(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】化学強化ガラスおよび結晶化ガラス並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/097 20060101AFI20241217BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C03C3/097
H01L23/12 501Z
(21)【出願番号】P 2023124433
(22)【出願日】2023-07-31
(62)【分割の表示】P 2022074881の分割
【原出願日】2021-08-10
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2020140347
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021090475
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 仁美
(72)【発明者】
【氏名】李 清
(72)【発明者】
【氏名】澤村 茂輝
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 周作
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 誠二
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086080(JP,A)
【文献】特開2010-001201(JP,A)
【文献】特開2004-288228(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104926135(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,21/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、
SiO
2を54~64%、
Al
2O
3を3~8%、
P
2O
5を0.5~4.2%、
MgOを4~7%、
Li
2Oを
18~26%、
Na
2Oを1~2.5%、
ZrO
2を1~3.5%、
Y
2O
3を0~4%、
B
2
O
3
を0~10%、
CeO
2
を0~1.5%、含有し、
ヤング率が、90~110GPaであり、
50~350℃における平均熱膨張係数が、80×10
-7/℃以上110×10
-7/℃以下であるガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示で、(Al
2O
3/LiO
2)/NWFが、0.0032~0.0051である、請求項1に記載のガラス基板。但し、NWFはSiO
2、Al
2O
3、P
2O
5およびB
2O
3の総量を表す。
【請求項3】
酸化物基準のモル%表示で、Li
2
Oを20%以上含有する、請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項4】
酸化物基準のモル%表示で、ZrO
2
を2%以上含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項5】
酸化物基準のモル%表示で、P
2
O
5
を1%以上含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項6】
酸化物基準のモル%表示で、NWF(SiO
2
+Al
2
O
3
+P
2
O
5
+B
2
O
3
)が65%以上70%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項7】
請求項1
~6のいずれか1項に記載のガラス基板からなる、半導体支持基板。
【請求項8】
接合層を介して、
複数の半導体チップが搭載され、
半導体チップが樹脂にモールドされた、
請求項1
~6のいずれか1項に記載のガラス基板からなる、ファンアウト型パッケージ向けの支持基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスおよび化学強化ガラス並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末のカバーガラス等には、化学強化ガラスが用いられている。化学強化ガラスは、例えばアルカリ金属イオンを含む溶融塩にガラスを接触させて、ガラス中のアルカリ金属イオンと、溶融塩中のアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。
【0003】
結晶化ガラスは、ガラス中に結晶を析出させたものであり、結晶を含まない非晶質ガラスと比較して硬く、傷つきにくい。また化学強化可能な結晶化ガラスは、非晶質ガラスと比較して、いわゆるCTリミットが大きいので、破砕を防止しながら高強度にできる。しかし、従来の結晶化ガラスは、非晶質ガラスに比して透明性が不十分であることが多い。
【0004】
化学強化ガラスは、表面に形成された圧縮応力が大きいほど、高強度になるが、化学強化ガラス内部には、形成された圧縮応力を相殺する引張応力(CT)が生じる。CTが大きくなりすぎると、化学強化ガラスが割れるときに激しく破砕する。激しい破砕を防止できる限界の引張応力値は、CTリミットと呼ばれる。
【0005】
特許文献1には、結晶化ガラスをイオン交換処理して化学強化した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された結晶化ガラスは、透明性と化学強化特性に優れているとはいえ透明性が不十分な場合がある。また、ガラス原料の溶融や、結晶化に必要な熱処理温度が高いので、生産性の点で懸念があった。
【0008】
本発明は、透明性および強度に優れ、さらに大きな熱膨張係数を有する非晶質ガラス、透明性と化学強化特性とに優れ、熱膨張係数が大きくかつ比較的低温で製造できる結晶化ガラス、および透明性と強度とに優れ、熱膨張係数が大きい化学強化ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、厚さ0.7mm換算のヘーズ値が0.5%以下であり、表面圧縮応力値が400MPa以上、圧縮応力層深さが70μm以上、かつ以下の試験方法で求められるSTリミットが18000~30000MPa・μmであり、Li3PO4結晶およびLi4SiO4結晶の少なくとも一方を含有する、又はLi3PO4およびLi4SiO4のいずれかの固溶体結晶もしくは両方の固溶体を含有する結晶化ガラスである化学強化ガラスに関する。
(試験方法)
試験用ガラス板としては、15mm角で厚さが0.7mmであり、かつ表面を鏡面仕上げとしたものを種々の条件で化学強化処理し、引張応力積分値ST値の異なる複数の試験用ガラス板を準備する。
ビッカース試験機を用いて、試験用ガラス板の中央部分に、先端の角度が90°のダイヤモンド圧子を打ち込んでガラス板を破壊させ、破片の個数を破砕数とする。ダイヤモンド圧子の打ち込み荷重は1kgfから試験を開始し、ガラス板が割れなかった場合は、打ち込み荷重を1kgfずつ増やして、ガラス板が割れるまで試験を繰り返し、最初に割れた時の破片数を数える。
試験用ガラス板のST値に対して、破砕数をプロットし、破砕数が10となるST値を読み取ってSTリミットとする。
【0010】
本発明は、Li3PO4結晶およびLi4SiO4結晶の少なくとも一方を含有する、又はLi3PO4およびLi4SiO4のいずれかの固溶体結晶もしくは両方の固溶体を含有する結晶化ガラスであり、厚さ0.7mm換算のヘーズ値が0.5%以下であり、引張応力積分値STリミットが18000MPa・μm以上である結晶化ガラスに関する。
【0011】
本発明は、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~5%、
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~4%、含有し、
SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量が60~80%であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの総量の、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量に対する比が0.20~0.60であり、Li3PO4又はLi4SiO4を主結晶とする結晶化ガラスに関する。
【0012】
本発明は、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~5%、
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~4%、含有し、
SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量が60~80%であり、
Li2O、Na2OおよびK2Oの総量の、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量に対する比が0.20~0.60であるガラスを450℃以上800℃以下の温度に保持する熱処理を行う、結晶化ガラスの製造方法に関する。
【0013】
また、前記の非晶質ガラス、結晶化ガラスまたは化学強化ガラスからなる半導体支持基板を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、透明性および強度に優れさらに大きな熱膨張係数を有する非晶質ガラスが得られる。また、透明性と化学強化特性とに優れ、熱膨張係数が大きい結晶化ガラスを提供する。また、透明性と強度とに優れ、熱膨張係数が大きい化学強化ガラスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、結晶化ガラスのX線回折の結果を示す図である。
【
図2】
図2は、化学強化ガラスの応力プロファイルを示す図である。
【
図3】
図3は、結晶化ガラスの断面FE-SEM像を示す図である。図中、白矢印は析出結晶の例を示す。
【
図4】
図4は、DCDC法による破壊靭性値K1cの測定に用いるサンプルの説明図である。
【
図5】
図5は、DCDC法による破壊靭性値K1cの測定に用いる、応力拡大係数K1(単位:MPa・m1/2)とクラック進展速度v(単位:m/s)との関係を示すK1-v曲線を示す図である。
【
図6】
図6(A)及び
図6(B)は半導体基板と貼り合わせる本発明の一態様の支持ガラスを表し、
図6(A)は貼り合わせ前の断面図、
図6(B)は貼り合わせ後の断面図を示す。
【
図7】
図7は、本発明の一態様の積層基板の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0017】
本明細書において「非晶質ガラス」とは、後述の粉末X線回折法によって、結晶を示す回折ピークが認められないガラスをいう。「結晶化ガラス」は、「非晶質ガラス」を加熱処理して、結晶を析出させたものであり、結晶を含有する。本明細書においては、「非晶質ガラス」と「結晶化ガラス」とを合わせて「ガラス」ということがある。また、加熱処理によって結晶化ガラスとなる非晶質ガラスを、「結晶化ガラスの母ガラス」ということがある。
【0018】
本明細書において、粉末X線回折測定は、たとえばCuKα線を用いて2θが10°~80°の範囲を測定し、回折ピークが現れた場合には、Hanawalt法によって析出結晶を同定する。また、この方法で同定される結晶のうち積分強度の最も高いピークを含むピーク群から同定される結晶を主結晶とする。測定装置としては、たとえばリガク社製SmartLabを使用できる。
【0019】
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0020】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準のモル%表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。
【0021】
また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0022】
本明細書において「応力プロファイル」はガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したものをいう。応力プロファイルにおいて、引張応力は負の圧縮応力として表される。
【0023】
「圧縮応力値(CS)」は、ガラスの断面を薄片化し、該薄片化したサンプルを複屈折イメージングシステムで解析することによって測定できる。複屈折イメージングシステム複屈折率応力計は、偏光顕微鏡と液晶コンペンセーター等を用いて応力によって生じたレターデーションの大きさを測定する装置であり、たとえばCRi社製複屈折イメージングシステムAbrio-IMがある。
【0024】
また、散乱光光弾性を利用しても測定できる場合がある。この方法では、ガラスの表面から光を入射し、その散乱光の偏光を解析してCSを測定できる。散乱光光弾性を利用した応力測定器としては、例えば、折原製作所製散乱光光弾性応力計SLP-2000がある。
【0025】
本明細書において「圧縮応力層深さ(DOL)」は、圧縮応力値がゼロとなる深さである。以下では、表面圧縮応力値をCS0、深さ50μmにおける圧縮応力値をCS50、と記すことがある。また、「内部引張応力(CT)」は、板厚tの1/2の深さにおける引張応力値をいう。
【0026】
「引張応力積分値(ST値)」とは、DOLから板厚tの1/2の深さまでのサンプル深さに対する引張応力(負の圧縮応力)の面積積分をいう。化学強化ガラスにおいては、ガラス中のST値が、ある閾値以上になると破壊したときに急激に破砕数が増加する。その閾値を「STリミット」という。
【0027】
本明細書において「STリミット」は、以下の方法で測定される。
(STリミットの測定方法)
試験用ガラス板としては、15mm角で厚さが0.7mmであり、かつ表面を鏡面仕上げとしたものを種々の条件で化学強化処理し、ST値の異なる複数の試験用ガラス板を準備する。
ビッカース試験機を用いて、試験用ガラス板の中央部分に、先端の角度が90°のダイヤモンド圧子を打ち込んでガラス板を破壊させ、破片の個数を破砕数とする。ダイヤモンド圧子の打ち込み荷重は1kgfから試験を開始し、ガラス板が割れなかった場合は、打ち込み荷重を1kgfずつ増やして、ガラス板が割れるまで試験を繰り返し、最初に割れた時の破片数を数える。
試験用ガラス板のST値に対して、破砕数をプロットし、破砕数が10となるST値を読み取ってSTリミットとする。
【0028】
本明細書において「光透過率」は、波長380nm~780nmの光における平均透過率をいう。また、「ヘーズ値」はハロゲンランプC光源を使用し、JIS K7136:2000に従って測定する。
【0029】
本明細書において「破壊靱性値Kc」は、JIS R1607:2015に規定するIF法による値である。
【0030】
本明細書において「破壊靱性値K1c」は、DCDC法[参考文献:M.Y. He, M.R. Turner and A.G. Evans, Acta Metall. Mater. 43 (1995) 3453.]により測定する。具体的には、
図4に示される形状のサンプルおよびSHIMADZUオートグラフAGS-X5KNを用いて、
図5に示されるような、応力拡大係数K1(単位:MPa・m
1/2)とクラック進展速度v(単位:m/s)との関係を示すK1-v曲線を測定し、得られたRegionIIIのデータを一次式で回帰、外挿し、0.1m/sの応力拡大係数K1を破壊靭性値K1cとする。
【0031】
本明細書において、「半導体」は、シリコンなどの半導体ウェハまたは半導体チップのみならず、チップ、配線層およびモールド樹脂を含めた複合体をいうことがある。
【0032】
本明細書において、クラック発生荷重(CIL)は、厚み0.7mm以上の鏡面仕上げ表面に先端部の角度が136°のビッカース圧子を用いて圧痕を形成した際のクラック発生率が50%となるビッカース圧子の押し込み荷重をいう。(CILの測定方法)
両面を鏡面研磨した、厚さ0.7mmの板状のガラスを用意する。ビッカース硬度試験機にて、ビッカース圧子を15秒間押し込んだ後にビッカース圧子をはずし、15秒後に圧痕のコーナーからクラックが何本発生しているかを観測する。測定は、10gf、25gf、50gf、100gf、200gf、300gf、500gfのビッカース圧子の押し込み荷重別に、10枚のガラスに対して行い、発生したクラック本数の平均値を荷重ごとに算出する。荷重とクラック本数との関係を、シグモイド関数を用いて回帰計算し、クラック本数が2本となる荷重をCIL(gf)とする。なお、測定の雰囲気条件は、気温25℃、露点-40℃とする。
【0033】
<化学強化ガラス>
本発明の化学強化ガラス(以下、本強化ガラスとも略す。)は、典型的には板状のガラス物品であり、平板状でもよく曲面状でもよい。また、厚さの異なる部分があってもよい。また、Li3PO4結晶およびLi4SiO4結晶の少なくとも一方を含有する、又はLi3PO4およびLi4SiO4のいずれかの固溶体結晶もしくは両方の固溶体を含有する結晶化ガラスである。Li3PO4結晶およびLi4SiO4結晶の少なくとも一方を含有する、又はLi3PO4およびLi4SiO4のいずれかの固溶体結晶もしくは両方の固溶体を含有する結晶化ガラスについては、後述する。
【0034】
本化学強化ガラスが板状の場合の厚さ(t)は、3mm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2mm以下、1.6mm以下、1.1mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
本強化ガラスの厚さ0.7mm換算のヘーズ値は0.5%以下が好ましい。本化学強化ガラスのヘーズ値や光透過率は、化学強化前の結晶化ガラスと基本的に同じなので、結晶化ガラスの項で説明する。
【0035】
本強化ガラスは、表面圧縮応力値(CS0)が400MPa以上であると撓み等の変形によって割れにくいので好ましい。CS0は、500MPa以上がより好ましく、600MPa以上がさらに好ましい。CS0は、大きいほど強度が高くなるが、大きすぎると割れた場合に激しい破砕が生じるおそれがあるため、1200MPa以下が好ましく、1000MPa以下がより好ましい。
【0036】
本強化ガラスのDOLは70μm以上であると表面に傷が生じても割れにくいので好ましい。DOLは、より好ましくは80μm以上、さらに好ましくは90μm以上、特に好ましくは100μm以上である。DOLは大きいほど傷が生じても割れにくいが、化学強化ガラスにおいては、表面付近に形成された圧縮応力に応じて内部に引張応力が生じるために、極端に大きくすることはできない。DOLは厚さtの場合にt/4以下であることが好ましく、t/5以下がより好ましい。DOLは、化学強化に要する時間を短くするために200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましい。
【0037】
本強化ガラスのCTは110MPa以下であると、化学強化ガラスが破壊した時に破片の飛散が抑制されるので好ましい。CTは、より好ましくは100MPa以下、さらに好ましくは90MPa以下である。一方でCTを小さくすると表面圧縮応力が小さくなり、充分な強度が得られ難くなる傾向がある。そのため、CTは50MPa以上が好ましく、55MPa以上がより好ましく、60MPa以上がさらに好ましい。
【0038】
本強化ガラスのST値は耐落下強度を上げるために18000MPa・μm以上が好ましく、20000MPa・μm以上がより好ましく、22000MPa・μm以上がさらに好ましく、24000MPa・μm以上が最も好ましい。一方でST値が大きすぎると破砕時にガラス片が飛散するため、30000MPa・μm以下が好ましく、29000MPa・μm以下がより好ましく、28000MPa・μm以下がさらに好ましく、27000MPa・μm以下が最も好ましい。
【0039】
本強化ガラスは、母組成が酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、含有するものが好ましい。
【0040】
また、SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~5%、
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~4%、含有し、
SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量が60~80%であることがより好ましい。
【0041】
あるいは、SiO2を50~70%、
Li2Oを15~30%、
Al2O3を1~10%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~8%、
MgOを0.1~10%、
Y2O3を0~5%
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~2%、含有することがより好ましい。
【0042】
ここで「化学強化ガラスの母組成」は、化学強化前の結晶化ガラスの組成をいう。この組成については後述する。本強化ガラスの組成は、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、全体として強化前の結晶化ガラスと類似の組成を有している。特に、ガラス表面から最も深い部分の組成は、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、強化前の結晶化ガラスの組成と同じである。
【0043】
本強化ガラスは、後述する半導体支持基板のほか、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等の電子機器に用いられるカバーガラスとしても有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等の電子機器のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)にも有用である。また、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等にも有用である。また、半導体支持基板用としては、強化前の結晶化ガラスや、結晶化前の非晶質ガラスも有用である。
【0044】
この半導体支持基板とは、半導体パッケージの分野で使用される基板である。半導体パッケージの分野では、製造において、ウェハレベルパッケージ(WLP)またはパネルレベルパッケージ(PLP)等の技術が注目されている(旭硝子研究報告 67(2017)参照)。この技術は、例えばガラス基板上にシリコンチップを置き、封止樹脂でモールドすることによって封止する技術である。
【0045】
この場合、支持基板を製造工程の途中で剥離して用いることがある。支持基板としては、ガラス基板が広く用いられている。ガラス基板は透明であることから、レーザー光を照射して剥離できる。支持基板として用いられるガラス基板には、半導体との熱膨張マッチングによる反り低減が求められる。さらに、パッケージング工程の中で破損しにくいこと、破損した場合に破片が飛散しないことも求められるようになる。
【0046】
<結晶化ガラス>
本結晶化ガラスは、Li3PO4結晶およびLi4SiO4結晶の少なくとも一方を含有することが好ましい。これらの結晶を主結晶とすることで、光透過率が高くなり、ヘーズが小さくなる。
【0047】
本結晶化ガラスは、Li3PO4結晶およびLi4SiO4結晶の両方を含有してもよい。いずれか一方を主結晶として含有してもよい。Li3PO4およびLi4SiO4の固溶体結晶を主結晶としてもよい。また、Li3PO4およびLi4SiO4のいずれかの固溶体結晶を主結晶としてもよい。
【0048】
なおLi2SiO3結晶は耐薬品性が優れないため、含有しない方が好ましい。
【0049】
Li3PO4結晶とLi4SiO4結晶とは、結晶構造が類似しているので粉末X線回折測定によって判別することが困難な場合がある。すなわち、いずれも粉末X線回折を測定した時に2θ=16.9°、22.3°、23.1°、33.9°付近に回折ピークが現れる。結晶量が少ない場合や配向している場合もあるため、強度の低いピークや特定の結晶面のピークが確認できないこともある。また、両結晶が固溶している場合は2θが1°程度ピーク位置がシフトすることがある。
【0050】
本結晶化ガラスは、X線回折を2θ=10~80°の範囲で測定するとき、最強の回折ピークが22.3°±0.2°または23.1°±0.2°に現れることが好ましい。
【0051】
本結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。
【0052】
本結晶化ガラスの析出結晶の平均粒径は強度を高くするために、5nm以上が好ましく、10nm以上が特に好ましい。透明性を高めるために、80nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、40nm以下が特に好ましく、30nm以下がもっとも好ましい。析出結晶の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像又はFE-SEM画像から求められる。
【0053】
本結晶化ガラスが板状の場合の厚さ(t)は、3mm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2mm以下、1.6mm以下、1.1mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。
【0054】
本結晶化ガラスの光透過率は、厚さが0.7mmの場合に、85%以上であることから、携帯ディスプレイのカバーガラスに用いた場合に、ディスプレイの画面が見えやすい。光透過率は88%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。光透過率は、高い程好ましいが、通常は91%以下である。厚さが0.7mmの場合に、90%の光透過率は普通の非晶質ガラスと同等である。
【0055】
なお、実際の厚さが0.7mmではない場合は、測定値を基に、ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)から0.7mmの場合の光透過率を計算できる。また、板厚tが0.7mmよりも大きい場合は、研磨やエッチングなどで板厚を0.7mmに調整して測定してもよい。
【0056】
また、ヘーズ値は、厚さ0.7mmの場合に、0.5%以下であり、0.3%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましく、0.15%以下がさらに好ましく、0.1%以下が特に好ましく、0.08%がもっとも好ましく、0.05%以下が極めて好ましい。ヘーズ値は小さい程好ましいが、通常は0.01%以上である。厚さが0.7mmの場合に、0.02%のヘーズ値は普通の非晶質ガラスと同等である。
【0057】
なお、板厚t[mm]の結晶化ガラスの全光線可視光透過率が100×T[%]、ヘーズ値が100×H[%]の場合、ランベルト・ベールの法則を援用することにより、定数αを用いて、T=(1-R)2×exp(-αt)と記載できる。この定数αを使い、dH/dt∝exp(-αt)×(1-H)となる。
すなわち、ヘーズ値は、板厚が増すごとに内部直線透過率に比例した分増えると考えることができるので、0.7mmの場合のヘーズ値H0.7は、以下の式で求められる。
【0058】
【0059】
また、板厚tが0.7mmよりも大きい場合は、研磨やエッチングなどで板厚を0.7mmに調整して測定してもよい。
【0060】
本結晶化ガラスのSTリミットは18000MPa・μm以上であることが好ましい。該STリミットは、化学強化によって耐落下強度を高められるために、19000MPa・μm以上がより好ましく、20000MPa・μm以上がさらに好ましい。本結晶化ガラスはSTリミットが大きいので、化学強化により高強度としても破砕しにくい。STリミットは大きいほど好ましいが、通常は30000MPa・μm以下である。
【0061】
本結晶化ガラスは、後に説明する非晶質ガラスを加熱処理して結晶化することで得られる。
【0062】
本結晶化ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~70%、
Li2Oを10~35%、
Al2O3を1~15%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~5%、
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~4%、含有することが好ましい。本明細書において、かかる組成の結晶化ガラスを「本結晶化ガラスA」ともいう。
【0063】
または、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を50~70%、
Li2Oを15~30%、
Al2O3を1~10%、
P2O5を0.5~5%、
ZrO2を0.5~8%、
MgOを0.1~10%、
Y2O3を0~5%
B2O3を0~10%、
Na2Oを0~3%、
K2Oを0~1%、
SnO2を0~2%、含有することが好ましい。本明細書において、かかる組成の結晶化ガラスを「本結晶化ガラスB」ともいう。
【0064】
また、本結晶化ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量が60~80%であることが好ましい。SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3は、ガラスの網目形成成分(以下、NWFとも略す)である。これらNWFの総量が多いことで、ガラスの強度が高くなる。それによって結晶化ガラスの破壊靱性値を大きくすることから、NWFの総量は60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上が特に好ましい。しかしNWFが多すぎるガラスは溶融温度が高くなるなど、製造が困難になるから80%以下が好ましく、75%がより好ましく、70%以下がより好ましい。
【0065】
本結晶化ガラスは、Li2O、Na2OおよびK2Oの総量のNWFすなわち、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量に対する比が0.20~0.60であることが好ましい。半導体支持基板用としては、Li2Oに対するAl2O3の含有量の比Al2O3/Li2Oの割合がNWFの総量に対し0.0029~0.0075であれば、樹脂成分の多い半導体パッケージの支持基板として好適な熱膨張係数を保ちながら、ヤング率を高めることができ、パッケージング工程中での反りを低減できる。下限として、好ましくは0.0031以上、より好ましくは0.0032以上であり、上限として、好ましくは0.0064以下、より好ましくは0.0051以下である。ヤング率を高める成分としては、Al2O3が最も効果的であるが、その他にMgO、ZrO2、Y2O3、Ga2O3、BeO、TiO2、Ta2O5が挙げられる。
【0066】
Li2O、Na2OおよびK2Oは網目修飾成分であり、NWFに対する比率を低下させることは、ネットワーク中の隙間を増やすため、耐衝撃性を向上させる。そのため、Li2O、Na2O及びK2Oの総量のNWFすなわち、SiO2、Al2O3、P2O5及びB2O3の総量に対する比は0.60以下が好ましく、0.55以下がより好ましく、0.50以下が特に好ましい。一方、これらは化学強化の際に必要な成分なので、化学強化特性を高くするために、Li2O、Na2O及びK2Oの総量のNWFすなわち、SiO2、Al2O3、P2O5及びB2O3の総量に対する比は0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.30以上が特に好ましい。
以下、このガラス組成を説明する。
【0067】
本非晶質ガラスにおいて、SiO2はガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、SiO2の含有量は40%以上が好ましい。SiO2の含有量は、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは52%以上、極めて好ましくは54%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は70%以下が好ましく、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは66%以下、特に好ましくは64%以下である。
【0068】
Al2O3は化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。Al2O3の含有量は好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは以下順に3%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、特に好ましくは6.5%以上、最も好ましくは7%以上である。一方、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、9%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0069】
Li2Oは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分であり、主結晶の構成成分でるため必須である。Li2Oの含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは14%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上、最も好ましくは22%以上である。一方、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、35%以下が好ましく、より好ましくは32%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは28%以下、最も好ましくは26%以下である。
【0070】
Na2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。Na2Oは必須ではないが、含有する場合は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であり、特に好ましくは2%以上である。Na2Oは多すぎると結晶が析出しにくくなり、または化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は3%以下が好ましく、2.5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1.5%以下が特に好ましい。
【0071】
K2Oは、Na2Oと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。K2Oを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1%以上である。K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下、特に好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.4%以下である。
【0072】
Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上するために1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0073】
また、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。K2O/R2Oは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。
【0074】
なお、R2Oは10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、R2Oは29%以下が好ましく、26%以下がより好ましい。
【0075】
P2O5は、Li3PO4結晶の構成成分であり、必須である。P2O5の含有量は、結晶化を促進するために、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上、極めて好ましくは2.5%以上である。一方、P2O5含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するので、P2O5の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下である。
【0076】
ZrO2は、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。ZrO2の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上であり、最も好ましくは2.5%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrO2は8%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。ZrO2の含有量が多すぎると失透温度の上昇により粘性が低下する。かかる粘性の低下により成形性が悪化するのを抑制するため、成形粘性が低い場合は、ZrO2の含有量は5%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0077】
また、ZrO2/R2Oは、化学的耐久性を高くするためには、0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.04以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましく、0.15以上が最も好ましい。結晶化後の透明性を高くするためには、ZrO2/R2Oは、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.3以下が特に好ましい。
【0078】
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al2O3含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、とくに好ましくは4%以上である。一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなるため、MgOの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下である。
【0079】
TiO2は結晶化を促進し得る成分であり、含有してもよい。TiO2は必須ではないが、含有する場合は、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、TiO2の含有量は4%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0080】
SnO2は結晶核の生成を促成する作用があり、含有してもよい。SnO2は必須ではないが、含有する場合、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、SnO2の含有量は4%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2.5%以下が特に好ましい。
【0081】
Y2O3は化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有させてよい。Y2O3の含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは2.5%以上、極めて好ましくは3%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、Y2O3の含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。
【0082】
B2O3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。B2O3を含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、B2O3の含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため10%以下が好ましい。B2O3の含有量は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0083】
BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。これらの成分を含有させる場合、BaO、SrO、MgO、CaOおよびZnOの含有量の合計(以下、BaO+SrO+MgO+CaO+ZnO)は好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、イオン交換速度が低下するため、BaO+SrO+MgO+CaO+ZnOは8%以下が好ましく、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、4%以下が特に好ましい。
【0084】
このうちBaO、SrO、ZnOは、残留ガラスの屈折率を向上させて析出結晶相に近づけることにより結晶化ガラスの光透過率を向上して、ヘーズ値を下げるために含有してもよい。その場合、BaO、SrOおよびZnOの含有量の合計(以下、BaO+SrO+ZnO)は0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、0.7%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。一方で、これらの成分は、イオン交換速度を低下させる場合がある。化学強化特性を良くするために、BaO+SrO+ZnOは2.5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.7%以下がさらに好ましく、1.5%以下が特に好ましい。
【0085】
La2O3、Nb2O5およびTa2O5は、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらを含有する場合、La2O3、Nb2O5およびTa2O5の含有量の合計(以下、La2O3+Nb2O5+Ta2O5)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La2O3+Nb2O5+Ta2O5は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0086】
また、CeO2を含有してもよい。CeO2はガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeO2を含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeO2の含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0087】
強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、Er2O3、Nd2O3が挙げられる。
【0088】
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0089】
紫外光の照射に対する耐候性を高めるために、HfO2、Nb2O5、Ti2O3を添加してもよい。紫外光照射に対する耐候性を高める目的で添加する場合には、他の特性に影響を抑えるために、HfO2、Nb2O5およびTi2O3の含有量の合計は1%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0090】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO3、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。清澄剤として機能する成分の含有量の合計は、添加しすぎると強化特性、結晶化挙動に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。下限は特に制限されないが、典型的には、酸化物基準の質量%表示で、合計で0.05%以上が好ましい。
【0091】
清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。また、清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0092】
清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、添加しすぎると強化特性などの物性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0093】
清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、添加しすぎると結晶化挙動に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.02%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
【0094】
As2O3は含有しないことが好ましい。Sb2O3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0095】
本結晶化ガラスは、破壊靱性値が高く、化学強化によって大きな圧縮応力を形成しても激しい破壊が生じにくい。本結晶化ガラスの破壊靱性値は、好ましくは0.81MPa・m1/2以上、より好ましくは0.83MPa・m1/2以上、さらに好ましくは0.85MPa・m1/2以上であると、耐衝撃性の高いガラスが得られる。本結晶化ガラスの破壊靱性値の上限は特に制限されないが典型的には1.5MPa・m1/2以下である。
【0096】
本結晶化ガラスのヤング率は、化学強化処理する際に反りを抑制できるために、好ましくは80GPa以上、より好ましくは85GPa以上、さらに好ましくは90GPa以上、特に好ましくは95GPa以上である。本結晶化ガラスは研磨して用いることがある。研磨しやすさのために、ヤング率は130GPa以下が好ましく、120GPa以下がより好ましく、110GPa以下がさらに好ましい。
【0097】
また、非晶質ガラスのヤング率が80GPa以上であれば、非晶質ガラスの状態でも反りを抑制できるため、半導体用支持基板用として好適である。好ましくは、好ましくは85GPa以上、より好ましくは90GPa以上、さらに好ましくは95GPa以上である。研磨しやすさのために、ヤング率は130GPa以下が好ましく、120GPa以下がより好ましく、110GPa以下がさらに好ましい。
【0098】
本結晶化ガラスのクラック本数が2本となる押し込み荷重値(CIL)は、落下時のクラック発生を抑えるという観点で、好ましくは50gf以上、より好ましくは100gf以上、さらに好ましくは150gf以上、最も好ましくは200gf以上である。
【0099】
<非晶質ガラス>
本結晶化ガラスは以下に説明する非晶質ガラス(本発明にかかる非晶質ガラス)を加熱処理することで得られる。本発明にかかる非晶質ガラスの組成は、上記した本結晶化ガラスの組成と同様である。
【0100】
本発明にかかる非晶質ガラス(以下、本非晶質ガラスとも略す)は、酸化物基準のモル%表示でSiO2を40~70%、Li2Oを10~35%、Al2O3を1~15%含有することが好ましい。
【0101】
本非晶質ガラスの好ましい組成としては、例えば、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を40~70%、Li2Oを10~35%、Al2O3を1~15%、P2O5を0.5~5%、ZrO2を0.5~5%、B2O3を0~10%、Na2Oを0~3%、K2Oを0~1%、SnO2を0~4%、含有する組成が挙げられる。
【0102】
または、本非晶質ガラスの好ましい組成としては、例えば、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を50~70%、Li2Oを15~30%、Al2O3を1~10%、P2O5を0.5~5%、ZrO2を0.5~8%、MgOを0.1~10%、Y2O3を0~5%、B2O3を0~10%、Na2Oを0~3%、K2Oを0~1%、SnO2を0~2%、含有する組成が挙げられる。
【0103】
本非晶質ガラスは、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量が60~80%であることが好ましい。また、Li2O、Na2OおよびK2Oの総量の、SiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の総量に対する比が0.20~0.60であることが好ましい。
【0104】
本非晶質ガラスのガラス転移点Tgは、化学強化時に構造緩和を起こさないために400℃以上が好ましく、450℃以上がより好ましく、500℃以上がさらに好ましい。また、650℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。
【0105】
本非晶質ガラスを粉砕し、示差走査熱量計を用いて得られるDSC曲線から求められるガラス転移点(Tg)と、そのDSC曲線において最も低温度域にあらわれる結晶化開始温度(Tx)との差(Tx-Tg)は、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。(Tx-Tg)が大きいと、結晶化ガラスを再加熱して曲げ加工等しやすい。
【0106】
本非晶質ガラスの50℃~350℃における平均熱膨張係数は、70×10-7℃以上が好ましく、75×10-7℃以上がより好ましく、80×10-7℃以上が最も好ましい。
【0107】
熱膨張係数が大き過ぎると化学強化の過程で熱膨張差により割れが発生する可能性があるため、好ましくは120×10-7℃以下、より好ましくは110×10-7℃以下、さらに好ましくは100×10-7℃以下である。
【0108】
また、このような熱膨脹係数であると、樹脂成分の多い半導体パッケージの支持基板として好適である。
【0109】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明の化学強化ガラスは、結晶化ガラスを化学強化処理して製造する。該結晶化ガラスは、前述の非晶質ガラスを加熱処理して結晶化する方法で製造する。
【0110】
(非晶質ガラスの製造)
非晶質ガラスは、例えば、以下の方法で製造できる。なお、以下に記す製造方法は、板状の化学強化ガラスを製造する場合の例である。
【0111】
好ましい組成のガラスが得られるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等により溶融ガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。または、溶融ガラスをブロック状に成形して、徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0112】
(結晶化処理)
上記の手順で得られた非晶質ガラスを加熱処理(例えば、好ましくは450℃以上800℃以下)することで結晶化ガラスが得られる。
【0113】
加熱処理は、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、第一の処理温度より高温である第二の処理温度に一定時間保持する2段階の加熱処理によってもよい。または、特定の処理温度に保持した後、室温まで冷却する1段階の加熱処理によってもよい。
【0114】
二段階の加熱処理による場合、第一の処理温度は、そのガラス組成において結晶核生成速度が大きくなる温度域が好ましく、第二の処理温度は、そのガラス組成において結晶成長速度が大きくなる温度域が好ましい。また、第一の処理温度での保持時間は、充分な数の結晶核が生成するように長く保持することが好ましい。多数の結晶核が生成することで、各結晶の大きさが小さくなり、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0115】
二段階の処理による場合は、例えば450℃~700℃の第一の処理温度で1時間~6時間保持した後、例えば600℃~800℃の第二の処理温度で1時間~6時間保持することが挙げられる。一段階の処理による場合は、例えば500℃~800℃で1時間~6時間保持することが挙げられる。
【0116】
溶融ガラスを均質化し、所定の厚さのガラス板に成形し、または、溶融ガラスをブロック状に成形し、引き続いて、連続的に結晶化処理を行ってもよい。
【0117】
板状のガラスを加熱処理する場合、セッター板としては、例えば、炭化ケイ素板、窒化ケイ素板、SiN板、アルミナ板、ムライトコーディライト板、ムライト板、結晶化ガラス板などが挙げられる。また、熱処理時の温度ムラを低減するために熱伝導率が大きい材質が好ましい。セッター板の熱伝導率は、好ましくは2W/(m・K)以上であり、より好ましくは20W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは40W/(m・K)以上である。
【0118】
ガラスがセッター板と固着を防ぐために離型剤を用いることができる。離型剤としては、例えば、アルミナクロス、ガラスクロスが挙げられる。また、例えば、粉状の窒化ホウ素、アルミナ、鉱物などが挙げられる。粉状の離型剤は溶剤と混ぜ、スプレー等で塗布してもよい。粒子状のものを用いる場合、平均粒径は80μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。
【0119】
ガラスを熱処理する場合、作業効率を高めるために積層してもよい。積層する場合には、ガラスとガラスの間に離型剤を用いることが好ましい。また、ガラスとガラスとの間にセッター板を置いてもよい。
【0120】
上記手順で得られた結晶化ガラスを必要に応じて研削及び研磨処理して、結晶化ガラス板を形成する。結晶化ガラス板を所定の形状及びサイズに切断したり、面取り加工を行ったりする場合、化学強化処理を施す前に、切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0121】
(化学強化処理)
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に浸漬する等の方法で、ガラスを金属塩に接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)と置換させる処理である。
【0122】
化学強化処理の速度を速くするためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換する「Li-Na交換」を利用することが好ましい。またイオン交換により大きな圧縮応力を形成するためには、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換する「Na-K交換」を利用することが好ましい。
【0123】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
化学強化処理の処理条件は、ガラス組成や溶融塩の種類などを考慮して、時間及び温度等を選択できる。例えば、本結晶化ガラスを好ましくは450℃以下にて好ましくは1時間以下の化学強化処理が挙げられる。具体的には例えば、好ましくは450℃の0.3質量%のLi及び99.7質量の%Naを含有する溶融塩(例えば、硝酸リチウム及び硝酸ナトリウムの混合塩)に好ましくは0.5時間程度浸漬する処理が挙げられる。
【0125】
化学強化処理は、例えば、次のように2段階のイオン交換によってもよい。まず、本結晶化ガラスを好ましくは350~500℃程度のNaイオンを含む金属塩(例えば、硝酸ナトリウム)に好ましくは0.1~10時間程度浸漬する。これによって結晶化ガラス中のLiイオンと金属塩中のNaイオンとのイオン交換が生じ、比較的深い圧縮応力層が形成できる。
【0126】
次に、好ましくは350~500℃程度のKイオンを含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)に好ましくは0.1~10時間程度浸漬する。これによって、前の処理で形成された圧縮応力層の、例えば深さ10μm程度以内の部分に、大きな圧縮応力が生じる。このような2段階の処理によれば、表面圧縮応力値が大きい応力プロファイルが得られやすい。
【0127】
<半導体支持基板>
本発明の半導体支持基板(以下、支持ガラスと記すこともある)について説明する。本発明の半導体支持基板は、本発明の非晶質ガラス、結晶化ガラスからなる。強度を高くするためには、本発明の強化ガラスからなることがより好ましい。
【0128】
本非晶質ガラス、結晶化ガラスまたは本強化ガラスは、熱膨張係数が大きいので、ファンアウト型パッケージ向けの支持基板に適している。ファンアウト型パッケージングでは、半導体チップと樹脂成分との比率により、様々な平均熱膨張率のパッケージ体が形成されるが、近年は、モールド樹脂の流動性を高く、充填不良を少なくすることが求められることがあることから、樹脂成分が多く、平均熱膨張率の高いパッケージ体が用いられることが多い。
【0129】
図6(A)及び
図6(B)は、半導体基板と貼り合わせる支持ガラスの断面図の一例である。
図6(A)に表される支持ガラスG1は、半導体基板10と、剥離層20(接合層として機能してもよい)を介して、例えば、200℃~400℃の温度で貼り合わされ、
図6(B)に表される積層基板30が得られる。半導体基板10としては、例えば、原寸の半導体ウェハ、半導体チップ、半導体チップが樹脂にモールドされた基板、素子が形成されたウェハ等が用いられる。剥離層20は、例えば、200~400℃の温度に耐えられる樹脂である。
【0130】
本支持基板は、半導体基板と貼り合わせて使用される。例えば、ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス、ウェハレベルパッケージによる素子の小型化が有効なMEMS、CMOSおよびCIS等のイメージセンサ用の支持ガラス、貫通孔を有する支持ガラス(ガラスインターポーザ;GIP)、並びに半導体バックグラインド用のサポートガラス等に使用される。本支持ガラスは、特に、ファンアウト型のウェハレベルおよびパネルレベルパッケージ用の支持ガラスとして好適である。
【0131】
図7は、本支持ガラスをファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持基板として用いる積層基板の断面図の一例である。
【0132】
ファンアウト型のウェハレベルパッケージでは、例えば、200℃~400℃の温度で、支持ガラスG2と半導体基板40とを樹脂等の剥離層50(接合層として機能してもよい)を介して積層させる。さらに半導体基板40を樹脂60で包埋することにより積層基板70が得られる。その後、例えば紫外線を、支持ガラスG2を通して剥離層50にレーザーを照射させることにより、支持ガラスG2と樹脂60で包埋された半導体基板40とは剥離される。支持ガラスG2は再利用可能である。樹脂60で包埋された単導体基板40は、銅線等により配線される。また、剥離層の上に予め銅線等の配線を行ってもよい。なお、樹脂60で半導体チップが包埋された基板を半導体基板としてもよい。
【0133】
本支持基板は、光透過率が高いので、剥離に用いるレーザーとしてエネルギーの大きい可視光レーザーや紫外光レーザーが効果的に利用できる。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれによって限定されない。
【0135】
[実験例1]
<非晶質ガラスの作製と評価>
表1~2に酸化物基準のモル%表示で示したガラス組成となるようにガラス原料を調合し、800gのガラスが得られるように秤量した。ついで、混合したガラス原料を白金るつぼに入れ、1600℃の電気炉に投入して5時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
【0136】
得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。得られたブロックの一部を用いて、非晶質ガラスのガラス転移点、比重、ヤング率、破壊靱性値、熱膨張係数を評価した結果を表1~2に示す。
【0137】
表における空欄は未評価を示す。表におけるR2OはLi2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計、NWFはSiO2、Al2O3、P2O5およびB2O3の含有量の合計をそれぞれ表す。
【0138】
G3~G8、G11、G13、G14は本発明にかかる非晶質ガラスの例であり、G1、G2、G9、G10、G12、G15、G16は比較例である。
【0139】
(比重 ρ)
アルキメデス法で測定した。
【0140】
(ガラス転移点 Tg)
メノウ乳鉢を用いてガラスを粉砕し、約80mgの粉末を白金セルに入れて昇温速度を10/分として室温から1100℃まで昇温しながら、示差走査熱量計(ブルカー社製;DSC3300SA)を用いてDSC曲線を測定し、ガラス転移点Tgを求めた。
または、JIS R1618:2002に基づき、熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製;TD5000SA)を用いて、昇温速度を10℃/分として熱膨張曲線を得て、得られた熱膨張曲線からガラス転移点Tg[単位:℃]と熱膨張係数[単位:1/K]を求めた。
【0141】
(ヘーズ値)
ヘーズメーター(スガ試験機製;HZ-V3)を用いて、ハロゲンランプC光源でのヘーズ値[単位:%]測定した。
【0142】
(ヤング率 E)
超音波パルス法(JIS R1602)で測定した。
【0143】
(破壊靱性値 Kc)
JIS R1607:2015に準拠してIF法で測定した。
【0144】
【0145】
【0146】
<結晶化処理および結晶化ガラスの評価>
得られたガラスブロックを50mm×50mm×1.5mmに加工してから、表3~4に記載した条件で熱処理して結晶化ガラスを得た。表の結晶化条件欄は、上段が核生成処理条件、下段が結晶成長処理条件であり、たとえば上段に550℃2h、下段に730℃2hと記載した場合は、550℃で2時間保持した後、730℃に2時間保持したことを意味する。
【0147】
結晶化処理において離型剤の効果を確認した。G13のガラスをアルミナ板のセッター板の上に離型剤を用いずに熱処理したところ、ガラスがセッター板に固着した。離型剤として窒化ホウ素を用いたところ、ガラスとセッター板の固着が無く、結晶化ガラスが得られた。離型剤として、アルミナクロス、アルミナシート、アルミナ粒子、ガラスクロス、タルクを用いた場合も、いずれもガラスとセッター板との固着が無く、結晶化ガラスが得られた。
【0148】
G13のガラスを離型剤としてアルミナシートを用い、セッター板としてSiC板、アルミナ板、ムライトコーディライト板、ムライト板を用いて熱処理した結果、いずれも結晶化ガラスが得られた。
【0149】
例4、5、7、9、12~14は実施例、例1~3、6、8、10、11は比較例である。
【0150】
得られた結晶化ガラスを加工し、鏡面研磨して厚さtが0.7mmの結晶化ガラス板を得た。また、熱膨張係数を測定するための棒状試料を作製した。残った結晶化ガラスの一部は粉砕して、析出結晶の分析に用いた。結晶化ガラスの評価結果を表3~4に示す。空欄は未評価を示す。
【0151】
(X線回折:析出結晶)
以下の条件で粉末X線回折を測定し、析出結晶を同定した。
測定装置:リガク社製 Smart Lab
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~80°
スピード:1°/分
ステップ:0.01°
【0152】
検出された主結晶を表3~4の結晶の欄に示す。Li
3PO
4とLi
4SiO
4とは粉末X線回折による判別が困難なので、双方を併記している。
図1に例4の結晶化ガラスをX線回折で測定した結果を示す。
【0153】
(ヘーズ値)
ヘーズメーター(スガ試験機製;HZ-V3)を用いて、ハロゲンランプC光源でのヘーズ値[単位:%]測定した。
【0154】
(CIL)
両面を鏡面研磨した、厚さ0.7mmの板状のガラスを用意した。ビッカース硬度試験機にて、ビッカース圧子(先端部の角度は136°)を15秒押し込んだ後にビッカース圧子をはずし、15秒後に圧痕付近を観測した。観測では、圧痕のコーナーからクラックが何本発生しているかを調査した。測定は、10gf、25gf、50gf、100gf、200gf、300gf、500gfのビッカース圧子の押し込み荷重別に、10枚のガラスに対して行った。発生したクラック本数の平均値を荷重ごとに算出した。荷重とクラック本数との関係を、シグモイド関数を用いて回帰計算した。回帰計算結果から、クラック本数が2本となる荷重を前記押し込み荷重値(gf)とした。なお、測定の雰囲気条件は、気温25℃、露点-40℃である。
【0155】
(STリミット)
試験用ガラス板として、15mm角で厚さが0.7mmであり、かつ表面を鏡面仕上げとしたものを種々の条件で化学強化処理し、ST値の異なる複数の試験用ガラス板を準備した。
ビッカース試験機を用いて、試験用ガラス板の中央部分に、先端の角度が90°のダイヤモンド圧子を打ち込んでガラス板を破壊させ、破片の個数を破砕数とした。ダイヤモンド圧子の打ち込み荷重は1kgfから試験を開始し、ガラス板が割れなかった場合は、打ち込み荷重を1kgfずつ増やして、ガラス板が割れるまで試験を繰り返し、最初に割れた時の破砕数を数えた。
試験用ガラス板のST値に対して、破砕数をプロットし、破砕数が10となるST値を読み取ってSTリミットとした。
【0156】
【0157】
【0158】
表3および4に示している例5と例6はG5の熱処理条件が異なり、例7と例8はG6の熱処理条件が異なる。例5と例6との比較、および例7と例8との比較により、本発明の結晶化ガラスは同じ組成でも熱処理温度を変えることで析出する結晶が変化し、異なるヘーズを示すことがわかる。本発明の結晶化ガラスはLi3PO4またはLi4SiO4を析出させることでヘーズが小さくなり、優れた透明性を有することを示している。
【0159】
<化学強化処理および強化ガラスの評価>
例4および例14の結晶化ガラスについて以下の方法で化学強化し、それぞれ例15及び例16とした。例15及び例16は実施例である。強化塩として硝酸リチウム0.3質量%、硝酸ナトリウム99.7質量%を含有する溶融塩を用い、450℃にて30分間保持してイオン交換処理を行い、化学強化ガラスを得た。得られた化学強化ガラスについて、折原製作所製散乱光光弾性応力計SLP-2000を用いて応力プロファイルを測定した。結果を表5に示す。表5において、ガラスG4の結晶化ガラスをGC4、ガラスG14の結晶化ガラスをGC14として示す。また、
図2に、例4の結晶化ガラスを化学強化した化学強化ガラスS1の応力プロファイルを示す。
【0160】
【0161】
表5に示すように、本発明の化学強化ガラスは、透明性と強度に優れている。
【0162】
[実験例2]
<非晶質ガラスの作製と評価>
実験例1と同様にして、表6に酸化物基準のモル%表示で示すガラス組成の非晶質ガラスを作製し、その特性を評価した。破壊靱性値K1cは下記の方法により評価した。結果を表6に示す。
【0163】
(破壊靱性値K1c)
DCDC法によって破壊靱性値K1c(単位:MPa・m
1/2)を測定した。M.Y. He, M.R. Turner and A.G. Evans, Acta Metall. Mater. 43 (1995) 3453.に記載の方法を参考に、DCDC法により、
図4に示される形状のサンプルおよびSHIMADZUオートグラフAGS-X5KNを用いて、
図5に示されるような、応力拡大係数K1(単位:MPa・m
1/2)とクラック進展速度v(単位:m/s)との関係を示すK1-v曲線を測定し、得られたRegionIIIのデータを一次式で回帰、外挿し、0.1m/sの応力拡大係数K1を破壊靭性値K1cとした。
【0164】
【0165】
<結晶化処理および結晶化ガラスの評価>
実験例1と同様にして結晶化ガラスを得た、その特性を評価した。ただし、X線回折については、下記条件により評価した。
【0166】
(X線回折:析出結晶)
以下の条件で粉末X線回折を測定し、析出結晶を同定した。
測定装置:リガク社製 Smart Lab
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~80°
スピード:10°/分
ステップ:0.02°
【0167】
結果を表7に示す。表7において、例18~27は実施例、例17は比較例である。
【0168】
【0169】
表7に示すように、本発明のガラスは、ヘーズ値が小さく、優れた透明性を有していた。
【0170】
表3の例2と表7の例21の耐薬品性を評価した。室温でpH1のHClに1分浸漬した後、65℃のpH12.5のNaOHに6分浸漬した。その後Hazeと透過率を測定したところ、例2はHazeが0.73%まで上昇し、550nmの透過率が4.8%低下した。一方で、例21はHazeが0.03%とほとんど変化せず、550nmの透過率も0.7%しか低下していないことがわかった。Li3PO4結晶を析出している例21はLi2SiO3結晶を析出している例2に比べて耐薬品性が優れていることが分かる。
【0171】
[実験例3]
〈非晶質ガラスの作製と評価〉
実施例1と同様にして、表8に酸化物基準のモル%表示で示すガラス組成の非晶質ガラスを作製し、その特性を評価した。ただし、清澄剤として添加しているSO3、Cl、SnO2は質量%で表示する。結果を表8に示す。
【0172】
【0173】
〈結晶化処理および結晶化ガラスの評価〉
実施例1同様にして結晶化ガラスを得て、その特性を評価した。結果を表9に示す。表9において、例28~例33はすべて実施例である。
【0174】
【0175】
表9に示すように、本発明のガラスは、清澄剤SO3、Cl、SnO2を単体または組み合わせて添加しても光学特性および機械的特性に影響を及ぼさないことがわかる。
【0176】
表10に非晶質ガラスと発明のガラスの研磨レートを示す。例34は比較例、例4と例21は実施例である。
【0177】
【0178】
表10に示すように、本発明のガラスは結晶化後の研磨レートが一般的な非晶質ガラスより大きく、加工性に優れていることがわかる。
【0179】
図3は例21の断面FE-SEM像である。
図3において、析出結晶の例を白矢印で示す。以下の条件で析出結晶のサイズを測定した結果、20-50nmであることがわかった。結晶サイズが小さいため、散乱の影響を受けにくく、光学特性に優れる。
装置:JEOL製JSM-7800F Primeで測定した。
測定条件:
Vacc:5kV、Coating:W、UED像
【0180】
リートベルト解析では、析出結晶をLi6.5(Si,P)O8とした場合、結晶化度は18.2%、結晶子径が15nmであった。
【0181】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2020年8月21日付けで出願された日本特許出願(特願2020-140347)および2021年5月28日付けで出願された日本特許出願(特願2021-090475)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。