(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】塗布装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B05C 13/02 20060101AFI20241217BHJP
B05C 1/02 20060101ALI20241217BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20241217BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241217BHJP
B65H 5/06 20060101ALI20241217BHJP
B41J 13/02 20060101ALI20241217BHJP
B05C 5/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
B05C13/02
B05C1/02 102
B05C9/14
B05C11/10
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B65H5/06 H
B65H5/06 F
B41J13/02
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2021008879
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】沼田 洋典
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-067368(JP,U)
【文献】特開2019-141830(JP,A)
【文献】特開2015-020345(JP,A)
【文献】特開2010-260363(JP,A)
【文献】特開2012-166891(JP,A)
【文献】特開2013-169781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0279969(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 13/02
B05C 1/02
B05C 9/14
B05C 11/10
B41J 2/01
B65H 5/06
B41J 13/02
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枚葉メディアに処理液を塗布する塗布ローラの上流側から下流側に当該枚葉メディアを搬送する搬送ローラ対を備える塗布装置であって、
前記搬送ローラ対により構成される前記枚葉メディアの搬送経路において、前記塗布ローラの次に配置される下流側搬送ローラ対は、前記枚葉メディアの全幅を覆う長さ寸法を有するローラにより構成され、
前記下流側搬送ローラ対を構成する一方のローラは、前記枚葉メディア
を所定の力で挟持するように
、当該枚葉メディアの厚み方向において当該枚葉メディアの幅全体に挟持力を付与する挟持力付与設定手段を備える、
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記挟持力付与設定手段は、付与する挟持力の大きさを可変させる挟持力可変手段を備える、
請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記挟持力可変手段は、前記処理液の塗布量に応じて前記挟持力を変更し、当該塗布量が相対的に多くなるときには当該挟持力を強くし、当該塗布量が相対的に少なくなるときには当該挟持力を弱くする、
請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記下流側搬送ローラ対を構成する一方のローラは、前記処理液が塗布された枚葉メディアに加熱する加熱手段を備える、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記加熱手段は、前記処理液の塗布量に応じて前記ローラの温度を変更し、当該塗布量が相対的に多くなるときには当該温度を高くし、当該塗布量が相対的に少なくなるときには当該温度を低くする、
請求項4に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記枚葉メディアの種別を設定し、また、前記処理液の塗布量を設定する情報の入力インターフェースとしての操作部と、
前記操作部を介して設定される前記種別と前記塗布量に応じて前記挟持力付与設定手段に対し前記挟持力の変更を指示する制御手段と、
を備える請求項2乃至5のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項7】
枚葉メディアに対し液体を付着させて画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部に前記枚葉メディアを搬送する搬送手段と、
前記画像形成部の上流において前記枚葉メディアに処理液を塗布する塗布部と、を備える画像形成装置であって、
前記塗布部が請求項1乃至6のいずれか一項に記載の塗布装置であることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
枚葉の媒体としてのシートメディアに液体インクを付着させて画像を形成する画像形成装置が知られている。また、液体インクを付着させる前に、液体インクの凝集効果を発揮する処理液をシートメディアに塗布する塗布装置も知られている。
【0003】
シートメディアの画像形成面を汚さないように搬送するための搬送機構として、点接触によって当該シートメディアを搬送する技術が知られている(特許文献1を参照)。また、シートメディアの画像形成面を汚さないように、画像形成面の反対面(裏面)を吸引しながら搬送経路に沿って当該シートメディアを搬送する技術も知られている(特許文献2を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートメディアに処理液を塗布する塗布装置において、特許文献1に開示されているような点接触ローラを用いる場合、処理液の塗布面としての画像形成面と点接触ローラとの接触によってシートメディアを搬送することになる。この場合、シートメディアの搬送力が不足し、特に、高速で画像形成処理を行うときに求められる高速搬送を行うには課題がある。また、シートメディアの画像形成面と搬送のためローラの接触が点接触することになるので、画像形成面に塗布された処理液の均一性が損なわれやすくなり、その結果、処理液が塗布された面に形成される画像の品質が低下する、という課題もある。
【0005】
なお、特許文献2に開示されているような搬送機構を採用すると、装置全体が大型になり、装置のコストが増加することになる。
【0006】
本発明は、枚葉のシートメディアに塗布された処理液の均一性を維持しつつ下流工程へ搬送できる塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は塗布装置に関し、枚葉メディアに処理液を塗布する塗布ローラの上流側から下流側に当該枚葉メディアを搬送する搬送ローラ対を備える塗布装置であって、前記搬送ローラ対により構成される前記枚葉メディアの搬送経路において、前記塗布ローラの次に配置される下流側搬送ローラ対は、前記枚葉メディアの全幅を覆う長さ寸法を有するローラにより構成され、前記下流側搬送ローラ対を構成する一方のローラは、前記枚葉メディアを所定の力で挟持するように、当該枚葉メディアの厚み方向において当該枚葉メディアの幅全体に挟持力を付与する挟持力付与設定手段を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、枚葉のシートメディアに塗布された処理液の均一性を維持しつつ下流工程へ搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る印刷装置の実施形態としてのプリンタの例を示す概略説明図。
【
図2】本発明に係る塗布装置の実施形態としての塗布ユニットの要部構造を示す構成図。
【
図3】第一実施形態に係る下流側搬送ローラ対の構成を示す構成図。
【
図4】第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対の構成を示す構成図。
【
図5】第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御構成を示す機能ブロック図。
【
図6】第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御フローを示すフローチャート。
【
図7】第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御テーブルの例を示す図。
【
図8】第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対の構成を示す構成図。
【
図9】第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御構成を示す機能ブロック図。
【
図10】第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御フローを示すフローチャート。
【
図11】第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御テーブルの例を示す図。
【
図12】第四実施形態に係る下流側搬送ローラ対の構成を示す構成図。
【
図13】第四実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御構成を示す機能ブロック図。
【
図14】第四実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御フローを示すフローチャート。
【
図15】第四実施形態に係る下流側搬送ローラ対の制御テーブルの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る画像形成装置の実施形態としてのプリンタ1000の全体構成を示す図である。なお、プリンタ1000は、インクジェット方式のものを例示する。
【0011】
[画像形成装置の実施形態]
図1は、枚葉のシート状の媒体としての枚葉メディアの一例であるシートPに対して液体インクを吐出して画像を形成するインクジェット方式のプリンタ1000を例示している。プリンタ1000は、搬入部100と、塗布部500と、画像形成部200と、乾燥部300と、搬出部400と、を備えている。なお、塗布部500は、本発明に係る塗布装置の実施形態に相当する。
【0012】
搬入部100は、シートPを複数枚積載して保持するシート搬入トレイ101と、シート搬入トレイ101からシートPを一枚ずつ分離して送り出す給送装置102と、を備えている。なお、給送装置102は、ローラやコロを用いた装置や、エアー吸引を利用した装置など、シートPを分離して搬送する機能を発揮するものであれば、あらゆる構成を採用してよい。給送装置102によりシート搬入トレイ101から送り出されたシートPは、塗布部500へと送り出される。
【0013】
塗布部500は、シートPに処理液を塗布する塗布装置としての塗布ユニット600と、塗布ユニット600に対してシートPを搬送する搬送機構であって塗布ユニット600の上流側に配置される複数の上流側搬送ローラ対510と、塗布ユニット600の下流側に配置される複数の下流側搬送ローラ対520と、制御部800と、塗布ユニット600に処理液を供給する液供給ユニット700と、を備えている。給送装置102から塗布部500に搬送されてきたシートPは、複数の上流側搬送ローラ対510により塗布ユニット600へと搬送される。塗布ユニット600では、シートPに処理液を塗布する。処理液が塗布されたシートPは、複数の下流側搬送ローラ対520により画像形成部200へ送り出される。
【0014】
画像形成部200は、レジストローラ対201と、シート搬送装置202と、液体吐出部205と、上流側渡し胴206と下流側渡し胴207と、を備えている。レジストローラ対201は、塗布部500から送り出されたシートPが到達した後、所定のタイミングでシートPをシート搬送装置202に送り出す。
【0015】
シート搬送装置202は、外周面にシートPを担持して回転するドラム203と、ドラム203の外周面に吸引力を生じてシートPを担持させる吸引装置204などを備えている。これらの構成により、シートPはドラム203の周面に吸着しながら搬送されて、液体吐出部205を通過する。
【0016】
ドラム203の上流側には、レジストローラ対201から送り込まれたシートPを受け取ってドラム203との間でシートPを渡す上流側渡し胴206が設けられている。ドラム203の下流側には、ドラム203によって搬送されるシートPを乾燥部300へ受け渡す下流側渡し胴207が設けられている。
【0017】
シートPは、レジストローラ対201によって所定のタイミングで上流側渡し胴206へと送られて、上流側渡し胴206に設けられた把持手段(グリッパ)によって先端が把持される。シートPを把持した上流側渡し胴206は回転して、シートPをドラム203との対向位置に移動させて、ドラム203にシートPを受け渡す。
【0018】
ドラム203の表面にも、把持手段(グリッパ)が設けられており、上流側渡し胴206に把持されて搬送されてくるシートPを、上流側渡し胴206から受け取り、シートPを把持する。ドラム203の表面には、複数の吸引穴が分散して形成され、吸引装置204によってドラム203の所要の吸引穴から内側へ向かう吸い込み気流を発生させる。上流側渡し胴206からドラム203へ受け渡されたシートPは、グリッパによって先端が把持されるとともに、吸引装置204による吸い込み気流によってドラム203上に吸着担持され、ドラム203の回転に伴って搬送される。
【0019】
液体吐出部205は、ドラム203に担持されて搬送されるシートPに向けて異なる色の液体を吐出して付与する構成として吐出ユニット208を備えている。吐出ユニット208には、例えば、ブラック(K)の液体を吐出する吐出ユニット208a、シアン(C)の液体を吐出する吐出ユニット208b、マゼンタ(M)の液体を吐出する吐出ユニット208c、イエロー(Y)の液体を吐出する吐出ユニット208dが含まれる。
【0020】
また、吐出ユニット208には、YMCKのいずれか、或いは、白色、金色(銀色)などの特殊な液体の吐出に使用する吐出ユニット208eと吐出ユニット208fが、さらに含まれる。なお、さらに、上記の他に、表面コート液などの処理液を吐出する吐出ユニット208を設けてもよい。
【0021】
吐出ユニット208は、例えば、複数のノズルを配列したノズル列を有する複数の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)で構成されるフルライン型ヘッドである。
【0022】
液体吐出部205を構成する吐出ユニット208は、画像形成処理に使用する画像形成情報に応じた駆動信号によって、それぞれの吐出動作を行うように制御される。吐出ユニット208は、ドラム203に担持されたシートPが液体吐出部205との対向領域を通過するときに、吐出ユニット208から各色の液体を吐出する。この吐出動作によって、シートPに対して、画像形成情報に応じた画像が印刷される。
【0023】
液体吐出部205によって画像形成処理が行われたシートPには液体が付与される。そして、液体が付与されたシートPは、ドラム203の表面から下流側渡し胴207に送り出される。下流側渡し胴207の表面にもシートPの先端を把持する把持手段(グリッパ)が設けられている。ドラム203のグリッパから下流側渡し胴207のグリッパへとシートPの先端の掴み替えが行われることで、シートPはドラム203の表面から下流側渡し胴207に受け渡される。そして、シートPは下流側渡し胴207の回転によって、下流側渡し胴207の周面を経て乾燥部300へ送られる。
【0024】
乾燥部300は、画像形成部200の下流側渡し胴207から渡されるシートPを吸引した状態で搬送する吸引搬送機構部301と、吸引搬送機構部301で搬送されるシートP上の液体を乾燥させる乾燥機構部302とを備えている。
【0025】
搬出部400は、複数のシートPが積載される搬出トレイ401を備える。乾燥部300から搬送されてくるシートPは、搬出トレイ401に順次積み重ねられて保持される。
【0026】
[塗布装置の第一実施形態]
次に、本発明に係る塗布装置の第一実施形態について説明する。
図2は、塗布部500が備える塗布ユニット600の全体構成を示す図である。
図2に示すように、塗布部500の要部を構成する塗布ユニット600は、転写ローラ601、塗布ローラ604、計量ローラ650、汲み上げローラ608を有している。
【0027】
転写ローラ601は、TRアーム602の一端に回転可能に支持されている。TRアーム602は、他端にTRばね603が接続されている。TRアーム602の中間位置には、TRアーム602を回動可能な状態で支えて、TRアーム602が回動するときの回転中心となるアーム回転軸605が配置されている。転写ローラ601は、TRばね603の引張力によって、アーム回転軸605を回転中心とするTRアーム602の回動する方向に配置されている塗布ローラ604に押し付けられるように構成されている。
【0028】
TRアーム602には、TRカム606が接触している。TRカム606が回転することで、TRばね603の引張力に抗う方向に付勢し、この力の作用によって転写ローラ601が塗布ローラ604から離間する方向に移動することができる。TRカム606の回転動作は、カムモータ607の駆動により行われるので、カムモータ607を制御することで転写ローラ601が塗布ローラ604に接触する力を調整し、シートPへの処理液の塗布量を調整できる。
【0029】
塗布ローラ604と計量ローラ650は、汲み上げローラ608に弾性圧接している。汲み上げローラ608は、塗布ユニット600の側板に回転可能に支持されている。また、汲み上げローラ608は、塗布ユニット600の側板に対して、転写ローラ601に接触又は離間する方向に支持されている。
【0030】
汲み上げローラ608は、供給液室609の側板に回転可能に支持されている。供給液室609は、支点613に揺動可能に支持されている。また、供給液室609の側板には、アーム610が設けられている。アーム610は、ピン611を介して、圧縮バネ612により付勢されている。この圧縮バネ612の付勢によって、汲み上げローラ608が計量ローラ650に押し付けられ、その結果、計量ローラ650が塗布ローラ604に弾性圧接する。
【0031】
ピン611には、液室カム614が接触している。液室カム614が回転することによって、ピン611は上下に移動する。ピン611の移動によって、圧縮バネ612の圧縮度合いが変わる。圧縮バネ612の圧縮度合いによって生ずる付勢力により、供給液室609がピン611に沿って移動する。その結果、塗布ローラ604と計量ローラ650とのニップ荷重と、計量ローラ650と汲み上げローラ608とのニップ荷重が変化する。液室カム614の回転動作は、液室カムモータ615の駆動により行われる。
【0032】
また、転写ローラ601、塗布ローラ604、計量ローラ650、汲み上げローラ608は、ギヤで連結されていて、塗布モータ616により回転駆動されるように構成されている。なお、これら転写ローラ601、塗布ローラ604、計量ローラ650、汲み上げローラ608は、弾性圧接による接触により回転させることも可能である。
【0033】
供給液室609には、処理液としての凝集液617が収容されている。凝集液617には、汲み上げローラ608が浸漬されている。したがって、汲み上げローラ608が回転することで、凝集液617が汲み上げローラ608の外周面に付着して汲み上げられる。供給液室609には、凝集液617の液位を検出するための液面センサ618が取り付けられている。液面センサ618の出力を制御部800が監視することで、汲み上げローラ608が凝集液617に浸かる位置を調整できる。
【0034】
シートPに対して凝集液617を塗布する塗布動作を行うと、凝集液617が消費されて、供給液室609の貯留されている凝集液617の液位が低くなる。そして、液面センサ618が検出する凝集液617の液位が、予め規定する閾値を下回るときに、供給弁703を開放して、供給ポンプ702を駆動する。供給ポンプ702が駆動すると、供給タンク701に貯留されている凝集液617を供給液室609に送ることができる。これによって、塗布ローラ604の塗布動作によって消費される凝集液617が補充される。そして、所定の液位になった時点で供給弁703を閉じて、供給ポンプ702を停止させる。これによって、供給液室609に貯留する凝集液617の液位を一定に保つことができる。
【0035】
凝集液617は、貯留されている時間によって粘度が増加するなどの経年劣化を起こすことがある。劣化した凝集液617を塗布動作に使用することは、画像形成面における液体インクの凝集効果などにおいて所定の性能を発揮しない可能性があるため好ましくない。そこで、一定の経年劣化が生じていると考えられる状態に至った凝集液617は、供給液室609から排出して使用しない状態にする。そこで、塗布ユニット600には、供給液室609から凝集液617を排出させる排出機構として、排液弁704と排液ポンプ705ならびに廃液タンク706が設けられている。排液弁704を開放して、排液ポンプ705を駆動させると、供給液室609に貯留している凝集液617を廃液タンク706へ排出できる。
【0036】
[塗布ユニット600における塗布動作の例]
次に、シートPに対して凝集液617を塗布する塗布動作の流れについて説明する。上記の構成を備える塗布ユニット600において、供給液室609に貯留されている凝集液617が汲み上げローラ608の回転によって汲み上げられる。汲み上げられた凝集液617は、汲み上げローラ608と計量ローラ650との接触位置に運ばれて、これらの接触位置(ニップ部)を通過するときに、凝集液617の量が調整されて計量ローラ650の表面へと転写される。
【0037】
計量ローラ650の表面に転写された凝集液617は、塗布ローラ604との接触位置(ニップ部)に運ばれる。そして、計量ローラ650と塗布ローラ604の接触位置(ニップ部)を凝集液617が通過するとき、薄膜化された凝集液617が塗布ローラ604の表面へと転写される。
【0038】
塗布ローラ604の表面に形成された凝集液617の薄膜は、転写ローラ601との接触位置(ニップ部)に運ばれて、シートPと接触し、シートPの画像形成面へと転写される。以上のような流れで凝集液617がシートPに塗布される。
【0039】
塗布ローラ604に対するシートPの搬送方向の上流側には、塗布ローラ604と転写ローラ601との接触部にシートPを送り込む上流側搬送ローラ対510が配置されている。また、上流側搬送ローラ対510から塗布ローラ604と転写ローラ601のニップへの経路には、上流側ガイド板対626が配置されている。複数の上流側搬送ローラ対510によって搬送されてきたシートPは、上流側ガイド板対626を通過して、塗布ローラ604と転写ローラ601の接触部へと搬送される。そして、シートPは、塗布ローラ604と転写ローラ601の接触部の間を通過するときに凝集液617が塗布されて下流側へと搬送される。この場合、塗布ローラ604と接触する側の面が処理液塗布面になり、下流の工程において画像形成面になる。
【0040】
塗布ローラ604の下流側には、凝集液617が塗布された直後のシートPを、下流へと搬送するための下流側搬送ローラ対520が配置されている。また、下流側搬送ローラ対520へとシートPを導く下流側ガイド部材628が配置されている。
【0041】
図2に示すように、下流側搬送ローラ対520は塗布ローラ604の下流側において画像形成部200への搬送経路を構成するように複数配置されている。そのうち、少なくとも、塗布ローラ604の次に配置されている下流側搬送ローラ対520は、シートPの全幅を覆う程度の長さ寸法を有するローラ対によって構成されているものとする。言い換えると、転写ローラ601と塗布ローラ604の次にシートPを挟持するローラ対としての下流側搬送ローラ対520は、シートPの全幅に接触可能な接触面を備えるローラにより構成されている。
【0042】
なお、塗布ローラ604の下流に配置される下流側搬送ローラ対520の全てが、以下において説明する各実施形態に係る構成を備えていてもよい。
【0043】
[第一実施形態に係る下流側搬送ローラ対520]
図3は、下流側搬送ローラ対520をシートPの搬送方向から見た図である。下流側搬送ローラ対520は、シートPの搬送方向(Y)に対する直交方向(X)、すなわち、シートPの幅方向においてシートPの幅寸法よりも長い二本のローラによって構成されている。下流側搬送ローラ対520は、シートPの全幅を覆うローラ対であって、シートPを挟持するときにシートPと接触する部分が、シートPの幅全体に均等に接する構造を備えている。
【0044】
下流側搬送ローラ対520は、駆動ローラとしての下側ローラ521と、従動ローラとしての上側ローラ522の対によって構成されている。下側ローラ521と上側ローラ522は、いずれも、両端にベアリング523が配置されていて、このベアリング523を介して軸支されている。
【0045】
また、下側ローラ521の回転軸の一方の端部には、プーリー527が取り付けられている。プーリー527は、ベルト526を介してモータプーリー525と繋がっている。モータプーリー525は、搬送モータ524の回転軸に取り付けられている。したがって、搬送モータ524の回転を制御することで、下側ローラ521の回転を制御可能に構成されている。
【0046】
従動ローラとしての上側ローラ522の回転軸の両端には、引張バネ531が取り付けられている。上側ローラ522を軸支するベアリング523は、塗布部500のフレームを構成する部材に設けられている縦長穴に保持されている。したがって、上側ローラ522は、回転軸への引張バネ531による付勢によって、上下方向に可動できる状態になっている。引張バネ531は、上側ローラ522を下側ローラ521に向かって付勢する付勢部材として機能し、上側ローラ522と下側ローラ521でシートPを挟持する力(挟持力)を付与する挟持力付与設定手段としても機能する。この構成によって、上側ローラ522と下側ローラ521によってシートPが挟持される。
【0047】
この上側ローラ522と下側ローラ521がシートPを挟持するときの接触部としてのニップ部は、シートPの幅全体を覆うように形成されていることになる。そして、このニップ部をシートPが通過するときは、駆動ローラである下側ローラ521が回転することでシートPへの搬送力が伝達されて、シートPが搬送方向下流側へと搬送される。このとき、シートPとの摩擦力によって上側ローラ522が従動して連れ回るようになっている。
【0048】
下流側搬送ローラ対520長さ方向の中央と、シートPの幅方向の中央とが重なり合う位置関係になるように、シートPの搬送経路は形成されている。すなわち、シートPは幅方向において均等に振り分けられる状態で搬送される。
【0049】
以上説明をした下流側搬送ローラ対520は、シートPの全幅に対して点接触ではなく線接触をする構造を有していて、この線接触によってシートPに搬送力を伝達するように構成である。したがって、下流側搬送ローラ対520は、シートPに対して均一に接触して搬送する搬送ローラ対として機能する。
【0050】
すなわち、搬送手段としての下流側搬送ローラ対520は、凝集液617が塗布されたシートPの塗布面に対し、挟持力発生手段としての引張バネ531によってシートPを好適な力で幅方向全体に均等に接触している。このような構成によって、従来技術のように部分的な接触による塗布面の部分的な擦れを防止できる。その結果、塗布面に対する擦れによる画像ムラが生じることを防止できる。
【0051】
なお、搬送モータ524は、シートPの搬送に要する搬送力を下流側搬送ローラ対520において発生できるものであればよい。例えば、搬送モータ524として、DCブラシレスモータやステッピングモータを用いることができる。
【0052】
また、下側ローラ521と上側ローラ522は、いずれも弾力を有する素材からなる。例えば、シートPを挟持したときに、シートPに傷を付けない素材であればよく、ゴムや樹脂などを用いればよい。なお、特に駆動ローラとしての下側ローラ521はゴムを素材とすることがより好適である。
【0053】
[第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対520a]
次に、本発明に係る塗布装置の第二実施形態について説明する。第一実施形態と異なる点は、塗布部500が備える塗布ローラ604の下流側に配置される搬送ローラ対の構成にある。以下、異なる点について詳細に説明する。
【0054】
図4を用いて第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対520aについて説明する。
図4は下流側搬送ローラ対520aをシートPの搬送方向から見た図である。以下の説明において、第一実施形態として説明した下流側搬送ローラ対520と同じ構成については、同じ符号を付して、詳細な説明を省略し、本実施形態における特異なる部分について、詳細に説明をする。
【0055】
なお、塗布ローラ604の下流に配置される搬送ローラ対の全てが、以下において説明する下流側搬送ローラ対520aでもよい。
【0056】
下流側搬送ローラ対520aは、従動ローラとしての上側ローラ522の回転軸の両端において、引張バネ531の一方の端部が回転軸に固定されていて、引張バネ531の他方の端部が挟持力可変手段としての板カム532に固定されている。したがって、板カム532を回転させると、引張バネ531の他方の端部の位置が可変し、その結果、引張バネ531の引っ張られる度合いが変化し、結果として、引張バネ531による挟持力が変化する。
【0057】
挟持力付与設定手段としての引張バネ531のバネ力によって挟持力が設定され、その挟持力は、所定の回転位置によってバネ力を可変させる挟持力可変手段としての板カム532によって決まる。すなわち、引張バネ531と板カム532によって挟持力可変設定手段が構成される。なお、板カム532の回転は、モータなどによって制御されればよい。
【0058】
[制御ブロック]
図5は、本実施形態に係る下流側搬送ローラ対520aの挟持力を制御する挟持力制御手段と含む制御ユニットの機能ブロックである。本実施形態に係る制御ブロックは、制御部800と、操作部801と、記憶部802と、センサ情報部803と、搬送ローラニップ設定部804と、塗布ローラ駆動部805と、搬送ローラ駆動部806と、により構成されている。
【0059】
制御部800は、所定の制御プログラムを実行するCPUや、制御プログラムを格納しているROM及びCPUの演算処理のワークエリア等として機能するRAMなどを供えている。制御部800が、制御プログラムを実行することによって、その他の各部の動作を制御する。すなわち、制御部800が塗布部500の動作の全体を統括的に制御する。
【0060】
操作部801は、塗布部500の筐体の外側面や天面に配置されるタッチパネルなどの入力インターフェースからの入力を受け付けて、制御部800に渡す。また、操作部801は、制御部800の処理結果を表示する機能や、塗布部500の動作の状態を報知する機能も供え、報知手段としても機能する。操作部801を介して、制御部800には、シートPの銘柄や坪量、厚みなどシートPの特性を示す特性情報としてのシート特性情報を設定することができる。また、操作部801を介して、制御部800に対し、シートPに対し塗布する凝集液617の量(塗布量)を指定することができる。
【0061】
なお、操作部801に相当する機能を、プリンタ1000が備える操作パネルによって実現してもよい。その場合、プリンタ1000が備える操作パネルによって、シート特性情報の設定や塗布量の指定が行われ、その情報が制御部800に通知される。また、プリンタ1000に接続した指示端末(たとえばコンピューター)の操作画面を介して、上記の情報の設定及び指定を行うように構成してもよい。
【0062】
記憶部802には、複数のシート特性情報によって区別されて、指定される塗布量ごとに関連付けられるローラニップ力情報がテーブルデータとして格納されている。記憶部802に格納されるテーブルデータの一例として、塗布量とローラニップ力情報との相関を格納するニップ力設定テーブル8021を
図7にて例示する。
【0063】
図7に示すように、ニップ力設定テーブル8021は、ローラニップ力(挟持力)を設定するためのローラニップ力情報を、シート種別と、凝集液617の塗布量に基づいて選択可能にするために、これらを関連付けて格納するテーブルデータの一例である。まず、シート特性情報に含まれるシート種別に対して、予め好適な塗布量は計測されていて、その好適な塗布量(シート種別に対する適正塗布量の規定値)が、塗布量における「普通」に相当する。そして塗布量が「普通」のときの適正なニップ力を、ローラニップ力の「普通」とする。
【0064】
操作部801を介して、利用者がシート種別を「コート紙」に設定し、さらに、凝集液617の塗布量を「多い」に設定した場合、下流側搬送ローラ対520aにおけるローラニップ力が「強い」に相当する力になるように、板カム532を回転させる。このときローラニップ力の「強い」は、「普通」に対して相対的に決定される値であって、どの程度の度合いを「強い」とするかは、予め規定するパラメータに基づくほか、「普通」よりも大きな力となるようなデータを別途格納しておけばよい。
【0065】
センサ情報部803は、シートPの搬送状況を検知するシート検知センサや、凝集液617の液位を検知する液面センサ618などの各種センサの出力値を取得して、制御部800に渡す。制御部800は、センサ情報に基づいて、シートPの搬送位置を検知して上流側搬送ローラ対510の動作や、下流側搬送ローラ対520の動作、塗布モータ616や液室カムモータ615の動作の制御をする。
【0066】
搬送ローラニップ設定部804は、制御部800に渡されたローラニップ力情報に基づいて、板カム532の回転位置を制御することで、上側ローラ522を下側ローラ521に圧接する引張バネ531の引張力を設定する。この制御によって、下流側搬送ローラ対520におけるニップ力が所定の大きさに設定される。
【0067】
塗布ローラ駆動部805は、制御部800からの指令に基づいて塗布モータ616を所定の回転速度で回転するように駆動を制御する。
【0068】
搬送ローラ駆動部806は、制御部800からの指令に基づいて搬送モータ524を所定の回転速度で回転するように駆動を制御する。これによって、シートPの搬送速度が制御される。
【0069】
[第二実施形態に係る処理フロー]
次に、本実施形態に係る制御部800における制御処理の流れについて、
図6のフローチャートを用いて説明する。まず、塗布装置の利用者が操作部801を介してシートPの種類を指定するための「シート種別」を設定する(S601)。
【0070】
続いて、利用者が操作部801を介してシートPに塗布する凝集液617の量を指定するための「塗布量」を設定する(S602)。
【0071】
続いて、設定された「シート種別」と「塗布量」に基づいて、制御部800は記憶部802を介してニップ力設定テーブル8021に格納されている「ローラニップ力」を読み込む(S603)。
【0072】
制御部800は、読み込んだ「ローラニップ力」に基づいて、搬送ローラニップ設定部804に対して、下流側搬送ローラ対520aのニップ力が所定の値になるように指示をする。搬送ローラニップ設定部804は、指示されたニップ力になるように、板カム532を回転させて固定する(S604)。
【0073】
その後、制御部800は、搬送ローラ駆動部806を介して上流側搬送ローラ対510と下流側搬送ローラ対520の回転を制御し、塗布ローラ駆動部805を介して塗布ローラ604などの回転を制御して、シートPの搬送動作を実行する(S605)。
【0074】
上記の処理フローにおいて制御される下流側搬送ローラ対520aの挟持力(ローラニップ力)の制御について、補足的に説明する。例えば、シートPがコート紙の場合に、凝集液617が浸透しにくく、シートPの表面に凝集液617が残るため擦れやすくなるので、シートPの表面の摩擦抵抗の変化に大きく影響し、搬送性能にも影響する。塗布量を「多い」に設定すると、特に下流側の搬送における搬送性能に影響がでる。そこで、下流側搬送ローラ対520aのローラニップ力を「強い」に設定する。
【0075】
シート種別が「コート紙」であっても、凝集液617の塗布量の設定が「普通」であれば、予め「普通」の塗布量に適したローラニップ力として指定されている「普通」を設定する。
【0076】
一方、シート種別が「コート紙」であっても、凝集液617の塗布量の設定が「少ない」であれば、予め「普通」の塗布量に適したローラニップ力より弱い設定でも、所定の搬送状態を得られるので、ローラニップ力を「弱い」に設定する。
【0077】
なお、本実施形態では、シート種別が「普通紙」の場合は、凝集液617が浸透しやすく、シートPの表面の摩擦抵抗への影響も少ない。そこで、下流側搬送ローラ対520のローラニップ力は、塗布量に関わらず「弱い」に設定する。これらのシートPの特性に対応した安定搬送を確保するための手段である。
【0078】
以上のように、塗布部500においてシートPが「コート紙」の場合に、凝集液617の塗布量を多くする場合は、下流側でのローラニップ力を強くすることで、搬送時のスリップ(速度ムラ)を防止することが可能となる。その結果、スリップ(速度ムラ)によるシートPの塗布面と下流側搬送ローラ対520aとの擦れによる、シートPの表面性の変化を抑制でき、表面性の変化による液体インクの凝集性の差による画像ムラを防止できる。
【0079】
また、シート種別が「コート紙」であっても凝集液617の塗布量を「少ない」に設定された場合や、シートPの種別が「普通紙」の場合は、ローラニップ力を「弱い」に設定する。これによって、シートPの塗布面と下側ローラ521のグリップが強くなりすぎることを防止できる。その結果、ローラ形状や搬送スキュー等による、シートPの搬送状態を乱す原因となる外力が、シートPに加わったとき、その外力をシートPの幅方向に逃がすことができるので、外力によりシートPに形成されるシワを防止できる。
【0080】
なお、本実施形態では、凝集液617の塗布量の区分を「多い」、「普通」、「少ない」という三段階で制御しているが、これに限定するものではなく、例えば、「多い」と「少ない」の二段階で制御してもよいし、四段階以上で区分して制御してもよい。
【0081】
なお、ローラニップ力の「強い」や「弱い」は、特定のシート種別に対する凝集液617の塗布量によって決まるパラメータである。塗布量は事前に実際に塗布した結果の評価によって推奨される量として「普通」となる塗布量が決まるパラメータである。
【0082】
以上、下流側搬送ローラ対520aによれば、シートPのローラニップ力をシートPの種別と凝集液617の塗布量に応じて適正に設定できるので、搬送時のスリップ(速度ムラ)や、シートPにおけるシワの発生を防止でき、画像ムラの発生も防止できる。
【0083】
[第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対520b]
次に、本発明に係る塗布装置の第三実施形態について説明する。第一実施形態及び第二実施形態と異なる点は、ローラ対を構成する一方にシートPの加熱をして表面にある凝集液617の乾燥を促進させる加熱手段を備えていることにある。以下、異なる点について詳細に説明する。
【0084】
図8を用いて第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対520bについて説明する。
図8は下流側搬送ローラ対520bをシートPの搬送方向から見た図である。以下の説明においても、第一実施形態として説明した下流側搬送ローラ対520と同じ構成については、同じ符号を付して、詳細な説明を省略し、本実施形態における特異なる部分について、詳細に説明をする。
【0085】
なお、塗布ローラ604の下流に配置される搬送ローラ対の全てが、以下において説明する下流側搬送ローラ対520bでもよい。
【0086】
下流側搬送ローラ対520bは、駆動ローラとしての下側ローラ521bの内部に、加熱手段としてのローラヒータ528が備わっている。また、下側ローラ521bの表面の温度を計測する温度センサ529が下側ローラ521bの長さ中心付近に配置されている。なお、ローラヒータ528は、例えば、ハロゲンヒータであって下側ローラ521bの内部から表面の温度を調整可能なものであればよい。
【0087】
[制御ブロック]
図9は、本実施形態に係る下流側搬送ローラ対520bの温度を制御する挟持力制御手段と含む制御ユニットの機能ブロックである。本実施形態に係る制御ブロックは、制御部800bと、操作部801と、記憶部802bと、センサ情報部803bと、ヒータ温度設定部807と、塗布ローラ駆動部805と、搬送ローラ駆動部806と、により構成されている。操作部801、塗布ローラ駆動部805、搬送ローラ駆動部806、はすでに説明した構成と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0088】
制御部800bは、所定の制御プログラムを実行するCPUや、制御プログラムを格納しているROM及びCPUの演算処理のワークエリア等として機能するRAMなどを供えている。制御部800bが、制御プログラムを実行することによって、その他の各部の動作を制御する。すなわち、制御部800bが塗布部500の動作の全体を統括的に制御する。
【0089】
記憶部802bには、複数のシート特性情報によって区別されて、指定される塗布量ごとに関連付けられるローラ温度設定情報がテーブルデータとして格納されている。記憶部802bに格納されるテーブルデータの一例として、塗布量とローラ温度設定情報との相関を格納するローラ温度設定テーブル8022を
図11にて例示する。
【0090】
図11に示すように、ローラ温度設定テーブル8022は、下側ローラ521bの表面温度が所定の温度になるようにするためのローラ温度設定情報を、シート種別と凝集液617の塗布量に関連付けて格納するテーブルデータである。まず、シート特性情報に含まれルシート種別に対して、予め好適な塗布量は計測されていて、その好適な塗布量(シート種別に対する適正塗布量の規定値)が、塗布量における「普通」に相当する。そして塗布量が「普通」のときの適正なローラ温度をシート種別に応じて設定し、その設定を基準として、その他の塗布量に関連づく設定を予め決めておく。
【0091】
操作部801を介して、利用者が、シート種別を「コート紙」に設定し、凝集液617の塗布量を「多い」に設定した場合、下側ローラ521bの表面温度が「高い」に相当する温度になるように、ヒータ温度設定部807がローラヒータ528の温度を制御する。
【0092】
センサ情報部803bは、シートPの搬送状況を検知するシート検知センサや、凝集液617の液位を検知する液面センサ618の他、温度センサ529などの各種センサの出力値を取得して、制御部800bに渡す。制御部800bは、温度センサ529からの出力に基づいて、ヒータ温度設定部807に対してローラヒータ528のローラ温度設定情報を渡す。
【0093】
ヒータ温度設定部807は、制御部800bに渡されたローラ温度設定情報に基づいて、ローラヒータ528のDutyを制御して、所定の温度になるように制御する。
【0094】
[第三実施形態に係る処理フロー]
次に、本実施形態に係る制御部800bにおける制御処理の流れについて、
図10のフローチャートを用いて説明する。塗布装置の利用者が操作部801を介してシートPの種類を指定するための「シート種別」と凝集液617の塗布量を設定する(S1001,S1001)。
【0095】
続いて、設定された「シート種別」と「塗布量」に基づいて、制御部800bは記憶部802bを介してローラ温度設定テーブル8022に格納されている「ローラ温度」を読み込む(S1003)。
【0096】
制御部800bは、読み込んだ「ローラ温度」に基づいて、ヒータ温度設定部807に対して、下側ローラ521bの表面温度が所定の温度になるように制御する。ヒータ温度設定部807は、センサ情報部803bの出力値を参照しながら、ローラヒータ528のDutyを制御し、下側ローラ521bの表面温度を設定する制御する(S1004)。
【0097】
その後、制御部800bは、搬送ローラ駆動部806を介して上流側搬送ローラ対510と下流側搬送ローラ対520bの回転を制御し、塗布ローラ駆動部805を介して塗布ローラ604などの回転を制御して、シートPの搬送動作を実行する(S1005)。
【0098】
上記の処理フローにおいて制御される下流側搬送ローラ対520bの温度制御について、補足的に説明する。例えば、シートPがコート紙の場合であり、塗布量が多い場合は、下側ローラ521bの温度が高温になるように制御をする。また、シートPがコート紙であり、塗布量が普通の場合は、下側ローラ521bの温度が低温になるように制御をする。また、シートPが普通紙であり、塗布量が少ない場合は、下側ローラ521bの温度を室温レベルにするため、ローラヒータ528をオフにする。
【0099】
以上のように、塗布部500においてシートPが「コート紙」の場合に、凝集液617の塗布量を多くするときは、下側ローラ521bの温度を高温にするので、凝集液617の揮発成分の蒸発を促進して、塗布面を安定した状態にできる。これによって、搬送時にシートPと搬送ローラとの接触や擦れによる塗布面への悪影響を防止できる。
【0100】
また、シート種別が「コート紙」であっても凝集液617の塗布量を「普通」に設定された場合は、下側ローラ521bの表面温度を低温にし、凝集液617の揮発成分の促進を図るとともに、シートPの加熱しすぎを防止する。その結果、シートPと搬送ローラ対との接触や擦れによる影響が生じにくい状態にでき、かつ、加熱によってシートPにダメージを与えてしまうことを防止して、搬送シワや搬送不良(ジャム)の発生を防止できる。
【0101】
さらに、シート種別が「コート紙」であっても凝集液617の塗布量が「少ない」で設定された場合や、シート種別が「普通紙」の場合は、ローラヒータ528をオフにする。本ケースでも、シートPへの積極的な加熱をせずとも、下流側搬送ローラ対520bとの接触による、シートPが擦れることでの塗布面の品質への悪影響は少ないと考えられるからである。ローラヒータ528をオフにすることで、シートPへの加熱によるダメージに起因する搬送シワや搬送不良(ジャム)の発生を防止できる。
【0102】
なお、本実施形態では、温度制御の区分を「高い」、「低い」、「室温(ヒータオフ)」という三段階で制御しているが、これに限定するものではなく、例えば、「高温」、「中温」、「低温」の三段階で制御してもよい。
【0103】
また、塗布量の区分を「多い」「普通」、「少ない」という三段階で区別しているが、これを、四段階以上で区分して制御してもよい。
【0104】
[第四実施形態に係る下流側搬送ローラ対520c]
次に、本発明に係る塗布装置の第四実施形態について説明する。本実施形態は、第二実施形態と第三実施形態との組み合わせに相当する。以下、主な構成について詳細に説明する。なお、塗布ローラ604の下流に配置される搬送ローラ対の全てが、以下において説明する下流側搬送ローラ対520cでもよい。
【0105】
本実施形態に係る下流側搬送ローラ対520cは、
図12に示すように、第二実施形態に係る下流側搬送ローラ対520aが備える挟持力可変設定手段と同様の、引張バネ531と板カム532を上側ローラ522の両端に備えている。また、第三実施形態に係る下流側搬送ローラ対520bと同様に、下側ローラ521bの内部にローラヒータ528を備え、下側ローラ521bの表面温度を計測する温度センサ529を備えている。
【0106】
[制御ブロック]
図13は、本実施形態に係る下流側搬送ローラ対520cの挟持力及び温度を制御する挟持力制御手段及び温度制御手段と含む制御ユニットの機能ブロックである。本実施形態に係る制御ブロックは、制御部800cと、操作部801と、記憶部802cと、センサ情報部803bと、搬送ローラニップ設定部804と、塗布ローラ駆動部805と、搬送ローラ駆動部806と、ヒータ温度設定部807により構成されている。
【0107】
なお、操作部801、センサ情報部803b、搬送ローラニップ設定部804、塗布ローラ駆動部805、搬送ローラ駆動部806と、ヒータ温度設定部807については、すでに説明をした構成と同様であるから詳細な説明を省略する。
【0108】
記憶部802cには、複数のシート特性情報によって区別されて、指定される塗布量ごとに関連付けられるローラニップ力情報とローラ温度設定情報がテーブルデータとして格納されている。記憶部802cに格納されるテーブルデータの一例として、塗布量とローラニップ力情報及びローラ温度設定情報との相関を格納するニップ力温度設定テーブル8023を
図15にて例示する。
【0109】
図15に示すように、ニップ力温度設定テーブル8023は、ローラニップ力(挟持力)を設定するためのローラニップ力情報と、ヒータ温度を設定するためのローラ温度設定情報とを、シート種別と、凝集液617の塗布量に関連付けて格納する。まず、シート特性情報に含まれルシート種別に対して、予め好適な塗布量は計測されていて、その好適な塗布量(シート種別に対する適正塗布量の規定値)が、塗布量における「普通」に相当する。そして塗布量が「普通」のときの適正なニップ力を、ローラニップ力の「普通」とする。また、そして塗布量が「普通」のときの適正なローラ温度をシート種別に応じて設定し、その設定を基準として、その他の塗布量に関連づく設定を予め決めておく。
【0110】
操作部801を介して、利用者がシート種別を「コート紙」に設定し、さらに、凝集液617の塗布量を「多い」に設定した場合、下流側搬送ローラ対520aにおけるローラニップ力が「強い」に相当する力になるように、板カム532を回転させる。このときローラニップ力の「強い」は、「普通」に対して相対的に決定される値であって、どの程度の度合いを「強い」とするかは、予め規定するパラメータに基づくほか、「普通」よりも大きな力となるようなデータを別途格納しておけばよい。
【0111】
また、利用者がシート種別を「コート紙」に設定し、さらに、凝集液617の塗布量を「多い」に設定した場合、下側ローラ521bの表面温度が「高い」に相当する温度になるように、ヒータ温度設定部807がローラヒータ528の温度を制御する。
【0112】
[第四実施形態に係る処理フロー]
次に、本実施形態に係る制御部800cにおける制御処理の流れについて、
図14のフローチャートを用いて説明する。塗布装置の利用者が操作部801を介してシートPの種類を指定するための「シート種別」と凝集液617の塗布量を設定する(S1401,S1401)。
【0113】
続いて、設定された「シート種別」と「塗布量」に基づいて、制御部800cは記憶部802cを介してニップ力温度設定テーブル8023に格納されている「ローラニップ力」と「ローラ温度」を読み込む(S1403)。
【0114】
制御部800cは、読み込んだ「ローラニップ力」に基づいて、搬送ローラニップ設定部804に対して、下流側搬送ローラ対520aのニップ力が所定の値になるように指示をする。搬送ローラニップ設定部804は、指示されたニップ力になるように、板カム532を回転させて固定する(S1404)。また、読み込んだ「ローラ温度」に基づいて、ヒータ温度設定部807に対して、下側ローラ521bの表面温度が所定の温度になるように制御する。ヒータ温度設定部807は、センサ情報部803bの出力値を参照しながら、ローラヒータ528のDutyを制御し、下側ローラ521bの表面温度を設定する制御する(S1405)。
【0115】
その後、制御部800cは、搬送ローラ駆動部806を介して上流側搬送ローラ対510と下流側搬送ローラ対520cの回転を制御し、塗布ローラ駆動部805を介して塗布ローラ604などの回転を制御して、シートPの搬送動作を実行する(S1406)。
【0116】
上記の処理フローにおいて制御される下流側搬送ローラ対520cの挟持力(ローラニップ力)と温度制御について、補足的に説明する。例えば、シートPがコート紙の場合に、凝集液617が浸透しにくく、シートPの表面に凝集液617が残るため擦れやすくなるので、シートPの表面の摩擦抵抗の変化に大きく影響し、搬送性能にも影響する。塗布量を「多い」に設定すると、特に下流側の搬送における搬送性能に影響がでる。そこで、下流側搬送ローラ対520cのローラニップ力を「強い」に設定して、下側ローラ521bの温度が高温になるように制御をする。
【0117】
また、シート種別が「コート紙」であっても凝集液617の塗布量を「普通」に設定された場合は、予め「普通」の塗布量に適したローラニップ力として指定されている「普通」を設定し、下側ローラ521bの表面温度を低温に設定する。
【0118】
以上のように、下流側搬送ローラ対520cによれば、シート種別と、凝集液617の塗布量に応じて、スリップ(速度ムラ)によるシートPの塗布面と下側ローラ521bとの擦れによる、シートPの表面性の変化を抑制できる。その結果、表面性の変化による液体インクの凝集性の差による画像ムラを防止できる。また、凝集液617の揮発成分の促進を図るとともに、シートPの加熱しすぎを防止することで、シートPと搬送ローラ対との接触や擦れによる影響が生じにくい状態にできる。また、加熱によるシートPにダメージを防止して、搬送シワや搬送不良(ジャム)を防止できる。
【0119】
なお、本実施形態においても、温度制御の区分を「高い」、「低い」、「室温(ヒータオフ)」という三段階で制御しているが、これに限定するものではなく、例えば、「高温」、「中温」、「低温」の三段階で制御してもよい。
【0120】
また、塗布量の区分を「多い」「普通」、「少ない」という三段階で区別しているが、これを、四段階以上で区分して制御してもよい。
【0121】
以上説明をした本発明に係る第一実施形態によれば、搬送手段と処理液の塗布後のメディア(シートP)との部分的な接触による塗布面の部分的な擦れを防止でき、画像ムラが生じることを防止できる。また、画像形成処理の高速化の要求にも対応可能な搬送力も確保でき、かつ、装置の構成を安価なものにしてもこれらを達成することができる。
【0122】
また、第二実施形態によれば、シートPの種別や、処理液の塗布量(塗布状態)に適正な挟持力により対応可能にし、シートPの搬送時のスリップ(速度ムラ)や、シワの発生を防止でき、画像ムラが生じることを防止できる。また、コート紙で塗布量が多いときは、強い圧力とすることで、搬送時のスリップ(速度ムラ)を防止することで画像ムラを防止できる。そして、コート紙で塗布量が少ないとき、及び普通紙の場合は、弱い圧力とすることで、塗布面とローラのグリップが強くなりすぎることで、ローラ形状に起因するシワの発生することを防止できる。
【0123】
また、第三実施形態によれば、塗布面の乾燥を促進し擦れ・接触による画像差異が出にくい状態にでき、適正な熱によりメディアへの熱ダメージによる用紙変形を防止できる。
【0124】
また、第四実施形態によれば、コート紙のときは塗布量が多いほどローラヒータ528の設定温度を高くし、塗布量が少ないとき制御温度を低くする。これによりメディアに過剰な熱を与えることを防止でき用紙への熱ダメージによる変形・しわを防止でき、搬送時のスリップ(速度ムラ)を防止することで画像ムラを防止できる。普通紙のときは、塗布液が浸透し、シートP表面の摩擦変化が少ないので、設定温度を低くすることによりメディアに過剰な熱を与えることを防止でき用紙への熱ダメージによる変形・しわを防止でき、ローラ形状に起因するシワの発生することも防止できる。
【0125】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者であれば、開示した内容から様々な変形例を実現することが可能である。そのような変形例も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
100 :搬入部
101 :シート搬入トレイ
102 :給送装置
200 :画像形成部
201 :レジストローラ対
202 :シート搬送装置
203 :ドラム
204 :吸引装置
205 :液体吐出部
206 :上流側渡し胴
207 :下流側渡し胴
208 :吐出ユニット
300 :乾燥部
301 :吸引搬送機構部
302 :乾燥機構部
400 :搬出部
401 :搬出トレイ
500 :塗布部
510 :上流側搬送ローラ対
520 :下流側搬送ローラ対
521 :下側ローラ
522 :上側ローラ
523 :ベアリング
524 :搬送モータ
525 :モータプーリー
526 :ベルト
527 :プーリー
528 :ローラヒータ
529 :温度センサ
531 :引張バネ
532 :板カム
534 :搬送ローラニップ設定部
600 :塗布ユニット
601 :転写ローラ
604 :塗布ローラ
617 :凝集液
618 :液面センサ
626 :上流側ガイド板対
628 :下流側ガイド部材
800 :制御部
801 :操作部
802 :記憶部
803 :センサ情報部
804 :搬送ローラニップ設定部
805 :塗布ローラ駆動部
806 :搬送ローラ駆動部
807 :ヒータ温度設定部
1000 :プリンタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0127】
【文献】特開2012-153504号公報
【文献】特開2009-297962号公報