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特許7604618豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023505300
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008203
(87)【国際公開番号】W WO2022190923
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2021039703
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】奥田 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
(72)【発明者】
【氏名】助川 慎
(72)【発明者】
【氏名】淵本 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 光史
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0098854(KR,A)
【文献】特開2020-156393(JP,A)
【文献】特開2018-033365(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110866481(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1694946(KR,B1)
【文献】川野 百合子 他,肉牛の発情検知のための乗駕行動画像データセット構築におけるクラウドソーシングの活用,人工知能学会全国大会論文集,2020年06月19日,第34回,第1-4頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2020/0/JSAI2020_1N5GS1305/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 11/00-67/00
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラユニットによって撮像された画像の画像データを取得する取得部と、
前記画像データの画像に基づいて前記雌豚の乗駕行動を、個体を区別することなく検知する検知部と、
設定された観察時間の間に検知された前記乗駕行動の回数を、前記雌豚が収容されるペンごとに計数する計数部と
を備える豚飼育支援装置。
【請求項2】
前記計数部は、前記回数が設定された閾値を超えた場合に超過通知を出力する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項3】
前記計数部は、複数設けられている前記ペンのそれぞれに対して前記乗駕行動の回数を計数し、前記超過通知を出力する場合には前記閾値を超えた観察対象である前記ペンに関するペン情報を前記超過通知に付加する請求項2に記載の豚飼育支援装置。
【請求項4】
前記検知部は、豚同士が重なる領域を含む教師画像によって学習された学習モデルを用いて前記乗駕行動を検知する請求項1からのいずれか1項に記載の豚飼育支援装置。
【請求項5】
前記計数部は、前記ペンへ飼育員が接近してから離間するまでの時間を含む一定期間については計数の対象から除外する請求項1からのいずれか1項に記載の豚飼育支援装置。
【請求項6】
前記計数部は、前記ペンへ雄豚を投入してから除去するまでの時間を含む一定期間については計数の対象から除外する請求項1からのいずれか1項に記載の豚飼育支援装置。
【請求項7】
雌豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラユニットによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、
前記画像データの画像に基づいて前記雌豚の乗駕行動を、個体を区別することなく検知する検知ステップと、
設定された観察時間の間に検知された前記乗駕行動の回数を、前記雌豚が収容されるペンごとに計数する計数ステップと
を有する豚飼育支援方法。
【請求項8】
雌豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラユニットによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、
前記画像データの画像に基づいて前記雌豚の乗駕行動を、個体を区別することなく検知する検知ステップと、
設定された観察時間の間に検知された前記乗駕行動の回数を、前記雌豚が収容されるペンごとに計数する計数ステップと
をコンピュータに実行させる豚飼育支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の発情兆候を認識するために、当該家畜の乗駕行動を検知する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-220588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
養豚においても、年間の産子数を増やす観点や繁殖サイクルを適正な間隔に維持する観点等から、雌豚の発情の見極めは重要である。雌豚の飼育方法には、ストール飼育と集団飼育があり、近年ではアニマルウェルフェアの観点から、一般的にペンと呼ばれるある程度の広さを有する区画で集団飼育する手法が好まれる傾向にある。集団飼育では、一頭一頭にセンサを取り付けて乗駕行動を監視することもできるが、収容された雌豚同士の接触により取り付けられたセンサが落下し、怪我や誤食を引き起こすおそれがあった。また、飼育員が多くの雌豚の乗駕行動を監視し続けることも現実的ではない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、ペン内で集団飼育されている雌豚の中に発情の兆候を示す雌豚が存在するか否かを、過度なコストや労力を要することなく適時に飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様における豚飼育支援装置は、雌豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラユニットによって撮像された画像の画像データを取得する取得部と、画像データの画像に基づいて雌豚の乗駕行動を検知する検知部と、設定された観察時間の間に検知された乗駕行動の回数を計数する計数部とを備える。
【0007】
また、本発明の第2の態様における豚飼育支援方法は、雌豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラユニットによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、画像データの画像に基づいて雌豚の乗駕行動を検知する検知ステップと、設定された観察時間の間に検知された乗駕行動の回数を計数する計数ステップとを有する。
【0008】
また、本発明の第3の態様における豚飼育支援プログラムは、雌豚が集団飼育されているペンに向けて設置されたカメラユニットによって撮像された画像の画像データを取得する取得ステップと、画像データの画像に基づいて雌豚の乗駕行動を検知する検知ステップと、設定された観察時間の間に検知された乗駕行動の回数を計数する計数ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ペン内で集団飼育されている雌豚の中に発情の兆候を示す雌豚が存在するか否かを、過度なコストや労力を要することなく適時に飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。
図2】乗駕行動を説明する図である。
図3】学習モデルを用いた乗駕行動の検知処理の手順を説明する図である。
図4】豚飼育支援装置と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。
図5】基準観察時間を説明する図である。
図6】計数リストを説明する図である。
図7】超過通知を受けた飼育員端末の表示例を示す図である。
図8】演算部の処理手順を説明するフロー図である。
図9】他の実施例に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。
図10】更に他の実施例に係る豚飼育支援装置の計数リストを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。養豚場は、壁や柵によって区分された複数のペン301を備える。それぞれのペン301には複数(例えば10頭程度)の雌豚302が収容され、集団で飼育されている。なお、それぞれのペン301で飼育される雌豚302の頭数は、雌豚302の品種や飼育環境等に応じて調整され得る。
【0013】
収容された雌豚302を観察するためのカメラユニット210が、ペン301ごとに設置されている。カメラユニット210は、観察対象であるペン301の全体を俯瞰して撮像できるように当該ペン301に向けて、例えば天井から吊り下げられて設置されている。カメラユニット210は、撮像した画像を画像データに変換し、ネットワーク200を介してサーバ100へ送信する。具体的には、施設内に設置された無線ユニット230がネットワーク200と接続されており、カメラユニット210は、無線ユニット230と無線通信を確立することにより、画像データをサーバ100へ送信することができる。なお、カメラユニット210とサーバ100を接続するネットワーク200は、インターネットやイントラネットを用いてもよいし、サーバ100が設置される管理施設が養豚場内に設けられるような場合には、近距離無線通信を採用してもよい。
【0014】
雌豚302を世話する飼育員は、飼育員端末220を所持し得る。飼育員端末220は、例えば、タブレット端末やスマートフォンであり、無線ユニット230およびネットワーク200を介してサーバ100との間で各種情報の授受を行うことができる。飼育員は、例えば飼育記録を飼育員端末220へ入力してサーバ100へ転送することもできるし、サーバ100に蓄積された飼育記録を呼び出すこともできる。また、飼育員端末220は、後述する超過通知を受け取った場合には、その旨を表示する。
【0015】
管理施設には、豚飼育支援装置としてのサーバ100が設置されている。サーバ100は、ネットワーク200と接続されている。サーバ100は、ペン301ごとに設置されているカメラユニット210から順次画像データを取得して、当該画像データに基づいて雌豚302の乗駕行動を検知し、その回数を計数する。サーバ100は、管理者や飼育員の要求に応じてその結果を表示モニタ150へ表示することができる。表示モニタ150は、例えば液晶パネルを備えるモニタである。また、サーバ100は、管理者や飼育員の操作を受け付ける入力デバイス160と接続される。入力デバイス160は、キーボード、マウス、表示モニタ150の表示面に重畳されたタッチパネル等によって構成される。
【0016】
さて、養豚において、年間の産子数を増やす観点や繁殖サイクルを適正な間隔に維持する観点等から、雌豚302の発情の見極めは重要である。しかし、このように集団飼育されるペンにおいては、飼育員が多数の雌豚を定常的に観察してその発情を見極めることは、飼育員の多大な労力や熟練を要する作業であった。本実施形態における豚飼育支援装置は、ペン301内の雌豚302が示す乗駕行動を検知して、ペン301内の雌豚302の少なくともいずれかに発情の兆候が見られることを飼育員へ知らせることにより飼育作業を支援する。
【0017】
図1に示すように養豚場に複数のペン301が存在する場合には、飼育員は、どのペン301に発情の兆候を示す雌豚302が含まれるかの情報を豚飼育支援装置から知らされるだけでも、多くの労力を削減することができる。すなわち、飼育員は、発情の兆候を示す雌豚302の抽出作業を、豚飼育支援装置から通知されるまでは行わなくてもよく、通知された場合も指定されたペン301を対象として行えばよい。一つのペン301内の限られた頭数に対して発情の兆候を示す雌豚302の存在が示されているのであれば、経験の浅い飼育員であっても、その抽出は比較的容易である。
【0018】
本実施形態における豚飼育支援装置は、カメラユニット210で撮像された画像を利用して雌豚302の乗駕行動を検知する。乗駕行動は、発情の兆候を示す雌豚302の行動として知られている。図2は、乗駕行動を説明する図であり、ペン内の雌豚302を上方から見下ろした様子を示す。図2(A)は、ある雌豚302aの背に別の雌豚302bが乗駕している二例を示す。このように、他の豚に乗りかかる雌豚302bの乗駕行動は、発情の兆候を示す行動として知られている。
【0019】
牛についても発情の兆候を乗駕行動により推定できることが知られているが、牛の場合は、少数で飼育されていたり、一頭一頭の価値が高かったりすることから、個々の牛に乗駕行動を検知する例えば赤外線センサや加速度センサを装着する手法が採用される。しかし、限られたスペースのペンに比較的多くの豚が収容される集団飼育において、個々の雌豚にセンサを装着することは現実的ではない。
【0020】
このような背景を鑑み、本実施形態に係る豚飼育支援装置は、ペン301に向けて設置されたカメラユニット210を用いて撮像された画像に基づいて集団飼育されている雌豚302の乗駕行動を検知する。ペン301を俯瞰する画像からは、雌豚302同士の重なり具合によって乗駕状態であるか否かを検知することができる。例えば、一頭ごとの輪郭線を抽出し、輪郭線で囲まれた領域同士が重なり合っている場合に、乗駕状態と判定する。この場合に、重なり合う領域の割合や部位、それぞれの雌豚302に対する輪郭線の形状等を考慮してもよい。例えば、重なり合う領域の割合が上側の雌豚の大きさの30%以上である場合に、乗駕状態と判定する。また、頭部と胴部が重なり合う場合には乗駕状態と判定するが、頭部と頭部が重なり合う場合には乗駕状態と判定しない。また、上側の雌豚が横たわっている状態であることを示す輪郭線形状の場合には乗駕状態と判定しない。このような、画像に表れる豚同士の重なり領域に対する解析的手法により、乗駕行動の有無を検知することができる。
【0021】
図2(B)は、雌豚302aと雌豚302bが隣り合っている様子を示し、乗駕状態とは認識されない二例を示す。図示するように、雌豚302bの頭部の一部が雌豚302aの胴部と重なっていたり、雌豚302aと雌豚302bが同じ方向を向いて寄り添っていたりする様子は頻繁に見受けられるが、これらについては乗駕状態と判定しない。
【0022】
このように、集団飼育する雌豚302の俯瞰画像から乗駕行動を検知する手法によれば、例えば、乗駕を検知するセンサがそれぞれ装着された二頭が隣接することによって乗駕状態と検知されてしまう誤検知の懸念もない。また、屋外の広い牧場で集団飼育される牛等の家畜と異なり、屋内のペンで集団飼育される雌豚302に対しては、俯瞰するカメラユニット210の設置が比較的容易であるので、画像を用いた検知手法は好適である。
【0023】
乗駕状態は、取得した画像から上述のように輪郭線を抽出して解析的に判定することもできるが、本実施形態においては、豚同士が重なる領域を含む教師画像によって学習された学習モデルへ取得した画像を入力して乗駕行動を検知する。図3は、学習モデルである検知用ニューラルネットワーク121を用いた乗駕行動の検知処理の手順を説明する図である。検知用ニューラルネットワーク121は、雌豚が集団飼育されているペンの俯瞰画像に、その画像内で乗駕状態と判定されるべき雌豚の頭数である検知数を正解として紐付けた大量の教師データを与えて学習させる教師あり学習によって予め作成されたものである。教師データにおける検知数は、例えばオペレータが俯瞰画像において豚同士が重なり合う領域を抽出して乗駕状態であるかを判定し、当該俯瞰画像に乗駕状態と判定される雌豚が何頭存在するかをカウントして決定される。オペレータ等は、豚同士が重なり合う領域の割合や部位、抽出した雌豚の輪郭の形状や向きに基づいて乗駕状態であるか否かを判定する。
【0024】
このように生成された学習モデルである検知用ニューラルネットワーク121は、豚飼育支援装置であるサーバ100に組み込まれて利用に供される。具体的には、例えば養豚場に観察対象であるペン201が8つ設けられているとすると、それぞれのペン201を俯瞰する8つのカメラユニット210から順次画像データがサーバ100へ送られてくる。それらの画像データの画像img~imgは、検知用ニューラルネットワーク121へ順次入力される。検知用ニューラルネットワーク121は、画像が入力されるごとに、その画像内で乗駕状態と判定される雌豚の頭数のうち最も確率の高い頭数を検知数として出力する。このようにして、例えば第1ペンの画像imgに対する検知数「1」、第2ペンの画像imgに対する検知数「2」、第3ペンの画像imgに対する検知数「0」、…、第8ペンの画像imgに対する検知数「1」のように、各ペン201に対する検知数を得る。サーバ100は、このような処理を予め設定された観察時間の間繰り返し、ペン201ごとに検知数を計数・積算する。
【0025】
図4は、豚飼育支援装置としてのサーバ100と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。サーバ100は、上述のように、表示モニタ150、入力デバイス160、カメラユニット210、飼育員端末220と接続可能である。
【0026】
サーバ100は、主に、演算部110、記憶部120、通信ユニット130によって構成される。演算部110は、サーバ100の制御とプログラムの実行処理を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)である。プロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理チップと連携する構成であってもよい。演算部110は、記憶部120に記憶された豚飼育支援プログラムを読み出して、豚飼育の支援に関する様々な処理を実行する。
【0027】
記憶部120は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって構成されている。記憶部120は、サーバ100の制御や処理を実行するプログラムの他にも、制御や演算に用いられる様々なパラメータ値、関数、表示要素データ、ルックアップテーブル等を記憶し得る。記憶部120は、特に、検知用ニューラルネットワーク121と計数リスト122を記憶している。検知用ニューラルネットワーク121は、上述のように、カメラユニット210が撮像した画像を入力すると、その画像内に存在する乗駕状態の頭数を表す検知数を出力する。計数リスト122は、乗駕行動の計数に関する記録であり、具体的には後述する。なお、記憶部120は、複数のハードウェアで構成されていても良く、例えば、プログラムを記憶する記憶媒体と検知用ニューラルネットワーク121を記憶する記憶媒体が別々のハードウェアで構成されてもよい。
【0028】
通信ユニット130は、例えばLANユニットを含み、ネットワーク200を介して、演算部110が生成する撮像制御信号をカメラユニット210へ送信したり、カメラユニット210から送られてくる画像データを演算部110へ引き渡したりする。また、飼育員端末220と演算部110の間で実行されるデータの授受を中継する。なお、通信ユニット130は、他の外部装置との間でデータや制御信号の授受を中継することもできる。例えば、豚飼育支援プログラムや検知用ニューラルネットワーク121の更新データを外部サーバから取り込む場合にも利用され得る。
【0029】
演算部110は、豚飼育支援プログラムが指示する処理に応じて様々な演算を実行する機能演算部としての役割も担う。演算部110は、取得部111、検知部112、計数部113として機能し得る。取得部111は、主に、カメラユニット210によって撮像された画像の画像データを取得し、検知部112へ引き渡す。検知部112は、主に、取得部111から受け取った画像データの画像に基づいて雌豚302の乗駕行動を検知し、その結果を計数部113へ引き渡す。計数部113は、主に、設定された観察時間の間に検知部112で検知された乗駕行動の回数を計数する。
【0030】
次に、計数部113の処理について説明する。図5は、計数部113が乗駕行動の回数を計数する対象期間としての基準観察時間を説明する図である。計数部113は、予め設定された基準観察時間ごとに計数した回数をリセットする。
【0031】
本実施形態においては、基準観察時間を24時間に設定している。計数部113は、この基準観察時間の間に各ペン201において何回の乗駕行動が検知されたかを計数する。具体的には、図3を用いて説明したように、取得部111が周期的に取得する各ペン201の画像データの画像img~imgを、検知部112が検知用ニューラルネットワーク121を用いてそれぞれの画像内で乗駕行動を取る頭数(検知数)を検知する。例えば第2ペンの画像imgに対する検知数が「2」であれば、この検知時点において2頭の雌豚302がそれぞれ別の雌豚302に乗りかかった状態であり、2回の乗駕行動が観察されたとする。これを基準観察時間の間繰り返し、各ペン201において何回の乗駕行動が検知されたかを数え上げる。
【0032】
ただし、基準観察時間に含まれる期間であっても、一部の状況に対応する期間については計数の対象から除外する。ここではそのような除外期間として、飼育員接近期間と雄豚投入期間が設定されている。飼育員接近期間は、ペン301へ飼育員が接近してから離間するまでの予定時間を含む一定期間として設定されている。また、雄豚投入期間は、ペン301へ雄豚を投入してから除去するまでの予定時間を含む一定期間として設定されている。
【0033】
飼育員接近期間は、例えば給餌のために飼育員がペン301内に進入する8時から9時が設定されている。この他にも、ペン301の清掃や雌豚302の検査等のために飼育員が接近する期間も飼育員接近期間として設定してもよい。雄豚投入期間は、雌豚302の発情を促進するために一時的に雄豚がペン301内に引き入れられる期間であり、14時から14時半が設定されている。このように、飼育員や雄豚がペン301に接近したり進入したりすると、雌豚302は一定の興奮状態になり、発情の兆候のない雌豚302も乗駕行動を含む不規則な行動を取ることがある。したがって、不規則な行動を取る可能性のあるイベントに対しては、そのイベントの実施期間を含む一定期間を計数の対象から除外する除外期間とすればよい。具体的には、除外期間は、イベントの実施期間に前後する、雌豚302がイベントを察知して興奮しだす期間、およびイベント後に落ち着きを取り戻す期間を付加して設定されるとよい。
【0034】
なお、除外期間は、管理者等が入力デバイス160を操作して事前に設定することができる。除外期間は、毎回の基準観察時間に含まれるものでなくてもよく、例えば雄豚の投入が特定日に実施されるのであれば、その特定日における基準観察時間に対してのみ設定されてもよい。計数部113は、このように設定された除外期間については、計数の対象から除外する。具体的には、計数部113による計数を停止する、検知部112に乗駕行動の検知を停止させる、取得部111に画像データの取得を停止させる、カメラユニット210に撮像を停止させる等の処理を採用し得る。
【0035】
また、検知部112が画像データを用いて乗駕行動を検知する周期は、雌豚302の動作の俊敏さや1回あたりの乗駕行動の間隔等を考慮して、1回の乗駕行動が1回として検知されるように調整、設定される。周期の設定は、その他にも雌豚302の品種や飼育環境、月齢などを考慮することもできる。あるいは、1秒間に数フレームの画像を一定期間の間連続して取得し、観察対象である雌豚302の連続する行動を解析して、1回の乗駕行動を1回として検知するようにしてもよい。
【0036】
計数部113は、ペン301ごとに数え上げる乗駕回数を計数リスト122により管理する。図6は、計数リスト122の一例を説明する図である。計数リスト122は、一度の基準観察時間に一つ生成され、その観察時間の間は適宜更新される。
【0037】
計数リスト122は、通知閾値、観察日を含む。通知閾値は、管理者等によって予め設定される値であり、それぞれのペン301において計数された乗駕回数がこの通知閾値を超えると、計数部113は、飼育員端末220等へその旨を知らせる超過通知を出力する。管理者等は、雌豚302の品種や飼育環境、特に1つのペン301に収容されている雌豚302の頭数などを考慮して通知閾値を設定する。より具体的には、対象となるペン301に発情の兆候を示す雌豚302が存在すると判定し得る閾値を、それまでの統計や経験に基づいて設定する。図6の例では、「30回」が設定されている。観察日は、観察を実行している日付であり、観察後に計数リスト122が参照される場合には、観察を実行した日付を表している。基準観察時間が24時間未満であれば、例えば観察を開始した観察時刻を加えてもよい。
【0038】
計数リスト122は、ペン301ごとに計数した乗駕行動の回数を示す集計表を含む。集計表は、ペンナンバー(例えば、第1ペンから第8ペンまでの8つ)、計数した回数、フラグ情報によって構成される。計数部113は、計数した回数が通知閾値を超えるペン301が現れたことを確認したら、超過通知を生成して飼育員端末220等へ出力する。このとき、計数部113は、計数した回数が通知閾値を超えたペン301に関するペン情報を超過通知に付加して出力する。本実施形態においては、ペンナンバーをペン情報として付加する。超過通知を出力したペン301については、フラグ情報として「通知済み」の情報が記録される。
【0039】
計数リスト122は、除外期間の情報を含む。具体的には、図5を用いて説明した除外期間がリスト情報として記録される。なお、除外期間が長ければその分だけ計数する対象期間が短くなるので、実際には発情の兆候を示す雌豚が存在する場合であっても、計数する回数が通知閾値を超えない場合もあり得る。そこで、計数部113は、設定された除外期間の合計時間が基準観察時間に占める割合を考慮して、通知閾値を自動的に修正してもよい。例えば、基準観察時間が24時間であって、除外期間の合計が3時間である場合には、通知閾値を30×(24-3)/24=26.25回に修正する。この場合、計数部113は、計数した乗駕回数が修正された通知閾値を超えるペン301が現れたことを確認したら超過通知を出力する。
【0040】
また、それぞれのペン301に収容される雌豚302の頭数が互いに異なるのであれば、収容されている頭数を考慮してペンごとに通知閾値を修正してもよい。例えば、一つのペンに10頭の雌豚302を収容することを想定して通知閾値の「30回」が設定されているのであれば、8頭の雌豚302が収容されたペン301に対しては、30×(8/10)=24回に修正する。この場合、計数部113は、8頭が収容されたペン301を対象として計数した乗駕回数が24回を超えたら超過通知を出力する。
【0041】
図7は、超過通知を受けた飼育員端末220の表示例を示す図である。上述のように、計数部113が超過通知を出力すると、飼育員端末220は、当該超過通知を受信して、その内容を表示パネルに表示する。具体的には図示するように、飼育員端末220は、超過通知に付加されているペン情報を参照して、乗駕行動の回数が通知閾値(規定値)を超えたペンナンバーを表示する(図の例では「第6ペン」)。また、養豚場のペン配置に関する屋内地図を保持している場合は、該当するペンの位置が認識されるように併せて表示する。なお、飼育員端末220は、このような表示を行うと共に告知音を発してもよい。
【0042】
次に、サーバ100を用いた豚飼育支援方法の処理手順について説明する。図8は、演算部110の処理手順を説明するフロー図である。フローは、基準観察時間の開始時点から開始される。なお、ここでは、除外期間に対する処理を省略して説明する。
【0043】
計数部113は、観察開始にあたり初期処理としてステップS101で、経時タイマTによる経時を開始させ、第nペンに収容されている雌豚302の乗駕回数をカウントするカウンタCを全てリセットする。なお、ここでは養豚場内のペンの数はm個であり、それぞれのペンに対応するCからCまでのカウンタが用意されているものとする。
【0044】
計数部113は、ステップS102へ進み、変数nを1にセットする。これに応じて処理対象とするカウンタをCに切り替える。ステップS103へ進み、取得部111は、第nペンに向けられたカメラユニット210から、imgの画像データを、通信ユニット130を介して取得する。n=1である場合には、第1ペンに向けられたカメラユニット210から、imgの画像データを取得する。取得部111は、取得した画像データを検知部112へ引き渡す。
【0045】
検知部112は、ステップS104で、受け取った画像データの画像imgを記憶部120から読み出した検知用ニューラルネットワーク121へ入力して、画像img内で乗駕行動を取る雌豚302の頭数(検知数)を出力させる。検知部112は、計数部113へ検知数を引き渡す。計数部113は、ステップS105で、その時点におけるCのカウンタ値に検知部112から受け取った検知数を加算することにより、Cを更新する。
【0046】
ステップS106へ進み、計数部113は、更新したCの値が、通知閾値Cを超えたか否かを判断する。通知閾値Cを超えたと判断したら、ステップS107へ進み、超過通知を生成して飼育員端末220へ出力する。このとき、ペン情報として第nペンであることを付加する。超過通知を出力したらステップS108へ進む。計数部113は、ステップS106で通知閾値Cを超えていないと判断したら、ステップS107をスキップしてステップS108へ進む。
【0047】
計数部113は、ステップS108で変数nをインクリメントし、ステップS109へ進む。ステップS109へ進んだら、変数nが養豚場内のペン数mを超えたか否かを判断する。超えていないと判断したら、ステップS103へ戻り、インクリメントした変数nに対して同様の処理を実行する。超えたと判断したら、ステップS110へ進む。
【0048】
計数部113は、ステップS110へ進んだら、経時タイマTが基準観察時間Tを超えたか否かを判断する。超えていないと判断したら、予め設定された周期に応じたインターバルをおいてステップS102へ戻る。超えたと判断したら、一連の処理を終了する。連続して観察を実行する場合には、再びステップS101から処理を開始する。
【0049】
次に、本実施形態に係るいくつかの別実施例について説明する。図9は、他の実施例に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を示す図である。図1と同様の要素については、同一符番を付すことによりその説明を省略する。
【0050】
図9に示す実施例においては、飼育員は飼育員端末220を所持しておらず、代わりにそれぞれのペン301に隣接して告知灯240が一つずつ設置されている。それぞれの告知灯240は、無線ユニット230およびネットワーク200を介してサーバ100と接続される。サーバ100は、例えば第5ペンにおいて計数した乗駕行動の回数が通知閾値を超えたら、第5ペンに隣接して設置された告知灯240へ超過通知に相当する通知信号を送信して当該告知灯240を点灯させる。このような告知灯240を利用すれば、飼育員は、飼育員端末220を所持していなくても向かうべきペン301を認識できる。飼育員は、告知灯240が点灯したペン301に収容された雌豚302を対象として、発情の兆候を示す雌豚を探せばよい。
【0051】
図10は、更に他の実施例に係る豚飼育支援装置の計数リスト122’を説明する図である。以上に説明した実施例おいては、1つのペン301に収容された複数の雌豚302は互いに区別して認識されないものであった。したがって、観察対象となる特定のペン301に収容されている雌豚302のいずれかが乗駕行動を取れば、1回の乗駕行動として検知した。例えば、通知閾値が30回に設定されているときには、1頭の雌豚302が30回を超える乗駕行動を取った場合も、10頭の雌豚302がそれぞれ3~4回の乗駕行動を取った場合も、計数部113は超過通知を出力する。すなわち、飼育員は、いずれのペン301で規定値を超える乗駕行動が検知されたかがわかったとしても、特定の雌豚302が強く発情の兆候を示しているのか、発情の兆候を示し始めた複数の雌豚302が存在するのか、あるいはそれらが組み合わさった状態であるのかを見極めることが必要である。
【0052】
一方で、それぞれのペン301内に収容された複数の雌豚302を互いに区別して認識する技術が知られてようになってきている。例えば、識別マーカをそれぞれの雌豚302に装着し、それをカメラユニット210が撮像して得た画像を解析することにより、個体識別を実現できる。あるいは、ペン301へ収容する時点でそれぞれの雌豚302を撮像して当該撮像画像に識別番号に対応させておき、その後に乗駕行動を検知した雌豚302がいずれの識別番号と対応付けられた撮像画像と適合するかを、学習モデルを用いて検知してもよい。
【0053】
図10に示す計数リスト122’は、それぞれのペン301内に収容された雌豚302の個体識別が可能な場合の計数リストである。それぞれのペン301には、例えば10頭ずつの雌豚302が収容されており、それぞれの雌豚302は付与された識別番号によって区別される。そして、検知部112は、乗駕行動を検知すると共に、その乗駕行動を取った雌豚302の識別番号を特定する。計数部113は、検知部112からそれらの情報を受け取って、特定された識別番号に対応する雌豚の乗駕回数を更新する。
【0054】
なお、個体識別を行う場合には通知閾値を、個体識別を行わない場合に比べて小さな値にすることが好ましい。計数リスト122’では、通知閾値が10回に設定されている。計数部113は、特定の雌豚302がこの通知閾値を超えた場合に、その識別番号の情報を付加した超過通知を飼育員端末220へ出力する。図9を用いて説明した告知灯240が表示部を備えるのであれば、計数部113は、その特定の雌豚302が収容されたペンに隣接する告知灯240へ超過通知を出力し、その識別番号を当該告知灯240の表示部に表示してもよい。飼育員は、特定の雌豚302に関する情報も得ることができれば、ペン301に収容された複数の雌豚302の中から当該特定の雌豚302を容易に見つけ出すことができる。
【0055】
以上いくつかの実施例を通じて説明した本実施形態においては、それぞれのペン301に一つずつのカメラユニット210を設置したが、複数のペン301をまとめて俯瞰するカメラユニットを設置してもよい。その場合には、取得部111は、カメラユニットから取得した画像を各ペン301の境界に沿って分割し、分割したそれぞれの画像を順次検知部112へ引き渡せばよい。
【0056】
また、以上説明した本実施形態においては、複数のペン301を対象としてペン301ごとに乗駕回数を計数したが、豚飼育支援装置は、1つのペン301を対象として乗駕回数を計数するものであってもよい。ペン301内で集団飼育されている雌豚302の中に発情の兆候を示す雌豚が存在することを知らされるだけでも、飼育員にとっては作業労力が軽減される。
【0057】
また、以上説明した本実施形態において超過通知の出力先は、飼育員端末220であったり告知灯240であったりしたが、これらに限らない。計数部113は、サーバ100に接続された表示モニタ150に、超過通知に関する情報を直接的に表示しても構わない。また、計数部113は、計数する乗駕回数が通知閾値を超えた場合に超過通知を出力する場合に加え、あるいは超過通知を出力する代わりに、計数中の乗駕回数を定常的に出力してもよい。例えば、それぞれのペン301において計数されている現時点の乗駕回数が飼育員端末220に一覧表示されるようにしてもよい。
【0058】
また、以上説明した本実施形態においては、サーバ100が豚飼育支援装置として機能する場合を説明したが、ハードウェア構成はこれに限らない。飼育員端末220として説明した携帯端末がサーバ100と同様の処理を行えば、当該携帯端末が豚飼育支援装置として機能し得る。また、例えば、サーバ100の処理の一部を飼育員端末220が担うように構成すれば、サーバ100と飼育員端末220が連携するシステムが、豚飼育支援装置となり得る。
【符号の説明】
【0059】
100…サーバ、110…演算部、111…取得部、112…検知部、113…計数部、120…記憶部、121…検知用ニューラルネットワーク、122、122’…計数リスト、130…通信ユニット、150…表示モニタ、160…入力デバイス、200…ネットワーク、210…カメラユニット、220…飼育員端末、230…無線ユニット、240…告知灯、301…ペン、302、302a、302b…雌豚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10