IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図1
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図2
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図3
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図4
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図5
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図6
  • 特許-仕切り部材及び組電池 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】仕切り部材及び組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/276 20210101AFI20241217BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20241217BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20241217BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20241217BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M50/276
H01M10/658
H01M10/651
H01M50/204 401H
H01M50/209
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023093995
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2019556760の分割
【原出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2023110064
(43)【公開日】2023-08-08
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017231170
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 立彦
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-097693(JP,A)
【文献】特開2007-134138(JP,A)
【文献】特開2014-072055(JP,A)
【文献】特表2013-536542(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159527(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/043392(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032486(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032484(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106784518(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/276
H01M 10/658
H01M 10/651
H01M 50/204
H01M 50/209
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単電池間又は単電池と単電池以外の部材とを仕切る仕切り部材であって、
厚み方向と前記厚み方向に直交する面方向とを有し、
内部に断熱材を密封状態で収容する外装体を含み、
前記外装体の開口によって前記密封状態が解除された場合に、前記厚み方向の熱抵抗が増加する
仕切り部材。
【請求項2】
前記断熱材が、粉末状無機物及び繊維状無機物を含む、
請求項1に記載の仕切り部材。
【請求項3】
前記断熱材の密度が0.23~1.10g/cmである、
請求項1に記載の仕切り部材。
【請求項4】
前記断熱材が、粉末状無機物及び繊維状無機物を含み、
前記断熱材の密度が、0.23~1.10g/cmである
請求項1に記載の仕切り部材。
【請求項5】
前記断熱材が多孔質体である、請求項1から4のいずれか一項に記載の仕切り部材。
【請求項6】
前記粉末状無機物がシリカ粒子、アルミナ粒子、ケイ酸カルシウム及びバーミキュライトから選ばれる少なくとも一つである、請求項2又は4に記載の仕切り部材。
【請求項7】
前記繊維状無機物がガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維及び生体溶解性無機繊維から選ばれる少なくとも一つである、請求項2又は4に記載の仕切り部材。
【請求項8】
複数の単電池と、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の仕切り部材とを含む組電池。
【請求項9】
複数の単電池と、仕切り部材とを含む組電池の製造方法であって、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の仕切り部材を、単電池間、又は単電池と単電池以外の部材との間に配置することを含む、組電池の製造方法。
【請求項10】
厚み方向と前記厚み方向に直交する面方向とを有し、内部に断熱材を密封状態で収容する外装体を含む仕切り部材において、前記外装体の開口による前記密封状態の解除によって、前記仕切り部材の厚み方向の熱抵抗を増加させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕切り部材及び組電池に関する。
【0002】
近年、車両等の電源としての使用が急増している二次電池について、車両等の限られた空間に搭載する際の自由度を向上させる目的や、一度の充電に対して走行可能な航続距離を伸ばす等の目的から、二次電池の高エネルギー密度化の検討が進められている。一方、二次電池の安全性はエネルギー密度とは相反する傾向にあり、高エネルギー密度を有する二次電池となるほど安全性は低下する傾向にある。例えば、航続距離が数百kmに及ぶような電気自動車に搭載される二次電池では、過充電や内部短絡等により二次電池が損傷した場合の電池表面温度が数百℃を超え、1000℃近くに及ぶ場合もある。
【0003】
車両等の電源に使用される二次電池は一般に複数の単電池から成る組電池として用いられるため、組電池を構成する単電池の一つが損傷して上記のような温度域に到達した場合、その発熱により隣接する単電池が損傷を受け、連鎖的に組電池全体に損傷が拡がるおそれがある。このような単電池間の損傷の連鎖を防ぐため、単電池間に仕切り部材を設け、損傷した単電池を冷却する技術や単電池間に断熱材を仕切り部材として設ける技術が種々提案されている。
【0004】
例えば、異常に発熱した電池を冷却するために、膜状多孔質体と冷却性液体とを封入した冷却容器と二次電池とを接触配置した冷却器付き電池がある(例えば、特許文献1)。また、蓄電素子の間に熱硬化性樹脂で形成されたスペーサと温度上昇に応じて溶融可能な材料で形成された母材とを有した仕切り部材を配置してなる蓄電素子がある(例えば、特許文献2)。一方、単電池間を仕切る仕切り部材に無機物の断熱材を用いたものが開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-131428号公報
【文献】特開2010-97693号公報
【文献】米国特許第6146783号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術に関して、特許文献1に記載の冷却容器は、二次電池が異常な高温となったときに開口し、冷却性液体を放出して冷却を行う構造を有する。また、特許文献2に記載の仕切り部材は溶融可能な母材の溶解熱によって蓄電素子からの熱を吸収する構造を有する。しかし、冷却性液体または母材の吸熱による冷却が不十分な場合に、膜状多孔質体または熱硬化性樹脂が断熱材として機能し、異常な高温となった二次電池からの熱を断熱するのが好ましい。ところが、従来技術では、膜状多孔質体または熱硬化性樹脂の耐熱性及び断熱性について十分な検討はなされていない。
【0007】
特許文献3では仕切り部材として無機物を用いることで断熱性と柔軟性を向上させることが記載されている。しかしながら、本発明者の検討によれば、無機物の種類によっては成形性が悪くなる場合、圧縮変形しやすい場合、また、常温では断熱性に優れていたとしても、高温時になると断熱性が低下してしまう場合があることがわかった。
【0008】
特に、従来技術では、以下の点が何ら考慮されていない。すなわち、組電池を構成する
複数の二次電池は、例えば、厚み方向に並べられ、厚み方向に圧力がかけられた状態で筐体に収められる場合がある。この場合、二次電池間に挟まれる仕切り部材や、二次電池と二次電池以外の部材との間に配置される仕切り部材にも圧力がかかる状態となる。また、二次電池は、充放電や高温となることで膨張することが知られており、二次電池の膨張による圧力も仕切り部材にかかる。このような仕切り部材が圧力を受ける環境であっても、仕切り部材が好適な耐熱性及び断熱性を維持できることが望ましい。
【0009】
本発明は、圧力を受ける環境であっても所望の耐熱性及び断熱性を維持可能な仕切り部材及び組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]単電池間又は単電池と単電池以外の部材とを仕切る仕切り部材であって、粉末状無機物及び繊維状無機物を含み、その密度が0.23~1.10g/cmである断熱材を含む仕切り部材。
[2]前記断熱材が多孔質体である、[1]に記載の仕切り部材。
[3]前記粉末状無機物がシリカ粒子、アルミナ粒子、ケイ酸カルシウム及びバーミキュライトから選ばれる少なくとも一つである、[1]又は[2]に記載の仕切り部材。
[4]前記繊維状無機物がガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維及び生体溶解性無機繊維から選ばれる少なくとも一つである、[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の仕切り部材。
【0011】
[5]複数の単電池と、[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の仕切り部材とを含む組電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧力を受ける環境であっても所望の耐熱性及び断熱性を維持することができる仕切り部材、及びこれを用いた組電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の仕切り部材の構成例を示す。
図2図2は、図1に示した仕切り部材をA-A線で切断した場合の断面図である。
図3図3は、単電池の一例を示すである。
図4図4は、図3に示した単電池の正面図である。
図5図5は、図3に示した単電池の側面図である。
図6図6は、組電池の一例を示す上面図である。
図7図7は、図6に示した組電池の側面を、手前側の側板を外した状態で模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。以下の図面に示す実施形態の説明は例示であり、本発明は図面に示された構成に限定されない。
【0015】
<仕切り部材>
本発明の仕切り部材は、単電池間又は単電池と単電池以外の部材とを仕切る仕切り部材であって、粉末状無機物及び繊維状無機物を含み、その密度が0.23~1.10g/cmである断熱材を含むことを特徴とする。また、この断熱材は多孔質体であり、液体を保持可能なものであることが好ましい。更に、この仕切り部材は上記の特徴を有する断熱材を含むものであれば、断熱材のみからなるものであっても構わないが、その好ましい実施形態は、断熱材が外装体に収容されているものである。
【0016】
仕切り部材が上記の断熱材を含むことで、仕切り部材にかかる圧力によって断熱材が耐熱性及び断熱性を大きく低下させたり喪失したりすることを回避することができる。すなわち、二次電池からの熱を受ける仕切り部材の断熱材が所望の耐熱性及び断熱性を維持することで、他の二次電池などへの熱移動を遮断することが可能となる。
【0017】
図1は、本発明の仕切り部材の構成例を示す。図1には仕切り部材1の正面図が図示されている。図2は、図1に示した仕切り部材をA-A線に沿って切断した場合の右側面側の断面を示す。
【0018】
図1及び図2の例において、仕切り部材1は、高さ方向(H)、幅方向(W)及び厚み方向(D)を有する平板状、或いはシート状の全体形状を有する。仕切り部材1は、厚み方向(D)と厚み方向(D)に直交する面方向(P)とを有する。面方向(P)は、上記した高さ方向(H)及び幅方向(D)と、高さ方向(H)及び幅方向(D)の間にある複数の斜め方向とを含む。
【0019】
仕切り部材1は、その厚み方向(D)において、組電池を構成する単電池間、又は単電池と単電池以外の部材とを仕切るために使用される。仕切り部材1は、断熱材110を含み、好ましくは、液体を保持可能な断熱材110を収容する外装体120を含む。
【0020】
〔断熱材〕
断熱材110は、粉末状無機物及び繊維状無機物を含む。本発明において、「繊維状無機物」は長径が短径の100倍以上の形状を有する無機物を意味し、「粉末状無機物」は長径が短径の100倍未満の形状を有する無機物を意味する。なお、特に繊維状である場合には「長径」は繊維長を意味し、「短径」は長径方向に対して直行する断面の径を意味する。
【0021】
仕切り部材に用いる断熱材が粉末状無機物のみで構成されていると、断熱材の成形性が悪く、形状を維持しにくいため、バインダー等を用いて固める必要がある。このような仕切り部材が圧力を受ける環境下に置かれて圧縮した場合、その形状維持が困難となり、引いては耐熱性が悪化してしまう。
【0022】
一方、仕切り部材に用いる断熱材が繊維状無機物のみで構成されていると、断熱材を構成する繊維の隙間の空気層により断熱性は高まる傾向にあるが、高温時には熱放射の影響を受けて断熱性が低下してしまう。また、仕切り部材が圧力を受ける環境下に置かれて圧縮した場合、圧縮変形しやすくなる問題点もある。
【0023】
本発明の仕切り部材に用いる断熱材は粉末状無機物と繊維状無機物を組み合わせて用いることにより上記の点が解決されものである。
【0024】
繊維状無機物は、例えば、紙、コットンシート、ポリイミド繊維、アラミド繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維及び生体溶解性無機繊維からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましく、これらの中でもガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維及び生体溶解性無機繊維から選ばれる少なくとも一つであることが特に好ましい。セラミック繊維は、主としてシリカとアルミナからなる繊維(シリカ:アルミナ=40:60~0:100)であり、具体的には、シリカ・アルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維を用いることができる。
【0025】
また、粉末状無機物は、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ケイ酸カルシウム、粘土鉱物、バーミキュライト、マイカ、セメント、パーライト、フュームドシリカ及びエアロ
ゲルからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましく、これらの中でもシリカ粒子、アルミナ粒子、ケイ酸カルシウム及びバーミキュライトから選ばれる少なくとも一つであることが特に好ましい。ケイ酸カルシウムの種類の中では、ゾノトライト、トバモライト、ワラストナイト、ジャイロライトが好ましく、特に好ましいのはジャイロライトである。花弁状構造を持つジャイロライトは圧縮変形した際にも多孔質構造を保つため、保液性に優れる。粘土鉱物は主としてケイ酸マグネシウム(タルク、セピオライトを含む)、モンモリナイト、カオリナイトである。
【0026】
繊維状無機物と粉末状無機物を含む断熱材としては公知のものから所定の密度を満足するものを選択して用いることができる。例えば、特開2003-202099号公報に記載されたものから選択して用いることができる。
【0027】
断熱材の密度は、軽量であること、及び高温下においても断熱性を維持することを目的として、その密度が0.23~1.10g/cmのものを用いる。断熱材の密度が、上記下限値以上であると、内部空隙に空気層を多く有するため、断熱性及び保液性の観点から好ましく、一方、上記上限値以下であると、圧縮時の変形量が小さくなるという観点から好ましい。また、断熱材の密度は、これらの観点から、好ましくは0.35g/cm以上であり、より好ましくは0.55g/cm以上であり、一方、好ましくは1.05g/cm以下であり、より好ましくは1.00g/cm以下である。
【0028】
なお、断熱材110の全体が多孔質体で形成されていることが好ましい。以下の説明では、断熱材110全体が多孔質体で形成され、液体は多孔質体が有する空洞内に保持される。断熱材110は、圧力に対応できるように弾性を有するのが好ましい。但し、弾性を有しない場合もあり得る。
【0029】
〔液体〕
多孔質体に液体を保持させる場合、用いる液体としては、常圧における沸点が80℃以上250℃以下の液体が好ましく、常圧における沸点が100℃以上150℃以下の液体がさらに好ましい。用いる液体の具体例としては、水の他、例えば、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、炭化水素類、フッ素系化合物及びシリコーン系オイルからなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。これらは一種のみでも、二種以上の混合物として用いることもできる。液体は、不凍性を付与する物質(不凍剤)、防腐剤、pH調整剤などの添加物を含んでもよい。不凍性の付与により、凍結に伴う膨張により外装体が破損するのを回避し得る。また、pH調整剤の添加によって、粉末状無機物から溶出する成分等によって液体のpHが変化し、粉末状無機物、外装体、液体(水)自体が変質する可能性を低減できる。水に含めるものはこれに限られず、必要に応じて追加することができる。
【0030】
〔外装体〕
外装体120は、液体及び断熱材110を密封状態で収容する。外装体120としては、例えば、樹脂や金属製のフィルムやシートを適用することができる。例えば、金属と樹脂とを積層したフィルムやシートを用いて液体を保持した断熱材をラミネートするのが高い耐熱性及び強度を得る上で好ましい。上記ラミネートに用いる、金属と樹脂との積層構造を有するラミネート体として、樹脂層、金属層、樹脂シーラント層を含む3層以上のラミネート体を適用するのが好ましい。金属は、例えば、アルミニウム箔、銅箔、錫箔、ニッケル箔、ステンレス箔、鉛箔、錫鉛合金箔、青銅箔、銀箔、イリジウム箔及び燐青銅箔などである。特に、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔であるのが好ましく、アルミニウム箔であるのがさらに好ましい。金属は、上記列記した例示から少なくとも一つ選択されるのが好ましい。
【0031】
また、樹脂として、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の少なくとも一方を用いることができる。もっとも、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、アクリル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、アラミド等が挙げられる。特に、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも一つが好ましい。
【0032】
外装体120の厚みは特に限定されないが、例えば5μm~200μmである。上記の積層体の場合、金属箔を3μm~50μm、樹脂層を2μm~150μmとできる。これにより、金属箔の耐熱性及び低水蒸気透過性を発揮させるとともに、樹脂により密封性を向上させることができる。
【0033】
また、外装体120は、二つの外装体の周縁部を熱融着や接着等により環状に接合することによって、断熱材110が外装体120内に密封(封止)される。或いは、一つの外装体を折り曲げて周縁部を熱融着や接着等により接合し、液体及び断熱材110を密封(封止)してもよい。外装体120は、可撓性(弾性)を有するのが好ましいが、可撓性を有しない場合もあり得る。
【0034】
図1に示す例では、外装体120には、その周縁部を封止する封止部120aが設けられ、断熱材110は、封止部120aによる密閉により外装体120に形成された内部空間111に収容される。図1に示す例では、内部空間111において、封止部120aと断熱材110との間に隙間120bが設けられている。換言すれば、内部空間111は、仕切り部材1の正面の平面視において、外装体120と断熱材110とが重なる第1の領域S1と、外装体120と断熱材110とが重ならない第2の領域S2とを含む。但し、隙間120bは必ずしも必要ではない。隙間120bは、そこに流体(気体及び液体)が存在しない場合に外装体120の内面同士が接触した状態となっていてもよい。なお、本発明において、内部空間111の容積は、内部空間111の面積と断熱材110の厚みの積として定義される。また、断熱材の配置は必ずしも内部空間の中央である必要はなく、また、外装体に対して必ずしも平行である必要はない。
【0035】
<組電池>
次に、仕切り部材1が適用される組電池について説明する。組電池は、例えば、電気自動車(Electric Vehicle: EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle: HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle: PHEV)、電動重機、電動バイク、電動アシスト自転車、船舶、航空機、電車、無停電電源装置(Uninterruptible Power Supply: UPS)、家庭用蓄電システム、風力/太陽光/潮力/地熱等の再生可能エネルギーを利用した電力系統安定化用蓄電池システム等に搭載される電池パックに適用される。但し、組電池は、上述のEV等以外の機器に電力を供給する電力源としても使用し得る。
【0036】
〔単電池〕
図3は組電池を構成する単電池の一例を示す平面図であり、図4図3に示した単電池の正面図であり、図5は、単電池の右側面図である。単電池200は、高さ方向(H)、幅方向(W)、厚み方向(D)を有する直方体状に形成されており、その上面に端子210、端子220が設けられている。単電池200は、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えるリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池以外に、リチウムイオン全固体電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、鉛蓄電池等の二次電池を適用し得る。
【0037】
〔組電池〕
図6は、複数の単電池200を用いて形成された組電池100の上面図を示し、図7は、図6に示した組電池100から側板300dを取り外した状態を模式的に示す側面図である。図6及び図7において、組電池100は、筐体300と筐体300内に収容された複数の単電池200とを含む。筐体300は、底板300eと、底板300eの外周に沿って立設された側板300a、300b、300c及び300dとを有する。図6及び図7では、一例として5個の単電池200が例示されているが、単電池の数は適宜選択可能である。
【0038】
筐体300内において、複数の単電池200は厚み方向に並べられ、単電池200間には、上述した仕切り部材1が配置されている。仕切り部材1を介して隣り合う(対向する)単電池200の正極端子(例えば端子210)と負極端子(例えば端子220)とがバスバー301によって電気的に直列に接続されることにより、組電池100は、所定の電力を出力する。図7に示されるように、組電池100は、筐体300の底板300eの上面と各単電池200との間に、仕切り部材1Aが配置されている。仕切り部材1Aは仕切り部材1と同様の構成を有する。
【0039】
<組電池における発熱及び熱移動>
単電池200を構成する電極や電解液等を構成する化学物質の一部ないし全てが、単電池200内部で発熱を伴いながら分解反応を起こすことにより、単電池200の温度が上昇し、単電池200の一部ないし全領域が200℃以上になる場合がある。本発明において、この状態を「異常発熱状態」という。
【0040】
一般に、単電池200を構成する材料のうち正極材料の安全性について、充電による脱リチウム後の結晶構造の安定性が大きく影響していることが知られている。正極材料として一般に用いられるLiCoO、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O等の材料は、充電状態では高温下で、酸素放出を伴う結晶崩壊を起こす。正極から放出された酸素は電解液の酸化等を引き起こし、急激な発熱反応を伴う。放射光を用いた構造解析により、上記正極材料種では200℃付近で結晶の相転移が起こることが報告されている。このため、単電池200の一部ないし全領域が200℃以上になる場合、正極の結晶崩壊が進行している、つまり単電池200が熱暴走状態にあることを意味する(参考文献1:リチウムイオン電池の高安全技術と材料 シーエムシー出版、P.44/参考文献2:J.Dahn et al., Electrochemistry Communication, 9, 2534-2540 (2007)/参考文献3:小林弘典、「放射光を用いたリチウムイオン二次電池用正極材料の評価・解析技術」Spring-8利用推進協議会 ガラス・セラミックス研究会(第二回)(2011))。
【0041】
また、単電池200を構成する材料のうち負極材料の安全性について、充電負極(リチウム挿入炭素負極)は基本的にリチウム金属と同様の強い還元性を示し、電解液との反応で負極表面上に被膜が形成され、それによってさらなる反応が抑制されていることが知られている。従って、その保護被膜の化学的組成や構造、熱安定性が温度上昇時の充電負極の熱安定性に多大な影響を与える。通常、充電負極と電解液との反応は、保護被膜の形成と、それに続く被膜破壊による爆発的な還元分解反応により説明される。一般に、負極上での保護被膜形成反応は130℃付近から、引き続く被膜分解反応が200℃付近で進行し、最終的に爆発的還元分解反応に至ることが報告されている。このため、単電池200の一部ないし全領域が200℃以上になる場合、負極表面の被膜破壊が進行している、つまり単電池200が熱暴走状態にあることを意味する(参考文献4:電池ハンドブック第1版 オーム社、P.591/参考文献5:リチウムイオン電池の高安全技術・評価技術の最前線 シーエムシー出版、P.90)。
【0042】
また、本発明において、単電池200を構成する電極や電解液等を構成する化学物質が、単電池200内部で一定以上の発熱速度を伴う分解反応を起こしていない状態を、「通常状態」という。ここで、反応性化学物質が断熱条件下で自己発熱分解する際の熱的挙動を定量的に測定する手段であるARC(Accelerating rate calorimetry)を用いて、単電池200の発熱状態を評価することができる。例えばDahnらは、ARCにおいて観測される発熱速度が0.04℃/minを上回る場合に、セル内部で自己発熱反応が進行しているものと定義しており、これに倣うことができる(参考文献6:J.Dahn et al., Electrochimica Acta, 49, 4599-4604 (2004))。また、本発明において、通常状態の単電池200を、「通常状態を保持している単電池」、通常状態を逸脱し異常発熱状態に至っていない単電池200を、「通常状態を逸脱した単電池」という。単電池200内部での発熱は、各種伝達経路を介して、他の単電池200に伝達される。例えば、単電池200内部での発熱は、仕切り部材1を介して、他の単電池200に伝達することができる。
【0043】
例えば、仕切り部材1に接触又は近接する単電池200が通常状態を逸脱し、異常発熱状態に至っていない場合に想定される表面平均温度の上限値が180℃とする。ここで、汎用セパレータ材がポリエチレンやポリプロピレン製である場合、そのメルトダウン温度は160~200℃であることが知られている。このため、単電池200の表面平均温度が180℃を超える場合には、単電池200を構成する汎用セパレータ材の一部がメルトダウンし、異常発熱状態に至るおそれがある。
【0044】
仕切り部材1の、組電池100を構成する単電池200間を仕切る厚み方向の二面のうちの一方の平均温度が100℃を超えない範囲では、仕切り部材1は、組電池100中の単電池200(例えば単電池200a)からの熱をその厚み方向に伝達し、単電池200aに仕切り部材1を介して対向する他の単電池200(単電池200b)や単電池200以外の部材(例えば底板300e)へ伝達することができる。これに対し、平均温度が100℃を超える場合には、熱により仕切り部材1が開口して内包された液体が気相状態又は液相状態で外部に流出する。この流出によって仕切り部材1内の断熱材110に空気(断熱作用を有する)が入り、厚み方向の断熱性(熱抵抗)を増加させる。これによって、或る単電池200が通常状態を逸脱した状態になることを契機に他の単電池200が通常状態を逸脱した状態となるのを回避することができる。
【0045】
仕切り部材1に接触又は近接する単電池200が通常状態を逸脱していない場合に想定される表面平均温度の上限値は通常80℃である。ここで、汎用電解液成分の沸点は、下記表1に示すように90℃以上である。汎用電解液成分は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)である。単電池200の表面平均温度が80℃より低い場合は、単電池200を構成する汎用電解液自体の沸騰には至らない。仕切り部材1の、組電池を構成する単電池間を仕切る厚み方向の二面の双方の平均温度が80℃よりも低い場合は、内包された液体により厚み方向への熱移動が促進される。組電池100を構成する全ての単電池200が通常状態である場合、仕切り部材1の熱移動抵抗が従来品より低いため、組電池100内の単電池200間の均温化に奏功し、温度ムラによる単電池200の劣化を軽減する効果が期待できる。
【0046】
【表1】
【実施例
【0047】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
断熱材110として、バーミキュライト紙(高さ50mm、幅50mm、厚さ2mm、密度0.85g/cm、バーミキュライト(粉末状無機物)とガラス繊維(繊維状無機物)を含む多孔質体)を用意した。
【0048】
(1)常温熱伝導率測定
上記した断熱材を用いて、ヒーター、真鍮板、断熱板A(ミスミ社、型式:HIPHA、厚さ10mm)、真鍮板、多孔質体、真鍮板、断熱板A、真鍮板、断熱板B(ミスミ社、型式:HIPHA、厚さ40mm)の順番ではさんで各部材を密着させ、前述の断熱材を仕切り部材として用いた。断熱板Bの上側から油圧プレス機HYP505H(日本オートマチックマシン社製)を用いて荷重が375kgとなるように調整した(15kgf/cmに相当する)。
【0049】
上記荷重のかかった状態で、ヒーター温度を80℃まで上昇させ、ヒーターの温度が80℃に到達後、その温度での加熱を30分間継続した。加熱終了後に断熱材(仕切り部材)の厚み(「膜厚」と称する)を測定し、圧縮時の膜厚を1.8mmと求めた。加熱終了時における各位置の温度と、ヒーターから断熱材までの熱伝導抵抗、断熱材の圧縮時の膜厚から、断熱材の常温熱伝導率kを以下の式に従い求めた。
= (ΔT1×L)/(ΔT2×R)
:断熱材の熱伝導率[W/(m・K)]
ΔT1:断熱板Aの高温側の面と低温側の面の温度差[K]
ΔT2:断熱材高温側の面と低温側の面の温度差[K]
L:断熱材の圧縮時の膜厚[m]
R:ヒーターから断熱材までの熱伝導抵抗 6.8×10-3[m・K/W]
【0050】
ヒーターが80℃に到達後30分経過後の熱伝導率kは0.08W/(m・K)となった。
【0051】
(2)高温熱伝導率測定
上記した常温熱伝導率測定に用いたものと同様の断熱材を用いて、下から順に、ヒーター、真鍮板(同じものを2枚重ねて使用)、断熱材、真鍮板、断熱板A、真鍮板、断熱板Bの順番で重ねて各部材を密着させ、前述の断熱材を仕切り部材として用いた。断熱板Bの上側から油圧プレス機を用いて荷重が375kgとなるように調整した(15kgf/cmに相当する)。
【0052】
上記荷重のかかった状態で、ヒーターの温度600℃まで上昇させ、ヒーターの温度が600℃に到達後、その温度での加熱を1時間継続した。加熱終了後に断熱材(仕切り部材)の膜厚を測定し、圧縮時の膜厚を1.9mmと求めた。加熱終了時における各位置の
温度と、ヒーターから断熱材までの熱伝導抵抗、断熱材の圧縮時の膜厚から、断熱材の熱伝導率kを以下の式に従い求めた。
=(ΔT3/R-q)×L/ΔT4・・・(式)
:断熱材の熱伝導率[W/(m・K)]
ΔT3:断熱板Aの高温側の面と低温側の面の温度差[K]
ΔT4:断熱材の高温側の面と低温側の面の温度差[K]
L:断熱材の圧縮時の厚み(膜厚)[m]
R:ヒーターから断熱材までの熱伝導抵抗 1.65×10-4[m・K/W]
q:各真鍮板、断熱材からの対流・放射による熱損失 1.35×10[W/m
【0053】
上記式における、高温側の面及び低温側の面は、ヒーターに近い側の面及びその逆面をそれぞれ示す。ヒーターが600℃に到達後1時間経過後の熱伝導率kは0.08W/(m・K)となった。
【0054】
(実施例2)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み2mmの断熱シート(密度0.95g/cm、ワラストナイト(粉末状無機物)とロックウール(繊維状無機物)とを含む多孔質体)を用いて実施例1と同じ実験を行った。実施例2において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.8mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.9mmであった。
【0055】
(実施例3)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み1mmのケイ酸カルシウム紙(密度0.38g/cm、ケイ酸カルシウム(粉末状無機物)とロックウール(繊維状無機物)を含む多孔質体)を2枚重ねたものを用いて実施例1と同じ実験を行った。実施例3において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.9mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.7mmであった。
【0056】
(実施例4)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み1mmのケイ酸カルシウム紙(密度0.25g/cm、ケイ酸カルシウムとロックウールを含む多孔質体)を2枚重ねたものを用いて実施例1と同じ実験を行った。実施例4において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.7mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.6mmであった。
【0057】
(比較例1)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み0.6mmのバーミキュライトを含んだガラス繊維紙(密度0.22g/cmの多孔質体)を4枚重ねたものを用いて実施例1と同じ実験を行った。比較例1において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.4mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.6mmであった。
【0058】
(比較例2)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み0.9mmのバーミキュライトを含んだロックウール紙(密度1.16g/cmの多孔質体)を3枚重ねたものを用いて実施例1と同じ実験を行った。比較例2において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は2.0mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は2.0mmであった。
【0059】
(比較例3)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み0.6mmのガラス繊維紙(密度0.125g/cmの多孔質体)を4枚重ねたものを用いて実施例1と同じ実験を行
った。比較例3において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.4mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.4mmであった。
【0060】
(比較例4)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、バーミキュライト粉末(繊維状無機物を含まないもの)を用いた。バーミキュライト粉末単体では成形性が悪く形状が崩れやすいためアルミラミネートフィルム(ポリエチレン(内側)、アルミニウム、ポリエチレンテレフタレート(外側)を含む。厚み0.15mm)内にバーミキュライト粉末を内包させたもの(厚み2mm、密度0.6g/cm)を用いて実施例1と同じ実験を行った。比較例4において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.7mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.8mmであった。
【0061】
(比較例5)
実施例1におけるバーミキュライト紙の代わりに、厚み1.8mmのバーミキュライト紙(密度1.56g/cm、バーミキュライトとガラス繊維を含む多孔質体)を用いて実施例1と同じ実験を行った。比較例5において、常温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.8mm、高温熱伝導率測定における圧縮時の膜厚は1.8mmであった。
【0062】
実施例1~4、比較例1~5に係る密度及び熱伝導率を以下の表2に示す。
【表2】
【0063】
表2は、上述した実施例1~4、比較例1~5に係る実験により得られた仕切り部材について、それぞれで用いた断熱材の密度と、熱伝導率との関係を示す。実験の結果から、粉末状無機物及び繊維状無機物組み合わせて用いた本発明の仕切り部材は、比較例3及び比較例4よりも高温熱伝導率の値が低く、高温においてより良好な断熱性を有することがわかる。また、実験結果から、本発明の仕切り部材に該当するものは、密度が0.22g/cmの断熱材を仕切り部材とした比較例1、密度が1.16g/cmの断熱材を仕切り部材とした比較例2、及び密度が1.56cmの断熱材を仕切り部材とした比較例5のそれぞれよりも、特に高温熱伝導率が低く、高温においてより優れた断熱性を示すことがわかる。これより、粉末状無機物及び繊維状無機物を含み、かつ0.23g/cm以上、かつ1.10g/cm以下の密度を有する多孔質体を断熱材110に適用することで、圧力を受ける環境に置かれても、二次電池の通常状態を逸脱した状態の温度に対して好適な耐熱性及び断熱性を示す断熱材110を得ることができる。
【0064】
なお、上述した構成は、発明の目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 仕切り部材
100 組電池
110 断熱材
120 外装体
200 単電池
300 筐体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7