(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】粉粒体の混合搬送設備
(51)【国際特許分類】
B01F 23/60 20220101AFI20241217BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241217BHJP
B01F 33/82 20220101ALI20241217BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241217BHJP
B65G 53/16 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
B01F23/60
H01M4/525
B01F33/82
C01G53/00 A
B65G53/16
(21)【出願番号】P 2020213260
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】浦 幸雄
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-053732(JP,A)
【文献】特開2005-276824(JP,A)
【文献】特開2020-037458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比重差及び/又は平均粒子径差を有する2種以上の粉粒体を混合する
チョッパー付き粉体混合機からなる第1の混合手段と、該第1の混合手段で得た混合物を自動的に搬送する搬送手段と、該搬送手段で搬送された混合物を搬送前と同程度の均質状態となるように再混合する
リボン型混合機又は2重円錐型混合機からなる第2の混合手段とを備えることを特徴とする混合搬送設備。
【請求項2】
前記第1の混合手段が、前記2種以上の粉粒体に含まれ得る凝集塊を解砕することを特徴とする、請求項1に記載の混合搬送設備。
【請求項3】
前記搬送手段が空気輸送装置であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の混合搬送設備。
【請求項4】
前記混合物が、ニッケル複合水酸化物及びこれを熱処理することで得たニッケル複合酸化物のうちの少なくとも一方を含むニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合して得たリチウムニッケル混合物であることを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれかに記載の混合搬送設備。
【請求項5】
ニッケル複合水酸化物及びこれを熱処理することで得たニッケル複合酸化物のうちの少なくとも一方を含むニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合して得たリチウムニッケル混合物を請求項1乃至
4のいずれかに記載の混合搬送設備で
混合及び搬送する混合工程及び搬送工程と、これら混合工程及び搬送工程で作製される再混合物を焼成処理する焼成工程を有することを特徴とする、非水系電解質二次電池又は全固体電池用の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比重差や平均粒子径差を有する粉粒体の混合搬送設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の需要が高まっている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の分野においても高出力の二次電池の需要が高まっている。これらの用途に適した二次電池として、セパレータを挟んで対向する負極及び正極の間に電解液が満たされた構造の非水系電解質二次電池が注目されており、特に、負極及び正極の活物質にリチウムを脱離及び挿入することが可能な材料を用いたリチウムイオン二次電池の研究開発が盛んに進められている。また、将来は、正極、負極及び電解質が全て固体からなる全固体電池がリチウムイオン二次電池で実用化されることが期待されている。
【0003】
これまで提案されている上記リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)などがあり、これらの正極活物質は、例えば特許文献1に開示されているように、ニッケル、コバルト、マンガンなどの金属元素を含むニッケル水酸化物やニッケル酸化物などの粉粒体のニッケル化合物に、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどの粉粒体のリチウム化合物を混合し、得られたリチウムニッケル混合物を焼成することで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のニッケル化合物とリチウム化合物との混合及び焼成により正極活物質を作製する場合は、得られた正極活物質を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池の電池特性にばらつきが生じないようにするため、リチウム以外の金属の原子数(Me)に対するリチウムの原子数(Li)の比(Li/Me)が所定の範囲内となるように調整されている。その理由は、Li/Meが上記所定の範囲から僅かに外れただけで、リチウムイオン二次電池が所望の性能を達成できなくなるおそれがあるからである。
【0006】
このため、上記のようにニッケル化合物とリチウム化合物とを混合してリチウムニッケル混合物を作製する際は、該混合物内で粉粒体の偏在や偏析が生じないように、適切な粉体混合機を採用して均質に混合される。このようにして均質に混合されたリチウムニッケル混合物は、一般に離れた場所に設けられている加熱炉まで搬送された後に熱処理されるため、この搬送の際にニッケル化合物とリチウム化合物との比重差や平均粒子径差に起因して、均質に混合されたリチウムニッケル混合物の均質の度合いが大きく低下するおそれがある。そこで、例えば混合後のリチウムニッケル混合物をフレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)に充填し、このフレコンバッグを振動や衝撃をできるだけ与えないように留意しながらフォークリフトで慎重に運搬することが行われていた。
【0007】
しかしながら、上記のようなフレコンバッグを用いた人的手段による搬送は非効率であるうえ、フレコンバッグの取扱い方やフォークリフトの運転法には個人差があるので、作業員が異なるとフレコンバッグ内でのリチウムニッケル混合物の均質の度合いに差異が生じ、最終的に作製されるリチウムイオン二次電池の電池特性に大きなばらつきが生ずることがあった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ニッケル化合物及びリチウム化合物のように、比重や平均粒子径が異なる2種以上の粉粒体を均質に混合した後に人的手段を介さずに搬送することができるうえ、この搬送前の均質な状態をほぼ維持したまま搬送先の装置に装入することのできる混合搬送設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る混合搬送設備は、比重差及び/又は平均粒子径差を有する2種以上の粉粒体を混合するチョッパー付き粉体混合機からなる第1の混合手段と、該第1の混合手段で得た混合物を自動的に搬送する搬送手段と、該搬送手段で搬送された混合物を搬送前と同程度の均質状態となるように再混合するリボン型混合機又は2重円錐型混合機からなる第2の混合手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比重差や平均粒子径差を有する2種以上の粉粒体を均質に混合した後に人的手段を介さずに搬送することができるうえ、搬送前の均質な状態をほぼ維持したまま搬送先の装置に装入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る混合搬送設備の一具体例を示す部分破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、非水系電解質二次電池の正極材料に用いられる正極活物質の製造方法のうち、該正極活物質の前駆体である粉粒体のニッケル化合物と粉粒体のリチウム化合物との混合工程、この混合により得られるリチウムニッケル混合物の搬送工程、及び搬送されたリチウムニッケル混合物の搬送先の設備への装入前の再混合工程に本発明の実施形態の混合搬送設備を適用する場合を例に挙げて説明する。先ず、本発明の実施形態の混合搬送設備で取り扱われるリチウムニッケル混合物を用いて作製される非水系電解質二次電池用の正極活物質及びその製造方法について説明する。
【0013】
1.非水系電解質二次電池用の正極活物質及びその製造方法
1.1正極活物質
非水系電解質二次電池のうち、リチウムイオン二次電池の正極材料として用いられる正極活物質としては、例えば六方晶系の層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。このリチウムニッケル複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態を有しており、必須の金属元素としてリチウム(Li)及びニッケル(Ni)のほか、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、W(タングステン)、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)、Mg(マグネシウム)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Si(ケイ素)、及びAl(アルミニウム)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が必要に応じて含有される。上記の金属元素の物質量比は、二次電池に求められる電池特性を考慮して定められる。
【0014】
1.2正極活物質の製造方法
上記のリチウムニッケル複合酸化物は、前駆体としての粉粒状のニッケル化合物及びリチウム化合物を所定の配合割合で粉体混合機に装入して混合し、得られたリチウムニッケル混合物を焼成炉に装入して所定の焼成温度で所定の時間をかけて焼成処理することによって作製することができる。なお、上記のニッケル化合物は、リチウム以外の任意の金属元素とニッケルとの合金からなり、晶析により生成されるニッケル複合水酸化物、及び該ニッケル複合水酸化物に熱処理を施すことで得られるニッケル複合酸化物のうちの少なくとも一方を含んでいる。以下、リチウムニッケル複合酸化物の前駆体であるニッケル化合物としてニッケル複合水酸化物を生成する晶析工程、この晶析工程で得たニッケル化合物に所定の配合割合でリチウム化合物を添加して混合する混合工程、及びこの混合工程で得たリチウムニッケル混合物を焼成する焼成工程の各々について説明する。
【0015】
(晶析工程)
ニッケル複合水酸化物の生成方法には特に限定はなく、様々な方法により生成することができるが、一般的には所望の組成を有するニッケル複合水酸化物を所望の粒度分布を有する粉粒体の形態で効率よく生成することが可能な晶析法が採用され、特に、晶析反応を一定条件に維持できる連続晶析法が好適に採用される。この連続晶析法でニッケル複合水酸化物を生成することで、ニッケル複合水酸化物の二次粒子の平均粒子径を例えば8.0~30.0μm程度まで安定的に成長させることができる。上記の晶析法により生成されるニッケル複合水酸化物は、一次粒子が凝集した二次粒子からなる粒子構造を有している。なお、このニッケル複合水酸化物の二次粒子には、少量の一次粒子が含まれていてもよい。
【0016】
この晶析法によるニッケル複合水酸化物の生成においては、撹拌機を備えた反応槽内に、予め水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含むアンモニア水溶液と、水とを液温25℃基準でpHが10.0~13.0の範囲内となるように、且つアンモニウムイオンの濃度が5~20g/Lとなるように注ぎ込み、これらを混合することで反応前水溶液を調製する。なお、この反応前水溶液は、液温を40~70℃に調節するのが好ましい。上記の反応前水溶液のpHは、アルカリ水溶液の量で調整することができ、アンモニウムイオン濃度は、アンモニア水溶液の量で調整することができる。
【0017】
次に、目的とするニッケル複合水酸化物粒子を構成する金属の原子数比(物質量比)に対応する金属の原子数比(物質量比)となるように配合された金属化合物を用意し、これを水に添加して溶解させた原料水溶液を上記にて調製された反応前水溶液に供給して混合する。このようにして反応槽内において反応前水溶液と原料水溶液との混合により生成される反応水溶液においても液温を40~70℃に維持することが好ましい。この液温が40℃未満では、生成されるニッケル複合水酸化物を所望の体積平均粒径の範囲内に制御することが困難になり、逆にこの液温が70℃を超えると、アンモニアの揮発量が多くなりすぎてニッケルアンミン錯体の濃度が不安定になる。
【0018】
上記の反応前水溶液の調製に用いるアンモニウムイオン供給体については特に限定はなく、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。また、該反応前水溶液のpH調整に用いるアルカリ水溶液についても特に限定はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物は水溶液ではなく粉粒体のままで反応槽内の水溶液に添加してもよいが、反応槽内における水溶液のpH値制御の容易さの観点から、上記のようにアルカリ水溶液として反応槽内の水溶液に添加することが好ましい。
【0019】
前駆体として用いるニッケル複合水酸化物がニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であって、且つこのニッケル複合水酸化物の組成に、W、Zr、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Si、及びAlからなる群から選ばれる元素Mを含ませる場合は、これらNi、Co、及びMnと共に該元素Mを晶析させることでニッケルコバルトマンガン複合水酸化物中に元素Mが均一に分散するようにしてもよい。あるいは、元素Mを含まない原料を用いて晶析することで先ずニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を生成した後、得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の表面に元素Mを含む化合物を被覆したり、このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物にリチウム化合物を添加する際に同時に元素Mを含む化合物を添加して混合したりしてもよい。
【0020】
前述したように、ニッケル化合物の少なくとも一部をニッケル複合酸化物にする場合は、上記にて生成したニッケル複合水酸化物を酸化焙焼すればよい。これにより、ニッケル複合水酸化物の一部又は全部が酸化されてニッケル複合酸化物に変化する。この酸化焙焼の雰囲気温度は350℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。また、酸化焙焼の時間は2時間以上8時間以下で行なうことが好ましく、6時間以上7時間以下で行なうことがより好ましい。
【0021】
(混合工程)
混合工程においては、上記の晶析工程で得たニッケル複合水酸化物及びニッケル複合酸化物のうちの少なくとも一方を含むニッケル化合物と、別途用意したリチウム化合物とを所定の配合割合で混合機に装入して混合する。これによりリチウムニッケル混合物が作製される。上記のニッケル化合物とリチウム化合物との配合割合は、リチウムニッケル混合物中における、リチウム以外の金属元素の物質量(Me)に対するリチウム(Li)の物質量の比(Li/Me)が好ましくは0.95以上1.20未満となるように調整する。
【0022】
上記のニッケル化合物とリチウム化合物とは均質になるように十分に混合することが必要であり、この混合が不十分では、リチウムニッケル混合物内において局所的に上記のLi/Meの範囲を外れる部分が生じうる。特にニッケル化合物とリチウム化合物とは互いに比重や平均粒子径に差があるので、これに起因するLi/Meの局所的な偏りが生じやすい。
【0023】
上記の混合により得られるリチウムニッケル混合物のLi/Meは、次工程の焼成工程の前後でほとんど変化しない。すなわち、この混合工程で得られるリチウムニッケル混合物のLi/Meがそのまま正極活物質のLi/Meとなる。そのため、リチウムニッケル混合物のLi/Meが目的とする正極活物質のLi/Meと同じ値になるように、上記のニッケル化合物とリチウム化合物との配合割合を調整する。
【0024】
なお、上記のリチウム化合物には特に限定はなく、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、及び炭酸リチウムのうちの1種又はそれらの2種以上の混合物を用いることができる。これらの中では、取り扱いの容易さや品質の安定性の観点から水酸化リチウム又は炭酸リチウムが好ましく、平均粒子径30μm以上100μm以下の水酸化リチウムがより好ましい。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。
【0025】
(焼成工程)
焼成工程では、上記の混合工程で得たリチウムニッケル混合物を焼成処理することで正極活物質としてのリチウムニッケル複合酸化物を生成する。この焼成処理の処理条件としては、例えば酸化性雰囲気中で、好ましくは650℃以上1100℃以下、より好ましくは800℃以上950℃以下の焼成温度で焼成する。この場合の焼成時間には特に限定はないが、3時間以上48時間以下が好ましく、6時間以上24時間以下がより好ましい。なお、上記の焼成雰囲気、焼成温度、及び焼成時間は、焼成処理の対象となるニッケル化合物の組成や物性、リチウム化合物の種類等により適宜調整される。
【0026】
上記の焼成処理に用いる加熱炉は、大気又は酸素の気流中でリチウムニッケル混合物を熱処理できるものであれば特に限定はないが、炉内の雰囲気を均一に維持した状態で焼成処理するのが好ましいので、熱処理チャンバー内で燃焼ガスが発生しない構造のものが好ましい。このような構造の加熱炉としては、例えば電気炉を挙げることができる。なお、加熱炉はバッチ式でもよいし、連続式でもよい。
【0027】
2.混合搬送設備
次に、本発明の実施形態の混合搬送設備について説明する。この混合搬送設備は、上記の混合工程におけるニッケル化合物及びリチウム化合物の混合と、得られたリチウムニッケル混合物の上記焼成工程の加熱炉への搬送と、該加熱炉へのリチウムニッケル混合物の装入前の再混合とを行なう設備である。具体的には、本発明の実施形態の混合搬送設備は、
図1に示すように、互いの比重及び平均粒子径が異なる粉粒体形状のニッケル化合物及びリチウム化合物を混合する第1の混合手段10と、該第1の混合手段10で得た混合物を自動的に搬送する搬送手段20と、該搬送手段20によって搬送された混合物を該搬送前と同程度の均質状態となるように再混合する第2の混合手段30とを備えている。
【0028】
かかる構成により、第1の混合手段10で均質に混合されたリチウムニッケル混合物を人的手段を介さずに所定の位置まで搬送することができるうえ、該搬送によって均質度合いが低下しても第2の混合手段で搬送前と同程度の均質状態となるように再混合されるので、該リチウムニッケル混合物をその均質度合いの指標となるLi/Meに関して偏りが抑えられた状態で加熱炉に装入することができる。これにより、品質のばらつきが抑えられた高品質の正極活物質を効率的に製造することができる。以下、かかる本発明の実施形態の混合搬送設備を構成する各装置について詳細に説明する。
【0029】
2.1 第1の混合手段
本発明の実施形態の混合搬送設備を構成する第1の混合手段10は、比重差及び/又は平均粒子径差を有する2種以上の粉粒体を均質に混合する装置である。 この第1の混合手段10に用いる混合器の種類としては、リボン型混合機や2重円錐型混合機などの粉体混合機でもよいが、2種以上の粉粒体の混合用の撹拌混合羽根11と、せん断力を用いて凝集塊の解砕・分散を行なう高速回転羽根12とを備えたバッチ式の分散混合用粉体混合機を用いるのがより好ましい。
【0030】
上記のように、第1の混合手段10に分散混合用粉体混合機を用いるのがより好ましい理由は、ニッケル化合物がニッケル複合水酸化物に熱処理を施して得たニッケル複合酸化物を含む場合のように、熱処理等により二次粒子が凝集した凝集塊が混合対象物に含まれる場合があるため、この凝集塊を解砕する機能が第1の混合手段10に備わっているのが好ましいからである。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子同士の焼結ネッキングなどにより生じた二次粒子群からなる凝集塊に対して、機械的エネルギーを付与することで各二次粒子自体は破壊せずに二次粒子同士の結合を分離する、いわゆるほぐす操作を行なうことをいう。
【0031】
上記の分散混合用粉体混合機の具体例としては、混合容器内で水平方向に延在する軸を中心として回転するリボン型のスクリュー羽根と、該混合容器の斜め下から突出するチョッパー羽根とを備えたチョッパー付きリボン型粉体混合機を挙げることができる。あるいは、混合容器内で水平方向に延在する軸を中心として回転するショベル型の羽根と、該混合容器の斜め下から突出するチョッパー羽根とを備えたチョッパー付きショベル型粉体混合機や、混合容器内で鉛直方向に延在する回転軸に同軸上に設けられている下側の流動用羽根と上側のチョッパー羽根とを高速に回転させて分散混合を行なう流動式混合機を用いてもよい。
【0032】
第1の混合手段10に、上記のような主として撹拌混合の役割を担う羽根と、主として解砕・分散の枠割を担うチョッパー羽根とを備えた粉体混合機を用いることで、混合対象物に凝集塊が含まれる場合であっても、該第1の混合手段10の混合容器の底部から排出されるリチウムニッケル混合物を極めて均質にすることができ、具体的には均質度合いの指標となるLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑制することができる。これにより、後段の加熱炉での焼成処理後に得られる正極活物質のLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑制できるので、これを用いたリチウムイオン二次電池の電池特性の品質を安定化させることができる。
【0033】
なお、混合対象物に凝集塊がほとんど含まれない場合であれば、簡易な粉体混合機であっても、回転数や混合時間を適宜調整することで上記のLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑制することができるが、混合対象物に凝集塊が含まれる場合は、上記の第1の混合手段10にチョッパー羽根を有さない粉体混合機による混合では上記のLi/Meが大きくばらつくおそれがある。例えば、重心が互いに非対称な2個の略円錐形部材を合わせた形状の混合容器を水平方向に延在する軸を中心として回転させて撹拌混合を行なう2重円錐型混合機や、混合容器内で水平方向に延在する軸を中心としてリボン型のスクリュー羽根を回転させることで撹拌混合を行なうリボン型混合機などの混合機は、上記のLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑制することが困難になるおそれがある。
【0034】
2.2 搬送手段
本発明の実施形態の混合搬送設備を構成する搬送手段20は、上記の第1の混合手段10の下流側に位置するものであり、公知の搬送装置を用いることができる。この搬送装置は、人的手段を介さずに自動的に混合物を搬送できるものであれば特に限定はなく、例えば管内を流れる空気により粉粒体を搬送する空気輸送装置を用いてもよいし、スクリューコンベアー、ベルトコンベアー、バケットコンベアーなどの機械的搬送装置を用いてもよく、工場の設備レイアウトや設備コストなどを考慮して適宜選定される。
【0035】
図1では、輸送ラインをコンパクトにまとめることが可能な空気輸送装置を搬送手段20に採用した例が示されている。すなわち、この
図1に示す空気輸送装置は、上記の第1の混合手段10の下方に位置し、該第1の混合手段10で混合されたリチウムニッケル混合物を受け入れた後に圧送用の加圧空気が導入される加圧ビン21と、この加圧ビン21から単位時間当たり一定の排出量で排出されるリチウムニッケル混合物を所定の位置まで圧送する輸送配管22と、該輸送配管22によって圧送されたリチウムニッケル混合物を受け入れる回収ホッパー23と、該加圧ビン21に圧送用の圧縮空気を供給する図示しない空気圧縮装置とから主に構成される。
【0036】
かかる構成により、第1の混合手段10で混合されたリチウムニッケル混合物は、該第1の混合手段10の底部排出口13に接続される加圧ビン21内に装入された後、上記の空気圧縮装置から加圧ビン21内に供給される圧縮空気によって輸送配管22内に単位時間当たり一定の供給量で供給され、そのまま回収ホッパー23まで圧送される。回収ホッパー23の入口にはサイクロン及びフィルターが設けられており、ここで固気分離されたリチウムニッケル混合物が回収ホッパー23内に装入される。なお、空気輸送装置は、高速の気流内で粉粒体を浮遊させた状態で圧送する低濃度輸送方式と、低速の気流によって粉粒体をプラグ状にして圧送する高濃度輸送方式のいずれを採用してもよいが、より均質な状態で圧送できる高濃度輸送方式が好ましい。
【0037】
2.3 第2の混合手段
本発明の実施形態の混合搬送設備を構成する第2の混合手段30は、上記の搬送手段20によって搬送されたリチウムニッケル混合物を再混合するものであり、これにより、搬送前のリチウムニッケル混合物とほぼ同程度に均質な再混合物を得ることができる。この第2の混合手段30は、回収ホッパー23の下方に設けられており、上記の搬送手段20によって搬送されたリチウムニッケル混合物は、回収ホッパー23に一時的に貯蔵された後、単位時間当たり一定の排出量で連続的に、又は数バッチに分けて切り出されて第2の混合手段30内に装入されて再混合される。この第2の混合手段30で再混合されたリチウムニッケル混合物は、再混合物として第2の混合手段30の底部排出口31から排出された後、この底部排出口31に接続している図示しない焼成工程の加熱炉に装入される。
【0038】
この第2の混合手段30には上記の第1の混合手段10と同じタイプの粉体混合機を用いてもよいが、第1の混合手段10は混合対象物に凝集塊が含まれる場合はその解砕を考慮する必要があるのに対して、第2の混合手段30は基本的には搬送手段20による搬送の際に低下したリチウムニッケル混合物の均質度合いを戻す程度の再混合でよいので、必ずしもチョッパー羽根を備える必要はなく、より簡単な構造の粉体混合機で構わない。
【0039】
すなわち、第2の混合手段30は、再混合後に得られるリチウムニッケル混合物のLi/Meのばらつき(3σ)を、搬送前のLi/Meのばらつき(3σ)に戻すこと、具体的には、再混合物のLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑制することができる粉体混合機を選定するのが好ましい。例えば第1の混合手段10においてチョッパー付きリボン型混合機が採用される場合において、これよりも簡単な構造を有するリボン型混合機や、2重円錐型混合機などの粉体混合機を採用することができる。これにより、狭い設置スペースや設置場所が高い場合であっても比較的容易に第2の混合手段30を設置することができる。
【0040】
上記構成の混合搬送設備を用いることで、比重差や平均粒子径差を有する2種以上の粉粒体を均質に混合した後に人的手段を介さずに搬送することができるうえ、搬送前の均質な状態をほぼ維持したまま搬送先の装置に装入することができる。また、第1の混合手段10で混合及び必要に応じて解砕された後に輸送手段20を介して搬送されたリチウムニッケル混合物は、回収ホッパー23内において一時的に貯蔵される際に層状に堆積していき、その後、回収ホッパー23の底部排出口から単位時間当たり一定の排出量で連続的に、又は1バッチ毎に切り出されて第2の混合手段30に装入されるが、第1の混合手段10において既に十分に均質に混合されているので、第2の混合手段30で再混合されたリチウムニッケル混合物の均質度合いが時間の経過と共に変動したり、ロット毎にばらついたりするのを抑えることができる。
【0041】
すなわち、第1の混合手段10における混合及び必要に応じて行なわれる解砕が不十分であれば、該第1の混合手段10からは、例えば凝集塊が残存するリチウムニッケル混合物が排出されたり、均質度合いが大きく低下したリチウムニッケル混合物が排出されたりする。その結果、搬送手段20によって回収ホッパー23に一定量ずつ搬送されるリチウムニッケル混合物の均質度合いが時間の経過と共に大きく変動する場合が生じ、その結果、回収ホッパー23内に堆積するリチウムニッケル混合物の均質度合いが、回収ホッパー23の高さ方向で大きく異なることなる。
【0042】
このように、回収ホッパー23内に高さ方向の不均質が生じると、該回収ホッパー23から連続的に第2の混合手段30にリチウムニッケル混合物を装入する場合や、該回収ホッパー23内に貯蔵されているリチウムニッケル混合物を複数バッチに分けて第2の混合手段30に装入する場合は、回収ホッパー23の底部から切り出されるリチウムニッケル混合物の均質度合いが変動するので、第2の混合手段30で均一に再混合できたとしても、この再混合物の均質度合いは混合ロット(バッチ)毎に異なることになる。
【0043】
これに対して、本発明の実施形態の混合搬送設備は、比重差や平均粒子径差を有する2種以上の粉粒体を第1の混合手段で混合及び必要に応じて解砕することで、十分に均質に混合するので、第2の混合手段30によって再混合することで得られるリチウムニッケル混合物の再混合物の均質度合いを、全ロットを通して一定にすることができる。これにより、最終的に得られるリチウムイオン二次電池の品質のばらつきを抑えることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態の粉粒体の混合搬送設備について、非水系電解質二次電池の正極材料に用いられる正極活物質の前駆体を混合及び搬送対象とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更例や代替例を含むものである。例えば、本発明の粉粒体の混合搬送設備は、正極、負極及び電解質が全て固体からなる全固体電池の正極材料に用いられる正極活物質の前駆体を混合及び搬送する場合にも好適に適用することができる。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
ニッケル化合物とリチウム化合物とを
図1に示すような混合搬送設備を用いて混合、搬送、及び再混合し、各段階における混合物の均質度合いをLi/Meのばらつき(3σ)により評価した。具体的には、ニッケル化合物として、ニッケル、コバルト、及びアルミニウムを金属元素として含むニッケル複合酸化物(平均粒子径12μm、嵩密度1.1g/cc)を用意し、リチウム化合物として、水酸化リチウム(平均粒子径66.8μm、嵩密度0.31g/cc)を用意した。これら両化合物を所定の配合割合となるように秤り取って第1の混合手段10としてのチョッパー付きリボン型混合機に装入し、10分かけて混合してリチウムニッケル混合物を作製した。このリチウムニッケル混合物からサンプル数10でサンプルを抜き取り、ICP発光分光法(ICP:Inductively Coupled Plasma)により成分を定量分析してLi/Meのばらつき(3σ)を求めた。
【0046】
得られたリチウムニッケル混合物を搬送手段20の加圧ビン21内に排出した後、圧縮空気を導入することで、輸送配管22を介して回収ホッパー23に向けてリチウムニッケル混合物を空気輸送した。この回収ホッパー23内に圧送されたリチウムニッケル混合物からサンプル数n=10でサンプルを抜き取り、上記と同様に成分を定量分析してLi/Meのばらつき(3σ)を求めた。なお、標準偏差σは下記計算式に基づいて算出した。ここで、x
iは各サンプル(i=1~n)のLi/Meの値であり、μは全サンプルのx
iの算術平均値である。
【数1】
【0047】
その後、回収ホッパー23から第2の混合手段30であるリボン型混合機にリチウム混合物を装入して10分かけて再混合した。このようにして再混合されたリチウムニッケル混合物からサンプル数n=10でサンプルを抜き取り、上記と同様に成分を定量分析してLi/Meのばらつき(3σ)を求めた。
【0048】
[実施例2]
第2の混合手段30を、リボン型混合機に代えて2重円錐型混合機にした以外は上記の実施例1と同様にしてニッケル化合物とリチウム化合物とを混合、搬送、及び再混合した。
【0049】
[参考例]
参考例として、第1の混合手段10での混合のみを行ない、搬送及び再混合を行なわなかったこと以外は上記実施例1と同様にした。そして、得られたチウムニッケル混合物からサンプル数n=10でサンプルを抜き取り、実施例1と同様の分析法より成分を定量分析してLi/Meのばらつき(3σ)を求めた。なお、第1の混合手段10には、参考例1ではリボン型混合機を用い、参考例2では2重円錐型混合機を用いた。上記の実施例1及び2、並びに参考例1及び2の結果を下記表1に示す。
【0050】
【0051】
上記の表1の実施例1及び2の結果から分かるように、第1の混合手段としてチョッパー付きリボン型混合機を用いることにより、混合後のリチウムニッケル混合物のLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑えることができる。また、このリチウムニッケル混合物を空気輸送した後に第2の混合手段30で再混合した場合のLi/Meも0.03以下に抑え得ることが分かる。つまり、空気輸送により均質度合いが低下しても、再混合により輸送前の均質度合いに戻せることが分かる。なお、実施例1及び2の混合搬送設備を用いることにより、従来の混合後にフォークリフトで搬送する場合に比べて、リチウムニッケル混合物1000tあたり6工数の工数削減効果が得られた。
【0052】
一方、第1の混合手段10としてリボン型混合機(参考例1)や、2重円錐型混合機(参考例2)を用いた場合は、混合後のリチウムニッケル混合物のLi/Meのばらつき(3σ)を0.03以下に抑制することができなかった。この理由としては、ニッケル化合物に焼成工程によって生成したニッケル複合酸化物を用いたため凝集塊が多量に含まれていたと考えられ、チョッパー羽根が備わっていない参考例1及び2の粉体混合機では、混合後のリチウムニッケル混合物中に凝集塊が残存していたためと考えられる。
【0053】
このような均質度合いの低いリチウムニッケル混合物の場合は、再混合を十分に行なっても混合ロット(バッチ)毎の均質度合いが大きく異なると考えられ、凝集塊が含まれる場合は第1の混合手段10に上記実施例で採用した粉体混合器と同様の粉体混合機を採用しない限り、再混合物のLi/Meのばらつき(3σ)を、全ロットを通して0.03以下に抑えるのは困難であると考えられる。
【符号の説明】
【0054】
10 第1の混合手段
11 撹拌混合羽根
12 高速回転羽根
13 底部排出口
20 搬送手段
21 加圧ビン
22 輸送配管
23 回収ホッパー
30 第2の混合手段
31 底部排出口