(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241217BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2020207363
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】釘本 弘訓
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 良樹
(72)【発明者】
【氏名】石塚 雅之
(72)【発明者】
【氏名】金原 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳祐
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/147931(WO,A1)
【文献】特開2008-277446(JP,A)
【文献】特開2018-22927(JP,A)
【文献】特開2013-120835(JP,A)
【文献】特開2017-201700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状試料を静電吸着する静電チャック部と、
前記静電チャック部を支持するベース部と、
前記静電チャック部と前記ベース部との間に配置されるヒータ部と、を備え、
前記ヒータ部は、
発熱層と、
前記発熱層の厚さ方向一方側に配置される第1樹脂層と、
前記発熱層の厚さ方向他方側に配置される第2樹脂層と、
前記発熱層と前記第1樹脂層とを接着する第1接着層と、
前記発熱層と前記第2樹脂層とを接着する第2接着層と、を備え、
前記発熱層は、
電流が流れることで発熱する帯状のヒータエレメントと、
前記ヒータエレメントの間に充填される充填接着部と、を有し、
前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、前記第1接着層、および前記第2接着層は、シート材からな
り、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層には、不定形のフィラーが分散されている、
静電チャック装置。
【請求項2】
板状試料を静電吸着する静電チャック部と、
前記静電チャック部を支持するベース部と、
前記静電チャック部と前記ベース部との間に配置されるヒータ部と、を備え、
前記ヒータ部は、
発熱層と、
前記発熱層の厚さ方向一方側に配置される第1樹脂層と、
前記発熱層の厚さ方向他方側に配置される第2樹脂層と、
前記発熱層と前記第1樹脂層とを接着する第1接着層と、
前記発熱層と前記第2樹脂層とを接着する第2接着層と、を備え、
前記発熱層は、
電流が流れることで発熱する帯状のヒータエレメントと、
前記ヒータエレメントの間に充填される充填接着部と、を有し、
前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、前記第1接着層、および前記第2接着層は、シート材からなり、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層の弾性率は、前記第1接着層、前記第2接着層および前記充填接着部の弾性率より大きい、
静電チャック装置。
【請求項3】
板状試料を静電吸着する静電チャック部と、
前記静電チャック部を支持するベース部と、
前記静電チャック部と前記ベース部との間に配置されるヒータ部と、を備え、
前記ヒータ部は、
発熱層と、
前記発熱層の厚さ方向一方側に配置される第1樹脂層と、
前記発熱層の厚さ方向他方側に配置される第2樹脂層と、
前記発熱層と前記第1樹脂層とを接着する第1接着層と、
前記発熱層と前記第2樹脂層とを接着する第2接着層と、を備え、
前記発熱層は、
電流が流れることで発熱する帯状のヒータエレメントと、
前記ヒータエレメントの間に充填される充填接着部と、を有し、
前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、前記第1接着層、および前記第2接着層は、シート材からなり、
前記ヒータエレメントの側面が、凹曲面である、
静電チャック装置。
【請求項4】
前記充填接着部は、流動性接着剤からなる、
請求項1
~3の何れか一項に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層を構成する材料は、同一組成であり、
前記第1接着層、前記第2接着層および前記充填接着部を構成する材料は、同一組成である、
請求項1~
4の何れか一項に記載の静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、真空環境下で板状試料を保持するとともに、この板状試料を所望の温度に維持する静電チャック装置が使用されている。例えば、特許文献1には、静電チャック部とベース部との間に薄板状のヒータエレメントを配置された構造が開示されている。このような静電チャック装置によれば、板状試料の面内において相対的に低温となっている領域を加熱することができるため、板状試料の面内に生じうる温度差を低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の静電チャック装置において、ヒータエレメントを固定する接着層の厚さが不均一である場合など、ヒータエレメントから板状試料に伝わる熱量が各部において不均一になる虞があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ヒータエレメントから板状試料に伝わる熱を面内において均一にする静電チャック装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、前記板状試料を静電吸着する静電チャック部と、前記静電チャック部を支持するベース部と、前記静電チャック部と前記ベース部との間に配置されるヒータ部と、を備え、前記ヒータ部は、発熱層と、前記発熱層の厚さ方向一方側に配置される第1樹脂層と、前記発熱層の厚さ方向他方側に配置される第2樹脂層と、前記発熱層と前記第1樹脂層とを接着する第1接着層と、前記発熱層と前記第2樹脂層とを接着する第2接着層と、を備え、前記発熱層は、電流が流れることで発熱する帯状のヒータエレメントと、前記ヒータエレメントの間に充填される充填接着部と、を有し、前記第1樹脂層、前記第2樹脂層、前記第1接着層、および前記第2接着層は、シート材からなる静電チャック装置である。
【0007】
本発明の一態様においては、前記充填接着部は流動性の接着剤からなる構成としてもよい。
【0008】
本発明の一態様においては、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層には、不定形のフィラーが分散されている構成としてもよい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層を構成する材料は、同一組成であり、前記第1接着層、前記第2接着層および前記充填接着部を構成する材料は、同一組成である構成としてもよい。
【0010】
本発明の一態様においては、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層の弾性率は、前記第1接着層、前記第2接着層および前記充填接着部の弾性率より大きい構成としてもよい。
【0011】
本発明の一態様においては、前記ヒータエレメントの側面が、凹曲面である構成としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヒータエレメントから板状試料に伝わる熱を面内において均一にする静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態の静電チャック装置の断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の静電チャック装置のヒータ部の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る静電チャック装置1について説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、便宜上、特徴となる部分を拡大して示しており、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更できる。
【0015】
図1は、本実施形態の静電チャック装置1の断面図である。
静電チャック装置1は、板状試料Wを静電吸着する静電チャック部2と、静電チャック部2を支持する温度調整用ベース部(ベース部)3と、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間に配置されるヒータ部8と、を備える。
【0016】
以下の説明においては、静電チャック装置1の各部は、静電チャック部2に対し板状試料Wを搭載する側を上側、温度調整用ベース部3側を下側として説明される。しかしながら、ここでの上下方向は、あくまで説明の簡素化のために用いる方向であって、静電チャック装置1の使用時の姿勢を限定するものではない。
【0017】
静電チャック装置1は、温度調整用ベース部3から静電チャック部2までをそれらの厚さ方向に貫通して設けられた貫通孔28を有している。貫通孔28には、例えば、板状試料離脱用のリフトピンが挿通される。この場合、貫通孔28の内周部には筒状の碍子29が設けられている。また、貫通孔28には、板状試料を冷却するための冷却ガスが供給されてもよい。貫通孔28に供給される冷却ガスは、載置面11aから噴出して板状試料を冷却する。
【0018】
静電チャック部2は、上面を半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aとした載置板11と、この載置板11と一体化され該載置板11の底部側を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用電極(静電吸着用内部電極)13および静電吸着用電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、を有している。
【0019】
載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のものであり、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y2O3)焼結体等の機械的な強度を有し、かつ腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなる。
【0020】
載置板11の載置面11aには、直径が板状試料の厚みより小さい突起部11bが複数所定の間隔で形成され、これらの突起部11bが板状試料Wを支える。
【0021】
載置板11、支持板12、静電吸着用電極13および絶縁材層14を含めた全体の厚み、即ち、静電チャック部2の厚みは一例として0.7mm以上かつ5.0mm以下に形成されている。
【0022】
例えば、静電チャック部2の厚みが0.7mmを下回ると、静電チャック部2の機械的強度を確保することが難しくなる。静電チャック部2の厚みが5.0mmを上回ると、静電チャック部2の熱容量が大きくなり、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化し、静電チャック部の横方向の熱伝達の増加により、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが難しくなる。なお、ここで説明した各部の厚さは一例であって、前記範囲に限るものではない。
【0023】
静電吸着用電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
【0024】
静電吸着用電極13は、酸化アルミニウム-炭化タンタル(Al2O3-Ta4C5)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム-タングステン(Al2O3-W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム-タングステン(AlN-W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム-タンタル(AlN-Ta)導電性複合焼結体、酸化イットリウム-モリブデン(Y2O3-Mo)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されることが好ましい。
【0025】
静電吸着用電極13の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上かつ100μm以下の厚みを選択することができ、5μm以上かつ20μm以下の厚みがより好ましい。
【0026】
静電吸着用電極13の厚みが0.1μmを下回ると、充分な導電性を確保することが難しくなる。静電吸着用電極13の厚みが100μmを越えると、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との間の熱膨張率差に起因し、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との接合界面にクラックが入り易くなる。
【0027】
このような厚みの静電吸着用電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0028】
絶縁材層14は、静電吸着用電極13を囲繞して腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護するとともに、載置板11と支持板12との境界部、すなわち静電吸着用電極13以外の外周部領域を接合一体化するものであり、載置板11および支持板12を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0029】
静電吸着用電極13には、静電吸着用電極13に直流電圧を印加するための給電用端子15が接続されている。給電用端子15は、温度調整用ベース部3、ヒータ部8、支持板12を厚み方向に貫通する貫通孔16の内部に挿入されている。給電用端子15の外周側には、絶縁性を有する碍子15aが設けられ、この碍子15aにより金属製の温度調整用ベース部3に対し給電用端子15が絶縁されている。
【0030】
給電用端子15のうち、静電吸着用電極13に接続され、支持板12に挿入されている部分(取出電極)の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用電極13および支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましい。例えば、Al2O3-TaCなどの導電性セラミック材料からなる。
【0031】
給電用端子15のうち、温度調整用ベース部3に挿入されている部分は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料からなる。
【0032】
温度調整用ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整するためのもので、厚みのある円板状のものである。この温度調整用ベース部3としては、例えば、その内部に水を循環させる流路3Aが形成された水冷ベース等が好適である。
【0033】
温度調整用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はなく、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。この温度調整用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0034】
図2は、ヒータ部8の断面模式図である。
ヒータ部8は、発熱層85と、第1樹脂層81と、第2樹脂層82と、第1接着層83と、第2接着層84と、を備える。
【0035】
第1樹脂層81は、発熱層85の厚さ方向一方側(上側)に配置される。第2樹脂層82は、発熱層85の厚さ方向他方側(下側)に配置される。第1接着層83は、発熱層85と第1樹脂層81の間に位置し、発熱層85と第1樹脂層81とを接着する。第2接着層84は、発熱層85と第2樹脂層82の間に位置し、発熱層85と第2樹脂層82とを接着する。
【0036】
なお、図示を省略するが、第1樹脂層81と静電チャック部2との間には、これらを互いに接着する接着層が設けられることが好ましい。同様に、第2樹脂層82と温度調整用ベース部3との間には、これらを互いに接着する接着層が設けられることが好ましい。
以下、ヒータ部8の各層について、詳述する。
【0037】
発熱層85は、帯状のヒータエレメント5と、充填接着部86と、を有する。発熱層85の厚さは、例えば、30μm~60μm程度とされる。ヒータエレメント5および充填接着部86の厚さは、発熱層85の厚さと同一である。
【0038】
ヒータエレメント5は、帯状の抵抗加熱部材から構成される。ヒータエレメント5は、非磁性金属薄板、例えば、インコネル(登録商標)薄板、チタン薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法やレーザー加工により所望のヒータ形状、例えば帯状の導電薄板を蛇行させた形状の全体輪郭を円環状に加工することで製造される。ヒータエレメント5は、発熱層85の層内において、蛇行させて配置されている。ヒータエレメント5は、電流が流れることで発熱する。
【0039】
ヒータエレメント5の両端には、給電用端子17が接続される。給電用端子17は、ヒータエレメント5に電流を流す。給電用端子17の外周面には、絶縁用の筒型の碍子18が装着され、温度調整用ベース部3と給電用端子17が絶縁されている。
【0040】
ヒータエレメント5の側面5aは、凹曲面である。ここで、ヒータエレメント5の側面5aとは、ヒータエレメント5の幅方向の両側を向く面である。
【0041】
充填接着部86は、蛇行して延びるヒータエレメント5の間に充填される。充填接着部86は、未硬化の状態で流動性を有する。すなわち、充填接着部86は、流動性の接着剤からなる。充填接着部86は、硬化することでヒータエレメント5を保持する。また、充填接着部86は、ヒータエレメント5同士の間の隙間を埋めることで、発熱層85の発熱状態の均一化に寄与する。
【0042】
充填接着部86は、ヒータエレメント5の側面5aに接触する。上述したように、側面5aは凹曲面であるため、充填接着部86は、ヒータエレメント5の厚さ方向への移動を制限する。ヒータエレメント5は金属材料から構成され、充填接着部86は樹脂材料から構成される。このため、ヒータエレメント5の熱膨張率と充填樹脂部86の熱膨張率には、大きな差がある。本実施形態によれば、ヒータエレメント5の側面5aが凹曲面であることで、ヒータエレメント5と充填接着部86との間に熱膨張率の差に起因する応力が生じた場合であっても、これらが互いに剥離することを抑制できる。
【0043】
第1樹脂層81および第2樹脂層82は、発熱層の85を厚さ方向の両側から挟む。これにより、第1樹脂層81および第2樹脂層82は、ヒータ部8の耐電圧を高める。
【0044】
第1樹脂層81および第2樹脂層82の厚さは、それぞれ40μm程度である。第1樹脂層81および第2樹脂層82は、絶縁性の樹脂材料から構成される。第1樹脂層81および第2樹脂層82は、例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性、および絶縁性を有する接着性樹脂材料から構成される。
【0045】
第1樹脂層81および第2樹脂層82には、不定形のフィラー7が分散されている。フィラー7としては、不定形粒子が好適に採用され、リン酸カルシウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、YAG、SmAlO3等が好適であり、これらから1つ、または複数選択することができる。ここで、不定形とは、分散されたフィラー7の形状および大きさが一定ではないことを意味する。それぞれのフィラー7は、球状に換算して直径1μm~5μm以下に相当する体積を有する。また、それぞれのフィラー7のアスペクト比は、1.5~2程度である。フィラー7は、第1樹脂層81および第2樹脂層82において、0.01体積%以上、5.0体積%以下含まれることが好ましく、さらに0.01体積%以上3.0体積%以下含まれていることが好ましい。
【0046】
第1樹脂層81および第2樹脂層82は、フィラー7を含むことで、フィラー7を含まない場合と比較して、熱伝導率が高められている。本実施形態によれば、第1樹脂層81の熱伝導率が高められることで、発熱層85の熱を、静電チャック部2を介して板状試料Wに効率的に伝達できる。また、第1樹脂層81の熱伝導率が高められることで、ヒータエレメント5の発熱による板状試料Wの加熱の応答性を高めることができる。さらに、第1樹脂層81および第2樹脂層82の熱伝導率が高められることで、温度調整用ベース部3による、板状試料Wの冷却効率を高めることができる。
【0047】
第1樹脂層81および第2樹脂層82において、フィラー7の長軸方向を、各層の厚さ方向と直交する方向(以下、面方向と呼ぶ)に沿わせることが好ましい。これにより、第1樹脂層81および第2樹脂層82の面方向に沿う伝熱性が高められ、第1樹脂層81および第2樹脂層82の面方向の均熱性を高めることができる。結果的に、静電チャック部2に搭載される板状試料Wの均熱性向上に寄与できる。
【0048】
第1樹脂層81に含まれる一部の不定形のフィラー7は、第1接着層83との界面に露出する。これにより、第1樹脂層81の表面には、微細な凹凸が形成され、アンカー効果が作用して、第1樹脂層81と第1接着層83との接合強度が高められる。同様に、第2樹脂層82は、フィラー7を含むために第2接着層84との間に微細な凹凸が形成され、第2接着層84との接合強度が高められる。
【0049】
第1樹脂層81および第2樹脂層82は、シート材からなる。このため、第1樹脂層81および第2樹脂層82は、全体に亘って一様な厚さを有する。第1樹脂層81は、予めシート状に成形されており、下側の層である第1接着層83上に積層されて組み付けられる。同様に、第2樹脂層82は、予めシート状に成形されており、下側の層である温度調整用ベース部3上に積層されて組み付けられる。
【0050】
第1接着層83は、ヒータエレメント5を含む発熱層85を第1樹脂層81に接着するために設けられる。同様に、第2接着層84は、発熱層85を第2樹脂層82に接着するために設けられる。第1接着層83および第2接着層84の厚さは、それぞれ、10μm程度である。第1接着層83および第2接着層84は、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性、および絶縁性を有する接着性樹脂材料から構成される。
【0051】
第1接着層83および第2接着層84は、フィラーを含まない。すなわち、ヒータ部8は、発熱層85と第1樹脂層81との間、並びに発熱層85と第2樹脂層82との間に、それぞれフィラーを含まない接着層(第1接着層83および第2接着層84)を有する。第1接着層83および第2接着層84は、フィラーを含まないため、フィラーを含む場合と比較して柔軟性が高い。このため、第1接着層83は、ヒータエレメント5および第1樹脂層81の表面の凹凸やうねりに追随して、これらを均一に接着できる。同様に、第2接着層84は、ヒータエレメント5および第2樹脂層82の表面の凹凸やうねりに追随して、これらを均一に接着できる。これにより、接着の不均一に起因する熱伝導率の低下やや熱伝導率の不均一さを抑制できる。
【0052】
本実施形態では、第1接着層83および第2接着層84のみならず、充填接着部86も、フィラーを含まず、第1樹脂層81および第2樹脂層82と比較して、柔軟性が高い。すなわち、第1樹脂層81および第2樹脂層82の弾性率は、第1接着層83、第2接着層84および充填接着部86の弾性率より大きい。充填接着部86は、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性、および絶縁性を有する接着性樹脂材料から構成される。
【0053】
本実施形態によれば、第1接着層83、第2接着層84、および充填接着部86は、弾性率が低く柔軟性を有するため、第1樹脂層81および第2樹脂層82と、ヒータエレメント5との間の熱応力を十分に緩和することができる。これにより、熱応力に起因するヒータ部8の変形(反り)を抑制できる。
【0054】
第1接着層83および第2接着層84は、シート材からなる。すなわち、第1接着層83および第2接着層84は、シート状接着剤である。このため、第1接着層83および第2接着層84は、全体に亘って一様な厚さを有する。また、第1接着層83は、予めシート状に成形されており、下側の層である発熱層85上に積層されて貼り付けられる。同様に、第2接着層84は、予めシート状に成形されており、下側の層である第2樹脂層82上に積層されて貼り付けられる。
【0055】
第1接着層83および第2接着層84は、第1樹脂層81、発熱層85、および第2樹脂層82とともに積層された状態で、熱プレスして接合される。これにより、第1樹脂層81、第2樹脂層82、第1接着層83、および第2接着層84の厚さの均一性を保ちながら、各層を互いに接合できる。
【0056】
本実施形態によれば、第1樹脂層81、第2樹脂層82、第1接着層83、および第2接着層84は、シート材からなるため、厚さのばらつきが抑制される。結果的に、ヒータエレメント5から板状試料Wに伝わる熱を面内において均一にすることができる。加えて、温度調整用ベース部3において板状試料Wを冷却する場合には、板状試料Wから温度調整用ベース部3に伝わる熱を面内において均一にすることができ、板状試料Wの温度分布を均一にすることができる。
【0057】
本実施形態において、第1樹脂層81および第2樹脂層82を構成する材料は、同一組成であり、第1接着層83、第2接着層84および充填接着部86を構成する材料は、同一組成である。したがって、ヒータ部8において、発熱層85の厚さ方向一方側と他方側とにそれぞれ配置される各層の組成が互いに一致する。このため、ヒータ部8の熱プレスによる接合時に、内部に熱応力が残留することを抑制することができ、ヒータ部8の耐久性を高めることができる。
【0058】
本実施形態によれば、充填接着部86を構成する材料が、第1接着層83、第2接着層84を構成する材料と同一組成である。このため、充填接着部86と第1接着層83との境界部、および充填接着部86と第2接着層84との境界部に熱応力が発生することを抑制でき層間の剥離を抑制できる。
【0059】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0060】
1…静電チャック装置、2…静電チャック部、3…温度調整用ベース部(ベース部)、5…ヒータエレメント、5a…側面、7…フィラー、8…ヒータ部、81…第1樹脂層、82…第2樹脂層、83…第1接着層、84…第2接着層、85…発熱層、86…充填接着部、W…板状試料