(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ジエン系ゴム用配合剤およびゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20241217BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20241217BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20241217BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241217BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241217BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20241217BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/5419
C08L83/06
C08K3/013
C08K3/36
C08K5/548
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2024094830
(22)【出願日】2024-06-12
【審査請求日】2024-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】片山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】入船 真治
(72)【発明者】
【氏名】中村 勉
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雅士
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262423(JP,A)
【文献】特開平05-214160(JP,A)
【文献】特開2011-026502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分
(A)下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、波線は結合箇所を表す。)
を含むジエン系ゴム用配合剤であって、
前記(A)成分が、下記式(3)で表されるシラノール基含有有機ケイ素化合物を含むジエン系ゴム用配合剤。
【化2】
〔式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、Xは、n価の構造を表し、下記式(4)、(5)または(6)で表される構造であり、
【化3】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、yは、1~20の整数であり、波線は結合箇所を表す。)
mは、1~100の整数であり、nは、2または4の整数である。〕
【請求項2】
前記R
1が、それぞれ独立に、メチル基またはフェニル基である請求項1記載のゴム用配合剤。
【請求項3】
(A)下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物
【化4】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、波線は、結合箇所を表す。)
(B)ジエン系ゴム、および
(C)無機充填剤
を含むゴム組成物であって、
前記(A)成分が、下記式(3)で表される化合物を含むゴム組成物。
【化5】
〔式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、Xは、n価の構造を表し、下記式(4)、(5)または(6)で表される構造であり、
【化6】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、yは、1~20の整数であり、波線は、結合箇所を表す。)
mは、1~100の整数であり、nは、2または4の整数である。〕
【請求項4】
前記R
1が、それぞれ独立に、メチル基またはフェニル基である請求項3項記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記(C)無機充填剤が、シリカを含む請求項3記載のゴム組成物。
【請求項6】
(D)ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物を含む請求項3記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項3記載のゴム組成物を成形してなるタイヤ。
【請求項8】
(A)下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物
【化7】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、波線は、結合箇所を表す。)
(B)ジエン系ゴム、および
(C)無機充填剤
を含むゴム組成物であって、
前記(A)成分が、下記式(2)で表される化合物を含むゴム組成物(ただし、ラテックス組成物を除く。)。
【化8】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、mは、1~100の整数である。)
【請求項9】
前記R
1が、それぞれ独立に、メチル基またはフェニル基である請求項8記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記(C)無機充填剤が、シリカを含む請求項8記載のゴム組成物。
【請求項11】
(D)ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物を含む請求項8記載のゴム組成物。
【請求項12】
請求項8記載のゴム組成物を成形してなるタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム用配合剤およびゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ充填タイヤは、自動車用途で優れた性能を有し、特に、耐摩耗性、転がり抵抗およびウェットグリップ性に優れている。これらの性能向上は、タイヤの低燃費性向上と密接に関連しているため、特に、溶液重合スチレン・ブタジエンゴム(S-SBR)を用いた乗用車用タイヤの業界において昨今盛んに研究されている。
【0003】
シリカ充填ゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、ウェットグリップ性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要し、作業性に問題がある。
そのため、シリカ等の無機質充填剤を単に配合したゴム組成物においては、充填剤の分散が不足し、破壊強度および耐摩耗性が大幅に低下するといった問題が生じる。そこで、無機質充填剤のゴム中への分散性を向上させるとともに、充填剤とゴムマトリックスとを化学結合させるため、含硫黄有機ケイ素化合物が必須であった。
【0004】
ゴム用配合剤として使用される含硫黄有機ケイ素化合物としては、アルコキシシリル基とポリスルフィドシリル基を分子内に含む化合物、例えば、ビス-トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィドやビス-トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等が有効であることが知られている(特許文献1~4参照)。
【0005】
無機充填剤であるシリカの分散性を向上させ低燃費特性を改善させるために様々なアルコキシシリル基含有化合物が開発されているが、低燃費特性は改善する一方、硬度や引張特性が向上しないといった問題点があった。そこで、加工性や低燃費特性を悪化させずに硬度や引張特性を改善する材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2004-525230号公報
【文献】特開2004-18511号公報
【文献】特開2002-145890号公報
【文献】特開2000-103795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゴム組成物に添加した場合に、組成物の加工性や耐摩耗性能、低燃費性能を悪化させることなく、所望の硬度、引張特性を実現し得るゴム組成物を与えるジエン系ゴム用配合剤、このゴム用配合剤を配合してなるゴム組成物、およびこのゴム組成物から形成されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のシラノール基含有有機ケイ素化合物が、ジエン系ゴム用配合剤として好適であることを見出すとともに、当該ゴム用配合剤を含むゴム組成物から得られたタイヤが、組成物の加工性や耐摩耗性能、低燃費性能を悪化させることなく、所望の硬度、引張特性を実現し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記(A)成分を含むジエン系ゴム用配合剤、
(A)下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、波線は結合箇所を表す。)
2. 前記(A)成分が、下記式(2)で表される化合物を含む1のゴム用配合剤、
【化2】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、mは、1~100の整数である。)
3. 前記(A)成分が、下記式(3)で表される化合物を含む1または2のゴム用配合剤、
【化3】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、Xは、n価の構造を表し、mは、1~100の整数であり、nは、2~8の整数である。)
4. 前記Xが、下記式(4)、(5)または(6)で表される構造である3のゴム用配合剤、
【化4】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、yは、1~20の整数であり、波線は、結合箇所を表す。)
5. 前記R
1が、それぞれ独立に、メチル基またはフェニル基である1~4のいずれかのゴム用配合剤、
6.(A)下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物
【化5】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、波線は、結合箇所を表す。)
(B)ジエン系ゴム、および
(C)無機充填剤
を含むゴム組成物、
7. 前記(A)成分が、下記式(2)で表される化合物を含む6のゴム組成物、
【化6】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、mは、1~100の整数である。)
8. 前記(A)成分が、下記式(3)で表される化合物を含む6または7のゴム組成物、
【化7】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、Xは、n価の構造を表し、mは、1~100の整数であり、nは2~8の整数である。)
9. 前記Xが、下記式(4)、(5)または(6)で表される構造である8のゴム組成物、
【化8】
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、yは、1~20の整数であり、波線は結合箇所を表す。)
10. 前記R
1が、それぞれ独立に、メチル基またはフェニル基である6~9のいずれかのゴム組成物、
11. 前記(C)無機充填剤が、シリカを含む6~10のいずれかのゴム組成物、
12. (D)ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物を含む6~10のいずれかのゴム組成物、
13. 6~12のいずれかのゴム組成物を成形してなるタイヤ
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴム用配合剤を配合したゴム組成物は、加工性に優れ、このゴム組成物を用いて形成されたタイヤは、耐摩耗性能、低燃費性能を悪化させることなく、所望の硬度、引張特性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
〔ゴム用配合剤〕
本発明のゴム用配合剤は、下記(A)成分を含む。
[1](A)シラノール基含有有機ケイ素化合物
(A)成分は、下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物である。なお、式(1)中、波線は結合箇所を表す。
(A)成分中のシラノール構造由来の水酸基の含有量は、(A)成分の質量に対して0.5~30.0質量%が好ましく、0.6~20質量%がより好ましく、0.8~18質量%がより一層好ましい。
【0012】
【0013】
式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
アルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル基等が挙げられるが、炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
アラルキル基としては、炭素原子数は7~20のアラルキル基が好ましく、その具体例としては、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
アリール基としては、炭素原子数6~18のアリール基が好ましく、その具体例としては、フェニル、ナフチル基等の非置換アリール基;トリル、キシリル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル基等の炭素数7~18のアルキルアリール基などが挙げられるが、フェニル基が好ましい。
【0014】
(A)成分は、下記式(2)で表される化合物および/または下記式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0015】
【0016】
式(2)および(3)において、R1は、上記式(1)と同じ意味を表し、メチル基またはフェニル基が好ましい。
mは、1~100の整数であり、1~60の整数が好ましい。
nは、2~8の整数であり、2~4の整数が好ましい。
【0017】
なお、式(2)および(3)において、-R1-Si-R1-が2個以上存在する(mが2以上の)場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、例えば、下記式(2’)および/または(3’)で表される化合物でもよい。
【0018】
【化11】
(式(2)中、R
1は、上記と同じ意味を表すが、すべてのR
1が同時に同一の基となることはなく、式(3)中、R
1は、上記と同じ意味を表すが、すべてのR
1が同時に同一の基となることはなく、各式において、m1およびm2は、それぞれ1以上の整数、かつ、m1+m2は、2~100の整数である。)
【0019】
Xは、n価の構造を表し、例えば、直鎖、分岐または環状の、炭化水素骨格もしくはシロキサン骨格を含む構造が挙げられ、下記式(4)、(5)または(6)で表される構造が好ましい。
【0020】
【化12】
(式中、R
1は、上記と同じ意味を表し、波線は、結合箇所を表す。)
【0021】
式(4)において、yは、1~20の整数であり、1~10の整数が好ましく、1~5の整数がより好ましい。
【0022】
(A)成分のシラノール基含有有機ケイ素化合物の具体例としては、下記式で表されるもの等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、式中、Meは、メチル基を表す(以下、同様)。
【0023】
【化13】
(式中、m、m1およびm2は、上記と同じ意味を表す。)
【0024】
なお、(A)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上述した本発明の(A)シラノール基含有有機ケイ素化合物を含む組成物は、それ自体ゴム用配合剤として使用することができるが、当該組成物と少なくとも1種の粉体とを混合したものをゴム用配合剤として使用してもよい。
粉体の具体例としては、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
これらの中でも、補強性の観点からシリカおよび水酸化アルミニウムが好ましく、シリカがより好ましい。
【0026】
なお、本発明のゴム用配合剤は、脂肪酸、脂肪酸塩、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオキシアルキレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体等の有機ポリマーやゴムと混合されたものでもよく、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、充填剤、可塑剤などのタイヤ用、その他の一般ゴム用に通常用いられる各種添加剤が配合されたものでもよい。
また、その形態としては、液体状でも固体状でもよく、さらに有機溶剤に希釈したものでもよく、またエマルジョン化したものでもよい。
【0027】
〔ゴム組成物〕
本発明のゴム組成物は、上述した(A)成分、(B)ジエン系ゴム、および(C)無機充填剤を含むものである。
本発明のゴム組成物における(A)成分の配合量は、得られるゴムの物性や、発揮される効果の程度と経済性とのバランス等を考慮すると、後に詳述する(B)成分100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。
【0028】
[2](B)ジエン系ゴム
(B)成分のジエン系ゴムとしては、従来、各種ゴム組成物に一般的に用いられている任意のゴムを用いることができ、その具体例としては、天然ゴム等の各種イソプレンゴム(IR)、各種スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴムなどが挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ジエン系ゴム以外に、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPR,EPDM)等の非ジエン系ゴムなどを併用してもよい。
【0029】
[3](C)無機充填剤
(C)成分の無機充填剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどタイヤ工業において一般的に使用されるものが挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、本発明のゴム組成物は、シリカおよびカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0030】
カーボンブラックとしては、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものが挙げられる。
シリカとしては、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)など、タイヤ工業において一般的なものが挙げられ、中でもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。
特に、シリカは、窒素吸着比表面積(N2SA)70m2/g以上のものが好ましく、100m2/g以上のものがより好ましい。なお、N2SAの上限は、特に限定されるものではないが、取り扱い易さ等の観点から、500m2/g以下が好ましく、400m2/g以下がより好ましい。
【0031】
本発明のゴム組成物における(C)成分の配合量は、分散性、低燃費性および成形加工性等の観点から、(B)成分100質量部に対して5~200質量部が好ましく、10~150質量部がより好ましく、20~130質量部がより一層好ましい。
【0032】
[4](D)シランカップリング剤
本発明のゴム用配合剤には、上記成分に加えて、(D)ポリスルフィド基、チオエステル基およびメルカプト基から選ばれる1種以上と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤を用いることができる。(D)成分としては、このような官能基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシランカップリング剤を用いることができる。
【0033】
上記シランカップリング剤の具体例としては、ビス-(3-ビストリエトキシシリルプロピル)-テトラスルフィド、ビス-(3-ビストリエトキシシリルプロピル)-ジスルフィド等のポリスルフィド系有機ケイ素化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系有機ケイ素化合物;3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系有機ケイ素化合物などが挙げられる。
また、上記硫黄原子を有する有機ケイ素化合物と、ポリエーテル基を含有するアルコールとの反応物や、これらの有機ケイ素化合物の加水分解縮合物、これらの有機ケイ素化合物とアルコキシシリル基を有するその他の有機ケイ素化合物との共加水分解縮合物などを用いることもできる。
なお、(D)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明のゴム組成物が(D)成分を含む場合、その配合量は、(B)成分100質量部に対して1~30質量部が好ましく、2~20質量部がより好ましい。
【0035】
なお、本発明のゴム組成物には、上記(A)~(D)の各成分に加えて、硫黄、架橋剤、加硫促進剤、架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、各種レジン、ワックス、酸化亜鉛等のタイヤ用、その他ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これら添加剤の配合量は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0036】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの硫黄は、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等から入手可能な製品を使用できる。
【0037】
硫黄を配合する場合、その配合量は、(B)成分100質量部に対して、0.1~5.0質量部が好ましく、0.3~3.0質量部がより好ましく、0.5~2.0質量部がより一層好ましい。上記範囲内であると、引張特性と耐摩耗性能のバランスが良好となる。
【0038】
〔ゴム製品(タイヤ)〕
上述した本発明のゴム組成物は、上述した(A)~(C)成分、並び必要に応じて用いられる(D)成分およびその他の成分を一般的な方法で組成物とし、これを加硫または架橋することで、例えば、タイヤ等のゴム製品の製造に使用することができる。特に、タイヤを製造する場合、本発明のゴム組成物がトレッドに用いられることが好ましい。
本発明のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、転がり抵抗の低減に加え、耐摩耗性が向上することから、所望の低燃費性を実現できる。
なお、タイヤの構造は、従来公知の構造とすることができ、その製法も、従来公知の製法を採用すればよい。また、気体入りのタイヤの場合、タイヤ内に充填する気体として、通常、空気や、酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1-1~1-9、比較例1-1]
4Lのインターナルミキサー(MIXTRON、(株)神戸製鋼所製)を用いて、表1記載の天然ゴムを60秒間混練した。
次いで、表1記載のカーボンブラック、シリカ、シラノール含有化合物、ステアリン酸、老化防止剤、レジン、およびワックスを加え、内温を150℃まで上昇させ、排出した。その後、ロールを用いて延伸した。得られたゴム組成物を、再度インターナルミキサー(MIXTRON、(株)神戸製鋼所製)を用いて内温が145℃になるまで混練し、排出した後、ロールを用いて延伸した。これに表1記載の酸化亜鉛、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、ゴム組成物を得た。
【0041】
天然ゴム:RSS#3
カーボンブラック:シースト9H(東海カーボン(株)製)
シリカ:ニプシルAQ(東ソー・シリカ(株)製)
スルフィドシラン:KBE-846(信越化学工業(株)製、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
【0042】
(A-1):下記式で表される化合物(水酸基含有量10.0質量%)
【化14】
【0043】
(A-2):下記式で表される化合物(水酸基含有量2.2質量%)
【化15】
【0044】
(A-3):下記式で表される化合物(水酸基含有量1.1質量%)
【化16】
【0045】
(A-4):下記式で表される化合物(水酸基含有量0.8質量%)
【化17】
【0046】
(A-5):下記式で表される化合物(水酸基含有量5.9質量%)
【化18】
【0047】
(A-6):下記式で表される化合物(水酸基含有量15.7質量%)
【化19】
【0048】
(A-7):下記式で表される化合物(水酸基含有量4.4質量%)
【化20】
【0049】
ステアリン酸:工業用ステアリン酸(花王(株)製)
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業(株)製)
レジン:T-REZ RA-100(ENEOS(株)製)
ワックス:オゾエース0355(日本精蝋(株)製)
酸化亜鉛:亜鉛華3号(三井金属鉱業(株)製)
加硫促進剤(a):ノクセラーDM-P(大内新興化学工業(株)製)
加硫促進剤(b):ノクセラーCZ-G(大内新興化学工業(株)製)
硫黄:5%オイル処理硫黄(細井化学工業(株)製)
【0050】
上記実施例1-1~1-9、比較例1-1で得られたゴム組成物について、未加硫物性および加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表1に併せて示す。なお、加硫物性に関しては、得られたゴム組成物をプレス成形(145℃、30分)して、加硫ゴムシート(厚み2mm)を作製した。
【0051】
上記実施例および比較例で得られた組成物および加硫ゴムシートについて、下記の物性を測定した。結果を併せて表1に示す。
〔未加硫物性〕
(1)ムーニー粘度
JIS K 6300-1:2013に準拠し、余熱1分、測定4分、温度130℃にて測定し、比較例1-1を100として指数で表した。指数値が小さいほど、ムーニー粘度が低く、加工性に優れている。
〔加硫物性〕
(2)硬度
JIS K 6253-3:2012に準拠してデュロメーター(タイプA)硬さを測定し、比較例1-1を100として指数で表した。指数値が大きいほど、硬度が高く優れている。
(3)引張特性
JIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251に準拠して行い、300%モジュラス(M300)[MPa]を室温にて測定した。得られた結果を、比較例1-1を100として指数で表した。指数値が大きいほど、モジュラスが高く引張特性に優れることを示す。
(4)動的粘弾性(温度分散)
粘弾性測定装置(メトラビブ社製)を使用し、引張の動歪1%、周波数55Hzの条件にて測定した。なお、試験片は厚さ0.2cm、幅0.5cmのシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を1Nとした。tanδ(60℃)の値は、比較例1-1を100として指数で表した。tanδ(60℃)の値は、指数値が小さいほど、転がり抵抗が良好であることを示す。
(5)耐摩耗性
FPS試験機((株)上島製作所製)を用いて、サンプルスピード200m/分、荷重20N、路面温度30℃、スリップ率5%とスリップ率20%の条件で試験を行った。得られた結果を、比較例1-1を100として指数で表した。指数値が大きいほど、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0052】
【0053】
表1に示されるように、実施例1-1~1-9で得られたゴム組成物の加硫物は、比較例1-1のゴム組成物の加硫物に比べ、耐摩耗性能を維持したまま硬度、引張特性が大幅に向上していることがわかる。
【0054】
[実施例2-1~2-7,比較例2-1]
4Lのインターナルミキサー(MIXTRON、(株)神戸製鋼所製)を用いて、表2記載のSBRとBRを30秒間混練した。
次いで、表2記載のオイル成分、カーボンブラック、シリカ、スルフィドシラン、シラノール化合物、ステアリン酸、老化防止剤、およびワックスを加え、内温を150℃まで上昇させ、150℃で2分間保持をかけた後、排出した。その後、ロールを用いて延伸した。得られたゴムを、再度インターナルミキサー(MIXTRON、(株)神戸製鋼所製)を用いて内温が140℃になるまで混練し、排出した後、ロールを用いて延伸した。
これに表2記載の酸化亜鉛、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、ゴム組成物を得た。
【0055】
SBR:SLR-4602(トリンセオ製)
BR:BR-01(JSR(株)製)
オイル:AC-12(出光興産(株)製)
カーボンブラック:シースト3(東海カーボン(株)製)
シリカ:ニプシルAQ(東ソー・シリカ(株)製)
スルフィドシラン:KBE-846(信越化学工業(株)製、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
【0056】
(A-1):下記式で表される化合物(水酸基含有量10.0質量%)
【化21】
【0057】
(A-2):下記式で表される化合物(水酸基含有量2.2質量%)
【化22】
【0058】
(A-3):下記式で表される化合物(水酸基含有量1.1質量%)
【化23】
【0059】
(A-4):下記式で表される化合物(水酸基含有量0.8質量%)
【化24】
【0060】
(A-5):下記式で表される化合物(水酸基含有量5.9質量%)
【化25】
【0061】
(A-6):下記式で表される化合物(水酸基含有量15.7質量%)
【化26】
【0062】
(A-7):下記式で表される化合物(水酸基含有量4.4質量%)
【化27】
【0063】
ステアリン酸:工業用ステアリン酸(花王(株)製)
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業(株)製)
ワックス:オゾエース0355(日本精蝋(株)製)
酸化亜鉛:亜鉛華3号(三井金属鉱業(株)製)
加硫促進剤(a):ノクセラーD(大内新興化学工業(株)製)
加硫促進剤(b):ノクセラーDM-P(大内新興化学工業(株)製)
加硫促進剤(c):ノクセラーCZ-G(大内新興化学工業(株)製)
硫黄:5%オイル処理硫黄(細井化学工業(株)製)
【0064】
上記実施例2-1~2-7および比較例2-1で得られたゴム組成物について、未加硫物性および加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表2に併せて示す。なお、加硫物性に関しては、得られたゴム組成物をプレス成形(160℃、10~40分)して、加硫ゴムシート(厚み2mm)を作製した。
【0065】
〔未加硫物性〕
(1)ムーニー粘度
JIS K 6300-1:2013に準拠し、余熱1分、測定4分、温度130℃にて測定し、比較例2-1を100として指数で表した。指数値が小さいほど、ムーニー粘度が低く加工性に優れている。
(2)加硫特性(T90)
ロータレスレオメーターを用いて160℃の加硫速度を測定し、加硫曲線から最低トルクMLおよび最高トルクMHを求め、T90(最大トルク値の90%トルク値に到達する迄の時間(分))を求めた。比較例2-1を100として指数で表した。指数値が小さいほど、加硫速度が速く生産性に優れている。
〔加硫物性〕
(3)硬度
JIS K 6253-3:2012に準拠しデュロメーター(タイプA)硬さを測定し、比較例2-1を100として指数で表した。指数値が大きいほど、硬度が高く優れている。
(4)引張特性
JIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251に準拠して行い、300%モジュラス(M300)[MPa]を室温にて測定した。得られた結果を、比較例2-1を100として指数表示した。指数値が大きいほど、モジュラスが高く引張特性に優れることを示す。
(5)動的粘弾性(温度分散)
粘弾性測定装置(メトラビブ社製)を使用し、引張の動歪1%、周波数55Hzの条件にて測定した。なお、試験片は厚さ0.2cm、幅0.5cmのシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を1Nとした。
tanδ(0℃)、tanδ(60℃)の値は、比較例2-1を100として指数で表した。tanδ(0℃)の値は、指数値が大きいほどウェットグリップ性が良好であることを示す。tanδ(60℃)の値は、指数値が小さいほど転がり抵抗が良好であることを示す。
(6)耐摩耗性
FPS試験機((株)上島製作所製)を用いて、サンプルスピード200m/分、荷重20N、路面温度30℃、スリップ率5%とスリップ率20%の条件で試験を行った。得られた結果を、比較例2-1を100として指数で表した。指数値が大きいほど、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す
【0066】
【0067】
表2に示されるように、実施例2-1~2-7のゴム組成物の加硫物は、比較例2-1のゴム組成物の加硫物に比べ、耐摩耗性能を維持したまま硬度、引張特性が大幅に向上していることがわかる。
【要約】
【課題】 ゴム組成物に添加した場合に、組成物の加工性や耐摩耗性能、低燃費性能を悪化させることなく、所望の硬度、引張特性を実現し得るゴム組成物を与えるジエン系ゴム用配合剤を提供すること。
【解決手段】
下記(A)成分を含むジエン系ゴム用配合剤。
(A)下記式(1)で表される構造を有するシラノール基含有有機ケイ素化合物
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、波線は結合箇所を表す。)
【選択図】 なし