(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20241217BHJP
C03B 18/02 20060101ALI20241217BHJP
C03B 19/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C03C3/087
C03B18/02
C03B19/00 A
(21)【出願番号】P 2023199180
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2022139139の分割
【原出願日】2019-03-13
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018046854
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 博文
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224150(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183626(WO,A1)
【文献】特開2007-228446(JP,A)
【文献】特開2012-090206(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038059(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161902(WO,A1)
【文献】特許第7136189(JP,B2)
【文献】特許第7396413(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/00 - 3/32
C03B 17/06
C03B 18/02
C03B 19/00
G02F 1/333
G09F 9/30
G11B 5/73
G11B 7/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が2.60g/cm
3以下、歪点が650~710℃、ガラス粘度が10
4dPa・sとなる温度T
4が1320℃以下、ガラス表面失透温度(T
c)がT
4+20℃以下、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10
-7~43×10
-7/℃であり、
比弾性率が34MN
・m
/kg以上であり、
酸化物基準のモル%表示で
SiO
2を64~70%、
Al
2O
3を10~14%、
MgOを8.5~13%、
CaOを6~10%、
Li
2O、Na
2O及びK
2Oからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を合計で0~0.5%、
P
2O
5を0~1%、
含むガラス。
【請求項2】
ガラス表面失透粘度(η
c)が10
3.8dPa・s以上である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
粘度が10
2dPa・sとなる温度T
2が1680℃以下である、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
ガラス転移点が730~790℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項5】
酸化物基準のモル%表示で
B
2O
3を0~5%、
SrOを0~10%、
BaOを0~10%、
Na
2Oを0.005~0.2%、
Fを0.001~0.5%、
Li
2O、Na
2O及びK
2Oからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を合計で0~0.5%含み、
MgO+CaO+SrO+BaOが22%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項6】
MgO/CaOが0.85~1.33である、請求項5に記載のガラス。
【請求項7】
β-OH値が0.1~0.6mm
-1である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項8】
下記式(I)で表される値が4.10以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス。
(7.87[Al
2O
3]-8.5[B
2O
3]+11.35[MgO]+7.09[CaO]+5.52[SrO]-1.45[BaO])/[SiO
2]・・・式(I)
【請求項9】
下記式(II)で表される値が0.95以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス。
{-1.02[Al
2O
3]+10.79[B
2O
3]+2.84[MgO]+4.12[CaO]+5.19[SrO]+3.16[BaO]+11.07×([Li
2O]+[Na
2O]+[K
2O])+3.954[F]+5.677[β-OH]}/[SiO
2]・・・式(II)
【請求項10】
下記式(III)で表される値が5.5以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のガラス。
(8.9[Al
2O
3]+4.26[B
2O
3]+11.3[MgO]+4.54[CaO]+0.1[SrO]-9.98[BaO])×{1+([MgO]/[CaO]-1)
2}/[SiO
2]・・・式(III)
【請求項11】
酸化物基準のモル%表示で、SnO
2を0.5%以下含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項12】
コンパクションが100ppm以下である請求項1~11のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項13】
等価冷却速度が5~500℃/minである、請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項14】
少なくとも一辺が1800mm以上で、厚みが0.7mm以下のガラス板である、請求項1~13のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項15】
フロート法又はフュージョン法で製造される、請求項14に記載のガラス。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のガラスを有するディスプレイパネル。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載のガラスを有する半導体デバイス。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載のガラスを有する情報記録媒体。
【請求項19】
請求項1~15のいずれか1項に記載のガラスを有する平面型アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイ用、フォトマスク用、電子デバイス支持用、情報記録媒体用、平面型アンテナ用などのガラス基板として好適なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ディスプレイ用、フォトマスク用、電子デバイス支持用、情報記録媒体用、平面型アンテナ用のガラス板(ガラス基板)、特に表面に金属または酸化物等の薄膜を形成されるガラス板に用いるガラスでは、以下の(1)~(4)などの特性が要求される。
(1)ガラスがアルカリ金属酸化物を含有する場合、アルカリ金属イオンが上記薄膜中に拡散して薄膜の膜特性を劣化させるので、ガラスが実質的にアルカリ金属イオンを含まないこと。
(2)薄膜形成工程でガラス板が高温にさらされる際に、ガラス板の変形およびガラスの構造安定化に伴う収縮(熱収縮)を最小限に抑えうるように歪点が高いこと。
【0003】
(3)半導体形成に用いる各種薬品に対して充分な化学耐久性を有すること。特にSiOxやSiNxのエッチングに用いるバッファードフッ酸(BHF:フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液)、ITOのエッチングに用いる塩酸を含有する薬液、金属電極のエッチングに用いる各種の酸(硝酸、硫酸等)、および、レジスト剥離液のアルカリ等に対して耐久性のあること。
(4)内部および表面に欠点(泡、脈理、インクルージョン、ピット、キズ等)がないこと。
【0004】
上記の要求に加えて、近年、更に、以下の(5)~(9)の要求もされている。
(5)ディスプレイの軽量化が要求されるので、比重の小さいガラスが望まれる。
(6)ディスプレイの軽量化が要求されるので、ガラス板の薄板化が望まれる。
(7)これまでのアモルファスシリコン(a-Si)タイプの液晶ディスプレイに加え、熱処理温度の高い多結晶シリコン(p-Si)タイプの液晶ディスプレイが作製されるようになってきた(a-Siの熱処理温度:約350℃、p-Siの熱処理温度:350~550℃)ので、耐熱性が求められる。
【0005】
(8)液晶ディスプレイの作製の際の熱処理の昇降温速度を速くして生産性を上げたり、耐熱衝撃性を上げたりする目的で、平均熱膨張係数の小さいガラスが求められる。一方で、ガラスの平均熱膨張係数が小さすぎる場合、液晶ディスプレイ作製の際のゲート金属膜やゲート絶縁膜などの各種成膜工程が多くなると、ガラスの反りが大きくなってしまい、液晶ディスプレイの搬送時に割れや傷が生じるなどの不具合が起き、露光パターンのずれが大きくなってしまうなどの問題がある。
(9)また、ガラス基板の大型化・薄板化に伴い、比弾性率(ヤング率/密度)が高いガラスが求められている。
【0006】
上記のような要求を満たす目的で、これまで、例えば、液晶ディスプレイパネル用ガラスでは、様々なガラス組成が提案されている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第5702888号明細書
【文献】国際公開第2013/183626号
【文献】日本国特許第5849965号明細書
【文献】日本国特許第5712922号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電子ディスプレイの更なる高解像度化が進んでおり、大型テレビにおいては高精細化に伴い、例えばCu配線の膜厚が上がるなどして、各種の成膜による基板の反りが大きくなりやすくなっている。そこで、反りが少ない基板へのニーズが高まっており、これに応えるためにはガラスのヤング率を高くする必要がある。
しかしながら、特許文献3、4に記載されるような公知のヤング率の高いガラスは歪点が高く、粘度が104dPa・sとなる温度T4に比べて失透温度が高い傾向にある。その結果、ガラスの成型が難しくなり、製造設備への負荷が大きくなるので、生産コストの増加が懸念される。
【0009】
本発明は、ガラス基板の反りなどの変形を抑制でき、かつ、成型性に優れ、製造設備への負担が低く、大型で薄いガラス基板を製造し易いガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成する本発明のガラスは、密度が2.60g/cm3以下、ヤング率が88GPa以上、歪点が650~720℃、ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1320℃以下、ガラス表面失透温度(Tc)がT4+20℃以下、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~43×10-7/℃であり、酸化物基準のモル%表示でSiO2を50~80%、Al2O3を8~20%、Li2O、Na2O及びK2Oからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を合計で0~0.5%、P2O5を0~1%含む。
【0011】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、比弾性率が34MN・m/kg以上であってもよい。
【0012】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、ガラス表面失透粘度(ηc)が103.8dPa・s以上であってもよい。
【0013】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、粘度が102dPa・sとなる温度T2が1680℃以下であってもよい。
【0014】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、ガラス転移点が730~790℃であってもよい。
【0015】
本発明の無アルカリガラスの一態様は、酸化物基準のモル%表示で
SiO2を50~80%、
Al2O3を8~20%、
B2O3を0~5%、
MgOを0~15%、
CaOを0~12%、
SrOを0~10%、
BaOを0~10%、
Na2Oを0.005~0.2%、
Fを0.001~0.5%、
P2O5を0~1%、
Li2O、Na2O及びK2Oからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を合計で0~0.5%含み、
MgO+CaO+SrO+BaOが18~22%であってもよい。
【0016】
本発明の無アルカリガラスの一態様は、酸化物基準のモル%表示でMgOを0.1~15%、CaOを1~12%含み、MgO/CaOが0.7~1.33であってもよい。
【0017】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、β-OH値が0.1~0.6mm-1であってもよい。
【0018】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、下記式(I)で表される値が4.10以上であってもよい。
(7.87[Al2O3]-8.5[B2O3]+11.35[MgO]+7.09[CaO]+5.52[SrO]-1.45[BaO])/[SiO2]・・・式(I)
【0019】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、下記式(II)で表される値が0.95以上であってもよい。
{-1.02[Al2O3]+10.79[B2O3]+2.84[MgO]+4.12[CaO]+5.19[SrO]+3.16[BaO]+11.07×([Li2O]+[Na2O]+[K2O])+3.954[F]+5.677[β-OH]}/[SiO2]・・・式(II)
【0020】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、下記式(III)で表される値が5.5以下であってもよい。
(8.9[Al2O3]+4.26[B2O3]+11.3[MgO]+4.54[CaO]+0.1[SrO]-9.98[BaO])×{1+([MgO]/[CaO]-1)2}/[SiO2]・・・式(III)
【0021】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、酸化物基準のモル%表示で、SnO2を0.5%以下含有してもよい。
【0022】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、コンパクションが100ppm以下であってもよい。
【0023】
本発明の無アルカリガラスの一態様においては、等価冷却速度が5~500℃/minであってもよい。
【0024】
本発明の無アルカリガラスの一態様は、少なくとも一辺が1800mm以上で、厚みが0.7mm以下のガラス板であってもよい。
【0025】
本発明の無アルカリガラスの一態様は、フロート法又はフュージョン法で製造されてもよい。
【0026】
また、本発明のディスプレイパネルは、本発明のガラスを有する。
【0027】
また、本発明の半導体デバイスは、本発明のガラスを有する。
【0028】
また、本発明の情報記録媒体は、本発明のガラスを有する。
【0029】
また、本発明の平面型アンテナは、本発明のガラスを有する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ガラス基板の反りなどの変形を抑制でき、かつ、成型性に優れ、製造設備への負担が低く、大型で薄いガラス基板を製造し易いガラスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
以下において、ガラスの各成分の組成範囲は、酸化物基準のモル%で表示する。
以下において、「数値A~数値B」で示された数値範囲は、数値Aおよび数値Bをそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示し、数値A以上、数値B以下を意味する。
【0032】
まず、本実施形態のガラスの組成について説明する。
SiO2の含有量が50モル%(以下、単に、%という)未満では、歪点が充分に上がらず、かつ、平均熱膨張係数が増大し、比重が上昇する傾向がある。そのため、SiO2の含有量は50%以上であり、好ましくは62%以上、より好ましくは62.5%以上、さらに好ましくは63%以上、特に好ましくは63.5%以上、最も好ましくは64%以上である。
SiO2の含有量が80%超では、ガラスの溶解性が低下し、ヤング率が低下し、失透温度が上昇する傾向がある。そのため、SiO2の含有量は80%以下であり、好ましくは70%以下、より好ましくは68%以下、さらに好ましくは67%以下、特に好ましくは66%以下、最も好ましくは65.7%以下である。
【0033】
Al2O3は、ヤング率を上げてたわみを抑制し、かつガラスの分相性を抑制し、平均熱膨張係数を下げ、歪点を上げ、破壊靱性値を向上させてガラス強度を上げる。Al2O3の含有量が8%未満では、これらの効果があらわれにくく、また、平均熱膨張係数を増大させる他成分が相対的に増加することになるので、結果的に平均熱膨張係数が大きくなる傾向がある。そのため、Al2O3の含有量は8%以上であり、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは12.5%以上、特に好ましくは12.8%以上、最も好ましくは13%以上である。
Al2O3の含有量が20%超ではガラスの溶解性が悪くなり、また、失透温度が上昇するおそれがある。そのため、Al2O3の含有量は20%以下であり、好ましくは16.5%以下であり、より好ましくは16%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは14.5%以下であり、最も好ましくは14%以下である。
【0034】
B2O3は、必須成分ではないが、耐BHF性を改善し、かつガラスの溶解反応性をよくし、失透温度を低下させるので、6%以下含有させてもよい。B2O3の含有量は6%以下であり、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下である。
B2O3はヤング率を下げるのでため、B2O3の含有量はより好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.2%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1.7%以下、最も好ましくは1.5%以下である。
【0035】
MgOは、必須成分ではないが、比重を上げずにヤング率を上げるので、比弾性率を高くしてたわみを抑制でき、また、破壊靱性値を向上させてガラス強度を上げるため含有させることができる。また、MgOは溶解性も向上させる。MgOの含有量が1%未満では、これらの効果が現れにくく、また、熱膨張係数が低くなりすぎるおそれがある。そのため、MgOの含有量は1%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましく、8.2%以上が特に好ましく、8.5%以上が最も好ましい。
しかし、MgO含有量が多すぎると、失透温度が上昇しやすくなる。そのため、MgOの含有量は15%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、9.7%以下が特に好ましい。
【0036】
CaOは、必須成分ではないが、アルカリ土類金属中ではMgOに次いで比弾性率を高くし、かつ歪点を低下させすぎないという特徴を有し、MgOと同様に溶解性も向上させるため含有させることができる。さらに、CaOはMgOと比べて失透温度を高くしにくいという特徴も有する。CaOの含有量が1%未満では、これらの効果が現れにくくなる。そのため、CaOの含有量は1%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましく、8%以上が特に好ましく、8.5%以上が最も好ましい。
CaOの含有量が12%超では平均熱膨張係数が高くなりすぎ、また失透温度が高くなってガラスの製造時に失透しやすくなる。そのため、CaOの含有量は12%以下が好ましく、より好ましくは10.5%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0037】
SrOは、必須成分ではないがガラスの失透温度を上昇させずに溶解性を向上させるので、含有させることができる。但し、SrOの含有量が0.5%未満ではこれらの効果が現れにくい。そのため、SrOの含有量は0.5%以上が好ましく、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは1.2%以上であり、特に好ましくは1.5%以上である。
SrOは上記効果がBaOよりも低く、SrOの含有量を多くしすぎるとむしろ比重を大きくする効果が勝り、平均熱膨張係数も高くなりすぎ得る。そのため、SrOの含有量は10%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0038】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの失透温度を上昇させずに溶解性を向上させるので、本実施形態のガラスに含有させてもよい。しかし、BaOの含有量が過剰だと比重が大きくなり、ヤング率が下がり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、BaOの含有量は10%以下が好ましく、より好ましくは0.5%以下である。本実施形態のガラスはBaOを実質的に含有しないことがさらに好ましい。
なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。本実施形態において、BaOを実質的に含有しない場合のBaOの含有量は、例えば0.3%以下であり、好ましくは0.2%以下である。
【0039】
アルカリ土類金属酸化物の合計量、即ち、MgO+CaO+SrO+BaO(以下、「RO」ともいう)が少ないと、失透温度が高くなり、すなわち、失透粘度が低くなり、成形性が悪化する。そのため、ROは18%以上とする。
ROが多すぎると、平均熱膨張係数が大きくなるおそれがあり、また、耐酸性が悪くなるおそれがある。そのため、ROは22%以下であり、20.7%以下が好ましく、20.5%以下がより好ましい。
【0040】
また、MgOが1%以上かつCaOが1%以上のとき、CaOの含有量に対するMgOの含有量の割合、すなわち、MgO/CaOが小さいと、CaO-Al2O3-SiO2系の結晶が析出しやすくなり、成形性が悪化する。具体的には、失透温度が高くなる、すなわち、失透粘度低くなる。そのため、MgO/CaOは0.7以上であり、0.8以上が好ましく、0.85以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、0.92以上が特に好ましい。但し、MgO/CaOが大きすぎるとMgO-Al2O3-SiO2系の結晶が析出しやすくなり、失透温度が高くなる、すなわち、失透粘度低くなる。そのため、MgO/CaOは1.33以下であり、1.3以下が好ましく、1.25以下がより好ましく、さらに好ましくは1.2%以下、特に好ましくは1.1%以下、最も好ましくは1.05%以下である。
【0041】
本実施形態のガラスでは、原料不純物等からアルカリ金属酸化物が不可避的に含有され、また、溶解性を向上させる目的でごく微量のアルカリ金属酸化物の含有は許容される。
しかし、本実施形態のガラスをフラットパネルディスプレイのTFT側基板として用いる場合、アルカリ金属酸化物の含有量が多すぎると、TFT素子中へのアルカリイオンの移動が顕著となり、トランジスタ特性が不安定になったり、信頼性が失われたりするので、その含有量については適切な範囲に抑える必要がある。
また、本実施形態のガラスを半導体支持基板として用いる場合、アルカリ金属酸化物の含有量が多すぎると、シリコンを含む基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程において、アルカリイオンがシリコンを含む基板に拡散するおそれがある。
そのため、アルカリ金属酸化物の合計量、即ち、Li2O+Na2O+K2O(以下、「R’2O」ともいう)は0.5%以下であり、0.2%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、0.08%以下がより好ましく、0.05%以下がさらに好ましく、0.03%以下が最も好ましい。
【0042】
但し、Na2Oは、ガラスの歪点を下げる作用があるので、上述した問題を生じさせない範囲で含有させることができる。ガラスの歪点を下げる作用を得るためには、Na2Oの含有量は0.005%以上が好ましく、0.01%以上がさらに好ましく、0.015%以上が特に好ましく、0.02%以上が最も好ましい。
しかし、Na2Oを多く含有させると、上述した問題が生じるおそれがあるので、Na2Oの含有量は0.5%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、0.08%以下がさらに好ましく、0.05%以下が特に好ましく、0.03%以下が最も好ましい。
【0043】
Fは必須成分ではないが、ガラスの歪点を下げる作用があるので、含有させることができる。ガラスの歪点を下げる作用を得るためには、Fの含有量は0.001%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましい。F含有量の上限は特に限定されないが、1.5%以下(0.43質量%以下)が好ましく、さらに好ましくは0.7%以下である。
【0044】
ガラスにP2O5が多く含まれると、ガラスの耐水性が悪くなり、脈理(みゃくり)が生じやすくなり、ガラスの均一性が劣化するおそれがある。また、ガラスをディスプレイとして使用する場合、ガラス中のPが多いと、TFTでリーク電流が発生するという問題が生じるおそれがある。
そのため、本実施形態のガラスのP2O5含有量は1%以下である。本実施形態のガラスは、P2O5を実質的に含有しないことが好ましい。本実施形態において、P2O5を実質的に含有しない場合のP2O5の含有量は、例えば0.01%以下であり、好ましくは0.005%以下である。
【0045】
さらに、ガラスのリサイクルを容易にするために、本実施形態のガラスはPbO、As2O3、Sb2O3を実質的に含有しないことが好ましい。本実施形態において、PbO、As2O3、Sb2O3を実質的に含有しない場合のPbO、As2O3、Sb2O3の含有量はそれぞれ、例えば0.01%以下であり、好ましくは0.005%以下である。
【0046】
ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善する目的で、本実施形態のガラスは、ZrO2、ZnO、Fe2O3、SO3、Cl、およびSnO2のうちの1種以上を総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下含有してもよい。これらの中で、ガラスの溶解性、清澄性を改善する目的でSnO2を含有させる場合、SnO2の含有量は0.5%以下(1.1質量%以下)が好ましい。
【0047】
ガラス中の水分は、ガラスの歪点を下げる作用がある。ガラスのβ-OH値は、ガラス中の水分含有量の指標として用いられる。ガラスのβ-OH値が0.1~0.6mm-1であると、ガラスの歪点を下げるのに好ましい。β-OH値が0.6mm-1超だと、白金界面泡の発生を抑制できない。白金界面泡は、白金材料製の溶融ガラス流路の壁面を通過したH2が、溶融ガラス中の水分と反応してO2を生じることで発生する。ガラスのβ-OH値は、0.15~0.6mm-1がより好ましく、0.2~0.45mm-1がより好ましく、0.22~0.35mm-1がさらに好ましく、0.25~0.3mm-1がさらに好ましい。
ガラスのβ-OH値は、ガラス原料の溶解時における各種条件、たとえば、ガラス原料中の水分量、溶解槽中の水蒸気濃度、溶解槽におけるガラス融液の滞在時間等によって調節することができる。
ガラス原料中の水分量を調節する方法としては、ガラス原料として酸化物の代わりに水酸化物を用いる方法(例えば、マグネシウム源として酸化マグネシウム(MgO)の代わりに水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を用いる)がある。
また、溶解槽中の水蒸気濃度を調節する方法としては、溶解槽の加熱目的での都市ガス、重油などの燃料の燃焼に空気を使用する代わりに、酸素を使用する方法や、酸素と空気の混合ガスを使用する方法がある。
【0048】
本実施形態のガラスは、下記式(I)で表される値が4.10以上であることが好ましい。
(7.87[Al2O3]-8.5[B2O3]+11.35[MgO]+7.09[CaO]+5.52[SrO]-1.45[BaO])/[SiO2]・・・式(I)
式(I)で表される値はヤング率の指標であり、この値が4.10未満であるとヤング率が低くなる。本実施形態のガラスにおいて、式(I)で表される値は4.15以上がより好ましく、4.20以上がさらに好ましく、4.25以上が特に好ましく、4.30以上が最も好ましい。
なお、上記式(I)において[Al2O3]、[B2O3]、[MgO]、[CaO]、[SrO]、[BaO]、[SiO2]はそれぞれ酸化物基準のモル%表示でのAl2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、SiO2の含有量を意味する。下記式(II)及び(III)においても同様である。
【0049】
本実施形態のガラスは、下記式(II)で表される値が0.95以上であることが好ましい。
{-1.02[Al2O3]+10.79[B2O3]+2.84[MgO]+4.12[CaO]+5.19[SrO]+3.16[BaO]+11.07×([Li2O]+[Na2O]+[K2O])+3.954[F]+5.677[β-OH]}/[SiO2]・・・式(II)
式(II)で表される値は歪点の指標であり、この値が0.95未満であると歪点が高くなる。本実施形態のガラスにおいて、式(II)で表される値は1.0以上がより好ましく、1.05以上がさらに好ましく、1.10以上が特に好ましい。
なお、上記式(II)において[Li2O]、[Na2O]、[K2O]、[F]はそれぞれ酸化物基準のモル%表示でのLi2O、Na2O、K2O、Fの含有量を意味する。
上記式(II)において[β-OH]はmm-1単位でのβ-OH値を意味する。
【0050】
本実施形態のガラスは、下記式(III)で表される値が5.5以下であることが好ましい。
(8.9[Al2O3]+4.26[B2O3]+11.3[MgO]+4.54[CaO]+0.1[SrO]-9.98[BaO])×{1+([MgO]/[CaO]-1)2}/[SiO2]・・・式(III)
式(III)で表される値は失透粘度の指標であり、この値が5.5超であると失透粘度が低くなる。本実施形態のガラスにおいて、式(III)で表される値は5.1以下がより好ましく、4.8以下がさらに好ましく、4.5以下が特に好ましく、4.30以下が最も好ましい。
【0051】
本実施形態のガラスのヤング率は88GPa以上である。これにより、外部応力による基板の変形が抑制される。例えば、フラットパネルディスプレイのTFT側基板の製造において、基板の表面に銅などのゲート金属膜や、窒化ケイ素などのゲート絶縁膜を形成したときの基板の反りが抑制される。また、基板のたわみも抑制される。ヤング率は好ましくは88.5GPa以上、より好ましくは89GPa以上、さらに好ましくは89.5GPa以上、特に好ましくは90GPa以上、最も好ましくは90.5GPa以上である。ヤング率は超音波法により測定できる。
【0052】
本実施形態のガラスの密度は2.60g/cm3以下である。これにより、自重たわみが小さくなり、大型基板化した際の取り扱いが容易になる。また、本実施形態のガラスを用いたデバイスを軽量化できる。密度は2.59g/cm3以下がより好ましく、2.58g/cm3以下がさらに好ましく、2.57g/cm3以下が特に好ましく、2.56g/cm3以下が最も好ましい。なお、大型基板とは、例えば、少なくとも一辺が1800mm以上の基板である。大型基板の少なくとも一辺は、例えば、2000mm以上であってもよく、2500mm以上であってもよく、3000mm以上であってもよく、3500mm以上であってもよい。
【0053】
本実施形態のガラスは、歪点が650~720℃である。歪点が650℃未満であると、ディスプレイの薄膜形成工程でガラス板が高温にさらされる際に、ガラス板の変形およびガラスの構造安定化に伴う収縮(熱収縮)が起こりやすくなる。歪点は好ましくは685℃以上であり、より好ましくは690℃以上、さらに好ましくは693℃以上、特に好ましくは695℃以上、最も好ましくは698℃以上である。一方、歪点が高すぎると、それに応じて徐冷装置の温度を高くする必要があり、徐冷装置の寿命が低下する傾向がある。また、ガラスの成形が難しくなり、板厚偏差や表面のうねりが大きくなるおそれもある。歪点は好ましくは718℃以下であり、より好ましくは716℃以下であり、さらに好ましくは714℃以下、特に好ましくは712℃以下、最も好ましくは710℃以下である。
【0054】
本実施形態のガラスは、粘度が104dPa・sとなる温度T4が1320℃以下である。これにより、本実施形態のガラスは成形性に優れる。また、これにより製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスなどの寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。T4は1300℃以下が好ましく、1290℃以下がより好ましく、1285℃以下がさらに好ましく、1280℃以下が特に好ましい。
T4はASTM C 965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、粘度が104d・Pa・sとなるときの温度として求めることができる。なお、後述する実施例では、装置校正用の参照試料としてNBS710およびNIST717aを使用した。
【0055】
本実施形態のガラスは、ガラス表面失透温度(Tc)がT4+20℃以下である。これにより、本実施形態のガラスは成形性に優れる。また、これにより成形中にガラス内部に結晶が生じて、透過率が低下するのを抑制できる。また、これにより製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスなどの寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。
ガラス表面失透温度(Tc)は、T4+10℃以下が好ましく、T4+5℃以下がより好ましく、T4℃以下がさらに好ましく、T4-1℃以下が特に好ましく、T4-5℃以下が最も好ましい。
ガラス表面失透温度(Tc)及びガラス内部失透温度(Td)は、下記のように求めることができる。すなわち、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後に光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを測定し、その平均値をガラス表面失透温度(Tc)とする。同様に、ガラスの内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを測定し、その平均値をガラス内部失透温度(Td)とする。ガラス表面失透温度(Tc)およびガラス内部失透温度(Td)における粘度は、各失透温度におけるガラスの粘度を測定することで得られる。
【0056】
本実施形態のガラスの50~350℃での平均熱膨張係数は30×10-7/℃以上である。例えば、フラットパネルディスプレイのTFT側基板の製造においては、ガラス上に銅などのゲート金属膜、窒化ケイ素などのゲート絶縁膜が順に積層されることがある。この場合において、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃未満だと、基板表面に形成される銅などのゲート金属膜との熱膨張差が大きくなり、基板が反る、膜剥がれが生じる等の問題が生じるおそれがある。
50~350℃での平均熱膨張係数は33×10-7/℃以上が好ましく、35×10-7/℃以上がより好ましく、36×10-7/℃以上がさらに好ましく、37×10-7/℃以上が特に好ましく、38×10-7/℃以上が最も好ましい。
一方、50~350℃での平均熱膨張係数が43×10-7/℃超だと、ディスプレイなどの製品製造工程でガラスが割れるおそれがある。そのため、50~350℃での平均熱膨張係数は43×10-7/℃以下である。
50~350℃での平均熱膨張係数は42×10-7/℃以下が好ましく、41.5×10-7/℃以下がより好ましく、41×10-7/℃以下がさらに好ましく、40.5×10-7/℃以下が特に好ましく、40.3×10-7/℃以下が最も好ましい。
【0057】
本実施形態のガラスの比弾性率(ヤング率(GPa)/密度(g/cm3))は34MN・m/kg以上が好ましい。これにより、自重たわみが小さくなり、大型基板化した際の取り扱いが容易になる。比弾性率は34.5MN・m/kg以上がより好ましく、34.8MN・m/kg以上がさらに好ましく、35MN・m/kg以上が特に好ましく、35.2MN・m/kg以上が最も好ましい。
【0058】
本実施形態のガラスのガラス表面失透温度(Tc)における粘度であるガラス表面失透粘度(ηc)は103.8dPa・s以上が好ましい。これにより、ガラス基板の成形性に優れる。また、これにより成形中にガラス内部に結晶が生じて、透過率が低下するのを抑制できる。また、これにより製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラス基板を成形するフロートバスなどの寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。ガラス表面失透粘度(ηc)はより好ましくは103.85dPa・s以上、さらに好ましくは103.9dPa・s以上、特に好ましくは104dPa・s以上、最も好ましくは104.05dPa・s以上である。
【0059】
本実施形態のガラスの粘度が102dPa・sとなる温度T2は1680℃以下が好ましい。これにより、ガラスの溶解性に優れる。また、これにより製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを溶解する窯などの寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。また、これにより窯由来の欠陥(例えば、ブツ欠陥、Zr欠陥など)を低減できる。T2は1670℃以下がより好ましく、1660℃以下がさらに好ましい。
【0060】
本実施形態のガラスのガラス転移点は730~790℃が好ましい。ガラス転移点が730℃以上であることにより、ガラスの成形性に優れる。例えば、板厚偏差や表面のうねりを低減できる。また、ガラス転移点が790℃以下であることにより、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスの成形に用いるロールの表面温度を低くすることができ、設備の寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。ガラス転移点は740℃以上がより好ましく、745℃以上がさらに好ましく、750℃以上が特に好ましく、755℃以上が最も好ましい。一方、ガラス転移点は785℃以下がより好ましく、783℃以下がさらに好ましく、780℃以下が特に好ましく、775℃以下が最も好ましい。
【0061】
本実施形態のガラスのコンパクションは100ppm以下が好ましく、より好ましくは90ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下、さらに好ましくは75ppm以下、特に好ましくは70ppm以下、最も好ましくは65ppm以下である。コンパクションとは、加熱処理の際にガラス構造の緩和によって発生するガラス熱収縮率である。コンパクションが100ppm以下であれば、各種ディスプレイを製造する過程で実施される薄膜形成工程で、高温にさらされた際に、ガラスの変形およびガラスの構造安定化に伴う寸法変化を最小限に抑制することができる。
なお、本実施形態におけるコンパクションとは、次の手順で測定されたコンパクションを意味する。
本実施形態のガラスを加工して得られるガラス板試料(酸化セリウムで鏡面研磨した長さ100mm×幅10mm×厚さ1mmの試料)をガラス転移点+120℃の温度で5分間保持した後、毎分40℃で室温まで冷却する。ガラス板試料が室温まで冷却されたら、試料の全長(長さ方向)L1を計測する。その後、ガラス板試料を毎時100℃で600℃まで加熱し、600℃で80分間保持し、毎時100℃で室温まで冷却する。ガラス板試料が室温まで冷却されたら、再度試料の全長L2を計測する。600℃での熱処理前後での全長の差(L1-L2)と、600℃での熱処理前の試料全長L1との比(L1-L2)/L1をコンパクションの値とする。
【0062】
本実施形態のガラスは、コンパクションを低減させる目的で、例えば、等価冷却速度を500℃/min以下とすることが好ましい。等価冷却速度は、5℃/min以上、500℃/min以下が、コンパクションと生産性のバランスの観点から好ましい。生産性の観点から、等価冷却速度は、10℃/min以上がより好ましく、15℃/min以上がさらに好ましく、20℃/min以上が特に好ましく、25℃/min以上が最も好ましい。コンパクションの観点から、等価冷却速度は、300℃/min以下がより好ましく、200℃/min以下がさらに好ましく、150℃/min以下が特に好ましく、100℃/min以下が最も好ましい。
なお、本実施形態における等価冷却速度とは、次の手順で測定された等価冷却速度を意味する。
本実施形態のガラスを加工して得られる10mm×10mm×1mmの直方体状の検量線作成用試料を複数用意し、これらを赤外線加熱式電気炉を用い、ガラス転移点+120℃にて5分間保持する。その後、各試料を1℃/minから1000℃/minの範囲の、異なる冷却速度で25℃まで冷却する。次に、島津デバイス社製の精密屈折計KPR-2000を用いて、これらの試料のd線(波長587.6nm)の屈折率ndを、Vブロック法により測定する。各試料において得られたndを、冷却速度の対数に対してプロッ卜することにより、冷却速度に対するndの検量線を得る。
次に、本実施形態のガラスを10mm×10mm×1mmの直方体状に加工し、ndを島津デバイス社製の精密屈折計KPR-2000を用いてVブロック法により測定する。得られたndに対応する冷却速度を、前記検量線より求め、これを等価冷却速度とする。
【0063】
本実施形態のガラスは、ヤング率が88GPa以上と高く、外部応力による基板の変形が抑制されるので、大型基板として使用するガラス板に好適である。大型基板とは、例えば少なくとも一辺が1800mm以上のガラス板であり、具体的な例としては、長辺1800mm以上、短辺1500mm以上のガラス板である。
本実施形態のガラスは、少なくとも一辺が2400mm以上のガラス板、例えば、長辺2400mm以上、短辺2100mm以上のガラス板により好ましく、少なくとも一辺が3000mm以上のガラス板、例えば、長辺3000mm以上、短辺2800mm以上のガラス板にさらに好ましく、少なくとも一辺が3200mm以上のガラス板、例えば、長辺3200mm以上、短辺2900mm以上のガラス板に特に好ましく、少なくとも一辺が3300mm以上のガラス板、例えば、長辺3300mm以上、短辺2950mm以上のガラス板に最も好ましい。
本実施形態のガラスは、厚みが0.7mm以下であると軽量となるので好ましい。本実施形態のガラスの厚みは、0.65mm以下がより好ましく、0.55mm以下がさらに好ましく、0.45mm以下が好ましく、最も好ましくは0.4mm以下である。厚みを0.1mm以下、あるいは0.05mm以下とすることもできるが、自重たわみを防ぐ観点からは、厚みは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0064】
本実施形態のガラスは、例えば、以下の手順で製造できる。
所望のガラス組成となるようにガラスの原料を調合し、これを溶解炉に投入し、1500~1800℃に加熱して溶解して溶融ガラスを得る。得られた溶融ガラスを成形装置にて、所定の板厚のガラスリボンに成形し、このガラスリボンを徐冷後、切断することによって、ガラスが得られる。
なお、本実施形態のガラスの製造においては、コンパクションを低減するために、例えば、等価冷却速度が500℃/min以下となるように冷却することが好ましい。
【0065】
本実施形態のガラスの製造においては、溶融ガラスをフロート法またはフュージョン法等にてガラス板に成形することが好ましい。高ヤング率である大型の板ガラス(例えば一辺が1800mm以上)を安定して生産するという観点からは、フロート法が好ましい。
【0066】
次に、本実施形態のディスプレイパネルを説明する。
本実施形態のディスプレイパネルは、上述した本実施形態のガラスをガラス基板として有する。本実施形態のガラスを有する限り、ディスプレイパネルは特に限定されず、液晶ディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネルなど、各種ディスプレイパネルであってよい。
薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の場合を例にとると、その表面にゲート電極線およびゲート絶縁用酸化物層が形成され、さらに該酸化物層表面に画素電極が形成されたディスプレイ面電極基板(アレイ基板)と、その表面にRGBのカラーフィルタおよび対向電極が形成されたカラーフィルタ基板とを有し、互いに対をなす該アレイ基板と該カラーフィルタ基板との間に液晶材料が挟み込まれてセルが構成される。液晶ディスプレイパネルは、このようなセルに加えて、周辺回路等の他の要素を含む。本実施形態の液晶ディスプレイパネルは、セルを構成する1対の基板のうち、少なくとも一方に本実施形態のガラスが使用されている。
【0067】
本実施形態のガラスは、例えば電子デバイス支持用ガラス板として用いることができる。本実施形態のガラスを電子デバイス支持用ガラス板として用いる際には、本実施形態のガラス(電子デバイス支持用ガラス板)の上に、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板などのデバイス形成基板を直接または接着材を用いて張り合わせることによって、デバイス形成基板を支持する。電子デバイス支持用ガラス板としては、例えばポリイミドなどの樹脂を基板とするフレキシブルディスプレイ(例えば、有機ELディスプレイ)の製造工程における支持用ガラス板、半導体パッケージ製造工程における樹脂-シリコンチップ複合ウエハの支持用ガラス板等が挙げられる。
【0068】
次に、本実施形態の半導体デバイスを説明する。
本実施形態の半導体デバイスは、上述した本実施形態のガラスをガラス基板として有する。本実施形態の半導体デバイスは、具体的には、例えば、MEMS、CMOS、CIS等のイメージセンサ用のガラス基板として、本実施形態のガラスを有する。また、本実施形態の半導体デバイスは、プロジェクション用途のディスプレイデバイス用のカバーガラス、例えばLCOS(Liquid Cristyal ON Silicon)のカバーガラスとして、本実施形態のガラスを有する。
【0069】
次に、本実施形態の情報記録媒体を説明する。
本実施形態の情報記録媒体は、上述した本実施形態のガラスをガラス基板として有する。情報記録媒体としては、具体的には、例えば、磁気記録媒体や光ディスクが挙げられる。磁気記録媒体としては、例えば、エネルギーアシスト方式の磁気記録媒体や垂直磁気記録方式の磁気記録媒体が挙げられる。
【0070】
次に、本実施形態の平面型アンテナを説明する。
本実施形態の平面型アンテナは、上述した本実施形態のガラスをガラス基板として有する。本実施形態の平面型アンテナとしては、具体的には、指向性及び受信感度の良好なアンテナとして、例えば液晶アンテナ、マイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ)のような平面形状を有する平面液晶アンテナが挙げられる。液晶アンテナについては、例えば、国際公開第2018/016398号に開示されている。パッチアンテナについては、例えば、日本国特表2017-509266号公報や、日本国特開2017-063255号公報に開示されている。
【実施例】
【0071】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下において、例1~22、及び例29~49は実施例であり、例23~28は比較例である。
ガラス組成が表1~7に示す組成(単位:モル%)になるように、各成分の原料を調合し、白金坩堝を用いて1600℃で1時間溶解した。溶解後、溶融液をカーボン板上に流し出し、ガラス転移点+30℃の温度にて60分保持後、毎分1℃で室温(25℃)まで冷却して板状ガラスを得た。これを鏡面研磨し、ガラス板を得て、各種物性の測定を行った。結果を表1~7に示す。なお、表1~7において、括弧内に示す値は計算値であり、空欄は未測定である。
【0072】
以下に各物性の測定方法を示す。
(ガラスのβ-OH値)
ガラス試料について波長2.75~2.95μm光に対する吸光度を測定し、その最大値βmaxを該試料の厚さ(mm)で割ることでガラスのβ-OH値を求める。
【0073】
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した。測定温度範囲は室温~400℃以上とし、50~350℃における平均熱膨張係数を、単位を10-7/℃として表した。
(密度)
JIS Z 8807に規定されている方法に従い、泡を含まない約20gのガラス塊の密度をアルキメデス法によって測定した。
【0074】
(歪点)
JIS R3103-2(2001年)に規定されている方法に従い、繊維引き伸ばし法により歪点を測定した。
(ガラス転移点Tg)
JIS R3103-3(2001年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて熱膨張法によりガラス転移点Tgを測定した。
(ヤング率)
JIS Z 2280に規定されている方法に従い、厚さ0.5~10mmのガラスについて、超音波パルス法によりヤング率を測定した。
【0075】
(T2)
ASTM C 965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、102d・Pa・sとなるときの温度T2(℃)を測定した。
(T4)
ASTM C 965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、104d・Pa・sとなるときの温度T4(℃)を測定した。
(失透温度)
ガラスを粉砕し、試験用篩を用いて粒径が2~4mmの範囲となるように分級した。
得られたガラスカレットをイソプロピルアルコール中で5分間超音波洗浄し、イオン交換水で洗浄した後、乾燥させ、白金製の皿に入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間の熱処理を行った。熱処理の温度は10℃間隔で設定した。熱処理後、白金皿よりガラスを取り外し、光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面及び内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを測定した。ガラスの表面及び内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度は、それぞれ1回測定した(結晶が析出の判断が難しい場合は、2回測定した)。ガラス表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値を求め、ガラス表面失透温度(Tc)とした。同様に、ガラス内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値を求め、ガラス内部失透温度(Td)とした。
【0076】
(比弾性率)
前述した手順で求まるヤング率を密度で割ることにより、比弾性率を求めた。
(失透粘度)
前述の方法により、ガラス表面失透温度(Tc)を求め、ガラス表面失透温度(Tc)におけるガラスの粘度を測定して、ガラス表面失透粘度(ηc)とした。同様に、ガラス内部失透温度(Td)を求め、ガラス内部失透温度(Td)におけるガラスの粘度を測定して、ガラス内部失透粘度(ηd)とした。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
例23は、ヤング率が低く88GPa未満であった。例24はガラス表面失透温度
(Tc)がT4+20℃より高かった。例25,27,28は、歪点が高かった。ROが22超の例26は、平均熱膨張係数が大きく43×10-7/℃超であった。
【0085】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2018年3月14付けで出願された日本特許出願(特願2018-46854)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
上述した特徴を有する本発明のガラスは、ディスプレイ用基板、フォトマスク用基板、電子デバイス支持用基板、情報記録媒体用基板、平面型アンテナ用基板等の用途に好適である。