IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特許7604740ポリイミド系樹脂フィルム、これを用いたディスプレイ装置用基板および光学装置
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリイミド系樹脂フィルム、これを用いたディスプレイ装置用基板および光学装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241217BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241217BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20241217BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20241217BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
C08K5/521
C08L79/08 Z
G02B5/30
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023530019
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 KR2022012501
(87)【国際公開番号】W WO2023120862
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】10-2021-0185016
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0099145
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン、イエ ジ
(72)【発明者】
【氏名】カン、ミ エウン
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-038402(JP,A)
【文献】特表2018-506611(JP,A)
【文献】特表2016-531997(JP,A)
【文献】特表2017-514972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/22
C08G 73/00-73/26
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下であり、
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、10μmの厚さでの厚さ方向位相差R th 値が10nm~60nmである、ポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項2】
50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下であり、
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、532nmの波長での平均屈折率が1.651~1.700であるポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項3】
50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下であり、
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、ポリイミド系樹脂およびホスフェート系化合物を含むポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、10μm厚さでの色座標b*が1.0~2.0である、請求項1に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項5】
前記ポリイミド系樹脂は、芳香族イミド繰り返し単位を含むポリイミド樹脂を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項6】
前記ポリイミド系樹脂は、エーテル基を含む芳香族イミド繰り返し単位を含むポリイミド樹脂を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項7】
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、ポリイミド系樹脂の固形分全体の重量に対して前記ホスフェート系化合物を5重量%30重量%で含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項8】
前記ポリイミド系樹脂は、
下記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位を含むポリイミド系樹脂を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式1]
【化1】
前記化学式1中、
はエーテル基を含む芳香族4価官能基であり、
は炭素数6~10の芳香族2価官能基である。
【請求項9】
前記Xは、下記化学式2で表される4価の官能基を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式2]
【化2】
【請求項10】
前記Yは、下記化学式3で表される官能基を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式3]
【化3】
【請求項11】
前記化学式3で表される官能基は、下記化学式3-1で表される官能基および下記化学式3-2で表される官能基を含む、請求項1に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式3-1]
【化4】
[化学式3-2]
【化5】
【請求項12】
前記ポリイミド系樹脂は、
下記化学式3-1で表される官能基1モルに対して下記化学式3-2で表される官能基を0.1モル以上0.9モル以下で含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式3-1]
【化6】
[化学式3-2]
【化7】
【請求項13】
前記ポリイミド系樹脂は、エーテル基を含む芳香族テトラカルボキシ酸二無水物および炭素数6~10の芳香族ジアミンの結合物を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項14】
前記ポリイミド系樹脂は、
下記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位を含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式4]
【化8】
前記化学式4中、
はペルフルオロアルキル基を含む芳香族4価官能基であり、
は炭素数6~10の芳香族2価官能基である。
【請求項15】
前記Yは、下記化学式5で表される官能基を含む、請求項1に記載のポリイミド系樹脂フィルム:
[化学式5]
【化9】
【請求項16】
前記ポリイミド系樹脂は、全体繰り返し単位100モル%に対して、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位を50モル%~90モル%で含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項17】
前記ホスフェート系化合物はトリアリールホスフェートを含む、請求項に記載のポリイミド系樹脂フィルム。
【請求項18】
請求項1から1のいずれか一項に記載のポリイミド系樹脂フィルムを含む、ディスプレイ装置用基板。
【請求項19】
請求項1から1のいずれか一項に記載のポリイミド系樹脂フィルムを含む、光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年12月22日付の韓国特許出願第10-2021-0185016号および2022年8月9日付の韓国特許出願第10-2022-0099145号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、優れた光学特性および低い位相差を実現することができるポリイミド系樹脂フィルム、これを用いたディスプレイ装置用基板および光学装置に関する。
【背景技術】
【0003】
表示装置市場は、大面積が容易であり、薄型および軽量化が可能な平板ディスプレイ(Flat Panel Display;FPD)中心に急速に変化している。このような平板ディスプレイには、液晶表示装置(Liquid Crystal Display;LCD)、有機発光表示装置(Organic Light Emitting Display;OLED)または電気泳動表示装置(electrophoretic display;EPD)などがある。
【0004】
特に、最近、このような平板ディスプレイの応用と用途とをさらに拡張するために、前記平板ディスプレイに可撓性基板を適用した、いわゆるフレキシブルディスプレイ素子などに関する関心が集中している。このようなフレキシブルディスプレイ素子は、主にスマートフォンなどモバイル機器を中心に適用が検討されており、次第にその応用分野が拡大している。
【0005】
一般に、フレキシブルディスプレイ素子および照明素子を製作することにおいて硬化したポリイミドの上にbuffer layer、active layer、gate insulatorなど多層の無機膜を成膜してTFT素子を製造している。
【0006】
しかし、従来使用されるポリイミド樹脂は面方向の屈折率が大きく厚さ方向の屈折率と大きな差が存在する。これにより、ポリイミドは異方性性質を有することによって、光の歪曲現象が発生して視感性を大きく低下させる限界がある。
【0007】
また、ポリイミド樹脂は、高い芳香族環密度により茶色または黄色に着色するため、可視光線領域における透過度が低く、黄色系の色を呈し、光透過率が低くなり、大きな複屈折を有するため、光学部材に使用するのに限界があった。
【0008】
そこで、面方向、厚さ方向の屈折率差を減らして視感性を向上させ、かつ、優れた光学特性を満たすことができる新たなポリイミド開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた耐薬品性、光学特性および低い位相差を実現することができるポリイミド系樹脂フィルムを提供する。
【0010】
また、本発明は、前記ポリイミド系樹脂フィルムを用いたディスプレイ装置用基板、および光学装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップ(Thermal Hysteresis Gap)が100μm以上500μm以下であるポリイミド系樹脂フィルムが提供される。
【0012】
さらに、本発明は、前記ポリイミド系樹脂フィルムを含む、ディスプレイ装置用基板が提供される。
【0013】
さらに、本発明は、前記ポリイミド系樹脂フィルムを含む、光学装置が提供される。
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態によるポリイミド系樹脂フィルムおよびこれを用いたディスプレイ装置用基板、および光学装置についてより詳しく説明する。
【0015】
本明細書で明示的な言及がない限り、専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。
【0016】
本明細書で使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。
【0017】
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるわけではない。
【0018】
そして、本明細書において「第1」および「第2」のように序数を含む用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的として用いられ、前記用語によって限定されない。例えば、本発明の権利範囲内で第1構成要素は第2構成要素と命名されることがあり、同様に、第2構成要素は第1構成要素と命名されることもある。
【0019】
本明細書において、(共)重合体は、重合体または共重合体を全て含む意味であり、前記重合体は、単一の繰り返し単位からなる単独重合体を意味し、共重合体は、2種以上の繰り返し単位を含む複合重合体を意味する。
【0020】
本明細書において置換基の例示は以下で説明するが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本明細書において、「置換」という用語は、化合物中の水素原子の代わりに他の官能基が結合することを意味し、置換される位置は水素原子が置換される位置、すなわち、置換基が置換可能な位置であれば限定されず、2以上置換される場合、2以上の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0022】
本明細書において、「置換または非置換の」という用語は、重水素;ハロゲン基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;カルボニル基;エステル基;イミド基;アミノ基;第1級アミノ基;カルボキシ基;スルホン酸基;スルホンアミド基;ホスフィンオキシド基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオキシ基;アリールチオキシ基;アルキルスルホキシ基;アリールスルホキシ基;シリル基;ホウ素基;アルキル基;シクロアルキル基;アルケニル基;アリール基;アラルキル基;アラルケニル基;アルキルアリール基;アルコキシシリルアルキル基;アリールホスフィン基;またはN、OおよびS原子のうちの1個以上を含むヘテロ環基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換または非置換されるか、または前記例示した置換基のうちの2以上の置換基が連結された置換または非置換されることを意味する。例えば、「2以上の置換基が連結された置換基」は、ビフェニル基であってもよい。すなわち、ビフェニル基は、アリール基であってもよく、2個のフェニル基が連結された置換基と解釈されてもよい。
【0023】
本明細書において、
【化1】
は、他の置換基に連結される結合を意味し、直接結合はLで表される部分に別途の原子が存在しない場合を意味する。
【0024】
本明細書において、芳香族(aromatic)は、ヒュッケル則(Huckels Rule)を満たす特性であって、前記ヒュッケル則により次の3つの条件を全て満たす場合を芳香族と定義される。
1)空のp-オービタル、不飽和結合、電子対などによって完全にコンジュゲーションをなしている4n+2個の電子が存在しなければならない。
2)4n+2個の電子は平面状異性体を構成しなければならないし、環構造をなさなければならない。
3)環のすべての原子がコンジュゲーションに参加しなければならない。
【0025】
本明細書において、多価官能基(multivalent functional group)は、任意の化合物に結合した複数の水素原子が除去された形態の残基であって、例えば、2価官能基、3価官能基、4価官能基が挙げられる。一例として、シクロブタンに由来する4価の官能基は、シクロブタンに結合した任意の水素原子4個が除去された形態の残基を意味する。
【0026】
本明細書において、アリール基はアレーン(arene)に由来する1価の官能基であって、特に限定されないが、炭素数6~20であることが好ましく、単環式アリール基または多環式アリール基であってもよい。前記アリール基が単環式アリール基としてはフェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基などであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記多環式アリール基としてはナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、クリセニル基、フルオレニル基などであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記アリール基は置換または非置換のものであってもよく、置換される場合、置換基の例示は上述した通りである。
【0027】
本明細書において、直接結合または単結合は、当該位置にいかなる原子または原子団も存在せず、結合線で連結されることを意味する。具体的には、化学式中のL、Lで表される部分に別途の原子が存在しない場合を意味する。
【0028】
本明細書において、重量平均分子量は、GPC法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。前記GPC法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を測定する過程では、通常知られた分析装置と示差屈折率検出器(Refractive Index Detector)などの検出器および分析用カラムを用いることができ、通常適用される温度条件、溶媒、flow rateを適用することができる。前記測定条件の具体的な例として、Polymer Laboratories PLgel MIX-B300mm長さのカラムを用いてWaters PL-GPC220装置を用いて、評価温度は160℃であり、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒として使用し、流速は1mL/minの速度で、サンプルは10mg/10mLの濃度で調製した後、200μLの量で供給し、ポリスチレン標準を用いて形成された検定曲線を用いてMwの値を求めることができる。ポリスチレン標準品の分子量は、2,000/10,000/30,000/70,000/200,000/700,000/2,000,000/4,000,000/10,000,000の9種を使用した。
【0029】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下である、ポリイミド系樹脂フィルムを提供することができる。
【0031】
本発明者らは前記一実施形態のポリイミド系樹脂フィルムのように50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下を満たすと、高温工程時、熱膨張が少なくなり、ディスプレイ素子工程に適したポリイミド系樹脂フィルムを提供することができることを実験により確認して発明を完成した。
【0032】
また、後述のように、本発明に係るポリイミド系樹脂フィルムは、屈折率を上昇させることができ、フレキシブルディスプレイ素子における基板層として用いられ、素子を構成する各層との屈折率の差を減少させることができ、これから、内部で消滅する光の量を減らして光の放出(bottom emission)効率を効果的に増大させることができる。
【0033】
前記実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは、50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下、150μm以上500μm以下、200μm以上500μm以下、250μm以上500μm以下、100μm以上400μm以下、150μm以上400μm以下、200μm以上400μm以下、250μm以上400μm以下、100μm以上300μm以下、150μm以上300μm以下、200μm以上300μm以下、250μm以上300μm以下、100μm以上260μm以下、150μm以上260μm以下、200μm以上260μm以下、250μm以上260μm以下であり得る。
【0034】
具体的には、前記熱的ヒステリシスギャップは50℃以上150℃以下、80℃以上130℃以下、または100℃の温度で測定された値を意味する。
【0035】
前記熱的ヒステリシスギャップは、後述のようにポリイミド系樹脂フィルムの製造に使用される単量体として非対称性構造を有するジアミンであるm-PDA(m-Phenylenediamine)、対称性構造を有するジアミンであるp-PDA(p-Phenylenediamine)および曲がった形の折れた構造を有する無水物である4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)および4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)と一緒にホスフェート系化合物を特定の含有量で使用することによって達成されるとみなされる。
【0036】
具体的には、前記熱的ヒステリシスギャップは、後述のようにポリイミド系樹脂フィルムの製造に使用される単量体として非対称性構造を有するジアミンであるm-PDA(m-Phenylenediamine)、対称性構造を有するジアミンであるp-PDA(p-Phenylenediamine)および曲がった形の折れた構造を有する無水物である4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)および4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)と一緒にホスフェート系化合物を特定の含有量で使用することによって、ポリイミド系樹脂が非対称性構造を有するジアミンであるm-PDA(m-Phenylenediamine)または曲がった形の折れた構造を有する無水物である4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)および4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)に由来する繰り返し単位とともに、線状ジアミンであるp-PDA(p-Phenylenediamine)に由来する繰り返し単位を含み、前記ポリイミド系樹脂の主鎖内の折れた構造が熱によって伸びる部分を熱によって伸びない線状構造が取られ、特定の長さ以上に伸びないようにヒステリシスギャップを調節することによって達成されるとみなされる。
【0037】
前記熱的ヒステリシスギャップの測定方法および装置の例は特に限定されず、従来から測定に用いられる多様な方法を制限なく適用することができる。一例を挙げると、TMAなどの熱機械分析装置を用いて昇温工程および冷却工程を経て、特定の温度で長さ方向の長さの変化(dimension change gap)により測定することができる。より具体的には、TMA(TA社製のQ400)を用いて、5℃/minの昇温速度で260℃まで昇温工程を行った後、4℃/minの冷却速度で50℃まで冷却(cooling)工程を行い、熱膨張の変化形状を測定したグラフ上で、100℃で長さ方向の長さの変化(dimension change gap、y軸)により熱的ヒステリシスギャップを測定することができる。
【0038】
前記熱的ヒステリシスギャップは、厚さ10±1μmの前記ポリイミド系樹脂フィルム試料から測定することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さが特定の数値だけ増加または減少する場合、ポリイミド系樹脂フィルムから測定される物性が一定の数値だけ変化することもできる。
【0039】
前記実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは、50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm未満の場合、光学特性が低下し、500μm超の場合、高温工程時、熱膨張が大きく発生してディスプレイ素子工程に好ましくない。
【0040】
一方、前記ポリイミド系樹脂フィルムは10μmの厚さでの黄色度が2.5以下、または2.0以上、2.1以上、または2.0~2.5、または2.1~2.5であり得る。前記ポリイミド系樹脂フィルムの10μmの厚さでの黄色指数が2.5超などで過度に増加すると、ポリイミド系樹脂フィルムの黄変度が増加して無色透明なフィルム製造が難しくなる限界がある。
【0041】
このような低い黄色指数(YI)は後述のように、ポリイミド系樹脂フィルムの製造に使用される単量体として非対称性構造を有するジアミンであるm-PDA(m-Phenylenediamine)、および電子求引性官能基であるエーテル基を有し、曲がった形の折れた構造を有する無水物である4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)を使用することによって達成されるとみなされる。
【0042】
より具体的には、平面直線型主鎖構造を有するポリイミドの場合、ポリイミド同士が並んでpackingされて積もる反面、曲がった形の折れた主鎖構造を有するポリイミドは分子同士がうまくpackingされないため、CTCの抑制によって透明性が確保され、エーテル基による電子求引効果によってCTCの抑制効果が強化される。
【0043】
前記一実施形態の黄色指数の測定方法および装置の例は具体的に限定されず、従来のYI測定に用いられる多様な方法を制限なく適用することができる。一例を挙げると、color meter(GRETAGMACBETH社製のColor-Eye 7000A)を用いて測定することができる。
【0044】
前記黄色指数は、厚さ10±1μmの前記ポリイミド系樹脂フィルム試料から測定することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さが特定の数値だけ増加または減少する場合、ポリイミド系樹脂フィルムから測定される物性が一定の数値だけ変化することもできる。
【0045】
一方、前記一実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは、10μmの厚さでの色座標b*が1.0~2.0、または1.0~1.5、または1.3~1.5であり得る。このように、色座標b*が低くなることによって、前記一実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは低い黄変特性を有し、優れた光学特性を実現することができる。
【0046】
本発明において、「色座標」とは、CIE(国際照明委員会、Commission International de l'Eclairage)で規定した色相値であるCIE Lab色空間での座標を意味し、CIE色空間での任意の位置はL*、a*、b*の三つの座標値で表現される。
【0047】
ここで、L*値は明るさを示すものであり、L*=0であると黒色(black)を示し、L*=100であると白色(white)を示す。また、a*値は、該当色座標を有する色が純赤色(pure red)と純緑色(pure green)のどちらに偏っているかを示し、b*値は、該当色座標を有する色が純黄色(pure yellow)と純青色(pure blue)のどちらに偏っているかを示す。
【0048】
具体的には、前記a*値は-a~+aの範囲を有する。a*の最大値(a*max)は純赤色(pure red)を示し、a*の最小値(a*min)は純緑色(pure green)を示す。また、前記b*値は-b~+bの範囲を有する。b*の最大値(b*max)は純黄色(pure yellow)を示し、b*の最小値(b*min)は純青色(pure blue)を示す。例えば、b*値が負数の場合は純青色に偏った色相であり、正数の場合は純黄色に偏った色相を意味する。b*=50とb*=80を比較したとき、b*=80がb*=50より純黄色に近く位置することを意味する。
【0049】
前記色座標の測定方法および装置の例は具体的に限定されず、従来の色座標の測定に用いられる多様な方法を制限なく適用することができる。一例を挙げると、ポリイミド系樹脂フィルムに対してcolor meter(GRETAGMACBETH社製のColor-Eye 7000A)を用いて色座標(b*)を測定することができる。
【0050】
前記色座標(b*)は、厚さ10±1μmの前記ポリイミド系樹脂フィルム試料から測定することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さが特定の数値だけ増加または減少する場合、ポリイミド系樹脂フィルムから測定される物性が一定の数値だけ変化することもできる。
【0051】
前記ポリイミド系樹脂フィルムの10μmの厚さでの色座標b*が2.0超、または1.5超などで過度に増加すると、ポリイミド系樹脂フィルムの色座標が歪み、色歪み現象が発生するのでディスプレイとしての適用が難しい限界がある。
【0052】
また、前記一実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは、10μmの厚さでの厚さ方向の位相差値が10nm~60nm、または10nm~50nm、または20nm~50nm、または30nm~50nm、または31nm~50nmであり得る。このように、低い厚さ方向位相差(Rth)の特性により光学的等方性が高くなり、前記ポリイミド系樹脂フィルムが適用されたディスプレイ対角視野角を確保して優れた視感性を実現することができる。
【0053】
このような低位相差は、後述のようにポリイミド系樹脂フィルムの製造に使用される単量体として非対称性構造を有するジアミンであるm-PDA(m-Phenylenediamine)および曲がった形の折れた構造を有する無水物である4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)を使用して面方向と厚さ方向の屈折率差を減らすことによって達成されるとみなされる。
【0054】
より具体的には、平面直線型主鎖構造を有するポリイミドの場合、ポリイミド同士が並んでpackingされて積もるので厚さ方向の屈折率が低い反面、曲がった形の折れた主鎖構造を有するポリイミドは分子同士がうまくpackingされないため、厚さ方向への屈折率が増加する。
【0055】
前記厚さ方向位相差は532nmの波長に対して測定したものであり、測定方法および装置の例は具体的に限定されず、従来の厚さ方向位相差の測定に用いられる多様な方法を制限なく適用することができる。
【0056】
前記厚さ方向位相差は、厚さ10±1μmの前記ポリイミド系樹脂フィルム試料から測定することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さが特定の数値だけ増加または減少する場合、ポリイミド樹脂層フィルムから測定される物性が一定の数値だけ変化することもできる。
【0057】
具体的には、厚さ方向位相差Rthは、以下の数式2によって計算することができる。
[数式2]
th(nm)=|[(n+n)/2]-n|×d
【0058】
前記数式2中、nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの面内屈折率のうちの最も大きい屈折率であり;nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの面内屈折率のうちのnと垂直な屈折率であり;nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率であり;dはポリイミド系樹脂フィルムの厚さである。
【0059】
すなわち、前記厚さ方向位相差Rthは厚さ方向屈折率値(n)と平面屈折率値の平均値[(n+n)/2]の差の絶対値をフィルム厚さにかけて得られた値であって、厚さ方向屈折率値(n)と平面屈折率値の平均値[(n+n)/2]の差が小さいほど低い値を示すことができる。
【0060】
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、10μmの厚さでの厚さ方向の位相差値が上記の範囲を満たすことにより、優れた視感性を実現することができる。
【0061】
前記ポリイミド系樹脂フィルムが10μmの厚さでの厚さ方向の位相差値が60nm超、または50nm超などで過度に増加すると、透明なディスプレイの実現時、上部にポリイミドが存在する構造で光が透過時に歪曲現象が発生して、技術的に最大45nmまで補償する補償フィルムでも透過する光の屈折を補正することができない技術的限界がある。
【0062】
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、532nmの波長での平均屈折率が1.651~1.700、または1.6517~1.700、または1.651~1.680、または1.6517~1.680、または1.6517~1.675、または1.6517~1.6733であり得る。前記平均屈折率を測定する方法の例としては、プリズムカプラーを用いて波長532nmで面方向(TE)および厚さ方向(TM)屈折率を測定し、下記数式3により平均屈折率を計算した。
[数式3]
平均屈折率=(n+n+n)/3
【0063】
前記数式3中、nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの面内屈折率のうちの最も大きい屈折率であり;nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの面内屈折率のうちのnと垂直な屈折率であり;nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率である。
【0064】
前記平均屈折率は、厚さ10±1μmの前記ポリイミド系樹脂フィルム試料から測定することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さが特定の数値だけ増加または減少する場合、ポリイミド系樹脂フィルムから測定される物性が一定の数値だけ変化することもできる。
【0065】
一方、前記ポリイミド系樹脂フィルムは、ポリイミド系樹脂およびホスフェート系化合物を含み得る。
【0066】
前記ホスフェート系化合物は、ホスフェート官能基を含有する化合物を含み、バルキーな構造によりポリイミド主鎖間の空間を広くして高い透過度、低い黄色指数および低い位相差を実現することができる。
【0067】
前記ホスフェート系化合物は、前記ポリイミド系樹脂フィルムの全体重量に対して1重量%~30重量%、または5重量%~30重量%、または6重量%~30重量%、または7重量%~30重量%、または12重量%~30重量%、または5重量%~25重量%、または6重量%~25重量%、または7重量%~25重量%、または11重量%~25重量%、または5重量%~18重量%、または6重量%~18重量%、または7重量%~18重量%、または12重量%~18重量%で含まれる。
【0068】
より具体的には、前記ポリイミド系樹脂フィルムを製造するポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物に前記ホスフェート系化合物が投入され、ポリイミド系樹脂フィルムにまで残留することができる。前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物内において、固形分全体の重量に対して1重量%~30重量%、または5重量%~30重量%、または6重量%~30重量%、または7重量%~30重量%、または12重量%~30重量%、または5重量%~25重量%、または6重量%~25重量%、または7重量%~25重量%、または11重量%~25重量%、または5重量%~18重量%、または6重量%~18重量%、または7重量%~18重量%、または12重量%~18重量%で前記ホスフェート系化合物が含まれる。
【0069】
前記ホスフェート系化合物の含有量が前記ポリイミド系樹脂フィルム全体の重量に対して過度に減少すると、ホスフェート系化合物による低位相差および高い透明度の実現が難しくなる。反面、前記ホスフェート系化合物の含有量が前記ポリイミド系樹脂フィルム全体の重量に対して過度に増加すると、ヘイズが増加しながら黄色指数も増加して光学物性が不良になり、耐熱特性が不良になるという問題がある。
【0070】
前記ホスフェート系化合物は、トリアリールホスフェートを含んでもよい。前記トリアリールホスフェートは、ホスフェート官能基に3つのアリール基が結合した構造であって、前記トリアリールホスフェートの具体的な例は特に限定されるものではないが、一例を挙げると、トリフェニルホスフェートを使用することができる。
【0071】
一方、前記ポリイミド系樹脂はポリイミド、およびその前駆体重合体であるポリアミック酸、ポリアミック酸エステルを全て含むことを意味する。すなわち、前記ポリイミド系高分子はポリアミック酸繰り返し単位、ポリアミック酸エステル繰り返し単位、およびポリイミド繰り返し単位からなる群より選択される1種以上を含み得る。すなわち、前記ポリイミド系高分子は、ポリアミック酸繰り返し単位1種、ポリアミック酸エステル繰り返し単位1種、ポリイミド繰り返し単位1種、またはこれらの2種以上の繰り返し単位が混合された共重合体を含み得る。
【0072】
前記ポリアミック酸繰り返し単位、ポリアミック酸エステル繰り返し単位、およびポリイミド繰り返し単位からなる群より選択される1種以上の繰り返し単位は、前記ポリイミド系高分子の主鎖を形成することができる。
【0073】
前記ポリイミド系樹脂フィルムは、ポリイミド系樹脂の硬化物を含み得る。前記ポリイミド系樹脂の硬化物は、前記ポリイミド系樹脂の硬化工程を経て得られる生成物を意味する。
【0074】
具体的には、前記ポリイミド系樹脂フィルムは、芳香族イミド繰り返し単位を含むポリイミド樹脂を含み得る。
【0075】
前記芳香族イミド繰り返し単位は、ポリイミド系樹脂合成に単量体として用いられるテトラカルボン酸またはその無水物およびジアミン化合物において、テトラカルボン酸またはその無水物が芳香族基を含むか、ジアミン化合物が芳香族基を含むか、テトラカルボン酸またはその無水物およびジアミン化合物がいずれも芳香族基を含むことによって実現することができる。
【0076】
より具体的には、前記ポリイミド系樹脂フィルムは、エーテル基を含む芳香族イミド繰り返し単位を含むポリイミド樹脂を含み得る。
【0077】
前記エーテル基を含む芳香族イミド繰り返し単位は、ポリイミド系樹脂合成に単量体として用いられるテトラカルボン酸またはその無水物およびジアミン化合物において、テトラカルボン酸またはその無水物がエーテル基を含む芳香族基を含むか、ジアミン化合物がエーテル基を含む芳香族基を含むか、テトラカルボン酸またはその無水物およびジアミン化合物がいずれもエーテル基を含む芳香族基を含むことによって実現することができる。
【0078】
特に、前記ポリイミド系樹脂は、下記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位を含み得る。
[化学式1]
【化2】
前記化学式1中、Xはエーテル基を含む芳香族4価官能基であり、Yは炭素数6~10の芳香族2価官能基である。
【0079】
前記化学式1中、Xはエーテル基を含む芳香族4価官能基であり、前記Xはポリイミド系樹脂合成に使用されるテトラカルボン酸二無水物化合物から誘導された官能基である。
【0080】
前記エーテル基を含む芳香族4価官能基を前記Xに含むことになると、エーテル官能基と2つのベンゼン環が曲がった形態で折れた構造がポリイミド鎖構造に導入されることによって分子同士のpackingがうまくできなくなるので、厚さ方向への屈折率が増加して面方向と厚さ方向の屈折率差を減らすことで低位相差を実現することができ、エーテル基による電子求引効果によってイミド鎖内に存在するPi-電子のCTC(charge transfer complex)の形成を抑制することにより透明性を確保して優れた光学特性を実現することができる。
【0081】
より具体的には、前記Xの4価の官能基は、下記化学式2で表される4価の官能基を含み得る。
[化学式2]
【化3】
【0082】
前記化学式2で表される官能基の具体的な例としては、4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)に由来する下記化学式2-1で表される官能基が挙げられる。
[化学式2-1]
【化4】
【0083】
一方、前記化学式1中、Yは炭素数6~10の芳香族2価官能基であり、前記Yはポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、またはポリイミド合成時に使用されるジアミン化合物に由来する官能基であり得る。
【0084】
前記炭素数6~10の芳香族2価官能基はフェニレン基を含み得る。より具体的には、前記Yの炭素数6~10の芳香族2価官能基は、下記化学式3で表される官能基を含み得る。
[化学式3]
【化5】
【0085】
下記化学式3で表される官能基の具体的な例としては、m-フェニレンジアミン(1,3-phenylenediamine、m-PDA)に由来する下記化学式3-1で表される官能基、およびp-フェニレンジアミン(1,4-phenylenediamine、p-PDA)に由来する下記化学式3-2で表される官能基が挙げられる。
[化学式3-1]
【化6】
[化学式3-2]
【化7】
【0086】
前記化学式3-1で表される官能基を前記Yに含むことになると、曲がった形態に非対称性構造がポリイミド鎖構造に導入されることによって厚さ方向に配列を維持することができ、面方向と厚さ方向の屈折率差を減らすことで低位相差を実現することができる。
【0087】
また、前記化学式3-2で表される官能基を前記Yに含むことになると、線状に分子配列された領域が形成され、ポリイミド系樹脂の剛直性を増加させ、情熱安定性が増加して50℃以上150℃以下の温度で100μm以上500μm以下の低い熱的ヒステリシスギャップを実現することができる。
【0088】
具体的には、前記ポリイミド系樹脂は、前記化学式3-1で表される官能基1モルに対して前記化学式3-2で表される官能基を0.1モル以上0.9モル以下、0.2モル以上0.9モル以下、0.3モル以上0.9モル以下、0.5モル以上0.9モル以下、0.6モル以上0.9モル以下、0.1モル以上0.8モル以下、0.2モル以上0.8モル以下、0.3モル以上0.8モル以下、0.5モル以上0.8モル以下、0.6モル以上0.8モル以下、0.1モル以上0.7モル以下、0.2モル以上0.7モル以下、0.3モル以上0.7モル以下、0.5モル以上0.7モル以下、0.6モル以上0.7モル以下で含み得る。
【0089】
前記化学式3-1で表される官能基1モルに対して前記化学式3-2で表される官能基を0.1モル未満、0.2モル未満、0.3モル未満、0.5モル未満、または0.6モル未満で含む場合、高分子と高分子間のバルキーな構造の配列によって剛直度の低下、耐薬品性の減少および熱的安定性の低下が発生することがある。
【0090】
また、前記化学式3-1で表される官能基1モルに対して前記化学式3-2で表される官能基を0.9モル超、0.8モル超、または0.7モル超で含む場合、上述したm-フェニレンジアミン(1,3-phenylenediamine、m-PDA)に由来する前記化学式3-1で表される官能基が有する曲がった非対称性構造の実現が難しくて平面上の一直線方向にポリイミドが重合しながら高分子が面方向にのみ成長するので高分子同士のpackingがうまくでき、厚さ方向への屈折率が減少して面方向と厚さ方向の屈折率差が増加する問題が発生することがある。
【0091】
また、4,4'-オキシジアニリン(4,4'-Oxydianiline、ODA)に由来する官能基を前記Yに含むことになると対称性を有する構造であるため、高分子同士のpackingがうまくでき、厚さ方向への屈折率が減少して面方向と厚さ方向の屈折率差が増加する問題が発生することがある。
【0092】
前記ポリイミド系樹脂は、エーテル基を含む芳香族テトラカルボキシ酸二無水物および炭素数6~10の芳香族ジアミンの結合物を含み得る。
【0093】
前記エーテル基を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物は、上述したエーテル基を含む芳香族4価官能基の両末端に無水物基(-OC-O-CO-)が導入された化合物であって、エーテル基を含む芳香族4価官能基に対する説明は上述した通りである。
【0094】
前記エーテル基を含む芳香族テトラカルボキシ酸二無水物の具体的な例としては、4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)が挙げられる。
【0095】
前記炭素数6~10の芳香族ジアミンは、上述した炭素数6~10の芳香族2価官能基の両末端にアミノ基(-NH)が導入された化合物であって、炭素数6~10の芳香族2価官能基に対する説明は上述した通りである。
【0096】
前記炭素数6~10の芳香族ジアミンの具体的な例としては、m-フェニレンジアミン(1,3-phenylenediamine、m-PDA)およびp-フェニレンジアミン(1,4-phenylenediamine、p-PDA)が挙げられる。
【0097】
より具体的には、前記ポリイミド系樹脂は、前記エーテル基を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物の末端無水物基(-OC-O-CO-)と、炭素数6~10の芳香族ジアミンの末端アミノ基(-NH)の反応でアミノ基の窒素原子と無水物基の炭素原子との間の結合が形成される。
【0098】
一方、前記ポリイミド系樹脂は、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位以外に、下記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位をさらに含み得る。すなわち、前記ポリイミド系樹脂は、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位および下記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位を含み得る。
[化学式4]
【化8】
【0099】
前記化学式4中、Xはペルフルオロアルキル基を含む芳香族4価官能基であり、Yは炭素数6~10の芳香族2価官能基である。
【0100】
前記Yは前記化学式1中のYと同一である。
【0101】
前記ペルフルオロアルキル基を含む芳香族4価官能基は、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)に由来する下記化学式5で表される官能基が挙げられる。
[化学式5]
【化9】
【0102】
前記化学式5で表される官能基を前記Yに含むことになると、ペルフルオロアルキル基による電子求引効果によってイミド鎖内に存在するPi-電子のCTC(charge transfer complex)の形成を抑制することにより透明性を確保して光学特性をさらに改善することができる。また、前記化学式5で表される官能基もまた、曲がった形の折れた構造であるので厚さ方向の屈折率を小さく維持しながら、面方向と厚さ方向の屈折率差が増加することを抑制して低位相差を維持し得る。
【0103】
すなわち、前記ポリイミド系高分子は、ジアミン由来の繰り返し単位が前記化学式3-1で表される官能基であり、無水物由来の繰り返し単位が前記化学式2で表される官能基であって、前記化学式1で表される繰り返し単位を含む第1繰り返し単位;ジアミン由来の繰り返し単位が前記化学式3-2で表される官能基であり、無水物由来の繰り返し単位が前記化学式2で表される官能基であって、前記化学式1で表される繰り返し単位を含む第2繰り返し単位;ジアミン由来の繰り返し単位が前記化学式3-1で表される官能基であり、無水物由来の繰り返し単位が前記化学式5で表される官能基であって、前記化学式4で表される繰り返し単位を含む第3繰り返し単位;およびジアミン由来の繰り返し単位が前記化学式3-2で表される官能基であり、無水物由来の繰り返し単位が前記化学式5で表される官能基であって、前記化学式4で表される繰り返し単位を含む第4繰り返し単位;を含み得る。前記第1繰り返し単位から第4繰り返し単位は、前記ポリイミド系高分子内でランダムに配列してランダム共重合体をなすか、または第1繰り返し単位間のブロック、第2繰り返し単位間のブロック、第3繰り返し単位間のブロック、および第4繰り返し単位間のブロックを形成してブロック共重合体をなすことができる。
【0104】
前記化学式1で表される繰り返し単位および前記化学式4で表される繰り返し単位を含むポリイミド系高分子は、テトラカルボン酸二無水物化合物と共に互いに異なる2種以上のジアミン化合物を反応させて製造することができ、前記2種のジアミン化合物を同時に添加してランダム共重合体を合成するか、または順次添加してブロック共重合体を合成することができる。
【0105】
前記ポリイミド系樹脂は、全体繰り返し単位100モル%に対して、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位を50モル%~90モル%、50モル%~80モル%、または50モル%~70モル%で含み得る。また、前記ポリイミド系樹脂は、前記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位を10モル%~60モル%、または20モル%~50モル%、または30モル%~50モル%で含み得る。上述した数値の範囲内で前記ポリイミド系樹脂から合成されたポリイミド系樹脂フィルムは、50℃以上150℃以下の温度で熱的ヒステリシスギャップが100μm以上500μm以下を満たすことができる。
【0106】
これにより、高温工程時の熱膨張が少なくてディスプレイ素子工程に適したポリイミド系樹脂フィルムを提供することができる。
【0107】
反面、前記ポリイミド系樹脂において化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位を過度に少量含む場合、工程で使用される溶液に対する耐薬品性が減少し、ポリイミド系樹脂フィルムをディスプレイ装置に適用するための追加工程が難しくなる。
【0108】
また、前記ポリイミド系樹脂は、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位1モルに対して前記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位を0.3モル以上、0.4モル以上、0.42モル以上、1.0モル以下、0.3モル以上1.0モル以下、0.4モル以上1.0モル以下、0.42モル以上1.0モル以下で含み得る。
【0109】
前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位1モルに対して、前記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位を0.3未満、0.4モル未満または0.42モル未満で過度に少量含む場合、Rthを下げることが難しく、高分子間の間隔が近くなり、CTCの増加でYIおよびb*を低くするのに限界があり、光学特性が不良になる。
【0110】
また、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位1モルに対して、前記化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位を1.0モル超で過度に過剰に含む場合、高分子間の間隔の増加でポリイミド系樹脂の耐薬品性が減少し、KOHおよびPGMEAなどの溶媒を用いた工程でクラックが発生する。
【0111】
前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位および化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位は、ポリイミド系樹脂に含有された全体繰り返し単位に対して70モル%以上、または80モル%以上、または90モル%以上、または70モル%以上100モル%以下、80モル%以上100モル%以下、70モル%以上90モル%以下、70モル%以上99モル%以下、80モル%以上99モル%以下、90モル%以上99モル%以下で含まれる。
【0112】
すなわち、前記ポリイミド系樹脂は、前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位および化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位のみからなり、ほとんどが前記化学式1で表されるポリイミド繰り返し単位および化学式4で表されるポリイミド繰り返し単位からなる。
【0113】
前記ポリイミド系樹脂の重量平均分子量(GPC測定)は特に限定されるものではないが、例えば、1000g/mol以上200000g/mol以下、または10000g/mol以上200000g/mol以下であり得る。
【0114】
本発明に係るポリイミド系樹脂は剛直な構造による耐熱性、機械的強度などの特性をそのまま維持しながら、優れた無色透明な特性を示すことができ、素子用基板、ディスプレイ用カバー基板、光学フィルム(optical film)、IC(integrated circuit)パッケージ、粘着フィルム(adhesive film)、多層FRC(flexible printed circuit)、テープ、タッチパネル、光ディスク用保護フィルムなどの多様な分野で用いられ、特にディスプレイ用カバー基板に好適である。
【0115】
より具体的には、前記ポリイミド系樹脂フィルムを合成する方法の例は特に限定されず、例えば、前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物を基板に塗布して塗膜を形成する段階(段階1)と、前記塗膜を乾燥する段階(段階2)と、前記乾燥された塗膜を熱処理して硬化する段階(段階3)とを含む、フィルムの製造方法を使用することができる。
【0116】
前記段階1は、上述したポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物を基板に塗布して塗膜を形成する段階である。前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物を基板に塗布する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェットなどの方法が用いられる。
【0117】
そして、前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物は、有機溶媒に溶解または分散させたものであり得る。このような形態を有する場合、例えば、ポリイミド系樹脂を有機溶媒中で合成した場合には、溶液は得られる反応溶液そのものでも構わないし、また、該反応溶液を他の溶媒に希釈したものでも構わない。また、ポリイミド系樹脂を粉末として得た場合には、これを有機溶媒に溶解させて溶液にしたものでも構わない。
【0118】
前記有機溶媒の具体的な例としては、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジグリム、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、混合して使用されてもよい。
【0119】
前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物は、フィルム形成工程時の塗布性などの工程性を考慮して適切な粘度を有する量で固形分を含み得る。例えば、全体樹脂の含量が5重量%以上25重量%以下になるように組成物の含量を調節することができ、または5重量%以上20重量%以下、または5重量%以上15重量%以下に調節することができる。
【0120】
また、前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物は、有機溶媒以外に他の成分をさらに含み得る。非制限的な例として、前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物が塗布された時、膜厚の均一性や表面平滑性を向上させるか、あるいは基板との密着性を向上させるか、あるいは誘電率や導電性を変化させるか、あるいは緻密性を増加させることができる化合物をさらに含み得る。このような化合物としては、界面活性剤、シラン系化合物、誘電体または架橋性化合物などが挙げられる。
【0121】
前記段階2は、前記ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物を基板に塗布して形成された塗膜を乾燥する段階である。
【0122】
前記塗膜の乾燥段階は、ホットプレート、熱風循環炉、赤外線炉などの加熱手段によって行うことができ、50℃以上150℃以下、または50℃以上100℃以下の温度で行うことができる。
【0123】
前記段階3は、前記乾燥された塗膜を熱処理して硬化する段階である。この時、前記熱処理はホットプレート、熱風循環炉、赤外線炉などの加熱手段によって行うことができ、200℃以上、または200℃以上300℃以下の温度で行うことができる。
【0124】
前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さは特に限定されるものではないが、例えば、0.01μm以上1000μm以下の範囲内で自由に調節可能である。前記ポリイミド系樹脂フィルムの厚さが特定の数値だけ増加または減少する場合、ポリイミド系樹脂フィルムから測定される物性が一定の数値だけ変化することもできる。
【0125】
一方、本発明のさらに他の実施形態によれば、前記他の実施形態のポリイミド系樹脂フィルムを含むディスプレイ装置用基板を提供することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムに関する内容は前記一実施形態で上述した内容を全て含む。
【0126】
前記基板を含むディスプレイ装置は、液晶表示装置(liquid crystal display device、LCD)、有機発光ダイオード(organic light emitting diode、OLED)、フレキシブルディスプレイ(Flexible Display)、または巻込可能なディスプレイ装置(rollable display or foldable display)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
前記ディスプレイ装置は、適用分野および具体的な形態などによって多様な構造を有することができ、例えば、カバープラスチックウィンドウ、タッチパネル、偏光板、バリアフィルム、発光素子(OLED素子など)、透明基板などを含む構造であり得る。
【0128】
上述した他の実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは、このような多様なディスプレイ装置において基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウなどの多様な用途に使用することができ、より具体的には基板に適用することができる。
【0129】
例えば、前記ディスプレイ装置用基板は、素子保護層、透明電極層、シリコン酸化物層、ポリイミド系樹脂フィルム、シリコン酸化物層およびハードコート層が順次積層された構造を備えることができる。
【0130】
前記透明ポリイミド基板は、耐溶剤性または水分透過性および光学的特性をより向上させる側面から透明ポリイミド系樹脂フィルムと硬化層の間に形成された、シリコン酸化物層を含み得、前記シリコン酸化物層はポリシラザンを硬化させて生成されるものであり得る。
【0131】
具体的には、前記シリコン酸化物層は、前記透明ポリイミド系樹脂フィルムの少なくとも一面上にコート層を形成する段階の前にポリシラザンを含む溶液をコーティングおよび乾燥した後、前記コーティングされたポリシラザンを硬化させて形成されるものであり得る。
【0132】
本発明に係るディスプレイ装置用基板は、上述した素子保護層を含むことによって優れた反り特性および耐衝撃性を有し、かつ、耐溶剤性、光学特性、水分透過度および耐スクラッチ性を有する透明ポリイミドカバー基板を提供することができる。
【0133】
一方、本発明のさらに他の実施形態によれば、前記他の実施形態のポリイミド系樹脂フィルムを含む光学装置を提供することができる。前記ポリイミド系樹脂フィルムに関する内容は前記一実施形態で上述した内容を全て含む。
【0134】
前記光学装置は、光によって実現される性質を用いた各種装置が全て含まれ得、例えば、ディスプレイ装置が挙げられる。前記ディスプレイ装置の具体的な例としては、液晶表示装置(liquid crystal display device、LCD)、有機発光ダイオード(organic light emitting diode、OLED)、フレキシブルディスプレイ(Flexible Display)、または巻込可能なディスプレイ装置(rollable display or foldable display)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0135】
前記光学装置は、適用分野および具体的な形態などによって多様な構造を有することができ、例えば、カバープラスチックウィンドウ、タッチパネル、偏光板、バリアフィルム、発光素子(OLED素子など)、透明基板などを含む構造であり得る。
【0136】
上述した他の実施形態のポリイミド系樹脂フィルムは、このような多様な光学装置において基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウなどの多様な用途に使用することができ、より具体的には基板に適用することができる。
【発明の効果】
【0137】
本発明によれば、低い黄色指数により顕著に改善された透明度によって光透過率を高めて低い複屈折を有することで光学部材に使用することが好適であり、かつ、低い屈折率差(△n)の特性により光学的等方性が高くなり、低い位相差を実現することによって、ポリイミド系樹脂フィルムが適用されたディスプレイ対角視野角を確保して光の歪曲現象による視感性の低下を防止することができるポリイミド系樹脂フィルム、これを用いたディスプレイ装置用基板および光学装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0138】
本発明を下記の実施例でより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は例示に過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0139】
<実施例および比較例:ポリイミド前駆体組成物およびポリイミドフィルムの製造>
【0140】
実施例1
【0141】
(1)ポリイミド前駆体組成物の製造
窒素気流が流れる撹拌機内に有機溶媒DMAcを満たした後、反応器の温度を25℃に維持した状態でm-フェニレンジアミン(1,3-phenylenediamine、m-PDA)およびp-フェニレンジアミン(1,4-phenylenediamine、p-PDA)を同じ温度で添加して溶解した。前記m-フェニレンジアミン(1,3-phenylenediamine、m-PDA)およびp-フェニレンジアミン(1,4-phenylenediamine、p-PDA)が添加された溶液に酸二無水物として4,4'-オキシジフタル酸無水物(4,4'-Oxydiphthalic Anhydride、ODPA)および4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4'-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)を同じ温度で添加して24時間攪拌した。このとき、m-PDA、p-PDA、OPDA、6FDAのモル比率は下記表1に記載の通りである。
【0142】
その後、トリフェニルホスフェート(Triphenylphosphate、TPhP)を固形分含有量全体に対して15重量%で添加し、攪拌してポリイミド前駆体組成物を製造した。
【0143】
(2)ポリイミドフィルムの製造
前記ポリイミド前駆体組成物をガラス基板上にスピンコートした。ポリイミド前駆体組成物が塗布されたガラス基板を80℃で5分~30分、260℃で60分を維持して硬化工程を行った。硬化工程を完了した後、ガラス基板を水に浸してガラス基板の上に形成されたフィルムを剥がしてオーブンで100℃で乾燥して、厚さが10μm(±1μmの誤差を含む)であるポリイミドフィルムを製造した。
【0144】
実施例2-3、比較例1-5、参考例1-2
m-PDA、p-PDA、OPDA、6FDAのモル比率、およびTPhPの含有量を下記表1に記載の通り変更したことを除いては、前記実施例1と同様の方法でポリイミド前駆体組成物およびポリイミドフィルムを製造した。
【0145】
<実験例:実施例および比較例で得られたポリイミド前駆体組成物およびポリイミドフィルムの物性測定>
前記実施例および比較例で得られたポリイミド前駆体組成物およびポリイミドフィルムから物性を下記方法で測定し、その結果を表1~表3に示す。
【0146】
1.黄色指数(YI)、色座標(b*)
実施例および比較例で製造されたポリイミドフィルムに対してcolor meter(GRETAGMACBETH社製のColor-Eye 7000A)を用いてASTM D1925の測定法により黄色指数および色座標(b*)を測定し、下記表1に示す。
【0147】
2.屈折率
実施例および比較例で製造されたポリイミドフィルムに対してプリズムカプラーを用いて波長532nmで面方向(TE)および厚さ方向(TM)屈折率を測定し、以下の数式2により平均屈折率を計算した。
[数式2]
平均屈折率=(n+n+n)/3
(前記数式2中、nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの面内屈折率のうちの最も大きい屈折率であり;nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの面内屈折率のうちのnと垂直な屈折率であり;nは波長532nmの光で測定されるポリイミド樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率である。)
【0148】
3.Haze
Hazemeter(NDH-5000)を用いてASTM D1003の測定法によりポリイミドフィルムのヘイズ値を測定した。
【0149】
4.ガラス転移温度(Tg)、CTEおよび熱的ヒステリシスギャップ(Thermal Hysteresis Gap)
実施例および比較例で製造されたポリイミドフィルムを5×20mmの大きさで準備した後、アクセサリを用いて試料をロードした。実際に測定されるフィルムの長さは16mmで同一にした。フィルムを引っ張る力を0.02Nに設定し、50~430℃の温度範囲で5℃/minの昇温速度で260℃まで1次昇温工程を行った後、4℃/minの冷却速度で80℃まで1次冷却(cooling)工程を行って熱膨張変化様相をTMA(TA社のQ400)で測定した。この時、TMAで測定したグラフ上の100℃での長さ方向の長さ変化(dimension change gap、y軸)を意味する熱的ヒステリシスギャップを測定した。
【0150】
また、1次冷却後、再び350℃まで5℃/minの昇温速度で2次昇温工程を行い、昇温区間で変曲点が見られると、これをガラス転移温度(Tg)とし、前記1次昇温および2次昇温工程中のそれぞれのCTEを測定した。
【0151】
5.550nmの波長に対する厚さ方向レターデーション(Rth)
厚さ方向レターデーション(Rth)は、各実施例および比較例で製造されたポリイミドフィルムから縦20mm、横20mm、厚さ10μmの試料を製造し、測定装置としてAXOMETRICS社製の商品名「アクソスキャン(AxoScan)」を用いて、それぞれの試料の屈折率値をインプットした後、温度:25℃、湿度:40%の条件下で波長550nmの光を用いて、厚さ方向レターデーションを測定した後、求められた厚さ方向レターデーションの測定値(測定装置の自動測定による測定値)を使用して、フィルムの厚さ10μm当たりのレターデーション値で求めた。
【0152】
前記厚さ方向レターデーション(Rth)の測定に用いられる「前記ポリイミド樹脂フィルムの屈折率」の値は、レターデーションの測定対象となるフィルムを形成するポリイミドフィルムと同じ種類のポリイミドフィルムを包含する未延伸フィルムを形成した後、このような未延伸フィルムを測定試料として使用し(また、測定対象となるフィルムが未延伸フィルムである場合、該フィルムをそのまま測定試料として使用できる。)、測定装置として屈折率測定装置(SAIRON thechnology.INC社の商品名「prism coupler&3DR mesurment/SPA-3DR」)を用い、532nmの光源を使用し、23℃の温度条件で測定試料の面内方向(厚さ方向とは垂直な方向)の532nmの光に対する屈折率を測定して求めることができる。
【0153】
【表1】
【0154】
上記表1に示すように、実施例1~3で得られたポリイミドフィルム(厚さ10μmを基準とする。)は、熱的ヒステリシスギャップ(△μm)が217μm~465μmであり、ガラス転移温度が250℃~252℃であり、厚さ方向位相差Rth値が31nm~50nmであり、色座標b*が1.5以下であり、YIが2.5以下であり、532nmでの平均屈折率が1.6517~1.6733であり、したがって、実施例1~3で得られたポリイミドフィルムは高温工程時の熱膨張が少ないのでディスプレイ素子工程に好適であるだけでなく、かつ、耐薬品性および光学特性に優れていることを確認した。
【0155】
【表2】
【0156】
上記表2に示すように、比較例1~3で得られたポリイミドフィルム(厚さ10μmを基準とする。)は、厚さ方向位相差Rth値が81nm~109nmでディスプレイに適した視感性を発現しにくく、色座標b*が2.6以上であり、YIが4.1以上であることによって色歪み現象が発生するなど光学特性が不良であることを確認した。
【0157】
また、比較例4~5で得られたポリイミドフィルム(厚さ10μmを基準とする。)は、熱的ヒステリシスギャップ(△μm)が754μm~1856μmで高温のディスプレイ素子の工程に不適であり、532nmでの平均屈折率が1.70以上で、実施例に比べて増加して高位相差を示すことを確認した。
【0158】
【表3】
【0159】
上記表3に示すように、参考例1で得られたポリイミドフィルム(厚さ10μmを基準とする。)は、色座標b*が4.1であり、YIが7.6であり、これによって色歪み現象が発生するなど光学特性が不良であることを確認した。
【0160】
また、参考例2で得られたポリイミドフィルム(厚さ10μmを基準とする。)は、熱的ヒステリシスギャップ(△μm)が2900μmで、高温のディスプレイ素子の工程に不適であることを確認した。