開始した。偏光フィルムを1mm/minの速さで引張り、張力が2Nに到達した時点で引張りを停止し、その状態で4時間後までの張力を測定した。このとき、熱膨張によってチャック間の距離が変わるため、チャックに標線シールを貼り、ビデオ式伸び計「TR ViewX120S」を用いてチャックに貼り付けた標線シールが動いた分だけチャック間の距離を修正できるようにして測定を行った。なお、4時間後の張力の測定値から初期張力2Nを差し引いた値を偏光フィルムの収縮力とした。また、このようにして、実施例及び比較例の一軸延伸処理浴の温度条件で製造された偏光フィルムの収縮力(SF)をSF0とした。
【0122】
[偏光フィルムの収縮力15Nにおける二色性比]
以下の実施例又は比較例において、一軸延伸処理浴の温度を2℃又は4℃低い温度に設定し、得られる偏光フィルムの透過度が44.0%となるように染色処理浴のヨウ素濃度を変更した以外は同様にして、一軸延伸処理浴の温度が異なる偏光フィルムを得た。得られた各偏光フィルムの単体透過率(T)および偏光度(V)を測定し、前記の方法で二色性比(R)を求めた。ここで、一軸延伸処理浴の温度が2℃低い条件で得られた偏光フィルムの二色性比(R)をR-2、一軸延伸処理浴の温度が4℃低い条件で得られた偏光フィルムの二色性比(R)をR-4とした。また、各偏光フィルムの収縮力を前記の方法で測定した。ここで、一軸延伸処理浴の温度が2℃低い条件で得られた偏光フィルムの収縮力(SF)をSF-2、一軸延伸処理浴の温度が4℃低い条件で得られた偏光フィルムの収縮力(SF)をSF-4とした。
【0123】
このようにして得られた一軸延伸処理浴の温度が異なる3種類の偏光フィルムの二色性比(R0、R-2、R-4)及び収縮力(SF0、SF-2、SF-4)の値から、二色性比と収縮力の関係をプロットし、直線近似することにより、偏光フィルムの収縮力15Nにおける二色性比を算出した。
【0124】
[動的粘度測定によるPVA水溶液の複素粘度]
(PVA水溶液の調製)
以下の実施例又は比較例で製造されたPVAフィルムを用いて、動的粘弾性測定用のPVA水溶液を調製した。具体的には、PVA濃度が12質量%になるように、容器にPVAフィルム及び蒸留水を秤量した後、撹拌しながら95℃で4時間加熱溶解することでPVA水溶液を調製した。調製にあたっては、まず、PVAフィルムを水で膨潤させ、洗浄することで、PVAフィルム中に含まれるPVA以外の物質(水、可塑剤、界面活性剤)を溶出させた後、フィルムを105℃の乾燥機内で17時間以上乾燥させ秤量することで、PVAフィルム中のPVA含有量を求めた。そして、この求めたPVA含有量に基づき、PVA濃度が12質量%になるようにPVA以外の物質を溶出させていないPVAフィルムを秤量し、溶解を行った。
【0125】
(動的粘度測定)
動的粘弾性測定装置(TA instruments社製「ARES-G2」)にて、下記測定条件で、各PVA水溶液の温度を30℃又は80℃に設定し、動的粘弾性測定を行った。
【0126】
(動的粘弾性測定の測定条件)
ジオメトリー:円錐角0.02radのコーンプレート及び円盤型プレート
プレート直径:40mm
ストレイン:1%
角周波数範囲:1~500rad/秒
測定温度(PVA水溶液の温度):30℃又は80℃
【0127】
ここで、PVA水溶液の温度は、以下の手順で30℃又は80℃に設定した。まず、30℃又は80℃に昇温したプレート上に測定対象のPVA水溶液を1mL程度塗布した。そして、コーンプレートと円盤型プレートの間のギャップを所定の値となるように合わせた後、プレート上からはみ出たPVA水溶液を綿棒で除去し、動的粘弾性測定を行った。なお、PVA水溶液の温度を80℃に設定して動的粘弾性測定を行った際には、測定中に水溶液が蒸発するのを防止するため、プレート上からはみ出たサンプルを除去した後に、コーンプレートに沿うようにフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を少量塗布した。また、ソルベントトラップカバーを使用し、測定を行った。
【0128】
(PVA水溶液の複素粘度)
温度を30℃に設定したPVA水溶液の動的粘弾性測定により得られた複素粘度のフローカーブから、角周波数1rad/秒における複素粘度η*
1(30)及び角周波数500rad/秒における複素粘度η*
500(30)を求めた。また、これらの比(η*
1(30)/η*
500(30))を算出し、Rω(30)とした。一方、温度を80℃に設定したPVA水溶液の動的粘弾性測定により得られた複素粘度のフローカーブについても同様に、角周波数1rad/秒における複素粘度η*
1(80)及び角周波数500rad/秒における複素粘度η*
500(80)を求めた。また、これらの比(η*
1(80)/η*
500(80))を算出し、Rω(80)とした。さらに、前記で求めた複素粘度η*
1(30)と複素粘度η*
1(80)の比(η*
1(30)/η*
1(80))を算出し、Rtとした。なお、動的粘度測定は、実施例又は比較例のPVAフィルムから調製したPVA水溶液についてそれぞれ3回行い、これら3回の測定データを平均化したデータを用いて、PVA水溶液の複素粘度η*
1(30)、η*
500(30)、η*
1(80)及びη*
500(80)を求めた。
【0129】
[合成例1]PVA-1の合成
撹拌機、窒素導入口、添加剤導入口および開始剤添加口を備えた6Lの反応槽に酢酸ビニル2550g、メタノール450gおよび、5質量%のビニルトリメトキシシランメタノール溶液116.8mlを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。反応槽内の温度を60℃に調整し、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.3g加えて、重合を開始した。重合開始時時点よりビニルメトキシシランを5質量%含有するメタノール53mlを系内に添加しながら3時間重合反応を行い、その時点で重合を停止した。重合反応を停止した時点における重合率は25.0%であった。なお、重合中は重合温度を60℃に維持した。次いで、減圧下にて未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニル(以下、PVAcと略記することがある)のメタノール溶液を得た。
【0130】
得られたPVAcのメタノール溶液の濃度を23.5質量%に調整し、アルカリモル比(NaOHのモル数/PVAc中のビニルエステル単位のモル数)が0.04になるようにNaOHメタノール溶液(10質量%濃度)を添加して、けん化した。得られたポリビニルアルコールはメタノールで洗浄した。
【0131】
以上の操作により得られたPVA-1の重合度(粘度平均重合度)は2,400、けん化度は99.9モル%、ケイ素含有基の含有量は0.3モル%であった。
【0132】
[合成例2~5]PVA-2~PVA-5の合成
合成例1に準じ、用いたモノマーの割合、重合条件及びけん化条件を適宜調整し、表1に記載の粘度平均重合度、けん化度及びケイ素含有基の含有量を有するPVA-2~PVA-5を得た。
【0133】
[実施例1]
PVA-1 100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み、PVA含有率が7.5質量%である水溶液を製膜原液として調製した。この製膜原液を80℃の金属ロール上で乾燥し、得られたフィルムを熱風乾燥機中で127℃の温度で10分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して、平均厚さ30μmのPVAフィルム(光学フィルム製造用フィルム)を作製した。
【0134】
得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ9cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に60秒間浸漬しつつ2倍に長さ方向に一軸延伸して、膨潤処理した。続いてヨウ素0.075質量%及びヨウ化カリウム2質量%を含有する水溶液(染色処理浴:温度32℃)に120秒間浸漬しつつ1.2倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸2.6質量%を含有する水溶液(ホウ酸架橋処理浴:温度32℃)に120秒浸漬しつつ1.25倍(全体で3.0倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を2.8質量%及びヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する水溶液(一軸延伸処理浴:温度69℃)に浸漬しつつ、全体で6.0倍まで長さ方向に一軸延伸した。その後、ホウ酸を1.5質量%及びヨウ化カリウムを2.5質量%の濃度で含有するヨウ化カリウム水溶液(洗浄浴:温度22℃)中に5秒間浸漬することによりフィルムを洗浄した。最後に80℃で4分間乾燥して偏光フィルムを得た。
【0135】
得られた偏光フィルムを用いて前記した方法により、単体透過率(T)及び偏光度(V)を測定し、二色性比(R0)を求めたところ、単体透過率(T)は44.12%、偏光度(V)は99.9738%、二色性比(R0)は203であった。また、前記した方法により、偏光フィルムの収縮力(SF0)を測定したところ13.6Nであった。さらに、前記した方法により、偏光フィルムの収縮力15Nにおける二色性比を算出したところ206であった。
【0136】
また、得られたPVAフィルムを用いて、前記した方法によりPVA水溶液を調製し、動的粘弾性測定を実施した。このとき、PVAフィルム21.3g(PVA含有量18g)、蒸留水128.7gを秤量することで12質量%のPVA水溶液を得た。30℃の水溶液の動的粘弾性測定(角周波数:1~500rad/秒)から得られた複素粘度のフローカーブを
図1に示す。
【0137】
[実施例2~3及び比較例1~2]
表1に記載されたPVA(PVA-2~PVA-5)を用い、PVAフィルムの平均厚さが30μm、膨潤度が200%になるように、製膜原液のPVA含有率及び熱処理温度を調整した以外は実施例1と同様にしてPVAフィルムの作製及び評価を行った。また、得られたPVAフィルムを用いて、得られる偏光フィルムの収縮力が15N前後かつ単体透過率が44.0%となるように一軸延伸処理浴の温度および染色処理浴のヨウ素濃度を変更した以外は実施例1と同様にして偏光フィルムの製造及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0138】
【0139】
表1に示されるように、重合度が2400である非変性のPVA-4を用いた比較例1は、複素粘度の比Rtが3.1と小さく、特に30℃での粘度が低い。比較例1においては、このような粘度の低さからPVA間の架橋が不十分であるといえ、二色性比の高い偏光フィルムが得られない。一方、重合度が4000である非変性のPVA-5を用いた比較例2は、複素粘度の比Rtが4.1と小さく、特に80℃での粘度が比較的高い。このため、比較例2においては、二色性比の高い偏光フィルムが得られているものの、製膜原液の粘度が高くなるため(製膜性)生産性が低い。これらに対し、実施例1~3は、複素粘度の比Rtがいずれも4.5以上であり、30℃での水溶液の粘度が比較的高く、且つ80℃での水溶液の粘度が比較的低い。このため、実施例1~3のPVAフィルム(光学フィルム製造用フィルム)によれば、良好な製膜性(生産性)を維持しつつ、光学フィルムの光学性能を高めることができるといえる。