(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】伝送線路基板
(51)【国際特許分類】
H01P 3/08 20060101AFI20241217BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01P3/08 101
H05K3/46 Z
(21)【出願番号】P 2023550764
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035567
(87)【国際公開番号】W WO2023053175
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】武藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】松崎 秀昭
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-111324(JP,A)
【文献】特開2002-368431(JP,A)
【文献】特開昭53-135459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 3/08
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなる基板の上に配置された第1集積回路および第2集積回路と、
前記基板の上に形成され、前記第1集積回路と前記第2集積回路とを接続する、第1線路長の第1伝送線路と、
前記第1集積回路、前記第2集積回路、および前記第1伝送線路を覆って形成され、第1誘電率の誘電体からなる第1誘電体層と、
前記第1誘電体層の上に形成された、第2誘電率の誘電体からなる第2誘電体層と、
前記第1集積回路に接続し、前記第1誘電体層を貫通して前記第2誘電体層の途中まで貫通する柱状の第1ビアと、
前記第2集積回路に接続し、前記第1誘電体層を貫通して前記第2誘電体層の途中まで貫通する柱状の第2ビアと、
前記第2誘電体層の中に形成され、前記第1ビアと前記第2ビアに接続し、前記第1集積回路と前記第2集積回路とを接続するための、第2線路長の第2伝送線路と、 前記基板の裏面に形成されたグランド層と
を備え、
前記第1線路長が前記第2線路長より長い場合は、前記第1誘電率より前記第2誘電率の方が低く、
前記第2線路長が前記第1線路長より長い場合は、前記第2誘電率より前記第1誘電率の方が低い
ことを特徴とする伝送線路基板。
【請求項2】
請求項1記載の伝送線路基板において、
前記第1誘電体層と前記第2誘電体層との間に形成された第1グランドプレーンをさらに備えることを特徴とする伝送線路基板。
【請求項3】
請求項1または2記載の伝送線路基板において、
前記第1誘電率および前記第2誘電率は、
前記第1伝送線路および前記第2伝送線路の各々における信号の伝送時間が等しくなる状態に設定されている
ことを特徴とする伝送線路基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の伝送線路基板において、
前記第1伝送線路および前記第2伝送線路は、平面視で直線状に形成されていることを特徴とする伝送線路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送線路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の、この種のモジュールの高周波化に伴い、高周波用伝送線路基板には、動作エラーを起こさずに信号を高速で伝送するために伝送線路の構成が極めて重要となっている。例えば、複数の集積回路が伝送線路基板に集積されている場合、高周波信号を伝送する配線を、全て同一長さの配線により接続されることが望ましい場合がある。例えば、
図3に示すように、基板301の上に集積され、各々接続する第1集積回路302と第2集積回路303の各々の入出力部が、互いに向かい合って配置され、かつ、各伝送線路の接続間隔が同一であるならば、各伝送線路を同一線路長で形成することが可能である。
【0003】
しかしながら、一般には、集積回路の外周部全てに入出力部が形成されることから、実際には、各伝送線路が配線長を異にして形成されることになる。各伝送線路が配線長を異にして形成されている場合に、それぞれに伝送される信号の伝送時間に差が生じてしまう。伝送線路基板は、このためにタイミングのズレによる処理の誤動作や、ノイズを発生させるといった問題があった。
【0004】
高周波用伝送線路基板の上で高速信号を伝搬させるには、代表的な伝送線路構造として、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路、グランデッドコプレーナ線路などが使用されている。例えば、マイクロストリップ線路は、誘電体基板の一方の面に平面的な導電体層のグランド面を形成し、他方の面にストリップ状の線路を形成して伝送線路を構成している。これらの線路の特性インピーダンスは、信号線路の幅、厚さ、誘電体基板の誘電率、厚さや信号線とグランドパターンとの隙間の幾何学的寸法によって決定される。
【0005】
また、高周波化と共に低消費電力化も重要なファクターとなっており、低消費電力化のためには、小型化・高密度化が求められている。例えば、対応する配線同士を同じ長さとして接続する構成では、冗長配線となる。配線長が長くなれば損失も多くなり、さらに、多数の折り返し部位を形成することも、高周波ではロスなど信号品質への影響を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伝送線路基板においては、上述した配線長を異にする伝送線路や平衡線路に起因する問題点を解決するために種々の検討が図られている。例えば
図4に示す伝送線路基板は、誘電体基板401に、第1集積回路402および第2集積回路403が搭載されるとともに、誘電体基板401にこれらの集積回路の相対する入出力部間を接続する多数本の伝送線路のパターンが形成されている。この伝送線路基板においては、各伝送線路がそれぞれの線路長をほぼ同一に形成されている。
【0008】
伝送線路基板においては、第1集積回路402の辺402a、辺402b、辺402cに入出力部が設けられており、第2集積回路403の辺403a、辺403b、辺403cに入出力部が設けられている。辺402aの入出力部と、辺403aの入出力部との間の距離が最大長である。次に、辺402bの入出力部と、辺403bの入出力部との間の距離が、中間長となる。次に、辺402cの入出力部と、辺403cの入出力部との間の距離が、最小長となる。
【0009】
この伝送線路基板においては、第1集積回路402の辺402aに設けた入出力部と第2集積回路403の辺403aに設けた入出力部間とを接続する第1伝送線路411aを基準として、第2伝送線路412aが、各々の線路長を一致されるように誘電体基板401にパターン形成されている。第2伝送線路412aには、この一部に屈折部位を形成することによって線路長が第1伝送線路411aの線路長とほぼ同長とされている。また、第4伝送線路412bは、多数の折り返し部位を形成したいわゆるミアンダパターンとされることによって、線路長が第3伝送線路411bとほぼ同長とされている。
【0010】
しかしながら、上述した構成の伝送線路基板は、直線距離の短い伝送線路にわざわざ屈折部位や折り返し部位を形成して等長配線化を図ることから、線路長が長くなっていわゆる冗長配線構造となる。この種の伝送線路基板においては、低消費電力化が追求されており、上述した冗長配線構造では損失が多く、実用的ではない。
【0011】
また、この種の伝送線路基板においては、伝送線路の線路長が大きくなることによってインピーダンス成分が増加し、高周波信号の伝送効率が劣化するといった問題があるばかりでなく、電磁ノイズを放射したり受けたりしやすくなるため、電磁整合特性や電磁妨害雑音特性が劣化するといった問題がある。
【0012】
また、線路長を異にして形成されていると、それぞれに伝送される高周波信号の位相シフト量が異なってしまう。このため、変換後の高周波信号のロスが大きくなるといった問題がある。回路部品や回路素子などの多機能化、高機能化が図られることにより、入出力端子の数も多くかつ高密度に設けられている。したがって、上述した対応を図ることが極めて困難であるとともに冗長配線も複雑かつより長くなり、大型化あるいは特性劣化などの問題がさらに大きい。
【0013】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、配線構造を冗長することなく、異なる線路長の伝送線路間でロスを大きくすることなく高周波信号が伝送できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る伝送線路基板は、誘電体からなる基板の上に配置された第1集積回路および第2集積回路と、基板の上に形成され、第1集積回路と第2集積回路とを接続する、第1線路長の第1伝送線路と、第1集積回路、第2集積回路、および第1伝送線路を覆って形成され、第1誘電率の誘電体からなる第1誘電体層と、第1誘電体層の上に形成された、第2誘電率の誘電体からなる第2誘電体層と、第1集積回路に接続し、第1誘電体層を貫通して第2誘電体層の途中まで貫通する柱状の第1ビアと、第2集積回路に接続し、第1誘電体層を貫通して第2誘電体層の途中まで貫通する柱状の第2ビアと、第2誘電体層の中に形成され、第1ビアと第2ビアに接続し、第1集積回路と第2集積回路とを接続するための、第2線路長の第2伝送線路と、基板の裏面に形成されたグランド層とを備え、第1線路長が第2線路長より長い場合は、第1誘電率より第2誘電率の方が低く、第2線路長が第1線路長より長い場合は、第2誘電率より第1誘電率の方が低い。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、第1線路長が第2線路長より長い場合は、第1誘電率より第2誘電率の方を低く、第2線路長が第1線路長より長い場合は、第2誘電率より第1誘電率の方を低くしたので、配線構造を冗長することなく、異なる線路長の伝送線路間でロスを大きくすることなく高周波信号が伝送できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る伝送線路基板の構成を示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施の形態1に係る伝送線路基板の一部構成を示す平面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の実施の形態1に係る伝送線路基板の構成を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態2に係る伝送線路基板の構成を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施の形態2に係る伝送線路基板の構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、伝送線路基板の構成を示す平面図である。
【
図4】
図4は、伝送線路基板の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る伝送線路基板について説明する。
【0018】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1に係る伝送線路基板について、
図1A、
図1B、
図1Cを参照して説明する。なお、
図1Cは、
図1Aのaa’線の断面を示している。
【0019】
この伝送線路基板は、まず、誘電体からなる基板101の上に配置(実装)された第1集積回路102および第2集積回路103を備える。基板101は、半導体パッケージの基板あるいは半導体チップ実装基板である。例えば、半導体パッケージには、図示しないが基板101の上に、他の回路素子も実装されている。
【0020】
また、この伝送線路基板は、基板101の上に形成され、第1集積回路102と第2集積回路103とを接続する、第1線路長の第1伝送線路104を備える。第1伝送線路104は、Auなどの導電体部材からなるストリップ状の伝送線路である。この例では、2つの第1伝送線路104を備える。なお、第1伝送線路104の数は、2つに限るものではない。
【0021】
また、この伝送線路基板は、第1集積回路102、第2集積回路103、および第1伝送線路104を覆って形成され、第1誘電率の誘電体からなる第1誘電体層105と、第1誘電体層105の上に形成された、第2誘電率の誘電体からなる第2誘電体層106とを備える。
【0022】
また、この伝送線路基板は、第1集積回路102に接続し、第1誘電体層105を貫通して第2誘電体層106の途中まで貫通する柱状の第1ビア107と、第2集積回路103に接続し、第1誘電体層105を貫通して第2誘電体層106の途中まで貫通する柱状の第2ビア108とを備える。第1ビア107,第2ビア108は、例えば、厚さ(深さ)が、~100μm程度である。
【0023】
また、この伝送線路基板は、第2誘電体層106の中に形成され、第1ビア107と第2ビア108に接続し、第1集積回路102と第2集積回路103とを接続するための、第2線路長の第2伝送線路109を備える。また、基板101の裏面には、グランド層110が形成されている。
【0024】
ここで、第1線路長が第2線路長より長い場合は、第1誘電率より第2誘電率の方が低く、第2線路長が第1線路長より長い場合は、第2誘電率より第1誘電率の方が低いものとされている。また、第1誘電率および第2誘電率は、第1伝送線路104および第2伝送線路109の各々における信号の伝送時間が等しくなる状態に設定されている。
【0025】
また、この例では、第2誘電体層106の上に形成された、第3誘電率の誘電体からなる第3誘電体層111と、第1集積回路102に接続し、第1誘電体層105および第2誘電体層106を貫通し、第3誘電体層111の途中まで貫通する柱状の第3ビア112と、第2集積回路103に接続し、第1誘電体層105および第2誘電体層106を貫通し、第3誘電体層111の途中まで貫通する柱状の第4ビア113とを備える。第3ビア112,第4ビア113は、例えば、厚さ(深さ)が、~100μm程度である。
【0026】
第1ビア107および第2ビア108には、第3誘電体層111の中に形成された第3線路長の第3伝送線路114が接続している。第3伝送線路114は、第1集積回路102と第2集積回路103とを接続している。ここで、第2線路長が第3線路長より長い場合は、第2誘電率より第3誘電率の方が低く、第3線路長が第2線路長より長い場合は、第3誘電率より第2誘電率の方が低いものとされている。また、第2誘電率および第3誘電率は、第2伝送線路109および第3伝送線路114の各々における信号の伝送時間が等しくなる状態に設定されている。
【0027】
この例では、線路長は、第1伝送線路104<第2伝送線路109<第3伝送線路114である。また、誘電率は、第1誘電率>第2誘電率>第3誘電率である。また、この例では、第1伝送線路104、第2伝送線路109、および第3伝送線路114は、平面視で直線状に形成されている。なお、第1伝送線路104、第2伝送線路109、および第3伝送線路114は、平面視で直線状に形成する必要はない。
【0028】
第1集積回路102や第2集積回路103はそれぞれの各辺102a~102d、103a~103dに入出力部が設けられており、相対する入出力端子間が、対応する伝送線路によって接続されている。第1集積回路102と第2集積回路103は、外側の辺102a、103aの入出力部間の直線距離が最大であり、線路長が最大となる2つの第3伝送線路114によって接続される。第1集積回路102と第2集積回路103は、辺102b、102cと辺103b、103cとの入出力部間の直線距離がやや短く、これらは、各々の第2伝送線路109によって接続される。
【0029】
第1集積回路102と第2集積回路103は、辺102dと辺103dとの入出力部間の直線距離が最小であり、線路長が最小となる第1伝送線路104によって接続される。第1集積回路102は、各辺102a~102dに多数個の入出力端子が形成でき、第2集積回路103は、各103a~103dに多数個の入出力端子が形成できる。各々の入出力端子毎に、伝送線路が設けられる。
【0030】
基板101、第1誘電体層105、第2誘電体層106、および第3誘電体層111の各々は、低誘電率で低Tanδ(誘電正接)の特性、すなわち高周波特性に優れた誘電絶縁材から構成され、所定の厚さとされている。これらは、具体例として例えばベンゾシクロブテン(BCB)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ビスマレイドトリアジン(BT-resin)、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂などの樹脂材からなる有機基材から構成することができる。また、基板101は、例えば、セラミックなどの無機基材あるいは無機基材とガラスエポキシなどの有機基材との混合体にから構成することができる。
【0031】
基板101、第1誘電体層105、第2誘電体層106、第3誘電体層111は、内層に配線パターンやグランドパターンなどを形成した多層構造によって構成することができ、また、これらの各々は、両面基板から構成することもできる。第1伝送線路104、第2伝送線路109、第3伝送線路114、第1ビア107、第2ビア108、第3ビア112、第4ビア113は、公知の堆積技術、フォトリソグラフィー技術、およびエッチング技術などによるパターン形成法により形成することができる。
【0032】
ところで、第1伝送線路104は、第1誘電率ε2の第1誘電体層105の領域に形成され、第2伝送線路109は、第2誘電率ε3の第2誘電体層106の領域に形成され、第3伝送線路114は、第3誘電率ε4の第3誘電体層111の領域に形成されている。ここで、前述したように、第1誘電率ε2>第2誘電率ε3>第3誘電率ε4である。
【0033】
ここで、伝送線路を伝播する正弦波の位相速度vpは、「vp=2πf/kz・・・(1)」で表すことができる。ただし、kz:位相定数(伝播定数の虚数項)、f:周波数である。
【0034】
正弦波について、真空中を伝播する位相速度vp0、位相定数をkz0とし、波長をλ0とすると、式(1)から「vp0= 2πf/kz0=fλ0・・・(2)」となる。
【0035】
位相定数kzは、伝送線路が、誘電率εrの誘電体基板上にマイクロストリップ線路で形成されている場合に、「kz=√εw×kz0・・・(3)」となる。
【0036】
ここで、εwは、実効誘電率であり、マイクロストリップ線路が形成される誘電体基板と空気との電界分布により決まる充填率q(誘電体材料によって伝送線路の周囲が覆われている割合)を用いると、「εw=1+q(εr-1)・・・(4)」で表される。ストリップ線路は、電界が全て誘電体に存在し、q=1であるから、式(4)よりεw=εrとなる。
【0037】
誘電率εrの誘電体基板上にマイクロストリップ線路で形成された伝送線路の位相速度vpは、式(1)~式(4)から、「vp=2πf/kz=fλ、vp=2πf/(√εw×kz0)=fλ、vp=vp0/√εw=fλ0/√εw・・・(5)」となる。
【0038】
したがって、誘電体からなる基板や層に形成された伝送線路は、式(5)から明らかなように誘電率が大きくなるにしたがって、信号の伝播速度が次第に遅くなる特性を有している。伝送線路基板においては、各伝送線路を介して第1集積回路102と第2集積回路103との間を伝送する信号は、デジタル変調信号、もしくは様々な高周波正弦波の集合体からなる電気信号と見なすことができる。
【0039】
伝送線路基板においては、上述したように、線路長が最大の第3伝送線路114が低誘電率ε4の第3誘電体層111に形成され、第2伝送線路109が中誘電率ε3の第2誘電体層106に形成され、さらに線路長が最小となる第1伝送線路104が高誘電率ε2の第1誘電体層105に形成されている。第1誘電率、第2誘電率、および第3誘電率は、第1伝送線路104および第2伝送線路109、および第3伝送線路114の各々における信号の伝送時間が等しくなる状態に設定されている。
【0040】
実施の形態に係る伝送線路基板においては、係る構成によって第1集積回路102と第2集積回路103間を接続する各伝送線路が、各々線路長を異にしているが、誘電率を異にした各誘電体層に形成されることによって、伝送される高周波信号の伝送速度が調整されて、擬似的に等長の伝送線路を構成することができる。
【0041】
以上に説明したように、実施の形態1によれば、誘電体による層に伝送線路を冗長配線することなく自由に形成することができ、信号伝達特性の向上が可能となる。また、積層する方向に、各々誘電率の異なる領域を形成しているので、縦方向に集積(積層)する製造技術で製造できる。これにより、各々誘電率の異なる領域を横方向にフォトリソグラフィーおよびエッチングで作製する場合に比較して、プロセスの精度や歩留向上が期待でき、占有面積に影響を与えることがないので、設計自由度も向上する。さらに、接続対象となる集積回路の入力端子数が多くなっても、各伝送線路が縦方向に配置される構成となるので、高密度化・小型化が可能となる。これにより、低消費電力化・小型化・低コスト化が実現できる。
【0042】
なお、上述では、第1集積回路102と第2集積回路103の間の伝送線路に限定し、伝送線路は6本、誘電体の層は、基板101を含めて4層を例に説明したがこれに限るものではないことは言うまでもない。また、伝送線路は、ストリップ状の伝送線路に限るものではなく、コプレーナ線路とすることができる。
【0043】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る伝送線路基板について、
図2A、
図2Bを参照して説明する。なお、
図2Bは、
図2Aのaa’線の断面を示している。
【0044】
この伝送線路基板は、まず、誘電体からなる基板101の上に配置(実装)された第1集積回路102および第2集積回路103を備える。また、この伝送線路基板は、基板101の上に形成され、第1集積回路102と第2集積回路103とを接続する、第1線路長の第1伝送線路104を備える。
【0045】
また、この伝送線路基板は、第1集積回路102、第2集積回路103、および第1伝送線路104を覆って形成され、第1誘電率の誘電体からなる第1誘電体層105と、第1誘電体層105の上に形成された、第2誘電率の誘電体からなる第2誘電体層106とを備える。
【0046】
また、この伝送線路基板は、第1集積回路102に接続し、第1誘電体層105を貫通して第2誘電体層106の途中まで貫通する第1ビア107と、第2集積回路103に接続し、第1誘電体層105を貫通して第2誘電体層106の途中まで貫通する第2ビア108とを備える。
【0047】
また、この伝送線路基板は、第2誘電体層106の中に形成され、第1ビア107と第2ビア108に接続し、第1集積回路102と第2集積回路103とを接続するための、第2線路長の第2伝送線路109を備える。また、基板101の裏面には、グランド層110が形成されている。
【0048】
また、この例では、第2誘電体層106の上に形成された、第3誘電率の誘電体からなる第3誘電体層111と、第1集積回路102に接続し、第1誘電体層105および第2誘電体層106を貫通し、第3誘電体層111の途中まで貫通する第3ビア112と、第2集積回路103に接続し、第1誘電体層105および第2誘電体層106を貫通し、第3誘電体層111の途中まで貫通する第4ビア113とを備える。
【0049】
第1ビア107および第2ビア108には、第3誘電体層111の中に形成された第3線路長の第3伝送線路114が接続している。第3伝送線路114は、第1集積回路102と第2集積回路103とを接続している。
【0050】
上述した構成は、前述した実施の形態1と同様である。実施の形態2では、さらに、第1誘電体層105と第2誘電体層106との間に形成された第1グランドプレーン115を備える。また、第2誘電体層106と第3誘電体層111との間に形成された第2グランドプレーン116を備える。各グランドプレーンは、各ビアに接続しない領域に形成されている。また、第1グランドプレーン115は、第2伝送線路109の直下に配置され、第2グランドプレーン116は、第3伝送線路114の直下に配置されている。
【0051】
実施の形態2では、第1ビア107と第1グランドプレーン115との距離(h2)が、2つの第1ビア107の間の距離(g1)より小さい(h2<g1,g1<h1)。このため、第1ビア107と第1グランドプレーン115との間に発生する電場が大きくなる。その結果、2つの第1ビア107の一方から発生する電場が、第1ビア107と第1グランドプレーン115とによって、第1グランドプレーン115の存在する方向に偏向し、2つの第1ビア107の他方の方向に伝わる電場が抑制され、クロストークノイズを低減することができる。
【0052】
2つの第2伝送線路109、および2つの第3伝送線路114の場合も同様である。第2伝送線路109と第1グランドプレーン115との距離h3、第2伝送線路109と第2グランドプレーン116との距離h4が、2つの第2伝送線路109の間の距離(g2)より小さい。また、第3伝送線路114と第2グランドプレーン116との距離h5が、2つの第3伝送線路114の間の距離(g3)より小さい。これらのことにより、各々の伝送線路間のクロストークノイズを低減することができる。また、各誘電体層の積層方向に隣り合う伝送線路間のクロストークノイズは、グランドプレーンの存在により、ほぼゼロになる。
【0053】
上述したことにより、実施の形態2によれば、高密度化とクロストークノイズの低減の両立が可能となる。また、伝送線路直下あるいは直上もしくはその両方に存在するグランドプレーンと伝送線路とによって、伝送線路とグランドプレーン間の距離を調整することにより、通常のストリップ線路あるいはマイクロストリップ線路よりも自由度が高く伝送線路の特性インピーダンスを設定することができる。
【0054】
以上に説明したように、本発明によれば、第1線路長が第2線路長より長い場合は、第1誘電率より第2誘電率の方を低く、第2線路長が第1線路長より長い場合は、第2誘電率より第1誘電率の方を低くすることにより、伝送される高周波信号の伝送速度が調整されてあたかも擬似的に等長の伝送線路を構成することで、配線構造を冗長することなく、異なる線路長の伝送線路間でロスを大きくすることなく高周波信号が伝送できるようになる。本発明によれば、信号伝達特性の向上を図り、低消費電力化・小型化・低コスト化を図った伝送線路基板が提供できる。
【0055】
本発明によれば、第1伝送線路と第2伝送線路とを、基板からみて上下に配置し、各伝送線路が形成される第1誘電体層、第2誘電体層の第1誘電率、第2誘電率を、第1伝送線路および第2伝送線路の各々における信号の伝送時間が等しくなる状態に設定したので、各伝送線路を冗長配線することなく自由に形成することができ、信号伝達特性の向上が可能となる。各伝送線路を縦方向に集積したので、集積する製造技術を適用することが可能となり、プロセスの精度や歩留向上が期待でき、設計自由度も向上する。また、集積回路の入力端子数が多くなっても、縦方向に構成されるので高密度化・小型化が可能となる。
【0056】
さらに、伝送線路間のクロストークノイズを低減することができ、通常のストリップ線路あるいはマイクロストリップ線路よりも自由度が高く線路の特性インピーダンスを設定することができる。これにより、配線密度の向上と配線間のクロストークノイズの低減とを両立し、かつ低消費電力化・小型化・低コスト化が実現できる。
【0057】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0058】
101…基板、102…第1集積回路、103…第2集積回路、104…第1伝送線路、105…第1誘電体層、106…第2誘電体層、107…第1ビア、108…第2ビア、109…第2伝送線路、110…グランド層、111…第3誘電体層、112…第3ビア、113…第4ビア、114…第3伝送線路。