(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ビスフェノールAの製造方法及びポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/52 20060101AFI20241217BHJP
C07C 37/14 20060101ALI20241217BHJP
C07C 37/20 20060101ALI20241217BHJP
C07C 37/74 20060101ALI20241217BHJP
C07C 37/84 20060101ALI20241217BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20241217BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20241217BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C07C37/52
C07C37/14
C07C37/20
C07C37/74
C07C37/84
C07C39/16
C08G64/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020218276
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和久
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-330188(JP,A)
【文献】特開2005-112781(JP,A)
【文献】特開2006-036668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/00
C07C 39/00
C08G 64/00
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程A~工程Iを有するビスフェノールAの製造方法。
工程A:ポリカーボネート樹脂を
、フェノールを含む溶媒中で分解して、ビスフェノールA
とフェノールとを含む粗溶液Aを得る工程
工程B:アセトンとフェノールとを、酸触媒の存在下で脱水縮合させ、ビスフェノールAを含む反応液Bを得る工程
工程C:工程Bで得られた反応液Bから、未反応のアセトンと水を留去して、濃縮液Cを得る工程
工程D:工程Cで得られた濃縮液Cを晶析させてスラリー液を得て、前記スラリー液を固液分離して、母液D及びケーキdを得る工程
工程E:工程Dで得られたケーキdを精製してビスフェノールAを得る工程
工程F:工程Dで得られた母液Dの一部を循環させて、工程Bの脱水縮合に供給する工程
工程G:工程Aで得られた粗溶液Aと工程Dで得られた母液Dの一部とを混合して混合液Gを得る工程
工程H:ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理した後に再結合させることで得られるビスフェノールAを含む溶液H1、又は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理して得られる分解生成物を含む溶液H2を得る工程
工程I:工程Hで得られた溶液H1又は溶液H2を、工程Bの脱水縮合に供給する工程
【請求項2】
前記工程Cにおいて、さらに、前記反応液Bからフェノールの一部を留去して濃縮液Cを得る、請求項1に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項3】
前記工程Hにおいて、ビスフェノールAを分解する条件で前記混合液Gを処理したときの前記混合液G中のビスフェノールAの分解率が30モル%以上である、請求項1又は2に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項4】
前記工程Hが、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理した後、又は、処理しながら、蒸留を行い、分解生成物を含む留分hを回収し、残渣を除去する工程を有する、請求項1から3のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項5】
前記工程Hが、前記溶液H1を得る工程であり、
ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理しながら蒸留を行い、分解生成物であるフェノールとイソプロペニルフェノールとを含む留分h1を得るアルカリ分解・蒸留工程と、
前記留分h1に含まれるフェノールとイソプロペニルフェノールを再結合させてビスフェノールAを生成させる再結合工程とを有する、請求項1から4のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項6】
前記留分h1が、イソプロペニルフェノールを1.0質量%以上含む、請求項5に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項7】
前記溶液H1が、1質量%以上のビスフェノールAを含む、請求項5又は6に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項8】
前記工程Hが、前記溶液H2を得る工程であり、
ビスフェノールAを加水分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理し、アセトンとフェノールを含む反応液h2を得るアルカリ加水分解工程と、
前記アルカリ加水分解工程で得られた反応液h2のアセトンの留分及び/又はフェノールの留分を回収し、残渣は除去するアセトン・フェノール回収工程とを有する、請求項1から4のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項9】
前記反応液h2がアセトンを0.1質量%以上含む、請求項8に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項10】
前記工程Aにおいて、ポリカーボネート樹脂をフェノール存在下で分解させた後、前記フェノールの一部を留去して、前記粗溶液Aを得る、請求項
1から9のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項11】
前記粗溶液A中に含まれるビスフェノールAが、90質量%未満である、請求項1から
10のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項12】
前記工程Aが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルキルアミン及び酸からなる群から選択されるいずれかの触媒の存在下で、前記ポリカーボネート樹脂を分解して、前記粗溶液Aを得る工程である、請求項1から
11のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項13】
請求項1から
12のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法で得られたビスフェノールAを用いて、ポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAの製造方法に関するものである。更に、前記ビスフェノールAの製造方法で得られるビスフェノールAを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは手軽で耐久性に富み、安価であることから我が国のみならず世界中で大量に生産されている。そのプラスチックの多くは「使い捨て」として用いられるため、適切に処理されず、環境中に流出するものもある。具体的には、プラスチックごみは河川から海へと流れ込み、その過程で波や紫外線で劣化して5mm以下となる。このような小さなプラスチックゴミは、マイクロプラスチックと呼ばれる。このマイクロプラスチックを、動物や魚が誤飲してしまう。このように、プラスチックゴミは生態系に甚大な影響を与え、近年、海洋プラスチック問題として世界中で問題視されている。透明性、機械物性、難燃性、寸法安定性、電気特性により、幅広い分野で用いられるポリカーボネート樹脂も例外ではない。
【0003】
ポリカーボネート樹脂のリサイクル方法の1つとして、ポリカーボネート樹脂を化学的に分解しビスフェノールAまで戻して再利用するケミカルリサイクルが知られている。ポリカーボネート樹脂のケミカルリサイクルは、海洋プラスチック問題の解決手段の1つとして重要である。ポリカーボネート樹脂は、加水分解やアルコリシス等の様々な方法で分解することが可能であり、生成したビスフェノールAは、晶析等で回収することができる。
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂を分解し得られたビスフェノールAを、下記一般的なビスフェノールAの製造工程に組み込み、共に精製して高純度のビスフェノールAを得ることが知られている。
[一般的なビスフェノールAの製造工程]
工程1:アセトンとフェノールとを酸性触媒の存在下で反応させてビスフェノールAを含む反応液を得る工程
工程2:工程1で得られた反応液を蒸留分離して濃縮液を得る工程
工程3:工程2で得られた濃縮液を晶析・回収して付加物結晶と母液とを得る工程
工程4:付加物結晶からビスのフェノールAを製造する工程
【0005】
例えば、廃プラスチックを熱分解または化学的に分解して得られた分解生成物から回収された低純度のビスフェノールAを含む粗溶液を、上記一般的なビスフェノールAの製造工程で得られる濃縮液又は母液に供給する方法が知られている(特許文献1)。
【0006】
また、廃ポリカーボネートをイソプロペニルフェノール等まで分解し、上記一般的なビスフェノールAの製造工程の工程1(反応工程)に供給する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-112781号公報
【文献】特開2006-36668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビスフェノールAは、光学用ポリカーボネート樹脂のような光学用材料の原料として使用される分野もある。光学用材料は、優れた色調(透明性)が求められるため、その原料となるビスフェノールAも優れた色調であることが求められている。
【0009】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂を加水分解やアルコリシスした後に晶析する方法は、純度が高いビスフェノールAであっても、ポリカーボネート樹脂由来の着色成分がわずかに残存すると、優れた色調(透明性)が求められる光学用材料の原料としては不十分な場合があった。また、ポリカーボネート樹脂の分解からビスフェノールAの精製までを独立して行う方法では、ビスフェノールAの純度を上げるために、工程数が多くなったり、設備が複雑化したり、大型化したりするため、コスト面やエネルギー面の観点から好ましくなかった。
【0010】
また、上記の通り、ポリカーボネート樹脂を分解し得られたビスフェノールAを一般的なビスフェノールAの製造工程に供給し、共に精製して高純度のビスフェノールAを得ることも可能である。例えば、特許文献1の実施例1によれば、まず、ポリカーボネート樹脂からなるコンパクトディスクをシクロヘキサノールでアルコリシスし、減圧留去後に得られた留出しない重質分を得る。その後、通常のビスフェノールAの製造プロセスの晶析で得られた母液に、前記留出しない重質分を混合し、更に通常のビスフェノールAの製造プロセスの縮合反応で得られたビスフェノールAを含む反応生成物と混合して、濃縮する。得られた濃縮液を晶析後、固液分離し、ビスフェノールA-フェノール付加物結晶を得て、得られた付加物結晶からフェノールを留去することで、高純度のビスフェノールAが得られることが記載されている。しかしながら、得られるビスフェノールAは高純度ではあるが、その色調は、留出しない重質分に含まれる着色成分の影響により悪化してしまう問題があった。
【0011】
また、ポリカーボネート樹脂をアルカリ分解して、イソプロペニルフェノールまで分解させる方法も可能である。例えば、特許文献2の実施例1によれば、公知の方法により、イソプロペニルフェノールまで分解し、得られた分解液を、ビスフェノールAを合成させるBPA合成工程に供給する。BPA合成工程によって得られるビスフェノールAを含む合成液を、ビスフェノールAの製造工程の濃縮工程へ供給し、常法により、高純度のビスフェノールAが得られることが記載されている。しかしながら、前記イソプロペニルフェノールは非常に不安定な化学種であり、前記分解液をビスフェノールの製造工程のビスフェノールAを合成させるビスフェノールA合成工程に供給する前に、イソプロペニルフェノールが様々な成分と縮合してしまう問題があった。また、縮合した成分により、得られるビスフェノールAの色調も悪化する問題もあった。
【0012】
このように従来のポリカーボネート樹脂のケミカルリサイクルは、ポリカーボネート樹脂由来の着色成分の除去、得られるビスフェノールAへの色調の改善が必要であり、更なる改良が求められていた。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、ポリカーボネート樹脂由来の着色成分を効率的に除去でき、色調が良好なビスフェノールAを製造することができる、ビスフェノールAの製造方法を提供することを目的とする。更に、得られた前記ビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、フェノールを用いてポリカーボネート樹脂の分解し、分解後にフェノールの一部を留去し、低純度のビスフェノールAを含む粗溶液を得て、この粗溶液とビスフェノールAの製造工程で得られる母液と混合した後に、アルカリ分解と再結合、又は、アルカリ加水分解させて、得られた反応液をビスフェノールAの製造工程に循環してビスフェノールAを製造する方法を見出した。また、得られた前記ビスフェノールAを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 下記の工程A~工程Iを有するビスフェノールAの製造方法。
工程A:ポリカーボネート樹脂を分解して、ビスフェノールAを含む粗溶液Aを得る工程
工程B:アセトンとフェノールとを、酸触媒の存在下で脱水縮合させ、ビスフェノールAを含む反応液Bを得る工程
工程C:工程Bで得られた反応液Bから、未反応のアセトンと水を留去して、濃縮液Cを得る工程
工程D:工程Cで得られた濃縮液Cを晶析させてスラリー液を得て、前記スラリー液を固液分離して、母液D及びケーキdを得る工程
工程E:工程Dで得られたケーキdを精製してビスフェノールAを得る工程
工程F:工程Dで得られた母液Dの一部を循環させて、工程Bの脱水縮合に供給する工程
工程G:工程Aで得られた粗溶液Aと工程Dで得られた母液Dの一部とを混合して混合液Gを得る工程
工程H:ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理した後に再結合させることで得られるビスフェノールAを含む溶液H1、又は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理して得られる分解生成物を含む溶液H2を得る工程
工程I:工程Hで得られた溶液H1又は溶液H2を、工程Bの脱水縮合に供給する工程
<2> 前記工程Cにおいて、さらに、前記反応液Bからフェノールの一部を留去して濃縮液Cを得る、前記<1>に記載のビスフェノールAの製造方法。
<3> 前記工程Hにおいて、ビスフェノールAを分解する条件で前記混合液Gを処理したときの前記混合液G中のビスフェノールAの分解率が30モル%以上である、前記<1>又は<2>に記載のビスフェノールAの製造方法。
<4> 前記工程Hが、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理した後、又は、処理しながら、蒸留を行い、分解生成物を含む留分hを回収し、残渣を除去する工程を有する、前記<1>から<3>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
<5> 前記工程Hが、前記溶液H1を得る工程であり、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理しながら蒸留を行い、分解生成物であるフェノールとイソプロペニルフェノールとを含む留分h1を得るアルカリ分解・蒸留工程と、前記留分h1に含まれるフェノールとイソプロペニルフェノールを再結合させてビスフェノールAを生成させる再結合工程とを有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
<6> 前記留分h1が、イソプロペニルフェノールを1.0質量%以上含む、前記<5>に記載のビスフェノールAの製造方法。
<7> 前記溶液H1が、1質量%以上のビスフェノールAを含む、前記<5>又は<6>に記載のビスフェノールAの製造方法。
<8> 前記工程Hが、前記溶液H2を得る工程であり、ビスフェノールAを加水分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理し、アセトンとフェノールを含む反応液h2を得るアルカリ加水分解工程と、前記アルカリ加水分解工程で得られた反応液h2のアセトンの留分及び/又はフェノールの留分を回収し、残渣は除去するアセトン・フェノール回収工程とを有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
<9> 前記反応液h2がアセトンを0.1質量%以上含む、前記<8>に記載のビスフェノールAの製造方法。
<10> 前記工程Aのポリカーボネート樹脂の分解にフェノールを用いる、前記<1>から<9>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
<11> 前記工程Aにおいて、ポリカーボネート樹脂をフェノール存在下で分解させた後、前記フェノールの一部を留去して、前記粗溶液Aを得る、前記<10>に記載のビスフェノールAの製造方法。
<12> 前記粗溶液A中に含まれるビスフェノールAが、90質量%未満である、前記<1>から<11>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
<13> 前記工程Aが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルキルアミン及び酸からなる群から選択されるいずれかの触媒の存在下で、前記ポリカーボネート樹脂を分解して、前記粗溶液Aを得る工程である、前記<1>から<12>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法。
<14> 前記<1>から<13>のいずれかに記載のビスフェノールAの製造方法で得られたビスフェノールAを用いて、ポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂由来の着色成分を効率的に除去でき、色調の良好なビスフェノールAを製造することができる、ビスフェノールAの製造方法が提供される。更に、得られた前記ビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のビスフェノールAの製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明のビスフェノールAの製造方法の工程Aの一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明のビスフェノールAの製造方法の工程Aの一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明のビスフェノールAの製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図5】本発明のビスフェノールAの製造方法の工程Hの一例を示すフロー図である。
【
図6】本発明のビスフェノールAの製造方法の工程Hの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0019】
<ビスフェノールの製造方法>
本発明は、下記の工程A~Iを有するビスフェノールAの製造方法(以下、「本発明のビスフェノールAの製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
工程A:ポリカーボネート樹脂を分解して、ビスフェノールAを含む粗溶液Aを得る工程
工程B:アセトンとフェノールとを、酸触媒の存在下で脱水縮合させ、ビスフェノールAを含む反応液Bを得る工程
工程C:工程Bで得られた反応液Bから、未反応のアセトンと水を留去して、濃縮液Cを得る工程
工程D:工程Cで得られた濃縮液Cを晶析させてスラリー液を得て、前記スラリー液を固液分離して、母液D及びケーキdを得る工程
工程E:工程Dで得られたケーキdを精製してビスフェノールAを得る工程
工程F:工程Dで得られた母液Dの一部を循環させて、工程Bの脱水縮合に供給する工程
工程G:工程Aで得られた粗溶液Aと工程Dで得られた母液Dの一部とを混合して混合液Gを得る工程
工程H:ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理した後に再結合させることで得られるビスフェノールAを含む溶液H1、又は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理して得られる分解生成物を含む溶液H2を得る工程
工程I:工程Hで得られた溶液H1又は溶液H2を、工程Bの脱水縮合に供給する工程
【0020】
図1に、本発明のビスフェノールAの製造方法の工程フロー図を示す。
図1に示すように、本発明のビスフェノールAの特徴のひとつは、ポリカーボネート樹脂を分解させて得られる粗溶液Aを、ビスフェノールAの製造で得られる母液Dと混合させ、工程Hにおいて分解や再結合等の処理を行ってから、ビスフェノールAを生成させる工程(工程B)に戻すことである。ポリカーボネート樹脂を含む廃プラスチックを分解することで得られる反応液には、分解したポリカーボネート樹脂由来の安定剤、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、皮脂、埃、異物等が含まれていることがある。従来、このような反応液を、一般的なビスフェノールAの製造工程におけるアセトンとフェノールとを酸性触媒の存在下で反応させてビスフェノールAを含む反応液を得る工程や、ビスフェノールAを含む反応液を蒸留分離して濃縮液を得る工程、濃縮液を晶析・回収して付加物結晶と母液とを得る工程に供給しており、ビスフェノールAの製造工程を著しく汚染し、製造されたビスフェノールAの品質を損ねてしまう可能性があった。
【0021】
一方で、ビスフェノールAの製造工程では、母液を循環する工程が組み込まれているものもある。アセトンとフェノールとを脱水縮合させてビスフェノールAを生成させる工程に循環される母液は、当該工程に循環される前に、母液中の有用成分を回収したり、不純物を低減したりするための処理が行われる。
【0022】
工程Aで得られる粗溶液Aは、通常、ビスフェノールAの他に、ポリカーボネート樹脂の分解物由来の、構造が未だよく解析されていない重質成分の不純物を含む。重質成分とは、フェノールよりも沸点の高い成分である。この重質成分の不純物は、ビスフェノールAの製造で副生する不純物とは異なるものであり、ビスフェノールAの製造方法と同様の精製方法で除去できるとは限らないため、一般的なビスフェノールAの製造工程に粗溶液Aを用いる場合に粗溶液Aを供給する工程が適切でないと、得られるビスフェノールAの純度が低下したり、色調が低下したりする可能性があった。本発明者らは、母液中の有用成分を回収したり、不純物を低減したりするための処理条件で、ポリカーボネート樹脂を分解して得られた粗溶液A中の有用成分を回収したり、不純物を分解したり、除去することができることを発見し、更に、ビスフェノールAの製造工程の各工程の中でも、母液を循環する工程に粗溶液Aを組み込むことで色調の優れたビスフェノールAを高純度で得られることを見出した。
【0023】
すなわち、粗溶液Aを母液Dと混合させ、ビスフェノールAを分解するアルカリ条件での処理を含む工程Hを行うことにより、粗溶液A中のビスフェノールAだけでなく、残存するポリカーボネート樹脂の不完全分解物を分解したり、着色原因を除去した後に、処理溶液を工程Bに戻すことで、工程Eにおいて、色調の優れたビスフェノールAを得ることができる。また、工程Hにおいて、粗溶液A中に残存する不完全分解物も分解されるため、工程Aにおいて過度に精製操作を行う必要もなく、工程Aも簡略化することができる。
【0024】
次に、ビスフェノールAの製造方法の各工程について説明する。
【0025】
[工程A]
工程Aは、ポリカーボネート樹脂を分解して、ビスフェノールAを含む粗溶液Aを得る工程である。
【0026】
(ポリカーボネート樹脂(PC))
工程Aで用いられるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)に由来する繰り返し単位を含むポリカーボネート樹脂を含む。
【0027】
また、ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAに由来する繰り返し単位を含むポリカーボネート樹脂単独のものだけでなく、共重合体やポリマーアロイのようにポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む組成物を用いてもよい。ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む組成物としては、例えば、ポリカーボネート/ポリエステル共重合体、ポリカーボネート/ポリエステルアロイ、ポリカーボネート/ポリアリレート共重合体、ポリカーボネート/ポリアリレートアロイ等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む組成物を用いる場合、ポリカーボネート樹脂が主成分である(組成物中にポリカーボネート樹脂を50質量%以上含む)ものが好適である。
【0028】
また、ポリカーボネート樹脂は、2種類以上の異なるポリカーボネート樹脂を混合して用いてよい。
【0029】
ケミカルリサイクルの観点から、ポリカーボネート樹脂は、廃プラスチックに含まれるポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂は、ヘッドランプなどの光学部材や、光学ディスクなどの光学記録媒体などの各種成形品に成形加工されて用いられている。ポリカーボネート樹脂を含む廃プラスチックとして、これらの成形品にポリカーボネート樹脂を成形加工する際の端材や不良品、使用済みの成形品などを用いることができる。
【0030】
廃プラスチックは、適宜、洗浄、破砕、粉砕などをして用いてよい。廃プラスチックの破砕の方法としては、ジョークラッシャや旋回式クラッシャを用いて20cm以下に破砕する粗砕や、旋回式クラッシャ、コーンクラッシャ、ミルを用いて1cm以下まで破砕する中砕、ミルを用いて1mm以下まで破砕する粉砕等であり、分解槽に供給出来る大きさまで小さくできれば良い。また、廃プラスチックがCDやDVDのように薄いプラスチックの場合、シュレッダー等を用いて裁断し、分解槽に供給することができる。また、共重合体やポリマーアロイの他の樹脂、光学ディスクの表面や裏面の層のようにポリカーボネート樹脂以外の成分で形成される部分をあらかじめ除去して用いてもよい。
【0031】
(ポリカーボネート樹脂の分解方法)
ポリカーボネート樹脂の分解方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリカーボネート樹脂を溶媒中で加熱することで、ポリカーボネート樹脂が分解させて、ビスフェノールAを含む粗溶液Aが得られる。
【0032】
中でも、ポリカーボネート樹脂の溶解速度が速いため、ポリカーボネート樹脂の分解にフェノールを用いることが好ましい。すなわち、ポリカーボネート樹脂は、フェノールを含む溶媒中でポリカーボネート樹脂を分解させることが好ましい。
【0033】
フェノールを含む溶媒は、フェノール以外の溶媒を含んでもよいが、フェノールを主成分とすることが好ましい。例えば、フェノールを含む溶媒においてフェノールの質量は、50質量%以上が好ましく、その他の溶媒や触媒の種類等に応じて、65質量%以上や、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上など適宜設定できる。
【0034】
また、フェノール単独を溶媒として用いる場合と比べてポリカーボネート樹脂の分解速度が向上し、温和な条件(例えば、常圧、60~150℃程度)でポリカーボネート樹脂を分解させることができるため、フェノールを含む溶媒は、水、一価のアルコールおよび二価のアルコールからなる群から選択されるいずれかの溶媒とフェノールとを含む混合溶媒であることが好ましく、フェノールと水とを含む混合溶媒又はフェノールと一価のアルコールとを含む混合溶媒であることがより好ましい。一価のアルコールとしては、メタノールやエタノール、n-ブタノールなど、直鎖状の炭素数1~5のアルコールが好ましい。
【0035】
また、ポリカーボネート樹脂の分解には、触媒を用いることが好ましく、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルキルアミン及び酸からなる群から選択されるいずれかの触媒を用いることが好ましい。
【0036】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。また、アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムが好ましい。
【0037】
アルキルアミンは、アンモニアの少なくとも1つの水素原子がアルキル基で置換された化合物である。アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。アルキルアミンは、2級アミン又は3級アミンが好ましく、3級アミンがより好ましい。
【0038】
また、アルキルアミンの沸点は200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。また、その下限は10℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。このような沸点であれば、減圧蒸留などにより溶媒の一部を留去するときに、一緒に系外に除去することができる。
【0039】
酸としては、塩酸、硫酸、リン酸及びスルホン酸からなる群から選択されるいずれかが好ましい。スルホン酸としては、メタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸などが挙げられる。
【0040】
ポリカーボネート樹脂の繰り返し単位1モルに対する触媒のモル比((使用する触媒の質量[g]/触媒の分子量[g/mol])/(使用するポリカーボネート樹脂の質量[g]/繰り返し単位の分子量[g/mol]))は、0.0001以上が好ましく、0.0005以上がより好ましく、0.0007以上が更に好ましい。ポリカーボネート樹脂に対して使用する触媒の量が小さいと分解速度が遅くなり、分解時間が長時間化して、効率が悪化する傾向にある。また、ポリカーボネート樹脂の繰り返し単位1モルに対する触媒のモル比は、1モル以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下が更に好ましい。使用するポリカーボネート樹脂に対して使用する触媒の量が大きいと、製造効率が低下する傾向にある。
【0041】
また、粗溶液Aに軽質成分が含まれると、工程Hで得られる溶液H1や溶液H2に軽質成分が残存して、工程Eで得られるビスフェノールAの色調などの品質が低下するおそれがある。軽質成分が十分に除去された粗溶液Aを得るため、工程Aでは、ポリカーボネート樹脂をフェノール存在下で分解させた後、フェノールを一部留去し、粗溶液Aを得ることが好ましい。なお、軽質成分とは、フェノールよりも低沸点の成分のことであり、例えば、フェノールと水との混合溶媒や、触媒としてアルキルアミンなどを用いる場合には、水、アルキルアミンなどが軽質成分になる。また、フェノールと一価のアルコールとの混合溶媒を用いて場合には、一価のアルコールや、ビスフェノールAと共に副生する炭酸ジアルキルなどが軽質成分となる。
【0042】
(粗溶液A)
粗溶液Aは、ビスフェノールAを含み、工程Gに供する温度条件において液状である組成物である。粗溶液Aは、工程Gに供する温度条件よりも低い温度においては、固体であってもよい。通常、工程Aで得られた粗溶液Aは、工程Gが行われる反応装置へは、40℃以上で移送されるため、粗溶液Aは、ビスフェノールAを含み、40℃以上で液状である組成物である。
【0043】
工程Aで得られるビスフェノールAを含む粗溶液A中に含まれるビスフェノールAの含有量(ビスフェノールAの質量/粗溶液Aの質量×100(%))は、90質量%未満であることが好ましく、85質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下の順で数値の低い程より好ましい。本発明のビスフェノールAの製造方法では、粗溶液Aがポリカーボネート樹脂の不完全分解物(ビスフェノールAの二量体や三量体といった多量体など)等の重質成分の不純物を含む場合でも、工程Hにおいて分解や除去を行うことができるため、粗溶液Aを過剰に精製する必要はない。また、ビスフェノールAの含有量が多すぎると、粗溶液Aの粘度が高くなり、工程Dで得られた母液Dとの混合させるために粗溶液Aを移送することが困難となったり、工程Dで得られた母液Dと均一に混合しにくくなる。また、ビスフェノールAの含有量が多すぎると、工程HにおいてビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理した後(アルカリ分解した後)に再結合させる場合、工程Hのアルカリ分解で生成するイソプロペニルフェノール濃度が高くなって自己縮合して副生物となり、再結合でのビスフェノールAの生成率が著しく低下したりする。また、粗溶液A中に含まれるビスフェノールAの含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上の順で数値が大きい程好ましい。ビスフェノールAの含有量が少なすぎると、製造されるビスフェノールAの量が少なくなるため、経済的に好ましくない。
【0044】
粗溶液Aは、ビスフェノールA以外にフェノールを含んでいても良い。粗溶液A中に含まれるフェノールの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。フェノールの含有量が下限以下であると、粗溶液A中のビスフェノールAが析出してスラリー液となって送液が困難になったりする。
【0045】
また、粗溶液Aは、ポリカーボネート樹脂の不完全分解物(ビスフェノールAの二量体や三量体といった多量体など)などの重質成分を含んでもよいが、重質成分が多すぎると、工程Hで二酸化炭素が発生して圧力変動を起こしてしまい、反応制御が複雑になるおそれがあるため、粗溶液A中に含まれる重質成分の含有量は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。なお、粗溶液Aは十分に洗浄を行ってもよい。
【0046】
以下、工程Aの具体的な例を、
図2及び
図3に基づいて説明する。
【0047】
[工程A1]
図2に示す工程A1は、フェノールを含む溶媒及び触媒の存在下で、ポリカーボネート樹脂を分解して、ビスフェノールAを含む反応液a1を得るPC分解工程と、PC分解工程で得られた反応液a1を蒸留し、フェノールの一部を留去する濃縮工程a1とを有する。工程A1では、通常、濃縮工程a1で留去できる触媒が使用される。このような触媒としてアルキルアミンが挙げられる。
【0048】
(PC分解工程)
反応温度は、通常60~150℃である。好ましくは70℃以上であり、より好ましくは75℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。また、反応温度の上限は、ポリカーボネート樹脂の分解に用いる溶媒の種類に応じて、130℃以下や、120℃以下、110℃以下、100℃以下、95℃以下など適宜設定できる。また、PCの分解反応の圧力は、1kPa~1MPaが好ましく、5kPa~0.5MPaがより好ましい。
【0049】
ポリカーボネート樹脂の分解反応の反応方式に特に制限はなく、連続式であっても、回分式であってもよい。例えば、回分方式の場合、反応時間は、ポリカーボネート樹脂の濃度や反応温度、反応圧力等に応じて適宜選択されるものであるが、長い場合は生成したビスフェノールAが分解する傾向にあることから、30時間以下が好ましく、25時間以下、20時間以下、15時間以下、10時間以下、5時間以下の順で数値が小さくなるほどより好ましい。また、反応時間が短い場合は分解反応が十分に進行しない場合があるため、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上である。
【0050】
(濃縮工程a1)
濃縮工程a1では、反応液a1を蒸留し、フェノールの一部を留去する。得られた溶液は、上記の通り、ポリカーボネート樹脂の不完全分解物(ビスフェノールAの二量体や三量体といった多量体など)などの重質成分を含みうるが、これらの重質成分も、工程Hにおいて分解させたり、除去することができるため、得られた溶液をそのまま粗溶液Aとすることができる。例えば、蒸留は、温度50~200℃、圧力0.1kPa~150kPaで行うことができる。また、アルキルアミンなどのフェノールよりも沸点の低い軽質成分も濃縮工程a1において留去される。
【0051】
[工程A2]
図3に示す工程A2は、フェノールを含む溶媒及び触媒の存在下で、ポリカーボネート樹脂を分解して、ビスフェノールAを含む反応液a1を得るPC分解工程と、PC分解工程で得られた反応液a1を中和し、ビスフェノールAを含む有機相a2を得る中和工程と、中和工程で得られた有機相a2を蒸留し、フェノールの一部を留去する濃縮工程a2とを有する。工程A2では、反応液a1を中和し触媒等を除去した後に溶媒の留去を行う。工程A2では、中和工程で触媒を除去することができるため、アルカリ金属水酸化物などの沸点の高い触媒を用いることもでき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルキルアミン及び酸からなる群から選択されるいずれかを用いることができる。
【0052】
(PC分解工程)
PC分解工程は、工程A1と同様に行うことができる。
【0053】
(中和工程)
中和工程では、PC分解工程で得られた反応液a1を中和し、ビスフェノールAを含む有機相a2を得る。中和は、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、又はアルキルアミンを用いた場合、塩酸や硫酸、リン酸などの酸を反応液a1に混合することで行われる。また、触媒として酸を用いたときは、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムなどの塩基を反応液a1に混合することで行われる。中和は、混合する酸又は塩基の量を調整して、反応液a1のpHが、7.5~10(好ましくは、pH8.0~9.5)となるように行うことが好ましい。反応液a1に、用いた触媒に応じて酸または塩基を混合した後、油水分離させ、水相を除去することで、ビスフェノールAを含む有機相a2を得ることができる。
【0054】
(濃縮工程a2)
濃縮工程a2では、中和工程で得られた有機相a2を蒸留し、フェノールの一部を留去する。得られた溶液は、ポリカーボネート樹脂の不完全分解物(ビスフェノールAの二量体や三量体といった多量体など)などの重質成分を含みうるが、これらの重質成分も、工程Hにおいて分解させたり、除去することができるため、得られた溶液をそのまま粗溶液Aとすることができる。例えば、蒸留は、温度50~200℃、圧力0.1Pa~150kPaで行うことができる。
【0055】
[工程B]
工程Bは、アセトンとフェノールとを、酸触媒存在下で脱水縮合させ、ビスフェノールAを含む反応液Bを得る工程である。
【0056】
(アセトン)
原料のアセトンは、工業的に入手可能なものであれば特に制限されずに使用することができる。例えば、アセトンは、系外から新たに供給してもよいし、後述する工程Cで留去された未反応アセトンを循環させて工程Bのアセトンとしてもよいし、これらを混合して使用してもよい。
【0057】
(フェノール)
原料のフェノールは、工業的に入手可能なものであれば特に制限されずに使用することができる。例えば、フェノールは、系外から新たに供給してもよいし、後述する工程Cで留去される未反応フェノールや工程G後の溶液に含まれるフェノールを循環させて工程Bのフェノールとしてもよいし、これらを混合して使用してもよい。
【0058】
(酸触媒)
酸触媒としては、酸性物質が使用され、塩酸、硫酸などの鉱酸、強酸性陽イオン交換樹脂、ポリシロキサン等の固体酸等を使用することができる。装置の腐食、反応後の触媒の分離、触媒活性などの点から、通常、スルホン酸型などの強酸性陽イオン交換樹脂が使用され、ベンゼン環総数の2~16%程度にスルホン酸基を導入したスチレン-ジビニルベンゼン共重合型の酸性陽イオン交換樹脂等を用いることができる。その平均粒径は、通常、0.2~2mm、好ましくは0.4~1.5mmである。また、選択率や転化率の向上を目的として、助触媒として含イオウアミン化合物を反応時に添加する、又は、酸触媒に担持させることが好ましく、工程Bにおける好適な酸触媒として、含イオウアミン化合物で部分的に変性した強酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。
【0059】
(アセトンとフェノールのモル比)
原料のフェノールとアセトンのモル比については特に制限はないが、フェノールを化学量論的量よりも過剰に用いるのがよく、アセトン1モル当たり、3~30モル、好ましくは5~20モルのフェノールが用いられる。アセトン1モルあたりのフェノールの使用量が3モルよりも小さいとビスフェノールAの選択率が低下し、30モルより大きい場合は反応速度の低下、装置の巨大化等の問題が発生する。
【0060】
アセトンとフェノールの縮合反応は、公知の方法を用いることができる。フェノールとアセトンとの縮合反応は、反応方式に特に制限はないが、通常、固定床流通方式または懸濁床回分方式で行われる。固定床流通方式の場合、反応器に供給する原料混合物の液空間速度は、通常0.2~50/時間である。懸濁床回分方式の場合、反応温度、反応圧力によって異なるが、酸触媒の使用量は、原料混合物に対して通常20~100重量%、反応時間は通常0.5~5時間である。中でも、助触媒を固定化した酸性陽イオン交換樹脂を充填した縮合反応装置に、フェノールとアセトンを連続的に供給して反応させる固定床連続反応方式を用いるのが好ましい。
【0061】
反応温度は、通常40~130℃、好ましくは40~90℃である。反応温度が40℃未満では反応液が固化するおそれがあるので好ましくなく、130℃を超える高温では反応触媒である酸性陽イオン交換樹脂の酸性基が触媒から脱離してビスフェノールAに混入してビスフェノールA分解の原因となったり、高温により触媒が分解して触媒寿命が低下したりする。反応圧力は、通常、常圧~600kPa(絶対圧力)である。
【0062】
[工程C]
工程Cは、工程Bで得られた反応液Bから、未反応のアセトンと水を留去して、濃縮液Cを得る工程である。工程Bで得られる反応液Bには、生成したビスフェノールA、未反応のアセトン、フェノール、副生した水やビスフェノールAの異性体等が含まれる。工程Cでは、反応液Bを減圧蒸留等の方法により、反応液Bから、未反応のアセトンと水を含む軽質成分を系外に除去することで、ビスフェノールAとフェノールを含む濃縮液Cが得られる。
【0063】
また、工程Cでは、工程Bで得られた反応液Bから、アセントと、水と、フェノールの一部を留去し、濃縮液Cを得ることが好ましい。フェノールの一部を留去することで、アセトンと水がしっかりと除去された濃縮液Cが得られる。
【0064】
例えば、工程Bで得られた反応液Bを蒸留塔に移送し、水、未反応のアセトン及びフェノールの一部を塔頂より除去した後、塔底より反応生成物を抜き出すことにより、工程Dで使用する濃縮液Cを得ることができる。得られた濃縮液Cは、工程Dに供される。また、留去されたアセトンは工程Bへ循環させてもよい。留去されたフェノールは、工程Bへ循環させたり、工程EにおいてビスフェノールAの洗浄用溶媒として利用してもよい。
【0065】
蒸留は、好ましくは、反応温度50~150℃、圧力0.0065~0.040MPaで実施される。濃縮液C中のアセトン及び水は、それぞれ、通常0.1重量%以下まで除去されることが好ましい。これにより、晶析操作中のアダクト結晶の溶解度を低下させ、結晶収率が向上する。また、濃縮液CにおけるビスフェノールAの濃度は好ましくは20~50重量%である。ビスフェノールAの濃度が20重量%よりも小さい場合には収率が低くなり、また、50重量%より大きくなると濃縮液Cの粘度が高くなって輸送が困難になる。
【0066】
[工程D]
工程Dは、工程Cで得られた濃縮液Cを晶析させてスラリー液を得て、前記スラリー液を固液分離して、母液D及びケーキdを得る工程である。
【0067】
工程Dでは、まず、濃縮液Cを晶析させることで、ビスフェノールAとフェノールとの付加物結晶(アダクト結晶)を析出させる。例えば、濃縮液Cは、通常60~100℃、好ましくは70~90℃に調節して晶析装置に移送される。移送された濃縮液Cは、晶析装置において、60~100℃(好ましくは70~90℃)から40~70℃まで冷却されることで、アダクト結晶が析出しスラリー液となる。次いで、アダクト結晶が分散したスラリー液を固液分離して、母液Dとケーキdとをそれぞれ得る。得られた母液Dには、未析出のビスフェノールAおよびフェノールが含まれる。また、ケーキdはアダクト結晶が主成分である。
【0068】
固液分離は、ろ過や遠心分離等の公知の手段により行うことができる。例えば、水平ベルトフィルター、ロータリーバキュームフィルター、ロータリープレッシャーフィルター、遠心濾過分離器、遠心沈降分離器、それらのハイブリッド型の遠心分離器(スクリーンボールデカンタ)等を用いて固液分離することができる。
【0069】
[工程E]
工程Eは、工程Dで得られたケーキdを精製してビスフェノールAを得る工程である。ケーキdの精製方法は、特に制限はなく、ケーキdを加熱溶融させた溶融液からフェノールを除去する方法や、トルエン等の炭化水素系溶媒を用いて晶析する方法等で、工程Dで得られたケーキdからフェノールを分離してビスフェノールAを回収する。
【0070】
ケーキdからフェノールを除去する方法としては、通常、100~160℃にケーキdを加熱溶融し、得られた溶融液から、例えば、蒸留装置、薄膜蒸発器、フラッシュ蒸発器などを使用することにより、大部分のフェノールを除去する方法が採用される。また、溶融液中に残存している微量のフェノールを除去するために、上記の操作を行った後、更に、スチームストリッピング等により残存フェノールを除去し、ビスフェノールAを精製する方法も採用される。この方法は、例えば、特開昭63-132850号公報、特開平2-28126号公報などに記載されている。
【0071】
上記のようにして得られた高純度で溶融状態のビスフェノールAは、造粒塔やフレーカーに送られ、固体のプリルやフレークとなって製品ビスフェノールAとなる。また、得られたビスフェノールAを、溶融法によるポリカーポネート樹脂の製造に供する場合のように、固体にせずに溶融状態のまま次工程に移送することも出来る。
【0072】
[工程F]
工程Fは、工程Dで得られた母液Dの一部を循環させて、工程Bの脱水縮合に供給する工程である。
固液分離により得られた母液Dの一部は、工程Bが行われる縮合反応装置に接続された配管を介して縮合反応装置に供給され、工程Bに供される。また、固液分離により得られた母液Dの残りの全部または一部は、工程Gが行われる装置に接続された配管を介して供給され、工程Gに供される。
【0073】
[工程G]
工程Gは、工程Aで得られた粗溶液Aと工程Dで得られた母液Dの一部を混合して混合液Gを得る工程である。
【0074】
混合液Gは、工程Hを行う反応塔に移送する前に粗溶液Aと母液Dを混合して調製してもよいし、粗溶液Aと母液Dを、それぞれ工程Hを行う反応塔に移送して、反応塔内で調製することもできる。
【0075】
粗溶液Aと母液Dの混合比は、粗溶液Aが多すぎると工程Hで分解できない成分が増えてしまい、固化しやすくなったり、工程Hを行う反応槽から移送する配管が閉塞しやすくなる場合がある。そのため、母液Dに対する粗溶液Aの質量比(粗溶液Aの質量/母液Dの質量)は、10以下が好ましく、粗溶液A中のビスフェノールAの含有量等に応じて、5以下や、2以下、1以下など適宜決定することができる。母液Dに対する粗溶液Aの質量比の上限は特に制限はないが、リサイクルの観点や粗溶液A中のビスフェノールAの含有量等に応じて、例えば、0.0001以上や、0.0001以上、0.001以上、0.01以上、0.1以上など適宜決定することができる。
【0076】
また、工程Gは、工程Aで得られた粗溶液Aと工程Dで得られた母液Dの一部を混合して蒸留を行い、混合液Gを得る工程としてもよい(
図4参照)。例えば、粗溶液Aと母液Dを蒸留塔に移送することで、粗溶液Aと母液Dを混合して、さらにフェノールの一部を留去し、混合液Gを調製することができる。
蒸留は、温度100~250℃、圧力1kPa~100kPaで行うことができる。
【0077】
[工程H]
工程Hは、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理した後に再結合させることで得られるビスフェノールAを含む溶液H1、又は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理して得られる分解生成物を含む溶液H2を得る工程である。
【0078】
塩基性触媒としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、各種フェノール塩、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、各種フェノール塩等が挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。
【0079】
また、工程Hでは、通常、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理した後、又は、処理しながら、蒸留を行い、分解生成物を含む留分hを回収し、残渣を除去する。除去する残渣の量は、工程Hに供される混合液Gの量に応じて適宜調整される。
【0080】
工程Hにおいて、ビスフェノールAを分解する条件で混合液Gを処理したときの混合液G中のビスフェノールAの分解率は、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましい。上記の通り、工程Hでは、蒸留により分解生成物を蒸発させる。このとき、分解されなかった成分は、蒸発せずに、残渣中に残存する。分解率が低すぎると、蒸発せずに残渣中に残る成分が増加する。この成分は、廃棄物となるため好ましくない。なお、混合液G中のビスフェノールAの分解率は、混合液G中のビスフェノールAの量に対する留分hに含まれる分解生成物の量(分解生成物のモル数/混合液G中のビスフェノールAのモル数×100(%))として求めることができる。例えば、後述する工程H1では、混合液G中のビスフェノールAの量に対する留分h1に含まれるイソプロペニルフェノール量として求めることができる。
【0081】
以下、工程Hの具体的な例を、
図5及び
図6に基づいて説明する。
【0082】
[工程H1]
図5に示す工程H1は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理した後に再結合させることで得られるビスフェノールAを含む溶液H1を得る工程の一例である。工程H1は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理しながら蒸留を行い、分解生成物であるフェノールとイソプロペニルフェノールとを含む留分h1を得るアルカリ分解・蒸留工程と、フェノールとイソプロペニルフェノールを再結合させてビスフェノールAを生成させる再結合工程とを有する。ビスフェノールAを分解して生成したイソプロペニルフェノールは反応活性が高いため、速やかに再結合させないとビスフェノールA以外の縮合物と化してしまう。工程H1のように、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理しビスフェノールAを分解させながら蒸留を行うことで、生成したイソプロペニルフェノールが速やかに蒸発し、再結合工程に供給されるため、イソプロペニルフェノールの副反応を抑制することができる。
【0083】
(アルカリ分解・蒸留工程)
アルカリ分解・蒸留工程は、例えば、底部に反応槽を上部に蒸留塔を有する反応蒸留装置によって行うことができる。工程Gで得られた混合液Gと塩基性触媒を底部の反応槽に移送し、加熱することで、混合液Gに含まれるビスフェノールAをフェノールとイソプロペニルフェノールに分解する。このときに、ポリカーボネート樹脂の不完全分解物(ビスフェノールAの二量体や三量体などの多量体)やビスフェノールAの異性体(2,4-ビスフェノール)等もフェノールとイソプロペニルフェノールに分解される。また、クロマン化合物などの不純物は重質化反応が起こり、高沸点物(ビスフェノールAよりも高い沸点をもつ化合物)に変換される。なお、ビスフェノールA等をフェノールとイソプロペニルフェノールに効率的に分解するため、混合液Gの水分量は通常0.01質量%以下に調製される。
【0084】
アルカリ分解・蒸留の温度(すなわち、反応槽の温度)は、180℃以上で行うことが好ましく、200℃以上で行うことがより好ましい。また、350℃以下で行うことが好ましく、300℃以下で行うことが好ましい。
また、アルカリ分解・蒸留は、塔内の圧力が通常0.6kPa~常圧で行われ、好ましくは13~20kPaの条件で行うことができる。
【0085】
分解により生じたフェノールとイソプロペニルフェノールは蒸発し、反応塔の塔頂部から抜き出され、留分h1として回収され、再結合工程を行う反応槽に移送される。このとき、再結合工程を行う反応槽に、留分h1と共にフェノールを供給しフェノールとイソプロペニルフェノールが所定の割合となるようにしてもよい。また、蒸発せずに反応槽内に残る反応液には、高沸点物やビスフェノールAの着色の原因となる物質が濃縮される。この反応液を、反応塔の塔底部から抜き出すことで、残渣は除去される。
【0086】
留分h1は、イソプロペニルフェノールを1.0質量%以上含むことが好ましい。留分h1中のイソプロペニルフェノールの含有量が1.0質量%よりも少ないと再結合させた後のビスフェノールAの回収量が少なくなる。また、留分h1は、イソプロペニルフェノールを50質量%以下含むことが好ましく、30質量%以下含むことがより好ましい。イソプロペニルフェノールの含有量が多すぎるとビスフェノールA以外の縮合物と化してしまうためである。
【0087】
また、留分h1は、イソプロペニルフェノールとフェノールとからなることが好ましく、留分h1におけるフェノールの含有量は、99質量%以下が好ましい。また、50質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましい。
【0088】
(再結合工程)
再結合工程では、フェノールとイソプロペニルフェノールとを酸触媒と接触させることにより再結合させてビスフェノールAを生成させる。これにより、フェノールとイソプロペニルフェノールが縮合し、ビスフェノールAが生成し、ビスフェノールAを含む溶液H1が得られる。再結合のための酸触媒としては、スルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく、再結合は、例えば、スルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂が充填された反応装置で行うことができる。
【0089】
反応温度は、通常45~130℃、好ましくは50~100℃である。また、酸触媒との接触時間は、通常5~200分、好ましくは15~120分である。
【0090】
得られる溶液H1は、1.0質量%以上のビスフェノールAを含むことが好ましい。溶液H1中のビスフェノールAの含有量が1.0質量%よりも少ないとビスフェノールA以外の成分が多く生成して、ビスフェノールAに含まれる不純物が増加してしまい、工程Eで得られるビスフェノールAの品質が悪化する傾向にある。また、溶液H1は、ビスフェノールAを50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下が含むことがより好ましい。ビスフェノールAの含有量が多すぎると生成したビスフェノールAが析出して、再結合を行った反応槽から工程Bを行う反応装置に溶液H1を移送する配管が閉塞しやすくなるためである。
【0091】
また、工程H1は、残渣(蒸発せずに反応槽内に残る反応液)を酸触媒により分解する工程を有してもよい。これにより、アルカリ分解・蒸留工程において分解されなかったものが分解され、フェノールが生成する。例えば、残渣を酸触媒の存在下で150~300℃で分解した後、得られたフェノールを含む反応液h1bを蒸留(温度150~300℃、圧力0.1kPa~10kPa)することで、フェノールを回収することができ、このフェノールも工程Bに戻すことができる。このときの酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸が挙げられる。また、残渣は塩基性であるため、酸性条件で残渣を分解できるように混合する酸触媒の量が制御される。
【0092】
[工程H2]
図6に示す工程H2は、ビスフェノールAを分解するアルカリ性条件下で混合液Gを処理して得られる分解生成物を含む溶液H2を得る工程の一例である。工程H2は、ビスフェノールAを加水分解するアルカリ性条件下で前記混合液Gを処理し、アセトンとフェノールを含む反応液h2を得るアルカリ加水分解工程と、アルカリ加水分解工程で得られた反応液h2中のアセトン及び/又はフェノールを回収し、残渣は除去するアセトン・フェノール回収工程とを有する。このような工程H2は、反応液h2に含まれる水、塩基性触媒、アセトン、フェノール、及び残渣を効率良く分離させることができるため、好ましい。
【0093】
(アルカリ加水分解工程)
アルカリ加水分解工程では、例えば、工程Gで得られた混合液Gと塩基性触媒と水を反応装置に移送し、加熱することで、混合液Gに含まれるビスフェノールAをアセトンとフェノールに分解する。このときに、ポリカーボネート樹脂の不完全分解物(ビスフェノールAの二量体や三量体などの多量体)やビスフェノールAの異性体(2,4-ビスフェノール)等もフェノールとアセトンに分解される。また、クロマン化合物などの不純物は重質化反応が起こり、高沸点物(ビスフェノールAよりも高い沸点をもつ化合物)に変換される。これにより、アセトンやフェノール、不純物などを含む反応液h2が得られる。
【0094】
混合液Gと共に反応装置に供給される水の量は、多すぎると、分解効率が低下してしまい、少なすぎると分解出来ない成分が増加してアルカリ加水分解率が著しく低下してしまう傾向にある。混合液Gに対する水の質量比(水の質量/混合液Gの質量)は、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、300以下が好ましく、100以下がより好ましい。
【0095】
加水分解の温度は、180℃以上で行うことが好ましく、200℃以上で行うことがより好ましい。また、350℃以下で行うことが好ましく、300℃以下で行うことが好ましい。また、加水分解の圧力は、通常、その温度の蒸気圧となる。
【0096】
反応液h2は、アセトンを0.1質量%以上含むことが好ましい。反応液h2中のアセトンの含有量が1.0質量%よりも少ないとアセトンを適切に回収することが困難となる。また、反応液h2は、アセトンを30質量%以下含むことが好ましく、20質量%以下含むことがより好ましい。アセトンの含有量が多すぎるとアセトンが自己縮合して回収率が低下するためである。
【0097】
(アセトン・フェノール回収工程)
アセトン・フェノール回収工程では、まず、アルカリ加水分解工程で得られた反応液h2を中和し、蒸留することでアセトンを回収する。蒸発せずに残った反応液h2aには、フェノールや不純物等が濃縮される。次いで、反応液h2a中のフェノールを溶媒抽出し、フェノールを含む有機相h2bを得た後、有機相h2bを蒸留することでフェノールを回収する。また、フェノールの蒸留後に残った残渣を除去することで、不純物を除去できる。回収されたアセトンやフェノールはそれぞれ溶液H2として工程Bに供される。
【0098】
具体的には、反応液h2を中和して、アセトン回収蒸留塔に移送し、温度30~200℃、圧力0.1~100kPaの条件でアセトンを蒸留し、塔頂部からアセトンを抜き出す。また、蒸留塔内の反応液h2a(塔底液)は溶媒抽出装置に移送される。
【0099】
反応液h2aは、溶媒抽出装置内で、水不混和性有機溶媒で処理することで、フェノールを含む有機相h2bと、水相とを得て、これらを別々に抜き出す。水不混和性有機溶媒としては、tert-ブチルメチルエーテル、tert-アミルエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシルの酢酸エステル等が挙げられる。
【0100】
抜き出されたフェノールを含む有機相h2bはフェノール回収蒸留塔に移送され、温度100~300℃、圧力0.1~10kPaの条件でフェノールを蒸留し、塔頂部からフェノールが抜き出される。また、フェノール回収蒸留塔に残った残渣(塔底液)は、塔底部から抜き出される。
【0101】
また、アセトン・フェノール回収工程は、反応液h2からアセトンを蒸留し、抜き出した後に残った反応液を中和して、フェノールを蒸留して、アセトンとフェノールとをそれぞれ回収してもよい。
【0102】
[工程I]
工程Iは、工程Hで得られた溶液H1又は溶液H2を、工程Bの脱水縮合に供給する工程である。
例えば、再結合反応が行われる反応装置や、アセトン回収蒸留塔、フェノール回収蒸留塔と、工程Bが行われる縮合反応装置とを接続する配管を設け、再結合反応が行われる反応装置から抜き出された溶液H1や、アセトン回収蒸留塔から抜き出されたアセトン、フェノール回収蒸留塔から抜き出されたフェノールをこの配管を介して、工程Bに供することができる。
【0103】
<ビスフェノールの用途>
本発明のビスフェノールAの製造方法で得られるビスフェノールA(以下、「本発明のビスフェノールA」と記載する場合がある。)は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0104】
これらのうち、良好な機械物性を付与できるため、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0105】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
また、本発明は、本発明のビスフェノールAの製造方法で得られたビスフェノールAを用いて、ポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造方法(以下、「本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0106】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法にて得られるポリカーボネート樹脂は、本発明のビスフェノールAと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造することができる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールAと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0107】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノールAに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールAに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0108】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノールA及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0109】
炭酸ジフェニルとビスフェノールAとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0110】
ビスフェノールA又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下である。触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0111】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
【0112】
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【実施例】
【0113】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0114】
[原料及び試薬]
ポリカーボネート樹脂は、三菱ケミカルエンジニアリングプラスチックス株式会社のポリカーボネート樹脂「NOVAREX(登録商標)M7027BF」を使用した。
フェノール、トルエン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸、アセトニトリル、及び炭酸セシウムは、富士フィルム和光純薬株式会社の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社の製品を使用した。
【0115】
[陽イオン交換樹脂の調製]
陽イオン交換樹脂A:特許文献特開2012-201619号公報に記載の参考例1に従って、フェノールで完全に置換した、ダイヤイオン(登録商標)SK104を取得した。
陽イオン交換樹脂B:特許文献WO2012-108385号公報に記載の実施例1に従って、2-(2-メルカプトエチル)ピリジン変性強酸型陽イオン交換樹脂を取得した。
【0116】
[分析]
ビスフェノールAの生成確認と純度、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分(フェノールとビスフェノールA以外の成分とする)の定量は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC-2010A、Waters社 5μm 150mm×4.6mmID
・方式:低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 アセトニトリル
B液 85%リン酸:水=1mL:999mLの溶液
分析時間0分では、A液:B液=35:65(体積比、以下同様。)、分析時間0~5分は溶離液組成をA液:B液=35:65とした後、分析時間5~40分で徐々にA液:B液=90:10にした。
・流速:0.85mL/分
・検出波長:280nm
【0117】
炭酸ジメチルの分析は、ガスクロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製 GC-2014
Agilent DB-1 0.530mm×30m 1.5μm
・検出方法:FID
・気化室温度:230℃
・検出器温度:300℃
・分析時間0分から5分では、カラム温度を50℃に保ち、分析時間5~30分はカラム温度を280℃まで徐々に昇温し、分析時間30分から40分はカラム温度を280℃に維持した。
・定量法:ビフェニルを内部標準とした内部標準方法
【0118】
[粘度平均分子量(Mv)]
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0119】
[ビスフェノールの溶融色]
ビスフェノールの溶融色は、日電理化硝子社製試験管「P-24」(2mmφ×200mm)にビスフェノールAを1g、炭酸ジフェニルを19g入れて、174℃で30分溶融させ、日本電色工業社製「OME7700」を用い、そのハーゼン色数を測定した。得られたハーゼン色数に、炭酸ジフェニルによる希釈率を乗じることで、ビスフェノールAのハーゼン色数を算出した。
【0120】
[pHの測定]
pHの測定は、株式会社堀場製作所pH計「pH METER ES-73」を用いて、フラスコから取り出した25℃の水相に対して実施した。
【0121】
<実施例1>
[工程A-1]
(PC分解工程)
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、ポリカーボネート樹脂(80g、ポリカーボネート樹脂の繰り返し単位は254g/モルであることから、80g÷254g/モル=0.315モル)、水(30g)、フェノール(250g)、25質量%水酸化ナトリウム水溶液(320g)を室温で入れた。反応液はスラリー状であった。
【0122】
その後、内温を80℃に昇温し、80℃を維持したまま5時間反応させ、反応液a1(均一溶液)を得た。
【0123】
(中和工程)
得られた反応液a1にトルエン(200g)を入れた後、水相がpH8.6となるまで35質量%塩酸を加えたところ、二酸化炭素のガスが発生した。
【0124】
その後、攪拌を停止して油水分離し、水相をフラスコから抜き出し、有機相a2を得た。得られた有機相a2の一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAの生成を確認した。
【0125】
(濃縮工程a2)
得られた有機相a2を、温度計、攪拌翼、留出管、及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に10kPaまで下げて、水、トルエン、フェノールの一部を留去させて有機相a2-2を得た。
【0126】
得られた有機相a2-2を窒素で復圧して、内温をゆっくり降温させて30℃とし、スラリーa3を得た。得られたスラリーa3を濾過して、リサイクルビスフェノールA(20g)を得た。
【0127】
リサイクルビスフェノールAを得るまでに要した時間は、9時間であった。
【0128】
なお、得られたリサイクルビスフェノールAの一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAは66.4質量%含まれていた。また、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分がビスフェノールA換算で0.3質量%含まれていた。
【0129】
[工程B-1a]~[工程D-1a]、[工程F-1a]
特許文献特開2005-220071号公報に記載の実施例1に従って、母液Dを取得した。
得られた母液Dの組成は、83質量%のフェノール、10質量%のビスフェノールA、及びその他の成分7質量%であった。
【0130】
[工程G-1a]
前記母液D(100g)と工程A-1で得られたリサイクルビスフェノールA(20g)を、温度計、攪拌翼、留出管、オイルバス及び圧力調整機を備えた蒸留装置に入れた。次いで、徐々に180℃まで昇温し、留出量を見ながら、内圧を常圧から徐々に10kPaまで下げて、フェノール(19g)を留去し、混合液Gを得た。その後、窒素で復圧した。
混合液Gに含まれるビスフェノールAは、23g(100g×10.0質量%+20g×66.4質量%=23g)であった。
【0131】
[工程H-1a]
(アルカリ分解・蒸留工程)
混合液Gに、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液(0.4g)を添加し、フル真空とした。その後、オイルバスの温度を230℃まで上昇して、留分h1(80g)を得た。得られた留分h1の一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、フェノールが93質量%、イソプロペニルフェノールが7質量%含まれていることが分かった。アルカリ分解・蒸留工程でのビスフェノールAの分解率は、41%(80g×7質量%÷134g/モル÷23g×228g/モル×100%=41%)であった。なお、得られた釜残は、廃棄した。
【0132】
(再結合工程)
陽イオン交換樹脂A(1g)を、攪拌翼、留出管、水バスを備えた丸底フラスコに入れた。この丸底フラスコに、得られた留分h1(80g)を速やかに入れ、70℃で2時間反応させた。その後、陽イオン交換樹脂Aを除くためデカンテーションして、溶液H1を得た。得られた溶液H1の一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAが11質量%含まれていた。
【0133】
[工程I-1a]、[工程B-1b]
前記溶液H1(20g)、前記母液D(170g)、試薬のフェノール(2g)、試薬のアセトン(8g)、陽イオン交換樹脂B(2g)を、攪拌翼、留出管、水バスを備えた丸底フラスコに入れ、70℃で5時間反応させた。その後、陽イオン交換樹脂Bを除くためデカンテーションして、反応液Bを得た。
【0134】
[工程C-1b]
得られた反応液B全量を、温度計、攪拌翼、留出管、オイルバス及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に10kPaまで下げて、未反応のアセトン、水、フェノールの一部を留去して、濃縮液Cを得た。
【0135】
[工程D-1b]
得られた濃縮液Cを窒素で復圧して、内温をゆっくり降温させて30℃とし、スラリー液を得た。得られたスラリー液を濾過して、ケーキd(11g)を得た。
【0136】
[工程E-1b]
得られたケーキd(11g)とトルエン(60g)を、攪拌翼、留出管及び攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに入れ、80℃で溶解させて有機相e1を得た。得られた有機相e1を脱塩水50gで5回洗浄し、有機相e2を得た。
【0137】
得られた有機相e2を10℃まで降温し、スラリーe3を得た。得られたスラリーe3を濾過して、ケーキe4を得た。
【0138】
得られたケーキe4を、ロータリーエバポレータで乾燥させて、ビスフェノールA(4.1g)を得た。得られたビスフェノールAのハーゼン色数はAPHA20であった。また、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールA純度は99.8質量%であった。
なお、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は検出下限以下であった。
【0139】
<実施例2>
[工程A-2]
(PC分解工程)
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、ポリカーボネート樹脂(80g、0.315モル)、水(30g)、フェノール(240g)、トリエチルアミン(10g)を室温で入れた。反応液はスラリー状であった。
【0140】
その後、内温を80℃に昇温し、80℃を維持したまま5時間反応させて、反応液a1(均一溶液)を得た。反応中、二酸化炭素の発生が確認された。
【0141】
得られた反応液a1の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAの生成が19.6質量%であった。反応液a1の重量は、80g+30g+240g+10g=360gであり、生成したビスフェノールは19.6質量%×360g÷228.29g/モル=0.309モルとなり、反応率は0.309モル÷0.315モル×100=98%であった。
【0142】
(濃縮工程a1)
得られた反応液a1を、温度計、攪拌翼、留出管、及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に10kPaまで下げて、水、トリエチルアミン、フェノールの一部を留去させてリサイクルビスフェノールA(260g)を得た。
【0143】
リサイクルビスフェノールAを得るまでに要した時間は、7時間であった。
【0144】
なお、得られたリサイクルビスフェノールAの一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAは27.0質量%含まれていた。また、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分がビスフェノールA換算で0.4質量%含まれていた。
【0145】
[工程B-2a]~[工程H-2a]、[工程B-2b]~[工程E-2b]
実施例1の工程A-1で得られたリサイクルビスフェノールA(20g)の代わりに、工程A-2で得られたリサイクルビスフェノールA(50g)を用いた以外は、実施例1の[工程B-1a]~[工程H-1a]、[工程B-1b]~[工程E-1b]と同様にして、ビスフェノールA(4.5g)を得た。
得られたビスフェノールAのハーゼン色数はAPHA18であった。また、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールA純度は99.8質量%であった。
なお、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は検出下限以下であった。
【0146】
<実施例3>
[工程A-3]
(PC分解工程)
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、ポリカーボネート樹脂(80g、0.31モル)、フェノール(240g)、メタノール(23g、0.72モル、ポリカーボネート樹脂中の繰り返し単位の炭酸エステルのモル数に対するモル比0.72モル÷0.31モル=2.3)、トリエチルアミン(15g、15g÷101g/モル=0.15モル、ポリカーボネート樹脂中の繰り返し単位の炭酸エステルのモル数に対するモル比0.15モル÷0.31モル=0.48)を室温で入れた(液量は、80g+240g+23g+15g=358g)。
【0147】
その後、内温を85℃に昇温した。85℃に到達した時の反応液には、未溶解分のポリカーボネート樹脂が見られた。そのまま、85℃を維持したまま4時間反応させて均一の反応液a1を得た。
【0148】
得られた反応液a1の一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAが19.5質量%(19.5÷100×358g÷228g/モル÷0.31モル=99モル%)生成していることを確認した。
また、得られた反応液a1の一部を、ガスクロマトグラフィーで組成を確認したところ、炭酸ジメチルが6.5質量%(6.5÷100×358g÷90g/モル÷0.31モル=83モル%)生成していることを確認した。
【0149】
(濃縮工程a1)
得られた反応液a1を、温度計、攪拌翼、留出管、及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に100hPaまで下げて、メタノール、炭酸ジメチル、フェノールの一部を留去させてリサイクルビスフェノールA(262g)を得た。
【0150】
リサイクルビスフェノールAを得るまでに要した時間は、7時間であった。
【0151】
なお、得られたリサイクルビスフェノールAの一部を、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAは27.1質量%含まれていた。また、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分がビスフェノールA換算で0.4質量%含まれていた。
【0152】
[工程B-3a]~[工程H-3a]、[工程B-3b]~[工程E-3b]
実施例1の工程A-1で得られたリサイクルビスフェノールA(20g)の代わりに、工程A-3で得られたリサイクルビスフェノールA(50g)を用いた以外は、実施例1の[工程B-1a]~[工程H-1a]、[工程B-1b]~[工程E-1b]と同様にして、ビスフェノールA(4.7g)を得た。
得られたビスフェノールAのハーゼン色数はAPHA15であった。また、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールA純度は99.8質量%であった。
なお、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は検出下限以下であった。
【0153】
<比較例1>
実施例1の工程AのPC分解工程、中和工程および濃縮工程a2と同様にして、有機相a2-2を得た。
【0154】
得られた有機相a2-2を脱塩水50gで5回洗浄し、有機相a2-3を得た。得られた有機相a2-3を20℃まで降温し、スラリーを得た。得られたスラリーを濾過して、ケーキを得た。得られたケーキを、ロータリーエバポレータで乾燥させて、ビスフェノールA(35g)を得た。
【0155】
ビスフェノールAを得るまでに要した時間は、17時間であった。
【0156】
高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールAの純度は99.8質量%であった。また、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分がビスフェノールA換算で0.1質量%含まれていた。
【0157】
実施例1~3と比較例1で得られたビスフェノールAを比較したところ、ビスフェノールAの純度は同等であった。また、目視評価の結果、比較例1に比べて、実施例1~3で得られたフェノールAの色調は良好(無色透明)であった。比較例1で得られたビスフェノールAには、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分がビスフェノールA換算で0.1質量%残存しているのに対して、実施例1~3で得られたビスフェノールAでは、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は未検出であり、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤がビスフェノールAの色調を悪化させていると考えられる。
【0158】
<比較例2>
前記母液D(170g)、試薬のフェノール(2g)、試薬のアセトン(8g)、陽イオン交換樹脂B(2g)を、攪拌翼、留出管、水バスを備えた丸底フラスコに入れ、70℃で5時間反応させた。その後、陽イオン交換樹脂Bを除くためデカンテーションして、反応液Bを得た。
【0159】
得られた反応液B全量を、温度計、攪拌翼、留出管、オイルバス及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に10kPaまで下げて、未反応のアセトン、水、フェノールの一部を留去し、窒素で復圧して、濃縮液C(170g)を得た。
【0160】
得られた濃縮液C(170g)と実施例3の工程A-3で得られたリサイクルビスフェノールA(50g)を、攪拌翼、留出管、水バス備えた丸底フラスコに入れて、80℃に加温して混合液を得た。内温をゆっくり降温させて30℃とし、スラリーを得た(晶析工程)。得られたスラリーを濾過して、ケーキd(15g)を得た。
【0161】
得られたケーキd(15g)とトルエン(60g)を、攪拌翼、留出管及び攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに入れ、80℃で溶解させて有機相e1を得た。得られた有機相e1を脱塩水50gで5回洗浄し、有機相e2を得た。
【0162】
得られた有機相e2を10℃まで降温し、スラリーe3を得た。得られたスラリーe3を濾過して、ケーキe4を得た。
【0163】
得られたケーキe4を、ロータリーエバポレータで乾燥させて、ビスフェノールA(6g)を得た。得られたビスフェノールAのハーゼン色数はAPHA89であった。また、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールA純度は99.5質量%であった。
【0164】
なお、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は0.08質量%であった。
【0165】
実施例1~3、及び比較例2において、リサイクルビスフェノールA(リサイクルBPA)を混合する液、リサイクルビスフェノールA(リサイクルBPA)と混合させた後の処理、得られたビスフェノールA(BPA)のハーゼン色数、ビスフェノールA(BPA)の純度、ポリカーボネート樹脂(PC)の未分解物及び安定剤と思われる成分について、表1に纏めた。表1により、リサイクルビスフェノールAを母液Dと混合させ、工程Hを行い、工程Bに戻すことで、工程Eで得られたビスフェノールAのハーゼン色数が改善され、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は検出下限となることが分かる。ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は、工程Hで得られる釜残と共に除去されたと考えられる。
【0166】
【0167】
<実施例4>
[工程G-4a]
実施例1の工程E-1aで得られた母液D(18g)と実施例3の工程A-3で得られたリサイクルビスフェノールA(16g)を、圧力計、熱電対、攪拌翼を備えたオートクレーブに入れ、混合液Gを得た。
【0168】
[工程H-4a]
(アルカリ加水分解工程)
オートクレーブに、更に、水(64g)、水酸化ナトリウム(2g)を入れ、窒素を流通させて置換し、オートクレーブを気密した。電気炉を250℃にして、オートクレーブをセットし、内温を250℃になるまで加熱した。250℃到達後、内圧が3.7MPaとなったことを確認し、2時間反応させた。その後、オートクレーブを電気炉から外し、氷水を入れた洗面器に1時間浸漬させた。その後、オートクレーブを開放し、三角フラスコに移し、反応液h2を得た。
反応液h2の一部を抜き出し、ガスクロマトグラフで組成を確認したところ、アセトンが1.3質量%確認された。
【0169】
(アセトン・フェノール回収工程)
反応液h2に硫酸2.0gを加えて中和後、温度計、攪拌翼、精留塔、ウォーターバスを備えた蒸留装置に供給した。常圧下、加熱初留分としてリサイクルアセトン(0.9g)と釜残を得た。
【0170】
得られた釜残を、温度計、攪拌翼、冷却管を備えたフルジャケットセパラブルフラスコに全量移し、ジイソプロピルエーテルを加え、50℃で油水分離させ、水相を除去して、有機相h2bを得た。得られた有機相h2bを、温度計、攪拌翼を備えた単蒸留装置に供給した。常圧下、温度を上げてジイソプロピルエーテルを留出及び回収した後に、減圧にしてリサイクルフェノール(20g)を得た。
【0171】
[工程B-4b]
実施例1の工程E-1aで得られた母液D(170g)、前記リサイクルフェノール(2g)、前記リサイクルアセトン(0.9g)、試薬アセトン(8.1g)、陽イオン交換樹脂B(2g)を、攪拌翼、留出管、水バスを備えた丸底フラスコに入れ、70℃で5時間反応させた。その後、陽イオン交換樹脂Bを除くためデカンテーションして、反応液Bを得た。
【0172】
[工程C-4b]
得られた反応液B全量を、温度計、攪拌翼、留出管、オイルバス及び圧力調整機を備えた蒸留装置に移し、留出量を見ながら、内温を徐々に180℃まで昇温し、内圧を常圧から徐々に10kPaまで下げて、未反応のアセトン、水、フェノールの一部を留去して、濃縮液Cを得た。
【0173】
[工程D-4b]
得られた濃縮液Cを窒素で復圧して、内温をゆっくり降温させて30℃とし、スラリーを得た。得られたスラリーを濾過して、ケーキd(10g)を得た。
【0174】
[工程E-4b]
得られたケーキd(10g)とトルエン(60g)を、攪拌翼、留出管及び攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに入れ、80℃で溶解させて有機相e1を得た。得られた有機相e1を脱塩水50gで5回洗浄し、有機相e2を得た。
【0175】
得られた有機相e2を10℃まで降温し、スラリーe3を得た。得られたスラリーe3を濾過して、ケーキe4を得た。
【0176】
得られたケーキe4を、ロータリーエバポレータで乾燥させて、ビスフェノールA(3.2g)を得た。得られたビスフェノールAのハーゼン色数はAPHA22であった。また、高速液体クロマトグラフィーで組成を確認したところ、ビスフェノールA純度は99.8質量%であった。
【0177】
なお、ポリカーボネート樹脂の未分解物及び安定剤と思われる成分は検出下限以下であった。
【0178】
<比較例3>
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、ポリカーボネート樹脂(80g、ポリカーボネート樹脂の繰り返し単位は254g/モルであることから、80g÷254g/モル=0.315モル)、水酸化ナトリウム(50g)を室温で入れた。その後、230℃のオイルバスに浸漬させ、分解させた。2時間後、加熱を停止して、80℃のオイルバスに浸漬させて、冷却した。得られた固体に、前記母液Dを加えたが、全く溶解させることが出来ず、これ以上工程を進めることを断念した。
【0179】
<実施例5>
撹拌機及び留出管を備えた内容量45mLのガラス製反応槽に、実施例1~3で得られたビスフェノールAを混合してビスフェノールA10.00g(0.04モル)、炭酸ジフェニル9.95g(0.05モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液18μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を220℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
【0180】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールAと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。
【0181】
続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。
【0182】
その後、反応槽外部温度を290℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0183】
その後、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。290℃に昇温してから重合を終了するまでの時間は120分であった。
【0184】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽からポリカーボネート樹脂を抜出し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は26500であった。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明によれば、廃プラスチック等に含まれるポリカーボネート樹脂からビスフェノールAを製造でき、得られるビスフェノールAは、ポリカーボネート樹脂等の樹脂の原料、硬化剤、添加剤などとして用いることができるため産業上有用である。