(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電解用アノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 23/02 20060101AFI20241217BHJP
B22C 3/00 20060101ALI20241217BHJP
B22D 25/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B22C23/02 C
B22C3/00 H
B22D25/04 B
(21)【出願番号】P 2020165015
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】山下 晃司
(72)【発明者】
【氏名】小出 克将
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-067175(JP,U)
【文献】特開2001-191171(JP,A)
【文献】特開2003-181612(JP,A)
【文献】特開平04-009249(JP,A)
【文献】特開2015-139779(JP,A)
【文献】実開昭61-087640(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00
B22C 23/02
B22D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠的に回転するターンテーブル上に設けた複数のアノード鋳型に熔融粗金属を順次鋳込む鋳込み工程と、前記鋳込まれた熔融粗金属を冷却する冷却工程と、前記冷却により固化した電解用アノードを前記アノード鋳型から剥ぎ取る剥ぎ取り工程と、前記電解用アノードが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型内に
、固形分として粘土を固形分濃度120~160g/Lで含んでいる離型剤スラリーを
放出部を用いて分散用ガスにより分散しながら散布する離型剤散布工程とを繰り返し行な
い、前記放出部を前記アノード鋳型の鋳型凹部の底面に沿って一方向に走査させることを特徴とする電解用アノードの製造方法。
【請求項2】
前記離型剤散布工程における前記離型剤スラリーの分散が完了した後、前記離型剤スラリーの供給配管に清掃用ガスを導入して該供給配管内に残存している離型剤スラリーを排出する配管清掃工程を更に行なうことを特徴とする、請求項1に記載の電解用アノードの製造方法。
【請求項3】
前記配管清掃工程において、前記供給配管内に残留する離型剤スラリーがその供給源側にも排出されることを特徴とする、請求項
2に記載の電解用アノードの製造方法。
【請求項4】
前記離型剤スラリーを前記電解用アノードのアノード本体部の大きさ1平方メートル当たり500~3600mL散布することを特徴とする、請求項
1に記載の電解用アノードの製造方法。
【請求項5】
前
記供給配管内を流れる離型剤スラリーの流速が可変であることを特徴とする、請求項
2に記載の電解用アノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解精製工程で使用される電解用アノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属製錬プロセスにおいては、乾式処理により段階的に品位が高められた熔融状態の非鉄金属に対して、最終的に電解精製を行なうことで高純度の非鉄金属を製造することが行われている。例えば銅の電解精製では、前段の精製炉において粗銅を酸化、還元処理することで生成した純度約99.5%の熔融状態の精製粗銅を略矩形板状に鋳造し、得られた複数の銅板からなる陽極(以下「アノード」という)と、別途用意した複数の陰極(以下「カソード」という)とを1枚ずつ交互に並べて電解槽内の電解液内に浸漬し、それらに電圧を印加することで電気銅を製造することが行われている。
【0003】
上記の銅の電解精製は、使用するカソードの種類によってパーマネントカソード法(Permanent Cathode法、以下「PC法」という)とコンベンショナル法(以下「種板法」という)とに分類される。前者のPC法の場合はカソードにステンレス製の薄板を使用し、該薄板上に電着した電気銅を後段の剥離工程で該薄板から剥ぎ取ることにより製品として出荷し、該薄板は再利用する。一方、後者の種板法の場合はカソードに高純度の銅からなる薄板状の種板を使用し、該種板上に電着した電気銅は該種板と共にそのまま製品として出荷する。
【0004】
上記の銅の電解精製では、生産性を高めるべく電解槽内においてアノードとカソードとを隣同士できるだけ近接させるため、アノードの胴体部の表面に凹凸が存在していると、アノードとカソードとが互いに接触してショートする問題が生ずることがあった。電解槽内でショートが生じると電解効率が低下するので、上記の精製粗銅の鋳造において、表面に凹凸のない平滑なアノードを成型することが望ましい。
【0005】
このアノードの表面の凹凸は、該鋳造の際にアノードが鋳型に焼き付くことが原因の一つとして考えられる。この対策として、特許文献1には熔融金属を注湯する前のアノード鋳型の内表面に、粘土粉及び水ガラスからなる離型剤の層を形成する技術が開示されている。これにより、鋳造時のアノードの焼き付きを防いで表面に凹凸のない平滑なアノードを成型できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に示すように、アノード鋳型の内表面に離型剤の層(以下、「離型層」という)を形成することで、鋳造時の焼き付きやそれに起因するアノード表面の凹凸の問題を防ぐことができるが、該離型層は、剥離剤に水を加えて調製した離型剤スラリーをアノード鋳型に散布することで形成するため、内部が空洞の薄膜で形成される水膨れのような凸部(以下、「膨れ」という)がアノードの表面部に生じることがあった。このような膨れがアノードの表面部に生じると、電解中にこの膨れにおいて優先的に通電が消費され、その結果、一部の膨れが裂断したり剥がれたりして、上記のショートの問題が生じることが懸念される。
【0008】
アノードの表面に膨れが発生する原因の一つとして、アノード鋳型内にその内表面全体に広がるように流し込まれる離型剤スラリーの乾燥不良が考えられる。すなわち、アノード鋳造前のアノード鋳型に流し込まれる離型剤スラリーは、その水分の蒸発が熔融粗銅を注湯するまでに完了しなければ、この残留する水分が熔融粗銅の注湯時に水蒸気の気泡となって熔湯表面の膜を押し上げる現象が発生すると考えられる。この対策として、離型剤スラリーに含まれる水分を減らして膨れの発生を抑えることが考えられる。しかしながら、離型剤スラリーに含まれる水分量が減ると該離型剤スラリーの流動性が低下し、離型剤成分が鋳型の隅々に行き渡りにくくなってアノードが鋳型に焼き付いたり、離型剤スラリーの散布装置が離型剤成分で詰まったりする問題が生ずるおそれがある。
【0009】
ところで、アノードを剥離した直後の鋳型に離型剤スラリーを散布すると、該離型剤スラリーに含まれる水分は100℃を超える鋳型の保有熱により蒸発していくが、発明者らは、鋳型剤スラリーに含まれる粘土粉などの離型剤成分には断熱効果があるため、上記鋳型剤スラリー中の水分への伝熱が阻害されて熔融粗銅の注湯までに完全に蒸発せずに残存し、これが上記の膨れの原因になりうると考えた。特に冬季や、前バッチの鋳造運転から時間が経って通常よりも鋳型温度が低下している場合などは、水分が残存しやすくなると考えられる。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、離型剤スラリーに含まれる水分が蒸発するのにかかる時間を短縮することによって、アノードが鋳型に焼き付く問題を生じさせることなく該アノード表面の膨れの発生を抑えることが可能な電解用アノードの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の電解用アノードの製造方法は、間欠的に回転するターンテーブル上に設けた複数のアノード鋳型に熔融粗金属を順次鋳込む鋳込み工程と、前記鋳込まれた熔融粗金属を冷却する冷却工程と、前記冷却により固化した電解用アノードを前記アノード鋳型から剥ぎ取る剥ぎ取り工程と、前記電解用アノードが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型内に、固形分として粘土を固形分濃度120~160g/Lで含んでいる離型剤スラリーを放出部を用いて分散用ガスにより分散しながら散布する離型剤散布工程とを繰り返し行ない、前記放出部を前記アノード鋳型の鋳型凹部の底面に沿って一方向に走査させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アノード鋳型に電解用アノードが焼き付く問題を生じさせることなく該電解用アノードの表面の膨れの発生を抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の電解用アノードの製造方法が好適に適用される電解用アノード鋳造装置の模式的な平面図である。
【
図2】
図1の電解用アノード鋳造装置で製造される電解用アノードの平面図である。
【
図3】
図1の電解用アノード鋳造装置のターンテーブル上に設けられているアノード鋳型の斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態の電解用アノードの製造方法における離型剤散布工程及び配管清掃工程で使用する離型剤スラリー供給装置の一具体例の概略フロー図である。
【
図5】
図4の離型剤スラリーの放出部を走査させる機構の一具体例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の電解用アノードの製造方法の実施形態について、該電解用アノードが銅製錬プロセスの電解精製で用いられる銅電解用アノードの場合を例に挙げて説明する。先ず、本発明の実施形態の電解用アノードの製造方法が好適に実施される電解用アノード鋳造装置について説明する。
【0015】
1. 電解用アノード鋳造装置
図1に示すように、熔融粗銅から連続的に電解用アノードを製造する電解用アノード鋳造装置10は、白矢印方向に間欠的に回転するターンテーブル11と、該ターンテーブル11上に周方向に均等な間隔をあけて設けられている複数のアノード鋳型12と、これら複数のアノード鋳型12に、前段の精製炉で精製された熔融粗銅を順次注湯する樋部13と、アノード鋳型12に鋳込まれた熔融粗銅を冷却する冷却装置14と、該冷却装置14での冷却により固化した電解用アノードをアノード鋳型12から剥ぎ取る剥取機15と、この剥ぎ取り時の剥離性を高めるためにアノード鋳型12内にスラリー状の離型剤を散布する離型剤散布部16とから主に構成される。なお、
図1にはターンテーブル11の上に12個のアノード鋳型12を設けた例が示されているが、アノード鋳型の個数はこれに限定されるものではなく、一般的には20個程度のアノード鋳型がターンテーブル上に設けられている。
【0016】
上記の電解用アノード鋳造装置10で製造される電解用アノードは、次工程の電解精製において、吊り下げた状態で電解槽内の電解液に浸漬されるため、
図2の正面図に示すような特徴的な形状を有している。具体的には、この
図2に示す電解用アノードAは、縦1000mm×横1000mm程度の略矩形板状のアノード本体部と、該アノード本体部の上側両端部から突出する1対の垂下用耳部とから構成され、これら1対の垂下用耳部を電解槽の対向する側壁上に載置することで該アノード本体部を電解槽内の電解液に浸漬させることができる。
【0017】
2. 電解用アノードの製造方法
上記のような電解用アノード鋳造装置10を用いて行われる本発明の実施形態の電解用アノードの製造方法は、白矢印の方向に間欠的に回転するターンテーブル11の上に載置された複数のアノード鋳型12に熔融粗銅を順次鋳込む鋳込み工程と、該アノード鋳型に鋳込まれた熔融粗銅を冷却する冷却工程と、該冷却工程における冷却により固化した電解用アノードAを該アノード鋳型12から剥ぎ取る剥ぎ取り工程と、電解用アノードAが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型12内に離型剤スラリーを分散用ガスにより分散しながら散布する離型剤散布工程と、離型剤スラリーの分散が完了した後に必要に応じて該離型剤スラリーの供給配管に清掃用ガスを導入して該供給配管内に残存している離型剤スラリーを排出する配管清掃工程とが繰り返し行われる。
【0018】
本発明の実施形態の電解用アノードの製造方法は、上記のように離型剤スラリーを分散用ガスによって分散させた状態でアノード鋳型12に散布するので、離型剤スラリーをアノード鋳型12の内表面に広く散布することができ、よって離型剤スラリーに含まれる水分を速やかに蒸発させることができる。また、分散用ガスが水の代わりにあるいは水と協働して離型剤を広げる役割を担うので、離型剤スラリーに含有させる水分の量を減らすことができ、よって水分の蒸発に要する時間をより一層短縮することができる。
【0019】
これにより、表面部に膨れがほとんどない平滑な電解用アノードAを、鋳型での焼き付きの問題を生じさせることなく製造することができる。その結果、後工程の電解精製において、電解用アノードAの表面の膨れ等の不均一性に起因するアノードとカソード間のショート発生率を低減させることができ、銅精錬プロセスの生産性を顕著に高めることができる。
【0020】
また、必要に応じて配管清掃工程を行なうことによって、離型剤スラリーが供給配管中に残留するのを防ぐことができるので、該残留した離型剤スラリーが固液分離することで生ずる高濃度の離型剤スラリーや固形分の離型剤が該供給配管内で蓄積したり、該供給配管を詰まらせたりする問題を抑えることができる。更に、次のアノード鋳型に該供給配管を介して散布される離型剤スラリーの濃度が一定になるので、離型剤スラリーに含まれる水分の蒸発に要する時間がアノード鋳型ごとにばらつくのを抑えることができる。以下、上記の鋳込み工程、冷却工程、剥ぎ取り工程、離型剤散布工程、及び配管清掃工程の各々についてより詳細に説明する。
【0021】
2.1 鋳込み工程
鋳込み工程は、ターンテーブル11の間欠的な回転により樋部13の下方に次々に搬送されるアノード鋳型12に対して、前段の精製炉において純度約99.5%に高められた精製粗銅を該樋部13を介して順次鋳込む工程である。この樋部13は、流し樋、溜樋及び計量樋から一般に構成され、これにより各アノード鋳型12の鋳型凹部12a内に一定量の精製粗銅を鋳込むことができ、ばらつきの少ない電解用アノードAを製造することができる。
【0022】
2.2 冷却工程
冷却工程は、前工程の鋳込み工程で鋳込まれた精製粗銅で満たされたアノード鋳型12をターンテーブル11の回転によりフード状の冷却装置14内に順次導入し、冷却水散布配管を介して好ましくは上下から冷却水を散布して精製粗銅を冷却する工程である。この冷却により、精製粗銅は鋳型凹部12a内で固化し、電解用アノードAが成型される。この冷却工程では、上記の精製粗銅の冷却と同時にアノード鋳型12も適切な温度まで冷却される。
【0023】
2.3 剥ぎ取り工程
剥ぎ取り工程は、前工程の冷却工程での冷却により成型された電解用アノードAをアノード鋳型12の鋳型凹部12aから剥ぎ取る工程である。この電解用アノードAの剥ぎ取りでは、鋳型凹部12aの底部から出没する押上ピン12bによって電解用アノードAの耳部寄りが押し上げられ、この押し上げられた部分を剥取機15により引っ掛けたり掴持したりすることでアノード鋳型12から取り出す方法が一般的に採用される。なお、この剥取機15で電解用アノードAを剥ぎ取る前に、目視等により不良と判定された不良アノードを剥ぎ取る異形アノード剥取装置が設けられることがある。
【0024】
2.4 離型剤散布工程
離型剤散布工程は、前工程で電解用アノードAが剥ぎ取られた後のアノード鋳型12の鋳型凹部12a内に、所定の固形分濃度に調製した離型剤スラリーを散布する工程である。散布された離型剤スラリーに含まれる水分はアノード鋳型12が保有する蓄熱により蒸発し、これにより鋳型凹部12aの内表面に離型層が形成される。次サイクルの鋳込み工程において、この離型層の上に精製粗銅が鋳込まれるので、アノード鋳型12からの電解用アノードAの剥離性を高めることができる。この離型剤散布工程で散布する離型剤スラリーに含まれる水分の蒸発は、前工程の剥ぎ取り工程において電解用アノードが剥ぎ取られた直後で、次サイクルの鋳込み工程が開始するまでの間に完了させる必要がある。従って、離型剤スラリーに含まれる水分を速やかに蒸発させる都合上、電解用アノードが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型12の温度は100℃以上とすることが望ましい。
【0025】
上記の離型剤スラリーの散布では、該離型剤スラリーに分散用ガスを混ぜることにより、該離型剤スラリーを分散用ガス中に分散させた状態でアノード鋳型12の鋳型凹部12aに散布することができる。このように分散用ガス中に離型剤スラリーを分散させることで、固形分の離型剤と水分とガスの3相が混在した状態で散布されるので、離型剤スラリーを鋳型凹部12aの内表面に広く散布することが可能になり、離型剤スラリーに含まれる水分をより速やかに蒸発させることができる。また、離型剤を広げる働きを有する役割を水と同様に分散用ガスに担わせることができるので、離型剤スラリーの水分量を少なくできる。すなわち、従来に比べて固形分濃度の高い離型剤スラリーを使用できるので、該離型剤スラリーに含まれる水分の蒸発に要する時間をより一層短縮することができる。
【0026】
上記のように離型剤スラリーの水分量を減らした場合は、通常は鋳型凹部12aの内表面に均一に離型剤を散布しにくくなるものの、後述するように、供給配管から供給される離型剤スラリーが分散用ガスと混合した状態で放出される放出部を、アノード鋳型12の鋳型凹部12aの底面に沿って一方向に走査させたり、該供給配管内を流れる離型剤スラリーの流速を例えばバルブ開度の調整により可変にしたりすることで、水分量がある程度少なくなっても鋳型凹部12aの内表面に均一に離型剤を散布することが可能になる。
【0027】
上記離型剤スラリーの単位体積当たりの固形分質量である固形分濃度は、20~160g/Lの範囲内であるのが好ましく、80~120g/Lの範囲内であるのがより好ましい。この固形分濃度が20g/L未満では水分の蒸発に時間がかかりすぎて膨れの問題が生じるおそれがあり、逆に160g/Lを超えると供給配管内で離型剤スラリーが詰まりやすくなる。離型剤スラリーの使用量は、アノード鋳型12の鋳型凹部12aの内表面の全面に亘って離型剤スラリーが広がる程度の量であればよく、通常の鋳型温度であれば電解用アノードのアノード本体部の大きさ1平方メートル当たり500~3600mL程度が好ましく、900~1800mL程度がより好ましい。
【0028】
上記の分散用ガスは、上記の配管経路や放出部などで生じる圧力損失に応じて変わる離型剤スラリーの水頭圧と釣り合うように、例えば100kPaG~1MPaGの範囲内の適切な圧力で供給する。この分散用ガスの供給圧力の調節は、離型剤スラリーの分散される範囲が広範囲に飛び散ることなく鋳型凹部12aの大きさに合致するように、例えば離型剤スラリーの分散状態を目視にて確認しながら該分散用ガスの供給弁の開度を調節すればよい。
【0029】
2.5 配管清掃工程
配管清掃工程は、上記離型剤スラリーの分散が完了した後、必要に応じて上記離型剤スラリーの供給配管に清掃用ガスを導入し、これにより該供給配管内に残存する離型剤スラリーを排出する工程である。このように、離型剤スラリーの分散が完了した後に清掃用ガスを導入することで、供給配管内に残留する離型剤スラリーの量を最小限に抑えることができるうえ、清掃用ガスの消費量を節約することができる。
【0030】
上記のように、清掃用ガスを用いて供給配管内に残存する離型剤スラリーを排出することにより、該供給配管の詰まりを防ぐことができる。また、この供給配管内に残存する離型剤スラリーが次サイクルの離型剤散布工程に持ち越されることがないので、各アノード鋳型に対して、常に一定濃度の離型剤スラリーを一定量散布することができ、アノード鋳型ごとに水分の蒸発にかかる時間がばらつかないようにできるうえ、離型剤が無駄に消費されたり水分の蒸発に時間がかかりすぎたりする問題を抑制できる。
【0031】
上記の供給配管内に残存する離型剤スラリーは、アノード鋳型側及び離型剤スラリーの供給源(貯槽)側のうちのいずれか一方に排出してもよいし、それらの両方に排出してもよい。いずれの場合においても、離型剤を無駄なく有効活用することができる。なお、供給配管内に残留する離型剤スラリーをアノード鋳型側へ排出する場合は、清掃用ガスの導入による清掃が完了した後にターンテーブル11の回転を開始するのが好ましい。上記の分散用ガスや清掃用ガスに用いるガスの組成には特に限定はないが、空気、窒素、及び水蒸気のうちのいずれかを用いるのが好ましく、取り扱いが容易で安価であるため圧縮空気を使うのがより好まししい。分散用ガスと清掃用ガスには別々のガスを用いてもよいが、同一のガスであればそれらの供給源を共用できるので好ましい。
【0032】
3. 離型剤スラリー供給装置
次に、上記の離型剤散布工程及び配管清掃工程で使用する離型剤スラリー供給装置の一具体例について説明する。
図4に示すように、電解用アノードが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型に向けて離型剤スラリーを供給する離型剤スラリー供給装置は、所定の濃度に調製された離型剤スラリーを一時的に貯留する離型剤スラリー供給源としての貯槽20と、この貯槽20の底部から排出される離型剤スラリーを昇圧するポンプ21と、このポンプ21で昇圧された離型剤スラリーをその散布位置まで送液する供給配管22と、該供給配管22の先端部に設けられており、離型剤スラリーを分散用ガスに分散させた状態で散布するノズル等の放出部23とから構成される。
【0033】
離型剤などの固形分は、水などの分散媒に懸濁した状態で離型剤スラリーに含まれているため、比重差により固形分が沈降して分散媒と分離しやすい。そのため、貯槽20には撹拌機20aが設けられており、これにより固形分と分散媒とが分離するのを防いでいる。更に、上記貯槽20の底部から離型剤スラリーを抜き出して上記ポンプ21で昇圧した後に該貯槽20の頂部に戻す外部循環を連続的に行なうことにより、離型剤スラリーの組成をより均一にすることができる。上記の離型剤スラリーの供給配管22は、この外部循環用の循環系を構成するポンプ21の吐出側配管から分岐させることにより、均一状態の離型剤スラリーを上記の放出部23に送液することができる。
【0034】
上記の供給配管22の先端部に設けられている放出部23は、例えば離型剤スラリーと分散用ガスとがそれぞれ導入される2個の入口と、該分散用ガスで分散された離型剤スラリーが放出される1個の出口とを備えたノズルが好適に用いられる。この放出部23は、アノード鋳型12の鋳型凹部12aの底面に沿って一方的に走査させるのが好ましく、これは例えば
図5に示す機構により実現できる。具体的には、サーボモータ30の作動でシリンダー31から出没するピストン32の先端にシャフト部33の一端部を揺動自在に支持し、該シャフト部33の他端部に放出部23を設けると共に、該シャフト部33の長手方向の中央部を固定軸に軸支させる。これにより、上記ピストン32をサーボモータ30で往復動させることによって、鋳型凹部12aの内表面に全面に亘って離型剤スラリーを散布することが可能になる。
【0035】
上記の放出部23に導入される分散用ガスは、コンプレッサーや圧力ボンベなどの分散用ガス供給源24から分散用ガス供給配管25を介して供給される。このように、ノズル等の放出部23に離型剤スラリーと分散用ガスとを直接導入することで、これら2相の流体が均一に混合され、離型剤スラリーを分散状態で散布することが可能になる。なお、供給配管22の途中で分散用ガスを導入してもよいが、この場合は、分散用ガスで分散された離型剤スラリーが供給配管22内での送液中に気液分離するおそれがあるので、上記のように分散用ガスは放出部23に直接導入するか、その直ぐ近くで導入するのが望ましい。
【0036】
上記の離型剤スラリーの供給配管22には、コンプレッサーや圧力ボンベなどの清掃用ガス供給源26から供給される清掃用ガスを供給する清掃用ガス供給配管27が接続している。これにより、供給配管22のうち該清掃用ガス供給配管27の接続部よりも下流側に残留している離型剤スラリーを清掃用ガスにより圧送して放出部23から排出することができる。上記清掃用ガス供給配管27が離型剤スラリーの供給配管22に接続する箇所は、前述した外部循環が行われる循環系から供給配管22が分岐する分岐点にできるだけ近いのが好ましい。この場合、清掃用ガスによって離型剤スラリーが圧送される距離が長くなって配管の圧力損失が多少増えるものの、離型剤スラリーの供給配管22内に残留しているほとんどの離型剤スラリーを排出することが可能になる。
【0037】
なお、清掃用ガスの圧力を上記ポンプ21の吐出側圧力よりも高くすることで、供給配管22において該清掃用ガス供給配管27が接続する部分よりも上流側に残留している離型剤スラリーを上記の外部循環が行われる循環系を経て貯槽20に圧送してもよい。また、
図4では分散用ガス供給源24と清掃用ガス供給源26とが別々に設けられている例が示されているが、これらをまとめて1基にしてもよい。
【0038】
上記の離型剤スラリーの供給配管22への供給及び停止、この離型剤スラリーの供給及び停止にそれぞれ同期して行われる分散用ガスの導入及び停止、並びに離型剤スラリーのアノード鋳型12への散布が停止している間に行われる清掃用ガスの導入及び停止が各々所定のタイミングで行われるように、供給配管22、分散用ガス供給配管25、及び清掃用ガス供給配管27にそれぞれ自動弁22a、25a、27aを設け、それらの開閉をCPU等の制御手段28で制御するのが好ましい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
図1に示すようなアノード鋳造設備を用い、鋳込み工程、冷却工程、剥ぎ取り工程、及び離型剤散布工程を繰り返すことで銅電解用アノードを製造した。その際、離型剤スラリーの固形分濃度の濃淡が電解用アノードの品質に及ぼす影響を調べるため、離型剤スラリーに含まれる離型剤としての粘土の固形分濃度を様々に変えながら銅電解用アノードを製造し、アノード表面の平滑性や鋳造時の焼き付きの有無等について評価した。なお、離型剤スラリーの散布量を調整することで、各アノード鋳型には1回の散布で常に離型剤が72g供給されるようにした。
【0040】
この実施例1では、離型剤スラリーの散布に
図4に示すような離型剤スラリー供給装置を用いたが、清掃用ガスによる配管清掃工程は行なわなかった。また、該離型剤スラリー供給装置の放出部23には、略円筒形の筒状部の底部入口及び側部入口からそれぞれ導入されるガス相及びスラリー相を混合させる混合部と、該混合部で混合された流体を放出する先端開口部を備えたノズルチップ部とからなる2流体用ノズルを使用した。この放出部23に導入するガス相としての分散用ガスには、500kPaGの圧縮空気を用いた。上記の評価結果を下記表1に示す。
【0041】
【0042】
上記表1に示すように、固形分濃度40g/L及び120g/Lの場合は、いずれも特に問題なく鋳造でき、特に120g/Lの場合に良好に鋳造できることが分かった。40g/Lの場合は他の場合に比べては水分の量が多くなるため、初期の鋳造時にアノード表面に膨れが生じたが、ターンテーブルの回転速度の調整や冷却工程の冷却条件の調整により水分が蒸発する時間を十分に確保することで膨れの発生を抑えうることが分かった。一方、200g/Lの場合は離型剤スラリーの散布量が他の場合よりも著しく少ないので、放出部として設けたノズルから離型剤スラリーを良好に散布させることができず、アノード鋳型の内表面に均一に散布するのが難しかった。そのため、一部のアノード鋳型で焼き付きが発生した。
【0043】
(実施例2)
放出部23への分散用ガスの導入の有無が電解用アノードの品質に及ぼす影響を調べるため、固形分濃度120g/Lに調製した離型剤スラリーに対して、分散用ガスを導入して分散した場合と分散用ガスを導入しない場合との2つの条件で運転した以外は上記実施例1と同じ条件で(清掃用ガスはいずれも不使用)銅電解用アノードを製造した。そして、上記の分散用ガスを導入した場合と、分散用ガスを導入しない場合との各々で製造した電解用アノード群からそれぞれランダムに10枚を選択してそれらの膨れの高さ及び膨れの個数を測定した。その結果を下記表2(分散用ガスを導入した場合)及び表3(分散用ガスを導入しない場合)に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
膨れ高さに対してt検定を行なって、上記の分散用ガスを導入した場合と導入しない場合とを比較したところ、95%水準で有意差が見られなかった。一方、膨れの個数については、分散用ガスを導入した場合は95%水準で有意に減少した。また、膨れ高さが低いものに対して外観を観察したところ、同じように膨れ高さが低いアノードでも、分散用ガスを導入した場合の方が膨れ個数が少ないため外観がきれいに仕上がっていた。以上の結果から、分散用ガスを導入することにより、離型剤スラリーの固形分濃度を上昇させることができるうえ、供給配管内に残留する離型剤スラリーを毎回排出することができるので、膨れの少ない高品質の銅電解用アノードを安定的に製造できることが確認できた。
【0047】
(実施例3)
離型剤散布工程の次工程に、清掃用ガスとして500kPaGの圧縮空気を供給配管22に導入する配管清掃工程を設け、該離型剤散布工程後に該供給配管22内に残留する離型剤スラリーを放出部23から放出させた以外は実施例1と同じ条件で銅電解用アノードを製造した。その結果、固形分濃度40g/L、120g/L、及び200g/Lのいずれにおいても電解用アノードの膨れの高さ及び膨れの個数は実施例1と同程度であったが、各固形分濃度の運転ではあまり個体差がなく、膨れの高さや膨れが極端に多いものは見られなかった。また、固形分濃度200g/Lの場合では焼き付きの程度が実施例1よりも軽微であった。このように、離型剤散布工程の次工程配管清掃工程を設けることによって、常に一定濃度の離型剤スラリーを一定量散布することができるので、アノード鋳型ごとに離型剤スラリーの水分の蒸発に要する時間がばらつくのをより一層抑えることができ、結果的に膨れや焼き付きが生じにくくなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0048】
10 アノード鋳造設備
11 ターンテーブル
12 アノード鋳型
12a 鋳型凹部
12b 押上ピン
13 樋部
14 冷却装置
15 剥取機
16 離型剤散布部
20 貯槽
20a 撹拌機
21 ポンプ
22 供給配管
22a 自動弁
23 放出部
24 分散用ガス供給源
25 分散用ガス供給配管
25a 自動弁
26 清掃用ガス供給源
27 清掃用ガス供給配管
27a 自動弁
28 制御手段
30 サーボモータ
31 シリンダー
32 ピストン
33 シャフト部
A 電解用アノード