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特許7604972検査装置、検査システムおよびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】検査装置、検査システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/25 20060101AFI20241217BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241217BHJP
【FI】
G01B11/25 H
G06T7/00 610Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021048197
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147089
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】米田 和洋
(72)【発明者】
【氏名】三宮 俊
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-044515(JP,A)
【文献】特開2016-038287(JP,A)
【文献】特開平01-222380(JP,A)
【文献】特開2016-217833(JP,A)
【文献】特開2011-137753(JP,A)
【文献】特開2003-329428(JP,A)
【文献】特許第6184289(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G06T 1/00
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影部から二値周期画像で構成された投影パターンを投影された検査対象物を撮影部により撮影した撮影画像を得る制御部と、
前記制御部で得た前記撮影画像に基づいて生成した連続周期階調からなる補助画像を前記撮影画像に乗じ、ローパスフィルタ処理を行うことにより、前記検査対象物の表面形状を算出する演算処理部と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記撮影画像と同じ空間周波数を持つ前記補助画像を前記撮影画像に乗算した後に、前記ローパスフィルタ処理を行った情報から位相成分を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記投影部において、前記検査対象物との距離が近い領域の光量を下げ、前記検査対象物との距離が遠い領域の発光量を上げることで、得られる前記撮影画像の輝度不均一を改善する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記撮影部で撮影した前記撮影画像に基づいて前記投影パターンのコントラストを解析した解析結果を前記制御部にフィードバックし、
前記制御部は、フィードバックされた前記解析結果に基づいて前記投影部の発光量を調整する、
ことを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記撮影画像の領域ごとに異なる基準周波数の前記補助画像を用いて位相解析を行う、
ことを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記演算処理部は、前記撮影画像の二値化処理を行う、
ことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の検査装置。
【請求項7】
二値周期画像で構成された投影パターンを検査対象物に投影する投影部と、
前記投影部により前記投影パターンを投影された前記検査対象物からの反射光を撮影する撮影部と、
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の検査装置と、
を備えることを特徴とする検査システム。
【請求項8】
前記投影部は、画像表示装置である、
ことを特徴とする請求項7に記載の検査システム。
【請求項9】
前記撮影部の光軸方向と前記投影部の投影面とは、平行である、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の検査システム。
【請求項10】
投影部から二値周期画像で構成された投影パターンを投影された検査対象物を撮影部により撮影した撮影画像を得る制御ステップと、
前記制御ステップで得た前記撮影画像に基づいて生成した連続周期階調からなる補助画像を前記撮影画像に乗じ、ローパスフィルタ処理を行うことにより、前記検査対象物の表面形状を算出する演算処理ステップと、
コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置、検査システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物体の表面形状を測定する三次元形状検査装置としては、光学式である非接触式が主流となっている。
【0003】
非接触式の測定手法の一つであるパターン投影法は、検査対象物の全面に投影パターンを投影した撮影画像から検査対象物の三次元形状を測定する方法である(例えば、特許文献1参照)。パターン投影法によれば、比較的短時間、かつ、精度よく検査対象物の三次元形状を測定できることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パターン投影法は、他の測定手法に比べて測定時間が短いとはいえ、高速移動する検査対象物の表面形状や検査対象物の表面形状の瞬間的な変化を捉えるにはまだ十分ではない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、検査対象物の表面形状を高精度、かつ、高速に検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、投影部から二値周期画像で構成された投影パターンを投影された検査対象物を撮影部により撮影した撮影画像を得る制御部と、前記制御部で得た前記撮影画像に基づいて生成した連続周期階調からなる補助画像を前記撮影画像に乗じ、ローパスフィルタ処理を行うことにより、前記検査対象物の表面形状を算出する演算処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検査対象物の表面形状を高精度、かつ、高速に検査することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施の形態にかかる検査システムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、投影パターンの一例を示す図である。
図3図3は、三次元測定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4図4は、三次元検査処理にかかる機能を示す機能ブロック図である。
図5図5は、三次元検査処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、投影パターンの局所領域の輝度分布を示す模式図である。
図7図7は、投影パターンの撮影画像を示す模式図である。
図8図8は、補助画像を示す概念図である。
図9図9は、位相画像の例を示す図である。
図10図10は、第2の実施の形態にかかるパターン投影装置から検査対象物へ入射する光量の調整例を示す図である。
図11図11は、第3の実施の形態にかかる投影パターンの撮影画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、検査装置、検査システムおよびプログラムの実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる検査システム1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、本実施形態の検査システム1は、投影部であるパターン投影装置10と、撮影部である撮像装置20と、検査装置である三次元測定装置30と、を備える。
【0011】
パターン投影装置10は、検査対象物50の表面に対して、明暗領域(二値周期画像)で構成された投影パターン(図2参照)を投影する。検査対象物50は、例えば、曲率が大きな鏡面体(例えば、球面ミラーや非球面ミラーなど)などの光を反射する鏡面反射特性を有する物体である。パターン投影装置10は、例えば、広い放射角を有する画像表示装置であるディスプレイ10aを有する。パターン投影装置10は、ディスプレイ10aの直上に保持台(図示せず)などを用いて設置された検査対象物50に対して、ディスプレイ10aに表示した投影パターンを投影する。なお、検査対象物50の測定領域全体に投影パターンを投影する必要があるため、検査対象物50の大きさはパターン投影装置10のディスプレイ10aに収まるサイズとする。
【0012】
撮像装置20は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を有するカメラである。図1に示すように、撮像装置20は、検査対象物50に対する撮像装置20の光軸を、パターン投影装置10のディスプレイ10aの表示面(投影面)と平行にする位置に設置される。このように撮像装置20を設置することにより、撮像装置20は、検査対象物50で正反射された投影パターンを撮像することができる。なお、平行とは、実質的に平行であればよく、検査対象物50で正反射された投影パターンを撮像するのに問題ない範囲であれば角度を有していてもよい。
【0013】
なお、図1では撮像装置20をパターン投影装置10の外に設置した例を示しているが、これに限るものではなく、撮像装置20をパターン投影装置10のディスプレイ10aの表示面(投影面)内に設置してもよい。また、撮像装置20と検査対象物50との距離は、撮像装置20の画角や焦点距離に応じて決定するものであってよい。
【0014】
ここで、投影パターンについて説明する。図2は、投影パターンの一例を示す図である。図2(a)は投影パターンの投影画像を示し、図2(b)は投影パターンの撮影画像を示す。図2に示すように、投影パターンは、周期性を有した白黒チェッカーパターン(市松模様)である。白黒チェッカーパターン(市松模様)は、碁盤目状の格子の目を色違いに並べた模様である。投影パターンは、黒色の格子のサイズが小さいほど、測定精度の向上を図ることができる。なお、格子のサイズの下限は、パターン投影装置10のディスプレイ10aの分解能により決まる。また、投影パターンは、白色の格子のサイズが撮像装置20の分解能で解像できるサイズであることが望ましい。
【0015】
三次元測定装置30は、一般的なPC(Personal Computer)により構成される。三次元測定装置30は、パターン投影装置10と撮像装置20とを接続する。三次元測定装置30は、パターン投影装置10による投影パターンの投影、および撮像装置20による撮影を制御する。三次元測定装置30は、投影パターンを投影された検査対象物50を撮像装置20で撮像した撮影画像を解析する。そして、三次元測定装置30は、撮影画像の解析で得られた位相情報をもとに、三次元形状を復元する。
【0016】
次に、三次元測定装置30のハードウェア構成について説明する。
【0017】
ここで、図3は三次元測定装置30のハードウェア構成を示すブロック図である。図3に示すように、三次元測定装置30は、コンピュータによって構築されている。図3に示されているように、三次元測定装置30は、CPU(Central Processing Unit)301、ROM(Read Only Memory)302、RAM(Random Access Memory)303、HD(Hard Disk)304、HDD(Hard Disk Drive)コントローラ305、ディスプレイ306、外部機器接続I/F(Interface)308、ネットワークI/F309、バスライン310、キーボード311、ポインティングデバイス312、DVD-RW(Digital Versatile Disc Rewritable)ドライブ314、メディアI/F316を備えている。
【0018】
これらのうち、CPU301は、三次元測定装置30全体の動作を制御する。ROM302は、IPL等のCPU301の駆動に用いられるプログラムを記憶する。RAM303は、CPU301のワークエリアとして使用される。HD304は、プログラム等の各種データを記憶する。HDDコントローラ305は、CPU301の制御にしたがってHD304に対する各種データの読み出し又は書き込みを制御する。ディスプレイ306は、カーソル、メニュー、ウィンドウ、文字、又は画像などの各種情報を表示する。外部機器接続I/F308は、各種の外部機器を接続するためのインターフェースである。この場合の外部機器は、例えば、パターン投影装置10、撮像装置20、USB(Universal Serial Bus)メモリやプリンタ等である。ネットワークI/F309は、通信ネットワークを利用してデータ通信をするためのインターフェースである。バスライン310は、図3に示されているCPU301等の各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバスやデータバス等である。
【0019】
また、キーボード311は、文字、数値、各種指示などの入力のための複数のキーを備えた入力手段の一種である。ポインティングデバイス312は、各種指示の選択や実行、処理対象の選択、カーソルの移動などを行う入力手段の一種である。DVD-RWドライブ314は、着脱可能な記録媒体の一例としてのDVD-RW313に対する各種データの読み出し又は書き込みを制御する。なお、DVD-RWに限らず、DVD-R等であってもよい。メディアI/F316は、フラッシュメモリ等の記録メディア315に対するデータの読み出し又は書き込み(記憶)を制御する。
【0020】
本実施形態の三次元測定装置30で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0021】
また、本実施形態の三次元測定装置30で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の三次元測定装置30で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、本実施形態の三次元測定装置30で実行されるプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0022】
次に、三次元検査処理にかかる機能について説明する。
【0023】
図4は、三次元検査処理にかかる機能を示す機能ブロック図である。図4に示すように、三次元測定装置30は、制御部35と、演算処理部36と、を備える。
【0024】
制御部35は、システム制御部350と、パターン記憶部351と、投影駆動部352と、撮像制御部353と、表示制御部354と、を有する。
【0025】
投影駆動部352は、システム制御部350の制御に従い、パターン投影装置10を駆動する。システム制御部350は、検査対象物50に投影パターンを投影するように、投影駆動部352を制御する。撮像制御部353は、システム制御部350の制御に従い、撮像装置20の撮影条件(露光時間、ゲイン、保存形式など)および撮影タイミングを制御する。表示制御部354は、システム制御部350の制御に従い、ディスプレイ306に対する表示を制御する。
【0026】
パターン記憶部351は、例えば三次元測定装置30のROM302やHD304に記憶されている投影パターンを形成するためのパターン情報(例えば、模様、輝度、解像度など)および投影タイミングを読み出す。パターン記憶部351は、システム制御部350の制御に従い、パターン情報および投影タイミングを読み出してシステム制御部350に供給する。システム制御部350は、パターン記憶部351から供給されたパターン情報および投影タイミングに基づき、投影駆動部352を制御する。
【0027】
なお、システム制御部350は、パターン投影装置10の投影タイミングと、撮像装置20の撮影タイミングとを同期させることで、検査対象物50に投影パターンを投影した状態での撮影を行い、取得した画像情報を演算処理部36へ伝達する。
【0028】
演算処理部36は、撮像装置20から供給された画像情報を解析する。演算処理部36は、撮像装置20から供給された画像情報をもとに解析を行い、検査対象物50の位相情報および三次元復元情報を算出する。演算処理部36は、検査対象物50の位相情報および三次元復元情報を制御部35に供給する。
【0029】
システム制御部350は、演算処理部36から供給された、復元された三次元情報に基づき、表示制御部354を制御する。表示制御部354は、復元された三次元情報に基づき、解析画像および検査対象物50の3D表示をディスプレイ306に表示する。
【0030】
演算処理部36および制御部35は、CPU301上で動作するプログラムにより実現する。具体的には、CPU301は、ROM302やHD304からプログラムを読み出して実行することにより、演算処理部36および制御部35を実現する。
【0031】
なお、演算処理部36および制御部35のうち、一部又は全部をハードウェアで実現してもよい。
【0032】
次に、三次元検査処理の流れについて詳述する。
【0033】
図5は、三次元検査処理の流れを示すフローチャートである。なお、作業者が、パターン投影装置10のディスプレイ10aの直上に、検査対象物50をセットしたことを条件とする。検査対象物50の固定位置は、検査対象物50で反射された投影パターンが撮像装置20に垂直入射する位置を基本とするが、検査対象物50の形状が複雑な場合は事前評価を通じて詳細な設置条件を決めておくのが望ましい。
【0034】
まず、制御部35は、検査対象物50に対してパターン投影装置10から投影パターンを投影する(ステップS1)。併せて、制御部35は、検査対象物50に投影された投影パターンを撮像装置20により撮影する(ステップS2)。なお、投影パターンは、撮像装置20のカメラ分解能に応じて、白黒チェッカーパターン(市松模様)が十分に解像できる大きさにする。
【0035】
次に、演算処理部36は、撮影画像の解析(ステップS3)、および三次元復元(ステップS4)を行う。
【0036】
最後に、制御部35は、三次元復元画像などの解析結果をディスプレイ306に表示する(ステップS5)。作業者が、三次元復元画像を見て異常を認めた場合は(ステップS5のYes)、パターン投影(ステップS1)の手順から再測定を行う。作業者が、三次元復元画像を見て異常を認めなかった場合は(ステップS5のNo)、処理を終了する。
【0037】
ここで、ステップS3における画像解析処理、およびステップS4における三次元復元処理について詳述する。
【0038】
まず、演算処理部36は、背景成分除去および復調処理を行う。なお、検査対象物50は、鏡面反射特性を有する連続面を有しているものとする。
【0039】
演算処理部36は、投影パターンを表示するためのパターン投影装置10により生成した二値の輝度画像を、検査対象物50の鏡面反射特性を有する連続面を介して撮像装置20で検出した撮影画像から取得する。
【0040】
ここで、図6は投影パターンの局所領域の輝度分布を示す模式図、図7は投影パターンの撮影画像を示す模式図である。図6に示すように、投影パターンの最小変調周期は、パターン投影装置10の画素サイズの2倍となる。図7は、図6に示す投影パターンを、鏡面反射特性を有する検査対象物50を介して、撮像装置20の撮像素子上で画素出力信号に変換した結果を模式的に示したものである。
【0041】
ただし、ここでは情報処理の方法を概念的に説明することを目的とし、検査対象物50の形状に由来した投影パターンの変形については明示していない。本実施形態の検査システム1においては、撮像装置20の撮像素子に写り込む投影パターンの周期を撮像素子の画素が十分に分解できるように、撮像装置20の光学系の倍率や撮像装置20の撮像素子の画素サイズ、撮像装置20の撮像レンズ等を選択する必要がある。
【0042】
図7に示す例では、撮像装置20の撮像素子上の12画素によって投影パターンの1周期を分解している。投影パターンと撮像装置20の撮像素子の画素ピッチとは、独立である。この結果、投影パターンの境界部分は、撮像装置20の撮像素子の画素に完全には収まらず、図7に示すような「ぼけ」を伴った画像となる。
【0043】
図7に示される撮影画像は、投影パターンの二値情報による不連続性を有する。すなわち、図7に示される撮影画像は、空間周波数領域において高い空間周波数成分を含んでいる。これを数式として表すと以下の式(1)のように表わすことができる。
【0044】
【数1】
【0045】
ここで、Nb(x,y)は撮影パターンを反映していない背景成分であり、I0(x,y)は撮影パターンの包絡関数を表わしている。括弧内のmおよびnに関する数列和は、それぞれデューティー比1の矩形波のxおよびy成分をフーリエ級数展開した形式を用いて表わしている。Φx(x,y)およびΦy(x,y)は、検査対象物50の形状に依存したxおよびy方向の投影パターンの周期信号からのずれを表わす位相項を表わしている。
【0046】
検査対象物50の形状情報の復元のためには、背景成分Nb(x,y)と投影パターンの包絡関数I0(x,y)による寄与を取り除き、さらには基本周波数kxおよびkyの奇数倍で与えられる変調周波数をもつ振動を取り除くことで、Φx(x,y)およびΦy(x,y)に依存した成分のみを抽出すればよい。
【0047】
上述の不要信号の除去のために、演算処理部36は、以下の式(2)で与えられる補助画像を生成する。補助画像は、位相解析するための基準画像となるものである。
【0048】
【数2】
【0049】
図8は、式(2)により生成した補助画像を示す概念図である。撮像装置20の撮像素子による撮影画像が、図7および式(1)で表すような矩形状のプロファイルであるのに対して、式(2)で生成する補助画像は、単一の空間周波数をもつ滑らかな関数であることを特徴としている。すなわち、補助画像は、連続周期階調からなる。
【0050】
次いで、演算処理部36は、式(2)を式(1)に乗じて、変調周波数kxまたはkyの低い側をカットオフ周波数としてローパスフィルタにより取り除くことにより、以下に示す式(3)のような後処理画像を取得する。
【0051】
【数3】
【0052】
演算処理部36は、ローパスフィルタ処理を施すことにより、式(1)のm=1およびn=1以外の成分をすべて除去する。また、演算処理部36は、背景成分Nb(x,y)も空間周波数領域の(kx,ky)位置にシフトすることから、ローパスフィルタ処理により背景成分Nb(x,y)も除去する。このようにして、演算処理部36は、式(1)に含まれる投影パターンの二値画像に起因する高周波成分と背景成分を、補助画像との乗算処理およびローパスフィルタ処理により除去することができる。ただし、式(3)の近似は、Φx(x,y)とΦy(x,y)がカットオフ周波数min(kx,ky)よりも低周波成分により構成されていることを制約条件としている。
【0053】
演算処理部36は、同様にして、補助画像として以下に示す式(4a),(4b),(4c)の画像を生成する。
【0054】
【数4】
【0055】
そして、演算処理部36は、式(4a),(4b),(4c)を式(1)にそれぞれ乗じて、ローパスフィルタ処理を施すことにより、以下に示す式(5a),(5b),(5c)のような後処理画像を生成する。
【0056】
【数5】
【0057】
次に、演算処理部36は、位相抽出処理と位相アンラッピング処理を行う。
【0058】
演算処理部36は、式(3)および式(5a),(5b),(5c)の後処理画像から、検査対象物50の形状を反映した位相画像Φx(x,y)およびΦy(x、y)を以下に示す式(6a),(6b)のように導出する。
【0059】
【数6】
【0060】
なお、演算処理部36は、±45°成分を抽出する以下に示す式(7a),(7b)を用いるようにしてもよい。
【0061】
【数7】
【0062】
ここで、±45°成分を用いるのは、図6もしくは式(1)で与える投影パターンの周期が±45°方向に傾いているためであり、±45°方向の位相を抽出するほうが、後述の位相アンラッピングの際の誤差発生を抑制するためである。
【0063】
図9は、上述の処理手順により得られた位相画像の例を示す図である。なお、図9(a)は、検査対象物50として、シリコン基板の上にPt膜を成膜したサンプルの原画像である。図9(b)は、+45°方向の位相変化を輝度分布により表現した位相のアンラッピング前の位相画像である。背景成分を除去し、変調画像の復調処理を施した結果、試料全面に渡って明瞭な位相画像が取得できた。
【0064】
図9(c)は、+45°方向の位相変化を輝度分布により表現した位相のアンラッピング後の位相画像である。式(6a),(6b)または式(7a),(7b)により得られた位相画像は、逆正接関数(アーク・タンジェント)の定義域により-π~πの範囲で折り返されている。位相画像から被測定物の形状情報に対応した画像を復元するため、位相のアンラッピング処理を施すことで、図9(c)に示すように、折り返しのない滑らかな位相分布を有する位相画像を取得することができた。
【0065】
上述のように、鏡面反射特性を有する検査対象物50の三次元形状を高解像度に取得するために、パターン投影法の一つであるディフレクトメトリ法を適用する。本実施形態においては、高い空間分解能を得るために、パターン投影装置10の画素単位で白黒が反転するチェッカーパターンを投影パターンとして用いる。この際、高周波成分が空間周波数に重畳されるが、それを除去するとともに背景成分ならびにはパターン照明の空間分布(包絡関数)の影響をも除去する補助画像の群を生成し、乗算およびローパスフィルタ処理を提供することにより、検査対象物50の形状にのみ依存する位相成分を抽出することができる。この結果、形状測定における空間分解能の向上を図ることができる。
【0066】
このように本実施形態においては、1回のパターン投影後の撮影画像から検査対象物50の三次元形状を取得できるので、位相シフト法など複数撮影が必要な方法に比べて高速(短時間)に検査することができる、という効果を奏する。加えて、本実施形態においては、投影パターンに周期性を有した白黒チェッカーパターン(市松模様)を採用しており、最小2画素から周期構造を形成できるので、複数画素が必要な他パターンに比べて検査対象物の表面形状を高精度に検査することができる、という効果を奏する。
【0067】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0068】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態とは、パターン投影装置10の輝度を調整するようにした点が異なる。以下、第2の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0069】
ここで、図10は第2の実施の形態にかかるパターン投影装置10から検査対象物50へ入射する光量の調整例を示す図である。図10(a)に示すように、検査対象物50の寸法が大きく、パターン投影装置10のディスプレイ10aの表示面(投影面)との距離が場所により異なる場合、パターン投影装置10のディスプレイ10aから検査対象物50へ入射する光量は不均一となる。
【0070】
図10(a)に示す状態で撮像装置20による撮影を行うと、パターン投影装置10のディスプレイ10aに近い領域は明るく、パターン投影装置10のディスプレイ10aから遠い領域は暗く撮像されるため、撮像装置20のダイナミックレンジを超えた場合に、白飛びあるいは黒潰れが発生するケースが考えられる。このように撮像装置20による撮影画像のコントラストが低くなると、信号成分がバックグランドノイズに埋もれてしまい画像解析でエラーが発生しやすくなる。
【0071】
そこで、この対策として、本実施形態においては、パターン投影装置10の輝度を調整するようにしたものである。
【0072】
システム制御部350は、まず、撮像制御部353を介して撮像装置20を通常の条件で制御して、撮影を行う。演算処理部36は、撮像装置20で撮影した撮影画像で投影パターンのコントラストを解析し、その解析結果をシステム制御部350にフィードバックする。
【0073】
そして、システム制御部350は、フィードバックされたコントラストの解析結果に基づいてパターン投影装置10の発光量を調整するように、投影駆動部352を制御する。そして、システム制御部350は、撮像制御部353を介して撮像装置20で再撮影を行う。
【0074】
すなわち、システム制御部350は、図10(b)に示すように、パターン投影装置10のディスプレイ10aにおいて、検査対象物50との距離が近い領域の光量を下げ、検査対象物50との距離が遠い領域の発光量を上げることで、得られる撮影画像の輝度不均一を改善する。
【0075】
なお、検査対象物50の形状が複雑であるために、パターン投影装置10のディスプレイ10aである発光領域と検査対象物50の受光領域との対応が分からない場合は、発光領域をずらしながら撮影していく事前実験を行うことで対応する。
【0076】
なお、検査対象物50の形状に応じてパターン投影装置10のディスプレイ10aとの距離が一定でないときや投影パターンに輝度ムラがある場合、撮影画像の場所により明暗差が生まれコントラストが低い領域では画像解析でエラーが起きやすくなる。
【0077】
この対策として、演算処理部36は、撮影画像を二値化するようにしてもよい。本実施形態で検査対象物50に投影する投影パターンは白黒チェッカーパターンというデジタル信号に似た情報であり、演算処理部36における解析時も撮影画像のパターン形状を用いて演算している。すなわち、投影パターンのパターン形状だけならデジタルの二値化画像からでも取得可能であるため、撮影画像を適切に二値化できれば精度の向上が期待できる。なお、二値化には様々な手法があるが、局所的に閾値を設定する適応的二値化などが有効である。
【0078】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。
【0079】
第3の実施の形態は、第1の実施の形態および第2の実施の形態とは、解析領域の分割を行うようにした点が異なる。以下、第3の実施の形態の説明では、第1の実施の形態および第2の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態および第2の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0080】
本実施形態の測定手法によれば、撮影画像で得られた投影パターンの空間周波数から補助画像を生成して位相情報を解析するが、曲率が大きな鏡面体(例えば、球面ミラーや非球面ミラーなど)である検査対象物50に投影した投影パターンの撮影画像においては、場所によって白黒パターン間隔が異なってしまう。このように場所によって白黒パターン間隔が異なってしまうと、一枚の補助画像で解析できる領域が限定され、検査領域が狭くなるという課題がある。
【0081】
そこで、この対策として、本実施形態においては、解析領域の分割を行うようにしたものである。
【0082】
ここで、図11は第3の実施の形態にかかる投影パターンの撮影画像の一例を示す図である。システム制御部350は、まず、撮像制御部353を介して撮像装置20を通常の条件で制御して撮影を行い、図11(a)に示すように、曲率を有する鏡面体である検査対象物50に投影した投影パターンの撮影画像を得る。図11(a)に示す画像例では、上部ほど白黒間隔が狭くなっている。
【0083】
次いで、演算処理部36は、図11(b)に示すように、得られた1枚の撮影画像を複数の領域に分割する。なお、図11(b)においては6分割した状態を示すが、これに限るものではなく、分割数は任意である。演算処理部36は、図11(b)に示すように、分割した領域ごとに投影パターンの空間周波数を求めて補助画像を生成する。補助画像は、分割した領域の数だけ生成されることになる。
【0084】
そして、演算処理部36は、分割した各領域について、撮影画像および補助画像から解析を行うことで、曲率の大きな鏡面体を検査対象物50とした場合でも、検査領域を損なうことなく測定することができる。
【0085】
最後に、上述の各実施の形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な各実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことも可能である。また、各実施の形態及び各実施の形態の変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
1 検査システム
10 投影部
20 撮影部
30 検査装置
35 制御部
36 演算処理部
50 検査対象物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0087】
【文献】特許第6184289号公報
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