(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】音響システム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20241217BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20241217BHJP
H04R 1/28 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
G10K11/178 130
H04R1/02 101E
H04R1/02 104Z
H04R1/28 310Z
(21)【出願番号】P 2022558674
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040453
(87)【国際公開番号】W WO2022091255
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】福井 勝宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 和則
(72)【発明者】
【氏名】鎌土 記良
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-271067(JP,A)
【文献】特開2019-212940(JP,A)
【文献】特表2006-508573(JP,A)
【文献】実開平01-161654(JP,U)
【文献】特開2005-003777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
H04R 1/02
H04R 1/20- 1/40
H04R 3/00- 3/14
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mを1以上の整数とし、
座席を利用するユーザの頭部に近い箇所における騒音の信号(以下、騒音信号という)から前記騒音を消去するための制御信号を生成する制御システムと、
前記座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される、前記制御信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、消音スピーカユニットという)をM個含む消音スピーカシステムと、
所定の値以上の周波数の音のみ吸音しやすい吸音材を少なくとも含み、前記消音スピーカユニットから放音される所定の値以上の周波数の音が前記ユーザの耳元以外に放射されづらくなるよう構成される放射抑制部と、を有し、
前記M個の消音スピーカユニットを第1消音スピーカユニット、…、第M消音スピーカユニットとし、
第m消音スピーカユニットがユーザと対向する方向を第m消音ユーザ方向(m=1,…,M)とし、
第m消音スピーカユニット(m=1,…,M)は、第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向に放音される音が第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向と逆方向に放音される音の回り込みにより、前記ユーザの頭部に近い箇所でのみ前記ユーザが視聴するために用いられる音響信号を視聴可能とし、前記座席を利用するユーザの頭部に近い箇所以外の箇所では消音されるように配置され、
Nを1以上の整数とし、
再生対象物に基づいて得られる音響信号である第2n-1音響信号と、第2n-1音響信号と逆位相の音響信号である第2n音響信号とを出力する第n再生部(n=1,…,N)を含む再生装置と、
前記座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される、第2n-1音響信号に基づく音を放音するスピーカユニットと第2n音響信号に基づく音を放音するスピーカユニットとを含む第nスピーカユニットペア(n=1,…,N)を含むスピーカシステムとを含み、
各スピーカユニットの正面方向はユーザと対向する方向である、
音響システム。
【請求項2】
Mを1以上の整数とし、
座席を利用するユーザの頭部に近い箇所における騒音の信号(以下、騒音信号という)から前記騒音を消去するための制御信号を生成する制御システムと、
前記座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される、前記制御信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、消音スピーカユニットという)をM個含む消音スピーカシステムと、
所定の値以上の周波数の音のみ吸音しやすい吸音材を少なくとも含み、前記消音スピーカユニットから放音される所定の値以上の周波数の音が前記ユーザの耳元以外に放射されづらくなるよう構成される放射抑制部と、を有し、
前記M個の消音スピーカユニットを第1消音スピーカユニット、…、第M消音スピーカユニットとし、
第m消音スピーカユニットがユーザと対向する方向を第m消音ユーザ方向(m=1,…,M)とし、
第m消音スピーカユニット(m=1,…,M)は、第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向に放音される音が第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向と逆方向に放音される音の回り込みにより、前記ユーザの頭部に近い箇所でのみ前記ユーザが視聴するために用いられる音響信号を視聴可能とし、前記座席を利用するユーザの頭部に近い箇所以外の箇所では消音されるように配置され、
前記第m消音スピーカユニットは、前記第m消音ユーザ方向とその逆方向とにおいて、
2つの部材で挟み込まれ、前記2つの部材に挟み込まれた空間の側面において、前記2つの部材は前記吸音材を挟み込み、
前記第m消音ユーザ方向の前記部材には音が抜けるように穴が設けられ、前記第m消音ユーザ方向の逆方向の前記部材には音が出ないように穴が設けられていない、
音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機や自動車などの乗り物内の騒音を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザは、航空機内での映画・音楽の視聴時に騒音が気になる場合、ノイズキャンセリング機能を有するイヤホンやヘッドホンを利用していた(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】機内エンターテインメント/JALファーストクラス, [online],[令和2年3月16日検索],インターネット <URL: https://www.jal.co.jp/jp/ja/inter/service/first/entertainment/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、イヤホンやヘッドホンの装着は、ユーザにとってわずらわしさがある。また、髪型が乱れることなどを理由に、装着を好まないユーザもいる。装着による耳への圧迫を嫌うユーザもいる。さらには、イヤホンやヘッドホンの長時間の装着は、ユーザに聴き疲れを感じさせることもある。
【0005】
そこで本発明では、イヤホンやヘッドホンを用いることなく乗り物の座席に着席時に聴こえる騒音を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、音響システムは、Mを1以上の整数とし、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所における騒音の信号(以下、騒音信号という)から騒音を消去するための制御信号を生成する制御システムと、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される、制御信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、消音スピーカユニットという)をM個含む消音スピーカシステムと、所定の値以上の周波数の音のみ吸音しやすい吸音材を少なくとも含み、消音スピーカユニットから放音される所定の値以上の周波数の音がユーザの耳元以外に放射されづらくなるよう構成される放射抑制部と、を有する。M個の消音スピーカユニットを第1消音スピーカユニット、…、第M消音スピーカユニットとし、第m消音スピーカユニットがユーザと対向する方向を第m消音ユーザ方向(m=1,…,M)とし、第m消音スピーカユニット(m=1,…,M)は、第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向に放音される音が第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向と逆方向に放音される音の回り込みにより座席を利用するユーザの頭部に近い箇所以外の箇所では消音されるように配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乗り物の座席に着席時に聴こえる騒音を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】アクティブノイズコントロールシステムの構成の一例を示す図である。
【
図2】スピーカユニットから放音される音の指向性を説明するための図である。
【
図3】航空機の座席に設置された音響システムの一例を示す図である。
【
図4】音響システム500の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】参照マイクと誤差マイクの配置の一例を示す図である。
【
図6】音響システム501の構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】音響システム502の構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】部材5222を取り付けた消音スピーカシステム520の構成の一例を示す図である。
【
図9】航空機の座席に設置された音響システムの一例を示す図である。
【
図10】音響システム1000の構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】音響システム100の構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】音響システム102の構成の一例を示すブロック図である。
【
図13】部材1222を取り付けたスピーカユニットペア122の構成の一例を示す図である。
【
図14】音響システム104の構成の一例を示すブロック図である。
【
図15】音響システム200の構成の一例を示すブロック図である。
【
図16】音響システム300の構成の一例を示すブロック図である。
【
図17】音響システム106の構成の一例を示すブロック図である。
【
図18】部材1224を取り付けたスピーカユニットペア122の構成の一例を示す図である。
【
図19】音響システム108の構成の一例を示すブロック図である。
【
図20】音響システム530の構成の一例を示すブロック図である。
【
図21】部材5230,5240と吸音材5250とを取り付けた消音スピーカユニットの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0010】
<技術的背景>
航空機の座席に着席時に聴こえる騒音を低減するために、騒音低減技術の一つであるアクティブノイズコントロールを用いる(参考非特許文献1、2を参照)。
【0011】
(参考非特許文献1:ANC騒音低減試験システム, [online],[令和2年3月16日検索],インターネット <URL: https://micronet.jp/product/anc/index.html>)
(参考非特許文献2:アクティブノイズコントロール(電子情報通信学会『知識の森』2群-6編-6章), [online],[令和2年3月16日検索],インターネット <URL: http://www.ieice-hbkb.org/files/02/02gun_06hen_06.pdf>)
図1は、アクティブノイズコントロールシステムの構成の一例を示す図である。アクティブノイズコントロールシステムは、騒音を収音するマイク(以下、参照マイクという)、参照マイクから出力される信号(以下、騒音信号という)から騒音を消去するための制御信号を生成する制御器、制御信号に基づく音を放音するための消音スピーカを含む。なお、アクティブノイズコントロールシステムは、さらに、消去しきれなかった音を収音するマイク(以下、誤差マイクという)を含み、誤差マイクから出力される信号(以下、誤差信号という)を制御器にフィードバックし、制御器は誤差信号も用いて制御信号を生成するようにしてもよい。
【0012】
航空機内の騒音の主成分は低域に集中しているため、消音スピーカがそれなりの大きさのものでないと、低域の音を十分に再生できず、十分な騒音低減効果を得ることができない。しかし、消音スピーカが大きくなると、航空機の座席で利用するのが困難になってしまう。また、消音スピーカからの音が参照マイクに収音されてしまうと、騒音信号の中に消音スピーカからの音の信号が含まれることになり、騒音低減性能が劣化してしまうという問題もある。
【0013】
これら2つの問題を解決するために、本願発明では、制御信号に基づく音を放音するために、スピーカを用いる代わりにスピーカユニットを用いることにする(
図2参照)。
【0014】
通常、スピーカは、スピーカユニットとスピーカボックスで構成される。スピーカユニットとは、電気信号である音響信号を空気の振動に変換する(つまり、音波を生成する)振動板を含む構成部である。また、スピーカボックスとは、スピーカユニットを収納する構成部である。
【0015】
音響信号がスピーカに入力されると、スピーカユニットの振動板が振動し、振動板が振動する両方向に音波が放射される。ここで、スピーカボックスの外側(つまり、スピーカユニットの正面方向)に放射される音波を正の音波、スピーカボックスの内側(つまり、スピーカユニットの背面方向)に放射される音波を負の音波という。負の音波は、正の音波の位相と逆の位相の音波である。スピーカを用いる場合、正の音波はスピーカから全方位に放射されることになる一方、負の音波はスピーカボックスの外に出ることはない。それに対し、スピーカユニットのみを用いる場合、スピーカボックスがないため、負の音波も放射される。この場合、正の音波と負の音波が互いに逆位相の関係にあるため、正の音波と負の音波は互いに打ち消しあうが、スピーカユニットの近傍では、負の音波の回り込みが間に合わないために、正の音波が残る。この残った正の音波と騒音が逆位相の関係にあれば、当該正の音波が騒音と打ち消しあうことで、スピーカユニットの近傍では騒音低減効果が得られることになる。
【0016】
つまり、ユーザの耳元に近い箇所に、スピーカボックスを用いない形でスピーカユニットを設置すれば、機内での騒音低減を実現することができる。また、正の音波が残る範囲はスピーカユニットの近傍といった比較的狭い範囲に限られるため、参照マイクへの回り込みも抑えられ、騒音低減性能が劣化することも抑制できる。
【0017】
スピーカユニットのみを設置する形態は、スピーカボックスを用いないため、設置スペースを最小限にできるというメリットがある。さらに、当該メリットに加え、スピーカユニットのみを設置する形態は、スピーカボックスと組み合わせて設置する形態よりも低域の音がでるというメリットもある。以下、その理由について説明する。一般に、スピーカユニットをスピーカボックスに収納すると、負の音波はスピーカボックスの外に出ることはないが、スピーカユニットがスピーカボックスに収納されると、スピーカボックス内に閉じ込められ、行き場を無くした負の音波の空気振動がスピーカユニットのコーンを抑えコーンの次の振動を妨害してしまう。その結果、スピーカユニットをスピーカボックスに収納しても、低域の音がでないことになる。そこで、スピーカボックスの内部を吸音材で満たすことも考えられるが、低域の音に関してはその効果が十分に得られず、低域の音を出すためにはスピーカボックスをある程度大きいものとしなければならなくなる。つまり、結局のところ、機内の座席に設置できるほど十分に小さいスピーカボックスを用いるのでは、十分な低域の音が得られないことになる。
【0018】
<第1実施形態>
音響信号を再生するシステムを音響システムという。音響システムは、音響信号を音(以下、この音のことを音響信号に基づく音という)として放音するためにスピーカシステムを含む。ここで、スピーカシステムは、アナログ信号である音響信号を音に変換する装置である。また、音響システムで再生対象となる音響信号は、例えば、CD、DVD、レコードに記録されたデータや、インターネットにより受信されたデータや、ラジオ放送、テレビ放送により受信された信号から得られる音響信号である。
【0019】
以下、スピーカシステムの近傍にいるユーザの周辺の騒音から得られる騒音信号から生成される制御信号を再生し、騒音を低減する音響システムについて説明する。このような音響システムを、例えば、航空機の座席を利用するユーザのための音響システムとして利用すると、当該座席を利用するユーザの周辺の騒音を低減することができるシステムを提供することができる。
図3は、航空機の座席に設置された音響システムの一例を示す図である。
図3の音響システムは、スピーカシステムが着席したユーザの頭部の近傍にくるように配置されている。なお、このような音響システムは、自動車、電車などの航空機の以外の乗り物や、住居や商業施設などで用いるチェアにも設置することができるし、肩に乗せるなどウェアラブルな形態でも設置することができる。また、ヘッドホンやイヤホンの左右の各ユニットに、上記スピーカユニットペアに相当する、ドライバユニットを2つ並べたドライバユニットペアを設置することとしてもよい。
【0020】
以下、
図4を参照して音響システム500を説明する。
図4は、音響システム500の構成を示すブロック図である。
図4に示すように音響システム500は、制御システム510と、消音スピーカシステム520を含む。制御システム510は、K個(Kは1以上の整数)の参照マイク511と、L個(Lは0以上の整数)の誤差マイク512と、制御信号生成装置514を含む。ここで、参照マイク、誤差マイクとは、<技術的背景>で説明した通り、それぞれ騒音を収音するマイク、消去しきれなかった音を収音するマイクである。誤差マイクはフィルタ更新に用いるものであり、実用的には多くの場合用いるものである。なお、音響システム500に必要となる最小のマイクの数は1(K=1, L=0の場合)である。
図5は、K=4, L=2の場合の参照マイクと誤差マイクの配置を示す図である。
図5にあるように、参照マイクは騒音が誤差マイクより先に到来する位置に配置するのが好ましい。また、誤差マイクは理想的にはユーザの耳の位置に配置するのがよいため、できるだけ耳に近い位置に配置するのが好ましい。また、消音スピーカシステム520は、制御信号に基づく音を放音するスピーカユニットである消音スピーカユニット5221を1つ含む。消音スピーカシステム520は、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される。
【0021】
なお、消音スピーカユニット5221がユーザと対向する方向を消音ユーザ方向とし、消音スピーカユニット5221は、消音スピーカユニット5221から消音ユーザ方向に放音される音が消音スピーカユニット5221から消音ユーザ方向と逆方向に放音される音の回り込みにより座席を利用するユーザの頭部に近い箇所以外の箇所では消音されるように配置されるようにする。ここで、消音ユーザ方向とは、消音スピーカユニット5221の正面方向のことである。また、消音ユーザ方向と逆方向とは、消音スピーカユニット5221の背面方向のことである。
【0022】
以下、
図4に従い音響システム500の動作について説明する。
【0023】
制御システム510は、航空機の座席を利用するユーザの頭部に近い箇所における騒音から得られる信号(以下、騒音信号という)から、当該騒音を消去するための制御信号を生成し、出力する。より具体的には、参照マイク511は、航空機の座席を利用するユーザの頭部に近い箇所における騒音を収音し、当該騒音を電気信号に変換することで得られる騒音信号を出力する。誤差マイク512は、当該ユーザの頭部に極めて近い箇所における消去しきれなかった音を収音し、当該消去しきれなかった音を電気信号に変換することで得られる誤差信号を出力する。制御信号生成装置514は、騒音信号と誤差信号を入力とし、誤差信号を用いて騒音信号から制御信号を生成し、出力する。制御信号は、騒音信号とほぼ同一振幅で逆位相の信号とすればよい。
【0024】
消音スピーカシステム520は、制御システム510が出力した制御信号を入力とし、制御信号に基づく音を放音する。より具体的には、消音スピーカユニット5221は、制御信号を入力とし、制御信号に基づく音を放音する。
【0025】
本発明の実施形態によれば、航空機の座席に着席時に聴こえる騒音を低減することが可能となる。
【0026】
<第2実施形態>
第1実施形態の音響システム500は、消音スピーカユニットを1つだけ用いるため、騒音が低減される範囲が狭い。ここでは、ユーザの両耳それぞれの近い位置に消音スピーカユニットを設置できるよう、2以上の消音スピーカユニットを含む音響システムについて説明する。
【0027】
以下、
図6を参照して音響システム501を説明する。
図6は、音響システム501の構成を示すブロック図である。
図6に示すように音響システム501は、音響システム500と同様、制御システム510と、消音スピーカシステム520を含む。しかし、音響システム501は、消音スピーカシステム520がM個(Mは2以上の整数)の消音スピーカユニット5221を含む点において、音響システム500と異なる。M個の消音スピーカユニット5221には、同一の制御信号が入力される。
【0028】
以下、M個の消音スピーカユニットを第1消音スピーカユニット、…、第M消音スピーカユニットという。また、第m消音スピーカユニットがユーザと対向する方向を第m消音ユーザ方向(m=1, …, M)とし、第m消音スピーカユニット(m=1, …, M)は、第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向に放音される音が第m消音スピーカユニットから第m消音ユーザ方向と逆方向に放音される音の回り込みにより座席を利用するユーザの頭部に近い箇所以外の箇所では消音されるように配置されるようにする。ここで、第m消音ユーザ方向とは、第m消音スピーカユニット5221の正面方向のことである。また、第m消音ユーザ方向と逆方向とは、第m消音スピーカユニット5221の背面方向のことである。
【0029】
以下では、
図6に従い消音スピーカシステム520の動作について説明する。
【0030】
消音スピーカシステム520は、制御システム510が出力した制御信号を入力とし、制御信号に基づく音を放音する。より具体的には、第m消音スピーカユニット5221(m=1, …, M)は、制御信号を入力とし、制御信号に基づく音を放音する。
【0031】
なお、ここでは、Mを2以上の整数としたが、M=1とすると、第1実施形態と一致する。
【0032】
本発明の実施形態によれば、航空機の座席に着席時に聴こえる騒音を低減することが可能となる。
【0033】
<第3実施形態>
第2実施形態の音響システム501では、消音スピーカユニットの数を増やすことにより、騒音が低減される範囲を広くした。ここでは、1つの消音スピーカユニットにより騒音が低減される範囲が広くなる構造を有する音響システムについて説明する。
【0034】
以下、
図7を参照して音響システム502を説明する。
図7は、音響システム502の構成を示すブロック図である。
図7に示すように音響システム502は、音響システム501と同様、制御システム510と、消音スピーカシステム520を含む。しかし、音響システム502は、第m消音スピーカユニット5221(m=1, …, M)に部材5222が取り付けられている点において、音響システム501と異なる。
【0035】
以下、
図7に従い第m消音スピーカユニット5221(m=1, …, M)の構造について説明する。
【0036】
第m消音スピーカユニット5221には、第m消音スピーカユニット5221から第m消音ユーザ方向と逆方向に放音された音が第m消音ユーザ方向に回り込んでくる音の経路が長くなるようにするための部材5222が取り付けられている(
図8参照)。部材5222は、例えば、スピーカユニットの背面からの音の回り込みを防ぐ仕切り板のような部材でよい。この部材5222は、音波の干渉を防ぎ騒音が低減される範囲を広くするために、取り付けられるものである。
【0037】
部材5222が取り付けられた第m消音スピーカユニット5221は、第2実施形態の第m消音スピーカユニット5221に比べて、騒音が低減される範囲が広くなる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、航空機の座席に着席時に聴こえる騒音を低減することが可能となる。
【0039】
<第4実施形態>
第1実施形態から第3実施形態では、航空機の座席を利用するユーザの周辺の騒音を低減するための音響システム(騒音低減用音響システム)について説明した。これらの騒音低減用音響システムは、スピーカシステムの近傍にいるユーザにのみ再生対象物から得られる音響信号に基づく音が聴きとれるように再生する音響システム(再生用音響システム)と組み合わせることができる。ここで、再生対象物とは、例えば、CD、DVD、レコードに記録されたデータや、インターネットにより受信されたデータや、ラジオ放送、テレビ放送により受信された信号のように、所定の処理により音響信号を得ることができるデータや信号のことである。
【0040】
騒音低減用音響システムと再生用音響システムを組み合わせた音響システムの一例を
図9に示す。
図9は、航空機の座席に設置された音響システムの一例を示す図である。
図9の再生用音響システムのスピーカシステムは、着席したユーザの頭部を挟むように座席に設置されており、スピーカユニットペアが左右の耳の近傍にくるように配置されている。一方、騒音低減用音響システムの消音スピーカシステムは、着席したユーザの頭部の後ろにくるように座席に設置されている。なお、当該音響システムは、自動車、電車などの航空機の以外の乗り物や、リクライニングチェアなどにも設置することができるし、肩に乗せるなどウェアラブルな形態でも設置することができる。また、再生用音響システムについては、騒音低減用音響システムと同様、ヘッドホンやイヤホンの左右の各ユニットに、上記スピーカユニットペアに相当する、ドライバユニットを2つ並べたドライバユニットペアを設置する構成としてもよい。ヘッドホンは、一般に開放型(オープンエア型)と密閉型(クローズド型)の2つに大別されるが、特に音漏れの心配がある開放型について上記技術を適用すると、音漏れが低減することが期待される。
【0041】
以下、
図10を参照して音響システム1000を説明する。
図10は、音響システム1000の構成を示すブロック図である。音響システム1000は、騒音低減用音響システムと再生用音響システムを含む。騒音低減用音響システムは、音響システム500、音響システム501、音響システム502、後述する音響システム530とすることができる。一方、再生用音響システムは、後述する音響システム100、音響システム102、音響システム104、音響システム106、音響システム108、音響システム200、音響システム300とすることができる。
【0042】
以下、再生用音響システムの各形態について説明する。
【0043】
《形態1:音響システム100》
以下、
図11を参照して音響システム100を説明する。
図11は、音響システム100の構成を示すブロック図である。
図11に示すように音響システム100は、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。再生装置110は、N個(ただし、Nは1以上の整数)の再生部112(つまり、第1再生部112、…、第N再生部112)を含む。また、スピーカシステム120は、N個のスピーカユニットペア122(つまり、第1スピーカユニットペア122、…、第Nスピーカユニットペア122)を含む。スピーカユニットペア122は、2つのスピーカユニット(つまり、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221)を含む。負のスピーカユニット1221には、正のスピーカユニット1221に入力される音響信号と逆位相の音響信号が入力される。スピーカシステム120は、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される。
【0044】
なお、第nスピーカユニットペア122がユーザと対向する方向を第nユーザ方向(n=1, …, N)とし、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音と当該負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音が回り込みにより第nユーザ方向に伝わるように配置されるようにする。ここで、第nユーザ方向とは、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221の正面方向のことである。また、第nユーザ方向と逆方向とは、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221の背面方向のことである。
【0045】
また、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から放音される音と当該負のスピーカユニット1221から放音される音が他の座席を利用するユーザには聴きとれないように互いに消去される位置関係で配置されるようにする。
【0046】
以下、
図11に従い音響システム100の動作について説明する。
【0047】
再生装置110は、再生対象物に基づいて得られる音響信号である第1音響信号、第3音響信号、…、第2N-1音響信号を入力とし、第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を出力する。より具体的には、第n再生部112(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号を入力とし、第2n-1音響信号から第2n-1音響信号と逆位相の音響信号である第2n音響信号を生成し、第2n-1音響信号と第2n音響信号を出力する。第2n-1音響信号、第2n音響信号は、それぞれ第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に入力される。
【0048】
スピーカシステム120は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号に基づく音、第2音響信号に基づく音、…、第2N音響信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号に基づく音を正のスピーカユニット1221から放音し、第2n音響信号に基づく音を負のスピーカユニット1221から放音する。第2n-1音響信号と第2n音響信号は、互いに逆位相の関係にあるため、スピーカシステム120が設置された座席の近傍でのみ音が聴こえる。例えば、N=2の場合において、第1音響信号、第3音響信号をそれぞれある音源の右チャネルの音響信号、左チャネルの音響信号とすると、スピーカシステム120が設置された座席の近傍でのみステレオの音が聴くことができる。
【0049】
なお、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向に放音された音と第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音は、互いに逆位相の関係となる。同様に、第nスピーカユニットペア122の負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向に放音された音と第nスピーカユニットペア122の負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音は、互いに逆位相の関係となる。
【0050】
《形態2:音響システム102》
音響システム100は、放音された音が聴こえる範囲、いわゆるスイートスポットが狭い。ここでは、スイートスポットを広くする構造を有する音響システムについて説明する。
【0051】
以下、
図12を参照して音響システム102を説明する。
図12は、音響システム102の構成を示すブロック図である。
図12に示すように音響システム102は、音響システム100と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。しかし、音響システム102は、スピーカユニットペア122に部材1222が取り付けられている点において、音響システム100と異なる。
【0052】
以下、
図12に従い第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の構造について説明する。
【0053】
第nスピーカユニットペア122には、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音がユーザ方向に回り込んでくる音の経路が長くなるようにするための部材1222が取り付けられている(
図13参照)。部材1222は、例えば、スピーカユニットの背面からの音の回り込みを防ぐ仕切り板のような部材でよい。この部材1222は、音の回り込みを防ぐのではなく、背面から回り込む音と正面からの音との位相差が大きくなるようにする、つまり、回り込んでくる音の経路が長くなるようにするために取り付けられるものである。
【0054】
部材1222が取り付けられた第nスピーカユニットペア122は、形態1の第nスピーカユニットペア122に比べて、スイートスポットが広くなる。
【0055】
《形態3:音響システム104》
高域の音は波長が短いため、背面から回り込む音と正面からの音の位相がそろいにくい。そのため、高域の音は、低域の音に比べてスピーカユニットの近傍でも近傍以外の比較的離れた場所でも消去されにくいという特徴がある。音響システム100を構成するスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、いずれもスピーカボックスに収納されていないため、上記特徴により、高域の音が聴こえる範囲が広く、音漏れとなることもある。そこで、ここでは、高域の音がスピーカシステムの近傍以外に漏れにくい構造を有する音響システムについて説明する。
【0056】
以下、
図14を参照して音響システム104を説明する。
図14は、音響システム104の構成を示すブロック図である。
図14に示すように音響システム104は、音響システム100と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。しかし、音響システム104は、スピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221の各々にツイータ1223が付属する点において、音響システム100と異なる。ここで、ツイータとは、高域の信号を再生するためのスピーカユニットである。なお、ツイータ1223は、スピーカボックスに収納されているかのごとく、背面からの音が漏れない形で、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に付属しているものとする。
【0057】
以下、
図14に従いスピーカシステム120の動作について説明する。
【0058】
スピーカシステム120は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号に基づく音、第2音響信号に基づく音、…、第2N音響信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号に基づく音を正のスピーカユニット1221と正のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音し、第2n音響信号に基づく音を負のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音する。
【0059】
高域の音ほど直進性が高いという性質があるが、ツイータ1223の背面からの音が漏れない形になっているため、ツイータ1223から放音される高域の音が全方位に漏れることを防ぐことができる。
【0060】
《形態4:音響システム200》
ツイータは、高域の信号を再生するためのスピーカユニットである。そこで、帯域分割処理により、高域の信号のみツイータに入力するようにしてもよい。そこで、ここでは、帯域分割処理を行う音響システムについて説明する。
【0061】
以下、
図15を参照して音響システム200を説明する。
図15は、音響システム200の構成を示すブロック図である。
図15に示すように音響システム200は、再生装置110と、帯域分割装置210と、スピーカシステム120を含む。帯域分割装置210は、N個の帯域分割部212(つまり、第1帯域分割部212、…、第N帯域分割部212)を含む。音響システム200は、帯域分割装置210を含む点において、音響システム104と異なる。
【0062】
以下、
図15に従い帯域分割装置210、スピーカシステム120の動作について説明する。
【0063】
帯域分割装置210は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号の高域の信号である第1高域信号と低域の信号である第1低域信号、第2音響信号の高域の信号である第2高域信号と低域の信号である第2低域信号、…、第2N音響信号の高域の信号である第2N高域信号と低域の信号である第2N低域信号を出力する。より具体的には、第n帯域分割部212(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号の高域の信号である第2n-1高域信号と低域の信号である第2n-1低域信号を生成し、第2n音響信号の高域の信号である第2n高域信号と低域の信号である第2n低域信号を生成し、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n高域信号、第2n低域信号を出力する。
【0064】
スピーカシステム120は、帯域分割装置210が出力した第1高域信号、第1低域信号、第2高域信号、第2低域信号、…、第2N高域信号、第2N低域信号を入力とし、第1高域信号に基づく音、第1低域信号に基づく音、第2高域信号に基づく音、第2低域信号に基づく音、…、第2N高域信号に基づく音、第2N低域信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)は、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n高域信号、第2n低域信号を入力とし、第2n-1低域信号に基づく音、第2n-1高域信号に基づく音をそれぞれ正のスピーカユニット1221、正のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音し、第2n低域信号に基づく音、第2n高域信号に基づく音をそれぞれ負のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音する。
【0065】
《形態5:音響システム300》
音響システム200では、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に、ツイータ1223が付属するスピーカユニットを用いた。ここでは、ツイータが付属するスピーカユニットを2つ含むスピーカユニットペアを用いる代わりに、2つのスピーカユニットと1つのツイータを含むスピーカユニットペアを用いる音響システムについて説明する。
【0066】
以下、
図16を参照して音響システム300を説明する。
図16は、音響システム300の構成を示すブロック図である。
図16に示すように音響システム300は、再生装置110と、帯域分割装置310と、スピーカシステム320を含む。帯域分割装置310は、N個の帯域分割部312(つまり、第1帯域分割部312、…、第N帯域分割部312)を含む。また、スピーカシステム320は、N個のスピーカユニットペア322(つまり、第1スピーカユニットペア322、…、第Nスピーカユニットペア322)を含む。スピーカユニットペア322は、2つのスピーカユニット(つまり、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221)とツイータ3221を含む。音響システム300は、帯域分割装置210、スピーカシステム120の代わりに帯域分割装置310、スピーカシステム320を含む点において、音響システム200と異なる。
【0067】
ツイータ3221は、背面からの音が漏れないように、スピーカボックスに収納されているのが好ましい。また、スピーカシステム320は、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される。
【0068】
なお、第nスピーカユニットペア322がユーザと対向する方向を第nユーザ方向(n=1, …, N)とし、第nスピーカユニットペア322(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音と当該負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音が回り込みにより第nユーザ方向に伝わるように配置されるようにする。ここで、第nユーザ方向とは、第nスピーカユニットペア322の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221、ツイータ3221の正面方向のことである。また、第nユーザ方向と逆方向とは、第nスピーカユニットペア322の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221、ツイータ3221の背面方向のことである。
【0069】
また、第nスピーカユニットペア322(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から放音される音と当該負のスピーカユニット1221から放音される音が他の座席を利用するユーザには聴きとれないように互いに消去される位置関係で配置されるようにする。
【0070】
以下、
図16に従い帯域分割装置310、スピーカシステム320の動作について説明する。
【0071】
帯域分割装置310は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号の高域の信号である第1高域信号と低域の信号である第1低域信号、第2音響信号の低域の信号である第2低域信号、…、第2N-1音響信号の高域の信号である第2N-1高域信号と低域の信号である第2N-1低域信号、第2N音響信号の低域の信号である第2N低域信号を出力する。より具体的には、第n帯域分割部312(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号の高域の信号である第2n-1高域信号と低域の信号である第2n-1低域信号を生成し、第2n音響信号の低域の信号である第2n低域信号を生成し、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n低域信号を出力する。
【0072】
スピーカシステム320は、帯域分割装置310が出力した第1高域信号、第1低域信号、第2低域信号、…、第2N-1高域信号、第2N-1低域信号、第2N低域信号を入力とし、第1高域信号に基づく音、第1低域信号に基づく音、第2低域信号に基づく音、…、第2N-1高域信号に基づく音、第2N-1低域信号に基づく音、第2N低域信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア322(n=1, …, N)は、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n低域信号を入力とし、第2n-1高域信号に基づく音をツイータ3221から放音し、第2n-1低域信号に基づく音を正のスピーカユニット1221から放音し、第2n低域信号に基づく音を負のスピーカユニット1221から放音する。
【0073】
《形態6:音響システム106》
音響システム104は、ツイータ1223が付属するスピーカユニット1221を用いることで、高域の音が漏れにくいシステムとなった。ここでは、ツイータが付属するスピーカユニットを用いる代わりに、吸音特性がある部材を用いた、高域の音が漏れにくい音響システムについて説明する。
【0074】
以下、
図17を参照して音響システム106を説明する。
図17は、音響システム106の構成を示すブロック図である。
図17に示すように音響システム106は、音響システム104と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。しかし、音響システム106は、ツイータ1223が付属するスピーカユニット1221の代わりに、ツイータ1223が付属しないスピーカユニット1221を用いる点、スピーカユニットペア122に部材1224が取り付けられている点において、音響システム104と異なる。
【0075】
以下、
図17に従い第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の構造について説明する。
【0076】
第nスピーカユニットペア122には、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音を吸収するための部材1224が取り付けられている(
図18参照)。部材1224は、高域の音が背面で放射されることを防ぐことができる部材であればどのようなものでもよい。なお、部材1224をスピーカユニットペア122の背面のみに設置する代わりに、部材1224をスピーカユニットペア122の正面以外を取り囲むように設置してもよい。
【0077】
《形態7:音響システム108》
音響システム106は、部材1224が取り付けられたスピーカユニット1221を用いることで、高域の音が漏れにくいシステムとなった。ここでは、吸音材が取り付けられたスピーカユニットペアを用いる代わりに、スピーカユニットペアのスピーカユニットの各々を穴のあいたスピーカボックスに収納することで、高域の音がもれにくい音響システムについて説明する。
【0078】
以下、
図19を参照して音響システム108を説明する。
図19は、音響システム108の構成を示すブロック図である。
図19に示すように音響システム108は、音響システム106と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。音響システム108は、部材1224が取り付けられたスピーカユニットペア122の代わりに、スピーカボックス1225に収納されたスピーカユニット1221を含むスピーカユニットペア122を含む点において、音響システム106と異なる。
【0079】
以下、
図19に従い第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の構造について説明する。
【0080】
第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、それぞれスピーカボックス1225に収納されている。なお、スピーカボックス1225には、多数の穴があけられている。
【0081】
本発明の実施形態によれば、航空機の座席に着席時に聴こえる騒音を低減することが可能となる。あわせて、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0082】
<第5実施形態>
第2実施形態と異なる部分を中心に説明する。
騒音低減用音響システムは、前述の通り、座席を利用するユーザの周辺の騒音を低減するための音響システムであり、座席に到来する騒音をキャンセルするキャンセル音によるノイズキャンセルが座席を利用するユーザ近傍の所定の範囲にしか影響を及ぼさないようにキャンセル音を放音する音響システムである。
【0083】
高域の音は、直進しやすいことから回折しづらい、かつ、位相がそろいにくい。そのため、高域のキャンセル音は、低域のキャンセル音に比べてスピーカユニットの近傍でも近傍以外の比較的離れた場所でも消音されない場合がある。
この問題を解決するために、本実施形態に係る音響システムは、物理的な工夫で消音スピーカユニットから耳元までの領域(ユーザ方向)のみ高域のキャンセル音を到来させ、消音スピーカユニットから耳元以外の方向については高域のキャンセル音を吸音材で吸音する。
【0084】
以下、
図20を参照して音響システム530を説明する。
図20は、音響システム530の構成を示すブロック図である。
図20に示すように音響システム530は、音響システム501と同様、制御システム510と、M個の消音スピーカシステム520を含む。しかし、M個の消音スピーカユニットに放射抑制部が取り付けられている点において、音響システム530は音響システム501と異なる。放射抑制部は、少なくとも吸音材5250を含み、本実施形態では、部材5230,5240を含む(
図20,
図21参照)。吸音材5250は、所定の値以上の周波数の音のみ吸音しやすい材料や、形状、構造からなる。放射抑制部は、吸音材5250を備えることで、消音スピーカユニットから放音される所定の値以上の周波数の音(キャンセル音)がユーザの耳元以外に放射されづらくなるように構成される。なお、第1実施形態で説明したように、消音スピーカユニット5221は、消音スピーカユニット5221から消音ユーザ方向に放音される音が消音スピーカユニット5221から消音ユーザ方向と逆方向に放音される音の回り込みにより座席を利用するユーザの頭部に近い箇所以外の箇所では消音されるように配置されるようにする。しかしながら、高域の音は、直進しやすいため、この回り込みによる消音が難しい。そこで本実施形態では、回り込みを生じない周波数の音(高域の音)を吸音材5250で吸音する。そのため、吸音材5250は直進しやすい高域の音を吸音できればよく、所定の値はその所定の値以上の周波数の音が回り込みを生じないように設定されればよい。
【0085】
部材5230と部材5240は、それぞれM個の消音スピーカユニット5221を前面と背面から挟み込む。さらに、部材5230と部材5240は、M個の消音スピーカユニット5221を挟み込む面の縁に吸音材5250を挟み込む。別の言い方をすると、部材5230と部材5240に挟み込まれた空間の側面において、部材5230と部材5240は、吸音材5250を挟み込む。部材5230と部材5240は、第3実施形態の仕切り板のような部材でよい。M個の消音スピーカユニット5221を前面から挟み込む部材5230には音が抜けるように穴が設けられ、M個の消音スピーカユニット5221を背面から挟み込む部材5240には音が出ないように穴が設けられていない。吸音材5250は、高い周波数ほど吸音効果が高く、低い周波数ほど吸音されない部材とする。
【0086】
このような構成により、直進性が高い高域のキャンセル音は、部材5230の穴を通って、耳元にのみ放射される。吸音材5250、部材5240が高域のキャンセル音の拡散を防ぐため、M個の消音スピーカユニット5221の側面、背面には、高域のキャンセル音が放射されない。一方、低域のキャンセル音は、拡散性が高いため、部材5230の穴がなくても背面に回り込む。低域のキャンセル音は、部材5230の穴があってもなくても、吸音材5250を通過して、背面に回り込み、近傍以外の場所で打ち消しあい消去される。
【0087】
制御システム510および消音スピーカシステム520の動作については、第2実施形態と同様である。
【0088】
本発明の実施形態によれば、航空機の座席に着席時に聴こえる騒音を低減することが可能となる。
【0089】
なお、
図20では、M個の消音スピーカユニット5221を1個の放射抑制部で覆う構成としているが、必ずしも1個の放射抑制部で覆う必要はない。例えば、M個の消音スピーカユニット5221をM個の放射抑制部でそれぞれ覆う構成としてもよいし、M個の消音スピーカユニット5221のうちの2個をそれぞれ消音スピーカユニットペアとし、各消音スピーカユニットペアをM/2個の放射抑制部でそれぞれ覆う構成としてもよい。
【0090】
<実験結果>
第5実施形態に係る騒音低減用音響システムの実験結果について説明する。騒音低減用音響システムを適用した自動車を走行させ、助手席にダミーヘッドを配置し、ダミーヘッドを左右から挟み込むように2つの消音スピーカユニットを配置し(
図3参照)、ダミーヘッドの耳部分にマイクロホンを設置し、ロードノイズを測定した。
【0091】
図22は左耳位置でのロードノイズを、
図23は右耳位置でのロードノイズを示す。騒音低減用音響システムを適用することで、左耳位置では7.78dBのロードノイズの消音を、右耳位置では7.87dBのロードノイズの消音を実現している。
【0092】
<補記>
上述の本発明の実施形態の記載は、例証と記載の目的で提示されたものである。網羅的であるという意思はなく、開示された厳密な形式に発明を限定する意思もない。変形やバリエーションは上述の教示から可能である。実施形態は、本発明の原理の最も良い例証を提供するために、そして、この分野の当業者が、熟考された実際の使用に適するように本発明を色々な実施形態で、また、色々な変形を付加して利用できるようにするために、選ばれて表現されたものである。すべてのそのような変形やバリエーションは、公正に合法的に公平に与えられる幅にしたがって解釈された添付の請求項によって定められた本発明のスコープ内である。