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特許7605325無線通信システム、無線通信方法および基地局装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信方法および基地局装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/26 20090101AFI20241217BHJP
   H04W 24/00 20090101ALI20241217BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20241217BHJP
【FI】
H04W16/26
H04W24/00
H04W64/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023542102
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030238
(87)【国際公開番号】W WO2023021624
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宮 陸
(72)【発明者】
【氏名】谷口 諒太郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0198715(US,A1)
【文献】特開2021-057723(JP,A)
【文献】村上 友規, 大宮 陸, 岩渕 匡史, 小川 智明,通信品質向上のためのインテリジェント空間形成技術,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.121 No.101 [online] IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2021年07月07日,第121巻,pp.43-47
【文献】岩渕 匡史, 村上 友規, 大宮 陸, 小川 智明, 鷹取 泰司,ミリ波通信における方向情報に基づく分散型Intelligent Reflecting Surfaceの特性評価,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.120 No.81 [online] IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2020年06月22日,第120巻,pp.23-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と、端末装置と、少なくとも第1中継装置と第2中継装置とを備え、前記第1中継装置および前記第2中継装置はそれぞれ電波を反射する動的反射板を有し、前記基地局装置が前記第1中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第1チャネルと、前記基地局装置が前記第2中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第2チャネルとを利用可能な無線通信システムであって、
前記基地局装置は、
障害物および前記端末装置の位置を含む物体位置情報を取得するセンサ部と、
前記第1チャネルの第1チャネル状態情報および前記第2チャネルの第2チャネル状態情報を取得する無線部と、
前記センサ部により取得された過去の物体位置情報と、当該過去の物体位置情報に関して前記無線部により取得された前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報と、を関連付けて蓄積する情報蓄積部と、
前記センサ部により取得された現在の物体位置情報が、前記情報蓄積部に蓄積された前記過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する類似判定部と、
前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、前記現在の物体位置情報と類似する前記過去の物体位置情報に関連付けられた前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第1中継装置および前記第2中継装置のうち現時点で利用する中継装置を決定する中継装置決定部と、を備えること、
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記センサ部は、
格子状に区切られた複数の領域を撮影する画像センサと、
前記画像センサにより撮影された前記複数の領域の画像データを探索し、前記障害物が存在する領域の位置および前記端末装置が存在する領域の位置を前記物体位置情報として取得する環境情報取得部と、を含み、
前記類似判定部は、前記現在の物体位置情報において前記障害物が存在する領域および前記端末装置が存在する領域が、前記過去の物体位置情報において前記障害物が存在する領域および前記端末装置が存在する領域と同じである場合に、前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定すること、
を特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記複数の領域のそれぞれは、床面に配置された複数のタイルのそれぞれに対応すること、
を特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
基地局装置が第1中継装置の動的反射板を介して端末装置と通信するための第1チャネルと、前記基地局装置が第2中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第2チャネルとを利用可能な無線通信方法であって、
障害物および前記端末装置の位置を含む物体位置情報を取得する環境情報取得工程と、
前記第1チャネルの第1チャネル状態情報および前記第2チャネルの第2チャネル状態情報を取得するCSI取得工程と、
前記環境情報取得工程により取得された過去の物体位置情報と、当該過去の物体位置情報に関して前記CSI取得工程により取得された前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報と、を関連付けて蓄積する情報蓄積工程と、
前記環境情報取得工程により取得された現在の物体位置情報が、前記情報蓄積工程により蓄積された前記過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する類似判定工程と、
前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、前記現在の物体位置情報と類似する前記過去の物体位置情報に関連付けられた前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第1中継装置および前記第2中継装置のうち現時点で利用する中継装置を決定する中継装置決定工程と、
を備えることを特徴とする無線通信方法。
【請求項5】
前記基地局装置は、格子状に区切られた複数の領域を撮影する画像センサを含み、
前記環境情報取得工程は、前記画像センサにより撮影された前記複数の領域の画像データを探索し、前記障害物が存在する領域の位置および前記端末装置が存在する領域の位置を前記物体位置情報として取得し、
前記類似判定工程は、前記現在の物体位置情報において前記障害物が存在する領域および前記端末装置が存在する領域が、前記過去の物体位置情報において前記障害物が存在する領域および前記端末装置が存在する領域と同じである場合に、前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定すること、
を特徴とする請求項4に記載の無線通信方法。
【請求項6】
前記複数の領域のそれぞれは、床面に配置された複数のタイルのそれぞれに対応すること、
を特徴とする請求項5に記載の無線通信方法。
【請求項7】
基地局装置が第1中継装置の動的反射板を介して端末装置と通信するための第1チャネルと、前記基地局装置が第2中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第2チャネルとを利用可能な基地局装置であって、
障害物および前記端末装置の位置を含む物体位置情報を取得するセンサ部と、
前記第1チャネルの第1チャネル状態情報および前記第2チャネルの第2チャネル状態情報を取得する無線部と、
前記センサ部により取得された過去の物体位置情報と、当該過去の物体位置情報に関して前記無線部により取得された前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報と、を関連付けて蓄積する情報蓄積部と、
前記センサ部により取得された現在の物体位置情報が、前記情報蓄積部に蓄積された前記過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する類似判定部と、
前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、前記現在の物体位置情報と類似する前記過去の物体位置情報に関連付けられた前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第1中継装置および前記第2中継装置のうち現時点で利用する中継装置を決定する中継装置決定部と、
を備えることを特徴とする基地局装置。
【請求項8】
前記センサ部は、
格子状に区切られた複数の領域を撮影する画像センサと、
前記画像センサにより撮影された前記複数の領域の画像データを探索し、前記障害物が存在する領域の位置および前記端末装置が存在する領域の位置を前記物体位置情報として取得する環境情報取得部と、を含み、
前記類似判定部は、前記現在の物体位置情報において前記障害物が存在する領域および前記端末装置が存在する領域が、前記過去の物体位置情報において前記障害物が存在する領域および前記端末装置が存在する領域と同じである場合に、前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定すること、
を特徴とする請求項7に記載の基地局装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線通信システム、無線通信方法および基地局装置に係り、特に、動的反射板(RIS:Reconfigurable Intelligent Surface)を用いる無線通信システム、無線通信方法および基地局装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信に利用される動的反射板が知られている。動的反射板は、多数の反射素子から構成され、入射される電波を反射する。動的反射板の反射方向等の反射特性は、動的に制御可能である。そのような動的反射板を利用することによって、障害物を迂回する伝搬パスを形成したり、単一の端末装置に対して複数の伝搬パスを形成したりすることが可能となる。これにより、通信品質や空間多重数といった通信性能を向上させることが可能となる。
【0003】
動的反射板を活用した通信を行うためには、基地局装置は、動的反射板を経由するチャネルの状態を示すチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)を取得し、動的反射板の利用判定を行う必要がある。
【0004】
非特許文献1には、アクセスポイントが端末装置にトレーニング信号を送ってその応答からチャネル状態情報を推定することが開示されている(CSIフィードバック)。非特許文献2には、CSIフィードバックを用いてRIS経由のチャネル状態情報を推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】N. Jindal, "MIMO Broadcast Channels With Finite-Rate Feedback," in IEEE Transactions on Information Theory, vol. 52, no. 11, pp. 5045-5060, Nov. 2006, doi: 10.1109/TIT.2006.883550.
【文献】Q. Wu, and R. Zhang, “Intelligent reflecting surface enhanced wireless network via joint active and passive beamforming,” IEEE transaction on wireless communications, vol.18, no.11, Nov. 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、チャネル状態情報(CSI)の取得には一定の時間(オーバーヘッド)を要する。また、CSIの取得は、複数の動的反射板それぞれについて逐次的に実行される必要があるため、動的反射板を経由するチャネルが多いほどオーバーヘッドは増大する。オーバーヘッドが増大すれば、動的反射板の利用判定が遅れるという課題がある。
【0007】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、CSIを取得するためのオーバーヘッドを低減し、複数の動的反射板の利用判定を同時に実行可能な無線通信システム、無線通信方法および基地局装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点は、無線通信システムに関連する。
無線通信システムは、基地局装置と、端末装置と、少なくとも第1中継装置と第2中継装置とを備える。
前記第1中継装置および前記第2中継装置はそれぞれ電波を反射する動的反射板を有する。
前記無線通信システムは、前記基地局装置が前記第1中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第1チャネルと、前記基地局装置が前記第2中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第2チャネルとを利用可能である。
前記基地局装置は、センサ部と、無線部と、情報蓄積部と、類似判定部と、中継装置決定部とを備える。
前記センサ部は、障害物および前記端末装置の位置を含む物体位置情報を取得する。
前記無線部は、前記第1チャネルの第1チャネル状態情報および前記第2チャネルの第2チャネル状態情報を取得する。
前記情報蓄積部は、前記センサ部により取得された過去の物体位置情報と、当該過去の物体位置情報に関して前記無線部により取得された前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報と、を関連付けて蓄積する。
前記類似判定部は、前記センサ部により取得された現在の物体位置情報が、前記情報蓄積部に蓄積された前記過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する。
前記中継装置決定部は、前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、前記現在の物体位置情報と類似する前記過去の物体位置情報に関連付けられた前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第1中継装置および前記第2中継装置のうち現時点で利用する中継装置を決定する。
【0009】
第2の観点は、無線中継方法に関連する。
前記無線通信方法は、基地局装置が第1中継装置の動的反射板を介して端末装置と通信するための第1チャネルと、前記基地局装置が第2中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第2チャネルとを利用可能である。
前記無線通信方法は、環境情報取得工程と、CSI取得工程と、情報蓄積工程と、類似判定工程と、中継装置決定工程とを備える。
前記環境情報取得工程は、障害物および前記端末装置の位置を含む物体位置情報を取得する。
前記CSI取得工程は、前記第1チャネルの第1チャネル状態情報および前記第2チャネルの第2チャネル状態情報を取得する。
前記情報蓄積工程は、前記環境情報取得工程により取得された過去の物体位置情報と、当該過去の物体位置情報に関して前記CSI取得工程により取得された前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報と、を関連付けて蓄積する。
前記類似判定工程は、前記環境情報取得工程により取得された現在の物体位置情報が、前記情報蓄積工程により蓄積された前記過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する。
前記中継装置決定工程は、前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、前記現在の物体位置情報と類似する前記過去の物体位置情報に関連付けられた前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第1中継装置および前記第2中継装置のうち現時点で利用する中継装置を決定する。
【0010】
第3の観点は、基地局装置に関連する。
基地局装置は、前記基地局装置が第1中継装置の動的反射板を介して端末装置と通信するための第1チャネルと、前記基地局装置が第2中継装置の動的反射板を介して前記端末装置と通信するための第2チャネルとを利用可能である。
前記基地局装置は、センサ部と、無線部と、情報蓄積部と、類似判定部と、中継装置決定部とを備える。
前記センサ部は、障害物および前記端末装置の位置を含む物体位置情報を取得する。
前記無線部は、前記第1チャネルの第1チャネル状態情報および前記第2チャネルの第2チャネル状態情報を取得する。
前記情報蓄積部は、前記センサ部により取得された過去の物体位置情報と、当該過去の物体位置情報に関して前記無線部により取得された前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報と、を関連付けて蓄積する。
前記類似判定部は、前記センサ部により取得された現在の物体位置情報が、前記情報蓄積部に蓄積された前記過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する。
前記中継装置決定部は、前記現在の物体位置情報が前記過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、前記現在の物体位置情報と類似する前記過去の物体位置情報に関連付けられた前記第1チャネル状態情報および前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第1中継装置および前記第2中継装置のうち現時点で利用する中継装置を決定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、基地局装置は、現在の環境が過去の環境と類似する場合に、過去に蓄積したチャネル状態情報(CSI)を再利用して、現時点で利用する中継装置を決定することができる。そのため、本開示によれば、CSIを取得するためのオーバーヘッドを低減し、複数の動的反射板の利用判定を同時に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る無線通信システムの概要を説明するための概念図である。
図2】本発明の実施の形態に係る基地局装置が有する機能の概要を例示するブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係るセンサ部の物体探索処理について説明するための図である。
図4】本発明の実施の形態に係る情報蓄積部に蓄積された領域情報を例示するテーブルである。
図5】本発明の実施の形態に係る基地局装置が実行する処理を例示するフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態に係るセンサ部の処理を例示するフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態に係る基地局装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0014】
実施の形態.
(1)無線通信システム
図1は、実施の形態に係る無線通信システムの概要を説明するための概念図である。図1に示す無線通信システムは、基地局装置1、端末装置2、複数の中継装置3を備える。基地局装置1は、例えば、通信事業者の管理下にある無線基地局である。端末装置2は、スマートフォン等のユーザ端末である。端末装置2は、基地局装置1の通信エリアに属し、かつ、それら両者の間に障害物等が存在しない場合は、基地局装置1と直接通信することができる。
【0015】
中継装置3は、動的反射板30、つまりRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)を備える。動的反射板30は、多数の反射素子から構成され、入射される電波(無線周波数信号)を反射する。中継装置3の動的反射板30は、基地局装置1と端末装置2との間で電波を中継するために配置されている。端末装置2は、基地局装置1と直接の通信ができない場合でも、中継装置3の動的反射板30を介することで基地局装置1と通信できる場合がある。
【0016】
図1には、n個の中継装置3(第1中継装置31、第2中継装置32、・・・、第n中継装置3n)が例示されている。図1に例示する環境(A)および環境(B)において、基地局装置1および複数の中継装置3の位置は同じであり、端末装置2aと端末装置2bの位置、および障害物4aと障害物4bの位置は略同じである。すなわち、環境(A)と環境(B)は類似している。
【0017】
環境(A)において、第1チャネルは、第1中継装置31の動的反射板30を経由して基地局装置1と端末装置2aとの間で電波を伝達する。第2チャネルは、第2中継装置32の動的反射板30を経由して基地局装置1と端末装置2aとの間で電波を伝達する。第nチャネルは、第n中継装置3nの動的反射板30を経由して基地局装置1と端末装置2aとの間で電波を伝達する。
【0018】
環境(B)において、第1チャネルは、第1中継装置31の動的反射板30を経由して基地局装置1と端末装置2bとの間で電波を伝達する。第2チャネルは、第2中継装置32の動的反射板30を経由して基地局装置1と端末装置2bとの間で電波を伝達する。第nチャネルは、第n中継装置3nの動的反射板30を経由して基地局装置1と端末装置2bとの間で電波を伝達する。
【0019】
(2)基地局装置
中継装置3の動的反射板30を活用した通信を行うためには、基地局装置1は、動的反射板30を経由するチャネルの状態を示すチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)を取得し、中継装置3(動的反射板30)の利用判定を行う必要がある。しかしながら、CSIの取得は、各中継装置3の動的反射板30について逐次的に実行される必要があるためオーバーヘッドが大きい。
【0020】
そこで、本実施形態の基地局装置1は、オーバーヘッドの影響を低減するため、図1に例示する環境(A)と環境(B)のように、現在の環境が、過去の環境と類似する場合には、過去に取得したチャネル状態情報(CSI)を再利用して、現時点で用いる中継装置3(動的反射板30)を決定することとした。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態に係る基地局装置1が有する機能の概要を例示するブロック図である。図2に示すように、基地局装置1は、センサ部10、無線部13、情報蓄積部16、類似判定部17、中継装置決定部18を備える。
【0022】
センサ部10は、障害物4および端末装置2の位置を含む物体位置情報を取得する。例えば、センサ部10は、画像センサ11と環境情報取得部12を含む。
【0023】
センサ部10の画像センサ11は、周期的に格子状に区切られた複数の領域(図3)からなる端末装置2の利用範囲を撮影し、画像データとして出力する。画像センサ11は、デジタルカメラで使用される半導体センサであり、カメラのレンズから入射した光を電気信号に変換し、画像データとして出力する。カメラの画角は固定されており、端末装置2の利用範囲(実空間上)の各位置と、画像データの各位置との対応関係は予め定められている。
【0024】
例えば、端末装置2の利用範囲は、床面にタイルで区分された範囲であり、格子状に区切られた複数の領域のそれぞれは、床面に配置された複数のタイルのそれぞれに対応する。なお、端末装置2の利用範囲に、障害物4や端末装置2などの物体(端末装置2を人が携帯する場合は「人」、移動体が搭載する場合はその「移動体」)が存在する場合は、物体は利用範囲と共に撮影される。撮影により生成された画像データは、環境情報取得部12へ出力される。
【0025】
センサ部10の環境情報取得部12は、画像センサ11により撮影された複数の領域の画像データを探索し、障害物4が存在する領域の位置および端末装置2が存在する領域の位置を物体位置情報として取得する。
【0026】
具体的には、まず、環境情報取得部12は、画像センサ11により撮影された端末装置2の利用範囲の画像データを取得する。環境情報取得部12は、画像データを格子状に区切られた複数の領域として認識する。環境情報取得部12は、画像データ上を探索して当該複数の領域のうち物体(端末装置2、障害物4)が存在する領域を見つける。環境情報取得部12は、情報蓄積部16に記憶された領域情報から、物体が存在する領域の中心座標(タイルの中心座標)を取得する。
【0027】
図4は、情報蓄積部16に記憶された領域情報を例示する図である。情報蓄積部16は、端末装置2の利用範囲に関して、格子状に区切られた複数の領域(タイル1、タイル2、・・・)の番号、中心X座標、中心Y座標を定めた領域情報を予め記憶する。例えば、隣接する領域の中心間の距離は、例えば、数十センチメートル~数メートル程度である。
【0028】
図2に戻り説明を続ける。無線部13は、端末装置2と無線通信を行う。例えば、無線部13は、中継装置決定部18により決定された中継装置3の動的反射板30を介して端末装置2と無線通信を行う。
【0029】
また、無線部13は、複数のチャネルそれぞれのチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)を取得する。すなわち、無線部13は、第1チャネルの第1チャネル状態情報、および第2チャネルの第2チャネル状態情報、・・・、第nチャネルの第nチャネル状態情報を取得する。
【0030】
例えば、無線部13は、無線通信回路14、CSI取得部15を含む。無線通信回路14は、アンテナや送受信回路を含む。CSI取得部15は、無線通信回路14を介してCSIの推定に用いる既知の信号を周期的に送信する。端末装置2は受信した信号を基に推定したCSIを基地局装置1にフィードバックする(CSIフィードバック,IEEE 802.11ac)。すなわち、CSIは周期的に取得される。
【0031】
情報蓄積部16は、センサ部10により取得された物体位置情報、および当該物体位置情報に関して無線部13により取得された複数のチャネル状態情報(第1チャネル状態情報、第2チャネル状態情報、・・・、第nチャネル状態情報)を関連付けて蓄積する。情報蓄積部16に記憶される各種情報は、記憶装置92(図7)に記憶される。
【0032】
類似判定部17は、センサ部10により取得された現在の物体位置情報が、情報蓄積部16に蓄積された過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する。具体的には、類似判定部17は、現在の物体位置情報において障害物4が存在する領域および端末装置2が存在する領域が、過去の物体位置情報において障害物4が存在する領域および端末装置2が存在する領域と同じである場合に、現在の物体位置情報が過去の物体位置情報と類似すると判定する。
【0033】
中継装置決定部18は、現在の物体位置情報が過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、情報蓄積部16から現在の物体位置情報と類似する過去の物体位置情報に関連付けられた複数のチャネル状態情報を読み出す。中継装置決定部18は、複数のチャネル状態情報に基づいて、複数の中継装置3(第1中継装置31、第2中継装置32、・・・、第n中継装置3n)のうち現時点で利用する少なくとも1つの中継装置3(動的反射板30)を決定する。基地局装置1は、決定された中継装置3の動的反射板30を利用して無線部13が端末装置2と通信するための制御を実行する。これによれば、基地局装置1は、現在の物体位置情報に対する最新のチャネル状態情報(CSI)の取得を待たずに、現時点で利用する中継装置を決定できる。
【0034】
CSI取得部15により最新のチャネル状態情報(CSI)が取得された後、中継装置決定部18は、最新のチャネル状態情報に基づいて、利用する中継装置を決定する。これによれば、最新のチャネル状態情報が取得された後に、基地局装置1は、最適な中継装置を再決定できる。
【0035】
図5は、実施の形態に係る基地局装置1が実行する環境情報取得時の処理を例示するフローチャートである。
【0036】
ステップS100において、環境情報取得部12は、画像センサ11により取得された画像データから、障害物4および端末装置2の物体位置情報を取得する。図6を参照して具体的に説明する。図6は、環境情報取得部12が実行する物体位置情報を取得する処理を例示するフローチャートである。変数iの初期値は1である。
【0037】
ステップS101において、環境情報取得部12は、画像センサ11から画像データを取得する。
【0038】
次にステップS102において、環境情報取得部12は、画像データから領域iの状態を取得する。例えばi=1の場合、図3のタイル1部分に対応する画像を取得する。
【0039】
次にステップS103において、環境情報取得部12は、領域iに対応する画像上に物体が存在するか否かを判定する。例えばi=1の場合、図3のタイル1部分に対応する画像に物体が映されているか否かを判定する。画像データの領域iに対応する部分に物体が存在する場合は、ステップS104の処理が実行される。一方、物体が存在しない場合は、ステップS105の処理が実行される。
【0040】
ステップS104において、環境情報取得部12は、領域iの中心座標を物体位置情報に追加する。各領域の中心座標は、領域情報として情報蓄積部16に予め記憶されている。
【0041】
ステップS105において、変数iが全領域数N以上であるか否かを判定する。判定条件が成立する場合は、画像データのすべての領域について物体の探索が終了したと判断される。物体位置情報はCSI取得部15および類似判定部17に出力され、本ルーチンは終了される。一方、判定条件が成立しない場合は、次にステップS106において変数iが1インクリメントされて、新たな領域iに対してステップS102から処理が再開される。
【0042】
以上説明したように、図6の処理によれば、センサ部は、画像データに基づいて物体位置情報を出力する。
【0043】
図5に戻り説明を続ける。ステップS110において、類似判定部17は、センサ部10により取得された現在の物体位置情報が、情報蓄積部16に記憶された過去の物体位置情報と類似するか否かを判定する。判定条件が成立する場合は、ステップS120の処理が実行される。一方、判定条件が成立しない場合は、ステップS130の処理が実行される。
【0044】
ステップS120において、中継装置決定部18は、現在の物体位置情報が過去の物体位置情報と類似すると判定された場合に、情報蓄積部16から現在の物体位置情報と類似する過去の物体位置情報に関連付けられた複数のチャネル状態情報(CSI)を読み出す。その後、ステップS150の処理が実行される。
【0045】
ステップS150において、中継装置決定部18は、複数のチャネル状態情報に基づいて、複数の中継装置3(第1中継装置31、第2中継装置32、・・・、第n中継装置3n)のうち現時点で利用する少なくとも1つの中継装置3(動的反射板30)を決定する。
【0046】
一方、ステップS110において、現在の物体位置情報と類似する過去の物体位置情報が無いと判断された場合は、最新のチャネル状態情報(CSI)を取得する必要がある。そのため、ステップS130において、無線部13は、現在の物体位置情報における各チャネルのチャネル状態情報(CSI)を取得する。チャネル状態情報の取得には所定の時間(オーバーヘッド)を要する。
【0047】
次に、ステップS140において、情報蓄積部16は、センサ部10により取得された現在の物体位置情報、および当該物体位置情報に関して無線部13により取得された最新の複数のチャネル状態情報(第1チャネル状態情報、第2チャネル状態情報、・・・、第nチャネル状態情報)を関連付けて蓄積する。
【0048】
次に、ステップS150において、各チャネルの最新のチャネル状態情報に基づいて、複数の中継装置3(第1中継装置31、第2中継装置32、・・・、第n中継装置3n)のうち現時点で利用する少なくとも1つの中継装置3(動的反射板30)を決定する。
【0049】
(3)効果
以上説明したように、本実施形態の基地局装置1によれば、現在の環境が過去の環境と類似する場合に、現在の物体位置情報に対する最新のチャネル状態情報(CSI)の取得を待たずに、過去に蓄積したCSIを再利用して、現時点で利用する中継装置3(動的反射板30)を決定することができる。そのため、本開示によれば、CSIを取得するためのオーバーヘッドを低減し、複数の動的反射板の利用判定を同時に実行することができる。また、最新のチャネル状態情報が取得された後に、基地局装置1は、最新のチャネル状態情報に基づいて最適な中継装置3(動的反射板30)を再決定できる。
【0050】
(4)ハードウェア構成例
図7は、本実施の形態に係る基地局装置1のハードウェア構成例を示すブロック図である。基地局装置1は、制御装置90、センサ80、無線通信回路14(図2)を含む。
【0051】
制御装置90は、基地局装置1の制御を行う。例えば、制御装置90は、1又は複数のプロセッサ91(以下、単に「プロセッサ91」と呼ぶ)及び1又は複数の記憶装置92(以下、単に「記憶装置92」と呼ぶ)を含む。プロセッサ91は、各種情報処理(図2に示す各部の処理を含む)を行う。プロセッサ91は、例えばCPUを含む。記憶装置92は、プロセッサ91による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置92としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD、SSD、等が例示される。プロセッサ91が、コンピュータプログラムである制御プログラムを実行することにより、制御装置90の機能が実現される。制御プログラムは、記憶装置92に格納される。制御プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0052】
なお、制御装置90が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよいし、プロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。すなわち、制御装置90はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0053】
センサ80は、障害物4および端末装置2の位置に関する情報を取得するためのセンサである。センサ80は、例えば画像センサ11(図2)である。無線通信回路14は、端末装置2および中継装置3と無線通信を行う。例えば、無線通信回路14は、アンテナや送受信回路を含む。無線通信回路14は、制御装置90(プロセッサ91)によって制御される。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上述した実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 基地局装置
2,2a,2b 端末装置
3,31,32,3n 中継装置,第1中継装置,第2中継装置,第n中継装置
4,4a,4b 障害物
10 センサ部
11 画像センサ
12 環境情報取得部
13 無線部
14 無線通信回路
15 CSI取得部
16 情報蓄積部
17 類似判定部
18 中継装置決定部
30 動的反射板
80 センサ
90 制御装置
91 プロセッサ
92 記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7