(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電極の面積を求める方法及び抵抗率測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20241217BHJP
G06T 7/62 20170101ALI20241217BHJP
G06T 7/90 20170101ALI20241217BHJP
【FI】
H01L21/66 L
G06T7/62
G06T7/90 D
(21)【出願番号】P 2021204017
(22)【出願日】2021-12-16
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】山田 透
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-34344(JP,A)
【文献】特開平4-109373(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0096481(US,A1)
【文献】特開2011-65604(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172097(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0171842(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G06T 7/62
G06T 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において電極の面積を求める方法であって、
電極をカメラで撮影して面積を測定するに際し、
背景となるシリコンウエーハの画像を用いてグレーワールド法で前記カメラのホワイトバランスを調整し、
ホワイトバランスを調整した前記カメラで前記電極を撮影して、RGBデータを取得し、
取得した前記RGBデータを、色相の値H、彩度の値S及び明度の値Vを含むHSV形式のデータに変換し、
電極の蒸着直後の色相の値Hiを基に、前記電極のHSV形式のデータの各画素に対し、S×|Cos((H-Hi)/2)|の計算を行って、前記電極のHSV形式のデータをモノクロ画像に変換し、
次いで、前記モノクロ画像に二値化処理を行うことで、前記電極と背景を分離して前記電極の面積を求めることを特徴とする電極の面積を求める方法。
【請求項2】
シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定方法であって、
請求項1に記載の電極の面積を求める方法で求めた前記電極の面積を用いて、測定対象である前記シリコンウエーハの抵抗率を算出することを特徴とする抵抗率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において電極の面積を求める方法、及びシリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエーハには、その上に形成される半導体デバイスの均一性を得るために、高いウエーハ間の均一性と高い面内の均一性が求められる。
【0003】
アナログデバイスの材料として用いられるシリコンウエーハにおいては、特に抵抗率の均一性が重要視される。
【0004】
抵抗率測定方法には4探針法とCV(Cyclic Voltammetry)法とがあるが、シリコンウエーハの検査方法としてはCV法がよく用いられる。
【0005】
CV法では、電極面積とCV特性とから次式を用いてキャリア濃度N(w)を算出し、換算表を用いて抵抗率に換算する。
【0006】
N(W)=2/(q・ε・A2・(d(1/C2)/dV))、W=ε・A/C
A:電極面積、q:素電荷、ε:誘電率。
【0007】
この式より、キャリア濃度は電極面積Aの2乗に反比例しており抵抗値の算出に大きな影響を及ぼすことが分かる。
【0008】
CV法の中では水銀プローブ法または蒸着CV法がよく用いられる。
【0009】
水銀プローブ法は、樹脂製の「型」とウエーハを接触させて、両者の間にできた隙間に水銀を注入して電極を形成する方法である。
【0010】
水銀プローブ法では、形成した電極の面積を直接観察することができないので、事前に透明なガラス板と樹脂製の「型」との間に水銀を注入して、形成される電極面積をあらかじめ観察しておく。
【0011】
しかしながら、水銀は使用するうちに空気中の酸素と反応するなどして不純物を生じ、その影響で「型」の隅々まで水銀が行き渡らない場合があり、あらかじめ観察した面積を用いて計算すると誤差を生じる問題がある。
【0012】
蒸着CV法は、ショットキー接合を形成する材料をウエーハに蒸着して電極を形成する方法である。
【0013】
蒸着法では、
図5に示すように、蒸着マスク2を複数回使用するうちに蒸着マスク2の穴が小さくなり、ウエーハ1上に形成される電極(蒸着膜)3の面積が次第に小さくなる問題や、
図6に示すように、蒸着機の中のどの場所に蒸着マスク2とウエーハ1を置いたかによって蒸着物質の飛来方向4が変わり、形成される電極3の面積が変わる問題、
図7に示すように、蒸着マスク2をはがすときに電極3の一部5が欠けるなどの問題があった。
【0014】
このような電極の面積のばらつきは、カメラ画像などから個々に面積を測定して式に代入すれば問題とならないはずだが、シリコンウエーハのCV測定に用いられるAuとSmは共に蒸着後に徐々に変色する性質があり、汎用ソフトでは面積を安定して測定することができなかった(
図8)。特に変色初期には、周辺部から変色部が徐々に広がるため電極と背景の境界を検出するのが非常に困難だった(
図9)。
【0015】
特許文献1には、カラー画像データの各ピクセルのRGB値をHSV値に変換し、変換されたS値とV値の少なくともいずれかに対して2値化する閾値処理を施してHS’V’値に変換するステップを有する画像領域抽出方法が開示されている。
【0016】
特許文献2には、CV測定に用いるための抵抗率校正用半導体ウエーハ及びその作製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2018-128904号公報
【文献】特開2020-136583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
蒸着CV法によるシリコンウエーハの抵抗率測定の精度向上のためには、電極面積を正確に測定する必要があるが、上記の通り、シリコンウエーハ上のAuおよびSmの蒸着電極は変色しやすく、カメラ画像を用いた計測では正確な面積測定ができなかった。
【0019】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において用いる電極の面積を、電極の蒸着直後でも電極の変色が進行した後でも正確に測定できる電極の面積を求める方法、及び精度の高いシリコンウエーハの抵抗率測定が可能な抵抗率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明では、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において電極の面積を求める方法であって、
電極をカメラで撮影して面積を測定するに際し、
背景となるシリコンウエーハの画像を用いてグレーワールド法で前記カメラのホワイトバランスを調整し、
ホワイトバランスを調整した前記カメラで前記電極を撮影して、RGBデータを取得し、
取得した前記RGBデータを、色相の値H、彩度の値S及び明度の値Vを含むHSV形式のデータに変換し、
電極の蒸着直後の色相の値Hiを基に、前記電極のHSV形式のデータの各画素に対し、S×|Cos((H-Hi)/2)|の計算を行って、前記電極のHSV形式のデータをモノクロ画像に変換し、
次いで、前記モノクロ画像に二値化処理を行うことで、前記電極と背景を分離して前記電極の面積を求めることを特徴とする電極の面積を求める方法を提供する。
【0021】
このような電極の面積を求める方法によれば、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において、電極の蒸着直後はもちろん、電極の変色が進行した後でも、電極の輪郭を正しく検出でき、電極の面積を求めることができる。よって、本発明の電極の面積を求める方法によれば、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において用いる電極の面積を、電極の蒸着直後でも電極の変色が進行した後でも正確に測定でき、精度の高いシリコンウエーハの抵抗率測定が可能になる。
【0022】
また、本発明では、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定方法であって、
本発明の電極の面積を求める方法で求めた前記電極の面積を用いて、測定対象である前記シリコンウエーハの抵抗率を算出することを特徴とする抵抗率測定方法を提供する。
【0023】
本発明の抵抗率測定方法によれば、電極の面積を求める方法によって正確に測定した電極の面積をシリコンウエーハの抵抗率を算出するのに用いるので、シリコンウエーハの抵抗率を高い精度で測定できる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明の電極の面積を求める方法であれば、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において用いる電極の面積を、電極の蒸着直後でも電極の変色が進行した後でも正確に測定でき、精度の高いシリコンウエーハの抵抗率測定が可能になる。
【0025】
また、本発明の抵抗率測定方法であれば、シリコンウエーハの抵抗率を高い精度で測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の電極の面積を求める方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の電極の面積を求める方法の一例における、変色が始まった電極の画像、並びにこの画像を変換して得られたモノクロ画像及び二値化画像である。
【
図3】参考例における、蒸着直後の電極の画像、並びにこの画像を変換して得られたモノクロ画像及び二値化画像である。
【
図4】参考例における、変色が始まった電極の画像、並びにこの画像を変換して得られたモノクロ画像及び二値化画像である。
【
図5】蒸着CV法で用いる電極の面積が小さくなる例を説明する概略図である。
【
図6】蒸着CV法で用いる電極の面積がばらつく例を説明する概略図である。
【
図7】蒸着CV法で用いる電極の面積が小さくなる他の例を説明する概略図である。
【
図8】汎用ソフトで撮影した、蒸着直後のAu電極及びSm電極、並びに変色が進行したAu電極及びSm電極の画像の例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のように、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において用いる電極の面積を、電極の蒸着直後でも電極の変色が進行した後でも正確に測定できる電極の面積を正確に求める方法、及び精度の高いシリコンウエーハの抵抗率測定が可能な抵抗率測定方法の開発が求められていた。
【0028】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、背景となるシリコンウエーハの画像を用いてグレーワールド法でホワイトバランスを調整したカメラで電極を撮影し、それにより得られたRGBデータをHSV形式のデータに変換し、得られたHSV形式のデータを、蒸着直後の色相の値Hiに基づいて、彩度によるモノクロ画像に変換し、このモノクロ画像に二値化処理を行って電極と背景を明確に分離して電極の面積を求めることにより、電極の蒸着直後はもちろん、電極の変色が進行した後でも電極の輪郭を正しく検出でき、ノイズ、汚れ及び異物の影響を抑えて、電極の面積を正確に求めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
即ち、本発明は、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において電極の面積を求める方法であって、
電極をカメラで撮影して面積を測定するに際し、
背景となるシリコンウエーハの画像を用いてグレーワールド法で前記カメラのホワイトバランスを調整し、
ホワイトバランスを調整した前記カメラで前記電極を撮影して、RGBデータを取得し、
取得した前記RGBデータを、色相の値H、彩度の値S及び明度の値Vを含むHSV形式のデータに変換し、
電極の蒸着直後の色相の値Hiを基に、前記電極のHSV形式のデータの各画素に対し、S×|Cos((H-Hi)/2)|の計算を行って、前記電極のHSV形式のデータをモノクロ画像に変換し、
次いで、前記モノクロ画像に二値化処理を行うことで、前記電極と背景を分離して前記電極の面積を求めることを特徴とする電極の面積を求める方法である。
【0030】
また、本発明では、シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定方法であって、
本発明の電極の面積を求める方法で求めた前記電極の面積を用いて、測定対象である前記シリコンウエーハの抵抗率を算出することを特徴とする抵抗率測定方法である。
【0031】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明の電極の面積を求める方法のフローチャートである。以下、
図1を参照しながら、本発明の電極の面積を求める方法を順に説明する。
【0033】
(カメラのホワイトバランスの調整)
まず、カメラの準備として、カメラのホワイトバランスの調整を行う。例えば、CCD(Charge Coupled Devices;電荷結合素子)もしくはCMOS(complementary metal oxide semiconductor:相補性金属酸化膜半導体)撮像素子を搭載したカメラに、同軸落射照明が可能なレンズを取り付け、照明を当てながら、背景となるシリコンウエーハを撮影し、グレーワールド法でカメラのホワイトバランスを調整する。
【0034】
グレーワールド法はカメラのホワイトバランスを定める方法のひとつで、撮影した画像のR値、G値、及びB値についてそれぞれ全画素の平均値を求め、平均値が等しくなるように次式のようにホワイトバランス係数Rgain、Bgainを定めるものである。
【0035】
Ra=(ΣRi)/n、Ga=(ΣGi)/n、Ba=(ΣBi)/n
Rgain=Ga/Ra、Bgain=Ga/Ba
(ここで、iは画素番号、nは画素数である)
【0036】
半導体撮像素子を搭載したカメラの多くは、ホワイトバランス係数を記憶することができ、設定後は撮影によって得られたR値、G値及びB値に対し、次式の演算を行って出力することができる。
【0037】
R’=Rgain×R、G’=G、B’=Bgain×B
【0038】
もし、カメラがこのような機能を有しない場合は、PCで同様の計算をすればよい。
【0039】
シリコンウエーハを撮影してグレーワールド法でホワイトバランス係数を設定するこの処理により、ホワイトバランスの調整を行ったカメラでこれ以降に撮影した電極の背景となるシリコンウエーハの彩度の値Sは、ほぼゼロとなる。
【0040】
(RGBデータの取得)
次に、ホワイトバランスを調整したカメラで電極を撮影して、RGBデータを取得する。
【0041】
撮影対象の電極は、特に限定されないが、シリコンウエーハに形成したAu蒸着電極又はSm蒸着電極とすることができる。撮影対象の電極は、蒸着直後であってもよいし、変色が進行したものであってもよい。本発明の電極の面積を求める方法では、蒸着直後の電極はもちろん、変色が進行した電極についても、電極の面積を正確に求めることができる。
【0042】
(RGBデータをHSV形式のデータに変換)
次に、取得したRGBデータを、色相の値H、彩度の値S及び明度の値Vを含むHSV形式のデータに変換する。HSV形式のデータへの変換については、後述する。
【0043】
(HSV形式のデータをモノクロ画像に変換)
次に、電極の蒸着直後の色相の値Hiを基に、電極のHSV形式のデータの各画素に対し、S×|Cos((H-Hi)/2)|の計算を行って、電極のHSV形式のデータをモノクロ画像に変換する。
【0044】
この変換の際に用いる電極の蒸着直後の色相の値Hiは、以下の手順で取得することができる。
【0045】
まず、シリコンウエーハにAu蒸着電極及びSm蒸着電極を形成する。蒸着直後のAu蒸着電極及びSm蒸着電極のそれぞれを、ホワイトバランスを調整したカメラで撮影してRGB形式の画像データを取得する。
【0046】
次に、取得したRGBデータを、次式を用いてHSV形式(色相・彩度・明度で表す形式)の画像データに変換する。
H=60×(G-R)/(Max-Min)+60 (R値、G値及びB値の内、B値が最小の場合)
H=60×(B-G)/(Max-Min)+180 (R値、G値及びB値の内、R値が最小の場合)
H=60×(R-B)/(Max-Min)+300 (R値、G値、及びB値の内、G値が最小の場合)
S=(Max-Min)/Max
V=Max
ここで、R値、G値及びB値の内の最大値をMax、最小値をMinとする。
【0047】
HSV形式に変換したデータの内、電極が写っている部分の色相の値Hを平均し、Au蒸着電極及びSm蒸着電極でそれぞれHau、Hsmとし、これらを基礎データである蒸着直後の色相の値Hiとして記録する。
【0048】
なお、撮影対象の電極についてのRGBデータのHSV形式のデータへの変換も、上記式を用いて行うことができる。
【0049】
HSV形式のデータをモノクロ画像に変換する際、撮影した電極がAu蒸着電極である場合には、電極の蒸着直後の色相の値Hiとして基礎データHauを用い、すべての画素についてS×|Cos((H-Hau)/2)|を計算し、この値をデータとするモノクロ画像に変換する。撮影した電極がSm蒸着電極である場合には、電極の蒸着直後の色相の値Hiとして基礎データHsmを用い、すべての画素についてS×|Cos((H-Hsm)/2)|を計算し、この値をデータとするモノクロ画像に変換する。
【0050】
(二値化処理)
次いで、モノクロ画像に二値化処理を行うことで、電極と背景を分離して電極の面積を求める。
【0051】
二値化処理には、例えば、大津の二値化として知られる二値化処理(判別分析法)を用いることができる。
【0052】
電極の面積は、例えば以下のようにして、二値化処理した画像から求めることができる。まず、二値化処理を行った画像において、値が1である画素を数える。この数を、同じ条件下で撮影した面積のわかっている標準サンプルの画素数と比較することで電極面積が得られる。
【0053】
図2に、本発明の電極の面積を求める方法の一例における、変色が始まった電極の画像(A)、画像(A)のすべての画素についてS×|Cos((H-Hau)/2)|を計算して変換して得られたモノクロ画像(B)、及びモノクロ画像(B)を二値化処理して得られた画像(C)を示す。なお、実際の画像(A)は、カラー画像である。
図2において横に伸びる2本の白線は、蒸着直後の電極の輪郭の上端及び下端の位置を示す。
【0054】
図2に示すように、本発明の電極の面積を求める方法において二値化処理して得られた画像からは、変色が始まった電極であっても、輪郭を正しく検出でき、ノイズ、汚れ及び異物などの影響も受けにくい。つまり、この二値化処理により、電極と背景を正確に分離することができる。
【0055】
比較として、参考例による画像の変換を
図3~
図4に示す。
【0056】
参考例は、撮影によって得られた画像データを彩度ではなく明度によってモノクロ化し、そのモノクロ画像を二値化処理した例である。
【0057】
図3は、参考例における、蒸着直後の電極の画像(A)、画像(A)を変換して得られたモノクロ画像(B)、及びモノクロ画像(B)を二値化処理して得られた画像(C)である。なお、実際の画像(A)はカラー画像である。
【0058】
図3から明らかなように、参考例のように明度によってモノクロ化した画像(B)を二値化すると、照明ムラの影響が大きい画像(C)となってしまう。
【0059】
また、
図4は、参考例における、変色が始まった電極の画像(A)、画像(A)を変換して得られたモノクロ画像(B)、及びモノクロ画像(B)を二値化処理して得られた画像(C)である。なお、実際の画像(A)はカラー画像である。また、
図4において横に伸びる2本の白い実線は、蒸着直後の電極の輪郭の上端及び下端の位置を示す。画像(C)にのみ示す2本の白い破線は、画像(C)から検出した電極の輪郭の上端及び下端の位置を示す。
【0060】
図4に示すように、変色が始まった電極の画像(A)は、参考例のように明度によってモノクロ化したのち二値化すると、輪郭を正しく検出できない画像(C)となってしまう。このような画像(C)からは、電極の面積を正しく求めることができない。
【0061】
一方、本発明の電極の面積を求める方法によれば、電極の蒸着直後はもちろん、
図2に示すように、電極の変色が進行した後でも輪郭を正しく検出でき、電極の面積を正確に求めることができる。
【0062】
シリコンウエーハの蒸着CV法による抵抗率測定において、抵抗率の測定に用いる個々の電極の面積を、上記で説明した本発明の電極の面積を求める方法で求め、求めた面積を抵抗率の計算に使用すれば、電極面積のばらつきの影響を受けずに、測定対象であるシリコンウエーハの抵抗率を算出することができる。
【0063】
したがって、本発明の電極の面積を求める方法によれば、精度の高いシリコンウエーハの抵抗率測定が可能になる。
【0064】
また、本発明の抵抗率測定方法は、本発明の電極の面積を求める方法で求めた電極の面積を用いて、測定対象であるシリコンウエーハの抵抗率を算出するので、シリコンウエーハの抵抗率を高い精度で測定できる。
【0065】
なお、以上に説明した実施形態では説明を容易にするためにホワイトバランスを用いて背景となるシリコンウエーハの彩度をゼロとする手法をとっているが、数学的に同等な処理を行ってホワイトバランスの調整を行ってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例)
電極の撮影には、320万画素のカラーCMOS撮像素子を搭載したカメラを使用した。このカメラに同軸落射照明可能な倍率1のテレセントリックレンズを取り付け、カメラスタンドに固定した。レンズの照明ポートにはLEDスポットライトを取り付け、試料を照明できるようにした。
【0068】
初めに、カメラの下のステージにシリコンウエーハをセットして撮影し、先に説明した手順に従うグレーワールド法でホワイトバランスを調整して、ホワイトバランス係数をカメラに記憶させた。
【0069】
次に、ホワイトバランスを調整した上記のカメラで、ガラスに蒸着された2mm角の標準サンプルを撮影した。標準サンプルは蒸着面が黒く、それ以外の部分は透明であったため、背景に白色のシートを配置して撮影した。
【0070】
次に、撮影した画像のRGB形式のデータを明度によるモノクロ画像に変換した。続いて、モノクロ画像に大津の二値化として知られる二値化処理を行った。その結果、値が1の画素の数が341033個である画像を得た。
【0071】
標準サンプルのNIST(National Institute of Standard and Technology)の証明書により一辺は2.00032mmと分かっていたので、標準サンプルの面積は4.00128mm2となり、1画素の面積は11.733μm2と定めることができた。この1画素の面積を求める作業は、カメラまたはレンズを新しくしたときに1度行えばよい。
【0072】
次に、測定試料として、P/P+のシリコンウエーハに、Smを直径約2mmの円形に蒸着したものを用意した。
【0073】
蒸着直後の試料を、上記の通りホワイトバランスを調整したカメラの下のステージにセットし、蒸着電極を撮影して、RGB形式のデータを取得した。
【0074】
このRGBデータを、先に説明した手順でHSV形式の画像データに変換した。このHSV形式の画像データにおいて電極が写っている部分の色相の値を平均したところ48であったので、これをHsmとして記録した。この色相の平均値を求める作業は電極材料ごとに1度行えばよい。
【0075】
次に、HSV形式の画像データのすべての画素について次式の計算を行って、モノクロ画像を作成した。
【0076】
Gray=S×|Cos((H-Hsm)/2)|
【0077】
このモノクロ画像に大津の二値化処理を行った。その結果、値が1の画素の数が267037である画像を得た。
【0078】
標準サンプルの結果から1画素の面積は11.733μm2と分かっているので、Smの蒸着電極の面積Aは3.1331mm2と求められた。
【0079】
このシリコンウエーハをCV測定台に乗せ、Smの蒸着電極にプローブを接触させてCV特性を測定したところ、以下の表1の通りとなり、先の電極面積A:3.1331mm2を用いて深さWとキャリア濃度Nを得た。
【0080】
【0081】
さらに、キャリア濃度Nを、Irvinカーブを用いて抵抗率Rに換算し、値が安定している深さ0.6~0.7μmの範囲を平均したところ、シリコンウエーハの電極を蒸着した位置の抵抗率が18.46ohm-cmと算出された。
【0082】
次に、この試料を約24時間大気中に放置し、表面が変色した状態の電極を、上記の通りホワイトバランスを調整したカメラで撮影した。
【0083】
蒸着直後と同じく、取得したRGBデータをHSV形式の画像データに変換した後、HSV形式のデータのすべての画素についてS×|Cos((H-Hsm)/2)|の計算を行って、モノクロ画像を作成した。この時、Hsmには蒸着直後に取得した値を使用した。
【0084】
このモノクロ画像に、大津の二値化の処理を行った。その結果、値が1の画素の数が267003である画像を得た。
【0085】
1画素の面積:11.733μm2から、約24時間大気中に放置したSm蒸着電極の面積A’は3.1333mmと求められた。
【0086】
先に測定したCV特性の測定結果を、面積A’を用いてW’とキャリア濃度N’求め、さらに抵抗値R’に換算して深さ0.6~0.7μmの範囲を平均したところ、蒸着直後に測定した面積Aを用いた場合と同じく、シリコンウエーハの電極を蒸着した位置の抵抗率が18.46ohm-cmと算出された。
【0087】
(比較例)
実施例と同じ装置を用いて、以下の手順で、一般に用いられるグレースケール変換から二値化する方法で電極の面積測定を行い、CV測定を行った。
【0088】
初めに、カメラの下のステージにシリコンウエーハをセットして撮影し、先に説明した手順に従うグレーワールド法でホワイトバランスを調整して、ホワイトバランス係数をカメラに記憶させた。
【0089】
次に、電極を蒸着する前のシリコンウエーハを、ホワイトバランスを調整した上記カメラで撮影し、RGB形式の画像データを取得し、取得した画像データをPCに取り込んだ。
【0090】
取り込んだ画像を次のグレースケール変換の式を用いてモノクロ化した。
Gray=R×0.3+G×0.59+B×0.11
【0091】
この式でR値、G値及びB値に掛けられている係数は、色によって明るさが違って見える人間の特性を調整するためのもので、広く一般に用いられているものである。
【0092】
被写体は均一なシリコンの表面であるため、本来なら全画素が同じ値になるべきであるが、照明のムラのために同じ値にはならなかった。
【0093】
そこで、次式によって、照明ムラ補正データCorrを作成した。
Gray_a= (ΣGray_i)/n
Corr_i= Gray_a /Gray_i
(ここで、iは画素番号、nは画素数である)
【0094】
次に、実施例の測定試料とは別のP/P+のシリコンウエーハにSmを直径約2mmの円形に蒸着したものを、測定試料として用意した。蒸着直後の試料を、上記の通りホワイトバランスを調整したカメラの下のステージにセットし、蒸着電極を撮影してRGB形式のデータを取得した。
【0095】
次に、このデータを通常用いられる、次式のグレースケール変換の式でモノクロ化した。
Gray=R×0.3+G×0.59+B×0.11
【0096】
さらに、次式により照明ムラを補正したモノクロ画像Gray’を作成した。
Gray’ =Corr×Gray
【0097】
このモノクロ画像に大津の二値化処理を行った。その結果、値が1の画素の数が269292である画像を得た。
【0098】
標準サンプルの結果から1画素の面積は11.733μm2と分かっているので、Smの電極面積Aは3.1596mm2と求められた。
【0099】
このウエーハをCV測定台に乗せ、電極にプローブを接触させてCV特性を測定したところ以下の表2の通りとなり、先の電極面積A:3.1596mm2を用いて深さWとキャリア濃度Nを得た。
【0100】
【0101】
さらに、キャリア濃度Nを、Irvinカーブを用いて抵抗率Rに換算し、値が安定している深さ0.6~0.7μmの範囲を平均したところ、シリコンウエーハの電極を蒸着した位置の抵抗率が18.55ohm-cmであると算出された。
【0102】
次に、この試料を約24時間大気中に放置し、表面が変色した状態の電極を、上記の通りホワイトバランスを調整したカメラで撮影した。
【0103】
蒸着直後と同じく、取得したRGBデータをグレースケール変換した後、Corrにより照明ムラを補正したモノクロ画像Gray’を作成した。
【0104】
このモノクロ画像に、大津の二値化処理を行った。その結果、値が1の画素の数が225831である画像を得た。
【0105】
1画素の面積:11.733μm2から、約24時間大気中に放置したSm電極の面積A’は2.6497mm2と求められた。
【0106】
先に測定したCV特性の測定結果を、面積A’を用いてW’とキャリア濃度N’求め、さらに抵抗値R’に換算して深さ0.6~0.7μmの範囲を平均したところ、蒸着直後に測定した面積Aを用いた場合の18.55ohm-cmから大きく変化し、シリコンウエーハの電極を蒸着した位置の抵抗率が12.92ohm-cmと算出された。
【0107】
すなわち、比較例では、変色が進行した後の電極の面積を正確に測定できず、その結果、シリコンウエーハの抵抗率を精度よく測定することができなかった。
【0108】
それに対し、本発明の実施例では、上記の通り、変色が進行した後の電極の面積を正確に測定でき、その結果、シリコンウエーハの抵抗率を精度よく測定することができた。
【0109】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0110】
1…ウエーハ、 2…蒸着マスク、 3…電極(蒸着膜)、 4…飛来方向、 5…電極の一部。