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特許7604701メタクリル酸メチルの製造方法、組成物、重合体、硬化物及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】メタクリル酸メチルの製造方法、組成物、重合体、硬化物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/56 20060101AFI20241216BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20241216BHJP
   C08F 20/14 20060101ALI20241216BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C07C67/56 ZAB
C07C69/54 Z
C08F20/14 ZAB
C08J11/12 CEY
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024077057
(22)【出願日】2024-05-10
【審査請求日】2024-05-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 悠暉
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 誠
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-037242(JP,A)
【文献】特開2019-112590(JP,A)
【文献】特開2006-044965(JP,A)
【文献】特開2012-065906(JP,A)
【文献】特開2022-033008(JP,A)
【文献】特開2008-101120(JP,A)
【文献】国際公開第2023/238885(WO,A1)
【文献】特許第7389295(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J
C07C
C08F
C08J
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有する組成物と、吸着剤とを接触させる工程を含み、
臭気成分はアルコール類、アルデヒド類、ケトン類、脂肪酸類、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含み、
吸着剤は銀イオンを含有するゼオライトを含み、ビーズ状であり、粒子径が1mm~7mmである、メタクリル酸メチルの製造方法。
【請求項2】
組成物に接触させる吸着剤の量が、組成物100質量部に対して1質量部~30質量部である、請求項1に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
【請求項3】
組成物と吸着剤とを接触させる工程の後の組成物における臭気成分の濃度が組成物全体に対して450質量ppm未満である、請求項1に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
【請求項4】
組成物と吸着剤とを接触させる工程の前に、組成物に含まれるメタクリル酸メチルをポリメタクリル酸メチルの熱分解物から回収する工程をさらに含む、請求項1に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタクリル酸メチルの製造方法、組成物、重合体、硬化物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸メチルを重合させて得られるポリ(メタ)アクリル酸メチルは、透明性や耐候性に優れた樹脂材料として種々の分野で利用されている。そして、近年の資源価格の高騰、さらには環境問題に対する意識の高まりに伴って、上記のとおりの種々の用途に用いられたポリ(メタ)アクリル酸メチルを含む製品(成形体)は回収されてリサイクル(再資源化)が図られている。
【0003】
ポリ(メタ)アクリル酸メチルのリサイクルの方法としては、例えば、回収された成形体に対し、再度、成形工程を実施して新たな成形体を製造するマテリアルリサイクル、回収された成形体を熱処理して、ポリ(メタ)アクリル酸メチルを熱分解(解重合)することにより(メタ)アクリル酸メチルを回収し、回収された(メタ)アクリル酸メチル(再生MMA又は再生MAという場合がある。)を用いて新たな成形体を製造するケミカルリサイクル、及び回収された成形体を燃料として燃焼させ、燃焼エネルギーを直接的に熱源として、さらには燃焼エネルギーを用いて発電して利用するサーマルリサイクルが挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリ(メタ)アクリル酸メチルを加熱して得られたガス状の熱分解物を冷却して液化し、次いで液化した熱分解物を蒸留により精製する工程を経て(メタ)アクリル酸メチルを回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-321571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ(メタ)アクリル酸メチルの原料として用いられる(メタ)アクリル酸メチルは不快な臭気を放つ場合がある。したがって、(メタ)アクリル酸メチルの臭気の抑制が取り扱い性向上の観点から望まれている。
上記事情に鑑み、本開示は、臭気が抑制されるメタクリル酸メチルの製造方法、組成物、重合体、硬化物及び成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
<1>メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有する組成物と、吸着剤とを接触させる工程を含む、メタクリル酸メチルの製造方法。
<2>組成物に接触させる吸着剤の量が、組成物100質量部に対して1質量部~30質量部である、<1>に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<3>組成物と吸着剤とを接触させる工程の後の組成物における臭気成分の濃度が組成物全体に対して450質量ppm未満である、<1>又は<2>に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<4>臭気成分がアルコール類、アルデヒド類、ケトン類、脂肪酸類、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<5>吸着剤がゼオライト又は活性炭を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<6>吸着剤が銀イオンを含有するゼオライトを含む、<5>に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<7>吸着剤がビーズ状であり、粒子径が1mm~7mmである、<1>~<6>のいずれか1項に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<8>組成物と吸着剤とを接触させる工程の前に、組成物に含まれるメタクリル酸メチルをポリメタクリル酸メチルの熱分解物から回収する工程をさらに含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載のメタクリル酸メチルの製造方法。
<9>メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有し、
臭気成分の濃度が組成物全体の0質量ppmを超え450質量ppm未満である、組成物。
<10>メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の85質量%以上である、<9>に記載の組成物。
<11>メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の90質量%以上である、<9>又は<10>に記載の組成物。
<12>臭気成分が、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、脂肪酸類、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、<9>~<11>のいずれか1項に記載の組成物。
<13>臭気成分が、硫黄含有化合物又は窒素含有化合物を少なくとも含む<12>に記載の組成物。
<14>メタクリル酸メチルが、再生メタクリル酸メチル又はバイオ由来メタクリル酸メチルを含む、<9>~<13>のいずれか1項に記載の組成物。
<15>メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む、<9>~<14>のいずれか1項に記載の組成物。
<16>メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む、<9>~<15>のいずれか1項に記載の組成物。
<17><9>~<16>のいずれか1項に記載の組成物に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む、重合体。
<18><17>に記載の重合体を含む、成形体。
<19><9>~<16>のいずれか1項に記載の組成物の硬化物。
<20><19>に記載の硬化物を含む、成形体。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、臭気が抑制されるメタクリル酸メチルの製造方法、組成物、重合体、硬化物及び成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
<メタクリル酸メチルの製造方法>
本開示の一実施形態は、メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有する組成物と、吸着剤とを接触させる工程を含む、メタクリル酸メチルの製造方法である。
【0011】
後述する実施例に示すように、メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有する組成物に吸着剤を接触させることはメタクリル酸メチルの臭気を抑制するうえで有効である。
さらに、本開示の方法では臭気を抑制する手段として吸着剤を使用するため、蒸留などの方法に比べて簡便かつ低コストに実施することができる。
【0012】
組成物に接触させる吸着剤の種類は特に制限されず、組成物に含まれる臭気成分の種類、濃度等に応じて選択できる。
吸着剤の臭気抑制効果及び取り扱い性の観点からは、吸着剤はゼオライト又は活性炭を含むことが好ましく、ゼオライトを含むことがより好ましく、銀イオンを含有するゼオライトを含むことがさらに好ましい。
組成物に接触させる吸着剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0013】
吸着剤の臭気抑制効果及び取り扱い性の観点からは、吸着剤はペレット状、ビーズ状又は粉末状であることが好ましく、ビーズ状であることがより好ましい。吸着剤の粒子径は、例えば10mm以下であってもよく、1mm~7mmであることが好ましく、6mm以下であることが好ましい。吸着剤は、粒子径が1mm~7mmであるビーズ状であることがさらに好ましい。
【0014】
組成物に接触させる吸着剤の量は特に制限されず、組成物に含まれる臭気成分の種類、濃度等に応じて選択できる。
吸着剤の臭気抑制効果を充分に発現させる観点からは、組成物に接触させる吸着剤の量は、組成物100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。
組成物に吸着剤を接触させた後の作業(例えば、吸着剤を組成物から取り出す作業)の効率及び経済性の観点からは、組成物に接触させる吸着剤の量は、組成物100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。
【0015】
組成物と吸着剤とを接触させる工程の後、吸着剤を組成物から取り出してもよい。組成物と吸着剤とを接触させる時間(接触開始から吸着剤を取り出すまでの時間)は特に制限されず、組成物に含まれる臭気成分の種類、濃度等に応じて選択できる。
吸着剤と吸着剤とを接触させる時間は、所望の臭気抑制効果が得られる範囲で調整することができ、例えば、1時間~1週間の間から選択できる。吸着剤と吸着剤とを接触させる時間は、例えば、3時間、6時間又は24時間であってもよいし、それ以外の時間でもよい。
【0016】
組成物と吸着剤とを接触させる工程の後の組成物における臭気成分の濃度は、組成物全体に対して450質量ppm未満であることが好ましい。臭気成分の濃度が組成物全体に対して450質量ppm未満であると、組成物を取り扱う者が不快に感じる度合いが効果的に低減される。
組成物と吸着剤とを接触させる工程の後の組成物における臭気成分の濃度は、組成物全体に対して300質量ppm以下、250質量ppm以下、200質量ppm以下、150質量ppm以下、100質量ppm以下、90質量ppm以下、50質量ppm以下、又は25質量ppm以下であってもよい。
組成物と吸着剤とを接触させる工程の後の組成物における臭気成分の濃度は、低ければ低いほどよい。臭気成分の濃度は、例えば、組成物全体に対して0質量ppm、0質量ppm超え、2質量ppm以上、5質量ppm以上、又は10質量ppm以上であってもよい。
組成物が2種以上の臭気成分を含む場合、上述した臭気成分の濃度はそれぞれの臭気成分の濃度である。
【0017】
組成物に含まれる臭気成分の種類は、特に制限されない。臭気成分は、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、脂肪酸類、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含んでもよい。
ある実施形態において、組成物は臭気成分として硫黄含有化合物又はメルカプタン化合物を含んでいてもよい。
ある実施形態において、組成物は臭気成分として窒素含有化合物又はアミン化合物を含んでいてもよい。
組成物に含まれる臭気成分は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0018】
本開示の方法は、組成物と吸着剤とを接触させる工程の前に、組成物に含まれるメタクリル酸メチルをポリメタクリル酸メチルの熱分解物から回収する工程を含んでもよい。
ポリメタクリル酸メチルの熱分解物から回収されるメタクリル酸メチルは、回収されたポリメタクリル酸メチルに不可避的に混入する物質が臭気の原因となるおそれがある。例えば、重合調節剤として組成物に添加されたn-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン化合物がポリメタクリル酸メチルに臭気成分として含まれうる。
メタクリル酸メチルをポリメタクリル酸メチルの熱分解物から回収する工程を実施する方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
ある実施形態において、メタクリル酸メチルをポリメタクリル酸メチルの熱分解物から回収する工程は、ポリ(メタ)アクリル酸メチルを加熱してガス状の熱分解物を得る工程と、ガス状の熱分解物を冷却して液化する工程と、液化した熱分解物を蒸留により精製する工程と、をそれぞれ含んでもよい。
【0019】
本開示の方法は、組成物に含まれるメタクリル酸メチル及び臭気成分以外の物質を除去する工程を含んでもよい。
メタクリル酸メチル及び臭気成分以外の物質としては、リサイクルのために回収されたポリメタクリル酸メチルに含まれる添加剤、ポリメタクリル酸メチルに付随して回収される異種材料などが挙げられる。
組成物に含まれるメタクリル酸メチル及び臭気成分以外の物質を除去する工程を実施する方法は特に制限されず、公知の方法から選択できる。
組成物に含まれるメタクリル酸メチル及び臭気成分以外の物質を除去する工程は、組成物と吸着剤とを接触させる工程の前に実施しても、後に実施してもよい。
組成物に含まれるメタクリル酸メチル及び臭気成分以外の物質を除去する方法は特に制限されず、公知の精製技術から選択できる。
【0020】
本開示の方法において、吸着剤を接触させる組成物は、メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有するものであれば特に制限されない。
吸着剤を接触させる組成物の詳細及び好ましい態様については、後述する本開示の組成物の詳細及び好ましい態様を参照できる。
【0021】
<組成物>
本開示の一実施形態は、メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有し、
臭気成分の濃度が組成物全体の0質量ppmを超え450質量ppm未満である、組成物である。
【0022】
本開示の組成物は、メタクリル酸メチルとともに臭気成分を含有していても、組成物を取り扱う者が不快に感じる度合いが小さい。
【0023】
組成物における臭気成分の濃度は、組成物全体に対して450質量ppm未満であれば特に制限されない。臭気成分の濃度は、組成物全体に対して300質量ppm以下、250質量ppm以下、200質量ppm以下、150質量ppm以下、100質量ppm以下、90質量ppm以下、50質量ppm以下、又は25質量ppm以下であってもよい。
組成物における臭気成分の濃度は、低ければ低いほどよい。臭気成分の濃度は、例えば、組成物全体に対して0質量ppmであってもよく、0質量ppm超え、2質量ppm以上、5質量ppm以上、又は10質量ppm以上であってもよい。
組成物が2種以上の臭気成分を含む場合、上述した臭気成分の濃度はそれぞれの臭気成分の濃度である。
【0024】
組成物に含まれる臭気成分の種類は、特に制限されない。臭気成分は、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、脂肪酸類、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含んでもよい。
ある実施形態において、組成物は臭気成分として硫黄含有化合物又はメルカプタン化合物を含んでいてもよい。
ある実施形態において、組成物は臭気成分として窒素含有化合物又はアミン化合物を含んでいてもよい。
組成物に含まれる臭気成分は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0025】
(メタクリル酸メチル)
本開示の方法において、吸着剤を接触させる組成物はメタクリル酸メチルを含む。
本開示において「メタクリル酸メチル」は、メタクリル酸メチルの合成時に生じる副生成物等の不純物を本質的に含んでいないメタクリル酸メチルをいう。しかしながら、本開示におけるメタクリル酸メチルは、発明の目的を損なわないことを前提としてこれに限定されない。換言すると、「メタクリル酸メチル」は常法に従う精製方法によっては除去しきれない不純物を含みうるか、又は、常法に従う検出方法によっては検出できない程度の含有量で不純物を含みうる。
【0026】
組成物中のメタクリル酸メチルの含有量は特に制限されず、組成物を用いて得られるポリメタクリル酸メチルの用途等に応じて選択できる。メタクリル酸メチルの含有量は、例えば、組成物全体の85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
組成物中のメタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であると、組成物を重合した重合物及びそれを含む成形体において、少なくとも耐熱性又はその透明性(光透過率)の観点で好ましい。
【0027】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルは、公知の合成方法により合成されたものであってもよい。合成方法は特に制限されず、ACH法、C4直酸法又はアルファ法であってもよい。
【0028】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルは、再生メタクリル酸メチルを含んでいてもよい。
本開示において再生メタクリル酸メチルとは、ポリメタクリル酸メチルの解重合(重合体が分解して単量体を生成する反応)により得られるメタクリル酸メチルを意味する。
ポリメタクリル酸メチルの解重合は、例えば、ポリメタクリル酸メチルを加熱処理して生じさせることができる。
再生メタクリル酸メチルの原料となるポリメタクリル酸メチルの供給源は、メタクリル酸メチルを回収可能であれば特に制限されない。例えば、ポリメタクリル酸メチルの供給源はポリメタクリル酸メチルを含む成形体であってもよい。
【0029】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルは、バイオ由来メタクリル酸メチルを含んでいてもよい。
本開示においてバイオ由来メタクリル酸メチルとは、生物由来の原料から合成されるメタクリル酸メチルを意味する。生物由来の原料は植物由来の原料であっても動物由来の原料であってもよく、植物油来の原料であることが好ましい。
【0030】
必要に応じ、組成物はメタクリル酸メチル及び臭気成分に該当しない成分を含んでいてもよい。例えば、組成物は後述するメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体、低含有量成分又は添加剤を含んでいてもよい。
【0031】
((メタ)アクリル酸エステル)
組成物は、メタクリル酸メチルに加えて、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル(以下、単に(メタ)アクリル酸エステルともいう)を含んでいてもよい。
(メタ)アクリル酸エステルとして具体的には、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル
酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロペンタニル等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸メチル又はアクリル酸エチルが好ましく、アクリル酸メチルがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本開示において「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステルであってもよいしメタクリル酸エステルであってもよいことを示す。
(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルの製造又はポリメタクリル酸メチルの再生処理の際に生じる副生成物として組成物に含まれていてもよいし、意図的に混合されて組成物に含まれていてもよい。
【0032】
組成物が(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、その濃度は、組成物全体の50000質量ppm以下であることが好ましく、40000質量ppm以下であることがより好ましく、30000質量ppm以下であることがさらに好ましい。
組成物が(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、その濃度は、組成物全体の1質量ppm以上、2質量ppm以上、又は5質量ppm以上であってもよい。
【0033】
組成物は、メタクリル酸メチルに加えて、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体を含んでいてもよい。この重合体は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含んでいればよく、メタクリル酸メチルの単独重合体であってよいし、メタクリル酸メチルと重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であってもよい。メタクリル酸メチルと重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記と同一のものが挙げられる。
【0034】
(低含有量成分)
組成物は、臭気成分以外の低含有量成分を含んでいてもよい。低含有量成分は、メタクリル酸メチルの製造又はポリメタクリル酸メチルの再生処理の際に生じる副生成物として組成物に含まれていてもよい。
本開示において低含有量成分とは、10000質量ppm以下の濃度で組成物に含まれる成分を意味する。
【0035】
組成物が含みうる低含有量成分としては、カルボン酸エステル、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物、アルコール、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
組成物に含まれる低含有量成分は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0036】
カルボン酸エステルとして具体的には、イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、2,4-ジメチル-4-ペンテン酸メチル、2-メチル-3-ブテン酸メチル、チグリン酸メチル、3-メチル-3-ブテン酸メチル、3-メチル-2-ブテン酸メチル、イタコン酸ジメチル、及び2-メチル-5-メチレンヘキサン二酸ジメチルが挙げられる。
芳香族炭化水素化合物として具体的には、トルエン及びスチレンが挙げられる。
脂肪族炭化水素化合物として具体的には、1-オクテン及び1-オクタデセンが挙げられる。
【0037】
組成物が臭気成分以外の低含有量成分を含む場合、それぞれの低含有量成分の濃度は、組成物全体の8000質量ppm以下であることが好ましく、6000質量ppm以下であることがより好ましく、5000質量ppm以下であることがさらに好ましい。
組成物が臭気成分以外の低含有量成分を含む場合、それぞれの低含有量成分の濃度は、組成物全体の1質量ppm以上、2質量ppm以上、又は5質量ppm以上であってもよい。
【0038】
(添加剤)
必要に応じ、組成物は添加剤を含んでもよい。添加剤として具体的には、離型剤、重合調節剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、着色剤などが挙げられる。
組成物に含まれる添加剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0039】
組成物が含みうる離型剤の例としては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、及び脂肪酸誘導体が挙げられる。
離型剤の具体例としては、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ステアリルアルコール、ステアリン酸メチル、及びステアリン酸アミドが挙げられる。
【0040】
組成物に含まれる離型剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における離型剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.01質量%~1.0質量%とすることができる。
【0041】
組成物が含みうる重合調節剤(重合反応における重合速度を調節する添加剤)としては、従来公知の任意好適な重合調節剤を用いることができる。このような重合調節剤としては、例えば、重合速度を低下する方向に調節できる化合物を用いることができる。
重合調節剤の具体例としては、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン化合物、リモネン、ミルセン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、β-ピネン、α-ピネンなどのテルペノイド化合物、及びα-メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0042】
組成物に含まれる重合調節剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における重合調節剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.001質量%~0.5質量%とすることができる。
【0043】
組成物が含みうる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、ジアシルパーオキサイド開始剤、ジアルキルパーオキサイド開始剤、パーオキシエステル開始剤、パーカーボネート開始剤、及びパーオキシケタール開始剤が挙げられる。
【0044】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンテン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、2-シアノ-2-プロピラゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシ-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチル-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、及びジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)などのアゾ化合物が挙げられる。
【0045】
ジアシルパーオキサイド開始剤及びジアルキルパーオキサイド開始剤の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、及びラウロイルパーオキサイドが挙げられる。
【0046】
パーオキシエステル開始剤の具体例としては、tert-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシアセテート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ-tert-ブチルパーオキシアゼレート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テ
トラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びtert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが挙げられる。
【0047】
パーカーボネート開始剤の具体例としては、tert-ブチルパーオキシアリルカーボネート、及びtert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。
【0048】
パーオキシケタール開始剤の具体例としては、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシシクロヘキサン、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及び1,1-ジ-tert-ヘキシルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。
【0049】
組成物に含まれる重合開始剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における重合開始剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.01質量%~5質量%とすることができる。
【0050】
組成物が含みうる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン紫外線吸収剤、シアノアクリレート紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、マロン酸エステル紫外線吸収剤、及びオキサルアニリド紫外線吸収剤が挙げられる。
【0051】
紫外線吸収剤の具体例としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルベンゾフェノン、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、及び2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートが挙げられる。
【0052】
組成物に含まれる紫外線吸収剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における紫外線吸収剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.001質量%~1質量%とすることができる。
【0053】
組成物が含みうる着色剤としては、ペリレン染料、ペリノン染料、ピラゾロン染料、メチン染料、クマリン染料、キノフタロン染料、キノリン染料、アントラキノン染料、アスドラピリドン染料、チオインジゴ染料、クマリン染料、イソインドリノン顔料、シケトピロロピロール顔料、縮合アゾ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジオキサジン顔料、銅フタロシアニン顔料、及びキナクリドン顔料が挙げられる。
【0054】
組成物に含まれる着色剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における着色剤の含有量は、例えば、組成物全体の1.0×10-8質量%~0.5質量%とすることができる。
【0055】
組成物が添加剤を含む場合、その合計含有量は、組成物全体の15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下であってもよい。
組成物が添加剤を含む場合、その合計含有量は、組成物全体の0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってもよい。
【0056】
本開示の組成物は、調製後すぐに使用してもよいし、保管してから使用してもよい。保管する場合の保管条件は、特に制限されないが、例えば0℃~45℃とすることができる。良好な品質を保証する観点からは、保管時の温度は0℃~39℃の範囲から選択することが好ましく、25℃±10℃程度の範囲から選択することがより好ましく、25~30℃程度の範囲から選択することがさらに好ましい。
【0057】
<重合体、硬化物及び成形体>
本開示の重合体は、上述した本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む、重合体である。ここで、重合体とは、組成物に含まれる重合に関与する成分を重合させたものであり、重合に関与する成分に由来する構造単位を有するものである。本開示の重合体は、本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構造単位と、他の重合成分に由来する構造単位とを含んでいてもよい。本開示の重合体の重量平均分子量は特に制限されず、重合体の用途に応じて選択できる。
本開示の硬化物は、上述した本開示の組成物の硬化物である。ここで、硬化物とは、組成物を硬化させたものであり、重合に関与しない成分も含みうる。ただし、組成物を硬化させる方法によっては上述した重合体と同一視する(すなわち、重合に関与しない成分を含まない)こともできる。
本開示の成形体は、上述した本開示の重合体又は硬化物を含む。硬化物が重合体と同一視できる場合は、成形体は、本開示の組成物の重合物を含むことになる。成形体は、本開示の組成物のみを硬化させた硬化物を含む成形体であることが好ましい。成形体は、重合体又は硬化物を任意の形状に成形してなる物体であってもよい。
【0058】
本開示の重合体、硬化物及び成形体がメタクリル酸メチル、臭気成分又はその他の成分を含むか否かは、公知の分析方法で特定できる。公知の分析方法の例としては、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0059】
本開示の重合体、硬化物及び成形体は、臭気成分を含有し、臭気成分の濃度が重合体、硬化物又は成形体の総質量に対して0質量ppmを超え450質量ppm未満である。
重合体、硬化物又は成形体に含まれる臭気成分の濃度は、300質量ppm以下、250質量ppm以下、200質量ppm以下、150質量ppm以下、100質量ppm以下、90質量ppm以下、50質量ppm以下、又は25質量ppm以下であってもよい。
重合体、硬化物又は成形体に含まれる臭気成分の濃度は、低ければ低いほどよい。臭気成分の濃度は、例えば、組成物全体に対して0質量ppmであってもよく、0質量ppm超え、2質量ppm以上、5質量ppm以上、又は10質量ppm以上であってもよい。
【0060】
重合体、硬化物又は成形体に含まれる臭気成分の濃度が450質量ppm未満の範囲であると、重合体、硬化物又は成形体の臭気が効果的に抑制される。
【0061】
<ポリメタクリル酸メチルの製造方法>
本開示のポリメタクリル酸メチルの製造方法は、上述した本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合させる工程を含む、ポリメタクリル酸メチルの製造方法である。ここで、本開示のポリメタクリル酸メチルには、本開示の組成物から得られる重合体も該当し、組成物から得られる硬化物も該当する。
【0062】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合させる方法は特に制限されず、公知の手法で実施してよい。例えば、塊状重合、セルキャスト重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で実施してもよい。
【0063】
具体的には、本開示の組成物を、例えば、塊状重合法によりメタクリル酸メチルの重合体を成形したシート(成形体)を得ることができる。また、セルキャスト重合においては、組成物に対して所定の加熱条件による加熱処理を行って重合反応を進行させることにより、組成物が硬化した硬化物(成形体)を得ることができる。
【0064】
本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合する方法又は成形体の製造方法において、加熱条件のうちの加熱温度及び加熱時間は、例えば、選択された重合調節剤、重合開始剤及び/又はその他の成分の種類や含有量等を勘案して、設定することができる。
【0065】
セルキャスト重合においては、硬化物及びその成形体を製造するにあたり、加熱温度を例えば50℃~120℃とすることができる。加熱時間は、例えば1時間~20時間とすることができる。加熱処理は、加熱温度及び/又は加熱時間が異なる複数のステップを含む加熱処理とすることができる。
【0066】
セルキャスト重合による硬化物及びその成形体は、例えば、下記ステップ1~7を含む加熱条件での加熱処理を行うことにより製造することができる。
【0067】
ステップ1:常温から68℃まで20分間かけて昇温する。
ステップ2:68℃を90分間保持する。
ステップ3:68℃から64℃まで20分間かけて降温する。
ステップ4:64℃を90分間保持する。
ステップ5:64℃から123℃まで10分間かけて昇温する。
ステップ6:123℃を120分間保持する。
ステップ7:123℃から常温まで78分間かけて降温する。
【0068】
硬化物及びその成形体の製造方法において、上記ステップ1~7をこの順に実施すれば、重合反応における発熱を抑制し、重合を安定して完了させることができる。
【0069】
本開示の組成物に対して加熱処理を行うにあたり、例えば、所定の形状の密閉空間を内部に画成できるセルを用いるセルキャスト法(セルキャスト重合)を適用することにより、所定形状の成形体を形成することができる。以下、セルキャスト法による成形体の製造方法について具体的に説明する。
【0070】
セルキャスト法により成形体を製造するにあたり、まずはセルを用意する。ここでは板状体である成形体(キャスト板という場合がある。)を形成する例について説明する。
このようなセルは、少なくとも2枚の平板状部材と、この2枚の平板状部材に挟持されるように配置され、対向するように配置された2枚の平板状部材同士の間隙を密閉空間として封止することができるシール材(ガスケット)とから構成することができる。
【0071】
平板状部材は、枚葉であってもよいし、ベルト状であってもよい。平板状部材は、本開示の組成物によって溶解することがなく、組成物の重合反応を阻害することがなく、かつ加熱処理における加熱温度に十分な耐熱性を有する材料により構成される。平板状部材の好適な材料の例としては、ガラス及び金属が挙げられる。
【0072】
シール材としては、従来公知の任意好適なシール材を用いることができる。シール材は、本開示の組成物によって溶解することがなく、組成物の重合反応を阻害することがなく、かつ加熱処理における加熱温度に十分な耐熱性を有する材料により構成される。シール材の好適な具体例としては、塩化ビニル樹脂製のガスケットが挙げられる。
【0073】
次いで、本開示の組成物を、上記の用意されたセルにより画成される間隙(空隙)に、従来公知の任意好適な方法により注入する。その後、セルに対して既に説明した加熱条件にて加熱処理を行う。本開示の組成物が注入されたセルに対する加熱処理の方法は、特に限定されない。セルに対する加熱処理の方法は、従来公知のセルキャスト法と同様に、例えば熱風循環炉、赤外線ヒーターなどを用いてセルの外部から直接的に加熱処理する方法、セルの外側にさらに任意好適な従来公知のジャケットを設け、このジャケットに温風、温水、水蒸気のような熱媒を導入する方法とすることができる。
【0074】
<ポリメタクリル酸メチル及びその成形体の用途>
本開示の組成物から得られるポリメタクリル酸メチル及びその成形体は、光透過性、耐熱性、耐候性に優れる。よって、外部環境に曝され、さらには熱源、光源にも曝されうる、例えば照明器具、自動車用部品、看板、建材等の種々の用途に好適に適用することができる。
【実施例
【0075】
以下、本開示の実施形態を実施例に基づいて説明する。ただし、以下の実施例は本開示を制限するものではない。
表に示す組成物の臭気の官能評価の結果は、下記の基準に従って評価した結果である。
<臭いの強さ>
5:極端に強い
4:非常に強い
3:強い
2:やや強い
1:無臭又は気にならない
<不快度>
5:極端に不快
4:非常に不快
3:不快
2:やや不快
1:無臭又は不快でない
【0076】
<実施例1>
ポリメタクリル酸メチルを熱分解して得られたガス状の熱分解物を冷却して、凝縮液を得た。この凝縮液(未精製)を、メタクリル酸メチルを含む組成物として使用した。メタクリル酸メチルの含有量は、組成物全体の95質量%であった。
3gの組成物に対し、吸着剤としての銀イオン含有ゼオライト(株式会社シナネンゼオミック製、ゼオミックBG02N)を0.3g加え、混合した。
吸着剤を接触させてから24時間静置した後の組成物について、臭気の官能評価(試験者:男女各1名)を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例2>
組成物に接触させる吸着剤を、同量のゼオライト系消臭剤(株式会社シナネンゼオミック製、ダッシュライト3MH)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
<実施例3>
組成物に接触させる吸着剤を、同量のゼオライト系消臭剤(株式会社シナネンゼオミック製、ダッシュライト9MH)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
<比較例1>
組成物に吸着剤を接触させなかったこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
<実施例4>
組成物に接触させる吸着剤の量を0.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0082】
<実施例5>
組成物に接触させる吸着剤の量を0.1gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0083】
<実施例6>
組成物に接触させる吸着剤を、同量の活性炭(株式会社大創産業製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0084】
<実施例7>
吸着剤を接触させる組成物を、精製した凝縮液に変更したこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価を実施した。メタクリル酸メチルの含有量は、組成物全体の97質量%であった。結果を表2に示す。
【0085】
<実施例8>
組成物に接触させる吸着剤の量を0.1gに変更したこと以外は実施例7と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0086】
<比較例2>
組成物に吸着剤を接触させなかったこと以外は実施例7と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0087】
<比較例3>
吸着剤に代えて、同量の重曹(酸性物質との中和反応による消臭機能を発現する物質、株式会社大創産業製)を組成物に接触させたこと以外は実施例1と同様にして、臭気の官能評価(試験者:男1名)を実施した。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
<実施例9>
ポリメタクリル酸メチルを熱分解して得られたガス状の熱分解物を冷却して、凝縮液を得た。この凝縮液(未精製)を、メタクリル酸メチルを含む組成物として使用した。
3gの組成物に対し、吸着剤としての銀イオン含有ゼオライト(株式会社シナネンゼオミック製、ゼオミックBG02N)を0.5g加え、混合した。吸着剤との接触前(0時間後)と、吸着剤との接触開始から1時間後、3時間後、6時間後、及び24時間後の組成物について、臭気の官能評価(評価対象:臭いの強さ、試験者:男1名)を実施した。結果を表3に示す。
【0090】
<実施例10>
組成物に接触させる吸着剤の量を0.1gに変更したこと以外は実施例9と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表3に示す。
【0091】
<実施例11>
吸着剤を接触させる組成物を、精製した凝縮液に変更したこと以外は実施例9と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表3に示す。
【0092】
<実施例12>
組成物に接触させる吸着剤の量を0.1gに変更したこと以外は実施例11と同様にして、臭気の官能評価を実施した。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
<臭気成分の濃度測定>
メタクリル酸メチルを含む組成物の臭気は、原料のポリメタクリル酸メチルに重合調節剤として添加されたn-オクチルメルカプタンに起因するものと推定される。そこで、組成物に含まれるn-オクチルメルカプタンの濃度が吸着剤との接触によって変化するかを確認するために下記の濃度測定試験1、2を実施した。
【0095】
(濃度測定試験1)
実施例9において、吸着剤との接触前(0時間後)と、接触開始から2時間後、3時間後、7時間後、及び24時間後の組成物について、n-オクチルメルカプタンの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。測定条件を下記に示す。
【0096】
(測定条件)
装置:GC-2010 Plus((株)島津製作所製)
カラム:DB-1(アジレント・テクノロジー(株)社製)
検出器:FID 2010 Plus((株)島津製作所製)
カラムオーブン条件
初期温度:40℃(ホールド時間1分)
昇温速度:8℃/分
中間温度:120℃(ホールド時間0分)
昇温速度:20℃/分
最終温度:300℃(ホールド時間10分)
試料気化条件
気化室温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
圧力:50kPa
全流量:220.1mL/分
カラム流量:1.08mL/分
線速度:31.1cm/秒
パージ線量:3.0mL/分
スプリット比:200
検出器条件
検出器温度:300℃
サンプリングレート:40msec
メイクアップガス:N2
メイクアップ流量:30mL/分
H2流量:40mL/分
Air流量:400mL/分
オートサンプラー条件
注入量:1μL
【0097】
上記の測定条件でサンプル(吸着剤と接触させた組成物)を測定したときに検出されるオクチルメルカプタンに対応するピーク面積(a1)およびドデカノールに対応するピーク面積(b1)を測定した。そして、これらのピーク面積から、ピーク面積比A(=a1/b1)を求めた。
【0098】
オクチルメルカプタンの含有量と、ドデカノールの含有量との質量比がW0(既知)である標準品を、上記の測定条件で測定し、検出されたn-オクチルメルカプタンに対応するピーク面積(a0)およびドデカノールに対応するピーク面積(b0)を測定した。そして、これらのピーク面積から、ピーク面積比A0(=a0/b0)を求めた。
次いで、ピーク面積比A0と、上記の質量比W0とから、ファクターf(=W0/A0)を求めた。
【0099】
次に、上記のピーク面積比Aに上記のファクターfを乗じることにより、組成物に含有されるn-オクチルメルカプタンのドデカノールに対する質量比Wを算出した。算出された質量比Wと、組成物の質量とから、組成物に含有されるn-オクチルメルカプタンの濃度(OM濃度、質量ppm)を算出した。結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
(濃度測定試験2)
上記実施例1、4~8について、臭気の官能評価を行った際(24時間静置した後の組成物)のn-オクチルメルカプタンの濃度(OM濃度、質量ppm)を測定した。測定方法は上記方法と同様である。結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
表1~3に示す結果は、ポリメタクリル酸メチルを含む組成物に吸着剤を接触させることが組成物の臭気の抑制に有効であることを示唆している。
表4及び5に示す結果は、組成物と接触させた吸着剤が臭気成分として含まれる物質を吸着し、組成物中の臭気成分の濃度低減に寄与することを示唆している。

【要約】
【課題】臭気が抑制されるメタクリル酸メチルの製造方法、組成物、重合体、硬化物及び成形体を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル及び臭気成分を含有する組成物と、吸着剤とを接触させる工程を含む、メタクリル酸メチルの製造方法。
【選択図】なし