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特許7605120液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、重合体、及びジアミン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、重合体、及びジアミン
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20241217BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021548786
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2020034324
(87)【国際公開番号】W WO2021059999
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019173214
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】南 悟志
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-159827(JP,A)
【文献】特開2012-208471(JP,A)
【文献】特開2013-242526(JP,A)
【文献】特表2014-501831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C07C 217/90
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2-1)で表されるジアミンを含むジアミン成分から得られる、ポリイミド前駆体及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(P)を含有する液晶配向剤。
【化1】
(式中、X11は炭素数1のアルキレン基を表し、-O-もしくは-COO-で置換されてもよい。X12は単結合を表す。Qはナフチレン基を表し、Yはn個のシクロヘキシレン基を表。nは1~10の整数を表す。前記ナフチレン基又はシクロヘキシレン基の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシル基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシル基、及びフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシル基、炭素数1~12のフッ素含有アルキル基、炭素数1~12のフッ素含有アルコキシル基、-CN、-F、-OH、-COH、-OCOR、又は-COを表し、Rはメチル基又はエチル基を表す。)
【請求項2】
前記式(2-1)で表される基を有するジアミンが下記式(d-1)、(d-2)、(d-4)、(d-5)で表されるジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンである、請求項に記載の液晶配向剤。
【化2】
(mは2を表す。nは3、5又は7を表す。cは1を表す。)
【請求項3】
前記重合体(P)が、前記式(2-1)で表される基を有するジアミンを含むジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合反応させることにより得られるポリイミド前駆体、及び該ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記テトラカルボン酸成分が下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含む、請求項3に記載の液晶配向剤。
【化3】
Xは下記(x-1)~(x-13)のいずれから選ばれる構造を表す。
【化4】
(式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、塩素原子又はベンゼン環を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。j及びkは、それぞれ独立に、0又は1を表し、A及びAは、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基、エステル基、フェニレン基、スルホニル基又はアミド基を表す。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手を表し、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手を表す。)
【請求項5】
前記式(2-1)で表される基を有するジアミンが、全ジアミン成分100モル%中、10~80モル%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体(P)の含有量が、液晶配向剤の全質量に対し、1~10質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成されてなることを特徴とする液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする液晶表示素子。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板上に塗布して塗膜を形成し、液晶分子の層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを形成し、前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する、液晶表示素子の製造方法。
【請求項10】
下記式(2-1)で表されるジアミン。
【化5】
(各記号の定義は、請求項1における記載と同じである。)
【請求項11】
少なくとも1種の請求項10で定義されたジアミンを含むジアミン成分から得られる重合体。
【請求項12】
ポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の重合体である、請求項11に記載の重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、この液晶配向剤から得られた液晶配向膜、及びこの液晶配向膜を有する液晶表示素子、並びに、それらに適した新規なジアミン及び重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、電極構造や使用する液晶分子の物性等が異なる種々の駆動方式が開発されており、例えばTN(Twisted Nematic)型やSTN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、IPS型(In-Plane Switching)、FFS(fringe field switching)型等の各種表示素子が知られている。これら液晶表示素子は、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。液晶配向膜の材料としては、例えばポリアミック酸やポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミドなどが知られている。
【0003】
VA型の液晶表示素子には、その製造過程において液晶分子に電圧を印加しながら紫外線を照射する工程を含むものがある。このようなVA型の液晶表示素子では、予め液晶組成物中に光重合性化合物を添加し、かつポリイミド系などの液晶配向膜を用い、液晶セルに電圧を印加しながら紫外線を照射することで、液晶の応答速度を速くする技術(PSA(Polymer Sustained Alignment)方式素子、例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)が知られている。かかるPSA方式素子に用いられる液晶配向剤として、特定の環構造を側鎖に有する液晶配向剤が提案されている(特許文献2参照)。この特定の環構造は、液晶を垂直に配向させる能力が高く、この液晶配向剤が用いられたVA型の液晶表示素子は、表示特性が良好であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-307720号公報
【文献】WO2006/070819号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】K.Hanaoka,SID 04 DIGEST、P.1200-1202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年の液晶表示素子では、用いられる基板の薄型化、大型化の影響で、焼成時に、同じ基板内の異なる部分間で温度差が生じ、過度に加熱された部分の液晶配向膜は、液晶を配向させる能力が低下し、その結果、得られる液晶表示素子が部分的に表示不良を来す問題が生じる。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、過度の加熱にさらされた場合であっても、液晶を配向させる能力が高い液晶配向膜が得られる液晶配向剤及び表示不良の起こり難い液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定構造を有する重合体を液晶配向剤に含有させることによって上記特性が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、下記を要旨とするものである。
下記式(1)で表される基を有する、ポリイミド前駆体及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(P)を含有する液晶配向剤。
【化1】
(式中、Xは炭素数1~14のアルキレン基を表し、該アルキレン基のうちの1又は隣り合わない2つのメチレン基は-O-もしくは-COO-で置換されてもよい。Xは単結合、-OCO-、-COO-、又はCONR-(Rは水素原子又はメチル基を表す。)を表す。Qはナフチレン基を表し、Yはシクロヘキシレン基を少なくとも一つ含む基を表す。上記ナフチレン基又はシクロヘキシレン基の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシル基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシル基、又はフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシル基、炭素数1~12のフッ素含有アルキル基、炭素数1~12のフッ素含有アルコキシル基、-CN、-F、-OH、-COH、-OCOR、又は-COを表し、Rはメチル基又はエチル基を表す。*は結合手を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、過度の加熱にさらされた場合であっても、液晶を配向させる能力が高い液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤及び表示不良の起こり難い、高い表示品位を有する液晶表示素子が提供される。
本発明によって上記の優れた特性を有する液晶配向剤及び液晶表示素子が得られるメカニズムは、必ずしも明らかではないが、ほぼ次のように推定される。
高温下に曝された場合の垂直配向能の低下要因として、垂直配向能を有する側鎖の熱分解や、側鎖の熱運動による膜中への埋没などが考えられる。一方、本発明者らの検討において、強直な構造を含有している重合体の場合、重合体のガラス転移温度上昇や、熱安定性の向上に寄与することがわかっている。本発明の特定構造を有する重合体にはナフチレン基などの強直な構造を有しており、熱安定性が向上したため、液晶を配向させる能力が高い液晶配向膜を得ることができたと推定される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<重合体(P)>
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表される基を有する、ポリイミド前駆体及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(P)を含有する。
【0011】
上記式(1)において、Xは、好ましくは、-O-、-COO-、-(CH-(cは1~10の整数)、-CHO-、-CO-O-、-(CH-CO-O-(cは1~10の整数)、-(CH-O-CO-(cは1~10の整数)、-CHO-(CH-(cは1~10の整数)、-CHO-(CH-(O)-(cは1~10の整数、dは0又は1の整数)、-CO-O-(CH-(O)-(cは1~10の整数、dは0又は1の整数)、-O-(CH-(O)-(cは1~10の整数、dは0又は1の整数)、-CO-O-(CH-O-CO-(cは1~10の整数)、-CO-O-(CH-CO-O-(cは1~10の整数)を表す。
は、好ましくは、単結合を表す。
Yは、好ましくは、下記式(Z)で表される基を表す。
【化2】
(式中、Xは、単結合、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-を表す。このうち、複数のa1はそれぞれ独立して1~15の整数を表し、複数のAはそれぞれ独立して酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2の整数を表す。Yは、シクロヘキシレン基を表し、上記シクロヘキシレン基の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシル基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシル基、及びフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。nは1~10の整数を表す。)
上記式(Z)において、好ましくは、Xは単結合を表し、nは1~4、更に好ましくは2~4の整数を表す。
Rは、好ましくは、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~10のフッ素含有アルキル基、炭素数1~9のアルコキシル基、又は炭素数1~10のフッ素含有アルコキシル基を表す。
【0012】
式(1)で表される基は、好ましくは、下記式(1-1)~(1-12)で表される基を表す。
【化3】
【化4】
(cは1~10の整数である。dは0又は1の整数である。mは1~2の整数である。nは1~12の整数である。)
【0013】
<特定ジアミン>
重合体(P)は、例えば、上記式(1)で表される基を有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう。)を含むジアミン成分から得られる重合体である。
特定ジアミンは、好ましくは、下記式(2-1)及び(2-2)で表されるジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンである。
【化5】
(式中、X11、X21a、X21bは上記式(1)のXと同義であり、Q、Q2a、Q2bは上記式(1)のQと同義であり、X12、X22a、X22bは上記式(1)のXと同義であり、Y、Y2a、Y2bは上記式(1)のYと同義であり、R、R2a、R2bは上記式(1)のRと同義である。Lは、単結合、-O-、-C(CH-、-NR-(Rは水素原子又はメチル基を表す。)、-CO-、-NHCO-、-COO-、-(CH-、-SO-、-O-(CH-O-、-O-C(CH-、-CO-(CH-、-NH-(CH-、-SO-(CH-、-CONH-(CH-、-CONH-(CH-NHCO-、-COO-(CH-OCO-を表す。mは1~8の整数を表す。)
【0014】
特定ジアミンの具体例としては、式(2-1)において、基「-X11-Q-X12-Y-R」が上記式(1-1)~(1-12)で表される基を表すジアミン、及び式(2-2)において、基「-X21-Q2a-X22a-Y2a-R2a」及び基「-X22-Q2b-X22b-Y2b-R2b」がそれぞれ独立して上記式(1-1)~(1-12)で表される基を表すジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンが挙げられる。さらに好ましいジアミンの具体例としては、式(2-1)において、基「-X11-Q-X12-Y-R」が上記式(1-1)~(1-12)で表される基を表し、且つ、2つのアミノ基が基「-X11-Q-X12-Y-R」に対してオルト位とパラ位で結合するジアミンから選ばれる少なくとも1種のジアミンが挙げられる。特に好ましいのは下記式(d-1)~(d-12)で表されるジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンである。
【化6】
【化7】
(mは2を表す。nは3、5又は7を表す。cは1~6を表す。dは0又は1を表す。)
【0015】
<その他のジアミン>
重合体(P)を製造するためのジアミン成分としては、特定ジアミン以外の任意のその他のジアミンを用いることができる。その他のジアミンとして、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4-(2-(メチルアミノ)エチル)アニリン、3,5-ジアミノ安息香酸などのカルボキシル基を有するジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-アミノ-2-メチルフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)へキサン、4-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)-3-フルオロアニリン、ジ(2-(4-アミノフェノキシ)エチル)エーテル、4-アミノ-4’-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレアなどのウレア結合を有するジアミン、下記式(a-1)~(a-6)で表されるジアミン、好ましくはメタクリル酸2-(2,4-ジアミノフェノキシ)エチル、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリンなどの光重合性基を末端に有するジアミン、下記式(R1)~(R5)などのラジカル開始機能を有するジアミン、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、下記式(z-1)~(z-18)などの複素環を有するジアミン、下記式(Dp-1)~(Dp-3)などのジフェニルアミン骨格を有するジアミン、下記式(5-1)~(5-11)などの基「-N(D)-」(Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。)を有するジアミン、下記式(Ox-1)~(Ox-2)などのオキサゾリン構造を有するジアミン、下記式(V2-1)~(V2-13)などの液晶の垂直配向性を発現させる構造を側鎖に有するジアミン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサンなどのオルガノシロキサン含有ジアミン等が挙げられる。
【0016】
【化8】
【化9】
【化10】
(d1は、2~10の整数を示す。)
【化11】
(nは、2~10の整数を表す。)
【0017】
【化12】
【化13】
(Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。)
【0018】
【化14】
【化15】
【0019】
【化16】
(但し、式中、Xv1~Xv4、Xp1~Xp8は、それぞれ独立に、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-CH-OCO-、-COO-、又は-OCO-を表し、Xv5は-O-、-CHO-、-CH-OCO-、-COO-、又は-OCO-を表し、XV6~XV7、Xs1~Xs4は、それぞれ独立に、-O-、-COO-又は-OCO-を表す。X~Xは、単結合、-O-、-NH-、-O-(CH-O-、-C(CH-、-CO-、-COO-、-CONH-、-(CH-、-SO-、-O-C(CH-、-CO-(CH-、-NH-(CH-、-NH-(CH-NH-、-SO-(CH-、-SO-(CH-SO-、-CONH-(CH-、-CONH-(CH-NHCO-、又は-COO-(CH-OCO-を表し、Rv1~Rv4、R1a~R1hはそれぞれ独立に、-C2n+1(nは1~20の整数)、-O-C2n+1(nは2~20の整数)を表す。mは1~8の整数を表す。)
【0020】
また、その他のジアミンとして、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂環式ジアミン、国際公開第2016/125870号に記載のジアミン等も挙げることができる。
【0021】
上記4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、光重合性基を末端に有するジアミン、上記式(R1)~(R5)で表されるジアミン、上記式(z-1)~(z-18)で表されるジアミンは、後述する(1-3B)又は(1-3C)の工程で得られる液晶表示素子の応答速度を高める点から、重合体(P)を製造する場合に1種以上用いてもよい。これらのジアミンの含有量は、ジアミン成分全体に対して5~70モル%を用いることが好ましく、得られる液晶配向膜の電圧保持率を高める観点からより好ましくは5~60モル%であり、特に好ましくは5~50モル%である。
その他のジアミンは1種又は2種以上を併用することもできる。
【0022】
<テトラカルボン酸成分>
テトラカルボン酸成分とは、テトラカルボン酸及びテトラカルボン酸誘導体から選択される少なくとも一種を含む成分をいう。テトラカルボン酸誘導体としては、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステルジクロリド、テトラカルボン酸ジエステル等が挙げられる。
重合体(P)であるポリイミド前駆体は、例えば、上記式(1)で表される基を有するジアミンを含むジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合反応させることにより得ることができる。
重合体(P)を製造するためのテトラカルボン酸成分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、又はこれらの誘導体が挙げられる。ここで、芳香族テトラカルボン酸二無水物は、芳香環に結合する少なくとも1つのカルボキシル基を含めて4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状炭化水素構造に結合する4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、鎖状炭化水素構造のみで構成されている必要はなく、その一部に脂環式構造や芳香環構造を有していてもよい。脂環式テトラカルボン酸二無水物は、脂環式構造に結合する少なくとも1つのカルボキシル基を含めて4つのカルボキシル基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、これら4つのカルボキシル基はいずれも芳香環には結合していない。また、脂環式構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状炭化水素構造や芳香環構造を有していてもよい。上記テトラカルボン酸成分は、好ましくは、下記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含む。
【0023】
【化17】
(Xは下記(x-1)~(x-13)のいずれから選ばれる構造を表す。)
【化18】
(式中、R~Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、塩素原子又はベンゼン環を表し、それぞれ同じであっても異なってもよい。R及びRは水素原子又はメチル基を表し、それぞれ同じであっても異なってもよい。j及びkは、それぞれ独立に、0又は1を表し、A及びAは、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基、エステル基、フェニレン基、スルホニル基又はアミド基を表す。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手を表し、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手を表す。)
【0024】
上記(x-12)、(x-13)の好ましい具体例としては、下記式(x-14)~(x-29)が挙げられる。*は結合手を表す。
【化19】
【化20】
【0025】
上記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体の好ましい例としては、Xが上記式(x-1)~(x-7)、(x-11)~(x-13)である式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体が挙げられる。
【0026】
<重合体(P)、ジアミン成分及びテトラカルボン酸成分の含有量>
本発明に用いられる重合体(P)の含有量は、液晶配向剤の全質量に対し、1~10質量%が好ましく、2~9質量%がより好ましい。
【0027】
特定ジアミンの含有量は、重合体(P)を製造するためのジアミン成分の全量に対して、好ましくは10~80モル%であり、より好ましくは20~70モル%、さらに好ましくは30~60モル%である。
重合体(P)を製造するためのジアミン成分は、重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶配向性、電圧保持率、蓄積電荷などの特性に応じて、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0028】
式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物の含有量は、重合体(P)を製造するためのジアミン成分の全量に対して、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上である。
重合体(P)を製造するためのテトラカルボン酸成分は、重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶配向性、電圧保持率、蓄積電荷などの特性に応じて、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0029】
<重合体>
本発明は、上記式(2-1)又は(2-2)で表されるジアミンを少なくとも1種含むジアミン成分から得られる重合体も包含する。このような重合体として、ポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレア等が挙げられる。上記重合体は、好ましくは、ポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の重合体である。
【0030】
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の製造>
本発明に用いられるポリイミド前駆体は、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル等が挙げられる。
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、例えば、以下の方法により製造することができる。具体的には、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを、有機溶媒の存在下で、-20~150℃、好ましくは0~80℃において、30分~24時間、好ましくは1~12時間反応させることによって合成できる。
【0031】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応は、通常、有機溶媒中で行う。その際に用いる有機溶媒としては、生成したポリイミド前駆体が溶解するものであれば特に限定されない。下記に、反応に用いる有機溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
また、ポリイミド前駆体の溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン又は下記の式[D-1]~式[D-3]で示される有機溶媒を用いることができる。
【化21】
式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を示す。
これらの有機溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。更に、ポリイミド前駆体を溶解しない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。
【0032】
反応系中におけるポリアミック酸ポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0033】
上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させて回収できる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで、精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0034】
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸エステル)の製造>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルは、例えば、以下に示す(1)、(2)又は(3)の製法で製造することができる。
【0035】
(1)ポリアミック酸から製造する場合
ポリアミック酸エステルは、上記のように製造されたポリアミック酸をエステル化することによって製造できる。具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶媒の存在下で、-20~150℃、好ましくは0~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって製造できる。
【0036】
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-t-ブチルアセタール、1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、1-エチル-3-p-トリルトリアゼン、1-プロピル-3-p-トリルトリアゼン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジンー2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の添加量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して、2~6モル当量が好ましい。
【0037】
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。また、ポリイミド前駆体の溶媒溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、又は上記式[D-1]~式[D-3]で示される有機溶媒を用いることができる。
【0038】
これらの有機溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。更に、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、更には生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、有機溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性から、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時の濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0039】
(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造できる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを、塩基と有機溶媒の存在下で、-20~150℃、好ましくは0~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって製造できる。
【0040】
上記塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2~4倍モルであることが好ましい。
【0041】
上記有機溶媒としては、モノマー及びポリマーの溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
製造時のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの製造に用いる有機溶媒は、できるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0042】
(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンから製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造できる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを、縮合剤、塩基、及び有機溶媒の存在下で、0~150℃、好ましくは0~100℃において、30分~24時間、好ましくは3~15時間反応させることによって製造できる。
【0043】
上記縮合剤としては、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2~3倍モルが好ましい。
【0044】
上記塩基としては、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、ジアミン成分に対して2~4倍モルが好ましい。
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで、反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0~1.0倍モルが好ましい。
【0045】
上記3つのポリアミック酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(1)又は(2)の製法が特に好ましい。
上記のようにして得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0046】
<ポリイミドの製造>
本発明に用いられるポリイミドは、上記したポリアミック酸をイミド化することにより製造できる。
【0047】
イミド化は、イミド化させたいポリアミック酸を、有機溶媒中、塩基性触媒と酸無水物の存在下で、撹拌することにより行うことができる。有機溶媒としては、前述した重合反応時に用いる有機溶媒を使用できる。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でも、ピリジンは、反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも、無水酢酸を用いると、反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
なお、本明細書でいうイミド化率とは、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体由来のイミド基とカルボキシル基(またはその誘導体)との合計量に占めるイミド基の割合のことである。ポリイミドにおいては、イミド化率は必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調製できる。本発明で用いられるポリイミドのイミド化率は、20~100%が好ましく、50~99%がより好ましい。
【0048】
上記イミド化反応を行うときの温度は、-20~140℃、好ましくは0~100℃であり、反応時間は0.5~100時間、好ましくは1~80時間で行うことができる。塩基性触媒の量は、アミック酸の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量は、アミック酸の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御できる。
【0049】
ポリアミック酸エステル又はポリアミック酸のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤の(A)成分として用いることが好ましい。
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリイミドの粉末を得ることができる。
上記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0050】
<その他の成分>
本発明の液晶配向剤は、必要に応じて、重合体(P)以外の成分を含有してもよい。重合体(P)以外の成分としては、例えば、重合体(P)以外の重合体、架橋性化合物、官能性シラン化合物、界面活性剤、光重合性基を有する化合物、有機溶媒などを挙げることができる。
【0051】
重合体(P)以外の重合体は、液晶配向剤の溶液特性や液晶配向膜の電気特性を改善したり、液晶配向膜に光配向性を付与したりすることを目的として使用できる。かかる重合体としては、例えばポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0052】
重合体(P)以外の重合体を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、該組成物中の全重合体成分100質量部に対して70質量部以下が好ましく、0.1~60質量部がより好ましく、0.1~40質量部がさらに好ましい。
【0053】
架橋性化合物は、液晶配向膜の強度を高めることを目的として使用できる。かかる架橋性化合物としては、国際公開公報WO2016/047771の段落[0109]~[0113]に記載の、エポキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、若しくはシクロカーボネート基を有する化合物、又は、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物の他、ブロックイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。
【0054】
ブロックイソシアネート化合物は、市販品として入手可能であり、例えば、コロネートAPステーブルM、コロネート2503、2515、2507、2513、2555、ミリオネートMS-50(以上、日本ポリウレタン工業社製)、タケネートB-830、B-815N、B-820NSU、B-842N、B-846N、B-870N、B-874N、B-882N(以上、三井化学社製)等を好ましく使用できる。
【0055】
好ましい架橋性化合物の具体例としては、下記式(CL-1)~(CL-11)で示される化合物が挙げられる。
【化22】
【0056】
上記は架橋性化合物の一例であり、これらに限定されない。また、本発明の液晶配向剤に用いる架橋性化合物は、1種類でも、2種類以上組み合わせても良い。
【0057】
本発明の液晶配向剤における、その他の架橋性化合物の含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して、0.1~150質量部、又は0.1~100質量部、又は1~50質量部である。
【0058】
官能性シラン化合物は、液晶配向膜と下地基板との密着性を向上することを目的として使用できる。具体例としては、国際公開公報2014/119682の段落[0019]に記載のシラン化合物を挙げることができる。官能性シラン化合物の含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部である。
【0059】
界面活性剤は、液晶配向膜の膜厚の均一性や表面平滑性を向上させることを目的として使用できる。界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノ二オン系界面活性剤などが挙げられる。これらの具体例は、国際公開公報WO2016/047771の段落[0117]に記載の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の使用量は、液晶配向剤に含有される全ての重合体成分100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0060】
光重合性基を有する化合物は、アクリレート基やメタクリレート基などの重合性不飽和基を分子内に1個以上有する化合物、例えば下記式(M-1)~(M-7)で表されるような化合物を挙げることができる。
【0061】
【化23】
【0062】
更に、本発明の液晶配向剤には、液晶配向膜中の電荷移動を促進して素子の電荷抜けを促進させる化合物として、国際公開公報WO2011/132751号(2011.10.27公開)の段落[0194]~[0200]に掲載される、式[M1]~式[M156]で示される窒素含有複素環アミン化合物、より好ましくは3-ピコリルアミン、4-ピコリルアミンを添加できる。このアミン化合物は、液晶配向剤に直接添加しても構わないが、濃度0.1~10質量%、好ましくは1~7質量%の溶液にしてから添加することが好ましい。この溶媒は、特定重合体(P)を溶解させるならば特に限定されない。
【0063】
本発明の液晶配向剤にポリアミック酸やポリアミック酸エステルを含有する場合は、塗膜を焼成する際に加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的でイミド化促進剤等を添加しても良い。
【0064】
<有機溶媒>
本発明に係る液晶配向剤は、重合体(P)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、適当な有機溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製してもよい。
【0065】
使用する有機溶媒としては、例えばγ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトンなどのラクトン溶媒;γ-ブチロラクタム、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-(n-プロピル)-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-(n-ブチル)-2-ピロリドン、N-(tert-ブチル)-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、N-エトキシエチル-2-ピロリドン、N-メトキシブチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンなどのラクタム溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルラクトアミドなどのアミド溶媒;4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソアミル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソブチルケトン(2,6-ジメチル-4-ヘプタノン)、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソプロピルエーテル、ジイソペンチルエーテル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート溶媒、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、ジイソブチルカルビノール(2,6-ジメチル-4-ヘプタノール)、プロピレングリコールジアセテート、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0066】
好ましい溶媒の組み合わせとしては、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソプロピルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルカルビノール、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとジプロピレングリコールジメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールジアセテート、N-メチル-2-ピロリドンと3-エトキシプロピオン酸エチル、N-エチル-2-ピロリドンと3-エトキシプロピオン酸エチル、N-メチル-2-ピロリドンとエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、N-エチル-2-ピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、N-エチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、γ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、N-メチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジプロピレングリコールジメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとプロピレングリコールジアセテート、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルケトン、N-エチル-2-ピロリドンとN,N-ジメチルラクトアミドとジイソブチルケトンなどを挙げることができる。このような溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境などに応じて適宜選択される。
【0067】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の有機溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合、固形分濃度は1.5~4.5質量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3~9質量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12~50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1~5質量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3~15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
【0068】
<液晶配向膜及び液晶表示素子>
本発明に係る液晶配向膜は、上記のように調製した液晶配向剤により形成される。また、本発明に係る液晶表示素子は、上記液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶表示素子の駆動モードは特に限定されないが、本発明の効果が得られる観点から、TN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)が好ましい。
【0069】
液晶表示素子は、例えば以下の工程(1-1)~(1-3)を含む工程により製造できる。
【0070】
[工程(1-1):塗膜の形成]
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。まず、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布する。
【0071】
基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜などを用いることができる。
【0072】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、より好ましくは40~150℃であり、特に好ましくは40~100℃である。その後、溶剤を完全に除去すること、及び、液晶配向剤にポリアミック酸やポリアミック酸エステルを含有する場合はそれらのイミド化を進行させることを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~300℃であり、より好ましくは120~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分であり、より好ましくは10~100分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは1~1000nmであり、より好ましくは5~500nmである。
【0073】
[工程(1-2):配向能付与処理]
TN型、STN型の液晶表示素子を製造する場合、上記工程(1-1)で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理を実施する。配向能付与処理としては、塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理が挙げられる。一方、VA型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1-1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用できるが、該塗膜に対し配向能付与処理を施してもよい。
【0074】
VA型の液晶表示素子に好適な液晶配向膜は、PSA(Polymersustainedalignment)型の液晶表示素子にも好適に用いることができる。本発明の液晶配向剤を用いた液晶表示素子の製造方法としては、例えば、上記液晶配向剤を導電膜を有する一対の基板上に塗布して塗膜を形成し、液晶分子の層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを形成し、前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する方法が挙げられる。
【0075】
[工程(1-3):液晶セルの構築]
(1-3A)上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。第一の方法は、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造できる。また、第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に、例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造できる。いずれの方法による場合でも、上記のようにして製造した液晶セルにつき更に、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0076】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。 液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。
【0077】
(1-3B)PSA型液晶表示素子を製造する場合には、液晶と共に上記光重合性基を有する化合物を注入又は滴下する点以外は上記(1-3A)と同様にして液晶セルを構築する。その際、光重合性基を有する化合物の含有量は、液晶成分100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。液晶セルを作製した後は、液晶セルに交流直流の電圧を印加しながら、熱や紫外線を照射して重合性化合物を重合する。これにより、液晶分子の配向を制御することができる。その後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5~50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、300~400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000J/m以上200,000J/m未満であり、より好ましくは1,000~100,000J/mである。
【0078】
(1-3C)光重合性基を有する化合物を含む液晶配向剤を用いて基板上に塗膜を形成した場合、上記(1-3A)と同様にして液晶セルを構築し、その後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する工程を経ることにより液晶表示素子を製造する方法を採用してもよい。その際、光重合性基を有する化合物の含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは1~20質量部である。この方法によれば、PSAモードのメリットを少ない光照射量で実現可能である。印加する電圧や、照射する光の条件は上記(1-3B)の説明を適用できる。
【0079】
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより液晶表示素子を得ることができる。液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【実施例
【0080】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例において使用した化合物の略号の意味を以下に示す。
(テトラカルボン酸二無水物)
BODA:ビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物。
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物。
(ジアミン)
m-PDA:1,3-フェニレンジアミン
【化24】
(溶媒)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
THF:テトラヒドロフラン
【0081】
<ポリイミドの分子量測定>
測定装置:センシュー科学社製 常温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(SSC-7200)、
カラム:Shodex社製カラム(KD-803、KD-805)、カラム温度:50℃、
溶離液:N,N’-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)、
流速:1.0ml/分、
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量約9000,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(分子量 約12,000、4,000、1,000)。
【0082】
<化学イミド化率の測定>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学社製 NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6、0.05%TMS混合品)1.0mlを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液を日本電子データム社製NMR測定器(JNW-ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5~10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。なお、式中、xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値であり、yは基準プロトンのピーク積算値であり、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基のプロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
化学イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
【0083】
DA-S1は新規化合物であり、以下に合成法を詳述する。
下記モノマー合成例1に記載の生成物は、1H-NMR分析により同定した。分析条件は下記の通りである。
装置:Varian NMR System 400 NB (400 MHz)
測定溶媒:CDCl3
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)(δ0.0 ppm for 1H)
【0084】
<モノマー合成例 DA-S1の合成>
【化25】
【0085】
化合物3(3a,3b混合物)の合成
4つ口フラスコにマグネシウム(15.39g, 63.3mmol, 1.5eq.)を加え、真空ポンプにて1時間真空乾燥を行った後、THF(100g)をシリンジにて加え、室温にて撹拌した。次に化合物1(100g, 42.2mmol)のTHF(300g)溶液を穏やかに還流する程度の速度で徐々に滴下しながら加えた。その後、反応溶液を0℃に冷却し、化合物2(105.60g, 42.2mmol, 1.0eq.)のTHF(200g)溶液を滴下した。滴下が終了した後、反応液の温度を室温まで戻し、室温にて3時間撹拌を行った。その後、トルエン(1L)を加え、反応液を希釈した後、反応溶液を再び0℃に冷却し、10%酢酸溶液(500g)を徐々に滴下し加えた。
次に分液操作にて水層を除去し、有機層を飽和食塩水(1L)、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(1L)、飽和食塩水(1L)でそれぞれ洗浄し無水硫酸マグネシウムにて有機層を乾燥した。その後、ろ過、エバポレーターにて留去を行い、化合物3の粗結晶172gを得た。得られた粗結晶はそのまま次の反応に使用した。
【0086】
化合物4の合成
粗結晶である化合物3(172g, 422mmol)とp-トルエンスルホン酸一水和物(4.82g, 25.3mmol, 0.06eq.)の脱水トルエン(MS4A脱水品、2L)混合物を、還流下、水を抜きながら2時間反応させた。反応終了後、エバポレーターにてトルエンを使用量の半分程度留去した後、溶液を室温にて撹拌し、固体を析出させた。得られた固体をろ過し、化合物4の結晶を得た(特量150g、特率91%)。
【0087】
化合物5(5a,5b混合物)の合成
化合物4(108g, 276mmol)、5%パラジウムカーボン粉末(含水、11g、10wt%)、酢酸エチル(1L)、エタノール(1L)の混合物を、水素存在下にて、室温で撹拌した。反応終了後、トルエン(2L)を加え結晶を溶かした後、反応混合物をセライトにてろ過、セライトをトルエン1Lで洗浄した。ろ液を減圧下にて濃縮したところ、目的物である化合物5を得た(得量103.3g、得率95%)。
【0088】
化合物6の合成
0℃、窒素置換下、5(95.4g, 243mmol)の塩化メチレン(800mL)溶液中に、BBr(1.0M-CHCl, 243mL, 1.01mol)を滴下した。滴下後、0℃で2時間撹拌した。反応終了後、蒸留水中に、反応液を少しずつ加えた。酢酸エチル(1L)にて抽出し、抽出液を蒸留水500mLで2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥後、溶媒を減圧下にて留去した。得られた粗物をエタノールにて再結晶、ろ過、エタノールにて洗浄を行ったところ、目的物である化合物6を得た(得量18.6g、得率21%)。
【0089】
化合物8の合成
化合物6(10.0g, 26.4mmol)、炭酸カリウム(11.0g, 79.2mmol, 3eq.)、トルエン(50g)の混合物中に、還流下、化合物7(5.35g, 26.4mmol)のトルエン(20g)溶液を滴下した。滴下後、還流にて一晩撹拌した。反応終了後、反応液を60℃程度まで冷却した後、酢酸エチル(500g)を加え、蒸留水にて3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、溶媒を減圧下にて留去した。得られた粗物を、アセトニトリル/エタノール(2:1)溶液にて再結晶、ろ過後、ろ過結晶をエタノールにて洗浄し、化合物8の粗結晶を得た。この粗結晶をカラムクロマトグラフィー(SiO2, CHCl3)にて精製し化合物8の結晶を得た(得量7.1g、得率49%).
【0090】
DA-S1の合成
化合物8(12.2g, 22.4mmol)、5%パラジウムカーボン粉末(含水品1.22g, 10wt%)、ジオキサン(120g)の混合物を、水素存在下、60℃、4時間撹拌した。反応終了後、窒素置換を行なった後、60℃のままセライトでろ過した。ろ液を、減圧下、溶媒留去したところ、粗物を得た。その粗物を2-プロパノール/酢酸エチル(2:1)で再結晶することにより、目的物DA-S1を得た(得量8.0g、得率74%)。
1H NMR(CDCl3, δppm):7.725(1H, d), 7.577(2H, m), 7.272(2H, m), 7.102(1H, s), 6.791(1H, d), 6.207(1H, d), 6.117(1H, dd), 3.621(4H, broad), 2.553(1H, m), 2.067-0.863(31H, m).
【0091】
<合成例1>
BODA(1.50g、6.00mmol)、m-PDA(0.78g、7.20mmol)及びDA-S1(2.33g、4.80mmol)をNMP(18.4g)中で溶解し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(1.15g、5.88mmol)とNMP(4.60g)を加え、40℃で6時間反応させポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液(23.0g)にNMPを加え6.5質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(4.87g)、及びピリジン(1.51g)を加え、80℃で2.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(270g)に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥しポリイミド粉末を得た。このポリイミドの化学イミド化率は82%であり、Mnは14100、Mwは51800であった。
得られたポリイミド粉末(2.7g)にNMP(24.3g)を加え、70℃にて12時間撹拌して溶解させた。この溶液にBCS(18.0g)を加え、室温で2時間撹拌することにより液晶配向剤SPI-1を得た。
【0092】
<合成例2>
BODA(2.75g、11.0mmol)、m-PDA(1.43g、13.2mmol)及びDA-S2(3.83g、8.80mmol)をNMP(32.0g)中で溶解し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(2.11g、10.8mmol)とNMP(8.50g)を加え、40℃で6時間反応させポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液(44.6g)にNMPを加え6.5質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(9.86g)、及びピリジン(3.06g)を加え、80℃で2.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(526g)に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥しポリイミド粉末を得た。このポリイミドの化学イミド化率は78%であり、Mnは13700、Mwは47400であった。
得られたポリイミド粉末(2.7g)にNMP(24.3g)を加え、70℃にて12時間撹拌して溶解させた。この溶液にBCS(18.0g)を加え、室温で2時間撹拌することにより液晶配向剤SPI-2を得た。
【0093】
<合成例3>
BODA(2.75g、11.0mmol)、m-PDA(1.43g、13.2mmol)及びDA-S3(3.35g、8.80mmol)をNMP(30.1g)中で溶解し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(2.11g、10.8mmol)とNMP(8.50g)を加え、40℃で6時間反応させポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液(42g)にNMPを加え6.5質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(9.74g)、及びピリジン(3.02g)を加え、80℃で2.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(497g)に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥しポリイミド粉末を得た。このポリイミドの化学イミド化率70%であり、Mnは15400、Mwは51200であった。
得られたポリイミド粉末(2.7g)にNMP(24.3g)を加え、70℃にて12時間撹拌して溶解させた。この溶液にBCS(18.0g)を加え、室温で2時間撹拌することにより液晶配向剤SPI-3を得た。
【0094】
【表1】
【0095】
<実施例1>
合成例1で得られた液晶配向剤SPI-1を用いて下記に示すような手順で液晶セルの作製を行った。
合成例1で得られた液晶配向剤SPI-1を、ITO電極付きガラス基板と、ライン/スペースがそれぞれ500μmのITO電極パターンが形成されている基板にスピンコートし、80℃のホットプレートで90秒間乾燥した後、230℃の熱風循環式オーブンで30分、もしくは過酷条件として90分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜を形成した。一方の液晶配向膜上に4μmのビーズスペーサーを散布し、さらに熱硬化性シール剤(協立化学社製 XN-1500T)を印刷した。次いで、もう一方の基板の液晶配向膜が形成された側の面を内側にして、先の基板と貼り合せた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルにPSA用重合性化合物を含有する液晶MLC-3023(メルク社製商品名)を減圧注入法によって注入し、液晶セルを作製した。その後、得られた液晶セルをPSA処理し、プレチルト角を測定した。
【0096】
[PSA処理]
15Vの直流電圧を印加した状態で、液晶セルの外側から325nm以下カットフィルターを通したUVを10J/cm2照射した。なお、UVの照度は、ORC社製UV-MO3AにUV-35の受光器を接続し用いた。その後、液晶セル中に残存している未反応の重合性化合物を失活させる目的で、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射した。
[プレチルト角測定]
LCDアナライザー(名菱テクニカ社製LCA-LUV42A)を使用して、上記で作製したセルのプレチルト角を測定した。
【0097】
<比較例1、2>
液晶配向剤SPI-1の代わりに、それぞれSPI-2、SPI-3を用いた以外は実施例1と同様にしてそれぞれの液晶セルを作製し、PSA処理後、プレチルト角の測定を行った。それぞれの結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示されるように、ナフチレン基を有さない垂直配向側鎖ジアミンを含有する液晶配向剤SPI-2、SPI-3を用いた比較例1、2は、過酷条件と標準条件でのプレチルト角の差が大きい一方で、ナフチレン基を有する垂直配向側鎖ジアミンDA-S1を含有する液晶配向剤SPI-1を用いた実施例1は、過酷条件と標準条件でのプレチルト角の差が極小さいことが確認された。このことから、ナフチレン基を有する垂直配向側鎖ジアミンを含有する液晶配向剤は、過度の加熱にさらされた場合であっても、液晶を配向させる能力が高い液晶配向膜が得られることが分かる。
【0100】
なお、2019年9月24日に出願された日本特許出願2019-173214号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。