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  • 特許-印刷物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/30 20060101AFI20241217BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241217BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241217BHJP
   D06B 11/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
D06P5/30
B41J2/01
B41M5/00 114
B41M5/00 120
D06B11/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020088807
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021183731
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】波多 朝仁
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賢志
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 洋平
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-136766(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110744(WO,A1)
【文献】特開2006-219592(JP,A)
【文献】特開2012-101366(JP,A)
【文献】特開2007-229978(JP,A)
【文献】特開2013-237276(JP,A)
【文献】特開2014-091795(JP,A)
【文献】特開2012-152935(JP,A)
【文献】特開昭60-216807(JP,A)
【文献】特開2005-089498(JP,A)
【文献】特開2005-097380(JP,A)
【文献】特開2009-046544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/30
B41J 2/01
B41M 5/00
D06B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に水性インクが印刷された印刷物の製造方法であって、
中空糸シートを隔てたインク通路とは反対側の空間において70~100kPaの圧力下で、水性インクを前記中空糸シートに通液する通液工程と、
前記通液工程後の前記水性インクをインクジェット印刷法により布帛に印刷する印刷工程と、を含む、印刷物の製造方法であって、
前記水性インクが、酸価が10~40mgKOH/gであるウレタン樹脂を含有し、
前記中空糸シートの素材が、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂からなる群から選ばれる、印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記通液工程において、常圧下で、前記水性インクを中空糸シートに通液する、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記通液工程において、前記水性インクを前記中空糸シートに通液する際の通液速度は0.1~500mL/minである、請求項1又は2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記中空糸シートの素材が、ポリ(4-メチルペンテン-1)である請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記水性インクは、粘度が20mPa・s以下で、かつ、表面張力が20mN/m~40mN/mである、請求項1~のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記中空糸シートは、複数の中空糸を含み、
前記中空糸の外径は、0.01~1.0mmである、請求項1~のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷法を用いた印刷物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、織布、不織布及び編布等の布帛に、文字、絵、図柄などの画像を印捺する方法として、顔料捺染法が用いられている。顔料捺染法は、着色顔料及びバインダー樹脂を含有する捺染用のインクを布帛に付着させ、必要に応じて乾燥硬化工程を行い、捺染用のインクを布帛に固着させる方法である。布帛に対する顔料捺染法としては、従来、スクリーン捺染法、ローラー捺染法等が用いられてきたが、多種少量生産性及び即時印刷性等に優れる観点から、ノズルより捺染用のインクを吐出し布帛に付着させるインクジェット印刷法が検討されてきた。
【0003】
近年、インクジェット印刷法において高速且つ高解像度化が進展しており、より微小なインクの液滴を高周波数で長期間安定して吐出させることが要求されている。しかしながら、インクを高周波数で吐出させると、インク吐出時に高速で多数回加圧、減圧を繰り返すこととなり、気泡が発生しやすく、インク吐出時に吐出抜け、着弾位置ずれ等の吐出特性が劣化することが問題となっている。これを解消するために、インクジェット印刷法に用いられるインクは脱気処理が行われており、インク中の溶存ガスを可能な限り少なくして吐出時の気泡の発生を抑制している(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-017712号公報
【文献】特開平11-209670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2のような方法は、主として染料等の溶解液のインクにおいて検討されているものである。
ここで、布帛は浸透基材であり、所定の印刷濃度や印刷部の耐水性(耐溶剤性)を保持するため、捺染用のインクにおいては、インク中の顔料、バインダー樹脂の濃度をインクジェット印刷が可能な範囲で、布帛の耐水性を保持できるまで高含有とする必要がある。このため、布帛に対するインクジェット印刷法において、捺染用のインクにおける保存安定性の低下を招く場合があるだけでなく、ヘッドの微小なノズル孔に樹脂等が目詰まりし、吐出特性を損なう恐れがあった。
したがって、水に難溶性、あるいは不溶性の色剤である顔料やバインダー樹脂を含有する捺染用のインクにおいては、吐出特性の向上において未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、簡便な方法により吐出特性に優れる、布帛にインクが印刷された印刷物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
(1)布帛にインクが印刷された印刷物の製造方法であって、
常圧近傍下でインクを中空糸シートに通液する通液工程と、
上記通液工程後の前記インクをインクジェット印刷法により布帛に印刷する印刷工程と、
を含む、印刷物の製造方法。
【0008】
(2)上記通液工程において、70~110kPaの圧力下で、上記インクを上記中空糸シートに通液する、上記(1)に記載の印刷物の製造方法。
【0009】
(3)上記通液工程において、上記インクを上記中空糸シートに通液する際の通液速度が0.1~500mL/minである、上記(1)又は(2)に記載の印刷物の製造方法。
【0010】
(4)上記インクは、少なくとも1種のバインダー樹脂を含有し、
上記バインダー樹脂の含有量は、全インク質量の1~50質量%である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【0011】
(5)上記インクは、粘度が20mPa・s以下で、かつ、表面張力が20mN/m~40mN/mである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【0012】
(6)上記中空糸シートは、複数の中空糸を含み、
上記中空糸の外径は、0.01~1.0mmである、上記(1)~(5)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便な方法により吐出特性に優れる、布帛にインクが印刷された印刷物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態で使用するマイクロリアクターの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されない。
以下の説明において、「(メタ)アクリル酸」は、メタクリル酸またはアクリル酸を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートまたはアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルまたはアクリロイルを意味する。
また、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
本発明の製造方法は、布帛にインクが印刷された印刷物の製造方法であって、常圧近傍下でインクを中空糸シートに通液する通液工程と、前記通液工程後の前記インクをインクジェット印刷法により布帛に印刷する印刷工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
脱気用中空糸モジュールは、減圧下で、インクを脱気させてインクに含まれる溶存ガスを減らすことを目的としている。そこで常圧近傍下で脱気用中空糸モジュールを用いてもインク中の溶存ガスは減らせず、吐出特性の向上は期待できないことは当業界の常識であった。したがって、本来の脱気用中空糸モジュールの使用目的であるインクの脱気とは異なる、常圧近傍下で脱気用中空糸モジュールをインクに通液させる処理を行うことは、従来全く検討されていなかった。
【0018】
しかしながら本発明者らは、脱気の有無にかかわらず、常圧近傍下で、布帛に印捺する用途に適した水性顔料組成物であるインクを、脱気用中空糸モジュールの構成要素であった中空糸シートに通液させたところ、意外にもインクの吐出特性を向上させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
本発明の通液工程に係る作用、機構等については、現段階では全て明確にはなっていないが、この意外な吐出特性向上の効果は、捺染用のインクの経時変化によりインク中の疑凝集物が生成したとしても、常圧近傍下の複数の中空糸による通液過程で疑凝集物等がほぐれて疑凝集物等に起因する吐出特性の劣化が抑制されたためと推定している。
【0020】
本発明の製造方法は、従来の減圧下による脱気処理を要せず、常圧近傍下の簡便な処理により、捺染用のインクの吐出特性を向上させることができる方法である。
さらに、本発明の製造方法は、経済性の観点からも優れた方法である。従来の脱気用中空糸モジュールの使用方法においては高い減圧度が要求されるため、脱気用中空糸モジュールをインクジェット装置に組み込んだ場合、各色のインク系列毎にそれぞれ高い減圧度に対応するための大型の減圧装置を取り付ける必要があり、インクジェット装置に膨大なスペースが必要となっていた。このためインクジェット装置の大型化、装置費用の増大化が問題となっていた。これに対して、本発明の製造方法は、常圧近傍下で行われるため、インクジェット装置に大型の減圧装置を要せず、インクジェット装置の小型化、装置費用の抑制が図れるため、経済性に優れる。
【0021】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0022】
(印刷物の製造方法)
本発明の製造方法は、布帛にインクが印刷された印刷物の製造方法であって、常圧近傍下でインクを中空糸シートに通液する通液工程と、通液工程後のインクをインクジェット印刷法により布帛に印刷する印刷工程とを含むことを特徴とする。
【0023】
布帛は特に限定されるものではなく、綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、レーヨン、アクリル系繊維等種々の繊維素材が挙げられ、又、これらの混紡、交織物、不織布等のものであってもよい。
【0024】
<通液工程>
通液工程は、インクを常圧近傍下で中空糸シートに通液処理させる工程である。本明細書において常圧を100kPaとした場合、常圧近傍化とは、70~110kPaの範囲の値を意味する。なかでも圧力調整の容易化や装置構成の簡易化の観点から、90~110kPaが好ましい。
【0025】
インクを中空糸シートに通液させる方法は、上記の常圧近傍下で通液されていれば特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。インクを中空糸シートに通液させる方法としては、例えばインクを重力落下させる自然落下法、中空糸シートのインク流入口側からピストン等により加圧する押し出し法、インク流出口側から吸引する吸引法等が挙げられる。
【0026】
常圧下で通液処理を行う場合には、例えば、上述した自然落下法を用いることができる。
また、常圧近傍下における常圧以上の圧力下、換言すれば、やや加圧下で通液処理を行う場合には、例えば、上述した押し出し法等を用いることができる。
さらに、常圧近傍下における常圧以下の圧力下、換言すれば、やや減圧下で通液処理を行う場合には、例えば、上述した吸引法等を用いることができる。
【0027】
インクを中空糸シートに通液する際の通液速度としては、インクの粘度等によっても異なるため一概に規定できないが、通常0.1~500mL/minである。
【0028】
<インク>
【0029】
本実施形態のインクは、特に制限されず、公知慣用の捺染用のインクを使用することができるが、例えば水性媒体(C)等の溶媒と、色材(B)とを含有するインクを使用することができる。なかでも、インクとしては、耐洗濯性や耐摩擦性に優れた印刷物を得るうえで、さらにバインダー樹脂(A)を含有するインクを使用することが好ましい。
【0030】
インクとしては、バインダー樹脂(A)、色材(B)等が、溶媒である水性媒体(C)に溶解または分散した状態で存在するものを使用することが好ましい。
【0031】
<<バインダー樹脂(A)>>
バインダー樹脂(A)は、顔料を被記録媒体上に固着するためのものである。特に布帛への印刷の場合、バインダー樹脂(A)の含有量が多いインクを用いると、印刷物の耐洗濯性や耐摩擦性(湿式、乾式)が向上する一方、布帛の風合いが若干硬くなる傾向にある。したがって、バインダー樹脂(A)の含有量は、全インク質量に対し50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、1質量%以上が好ましく、5質量%以上が、耐洗濯性や耐摩擦性に優れた印刷物を得るうえでより好ましい。
【0032】
バインダー樹脂(A)は、上述したとおり、顔料等の色材(B)を布帛上に固着するためのものである。ガラス転移温度が常温を超えたバインダー樹脂を用いると、布帛の風合いが若干硬くなる傾向にある。したがって、バインダー樹脂(A)としては、特にガラス転移温度が0℃以下のものを使用することが、インクや印刷物を低温地域で使用した場合であっても良好な風合いと耐洗濯性を保持するうえで好ましい。
【0033】
バインダー樹脂(A)と色材(B)との比率は、通常、インクに使用する範囲の比率であればよく、例えばバインダー樹脂(A)と色材との比率=1:3~8:1の範囲が好ましく、1:2~3.5:1の範囲が、より一層優れた耐摩擦性を備えた印刷物を得るうえでより好ましい。
バインダー樹脂(A)としては、より一層優れた耐摩擦性を備えた印刷物を得る観点からは、10000以上の重量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することが好ましく、30000以上の重量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することがより好ましい。また、バインダー樹脂(A)としては、より一層優れた吐出性を付与する観点からは、200000以下の重量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することが好ましい。
【0034】
バインダー樹脂(A)としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム-アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのアクリル共重合体;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのスチレン-アクリル酸樹脂;スチレン-マレイン酸;スチレン-無水マレイン酸;ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体;酢酸ビニル-エチレン共重合体、酢酸ビニル-脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びこれらの塩を使用することができる。
【0035】
なかでも、バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂またはアクリル樹脂を使用することが、入手しやすく、かつ、印刷物の耐摩擦性を向上させるうえで好ましく、特に布帛への印刷物の耐洗濯性(洗濯堅牢度)、耐摩擦性(乾式摩擦堅牢度や湿式摩擦堅牢度)をより一層向上させるうえで好ましい。
【0036】
ウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオールと、アニオン性基、カチオン性基、ポリオキシエチレン基またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基である親水性基を有するポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂を使用する。
【0037】
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、印刷物の耐摩擦性をより一層向上させるうえで、5000~200000のものを使用することが好ましく、20000~150000がより好ましい。
【0038】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ショ糖、アコニット糖、フェミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3-プロパントリチオール等の活性水素基を2個以上有する化合物にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロフェキシレン等の環状エーテル化合物を付加重合したもの、又は、環状エーテル化合物をカチオン触媒、プロトン酸、ルイス酸等を触媒として開環重合したものが挙げられる。
【0039】
ポリエステルポリオールは、ジオール化合物、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸化合物等の脱水縮合反応、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応、及びこれらの反応によって得られるポリエステルを共重合させることによって得られる。このポリエステルポリオールの原料となるジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0040】
また、ポリエステルポリオールの原料となるジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸等が挙げられる。
【0041】
ポリエステルポリオールの原料となるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等が挙げられる。
【0042】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルと、低分子量のポリオール、好ましくは直鎖脂肪族ジオールとを反応させて得られるものを使用することができる。
【0043】
炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネ-ト等を使用することできる。
【0044】
炭酸エステルと反応しうる低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F、4,4’-ビフェノール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールや、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール等を使用することができる。
【0045】
ポリカーボネート構造を持つポリオールは、ポリカーボネート系ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール及びポリイソシアネートの合計質量に対して、10質量%~90質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0046】
また、ウレタン樹脂は、インク中における分散安定性を付与するうえで親水性基を有する。
【0047】
親水性基としては、一般にアニオン性基やカチオン性基、ノニオン性基といわれるものを使用することができるが、なかでもアニオン性基やカチオン性基を使用することが好ましい。
【0048】
アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散性を維持するうえで好ましい。
【0049】
アニオン性基としてのカルボキシル基やスルホン酸基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンや、Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物等が挙げられるが、なかでも、乾燥皮膜への残留を少なくする観点から、沸点100℃以下の有機アミンを選択することが好ましい。
【0050】
また、カチオン性基としては、例えば3級アミノ基等を使用することができる。3級アミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸等を使用することができる。また、3級アミノ基の一部又は全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類を使用することができる。
【0051】
また、ノニオン性基としては、例えばポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)基、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を使用することができる。なかでもオキシエチレン単位を有するポリオキシアルキレン基を使用することが、親水性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0052】
親水性基は、ウレタン樹脂全体に対して0.5質量%~30質量%存在することがより一層良好な水分散性を付与し、1質量%~20質量%の範囲であることがより好ましい。
【0053】
また、本実施形態に係るインクは、耐摩擦性をより一層向上することを目的として、後述する架橋剤を使用することができる。架橋剤を使用する場合、ウレタン樹脂としては、架橋剤の有する官能基と架橋反応しうる官能基を有するものを使用することが好ましい。
【0054】
架橋剤と架橋反応しうる官能基としては、親水性基として使用可能なカルボキシル基やカルボキシレート基等が挙げられる。カルボキシル基等は、水性媒体中においてウレタン樹脂の水分散安定性に寄与し、それらが架橋反応する際には、官能基としても作用し、架橋剤の一部架橋反応しうる。
【0055】
架橋剤と架橋反応しうる官能基としてカルボキシル基等を使用する場合、ウレタン樹脂としては、5~50の酸価を有するものであることが好ましく、10~40の酸価を有するものを使用することが、堅牢性を向上するうえで好ましい。なお、本実施形態でいう酸価は、ウレタン樹脂の製造に使用したカルボキシル基含有ポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0056】
ウレタン樹脂は、例えばポリオールとポリイソシアネートと、必要に応じて鎖伸長剤とを反応させることによって製造することができる。
【0057】
鎖伸長剤としては、ポリアミンや、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0058】
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N-ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N-ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N-ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N-エチルアミノエチルアミン、N-メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン;ヒドラジン、N,N’-ジメチルヒドラジン、1,6-ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β-セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3-セミカルバジッド-プロピル-カルバジン酸エステル、セミカルバジッド-3-セミカルバジドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンを使用することができ、なかでもエチレンジアミンを使用することが好ましい。
【0059】
その他活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水等を使用することができる。
【0060】
鎖伸長剤は、例えば鎖伸長剤の有するアミノ基及び活性水素原子含有基の当量が、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られたウレタンプレポリマーの有するイソシアネート基の当量に対して、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.0~1.0(当量比)の範囲で使用することがより好ましく、より好ましくは0.5質量%である。
【0061】
鎖伸長剤は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際、または、反応後に使用することができる。また、上記で得たウレタン樹脂を水性媒体中に分散させ水性化する際に、鎖伸長剤を使用することもできる。
【0062】
また、上記以外のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン及びそれらのアルキレンオキシド付加物、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の比較的低分子量のポリオールが挙げられる。これらのポリオールは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0063】
ポリオールと反応しウレタン樹脂を形成するポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネート等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。
【0064】
バインダー樹脂(A)に使用可能なアクリル樹脂としては、特に制限はなく、(メタ)アクリレートの単独重合または共重合、及び(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーとを共重合させた樹脂があげられる。
【0065】
(メタ)アクリレートや(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2-ヒドロドキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキルポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;スチレン、スチレン誘導体(p-ジメチルシリルスチレン、(p-ビニルフェニル)メチルスルフィド、p-ヘキシニルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0066】
本実施形態で使用するアクリル樹脂は、上記モノマーの他に特定の官能基を有するモノマーを共重合させて得られたものを使用することが、印刷物の風合い等を向上させるうえで好ましい。このような官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基を有するモノマーや、エポキシ基を有するモノマー、加水分解性シリル基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー等が挙げられる。
【0067】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等を用いることができる。
【0068】
加水分解性シリル基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン化合物などを用いることができる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0069】
アミド基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物等を用いることが出来る。
【0070】
アクリル樹脂の水中での分散形態は特に限定はなく、例えば乳化剤で強制乳化させたエマルジョンや、樹脂中にノニオン性基または中和されたイオン性基を有したディスパージョン等が挙げられる。特に上記アクリル樹脂としては、カルボキシル基を有するアクリル樹脂を、塩基性化合物で中和して得たディスパージョンが好ましい。塩基性化合物は、ウレタン樹脂が有するカルボキシル基等の中和に使用可能なものとして例示した塩基性化合物と同様のものを使用することができる。
【0071】
<<色材(B)>>
本実施形態のインクで使用可能な色材(B)としては、公知慣用の顔料や染料等を使用することができる。なかでも、耐候性等に優れた印刷物を製造するうえで、顔料を使用することが好ましい。また、色材(B)としては、顔料が樹脂で被覆された着色剤を使用することもできる。
【0072】
顔料としては、特に制限されず、従来のスクリーン捺染や水性インクジェット印刷用インクにおいて通常使用される有機顔料または無機顔料を使用することができる。
【0073】
また、顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができ、ドライパウダー及びウェットケーキ状のどちらであっても使用することができる。
【0074】
無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法またはサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用することができる。
【0075】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0076】
顔料の具体例を下記に例示する。ただし、これらに例示した具体例に限定されるものではない。これらの顔料は、単独または2種類以上を組み合わせ使用することができる。
【0077】
黒インクに使用される顔料の具体例としては、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.980、No.960、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180のカーボンブラック等が挙げられる。
【0078】
イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0079】
マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209及びこれらの顔料から選ばれる少なくとも2種以上の顔料の混合物もしくは固溶体等が挙げられる。
【0080】
シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0081】
レッドインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド17、49:2、112、149、150、177、178、179、188、254、255及び264等が挙げられる。
【0082】
オレンジインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63、64、71、73、81等が挙げられる。
【0083】
グリーンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、10、36、58、59等が挙げられる。
【0084】
バイオレットインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0085】
また、白インクに使用可能な顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。これらは、表面処理されていてもよい。
【0086】
顔料は、インク中に安定に存在させるために、水性媒体(C)に良好に分散させる手段を講じてあることが好ましい。
【0087】
上記手段としては、例えば
(i)顔料を顔料分散剤と共に、後述する分散方法で水性媒体(C)中に分散させる方法
(ii)顔料の表面に分散性付与基(親水性官能基および/またはその塩)を直接またはアルキル基、アルキルエーテル基またはアリール基等を介して間接的に結合させた自己分散型顔料を水性媒体(C)に分散および/または溶解させる方法が挙げられる。
【0088】
自己分散型顔料としては、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施し、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させたものを使用することができる。自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理等や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法によって製造することができる。
【0089】
自己分散型顔料を含有する水性インクは、顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れたインクを調製しやすい。また、自己分散型顔料を含有する水性インクは、取り扱いが容易で、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物の製造に使用することができる。
【0090】
自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能であり、そのような市販品としては、マイクロジェットCW-1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上商品名;キャボット社製)が挙げられる。
【0091】
本実施形態において、スジなどの画像品質の低下を防止すべく、インクの組成を過度に変更しようとすると、印刷物の印字濃度や耐洗濯性が低下する傾向がみられる場合がある。色材(B)は、スジの発生を防止するとともに、色材(B)の優れた分散安定性を維持し、かつ、印刷物の印字濃度や耐洗濯性を向上させるうえで、インクの全量に対して1質量%~20質量%の範囲で使用することが好ましく、2質量%~10質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0092】
<<顔料分散剤>>
顔料分散剤は、色材(B)として顔料を使用する場合に、好適に使用することができる。
【0093】
顔料分散剤としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、水性樹脂の塩を使用することができる。顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
【0094】
顔料分散剤としては、粗大粒子を著しく低減でき、その結果、インクをインクジェット方式で吐出する場合に求められる良好な吐出安定性を付与するうえで、後述するポリマー(G)を使用することが好ましい。
【0095】
ポリマー(G)としては、アニオン性基を有するものを使用することができ、なかでも、水への溶解度が0.1g/100mL以下であり、かつ、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成可能な、数平均分子量が1000~6000の範囲内のポリマーを使用することが好ましい。
【0096】
ポリマー(G)の水への溶解度は、次のように定義することができる。すなわち、目開き250μmおよび90μmの篩を用い250μm~90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー(E)0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mLに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置する。24時間浸漬後、ポリマー(E)を封入した400メッシュ金網を110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させる。ポリマー(E)を封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の重量の変化を測定し、次式により溶解度を算出する。
【0097】
【数1】
【0098】
また、本実施形態において、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成するか否かは、次のように判断することができる。
(1)ポリマー(G)の酸価を予め、JIS試験方法K 0070-1992に基づく酸価測定方法により測定する。具体的には、テトラヒドロフランにポリマー(G)0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定し酸価を求める。
(2)水50mLに対して、ポリマー(G)を1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とする。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US-102、38kHz自励発振)中で超音波を照射させた後24時間室温で放置する。
【0099】
24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認する。
【0100】
ポリマー(G)が形成する微粒子の水中で安定をより一層向上させるために、微粒子の粒子径は、5nm~1000nmの範囲であることが好ましく、7nm~700nmの範囲であることがより好ましく、10nm~500nmの範囲であることが最も好ましい。また、微粒子の粒度分布は、狭いほうがより分散安定性に優れる傾向にあるが、粒度分布が広い場合であっても、従来よりも優れた分散安定性を備えたインクを得ることができる。なお、粒子径及び粒度分布は、微粒子の測定方法と同様に、例えば、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い測定することができる。
【0101】
ポリマー(G)の中和率は、以下の式により決定することができる。
【0102】
【数2】
【0103】
また、ポリマー(G)の酸価は、JIS試験方法K 0070-1992に基づいて測定することができる。具体的には、テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めることができる。
【0104】
ポリマー(G)の数平均分子量は1000~6000の範囲のものを使用することが好ましく、1300~5000であることがより好ましく、1500~4500であることが、水性媒体(C)中における顔料等の色材(B)の凝集等を効果的に抑制でき、色材(B)の良好な分散安定性を備えたインクを得るうえでより好ましい。
【0105】
なお、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とし、具体的には以下の条件で測定した値とする。
【0106】
(数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定する。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用する。
【0107】
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成する。
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0108】
ポリマー(G)としては、それを含むインクの表面張力が30dyn/cm以上であることが好ましく、40dyn/cm以上であることがより好ましく、水の表面張力に近い65dyn/cm~75dyn/cmであるものを使用することが特に好ましい。なお、表面張力の値は、ポリマー(G)1gを水に添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和したポリマー溶液について測定した値とする。
【0109】
ポリマー(G)としては、水に対し、未中和の状態では不溶もしくは難溶性であり、且つ100%中和された状態では微粒子を形成するポリマーを使用することができ、親水性基であるアニオン性基のほかに疎水性基を1分子中に有するポリマーであるならば、特に限定はされない。
【0110】
このようなポリマーとして、疎水性基を有するポリマーブロックとアニオン性基を有するポリマーブロックとを有するブロックポリマーが挙げられる。ポリマー(G)において、アニオン性基の数と水への溶解度は、必ずしも酸価や、ポリマー設計時のアニオン性基の数で特定されるものではなく、例えば同一の酸価を有するポリマーであっても、分子量の低いものは水への溶解度が高くなる傾向にあり、分子量の高いものは水への溶解度は下がる傾向にある。このことから、本実施形態においては、ポリマー(G)を水への溶解度で特定している。
【0111】
ポリマー(G)は、ホモポリマーでも良いが、共重合体であることが好ましく、ランダムポリマーであってもブロックポリマーであっても、交互ポリマーであっても良いが、なかでもブロックポリマーであることが好ましい。また、ポリマーは分岐ポリマーであっても良いが、直鎖ポリマーであることが好ましい。
【0112】
また、ポリマー(G)は設計の自由度からビニルポリマーであることが好ましく、本実施形態において所望される分子量や、溶解度特性を有するビニルポリマーを製造する方法としては、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合といった、「リビング重合」を用いることにより製造することが好ましい。
【0113】
なかでも、ポリマー(G)は(メタ)アクリレートモノマーを原料の1つとして用い製造されるビニルポリマーであることが好ましく、そのようなビニルポリマーの製造方法としては、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合が好ましく、さらにブロックポリマーの分子量や各セグメントをより精密に設計できる観点からリビングアニオン重合が好ましい。
【0114】
リビングアニオン重合によって製造されるポリマー(G)は、具体的には、一般式(1)で表されるポリマーである。
【0115】
【化1】
【0116】
一般式(1)中、Aは有機リチウム開始剤残基を表し、Aは疎水性基を有するポリマーブロックを表し、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1~5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。
【0117】
一般式(1)中、Aは有機リチウム開始剤残基を表す。有機リチウム開始剤として具体的にはメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、iso-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウムなど)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウムなどのアルキルリチウム;ベンジルリチウム、α-メチルスチリルリチウム、1,1-ジフェニル-3-メチルペンチルリチウム、1,1-ジフェニルヘキシルリチウム、フェニルエチルリチウムなどのフェニルアルキレンリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウムなどのアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどのアルキニルリチウム;フェニルリチウム、ナフチルリチウムなどのアリールリチウム;2-チエニルリチウム、4-ピリジルリチウム、2-キノリルリチウムなどのヘテロ環リチウム;トリ(n-ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウムなどのアルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
【0118】
有機リチウム開始剤は、有機基とリチウムとの結合が開裂し有機基側に活性末端が生じ、そこから重合が開始される。従って得られるポリマー末端には有機リチウム由来の有機基が結合している。本実施形態においては、該ポリマー末端に結合した有機リチウム由来の有機基を、有機リチウム開始剤残基と称する。例えばメチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤酸基はメチル基となり、ブチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤酸基はブチル基となる。
【0119】
一般式(1)中、Aは疎水性基を有するポリマーブロックを表す。Aは、前述の通り適度な溶解性のバランスのバランスを取る目的の他、顔料と接触したときに顔料への吸着の高い基であることが好ましく、その観点から、Aは芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックであることが好ましい。
芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックとは、具体的には、スチレン系モノマー等の芳香族環を有するモノマーや、ビニルピリジン系モノマー等の複素環を有するモノマーを単独重合または共重合して得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロックである。
【0120】
芳香環を有するモノマーとしては、スチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、などのスチレン系モノマーや、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0121】
また、複素環を有するモノマーとしては、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系モノマーが挙げられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0122】
一般式(1)中、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表す。Aは、前述の通り適度な溶解性を与える目的の他、顔料分散体となったときに水中で分散安定性を付与する目的がある。
ポリマーブロックAにおけるアニオン性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基等が挙げられる。なかでも、カルボキシル基がその調製やモノマー品種の豊富さ入手し易さから好ましい。また2つのカルボキシル基が分子内または分子間において脱水縮合した酸無水基となっていてもよい。
【0123】
のアニオン性基の導入方法は特に限定はなく、例えば該アニオン性基がカルボキシル基の場合は、(メタ)アクリル酸を単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロック(PB1)であってもよいし、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーの、該アニオン性基に再生可能な保護基の一部または全てがアニオン性基に再生されたポリマーブロック(PB2)であってもよい。
【0124】
(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso-プロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸iso-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸n-トリデシル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレンオキサイド基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0125】
リビングアニオン重合法においては、使用するモノマーがアニオン性基等の活性プロトンを持つ基を有するモノマーの場合、リビングアニオン重合ポリマーの活性末端が直ちにこれら活性プロトンを持つ基と反応し失活するため、ポリマーが得られない。リビングアニオン重合では活性プロトンを持つ基を有するモノマーをそのまま重合することは困難であるため、活性プロトンを持つ基を保護した状態で重合し、その後、保護基を脱保護することで活性プロトンを持つ基を再生することが好ましい。
【0126】
このような理由から、ポリマーブロックAにおいては、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを用いることが好ましい。該モノマーを使用することで、重合時には前述の重合の阻害を防止できる。また保護基により保護されたアニオン性基は、ブロックポリマーを得た後に脱保護することにより、アニオン性基に再生することが可能である。
【0127】
例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基をエステル化し、後工程として加水分解等で脱保護することによりカルボキシル基を再生することができる。この場合のカルボキシル基に変換可能な保護基としてはエステル結合を有する基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基;イソプロポキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基;t-ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基;エトキシエチルカルボニル基等のアルコキシアルキルカルボニル基等が挙げられる。
【0128】
アニオン性基がカルボキシル基の場合、使用できるモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のフェニルアルキレン(メタ)アクリレート;エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの(メタ)アクリレートの中でも、t-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを用いると、カルボキシル基への変換反応が容易であることから好ましい。また、工業的に入手のしやすさを考慮すると、t-ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0129】
一般式(1)中、Bは芳香族基または炭素原子数1~10のアルキル基を表す。またnは1~5の整数を表す。
【0130】
リビングアニオン重合法においては、(メタ)アクリレートモノマーを求核性の強いスチレン系ポリマーの活性末端に直接重合しようとした場合、カルボニル炭素への求核攻撃により、ポリマー化できない場合がある。このため、A1-A2に(メタ)アクリレートモノマーの重合を行う際には反応調整剤を使用し、求核性を調整した後、(メタ)アクリレートモノマーを重合することが行われる。一般式(1)におけるBは該反応調整剤に由来する基である。反応調整剤としては、具体的にはジフェニルエチレンやα-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0131】
リビングアニオン重合法は、反応条件を整えることにより、従来のフリーラジカル重合で用いられるようなバッチ方式により実施できる他、マイクロリアクターによる連続的に重合する方法を挙げることもできる。マイクロリアクターは、重合開始剤とモノマーの混合性が良好であるため、反応が同時に開始し、温度が均一で重合速度を揃えることができるため、製造される重合体の分子量分布を狭くできる。また同時に、成長末端が安定であるためブロックの両成分が混じりあわないブロック共重合体を製造することが容易になる。また、反応温度の制御性が良好であるため副反応を抑えることが容易である。
【0132】
マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合の一般的な方法を、マイクロリアクターの模式図である図1を参照しながら説明する。
第一のモノマーと重合を開始させる重合開始剤とを、それぞれチューブリアクターP1及びP2(図1中7及び8)から、複数の液体を混合可能な流路を備えるT字型マイクロミキサーM1(図1中1)に導入し、T字型マイクロミキサーM1内で、第一のモノマーをリビングアニオン重合し第一の重合体を形成する(工程1)。
【0133】
次に、得られた第一の重合体をT字型マイクロミキサーM2(図1中2)に移動させ、同ミキサーM2内で、得られた重合体の成長末端を、チューブリアクターP3(図1中9)から導入された反応調整剤によりトラップし、反応調節を行う(工程2)。
なお、このとき反応調整剤の種類や使用量により、一般式(1)におけるnの数をコントロールすることが可能である。
【0134】
次に、T字型マイクロミキサーM2内の反応調節を行った第一の重合体を、T字型マイクロミキサーM3(図1中3)に移動させ、同ミキサーM3内で、チューブリアクターP4から導入された第二のモノマーと、反応調節を行った第一の重合体とを、連続的にリビングアニオン重合を行う(工程3)。
【0135】
その後メタノール等活性プロトンを有する化合物で反応をクエンチすることで、ブロック共重合体を製造する。
【0136】
一般式(1)で表されるポリマー(G)を、マイクロリアクターで製造する場合は、第一のモノマーとして芳香環または複素環を有するモノマーを使用し、開始剤として有機リチウム開始剤により反応させることで、Aの芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロック(該ポリマーブロックAの片末端にはAの有機リチウム開始剤残基である有機基が結合している)を得る。
次に、反応調整剤を使用して成長末端の反応性を調整した後、アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを第二のモノマーとして反応させポリマーブロックを得る。
【0137】
この後、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生することにより、A即ちアニオン性基を含むポリマーブロックが得られる。
【0138】
アニオン性基に再生可能な保護基のエステル結合を、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生させる方法を詳細に述べる。
【0139】
エステル結合の加水分解反応は、酸性条件下でも塩基性条件下でも進行するが、エステル結合を有する基によって条件がやや異なる。例えばエステル結合を有する基がメトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基又はイソプロポキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基の場合は、塩基性条件下で加水分解を行うことでカルボキシル基を得ることができる。この際、塩基性条件下とする塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物などが挙げられる。
【0140】
また、エステル結合を有する基が、t-ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基の場合は、酸性条件下で加水分解を行うことにより、カルボキシル基を得ることができる。この際、酸性条件下とする酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸;トリフルオロ酢酸等のブレステッド酸;トリメチルシリルトリフラート等のルイス酸などが挙げられる。t-ブトキシカルボニル基の酸性条件下で加水分解の反応条件については、例えば、「日本化学会編第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV」に開示されている。
【0141】
さらに、t-ブトキシカルボニル基をカルボキシル基に変換する方法として、上記の酸に代えて、陽イオン交換樹脂を用いた方法も挙げられる。陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリマー鎖の側鎖にカルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)等の酸基を有する樹脂が挙げられる。これらの中でも、当該樹脂の側鎖にスルホ基を有する強酸性を示す陽イオン交換樹脂が、反応の進行を速くできることから好ましい。本実施形態で使用できる陽イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、オルガノ株式会社製強酸性陽イオン交換樹脂「アンバーライト」等が挙げられる。この陽イオン交換樹脂の使用量は、効果的に加水分解できることから、一般式(1)で表されるポリマー100質量部に対し、5質量部~200質量部の範囲が好ましく、10質量部~100質量部の範囲がより好ましい。
【0142】
また、エステル結合を有する基が、ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基の場合は、水素化還元反応を行うことにより、カルボキシル基に変換できる。この際、反応条件としては、室温下、酢酸パラジウム等のパラジウム触媒の存在下で、水素ガスを還元剤として用いて反応させることにより定量的にフェニルアルコキシカルボニル基をカルボキシル基に再生できる。
【0143】
上記のように、エステル結合を有する基の種類によってカルボキシル基への変換の際の反応条件が異なるため、例えばAの原料としてt-ブチル(メタ)アクリレートとn-ブチル(メタ)アクリレートを用い共重合して得られたポリマーは、t-ブトキシカルボニル基とn-ブトキシカルボニル基とを有することになる。ここで、t-ブトキシカルボニル基が加水分解する酸性条件下では、n-ブトキシカルボニル基は加水分解しないことから、t-ブトキシカルボニル基のみを選択的に加水分解してカルボキシル基へ脱保護が可能となる。したがって、Aの原料モノマーであるアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを適宜選択することにより親水ブロック(A)の酸価の調整が可能となる。
【0144】
また、一般式(1)で表されるポリマー(G)において、ポリマーブロック(A)とポリマーブロック(A)がランダムに配列して結合したランダム共重合体でなく、ポリマーブロックがある程度の長さのまとまりとなって規則的に結合したブロック共重合体であるほうが、顔料がポリマー(G)によって水中に分散された水性顔料分散体の安定性を向上させるうえで有利である。水性顔料分散体は、インクの製造に使用する原料であり、顔料をポリマー(G)を用いて高濃度で水中に分散させた液体である。ポリマーブロック(A)とポリマーブロック(A)のモル比A:Aは、100:10~100:500の範囲であることが好ましく、A:A=100:10~100:450であることが、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出安定性を維持することができ、かつ、より一層、発色性などに優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえでより好ましい。
【0145】
また、一般式(1)で表されるポリマー(G)において、ポリマーブロック(A)を構成する芳香環または複素環を有するモノマー数は5~40の範囲が好ましく、6~30の範囲がより好ましく、7~25の範囲がさらに好ましい。またポリマーブロック(A)を構成するアニオン性基の数は、3~20の範囲が好ましく、4~17の範囲がより好ましく、5~15の範囲がさらに好ましい。
ポリマーブロック(A)とポリマーブロック(A)のモル比A:Aを、ポリマーブロック(A)を構成する芳香環または複素環を有するモル数と、(A)を構成するアニオン性基のモル数のモル比で表した場合は100:7.5~100:400が好ましい。
【0146】
また、一般式(1)で表されるポリマー(G)の酸価は40mgKOH/g~400mgKOH/gが好ましく、40mgKOH/g~300mgKOH/gでより好ましく、40mgKOH/g~190mgKOH/gであることが、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出安定性を維持することができ、かつ、耐擦過性等の点でより一層優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえでより好ましい。
【0147】
なお、本発明におけるポリマーの酸価は、ポリマー(G)の微粒子の測定方法と同様の酸価測定方法による酸価とした。
【0148】
インクにおいて、ポリマー(G)のアニオン性基は中和されていることが好ましい。
【0149】
ポリマー(G)のアニオン性基を中和する塩基性化合物としては、公知慣用のものがいずれも使用出来、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の無機塩基性物質や、アンモニア、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性化合物を用いることができる。
【0150】
水性顔料分散体中に存在するポリマー(G)の中和量は、ポリマーの酸価に対して100%中和されている必要はない。具体的には、ポリマー(G)の中和率が20%~200%になるように中和されることが好ましく、80%~150%がより好ましい。
【0151】
<<水性媒体(C)>>
水性媒体(C)としては、水を単独、または、水と後述する有機溶剤(F)との混合溶媒を使用することができる。
【0152】
水としては、具体的にはイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を使用することができる。
【0153】
水性媒体(C)は、インク全量に対し1質量%~50質量%の範囲で使用することが好ましく、10質量%~30質量%の範囲で使用することが、インクジェット方式で吐出する場合に求められる高い吐出安定性を備えた、鮮明な印刷物を製造可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0154】
有機溶剤(F)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、および、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールや2-ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などを、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0155】
また、有機溶剤(F)としては、上述したものの他に、沸点が100℃以上200℃以下であり、かつ、20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤(f1)を使用することが、吐出液滴が布帛の表面に着弾した後、布帛上で素早く乾燥する速乾効果を得るうえで好ましい。
【0156】
水溶性有機溶剤(f1)としては、例えば3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらのものを2種以上組み合わせ使用することができる。
【0157】
なかでも、水溶性有機溶剤(f1)としては、インクの良好な分散安定性の維持や、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制するうえで、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δHが6~20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
【0158】
上記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤としては、具体的には、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、より好ましくは3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールである。
【0159】
水性媒体(C)と組み合わせ使用可能な有機溶剤としては、上述した水溶性有機溶剤(f1)のほかに、または、水溶性有機溶剤(f1)とともに、プロピレングリコール(f2)と、グリセリン、グリセリン誘導体、ジグリセリン及びジグリセリン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の有機溶剤(f3)とを組み合わせ使用することが、布帛上でのインク速乾効果と、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を両立するうえで好ましい。
【0160】
有機溶剤(f3)としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、一般式(2)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、一般式(3)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0161】
なかでも、有機溶剤(f3)としては、グリセリン及びn=8~15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルを使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0162】
【化2】
【0163】
一般式(2)及び一般式(3)中のm、n、o及びpは、各々独立して1~10の整数を示す。
【0164】
有機溶剤(F)としては、インク全量に対し1質量%~30質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%~25質量%の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0165】
水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[水溶性溶剤(f1)/プロピレングリコール(f2)]が1/25~1/1の範囲で使用することが好ましく、1/20~1/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0166】
また、水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[プロピレングリコール(f2)/有機溶剤(f3)]が1/4~8/1の範囲で使用することが好ましく、1/2~5/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0167】
<<任意の添加剤>>
本実施形態のインクは、上述した成分のほかに必要に応じて、界面活性剤(E)、糖類、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等のその他の任意の添加剤を含有するものを使用することができる。
【0168】
界面活性剤(E)は、インクの表面張力を低下させるなどすることでインクのレベリング性を向上させるうえで使用することができる。さらに、界面活性剤(E)は、インクジェットヘッドの吐出口から吐出されたインクが布帛に着弾後、表面で良好に濡れ広がらせることで、印刷物のスジ発生を防止することができる。
【0169】
界面活性剤(E)としては、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを使用することができ、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0170】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0171】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。中でもアセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物が、記録媒体に対するインク液滴の接触角を低減し、良好な印刷物を得られることからより好ましい。
【0172】
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0173】
界面活性剤(E)としては、水を主溶媒とするインクに界面活性剤(E)が溶解した状態を安定的に維持するうえで、HLBが4~20の範囲であるものを使用することが好ましい。
【0174】
界面活性剤(E)としては、インクの全量に対し、0.001質量%~2質量%の範囲で使用することが好ましく、0.001質量%~1.5質量%の範囲で使用することがより好ましく、0.5質量%~1.5質量%の範囲で使用することが更に好ましい。上記範囲の界面活性剤(E)を含有するインクジェットインクは、吐出液滴の布帛表面での濡れ性良好であり、布帛上で十分な濡れ広がりを有し、印刷物のスジ発生を防止する効果を奏するうえで好ましい。更に、上記範囲の界面活性剤(E)を含有するインクは、布帛への濡れ性、レベリング性を向上させる効果を奏する。
【0175】
糖類としては、単糖類および多糖類が挙げられ、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ラクトース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトース、マルトース、セロビオース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の他にアルギン酸およびその塩、シクロデキストリン類、セルロース類を用いることができる。
【0176】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンジソチアゾリン-3-オン(アーチケミカルズ社のプロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルLV、プロキセルAQ、プロキセルBD20、プロキセルDL)等が挙げられる。
【0177】
粘度調整剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、スターチ等の主として水溶性の天然あるいは合成高分子物が挙げられる。
【0178】
pH調整剤としては、コリジン、イミダゾール、燐酸、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等が挙げられる。
【0179】
キレート化剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、ニトリロ三酢酸、1,3-プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、イミノ二酢酸、ウラミル二酢酸、1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸及びこれらの塩(水和物を含む)等があげられる。
【0180】
酸化防止剤または紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類等、L-アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024等、あるいはランタニドの酸化物等が挙げられる。
【0181】
<<インクの物性>>
インクの粘度は、25℃において3mPa・s以上20mPa・s以下が好ましく、4mPa・s以上15mPa・s以下がより好ましく、4mPa・s以上12mPa・s以下が更に好ましい。インクの粘度が上記範囲の下限値以上であれば、インクジェットヘッドからの吐出液滴が十分な体積を有するため、飛行曲がりによって発生する布帛上の着弾位置のズレを見かけ上軽減でき、印刷物のスジ発生を効果的に防止することができる。インクの粘度が上記範囲の上限値以下であれば、通液処理における圧力損失を低く抑えることができる。
【0182】
インクの粘度は、例えば、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定することができる。
測定装置:TVE-25形粘度計(社製、TVE-25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:32℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
【0183】
インクの表面張力は、25℃において20mN/m以上40mN/m以下が好ましく、25mN/m以上38mN/m以下がより好ましく、28mN/m以上36mN/m以下が更に好ましい。インクの表面張力が上記範囲の下限値以上であれば、吐出液滴の布帛表面での濡れ性良好であり、着弾後十分な濡れ広がりを有する。その結果、吐出液滴の飛行曲がりによって発生する布帛上の着弾位置のズレを見かけ上軽減し、印刷物におけるスジの発生を効果的に防止することができる。インクの表面張力が上記範囲の上限値以下であれば、インクの保存安定性及び吐出安定性が優れる。
【0184】
インクの表面張力は、例えば、ウィルへルミ法を適用した自動表面張力計を使用し、下記条件にて測定することができる。ウィルへルミ法によれば、静的表面張力及び動的表面張力を測定可能であるが、本実施形態のインクの表面張力は、静的表面張力の値を示す。
測定装置:自動表面張力計(協和界面科学(株)社製、CBVP-Z型)
測定温度:25℃
測定子:白金プレート
【0185】
インク中の溶存酸素濃度は、吐出安定性の観点から5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることがさらに好ましい。インク中の溶存酸素濃度は、例えば、オストワルド法等で測定することができ、また、ガルバニ電池型等の酸素濃度計や比色分析法等で測定することができる。
【0186】
インクのpHは、7.0以上11.0以下が好ましく、7.5以上10.0以下がより好ましく、8.0以上9.5以下が更に好ましい。インクのpHが上記範囲の下限値以上であれば、インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させ、インク易吸収性または難吸収性の布帛に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、耐水堅牢性を向上させることができる。インクのpHが上記範囲の上限値以下であれば、インクの塗布または吐出装置を構成する部材(例えば、インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制し、かつ、インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくすることができる。
インクのpHは、一般的なpH測定装置等を用いて測定することができる。
【0187】
<<インクの製造方法>>
本実施形態のインクは、色材(B)が顔料である場合、顔料を高濃度で含有する水性顔料分散体を製造し、水性媒体(C)と、バインダー樹脂(A)や界面活性剤(E)、必要に応じてその他の添加剤とを混合することによって製造することができる。
【0188】
水性顔料分散体の製造方法としては、例えば以下の(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)分散樹脂及び水を含有する混合物に、顔料を添加した後、攪拌分散装置を用いて顔料を混合物中に分散させることにより水性顔料分散体を調製する方法。
(2)顔料及び分散樹脂を2本ロールやミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、水、および必要に応じて水と混和する有機溶剤を添加し、攪拌分散装置を用いて水性顔料分散体を調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水と相溶性を有する有機溶剤中に分散樹脂を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、有機溶剤を留去し水性顔料分散体を調製する方法。
【0189】
混練機としては、特に限定されることなく、例えば、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー等が用いることができる。
【0190】
攪拌分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0191】
水性顔料分散体としては、水性顔料分散体の全量に対して顔料を5質量%~60質量%含有するものを使用することが、画像濃度の高い印刷物を形成可能で分散安定性に優れたインクを得るうえで好ましく、10質量%~50質量%である水性顔料分散体を使用することがより好ましい。
【0192】
また、水性顔料分散体に含まれる粗大粒子は、画像特性を劣化させる原因になるため、インクを製造する前後に、遠心分離または濾過処理等により粗大粒子を除去した水性顔料分散体を使用することが好ましい。
【0193】
水性顔料分散体を製造する際には、分散工程の後にイオン交換処理や限外処理による不純物除去工程を経て、その後に後処理を行っても良い。イオン交換処理によって、カチオン、アニオンといったイオン性物質(2価の金属イオン等)を除去することができ、限外処理によって、不純物溶解物質(顔料合成時の残留物質、分散液組成中の過剰成分、有機顔料に吸着していない樹脂、混入異物等)を除去することができる。イオン交換処理は、公知のイオン交換樹脂を用いる。限外処理は、公知の限外ろ過膜を用い、通常タイプ又は2倍能力アップタイプのいずれでもよい。
【0194】
上記の製造方法により得られたインクは、もっぱらインクジェット印刷法によって布帛の表面に吐出される。また、インクは、布帛への印刷に使用するから、いわゆる捺染剤として好適に使用することができる。
【0195】
<中空糸シート>
本実施形態の中空糸シートは、複数の中空糸から構成される。中空糸シートを構成する中空糸の数は、特に制限されず、インクの物性等に応じて任意に選択することができる。中空糸としては、気体は透過するが液体は透過しない中空糸状の膜であれば、素材、膜形状、膜形態は任意であり、従来から脱気用中空糸モジュールに用いられている中空糸が使用できる。中空糸の素材としては、例えばポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)等のポリオレフィン系樹脂、ポリジメチルシロキサンその共重合体などのシリコン系樹脂、PTFE、フッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂等が挙げられる。中空糸の側壁(膜)の形状としては、多孔質膜、微多孔膜、多孔質を有さない均質膜(非多孔膜)の、いずれも用いることができる。膜形態としては、膜全体の化学的あるいは物理的構造が均質な対称膜(均質膜)、膜の化学的あるいは物理的構造が膜の部分によって異なる非対称膜(不均質膜)の、いずれも用いることができる。非対称膜、いわゆる不均質膜は非多孔質の緻密層と多孔質とを有する膜であるが、緻密層は膜の表層部分、あるいは多孔質膜内部といったように、膜中のどこに形成されていても構わない。この不均質膜には化学構造の異なったいわゆる複合膜、3層構造のような多層構造膜も含まれる。特にポリ(4-メチルペンテン-1)樹脂を用いた不均質膜は液体を遮断する緻密層を有するため好ましい。また、緻密層が中空糸外表面に形成されていることが好ましい。
【0196】
中空糸の外径は0.01~1.0mmが好ましい。中空糸の外径が上記範囲であれば、強度的に作製が容易となり、また中空糸の比表面積が十分大きくなり、脱気効率が高くなる傾向がある。
ここで、径とは、断面円形の場合は直径を指し、断面形状が円形でない場合、断面積を同じ面積の円形に置き換えた場合の直径とする。中空糸の外径は、中空糸の断面を電子顕微鏡で観察することにより測定できる。
【0197】
中空糸シートは、中空糸を網目状に編んだシートであってもよいが、インクを流した場合に、全中空糸に均等に液体を接触させることができ、効率的に通液処理ができることから、多数の中空糸の全てが略平行に配列された中空糸シートとすることが好ましい。
【0198】
中空糸シートは、従来のインク脱気用に使用されるものではなく、フィルターとして使用する。このため、中空糸シートは、フィルターとして使用できれば特に制限されず、例えば市販の脱気用中空糸モジュールをそのまま利用してもよい。市販の脱気用中空糸モジュールとしては、例えばDIC株式会社 SEPARELシリーズ等が挙げられる。脱気用中空糸膜モジュールを用いて通液する場合は、大気圧近傍下でモジュール端部のインク供給口より中空糸膜の内側にインクを供給し、モジュールの他方の端部のインク出口よりインクを排出させればよい。
【0199】
市販の脱気用中空糸モジュールは、通常、円筒状の芯と、そのまわりに中空糸シートとを有している。円筒状の芯は、脱気用中空糸モジュールの剛性碓保および中空糸の支持基体としての機能を有するが、圧力損失の増大や装置の小型化が困難となる場合があることが知られている。このため、本実施形態の中空糸シートは、特に制限されるものではないが、円筒状の芯を有さず、剛性を確保しつつ圧力損失の低減及び小型化が図れる、中空糸が円筒状に束ねられた形状を有するのが特に好ましい。
【0200】
中空糸が円筒状に束ねられた形状を有する中空糸シートの製造方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、多数の中空糸を含む中空糸シートを仮芯に巻き付けて筒状に保持し、筒状に保持された中空糸シートの一端に樹脂を供給し、中空糸シートの一端に並ぶ多数の中空糸の一端を互いに接着するとともに中空糸シートの一端に開口する各中空糸の孔を封止する工程を備え、樹脂が硬化する前に中空糸シートにハウジングを被せ、樹脂が硬化した後、中空糸シートから仮芯を除去する方法等が挙げられる。
【0201】
上記製造方法によれば、筒状に保持されたシートから仮芯を除去する前に、筒状のシートの一端に樹脂を供給し、シートの一端に並ぶ多数の中空糸の一端を互いに接着するとともにシートの一端に開口する各中空糸の孔を封止することができる。これにより、多数の中空糸の全てが略平行に配列された中空糸の束を用いて製造した場合、筒状の中空糸シートに、中空糸の長さ方向に平行な中央穴を形成することが可能となる。中空糸シートの中央穴は、従来の脱気用中空糸モジュールでは、支持基体としての芯により確保されていたが、上記製造方法により得られる中空糸が円筒状に束ねられた形状を有する中空糸シートにおいては、芯を設けなくても、簡単に中央穴を確保することができる。これにより、圧力損失を低減し、小型化の要求にかなう中空糸シートを得ることができる。
【0202】
本実施形態の中空糸シートの製造方法としては、上記製造方法を一例として示したが、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて適宜製造することができる。
【0203】
(印刷工程)
本実施形態の印刷工程は、通液工程後のインクをインクジェットにより布帛に印刷する工程を含む。
【0204】
布帛に印刷する方法は、従来公知のインクジェット印刷法を使用することができ、例えばインク循環型インクジェットヘッドにより印刷する方法等を使用することができる。
インク循環型インクジェットヘッドを備えた印刷装置としては、例えば、インク吐出ノズルとは別に、インクの流入経路とインクの流出経路とを有し、前記流出経路から流出されたインクが、流入経路を経て、再びインクジェットヘッドに供給されるようなインクの循環構造を有するものヘッドを備えた印刷装置等が挙げられる。印刷装置としては、循環構造の途中に本実施形態の中空糸シートが設けられたものを好適に使用することができる。
【0205】
本実施形態の製造方法は、特に布帛への印刷に好適に使用することができる。本実施形態の製造方法で得られた印刷物は、優れた加増品質と、優れた耐水堅牢性とを備えることから、例えば衣服や、カーテン、カバー、シーツなどのホームテキスタイル向け繊維製品に好適に使用することができる。
【実施例
【0206】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0207】
(分散樹脂(P-1)の調製)
BuLiのヘキサン溶液と、スチレンを予めテトラヒドロフランに溶解したスチレン溶液とを図1に示すチューブリアクターP1及びP2から、T字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させることによって重合体を得た。
【0208】
次に、上記工程で得られた重合体を図1に示すチューブリアクターR1を通じてT字型マイクロミキサーM2に移動させ、前記重合体の成長末端を、チューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α-メチルスチレン(α-MeSt))によりトラップした。
【0209】
次いで、tert-ブチルメタクリレートを予めテトラヒドロフランに溶解したtert-ブチルメタクリレート溶液を図1に示すチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、チューブリアクターR2を通じて移動させた前記トラップされた重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後、メタノールを供給することによって前記リビングアニオン重合反応をクエンチすることによってブロック共重合体(PA-1)組成物を製造した。
【0210】
上記ブロック共重合体(PA-1)組成物を製造する際、図1に示すマイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。
【0211】
上記方法で得られたブロック共重合体(PA-1)を構成するモノマーのモル比は、
(BuLi/スチレン/α-メチルスチレン/tert-ブチルメタクリレート)=1.0/12.0/1.3/8.1であった。
【0212】
得られたブロック共重合体(PA-1)組成物を、陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解した後減圧下で留去し、得られた固体を粉砕することによって、重量平均分子量2710、酸価145の、粉状の分散樹脂(P-1)を得た。
【0213】
(水性顔料分散体の調製)
顔料として三菱カーボンブラック#960を150質量部、分散樹脂(P-1)を45質量部、トリエチレングリコールを150質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液17質量部を、1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで、60分間混練した。
【0214】
次に、インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水450質量部を徐々に加えた後、イオン交換水208.5質量部をさらに加え混合することによって、顔料濃度15.0質量%の水性顔料分散体を得た。
【0215】
(ウレタン樹脂組成物(1)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6-ヘキサンジオールとメチルカーボネートとを反応して得られるポリカーボネートポリオール(数平均分子量2000)500質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸36.5質量部及びメチルエチルケトン436質量部を加え、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを183.5質量部使用し、80℃で3時間反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。上記で得られたウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン41.3質量部を加え、前記ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基を中和した後、水1504質量部を加えた。次いで、ヒドラジン5.2質量部を加えて反応させた。反応終了後、減圧下、40℃~60℃の温度下でメチルエチルケトンを除去し、水を加えて濃度調節を行うことによって、前記ウレタン樹脂が水性媒体中に分散された不揮発分35質量%の重量平均分子量が150000で酸価21mgKOH/gのポリウレタンを含有するウレタン樹脂組成物(1)を得た。
【0216】
(ウレタン樹脂組成物(2)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6-ヘキサンジオールとメチルカーボネートとを反応して得られるポリカーボネートポリオール(数平均分子量2000)500質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸37.7質量部及びメチルエチルケトン 420質量部を加え、均一に混合した。次いで、トリレンジイソシアネート92.4質量部を加えた後、ジブチル錫ジラウレート0.1質量部を加え、80℃で7時間反応させることによって、重量平均分子量が40000のポリウレタン(PUD-1)(酸価35mgKOH/g)の有機溶剤溶液を得た。その後、50℃まで冷却し、トリエチルアミン29.8質量部及び水2069質量部を加え、減圧下、40℃~60℃の温度下でメチルエチルケトンを除去し、水を加えて濃度調節を行うことによって、前記ウレタン樹脂(PUD-1)が水性媒体中に分散された不揮発分23質量%のウレタン樹脂組成物(2)を得た。
【0217】
(インク及び印刷物の調製)
以下のようにしてインク及び印刷物の調製を行った。
【0218】
[実施例1]
<水性インクの調製>
上記水性顔料分散体25質量部、ウレタン樹脂組成物(1)20質量部、サーフィノール440(EVONIK製、アセチレン系界面活性剤)1質量部、グリセリンを23質量部、トリエチレングリコールを1質量部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール1質量部、防腐剤としてACTICIDE B-20(ソー・ジャパン(株)製)0.2質量部、イオン交換水28.8質量部を混合することによって水性インクを得た。
【0219】
<フィルターろ過>
得られた水性インクをポリプロピレンの孔径0.5μmカートリッジフィルターでろ過した。
【0220】
<常圧下での中空糸シート通液及び印刷物の調製>
次いで、脱気用中空糸モジュール(SEPAREL EF-G2、DIC株式会社)が搭載されたインクジェットプリンタを用い、常圧下で水性インクを通液させ、インクジェットヘッドにインクを充填させた。インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、布帛とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ)は3mmに設定した。布帛としては綿ブロード(株式会社色染社製)を使用した。
上記インクジェットヘッドのノズル面のワイピングをおこなった後、駆動周波数10kHzで、前記布帛に、100%ベタ画像を印刷し、次に100℃で1分間乾燥させ、次に150℃で5分間の加熱処理を行うことによって印刷物を得た。
【0221】
[実施例2及び3]
水性インクの配合を表1に記載の値に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で印刷物を得た。
【0222】
[比較例1]
実施例1において、脱気用中空糸モジュール(SEPAREL EF-G2、DIC株式会社)を搭載しない状態のインクジェットプリンタを用い、常圧下で水性インクを通液させなかった以外は、実施例1と同様の方法で印刷物を得た。
【0223】
[比較例2]
実施例1において、常圧下で水性インクを通液させる代わりに、-85kPaの減圧下で水性インクを通液させた以外は、実施例1と同様の方法で印刷物を得た。
【0224】
(評価)
以下のようにして実施例1~3、比較例1及び2における水性インクの体積平均粒子径を測定し、さらに粘度安定性及び連続吐出性の評価を行った。
【0225】
[体積平均粒子径の測定]
動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、「マイクロトラック粒度分布計UPA-ST150」)を用い、粒子の光散乱情報から顔料の分散粒子径を測定し、その体積平均粒子径を算出した。結果を表1に示す。
【0226】
[粘度安定性の評価]
水性インク20mLをガラス容器に密閉し、60℃で4週間静置した後、初期粘度からの変化率を、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:4週間静置後の水性インクにおける粘度の変化率が±5%未満
△:4週間静置後の水性インクにおける粘度の変化率が±5以上±10%未満
×:4週間静置後の水性インクにおける粘度の変化率が10%以上
【0227】
なお、水性インクの粘度及び表面張力は、下記の方法で測定した。
【0228】
水性インクの粘度は、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定した。
測定装置:TVE-25形粘度計(社製、TVE-25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:25℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
水性インクの静的表面張力は、ウィルへルミ法を適用した自動表面張力計を用い、下記条件にて測定した。
測定装置:自動表面張力計(協和界面科学(株)社製、CBVP-Z型)
測定温度:25℃
測定子:白金プレート
【0229】
[連続吐出性の評価]
RICOH社製ヘッド(MH5421)を用い、4列のうち1列分の320ノズルから駆動周波数20kHzでインクを最大30分間吐出し、飛翔液滴観察した際の吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合を、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合が10%未満
△:吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合が10%以上20%未満
×:吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合が20%以上
【0230】
【表1】
【0231】
実施例1~3と比較例1とを比較すると、常圧近傍下で中空糸シートによる通液を行うことにより、インクジェットにおける連続吐出性に優れることが分かる。また、実施例1~3の方法により得られた印刷物は、いずれも外観に優れていた。
【符号の説明】
【0232】
1:T字型マイクロミキサーM1
2:T字型マイクロミキサーM2
3:T字型マイクロミキサーM3
4:チューブリアクターR1
5:チューブリアクターR2
6:チューブリアクターR3
7:プレクーリングの為のチューブリアクターP1
8:プレクーリングの為のチューブリアクターP2
9:プレクーリングの為のチューブリアクターP3
10:プレクーリングの為のチューブリアクターP4

図1