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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】中空粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20241217BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241217BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20241217BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08F2/18
C08F2/44 C
C08F265/06
C08J9/28 CEY
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021562682
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2020044825
(87)【国際公開番号】W WO2021112117
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019221626
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020097938
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真司
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/072671(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第104910311(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108623734(CN,A)
【文献】特開2011-068774(JP,A)
【文献】特開2015-043059(JP,A)
【文献】特開2011-074289(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066704(WO,A1)
【文献】特開2016-068037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60
C08F265/06
C08J 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備え、空隙率が50%以上90%以下である中空粒子を製造する方法であって、
シェル用重合性単量体、ヘテロ原子を含む繰り返し単位を含有する重合体よりなる群から選ばれる極性樹脂、炭化水素系溶剤、分散剤として難水溶性無機金属塩、及び、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、シェル用重合性単量体、極性樹脂、及び、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程、
前記懸濁液を重合反応に供する重合工程、及び、
前記重合工程により得られた中空粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去する炭化水素系溶剤除去工程を含む、中空粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合液は、前記シェル用重合性単量体100質量部に対し、極性樹脂を0.1~10質量部の割合で含有する、請求項1に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項3】
前記極性樹脂がアクリル系重合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項4】
前記極性樹脂であるアクリル系重合体が、メチルメタクリレートと、極性基含有(メタ)アクリル系モノビニル単量体とを含む極性樹脂用重合性単量体の共重合体であり、前記極性樹脂用重合性単量体の総質量100質量%に対する、前記メチルメタクリレートの共重合割合が50.0質量%以上99.9質量%以下であり、前記極性基含有(メタ)アクリル系モノビニル単量体の共重合割合が0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項3に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分散剤である難水溶性無機金属塩が水酸化マグネシウムである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の中空粒子の製造方法。
【請求項6】
前記シェル用重合性単量体は、当該シェル用重合性単量体の総質量100質量%中に、架橋性単量体を70質量%以上100質量%以下、及び、非架橋性単量体を0質量%以上30質量%以下の割合で含有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の中空粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空粒子の製造方法に関する。さらに詳しくは、本開示は、高い空隙率を有し、潰れにくく、製造プロセスで用いた非反応性炭化水素系溶剤や未反応単量体などの揮発性化合物の残留量を低減することができ、特に、樹脂等の他の材料と混練するときに潰れにくい中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単量体を重合することにより製造される中空粒子(中空樹脂粒子)は、内部が実質的に樹脂で満たされた樹脂粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くできるため、不透明度、白色度などの光学的性質に優れた有機顔料や隠蔽剤として水系塗料、紙塗被組成物などの用途で汎用されている。
【0003】
中空粒子は、水系塗料、紙塗被組成物等の軽量化、断熱化、及び不透明化、白色化等の効果を向上させるため、高い空隙率を有することが望ましい。しかし、中空粒子の空隙率を高くすると、中空粒子のシェル厚が薄くなるため、潰れやすくなってしまうという問題がある。したがって、空隙率が高く、かつ、潰れにくい中空粒子が求められている。
【0004】
特許文献1には、2個以上のエチレン性不飽和基を有する多官能性モノマー20~70重量部及び単官能性モノマー80~30重量部からなるモノマー混合物と、非反応性有機溶媒及びポリスチレン換算で1万~100万の重量平均分子量を有する非架橋性ポリマーとを含む混合溶液を、分散安定剤あるいは界面活性剤を含む水溶液に分散し、次いで重合させることを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法が開示されている。特許文献1には、当該製造方法により、ピンホールが少なく、かつ潰れの少ない小粒径の中空樹脂粒子が提供される旨が記載されている。
【0005】
特許文献2には、シェルに囲われた1つの中空を持つ中空樹脂粒子であって、前記中空樹脂粒子が、350℃以上の熱分解開始温度を有し、前記シェルが、10~50nmの範囲内の直径の微細貫通孔を有し、かつ前記中空樹脂粒子の平均一次粒子径に対して、0.03~0.25の比の厚さを有する中空樹脂粒子が開示されている。また、特許文献2には、この中空樹脂粒子は、多官能性モノマーと非反応性溶媒とを含む混合溶液を水溶液に分散し、次いで前記多官能性モノマーを重合させることにより製造されること、水溶液には分散安定剤あるいは界面活性剤を含んでよいこと、及び、直径10~50nmの微細貫通孔を形成するために、水溶性重合開始剤を用いることが好ましい旨が記載されている。
【0006】
特許文献3には、分散安定剤(A)の水溶液中で、(i)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)、又は、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B’)との混合物、(ii)開始剤(C)、及び、(iii)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)から得られる重合体もしくは共重合体又は少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B’)との共重合体に対して相溶性の低い水難溶性の溶媒(D)からなる混合物を分散させ、懸濁重合を行うことを特徴とする、単層構造のシェル及び中空部からなる中空高分子微粒子の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、分散安定剤(A)として、ポリビニルアルコール等の高分子分散安定剤、あるいは、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤を用いることができ、そのなかでもポリビニルアルコール等の高分子分散安定剤が好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-68037号公報
【文献】特開2016-190980号公報
【文献】特開2002-80503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、中空樹脂粒子を樹脂と混合して塗料や成形材料を調製する時や、中空樹脂粒子を含有する成形材料を用いて成形体を製造する時に、二軸混練や射出成形でのシェアや圧力に充分に耐えられないため、潰れやすいという問題がある。
【0009】
特許文献2の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、特許文献1と同様に、二軸混練や射出成形でのシェアや圧力に充分に耐えられないため、潰れやすいという問題がある。また、特許文献2の製造方法により得られる中空樹脂粒子は微細貫通孔を有するため、当該中空樹脂粒子を含有する成形用樹脂組成物を射出成形する途中で、粒子の内部に樹脂が侵入するという問題がある。さらに、中空樹脂粒子の微細貫通孔は、中空樹脂粒子に有益な機能を付与する場合がある反面、シェルが欠損した部分であるため中空樹脂粒子の強度を下げて潰れを生じやすくする原因にもなる。
【0010】
特許文献3の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、中空樹脂粒子を懸濁重合により形成した後に、中空樹脂粒子の中空内に存在する難水溶性溶剤を除去することが困難であるため、中空樹脂粒子中に難水溶性溶剤が残留しやすいという問題があり、また、中空樹脂粒子を樹脂と混合して二軸混練時に残留溶剤が発火や発煙を引き起こす恐れもある。
【0011】
本開示の課題は、高い空隙率を有し、潰れにくく、製造プロセスで用いた非反応性炭化水素系溶剤や未反応単量体などの揮発性化合物の残留量を低減することができる中空粒子を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、懸濁重合により中空粒子を得る方法において、高い空隙率を有し、潰れにくく、製造プロセスで用いた非反応性炭化水素系溶剤や未反応単量体などの揮発性化合物の残留量を低減することができる中空粒子を製造するためには、懸濁重合に用いる混合液中に含有させる樹脂の種類と、懸濁重合に用いる分散剤の種類が重要であることに着目した。
【0013】
本開示によれば、樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備え、空隙率が50%以上90%以下である中空粒子を製造する方法であって、シェル用重合性単量体、ヘテロ原子を含む繰り返し単位を含有する重合体よりなる群から選ばれる極性樹脂、炭化水素系溶剤、分散剤として難水溶性無機金属塩、及び、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、シェル用重合性単量体、極性樹脂、及び、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程、前記懸濁液を重合反応に供する重合工程、及び、前記重合工程により得られた中空粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去する炭化水素系溶剤除去工程を含む、中空粒子の製造方法が提供される。
【0014】
上記製造方法において、前記混合液は、前記シェル用重合性単量体100質量部に対し、極性樹脂を0.1~10質量部の割合で含有することが好ましい。
【0015】
上記製造方法において、前記極性樹脂がアクリル系重合体であることが好ましい。
【0016】
上記製造方法において、前記極性樹脂であるアクリル系重合体が、メチルメタクリレートと、極性基含有(メタ)アクリル系モノビニル単量体とを含む極性樹脂用重合性単量体の共重合体であり、前記極性樹脂用重合性単量体の総質量100質量%に対する、前記メチルメタクリレートの共重合割合が50.0質量%以上、99.9質量%以下であり、前記極性基含有(メタ)アクリル系モノビニル単量体の共重合割合が0.1質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましい。
【0017】
上記製造方法において、前記分散剤である難水溶性無機金属塩が水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0018】
上記製造方法において、前記シェル用重合性単量体は、当該シェル用重合性単量体の総質量100質量%中に、架橋性単量体を70質量%以上100質量%以下、及び、非架橋性単量体を0質量%以上30質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記の如き本開示の製造方法によれば、高い空隙率を有し、潰れにくく、製造プロセスで用いた非反応性炭化水素系溶剤や未反応単量体などの揮発性化合物の残留量を低減することができ、特に、樹脂等の他の材料と混練するときに潰れにくい中空粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の製造方法の一例を説明する図である。
図2】懸濁工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。
図3】従来の乳化重合用の分散液を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.中空粒子の製造方法
本開示における中空粒子の製造方法は、樹脂を含むシェル及び当該シェルに取り囲まれた中空部を備え、空隙率が50%以上90%以下である中空粒子を製造する方法であって、シェル用重合性単量体、ヘテロ原子を含む繰り返し単位を含有する重合体よりなる群から選ばれる極性樹脂、炭化水素系溶剤、分散剤として難水溶性無機金属塩、及び、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、シェル用重合性単量体、極性樹脂、及び、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程、前記懸濁液を重合反応に供する重合工程、及び、前記重合工程により得られた中空粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去する炭化水素系溶剤除去工程を含む、ことを特徴とする。
【0022】
本開示の中空粒子は、樹脂を含有するシェル(外殻)と、当該シェルに取り囲まれた中空部とを備える粒子である。
本開示において、中空部は、樹脂材料により形成される中空粒子のシェルから明確に区別される空洞状の空間である。中空粒子のシェルは多孔質構造を有していても良いが、その場合には、中空部は、多孔質構造内に均一に分散された多数の微小な空間とは明確に区別できる大きさを有している。
中空粒子が有する中空部は、例えば、粒子断面のSEM観察等により、又は粒子をそのままTEM観察等することにより確認することができる。
また、中空粒子が有する中空部は、空気等の気体で満たされていてもよいし、溶剤を含有していてもよい。
また、本開示の中空粒子は、通常、シェルが連通孔及びシェル欠陥を有さず、中空部がシェルによって粒子外部から隔絶されている。一般に中空粒子には、シェルが中空部と粒子の外部空間を通じる連通孔を有しないものと、シェルが1又は2以上の連通孔を有し、中空部が当該連通孔を介して粒子外部と通じているものとがある。連通孔は、中空粒子に有益な機能を付与する場合がある反面、シェルが欠損した部分であるため、中空粒子の強度を下げて潰れを生じやすくする原因にもなる。本開示の中空粒子は、通常、直径10nm以上500nm以下の連通孔を有しない。また、本開示において、中空粒子のシェル欠陥とは、粒子の大きさの割には極めて大きいヒビ状の欠陥を意味し、中空粒子の強度を悪化させる原因になる。中空粒子の大きさにもよるが、1μm以上の長さを有するヒビは、一般に中空粒子の強度を著しく悪くするため、シェル欠陥と認識される。
なお、本開示において、シェルが連通孔及びシェル欠陥を有しないとは、連通孔及びシェル欠陥を実質的に有しなければよく、100個の中空粒子をSEM観察し、連通孔又はシェル欠陥を有する中空粒子が5個以下であれば、連通孔及びシェル欠陥を有しないとする。
【0023】
本開示において中空粒子を製造する方法は、シェル用重合性単量体、炭化水素系溶剤、分散剤、及び、水系媒体を含む混合液を懸濁させることにより、シェル用重合性単量体と炭化水素系溶剤が相分離し、シェル用重合性単量体が表面側に偏在し、炭化水素系溶剤が中心部に偏在した分布構造を有する液滴が水系媒体中に分散してなる懸濁液を調製し、この懸濁液を重合反応に供することによって液滴の表面を硬化させて炭化水素系溶剤で満たされた中空部を有する中空粒子を形成するという基本技術に従うものである。
このような基本技術において、分散剤として難水溶性無機金属塩を用いるとともに、シェル用重合性単量体中に極性樹脂を添加することによって、高い空隙率でも潰れにくく、かつ、炭化水素系溶剤や未反応単量体などの揮発性化合物の残留が少ない中空粒子を製造することができる。
【0024】
本開示の中空粒子を製造する方法により上記の如き効果が得られる理由は、次のように推測される。
中空粒子のシェル厚は、中空粒子の潰れにくさに大きな影響を与えると考えられる。空隙率は同じであるが粒径が異なる中空粒子を比べると、中空粒子の粒径が大きいほどシェル厚が大きくなるため、シェルの強度が大きくなり、中空粒子が潰れにくくなる。
一方、中空粒子のシェル厚は、中空粒子からの揮発性化合物の除去効率にも大きな影響を与えると考えられる。液滴の重合により中空粒子を形成した後、中空部を形成するためにスペーサー材料として用いた炭化水素系溶剤や未反応のシェル用重合性単量体といった揮発性化合物を中空粒子から除去する必要があるが、中空粒子のシェル厚が厚すぎる場合には揮発性化合物を除去することが困難になる。
したがってシェル厚の観点では、高い空隙率でも潰れにくく、かつ、揮発性化合物の残留が少ない中空粒子を得るためには、シェル用重合性単量体と炭化水素系溶剤を含む液滴の粒径を調節することが重要である。
上記液滴の粒径は、懸濁液に用いられる分散剤の種類によって影響を受ける。
例えば、分散剤として特許文献1や特許文献2の発明で用いられているようなドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を用いる場合には、粒径が小さい液滴が形成されるため、中空粒子の粒径も小さくなり、空隙率は高いが潰れやすい中空粒子となる。
また例えば、分散剤として特許文献3の発明で用いられているようなポリビニルアルコールを用いる場合には、粒径が大きい液滴が形成されるため、中空粒子の粒径も大きくなり、空隙率は高いが揮発性化合物を除去することが困難な中空粒子となる。
【0025】
難水溶性無機金属塩は分散剤として用いることができるが、難水溶性無機金属塩を極性樹脂と組み合せないで用いる場合には、粒径が大きい液滴が形成されるため、中空粒子の粒径も大きくなり、空隙率は高いが揮発性化合物を除去することが困難な中空粒子となる。
本開示においては、難水溶性無機金属塩を極性樹脂と組み合せて用いることにより液滴の粒径を適切に調節することができるため、高い空隙率でも潰れにくく、かつ、揮発性化合物の残留が少ない中空粒子を得ることができる。
シェル用重合性単量体、極性樹脂、炭化水素系溶剤、分散剤として難水溶性無機金属塩、及び、水系媒体を含む混合液を懸濁する場合には、分散剤の作用によりシェル用重合性単量体、極性樹脂、及び、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物からなる液滴が形成され、当該液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。
液滴は、炭化水素系溶剤と、シェル用重合性単量体及び極性樹脂を含む炭化水素系溶剤以外の材料が相分離し、炭化水素系溶剤が中心部に偏在し、炭化水素系溶剤以外の材料が表面側に偏在し、極性樹脂が特に表面近傍に偏在し、難水溶性無機金属塩が表面に付着した構造を有している。このような材料の分布構造は、水系媒体に対する各材料の親和性の相違に従って形成される。
本開示においては、懸濁液中の液滴が上記の如き材料の分布構造をとり、液滴表面で難水溶性無機金属塩と極性樹脂の相互作用を生じるため、難水溶性無機金属塩による液滴の分散性が変化し、シェル用重合性単量体と炭化水素系溶剤を含む液滴の粒径を適切に調節することができると考えられる。
【0026】
本開示の中空粒子は、シェルの連通孔やシェル欠陥が極めて少ないという特徴を有している。
一般に中空粒子には、シェルが中空部と粒子の外部空間を通じる連通孔を有さないものと、シェルが1又は2以上の連通孔を有し、中空部が当該連通孔を介して粒子外部と通じているものとがある。中空粒子の大きさにもよるが、連通孔の径は、通常10~500nm程度である。連通孔は、中空粒子に有益な機能を付与する場合がある反面、シェルが欠損した部分であるため中空粒子の強度を下げて潰れを生じやすくする原因にもなる。
また、中空粒子は、粒子の大きさの割には極めて大きいヒビ状のシェル欠陥を有している場合がある。中空粒子の大きさにもよるが、1μm以上の長さを有するヒビは一般に中空粒子の強度を著しく悪くするため、シェル欠陥と認識される。
本開示においては、液滴表面で難水溶性無機金属塩と極性樹脂の相互作用を生じるため、中空粒子表面の状態も改善され、連通孔やシェル欠陥が極めて少ないシェルを形成することができると考えられる。
【0027】
上記方法は、基本的に混合液調製工程、懸濁工程、重合工程、及び、炭化水素系溶剤除去工程を含むが、これら以外の工程を含んでもよい。例えば、重合工程後に固液分離を行い、前駆体粒子内の炭化水素系溶剤を除去する溶剤除去工程を空気雰囲気下で行ってもよい。
また、技術的に可能である限り、上記各工程、及び、その他の付加的な工程の2つまたはそれ以上を、一つの工程として同時に行っても良いし、順序を入れ替えて行っても良い。例えば、混合液を調製する材料を投入しながら同時に懸濁を行うというように、混合液の調製と懸濁を一つの行程中で同時に行ってもよい。
【0028】
本開示における製造方法の好ましい一例は以下の工程を含む。
(1)混合液調製工程
シェル用重合性単量体、極性樹脂、炭化水素系溶剤、分散剤としての難水溶性無機金属塩、及び、水系媒体を含む混合液を調製する工程
(2)懸濁工程
前記混合液を懸濁させることにより、シェル用重合性単量体、極性樹脂、及び、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程
(3)重合工程
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する中空粒子(前駆体粒子)を含む前駆体組成物を調製する工程
(4)固液分離工程
前記前駆体組成物を固液分離することにより前記中空粒子(前駆体粒子)を得る工程、及び
(5)溶剤除去工程
前記固液分離工程により得られた中空粒子(前駆体粒子)に内包される炭化水素系溶剤を除去する工程
なお、本開示においては、前記重合工程により得られる、炭化水素系溶剤を内包する中空粒子を、中空部が気体で満たされた中空粒子の中間体と考えて、前駆体粒子と称する場合がある。また、本開示において、前駆体粒子を含む組成物を、前駆体組成物という。
【0029】
図1は、本開示の製造方法の一例を示す模式図である。図1中の(1)~(5)は、上記各工程(1)~(5)に対応する。各図の間の白矢印は、各工程の順序を指示するものである。なお、図1は説明のための模式図に過ぎず、本開示の製造方法は図に示すものに限定されない。また、本開示の各製造方法に使用される材料の構造、寸法及び形状は、これらの図における各種材料の構造、寸法及び形状に限定されない。
図1の(1)は、混合液調製工程における混合液の一実施形態を示す断面模式図である。この図に示すように、混合液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する低極性材料2を含む。ここで、低極性材料2とは、極性が低く水系媒体1と混ざり合いにくい材料を意味する。本開示において低極性材料2は、シェル用重合性単量体、極性樹脂、炭化水素系溶剤を含む。
図1の(2)は、懸濁液調製工程における懸濁液の一実施形態を示す断面模式図である。懸濁液は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する液滴10を含む。液滴10は、シェル用重合性単量体、極性樹脂、及び、炭化水素系溶剤を含んでいるが、液滴内の分布は均一ではない。液滴10は、炭化水素系溶剤4aと、シェル用重合性単量体及び極性樹脂を含む炭化水素系溶剤以外の材料4bが相分離し、炭化水素系溶剤4aが中心部に偏在し、炭化水素系溶剤以外の材料4bが表面側に偏在し、極性樹脂(図示せず)が特に表面近傍に偏在し、難水溶性無機金属塩(図示せず)が表面に付着した構造を有している。
図1の(3)は、重合工程後の前駆体組成物の一実施形態を示す断面模式図である。前駆体組成物は、水系媒体1、及び当該水系媒体1中に分散する前駆体粒子20を含む。この前駆体粒子20の外表面を形成するシェル6は、上記液滴10中の単量体等の重合により形成されたものである。シェル6内部の中空部は、炭化水素系溶剤4aを内包する。
図1の(4)は、固液分離工程後の前駆体粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この図1の(4)は、上記図1の(3)の状態から水系媒体1を分離した状態を示す。
図1の(5)は、溶剤除去工程後の中空粒子の一実施形態を示す断面模式図である。この図1の(5)は、上記図1の(4)の状態から炭化水素系溶剤4aを除去した状態を示す。
その結果、シェル6の内部に中空部8を有する中空粒子100が得られる。
以下、上記5つの工程及びその他の工程について、順に説明する。
【0030】
(1)混合液調製工程
本工程は、シェル用重合性単量体、極性樹脂、炭化水素系溶剤、分散剤として難水溶性無機金属塩、及び、水系媒体を含む混合液を調製する工程である。
重合性単量体とは、重合可能な官能基を有する化合物である。本開示においては、重合性単量体として、非架橋性単量体及び架橋性単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1つの重合性単量体を用いる。
なお、本開示においてシェル用重合性単量体とは、中空粒子のシェルを形成するために用いられる重合性単量体である。
非架橋性単量体は重合可能な官能基を1つだけ有する重合性単量体であり、架橋性単量体は重合可能な官能基を2つ以上有し、重合反応により樹脂中に架橋結合を形成する重合性単量体である。重合性単量体としては、重合可能な官能基としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が一般に用いられる。
混合液中には、さらに油溶性重合開始剤や懸濁安定剤等の他の材料を含有させても良い。混合液の材料について、(A)シェル用重合性単量体、(B)極性樹脂、(C)油溶性重合開始剤、(D)炭化水素系溶剤、(E)分散剤、(F)水系媒体の順に説明する。
【0031】
(A)シェル用重合性単量体
[非架橋性単量体]
非架橋性単量体としては、モノビニル単量体が好ましく用いられる。モノビニル単量体とは、重合可能なビニル官能基を1つ有する化合物である。
モノビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノビニル単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体及びその誘導体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等が挙げられる。
モノビニル単量体としては、中でも、重合反応が安定し易く、かつ、耐熱性が高い中空粒子が得られる点から、(メタ)アクリル系モノビニル単量体が好ましく、ブチルアクリレート及びメチルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
なお、本開示において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルの各々を意味する。
これらの非架橋性単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
[架橋性単量体]
本開示においては、架橋性単量体を非架橋性単量体と組み合わせて用いることにより、得られる中空粒子シェルの機械的特性を高めることができる。また、架橋性単量体は重合可能な官能基を複数有するため、単量体同士を連結することができ、シェルの架橋密度を高めることができる。
架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルジフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の二官能の架橋性単量体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の三官能以上の架橋性単量体等を挙げることができる。これらのうちジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
混合液中のシェル用重合性単量体(非架橋性単量体と架橋性単量体の全て)の含有量は、特に限定はされないが、中空粒子の空隙率、粒径及び機械的強度のバランスの観点、及び揮発性化合物の残留量を低減する点から、水系媒体を除く混合液中成分の総質量100質量%に対し、通常15~55質量%、より好ましくは25~40質量%である。
【0034】
本開示において、シェル用重合性単量体100質量%中の前記架橋性単量体及び前記非架橋性単量体の含有割合は、前記架橋性単量体が70質量%以上100質量%以下であり、前記非架橋性単量体が0質量%以上30質量%以下である。前記架橋性単量体の含有割合が70質量%以上であることにより、中空粒子のシェル中に占める架橋性単量体単位の含有割合が十分に多いため、シェル中に共有結合ネットワークが密に張り巡らされる結果、強度に優れ、潰れ難く、外部から付与される熱等に対しても変形し難くなる。一方、前記非架橋性単量体を30質量%以下の割合で含有する場合は、シェルの連通孔及びシェル欠陥の発生が更に抑制されやすくなる。なお、シェル用重合性単量体が前記非架橋性単量体を含有する場合、シェル用重合性単量体100質量%中の前記架橋性単量体及び前記非架橋性単量体の含有割合は、特に限定はされないが、例えば、前記架橋性単量体が70質量%以上95質量%以下、且つ前記非架橋性単量体が5質量%以上30質量%以下であってもよく、前記架橋性単量体が70質量%以上90質量%以下、且つ前記非架橋性単量体が10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0035】
(B)極性樹脂
(2)極性樹脂
本開示の中空粒子のシェルは、更に極性樹脂を含む。
本開示において極性樹脂とは、ヘテロ原子を含む繰り返し単位を含有する重合体をいう。具体的には、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ヘテロ原子を含むビニル系樹脂等が挙げられる。
前記極性樹脂は、ヘテロ原子含有単量体の単独重合体又は共重合体であってもよいし、ヘテロ原子含有単量体とヘテロ原子非含有単量体との共重合体であってもよい。前記極性樹脂がヘテロ原子含有単量体とヘテロ原子非含有単量体との共重合体である場合は、中空粒子の粒径を制御しやすい点から、当該共重合体を構成する全繰り返し単位100質量%中、ヘテロ原子含有単量体単位の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
極性樹脂に用いられるヘテロ原子含有単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等の(メタ)アクリロイル基を有する単量体である、(メタ)アクリル系モノビニル単量体;ハロゲン化スチレン、スチレンスルホン酸等のヘテロ原子を含む芳香族ビニル単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体等のカルボキシル基含有単量体;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体等を挙げることができる。これらのヘテロ原子含有単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
極性樹脂に用いられるヘテロ原子非含有単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等のヘテロ原子を含まない芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体を挙げることができる。これらのヘテロ原子非含有単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記極性樹脂は、中でも、前記シェル用重合性単量体との相溶性が高く、中空粒子の粒径を制御しやすい点から、当該樹脂を構成する全繰り返し単位100質量%中、(メタ)アクリル系モノビニル単量体単位の総質量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上の、アクリル系樹脂であることが好ましく、特に、当該樹脂を構成する全繰り返し単位が(メタ)アクリル系モノビニル単量体単位からなるアクリル系樹脂であることが好ましい。
【0037】
前記極性樹脂は、中でも、前記ヘテロ原子含有単量体が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アミノ基、ポリオキシエチレン基及びエポキシ基から選ばれる極性基を含む極性基含有単量体単位を含有することが、中空粒子の粒径を制御しやすい点から好ましい。前記極性基としては、少ない添加量での粒子径制御が可能である点から、中でも、カルボキシル基及びヒドロキシル基が好ましい。
極性基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体等のカルボキシル基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有単量体;スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有単量体;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体等を挙げることができる。これらの極性基含有単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記極性樹脂が極性基含有単量体単位を含有する場合、前記極性基は主鎖又は側鎖の末端に位置する、或いは主鎖又は側鎖にペンダント状に結合していることが、極性樹脂が中空粒子の外側表面に配置されやすくなり、中空粒子の粒径を制御しやすくなる点から好ましい。
【0038】
極性樹脂が前記極性基含有単量体単位を含まない場合に、当該極性樹脂が含む前記ヘテロ原子含有単量体単位としては、前記シェル用重合性単量体との相溶性が高く、中空粒子の粒径を制御しやすい点から、アルキル(メタ)アクリレートに由来する単量体単位を含むことが好ましく、中でも極性が高い点から、好ましくはアルキル基の炭素数が3以下、より好ましくはアルキル基がメチル基又はエチル基、更に好ましくはアルキル基がメチル基であるアルキル(メタ)アクリレートに由来する単量体単位を含むことが好ましい。
【0039】
前記極性樹脂である前記アクリル系樹脂としては、中でも、前記シェル用重合性単量体との相溶性が高く、中空粒子の粒径を制御しやすい点から、極性樹脂用重合性単量体の総質量を100質量%としたときに、メチルメタクリレートを50質量%以上含む極性樹脂用重合性単量体の重合体又は共重合体であることが好ましい。なお、本開示においては、極性樹脂の合成に用いられる重合性単量体を、極性樹脂用重合性単量体と称する。
前記極性樹脂である前記アクリル系樹脂としては、中空粒子の粒径をより制御しやすい点から、より好ましくは、メチルメタクリレート50.0質量%以上99.9質量%以下と、前記極性基含有単量体0.1質量%以上5.0質量%以下とを含む極性樹脂用重合性単量体の共重合体であり、更に好ましくは、メチルメタクリレート50.0質量%以上99.0質量%以下と、前記極性基含有単量体0.1質量%以上5.0質量%以下とを含む極性樹脂用重合性単量体の共重合体であり、より更に好ましくは、メチルメタクリレート50.0質量%以上99.0質量%以下と、メチルメタクリレートとは異なり且つ前記極性基を含有しない(メタ)アクリル系モノビニル単量体1.0質量%以上5.0質量%以下と、前記極性基含有単量体0.1質量%以上5.0質量%以下とを含む極性樹脂用重合性単量体の共重合体であり、特に好ましくは、メチルメタクリレート50.0質量%以上98.0質量%以下と、メチルメタクリレートとは異なり且つ前記極性基を含有しない(メタ)アクリル系モノビニル単量体1.0質量%以上5.0質量%以下と、前記極性基含有単量体0.2質量%以上3.0質量%以下とを含む極性樹脂用重合性単量体の共重合体である。
メチルメタクリレートとは異なり且つ前記極性基を含有しない(メタ)アクリル系モノビニル単量体としては、ガラス転移点を制御できる点から、エチルアクリレート及びブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エチルアクリレートが特に好ましい。
前記極性基含有単量体としては、前記シェル用重合性単量体との相溶性の観点から、前記極性基を含有する(メタ)アクリル系モノビニル単量体が好ましく、更に少ない添加量で粒子径制御が可能である点から、カルボキシル基又はヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリル系モノビニル単量体がより好ましい。
【0040】
前記極性樹脂は、例えば、前記ヘテロ原子含有単量体を含有する極性樹脂用重合性単量体を用いて、溶液重合、乳化重合等の重合方法により重合させることで得ることができる。
また、前記極性樹脂が共重合体である場合、当該共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
また、前記極性樹脂は、溶解性が向上する点から、より細かく粉砕されていることが好ましい。
【0041】
前記極性樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に限定はされないが、テトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算値で、好ましくは3000以上20000以下の範囲内であり、より好ましくは4000以上17000以下の範囲内であり、より更に好ましくは6000以上15000以下の範囲内である。前記極性樹脂の数平均分子量(Mn)が上記下限値以上であることにより、極性樹脂の溶解性が向上し、中空粒子の粒子径のコントロールがしやすく、上記上限値以下であることにより、シェルの強度の低下を抑制することができる。
【0042】
本開示の中空粒子において、前記極性樹脂の含有量は、前記シェル用重合性単量体100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以上8.0質量部以下であり、より更に好ましくは0.5質量部以上8.0質量部以下である。前記極性樹脂の含有量が上記下限値以上であることにより、中空粒子の粒子径及びシェルの厚みを制御しやすいため、中空粒子の強度を向上させ、揮発性化合物の含有量を低減することができる。一方、前記極性樹脂の含有量が上記上限値以下であることにより、前記シェル用重合性単量体に由来する重合体の含有割合の低下を抑制できることから、シェルの強度の低下を抑制し、中空粒子の潰れを更に抑制することができる。
【0043】
(C)油溶性重合開始剤
本開示においては、混合液中に油溶性重合開始剤を含有させることが好ましい。混合液を懸濁後に単量体組成物の液滴を重合する方法として、水溶性重合開始剤を用いる乳化重合法と、油溶性重合開始剤を用いる懸濁重合法があるが、油溶性重合開始剤を用いることにより懸濁重合を行うことができる。
油溶性重合開始剤は、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されない。油溶性重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t一ブチルペルオキシド一2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
混合液中のシェル用重合性単量体の総質量を100質量部としたとき、油溶性重合開始剤の含有量は、好適には0.1~10質量部であり、より好適には0.5~7質量部であり、さらに好適には1~5質量部である。油溶性重合開始剤の含有量が0.1~10質量部であることにより、重合反応を十分進行させ、かつ重合反応終了後に油溶性重合開始剤が残存するおそれが小さく、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0044】
(D)炭化水素系溶剤
本開示においては、非重合性で且つ難水溶性の有機溶剤として炭化水素系溶剤を用いる。炭化水素系溶剤は、粒子内部に中空部を形成するスペーサー材料として働く。後述する懸濁工程において、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液が得られる。懸濁工程においては、単量体組成物の液滴内で相分離が発生する結果、極性の低い炭化水素系溶剤が重合性単量体液滴の内部に集まりやすくなる。最終的に、単量体組成物の液滴においては、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の他の材料が各自の極性に従って分布する。
そして、後述する重合工程において、炭化水素系溶剤を内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物が得られる。すなわち、炭化水素系溶剤が粒子内部に集まることにより、得られる前駆体粒子の内部には、炭化水素系溶剤で満たされた中空部が形成されることとなる。
【0045】
炭化水素系溶剤の種類は、特に限定されない。炭化水素系溶剤としては、例えば、ブタン、ペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、二硫化炭素、四塩化炭素等の比較的揮発性が高い溶剤が挙げられる。
混合液中の炭化水素系溶剤の量を変えることにより、中空粒子の空隙率を調節することができる。後述する懸濁工程において、架橋性単量体等を含む油滴が炭化水素系溶剤を内包した状態で重合反応が進行するため、炭化水素系溶剤の含有量が多いほど、得られる中空粒子の空隙率が高くなる傾向がある。
炭化水素溶剤は、炭化水素系溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であることが好ましい。これにより、重合性単量体の液滴内で相分離が十分に発生することにより、中空部を1つのみ有する中空粒子が得られやすく、多孔質粒子の生成を抑制することができる。飽和炭化水素系溶剤の割合は、多孔質粒子の生成を更に抑制する点、及び各中空粒子の中空部が均一になりやすい点から、好適には60質量%以上であり、より好適には80質量%以上である。
また、炭化水素系溶剤としては、炭素数4~7の炭化水素系溶剤が好ましい。炭素数4~7の炭化水素化合物は、重合工程時に前駆体粒子中に容易に内包され易く、かつ溶剤除去工程時に前駆体粒子中から容易に除去することができる。中でも、炭素数5又は6の炭化水素系溶剤が特に好ましい。
また、特に限定されないが、炭化水素系溶剤としては、後述する溶剤除去工程で除去されやすい点から、沸点が130℃以下のものが好ましく、100℃以下のものがより好ましい。また、前駆体粒子に内包されやすい点から、炭化水素系溶剤としては、沸点が50℃以上のものが好ましく、60℃以上のものがより好ましい。
【0046】
また、炭化水素系溶剤は、20℃における比誘電率が3以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。炭化水素系溶剤の比誘電率が3以下と十分に小さい場合には、重合性単量体の液滴中で相分離が速やかに進行し、中空が形成されやすいと考えられる。
20℃における比誘電率が3以下の溶剤の例は、以下の通りである。カッコ内は比誘電率の値である。
ヘプタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)、ベンゼン(2.3)、トルエン(2.4)。
20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(例えば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、及びその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、例えば、JISC 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0047】
本開示において、混合液中の炭化水素系溶剤の含有量は、シェル用重合性単量体の総質量100質量部に対し、50質量部以上500質量部以下であることが、中空粒子の粒子径を制御しやすく、中空粒子の強度を維持しながら空隙率を高めやすく、粒子内の残留炭化水素系溶剤量を低減しやすい点から好ましい。混合液中の炭化水素系溶剤の含有量は、シェル用重合性単量体の総質量100質量部に対し、好適には60質量部以上400質量部以下であり、より好適には70質量部以上300質量部以下であり、更に好適には80質量部以上200質量部以下である。
【0048】
(E)分散剤
分散剤は、懸濁工程において、単量体組成物の液滴を水系媒体中に分散させる剤である。本開示においては、分散剤として難水溶性無機金属塩を用いる。難水溶性無機金属塩を用いることにより、懸濁液中で粒子径が大きい液滴を形成することができるため、重合後にシェルの厚さが厚くなり、中空粒子が潰れにくくなる。
難水溶性無機金属塩としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。これらの難水溶性無機金属塩は、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
これらの難水溶性無機金属塩の中でも、懸濁液中で液滴の粒子径をコントロールし易く、得られる中空粒子の粒径分布を狭くできる点から、水酸化マグネシウムを好適に用いることができる。
なお、本開示において難水溶性無機金属塩は、100gの水に対する溶解度が0.5g以下である無機金属塩であることが好ましい。
【0049】
シェル用重合性単量体と炭化水素系溶剤の合計質量を100質量部としたとき、分散剤の含有量は、好適には0.5~10質量部であり、さらに好適には1.0~8.0質量部である。分散剤の含有量が0.5質量部以上であることにより、単量体組成物の液滴が懸濁液中で合一しないように充分に分散させることができる。一方、分散剤の前記含有量が10質量部以下であることにより、造粒時に懸濁液の粘度が上昇するのを防止し、懸濁液が造粒機を通過できなくなる不具合を回避することができる。
また、分散剤の含有量は、水系媒体100質量部に対し、通常2質量部以上15質量部以下であり、上記と同様の理由から、3質量部以上8質量部以下であることがさらに好ましい。
【0050】
(F)水系媒体
本開示において水系媒体とは、水、親水性溶媒、及び、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体を意味する。
本開示における親水性溶媒は、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されない。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO)等が挙げられる。
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、単量体組成物の液滴を形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが重要である。この場合、例えば、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50等としてもよい。
【0051】
前記の各材料及び必要に応じ他の材料を混合し、適宜攪拌等することによって混合液が得られる。当該混合液においては、上記(A)シェル用重合性単量体、(B)極性樹脂、(C)油溶性重合開始剤、及び(D)炭化水素系溶剤などの親油性材料を含む油相が、(E)分散剤及び(F)水系媒体などを含む水相中において、粒径数mm程度の大きさで分散している。混合液におけるこれら材料の分散状態は、材料の種類によっては肉眼でも観察することが可能である。
混合液調製工程では、前記の各材料及び必要に応じ他の材料を単に混合し、適宜攪拌等することによって混合液を得てもよいが、シェルが均一になりやすい点から、シェル用重合性単量体、極性樹脂及び炭化水素系溶剤を含む油相と、分散剤及び水系媒体を含む水相とを予め別に調製し、これらを混合することにより、混合液を調製することが好ましい。このように油相と水相を予め別に調製した上で、これらを混合することにより、シェル部分の組成が均一な中空粒子を製造することができる。
【0052】
(2)懸濁工程
懸濁工程は、上述した混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含む単量体組成物の液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
単量体組成物の液滴を形成するための懸濁方法は特に限定されないが、例えば、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
懸濁工程で調製される懸濁液においては、上記親油性材料を含みかつ4.0~13.0μm程度の粒径を持つ単量体組成物の液滴が、水系媒体中に均一に分散している。このような単量体組成物の液滴は肉眼では観察が難しく、例えば光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。
懸濁工程においては、単量体組成物の液滴中に相分離が生じるため、極性の低い炭化水素系溶剤が液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られる液滴は、その内部に炭化水素系溶剤が、その周縁に炭化水素系溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0053】
上述したように、本開示においては、乳化重合法ではなく懸濁重合法を採用する。そこで以下、乳化重合法と対比しながら、懸濁重合法及び油溶性重合開始剤を用いる利点について説明する。
図3は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。図3中のミセル60は、その断面を模式的に示すものとする。
図3には、水系媒体51中に、ミセル60、ミセル前駆体60a、溶媒中に溶出した単量体54c、及び水溶性重合開始剤55が分散している様子が示されている。ミセル60は、油溶性の単量体組成物54の周囲を、界面活性剤53が取り囲むことにより構成される。単量体組成物54中には、重合体の原料となる単量体等が含まれるが、重合開始剤は含まれない。
一方、ミセル前駆体60aは、界面活性剤53の集合体ではあるものの、その内部に十分な量の単量体組成物54を含んでいない。ミセル前駆体60aは、溶媒中に溶出した単量体54cを内部に取り込んだり、他のミセル60等から単量体組成物54の一部を調達したりすることにより、ミセル60へと成長する。
水溶性重合開始剤55は、水系媒体51中を拡散しつつ、ミセル60やミセル前駆体60aの内部に侵入し、これらの内部の油滴の成長を促す。したがって、乳化重合法においては、各ミセル60は水系媒体51中に単分散しているものの、ミセル60の粒径は数百nmまで成長することが予測される。
【0054】
図2は、懸濁工程における懸濁液の一実施形態を示す模式図である。図2中の単量体組成物の液滴10は、その断面を模式的に示すものとする。なお、図2はあくまで模式図であり、本開示における懸濁液は、必ずしも図2に示すものに限定されない。図2の一部は、上述した図1の(2)に対応する。
図2には、水系媒体1中に、単量体組成物の液滴10及び水系媒体1中に分散した重合性単量体4c(非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む。)が分散している様子が示されている。液滴10は、油溶性の単量体組成物4の周囲を、分散剤3が取り囲むことにより構成される。単量体組成物中には油溶性重合開始剤5、並びに、重合性単量体(非架橋性単量体及び架橋性単量体を含む。)、極性樹脂及び炭化水素系溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
液滴10は、単量体組成物4を含む微小油滴であり、油溶性重合開始剤5は当該微小油滴の内部で重合開始ラジカルを発生させる。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の前駆体粒子を製造することができる。
また、懸濁重合(図2)と乳化重合(図3)とを比較すると分かるように、懸濁重合(図2)においては、油溶性重合開始剤5が、水系媒体1中に分散した重合性単量体4cと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的とする中空部を有する樹脂粒子の他に、比較的粒径の小さい密実粒子等の余分なポリマー粒子が生成することを抑制することができる。
【0055】
本開示の製造方法では、分散剤3として難水溶性無機金属塩を用いることによって、他の分散剤を用いる場合と比較して、粒子径が大きい微小油滴を懸濁液中で形成することができる。このため、重合後にシェルの厚さが厚くなり、潰れにくい中空粒子を得ることができる。
また、本開示の製造方法では、単量体組成物4が極性樹脂を含有することによって、微小油滴の粒子径を容易にコントロールできるようになる。このため、重合後のシェルの厚さが過度に増大するのを抑制することが可能となり、揮発性化合物の残留量を少なくすることができる。
【0056】
(3)重合工程
本工程は、上述した懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し且つ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。
重合工程では、前記単量体組成物の液滴が炭化水素系溶剤を内包したまま、当該液滴中のシェル用重合性単量体が重合することにより、シェル用重合性単量体の重合物である樹脂を含有するシェルと、炭化水素系溶剤で満たされた中空部とを有する前駆体粒子が形成される。
本開示の製造方法では、単量体組成物の液滴が炭化水素系溶剤を内包した状態で重合反応に供されることにより、形状を維持したまま重合反応が進行しやすく、前駆体粒子の大きさ及び空隙率を調整しやすい。また、シェル用重合性単量体と炭化水素系溶剤とを組み合わせて用いるため、前駆体粒子のシェルに対して炭化水素系溶剤の極性が低く、炭化水素系溶剤がシェルと馴染みにくいため、相分離が十分に発生して中空部が1つのみとなりやすい。また、炭化水素系溶剤の量、極性樹脂の量及び分散剤の種類等を調整することで、前駆体粒子の大きさ及び空隙率を容易に調整することができる。
重合方式に特に限定はなく、例えば、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式等が採用できる。重合温度は、好ましくは40~80℃であり、更に好ましくは50~70℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、更に好ましくは2~15時間である。
【0057】
(4)固液分離工程
本工程は、上述した前駆体組成物を固液分離することにより、炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む固形分を得る工程である。
【0058】
前駆体組成物を固液分離する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。固液分離の方法としては、例えば、遠心分離法、ろ過法、静置分離等が挙げられ、この中でも遠心分離法又はろ過法を採用することができ、操作の簡便性の観点から遠心分離法を採用してもよい。
固液分離工程後、後述する溶剤除去工程を実施する前に、予備乾燥工程等の任意の工程を実施してもよい。予備乾燥工程としては、例えば、固液分離工程後に得られた固形分を、乾燥機等の乾燥装置や、ハンドドライヤー等の乾燥器具により予備乾燥する工程が挙げられる。
【0059】
(5)溶剤除去工程
本工程は、前記固液分離工程により得られた中空粒子(前駆体粒子)に内包される炭化水素系溶剤を除去する工程である。
前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより、前駆体粒子内部の炭化水素系溶剤が空気と入れ替わり、気体で満たされた中空粒子が得られる。
【0060】
本工程における「気中」とは、厳密には、前駆体粒子の外部に液体分が全く存在しない環境下、及び、前駆体粒子の外部に、炭化水素系溶剤の除去に影響しない程度のごく微量の液体分しか存在しない環境下を意味する。「気中」とは、前駆体粒子がスラリー中に存在しない状態と言い替えることもできるし、前駆体粒子が乾燥粉末中に存在する状態と言い替えることもできる。すなわち、本工程においては、前駆体粒子が外部の気体と直に接する環境下で炭化水素系溶剤を除去することが重要である。
【0061】
前駆体粒子中の炭化水素系溶剤を気中にて除去する方法は、特に限定されず、公知の方法が採用できる。当該方法としては、例えば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法又はこれらの方法の併用が挙げられる。
特に、加熱乾燥法を用いる場合には、加熱温度は炭化水素系溶剤の沸点以上、かつ前駆体粒子のシェル構造が崩れない最高温度以下とする必要がある。したがって、前駆体粒子中のシェルの組成と炭化水素系溶剤の種類によるが、例えば、加熱温度を50~200℃としてもよく、70~180℃としてもよく、100~150℃としてもよい。
気中における乾燥操作によって、前駆体粒子内部の炭化水素系溶剤が、外部の気体により置換される結果、中空部を気体が占める中空粒子が得られる。
【0062】
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。また、いったん気体により中空粒子内部を満たした後、減圧乾燥することにより、一時的に内部が真空である中空粒子も得られる。
【0063】
別の方法として、重合工程で得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子及び水系媒体を含むスラリー中で、当該前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤をスラリーの水系媒体に置換することにより、炭化水素系溶剤を除去してもよい。
この方法においては、炭化水素系溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前駆体組成物中の前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去することにより、中空粒子中の炭化水素系溶剤の残留量を低減できる。
ここで、前記炭化水素系溶剤が、複数種類の炭化水素系溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、溶剤除去工程での炭化水素系溶剤の沸点とは、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングする際の温度は、中空粒子中の炭化水素系溶剤の残留量を低減する点から、炭化水素系溶剤の沸点から30℃差し引いた温度以上の温度であることが好ましく、20℃差し引いた温度以上の温度であることがより好ましい。なお、バブリングの際の温度は、通常、前記重合工程での重合温度以上の温度とする。特に限定はされないが、バブリングの際の温度を、50℃以上100℃以下としてもよい。
バブリングする不活性ガスとしては、特に限定はされないが、例えば、窒素、アルゴン等を挙げることができる。
バブリングの条件は、炭化水素系溶剤の種類及び量に応じて、前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を除去できるように適宜調整され、特に限定はされないが、例えば、不活性ガスを1~3L/minの量で、1~10時間バブリングしてもよい。
この方法においては、前駆体粒子に水系媒体が内包された水系スラリーが得られる。このスラリーを固液分離して得られた中空粒子を乾燥し、中空粒子内の水系媒体を除去することにより、中空部を気体が占める中空粒子が得られる。
【0064】
スラリー状の前駆体組成物を固液分離した後、前駆体粒子中の炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空粒子を得る方法と、前駆体粒子及び水系媒体を含むスラリー中で、当該前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤をスラリーの水系媒体に置換した後、固液分離し、前駆体粒子中の水系媒体を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空粒子を得る方法を比べると、前者の方法は、炭化水素系溶剤を除去する工程で中空粒子が潰れにくいという利点があり、後者の方法は、不活性ガスを用いたバブリングを行うことにより炭化水素系溶剤の残留が少なくなるという利点がある。
【0065】
(6)その他
上記(1)~(5)以外の工程としては、例えば、下記(6-a)洗浄工程や下記(6-b)中空部の再置換工程を付加しても良い。
(6-a)洗浄工程
洗浄工程とは、前記溶剤除去工程前に、前駆体粒子を含む前駆体組成物中に残存する分散剤を除去するために、酸またはアルカリを添加して洗浄を行う工程である。使用した分散剤が、酸に可溶な無機化合物である場合、前駆体粒子を含む前駆体組成物へ酸を添加して、洗浄を行うことが好ましく、一方、使用した分散剤が、アルカリに可溶な無機化合物である場合、前駆体粒子を含む前駆体組成物へアルカリを添加して、洗浄を行うことが好ましい。
また、分散剤として、酸に可溶な無機化合物を使用した場合、前駆体粒子を含む前駆体組成物へ酸を添加し、pHを、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、および蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、分散剤の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
(6-b)中空部の再置換工程
中空部の再置換工程とは、中空粒子内部の気体や液体を、他の気体や液体に置換する工程である。このような置換により、中空粒子内部の環境を変えたり、中空粒子内部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空粒子内部の化学構造を修飾したりすることができる。
【0066】
2.中空粒子
(1)中空粒子の形状(モルホロジー)
中空粒子の形状は、内部に中空部が形成されていれば特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、不定形等が挙げられる。これらの中でも、製造の容易さから球形が好ましい。
中空粒子は、1又は2以上の中空部を有していてもよい。また、中空粒子のシェル、及び、中空部を2つ以上有する場合には隣接し合う中空部を仕切る隔壁は、多孔質状となっていてもよい。粒子内部は、中空粒子の高い空隙率と、中空粒子の機械強度との良好なバランスを維持するために、中空部を1つのみ有するものが好ましい。
中空粒子は、平均円形度が、0.950~0.995であってもよい。
中空粒子の形状のイメージの一例は、薄い皮膜からなりかつ気体で膨らんだ袋であり、その断面図は、後述する図1の(5)中の中空粒子100の通りである。この例においては、外側に薄い1枚の皮膜が設けられ、その内部が気体で満たされる。
粒子形状は、例えば、SEMやTEMにより確認することができる。また、粒子内部の形状は、粒子を公知の方法で輪切りにした後、SEMやTEMにより確認することができる。
また、本開示の中空粒子は、シェル厚みを0.020μm以上1.20μm以下とすることができ、より好適には0.100μm以上1.00μm以下とすることができる。これにより、中空粒子の空隙率を維持しながら、機械的強度の低下を抑制することができる。
なお、本開示において、中空粒子のシェルの厚みは、中空粒子のシェルの20点での厚みの平均値とする。中空粒子のシェルの厚みは、例えば、中空粒子を割って得たシェルの欠片をSEMで観察することにより測定することができる。
【0067】
(2)中空粒子の体積平均粒径
中空粒子の体積平均粒径の下限は、好適には4.0μm以上、より好適には4.5μm以上、よりさらに好適には5.0μm以上である。一方、中空粒子の体積平均粒径の上限は、好適には25.0μm以下、より好適には13.0μm以下、よりさらに好適には12.0μm以下、特に好適には10.0μm以下である。
中空粒子の体積平均粒径が上記下限値以上である場合には、中空粒子同士の凝集性が小さくなるため、優れた分散性を発揮することができる。また、中空粒子の体積平均粒径が上記上限値以下である場合には、中空粒子が潰れにくくなるため、高い機械的強度を有する。
【0068】
(3)中空粒子の粒度分布
中空粒子の粒度分布(体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dn))は、例えば、1.1以上2.5以下であってもよい。当該粒度分布が2.5以下であることにより、圧縮強度特性及び耐熱性が粒子間でバラつきの少ない粒子が得られる。また、当該粒度分布が2.5以下であることにより、例えば、シート状の成形体を製造する際に、厚さが均一な製品を製造することができる。
中空粒子の体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により中空粒子の粒径を測定し、その個数平均及び体積平均をそれぞれ算出し、得られた値をその粒子の個数平均粒径(Dn)及び体積平均粒径(Dv)とすることができる。粒度分布は、体積平均粒径を個数平均粒径で除した値とする。
【0069】
(4)中空粒子の空隙率
本開示の製造方法により得られる中空粒子は、空隙率が50%以上90%以下であり、好ましくは50%以上85%以下であり、より好ましくは60%以上80%以下である。空隙率が上記下限値以上であることにより、中空粒子は、軽量性、耐熱性及び断熱性に優れ、揮発性化合物が粒子内部に残留しにくくなる。また、空隙率が上記上限値以下であることにより、中空粒子は潰れ難くなり、優れた強度を有する。
【0070】
本開示の製造方法により得られる中空粒子の空隙率は、中空粒子の見かけ密度D及び真密度Dから算出される。
中空粒子の見かけ密度Dの測定法は以下の通りである。まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空粒子を充填し、充填した中空粒子の質量を精確に秤量する。次に、中空粒子が充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たす。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(I)に基づき、中空粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算する。
式(I)
見かけ密度D=[中空粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
見かけ密度Dは、中空部が中空粒子の一部であるとみなした場合の、中空粒子全体の比重に相当する。
【0071】
中空粒子の真密度Dの測定法は以下の通りである。中空粒子を予め粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量する。あとは、上記見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空粒子の真密度D(g/cm)を計算する。
式(II)
真密度D=[中空粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重])
真密度Dは、中空粒子のうちシェル部分のみの比重に相当する。上記測定方法から明らかなように、真密度Dの算出に当たっては、中空部は中空粒子の一部とはみなされない。
【0072】
中空粒子の空隙率(%)は、中空粒子の見かけ密度Dと真密度Dにより、下記式(III)により算出される。
式(III)
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100
中空粒子の空隙率は、中空粒子の比重において中空部が占める割合であると言い替えることができる。
【0073】
(5)シェルの厚み
本開示の中空粒子は、シェルの厚みが0.2μm以上0.9μm未満であり、好適には0.2μm以上0.8μm以下であり、より好適には0.25μm以上0.7μm以下であり、更に好適には0.25μm以上0.6μm以下であり、より更に好適には0.25μm以上0.5μm以下である。
中空粒子のシェルの厚みは、中空粒子の体積平均粒子径R及び空隙率を用いて下記式(1)により中空粒子の内径rを算出し、当該内径r及び体積平均粒子径Rを用いて下記式(2)により、算出することができる。
4/3π×(R/2)×空隙率=4/3π×(r/2) 式(1)
シェル厚=(R-r)/2 式(2)
このように算出されるシェルの厚みと、実際に測定されるシェルの20点での厚みの平均値との差は、通常、これらの平均値の±10%以内であるため、前記のように算出されるシェルの厚みを、中空粒子のシェルの厚みとみなすことができる。
シェルの20点での厚みの平均値を求める際に使用する中空粒子のシェルの各点での厚みは、例えば、中空粒子を割って得たシェルの欠片をSEMで観察することにより測定することができる。
【0074】
(6)揮発性化合物の含有量
本開示の製造方法により得られる中空粒子は、揮発性化合物の含有量が、中空粒子の全質量100質量%に対し、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以下である。中空粒子中の揮発性化合物の含有量が上記上限値以下であることにより、本開示の中空粒子を他の材料と混練する際に、中空粒子中の揮発性化合物が揮発して発泡したり、発火の原因となったりするおそれがなく、また、中空粒子の比重を軽くすることができるため、軽量化材としての効果を向上することができる。
本開示において、揮発性化合物とは、本開示の中空粒子を含有する樹脂組成物を混練する際に揮発する化合物のことであり、典型的には、本開示の中空粒子を含有する樹脂組成物を溶融混練する際に揮発する化合物のことである。前記揮発化合物は、通常、沸点が235℃以下且つ分子量が200以下の化合物である。中空粒子が含有する揮発性化合物は、典型的には、中空粒子の製造に用いられる炭化水素系溶剤及び未反応の重合性単量体が粒子内に残留したものである。
なお、中空粒子中の揮発性化合物の含有量の測定方法は以下の通りである。
まず、30mLねじ口付きガラス瓶に、中空粒子約100mgを入れ、精確に秤量する。続いてテトラヒドロフラン(THF)を約10g入れ、精確に秤量する。ガラス瓶中の混合物を、スターラーにより1時間攪拌して、中空粒子が含有していた揮発性化合物を抽出する。攪拌を停止し、THFに不溶な中空粒子の樹脂成分を沈殿させたのち、沈殿物をろ過したサンプル液を得る。ろ過は、例えば、フィルター(アドバンテック社製、商品名:メンブランフィルター25JP020AN)を注射筒に装着して行うことができる。そのサンプル液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析し、中空粒子が含有していた単位質量あたりの揮発性化合物量(質量%)を、GCのピーク面積と予め作成した検量線から求める。詳細な分析条件は以下の通りである。
(分析条件)
装置:GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-5(アジレント・テクノロジー株式会社製)
膜厚0.25μm、内径0.25mm、長さ30m
検出器:FID
キャリアガス:窒素(線速度:28.8cm/sec)
注入口温度:200℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃から10℃/分の速度で230℃まで上昇させ、230℃で2分保持する
サンプリング量:2μL
【0075】
3.中空粒子の用途
中空粒子の用途としては、例えば、感熱紙のアンダーコート材等が考えられる。一般的に、アンダーコート材には断熱性、緩衝性(クッション性)が要求され、これに加えて感熱紙用途に即した耐熱性も要求される。本開示の中空粒子は、高い空隙率、潰れにくい中空形状、塗工時の平坦性を確保するために十分に小さい個数平均粒径、及び高い耐熱性を有するため、これらの要求に応えることができる。また、中空粒子は、例えば、光沢、隠ぺい力等に優れたプラスチックピグメントとして有用である。
本開示の中空粒子は、他の材料との混練時に潰れ難く、成形体に添加された場合に、軽量化材、断熱材、防音材、制振材等としての効果に優れるため、成形体用添加剤として好適である。本開示の中空粒子は、樹脂との混練時及び混練後の成形時においても潰れ難いため、樹脂製成形体用添加剤として特に好適に用いられる。本開示の中空粒子を含有する成形体は、樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンオキサイド、シアネート樹脂などの熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有するものであってもよい。また、本開示の中空粒子を含有する成形体は、更に、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等の繊維を含有するものであってもよい。本開示の製造方法により得られる中空粒子は、熱可塑性又は熱硬化性の樹脂を用いて形成される成形体、及び、熱可塑性又は熱硬化性の樹脂とさらに繊維を含む材料を用いて形成される成形体においても、フィラーとして含有させることができる。
中空粒子は、その内部に香料、薬品、農薬、インキ成分等の有用成分を浸漬処理、減圧又は加圧浸漬処理等の手段により封入することができる。そのような有用成分を封入した中空粒子は、内部に含まれる成分に応じて各種用途に利用することができる。中空粒子は、その他、例えば、自動車、電気、電子、建築、航空、宇宙等の各分野に用いされる光反射材、断熱材、遮音材及び低誘電体等の部材、並びに食器用容器 等にも利用することができる。
【実施例
【0076】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0077】
<A.極性樹脂の準備>
[製造例1:極性樹脂A(MMA/AA/EA共重合体)の製造]
反応容器内にトルエン200部を投入し、トルエンを攪拌しながら反応容器内を十分に窒素で置換した後、90℃に昇温させ、その後メチルメタクリレート(MMA)96.2部、アクリル酸(AA)0.3部、エチルアクリレート(EA)3.5部、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂社製、商品名:パーブチルO)2.8部の混合溶液を、2時間かけて反応容器中へ滴下した。更に、トルエン還流下で10時間保持することにより、重合を完了させ、その後、減圧下で溶媒を蒸留除去して、極性樹脂A(MMA/AA/EA共重合体)を得た。
得られた極性樹脂A(MMA/AA/EA共重合体)を構成する繰り返し単位の総質量100%中、MMA由来の繰り返し単位の割合は96.2%、AA由来の繰り返し単位は0.3%、EA由来の繰り返し単位は3.5%であった。
また、得られた極性樹脂A(MMA/AA/EA共重合体)の数平均分子量は、10000であった。
数平均分子量の測定は、流速0.35ml/分のテトラヒドロフランをキャリアとするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算分子量として求めた。
装置は、東ソー社製HLC8220、カラムは昭和電工社製Shodex(登録商標)KF-404HQを3本連結したもの(カラム温度40℃)、検出器は示差屈折計及び紫外検出器を用い、分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施した。
【0078】
[製造例2:極性樹脂B(MMA/HEMA/EA共重合体)の製造]
反応容器内にトルエン200部を投入し、トルエンを攪拌しながら反応容器内を十分に窒素で置換した後、90℃に昇温させ、その後メチルメタクリレート(MMA)95.0部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)3.0部、エチルアクリレート(EA)2.0部、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂社製、商品名:パーブチルO)2.8部の混合溶液を、2時間かけて反応容器中へ滴下した。更に、トルエン還流下で10時間保持することにより、重合を完了させ、その後、減圧下で溶媒を蒸留除去して、極性樹脂B(MMA/HEMA/EA共重合体)を得た。
得られた極性樹脂B(MMA/HEMA/EA共重合体)を構成する繰り返し単位の総質量100%中、MMA由来の繰り返し単位の割合は95.0%、HEMA由来の繰り返し単位は3.0%、EA由来の繰り返し単位は2.0%であった。
また、得られた極性樹脂B(MMA/HEMA/EA共重合体)の数平均分子量は、10000であった。
【0079】
[極性樹脂C(PMMA)の製造]
反応容器内にトルエン200部を投入し、トルエンを攪拌しながら反応容器内を十分に窒素で置換した後、90℃に昇温させ、その後メタクリル酸メチル(MMA)100部、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂社製、商品名:パーブチルO)2.8部の混合溶液を、2時間かけて反応容器中へ滴下した。更に、トルエン還流下で10時間保持することにより、重合を完了させ、その後、減圧下で溶媒を蒸留除去して、極性樹脂C(MMA単独重合体)を得た。
得られた極性樹脂C(MMA単独重合体)の数平均分子量は、6000であった。
【0080】
【表1】
【0081】
上記の表において、それぞれの略称の意味は次のとおりである。
MMA:メチルメタクリレート
AA:アクリル酸
EA:エチルアクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
【0082】
<B.中空粒子の製造>
[実施例1]
(1)混合液調製工程
まず、下記材料を混合し油相とした。
エチレングリコールジメタクリレート 100部
極性樹脂A(MMA/AA/EA共重合体) 2部
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65) 3部
シクロヘキサン 187部
次に、攪拌槽において、室温条件下で、イオン交換水225部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水55部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)分散液を調製し、水相とした。
得られた水相と油相を混合することにより、混合液を調製した。
【0083】
(2)懸濁工程
上記混合液調製工程で得た混合液を、分散機(プライミクス社製、商品名:ホモミクサー)により、回転数4,000rpmの条件下で1分間攪拌して懸濁させ、シクロヘキサンを内包した単量体組成物の液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0084】
(3)重合工程
上記懸濁工程で得た懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製した。
【0085】
(4)洗浄工程及び固液分離工程
上記重合工程で得た前駆体組成物を希硫酸により洗浄(25℃、10分間)して、pHを5.5以下にした。次いで、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水200部を加えて再スラリー化し、水洗浄処理(洗浄・濾過・脱水)を室温(25℃)で数回繰り返し行って、濾過分離して固形分を得た。得られた固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させ、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を得た。
【0086】
(5)溶剤除去工程
上記固液分離工程で得られた前駆体粒子を、真空乾燥機にて、200℃、6時間、真空条件下で加熱処理することで中空内の炭化水素系溶剤を除去し、実施例1の中空粒子を得た。得られた中空粒子は、走査型電子顕微鏡の観察結果及び空隙率の値から、これらの粒子が球状であり、かつ中空部を有することを確認した。
【0087】
[実施例2~9、比較例1~8]
実施例1において、上記「(1)混合液調製工程」で調製する油相の材料及び量を表1に示す通りとし、水相のイオン交換水の量及び分散剤の種類及び量を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2~9及び比較例1~8の中空粒子を製造した。
なお、比較例の分散剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)及びポリビニルアルコールを用いた。
【0088】
<C.中空粒子の試験>
実施例1~9、比較例1~8で得た中空粒子について、以下の測定及び評価を行った。
【0089】
(1)中空粒子の体積平均粒径
レーザー回析式粒度分布測定器(島津製作所社製、商品名:SALD-2000)を用いて、個々の中空粒子の粒径をそれぞれ測定し、中空粒子を球形と仮定して体積平均粒径を計算した。
【0090】
(2)中空粒子の密度及び空隙率
(i)中空粒子の見かけ密度の測定
中空粒子の見かけ密度の測定は、「2.中空粒子」の「(4)中空粒子の空隙率」の項目で説明した手順と同様にして行った。
【0091】
(ii)中空粒子の真密度の測定
中空粒子の真密度の測定は、「2.中空粒子」の「(4)中空粒子の空隙率」の項目で説明した手順と同様にして行った。
【0092】
(iii)空隙率の算出
中空粒子の空隙率の算出は、「2.中空粒子」の「(4)中空粒子の空隙率」の項目で説明した手順と同様にして行った。
【0093】
(3)中空粒子中の揮発性化合物量
中空樹脂粒子中の揮発性化合物の含有量については、「2.中空粒子」の「(6)揮発性化合物の含有量」の項目で説明した手順を実施し、中空粒子が含有していた炭化水素系溶剤等の揮発性化合物(シクロヘキサン(沸点80.74℃、分子量84.16)、エチレングリコールジメタクリレート(沸点235℃、分子量198.22)、メチルメタクリレート(沸点101℃、分子量100.12)等)の量を測定した。
【0094】
(4)中空粒子のSEM観察
実施例1~9、比較例1~8で得られた中空粒子を各々100個ずつSEM観察し、各粒子において、直径10nm以上500nm以下の大きさの連通孔、及び長さ1μm以上のヒビ状の欠陥の有無を確認した。
【0095】
[中空粒子の評価結果]
表2に、実施例1~9、比較例1~8で用いた材料の種類及び添加量、並びに中空粒子に関する評価結果を示す。
【0096】
【表2】
【0097】
<D.成形体の製造>
[実施例10]
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(三菱ケミカル社製、商品名:MA1B、比重0.90g/cm)を90部、及び、実施例1で得られた中空粒子10部を、ブレンダーで混合した。次いで、得られた樹脂組成物を、二軸混練機(製品名「TEM-35B」、東芝機械社製)により以下の混練条件で混練し、押し出し、ペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
混練条件:スクリュー径37mm、L/D=32
スクリュー回転数250rpm
樹脂温度190℃
フィードレート20kg/時間
得られた樹脂組成物のペレットを、80℃で6時間加熱し乾燥させ、次いで射出成形装置を用いて、以下の成形条件で、寸法80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を得た。
成形条件:シリンダー温度:230℃
金型温度:40℃
射出圧力:70MPa
【0098】
[実施例11~20、比較例9~13]
実施例10において、熱可塑性樹脂の種類及び量を表2に示す通りとし、中空粒子の種類及び量を表2に示す通りとした以外は、実施例10と同様の手順で、実施例11~20、比較例9~13の樹脂組成物の成形体を製造した。
なお、表2中、熱可塑性樹脂の欄の「PA-6」は、市販のポリアミド系樹脂(ユニチカ社製、製品名:A1020BRL、比重1.13g/cm)であり、中空粒子の欄の「ガラスバルーン」は、市販のガラス中空粒子(3M社製、製品名「グラスバブルズiM30K」、比重0.6g/cm)である。
【0099】
<E.成形体の試験>
得られた各成形体について、成形体の比重の測定、軽量化率及び比重増加率の算出、並びに比重のばらつきの測定を行った。
【0100】
(1)成形体の比重
得られた成形体の比重を、JIS K 7112に準拠して水中置換法にて測定した。
【0101】
(2)中空粒子の比重
中空粒子の比重は、表2に示す見かけ密度の値を採用した。
【0102】
(3)軽量化率
軽量化率については、下式(4)により算出した。
[式(4)]
軽量化率(%)=100×(1-成形体比重/熱可塑樹脂単体の比重)
【0103】
(4)比重増加率
射出成形時に、成形材料である熱可塑性樹脂組成物中の中空粒子が全く潰れない場合には、得られた成形体の比重と熱可塑性樹脂組成物の比重は同じになる。また、射出成形時に成形材料中の中空粒子の潰れる場合には、得られた成形体の比重は、成形材料である熱可塑性樹脂組成物の比重よりも大きくなる。そこで、射出成形時に中空粒子が潰れる程度を評価するために、熱可塑性樹脂組成物の理論比重に対して、得られた成形体の比重が増加した比率を計算した。
比重増加率は、下式(5)により算出した。熱可塑性樹脂の理論比重は、熱可塑性樹脂と中空粒子の重量の比とそれぞれの比重から求め、表3に示した。
[式(5)]
比重増加率(%)=100×(成形体比重/樹脂組成物の理論比重-1)
【0104】
[成形体の評価結果]
表3に、実施例10~20、比較例9~13で用いた熱可塑性樹脂及び中空粒子についての種類及び量、並びに樹脂組成物の成形体に関する評価結果を示す。
【0105】
【表3】
【0106】
[考察]
以下、表2及び表3を参照しながら、各実験例及び各比較例の評価結果について検討する。
比較例1は、混合液中の炭化水素系溶剤の含有量が不十分だったため、得られた中空粒子は空隙率が小さくなり、揮発性化合物の量が大きくなった。揮発性化合物の量が大きくなったのは、空隙率が小さいために中空粒子のシェル厚が厚くなり、揮発性化合物が除去されにくくなったためであると考えられる。
【0107】
比較例2は、混合液中に難水溶性無機金属塩である水酸化マグネシウムを添加したが、極性樹脂を添加しなかったため、得られた中空粒子は、体積平均粒径が過度に大きくなり、揮発性化合物の量が大きくなった。揮発性化合物の量が大きくなったのは、中空粒子の体積平均粒径が大きくなったために中空粒子のシェルの厚さが厚くなり、中空粒子から炭化水素系溶剤が除去され難くなったためであると考えられる。
【0108】
比較例3は、混合液中の炭化水素系溶剤の含有量が多すぎたため、得られた中空粒子は、表1に示すように、空隙率が過度に大きいものとなった。このため、当該比較例3の中空粒子を用いて作製した比較例9の成形体は、軽量化率が低く、また、比重増加率が増大していた。これは、中空粒子の空隙率が大きいために中空粒子のシェルの厚さが薄くなり、熱可塑性樹脂との混練時または成型時に、中空粒子に潰れが発生したためであると考えられる。
【0109】
比較例4は、極性樹脂を添加せず、分散剤として界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加したため、体積平均粒径が小さくなった。このため、当該比較例4の中空粒子を用いて作製した比較例10の成形体は、軽量化率が低く、また、比重増加率が増大していた。これは、中空粒子の体積平均粒径が小さいために十分なシェルの厚さを得られず、熱可塑性樹脂との混練時または成型時に、中空粒子に潰れが発生したためであると考えられる。
【0110】
比較例5は、実施例1の極性樹脂に代えて、極性樹脂の単量体に該当する成分を、極性樹脂の共重合量と同等量添加し、さらに、分散剤として実施例1の水酸化マグネシウムと組み合わせて界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した。その結果、得られた中空粒子は、体積平均粒径が過度に大きくなり、揮発性化合物の量が大きくなった。揮発性化合物の量が大きくなったのは、中空粒子の体積平均粒径が大きくなったために中空粒子のシェルの厚さが厚くなり、中空粒子から炭化水素系溶剤が除去され難くなったためであると考えられる。
【0111】
比較例6は、比較例4において架橋性単量体として用いたエチレングリコールジメタアクリレートを、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートに替えたこと以外は、比較例4と同様に実施された。その結果、比較例6は、極性樹脂を添加せず、分散剤として界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加したため、体積平均粒径が小さくなった。このため、当該比較例6の中空粒子を用いて作製した比較例12の成形体は、軽量化率が低く、また、比重増加率が増大していた。これは、中空粒子の体積平均粒径が小さいために十分なシェルの厚さを得られず、熱可塑性樹脂との混練時または成型時に、中空粒子に潰れが発生したためであると考えられる。
また、比較例6で得られた中空粒子100個をSEM観察した結果、直径10nm以上500nm以下の大きさの連通孔又は長さ1μm以上のヒビ状の欠陥を有する中空粒子が、100個中20個確認された。
これは、比較例6では、難水溶性無機金属塩を添加せず界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムだけを添加したために小粒径化し、また、シェル用重合性単量体として3官能以上の多官能アクリレートのみ使用したことにより重合後のシェルに歪みが生じたためと推定される。
【0112】
比較例7は、極性樹脂としてポリ(メタクリル酸メチル)を0.5部添加したが、分散剤としてポリビニルアルコールを添加したため、得られた中空粒子は、体積平均粒径が過度に大きくなり、揮発性化合物の量が大きくなった。揮発性化合物の量が大きくなったのは、中空粒子の体積平均粒径が大きくなったために中空粒子のシェルの厚さが厚くなり、中空粒子から炭化水素系溶剤が除去され難くなったためであると考えられる。
【0113】
比較例8は、極性樹脂を添加し、分散剤として界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加したが、体積平均粒径が小さくなった。このため、当該比較例8の中空粒子を用いて作製した比較例13の成形体は、軽量化率が低く、また、比重増加率が増大していた。これは、中空粒子の体積平均粒径が小さいために十分なシェルの厚さを得られず、熱可塑性樹脂との混練時または成型時に、中空粒子に潰れが発生したためであると考えられる。
比較例8の結果から、極性樹脂と界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを組み合わせて用いても、極性樹脂と難水溶性無機金属塩を組み合わせることにより得られる効果は得られないことが確認された。
【0114】
比較例10は、中空粒子に代えて、ガラスバルーンを熱可塑性樹脂と混練して成形体を得たため、当該比較例10の成形体は、軽量化率が0%と大幅に低い値となっており、また、比重増加率も増大していた。これは、ガラスバルーンが混練時の負荷に耐えられず割れたためと考えられる。
【0115】
一方、実施例1~9は、混合液中に、極性樹脂を添加し、かつ、水相に添加する分散剤として、難水溶性無機金属塩である水酸化マグネシウムを用いたため、得られた中空粒子は、体積平均粒径が適切な範囲にあり、空隙率が50~90%と適切な範囲にあり、残留炭化水素系溶剤量が低減されたものであった。
当該実施例1~9で得られた中空粒子を用いた成形体は、いずれも、軽量化率が3.9~6.0%と高い値を得られており、比重増加率も0.2~2.2%と、低い値を得られており、熱可塑性樹脂との混練時や成形時における、中空粒子の潰れが抑制されていた。
これは、混合液中に極性樹脂を添加し、かつ、水相に添加する分散剤として、難水溶性無機金属塩である水酸化マグネシウムを用いることにより、シェルの厚さが適切な厚さにコントロールされており、残留炭化水素系溶剤量の増大を抑制しつつ、中空粒子の機械的強度が高められたためであると推察される。
中でも、極性樹脂の添加量を、重合性単量体の総質量100質量部に対して1.0~2.0質量部とした実施例1~3、実施例5、実施例7~8は、得られた中空粒子がより潰れにくく、残留炭化水素系溶剤量がより低減されていた。
また、実施例1~9で得られた中空粒子をSEM観察した結果、いずれの中空粒子も、直径10nm以上500nm以下の大きさの連通孔又は長さ1μm以上のヒビ状の欠陥を有する中空粒子が、100個中5個以下であった。これにより、実施例1~9では、実質的に連通孔及び欠陥を有しない中空粒子が得られたことが確認された。
【符号の説明】
【0116】
1 水系媒体
2 低極性材料
3 分散剤
4 単量体組成物
4a 炭化水素系溶剤
4b 炭化水素系溶剤以外の材料
4c 水系媒体中に溶出した重合性単量体
5 油溶性重合開始剤
6 シェル
8 中空部
10 液滴
20 前駆体粒子
51 水系媒体
53 界面活性剤
54 単量体組成物
54c 水系媒体中に溶出した単量体
55 水溶性重合開始剤
60 ミセル
60a ミセル前駆体
100 中空粒子
図1
図2
図3