(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】通知装置、通知方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/30 20180101AFI20241217BHJP
【FI】
G16H50/30
(21)【出願番号】P 2023501944
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007285
(87)【国際公開番号】W WO2022180773
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優生
(72)【発明者】
【氏名】高河原 和彦
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199663(WO,A1)
【文献】特開2016-057057(JP,A)
【文献】特開2017-27123(JP,A)
【文献】特開2016-57057(JP,A)
【文献】特開2017-104327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者の身体的特徴と作業条件と環境条件の情報を取得するように構成された計算パラメータ取得部と、
前記計算パラメータ取得部によって取得された情報に基づいて、前記作業条件と前記環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の前記測定対象者の時刻毎の生体情報を予測するように構成された生体情報予測部と、
前記生体情報予測部によって予測された生体情報が所定の閾値を超える時刻を予測するように構成された時刻予測部と、
前記時刻予測部によって予測された時刻に基づく暑熱対策情報を作業管理者または前記測定対象者に通知するように構成された暑熱リスク通知部とを備え
、
前記生体情報は、前記測定対象者の深部体温であり、
前記時刻予測部は、予め記憶されている暑熱未順化者の深部体温閾値と暑熱順化者の深部体温閾値のうち、前記測定対象者の身体的特徴の情報に含まれる暑熱順化の有無の情報に応じて、対応する深部体温閾値を採用し、前記生体情報予測部によって予測された深部体温が前記採用した深部体温閾値を上回る時刻を予測し、
前記暑熱対策情報は、前記時刻予測部によって予測された時刻を、前記測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻として通知する情報を含むことを特徴とする通知装置。
【請求項2】
請求項1記載の通知装置において、
前記身体的特徴の情報は、前記測定対象者の身長と体重と年齢と性別の情報
と前記暑熱順化の有無の情報とを含み、
前記作業条件の情報は、前記測定対象者の衣服とMETs値の情報を含み、
前記環境条件の情報は、前記測定対象者が作業を行う現場の作業当日の気温と湿度の情報を含むことを特徴とする通知装置。
【請求項3】
請求項
1記載の通知装置において、
前記暑熱対策情報は、前記測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻の情報に加えて、前記生体情報予測部によって予測された生体情報を含むことを特徴とする通知装置。
【請求項4】
CPUと記憶装置とを備えたコンピュータによって測定対象者の熱中症の予防のための情報を提供する通知方法であって、
測定対象者の身体的特徴と作業条件と環境条件の情報を取得する第1のステップと、
前記第1のステップで取得した情報に基づいて、前記作業条件と前記環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の前記測定対象者の時刻毎の生体情報を予測する第2のステップと、
前記第2のステップで予測した生体情報が所定の閾値を超える時刻を予測する第3のステップと、
前記第3のステップで予測した時刻に基づく暑熱対策情報を作業管理者または前記測定対象者に通知する第4のステップとを
、前記記憶装置に格納されたプログラムに従って前記CPUに実行させ、
前記生体情報は、前記測定対象者の深部体温であり、
前記第3のステップは、予め記憶されている暑熱未順化者の深部体温閾値と暑熱順化者の深部体温閾値のうち、前記測定対象者の身体的特徴の情報に含まれる暑熱順化の有無の情報に応じて、対応する深部体温閾値を採用し、前記第2のステップによって予測された深部体温が前記採用した深部体温閾値を上回る時刻を予測するステップを含み、
前記暑熱対策情報は、前記第3のステップによって予測された時刻を、前記測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻として通知する情報を含むことを特徴とする通知方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象者の熱中症の予防に有用な情報を提供する通知装置、通知方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2019年の職場における熱中症による死傷者数は790人であり、過去10年間(2010年~2019年)の発生状況と比較して、2018年の死傷者数1178人に次いで多い。業種別でみると、建設業が147人、製造業が172人であり、直射日光あるいは高温多湿な環境にさらされ易い業種での熱中症の発生件数が多いことが分かる(非特許文献1参照)。
【0003】
こうした作業現場では、作業者の自己管理、作業管理者による作業者の時間管理、および作業管理者の声掛けによる作業者の体調管理等を行うケースがある。しかしながら、自己申告のような主観的情報のみに頼った作業管理では、作業者が暑熱環境から受ける負荷等に起因する体調の変化を見逃す虞れがある。
【0004】
また、主観的な情報に頼らない体調管理手法として、暑さ指数WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球乾球温度)の数値を基に、作業管理者が水分・塩分の補給の声掛け、休憩の励行の声掛け等を行うといった手法がとられるケースもある。ただし、WBGTは、あくまで特定の地域における屋外の観測点を基に算出した数値であり、作業者個人の行動に即した環境変化が反映されていない参考値である。したがって、WBGTに基づく体調管理手法では、上記の主観的情報と同様に作業者の体調変化を見逃す虞れがあるといえる。
【0005】
一方で、個人の生体情報に着目した体調管理手法として、作業者の深部体温をモニタリングする手法が挙げられる。例えば、AGCIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)では、深部体温が暑熱順応者の場合で38.5℃以上、暑熱非順応者の場合で38℃以上のときを暑熱作業中止基準としている(非特許文献2参照)。
【0006】
生体情報に着目した指標は、個人ごとの熱中症発症リスクをモニタリングする上で有益である。しかしながら、生体情報を計測するには、個人ごとにウェアラブルデバイスのような計測機器を装着しなければならないという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】“2019年職場における熱中症による死傷災害の発生状況”,厚生労働省,[2020年10月30日検索],<https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000612135.pdf>
【文献】“職場の熱中症対策徒然考(その2)”,独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所,[2020年10月30日検索],<https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2013/61-column.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、測定対象者にウェアラブルデバイスのような計測機器を装着することなく、測定対象者の熱中症の予防に有用な情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の通知装置は、測定対象者の身体的特徴と作業条件と環境条件の情報を取得するように構成された計算パラメータ取得部と、前記計算パラメータ取得部によって取得された情報に基づいて、前記作業条件と前記環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の前記測定対象者の時刻毎の生体情報を予測するように構成された生体情報予測部と、前記生体情報予測部によって予測された生体情報が所定の閾値を超える時刻を予測するように構成された時刻予測部と、前記時刻予測部によって予測された時刻に基づく暑熱対策情報を作業管理者または前記測定対象者に通知するように構成された暑熱リスク通知部とを備え、前記生体情報は、前記測定対象者の深部体温であり、前記時刻予測部は、予め記憶されている暑熱未順化者の深部体温閾値と暑熱順化者の深部体温閾値のうち、前記測定対象者の身体的特徴の情報に含まれる暑熱順化の有無の情報に応じて、対応する深部体温閾値を採用し、前記生体情報予測部によって予測された深部体温が前記採用した深部体温閾値を上回る時刻を予測し、前記暑熱対策情報は、前記時刻予測部によって予測された時刻を、前記測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻として通知する情報を含むことを特徴とするものである。
また、本発明の通知装置の1構成例において、前記身体的特徴の情報は、前記測定対象者の身長と体重と年齢と性別の情報と前記暑熱順化の有無の情報とを含み、前記作業条件の情報は、前記測定対象者の衣服とMETs値の情報を含み、前記環境条件の情報は、前記測定対象者が作業を行う現場の作業当日の気温と湿度の情報を含む。
【0010】
また、本発明の通知装置の1構成例において、前記暑熱対策情報は、前記測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻の情報に加えて、前記生体情報予測部によって予測された生体情報を含む。
【0011】
また、本発明は、CPUと記憶装置とを備えたコンピュータによって測定対象者の熱中症の予防のための情報を提供する通知方法であって、測定対象者の身体的特徴と作業条件と環境条件の情報を取得する第1のステップと、前記第1のステップで取得した情報に基づいて、前記作業条件と前記環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の前記測定対象者の時刻毎の生体情報を予測する第2のステップと、前記第2のステップで予測した生体情報が所定の閾値を超える時刻を予測する第3のステップと、前記第3のステップで予測した時刻に基づく暑熱対策情報を作業管理者または前記測定対象者に通知する第4のステップとを、前記記憶装置に格納されたプログラムに従って前記CPUに実行させ、前記生体情報は、前記測定対象者の深部体温であり、前記第3のステップは、予め記憶されている暑熱未順化者の深部体温閾値と暑熱順化者の深部体温閾値のうち、前記測定対象者の身体的特徴の情報に含まれる暑熱順化の有無の情報に応じて、対応する深部体温閾値を採用し、前記第2のステップによって予測された深部体温が前記採用した深部体温閾値を上回る時刻を予測するステップを含み、前記暑熱対策情報は、前記第3のステップによって予測された時刻を、前記測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻として通知する情報を含むことを特徴とするものである。
また、本発明のプログラムは、前記の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、計算パラメータ取得部と生体情報予測部と時刻予測部と暑熱リスク通知部とを設けることにより、測定対象者にウェアラブルデバイスのような計測機器を装着することなく、作業開始以降の測定対象者の生体情報を作業開始前に予測し、測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻を予測して、予測結果に基づく暑熱対策情報を作業管理者や測定対象者本人に通知することができる。したがって、本実施例によれば、測定対象者の熱中症の予防に有用な対策を実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施例に係る通知装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例に係る通知装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例に係る通知装置の生体情報予測部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施例に係る深部体温予測部の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3の実施例に係る深部体温予測部の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、測定対象者の身体の2部位2層モデルと、測定対象者の各部位・各層に流入出する熱量を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施例に係る深部体温予測部の本計算のときの動作を説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の第3の実施例に係る深部体温予測部の予備計算Iのときの動作を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の第3の実施例に係る深部体温予測部の予備計算IIのときの動作を説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の第3の実施例に係る深部体温予測部の予備計算IIIのときの動作を説明するフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の第3の実施例に係る深部体温予測部の本計算のときの第3制御部の動作を説明するフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の第1~第3の実施例に係る通知装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施例に係る通知装置の構成を示すブロック図である。本実施例の通知装置は、計算パラメータ取得部1と、生体情報予測部2と、時刻予測部3と、暑熱リスク通知部4とを備えている。
【0015】
図2は本実施例の通知装置の動作を説明するフローチャートである。通知装置の計算パラメータ取得部1は、生体情報の予測に必要な、測定対象者の身体的特徴の情報と、測定対象者の作業条件の情報と、測定対象者の環境条件の情報とを予め取得する(
図2ステップS1)。
【0016】
測定対象者の身体的特徴の情報としては、測定対象者の身長、体重、性別、年齢、暑熱順化の有無の情報などがある。測定対象者の作業条件の情報としては、測定対象者の衣服の情報、運動負荷情報(METs:Metabolic equivalents)などがある。測定対象者の環境条件の情報としては、作業当日の作業現場の気温、湿度、風速、水の蒸発熱などがある。
【0017】
生体情報の予測に必要な上記の情報は、作業管理者または通知装置のオペレータが入力してもよい。また、計算パラメータ取得部1は、測定対象者の身体的特徴の情報を、本実施例の通知装置とネットワークを介して接続された測定対象者のスマートフォン等の端末から取得してもよい。測定対象者が所持する端末に予め専用アプリケーションを実装しておけば、このアプリケーションを通じて測定対象者の身体的特徴の情報を取得することができる。
【0018】
同様に、計算パラメータ取得部1は、測定対象者の作業条件の情報を測定対象者の端末から取得してもよい。このとき、測定対象者は、自身が所持する端末を操作して、作業当日に着用する衣服や作業内容を選択肢の中から選ぶようにしてもよい。測定対象者が選択した内容は通知装置に送信される。計算パラメータ取得部1は、測定対象者から通知された内容に対応する作業条件の情報を、予め用意された情報の中から選ぶようにしてもよい。
【0019】
測定対象者の環境条件の情報は、後述のように生体情報予測部2に備えられた測定部によって実測してもよいし、気温の予測値、湿度の予測値、風速の予測値を外部の気象予測システムから取得するようにしてもよい。
【0020】
次に、通知装置の生体情報予測部2は、計算パラメータ取得部1によって取得された情報に基づいて、作業条件と環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の測定対象者の時刻毎の生体情報を予測する(
図2ステップS2)。
【0021】
図3は生体情報予測部2の構成を示すブロック図である。生体情報予測部2は、深部体温予測部20と、水分損失量予測部21とから構成される。
【0022】
深部体温予測部20は、計算パラメータ取得部1に予め記憶された測定対象者の身体的特徴と作業条件と環境条件の情報に基づいて、作業条件と環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の測定対象者の未来の時刻毎の深部体温を予測する。深部体温予測部20の具体例については後述する。
【0023】
水分損失量予測部21は、計算パラメータ取得部1に予め記憶された測定対象者の身体的特徴と作業条件と環境条件の情報に基づいて、作業条件と環境条件で特定される条件下で作業を行った場合の測定対象者の未来の時刻毎の水分損失量を予測する。水分損失量予測部21の具体例については後述する。
【0024】
生体情報予測部2は、深部体温予測部20によって測定対象者の深部体温のみを予測してもよいし、水分損失量予測部21によって測定対象者の水分損失量のみを予測してもよいし、深部体温と水分損失量の両方を予測してもよい。
【0025】
次に、時刻予測部3は、生体情報予測部2によって予測された生体情報が所定の閾値を超える時刻を予測する(
図2ステップS3)。
【0026】
深部体温閾値は、計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。生体情報予測部2の深部体温予測部20により、測定対象者の未来の時刻毎の深部体温の予測値を得ることができる。したがって、時刻予測部3は、測定対象者の深部体温が深部体温閾値を上回る時刻を予測可能である。
【0027】
なお、計算パラメータ取得部1には、暑熱未順化者の深部体温閾値と暑熱順化者の深部体温閾値の2種類が記憶されている場合がある。非特許文献2によれば、暑熱未順化者の深部体温閾値は38℃、暑熱順化者の深部体温閾値は38.5℃である。時刻予測部3は、測定対象者の身体的特徴の情報として、暑熱順化の有無の情報が計算パラメータ取得部1に記憶されている場合、測定対象者の暑熱順化の有無に応じて対応する深部体温閾値を採用すればよい。
【0028】
また、水分損失量閾値(限界発汗率)は、計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。生体情報予測部2の水分損失量予測部21により、測定対象者の未来の時刻毎の水分損失量の予測値を得ることができる。したがって、時刻予測部3は、測定対象者の水分損失量の積算値が水分損失量閾値を上回る時刻を予測可能である。
【0029】
深部体温の場合と同様に、計算パラメータ取得部1には、暑熱未順化者の水分損失量閾値と暑熱順化者の水分損失量閾値の2種類が記憶されている場合がある。非特許文献2によれば、暑熱未順化者の水分損失量閾値は1L/h、暑熱順化者の水分損失量閾値は1.25L/hである。時刻予測部3は、測定対象者の身体的特徴の情報として、暑熱順化の有無の情報が計算パラメータ取得部1に記憶されている場合、測定対象者の暑熱順化の有無に応じて対応する水分損失量閾値を採用すればよい。
【0030】
また、時刻予測部3は、水分損失量積算値を重量積算値に換算した値を測定対象者の体重で割った百分率を算出し、算出した値が体重当たりの水分損失量閾値を上回る時刻を予測してもよい。非特許文献2によれば、体重当たりの水分損失量閾値(体重減少率)は1.5%である。
【0031】
次に、暑熱リスク通知部4は、時刻予測部3によって予測された時刻に基づく暑熱対策情報を作業管理者または測定対象者に通知する(
図2ステップS4)。暑熱対策情報は、時刻予測部3によって予測された時刻を、測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻として通知する情報を含む。
【0032】
上記のように、測定対象者の深部体温と水分損失量が生体情報予測部2によって予測される場合、測定対象者の深部体温が深部体温閾値を上回る時刻と測定対象者の水分損失量の積算値が水分損失量閾値を上回る時刻の2つが時刻予測部3によって予測されることになる。この場合、暑熱リスク通知部4は、時刻予測部3によって予測された2つの時刻のうち早い方の時刻を、測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻として、作業管理者や測定対象者本人に通知するようにしてもよい。
【0033】
なお、暑熱リスク通知部4は、時刻予測部3から時刻の予測結果が得られなかった場合、すなわち測定対象者の生体情報が閾値を超える時刻がないと推測される場合に、測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻がないことを作業管理者や測定対象者本人に通知してもよい。
【0034】
予測および通知のタイミングの例としては、測定対象者の作業当日の作業開始前のタイミングが挙げられる。通知する暑熱対策情報としては、上記の時刻の他に、深部体温、水分損失量といった生体情報、測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされることを表すメッセージ、測定対象者に休憩を促すメッセージ、測定対象者に水分補給や涼しい場所への退避を促すメッセージを含むものであってもよい。
【0035】
暑熱リスク通知部4は、有線ネットワークあるいは無線ネットワークを介して、作業管理者が所持するスマートフォンや測定対象者が所持するスマートフォン等の端末へ暑熱対策情報を送信すればよい。
【0036】
以上のように、本実施例では、測定対象者にウェアラブルデバイスのような計測機器を装着することなく、作業開始以降の測定対象者の生体情報を作業開始前に予測し、測定対象者が過剰な温熱負荷にさらされる時刻を予測して、予測結果に基づく暑熱対策情報を作業管理者や測定対象者本人に通知することができる。したがって、本実施例によれば、作業中の測定対象者の熱中症の予防に有用な対策を実施することが可能になる。
【0037】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例は、第1の実施例の深部体温予測部20の具体例を説明するものであり、特開2020-065823号公報に開示された構成に基づくものである。
【0038】
図4は本実施例の深部体温予測部20の構成を示すブロック図である。本実施例の深部体温予測部20は、測定部201と、第1演算部202と、第2演算部203とから構成される。
【0039】
測定部201は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する。第1演算部202は、計算パラメータ取得部1に予め記憶された情報に基づいて測定対象者の作業により発生する熱量Q[W]を求める。具体的には、第1演算部202は、計算パラメータ取得部1に予め記憶されている測定対象者のMETsを取得し、熱量Q[W]を以下のように算出する。
Q=METs×1.05×weight×4184÷3600 ・・・(1)
【0040】
weightは測定対象者の重量[kg]であり、計算パラメータ取得部1に記憶されている。
次に、第2演算部203は、第1演算部202によって算出された熱量Q[W]と、第2測定部102が測定した気温から求められる測定対象者の雰囲気と測定対象者との間の熱交換量と、測定対象者の発汗量より求める汗の蒸発量とから測定対象者の深部体温を予測する。
【0041】
以下、第2演算部203における深部体温の予測について、より詳細に説明する。第2演算部203は、以下の式(2)により未来の時刻tにおける測定対象者の深部体温T[℃]を予測する。
【0042】
【0043】
Q(t)[W]は、第1演算部202によって算出された熱量である。Ta[℃]は、測定部201によって測定された気温である。sw(t)[W]は、時刻tにおける測定対象者の発汗の蒸発で奪われる熱量である。T0[℃]は、測定対象者の深部体温の初期値である。S[m2]は、測定対象者の体表面積である。H[W/(m2・℃)]は、測定対象者の皮膚と雰囲気との間の熱伝達率である。C[J/(kg・℃)]は、測定対象者の比熱である。T-1[℃]は、時刻tよりΔt[s]だけ前の時刻における測定対象者の深部体温である。
【0044】
式(2)において、「∫SH×{(T-1-T0)+(30.0-Ta)}dS」は、雰囲気との熱交換を示す。式(2)の右辺第2項は、Δtの経過による測定対象者の深部体温の上昇値に相当する。測定対象者の深部体温の初期値T0[℃]は、測定対象者が安静にしている状態で実測した値として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。測定対象者の体表面積S[m2]は、次式のようになる。
S=height0.725×weight0.425×7.184×10-3・・・(3)
【0045】
式(3)の体表面積Sの計算式は、Duboiの式として知られているものである。heightは測定対象者の身長[cm]であり、計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。また、測定対象者の皮膚と雰囲気との間の熱伝達率H[W/(m2・℃)]、測定対象者の比熱C[J/(kg・℃)]についても、身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0046】
時刻tにおける測定対象者の発汗の蒸発で奪われる熱量sw(t)[W]は、次式のようになる。
sw(t)=[α11{β11(T-1-T0)-β10}+α10]
+[α21tanh{β21(T-1-T0)-β20}+α20] ・・(4)
【0047】
式(4)において、定数α10,α11,α20,α21,β10,β11,β20,β21には、適切な値を与える。これら定数は、測定対象者の汗のかき易さによって設定され、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0048】
こうして、本実施例の深部体温予測部20により、測定対象者の深部体温T[℃]を未来の時刻毎に予測することができる。
【0049】
なお、本実施例では、測定部201によって測定対象者近傍の温度を測定しているが、計算パラメータ取得部1から測定対象者の作業当日の気温Ta[℃]の予測値を取得して使用するようにしてもよい。
【0050】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。本実施例は、第1の実施例の深部体温予測部20と水分損失量予測部21の具体例を説明するものであり、第2の実施例と異なる構成を説明するものである。
【0051】
図5は本実施例の深部体温予測部20の構成を示すブロック図である。本実施例の深部体温予測部20は、測定対象者の近傍の温度を測定する第1測定部211と、測定対象者の近傍の湿度を測定する第2測定部212と、第1、第2予備計算時に測定対象者が安静状態という設定の基に測定対象者の運動による体幹部(第1部位)と四肢部(第2部位)のそれぞれの発熱量を算出し、本計算時に計算パラメータ取得部1の情報に基づいて発熱量を算出する発熱量算出部213と、第1、第2予備計算時と本計算時に温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度と深部温度とに基づいて、測定対象者の体幹部皮膚層の代謝量と体幹部深部層の代謝量と四肢部皮膚層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出する代謝量算出部214とを備えている。
【0052】
また、深部体温予測部20は、第1予備計算時に温度中性域に相当する温度と温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度とに基づいて、測定対象者の体幹部と四肢部のそれぞれにおける皮膚と外気間の第1熱交換量を算出し、第2予備計算時と本計算時に計算パラメータ取得部1の情報と温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度とに基づいて、第1熱交換量を算出する熱伝達・熱放射量算出部215(第1熱交換量算出部)と、第1予備計算時に温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値と温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度と深部温度とに基づいて、測定対象者の体幹部と四肢部のそれぞれにおける皮膚蒸散量を算出し、第2予備計算時と本計算時に計算パラメータ取得部1の情報と温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度と深部温度とに基づいて、皮膚蒸散量を算出する皮膚蒸散量算出部216とを備えている。
【0053】
また、深部体温予測部20は、外気と測定対象者の深部間の第4熱交換量を設定する呼気蒸散量設定部217(第4熱交換量設定部)と、第1、第2予備計算時に測定対象者が安静状態という設定と温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度と深部温度とに基づいて、測定対象者の体幹部と四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第2熱交換量を算出し、本計算時に計算パラメータ取得部1の情報と温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度と深部温度とに基づいて、第2熱交換量を算出する熱交換量算出部218(第2熱交換量算出部)と、第1、第2予備計算時と本計算時に温度算出部220によって算出された直前の時刻の皮膚温度と深部温度とに基づいて、測定対象者の深部における体幹部と四肢部間の第3熱交換量を算出する熱交換量算出部219(第3熱交換量算出部)と、熱量算出部221によって算出される熱量に基づいて、測定対象者の体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する温度算出部220とを備えている。
【0054】
さらに、深部体温予測部20は、第1予備計算時に計算パラメータ取得部1の情報を用いる代わりに前記測定対象者の状態を安静状態と設定し、計算パラメータ取得部1の情報を用いる代わりに、温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、熱量算出部221に熱量を算出させ、温度算出部220に皮膚温度および深部温度を算出させる第1制御部222と、第2予備計算時に計算パラメータ取得部1の情報を用いる代わりに測定対象者の状態を安静状態と設定し、体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、第1予備計算時の温度算出部220の算出結果を設定して、熱量算出部221に熱量を算出させ、温度算出部220に皮膚温度および深部温度を算出させる第2制御部223と、本計算時に体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、第2予備計算時の温度算出部220の算出結果を設定して、計算パラメータ取得部1の情報に基づいて熱量算出部221に熱量を算出させ、温度算出部220に皮膚温度および深部温度を算出させる第3制御部224とを備えている。
【0055】
発熱量算出部213と代謝量算出部214と熱伝達・熱放射量算出部215と皮膚蒸散量算出部216と呼気蒸散量設定部217と熱交換量算出部218と熱交換量算出部219とは、測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する熱量算出部221を構成している。
【0056】
第1測定部211は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する。第2測定部212は、測定対象者近傍の湿度(測定対象者の雰囲気の湿度)を測定する。
【0057】
熱量算出部221は、計算パラメータ取得部1に予め記憶された情報と測定対象者近傍の温度と測定対象者近傍の湿度とに基づいて、測定対象者の体幹部(第1部位)と四肢部(第2部位)の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する。
温度算出部220は、熱量算出部221によって算出された熱量に基づいて、測定対象者の体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する。
【0058】
第1制御部222は、第1予備計算時に測定対象者の状態を安静状態と設定し、計算パラメータ取得部1に記憶された情報または測定部211,212の測定結果の代わりに、温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、熱量算出部221に熱量を算出させ、温度算出部220に皮膚温度および深部温度を算出させる。
【0059】
第2制御部223は、第2予備計算時に測定対象者の状態を安静状態と設定し、体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、第1予備計算時の温度算出部220の算出結果を設定して、熱量算出部221に熱量を算出させ、温度算出部220に皮膚温度および深部温度を算出させる。
【0060】
第3制御部224は、本計算時に体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、第2予備計算時の温度算出部220の算出結果を設定して、計算パラメータ取得部1に記憶された情報または測定部211,212の測定結果に基づいて熱量算出部221に熱量を算出させ、温度算出部220に皮膚温度および深部温度を算出させる。
【0061】
[深部体温予測方法:時間ステップごとの深部体温変化の計算方法]
本実施例は、
図6に示すように、測定対象者の身体が体幹部Uと四肢部Lの2部位で構成され、体幹部Uと四肢部Lの2部位がそれぞれ深部層Cと皮膚層Sの2層を有するものとみなす。すなわち、測定対象者の身体は、体幹部深部層UCと、体幹部皮膚層USと、四肢部深部層LCと、四肢部皮膚層LSとからなる。本実施例は、取得する温湿度と計算パラメータ取得部1に予め記憶された情報とを基に、測定対象者の各部・各層に流入出する、時々刻々と変化する熱量を算出し、熱量の変化から、測定対象者の各部位・各層の温度変化を予測する。
【0062】
本実施例では、時間ステップごとの深部体温変化の計算方法を説明する。本実施例では、上述のとおり、測定対象者の身体を体幹部と四肢部の2部位で構成されるものとみなした場合の計算例を記載しているが、体幹部を上半身に置き替え、四肢部を下半身に置き替えてもよい。つまり、測定対象者の身体を第1部位と第2部位の任意の2部位で構成されるものとしてよい。
【0063】
式(5)~式(8)に、それぞれ測定対象者の体幹部皮膚層USの温度変化、体幹部深部層UCの温度変化、四肢部皮膚層LSの温度変化、四肢部深部層LCの温度変化を予測する式の例を示す。TUS[t]は時刻tにおける体幹部皮膚層USの温度[℃]、TUC[t]は時刻tにおける体幹部深部層UCの温度[℃]、TLS[t]は時刻tにおける四肢部皮膚層LSの温度[℃]、TLC[t]は時刻tにおける四肢部深部層LCの温度[℃]である。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
Q1,Uは測定対象者の作業による体幹部Uの発熱量[W]、Q1,Lは作業による四肢部Lの発熱量[W]である。Q2,USは測定対象者の体幹部皮膚層USの代謝量[W]、Q2,UCは体幹部深部層UCの代謝量[W]、Q2,LSは四肢部皮膚層LSの代謝量[W]、Q2,LCは四肢部深部層LCの代謝量[W]である。Q3,U(第1熱交換量)は測定対象者の体幹部Uにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量[W]、Q3,L(第1熱交換量)は四肢部Lにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量[W]である。
【0069】
Q4,Uは測定対象者の体幹部Uにおける皮膚蒸散量、Q4,Lは四肢部Lにおける皮膚蒸散量である。Q5(第4熱交換量)は測定対象者の呼気蒸散量[W]である。Q6,U(第2熱交換量)は測定対象者の体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量[W]、Q6,L(第2熱交換量)は四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量[W]である。Q7(第3熱交換量)は測定対象者の深部における体幹と四肢間の熱交換量[W]である。
【0070】
WCUSは測定対象者の体幹部皮膚層USの熱容量[J/℃]、WCUCは体幹部深部層UCの熱容量[J/℃]、WCLSは四肢部皮膚層LSの熱容量[J/℃]、WCLCは四肢部深部層LCの熱容量[J/℃]である。Δtは計算ステップ時間であり、例えば1[s]以下とする。
また、時刻t+Δtにおける平均皮膚温Tsk[t+Δt]、深部体温T[t+Δt]は式(9)、式(10)のようになる。
【0071】
【0072】
【0073】
sf_conf_USは測定対象者の体表面全体に対する体幹部Uの表面積の割合[%]、sf_conf_LSは体表面全体に対する四肢部Lの表面積の割合[%]である。熱容量WCUS,WCUC,WCLS,WCLC、割合sf_conf_US,sf_conf_LSは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0074】
本実施例の深部体温予測部20の動作には、本計算と、本計算に先立って行われる予備計算とがあるが、まず基本となる本計算について説明する。
図7は本実施例の深部体温予測部20の本計算のときの動作を説明するフローチャートである。
【0075】
第1測定部211は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する(
図7ステップS101)。第2測定部212は、測定対象者近傍の湿度(測定対象者の雰囲気の湿度)を測定する(
図7ステップS102)。
【0076】
[作業による発熱量Q
1の算出]
次に、発熱量算出部213は、計算パラメータ取得部1に予め記憶された情報に基づいて、測定対象者の作業による体幹部Uの深部層における発熱量Q
1,U[W]、作業による四肢部Lの深部層における発熱量Q
1,L[W]をそれぞれ式(11)、式(12)のように算出する(
図7ステップS103)。
【0077】
【0078】
【0079】
式(11)、式(12)は、文献「“健康づくりのための運動指針2006 ~生活習慣病予防のために~”,厚生労働省,2006年,<https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0719-3c.pdf>」に開示されている。
【0080】
weightは測定対象者の重量[kg]、ex_conf_Uは測定対象者の全身に対する体幹部Uの筋肉量の割合[%]、ex_conf_Lは全身に対する四肢部Lの筋肉量の割合[%]である。重量weight、割合ex_conf_U,ex_conf_L、METs[t]は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0081】
[代謝量Q
2の算出]
次に、代謝量算出部214は、温度算出部220が算出した、時刻tにおける測定対象者の平均皮膚温の予測値T
sk[t][℃]と深部体温の予測値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部皮膚層USの代謝量Q
2,US[W]、体幹部深部層UCの代謝量Q
2,UC[W]、四肢部皮膚層LSの代謝量Q
2,LS[W]、四肢部深部層LCの代謝量Q
2,LC[W]をそれぞれ式(13)~式(16)のように算出する(
図7ステップS104)。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
式(13)~式(16)は、文献「Ronald J Spiegel,“A Review of Numerical Models for Predicting the Energy Deposition and Resultant Thermal Response of Humans Exposed to Electromagnetic Fields”,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,Volume32,Issue8,1984」に開示されている。
【0087】
Askinは代謝に関する定数、volume_USは測定対象者の体幹部皮膚層USの体積[m3]、volume_LSは四肢部皮膚層LSの体積[m3]、weight_Uは測定対象者の体幹部Uの重量[kg]、weight_Lは四肢部Lの重量[kg]である。定数Askin、体積volume_US,volume_LS、重量weight_U,weight_Lは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0088】
Tsk0は測定対象者の発汗が始まる平均皮膚温の基準温度、T0は発汗が始まる深部体温の基準温度である。後述のように、平均皮膚温の初期値Tsk[0]、深部体温の初期値T[0]、体幹部皮膚層USの温度の初期値TUS[0]、体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]、四肢部皮膚層LSの温度の初期値TLS[0]、四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]は、第1制御部222、第2制御部223、第3制御部224によって設定される。時刻t=0の初回の算出では、Tsk[t]=Tsk[0]、T[t]=T[0]、TUS[t]=TUS[0]、TUC[t]=TUC[0]、TLS[t]=TLS[0]、TLC[t]=TLC[0]である。
【0089】
また、代謝量算出部214は、式(14)、式(16)のMを式(17)のように算出する。
【0090】
【0091】
式(17)は、文献「AA Ganpule,et al.,“Interindividual variability in sleeping metabolic rate in Japanese subjects”,European Journal of Clinical Nutrition,volume 61,2007」に開示されている。weight_Cは測定対象者の深部の重量[kg]、heightは測定対象者の身長[cm]、ageは測定対象者の年齢である。sexcoefは測定対象者が男性の場合に0.5473、測定対象者が女性の場合に0.5473×2となる定数である。
【0092】
activity_levelは身体活動レベル、Acoefは代謝調整用のパラメータである。重量weight_C、身長height、年齢age、定数sexcoef、パラメータAcoefは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。また、定数activity_levelは、測定対象者の作業条件の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0093】
activity_levelの設定例としては、測定対象者の生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合は1.5程度とすればよい。測定対象者が座位中心の仕事をしているが、職場内での移動や立位での作業、接客等を含む場合、あるいは通勤、買物、家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合は、activity_levelを1.75程度とすればよい。測定対象者が移動や立位の多い仕事への従事者である場合、あるいはスポーツなど余暇における活発な運動習慣を持っている場合は、activity_levelを2.0程度とすればよい。このように、測定対象者の作業状況に応じてactivity_levelを適宜設定すればよい。
【0094】
[皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q
3の算出]
次に、熱伝達・熱放射量算出部215は、第1測定部211によって測定された測定対象者近傍の温度T
a[t][℃]と、温度算出部220が算出した、時刻tにおける測定対象者の平均皮膚温の予測値T
sk[t][℃]と体幹部皮膚層USの温度の予測値T
US[t][℃]と四肢部皮膚層LSの温度の予測値T
LS[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q
3,U[W]、四肢部Lにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q
3,L[W]を算出する(
図7ステップS105)。第1測定部211が測定対象者の衣服外の気温T
a[t][℃]を測定する場合、熱伝達・熱放射量Q
3,U,Q
3,Lは式(18)、式(19)のようになる。
【0095】
【0096】
【0097】
割合sf_conf_US,sf_conf_LSについては上記のとおりである。fcl_USは体幹部Uの衣服による伝熱効率を表す定数、fcl_LSは四肢部Lの衣服による伝熱効率を表す定数、coverageは四肢部Lを衣服が覆う割合[%]である。定数fcl_US,fcl_LS、割合coverageは、それぞれ既知の値であり、測定対象者の作業条件の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0098】
HSは測定対象者の空気との熱交換係数[W/℃]である。熱伝達・熱放射量算出部215は、熱交換係数HS[W/℃]を式(20)により算出する。
【0099】
【0100】
sfは測定対象者の体表面積[m2]である。熱伝達・熱放射量算出部215は、体表面積sf[m2]を測定対象者の重量weight[kg]と身長height[m]とから算出することができる。体表面積sf[m2]の算出式としては、DuBoisの式や藤本の式等の予測式がある。
【0101】
Hcmは対流熱伝達係数[W/℃/m2]、Hrは放射熱伝達係数[W/℃/m2]である。熱伝達・熱放射量算出部215は、対流熱伝達係数Hcm[W/℃/m2]、放射熱伝達係数Hr[W/℃/m2]を、それぞれ式(21)、式(22)により算出する。
【0102】
【0103】
【0104】
式(21)、式(22)は、文献「D.Fiala,et al.,“A computer model of human thermoregulation for a wide range of environmental conditions:the passive system”,Journal of Applied Physiology,1985」に開示されている。Vairは風速[m/s]である。熱伝達・熱放射量算出部215は、風速Vair[m/s]として、風速計等で測定された実測値を用いてもよいし、文献等で開示されている衣服内の風速の既知の値を用いてもよい。本実施例では、風速Vair[m/s]として、計算パラメータ取得部1に予め記憶されている値を使用する。
【0105】
[皮膚蒸散量Q
4の算出]
次に、皮膚蒸散量算出部216は、第1測定部211によって測定された測定対象者近傍の温度T
a[t][℃]と、第2測定部212によって測定された測定対象者近傍の相対湿度humidity[t][%]と、温度算出部220が算出した、時刻tにおける平均皮膚温の予測値T
sk[t][℃]と深部体温の予測値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける皮膚蒸散量Q
4,U[W]、四肢部Lにおける皮膚蒸散量Q
4,L[W]をそれぞれ式(23)、式(24)により算出する(
図7ステップS106)。
【0106】
【0107】
【0108】
sw_conf_USは測定対象者の体表面全体に対する体幹部Uの発汗量の割合[%]、sw_conf_LSは体表面全体に対する四肢部Lの発汗量の割合[%]である。割合sw_conf_US,sw_conf_LSは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。swは全身の皮膚蒸散量[W]である。皮膚蒸散量算出部216は、皮膚蒸散量sw[W]を式(25)により算出することができる。
【0109】
【0110】
min(E,Emax)はEとEmaxのうちいずれか小さい方を採用することを意味する。Eは、測定対象者の皮膚における不感蒸散と有感蒸散の和[W]である。皮膚蒸散量算出部216は、不感蒸散と有感蒸散の和E[W]を式(26)により算出することができる。
【0111】
【0112】
PIは測定対象者の皮膚における不感蒸散[W]、Qevは水の蒸発熱[J/g]である。不感蒸散PI[W]は、既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。また、水の蒸発熱Qev[J/g]は、既知の値であり、測定対象者の環境条件の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。swrateは有感蒸散[g/min]である。皮膚蒸散量算出部216は、有感蒸散swrate[g/min]を式(27)により算出することができる。
【0113】
【0114】
式(27)は、文献「D.Fiala,et al.,“Computer prediction of human thermoregulatory and temperature responses to a wide range of environmental conditions”,International Journal of Biometeorology,volume 45,2001」に開示されている。aij,bij(i=1,2,j=0,1)は、発汗係数である。発汗係数aij,bijは、それぞれ既知の値であり、測定対象者の汗のかき易さに応じて実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。具体的には、low(汗をかき難い)、normal(普通)、high(汗をかき易い)の3水準に応じて、式(28)に示すように発汗係数aij,bijを設定すればよい。
【0115】
【0116】
一方、Emaxは最大蒸発熱[W]である。皮膚蒸散量算出部216は、第1測定部211が測定対象者の衣服外の気温Ta[t][℃]を測定し、第2測定部212が測定対象者の衣服外の相対湿度humidity[t][%]を測定する場合、最大蒸発熱Emax[W]を式(29)により算出することができる。
【0117】
【0118】
割合sw_conf_US,sw_conf_LS,coverageについては上記のとおりである。fpcl_USは測定対象者の体幹部Uにおける衣服による伝熱効率を表す定数、fpcl_LSは四肢部Lにおける衣服による伝熱効率を表す定数、Emax_coefは最大蒸発熱に関する定数である。定数fpcl_US,fpcl_LS,Emax_coefは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の作業条件の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0119】
Hcは空気の風速に依存した対流による熱移動[W・m2/℃]である。皮膚蒸散量算出部216は、熱移動Hc[W・m2/℃]を式(30)により算出することができる。
【0120】
【0121】
式(29)、式(30)は、文献「I.Laakso,et al.,“Dominant factors affecting temperature rise in simulations of human thermoregulation during RF exposure”,Physics in Medicine and Biology,Volume 56,2011」に開示されている。Psは測定対象者の皮膚層での飽和水蒸気圧[kPa]である。皮膚蒸散量算出部216は、飽和水蒸気圧Ps[kPa]を式(31)により算出することができる。
【0122】
【0123】
Paは湿度を計測している雰囲気中での飽和水蒸気圧[kPa]である。皮膚蒸散量算出部216は、飽和水蒸気圧Pa[kPa]を式(32)により算出することができる。
【0124】
【0125】
[呼気蒸散量Q
5の決定]
次に、呼気蒸散量設定部217は、測定対象者の呼気による蒸散量Q
5[W]を式(33)のように設定する(
図7ステップS107)。呼気蒸散量Q
5[W]は、外気と測定対象者の深部間の熱交換量に相当する。
【0126】
【0127】
[深部と皮膚間の熱交換量Q
6の算出]
次に、熱交換量算出部218は、計算パラメータ取得部1に予め記憶された情報と、温度算出部220が算出した、時刻tにおける体幹部皮膚層USの温度の予測値T
US[t][℃]と体幹部深部層UCの温度の予測値T
UC[t][℃]と四肢部皮膚層LSの温度の予測値T
LS[t][℃]と四肢部深部層LCの温度の予測値T
LC[t][℃]と平均皮膚温の予測値T
sk[t][℃]と深部体温の予測値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
6,U[W]、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
6,L[W]をそれぞれ式(34)、式(35)により算出する(
図7ステップS108)。
【0128】
【0129】
【0130】
割合sf_conf_US,sf_conf_LSについては上記のとおりである。hxは測定対象者の皮膚と深部間の熱交換係数である。熱交換量算出部218は、熱交換係数hxを式(36)により算出することができる。
【0131】
【0132】
METs[t]については上記のとおりである。a,b,e,hx0,hx1,hx_maxは熱交換係数に関わるパラメータである。パラメータa,b,e,hx0,hx1,hx_maxは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。
【0133】
[体幹部と四肢部間の熱交換量Q
7の算出]
次に、熱交換量算出部219は、温度算出部220が算出した、時刻tにおける体幹部深部層UCの温度の予測値T
UC[t][℃]と四肢部深部層LCの温度T
LC[t][℃]と平均皮膚温の予測値T
sk[t][℃]と深部体温の予測値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q
7[W]を式(37)により算出する(
図7ステップS109)。
【0134】
【0135】
hccは測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部Lの熱交換係数である。熱交換量算出部219は、熱交換係数hccを式(38)により算出することができる。
【0136】
【0137】
f,hcc0は熱交換係数に関わるパラメータである。パラメータf,hcc0は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。hcc_Tは熱交換係数hccの温度寄与分、hcc_Mは熱交換係数hccのMETs寄与分である。熱交換量算出部219は、熱交換係数hccの温度寄与分hcc_Tを式(39)により算出することができる。
【0138】
【0139】
hcc_Tmaxはhcc_Tの規定の上限値である。また、熱交換量算出部219は、熱交換係数hccのMETs寄与分hcc_Mを式(40)により算出することができる。
【0140】
【0141】
hcc_Mmaxはhcc_Mの規定の上限値である。hcc1は熱交換係数に関わるパラメータである。上限値hcc_Tmax,hcc_Mmax、パラメータhcc1は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、測定対象者の身体的特徴の情報として計算パラメータ取得部1に予め記憶されている。aveMETs[t]は、メッツ数の時間平均値であり、本実施例ではMETs[t]と同じ値を使用すればよい。パラメータa,bについては上記のとおりである。
【0142】
こうして、発熱量算出部213と代謝量算出部214と熱伝達・熱放射量算出部215と皮膚蒸散量算出部216と呼気蒸散量設定部217と熱交換量算出部218と熱交換量算出部219とにより、各熱量Q1,U,Q1,L,Q2,US,Q2,UC,Q2,LS,Q2,LC,Q3,U,Q3,L,Q4,U,Q4,L,Q5,Q6,U,Q6,L,Q7を算出することができる。
【0143】
温度算出部220は、時刻tにおける測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の予測値T
US[t][℃]と、体幹部皮膚層USの代謝量Q
2,US[W]と、体幹部Uにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q
3,U[W]と、体幹部Uにおける皮膚蒸散量Q
4,U[W]と、体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
6,U[W]とに基づいて、Δt後の体幹部皮膚層USの温度の予測値T
US[t+Δt][℃]を式(5)により算出する(
図7ステップS110)。
【0144】
温度算出部220は、時刻tにおける測定対象者の体幹部深部層UCの温度の予測値T
UC[t][℃]と、体幹部Uの深部層における発熱量Q
1,U[W]と、体幹部深部層UCの代謝量Q
2,UC[W]と、呼気蒸散量Q
5[W]と、体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
6,U[W]と、深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q
7[W]とに基づいて、Δt後の体幹部深部層UCの温度の予測値T
UC[t+Δt][℃]を式(6)により算出する(
図7ステップS111)。
【0145】
温度算出部220は、時刻tにおける測定対象者の四肢部皮膚層LSの温度の予測値T
LS[t][℃]と、四肢部皮膚層LSの代謝量Q
2,LS[W]と、四肢部Lにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q
3,L[W]と、四肢部Lにおける皮膚蒸散量Q
4,L[W]と、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
6,L[W]とに基づいて、Δt後の四肢部皮膚層LSの温度の予測値T
LS[t+Δt][℃]を式(7)により算出する(
図7ステップS112)。
【0146】
温度算出部220は、時刻tにおける測定対象者の四肢部深部層LCの温度の予測値T
LC[t][℃]と、四肢部Lの深部層における発熱量Q
1,L[W]と、四肢部深部層LCの代謝量Q
2,LC[W]と、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
6,L[W]と、深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q
7[W]とに基づいて、Δt後の四肢部深部層LCの温度の予測値T
LC[t+Δt][℃]を式(8)により算出する(
図7ステップS113)。
【0147】
こうして、温度の予測値T
US[t+Δt],T
UC[t+Δt],T
LS[t+Δt],T
LC[t+Δt]をそれぞれ逐次計算することができる。
そして、温度算出部220は、Δt後の平均皮膚温の予測値T
sk[t+Δt][℃]を式(9)により算出する(
図7ステップS114)。また、温度算出部220は、Δt後の深部体温の予測値T[t+Δt][℃]を式(10)により算出する(
図7ステップS115)。
【0148】
深部体温予測部20は、以上のステップS101~S115の処理をΔt毎の時間について行う。Δt後の時間についての計算では、直前の回で算出したTUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt],Tsk[t+Δt],T[t+Δt]を、それぞれTUS[t],TUC[t],TLS[t],TLC[t],Tsk[t],T[t]として、ステップS101~S115の処理を行うようにすればよい。
【0149】
次に、ステップS101~S115の本計算の前に行う予備計算について説明する。本実施例では、以下の予備計算により測定環境中での測定対象者の各部位・各層の初期温度を予測した後、ステップS101~S115で説明した本計算によりΔt毎の未来の時間について測定対象者の深部体温を予測する。
【0150】
[各部位・各層の初期温度予測のための予備計算I]
図8は本実施例の深部体温予測部20の予備計算Iのときの動作を説明するフローチャートである。予備計算I(第1予備計算)では、温度中性域に相当する気温と湿度の等温・等湿度の温熱環境下において測定対象者の深部体温が一定で、測定対象者が安静状態で、測定対象者が衣服を着用していないという条件で、前記の熱量を算出して各部位・各層の温度を算出する処理を一定時間行う。
【0151】
具体的には、第1制御部222は、測定対象者近傍の温度T
a[t]=30[℃]、測定対象者近傍の相対湿度humidity[t]=0.5、測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値T
US[0]=35[℃]、体幹部深部層UCの温度の初期値T
UC[0]=37.2[℃]、四肢部皮膚層LSの温度の初期値T
LS[0]=35[℃]、四肢部深部層LCの温度の初期値T
LC[0]=37.2[℃]と設定する(
図8ステップS200)。
【0152】
また、第1制御部222は、体幹部Uの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_US、四肢部Lの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_LS、体幹部Uにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_US、四肢部Lにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_LSを全て1とし(fcl_US=fcl_LS=fpcl_US=fpcl_LS=1)、METs[t],aveMETs[t]を1とする(
図8ステップS200)。
【0153】
さらに、第1制御部222は、式(9)、式(10)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値T
sk[0][℃]、深部体温の初期値T[0][℃]として設定し、基準温度T
sk0=Tsk[0][℃]、T
0=T[0][℃]と設定する(
図8ステップS200)。第1制御部222は、ステップS200で設定した値以外のパラメータについては、ステップS103~S115で説明した値を設定する。
【0154】
発熱量算出部213、代謝量算出部214、熱伝達・熱放射量算出部215、皮膚蒸散量算出部216、呼気蒸散量設定部217、熱交換量算出部218、熱交換量算出部219、温度算出部220の動作(
図8ステップS201~S213)は、ステップS103~S115と同様である。ステップS103~S115と異なる設定についてはステップS200で説明したとおりである。
【0155】
第1制御部222は、t=0から一定の計算時間t=t1に達するまで(
図8ステップS214においてYES)、ステップS201~S213の処理をΔt毎の時間について実行させる。計算時間t1は、平均皮膚温の予測値T
sk[t+Δt][℃]が定常状態になる程度の値に設定しておけばよい。
【0156】
[各部位・各層の初期温度予測のための予備計算II]
図9は本実施例の深部体温予測部20の予備計算IIのときの動作を説明するフローチャートである。予備計算II(第1予備計算)では、予備計算Iにより計算した温度T
US[t+Δt],T
UC[t+Δt],T
LS[t+Δt],T
LC[t+Δt],T
sk[t+Δt],T[t+Δt]の最終値を各部位・各層の温度の初期値として、温度中性域に相当する気温と湿度の等温・等湿度の温熱環境下において測定対象者が安静状態で、測定対象者が衣服を着用していないという条件で、前記の熱量を算出して各部位・各層の温度を算出する処理を一定時間行う。
【0157】
具体的には、第1制御部222は、測定対象者近傍の温度T
a[t]=30[℃]、測定対象者近傍の相対湿度humidity[t]=0.5とし、予備計算IでのT
US[t+Δt]の最終値を測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値T
US[0]、予備計算IでのT
UC[t+Δt]の最終値を体幹部深部層UCの温度の初期値T
UC[0]、予備計算IでのT
LS[t+Δt]の最終値を四肢部皮膚層LSの温度の初期値T
LS[0]、予備計算IでのT
LC[t+Δt]の最終値を四肢部深部層LCの温度の初期値T
LC[0]とする(
図9ステップS300)。
【0158】
また、第1制御部222は、体幹部Uの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_US、四肢部Lの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_LS、体幹部Uにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_US、四肢部Lにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_LSを全て1とし(fcl_US=fcl_LS=fpcl_US=fpcl_LS=1)、METs[t],aveMETs[t]を1とする(
図9ステップS300)。
【0159】
さらに、第1制御部222は、式(9)、式(10)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値T
sk[0]、深部体温の初期値T[0]として設定する(
図9ステップS300)。第1制御部222は、ステップS300で設定した値以外のパラメータについては、ステップS103~S115で説明した値を設定する。なお、基準温度T
sk0,T
0についてはステップS200で設定した値のままとする。
【0160】
発熱量算出部213、代謝量算出部214、熱伝達・熱放射量算出部215、皮膚蒸散量算出部216、呼気蒸散量設定部217、熱交換量算出部218、熱交換量算出部219、温度算出部220の動作(
図9ステップS301~S313)は、ステップS103~S115と同様である。ステップS103~S115と異なる設定についてはステップS300で説明したとおりである。
【0161】
第1制御部222は、t=0から一定の計算時間t=t2に達するまで(
図9ステップS314においてYES)、ステップS301~S313の処理をΔt毎の時間について実行させる。計算時間t2は、深部体温の予測値T[t+Δt][℃]が定常状態になる程度の値に設定しておけばよい。
【0162】
[各部位・各層の初期温度予測のための予備計算III]
図10は本実施例の深部体温予測部20の予備計算IIIのときの動作を説明するフローチャートである。予備計算III(第2予備計算)では、予備計算IIにより計算した温度T
US[t+Δt],T
UC[t+Δt],T
LS[t+Δt],T
LC[t+Δt],T
sk[t+Δt],T[t+Δt]の最終値を各部位・各層の温度の初期値として、測定対象者が安静状態で、測定対象者が衣服を着用しているという条件で、前記の熱量を算出して各部位・各層の温度を算出する処理を一定時間行う。
【0163】
具体的には、第2制御部223は、予備計算IIでのT
US[t+Δt]の最終値を測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値T
US[0]、予備計算IIでのT
UC[t+Δt]の最終値を体幹部深部層UCの温度の初期値T
UC[0]、予備計算IIでのT
LS[t+Δt]の最終値を四肢部皮膚層LSの温度の初期値T
LS[0]、予備計算IIでのT
LC[t+Δt]の最終値を四肢部深部層LCの温度の初期値T
LC[0]とする(
図10ステップS400)。
【0164】
また、第2制御部223は、METs[t],aveMETs[t]を1とする。さらに、第2制御部223は、式(9)、式(10)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値T
sk[0]、深部体温の初期値T[0]として設定し、基準温度T
sk0=Tsk[0][℃]、T
0=T[0][℃]と設定する(
図10ステップS400)。第2制御部223は、ステップS400で設定した値以外のパラメータについては、ステップS103~S115で説明した値を設定する。
【0165】
第1測定部211は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する(
図10ステップS401)。第2測定部212は、測定対象者近傍の湿度(測定対象者の雰囲気の湿度)を測定する(
図10ステップS402)。
【0166】
発熱量算出部213、代謝量算出部214、熱伝達・熱放射量算出部215、皮膚蒸散量算出部216、呼気蒸散量設定部217、熱交換量算出部218、熱交換量算出部219、温度算出部220の動作(
図10ステップS403~S415)は、ステップS103~S115と同様である。ステップS103~S115と異なる設定についてはステップS400で説明したとおりである。
【0167】
第2制御部223は、t=0から一定の計算時間t=t3に達するまで(
図10ステップS416においてYES)、ステップS401~S415の処理をΔt毎の時間について実行させる。計算時間t3は、深部体温の予測値T[t+Δt][℃]が定常状態になる程度の値に設定しておけばよい。
【0168】
なお、予備計算IIIでは、熱伝達・熱放射量算出部215は、本計算と同様に、第1測定部211が測定対象者の衣服外の気温Ta[t][℃]を測定する場合、式(18)、式(19)を用いるようにすればよい。
【0169】
[本計算]
本計算では、予備計算IIIにより計算した温度TUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt],Tsk[t+Δt],T[t+Δt]の最終値を各部位・各層の温度の初期値として、ステップS101~S115の処理を行う。
【0170】
図11は本計算のときの第3制御部224の動作を説明するフローチャートである。第3制御部224は、本計算に先立って、予備計算IIIでのT
US[t+Δt]の最終値を測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値T
US[0]、予備計算IIIでのT
UC[t+Δt]の最終値を体幹部深部層UCの温度の初期値T
UC[0]、予備計算IIIでのT
LS[t+Δt]の最終値を四肢部皮膚層LSの温度の初期値T
LS[0]、予備計算IIIでのT
LC[t+Δt]の最終値を四肢部深部層LCの温度の初期値T
LC[0]とする(
図11ステップS500)。
【0171】
さらに、第3制御部224は、式(9)、式(10)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値T
sk[0]、深部体温の初期値T[0]として設定する(
図11ステップS500)。基準温度T
sk0,T
0についてはステップS400で設定した値のままとする。
そして、第3制御部224は、ステップS101~S115の処理を開始させる。
【0172】
以上のように、本実施例では、計算パラメータ取得部1に予め記憶された情報と測定対象者近傍の温度だけでなく、測定対象者近傍の湿度を測定して、測定対象者の各部位・各層に流入出する熱量を算出し、算出した熱量から測定対象者の深部体温を予測するので、第2の実施例よりも高精度に深部体温を予測することができる。また、本実施例では、本計算に先立って予備計算を行うことにより、各部位・各層の温度の初期値を設定することができる。
【0173】
第1の実施例で説明した水分損失量予測部21としては、皮膚蒸散量算出部216を利用すればよい。すなわち、皮膚蒸散量算出部216が算出する不感蒸散と有感蒸散の和E[W]が測定対象者の作業中の水分損失量である。
【0174】
なお、本実施例では、第1測定部211によって測定対象者近傍の温度を測定し、第2測定部212によって測定対象者近傍の湿度を測定しているが、計算パラメータ取得部1から測定対象者の作業当日の測定対象者近傍の温度Ta[t][℃]の予測値と測定対象者近傍の相対湿度humidity[t][%]の予測値を取得して使用するようにしてもよい。
【0175】
第1~第3の実施例の計算パラメータ取得部1と生体情報予測部2と時刻予測部3と暑熱リスク通知部4とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図12に示す。
【0176】
コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インタフェース装置(I/F)302とを備えている。I/F302には、計算パラメータ取得部1の回路部のハードウェア、生体情報予測部2の回路部のハードウェア、暑熱リスク通知部4の回路部のハードウェアなどが接続される。このようなコンピュータにおいて、本実施例の通知方法を実現させるための暑熱リスク通知プログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って第1~第3の実施例で説明した処理を実行する。プログラムをネットワークを通して提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明は、熱中症を予防する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0178】
1…計算パラメータ取得部、2…生体情報予測部、3…時刻予測部、4…暑熱リスク通知部、20…深部体温予測部、21…水分損失量予測部、201…測定部、202…第1演算部、203…第2演算部、211…第1測定部、212…第2測定部、213…発熱量算出部、214…代謝量算出部、215…熱伝達・熱放射量算出部、216…皮膚蒸散量算出部、217…呼気蒸散量設定部、218…熱交換量算出部、219…熱交換量算出部、220…温度算出部、221…熱量算出部、222…第1制御部、223…第2制御部、224…第3制御部。