(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両用窓ガラス及び車両構造
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/32 20060101AFI20241217BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20241217BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01Q1/32 A
H01Q13/10
B60J1/00 B
(21)【出願番号】P 2022533937
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021024015
(87)【国際公開番号】W WO2022004559
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020111790
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】船津 聡史
(72)【発明者】
【氏名】徳永 諭
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/173273(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157535(WO,A1)
【文献】米国特許第5355144(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
H01Q 13/10
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面を有する第1ガラス板と、
前記第1ガラス板に対して前記第1主面の側に配置される導電層と、
前記第1ガラス板に対して前記第1主面の側に配置されるスロットアンテナと、を有し、
前記スロットアンテナは、前記導電層に電気的に接続される導体部と、前記導体部に囲まれるスロットとを有し、
前記導体部は、前記導電層よりも低い電気抵抗を有し、
前記スロットの少なくとも一部は、前記導電層のない第1領域に平面視で重なる、車両用窓ガラス。
【請求項2】
構成されるガラス板は、前記第1ガラス板のみである、請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記第1ガラス板に対して前記導電層が配置される側に第2ガラス板を有する、請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記第2ガラス板は、前記第1ガラス板と前記スロットアンテナとの間に配置される、請求項3に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記第2ガラス板は、前記導電層と前記スロットアンテナとの間に配置される、請求項4に記載の車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記第2ガラス板は、前記第1ガラス板と前記導電層との間に配置される、請求項4に記載の車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記第1ガラス板に対して前記第1主面の側に配置される遮光部を有し、
前記遮光部は、前記導体部の少なくとも一部に平面視で重なる、請求項1から6のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項8】
前記遮光部は、前記スロットアンテナに対して前記第1主面とは反対側にあり、
前記スロットの少なくとも一部は、前記遮光部のない第2領域に平面視で重なる、請求項7に記載の車両用窓ガラス。
【請求項9】
前記第2領域は、前記遮光部に囲まれた領域である、請求項8に記載の車両用窓ガラス。
【請求項10】
前記遮光部は、前記第1ガラス板と前記スロットアンテナとの間に配置される、請求項7に記載の車両用窓ガラス。
【請求項11】
前記遮光部は、前記導電層と前記スロットアンテナとの間に配置される、請求項10に記載の車両用窓ガラス。
【請求項12】
前記遮光部は、前記第1ガラス板と前記導電層との間に配置される、請求項10に記載の車両用窓ガラス。
【請求項13】
前記導電層は、シート抵抗が5[Ω/□]以上300[Ω/□]以下である、請求項1から12のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項14】
前記導電層は、低放射膜、または、調光フィルムに含まれる導電膜である、請求項1から13のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項15】
前記スロットアンテナが受信する周波数帯の空気中の電波の波長をλ、前記第1ガラス板の波長短縮率をk、前記スロットの長手方向の長さをスロット長bとするとき、
前記スロット長bは、
1.1×(1/2)×λ×k≦b≦2.6×(1/2)×λ×k
を満足する、請求項1から14のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項16】
前記スロットアンテナが受信する周波数帯の空気中の電波の波長をλ、前記第1ガラス板の波長短縮率をk、前記スロットの幅方向の長さをスロット幅aとするとき、
前記スロット幅aは、
10mm≦a≦0.15×λ×k
を満足する、請求項1から15のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項17】
前記導体部は、前記スロットの長手方向の中間部分から前記スロットの幅方向に突出する少なくとも一つの凸部を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項18】
前記スロットアンテナは、前記スロットの長手方向に延伸し且つ前記導体部に接しない内部導体を前記スロット内に有する、請求項1から17のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項19】
前記スロットの長手方向における前記内部導体の長さを導体長eとするとき、
前記導体長eは、
0.01×(1/2)×λ×k≦e≦2.00×(1/2)×λ×k
を満足する、請求項18に記載の車両用窓ガラス。
【請求項20】
前記内部導体は、前記スロットの幅方向に突出する凸部を有する、請求項18又は19に記載の車両用窓ガラス。
【請求項21】
前記第1領域は、前記導電層に囲まれた領域である、請求項1から20のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項22】
前記スロットアンテナは、地上デジタルテレビ放送波を受信する、請求項1から21のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項23】
前記スロットアンテナは、FM放送波又はDAB Band IIIの電波を受信する、請求項1から21のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項24】
前記スロットアンテナは、前記導電層に対して前記第1主面とは反対側にある、請求項1から23のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項に記載の車両用窓ガラスと、
前記スロットアンテナに容量結合する車体部と、を備える、車両構造。
【請求項26】
前記スロットアンテナと前記車体部との結合容量は、0.4[pF]以上である、請求項25に記載の車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用窓ガラス及び車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の窓ガラスにおいて、水平方向に延伸する複数のデフォッガ熱線に直流電流を流すための電極と、複数のデフォッガ熱線に接続される導電線とで囲まれたスロットによって、スロットアンテナを実現する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、デフォッガのヒータ線に給電するバスバーに設けられたスロットによって、スロットアンテナを実現する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、車両用窓ガラスにおいて、合わせガラス間に介在する透明の導電膜に開けられたスロットによって、スロットアンテナを実現する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-080189号公報
【文献】特開2006-310953号公報
【文献】特開2006-203331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スロットアンテナの実現に導電膜のような導電層を利用する場合、電気抵抗が比較的高い導電層では、高利得が得られるスロットアンテナを実現することが難しい。
【0005】
本開示は、電気抵抗が比較的高い導電層を使用しても、高利得が得られるスロットアンテナを有する車両用窓ガラス及び車両構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
第1主面を有する第1ガラス板と、
前記第1ガラス板に対して前記第1主面の側に配置される導電層と、
前記第1ガラス板に対して前記第1主面の側に配置されるスロットアンテナと、を有し、
前記スロットアンテナは、前記導電層に電気的に接続される導体部と、前記導体部に囲まれるスロットとを有し、
前記導体部は、前記導電層よりも低い電気抵抗を有し、
前記スロットの少なくとも一部は、前記導電層のない第1領域に平面視で重なる、車両用窓ガラスを提供する。
【0007】
また、本開示は、
当該車両用窓ガラスと、前記スロットアンテナに容量結合する車体と、を備える、車両構造を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、導電層を利用して高利得が得られるスロットアンテナを備える車両用窓ガラス及び車両構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。
【
図2】第2実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。
【
図3】スロットの少なくとも一部が導電層のない第1領域に平面視で重なる第1構成例を示す図である。
【
図4】スロットの少なくとも一部が導電層のない第1領域に平面視で重なる第2構成例を示す図である。
【
図5】スロットの少なくとも一部が導電層のない第1領域に平面視で重なる第3構成例を示す図である。
【
図6A】第3実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。
【
図6B】第3実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。
【
図7】第4実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。
【
図8】スロットアンテナの第1構成例を平面視で示す図である。
【
図9】スロットアンテナの第2構成例を平面視で示す図である。
【
図10】車両用窓ガラスを備える車両構造のシミュレーションモデルの一構成例を平面視で示す図である。
【
図11】スロットアンテナの指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図12】導電層のシート抵抗に対する利得の変化のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図13】スロットアンテナのスロット幅aに対する平均感度の変化を実測した結果の一例を示す図である。
【
図14】スロットアンテナのスロット内の内部導体の長手方向の長さeに対する平均感度の変化の一例を示す図である。
【
図15】導電層とスロットアンテナの導体部との距離に対する平均感度の変化の一例を示す図である。
【
図16】地上デジタルテレビ放送波の帯域の平均利得の実測結果の一例を示す図である。
【
図17】スロットアンテナの指向性の実測結果の一例を示す図である。
【
図18】車両用窓ガラスを備える車両構造の一例を平面視で模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示に係る実施形態について説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面、YZ平面、ZX平面は、それぞれ、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面、Z軸方向及びX軸方向に平行な仮想平面を表す。
【0011】
本実施形態では、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、それぞれ、ガラス板の左右方向(横方向)、ガラス板の上下方向(縦方向)、ガラス板の表面に直角な方向(法線方向とも称する)を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。
【0012】
本実施形態における車両用窓ガラスの例として、車両の後部に取り付けられるリアガラス、車両の前部に取り付けられるフロントガラス、車両の側部に取り付けられるサイドガラス、車両の天井部に取り付けられるルーフガラスなどがある。車両用窓ガラスは、これらの例に限られない。
【0013】
図1は、第1実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。
図1に示す車両構造201は、車両用の窓ガラス101と、窓ガラス101が取り付けられる車体部62とを備える。車体部62は、車体の金属部位であり、例えば、窓ガラス101が取り付けられる窓枠である。窓ガラス101が車体部62に取り付けられた状態において、Z軸方向の正側は、車内側を表し、Z軸方向の負側は、車外側を表す。
図1は、車両構造201の構成要素を、ガラス板10の表面の法線方向に分離して示している。
【0014】
窓ガラス101は、主な構成として、ガラス板10、導電層30及びスロットアンテナ70を備える単板の窓ガラスである。単板の窓ガラスとは、構成されるガラス板が一枚のガラス板(この例では、ガラス板10)のみの窓ガラスをいう。
【0015】
ガラス板10は、Z軸方向の正側に面する主面11と、Z軸方向において主面11とは反対側(Z軸方向の負側)に面する主面12とを有する板状の誘電体である。ガラス板10は、透明でも半透明でもよい。主面11は、車内側の表面であり、主面12は、車外側の表面である。ガラス板10は、第1主面を有する第1ガラス板の一例であり、主面11は、第1主面の一例である。
【0016】
導電層30は、ガラス板10に対して主面11の側にある平面状導体である。導電層30は、主面11に接する導体でもよいし、不図示の、透明または半透明の誘電体を介して主面11の側に配置される導体でもよい。導電層30は、透明でも半透明でもよい。導電層30の具体例として、Ag(銀)膜などの金属膜、ITO(酸化インジウム・スズ)膜などの金属酸化膜、または導電性微粒子を含む樹脂膜、複数種類の膜を積層した積層体などが挙げられる。導電層30は、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂フィルムに蒸着処理等でコーティングされたものでもよい。
【0017】
導電層30は、ガラス板10の主面11にコートされる導電膜でもよい。導電膜の具体例として、低放射性能を発揮するLow-E(Low Emissivity)膜などの低放射膜が挙げられる。
【0018】
低放射とは、放射による伝熱を低減することをいう。Low-E膜などの低放射膜は、放射による伝熱を抑制することで、断熱性を確保する。低放射膜は、一般的なものであってよく、例えば、透明誘電体膜、赤外線反射膜、および透明誘電体膜をこの順で含む積層膜であってよい。透明誘電体膜としては、金属酸化物や金属窒化物が代表的である。金属酸化物としては、酸化亜鉛や酸化スズが代表的である。赤外線反射膜としては、金属膜が代表的である。金属膜としては、銀(Ag)が代表的である。ここで、赤外線反射膜は、透明誘電体膜同士の間に、1層以上形成されてよい。
【0019】
導電層30は、Low-E膜などの低放射膜に限られず、導電性の層であれば、他の機能を有してもよい。例えば、導電層30は、電圧印加による発熱によって、窓ガラス101の防氷や防曇などの機能を有するものでもよい。
【0020】
スロットアンテナ70は、ガラス板10に対して主面11の側にある平面状アンテナであり、
図1に示す例では、導電層30に対してガラス板10の主面11とは反対側に配置される。スロットアンテナ70は、導電層30に電気的に接続される導体部71と、導体部71に囲まれるスロット72とを有する。スロットアンテナ70は、放送波等の車外の電波を受信する受信用アンテナとして使用されてもよいし、車外の通信機器との間で電波を送受する無線通信用アンテナとして使用されてもよい。
【0021】
スロットアンテナ70は、例えば、周波数が300MHz~3GHzのUHF(Ultra High Frequency)帯の電波を受信可能に形成されたアンテナである。UHF帯に含まれる周波数帯の具体例として、地上デジタルテレビ放送波の帯域(例えば、473MHz~713MHz)などがある。
【0022】
スロットアンテナ70は、例えば、周波数が30MHz~300MHzのVHF(Very High Frequency)帯の電波を受信可能に形成されたアンテナでもよい。VHF帯に含まれる周波数帯の具体例として、FM放送波の帯域(例えば、76MHz~108MHz)、DAB Band IIIの帯域(例えば、170MHz~240MHz)などがある。
【0023】
スロット72の長手方向が水平面に略垂直な方向(略鉛直方向)になるようにスロットアンテナ70を配置することで、水平偏波の受信時の利得が上がるので、水平偏波(例えば、地上デジタルテレビ放送波)の受信感度が向上する。あるいは、スロット72の長手方向が水平面に略平行な方向(略水平方向)になるようにスロットアンテナ70を配置することで、垂直偏波の受信時の利得が上がるので、垂直偏波(例えば、FM放送波やDAB Band IIIの電波など)の受信感度が向上する。
【0024】
また、窓ガラス101は、複数個のスロットアンテナ70を有してもよい。窓ガラス101が、互いに異なる位置に2個以上のスロットアンテナ70を有する場合、スロット72の長手方向が互いに同じ方向でもよく、異なる方向でもよい。例えば、スロットアンテナ70は、スロット72の長手方向が略鉛直方向になるように窓ガラス101の左辺と右辺の各位置に配置されてもよく、スロット72の長手方向が略水平方向になるように窓ガラス101の上辺と下辺の各位置に配置されてもよい。このとき、各々のスロットアンテナは、同じ帯域の周波数の電波を受信可能に形成されてもよく、異なる帯域の周波数の電波を受信可能に形成されてもよい。とくに、2個以上のスロットアンテナ70が同じ帯域の周波数の電波を受信可能に形成されると、ダイバーシティ機能が得られる。一方、2個以上のスロットアンテナ70が異なる帯域の周波数の電波を受信可能に形成されると、2個以上のスロットアンテナ70は、広帯域の周波数の電波を受信可能なワイドバンドアンテナとして機能する。
【0025】
また、2個のスロットアンテナ70は、スロット72の長手方向が互いに略直交するように配置されてもよい。例えば、2個のスロットアンテナ70は、同じ帯域の周波数の電波を受信可能に形成され、かつ、スロット72の長手方向が互いに略直交方向になるように窓ガラス101の左辺と上辺の各位置に配置されてもよい。このとき、窓ガラス101の平面が鉛直方向に対して略平行となるように取付けられていれば、水平面方向と略平行方向から到達する任意の偏波(例えば、同じ帯域の周波数の、垂直偏波、水平偏波、円偏波等のいずれの偏波)も受信可能となる。この場合、鉛直方向に対して略平行とは、鉛直方向に対して±30°以内の範囲を指すが、±15°以内の範囲でもよく、±10°以内の範囲でもよく、±5°以内の範囲でもよく、±3°以内の範囲でもよい。なお、スロット72の長手方向が略直交する場合でも、2個のスロットアンテナ70が異なる帯域の周波数の電波を受信可能に形成されてもよい。
【0026】
また、窓ガラス101の平面が略水平方向となるように取り付けられてもよい。この場合、略水平方向とは、水平面に対して±30°以内の範囲を指すが、±15°以内の範囲でもよく、±10°以内の範囲でもよく、±5°以内の範囲でもよく、±3°以内の範囲でもよい。平面が略水平方向となるように取り付けられる窓ガラス101としては、ルーフガラスが例示できる。例えば、窓ガラス101は、2個のスロットアンテナ70が同じ帯域の周波数の電波を受信可能に形成され、かつ、スロット72の長手方向が互いに略直交するルーフガラスでもよい。このとき、2個のスロットアンテナ70によって、鉛直方向(天頂方向)から到達する任意の偏波(例えば、同じ帯域の周波数の、垂直偏波、水平偏波、円偏波等のいずれの偏波)も受信可能となる。とくに、スロットアンテナ70は、衛星放送通信用であって円偏波で到達する、所定の周波数帯のGNSS信号を受信可能に形成されてもよい。所定の周波数帯は、1.2GHz帯でもよく、1.6GHz帯でもよい。1.2GHz帯は、例えば、1.226GHz~1.228GHz、1.6GHz帯は、例えば、1.559GHz~1.606GHzでもよい。さらに、スロットアンテナ70は、2.3GHz帯のSバンド(2.320GHz~2.345GHz)のSDARS(Satellite Digital Audio Radio Service)信号を受信可能に形成されてもよい。
【0027】
さらに、窓ガラス101は、3個以上のスロットアンテナ70を有してもよく、受信可能となる帯域の偏波に応じて任意に形成できる。また、スロットアンテナ70が複数のスロット72を有する場合は、各実施形態における(単一の)スロットアンテナ70を任意に組み合わせできる。以下、本実施形態の車両用窓ガラスは、とくにことわりが無い場合、スロットアンテナ70が1つのスロット72を有するとして説明する。
【0028】
導体部71は、スロット72を囲む導体枠であり、スロット72は、導体部71の内側にある細長の切り欠きである。導体部71がスロット72を囲む形態は、スロット72が完全に導体部71に囲まれた形態に限られず、導体部71の外部とスロット72とを連通させる微小なギャップが導体部71に設けられた形態を含んでもよい。導体部71には、例えば、銅、銀などの金属箔や薄膜が使用される。
【0029】
スロット72の少なくとも一部は、導電層30のない第1領域(この例では、導電層30に開けられた長孔31)に平面視で重なる。これにより、スロットアンテナ70が受信又は送信する電波が導電層30により遮蔽されることを抑制できる。当該電波の遮蔽を抑制する点で、スロット72の全体が、導電層30のない第1領域に平面視で重なることが好ましい。
【0030】
導体部71が導電層30に電気的に接続されていることで、スロット72の周囲に発生する高周波電流が流れる導体領域の面積が拡大するので、スロットアンテナ70の利得を上げることができる。導体部71は、導電層30に直接結合又は容量結合で電気的にされる。また、導体部71は、導電層30よりも低い電気抵抗を有する。導体部71が導電層30よりも低い電気抵抗を有することで、スロット72の周囲の導体部71に高周波電流が流れやすくなるので、スロットアンテナ70の利得を上げることができる。したがって、電気抵抗が比較的高い導電層30を使用しても、高利得が得られるスロットアンテナ70を有する窓ガラス101及び車両構造201の提供が可能となる。
【0031】
導電層30は、シート抵抗が300[Ω/□(ohms per square)]以下であると、スロットアンテナ70の利得が向上する。スロットアンテナ70の利得が向上する点で、導電層30のシート抵抗は、200[Ω/□]以下が好ましく、100[Ω/□]以下がより好ましく、80[Ω/□]以下がさらに好ましい。導電層30のシート抵抗の下限値は、導体部71のシート抵抗よりも大きければよく、例えば、5[Ω/□]以上である。
【0032】
導体部71のシート抵抗の上限値は、導電層30のシート抵抗よりも小さければよく、スロットアンテナ70の利得が向上する点で、例えば、2[Ω/□]以下がよく、1[Ω/□]以下がより好ましい。このように、導体部71と導電層30の電気抵抗の大小については、例えば、シート抵抗を指標にして比較できる。
【0033】
窓ガラス101は、スロットアンテナ70の導体部71が車体部62に容量結合可能な距離で車体部62に取り付けられると、スロットアンテナ70の利得を上げることができる。スロット72の周囲に発生する高周波電流がその容量結合を介して車体部62に流れ、高周波電流が流れる導体領域の面積が拡大するからである。例えば、スロットアンテナ70の導体部71と車体部62との結合容量は、0.4[pF]以上であると、スロットアンテナ70の利得を上げることができる。スロットアンテナ70の利得を上げる点で、当該結合容量の下限値は、1.0[pF]以上が好ましく、2.0[pF]以上がより好ましい。なお、当該結合容量の上限値はとくに規定されないが、例えば35[pF]以下に設定できる。
【0034】
窓ガラス101は、ガラス板10に対して主面11側にある遮光部50を有してもよい。遮光部50は、例えば、可視光を遮光する遮光膜である。遮光膜の具体例として、黒色セラミックス膜等のセラミックスが挙げられる。遮光部50は、導体部71の少なくとも一部に平面視で重なり、
図1に示す例では、スロットアンテナ70に対して主面11とは反対側(より詳しくは、スロットアンテナ70に対して導電層30とは反対側)にある。遮光部50が導体部71の少なくとも一部に平面視で重なることにより、
図1に示す例では、Z軸方向の正側(車内側)から窓ガラス101を見ると、その重なる部分が視認しにくくなるので、窓ガラス101や車両のデザイン性などの見栄えが向上する。
【0035】
図1に示す形態では、スロット72の少なくとも一部は、遮光部50のない第2領域(この例では、遮光部50に囲まれた開口51)に平面視で重なる。これにより、スロットアンテナ70が遮光部50とガラス板10との間に挟まれていることで窓ガラス101の表面に露出していなくても、アンプ60又は給電線を、開口51を通してスロットアンテナ70の導体部71に電気的に接続できる。アンプ60は、例えば、スロットアンテナ70で受信した信号を増幅し、増幅後の信号を不図示の受信装置に出力する。
【0036】
なお、スロットアンテナ70は、主面11と導電層30との間に配置されてもよい。この場合、アンプ60又は給電線を、開口51及び長孔31を通してスロットアンテナ70に電気的に接続できる。また、開口51は無くてもよい。開口51が無い形態では、例えば、窓ガラス101のX軸方向の負側の端面を経由して、フラットワイヤ等の給電線をスロットアンテナ70の導体部71に電気的に接続したり、遮光部50の厚さ方向でアンプ60又は給電線を導体部71に容量結合で電気的に接続したりしてもよい。
【0037】
図2は、第2実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。第2実施形態において、上述の実施形態と同様の構成についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
図2に示す車両構造202は、車両用の窓ガラス102と、窓ガラス102が取り付けられる車体部62とを備える。窓ガラス102は、遮光部50がガラス板10とスロットアンテナ70との間(より詳しくは、導電層30とスロットアンテナ70との間)に配置される点で、第1実施形態の窓ガラス101と異なる。
【0038】
遮光部50がガラス板10とスロットアンテナ70との間(より詳しくは、導電層30とスロットアンテナ70との間)に配置されることで、Z軸方向の負側(車外側)から窓ガラス102を見ると、導体部71が遮光部50と重なる部分が視認しにくくなる。よって、窓ガラス101や車両のデザイン性などの見栄えが向上する。
【0039】
スロットアンテナ70の導体部71は、遮光部50を介して容量結合で導電層30に電気的に接続される。なお、導体部71は、遮光部50に形成された不図示の開口を介して直接結合で導電層30に電気的に接続されてもよい。
【0040】
図3は、スロットの少なくとも一部が導電層のない第1領域に平面視で重なる第1構成例を示す図である。
図4は、スロットの少なくとも一部が導電層のない第1領域に平面視で重なる第2構成例を示す図である。
図5は、スロットの少なくとも一部が導電層のない第1領域に平面視で重なる第3構成例を示す図である。
図3,4,5は、いずれも、導体部71の少なくとも一部が導電層30に対してZ軸方向の正側にある形態を示す。
【0041】
図3は、スロット72の少なくとも一部が導電層30のない第1領域(この例では、導電層30に囲まれた長孔31)に平面視で重なっている。スロット72は、第1領域の全部に平面視で重なっていてもよい。Y軸方向を長手方向とする長孔31は、導電層30を貫通する。導体部71の少なくとも一部(
図3の例では、導体部71の全体)は、導電層30に平面視で重なっている。導体部71は、導電層30の全部に平面視で重なっていてもよい。
【0042】
図4は、スロット72の少なくとも一部が導電層30のない第1領域(この例では、導電層30の外縁に形成された凹み32)に平面視で重なっている。スロット72は、第1領域の全部に平面視で重なっていてもよい。Y軸方向を長手方向とする凹み32は、導電層30の外側の領域である。導体部71の少なくとも一部は、凹み32を形成する導電層30の外縁に平面視で重なっている。
【0043】
図5は、スロット72の少なくとも一部が導電層30のない第1領域(この例では、導電層30の外側の周辺領域33)に平面視で重なっている。スロット72は、第1領域の全部に平面視で重なっていてもよい。導体部71の少なくとも一部は、導電層30の外縁に平面視で重なっている。
【0044】
図3,4,5は、スロットアンテナ70が導電層30に対してZ軸方向の正側(導電層30に対してガラス板10の主面11とは反対側)にある形態を示す。しかしながら、スロットアンテナ70は、導電層30と同一層で隣接して配置されてもよい。例えば
図3,4,5に示す形態において、導体部71は、導電層30の外縁に同一層で接触することで、導電層30に直接結合で電気的に接続されてもよい。
【0045】
図6A、
図6Bは、第3実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。第3実施形態において、上述の実施形態と同様の構成についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
図6Aに示す車両構造203Aは、車両用の窓ガラス103Aと、窓ガラス103Aが取り付けられる車体部62とを備える。窓ガラス103Aは、ガラス板10に対して導電層30が配置される側に(より詳しくは、ガラス板10とスロットアンテナ70との間に)ガラス板20を有する点で、上述の実施形態の窓ガラス101,102と異なる。
【0046】
窓ガラス103Aは、車外側に配置されるガラス板10と、車内側に配置されるガラス板20とが、中間膜40を介して貼り合わされる合わせガラスである。
【0047】
ガラス板20は、ガラス板10の主面11に対向する側の主面21と、Z軸方向において主面21とは反対側の主面22とを有する板状の誘電体である。ガラス板20は、透明でも半透明でもよい。主面21は、車外側の表面を表し、主面22は、車内側の表面を表す。特に、主面22は、合わせガラスの車内側の外面に相当する。ガラス板20は、第2ガラス板の一例である。
【0048】
中間膜40は、ガラス板10とガラス板20との間に介在する透明又は半透明な誘電体である。ガラス板10とガラス板20とは、中間膜40によって接合される。中間膜40は、例えば、熱可塑性のポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。なお、中間膜40の比誘電率は、2.4以上3.5以下が好ましい。中間膜40は、導電層30とガラス板20との間に配置されてもよいし、ガラス板10と導電層30との間に配置されてもよい。さらに、中間膜40は、導電層30とガラス板20との間と、ガラス板10と導電層30との間との両方に配置されてもよい。
【0049】
図6Aに示す形態では、ガラス板20は、導電層30とスロットアンテナ70との間に配置される。スロットアンテナ70の導体部71は、導電層30に電気的に接続される。例えば、導体部71は、遮光部50、ガラス板20及び中間膜40を介して容量結合で導電層30に電気的に接続される。導体部71は、フラットワイヤ等を介して直接結合で導電層30に電気的に接続されてもよい。
【0050】
遮光部50は、導電層30とスロットアンテナ70との間(より詳しくは、ガラス板20とスロットアンテナ70との間)にあるので、Z軸方向の負側(車外側)から窓ガラス102を見ると、導体部71が遮光部50と重なる部分が視認しにくくなる。よって、窓ガラス101や車両のデザイン性などの見栄えが向上する。
【0051】
なお、スロットアンテナ70は、遮光部50とガラス板20との間にあっても、ガラス板20と導電層30との間にあっても、導電層30とガラス板10との間にあってもよい。
【0052】
図6Bに示す車両構造203Bは、車両用の窓ガラス103Bと、窓ガラス103Bが取り付けられる車体部62とを備える。窓ガラス103Bは、中間膜40が、中間膜40Aと中間膜40Bとを含み、中間膜40Aと中間膜40Bと間に導電層30が備えられる点で、窓ガラス103Aとは異なる。なお、本明細書において、中間膜40A、中間膜40Bは、それぞれ、第1中間膜40A、第2中間膜40Bとも言う。さらに、導電層30は、1層に限らず複数層有してもよい。つまり、後述する調光フィルムは1つのみ備えられる場合に限らず、複数備えられてもよい。
【0053】
窓ガラス103Bにおいて、導電層30は、交流電圧を印加することによって窓ガラス103Bの開口部の可視光透過率をアクティブに変化可能な調光フィルムに含まれる導電膜でもよい。調光フィルムは、例えば(不図示の)一対の対向する樹脂基板の間に光学異方性を有する(不図示の)分子層を有する。そして、それぞれの樹脂基板の主面には(不図示の)導電膜と、該導電膜に電気的に接続された(不図示の)電極を有する。そして、電極を介して、一対の導電層間に電圧を印加することにより、調光フィルムを駆動させられる。
【0054】
樹脂基板は、例えば、透明な樹脂で構成される。樹脂基板は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、またはシクロオレフィンポリマー(COP)を有してよい。また、一対の対向する樹脂基板として、例えば上述の樹脂を組み合わせて用いてもよい。樹脂基板の厚さは、例えば、5μm~500μmの範囲であり、100μm~200μmの範囲が好ましく50μm~150μmの範囲がより好ましい。
【0055】
導電膜は、例えば、透明導電性酸化物、透明導電性ポリマー、金属層と誘電体層との積層膜、銀ナノワイヤー、および銀または銅のメタルメッシュ等を有してもよい。導電膜の厚さは、例えば、200nm~2μmの範囲でもよい。
【0056】
光学異方性を有する分子として、例えば液晶が挙げられる。すなわち、光学異方性を有する分子層として、例えば液晶層を用いてもよい。液晶層は、例えば、高分子分散型液晶(PDLC)、高分子ネットワーク型液晶(PNLC)、ゲストホスト型液晶が挙げられる。あるいは、光学異方性を有する分子として、ヨウ素等を用いてよい。調光フィルム30は、このような分子層を含む、懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device:SPD)を有してもよい。
【0057】
図7は、第4実施形態における車両用窓ガラスを備える車両構造の一構成例を示す分解斜視図である。第4実施形態において、上述の実施形態と同様の構成についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
図7に示す車両構造204は、車両用の窓ガラス104と、窓ガラス104が取り付けられる車体部62とを備える。窓ガラス104は、ガラス板10と導電層30との間にガラス板20を有する点で、第3実施形態の窓ガラス103Aまたは103Bと異なる合わせガラスである。
【0058】
導電層30は、例えば、ガラス板20の主面22にコートされる導電膜である。遮光部50は、ガラス板10と導電層30との間(より詳しくは、ガラス板10とガラス板20との間)にあるので、Z軸方向の負側(車外側)から窓ガラス102を見ると、導体部71が遮光部50と重なる部分が視認しにくくなる。よって、窓ガラス101や車両のデザイン性などの見栄えが向上する。
【0059】
なお、スロットアンテナ70は、導電層30とガラス板20との間にあっても、ガラス板20と遮光部50との間にあっても、遮光部50とガラス板10との間にあってもよい。
【0060】
図8は、スロットアンテナの第1構成例を平面視で示す図である。
図8に示すスロットアンテナ70Aは、導電層30に容量結合又は直接結合で電気的に接続される導体部71と、導体部71に囲まれるスロット72とを有する。
【0061】
導体部71は、スロット72の長手方向の中間部分からスロット72の幅方向(短手方向)に幅w3で突出する少なくとも一つ(この例では、2つ)の凸部74を有する。2つの凸部74は、スロット72をその長手方向で2等分する中心線73に対してそれぞれ両側に位置する。一方の凸部74は、導体部71の長手方向における一方の中間部分からスロット72に進入するように突出し、他方の凸部74は、導体部71の長手方向における他方の中間部分からスロット72に進入するように突出する。2つの凸部74は、互いに反対向きに突出する。凸部74は、アンプ60又は給電線に電気的に接続される電極(給電点)である。凸部74は、遮光部50のない第2領域(例えば
図1における開口51)に平面視で重なると、アンプ60又は給電線との電気的な接続が容易になる。
【0062】
ここで、スロットアンテナ70が受信する周波数帯の空気中の電波の波長をλ、ガラス板10の波長短縮率をk、スロット72の長手方向の長さをスロット長bとする。このとき、スロット長bは、
1.1×(1/2)×λ×k≦b≦2.6×(1/2)×λ×k
を満足すると、スロットアンテナ70の利得が向上する。スロットアンテナ70の利得を向上させる点で、スロット長bは、上限値に関して、
b≦2.5×(1/2)×λ×k
を満足するのが好ましく、
b≦2.4×(1/2)×λ×k
を満足するのがより好ましく、
b≦2.2×(1/2)×λ×k
を満足するのが更に好ましい。スロットアンテナ70の利得を向上させる点で、スロット長bは、下限値に関して、
1.0×(1/2)×λ×k≦b
を満足するのが好ましく、
0.9×(1/2)×λ×k≦b
を満足するのがより好ましく、
0.8×(1/2)×λ×k≦b
を満足するのが更に好ましい。
【0063】
スロットアンテナ70が受信する周波数帯の空気中の電波の波長をλ、ガラス板10の波長短縮率をk、スロット72の幅方向の長さをスロット幅aとする。このとき、スロット幅aは、
10mm≦a≦0.15×λ×k
を満足すると、スロットアンテナ70の利得が向上する。スロットアンテナ70の利得を向上させる点で、スロット幅aは、
10mm≦a≦0.13×λ×k
を満足するのが好ましく、
10mm≦a≦0.11×λ×k
を満足するのがより好ましい。
【0064】
図9は、スロットアンテナの第2構成例を平面視で示す図である。
図9に示すスロットアンテナ70Bは、導電層30に容量結合又は直接結合で電気的に接続される導体部71と、導体部71に囲まれるスロット72とを有する。スロットアンテナ70Bは、さらに、スロット72の長手方向に延伸し且つ導体部71に接しない内部導体76をスロット72内に有する。また、
図9において、導体部71は、スロット72の長手方向の中間部分からスロット72の幅方向(短手方向)に突出する凸部74を一つのみ有する。
【0065】
スロットアンテナに接続する給電線に同軸線を使用すると、スロットアンテナへの入力が不平衡入力となるので、スロットアンテナの利得が低下してしまう。
図9に示すスロットアンテナ70Bでは、同軸線のグランドが接続される電極として、導体部71と結合する内部導体76が設けられている。同軸線の信号線を導体部71に電気的に接続し且つ同軸線のグランドを内部導体76に電気的に接続することで、アンテナへの入力が平衡入力となり、スロットアンテナ70Bの利得の低下を抑制できる。
【0066】
図9に示す形態では、内部導体76は、スロット72の幅方向に突出する凸部75を有する。凸部75は、内部導体76の長手方向の中間部分から、凸部74が突出する向きとは反対向きに突出する。凸部75は、アンプ60又は給電線のグランドに電気的に接続される電極(給電点)である。凸部74,75は、遮光部50のない第2領域(例えば
図1における開口51)に平面視で重なると、アンプ60又は給電線との電気的な接続が容易になる。
【0067】
ここで、スロット72の長手方向における内部導体76の長さを導体長eとする。このとき、導体長eは、
0.01×(1/2)×λ×k≦e≦2.00×(1/2)×λ×k
を満足すると、スロットアンテナ70の利得が向上する。スロットアンテナ70の利得を向上させる点で、導体長eは、
0.10×(1/2)×λ×k≦e≦1.90×(1/2)×λ×k
を満足するのが好ましく、
0.20×(1/2)×λ×k≦e≦1.80×(1/2)×λ×k
を満足するのがより好ましい。
【0068】
図10は、車両用窓ガラスを備える車両構造のシミュレーションモデルの一構成例を平面視で示す図である。
図10に示す車両構造モデル200は、スロットアンテナ70Aと導電層30を有する窓ガラスが、車体部62を想定した平面導体の中央部に形成された開口部64に配置されたシミュレーションモデルである。
【0069】
図11は、
図10に示す車両構造モデル200を用いて、スロットアンテナ70Aの指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図11は、
図10に示すZX平面を水平面に設定し、ZX平面における指向性を表す。
【0070】
【表1】
表1において、“コート”とは、導電層30を意味し、“フランジ”とは、車体部62を意味する。“フランジあり”とは、スロットアンテナと車体部62とが容量結合する場合を想定している。
図11及び表1は、UHF帯に含まれる600MHzの水平偏波において、導電層30と車体部62の有無が異なる4つの車両構造モデル200A,200B,200C,200Dのそれぞれについてのシミュレーション結果の一例を示す。表1は、水平面内の360°方向における利得の平均値(平均利得)と分散を示す。
【0071】
図11及び表1によれば、車両構造モデル200Aの場合、平均利得が高く、指向性も偏りが小さい結果が得られた。車両構造モデル200Bの場合、平均利得が高いが、指向性がフランジ側へ偏っている結果が得られた。車両構造モデル200Dの場合、車両構造モデル200Cに比べて、平均利得が低いものの、指向性の偏りが小さい結果が得られた。
【0072】
なお、
図11の測定時において、
図8,10に示す各部の寸法等のシミュレーション条件は、
開口部64:縦595mm×横460mmの長方形
導電層30:縦570mm×横440mmの長方形
導電層30のシート抵抗:10Ω/□
車体部62及び導体部71の電気伝導率:∞S/m(完全導体)
(導体部71のシート抵抗:0Ω/□)
車体部62と導体部71との間隔:5mm
距離d:0mm(導体部71と導電層30とが重なり合って接触)
スロット幅a:20mm
スロット長b:290mm
w1:10mm
w2:10mm
w3:5mm
とした。
【0073】
図12は、
図10に示す車両構造モデル200を用いて、導電層30のシート抵抗に対する利得の変化のシミュレーション結果の一例を示す図である。シート抵抗が500[Ω/□(ohms per square)]以下であると、スロットアンテナ70Aの利得が上がるという結果が得られた。
【0074】
図13は、
図18に示す車両構造210を有する実車を用いて、地上デジタルテレビ放送波の帯域(473MHz~713MHz)における、スロットアンテナ70Bのスロット幅aに対する平均感度の変化を実測した結果の一例を示す図である。
図18は、車体部62に形成された窓枠(フランジ63)に取り付けられた左サイドガラスの場合を車内側からの視点で示す。
図13の測定時において、スロットアンテナ70B(
図9)及び車両構造210(
図18)の各部の寸法は、
導電層30のシート抵抗:10Ω/□
フランジ63の電気伝導率:1.0×10
7S/m(鉄)
導体部71のシート抵抗:0.02Ω/□(銅箔)
スロット幅a:変化
スロット長b:290mm
導体長e:200mm
e3:5mm
導体幅f:3mm
w1:10mm
w2:10mm
凸部74の幅w3:5mm
距離d:0mm(導体部71と導電層30とが重なり合って接触)
とした。
【0075】
図13によれば、地上デジタルテレビ放送波を比較的高感度に受信できる閾値“-9dBd”以上の範囲は、a≧9mmとなった。閾値“-8dBd”以上の範囲は、a≧12mmとなった。
【0076】
図14は、
図18に示す車両構造210を有する実車を用いて、地上デジタルテレビ放送波の帯域(473MHz~713MHz)における、スロットアンテナ70Bの内部導体76の導体長eに対する平均感度の変化を実測した結果の一例を示す図である。
図14の測定時において、スロットアンテナ70B(
図9)及び車両構造210の各部の寸法は、
スロット幅a:20mm
導体長e:変更
とし、それ以外の寸法は、
図13の測定時と同じとした。
【0077】
図14によれば、地上デジタルテレビ放送波を比較的高感度に受信できる閾値“-9dBd”以上の範囲は、e≧20mmとなった。閾値“-8dBd”以上の範囲は、e≧80mmとなった。
【0078】
図15は、
図18に示す車両構造210を有する実車を用いて、地上デジタルテレビ放送波の帯域(473MHz~713MHz)における、導電層30とスロットアンテナ70Bの導体部71との距離dに対する平均感度の変化を実測した結果の一例を示す図である。
図15の測定時において、スロットアンテナ70B(
図9)及び車両構造210の各部の寸法は、
スロット幅a:20mm
距離d:変更
とし、それ以外の寸法は、
図13の測定時と同じとした。
【0079】
図15によれば、地上デジタルテレビ放送波を比較的高感度に受信できる閾値“-9dBd”以上の範囲は、d≦10mmとなった。閾値“-8dBd”以上の範囲は、d≦5mmとなった。
【0080】
図16は、
図18に示す車両構造210を有する実車を用いて、地上デジタルテレビ放送波の帯域の平均利得の実測結果の一例を示す図である。
図16において、“スロット枠10mm幅”は、幅w1,w2が10mmの場合、“スロット枠5mm幅”は、幅w1,w2が5mmの場合を意味し、“フィルム”とは、導電層30を意味する。導電層30が有る場合、無い場合に比べて、地上デジタルテレビ放送波の帯域の平均利得が高い結果が得られた。
【0081】
図17は、
図18に示す車両構造210を有する実車において、スロットアンテナ70Bの指向性の実測結果の一例を示す図である。より詳しくは、
図17は、UHF帯に含まれる605MHzの水平偏波において、導電層30が有る場合と無い場合のそれぞれについて、水平面における360°方向の利得を実測した結果を示す。
図17の測定時において、スロットアンテナ70B(
図9)及び車両構造210の各部の寸法は、
スロット幅a:20mm
とし、それ以外の寸法は、
図13の測定時と同じとした。
【0082】
図17によれば、導電層30が有る場合、導電層30が無い場合に比べて、左サイドガラス上のスロットアンテナ70Bに対して車両右側(車内側)及び車両前側の利得が高く、指向性の偏りが小さい結果が得られた。
【0083】
以上、実施形態を説明したが、本開示の技術は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が可能である。
【0084】
本国際出願は、2020年6月29日に出願した日本国特許出願第2020-111790号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2020-111790号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0085】
10 ガラス板
11 主面
12 主面
20 ガラス板
30 導電層
31 長孔
32 凹み
33 周辺領域
40,40A,40B 中間膜
50 遮光部
60 アンプ
62 車体部
63 フランジ
64 開口部
70 スロットアンテナ
71 導体部
72 スロット
73 中心線
74,75 凸部
76 内部導体
101,102,103A,103B,104 窓ガラス
200 車両構造モデル
201,202,203A,203B,204,210 車両構造