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特許7604835エステル化合物の製造方法、2-ピロリドンの製造方法およびN-メチル-2-ピロリドンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】エステル化合物の製造方法、2-ピロリドンの製造方法およびN-メチル-2-ピロリドンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/30 20060101AFI20241217BHJP
   C07C 255/19 20060101ALI20241217BHJP
   C07D 207/20 20060101ALI20241217BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C07C253/30
C07C255/19
C07D207/20
C07B61/00 300
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020171033
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062865
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 真也
(72)【発明者】
【氏名】宮田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-058949(JP,A)
【文献】米国特許第05136051(US,A)
【文献】特開昭51-016657(JP,A)
【文献】特表2003-519618(JP,A)
【文献】YANG, Ji et al.,A general platinum-catalyzed alkoxycarbonylation of olefins,Chemical Communications,2020年,56(39),5235-5238
【文献】LIU, Jiawang et al.,Development of efficient palladium catalysts for alkoxycarbonylation of alkenes,Chemical Communications,2018年,54(86),12238-12241
【文献】D.NOBBS, James et al.,Isomerizing methoxycarbonylation of alkenes to esters using a bis(phosphorinone)xylene palladium catalyst,Organometallics,2017年,36(2),391-398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/30
C07C 255/19
C07D 207/20
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルと、下記式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下でカルボニル化反応させることにより、下記式(3-1)および下記式(3-2)のエステル化合物を製造するエステル化合物の製造方法であり、
前記触媒が、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、二座ホスフィン配位子とを含み、
前記二座ホスフィン配位子が、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンと、1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセンと、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンとからなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、エステル化合物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R、R、R はすべて水素原子である。
-OH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【化2】
(式(3-1)および(3-2)中、R、R、Rは、それぞれ式(1)と同じ基を表す。Rは、式(2)と同じ基を表す。)
【請求項2】
前記二座ホスフィン配位子が1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンである、請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物に対する前記二座ホスフィン配位子のモル比(二座ホスフィン配位子のモル数/周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物のモル数)が1~10である、請求項1または請求項2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物が、パラジウムを含む化合物である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記カルボニル化反応において、さらにブレンステッド酸を添加する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記ブレンステッド酸がp-トルエンスルホン酸である、請求項5に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記式(2)中、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソ-プロピル基、n-ブチル基、イソ-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基からなる群より選択される一種である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記式(2)中、Rはメチル基である、請求項7に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記カルボニル化反応を、一酸化炭素ガスの分圧が0.5~10MPaGの範囲内である反応容器内で行う、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
アクリロニトリルと、下記式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下でカルボニル化反応させることにより、3-シアノプロピオン酸エステルを製造する工程であり、
前記触媒が、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、二座ホスフィン配位子とを含み、
前記二座ホスフィン配位子が、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンと、1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセンと、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンとからなる群より選択される少なくとも一種である第1工程と、
前記3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒の存在下で水素ガスと反応させる第2工程とを有することを特徴とする、2-ピロリドンの製造方法。
-OH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【請求項11】
前記式(2)中、Rはメチル基である、請求項10に記載の2-ピロリドンの製造方法。
【請求項12】
前記Ni触媒またはCo触媒が、スポンジニッケル触媒である、請求項10または請求項11に記載の2-ピロリドンの製造方法。
【請求項13】
前記第2工程において、前記3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒、およびアンモニアの存在下で水素ガスと反応させる、請求項10請求項12のいずれか一項に記載の2-ピロリドンの製造方法。
【請求項14】
請求項10請求項13のいずれか一項に記載の2-ピロリドンの製造方法を用いて2-ピロリドンを製造する工程と、
前記2-ピロリドンを、ハロゲン化アンモニウムの存在下でメタノールと反応させる第3工程とを有することを特徴とする、N-メチル-2-ピロリドンの製造方法。
【請求項15】
前記ハロゲン化アンモニウムが塩化アンモニウムである、請求項14に記載のN-メチル-2-ピロリドンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物の製造方法、これを用いた2-ピロリドンの製造方法およびN-メチル-2-ピロリドンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-メチル-2-ピロリドンは、非プロトン性極性溶媒の一種である。N-メチル-2-ピロリドンは、エンジニアリングプラスチックと呼ばれる様々な樹脂に対して高い溶解性を示す。このことから、N-メチル-2-ピロリドンは、電子材料分野で用いられる洗浄剤用途など、工業的に広く使用されている。
N-メチル-2-ピロリドンの製造方法としては、γ-ブチロラクトンと、モノメチルアミンとを反応させる方法が知られている。γ-ブチロラクトンの製造方法としては、1,4-ブタンジオールの脱水素反応を用いる方法、無水マレイン酸の水添反応を用いる方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、アクリロニトリルを、オクタカルボニルジコバルトと種々の配位子の存在下で、一酸化炭素およびメタノールと反応させる方法が記載されている。
非特許文献1には、アクリロニトリルを、オクタカルボニルジコバルトとピリジンの存在下で、一酸化炭素およびメタノールと反応させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第4331612号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】BULLETIN OF THE CHEMICAL SOCIETY OF JAPAN, 1967,135頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術を用いてα,β-不飽和ニトリルとアルコールと一酸化炭素とをカルボニル化反応させるためには、高圧条件下で反応させる必要があった。このため、従来のα,β-不飽和ニトリルとアルコールと一酸化炭素とをカルボニル化反応させる技術は、工業的に適した技術ではなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、α,β-不飽和ニトリルとアルコールと一酸化炭素とを、従来技術よりも低い反応圧力でカルボニル化反応させることにより、エステル化合物を製造できるエステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明のエステル化合物の製造方法を用いた2-ピロリドンの製造方法およびN-メチル-2-ピロリドンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
[1] 下記式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルと、下記式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下でカルボニル化反応させることにより、下記式(3-1)および下記式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物を製造するエステル化合物の製造方法であり、
前記触媒が、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、二座ホスフィン配位子とを含み、
前記二座ホスフィン配位子が、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンと、1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセンと、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンとからなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、エステル化合物の製造方法。
【0009】
【化1】
(式(1)中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、シクロへキシル基、フェニル基のいずれかを表す。)
【0010】
-OH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【0011】
【化2】
(式(3-1)および(3-2)中、R、R、Rは、それぞれ式(1)と同じ基を表す。Rは、式(2)と同じ基を表す。)
【0012】
[2] 前記二座ホスフィン配位子が1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンである、[1]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0013】
[3] 前記周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物に対する前記二座ホスフィン配位子のモル比(二座ホスフィン配位子のモル数/周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物のモル数)が1~10である、[1]または[2]に記載のエステル化合物の製造方法。
[4] 前記周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物が、パラジウムを含む化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
【0014】
[5] 前記カルボニル化反応において、さらにブレンステッド酸を添加する、[1]~[4]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[6] 前記ブレンステッド酸がp-トルエンスルホン酸である、[5]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0015】
[7] 前記式(1)中、R、R、Rのうち少なくとも1つが水素原子である、[1]~[6]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[8] 前記式(1)中、R、R、Rのすべてが水素原子である、[7]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0016】
[9] 前記式(2)中、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソ-プロピル基、n-ブチル基、イソ-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基からなる群より選択される一種である、[1]~[8]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[10] 前記式(2)中、Rはメチル基である、[9]に記載のエステル化合物の製造方法。
[11] 前記カルボニル化反応を、一酸化炭素ガスの分圧が0.5~10MPaGの範囲内である反応容器内で行う、[1]~[10]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
【0017】
[12] アクリロニトリルと、下記式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下でカルボニル化反応させることにより、3-シアノプロピオン酸エステルを製造する工程であり、
前記触媒が、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、二座ホスフィン配位子とを含み、
前記二座ホスフィン配位子が、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンと、1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセンと、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンとからなる群より選択される少なくとも一種である第1工程と、
前記3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒の存在下で水素ガスと反応させる第2工程とを有することを特徴とする、2-ピロリドンの製造方法。
【0018】
-OH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【0019】
[13] 前記式(2)中、Rはメチル基である、[12]に記載の2-ピロリドンの製造方法。
[14] 前記Ni触媒またはCo触媒が、スポンジニッケル触媒である、[12]または[13]に記載の2-ピロリドンの製造方法。
【0020】
[15] 前記第2工程において、前記3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒、およびアンモニアの存在下で水素ガスと反応させる、[12]~[14]のいずれかに記載の2-ピロリドンの製造方法。
【0021】
[16] [12]~[15]のいずれかに記載の2-ピロリドンの製造方法を用いて2-ピロリドンを製造する工程と、
前記2-ピロリドンを、ハロゲン化アンモニウムの存在下でメタノールと反応させる第3工程とを有することを特徴とする、N-メチル-2-ピロリドンの製造方法。
[17] 前記ハロゲン化アンモニウムが塩化アンモニウムである、[16]に記載のN-メチル-2-ピロリドンの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエステル化合物の製造方法では、特定のα,β-不飽和ニトリルと、特定のアルコールと、一酸化炭素とを、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、特定の二座ホスフィン配位子の存在下でカルボニル化反応させる。このため、低い反応圧力でカルボニル化反応させて、式(3-1)および式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物を製造できる。したがって、本発明のエステル化合物の製造方法は、工業的なエステル化合物の製造方法として適している。
【0023】
本発明の2-ピロリドンの製造方法では、低い反応圧力でカルボニル化反応させることにより、3-シアノプロピオン酸エステルを製造できる。そして、製造した3-シアノプロピオン酸エステルを用いて、N-メチル-2-ピロリドンの製造に使用できる2-ピロリドンを製造できる。
本発明のN-メチル-2-ピロリドンの製造方法では、本発明の2-ピロリドンの製造方法を用いて、中間体としての2-ピロリドンを製造し、これをメチル化することにより、工業的に有用な化合物であるN-メチル-2-ピロリドンを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するために、α,β-不飽和ニトリルとアルコールと一酸化炭素とのカルボニル化反応を促進させる触媒に着目し、鋭意検討した。
その結果、触媒として、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、以下に示す特定の二座ホスフィン配位子とを含むものを用いればよいことを見出した。特定の二座ホスフィン配位子とは、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンと、1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセンと、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼンとからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0025】
これらの特定の二座ホスフィン配位子は、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物中の金属と配位結合し、安定な錯体を形成するものと推定される。詳細は明らかではないが、これらの特定の二座ホスフィン配位子を用いることにより、α,β-不飽和ニトリルにアルコールが付加する段階の活性化障壁を下げることができ、カルボニル化反応が促進される。このため、上記のカルボニル化反応を低い反応圧力で行っても十分な反応速度が得られ、式(3-1)および式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物が十分な収率で生成するものと推定される。
【0026】
本発明者らは、さらに検討を重ね、上記の触媒の存在下で、特定のα,β-不飽和ニトリルと特定のアルコールと一酸化炭素とをカルボニル化反応させることにより、式(3-1)および式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物を、工業的に適した装置および方法を用いることができる低い反応圧力で製造できることを確認し、本発明を想到した。
【0027】
以下、本発明のエステル化合物の製造方法、2-ピロリドンの製造方法およびN-メチル-2-ピロリドンの製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
[エステル化合物の製造方法]
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、下記式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルと、下記式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、触媒の存在下でカルボニル化反応させる。このことにより、本実施形態のエステル化合物の製造方法では、下記式(3-1)および下記式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物を製造する。
【0028】
【化3】

(式(1)中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、シクロへキシル基、フェニル基のいずれかを表す。)
【0029】
-OH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【0030】
【化4】
(式(3-1)および(3-2)中、R、R、Rは、それぞれ式(1)と同じ基を表す。Rは、式(2)と同じ基を表す。)
【0031】
(α,β-不飽和ニトリル)
本実施形態のエステル化合物の製造方法において、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルは、出発物質として用いられる。式(1)中のR~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基から選ばれるいずれかである。式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルは、エステル化合物を高い収率で製造できるため、式(1)中のR~Rのうち少なくとも1つが水素原子であるものを用いることが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンなど工業的に有用な化合物の原料として使用しやすいエステル化合物が得られるため、R~Rのすべてが水素原子であるものを用いることがより好ましい。
式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルとしては、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、けい皮酸ニトリルなどを用いることができ、これらの中でも特に、式(1)中のR~Rのすべてが水素原子であるアクリロニトリルを用いることが好ましい。
【0032】
(アルコール)
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、式(2)で表されるアルコールを用いる。式(2)中のRは、炭素数1~10の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、またはアラルキル基が好ましい。式(2)で表されるアルコールとしては、エステル化合物を高い収率で製造できるため、式(2)中のRが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソ-プロピル基、n-ブチル基、イソ-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基からなる群より選択される一種であるものが好ましい。特に、N-メチル-2-ピロリドンなど工業的に有用な化合物の原料として使用しやすいエステル化合物が得られるため、式(2)中のRがメチル基であるものが好ましい。
式(2)で表されるアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールなどを用いることができる。
【0033】
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、式(2)で表されるアルコールを溶媒として用い、その他の溶媒を添加せずに反応を行うことが好ましい。式(2)で表されるアルコールを溶媒として用いる場合、式(2)で表されるアルコールの使用量は、式(2)で表されるアルコールと式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルとの混合物中におけるα,β-不飽和ニトリル濃度が0.01~10mol/Lとなる量であることが好ましく、0.1~5mol/Lとなる量であることがより好ましく、0.5~2mol/Lとなる量であることがさらに好ましい。α,β-不飽和ニトリルの濃度が0.01mol/L以上であると、カルボニル化反応後に、多くのエネルギーを消費して過剰なアルコールを留去することにより、アルコールとエステル化合物とを分離しなくてもよいし、反応容器(反応釜)の大きさが過大になってコスト面で優位でなくなることもない。アルコール中のα,β-不飽和ニトリルの濃度が10mol/L以下であると、カルボニル化反応中にアルコールが不足することがなく、エステル化合物を高い収率で製造できる。
【0034】
(溶媒)
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、式(2)で表されるアルコール以外の溶媒を用いて、カルボニル化反応を行ってもよい。本実施形態の製造方法において使用する溶媒としては、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルと、式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とのカルボニル化反応に関与しない化学種を用いることができる。
【0035】
式(2)で表されるアルコール以外の溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-n-ブチル、n-ヘプタン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でも特に高い収率が得られるため、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、トルエン、キシレンから選ばれるいずれかを用いることが好ましい。
【0036】
式(2)で表されるアルコール以外の溶媒を添加してカルボニル化反応を行う場合、式(2)で表されるアルコールの使用量は、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルに対して、1~50当量であることが好ましく、2~40当量であることがより好ましく、2~30当量であることがさらに好ましい。アルコールの使用量が、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルに対して1当量以上であると、カルボニル化反応中にアルコールが不足することがなく、エステル化合物を高い収率で製造できる。アルコールの使用量が、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルに対して50当量以下であると、カルボニル化反応後に、多くのエネルギーを消費して過剰なアルコールを留去することにより、アルコールとエステル化合物とを分離しなくてもよいし、反応容器(反応釜)の大きさが過大になってコスト面で優位でなくなることもない。
【0037】
式(2)で表されるアルコール以外の溶媒を添加してカルボニル化反応を行う場合、アルコール以外の溶媒の使用量は、アルコールと、アルコール以外の溶媒との合計に対するα,β-不飽和ニトリル濃度が、0.01~10mol/Lとなる量であることが好ましく、0.1~5mol/Lとなる量であることがより好ましく、0.5~2mol/Lとなる量であることがさらに好ましい。
【0038】
(一酸化炭素)
本実施形態のエステル化合物の製造方法においては、一酸化炭素の供給源として、一酸化炭素ガスを含むガスを用いることが好ましい。一酸化炭素ガスを含むガスは、一酸化炭素ガスのみであってもよいし、一酸化炭素ガスの他に、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガス、水素ガスなどを含むガスであってもよい。一酸化炭素ガスを含むガスは、空気、酸素ガスなどの酸化性ガスを含まないことが好ましい。本実施形態では、一酸化炭素として、使用済みプラスチックを熱分解することにより製造された一酸化炭素ガスを用いてもよい。
【0039】
一酸化炭素の使用量は、例えば、式(2)で表されるアルコールと式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルとの混合物が収容され、一酸化炭素を含むガス雰囲気とされた反応容器内の一酸化炭素ガスの分圧が、0.5~10MPaG(ゲージ圧)となる範囲内であることが好ましく、1.0~10MPaGとなる範囲内であることがより好ましく、2.0~5.0MPaGとなる範囲内であることがさらに好ましい。カルボニル化反応時における上記反応容器内の一酸化炭素ガスの分圧は、2.0~5.0MPaGの範囲内で維持されるように、カルボニル化反応により消費された一酸化炭素を補いながら行うことが特に好ましい。
【0040】
カルボニル化反応時における上記反応容器内の一酸化炭素ガスの分圧が0.5MPaG以上であると、カルボニル化反応が進行しやすい。上記反応容器内の一酸化炭素ガスの分圧は、カルボニル化反応を促進させるために、高いことが好ましい。しかし、カルボニル化反応時の一酸化炭素ガスの分圧を10MPaG超とするには、高価な装置を使用する必要がある。カルボニル化反応時の一酸化炭素ガスの分圧を10MPaG以下とすることにより、工業的に適した装置および方法を用いてエステル化合物を製造できる。本実施形態では、触媒によってカルボニル化反応が促進されるため、一酸化炭素ガスの分圧が10MPaG以下であっても、十分な反応速度が得られ、十分な収率でエステル化合物を製造できる。
【0041】
一酸化炭素ガスを含むガスとしては、一酸化炭素ガスのみを用いることが好ましい。一酸化炭素ガスを含むガスとして、例えば、使用済みプラスチックを熱分解することにより製造された一酸化炭素ガスを用いる場合、一酸化炭素ガスと水素ガスとを含むガスであってもよい。一酸化炭素ガスと水素ガスとを含む混合ガスを用いる場合、反応容器内のガス組成は、一酸化炭素ガスと水素ガスの分圧比が(水素ガス)/(一酸化炭素)=2以下であることが好ましく、(水素ガス)/(一酸化炭素)=1以下であることがより好ましい。カルボニル化反応時における上記反応容器内の一酸化炭素ガスと水素ガスの分圧比が(水素ガス)/(一酸化炭素)=2以下であると、水素還元反応が進行して、エステル化合物の収率が低下することを抑制できる。カルボニル化反応時の一酸化炭素ガスと水素ガスの分圧比が(水素ガス)/(一酸化炭素)=1以下であると、水素還元反応による副生成物の生成をより一層抑制できる。その結果、式(3-1)および式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物が、主生成物として得られ、好ましい。
【0042】
(周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物)
本実施形態の製造方法においては、触媒として周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物を用いる。
周期表第9族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物としては、例えば、Co、Rh、Irから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物が挙げられ、特にロジウムを含む化合物を用いることが好ましい。ロジウムを含む化合物としては、例えば、塩化ロジウム(III)および/または硝酸ロジウム(III)を用いることが好ましい。
【0043】
周期表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物としては、例えば、Ni、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物が挙げられ、特にパラジウムを含む化合物を用いることが好ましい。パラジウムを含む化合物としては、例えば、塩化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))、及び、ジパラジウム(0)トリス(ジベンジリデンアセトン)クロロホルム(Pd(dba)・CHCl)から選ばれる少なくとも1種類の0価または2価のパラジウム化合物が挙げられる。
【0044】
これらの周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の中でも、カルボニル化反応の反応促進効果が良好であるため、パラジウムを含む化合物を用いることが好ましく、特に、塩化パラジウム(II)および/またはビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))を用いることが好ましい。
触媒中に含まれる周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0045】
周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量は、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルに対して、0.01mol%~2mol%であることが好ましく、0.05mol%~1mol%であることがより好ましく、0.1mol%~0.3mol%であることがさらに好ましい。周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量が、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルに対して0.01mol%以上であると、カルボニル化反応の反応促進効果が顕著となる。その結果、式(3-1)および式(3-2)から選ばれる少なくとも1つのエステル化合物の収率が高くなる。また、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量が、2mol%以下であると、カルボニル化反応後の回収時に失われる触媒の損失量が少なくて済み、経済的に好ましい。
【0046】
(二座ホスフィン配位子)
本実施形態の製造方法においては、触媒として二座ホスフィン配位子を用いる。二座ホスフィン配位子としては、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン(Xantphos)、1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセン(DiPrPF)、および1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼン(DTBPMB)からなる群より選択される少なくとも一種を用いる。これらの中でも特に、高い収率でエステル化合物が得られるため、二座ホスフィン配位子として、DTBPMBを用いることが好ましい。
【0047】
周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物に対する二座ホスフィン配位子のモル比(二座ホスフィン配位子のモル数/周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物のモル数)は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、2~5であることがさらに好ましい。上記モル比が上記範囲内であると、触媒中の二座ホスフィン配位子の割合が十分に確保される。このため、二座ホスフィン配位子と、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物中の金属とが配位結合した安定な錯体が形成されやすくなり、カルボニル化反応がより効果的に促進され、高い収率でエステル化合物が得られる。
【0048】
(ブレンステッド酸)
本実施形態の製造方法においては、カルボニル化反応において、さらにブレンステッド酸を添加することが好ましい。ブレンステッド酸を添加することにより、カルボニル化反応がより効果的に促進される。
ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸;炭素原子数2~12のアルカン酸;メタンスルホン酸、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸;スルホン化イオン交換樹脂;過塩素酸などの過ハロゲン酸;トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などのハロゲン化カルボン酸などが挙げられる。これらのブレンステッド酸の中でも、カルボニル化反応が効果的に促進されるため、スルホン酸を用いることが好ましく、より好ましくはp-トルエンスルホン酸である。
【0049】
ブレンステッド酸の使用量は、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルに対して、0.1mol%~5.0mol%であることが好ましく、1.5mol%~5.0mol%であることがより好ましく、3.0mol%~4.0mol%であることがさらに好ましい。ブレンステッド酸の使用量がα,β-不飽和ニトリルに対して0.1mol%以上であると、カルボニル化反応を活性化して、反応速度を速くする効果が顕著となる。また、ブレンステッド酸の使用量がα,β-不飽和ニトリルに対して5.0mol%以下であると、ブレンステッド酸を使用することに起因する設備の腐食が生じにくく好ましい。
【0050】
(反応条件)
エステル化合物を生成させるカルボニル化反応における反応条件は、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリル、式(2)で表されるアルコール、触媒の種類および使用量などに応じて適宜決定できる。
反応温度は、50~250℃であることが好ましく、60~200℃であることがより好ましく、70~190℃であることがさらに好ましい。反応温度が50℃以上であると、エステル化合物を生成させるカルボニル化反応がより一層促進されるため、反応時間を短縮できる。また、反応温度が50℃以上であると、工業的に有用な化合物の原料として使用しやすい式(3-1)で表されるエステル化合物が生成されやすくなり、好ましい。反応温度が250℃以下であると、カルボニル化反応における副反応を抑制でき、高い収率でエステル化合物を製造できるため、好ましい。
反応容器内の一酸化炭素ガスの分圧は、0.5~10MPaGであることが好ましく、1.0~10MPaGであることがより好ましく、2.0~5.0MPaGであることがさらに好ましい。反応容器内の一酸化炭素ガスの分圧を0.5~10MPaGとすることにより、エステル化合物をより高収率で製造できる。
【0051】
反応時間は1~40時間とすることが好ましく、1~20時間がより好ましく、1~3時間がさらに好ましい。反応時間が1時間以上であると、一般式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルの転化率が十分に高くなり、エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できる。反応時間が40時間以下であると、カルボニル化反応における副反応を抑制できる。反応時間が1~3時間であると、エステル化合物を高収率で製造できるとともに、良好な生産性が得られる。
【0052】
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、反応装置として、例えば、オートクレーブなどの耐圧性反応装置を用いることができる。
【0053】
(エステル化合物)
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、式(3-1)および/または式(3-2)で表されるエステル化合物を製造する。式(3-1)および(3-2)中、R、R、Rは、それぞれ式(1)と同じ基を表す。Rは、式(2)と同じ基を表す。
本実施形態の製造方法では、式(3-1)で表されるエステル化合物と式(3-2)で表されるエステル化合物のうち、工業的に有用な化合物の原料として使用しやすい式(3-1)で表されるエステル化合物を、主生成物として生成することが好ましい。式(3-1)で表されるエステル化合物のうち、例えば、R~Rのすべてが水素原子である3-シアノプロピオン酸エステルは、後述する2-ピロリドンの製造方法において使用できる。
【0054】
本実施形態の製造方法において生成される式(3-1)で表されるエステル化合物と、式(3-2)で表されるエステル化合物との生成比(モル比)(式(3-1)で表されるエステル化合物/式(3-2)で表されるエステル化合物)は、1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。上記モル比は、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリル、式(2)で表されるアルコール、触媒の種類および使用量、反応条件によって制御できる。
【0055】
本実施形態のエステル化合物の製造方法において、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルとしてアクリロニトリルを用い、式(2)で表されるアルコールとしてメタノールを用いた場合、下記式(4-1)で表される3-シアノプロピオン酸メチルおよび/または下記式(4-2)で表されるエステル化合物が生成する。
【0056】
【化5】
(式(4-1)中、Meはメチル基である。)
(式(4-2)中、Meはメチル基である。)
【0057】
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、上述したカルボニル化反応を行うことにより得られた反応液中から、必要に応じて公知の方法により、式(3-1)および/または式(3-2)で表されるエステル化合物を分離する分離工程を行ってもよい。また、上述したカルボニル化反応により、式(3-1)で表されるエステル化合物と、式(3-2)で表されるエステル化合物の両方が生成した場合、必要に応じて公知の方法により、これらを分離する分離工程を行ってもよい。
【0058】
本実施形態のエステル化合物の製造方法では、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルと、式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、周期表第9族元素および第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、特定の二座ホスフィン配位子の存在下でカルボニル化反応させる。このため、低い反応圧力でカルボニル化反応させて式(3-1)および/または下記式(3-2)で表されるエステル化合物を製造できる。したがって、本実施形態のエステル化合物の製造方法は、工業的なエステル化合物の製造方法として適している。
【0059】
[2-ピロリドンの製造方法]
本実施形態の2-ピロリドンの製造方法は、アクリロニトリルと、式(2)で表されるアルコールと、一酸化炭素とを、上記触媒の存在下でカルボニル化反応させることにより、3-シアノプロピオン酸エステルを製造する第1工程と、製造した3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒の存在下で水素ガスと反応させる第2工程とを有する。
【0060】
「第1工程」
(3-シアノプロピオン酸エステル)
第1工程では、上述したエステル化合物の製造方法において、式(1)で表されるα,β-不飽和ニトリルとして、アクリロニトリル(R~Rのすべてが水素原子である)を用いることにより、3-シアノプロピオン酸エステルを製造する。
【0061】
(アルコール)
第1工程においても、上述したエステル化合物の製造方法と同様に、式(2)で表されるアルコールを用いる。式(2)中のRは、第2工程において3-シアノプロピオン酸エステルから2-ピロリドンが生成する際に脱離する脱離基となる。このため、Rは、脱離しやすい基であるメチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0062】
「第2工程」
第2工程では、3-シアノプロピオン酸エステルのシアノ基(-CN)が還元されて1級アミンが生成したときに生じる脱アルコール反応によって閉環し(環化反応)、2-ピロリドンが生成する。
【0063】
(水素ガス)
水素ガスの供給源としては、水素ガスを含むガスを用いる。水素ガスを含むガスは、水素ガスのみを含むガスであってもよいし、水素ガスの他に、窒素、アルゴン等の不活性ガス、一酸化炭素ガスなどの還元性ガス、空気、酸素等の酸化性ガスなどを含むガスであってもよい。本実施形態では、水素ガスとして、使用済みプラスチックをガス化して製造された水素ガスを用いてもよい。
【0064】
水素ガスの使用量は、例えば、3-シアノプロピオン酸エステルとNi触媒またはCo触媒が収容され、水素ガスを含むガス雰囲気とされた反応容器内の水素ガスの分圧が、0.2MPaG(ゲージ圧)以上となる範囲内であることが好ましく、0.5MPaG以上となる範囲内であることがより好ましい。反応時における上記反応容器内の水素ガスの分圧は、1MPaG未満の範囲内で維持されるように、反応により消費された水素ガスを補いながら行うことが特に好ましい。反応時における上記反応容器内の水素ガスの分圧が、1MPaG以上であっても第2工程における反応進行に支障はないが、1MPaG未満であると安全性の面で有利である。反応時における水素ガスの分圧が0.2MPaG以上、より好ましくは0.5MPaG以上であると、第2工程において十分な反応速度が得られる。
【0065】
(Ni触媒またはCo触媒)
Ni触媒またはCo触媒としては、スポンジニッケル触媒またはスポンジコバルト触媒を用いることが好ましく、特に、第2工程における反応促進効果が良好であるため、スポンジニッケル触媒を用いることが好ましい。
Ni触媒またはCo触媒の使用量は、3-シアノプロピオン酸エステルの質量に対して、5~40質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。Ni触媒またはCo触媒の触媒量が5質量%以上であると、第2工程における反応促進効果が顕著となる。Ni触媒またはCo触媒の触媒量が40質量%を超えても、第2工程における反応促進機能に支障はないが、経済性の面で不利となる。
【0066】
(アンモニア)
第2工程においては、3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒、およびアンモニアの存在下で水素ガスと反応させることが好ましい。アンモニアの存在下で水素ガスと反応させることにより、第2工程において反応時に副生する2級アミンおよび3級アミンの生成量が少なくなり、2-ピロリドンの収率および選択率が高くなる。
アンモニアの使用量は、3-シアノプロピオン酸エステルに対して、0.1~0.7当量であることが好ましく、0.1~0.5当量であることがより好ましく、0.2~0.5当量であることがさらに好ましい。アンモニアの使用量が、3-シアノプロピオン酸エステルに対して、0.1当量以上であると、第2工程における副生物の生成量低減効果が顕著となり、2-ピロリドンの収率がより高くなる。アンモニアの使用量が0.7当量以下であると、アンモニアを回収して利用する場合に、回収できないアンモニアロス量が少なくて済み、好ましい。
【0067】
(溶媒)
第2工程は、3-シアノプロピオン酸エステルと、Ni触媒またはCo触媒と、必要に応じて使用されるアンモニアとを、溶媒中に溶解または分散させた状態で、3-シアノプロピオン酸エステルと水素ガスとを反応させる工程であってもよい。第2工程において、アンモニアとともに溶媒を用いる場合、アンモニアとして、予め溶媒中に溶解したものを用いてもよい。
【0068】
溶媒としては、例えば、水、アルコールなどのプロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、アセトンなどの非プロトン性極性溶媒、ヘキサン、ベンゼンなどの非極性溶媒などを使用できる。溶媒としては、水またはアルコールを用いることが好ましく、より好ましくはアルコールである。
【0069】
溶媒として用いるアルコールは、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールなどを用いることができる。
溶媒としてアルコールを用いた場合、第2工程後に、第2工程において3-シアノプロピオン酸エステルから2-ピロリドンが生成する際に副生するR-OHとともに、溶媒として用いたアルコールを回収できる。したがって、溶媒として用いたアルコールの再利用が容易であり、好ましい。溶媒として用いたアルコールと、2-ピロリドンとともに副生するR-OHとが同じものである場合、第2工程後に、より一層容易に効率よくアルコールを回収できる。このため、溶媒として用いるアルコールは、第1工程で原料として使用したアルコールと同じものであることが好ましい。
【0070】
(反応条件)
第2工程における反応条件は、3-シアノプロピオン酸エステルを、Ni触媒またはCo触媒の存在下で水素ガスと反応させることができればよい。
反応温度は、50℃~180℃であることが好ましく、100℃~150℃であることがより好ましく、130℃~150℃であることがさらに好ましい。反応温度が50℃以上であると、3-シアノプロピオン酸エステルのシアノ基(-CN)が還元されて1級アミンが生成したときに、脱アルコール反応による閉環反応が促進される。その結果、第2工程において副生する2級アミンなどの副生物の生成量が少なくなり、より高収率で2-ピロリドンを製造できる。反応温度が180℃以下であると、2-ピロリドンの縮合反応などの副反応を抑制でき、好ましい。
【0071】
第2工程における反応時間は、0.5時間~3時間であることが好ましく、1時間~3時間であることがより好ましく、1時間~2時間であることがさらに好ましい。反応時間が0.5時間以上であると、第2工程における3-シアノプロピオン酸エステルの還元・閉環反応が十分に進行するため、2-ピロリドンをより高収率で製造できる。反応時間が3時間以下であると、2-ピロリドンを効率よく製造でき、良好な生産性が得られる。
【0072】
第2工程では、反応装置として、例えば、オートクレーブなどの耐圧性反応装置を用いることができる。
【0073】
本実施形態の2-ピロリドンの製造方法では、上述したエステル化合物の製造方法を用いて、3-シアノプロピオン酸エステルを製造するので、低い反応圧力でカルボニル化反応させることにより、3-シアノプロピオン酸エステルが得られる。そして、製造した3-シアノプロピオン酸エステルを用いて、N-メチル-2-ピロリドンの製造に使用できる2-ピロリドンを製造できる。
【0074】
[N-メチル-2-ピロリドンの製造方法]
本実施形態のN-メチル-2-ピロリドンの製造方法は、上述した2-ピロリドンの製造方法を用いて2-ピロリドンを製造する工程と、製造した2-ピロリドンを、ハロゲン化アンモニウムの存在下でメタノールと反応させる第3工程とを有する。
【0075】
「第3工程」
(メタノール)
メタノール使用量は、2-ピロリドン1molに対して、1mol~20molであることが好ましく、1mol~10molであることがより好ましく、1mol~5molであることがさらに好ましい。メタノールの使用量が、2-ピロリドン1molに対して、1mol以上であると、メタノールが不足することがなく、高い収率でN-メチル-2-ピロリドンが得られる。メタノールの使用量が、2-ピロリドン1molに対して、20mol以下であると、第3工程において使用する反応容器の大きさを小さくできるため、好ましい。
【0076】
(ハロゲン化アンモニウム)
ハロゲン化アンモニウムとしては、例えば、臭化アンモニウム、塩化アンモニウムなどを用いることができ、高い収率でN-メチル-2-ピロリドンが得られるため、塩化アンモニウムを用いることが好ましい。
【0077】
ハロゲン化アンモニウムの使用量は、2-ピロリドン1molに対して、0.01mol~0.50molであることが好ましく、0.10mol~0.40molであることがより好ましく、0.15mol~0.30molであることがさらに好ましい。ハロゲン化アンモニウムの使用量が、2-ピロリドン1molに対して、0.01mol以上であると、2-ピロリドンのメチル化反応を促進する効果が顕著となり、高い収率でN-メチル-2-ピロリドンが得られる。ハロゲン化アンモニウムの使用量が、2-ピロリドン1molに対して、0.50mol以下であると、第3工程において使用する反応設備が腐食されにくく、好ましい。
【0078】
(反応条件)
第3工程における反応条件は、2-ピロリドンを、ハロゲン化アンモニウムの存在下でメタノールと反応させることができればよい。
反応温度は、250℃~350℃であることが好ましく、270℃~350℃であることがより好ましく、270℃~320℃であることがさらに好ましい。反応温度が250℃以上であると、2-ピロリドンのメチル化反応が促進されて、高い収率でN-メチル-2-ピロリドンが得られる。反応温度が350℃以下であると、第3工程において使用する反応設備が腐食されにくく、好ましい。
【0079】
第3工程における反応時間は、2~7時間であることが好ましく、2~6時間であることがより好ましく、3~5時間であることがさらに好ましい。反応時間が2時間以上であると、2-ピロリドンのメチル化反応が十分に進行するため、N-メチル-2-ピロリドンをより高収率で製造できる。反応時間が7時間以下であると、N-メチル-2-ピロリドンを効率よく製造でき、良好な生産性が得られる。
【0080】
本実施形態のN-メチル-2-ピロリドンの製造方法では、反応装置として、公知の反応装置を用いることができる。
【0081】
本実施形態のN-メチル-2-ピロリドンの製造方法では、上述した2-ピロリドンの製造方法を用いて、中間体としての2-ピロリドンを製造し、これをメチル化することにより、工業的に有用な化合物であるN-メチル-2-ピロリドンを製造できる。
【実施例
【0082】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0083】
[分析方法]
以下に示すエステル化合物の製造方法、2-ピロリドンの製造方法およびN-メチル-2-ピロリドンの製造方法により製造した「エステル化合物」「2-ピロリドン」「N-メチル-2-ピロリドン」について、転化率および収率を求めた。「N-メチル-2-ピロリドン」については、選択率も求めた。具体的には、下記分析条件で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて反応液中の原料および目的物の分析を行い、絶対検量線法を用いて定量し、その結果を用いて各値を算出した。
【0084】
<HPLC分析条件>
カラム:Shodex(登録商標) RSpak KS-801(昭和電工株式会社製)
カラムサイズ:8.0mm×250mm
カラム温度:40℃
溶離液:純水
溶離液の流速:1.0ml/min
検出器:UV(紫外線)210nm、RI(示差屈折率)
【0085】
[エステル化合物の製造方法]
(実施例1)
オートクレーブ(日東高圧株式会社製)に備えられた内容積100mlのステンレス製の反応容器に、表1に示す割合で、アクリロニトリル(昭和電工株式会社製)1.73gと、メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬特級グレード)25.7gと、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))0.0198gと、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼン(DTBPMB)0.1027gと、p-トルエンスルホン酸(PTSA)0.1981gとを入れた。
【0086】
【表1】
【0087】
反応容器内を一酸化炭素ガスで置換した後、反応容器内の一酸化炭素の分圧を4MPaG(ゲージ圧)とし、120℃に加熱した。その後、反応容器内を90℃とし、内容物を攪拌しながら3時間反応させた。次いで、反応容器内の圧力低下を測定し、反応容器内の反応液を室温まで冷却し、残留圧力を解放した。その後、反応容器内の反応液について、上述した分析方法によりHPLC分析を行った。
【0088】
(実施例2~8、比較例1~7)
表1に記載の二座ホスフィン配位子、一酸化炭素を含むガスを用い、表1に示す一酸化炭素を含むガスの使用量、反応温度、反応時間で反応させたこと以外は、実施例1と同様にして反応させた。なお、実施例6では、一酸化炭素を含むガスとして、一酸化炭素ガスと水素ガスとの混合ガスを用いた。その後、反応容器内の反応液について、上述した分析方法によりHPLC分析を行った。
【0089】
実施例1~8、比較例1~7で得られた反応液のHPLC分析の結果から算出した「アクリロニトリルの転化率」「エステル化合物の収率(式(4-1)で表される3-シアノプロピオン酸メチルの収率(3-CPMの収率)および式(4-2)で表されるエステル化合物の収率(iso体の収率))」「iso体の収率に対する3-CPMの収率の比(n/i比)」を表1に示す。
【0090】
表1中の9族・10族元素を有する化合物、二座ホスフィン配位子、ブレンステッド酸の使用量(mol%)は、アクリロニトリルに対するモル百分率である。また、表1中のアルコールの使用量(mol/L)は、アクリロニトリルとアルコールとの混合物中におけるアクリロニトリルのmol濃度である。表1中の一酸化炭素を含むガスの使用量(MPaG)は、反応開始時における反応容器内の一酸化炭素または水素ガスの分圧(ゲージ圧)である。
【0091】
表1中に記載の下記記号は、以下に示す化合物である。
「Pd(acac)」ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(東京化成工業株式会社製)
「PTSA」p-トルエンスルホン酸(富士フイルム和光純薬株式会社)
【0092】
「DTBPMB」下記構造式で示される1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ベンゼン(東京化成工業株式会社製)
「DiPrPF」下記構造式で示される1,1′-ビス(ジ-iso-プロピルホスフィノ)フェロセン(東京化成工業株式会社製)
「Xantphos」下記構造式で示される4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン(東京化成工業株式会社製)
【0093】
【化6】

(式(DTBPMB)中、t-Buはtert-ブチル基である。)
(式(DiPrPF)中、i-Prはイソプロピル基である。)
(式(Xantphos)中、Phはフェニル基である。)
【0094】
「DPPP」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
「DPPB」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
「DPPF」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
「DtBuPF」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
「DPEPhos」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
「DIOP」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
「tBu-Xantphos」下記構造式で示される化合物(東京化成工業株式会社製)
【0095】
【化7】
(式(DPPF)中、Phはフェニル基である。)
(式(DtBuPF)中、t-Buはtert-ブチル基である。)
(式(DPEPhos)中、Phはフェニル基である。)
(式(DIOP)中、Phはフェニル基である。)
(式(tBu-Xantphos)中、t-Buはtert-ブチル基である。)
【0096】
表1に示すように、二座ホスフィン配位子として、(DTBPMB)、(DiPrPF)、(Xantphos)を用いた実施例1~8は、3-CPMが生成した。
これに対し、比較例2、4~7では、3-CPMが生成しなかった。また、比較例1、3では、3-CPMが生成したものの、実施例1~8と比較して、アクリロニトリルの転化率が低く、3-CPMの収率も低かった。
【0097】
二座ホスフィン配位子として(DTBPMB)を用いた実施例2では、(DiPrPF)を用いた実施例7と比較して、反応時間が短いにもかかわらず、アクリロニトリルの転化率が高く、3-CPMの収率およびiso体の収率も高かった。
二座ホスフィン配位子として(DTBPMB)を用いた実施例2では、(Xantphos)を用いた実施例8と比較して、アクリロニトリルの転化率が高く、3-CPMの収率およびiso体の収率も高かった。
【0098】
実施例1~4より、二座ホスフィン配位子として(DTBPMB)を用いた場合、反応温度を高くするほど、3-CPMの収率が高くなり、n/i比も高くなることが確認できた。
実施例3、5より、二座ホスフィン配位子として(DTBPMB)を用いた場合、反応容器内の一酸化炭素の分圧を高くすると、アクリロニトリルの転化率が高くなり、3-CPMの収率およびiso体の収率が高くなることが確認できた。
実施例5、6より、二座ホスフィン配位子として(DTBPMB)を用いた場合、一酸化炭素を含むガスが水素ガスを含むことにより、アクリロニトリルの転化率が高くなり、3-CPMの収率およびiso体の収率が高くなることが確認できた。このことから、一酸化炭素ガスを含むガスが水素ガスを含む場合であっても、アクリロニトリルのカルボニル化反応が効率よく進行し、アクリロニトリルの水素還元反応によるプロピオニトリルの生成が抑制されていることが確認できた。
【0099】
[2-ピロリドンの製造方法]
(実施例9)
オートクレーブ(日東高圧株式会社製)に備えられた内容積100mlのステンレス製の反応容器に、表2に示す割合で、実施例4で製造した3-シアノプロピオン酸メチル(3-CPM)1.5gと、メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬特級グレード)20.0gと、スポンジニッケル触媒(商品名;R-200、日興リカ株式会社製)0.28gと、7Nアンモニアメタノール溶液(東京化成工業株式会社製)1.22gとを入れた。
【0100】
【表2】
【0101】
反応容器内を水素ガスで置換した後、反応容器内の水素の分圧を0.8MPaG(ゲージ圧)、温度を130℃とし、内容物を攪拌しながら1時間反応させた。次いで、反応容器内の圧力低下を測定し、反応容器内の反応液を室温まで冷却し、残留圧力を解放した。その後、反応容器内の反応液について、上述したHPLC分析を行った。
【0102】
(実施例10~12)
表2に示すアンモニアの使用量とし、表2に示す反応温度としたこと以外は、実施例9と同様にして反応させた後、反応容器内の反応液について、上述した分析方法によりHPLC分析を行った。
【0103】
実施例9~12で得られた反応液のHPLC分析の結果から算出した「3-CPMの転化率」「2-ピロリドンの収率」を表2に示す。
表2中の触媒の使用量(質量%)は、3-CPMの質量に対するスポンジニッケル触媒の質量の割合である。また、表2中のアンモニアおよびメタノールの使用量(当量)は、3-CPM1当量に対する当量である。また、表2中のメタノールの使用量(当量)は、反応容器内にメタノールとして供給した量であり、アンモニアメタノールとして供給したメタノール量は含まない。表2中の水素の圧力(MPaG)は、反応開始時における反応容器内の水素ガスの分圧(ゲージ圧)である。
【0104】
表2に示すように、アンモニアの存在下で水素ガスと反応させた実施例9および実施例11は、2-ピロリドンの収率が90%以上であり、アンモニアを用いない実施例10および実施例12と比較して、2-ピロリドンの収率が高かった。
また、表2に示すように、反応温度が130℃ある実施例9は、反応温度が100℃である実施例11と比較して、2-ピロリドンの収率が高かった。
また、表2に示すように、反応温度が130℃ある実施例10は、反応温度が100℃である実施例12と比較して、2-ピロリドンの収率が高かった。
【0105】
[N-メチル-2-ピロリドンの製造方法]
(実施例13)
オートクレーブ(日東高圧株式会社製)に備えられた内容積100mlのステンレス製の反応容器に、表3に示す割合で、実施例9で製造した2-ピロリドン10.0gと、メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬特級グレード)7.5gと、塩化アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬特級グレード)1.0gとを入れた。
反応容器内の内容物を攪拌しながら、反応温度275℃で2.0時間反応させた。その後、反応容器内の反応液を室温まで冷却し、反応容器内の反応液について、上述したHPLC分析を行った。
【0106】
【表3】
【0107】
(実施例14~16)
2-ピロリドン、メタノール、ハロゲン化アンモニウムを表3に示す使用量とし、表3に示す反応時間としたこと以外は、実施例13と同様にして反応させた後、反応容器内の反応液について、上述した分析方法によりHPLC分析を行った。
【0108】
実施例13~16で得られた反応液のHPLC分析の結果から算出した「2-ピロリドンの転化率」「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)の収率および選択率」を表3に示す。表3中のメタノールのモル比およびハロゲン化アンモニウムのモル比は、2-ピロリドンの物質量(モル)に対する、各化合物の物質量(モル)の比である。
【0109】
表3に示すように、2-ピロリドンを、塩化アンモニウムの存在下でメタノールと反応させることにより、65%以上の高い収率でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が得られた。