(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】エタロン、エタロン装置、エタロンの制御方法および屈折率の決定方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/03 20060101AFI20241217BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G02F1/03 502
G02B5/28
(21)【出願番号】P 2022546857
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2020033788
(87)【国際公開番号】W WO2022049771
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 優理奈
(72)【発明者】
【氏名】川村 宗範
(72)【発明者】
【氏名】赤毛 勇一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 尊
(72)【発明者】
【氏名】岡 宗一
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/111717(WO,A1)
【文献】特開2009-145838(JP,A)
【文献】特開2019-215462(JP,A)
【文献】特開2005-037762(JP,A)
【文献】国際公開第2014/070219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入射面に対して垂直方向と異なる方向から入射し、当該入射面に対向する出射面から出射するエタロンであって、
前記入射面側の第1の端面と、当該第1の端面に対向する前記出射面側の第2の端面とを有し、当該第1の端面と当該第2の端面との間において、前記光の光路長が同等である条件下で均一屈折率分布エタロンと比較して、前記光の横ずれが小さくなるように、屈折率の分布が設定される誘電体を備え、
前記誘電体が、前記第1の端面に垂直な方向において前記第1の端面から前記第2の端面に向かう距離をxとするとき、屈折率がxの2次関数で変化し、
前記第1の端面に垂直な方向において、前記屈折率の最小値をn
0、前記屈折率がn
0であるxの値をx
0、前記屈折率の分布の係数をβ、前記光路長をL、前記エタロンの厚さをd、前記光の前記入射面への入射角をθ’
iとするとき、以下の式(A)を満た
すエタロン。
【数1】
【請求項2】
前記屈折率が、前記第1の端面から前記第2の端面に向かって、電圧印加により変化する誘電体
を備える請求項1に記載のエタロン。
【請求項3】
温度調整機構を備える請求項1から請求項2のいずれか一項に記載のエタロン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエタロンと、
駆動電源と、
光源とを備え、
前記光源からの光が前記エタロンに照射されるエタロン装置。
【請求項5】
光が入射面に対して垂直方向と異なる方向から入射し、当該入射面に対向する出射面から出射するエタロンの制御方法であって、
前記エタロンが、前記入射面側の第1の端面と、当該第1の端面に対向する前記出射面側の第2の端面を有する誘電体を備え、
前記第1の端面と前記第2の端面との間に電圧を印加して、
前記第1の端面と前記第2の端面との間で、前記誘電体の屈折率を変化させ、
前記光が出射する前記出射面における点と、光が前記入射面に対して垂直方向から入射して出射する前記出射面における点との間の距離を低減させるエタロンの制御方法。
【請求項6】
照射光を前記エタロンに照射することを特徴とする請求項5に記載のエタロンの制御方法。
【請求項7】
光が入射面に対して垂直方向と異なる方向から入射し、当該入射面に対向する出射面から出射する第1のエタロンにおける第1の誘電体の屈折率の決定方法であって、
均一な屈折率分布を有する第2のエタロンの第2の誘電体の屈折率を、当該第2のエタロンの光路長と前記第1のエタロンの光路長とが同等となるように変換するステップと、
前記変換された屈折率を用いて、前記第2のエタロンの横ずれを導出するステップと、
前記第1のエタロンの横ずれを導出するステップと、
前記第1のエタロンの横ずれと前記第2のエタロンの横ずれとを比較するステップと、
前記第1のエタロンの横ずれが、前記第2のエタロンの横ずれより小さくなるように前記第1の誘電体の屈折率を導出するステップと
を備える屈折率の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長制御性に優れるエタロン、エタロン装置、エタロンの制御方法および屈折率の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子であるエタロンは、波長多重(WDM)伝送光通信、精密測定などの分野で光学フィルタとして、波長選択フィルタや波長狭帯域化のための干渉フィルタとして用いられている。エタロンにはレーザ光が入射され、波長選択された光または波長狭帯域化された光が出射される。通常のエタロンは均一の屈折率を有し、入射面と出射面(反射面)間での光の干渉を用いて動作する(非特許文献1)。
【0003】
共振波長選択のため、レーザ共振器内の光軸を通るようにエタロンを挿入する場合、エタロンへの光の入射角 (光軸とエタロン入射面の法線ベクトルとのなす角) を0度にすると、エタロンの入射面からの反射光によって、不要な共振器が形成されるため、レーザ発振波長が所望のものとならない場合がある。
【0004】
そこで、通常、エタロンへの入射角を0度にすることはなく、光を所定の角度で入射させることが必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pierre Jacquinot, “The Luminosity of Spectrometers with Prisms, Gratings, or Fabry-Perot Etalons,” Journal of the Optical Society of America, Vol. 44, Issue 10, pp. 761-765, 1954.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、入射角度が大きすぎる場合には、エタロン内部を多重反射する光のビームの横ずれのため、光軸がずれ、レーザ共振器内の光路長の変化に伴う波長制御性が損なわれるという問題がある。この波長制御性の損失を抑制するためには、レーザ共振器内の光学部品の配置を微調整する必要が生じ、そのための労力、時間、コストを要することになる。したがって、エタロン内部を多重反射する光のビームの横ずれを抑制し、エタロンの波長安定性、制御性の損失を抑制する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述したような課題を解決するために、本発明に係るエタロンは、光が入射面に対して垂直方向と異なる方向から入射し、当該入射面に対向する出射面から出射するエタロンであって、前記入射面側の第1の端面と、当該第1の端面に対向する前記出射面側の第2の端面とを有し、当該第1の端面と当該第2の端面との間において、前記光の光路長が同等である条件下で均一屈折率分布エタロンと比較して、前記光の横ずれが小さくなるように、屈折率の分布が設定される誘電体を備え、前記誘電体が、前記第1の端面に垂直な方向において前記第1の端面から前記第2の端面に向かう距離をxとするとき、屈折率がxの2次関数で変化し、前記第1の端面に垂直な方向において、前記屈折率の最小値をn
0
、前記屈折率がn
0
であるxの値をx
0
、前記屈折率の分布の係数をβ、前記光路長をL、前記エタロンの厚さをd、前記光の前記入射面への入射角をθ’
i
とするとき、式(41)を満たす。
【0009】
また、本発明に係るエタロンは、屈折率が、前記第1の端面から前記第2の端面に向かって、電圧印加により変化する誘電体を備えてもよい。
【0010】
また、本発明に係るエタロンの制御方法は、光が入射面に対して垂直方向と異なる方向から入射し、当該入射面に対向する出射面から出射するエタロンの制御方法であって、前記エタロンが、前記入射面側の第1の端面と、当該第1の端面に対向する前記出射面側の第2の端面を有する誘電体を備え、前記第1の端面と前記第2の端面との間に電圧を印加して、前記第1の端面と前記第2の端面との間で、前記誘電体の屈折率を変化させ、前記光が出射する前記出射面における点と、光が前記入射面に対して垂直方向から入射して出射する前記出射面における点との間の距離を低減させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る屈折率の決定方法は、光が入射面に対して垂直方向と異なる方向から入射し、当該入射面に対向する出射面から出射する第1のエタロンにおける第1の誘電体の屈折率の決定方法であって、均一な屈折率分布を有する第2のエタロンの第2の誘電体の屈折率を、当該第2のエタロンの光路長と前記第1のエタロンの光路長とが同等となるように変換するステップと、前記変換された屈折率を用いて、前記第2のエタロンの横ずれを導出するステップと、前記第1のエタロンの横ずれを導出するステップと、前記第1のエタロンの横ずれと前記第2のエタロンの横ずれとを比較するステップと、前記第1のエタロンの横ずれが、前記第2のエタロンの横ずれより小さくなるように前記第1の誘電体の屈折率を導出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、波長制御性に優れるエタロン、エタロン装置、エタロンの制御方法および屈折率の決定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの側面概念図と屈折率分布を示す図である。
【
図2】
図2は、均一な屈折率分布を有するエタロンの側面概念図と屈折率分布を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図3D】
図3Dは、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の第1の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の第2の実施の形態に係るエタロンの構成を示す側面概要図である。
【
図5B】
図5Bは、本発明の第2の実施の形態に係るエタロンの構成を示す斜視図である。
【
図5C】
図5Cは、本発明の第3の実施の形態に係るエタロンの構成を示す側面概要図である。
【
図5D】
図5Dは、本発明の第3の実施の形態に係るエタロンの構成を示す透視斜視図である。
【
図5E】
図5Eは、本発明の第4の実施の形態に係るエタロンの構成を示す側面断面概要図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの動作を説明するための図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図7C】
図7Cは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図7D】
図7Dは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図9A】
図9Aは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図9B】
図9Bは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図9C】
図9Cは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図9D】
図9Dは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図10A】
図10Aは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図10B】
図10Bは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図10C】
図10Cは、本発明の第2~第4の実施の形態に係るエタロンの効果を説明するための図である。
【
図11】
図11は、本発明の第5の実施の形態に係るエタロン装置の構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係るエタロンについて
図1~
図4Bを参照して説明する。
【0015】
本実施の形態に係るエタロン10は、エタロンに用いる誘電体の屈折率を変化させることにより、エタロンを透過する光の横ずれを抑制する。ここで「横ずれ」とは、光がエタロンの入射面に所定の角度で(入射面に垂直な方向を含まず)入射して出射面から出射するときに、入射面における入射点を通り入射面に垂直な線と出射面との交点と、出射面における出射点との間の距離をいう。
【0016】
ここで、誘電体の屈折率の分布は、屈折率が変化するエタロン10と屈折率が均一なエタロン(以下、「均一屈折率分布エタロン」)との横ずれを比較して、エタロン10の横ずれが、均一屈折率分布エタロンの横ずれに比べて小さくなるように設定される。
【0017】
このとき、エタロンを透過する光の光路が、エタロン10と均一屈折率分布エタロンとの間で同等になるように設定されることを特徴とする。また、エタロン10の横ずれと均一屈折率分布エタロンの横ずれが、エタロンを透過する光の外部からの入射角度で表されることを特徴とする。
【0018】
本実施の形態では、エタロン10における誘電体の屈折率分布の一例として、屈折率が入射面に垂直な方向の距離xの2次関数で変化する場合について、詳細を以下に説明する。
【0019】
図1に、第1の実施の形態に係るエタロン10の側面概念
図11と屈折率分布12を示す。上面概念
図11にエタロン10に入射する光の光路1を示す。
【0020】
エタロン10は光を透過する材料(誘電体)、および、光が出入射する面に形成される半反射膜(半反射鏡)を備える。エタロン10の内部の屈折率は、x軸方向に関して変動し、y軸方向に関して変動せず一定とする。エタロン10内部の屈折率nは式(1)に示すように、xの2次関数で示される。
【0021】
【0022】
ここで、n0はnの最小値、x0はnが最小値となるx軸方向の位置である。βは屈折率分布の係数(以下、「屈折率分係数」という。)であり、正の実数である。
【0023】
参考のために、一般的にレンズの定義に用いられる式を、以下に示す。
【0024】
【0025】
ここで、Bを収束係数である。B>0のとき、y軸方向に平行光が透過する場合に、このエタロン10はx0で最大屈折率となる凸レンズとなり、y軸方向へ進行する平行光を収束(集光)させる。なお、屈折率分布型(Graded-Index、GRIN)レンズで使用される屈折率分布定数√Aと、Bとは、式(2)の関係にある。ただし、B>0の範囲とする。
【0026】
【0027】
まず、エタロン10を透過する光の光路長について説明する。
図1に示すエタロン10の内部の光路長Lは式(3)で表される。
【0028】
【0029】
式(3)の線素dsは、式(4)で表される。
【0030】
【0031】
ここで、y’=dy/dxである。式(3)、(4)と、x軸方向の積分範囲が0~dであることから、式(5)が得られる。ここで、dはエタロンの厚さである。
【0032】
【0033】
g=n√(1+y’2)としたときに、フェルマーの原理から、gは光路長Lが最小となる関数となる。gはxとyとy’の関数であるので、Lが最小となる関数gは、変分法によれば式(6)のオイラーの方程式を満たすことが知られている。
【0034】
【0035】
式(6)左辺にg=n√(1+y’2)を代入すると式(7)になる。
【0036】
【0037】
光がx軸とほぼ平行にエタロン10に入射する(θが0に近い)場合は、式(7)においてy’<<1(よってy’2<<1)であることから、√(1+y’2)~1、および、y’/√(1+y’2)~y’とみなせるので、式(7)は式(8)で表される。
【0038】
【0039】
式(8)に式(1)を代入すると式(9)になる。
【0040】
【0041】
ここで、y’=dy/dx、y’’=d2y/dx2(=d/dx(dy/dx))である。式(9)の微分方程式の解は式(10)となる。
【0042】
【0043】
ここで、C1とC2は定数であり、以下、C1とC2を求める。
【0044】
図1に示すように、エタロン10への入射位置x=0における入射角(エタロン10内部)をθ
iとすると、y’|
x=0=tanθ
iであるので、C
1は式(11)で表される。ただし、η’|
ξ=aは、ηのξについての微分の式にあるξにaを代入した結果を示す。ただし、θ
iには、0<θ
i<π/2の条件を課し、cosθ
i=√(1-sin
2θ
i)と変形した。
【0045】
【0046】
さらに、
図1に示すように、x=0のときy=0であり、式(10)、式(11)より、C
2は式(12)で表される。
【0047】
【0048】
式(10)、式(11)、式(12)から、光路yは式(13)となる。
【0049】
【0050】
ここで、式(14)であれば、式(13)より式(15)が得られる。
【0051】
【0052】
【0053】
この光路yの光路長Lは、式(5)に式(1)、式(10)を代入して、式(16)で表される。
【0054】
【0055】
式(16)の光路長Lは、式(16’)に示すように、第1種楕円積分EllipticF(Φ,m)と第2種楕円積分EllipticE(Φ,m)の線形和で表される。
【0056】
【0057】
光路長Lを簡単化するために、光路長Lを初等関数で近似する。まず、式(17)を条件とする。
【0058】
【0059】
この場合は、[1+β(x-x0)2]2~1+2β(x-x0)2と近似できるので、式(16)は式(18)に近似できる。
【0060】
【0061】
また、エタロン10のx軸方向の中央での屈折率が最小であれば、式(19)となるので、光路長Lは式(20)で得られる。
【0062】
【0063】
【0064】
本実施の形態に係るエタロン10の特徴は、エタロンに用いる誘電体の屈折率を変化させることにより、エタロンの入射面に所定の角度(0°を含まず)で入射して出射する光の横ずれを抑制することである。
【0065】
このことを示すために、内部の屈折率が均一のエタロン(以下、「均一屈折率分布エタロン」という。)20の出射位置と、本実施の形態に係るのエタロン(以下、「2次関数屈折率分布エタロン」という。)10の出射位置の差異について、均一屈折率分布エタロン20と2次関数屈折率分布エタロン10との自由スペクトル間隔(FSR)が同等、すなわち光路長が同等となる条件で計算する。
【0066】
ここで、ビームの横ずれとは、
図1におけるy軸方向のずれである。例えば、入射位置(x,y)=(0,0)、出射位置(x,y)=(d,y
0)の場合、ずれ量はy
0である。
【0067】
まず、均一屈折率分布エタロン20についてのビームの横ずれ量について述べる。
図2に、均一屈折率分布エタロン20における光路2と屈折率分布22とを示す。屈折率はx軸方向に一定であり、その値はn
uである。ここで、y方向にも同様に屈折率は一定である(図示せず)。このとき、光路2は直線となる。
【0068】
図2に示す均一屈折率分布エタロン20の横ずれy
u0は、式(21)で表される。
【0069】
【0070】
ここで、θuiは(x,y)=(0,0)における均一屈折率分布エタロン20の内部での入射角である。均一屈折率分布エタロン20の外部からの入射角をθ’uiとすると、スネルの法則から、θuiとθ’uiの関係は、式(22)で表される。
【0071】
【0072】
したがって、nuが求まれば、θ’uiを決めることによって、均一屈折率分布エタロン20によるビームの横ずれ量yu0を算出できる。次に、nuを均一屈折率分布エタロン20と2次関数屈折率分布エタロン10との光路長が同等となるように設定(変換)して、均一屈折率分布エタロン20の横ずれ量yu0を計算する。
【0073】
均一屈折率分布エタロン20の内部の光路の物理長はd/cosθuiであるため、その光路長Luは式(23)で表される。ただし、θuiには0<θui<π/2の条件を課し、cosθui=√(1-sin2θui)と変形する。
【0074】
【0075】
式(23)に式(22)を代入すると、式(24)が得られる。
【0076】
【0077】
式(24)の両辺を2乗すると、nuの多項式として式(25)が得られる。
【0078】
【0079】
nu>0であるので、式(25)をnu
2の2次方程式としてnu
2について解き、nuを求めると、式(27)が得られる。
【0080】
【0081】
式(26)中の「±」が「-」の場合、均一屈折率分布エタロン20への入射角θ’ui=0のとき、式(26)の右辺は0、すなわち、nu=0となり物理的な意味が無くなるので、式(26)中の「+」のみが有効である。したがって、nuは式(27)となる。
【0082】
【0083】
均一屈折率分布エタロン20と2次関数屈折率分布エタロン10のFSRは同じである、すなわち光路長は同じであるとしたため、Lu=Lである。そこで、nuは式(28)で表される。
【0084】
【0085】
ここで、Lは式(18)で表される。式(19)が成り立つならば、すなわち、エタロン10のx軸方向の中央の屈折率が最小ならば(x0=d/2ならば)、Lは式(20)で表される。
【0086】
式(21)、式(22)、式(28)より、均一屈折率分布エタロン20の横ずれ量yu0は、式(29)で表される。
【0087】
【0088】
次に、本実施の形態に係るエタロンすなわち2次関数屈折率分布エタロン10の横ずれ量y0について説明する。
【0089】
2次関数屈折率分布エタロン10における光路は式(13)で示されるが、式(13)のxにエタロンの厚さであるdを代入することにより、出射位置のy軸方向の位置、つまり、横ずれ量y0を算出することができる。
【0090】
ここで、式(13)には、θi(入射位置(x,y)=(0,0)におけるエタロン10の内部での入射角)が用いられている。しかしながら、θiを定める(測定する)ことが困難であるので、式(13)より横ずれ量y0を算出することは困難である。
【0091】
一方、入射位置(x,y)=(0,0)におけるエタロン10の外部の入射角θ’iは容易に定める(測定する)ことができる。したがって、θiの代わりに、θ’iを用いれば、式(13)より容易に横ずれ量y0を算出することができる。そこで、以下に示すように、式(13)をθ’iで表す。
【0092】
スネルの法則により、θ’iとθiとの関係は式(30)で表される。
【0093】
【0094】
ただし、n|x=0はx=0の時のnである。式(1)より、n=n0・[1+β・(x-x0)2]であるため、n|x=0は式(31)で表される。
【0095】
【0096】
したがって、式(30)は式(32)で表される。
【0097】
【0098】
式(32)と式(13)から、2次関数屈折率分布エタロン10の光路は、式(33)で表される。ここで、θiには0<θi<π/2の条件を課し、cosθi=√(1-sin2θi)と変形する。
【0099】
【0100】
ここで、式(34)であれば、式(33)は式(35)で表される。
【0101】
【0102】
【0103】
式(33)のxにdを代入することにより、2次関数屈折率分布エタロン10の横ずれ量y0は、式(36)として得られる。
【0104】
【0105】
ここで、式(34)のxをdとする式(37)が成り立つならば、式(36)は式(38)で表される。
【0106】
【0107】
【0108】
本実施の形態において、2次関数屈折率分布エタロン10が効果を奏するためには、2次関数屈折率分布エタロン10の横ずれ量y0が均一屈折率分布エタロン20の横ずれ量yu0より少ない必要がある。そこで、式(39)を満たす必要がある。
【0109】
【0110】
式(39)は、式(36)と式(29)から式(40)で表される。ここで、均一屈折率分布エタロン20における外部からの入射角θ’uiと2次関数屈折率分布エタロン10における外部からの入射角θ’iは同じという条件とするため、式(29)のθ’uiをθ’iに置き換えている。
【0111】
【0112】
ここで、式(37)を満たすのであれば、条件式(39)は式(38)と式(29)から式(41)で表される。
【0113】
【0114】
以上より、式(40)または式(41)を満たすとき、本実施の形態に係る2次関数屈折率分布エタロン10の方が、均一屈折率分布エタロン20よりエタロンの入射面に所定の角度(0°を含まず)で入射して出射する光の横ずれが小さい。
【0115】
すなわち、式(40)または式(41)を満たすとき、本実施の形態に係る2次関数屈折率分布エタロン10は、光の横ずれを抑制できる。
【0116】
このように、本実施の形態に係るエタロン10は、屈折率分布が、エタロンを透過する光の光路長が同等である条件下で均一屈折率分布エタロンと比較して横ずれが小さくなるように設定される。
【0117】
また、この横ずれを比較する際に、エタロン10の横ずれと均一屈折率分布エタロンの横ずれは、エタロンを透過する光の外部からの入射角度で表される。
【0118】
<エタロンの効果>
本実施の形態に係る2次関数屈折率分布エタロン10の効果の一例として、屈折率が最小である位置x0がx軸方向におけるエタロン10の中央である場合、すなわち、エタロン10の厚さがdであり、エタロン10がx軸上で0からdにあるときにx0=d/2である場合、エタロン10の外部からの入射角θ’iを変化させたときのビームの横ずれについての計算結果を述べる。
【0119】
計算に用いたパラメータは下記の通りである。
【0120】
・屈折率分布定数 β:120000m-2
・エタロン厚み d:1mm(0.001m)
・屈折率最小位置 x0:0.5mm(0.0005m)
・エタロン外部からの入射角 θ’i:0~10°
・最小屈折率 n0:1.5
【0121】
x軸方向の屈折率分布31は、
図3Aに示すように、x
0=0.5mmで最小の屈折率1.5とする下に凸の2次関数に従った屈折率分布である。なお、y軸方向の屈折率分布は一定である。
【0122】
図3Bに、2次関数屈折率分布エタロン10内の光路(実線)32と、その光路32との接線とx軸との成す角(破線)33を示す。エタロン10の外部からの入射角θ’
iを10°として計算した。光路32はほぼ直線であるが、光路の接線の角度33は一定ではなく変化していることから、光路32は曲線であることがわかる。
【0123】
図3Cに、(x,y)=(0,0)に入射角10°で入射した光が2次関数屈折率分布エタロン10において出射する位置y
0を、エタロン外部からの入射角θ’
iに対してプロットしたもの34を示す。比較のために、均一屈折率分布エタロン20の出射位置y
u0のプロット35も示す。(x,y)=(0,0)に入射しているため、y軸方向の出射位置(
図3Cでの縦軸の値)がエタロンによる横ずれ量となる。
【0124】
図3Dに、
図3Cにおける、2次関数屈折率分布エタロン10の出射位置y
0と、均一屈折率分布エタロン20の出射位置y
u0との横ずれ量の差y
0-y
u0のプロット36を示す。θ’
iが0~10°のいずれにおいてもy
0-y
u0は負の量となり、y
0<y
u0であること、つまり、横ずれ量は、2次関数屈折率分布エタロン10の方が少ない。
【0125】
なお、
図3Bのグラフに記載の光路接線角は、式(42)で算出される。
【0126】
【0127】
次の例として、エタロン10外部からの入射角θ’iを一定として、屈折率最小位置x0を変化させた場合のビームずれの計算結果を述べる。
【0128】
計算に用いたパラメータは下記の通りである。
【0129】
・屈折率分布定数β:120000m-2
・エタロン厚さd:1mm(0.001m)
・屈折率最小位置x0:0~0.5mm(0~0.0005m)
・エタロン外部からの入射角θ’i:10°
・最小屈折率n0:1.5
【0130】
図4Aに、(x,y)=(0,0)に入射角10°で入射した光が2次関数屈折率分布エタロン10において出射する位置y
0を、屈折率最小位置x
0に対してプロットしたもの41を示す。(x,y)=(0,0)に入射しているため、y軸方向の出射位置(
図4Aでの縦軸の値)がエタロンの横ずれ量となる。
【0131】
また、比較のために、均一屈折率分布エタロン20の出射位置yu0のプロット42も示す。ここで、出射位置yu0は、均一屈折率分布エタロン20での光路が、2次関数屈折率分布エタロン10での光路と同等になるように、屈折率を変換して計算された。この計算過程において、屈折率が最小となる位置をx0としてプロットした。
【0132】
図4Bに、
図4Aにおける2次関数屈折率分布エタロン10の出射位置y
0と、均一屈折率分布エタロン20の出射位置y
u0との横ずれ量の差y
0-y
u0のプロット43を示す。x
0が0~1mmのいずれにおいてもy
0-y
u0は負の量となり、y
0<y
u0であること、つまり、横ずれ量は2次関数屈折率分布エタロン10の方が少ない。
【0133】
以上の計算結果は、2次関数屈折率分布エタロン10において、式(40)または式(41)を満たすように屈折率分布定数βやエタロン厚さdを設定すれば、所定の入射角度の範囲(0~10°)または任意の屈折率最小位置x0において、エタロンを透過する光の横ずれを抑制できることを示す。
【0134】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係るエタロンについて、
図5A、
図5Bを参照して説明する。
【0135】
<エタロンの構成>
エタロンの光を透過する(2次関数屈折率分布を持たせる)媒体材料として、電気光学効果を持つ材料である、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN、KTaxNb1-xO3)結晶を用いる例について述べる。
【0136】
KTN結晶は、2次の電気光学効果(電界の2乗に比例して屈折率が変化)を有し、電荷(電子)をKTN結晶内部に注入やトラップができる。この特徴を用いて、後述するように、
図1に示す2次関数で表せる屈折率分布を実現する。
【0137】
図5A、Bに、KTN結晶を用いる2次関数屈折率分布を有するエタロン(以下、「KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン」という。)50の構造の一例を示す。
図5Aはエタロン50の側面図、
図5Bはエタロン50の斜視図である。
【0138】
直方体のKTN結晶501の対向する1組の2面が鏡面研磨されており、その2面それぞれに、透明電極502、503がそれぞれ形成され、透明電極502、503の上に電極504、505と半反射鏡506、507が、重ならないように形成される。
【0139】
電極からKTN結晶501へ注入する電荷が電子のとき、透明電極502、503がKTN結晶501とオーム接合(ohmic contact)を形成するためには、仕事関数が5.0eV以下であることが望ましい(特許文献1)。これを満足する透明電極の一例としては、In2O3:Sn(ITO)があり、この仕事関数は、4.5~4.7eVである(特許第6440169号公報)。
【0140】
半反射鏡506、507としては、誘電体多層膜が好例であり、反射率98%~99%を実現する。電極の一例としては、透明電極502、503の上にチタンTi、白金Pt、金Auの順に積層するものがある。
【0141】
図5Aに示すように、透明電極502とKTN結晶501との境界面上にxy座標原点があり、その原点を通り透明電極502とKTN結晶501との境界面に垂直な軸をx軸508とし、x軸と垂直かつ側面に平行で原点を通る軸をy軸とする。
【0142】
図5Aにおける左側からエタロン50に入射し、半反射鏡506と透明電極502を介してxy座標原点を通った光は、KTN結晶501中の2次関数屈折率分布に従って進み、KTN結晶501の
図5A右側の面の(x,y)=(d,y
0)から出射し、透明電極503と半反射鏡507を通ってエタロン50の外部に出射する。
【0143】
このとき、y0はビームのずれ量となる。ただし、エタロン50への入射光の光路5はxy平面上にあるとする。
【0144】
KTN結晶501は温度によって結晶構造が変化するが、本実施の形態ではキュリー温度よりも数度(2~3℃程度)高い温度で一定温度を保持して常誘電相の立方晶にして用いる。そこで、KTN結晶501の温度制御が必要となる。
【0145】
本実施の形態に係るKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50では、KTN結晶501の屈折率を2次関数変化させるために、電極からKTN結晶501へ電荷を注入する。この電荷を注入するために外部より直流(DC)電圧または20kHz程度以下の交流(AC)電圧を印加する。
【0146】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態に係るエタロンについて、
図5C、
図5Dを参照して説明する。
【0147】
第2の実施の形態では、電極からKTN結晶501へ電荷を注入するために、外部より直流(DC)電圧または20kHz程度以下の交流(AC)電圧を印加する。本実施の形態では、屈折率最小位置x0を変化させるために、上述のDC電圧、AC電圧(20kHz程度以下)に加えて、20kHz程度より高い周波数の電圧を印加する。
【0148】
エタロンに、20kHz程度以下のAC電圧を印加する場合、エタロンの振動やエタロン内部のキャリアの振動により、エタロンが発熱する。そこで、エタロンの温度制御のための構成が必要となる。
【0149】
<エタロンの構成>
本実施の形態に係るエタロン51は、
図5Cと
図5Dに示すように、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50と、温度センサであるサーミスタ511とペルチェ素子512を含む温度制御のための構成を備える。
【0150】
エタロン50の光の出入射面の片側に金属ブロック513、ペルチェ素子512、ヒートシンク(金属ブロックやフィン付金属ブロックなど)514が配置されており、エタロン50-金属ブロック513間と金属ブロック513-ペルチェ素子512間とペルチェ素子512-ヒートシンク514間は熱伝導率の高い接着剤で接着されている。
【0151】
また、温度測定用のサーミスタ(センサ)511が金属ブロック513の穴の中に固着されている。サーミスタ(センサ)511は金属ブロック513の表面に固定されてもよい。
【0152】
金属ブロック513とペルチェ素子512とヒートシンク514には、
図5C、
図5Dに破線で示した通り、光を通過させるための穴515が形成される。
【0153】
エタロン50への電圧印加は、エタロン50の2つの電極504、505にリード線を接着してそれぞれのリード線に電圧印加しても良いし、その片側については、電極504、505が接している金属ブロック513を介して電圧印加しても良い。金属ブロック513の素材としては、アルミ、銅、銅タングステン等が考えられる。
<第4の実施の形態>
次に、本発明の第4の実施の形態に係るエタロンについて、
図5Eを参照して説明する。
【0154】
<エタロンの構成>
本実施の形態に係るエタロン52は、
図5Eに示すように、温度制御をするための構成を搭載する。エタロン50は、導電性緩衝シート521を介して金属ブロック513、522で挟まれている。導電性緩衝シート521は、熱伝導率が良く、かつ、導電性を有し、クッションのような柔らかくて押しても元に戻る素材で構成される。
【0155】
さらに、エタロン51は、エタロン50と2つの導電性緩衝シート521を密着させるために、キャップ523と、スペーサ524とボルト525と、ばね526と、を備える。
【0156】
エタロン51では、金属ブロック513にねじ穴を形成し、金属ブロック522に形成した孔からボルト525を挿入する。このボルト525を締め付けて、金属ブロック513、522と導電性干渉シート521で挟んでエタロン50を固定する。
【0157】
ばね526は、ボルト525に挿入・係止または挿着され、導電性緩衝シート521と金属ブロック513、522とに数N(1~2N)程度の適度な圧力がかかるように調整する。
【0158】
キャップ523は、金属ブロック513とボルト525の頭部の間に配置され、ばね526を保護する。また、キャップ523の厚さは、ボルト525を締め付ける際に適度な反発力を得るために必要なばね526の長さの指標となる。
【0159】
スペーサ524は、y方向にエタロン50を固定するために、エタロン50を挟むように配置され、ボルト525により固定される。
【0160】
スペーサの横方向(x方向、エタロン厚さ方向)のサイズは、エタロン50の横方向(x方向)のサイズよりも若干(数十μm、10μm~50μm程度)小さい。これは、エタロン50に押し付けられた際の導電性緩衝シート521の収縮を阻害しないためのものである。
【0161】
エタロン50の一方の半反射鏡507側において、導電性緩衝シート521と金属ブロック513とペルチェ素子512とヒートシンク514に、光を通過させるための穴515(
図5E中破線)が形成される。同様に、エタロン50の他方の半反射鏡506側において、導電性緩衝シート521と金属ブロック513とキャップ523に、光を通過させるための穴527(
図5E中破線)が形成される。
【0162】
金属ブロック513とペルチェ素子512とヒートシンク514とは、熱伝導率の良い接着剤で接着されている。その他の部材は、接着はされていない。
【0163】
エタロン50への電圧印加は、エタロン50の2つの電極504、505にリード線を接着(固定)してそれぞれのリード線に電圧印加しても良い。または、金属ブロック513、522を介して電圧印加しても良い。
【0164】
導電性緩衝シート521の素材は、グラファイト、カーボン、導電性ゴム、インジウム等である。ボルト525の素材は、プラスチック等である。金属ブロック513の素材は、アルミ、銅、銅タングステン等である。
【0165】
<エタロンの動作>(作用)
図6に、電荷(電子)がKTN結晶に注入され、KTN結晶外部から電界が印加されるときの屈折率分布の一例を示す。図中のx軸は、
図5Aのx軸と同じである。
【0166】
電荷(電子)の密度がxに対して均一に分布している場合(
図6中601)、その電荷分布とガウスの法則から、式(43)で表される電界(
図6中602)が生じる。ただし、
図5AのKTN結晶内であって透明電極502、503の平面と平行な平面内(y軸およびxy平面に垂直な軸を含む平面とその平面に平行な平面内)では、電界は一定とする。
【0167】
【0168】
ここで、ρは電荷密度、εrはKTN結晶の比誘電率、ε0は真空の誘電率(電気定数とも呼ぶ)、dはKTN結晶の厚さ(透明電極間距離)である。
【0169】
KTN結晶の電極間に電圧(KTN結晶印加電圧)Vを印加すると、KTN結晶内部には、式(44)で表される電界((
図6中603)が生じる。
【0170】
【0171】
KTN結晶内部に生じる電界E((
図6中604)は、E
in(x)とE
ex(x)を加算したものとなり、式(45)で表される。
【0172】
【0173】
屈折率変化Δnは、KTN結晶がカー効果を有することから、式(46)に示すようにΔn(x)が電界の2乗に比例する(Jun Miyazu, Tadayuki Imai, Seiji Toyoda, Masahiro Sasaura, Shogo Yagi, Kazutoshi Kato, Yuzo Sasaki, and Kazuo Fujiura, “New Beam Scanning Model for High-Speed Operation Using KTa1-xNbxO3 Crystals,” Applied Physics Express, Vol. 4, pp. 111501-1-111501-3, 2011.)。
【0174】
【0175】
ここで、n0は電界をかけない(V=0)場合の屈折率である。また、g12は電気光学定数であり、結晶にかけた電界の方向と垂直な方向の光の電界方向に影響を及ぼす量である。
【0176】
図5Aで説明すると、光はほぼx軸方向に進んでいるためにその電界E(x)の方向はx軸方向とほぼ垂直方向となるが、KTN結晶内ではx軸方向の電界が生じているため、Δnはg
12(E(x))
2に比例する。
【0177】
なお、光の電界は光の進行方向に対して垂直であるので、
図5Aの構成では、屈折率分布は、光の偏波には依存しない(偏波無依存であり)。
【0178】
このΔnにn0を加算したものがKTN結晶の屈折率分布n(x)となり、式(47)で表される。
【0179】
【0180】
このように、KTN結晶を
図5Aで用いる場合、x軸に対してxの2次関数となる屈折率分布をもつエタロンとなる。ここで、式(1)と比較すると、式(48)が得られる。
【0181】
【0182】
<エタロンの効果>
次に、第2~第4の実施の形態に係るKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50におけるビームの横ずれについて、
図7A~
図10Cを参照して説明する。
【0183】
KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50において、KTN結晶の電極間の印加電圧Vを0として、エタロン外部からの入射角θ’iを変化させて、KTN結晶内部の屈折率分布、KTN結晶内光路、ビーム出射位置を計算した。
【0184】
比較のために、均一屈折率分布エタロンについても同様の計算を行った。ここで、均一屈折率分布エタロンは、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50と同じFSRを有し、すなわち、エタロン内部の光路長がKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50と等しいものとする。
【0185】
・電荷密度ρ:-80Cm-3
・KTN結晶の比誘電率εr:17500
・真空の誘電率 (電気定数)ε0:8.8541878129×10-12 Fm-1
・KTN結晶の厚み(透明電極間距離)d:0.38 mm(0.00038 m)
・電界をかけない(V=0)場合のKTN結晶の屈折率n0:2.18
・電気光学定数g12:-0.038 C4m-2
・KTN結晶の電極間電圧V:0 V
・エタロン外部からの入射角θ’i:0~10°
【0186】
なお、このとき、β=577.8918m-2、x0=1.9×10-4-5.0969831×10-6×V=1.9×10-4mとなる。
【0187】
図7Aに示す屈折率分布71では、V=0であることからx
0=d/2=1.9×10
-4mmである。そこで、式(45)より、KTN結晶のx軸方向の中央が屈折率最小値n
0=2.18である下に凸の2次関数が得られる。なお、y軸方向の屈折率分布は一定である。
【0188】
図7Bに、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50内の光路(実線)72と、その光路72との接線とx軸との成す角(破線)73を示す。エタロン50の外部からの入射角θ’
iを10°として計算した。光路72はほぼ直線であるが、光路の接線の角度73は一定ではなく変化していることから、光路72は曲線であることがわかる。
【0189】
図7Cに、(x,y)=(0,0)に入射角10°で入射した光がKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50において出射する位置y
0を、エタロン外部からの入射角θ’
iに対してプロットしたもの74を示す。(x,y)=(0,0)に入射しているため、y軸方向の出射位置(
図7Cでの縦軸の値)がエタロンによる横ずれ量となる。比較のために、均一屈折率分布エタロンの出射位置y
u0のプロット75も示す。
【0190】
図7Dに、
図7Cにおける、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50の出射位置y
0と、均一屈折率分布エタロンの出射位置y
u0との横ずれ量の差y
0-y
u0のプロット76を示す。θ’
iが0~10°のいずれにおいてもy
0-y
u0は負の量となり、y
0<y
u0であること、つまり、横ずれ量は、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50の方が少ない。
【0191】
なお、
図7Bのグラフに記載の光路接線角は、式(42)で算出される。
【0192】
次に、エタロン外部からの入射角θ’iを一定として、KTN結晶の電極間電圧(印加電圧)Vを変化させ屈折率最小位置x0を変動させた場合のビームの横ずれの計算結果を述べる。計算には、以下のパラメータを用いた。
【0193】
・電荷密度ρ:-80Cm-3
・KTN結晶の比誘電率εr:17500
・真空の誘電率(電気定数)ε0:8.8541878129×10-12 Fm-1
・KTN結晶の厚み(透明電極間距離)d:0.38 mm(0.00038 m)
・電界をかけない(V=0)場合のKTN結晶の屈折率n0:2.18
・電気光学定数g12:-0.038 C4m-2
・KTN結晶の電極間電圧(交流)V:-200~+200
・エタロン外部からの入射角θ’i:10°
【0194】
このとき、β=577.8918m-2、x0=1.9×10-4-5.0969831×10-6×V=-8.29396623×10-4~+1.20939662×10-3mとなる。
【0195】
図8に、式(48)より得られる、KTN結晶電極間電圧(KTN結晶印加電圧)Vの変化に伴う最小屈折率の位置x。を示す。Vに対してx
0は線形に推移する。ここで、
図8のグラフにおける正の傾きは、ρ<0であることによる。
【0196】
ここで、KTN結晶501のx軸方向の長さは、
図8の縦軸における0~0.38mmの範囲に相当する。さらに、Vによってx
0の位置をKTN結晶の範囲外(
図8の縦軸における0.38mmより長い範囲)に設定することができる。
【0197】
図9Aに、(x,y)=(0,0)に入射角10°で入射した光がKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50において出射する位置y
0を、屈折率最小位置x
0に対してプロットしたもの91を示す。(x,y)=(0,0)に入射しているため、y軸方向の出射位置(
図9Aでの縦軸の値)がエタロンの横ずれ量となる。
【0198】
また、比較のために、均一屈折率分布エタロンの出射位置yu0のプロット92も示す。
ここで、出射位置yu0は、均一屈折率分布エタロンでの光路が、2次関数屈折率分布エタロン50での光路と同等になるように屈折率を変換して計算された。この計算過程において、屈折率が最小となる位置をx0としてプロットした。
【0199】
図9Bに、
図9AにおけるKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50の出射位置y
0と、均一屈折率分布エタロンの出射位置y
u0との横ずれ量の差y
0-y
u0のプロット93を示す。式(46)によれば、交流電圧Vが-200~+200Vで変化することにより、x
0は-8.29396623×10
-4~+1.20939662×10
-3mと変化(移動)する。このx
0の範囲いずれにおいてもy
0-y
u0は負の量となり、y
0<y
u0であり、つまり、横ずれ量はKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50の方が少ない。
【0200】
図9C、
図9Dは、
図9A、Bの横軸の屈折率最小位置x
0をKTN印加電圧Vに置き換えたグラフである。
図9Cに、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50での出射位置y
0のプロット94と均一屈折率分布エタロンの出射位置y
u0のプロット95を示す。
図9Dに、横ずれ量の差y
0-y
u0のプロット96を示す。上述したように、Vが-200~+200Vの範囲内でy
0<y
u0であり、つまり、横ずれ量はKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50の方が少ない。
【0201】
以上の計算結果は、KTN結晶を用いて、KTN結晶に電圧を印加することによりエタロンを透過する光の横ずれを抑制する屈折率分布を実現できることを示す。
【0202】
次に、KTNへの印加電圧Vの変化によるKTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50のフィルタ特性の変化(波長変化)に関する計算結果を説明する。計算は式(49)に基づいて行った。
【0203】
【0204】
KTNに印加する交流電圧Vを-200~+200Vの範囲で変化させる場合、
図10Aに示すように、エタロン内の光路長が変化する。光路長の変化にともない、
図10Bに示すようにFSRが変化し、
図10Cに示すように縦モードの周波数すなわち波長が変化する。ここで、縦モードの周波数は、q次(1073次)の(1本の)縦モードの周波数である。
【0205】
このように、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50において、KTNへの印加電圧を変えることによって、エタロンのフィルタ特性(縦モードの周波数)を変えることができる。
【0206】
換言すれば、エタロンを透過する光の横ずれを抑制する屈折率分布を有するKTN結晶を用いたエタロンにおいて、KTNへの印加電圧を変えることによって、エタロンのフィルタ特性(縦モードの周波数)を変えることができるので、電圧で駆動できる波長可変フィルタ、または、波長掃引フィルタとして利用できる。
【0207】
例えば、直流(DC)または周波数の低い(10~20kHz程度以下)交流電圧を印加して、高周波の交流電圧を印加しない場合には、屈折率最小位置x0が変化せず、光路も変化しない。そこで、波長が時間変動せず、波長可変フィルタとして利用できる。
【0208】
例えば、直流(DC)または周波数の低い(10~20kHz程度以下)交流電圧に加えて、10~20kHzより高い高周波の交流電圧を印加する場合には、屈折率最小位置x0が変化して、光路も変化する。そこで、時間的に波長を連続変化(掃引)して動作でき、波長掃引フィルタとして利用できる。
【0209】
このように、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50を用いた波長可変フィルタ、または、波長掃引フィルタは良好な波長安定性(制御性)を有する。
【0210】
ここで、
図10(c)に示す(1073次の)縦モードは、1550nmの波長に対応する縦モード次数を表す。この波長は、LiDARなどで使用される波長である。
【0211】
本実施の形態では、エタロンの2次関数屈折率分布を持つ材料としてKTN結晶を用いる例を示したが、KLTN(K1-yLyTaxNb1-xO3)を用いても良い。
【0212】
<第5の実施の形態>
次に、本発明の第5の実施の形態に係るエタロン装置について、
図11を参照して説明する。
【0213】
本実施の形態に係るエタロン装置53は、
図11に示すように、第2の実施に係るエタロン51と駆動電源531と光照射機構とを備える。第2の実施に係るエタロン51は、前述の通り、KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50を備える。
【0214】
光照射機構における光源532には、LED(Light Emitting Diode)を用い、発光波長は405nm(3.06eV)である。この波長のLEDは安価で市販されているので、光照射機構を安価に作製できる。光照射機構には、光源532の他にレンズ、フィルタなどの光学部品を用いてもよい。
【0215】
KTN結晶2次関数屈折率分布エタロン50に電荷(電子)を注入して動作する際には、駆動電源531により、KTN結晶の電極間に直流(DC)または、周波数の低い(10~20kHz程度以下)交流電圧を印加する。しかしながら、電荷(電子)がKTN結晶に注入されず負の電極付近に溜まる場合には、エタロンは良好に動作しない。
【0216】
本実施の形態に係るエタロン装置53では、光源532により、KTN結晶のバンドギャップ3.18eVに近い光子(フォトン)エネルギを有する波長の光をKTN結晶に照射し、KTN結晶中のトラップ準位にトラップされた電荷(電子)を励起して伝道帯へ遷移させることによって、正の電極付近まで電荷(電子)を注入することができる。
【0217】
ここで、光源532からの照射光は、エタロン50に入射される光と同じ光軸530で、照射される。エタロン51に形成される穴515を通過して照射されてもよい。また、照射光は、これに限らず、入射光の光軸と異なる方向から照射されてもよく、エタロンに照射されればよい。
【0218】
ここで、光源531から照射されるパワー密度に応じてKTN結晶内の電荷(電子)密度ρが変化する。詳細には、LED照射光パワー密度が大きいときにはρの絶対値は小さく、パワー密度が小さいときにはρの絶対値は大きい。光源531から照射されるパワー密度は、1mW/mm2~20mW/mm2程度が望ましい。
【0219】
本実施の形態に係るエタロン装置53を波長可変フィルタに用い、波長を時間変動させない場合は、3.18eVに近い光子エネルギを有する(例えば、波長405nm)光を照射しながら、DC電圧をKTN結晶に継続して印加することができる。
【0220】
また、本実施の形態に係るエタロン装置53を波長掃引フィルタに用い、時間的に波長を連続変化(掃引)して動作させる場合は、3.18eVに近い光子エネルギを有する(例えば、波長405nm)光を照射しながら、DC電圧に交流(AC)電圧を重畳した電圧をKTN結晶に印加することができる。この場合のAC電圧の周波数は、KTN結晶への電荷注入が生じないような高周波(10kHz以上)であることが望ましい。
【0221】
本実施の形態では、光源の発光波長を405nmとする例を示したが、これに限らず、他の波長でもよい。KTN結晶中のトラップ準位にトラップされた電荷(電子)を伝道帯に励起できる波長であればよい。
【0222】
本実施の形態では、第2の実施の形態に係るエタロン51を用いたが、第2の実施の形態に係るエタロン52を用いてもよい。この場合、照射光は、エタロン52に形成される穴515または穴527を通過して照射される。
【0223】
本発明の実施の形態では、半反射鏡を用いる例を示したが、これに限らず、半反射鏡を用いなくてもよい。半反射鏡を用いなくても、エタロンの屈折率がエタロン周囲、例えば空気の屈折率と異なれば、エタロン表面でフレネル反射するので、同様の効果を奏する。
【0224】
本発明の実施の形態では、エタロンに用いる誘電体の屈折率が2次関数で変化する例を示したが、これに限らない。本発明の実施の形態に係るエタロンに用いる誘電体の屈折率分布が、エタロンを透過する光の光路長が同等である条件下で均一屈折率分布エタロンと比較して横ずれが小さくなるように設定されるものであればよい。
【0225】
また、この横ずれを比較する際に、本発明の実施の形態に係るエタロンの横ずれと均一屈折率分布エタロンの横ずれは、エタロンを透過する光の外部からの入射角度で表されればよい。
【0226】
例えば、屈折率分布において下に凸となるように屈折率が変化してもよい。例えば、屈折率が、エタロンに用いる誘電体の一方の端面から誘電体内部に向かって減少し、誘電体内部の任意の点から他方の端面まで増加してもよい。また、誘電体の屈折率の変化が単調減少または単調増加でもよい。
【0227】
本発明の実施の形態では、エタロン内部の屈折率は、x軸方向に関して変動し、y軸方向に関して変動せず一定とする例を示したが、これに限らない。y軸方向に変動してもよい。
【0228】
本発明の実施の形態では、エタロンに用いる誘電体にKTN結晶を用いる例を示したが、これに限らない。電気光学効果であるKerr効果(カー効果)を有する物質として、チタン酸バリウム(BaTiO3:BT)、タンタル酸カリウム(KTaO3:KT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3:ST)を用いてもよい。
【0229】
また、エタロンに用いる誘電体に、印加電圧に比例して屈折率が変化するPockel‘s効果(ポッケルス効果)を有する物質を用いてもよい。ポッケルス効果を有する物質として、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、以下、「LN」という。)を用いてもよく、チタン酸ジルコニア酸ランタン鉛((Pb1-xLax)(Zry Ti1-y)1-x/4O3:PLZT)を用いてもよい。
【0230】
本発明の実施の形態では、エタロンにKTN結晶を用い、外部から電圧を印加して屈折率を変化させる例を示したが、これに限らない。誘電体内の成分、組成を変えることにより屈折率を変化させてもよい。この場合、上述の物質以外にも、SiOx、SiNx、SiOxNy等を用いても、組成x、yを変化させてもよい。
【0231】
本発明の実施の形態では、エタロンおよびエタロン装置の構成、製造方法などにおいて、各構成部の構造、寸法、材料等の一例を示したが、これに限らない。エタロンおよびエタロン装置の機能を発揮し効果を奏するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0232】
本発明は、波長多重(WDM)伝送光通信、精密測定などの分野で光学フィルタとして、波長選択フィルタや波長狭帯域化のための干渉フィルタに適用することができる。
【符号の説明】
【0233】
10 エタロン
20 均一屈折率分布エタロン