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特許7605300環境負荷推計装置、環境負荷推計方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】環境負荷推計装置、環境負荷推計方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20241217BHJP
【FI】
G06Q50/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023522081
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2021019002
(87)【国際公開番号】W WO2022244145
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】スチュワート ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】古谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】竹内 章
(72)【発明者】
【氏名】田中 百合子
【審査官】谷川 智秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-310183(JP,A)
【文献】特開2004-078339(JP,A)
【文献】特開平11-203557(JP,A)
【文献】国際公開第02/059813(WO,A1)
【文献】特開2005-202550(JP,A)
【文献】'90・'95・'00・'05年版 3EID対応 味の素グループ版「食品関連材料CO2排出係数データベース」更新のお知,[onnline],味の素株式会社,2020年10月15日,全頁,[検索日 2021.08.10],インターネット<URL:https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/useful/pdf/lcco2.pdf>
【文献】J.Poore and T.Nemecek,"Reducing food's environmental impacts through producers and consumers.",Science 360.6392,2018年05月31日,pp.987-992,DOI:https://doi.org/10.1126/science.aaq0216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の環境負荷を推計する環境負荷推計装置であって、
POSデータから得られた前記食品の1日の売上金額データを、前記食品の単位重量あたりの価格データと、POSデータの市場割合とを掛けた値で割ることにより、前記食品の消費重量を推計する食品消費重量推計部と、
前記食品消費重量推計部により推計された前記消費重量に、前記食品の環境負荷係数を掛けることにより、前記食品の環境負荷を推計する環境負荷推計部と
を備える環境負荷推計装置。
【請求項2】
前記環境負荷推計部は、各食品についてのメタ分析により得られた環境負荷係数を格納するメタ分析データベースから前記環境負荷係数を取得する
請求項1に記載の環境負荷推計装置。
【請求項3】
前記環境負荷推計部は、前記食品の環境負荷を複数の食品について足し合わせることにより、複数の食品についての環境負荷の総量を算出する
請求項1又は2に記載の環境負荷推計装置。
【請求項4】
食品の環境負荷を推計する環境負荷推計装置が実行する環境負荷推計方法であって、
POSデータから得られた前記食品の1日の売上金額データを、前記食品の単位重量あたりの価格データと、POSデータの市場割合とを掛けた値で割ることにより、前記食品の消費重量を推計する食品消費重量推計ステップと、
前記食品消費重量推計ステップにより推計された前記消費重量に、前記食品の環境負荷係数を掛けることにより、前記食品の環境負荷を推計する環境負荷推計ステップと
を備える環境負荷推計方法。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1ないしのうちいずれか1項に記載の環境負荷推計装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品による環境への負荷を推計する技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、背景技術について説明する。なお、本明細書において参考にする文献については、"[1]"などにより表記し、対応する文献名については最後にまとめて記載した。
【0003】
2019年時点で、世界の食品サプライチェーンにより、二酸化炭素換算で約137億メートルトンが排出され、人為起源の温室効果ガス排出の26%を占めている。食品サプライチェーンは非常に資源集約的であり、氷と砂漠のない土地の約43%をカバーしている[1](非特許文献1)。
【0004】
世界で最も水を使用しているのも世界の食品生産であり、現在の淡水取水量の3分の2は農業用灌漑に使われていると推定される[1,2]。また、温暖化を1.5℃以下に抑えるためには、世界の二酸化炭素排出量は2030年までに大幅に減少し始めなければならない。
【0005】
気候変動は、世界で生産される食品の質と量、及びそれを配給する側の能力に影響を与えると予測されている。また、食品システムは、世界的な人口増加により、将来にわたってますます大きな圧力に直面し続ける。しかし、資源が限られているため、増大する需要に応えるための新しい土地、漁業、淡水を提供する能力の制約に直面している[4,5]。また、現代の農業は、富栄養化、酸性化、土壌劣化を通して環境劣化につながっている[6]。地球規模の食品システムを持続可能な形で発展させるためには、農業が環境劣化や地球温暖化に与える影響を考慮し、管理する必要がある。従って、食品の環境負荷を推計することが重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Poore, Joseph, and Thomas Nemecek. "Reducing food's environmental impacts through producers and consumers." Science 360.6392 (2018): 987-992.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術による食品の環境負荷の推計は、食品の実際の消費データではなく、固定的な消費量の推定値に依存している。例えば、消費量の推定値として、栄養所要量[7]、食ガイドライン[8]、国の食品供給データ[9]、あるいはFAOSTATの統計データベース[10]から得られたデータを用いている。これらのデータベースやガイドラインは、年に一度未満しか更新されておらず、季節、自然災害、パンデミック、社会動向の変化に基づく消費パターンの変化を反映していない。
【0008】
従って、従来技術による食品の環境負荷の推計の精度は、社会や食品システムで起きている変化を日々追跡するには不十分である。また、その精度は、気候変動の緩和と2050年の正味ゼロ排出目標に向けた進捗を追跡するのにも不十分である。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、従来技術よりも短い時間間隔で、実際の消費データを反映させた食品の環境負荷を推計することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示の技術によれば、食品の環境負荷を推計する環境負荷推計装置であって、
POSデータから得られた前記食品の1日の売上金額データを、前記食品の単位重量あたりの価格データと、POSデータの市場割合とを掛けた値で割ることにより、前記食品の消費重量を推計する食品消費重量推計部と、
前記食品消費重量推計部により推計された前記消費重量に、前記食品の環境負荷係数を掛けることにより、前記食品の環境負荷を推計する環境負荷推計部と
を備える環境負荷推計装置が提供される。


【発明の効果】
【0011】
開示の技術によれば、従来技術よりも短い時間間隔で、実際の消費データを反映させた食品の環境負荷を推計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来技術における環境負荷推計を説明するための図である。
図2】本発明の実施の形態の概要を示す図である。
図3】環境負荷推計装置100の構成図である。
図4】メタ分析DB130のデータの例を示す図である。
図5】環境負荷推計装置100の処理のフローチャートである。
図6】装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0014】
(食品システムの環境負荷について)
まず、本実施の形態において対象としている食品システムの環境負荷について説明する。なお、「食品システム」を「食システム」と呼んでもよい。また、「食品システムの環境負荷」を「食品の環境負荷」と呼んでもよい。
【0015】
食品システムの環境負荷に関して、エネルギー消費、土地利用、取水、肥料利用、温室効果ガス(GHG)排出、オゾン生成、富栄養化、ヒトの毒性、陸上の酸性化、粒子状物質、生態毒性、水質破壊など、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいたさまざまな環境負荷指標を用いた研究が様々な地域で行われている[11-14]。
【0016】
特定の食品の環境負荷を算出する際には、複数の科学的調査をもとに環境指標のデータを集計し、統計的に分析する。このプロセスはメタ分析と呼ばれる。メタ分析により、様々な地域の生産方法間のばらつきに対する洞察を得られるので、メタ分析は環境負荷評価の重要なツールである。
【0017】
ただし、研究の前提条件や方法が主観的であるために、環境負荷の推定値にばらつきが生じる可能性もある。メタ分析における環境負荷の推定値は、このばらつきを反映するので不確実性をもって示されている。
【0018】
2019年に、PooreとNemecekは、食品システムの環境負荷に関する包括的なメタ分析の研究を発表した[1]。本研究では、119カ国の38,700の農場及び1600の加工業者からの環境負荷データをまとめている。文献[1]は、食品システムに関して発表された最大規模のメタ分析研究である。
【0019】
本メタ分析において使用される環境負荷指標は、GHG排出量(kg CO換算)、土地利用(m年)、酸性化(gSO換算)、富栄養化(gPO 3-換算)、希少性加重取水量(kL換算)である。この研究から得られたメタ分析データは公開されている。本データは地理的及び統計学的に広範囲に及ぶため、日本における食品消費に関する環境負荷を推定するための適切なデータ源である。
【0020】
(本実施の形態の概要)
次に、本実施の形態の概要を説明する。本実施の形態では、後述する環境負荷推計装置100が、従来技術よりも短い時間間隔で、食品の環境負荷を推計する。
【0021】
比較のために、図1に従来技術による環境負荷推計方法の概要を示し、図2に、本実施の形態による環境負荷推計方法の概要を示す。図1図2において、Mは食品の消費重量を示し、Iはある指標の環境負荷を示す。
【0022】
従来技術による食品の環境負荷推計では、国政調査データを用いている。図1は、そのイメージを示している。更新頻度は年に1回以下であり、その結果、環境負荷推計値の時間分解能は1年に1回以下である。また、従来技術では、データが公表されるまでに数年の遅れがある。
【0023】
また、国政調査のデータは、食品供給データに基づいており、実際の食品消費のデータは限られている。また、気候変動、災害等が消費に与える影響が分かり難い。
【0024】
一方、本実施の形態における環境負荷推計方法では、図2に示すように、食品の総売上高を示すPOSデータと、週に1回程度更新される食品価格データとを使用して、消費される食品の1日の総重量(食品消費重量M)を推計する。
【0025】
次に、Poore及びNemecekが作成したDB[1]のように、様々な食品グループの重量単位の環境負荷統計を示すメタ分析DBを用いて、与えられた食品消費重量に対する環境負荷を推計する。具体的な推計方法については後述する。
【0026】
本実施の形態における環境負荷推計方法により、土地利用、温室効果ガス排出、取水などの環境負荷指標を、高い信頼性で短い時間間隔で算出することができる。
【0027】
現在の消費パターンによる環境負荷を理解することは、持続可能な開発にとってますます重要になる。また、世界中の食品についての土地利用を理解することは、利用可能な資源に基づいて持続可能な消費パターンを計算することを可能にする。
【0028】
例えば、将来、食品システムの局地化を試みるとすると、土地は限られているが水が豊富な日本における持続可能な消費パターンは、土地は豊富だが水は限られているオーストラリアにおける持続可能な消費パターンとは異なるものになる。
【0029】
人口増加予測も、現在の消費パターンが地球の限られた資源の中で持続可能であるかどうかを予測するのに用いることができる。例えば、環境への負荷が最も大きい食品グループの消費を特定し、栄養学的に同等なより持続可能な代替品に置き換えることができる。また、環境負荷のリアルタイム計算は、政策立案者に、気候変動緩和のための環境負荷削減目標に向けた進捗状況を評価するツールを提供する。
【0030】
(実施例)
以下、実施例として、環境負荷推計装置100の構成と動作について詳細に説明する。
【0031】
図3に、本実施の形態における環境負荷推計装置100の構成図を示す。図3に示すように、環境負荷推計装置100は、POS-DB(データベース)110、食品価格DB120、メタ分析DB130、データ取得部140、食品消費重量推計部150、及び環境負荷推計部160を有する。
【0032】
環境負荷推計装置100は、1つの装置(コンピュータ)により構成されてもよいし、複数の装置により構成されてもよい。また、環境負荷推計装置100がクラウド上に備えられてもよい。また、POS-DB(データベース)110、食品価格DB120、メタ分析DB130はそれぞれ、環境負荷推計装置100の外部にあってもよい。以下、各部について説明する。
【0033】
<POS-DB110>
POS-DB110は、外部から取得したPOSデータを格納する。あるいは、POS-DB110は、環境負荷推計装置100の外部に備えられる、以下で説明するPOSサービス提供者のDBであってもよい。
【0034】
POS‐DB110には、日々の商品の売上の情報等が格納される。POS‐DB110のデータについて、日々の商品の売上の情報等を得られるデータであれば、どのようなPOSのデータであってもよいが、本実施の形態では、一例として、Shopper Insightによる「real shopper SM」サービス[15]により提供されるデータを利用している。「real shopper SM」サービスにより、生鮮肉、魚類、果物、野菜など、JANコードのない生鮮食品の日々の売上データ(POSデータ)を得ることができる。
【0035】
なお、加工食品の重量を生鮮食品の等価重量に変換する重量等価係数を使用することにより、生鮮食品に対する環境負荷推計を、加工食品に拡張することも可能である。
【0036】
<メタ分析DB130>
文献[1]により、GHG(温室効果ガス)排出量(kgCO換算)、土地利用(m年)、酸性化(gSO換算)、富栄養化(gPO 3-換算)及び希少性加重の取水量(kL換算)に基づく、40の食品グループの環境負荷データが公開されている。メタ分析DB130には、文献[1]に基づくデータが格納されている。
【0037】
図4に、文献[1]により公開されているデータ、つまり、メタ分析DB130に格納されるデータの一例を示す。図4に示すデータは、生産面積に占有年数を乗じたもの(m年)として定義される、様々な食品グループの土地利用に関する統計的な係数のサンプルを示している。当該係数を環境負荷係数と呼ぶ。
【0038】
より具体的には、図4に示すデータは、40の食品グループのうちの10の食品グループの土地利用データのサンプルである。値はm/機能単位で表され、機能単位は食用作物1kgである。
【0039】
<食品価格DB120>
食品価格DB120には、例えば農林水産省により公開される食品価格のデータが格納される。食品価格DB120のデータは、例えば、毎週(週に1回)更新される。
【0040】
<データ取得部140>
データ取得部140は、図2に示したAPIに相当する。データ取得部140は、POS-DB110からPOSデータを取得し、食品価格DB120から食品価格のデータを取得し、これらのデータを食品消費重量推計部150に渡す。
【0041】
また、データ取得部140は、メタ分析D130Bから環境負荷係数を取得し、取得した環境負荷係数を環境負荷推計部160に渡す。
【0042】
<食品消費重量推計部150>
食品消費重量推計部150は、POSデータと食品価格データとを用いて、食品消費重量を推計する。具体的には、食品消費重量推計部150は、ある食品グループkの消費重量Mを下記の式1で算出する。
【0043】
=s/pr (式1)
ここで、sはPOSデータ([15])から得られた特定の食品グループの1日の総売上高(食品売上合計)[円]、rはPOSデータの市場割合(Shopper Insightデータベースでは1.8%)、pはキログラムあたりの食品の価格[円/kg]である。日本の農林水産省は、平均的な食品価格に関するデータを週単位で公表しており[16]、本実施例でもそのデータを使用している。なお、POSデータとして得られる総売上高についての単位が1日単位であることは例であり、例えば1時間単位であってもよいし、1週単位であってもよい。
【0044】
<環境負荷推計部160>
環境負荷推計部160は、食品消費重量推計部150により推計された食品消費重量と、メタ分析DB130から取得した環境負荷係数を使用して、ある重量の食品の環境負荷の推計値を算出する。
【0045】
具体的には、環境負荷推計部160は、環境負荷の指標Iに対する、K個の食品グループ全体における1日あたりの環境負荷の総量を下記の式2で計算する。なお、算出期間が1日単位であることは例であり、1日よりも短くてもよい。
【0046】
=Σ k=0n_k (式2)
ここで、Cn_kは食品グループkの指標nの環境負荷係数であり、Mは食品グループkの食品が、ある日に消費された重量である。
【0047】
ある日のトマト、チーズ、牛肉の消費重量をそれぞれ500t、80t、200tとする。図4のデータを用いて、消費重量に対応するトマト(Ltom_med)、チーズ(Lcheese_med)、牛肉(Lbeef_med)の土地利用の中央値を計算すると下記のとおりである。
【0048】
tom_med=0.2×500×10=0.1×10[myear]
cheese_med=20.2×80×10=1.6×10[myear]
beef_med=170.4×200×10=34×10[myear]
また、下記のとおり、5パーセンタイル値と95パーセンタイル値の間の範囲を用いて、90%信頼区間で土地利用の範囲を計算することができる。
【0049】
tom=(0.1~2.8)×10[myear](90%信頼度)
cheese=(0.6~25.9)×10[myear](90%信頼度)
beef=(10.0~182.0)×10[myear](90%信頼度)。
【0050】
上記のような土地利用についての環境負荷推計値をDB中の全ての食品グループについて合計することにより、生鮮食品全体の毎日の消費に基づく土地利用についての環境負荷を推計することができる。また、1年間にわたり一日の土地利用の環境負荷を合計することで、食品消費と結びついた年間の土地利用を推計することができる。
【0051】
本実施の形態における環境負荷推計方法により、実際の消費パターンを反映し、食品廃棄物も組み込むことができるため、一人当たりカロリー消費量の推定を用いた従来の方法[8]よりも、より正確に環境負荷を推計できる。
【0052】
なお、本実施の形態においては、生鮮食品を対象としているが、前述したように、重量換算係数を用いて加工食品を対象として環境負荷を推計することも可能である。
【0053】
<動作フロー>
図5のフローチャートを参照して、式1と式2を用いて、ある指標Iについての環境負荷を算出する際の環境負荷推計装置100の動作手順を説明する。
【0054】
食品消費重量推計部150は、S1において、k(食品グループのインデックス)を0に初期化する。S2において、食品消費重量推計部150は、食品グループkについての売上合計データsをPOS-DB110から取得し、食品価格データpを食品価格DB120から取得して、式1により、食品消費重量Mを算出する。算出したMは、環境負荷推計部160に渡される。
【0055】
k=0であればI=0としてS4に進む(S3のYes、S5)。S4において、環境負荷推計部160は、メタ分析DB130から環境負荷係数Cn_kを取得し、式2に基づき、I=I+Cn_kによりIを更新する。
【0056】
kを1ずつ増やしながら、k=Kになるまで上記の処理を繰り返して(S6、S7)、S8で、K個の食品グループ全体における環境負荷の推計値を得る。環境負荷推計部160は、環境負荷の推計値を記憶装置に保存してもよいし、外部へ出力してもよい。
【0057】
(ハードウェア構成例)
環境負荷推計装置100は、例えば、コンピュータにプログラムを実行させることにより実現できる。このコンピュータは、物理的なコンピュータであってもよいし、クラウド上の仮想マシンであってもよい。
【0058】
すなわち、環境負荷推計装置100は、コンピュータに内蔵されるCPUやメモリ等のハードウェア資源を用いて、環境負荷推計装置100で実施される処理に対応するプログラムを実行することによって実現することが可能である。上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(可搬メモリ等)に記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メール等、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0059】
図6は、上記コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。図6のコンピュータは、それぞれバスBSで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、出力装置1008等を有する。なお、これらのうち、一部の装置を備えないこととしてもよい。例えば、表示を行わない場合、表示装置1006を備えなくてもよい。
【0060】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0061】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、当該装置に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。
【0062】
(実施の形態の効果)
以上説明したとおり、本実施の形態に係る環境負荷推計装置100により、従来技術よりも短い時間間隔で、実際の消費データを反映させた食品の環境負荷を推計することが可能となる。より具体的には下記のとおりである。
【0063】
本実施の形態に係る環境負荷推計装置100により、環境負荷推計の時間精度が年1回から日に1回へと向上するので、食品の環境負荷におけるダイナミックな変化を把握することが可能となる。
【0064】
本実施の形態に係る環境負荷推計装置100により、年間土地利用、温室効果ガス排出、酸性化、富栄養化、希少性加重の取水などの環境負荷の指標を通して、消費の変化を反映させて環境への負荷を推定することができる。
【0065】
また、従来の環境負荷の推定方法は非常に時間がかかるが、本実施の形態に係る技術により、環境負荷推計をリアルタイムに自動的に行うことができる。食品の環境負荷をリアルタイムに推計することは、政策立案者が環境負荷削減目標に向けた進捗を管理するための貴重なツールとなる。また、様々な地域で利用可能な資源に基づいて、持続可能な消費パターンを特定することも可能である。
【0066】
(実施の形態のまとめ)
本明細書には、少なくとも下記各項の環境負荷推計装置、環境負荷推計方法、及びプログラムが開示されている。
(第1項)
食品の環境負荷を推計する環境負荷推計装置であって、
前記食品の売上データと、前記食品の価格データとを用いて、前記食品の消費重量を推計する食品消費重量推計部と、
前記食品消費重量推計部により推計された前記消費重量と、前記食品の環境負荷係数とを用いて、前記食品の環境負荷を推計する環境負荷推計部と
を備える環境負荷推計装置。
(第2項)
前記環境負荷推計部は、各食品についてのメタ分析により得られた環境負荷係数を格納するメタ分析データベースから前記環境負荷係数を取得する
第1項に記載の環境負荷推計装置。
(第3項)
前記食品消費重量推計部は、POSデータを格納するデータベースから前記売上データを取得する
第1項又は第2項に記載の環境負荷推計装置。
(第4項)
前記環境負荷推計部は、消費重量に環境負荷係数を乗算した値を複数の食品について足し合わせることにより、複数の食品についての環境負荷の総量を算出する
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の環境負荷推計装置。
(第5項)
食品の環境負荷を推計する環境負荷推計装置が実行する環境負荷推計方法であって、
前記食品の売上データと、前記食品の価格データとを用いて、前記食品の消費重量を推計する食品消費重量推計ステップと、
前記食品消費重量推計ステップにより推計された前記消費重量と、前記食品の環境負荷係数とを用いて、前記食品の環境負荷を推計する環境負荷推計ステップと
を備える環境負荷推計方法。
(第6項)
コンピュータを、第1項ないし第4項のうちいずれか1項に記載の環境負荷推計装置における各部として機能させるためのプログラム。
【0067】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
[参考文献]
[1] Poore, Joseph, and Thomas Nemecek. "Reducing food's environmental impacts through producers and consumers." Science 360.6392 (2018): 987-992.
[2] Tilman, David, et al. "Agricultural sustainability and intensive production practices." Nature 418.6898 (2002): 671-677.
[3]IPCC, 2018: Summary for Policymakers. In: Global Warming of 1.5℃. https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/05/SR15_SPM_version_report_LR.pdf.
[4]Grafton, R. Quentin, John Williams, and Qiang Jiang. "Food and water gaps to 2050: preliminary results from the global food and water system (GFWS) platform." Food Security 7.2 (2015): 209-220.
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[16] 農林水産省 (2019年). 「食品価格動向調査」. https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kouri/k_yasai/h22index.html
【符号の説明】
【0068】
100 環境負荷推計装置
110 POS-DB(データベース)
120 食品価格DB
130 メタ分析DB
140 データ取得部
150 食品消費重量推計部
160 環境負荷推計部
1000 ドライブ装置
1001 記録媒体
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6