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特許7605214アルデヒドによるニトリルヒドラターゼの反応性向上
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】アルデヒドによるニトリルヒドラターゼの反応性向上
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/02 20060101AFI20241217BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20241217BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C12P13/02 ZNA
C12N9/88
C12N1/20 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022550734
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2022004577
(87)【国際公開番号】W WO2022172880
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021019409
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100155125
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 直俊
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆文
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 典史
(72)【発明者】
【氏名】加納 誠
(72)【発明者】
【氏名】高梨 一哉
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184686(JP,A)
【文献】特開2010-022334(JP,A)
【文献】特開2002-369697(JP,A)
【文献】特許第6020741(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下において、ニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法であって、
前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含み、
前記ニトリル化合物が、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種であり、
前記アルデヒド化合物は、アルデヒド基を有する化合物か、水中又は溶液中でアルデヒド基を有する化合物を生じる化合物であって、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドシュウ酸ジアルデヒドヘキサナール、ヘプタナールノナナール、デカナール、パラアルデヒド、ベンズアルデヒドペリルアルデヒド、バニリンパラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドアンモニア及びヘキサメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも一種であり、
前記ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒が、ロドコッカス属、またはシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを含む細胞または微生物菌体である、前記方法。
【請求項2】
ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下における、ニトリル化合物からのアミド化合物の製造において、前記ニトリル化合物をアミド化合物に変換する反応速度を向上させる方法であって、
前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含み、
前記ニトリル化合物が、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種であり、
前記アルデヒド化合物は、アルデヒド基を有する化合物か、水中又は溶液中でアルデヒド基を有する化合物を生じる化合物であって、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドシュウ酸ジアルデヒドヘキサナール、ヘプタナールノナナール、デカナール、パラアルデヒド、ベンズアルデヒドペリルアルデヒド、バニリンパラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドアンモニア及びヘキサメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも一種であり、
前記ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒が、ロドコッカス属、またはシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを含む細胞または微生物菌体である、前記方法。
【請求項3】
ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下における、ニトリル化合物からのアミド化合物の製造において、前記ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制する方法であって、
前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含み、
前記ニトリル化合物が、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種であり、
前記アルデヒド化合物は、アルデヒド基を有する化合物か、水中又は溶液中でアルデヒド基を有する化合物を生じる化合物であって、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドシュウ酸ジアルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナールノナナール、デカナール、パラアルデヒド、ベンズアルデヒドペリルアルデヒド、バニリンパラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドアンモニア及びヘキサメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも一種であり、
前記ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒が、ロドコッカス属、またはシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを含む細胞または微生物菌体である、前記方法。
【請求項4】
ニトリル化合物中のシアン化合物濃度に対するアルデヒド化合物濃度が、モル比で0.9~15である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アルデヒド化合物と、
アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種のニトリル化合物とを含む、アミド化合物製造用組成物を使用して行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アルデヒド化合物及びニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒を含む、アミド化合物製造用触媒組成物を使用して行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞または微生物菌体が、薬剤処理により増殖能を失わせた細胞または微生物菌体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2021-19409(2021年2月10日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
[技術分野]
本発明はニトリルヒドラターゼによるアミド化合物の製造方法に関する。より詳細には、本発明はニトリルヒドラターゼの反応速度を向上させる方法、ニトリルヒドラターゼの活性低下を抑制する方法、反応速度を増加させた状態でアミド化合物を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
アミド化合物については、産業上重要な物質として広範囲に使用されている。その用途としては、アクリルアミドでは排水処理用凝集剤、紙力増強剤、石油回収剤、メタアクリルアミドでは、塗料、接着剤等、幅広く用いられている。
【0003】
アミド化合物の製造方法としては、従来還元状態の銅を触媒として用い、ニトリル化合物を水和することにより、対応するアミド化合物を製造する工業的手法が用いられてきた。
【0004】
近年、微生物の持つ酵素の中にニトリル基を水和してアミド基に変換するニトリル水和活性を有するニトリルヒドラターゼが発見され、該酵素又は該酵素を有する微生物菌体等を用いてニトリル化合物より対応するアミド化合物を製造する方法が用いられている。
【0005】
この製造方法は従来の金属触媒を利用する手法より、反応条件が温和であり、ニトリル化合物からの対応するアミド化合物への高い転化率、高い選択性を持つことから、よりシンプルなプロセスが組みやすく、工業的にも優れた手法であると言える。
【0006】
ニトリルヒドラターゼを利用してアミド化合物を工業的に製造する際には、ニトリル化合物から対応するアミド化合物を効率よく製造できることが重要である。よって、ニトリルヒドラターゼの酵素活性の向上(特許文献1)、温度による活性低下の抑制、アミド化合物耐性の向上(特許文献2)によるアミド化合物の製造効率の改善が報告されている。
【0007】
他の手法として、ニトリルヒドラターゼの活性に影響を与えるニトリル化合物中の有機性不純物を同定し、ニトリルヒドラターゼの活性低下を抑制することにより製造効率を改善する方法が報告されている(特許文献3~5)。例えば、ニトリル化合物中に存在するベンゼンの濃度を低減させることにより、アミド化合物を効率的に製造する方法(特許文献3)が報告されている。また、ニトリル化合物中の青酸濃度を低減させる手法(特許文献4,5)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-295815号公報
【文献】特開2010-172295号公報
【文献】国際公開2007-043466号パンフレット
【文献】特開平11-123098号公報
【文献】特開2001-288156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4の方法では、金属化合物を添加した場合、酵素反応や得られるアミド化合物の品質に影響を及ぼす可能性があり、また、反応終了後に金属化合物等を除去する工程を要するためコストの上昇につながる。一方で、イオン交換樹脂を用いてニトリル化合物を精製する場合は、工程の増加によりコストの増加につながる。
【0010】
また、特許文献5の方法では、原料のニトリル化合物にアルカリ化合物を添加するが、酵素反応の前にニトリル化合物のpHを調整する手間が増えたり、得られるアミド化合物の品質に影響を及ぼしたりする可能性がある。
【0011】
そこで、本発明では、アルデヒド化合物を添加することにより、より簡便にアミド化合物の生産性を改善する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する反応において、アルデヒド化合物を添加することにより、ニトリル化合物をアミド化合物に変換する反応速度が向上すること、また、ニトリルヒドラターゼの活性低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1] ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下において、ニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法であって、
前記ニトリル化合物からアミド化合物への反応がアルデヒド化合物の存在下で行われ、前記ニトリル化合物が、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種である、前記方法。
[2] ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下における、ニトリル化合物からのアミド化合物の製造において、前記ニトリル化合物をアミド化合物に変換する反応速度を向上させる方法であって、
前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含み、前記ニトリル化合物が、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種である、前記方法。
[3] ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下における、ニトリル化合物からのアミド化合物の製造において、前記ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制する方法であって、
前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含み、前記ニトリル化合物が、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種である、前記方法。
[4] ニトリル化合物中のシアン化合物濃度に対するアルデヒド化合物濃度が、モル比で0.9~15である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒が、ロドコッカス属、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼ、または前記ニトリルヒドラターゼを含む細胞、微生物菌体もしくはその処理物である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[6] アルデヒド化合物が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、シュウ酸ジアルデヒド、マロンジアルデヒド、ペンタナール、イソバレルアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、チグリン酸アルデヒド、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、フルフラール、ブタンジアール、trans-2-ヘキセナール、グルタルアルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、パラアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、バニリン、1-ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド、メチオナール、(Z)-7-ヘキサデセナール、グリオキサール(シュウ酸ジアルデヒド)、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドアンモニア及びヘキサメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも一種である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[7] アルデヒド化合物と、
アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びラクトニトリルから選ばれる少なくとも一種のニトリル化合物とを含む、アミド化合物製造用組成物。
[8] アルデヒド化合物及びニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒を含む、アミド化合物製造用触媒組成物。
[9] アルデヒド化合物と、シアン化合物を含むアミド化合物とを含有するアミド化合物組成物であって、アルデヒド化合物を混合される前のアミド化合物中のシアン化合物の濃度が0.2ppm以上である、アミド化合物組成物。
[10] アミド化合物、及びシアン化合物とアルデヒド化合物が結合した化合物とを含む、アミド化合物組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加することにより、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒によるニトリル化合物からアミド化合物に変換する反応の反応速度を上昇させることができる。また、本発明によれば、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制することができる。従って、本発明によれば、アミド化合物を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に発明の実施の形態について説明する。
(1)ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒
本発明において、ニトリルヒドラターゼとは、ニトリル化合物を加水分解して、対応するアミド化合物を生成する能力を持つ酵素をいう。ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒はニトリルヒドラターゼタンパク質そのものでもよいが、ニトリルヒドラターゼを含んだ動物細胞、植物細胞、細胞小器官、又は微生物の菌体、及びそれらの処理物でもよい。
【0016】
前記処理物としては、動物細胞、植物細胞、細胞小器官又は、微生物の菌体を破砕した破砕物、又は菌体から抽出された酵素(素酵素又は精製酵素);動物細胞、植物細胞、細胞小器官、微生物の菌体又は酵素自体を担体に固定化したもの;等が挙げられる。
【0017】
また、前記処理物には、薬剤処理により増殖能を失わせた、動物細胞、植物細胞、細胞小器官又は、微生物の菌体も含まれる。
【0018】
固定化方法としては、包括法、架橋法、担体結合法、等が挙げられる。包括法とは、高分子被膜によって被覆する方法である。架橋法とは、酵素を2個又はそれ以上の官能基を持った試薬(多官能性架橋剤)で架橋する方法である。担体結合法とは、水不溶性の担体に酵素を結合させる方法である。
【0019】
固定化に用いる単体(固定化担体)としては、例えば、ガスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラーギナン、アルギン酸、寒天及び、ゼラチン等が挙げられる。
【0020】
このような微生物の代表例としては、例えばニトリルヒドラターゼ活性を持つロドコッカス(Rhodococus)属、ゴルドナ(Gordona)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属、ジオバチルス(Geobacillus)属、バチルス(Bacillus)属、バクテリジューム(Bacteridium)属、マイクロコッカス(Micrococcus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、フザリウム(Fusarium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、パントエア(Pantoea)属、キャンディダ(Candida)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属等に属する微生物が挙げられる。
【0021】
より詳細には、特公昭56-17918号公報に記載のノカルディアsp.N-775、特公平06-55148号公報に記載のロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J-1、国際公開パンフレットWO2005/054456号に記載されるロドコッカス・ロドクロウスNCIMB41164株、特開平05-30982号公報に記載のクレブシエラsp.MCI2609、特開平05-30983号公報に記載のエアロモナスsp.MCI2614、特開平05-30984号公報に記載のシトロバクター・フロンディ(Citrobacter freundii)MCI2615、特開平05-103681号公報に記載のアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)IAM13570及びアグロバクテリウム・トゥメファシエンス(Agrobacterium faciens)、特開平05-161495号公報に記載のキサントバクター・フラブス(Xanthobacter flavas)JCM1204、エルウィニア・ニグリフルエンス(Erwinia nigrifluens)MAFF03-01435、特開平05-236975号公報に記載のエンテロバクターsp.MCI2707、特開平05-236976号公報に記載のストレプトマイセスsp.MCI2691、特開平05-236977号公報に記載のリゾビウムsp.MCI2610、リゾビウムsp.MCI2643、リゾビウム・ロティ(Rhizobium loti)IAM13588、リゾビウム・レグミノサーラム(Rhizobium legminosarum)IAM12609及びリゾビウム・メリオティ(Rhizobium merioti)IAM12611、特開平05-15384号公報に記載のキャンディダ・グイリエモンディ(Candida guilliermondii)NH-2、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)NH-3及びクレブシエラ・ニュウモニアエ・スブスピーシス・ニュウモニアエ(Klebsiella pneumoniae)NH-26T2、特開平06-14786号公報に記載のアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)SC-C15-1、特開平07-25494号公報に記載のバチルス・スミシー(Bacillus smithii)SC-J05-1、特開平08-56684号公報に記載のシュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)ATCC19285、特開平09-275978号公報に記載のシュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)JCM3095等を挙げることができる。
【0022】
特公平06-55148号公報に記載されるロドコッカス・ロドクロウスJ-1株は、受託番号「FERM BP-1478」として、1987年9月18日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1中央第6(以下、本明細書において同様))に寄託されている。
【0023】
国際公開パンフレットWO2005/054456号に記載されるロドコッカス・ロドクロウスNCIMB41164株は、2003年3月5日にNational Collection of Industrial,Food and Marine Bacteria,Ltd.(NCIMB)(NCIMB Ltd Ferguson Building Craibstone Estate Buksburn Aberdeen AB21 9YA)に受託番号NCIMB41164として寄託されている。
【0024】
特開平09-275978号公報に記載されるシュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila JCM3095)は、受託番号「FERM BP-5785」として、1996年2月7日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に寄託されている。
【0025】
本発明においては、前記微生物から選択される1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
さらにニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子は、通常の分子生物学的手法によって微生物細胞内に導入及び発現可能である(これらの分子学的手法については、以下を参照:Sambrook,Fritscj and Maniatis, ”Molercular Cloning:A Laboratory Manual”2nd Edition(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press)。すなわち、本発明においては、天然のニトリルヒドラターゼ(野生型)又はその変異体(改良型)をコードする核酸を微生物細胞内で発現させて得られる酵素を用いることもできる。本発明においては、前記酵素から選択される1種を単独で又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
野生型ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列はGenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等のNCBIのデータベースに公表されている。
【0028】
例えば、ロドコッカス・ロドクロウスJ1(FERM BP-1478)由来のαサブユニットのアクセッション番号は「P21219」であり、βサブユニットのアクセッション番号は「P21220」である。また、ロドコッカス・ロドクロウスM8(SU1731814) 由来のαサブユニットのアクセッション番号は「ATT79340」であり、βサブユニットのアクセッション番号は「AAT79339」である。さらに、シュードモナス・サーモフィラ(Pseudomonas thermophila)JCM3095由来のαサブユニットのアクセッション番号は「1IRE A」であり、βサブユニットのアクセッション番号は「1IREB」である。
【0029】
野生型のニトリルヒドラターゼ遺伝子が導入された形質転換体としては、アクロモバクター(Achromobacter)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10770(FERM P-14756)(特開平8-266277号公報)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10822(FERM BP-5785)(特開平9-275978号公報)、又はロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種のニトリルヒドラターゼ(特開平4-211379号公報)で形質転換した微生物が例示されるが、これらには限定されない。
【0030】
野生型ニトリルヒドラターゼにアミノ酸置換を施した改良型(変異型)ニトリルヒドラターゼが知られており(特開2010-172295号公報、特開2007-143409号公報、特開2007-043910号公報、特開2008-253182号公報、特開2019-088326号公報、特開2019-088327号公報、WO05/116206号パンフレット、WO12/164933号パンフレット、WO12/169203号パンフレット、WO15/186298号パンフレットなど)、本発明の方法においては、これらの改良型ニトリルヒドラターゼが導入された微生物を使用することもできる。
【0031】
これらニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物、又はその処理物は、菌体調製直後にアミド合成反応に用いることは勿論、菌体調製後に保管し、必要に応じてアミド合成反応に使用することもできる。菌体を調製するための微生物の培養方法は、微生物の種類に応じて適宜選択できる。本培養の前に種培養を行ってもよい。
【0032】
ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物の菌体又は、その処理物は、回分反応に使用することもでき、連続反応に使用することもできる。また、反応形式は流動床、固定床、懸濁床など、適切な形式を選択できる。その際の反応液中での該触媒温度は、水性媒体とニトリル化合物の混合に支障をきたさない限り特に限定されるものではない。
【0033】
(2)ニトリル化合物
本発明の製造方法において原料として使用されるニトリル化合物とは、ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒によりアミド化合物へ変換される化合物であれば特に限定されない。例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、サクシノニトリル、アジポニトリル、グリコロニトリル、ラクトニトリルのような脂肪族飽和ニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルのような脂肪族不飽和ニトリル、ベンゾニトリル、フタロジニトリルのような芳香族ニトリル及びシアノピリジンのような複素環式ニトリルが挙げられる。本発明におけるニトリル化合物は、好ましくはアセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、n-ブチロニトリル、イソブチロニトリル、シアノピリジン、グルコロニトリル、ラクトニトリル等のニトリル化合物であり、特により好ましくは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アセトニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル、ラクトニトリルである。
【0034】
ニトリル化合物は、一般的には精製工程を経て市販製品となる。例えば、アクリロニトリルはプロピレンのアンモ酸化法により工業的に生産されており、青酸などのシアン化合物は他の副生物と共に反応後の蒸留精製による除去操作が行われている。
【0035】
しかしながら、この操作では除去し切れないシアン化合物が製品中に含まれている。このニトリル化合物に含まれるシアン化合物によってニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒がダメージを受け、活性の低下や反応速度の減少につながると考えられる。
【0036】
本発明では、ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する(存在させる)ことにより、ニトリル化合物中に含まれるシアン化合物を低減させ、シアン化合物によるニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒へのダメージを防ぐことができる。すなわち、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下にニトリル化合物からアミド化合物へ変換させる反応速度が向上する。また、ニトリル化合物との接触によるニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制することができるものと考えられる。
【0037】
(3)アミド化合物の製造
本発明では、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する。
【0038】
本発明で製造されるアミド化合物の種類は特には限定されず、用途に応じたアミド化合物を製造することができる。原料としては、当該アミド化合物に対応したニトリル化合物を使用することができる。
【0039】
アミド化合物としては、アクリルアミド、ニコチンアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。好ましくはアクリルアミドである。
【0040】
ニトリル化合物としてアクリロニトリルを用いた場合にはアクリルアミドが得られ、ニトリル化合物としてメタクリロニトリルを用いた場合には、メタクリルアミドが得られる。ニトリル化合物としてシアノピリジンを用いた場合には、ニコチンアミドが得られる。
【0041】
ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒を用いたアミド化合物の製造方法は特には限定されず、例えば、連続的にアミド化合物を生成させる連続反応によって行ってもよく、非連続的にアミド化合物を生成させるバッチ反応により行ってもよい。
【0042】
連続反応を行う場合、生体触媒、水及びニトリル化合物を含む反応原料の反応器への連続的又は間歇的な導入と、生成したアミド化合物を含む反応混合物の反応器からの連続的又は間歇的な取り出しを行いながら、反応器内の反応混合物を全量抜き出すことなく連続的にアミド化合物を製造することができる。
【0043】
バッチ反応を行う場合、反応原料を反応器に一度に全量仕込んでから反応させることにより、又は反応原料の一部を反応器に仕込んだ後、連続的又は間歇的に残りの反応原料を供給して反応させることにより、アミド化合物を製造することができる。
【0044】
反応器の形式としては、撹拌槽型、固定層型、流動層型、移動層型、管型又は塔型等、種々の形式の反応器を用いることができる。反応器は1つを使用してもよいし、複数を併用してもよい。複数の反応器を使用した場合、下流側の反応器ほど取り出される反応混合物中のアミド化合物の濃度が高くなる。そのため、反応器の数により最終的に得られるアミド化合物の濃度を調整することができる。
【0045】
複数の反応器を用いて連続的に反応を行う場合、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒、ニトリル化合物を導入する反応器は、反応の効率等を悪化させすぎない範囲内であれば、最も上流に位置する反応器のみに導入することに限定されず、それよりも下流の反応器にも導入することができる。
【0046】
反応原料のうち、原料水はアミド化合物を生成する際に、ニトリル化合物との水和反応に利用される。
【0047】
原料水としては、水;又は、酸若しくは塩類等を水に溶解した水溶液等が挙げられる。酸としては、リン酸、酢酸、クエン酸、ホウ酸等が挙げられる。塩類としては、前記酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。原料水の種類も限定されないが、例えば、純水、市水、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられる。使用する原料水のpH(25℃)も、生体触媒が効率良く反応できれば特には限定されない。例えば、4~10、好ましくは5~9とすることができる。pHを4以上とすることにより、生体触媒の酵素活性を十分に高めることができる。pHを10以下とすることにより、生体触媒の失活を抑制することができる。
【0048】
生体触媒の使用量は、用いる生体触媒の種類や反応条件等によって適宜選択することができる。例えば、反応器中に導入する生体触媒の活性が、反応温度10℃で乾燥菌体1mg当たり50~500U程度となるように調整することが好ましい。前記単位U(ユニット)は、1分間にニトリル化合物からアミド化合物を1マイクロモル生成させることを意味し、製造に用いるニトリル化合物を用いて測定した値である。
【0049】
上記アクリロニトリルの水和反応に用いる反応原料、または該水和反応の反応中もしくは反応後の反応混合物に、安定化を補助する目的で、炭素数2以上の水溶性モノカルボン酸塩の少なくとも1種を添加してもよい。該水溶性モノカルボン酸塩は、飽和モノカルボン酸塩、不飽和モノカルボン酸塩のいずれでもよい。飽和カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、n― カプロン酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸などが挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が代表的である。該水溶性モノカルボン酸塩の添加量は、最終的に得られる反応混合物(アクリルアミド水溶液)中のアクリルアミドに対し、酸として20~ 5000mg/kgとなる量が好ましい。
【0050】
ニトリル化合物の使用量は、用いる生体触媒の種類や反応条件、反応規模、連続反応かバッチ反応か等によって適宜選択することができる。
【0051】
反応温度は生体触媒が効率良く反応を促進させることができれば特には限定されない。例えば、5~50℃、好ましくは10~40℃、より好ましくは15~35℃とすることができる。反応温度を10℃以上とすることにより、生体触媒の反応活性を十分に高めることができる。反応温度を50℃以下とすることにより、生体触媒の失活を抑制することができる。
【0052】
反応時間は特には限定されず、例えば、バッチ反応、回分反応、連続反応等の反応形式や反応規模等に応じて適宜選択することができる。例えば、0.1~60時間、好ましくは1~50時間、より好ましくは2~40時間とすることができる。
【0053】
アミド化合物の製造を連続反応により行う場合、反応器中から反応混合物を取り出す際の流体速度は、反応器内の反応混合物を全量抜き出すことなく連続的に製造できるように、ニトリル化合物及び生体触媒の導入速度に合わせて決定すればよい。
【0054】
また、反応を安定化するために、ニトリル化合物中又は反応液中に、添加剤を添加することもできる。
【0055】
本発明において得られるアミド化合物の水溶液のアミド化合物の濃度は、得られるアミド化合物の使用目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、アミド化合物の濃度を、得られるアミド化合物の水溶液全体の質量に対して、25~65質量%、好ましくは30~60質量%、より好ましくは35~55質量%とすることができる。アミド化合物の濃度を65質量%以下とすることにより、常温でアミド化合物の結晶が析出するのを防ぐことができる。また、アミド化合物の濃度を25質量%以上とすることにより、貯蔵や保管に用いるタンク容積を抑えることができたり、輸送コストを抑制したりすることができる。
【0056】
本発明により得られるアミド化合物は、そのまま重合反応に使用することもできるし、使用するまで保存することもできる。また、必要に応じてアルデヒド化合物を除去することもできる。アミド化合物を保存する場合、必要に応じて、重合禁止剤、重合開始剤を初めとする各種添加剤を添加して使用することができる。
【0057】
(4)アルデヒド化合物
本発明では、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下で、ニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、前記ニトリル化合物からアミド化合物への反応がアルデヒド化合物の存在下で行われる。
【0058】
本発明において、前記アルデヒド化合物としては、上記の効果が得られれば特には限定されない。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、、マロンジアルデヒド、ペンタナール、イソバレルアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、チグリン酸アルデヒド、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、フルフラール、ブタンジアール、trans-2-ヘキセナール、グルタルアルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、パラアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、バニリン、1-ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド、メチオナール、(Z)-7-ヘキサデセナール等を挙げることができる。
【0059】
アルデヒド化合物には、アルデヒド基(-CHO)を有する化合物だけでなく、水中又は溶液中でアルデヒド化合物を生じる化合物も含む。そのようなアルデヒド化合物としては、例えば、グリオキサール(シュウ酸ジアルデヒド)、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドアンモニア、ヘキサメチレンテトラミン等を挙げることができる。
【0060】
これらのなかでも、分子量が200程度以下のアルデヒド化合物が好ましく、分子量が100程度以下のアルデヒド化合物がより好ましい。
【0061】
特に好ましくは、アルデヒド化合物は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等である。
なお、本明細書中において、反応液中に「添加する」には、反応液中に「存在させる」ことを包含するものとする。
【0062】
本発明において、ニトリル化合物を含む反応液中に添加するアルデヒド化合物の量は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下にニトリル化合物からアミド化合物へ変換させる反応速度を上昇させることができる、または、ニトリル化合物に接触させた際のニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制することができれば、特には限定されない。
【0063】
反応液中に添加するアルデヒド化合物の量は、反応液中のシアン化合物の含有量に対して、モル比で、0.9~15、好ましくは1.5~10.0、より好ましくは2.0~6.0とすることができる。
【0064】
アクリロニトリル中のシアン化合物の含有量はアルカリ溶液で抽出した後、硝酸銀を用いた滴定法で求めることができる。若しくは吸光光度法にて測定することができる。
【0065】
反応液中に存在させるアルデヒドの量を、シアン化合物の含有量に対してモル比で0.9以上とすることにより、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下にニトリル化合物からアミド化合物へ変換させる反応速度を上昇させることができる、または、ニトリル化合物に接触させた際のニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制することができる。
【0066】
一方で、反応液中に存在させるアルデヒドの量を、シアン化合物の含有量に対してモル比で15以下とするのは、それ以上アルデヒド化合物を添加しても、効果の向上が得られにくいからである。
【0067】
なお、本明細書中において、シアン化合物には、青酸(HCN);シアン化イオン(CN);シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のシアン化合物を含むもしくは反応条件下でシアンもしくはシアンイオンを放出するものとする。
【0068】
ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加するタイミングとしては、上記の効果を発揮することができれば特には限定されず、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒をニトリル化合物と接触させる前でも、接触させる際(同時)又は接触させた後(すなわち、生体触媒によるニトリル化合物の酵素反応を開始した後)でもよい。
【0069】
好ましくは、アルデヒド化合物は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒をニトリル化合物と接触させる前に添加する。反応開始後に添加する場合には、当該反応を開始してからあまり時間が経っていないに時点で(早ければ早いほど)アルデヒド化合物を添加するほど、より上記の効果が得られると考えられる。
【0070】
反応液中にアルデヒド化合物を添加する方法としては、反応液中に所望の濃度のアルデヒド化合物が存在する限り特には限定されない。例えば、固体状のアルデヒド化合物を添加することもできるし、アルデヒド化合物を反応に用いる溶媒又は水等に溶解したものを添加することもできる。
【0071】
(5)ニトリル化合物をアミド化合物に変換する反応速度の向上
本発明は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下における、ニトリル化合物からアミド化合物の製造において、前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含むことを特徴とする、ニトリル化合物からアミド化合物に変換する酵素反応の反応速度を向上させる方法を提供する。前記ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種を使用することができる。
【0072】
アルデヒドをアクリルアミドの重合防止(安定化)に使用することは報告されているが(WO2011/102510)、アルデヒド化合物がニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒へのダメージを防止し、反応速度を向上させることは、本発明において初めて見出されたものである。
【0073】
本発明において、「反応速度を向上させる」とは、アルデヒド化合物が存在しない場合に比較して、反応速度が高いことを意味する。
【0074】
反応速度の測定方法としては、反応系に存在するニトリル化合物が時間あたりに減少する量を測定する方法又は反応系に増加するアミド化合物の量を測定する方法が挙げられる。ニトリル化合物又はアミド化合物の測定方法としては、ガスクロマトグラフィー分析法等の公知の方法を用いることができる。
【0075】
(6)ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下抑制
ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の存在下における、ニトリル化合物からアミド化合物の製造において、前記ニトリル化合物を含む反応液中にアルデヒド化合物を添加する工程を含むことを特徴とする、前記ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒の活性低下を抑制する方法を提供する。前記ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びアラニンニトリルから選ばれる少なくとも一種を使用することができる。
【0076】
前述のとおり、ニトリルヒドラターゼの活性は、反応液中の不純物や反応条件の影響を受けやすい。本発明の方法によれば、追加の工程を必要とせず、アミド化合物の品質に影響を与えることなく、簡便にニトリルヒドラターゼの活性低下を抑制することができる。
【0077】
(7)アミド化合物製造用組成物
本発明は、アルデヒド化合物と、アクリロニトリル、アセトニトリル、メタクリロニトリル、シアノピリジン、グリコロニトリル及びラクトニトリルから選ばれる少なくとも一種のニトリル化合物とを含む、アミド化合物製造用組成物も提供する。
【0078】
本発明のアミド化合物製造用組成物において、アルデヒド化合物は、「(4)アルデヒド化合物」に記載した化合物を、同項の記載にしたがい使用することができる。前記組成物は、(3)に記載したアミド化合物の製造方法において使用され、効率的なアミド化合物の製造を可能にする。
【0079】
(8)アミド化合物製造用触媒組成物
本発明は、アルデヒド化合物及びニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒を含む、アミド化合物製造用触媒組成物も提供する。
【0080】
本発明のアミド化合物製造用触媒組成物において、アルデヒド化合物及びニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒は、それぞれ「(4)アルデヒド化合物」及び「(1)ニトリルヒドラターゼ活性を有する生体触媒」に記載のとおりである。
【0081】
(9)アミド化合物組成物
本発明は、アルデヒド化合物とシアン化合物を含む、アミド化合物組成物も提供する。
【0082】
第1の実施形態において、前記アミド化合物組成物は、アミド化合物とアルデヒド化合物を含み、前記アミド化合物中のシアン化合物の濃度が0.2ppm以上であることを特徴とする。シアン化合物とアミド化合物は、別個の化合物であってもよいし、結合していてもよい。当該シアン化合物の濃度は、アルデヒド化合物を添加する前の濃度とする。
【0083】
第2の実施形態において、前記アミド化合物組成物は、アミド化合物と、シアン化合物とアルデヒド化合物が結合した化合物とを含む。
【実施例
【0084】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「%」は「質量%」を示すものとする。
【0085】
[実施例1]
(菌体の調製)Rhodococcus rhodochrous J-1(FERMBP-1478)
ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス ロドクロウス J-1株[Rhodococcus rhodochrous J-1(FERMBP-1478)]をグルコース2.0%、尿素1.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%及び塩化コバルト0.05%を含む培地(pH7.0)を用い30℃で好気的に培養した。これを50mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて洗浄し、菌体懸濁液(乾燥菌体換算3%)とした。
【0086】
(所定の青酸濃度のアクリロニトリル調整)
工業用アクリロニトリル(三菱ケミカル社製)に青酸濃度を重量基準で2.1ppmとなるようにシアン1000ppm標準液(林純薬工業製)を添加した。
【0087】
(青酸濃度測定方法)
試験管に9.6gの純水とアクリロニトリル(三菱ケミカル社製)0.4gを入れ25℃で30分間静置した。その後、HACH分析キットにあるCyaniVer.3を入れて30秒間ボルテックスしたのち、30秒間静置した。CyaniVer.4を加え10秒間ボルテックスし、CyaniVer.5を加えて2分間ボルテックスした。
【0088】
25℃で30分間静置したのち、吸光光度計(DR500001)(HACH社)を使用して吸光度を測定した。その結果、青酸濃度は2.1ppmであった。
【0089】
(アセトアルデヒドを含むアクリロニトリルの調整)
工業用アクリロニトリル(三菱ケミカル社製)にアセトアルデヒド試薬(富士フィルム和光純薬製)を 重量基準で10ppmとなるように添加した。
【0090】
(アミド生成反応)
内容積13.5mlの蓋付ガラスケースにpH7.0リン酸緩衝液3.15g、前述の菌体を反応液中の仕込み活性が1460UとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈菌液を3.15g加え、20℃に制御しながら攪拌した。これに前述の10ppmアセトアルデヒド入りアクリロニトリル4.8mLを添加し、反応を開始した。4時間後、反応液を採取し、ガスクロマトグラフィー(カラム:PoraPack-PS(Waters社製),1m,210℃,キャリアガス:ヘリウム,検出器:FID)にてアクリロニトリルの濃度を測定した。
【0091】
[実施例2]
実施例1でのアクリロニトリル中のアセトアルデヒド濃度を6.0ppmとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0092】
[実施例3]
実施例1でのアクリロニトリル中のアセトアルデヒド濃度を3.0ppmとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0093】
[実施例4]
実施例1でのアクリロニトリル中の青酸濃度を1.1ppmとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0094】
[比較例1]
アクリロニトリルにアセトアルデヒドを添加しなかった以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0095】
[比較例2]
アクリロニトリル中の青酸濃度が1.1ppm、アクリロニトリルにアセトアルデヒドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0096】
表1に、反応開始から4時間後における、アルデヒド化合物を添加しない場合と比較したアクリロニトリルの濃度比を示す。この濃度比は以下の式で求められる。
濃度比 [%]=(アルデヒドを添加した場合のアクリロニトリル濃度/アルデヒドを添加していない場合のアクリロニトリル濃度)×100
なお、水中又は溶液中でアルデヒド化合物を生じる化合物は水中又は溶液中で発生するアルデヒド化合物のモル数をもとにアルデヒド/シアン比を計算した。
【0097】
【表1】
【0098】
アセトアルデヒドを添加した実施例では、アセトアルデヒドを添加しない比較例に比べて、青酸濃度が2.1ppmの場合も1.1ppmの場合も、アクリロニトリルの濃度が低く、アミド化合物に変換される反応速度が高いことが確認された。
【0099】
[試験例1]
実施例1にしたがい、下記化合物のアミド化合物生成反応に対する効果を評価した。
No.1:ホルムアルデヒド(30.03)、No.2:アセトアルデヒド(44.05)、No.3:プロピオンアルデヒド(58.08)、No.4:ブチルアルデヒド(72.11)、No.5:ヘキサナール(100.16)、No.6:ヘプタナール(114.18)、No.7:オクタナール(128.21)、No.8:ノナナール(142.24)、No.9:デカナール(156.27)、No.10:ギ酸(46.03)、No.11:シュウ酸ジアルデヒド(58.04)、No.12:meso-エリトリトール(122.12)、No.13:パラアルデヒド(132.16)、No.14:パラホルムアルデヒド(30.03×n)、No.15:ベンズアルデヒド(106.12)、No.16:シンナムアルデヒド(132.16)、No.17:ペリルアルデヒド(150.22)、No.18:バニリン(152.15)、No.19:アセトアルデヒドアンモニア(183.25)、No.20:ヘキサメチレンテトラミン(140.19)
カッコ内は分子量(g/mol)
No.11、14、19、20:水中でアルデヒド化合物を生じる。
【0100】
アクリロニトリルは青酸濃度2.0ppmとなるように調製した。
【0101】
内容積13.5mlの蓋付ガラスケースに前述の菌体を反応液中の仕込み活性が1840UとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈菌液を1.00g加え、各アルデヒド化合物を反応液中で5ppmまたは10ppmとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈溶液を添加し、最終的にpH7.0リン酸緩衝液を添加して全量6.2gとした。得られた溶液を25℃に制御しながら攪拌した。これにアクリロニトリル4.8mL(アクリルアミド50%相当、38重量%)を添加し、反応を開始した。3.5、4.5、5.0、及び6.0時間後に、反応液を採取し、ガスクロマトグラフィー(カラム:PoraPack-PS(Waters社製),1m,210℃,キャリアガス:ヘリウム,検出器:FID)にてアクリロニトリルの濃度を測定した。
【0102】
表2に、反応開始から3.5時間及び6時間後における、アルデヒド化合物を添加しない場合と比較したアクリロニトリルの濃度比を示す。この濃度比は以下の式で求められる。
濃度比 [%]=(アルデヒドを添加した場合のアクリロニトリル濃度/アルデヒドを添加していない場合のアクリロニトリル濃度)×100
なお、水中又は溶液中でアルデヒド化合物を生じる化合物は水中又は溶液中で発生するアルデヒド化合物のモル数をもとにアルデヒド/シアン比を計算した。
【0103】
【表2】
【0104】
ギ酸、meso-エリトリトール、パラアルデヒド以外のアルデヒド化合物については、アルデヒド化合物の添加により、添加しない場合に比較して、アクリロニトリルの濃度が低く、ニトリル化合物からアミド化合物に変換される反応速度が向上することが確認された。
【0105】
[実施例5]
(ロドコッカス ロドクロウス M8株由来ニトリルヒドラターゼを有する形質転換体の作製)
(1)ロドコッカス ロドクロウス M8株(以下、M8株という。)からの染色体DNA調製
M8株(SU1731814)は、ロシア菌株センターIBFM(VKPM S-926)から入手することができる。
【0106】
M8株を100mLのMYK(0.5% ポリペプトン、0.3% バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、0.2%K2HPO4、0.2% KH2PO4)培地(pH7.0)中、30℃にて72時間振盪培養した。培養液を遠心分離し、集菌した菌体をSaline-EDTA溶液(0.1M EDTA、0.15M NaCl(pH8.0))4mLに懸濁した。懸濁液にリゾチーム8mgを加えて37℃で1~2時間振盪した後、-20℃で凍結した。
【0107】
次に、当該懸濁液に10mLのTris-SDS液(1%SDS、0.1M NaCl、0.1M Tris-HCl(pH9.0))を穏やかに振盪しながら加えた。さらに、当該懸濁液にプロテイナーゼK(メルク社)(終濃度0.1mg)を加え37℃で1時間振盪した。次に、等量のTE飽和フェノールを加え攪拌後(TE:10mM Tris-HCl、1mM EDTA(pH8.0))遠心した。上層を採取し、2倍量のエタノールを加えて、ガラス棒でDNAを巻きとった。その後、これを順次90%、80%、70%のエタノールで遠心分離しフェノールを取り除いた。
【0108】
次に、DNAを3mLのTE緩衝液に溶解させ、リボヌクレアーゼA溶液(100℃、15分間の加熱処理済)を10μg/mLになるよう加え37℃で30分間振盪した。さらに、プロテイナーゼK(メルク社)を加え37℃で30分間振盪した。これに等量のTE飽和フェノールを加えて遠心分離後、上層と下層に分離した。
【0109】
上層をさらに等量のTE飽和フェノールを加えて遠心分離後、上層と下層に分離した。この操作を再度繰り返した。その後、上層に同量のクロロホルム(4%イソアミルアルコール含有)を加えて遠心分離し、上層を回収した。次いで、上層に2倍量のエタノールを加えガラス棒でDNAを巻きとって回収し、染色体DNAを得た。
【0110】
(2)M8株由来ニトリルヒドラターゼ発現プラスミドの作製
M8株由来ニトリルヒドラターゼ遺伝子(配列番号5)は、非特許文献(Veiko,V.P. et al, Cloning,nucleotide sequence of nitrile hydratase gene from Rhodococcus rhodochrous M8, Biotekhnologiia (Mosc.), 5, 3-5 (1995))に記載されており、βサブユニット、αサブユニット、アクチベーターのアミノ酸配列を、それぞれ順に、配列番号6、配列番号7及び配列番号8に示した。これらの配列情報に基づいて下記のプライマー(配列番号1、2)を合成し、調製したM8株のゲノムDNAを鋳型として、以下の反応条件でPCRを行った。
【0111】
プライマー:
M8-1: 5'-GGTCTAGAATGGATGGTATCCACGACACAGGC-3'(配列番号1)
M8-2: 5'-cccctgcaggtcagtcgatgatggccatcgattc-3'(配列番号2)
【0112】
反応液組成:
鋳型DNA(M8株ゲノムDNA) 1μl
プライマーM8-1 0.5μl
プライマーM8-2 0.5μl
滅菌水 8μl
PrimeSTAR(タカラバイオ) 10μl
総量 20μl
【0113】
温度サイクル:
98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 30秒の反応を30サイクル
【0114】
次に、得られたプラスミドDNAを制限酵素XbaIとSse8387Iで切断後、0.7%アガロースゲルにより電気泳動を行い、1.6kbのニトリルヒドラターゼ遺伝子断片(配列番号5)を回収し、プラスミドpSJ042のXbaI-Sse8387Iサイトに導入した。得られたプラスミドをpSJ-N01Aと命名した。なお、pSJ042はロドコッカス菌においてJ1株由来ニトリルヒドラターゼを発現するプラスミドとして特開2008-154552号公報に示す方法で作製されたものであり、pSJ042の作製に使用したプラスミドpSJ023は形質転換体ATCC12674/pSJ023(FERM BP-6232)として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に平成9年3月4日付けで寄託されている。
【0115】
(3)ATCC12674形質転換体の作製
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC 12674株の対数増殖期の菌体を遠心分離器により集菌し、氷冷した滅菌水にて3回洗浄し、滅菌水に懸濁し、コンピテントセルを作製した。
【0116】
上記で調製したプラスミドDNA(pSJ-N01A) 1μlとATCC12674コンピテントセル10μlを混合し、30分間氷冷した。キュベットにDNAと菌体の懸濁液を入れ、遺伝子導入装置 Gene Pulser (BIO RAD)により20kV/cm、200 OHMSで電気パルス処理を行った。電気パルス処理液を氷冷下10分静置し、37℃で10分間ヒートショクを行い、MYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、0.2% K2HPO4、0.2% KH2PO4)500μlを加え30℃、24時間静置した後、10μg/mlカナマイシン入りMYK寒天培地に塗布し、30℃で3日間培養した。
【0117】
得られたコロニーのプラスミドを確認し、形質転換体(ATCC12674/pSJ-N01A)を得た。
【0118】
(4)組換え菌の培養
上記の工程で得られた形質転換体(ATCC12674/pSJ-N01A)をMYK培地(50μg/mlカナマイシン)にそれぞれ接種し、30℃にて2日間振盪培養し、GGPK培地(1.5%グルコース、1%グルタミン酸ナトリウム、0.1%酵母エキス、0.05%K2HPO4、0.05%KH2PO4、0.05%Mg24・7H2O、1% CoCl2、0.1%尿素、50μg/mlカナマイシン、pH7.2)に1%植菌を行った。30℃で3日間振盪培養し、遠心分離により集菌した。その後、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で菌体を洗浄し、菌体懸濁液を調製した。
【0119】
(5)アミド化合物生成反応への影響評価
実施例1にしたがい、M8株由来形質転換体(ATCC12674/pSJ-N01A)のアミド化合物生成反応に対するプロピオンアルデヒドの効果を評価した。
【0120】
アクリロニトリルは青酸濃度2.0ppmとなるように調製した。
【0121】
内容積13.5mlの蓋付ガラスケースに前述の菌体を反応液中の仕込み菌量が5.6mgとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈菌液を1.00g加え、各アルデヒド化合物を反応液中で10ppmまたは25ppmまたは50ppmとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈溶液を添加し、最終的にpH7.0リン酸緩衝液を添加して全量9.0gとした。得られた溶液を25℃に制御しながら攪拌した。これにアクリロニトリル1.0gを添加し、反応を開始した。6.0時間後に、反応液を採取し、ガスクロマトグラフィー(カラム:PoraPack-PS(Waters社製),1m,210℃,キャリアガス:ヘリウム,検出器:FID)にてアクリロニトリルの濃度を測定した。
【0122】
表3に、反応開始から6時間後における、アルデヒド化合物を添加しない場合と比較したアクリロニトリルの濃度比を示す。
この濃度比は以下の式で求められる。
濃度比 [%]=(アルデヒドを添加した場合のアクリロニトリル濃度/アルデヒドを添加していない場合のアクリロニトリル濃度)×100
なお、水中又は溶液中でアルデヒド化合物を生じる化合物は水中又は溶液中で発生するアルデヒド化合物のモル数をもとにアルデヒド/シアン比を計算した。
【0123】
【表3】
【0124】
M8株由来形質転換体(ATCC12674/pSJ-N01A)にてアルデヒド化合物の添加により、添加しない場合に比較して、アクリロニトリルの濃度が低く、ニトリル化合物からアミド化合物に変換される反応速度が向上することが確認された。
【0125】
[実施例6]
(1)シュードノカルディア・サーモフィラ JCM3095株由来ニトリルヒドラターゼを発現するDN1形質転換体の作製
プラスミドpPT-DB1は、特開平9-275978で得られたシュードノカルディア・サーモフィラ JCM3095株(以下、JCM3095株と称する)由来ニトリルヒドラターゼ遺伝子を含むプラスミドであり、大腸菌HB101に導入された形質転換株(MT-10822株)として独立行政法人産業技術総合研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。
【0126】
JCM3095株のニトリルヒドラターゼ遺伝子(配列番号9)は、特開平9-275978に記載されており、βサブユニット、αサブユニット、アクチベーターのアミノ酸配列を、それぞれ順に,配列番号10、配列番号11及び配列番号12に示した。これらの配列情報に基づいて下記のプライマー(配列番号3、4)を合成し、pPT-DB1を鋳型として、以下の反応条件でPCRを行った。鋳型に用いたpRT-DB1は定法によりMT-10822株から調製した。
【0127】
プライマー:
PSN-1: 5'-GGTCTAGAATGAACGGCGTGTACGACGTCGGC-3'(配列番号3)
PSN-2: 5'-ccCCTGCAGGTCAGGACCGCACGGCCGGGTGGAC-3'(配列番号4)
【0128】
反応液組成:
鋳型DNA(pPT-DB1) 1μl
プライマーPSN-1 0.5μl
プライマーPSN-2 0.5μl
滅菌水 8μl
PrimeSTAR(タカラバイオ) 10μl
総量 20μl
【0129】
温度サイクル:
98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 30秒の反応を30サイクル
【0130】
得られたPCR産物(配列番号10)を用いて、実施例5(2)と同様の方法でプラスミドを作製し、pSJ-N02Aと命名した。得られたプラスミドは実施例5(3)と同様の方法でATCC12674に導入し、形質転換体(ATCC12674/pSJ-N02A)を得た。
【0131】
(4)組換え菌の培養
上記の工程で得られた形質転換体(ATCC12674/pSJ-N02A)をMYK培地(50μg/mlカナマイシン)にそれぞれ接種し、30℃にて2日間振盪培養し、GGPK培地(1.5%グルコース、1%グルタミン酸ナトリウム、0.1%酵母エキス、0.05%K2HPO4、0.05%KH2PO4、0.05%Mg24・7H2O、1% CoCl2、0.1%尿素、50μg/mlカナマイシン、pH7.2)に1%植菌を行った。30℃で3日間振盪培養し、遠心分離により集菌した。その後、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で菌体を洗浄し、菌体懸濁液を調製した。
【0132】
(5)アミド化合物生成反応への影響評価
実施例1にしたがい、形質転換体(ATCC12674/pSJ-N02A)のアミド化合物生成反応に対するプロピオンアルデヒドの効果を評価した。
【0133】
アクリロニトリルは青酸濃度2.0ppmとなるように調製した。
【0134】
内容積13.5mlの蓋付ガラスケースに前述の菌体を反応液中の仕込み菌量が4.1mgとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈菌液を1.00g加え、各アルデヒド化合物を反応液中で7ppmとなるようにpH7.0リン酸緩衝液で希釈した希釈溶液を添加し、最終的にpH7.0リン酸緩衝液を添加して全量8.5gとした。得られた溶液を25℃に制御しながら攪拌した。これにアクリロニトリル1.5gを添加し、反応を開始した。6.0時間後に、反応液を採取し、ガスクロマトグラフィー(カラム:PoraPack-PS(Waters社製),1m,210℃,キャリアガス:ヘリウム,検出器:FID)にてアクリロニトリルの濃度を測定した。
【0135】
表4に、反応開始から6時間後における、アルデヒド化合物を添加しない場合と比較したアクリロニトリルの濃度比を示す。
この濃度比は以下の式で求められる。
濃度比 [%]=(アルデヒドを添加した場合のアクリロニトリル濃度/アルデヒドを添加していない場合のアクリロニトリル濃度)×100
なお、水中又は溶液中でアルデヒド化合物を生じる化合物は水中又は溶液中で発生するアルデヒド化合物のモル数をもとにアルデヒド/シアン比を計算した。
【0136】
【表4】
【0137】
アルデヒド化合物の添加により、添加しない場合に比較して、アクリロニトリルの濃度が低く、ニトリル化合物からアミド化合物に変換される反応速度が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、アクリルアミドやメタアクリルアミドなどのアミド化合物を、ニトリル化合物から製造する、生物学的工業生産において有用である。
【0139】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0140】
配列番号1:プライマー M8-1
配列番号2:プライマー M8-2
配列番号3:プライマー PSN-1
配列番号4:プライマー PSN-2
【配列表】
0007605214000001.app