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特許7604969熱電変換素子の製造方法、及び、それを用いた熱電変換モジュールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】熱電変換素子の製造方法、及び、それを用いた熱電変換モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/817 20230101AFI20241217BHJP
   H10N 10/853 20230101ALI20241217BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20241217BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H10N10/817
H10N10/853
H10N10/01
B22F3/14 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021047269
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2021158355
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2020055252
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】東平 知丈
(72)【発明者】
【氏名】中沢 駿仁
(72)【発明者】
【氏名】島田 武司
(72)【発明者】
【氏名】松田 三智子
(72)【発明者】
【氏名】能川 玄也
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0076358(KR,A)
【文献】特開2011-249442(JP,A)
【文献】特開2000-252441(JP,A)
【文献】特開2019-169534(JP,A)
【文献】特開2018-160560(JP,A)
【文献】国際公開第2010/075028(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/00
B22F 1/00
B22F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sbを含む熱電変換材料の粉末と、TiとAlを含む合金箔とを接触させた状態で焼結し、拡散防止層を備えた熱電変換材料を得る工程、を有し、
前記TiとAlを含む合金箔は、結晶の方位差を判別可能な断面観察手法において、5000μm以上の広さの領域を観察したとき、10度以上の方位差の粒界で規定される結晶粒の数が1.0個以下/5000μmであり、且つ、
前記TiとAlを含む合金箔は、Alの含有量が8mass%以上36mass%以下であり、Ti Al化合物を有する
ことを特徴とする熱電変換素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電変換素子の製造方法で得られた熱電変換素子と、電極とを、前記拡散防止層を介して接合する工程を有することを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱を電気に変換する熱電変換素子の製造方法、及び、それを用いた熱電変換モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、工場の排熱等の高温部の熱を有効に利用するため、熱を電気に変換する熱電変換モジュールの検討が進められている。熱電変換モジュールは、多数の熱電変換素子からなる。熱電変換素子は、高温側と低温側との温度差に応じた起電力を発生し、N型およびP型の熱電変換素子を直列に接続し、一方の面を高温側として、他方の面を低温側として配置することで、熱を電気に変換することができる。
【0003】
近年、電気的な特性(性能指数ZT)の高い熱電変換材料として、スクッテルダイト構造を有し、Sbを含む、Sb系熱電変換材料が注目されている。このスクッテルダイト系の熱電変換素子を用いれば、例えば、高温部が300℃~500℃程度となる場合において、効率よく熱を電気に変換することができる。
【0004】
このような熱電変換素子は、熱電変換モジュールとして使用される際に、高温側と低温側とにそれぞれ電極が接合される。しかし、特に高温側においては、電極と熱電変換素子との間で固相拡散が進行し、熱電変換素子の一部が劣化するおそれがある。また、特に高温側では、熱サイクルが生じるため、接合部における拡散層にクラック等が生じる恐れがある。このような状態は、電気抵抗の増大などを引き起こし、電気的な性能の低下の要因となる。
【0005】
これに対し、特許文献1では、Sb系スクッテルダイト熱電素子と電極材料との拡散を抑制するため、Ti粉末またはTi粉末とAl粉末の混合粉末を熱電素子合金粉末の端部に充填し同時焼結する方法が提案されている。また、特許文献2では、Sbを含む合金からなる熱電変換材料と、前記熱電変換材料に積層され、TiおよびAlを含む合金からなる拡散防止層と、を含む焼結体からなり、前記拡散防止層を構成する焼結体のネック部がTi-Al合金化しており、焼結体の各部におけるAl濃度が50at%以下である熱電変換素子を開示している。これにより、主にAlとSbからなる、周囲に比べて脆いAl濃化部(Al-Sb)を抑制し、当該部位を起点としたクラックを低減することで、電気的な特性を維持できる信頼性の高い熱電変換素子を提供できるとしている。ここで、Ti-Al合金などの表記は、Tiの元素とAlの元素とを主要元素(含有量における上位元素)として含む合金であることを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-249442号公報
【文献】特開2019-169534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、及び、特許文献2に記載の拡散防止層は、いずれも粉末を用いて、熱電変換材料の粉末と同時に焼結していた。この場合に、熱電変換材料の粉末と同時に緻密化させる焼結の制御が難しいことが課題だった。
【0008】
本発明の目的は、特許文献1、及び、特許文献2に記載の、接合部における拡散層にクラック等が生じるという課題を解決し、熱電変換材料の粉末との同時焼結による緻密化という課題も解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱電変換素子の製造方法は、Sbを含む前記熱電変換材料の粉末と、TiとAlを含む合金箔とを接触させた状態で焼結し、拡散防止層を備えた熱電変換材料を得る工程、を有し、前記TiとAlを含む合金箔は、結晶の方位差を判別可能な断面観察手法において、5000μm以上の広さの領域を観察したとき、10度以上の方位差の粒界で規定される結晶粒の数が1.0個以下/5000μmであることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記TiとAlを含む合金箔は、Alの含有量が8mass%以上36mass%以下であり、TiAl化合物を有することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、前述の熱電変換素子の製造方法で得られた熱電変換素子と、電極とを、前記拡散防止層を介して接合する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合部における拡散層にクラック等が生じることを抑制し、熱電変換材料の粉末と同時に緻密化させられる熱電変換素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱電変換モジュールの全体構造を示す斜視図。
図2】熱電変換モジュールの断面拡大図。
図3】Ti-Al箔のX線回折結果を示す図。
図4】Ti-Al箔とSbを含む熱電変換素子の接合界面の断面SEM写真。
図5図4の接合界面近傍のEDXライン分析結果。
図6】Ti-Al箔付き熱電変換材料の製造プロセスフロー図。
図7】実施例1のSEM-EDX分析結果。
図8】高温放置試験を施行した実施例1のSEM-EDX分析結果。
図9】実施例2のSEM-EDX分析結果。
図10】実施例3のSEM-EDX分析結果。
図11】実施例4のSEM-EDX分析結果。
図12】高温放置試験を施行した実施例5のSEM-EDX分析結果。
図13】比較例1のSEM観察結果。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態を説明する。図1は本実施形態の熱電変換モジュール10の全体構造を示す斜視図である。熱電変換モジュール10はP型熱電変換素子21、N型熱電変換素子22、電極30、セラミックス配線基板40で構成される。隣り合うP型熱電変換素子21とN型熱電変換素子22は千鳥格子状に配列され、電極30とセラミックス配線基板40を介して電気的に直列となるように接続される。N型熱電変換素子22およびP型熱電変換素子はSbを含む熱電変換材料で、特にスクッテルダイト構造を有するものが好ましい。例えば、P型熱電変換素子21はCeFeMn4-ySb12、N型熱電変換素子22はYbCoSb12が好適である。Sbを含むスクッテルダイト構造の場合、上記の組成に他の微量元素が含まれていてもよい。スクッテルダイト構造の熱電変換材料は300~500℃の温度域で発電性能が高く、大きな温度差を得ることで高い出力を得ることが可能である。そのため、Sbを含む熱電変換材料をXRDにより同定し、スクッテルダイト構造の単一相であることが好ましい。Sbを含む熱電変換材料とは、他の元素に比べてSbが多い組成や、Sbより安定な他の元素との組成物など、Sbが反応しやすい状態で含まれるということである。
【0015】
電極30は300~500℃の温度域でも通電可能な部材であればよい。さらにP型熱電変換素子21およびN型熱電変換素子22と熱膨張率の近い部材であればよく、単一層の純金属や合金または複数層の純金属や合金からなる構造を有してもよい。特にSbを含む熱電変換材料の場合は、Cuや、CuとMoとを混合(粒状で複合化、層状に複合化など)して熱膨張を調整した複合材であることが好ましい。
【0016】
セラミックス配線基板40は絶縁性を有していればよく、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス材料を使用することで、低温から高温まで広い温度範囲で利用できるため好ましい。
【0017】
図2は熱電変換モジュールの一部を拡大した断面図を示している。セラミックス配線基板40の両面には第一の導電部材41と第二の導電部材42が形成される。第一の導電部材41および第二の導電部材42は電極30と同様にCu等の部材であればよい。第一の導電部材41は接合層60に対して接合性を向上させる目的でNi等の金属膜(図示せず)を形成してもよい。
【0018】
接合層60は、はんだや、ろう材、または金属ナノ粒子焼結層などを用いればよい。接合層60として、金属ナノ粒子ペーストを用いた焼結層を形成する場合は、接合温度よりも高い温度で熱電変換モジュールが動作した場合も溶融が生じず、信頼性が高いため望ましい。第一の導電部材41がCuの場合、接合層60はCuの焼結層であることがより好ましい。すなわち、Cuが含まれる金属ナノ粒子ペーストを用いることでCuの焼結層を形成する。
【0019】
金属層51は、接合層60を介してセラミックス配線基板とP型熱電変換素子21およびN型熱電変換素子22を接合しやすくする役割を持つ。金属層51は接合層60との接合性を考慮して種々の選択が可能であり、接合層60をCuの焼結層とする場合はNiが特に好ましい。CuとNiは平衡状態図からも明らかなように全率固溶する。そのため、ネックが形成されやすく、強固に接合することが可能である。
【0020】
金属層51の形成方法は拡散防止層50の有無に合わせて適宜選択すればよい。例えば、拡散防止層50は少なくとも電極30側の一方に形成されていればよい。すなわち、セラミックス配線基板側の拡散防止層50は形成せずともよく、その場合はP型熱電変換素子21とN型熱電変換素子22の一方の面に金属層51を形成すればよい。P型熱電変換素子21およびN型熱電変換素子22の面に金属層51を形成する場合はめっき法等を適用することができる。拡散防止層50を形成する場合は、熱電変換材料と拡散防止層50の接合と同時に金属層51としてNiを接合すればよい。
【0021】
拡散防止層50は鋳造合金から製造されたTi-Al箔で形成されており、100μm×50μmの断面観察範囲で方位差が10度未満の結晶粒界で構成された結晶粒であることが望ましい。より好ましくは結晶粒界の方位差が2度以下の結晶粒で構成することが良い。ここでは金属組織中に1つ以上の結晶粒が存在する場合、まとめて結晶粒群と表記する。結晶粒群中の各々の結晶粒はEBSD(Electron Backscatter Diffraction)を用いたカラーマップ等で判別することが可能である。結晶粒の方位差が10度以上で構成される結晶粒群の場合はBSE像(Back Scattered Electron)等でも判別が可能である。EBSDを用いた評価では基準方位差を指定することで、指定の方位差以上の角度で結晶粒界の両側の結晶粒が存在する場合、個々の結晶粒と判定する。言い換えると基準の方位差未満の結晶粒界の両側の結晶粒を持つ場合は、個々の結晶粒と見なさずに一つの結晶粒として判定する。尚、熱電変換素子として使用中に拡散防止層としての機能を得られるものであれば、箔を、板、薄片、薄板、膜などと表記してもよく、厚さや形態を制限しない。
【0022】
Ti-Al箔はTi-Alインゴットからワイヤーソー等を用いて機械的に切断した後、ラップ仕上げ等によって所定の厚みに調整することが望ましい。結晶粒界の方位差が10度未満の結晶粒で構成されるTi-Al箔を使用することで図2中に示した反応層501の厚みを30μm以下に抑制することが可能で、信頼性低下の原因となるAl-Sb化合物相の生成を防止することができる。反応層の厚みはSEM(Scanning Electron Microscope)の断面観察から算出した平均厚さ等であればよい。
【0023】
Ti-Alインゴットはコールドクルーシブ溶解法で作製することが望ましい。AlとTiを所定の割合で水冷銅るつぼにて溶融保持し、溶解炉内に設置した黒鉛製鋳型へ出湯し、冷却させることでTi-Alインゴットを得ることができる。Ti-Alインゴットは冷却の影響によって、結晶粒サイズや結晶品質に差が生じる。そのため、コールドクルーシブ溶解法によってAlとTiを溶解させて、黒鉛製鋳型で1時間冷却を施すことが望ましい。本溶解法におけるインゴット冷却に際しては、るつぼ内の溶湯の温度勾配を考慮して、るつぼの下方など低温側から溶湯を引き抜くように出湯し鋳型へ流し込むことで、ひけ巣の発生を抑止する凝固プロセスで置き換えてもよい。また、凝固後のTi-Alインゴットに対して、加圧・加熱を実施しながら不活性雰囲気にて長時間放置するHIP(Hot Isostatic Pressing)をプロセスに追加し、ひけ巣を除斥することが好ましい。
【0024】
Alリッチ側のTi-Al化合物(例えばTiAl)の場合、熱電変換材料中のSbとAlが反応することでAl-Sbの形成を助長する懸念がある。そのため、Tiリッチ側のTiAlをTi-Al箔の組成とすることが望ましい。従って、コールドクルーシブ溶解の原料比はTi-19.5mass%Alの比率でTi-Alインゴットを作製することが好ましい。また、TiAlはAl含有量がTiAlよりも増加するが、融点が高い金属間化合物のため、Ti-34.2mass%Alの比率でTi-Alインゴットを作製してもよい。これらは、いずれもTiAlやTiAlなどの化合物の化学量論比を狙ったものであるが、これらの化合物を得られる組成比であればよい。従って、全体に対するAlの原料比は8mass%以上36mass%以下であることが好ましく、さらに19.5mass%~34.2mass%であれば好ましい。
【0025】
図3にTi-Al箔の表面をX線回折評価した結果を示す。Ti-Alインゴットは溶解原料比Ti-19.5mass%Alの溶解原料比でコールドクルーシブ溶解法にて作製している。Ti-Alインゴットを切断してTi-Al箔を作製し、その表面を分析したX線回折結果である。TiAlの回折ピークが得られている。図3に示すようにTiAlの(201)面でピーク強度が最大になるTi-Al箔を使用することが望ましい。
【0026】
図4に拡散防止層50としてTi-Al箔を使用してN型熱電変換素子22を接合した場合の接合断面の電子顕微鏡写真の例を示す。電子顕微鏡写真はBSE像で示している。BSE像の場合、チャネリングコントラストの影響を受けるため、結晶方位に対する電子の入射角によって像のコントラストに変化が伴う。そのため、結晶粒界の方位差が10度以上の場合、粒界が明瞭に観察される。Ti-Al箔はEBSD分析による結晶粒界の方位差が10度未満で構成されるため、BSE像ではコントラストの差が明瞭にみられない。
【0027】
方位差の大きい結晶粒界は、転位等の欠陥が多く含まれる。従って原子配列の秩序が乱れているため、粒界での原子の拡散速度は粒内の体拡散よりも遥かに早い。すなわち方位差の大きい結晶粒界がTi-Al合金中に含まれる場合、熱電変換材料中のSb等の拡散が生じやすくなることで相変化を起こしやすい。Ti-Alが相変化を起こすと、熱電変換材料との接合界面には反応層が形成される。Ti-Alの相変化が多くなるほど、反応層の厚みは増加し、信頼性低下の原因となるAl-Sb等の化合物相を生成する。
【0028】
拡散防止層50としてTi-Al箔を使用した場合、Al-Sbの生成を防止して接合することが可能である。図5はTi-Al箔を使用した拡散防止層50とN型熱電変換素子22の接合界面をEDX(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)でライン分析した例を示す。AlとSbが相対的に高い部分は存在しておらず、図2中の反応層501のような明確な反応層が出ていないことがわかる。すなわち、信頼性低下の原因となるAl-Sbは確認されない。部位によっては、反応層501を形成するが、反応層501の厚みは30μm以下であり、信頼性低下の原因となるAl-Sbは確認されない。反応層501はAl-Sbの生成を防止できればよく、TiSb、Ti-Co-Sb、Ti-Al-Sbで形成される反応層であれば問題ない。Ti-Al箔を構成する結晶粒界の方位差を10度未満とすることで、反応層の厚さの抑制が可能である。このように、Ti-Al箔は、隣接する熱電変換材料粉末や金属層などと反応する可能性は想定される。拡散防止層は、少なくとも熱電変換素子として使用中にクラックの発生するような反応層の拡散を防止する機能を有していればよく、例えば、隣接する熱電変換材料粉末や金属層との間に少なくともTi-Alの層があればよい。ここで、クラックはその長さが、熱電変換材料の電気的な特性を妨げるものでなければよい。例えば、クラック有無は、電子顕微鏡写真の観察面20μm四方中に存在する5μmを超える長さのクラックを確認することで判別すればよい。この20μm四方の観察視野は界面を含む任意の箇所を観察すればよく、複数箇所確認することが好ましい。
【0029】
反応層501の生成に寄与しない領域のTi-Al箔は熱電変換材料との焼結前後で相の変化は生じない。例えば、溶解原料比Ti-19.5mass%AlでTi-Al箔を製造すると、主要な相はTiAlとなるが、焼結後の拡散防止層50もTiAlを維持している。そのため、拡散防止効果の高い拡散防止層50を得ることができる。
【0030】
図6にTi-Al箔の拡散防止層付き熱電変換材料の製造プロセスフローを示す。Ti-Al箔の製造方法については、前述した通り、コールドクルーシブ法等によって黒鉛性鋳型に出湯することでTi-Alインゴットを得た後、ワイヤーソー等によって厚み50μm~300μmの箔状に切り出す。切り出したTi-Al箔を研磨、洗浄することで拡散防止層50としてTi-Al箔を得る。
【0031】
次に型の中へNi箔、Ti-Al箔、Sbを含む熱電変換材料を充填する。熱電変換材料の両面にTi-Al箔を形成する場合は、Ni箔、Ti-Al箔、Sbを含む熱電変換材料、Ti-Al箔、Ni箔の順で型の底面から積層すればよい。熱電変換材料の片面のみにTi-Al箔を形成する場合は、例えば、Ni箔、Ti-Al箔、Sbを含む熱電変換材料の順で型の底面から積層すればよく、Sbを含む熱電変換材料とNi箔を入れ替えて積層させてもよい。Sbを含む熱電変換材料は所定量型の中に直接充填してもよいし、事前に簡易プレス等で成型し、圧粉体の状態で型の中に積層させてもよい。
【0032】
次に熱電変換材料とTi-Al箔およびNi箔をホットプレス等を用いて加圧焼結する。焼結は例えばSbを含むN型熱電変換材料の場合はAr等の不活性ガス中で700℃で60分保持し、15MPa~68MPaで加圧することでTi-Al箔とSbを含むN型熱電変換材料、およびTi-Al箔とNi箔の接合が可能である。
【0033】
例えばN型熱電変換材料であるYbCoSb12の場合、焼結性を向上させることを目的とした焼結助剤合金が含まれていても、本実施形態のTi-Al箔を使用することで同様の効果を発揮することができる。すなわち、熱電変換材料とTi-Al箔の界面に形成される反応層厚さを30μm以下に抑制することが可能で、Al-Sbの生成を防止することができる。
【0034】
Ti-Al箔とNi箔は固相接合されており、一部Ti-NiやNi-Al、またはTi-Ni-Al等の反応層が生成してもよい。また、Ti-Al箔とNi箔の接合性を向上させるために融点の低いAl層(660℃)を挟持してもよい。この場合、固相接合と同様にTi-Ni、Ni-Al、またはTi-Ni-Alの反応層が接合界面に形成される。
【0035】
以上の方法で拡散防止層付き熱電変換材料を製造することが可能である。拡散防止層付き熱電変換材料はワイヤーソー等によって図1および図2中に示すP型熱電変換素子21やN型熱電変換素子22の形状に切り出す。切り出し後は治具等を用いてセラミックス配線基板40上に接合材を介して配置し、電極を搭載して加圧加熱することによって図1に示す熱電変換モジュール10を得ることができる。
【実施例
【0036】
(実施例1)
Ni箔とTi-Al箔およびSbを含む熱電変換材料を接合することで、熱電変換素子を作製した。Ti-Al箔の原料となるTi-Alインゴットはコールドクルーシブ法にて作製した。ペレット状のTiとAlをTi-19.5mass%Alの比率で配合し、水冷銅るつぼに装入後、溶解炉内を6.6×10-2Paで真空排気し、Arガスを導入した。Arガス導入後に高周波溶解にて溶湯とした後、溶解炉内に設置した円柱状の黒鉛製鋳型へ出湯し、冷却し、1時間後に黒鉛製鋳型からTi-Al合金を取り出すことでTi-Alインゴットを得た。
【0037】
得られた丸棒状のTi-Alインゴットをワイヤー放電加工によって、φ30mmのTi-Al丸棒に加工し、さらにマルチワイヤーソーによって厚み0.3mm程度のTi-Al箔を作製した。Ti-Al箔をラップ加工にて0.2mm程度まで加工した後、アセトンで洗浄することでTi-Al箔を得た。なお、得られたTi-Al箔は図3で評価したTi-Al箔と同ロットで作製したものである。Ti-Al箔は100μm×50μmの範囲における断面EBSD分析より、10度以上の方位差を持つ結晶粒群が存在しないものを用いた。
【0038】
熱電変換材料はYb0.3CoSb12の粉末を21MPaの圧力で圧粉体成型したものを用いた。黒鉛金型の中にNi箔、Ti-Al箔、Yb0.3CoSb12の圧粉体、Ti-Al箔、Ni箔の順で積層し、加圧焼結を行った。焼結はAr雰囲気中で700℃60分保持、68MPaの加圧で実施した。得られた接合体を樹脂に包埋して、研磨し、断面観察を実施することで熱電変換材料とTi-Al箔の界面に生成する反応層の厚みとAl-Sbの生成有無の確認を行った。
【0039】
図7に実施例1のSEM-EDXマッピング分析結果を示す。マッピング分析結果はグレースケールで表示しているため、必ずしも元素の存在比を絶対的に表示しているわけではない。Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面に沿った約30μmの視野には1μmを超える反応層の形成はみられず、Al-Sbは生成しないことを確認した。さらに、破線で示す20μm四方の観察視野に5μmを超える長さのクラックがないことを確認した。
【0040】
実施例1の熱電変換素子に対して、アルゴン雰囲気中、600℃で100時間保持の高温放置試験を行った。高温放置試験後のSEM-EDXマッピング分析結果を図8示す。Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面の沿った約10μmの範囲の視野には、大きさ1μmを超える反応層の形成はみられず、Al-Sbの生成しないことを確認した。さらに、破線で示す20μm四方の観察視野に5μmを超える長さのクラックがないことを確認した。
【0041】
(実施例2)
Yb0.3CoSb12の熱電変換材料粉末に1mass%の比率で焼結助剤となるMnSb粉末を混合し、68MPaの圧力で圧粉体成型した圧粉体を、Ni箔、Ti-Al箔と15MPaの加圧で接合した以外は実施例1と同様とした。図9に実施例2のSEM-EDXマッピング分析結果を示す。Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面には平均厚さ20μm以下のTi-Sb、Ti-Co-Sb、Ti-Al-Sb、Co-Alからなる反応層が生成し、Al-Sbは生成していないことを確認した。さらに、破線で示す20μm四方の観察視野に5μmを超える長さのクラックがないことを確認した。EDXの半定量分析結果から、Ti-Sbは既知の化合物であるTiSb等を含むと考えられる。
【0042】
(実施例3)
Yb0.3CoSb12の熱電変換材料粉末に1mass%の比率で焼結助剤となるMnSb粉末を混合し、68MPaの加圧で接合した以外は実施例2と同様とした。図10に実施例3のSEM-EDXマッピング分析結果を示す。
Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面には層厚30μm以下のTi-Sb、Ti-Co-Sb、Ti-Al-Sb、Co-Alからなる反応層が生成し、Al-Sbは生成していないことを確認した。さらに、破線で示す20μm四方の観察視野に5μmを超える長さのクラックがないことを確認した。
【0043】
(実施例4)
熱電変換材料粉末にCeFe3.925Mn0.075Sb12の粉末を用いて、Ar雰囲気中で580℃80分保持、68MPaの加圧焼結を実施した以外は実施例3と同様とした。図11に実施例4のSEM-EDXマッピング分析結果を示す。
Ti-Al箔とCeFe3.925Mn0.075Sb12の界面には層厚1μm以下のTi-Sbからなる反応層が形成し、Al-Sbは生成しないことを確認した。さらに、破線で示す20μm四方の観察視野に5μmを超える長さのクラックがないことを確認した。
【0044】
(実施例5)
インゴット作製時、るつぼの下方から溶湯を引き抜き凝固させ、かつ、凝固後のインゴットに対してHIPプロセスを施行した緻密なTi-Al箔体と、68MPaの圧力で圧粉体成型したYb0.3CoSb12の熱電変換材料粉末を用いた以外は実施例1と同様とした。
Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面には層厚30μm以下のTi-Sb、Ti-Co-Sb、Ti-Al-Sb、Co-Alからなる反応層が形成し、Al-Sbは生成しないことを確認した。さらに、破線で示す20μm四方の観察視野に5μmを超える長さのクラックがないことを確認した。
【0045】
実施例5の熱電変換素子に対して、600℃100時間保持の高温放置試験を行った。高温放置試験後のSEM-EDXマッピング分析結果を図12に示す。Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面には30μmのTi-Sb、Ti-Co-Sb、Ti-Al-Sb、Co-Alからなる反応層が形成し、Al-Sbの生成およびクラックの発生がないことを確認した。
【0046】
高温放置試験後、熱電特性評価装置(アルバック理工製 ZEM-3)を使用した発電特性の評価を行った。N型熱電材変換素子のゼーベック係数Sと電気抵抗率ρから算出した出力因子PF(PF=S/ρ)は高温放置試験前後において、誤差の範囲で一致する値であった。
【0047】
(実施例6)
Ti-Al箔の組成をTi-34.2mass%Alとした以外は実施例3と同様とした。
Ti-Al箔とYb0.3CoSb12の界面には層厚30μm以下のTi-Sb、Ti-Co-Sb、Ti-Al-Sb、Co-Alからなる反応層が形成した。反応層には微量のAl-Sbが生成したが、20μm四方の観察視野に5μmを超えるクラックは発生しないことを確認した。
【0048】
(比較例1)
目開き45μm以下の篩通しされたTi粉末と目開き30μm以下の篩通しされたAl粉末とを、Ti粉末66mass%、Al粉末34mass%の比率で混合し、900℃2時間保持した。得られた粉末を解砕してTi-Al合金粉末を得た。得られたTi-Al合金粉末とYb0.3CoSb12の粉末を35mass%の比率で混合し、簡易プレスにて圧粉体を成型した。Ti-Al合金粉末とYb0.3CoSb12粉末で構成された圧粉体を拡散防止層として用いた以外は実施例1と同様とした。
【0049】
図13(a)、(a)’は使用したTi-Al合金粉末70の断面SEM観察結果である。点線で囲った範囲が結晶粒界を示しており、個々のTi-Al粉末の内部は方位差の異なる結晶粒界を有する結晶粒群で構成されていることがわかる。観察の結果、Ti-Al粉末の個々の結晶粒数の合計は67個であり、断面観察からのTi-Al粉の総面積は0.0027mmであった。これを矩形面積に換算した場合は縦50μm×横54μmの範囲で67個の結晶粒を含むことになる。
【0050】
図13(b)はYb0.3CoSb12からなる熱電変換素子とTi-Al粉末を使用して焼結し、N型熱電変換素子22と拡散防止層50との間に生じた接合界面反応層を示す断面SEM像である。反応層501は40μmの厚みを超える反応層が形成されており、EDXの示す組成分析の結果も含めて推察すると、TiSb反応層502中にAl-Sb反応層503が分散したような組織を有していた。さらに図13(c)は、10Paの減圧雰囲気にて、500℃の温度で125時間熱処理を行った場合の熱電変換素子とTi-Al粉末を使用して焼結した接合界面反応層を示す断面SEM像である。図13(c)の観察を行った破線で示す20μm四方の視野では、生成したAl-Sb反応層503を起点にクラックが生じているように見えており、Al-Sb反応層503の生成は信頼性低下の原因となることがわかった。
【0051】
本発明を実施例を用いて説明した。結果を表1にまとめて示す。本発明はこれらに限定されるものではなく、種々組み合わせた場合でも効果を十分発揮することができる。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
10…熱電変換モジュール
21…P型熱電変換素子
22…N型熱電変換素子
30…電極
40…セラミックス配線基板
41…第一の導電部材
42…第二の導電部材
50…拡散防止層
501…反応層
502…TiSb反応層
503…Al-Sb反応層
51…金属層
60…接合層
70…Ti-Al合金粉末
80…界面

図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
図12
図13