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  • 特許-抗菌剤および抗ウイルス剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】抗菌剤および抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 55/02 20060101AFI20241217BHJP
   A01N 27/00 20060101ALI20241217BHJP
   A01N 43/90 20060101ALI20241217BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20241217BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20241217BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241217BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241217BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20241217BHJP
   C09C 1/24 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20241217BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20241217BHJP
   C08J 7/04 20200101ALN20241217BHJP
【FI】
A01N55/02
A01N55/02 140
A01N55/02 160
A01N27/00
A01N43/90 103
A01N59/16 Z
A01N59/20 Z
A01P1/00
A01P3/00
C08J5/00
C09C1/24
C09D17/00
D01F1/10
C08J7/04 Z CFD
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024539365
(86)(22)【出願日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2023042852
(87)【国際公開番号】W WO2024128008
(87)【国際公開日】2024-06-20
【審査請求日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022198526
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】草野 百香
(72)【発明者】
【氏名】桑名 康弘
(72)【発明者】
【氏名】安井 健悟
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏明
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-090597(JP,A)
【文献】特開平04-023899(JP,A)
【文献】特開2002-348231(JP,A)
【文献】特開2005-206573(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255400(WO,A1)
【文献】特開2003-206206(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115010626(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114041459(CN,A)
【文献】特表2021-507968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108003690(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 55/00
A01N 59/00
A01N 43/00
A01N 27/00
A01P 1/00
A01P 3/00
C08J 5/00
C08J 7/00
C09C 1/00
C09D 17/00
D01F 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料または無機顔料と、
少なくとも下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩、
【化1】
(前記一般式(1)中、
Rは、炭素原子数8~21の(脂環構造を含んでもよいアルキル基)であり、
nは、1~4の範囲の整数であり、nが2以上の整数である場合、複数のRは互いに同じでもよく、異なってもよく、
Mは、ビスマス、ネオジムである。)
および、ネオデカン酸ランタン、2-エチルヘキサン酸コバルト、
から選択される脂肪酸金属塩を含有することを特徴とする抗菌剤、抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記有機顔料または無機顔料と、脂肪酸金属塩の質量比が、前記有機顔料または無機顔料:脂肪酸金属塩=99:1~50:50である請求項1記載の抗菌剤、抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記有機顔料が鉄フタロシアニン、銅フタロシアニン、溶性アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、ペリレン、またはジケトピロロピロールから選ばれる少なくとも一つ以上である請求項1または2に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記無機顔料が酸化鉄(III)または四酸化三鉄の少なくとも一つ以上である請求項1または2に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤を含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装、プラスチック、繊維、フィルム、および化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌剤および抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年居住空間の清浄性を維持したい要望が強く、多くの家庭や公共の室内において清潔環境維持のために空気清浄器や除菌スプレー等が設置されているが、空気中のゴミや塵を除去することによる単なる空気清浄の域を超え、抗菌機能、抗ウイルス機能、アレルゲン物質除去機能、脱臭機能の付与による高付加価値化も進められている。こうした高付加価値が要求される用途としては、例えば、繊維用途、プラスチック用途、塗料用途等が挙げられる。
【0003】
繊維用途においては、抗菌性、あるいは、抗ウイルス性の付与方法として、抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤を繊維に練り込む方法や抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤を含有する溶液を繊維表面に固着させる方法がある。前記の繊維に練り込む方法の場合、一般的に洗濯耐久性が高いとされているが、紡糸時に高温となるため、有機系の抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤が熱分解する懸念があり、耐熱性の改善が望まれていた。一方、前記の繊維表面に固着させる方法の場合、一般に有機系の抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤、例えば第四級アンモニウム塩が用いられているが、洗濯することで抗菌性、あるいは、抗ウイルス性が低下するという課題があった(特許文献1)。
【0004】
塗料用途においては、繊維用途と同様に有機系の抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤が用いられる。しかしながら、アクリル/メラミン系塗料等では、加熱処理での硬化工程が必要であり、耐熱性が低いとされる有機系の抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤では処理対象面および処理対象物の熱劣化を引き起こす可能性があった(特許文献2)。そのような観点から、高温で処理する用途においては、耐熱性の改善が望まれていた。
【0005】
抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤の含有量に関して、どの用途においても比較的少量で効果を発現する必要があり、繊維、プラスチック、塗膜等の表面に如何に効率よく抗菌剤、あるいは、抗ウイルス剤を露出させるかが、技術的に重要な課題となっている。(特許文献3、4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-76188号公報
【文献】特開2017-014401号公報
【文献】特開2006-28453号公報
【文献】特開2022-93225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、抗菌剤、抗ウイルス剤、および当該抗菌剤、抗ウイルス剤を含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装、プラスチック、繊維、フィルム、および化粧品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、顔料と脂肪酸金属塩を含有する抗菌剤、抗ウイルス剤が、抗菌、抗ウイルス作用を有すること見出し、当該抗菌剤、抗ウイルス剤を含有する成形物も同様に抗菌、抗ウイルス作用を有することを見出し、上記の課題を解決できたものである。
【0009】
すなわち本発明は、以下を含む。
【0010】
[1]有機顔料または無機顔料と、脂肪酸金属塩を含有することを特徴とする抗菌剤、抗ウイルス剤。
[2] 前記有機顔料または無機顔料と、脂肪酸金属塩の質量比が、前記有機顔料または無機顔料:脂肪酸金属塩=99:1~50:50である[1]に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤
[3]前記有機顔料が鉄フタロシアニン、銅フタロシアニン、溶性アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、ペリレン、またはジケトピロロピロールから選ばれる少なくとも一つ以上である1または2に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤。
[4]前記無機顔料が酸化鉄(III) または四酸化三鉄の少なくとも一つ以上である1または2に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤。
[5]前記脂肪酸金属塩が下記一般式(1)
【0011】
【化1】
【0012】
(前記一般式(1)中、
Rは、水素原子または炭素原子数8~21の脂環構造を含んでもよい直鎖のアルキル基、あるいは分岐のアルキル基、であり、
nは、1~4の範囲の整数であり、nが2以上の整数である場合、複数のRは互いに同じでもよく、異なってもよく、
Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。)
で表されることを特徴とする1または2に記載の抗菌、坑ウイルス剤。[6]前記脂肪酸金属塩がネオデカン酸ネオジム、ネオデカン酸ランタン、2-エチルヘキサン酸コバルトから選ばれる少なくとも一つ以上である5に記載の抗菌剤、抗ウイルス剤。
[7]1~6いずれか一つに記載の抗菌剤、抗ウイルス剤を含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装、プラスチック、繊維、フィルム、および化粧品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、非水溶性であって抗菌、抗ウイルス作用を有し、耐熱性、耐光性が染料系の抗菌色素に比較して、顕著に高い性能を有する。また、インキ、印刷物、塗料、塗装、プラスチック、繊維、フィルム、および化粧品等のアプリケーションにおいても抗菌、抗ウイルス作用を有し、幅広い産業分野に使用することができるものである。
【0014】
さらに、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は従来の顔料と同様の顔料特性を示すため、顔料と同様に使用することができ、着色と抗菌性、抗ウイルス性の付与を同時に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】組成物1のSEM画像を示す。
図2図1と同一の位置、倍率でSEM-EDS測定による元素マッピングを実施した結果であり、白色部分はネオジムの分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に示す本発明の実施形態は本発明の一部の実施形態を表すにすぎず、要旨を大幅に逸脱しない限りにおいて記載内容のみには限定されない。
【0017】
以下、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤について説明する。
【0018】
[有機顔料]
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤で使用する有機顔料としては、水に不溶で微粒子状の固体粉末であれば、公知慣用のものを用いることができる。例えば、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、ジケトピロロピロール系、溶性アゾ系、不溶性アゾ系、アントラキノン系、ペリノン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、キノフタロン系などの顔料が挙げられる。特にフタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、ジケトピロロピロール系、溶性アゾ系、不溶性アゾ系が好ましい。これらの顔料は単独で用いることも2種以上を併用することもできる。有機顔料が高い抗菌性、抗ウイルス性を有する場合、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は特に優れた抗菌性、抗ウイルス効果を示し、好ましい。
【0019】
[フタロシアニン]
本発明で使用されるフタロシアニンは、特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。本発明で使用されるフタロシアニンは一般式(2)で表される。
【0020】
【化2】
(2)
(式中、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Na、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Mn、Ni、Cd、Snの金属、またはそれらのオキシ金属またはハロゲン化金属、または無金属であることを表す。R1~R16は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アルコキシ基、スルホニル基を表す。)
【0021】
例えば、一般的な顔料の場合、フタロシアニンが無金属の場合、C.I.PigmentBlue16、フタロシアニンの中心金属が銅の場合、C.I.PigmentBlue15、C.I.PigmentBlue15:1、C.I.PigmentBlue15:2、C.I.PigmentBlue15:3、C.I.PigmentBlue15:4、C.I.PigmentBlue15:6、C.I.PigmentBlue76、C.I.PigmentGreen7、C.I.PigmentGreen36、フタロシアニンの中心金属が亜鉛の場合、C.I.PigmentGreen58、C.I.PigmentGreen59、フタロシアニンの中心金属がコバルトの場合、C.I.PigmentBlue75、フタロシアニンの中心金属がアルミニウムの場合、C.I.PigmentBlue79などが挙げられる。
【0022】
また、フタロシアニンの中心金属が銅、鉄、亜鉛、コバルト、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル、カドミウム、スズ、また無金属フタロシアニンが好ましい。これらの金属およびフタロシアニン環は無置換、あるいは、ハロゲンの置換基を有しても良く、置換基数(n)としては、n=0~16が理論上可能であるが、顔料としての機能を発現させるため、水または溶剤に溶解しない程度の置換基を有することが好ましい。
【0023】
上記金属フタロシアニンのうち、抗菌性、抗ウイルス性の高いフタロシアニンを用いた場合、特に高い抗菌性、抗ウイルス性が発現するため、好ましい。抗菌性、抗ウイルス性の高いフタロシアニンの中心金属として、例えば、鉄、コバルト、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、マンガン、ニッケル、カドミウム、スズが挙げられる。
【0024】
中でも、中心金属が鉄、ナトリウム、マグネシウム、コバルトであるフタロシアニンは抗菌、抗ウイルス作用効果が高く好ましく、さらに、中心金属が鉄であるフタロシアニンが本発明では、特に好ましい。
【0025】
[キナクリドン]
本発明で使用されるキナクリドンは特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。例えば、一般式(3)で表される。
【0026】
【化3】
(3)
(式中のR1~R16は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、又はニトロ基を表す。)
【0027】
例えば、C.I.PigmentViolet19、C.I.PigmentRed122、PigmentRed202、PigmentRed207、PigmentRed206、PigmentRed209などが挙げられる。中でも、C.I.PigmentViolet19が好ましい。
【0028】
[ペリレン]
本発明で使用されるペリレンは特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。例えば、一般式(4)で表される。
【0029】
【化4】
(4)
(式中のR1、R2は各々独立に水素原子、アルキル基、アリール基を表す。)
【0030】
例えば、C.I.PigmentRed123、C.I.PigmentRed149、C.I.PigmentRed179、C.I.PigmentRed178、C.I.PigmentViolet29、C.I.PigmentBlack31などが挙げられる。中でも、C.I.PigmentRed179が好ましい。
【0031】
[ジケトピロロピロール]
本発明で使用されるジケトピロロピロールは特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。例えば、一般式(5)で表される。
【0032】
【化5】
(5)
(式中のR1~10は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アミノ基を表す。)
【0033】
例えば、C.I.PigmentRed254、C.I.PigmentRed255、C.I.PigmentRed264、C.I.PigmentRed272、C.I.PigmentOrange71、C.I.PigmentOrange73などが挙げられる。中でも、C.I.PigmentRed254が好ましい。
【0034】
[溶性アゾ]
本発明で使用される溶性アゾは特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。例えば、一般式(6)および(7)で表される。
【0035】
【化6】
(6)
(式中のR1~9は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基などを表す。Mはバリウム、カルシウム、ストロンチウム、マンガン、アルミニウム、鉄を表す。)
【0036】
【化7】
(7)
(式中のR1~10は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基などを表す。Mはバリウム、カルシウム、ストロンチウム、マンガン、アルミニウム、鉄を表す。)
【0037】
例えば、C.I.PigmentRed53:1、C.I.PigmentRed53:2、C.I.PigmentRed53:3、C.I.PigmentRed49:1、C.I.PigmentRed49:2C.I.PigmentRed49:3、C.I.PigmentRed50:1、C.I.PigmentRed57:1、C.I.PigmentRed48:1、C.I.PigmentRed48:2、C.I.PigmentRed48:3、C.I.PigmentRed48:4、C.I.PigmentRed52:1、C.I.PigmentRed63:1、C.I.PigmentRed63:2、C.I.PigmentRed64:1、C.I.PigmentRed58:2、C.I.PigmentRed58:4、C.I.PigmentRed243、C.I.PigmentRed61、C.I.PigmentRed60:1などが挙げられる。中でも、C.I.PigmentRed48:1が好ましい。
【0038】
[不溶性アゾ]
不溶性アゾはβナフトール系、ナフトールAS系、ビラゾロン系、アセト酢酸アリリド系、ベンツイミダゾロン系などに分類できるが、本発明で使用される不溶性アゾは特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。中でも、アセト酢酸アリリド系が好ましく、さらにその中でもジスアゾイエロー系が好ましい。例えば、βナフトール系は一般式(8)
【0039】
【化8】
(8)
(式中のR1~10は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。)
【0040】
ナフトールAS系は一般式(9)
【0041】
【化9】
(9)
(式中のR1~15は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。)
【0042】
ピラゾロン系は一般式(10)
【0043】
【化10】
(10)
(式中のR1~9は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。)
【0044】
アセト酢酸アリリド系モノアゾ型は一般式(11)
【0045】
【化11】
(11)
(式中のR1~10は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。)
【0046】
アセト酢酸アリリド系ジスアゾ型は一般式(12)
【0047】
【化12】
(12)
(式中のR1~8は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基などを表す。A、Bは各々独立にアリール基などを表す。Cは―CnHn+2(nは0以上)、―O―CnHn+2―O―(nは1以上)を表す。)
【0048】
ベンズイミダゾロン系は一般式(13)
【0049】
【化13】
(13)
(式中のR1~13は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、メトキシ基、アリール基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。)
で表される。
【0050】
例えば、C.I.PigmentRed3、C.I.PigmentOrange5、C.I.PigmentRed5、C.I.PigmentRed146、C.I.PigmentViolet50、C.I.PigmentBlue25、C.I.PigmentOrange13、C.I.PigmentYellow74、C.I.PigmentYellow12、C.I.PigmentYellow13、C.I.PigmentYellow14、C.I.PigmentYellow17、C.I.PigmentYellow55、C.I.PigmentYellow83、C.I.PigmentYellow180、C.I.PigmentYellow154、C.I.PigmentRed185などが挙げられる。中でも、C.I.PigmentYellow180が好ましい。
【0051】
フタロシアニン系や縮合多環系顔料は、多くの場合、クルード(粗製顔料)と呼ばれ、製造後は、大きな粒子サイズや粒子の不均一を有していることが多く、アプリケーションによっては分散性が悪いため、粒子サイズや結晶形を所望のものにするため、必要に応じて顔料化という更なる工程が必要となる。
【0052】
本発明で使用される多くの顔料は、顔料化することにより、分子的性質ではなく結晶的性質を発現する。結晶的性質を有することでバンドギャップが発生し、反応を進行させるための電子の授受が価電子帯や伝導帯を通して行われる。顔料が複数存在する場合には、ホッピング伝導のように反応に必要な電子の移動が樹脂の存在下においても顔料間を移動できることから、細菌等の特定の官能基に電子の受注入が可能となる。
【0053】
一方で染料の場合、酸化還元反応、つまり分子がHOMOからLUMOに遷移する、あるいは、特定の原子に細菌等の特定の官能基が接触することによって分解反応が進行する。
【0054】
つまり、顔料は結晶的性質を有することで、抗菌、抗ウイルス作用が顔料と接触する範囲のみならず、顔料から少し離れた範囲にまで拡大することができる。具体的には、染料の場合、塗膜等で染料が樹脂に覆われた時点で抗菌性が消失するが、顔料の場合、塗膜等で顔料が若干樹脂に覆われていても抗菌、抗ウイルス作用を維持することができる。
【0055】
例えば、フタロシアニンの金属種においては、電気化学的反応において金属イオンの酸化還元が起きやすい金属種の方が、フタロシアニン環の酸化還元が起きやすい金属種よりも抗菌性、抗ウイルス性が高いことが想定される。
【0056】
顔料は粒子形状でも、針状形状でもよく、形状は特に限定されない。粒子径やアスペクト比についても特に制限はないが、一般的に微粒子化、精粒化された顔料の平均粒子径は20~300nm、アスペクト比は1~10程度が好ましく、更には、20~200nm、アスペクト比1~5程度が特に好ましい。
【0057】
[無機顔料]
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤で使用する無機顔料としては、チタン、亜鉛、鉛、クロム、鉄、コバルト、カドミウム、銅などの金属化合物や、カーボンブラックに代表される高炭素物質や、アルミニウム、銅などの金属粉、金や銀のナノ粒子などが挙げられるが、特に限定はなく、公知慣用のものを用いることができる。また、使用特性から分類すると、体質顔料、白色顔料、有色顔料、パール顔料に分類されるが特に限定なく使用することができる。体質顔料では例えば、粘土鉱物やシリカ、白色顔料では例えば、二酸化チタン、有色顔料では例えば、酸化鉄、群青、紺青、カーボンブラックなどの顔料が挙げられる。前記無機顔料の中では、特に酸化鉄が好ましい。これらの顔料は単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0058】
本発明で使用される酸化鉄は特に限定されず、公知慣用のものを使用することができる。黒酸化鉄は四酸化三鉄を指し、Fe(またはFeOFe)と表され、赤酸化鉄は酸化鉄(III)を指し、Feと表され、黄酸化鉄は水酸化第二鉄を指し、Fe・HO(またはFeOOH)と表される。前記酸化鉄の中では、特に黒酸化鉄、赤酸化鉄が好ましい。
【0059】
例えば、C.I.PigmentBlack11、C.I.PigmentRed101、C.I.PigmentRed102、C.I.PigmentBrown6、C.I.PigmentYellow42、C.I.PigmentYellow43などが挙げられる。中でもC.I.PigmentBlack11、C.I.PigmentRed101が好ましい。
【0060】
本発明の顔料は有機顔料または無機顔料を単独で用いることも、併用で使用することもできる。
【0061】
[脂肪酸金属塩]
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤で使用する脂肪酸金属塩は、金属種として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。中でも本発明では、ネオジム、ランタン、コバルトが抗菌、抗ウイルス作用効果が高く、本発明では、好適である。
【0062】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤で使用する脂肪酸金属塩は、例えば下記一般式(14)で表される化合物である。
【0063】
【化14】
【0064】
(前記一般式(14)中、
Rは、水素原子または炭素原子数1~21のアルキル基であり、
nは、1~4の範囲の整数であり、
Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。)
【0065】
前記一般式(14)において、nが2以上の整数である場合、複数のRは互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0066】
Rの炭素原子数1~21のアルキル基は、直鎖のアルキル基でもよく、分岐のアルキル基でもよく、脂環構造を含んでもよい。
【0067】
Rの炭素原子数1~21のアルキル基は、脂肪酸金属塩の製造に用いるRCOOHで表される炭素原子数2~22のカルボン酸からカルボキシル基(COOH)を除いたカルボン酸残基に対応する。当該カルボン酸残基としては、酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ペンタン酸残基、アクリル酸残基、メタクリル酸残基、オクチル酸残基(2-エチルヘキサン酸残基)、ネオデカン酸残基、ナフテン酸残基、イソノナン酸残基、桐油酸残基、トール油脂肪酸残基、ヤシ油脂肪酸残基、大豆油脂肪酸残基、アマニ油脂肪酸残基、サフラワー油脂肪酸残基、脱水ヒマシ油脂肪酸残基、キリ油脂肪酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、イソステアリン酸残基、オレイン酸残基等が挙げられる。
【0068】
Rの炭素原子数1~21のアルキル基は、後述する基材密着性の観点から、好ましくは炭素原子数1~15のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~11のアルキル基であり、さらに好ましくは酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ペンタン酸残基、2-エチルヘキサン酸残基、イソノナン酸残基、ネオデカン酸残基およびナフテン酸残基である。
【0069】
Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースであり、好ましくはビスマス、ネオジム、マグネシウム、コバルト、銅、銀又は亜鉛であり、より好ましくはビスマス、ネオジム又はマグネシウムである。
【0070】
脂肪酸金属塩の金属がビスマス、ネオジム又はマグネシウムであれば、抗菌剤、抗ウイルス剤の添加による着色を起きにくくすることができる。
【0071】
尚、本発明においてレアアースとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から選択される1種以上を意味する。
【0072】
nはMの金属原子のイオン価数によって決定される数値であり、例えばMがホウ素であればnは3となり、Mがコバルトであれば、nは2となる。
【0073】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤である脂肪酸金属塩は、脂肪酸ホウ酸金属塩の形態も包含する。当該脂肪酸ホウ酸金属塩は例えば下記一般式(15)で表される化合物である。
【0074】
【化15】
【0075】
(前記一般式(15)中、
Rは、水素原子または炭素原子数1~21のアルキル基であり、
Mは、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。)
【0076】
前記一般式(15)において、Rの炭素原子数1~21のアルキル基は、前記一般式(14)のRの炭素原子数1~21のアルキル基と同じである。同様に、前記一般式(15)において、Mの金属は、前記一般式(14)のMの金属と同じである。
【0077】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤で使用する脂肪酸金属塩は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0078】
脂肪酸金属塩は公知の方法で製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0079】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤で使用する脂肪酸金属塩は、ネオデカン酸ネオジム、ネオデカン酸ランタン、2-エチルヘキサン酸コバルトが抗菌、抗ウイルス作用効果が高く、本発明では、好適である。
【0080】
[抗菌剤、抗ウイルス剤]
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、顔料と脂肪酸金属塩を含む組成物であり、それぞれが付着している形態、一方が他方に被覆されている形態、の何れの形態で存在してもよい。特に顔料の表面を脂肪酸金属塩が被覆している形態が好ましい。
【0081】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤の顔料と脂肪酸金属塩の割合は、質量比で顔料:脂肪酸金属塩=99:1~50:50であるが、98:2~:60:40が好ましく、95:5~70:30が特に好ましい。脂肪酸金属塩の割合が抗菌剤、抗ウイルス剤のうち1%以上であれば抗菌性、抗ウイルス性の観点から好ましく、脂肪酸金属塩の割合が抗菌剤、抗ウイルス剤のうち50%以下である場合、取扱い容易性の観点から好ましいため、顔料と脂肪酸金属塩の割合は上記範囲を満たすことが好ましい。
【0082】
顔料の表面を脂肪酸金属塩が被覆している場合、質量比で顔料:脂肪酸金属塩=99:1~50:50が好ましく、さらに98:2~:60:40が好ましく、95:5~70:30が特に好ましい。脂肪酸金属塩の被覆厚さは1~10nmであることが好ましい。上記範囲を満たしている場合、取扱い容易性の観点で好ましい。
【0083】
本発明において「抗菌」とは、菌の数を減少させる効果、菌を不活化させる効果、菌の感染性を低減させる効果等を包含する意味である。同様に、本発明において「抗ウイルス」とは、ウイルスの数を減少させる効果、ウイルスを不活化させる効果、ウイルスの感染性を低減させる効果等を包含する意味である。
【0084】
本発明において抗菌の対象となる菌は特に限定されず、細菌および真菌のいずれでもよい。細菌としては、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌、モラクセラ菌、レジオネラ菌等のグラム陰性菌;黄色ブドウ球菌、クロストリジウム属細菌等のグラム陽性菌等が挙げられる。真菌としては、カンジダ菌、ロドトルラ、パン酵母等の酵母類;赤カビ、黒カビ等のカビ類が挙げられる。
【0085】
本発明において抗ウイルスの対象となるウイルスは特に限定されず、公知のエンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス)およびノンエンベロープウイルス(エンベロープを有さないウイルス)のいずれでもよい。
【0086】
上記エンベロープウイルスとしては、例えば、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、風疹ウイルス、エボラウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、SARSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス等が挙げられる。
【0087】
上記ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオーマウイルス、BKウイルス、ライノウイルス、ネコカリシウイルス等が挙げられる。
【0088】
(抗菌作用)
抗菌作用の指標としては、培養キット等を用いた菌増殖試験やJIS規格に定められた抗菌性試験等を挙げることができる。
【0089】
培養キットは、食品、空気、水等自然界に存在する一般的な細菌、菌類が培養キットの培地によって増殖する現象をコロニーの発生によって把握することが主目的で使用されるが、培地に抗菌作用を有する物質を接触させることにより、一定量の細菌、菌類が死滅、あるいは増殖が抑制されることで、コロニーが発生しない、あるいは、コロニーの発生が遅延する。培養キットを用いた菌増殖試験は、前記現象の定期的観察によって評価ができる。
【0090】
前記一般的な細菌、菌類としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、サルモネラ菌、緑膿菌、真菌等、あるいは、前記細菌、菌類を含有する一般生菌が挙げられるが、それらに限定される訳ではない。
【0091】
培養キットとしては、一般的なキットが使用できるが、例えば、微生物簡易測定器具サンアイバイオチェッカー(三愛石油株式会社製)、菌数測定用培地コンパクトドライ(日水製薬株式会社製)、等が挙げられる。
【0092】
JIS規格に定められた抗菌性試験は、主に大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌、モラクセラ菌のような代表的なグラム陰性菌や黄色ブドウ球菌、MRSA、化膿性連鎖球菌のようなグラム陽性菌を対象にしており、概略、試験菌液をサンプルに接種し、前記菌液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で一定時間光照射、もしくは暗所で静置後、回収した菌液を希釈し、寒天培地にて培養する。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗菌活性値を求める。具体的には、JIS R1702光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果、JIS R1752可視光応答形光触媒加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果、JIS L1902繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果、JIS Z2801抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果、あるいは、JIS L1902繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果に規定されている菌液吸収法、トランスファー法、菌転写法、ハロー法等が挙げられる。
【0093】
(抗ウイルス作用)
抗ウイルス作用の指標としては、JIS規格やISO規格に定められた抗ウイルス性試験等を挙げることができる。
JIS規格やISO規格に定められた抗ウイルス試験は、主に代表的なエンベロープを有するインフルエンザウイルスやエンベロープのないネコカリシウイルス、あるいは、バクテリオファージを対象にしており、概略、ウイルス液やバクテリオファージ液をサンプルに接種し、前記液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で一定時間光照射、もしくは暗所で静置後、回収した前記液を希釈し、寒天培地にて培養する。培養後、プラーク数の比較することで抗ウイルス活性値を求める。あるいは、ウイルス液をサンプルに接種し、前記サンプルが前記ウイルス液を介してフィルムまたはガラスに密着した状態で一定時間光照射、もしくは暗所で静置後、サンプル上のウイルス液を洗い流して回収後、ウイルス感染価を比較することで抗ウイルス活性値を求める。具体的には、JIS R1706光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法、JIS R1756可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法、ISO21702 Measurement of antiviral activity on plastics and other non-porous surfaces、JIS L1922繊維製品の抗ウイルス性試験方法等の抗ウイルス性試験が挙げられる。
【0094】
<塗膜の抗菌性評価>
黄色ブドウ球菌(NBRC 12732)、大腸菌(NBRC 3972)を対象にして、以下の手法で抗菌試験を実施した。
紫外線照射による清浄化を行った5cm×5cmの塗膜に試験菌液0.1mlを接種し、前記菌液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で暗所8または24時間静置した。その後、回収した菌液を希釈し、寒天培地にて培養した。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗菌活性値を求めた。算出式は、R=(U-U)-(A-U)=U-A(R:抗菌活性値、U:無加工品の接種直後の生菌数の対数値の平均値、U:無加工品の8または24時間後の生菌数の対数値の平均値、A:加工品の8または24時間後の生菌数の対数値の平均値)で表される。尚、加工品は試験対象物を含む分散体を製膜した塗膜、無加工品はPETフィルムまたは合成樹脂およびポリウレタン樹脂および溶剤から成る溶液を製膜した塗膜である。抗菌活性値の目安として、例えばJIS Z 2801:2021抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果では、抗菌効果の判定基準は2.0以上であると規定している。また、抗菌活性値が2.0の場合、無加工品に比べて加工品は、試験後の菌の増殖を99%抑制したことを意味する。ただし、必ずしも菌が増殖しないことを意味するものではない。
【0095】
<塗膜の抗ウイルス性評価>
バクテリオファージQβ(NBRC 20012、宿主大腸菌(NBRC 106373))、バクテリオファージΦ6(NBRC105899、宿主Pseudomonas syringae(NBRC14084))を対象にして、以下の手法で抗ウイルス試験を実施した。
5cm×5cmの塗膜に試験ファージ液を接種し、前記ファージ液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で暗所4時間静置した。その後、回収したファージ液を希釈し、寒天培地にて培養した。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗ウイルス活性値を求めた。算出式は、V:抗ウイルス活性値(暗所):[V=Log(B)-Log(C)](D:暗所、B:暗所における4時間静置後の無加工品の感染価、C:暗所における4時間静置後の加工品の感染価)で表される。尚、加工品は試験対象物を含む分散体を製膜した塗膜、無加工品はPETフィルムまたは合成樹脂およびポリウレタン樹脂および溶剤から成る溶液を製膜した塗膜である。
ここで、例えば抗ウイルス活性値が2.0の場合、無加工品に比べて加工品は、試験後のファージの増殖を99%抑制したことを意味する。ただし、必ずしもファージが増殖しないことを意味するものではない。
【0096】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を利用することで、インキ、印刷物、塗料、塗装、プラスチック、繊維、フィルム、および化粧品等を提供することができる。下記詳述する用途は一例であり、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を抗菌性、滅菌性や抗ウイルス性を有するアプリケーションとして、いかなる用途へも使用することができる。
【0097】
(インキ用途)
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、抗菌、抗ウイルス作用を有する印刷インキを提供できる。印刷インキは、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤に対して、公知慣用の各種バインダー樹脂、各種溶媒、各種添加剤等を、従来の調製方法に従って混合することにより調製することができる。具体的には、顔料濃度の高いリキッドインキ用ベースインキを調整し、各種バインダー、各種溶媒、各種添加剤等を使用することにより、リキッドインキを調整することができる。
【0098】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、抗菌、抗ウイルス作用を有するPUインキやNCインキの製造が可能であり、グラビア印刷インキやフレキソ印刷インキ用の有機組成物として好適である。PUインキはPU樹脂、顔料、溶剤、各種添加剤よりなり、NCインキはNC樹脂、顔料、溶剤、各種添加剤よりなる。PU樹脂は、ウレタン構造を骨格内に有していれば、特に、限定されず、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレア等も含む。それぞれ溶剤としては、トルエン、キシレンなどの芳香族有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノールなどのアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-i-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-i-プロピルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどの他のエーテル系溶剤などが挙げられる。なお、溶剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。各種添加剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性などの界面活性剤、ガムロジン、重合ロジン、不均化ロジン、水添ロジン、マレイン化ロジン、硬化ロジン、フタル酸アルキッド樹脂などロジン類、顔料誘導体、分散剤、湿潤剤、接着補助剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、ワックス成分などを使用することができる。
【0099】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を印刷インキとして用いる場合、上記のようにして調製された本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を使用した印刷インキを酢酸エチルやポリウレタン系ワニス、ポリアミド系ワニスに希釈して用いることができる。印刷インキの調製は公知慣用の方法を採用することができる。
【0100】
(塗料用途)
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を抗菌、抗ウイルス作用を有する塗料とする場合、塗料として使用される樹脂としては、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂など様々である。
【0101】
塗料に使用される溶媒としては、トルエンやキシレン、メトキシベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤、エトキシエチルプロピオネート等のプロピオネート系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクタム、N-メチル-2-ピロリドン、アニリン、ピリジン等の窒素化合物系溶剤、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、カルバミン酸メチルとカルバミン酸エチルの48:52の混合物のようなカルバミン酸エステル、水等がある。溶媒としては、特にプロピオネート系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、窒素化合物系、ラクトン系、水等の極性溶媒で水可溶のものが適している。
【0102】
また、顔料添加剤及び/又は抗菌剤、抗ウイルス剤を、液状樹脂中で分散し又は混合し、塗料用樹脂組成物とする場合に、通常の添加剤類、例えば、分散剤類、充填剤類、塗料補助剤類、乾燥剤類、可塑剤類及び/又は補助顔料を用いることができる。これは、それぞれの成分を、単独又は幾つかを一緒にして、全ての成分を集め、又はそれらの全部を一度に加えることによって、分散又は混合して達成される。
【0103】
上記のように用途にあわせて調製された抗菌剤、抗ウイルス剤を含む混合物を分散する分散機としては、ディスパー、ホモミキサー、ペイントコンディショナー、スキャンデックス、ビーズミル、アトライター、ボールミル、二本ロール、三本ロール、加圧ニーダー等の公知の分散機が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗菌剤、抗ウイルス剤の分散は、これらの分散機にて分散が可能な粘度になるよう、樹脂、溶剤が添加され分散される。分散後の高濃度塗料ベースは固形分5~20%であり、これにさらに樹脂、溶剤を混合し塗料として使用に供される。
【0104】
(プラスチック用途)
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、抗菌、抗ウイルス作用を有するプラスチック用途にも使用できる。プラスチック成形品を得る場合には、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやポリ塩化ビニル樹脂等の、射出成形やプレス成形等の熱成形用の熱可塑性樹脂(プラスチック)が用いられるが、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤はこれらの樹脂に従来公知の方法で練り込んで使用することができる。
【0105】
(化粧品用途)
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、化粧品として使用できる。使用される化粧品には特に制限はなく、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、様々なタイプの化粧品に使用することができる。
【0106】
前記化粧品は、機能を有効に発現することができる限り、いかなるタイプの化粧品であってもよい。前記化粧品は、ローション、クリームゲル、スプレー等であってよい。前記化粧品としては、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、保護用乳液、保護用クリーム、美白化粧品、紫外線防止化粧品等のスキンケア化粧品、ファンデーション、白粉、化粧下地、口紅、アイメークアップ、頬紅、ネイルエナメル等のメークアップ化粧品、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、整髪剤、パーマネント・ウェーブ剤、染毛剤、育毛剤等のヘアケア化粧品、身体洗浄用化粧品、デオドラント化粧品、浴用剤等のボディケア化粧品などを挙げることができる。
【0107】
前記化粧品に使用される本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤は、化粧品の種類に応じて適宜設定することができる。前記化粧品中の含有量が通常0.1~99質量%の範囲であり、一般的には、0.1~10質量%の範囲となるような量であることが好ましい。一方で、メークアップ化粧品では、5~80質量%の範囲、10~70質量%の範囲、20~60質量%の範囲となるような量であってもよい。前記化粧品に含まれる本発明の組成物の量が前記範囲であると、着色性等の機能を有効に発現することができ、かつ化粧品に要求される機能も保持することができる。
【0108】
前記化粧品は、化粧品の種類に応じて、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤の他、化粧品成分として許容可能な、担体、顔料、油、ステロール、アミノ酸、保湿剤、粉体、着色剤、pH調整剤、香料、精油、化粧品活性成分、ビタミン、必須脂肪酸、スフィンゴ脂質、セルフタンニング剤、賦形剤、充填剤、乳化剤、酸化防止剤、界面活性剤、キレート剤、ゲル化剤、濃厚剤、エモリエント剤、湿潤剤、保湿剤、鉱物、粘度調整剤、流動調整剤、角質溶解剤、レチノイド、ホルモン化合物、アルファヒドロキシ酸、アルファケト酸、抗マイコバクテリア剤、抗真菌剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、鎮痛剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗刺激剤、抗腫瘍剤、免疫系ブースト剤、免疫系抑制剤、抗アクネ剤、麻酔剤、消毒剤、防虫剤、皮膚冷却化合物、皮膚保護剤、皮膚浸透増強剤、剥脱剤(exfoliant)、潤滑剤、芳香剤、染色剤、脱色剤、色素沈着低下剤(hypopigmenting agent)、防腐剤、安定剤、医薬品、光安定化剤、及び球形粉末等を含むことができる。
【0109】
前記化粧品は、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤およびその他の化粧品成分を混合することによって製造することができる。
また、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を含む化粧品は、該化粧品のタイプ等に応じて、通常の化粧品と同様に使用することができる。
【0110】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤が塗料やプラスチックに使用される場合、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤が塗料表面やプラスチック表面近傍に存在することが好ましい。上記調整は塗料やプラスチックに用いられる樹脂の種類に応じて、上記式(14)で表される脂肪酸金属塩中のRのアルキル基の種類を調整すること、または分散条件を制御することで可能となる。
【0111】
本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤に顔料の表面に脂肪酸金属塩が被覆した形態の組成物を含む場合、抗菌性や抗ウイルス性が特に優れることが分かっている。理由は定かではないが、顔料の表面に脂肪酸金属塩が被覆した組成物、被覆されていない顔料、被覆していない脂肪酸金属塩の何れかが塗膜やプラスチックの表面近傍に移行する際に、残りの成分も一緒に表面近傍に移行しやすくなるためと推測している。
【実施例
【0112】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0113】
以下、実施例1~15、比較例1~13で使用した顔料を記載する。
【0114】
(鉄フタロシアニン)
鉄フタロシアニンは製品名:P-26(山陽色素株式会社製)を使用した。
【0115】
(銅フタロシアニン)
銅フタロシアニンはC.I.PigmentBlue15:3、製品名:FASTOGEN BLUE PA5380(DIC株式会社製)を使用した。
【0116】
(臭素化塩素化亜鉛フタロシアニン)
臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンはC.I.PigmentGreen58、製品名:FASTOGEN GREEN A110(DIC株式会社製)を使用した。
【0117】
(キナクリドン)
キナクリドンはC.I.PigmentViolet19、製品名:FASTOGEN SUPER RED 7061BCONC(DIC株式会社製)を使用した。
【0118】
(ペリレン)
ペリレンはC.I.PigmentRed179、製品名:PERRINDO MAROON 179 229-6438(DIC株式会社製)を使用した。
【0119】
(ジケトピロロピロール)
ジケトピロロピロールはC.I.PigmentRed254、製品名:FASTOGEN SUPER RED254 226-0200(DIC株式会社製)を使用した。
【0120】
(アゾバリウム塩)
アゾバリウム塩はC.I.PigmentRed48:1、製品名:SYMULER RED 3109(DIC株式会社社製)を使用した。
【0121】
(ジスアゾ)
ジスアゾはC.I.PigmentYellow180、製品名:SYMULER Fast Yellow BY2000GT(DIC株式会社製)を使用した。
【0122】
(黒酸化鉄)
黒酸化鉄はC.I.PigmentBlack11、製品名:C33-134 SunCROMA Black Iron Oxide(Sun Chemical社製)を使用した。
【0123】
(赤酸化鉄)
赤酸化鉄はC.I.PigmentRed101、製品名:C33-128 SunCROMA Red Iron Oxide(Sun Chemical社製)を使用した。
【0124】
以下、実施例1~15、比較例1~13で使用する脂肪酸金属塩の調製方法を記載する。
【0125】
(ネオデカン酸ネオジムの調製)
1.0Lセパラブルフラスコにネオデカン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)224.8gと酸化ネオジム(関東化学株式会社製)60.0gを仕込み、130℃で反応後、アスピレーターを用いて0.08barにて130℃で2時間減圧脱水し、ネオデカン酸ネオジムを得た。得られたネオデカン酸ネオジムは薄紫色で高粘度の粘着性固体であった。
【0126】
(ネオデカン酸ランタン溶液の調製)
ネオデカン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)83.1gと酸化ランタン(関東化学株式会社製)21.5gを130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン107.6gを加えてネオデカン酸ランタン溶液208.5gを得た。得られたネオデカン酸ランタン溶液中のランタン含有量は8.8質量%であった。
【0127】
(2-エチルヘキサン酸コバルト溶液の調製)
2-エチルヘキサン酸(関東化学株式会社製)319.0gと水酸化コバルト(富士フイルム和光純薬株式会社製)100.0gを130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、石油系炭化水素134.2gを加えて2-エチルヘキサン酸コバルト溶液502.3gを得た。得られた2-エチルヘキサン酸コバルト溶液中のコバルト含有量は12質量%であった。
【0128】
上記の調製で得られたネオデカン酸ネオジムおよびネオデカン酸ランタン溶液から溶剤留去したものおよび2-エチルヘキサン酸コバルト溶液から溶剤留去したものは、イソブタノール、メチルエチルケトン、トルエンには溶解したが、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートには不溶であった。溶解性は、スクリュー瓶(13.5mL)にネオデカン酸ネオジムまたはネオデカン酸ランタン溶液から溶剤留去したものまたは2-エチルヘキサン酸コバルト溶液から溶剤留去したもの0.1g、溶剤2.0gを加え混合し、しばらく放置後、固体の残存がなく溶液が透明であった場合「溶解」、固体が残存している、または溶液が白濁していた場合は「不溶」とした。
【0129】
以下、実施例1~15で使用する組成物の調製方法を記載する。組成物の調整で使用する顔料使用量および脂肪酸金属塩使用量を表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
(組成物1の調製)
0.5Lセパラブルフラスコを用いてネオデカン酸ネオジム5.0g、イソブタノール(関東化学株式会社製)60.0gを混合・攪拌し、その後鉄フタロシアニン20.0g、水120.0gを加え、攪拌させながら1時間還流した。その後水120.0gを追加して溶剤留去した後、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕し、組成物1を得た。
【0132】
(組成物2、5~15の調製)
0.5Lセパラブルフラスコを用いて脂肪酸金属塩、イソブタノール(関東化学株式会社製)30.0gを混合・攪拌し、その後顔料、水60.0gを加え、攪拌させながら1時間還流した。その後水60.0gを追加して溶剤留去した後、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕し、組成物を得た。
【0133】
(組成物3、4)
50mLナスフラスコを用いて脂肪酸金属塩を溶剤留去し、イソブタノール(関東化学株式会社製)30.0gを加えて0.5Lセパラブルフラスコに移し替えた。その後顔料、水60.0gを加え、攪拌させながら1時間還流した。その後水60.0gを追加して溶剤留去した後、ろ過、洗浄、乾燥、粉砕し、組成物を得た。
【0134】
得られた組成物1~15に対してSEM-EDS測定による元素マッピングを実施した。その結果、組成物1~15は粒子像と脂肪酸金属塩の金属種に対応する元素が同一場所で検出され、顔料表面に脂肪酸金属塩が付着または被覆していることが推察される。なお、SEM-EDSは得られた組成物を白金蒸着して、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)が搭載された走査電子顕微鏡(SEM、製品名:JSM-IT200(LA)(日本電子株式会社製))を使用して測定した。測定条件は作業距離(WD)10mm、加速電圧15.0または20.0kvとし、1000倍~5000倍の視野を対象とした。
【0135】
例えば、組成物1のSEM-EDS結果を図1図2に示す。図1は組成物1のSEM画像を示し、図2図1とどう同一位置、倍率でSEM-EDS測定による元素マッピングを実施した結果をs示し白色部分はネオジムの分布を示す。粒子像とネオジムが同一場所で検出されていることから、鉄フタロシアニン表面に脂肪酸金属塩が付着または被覆していることが推察できる。
【0136】
以下、抗菌試験および抗ウイルス試験で使用する塗膜の作製方法を記載する。
【0137】
塗膜の作製において、樹脂は以下を使用した。
樹脂1:合成樹脂(製品名:V343-306SA(DICグラフィックス株式会社製、固形分濃度:25%、溶剤の重量比率:メチルエチルケトン/酢酸エチル/トルエン=35/20/20)
樹脂2:合成樹脂(製品名:V343-306SA(DICグラフィックス株式会社製、固形分濃度:25%、溶剤の重量比率:メチルエチルケトン/酢酸エチル/トルエン=35/20/20))の溶剤成分を留去したもの
樹脂3:ポリウレタン樹脂(製品名:サンプレンIB-D12(三洋化成工業株式会社製、固形分濃度:30%、溶剤の重量比率:メチルエチルケトン/イソプロパノール=47/23)
樹脂4:ポリウレタン樹脂(製品名:サンプレンIB-D12(三洋化成工業株式会社製、固形分濃度:30%、溶剤の重量比率:メチルエチルケトン/イソプロパノール=47/23))の溶剤成分を留去したもの
【0138】
塗膜の作製において、溶剤はアセトン(関東化学株式会社製)およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMEAと記載、関東化学株式会社製)、またはメチルエチルケトン(以下MEKと記載、関東化学株式会社製)およびトルエン(関東化学株式会社製)を使用した。
【0139】
実施例1~15、比較例1~13の塗膜作製に使用した配合を表2、及び、表3に示す。実施例1~15は組成物の調製で得た組成物を表2の配合で塗膜を作製し、比較例は1~13は顔料または脂肪酸金属塩を表3の配合でそれぞれ混合し、塗膜を作製した。添加量は塗膜中の樹脂固形分に対して、含有する組成物または顔料または脂肪酸金属塩の重量比率を指す。
















【0140】
【表2】



【0141】
【表3】
【0142】
(実施例1~15)
表2の配合を用いて、以下の方法でそれぞれの塗膜を得た。
【0143】
抗菌剤、抗ウイルス剤、樹脂、溶剤、及び1/8インチのスチールビーズ80gをポリ瓶に入れ、ペイントコンディショナーで30分振とうし、分散体を得た。
【0144】
得られた分散体を188μmのPETフィルムにバーコーターNo.6を用いて塗布し、ドライヤー乾燥し、さらに150℃で15分乾燥することで実施例1~15の塗膜を得た。
【0145】
(比較例1~13)
表3の配合を用いて、以下の方法でそれぞれの塗膜を得た。
【0146】
顔料または脂肪酸金属塩、樹脂、溶剤、及び1/8インチのスチールビーズ80gをポリ瓶に入れ、ペイントコンディショナーで30分振とうし、分散体を得た。
【0147】
得られた分散体を188μmのPETフィルムにバーコーターNo.6を用いて塗布し、ドライヤー乾燥し、さらに150℃で15分乾燥することで比較例1~13の塗膜を得た。
【0148】
<抗菌試験1>
JIS R 1752:2020を参考に、大腸菌(NBRC3972)を対象にして、以下の手法で抗菌試験を実施した。
【0149】
紫外線照射による清浄化を行った5cm×5cmの塗膜に試験菌液0.1mlを接種し、前記菌液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で暗所24時間静置した。その後、回収した菌液を希釈し、寒天培地にて培養した。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗菌活性値を求めた。算出式は、R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At(R:抗菌活性値、U0:無加工品の接種直後の生菌数の対数値の平均値、Ut:無加工品の24時間後の生菌数の対数値の平均値、At:加工品の24時間後の生菌数の対数値の平均値)で表される。尚、加工品は試験対象物を含む分散体を製膜した塗膜、無加工品はPETフィルムである。
【0150】
<抗菌試験2>
大腸菌(NBRC3972)の代わりに黄色ブドウ球菌(NBRC12732)を用いた以外は<抗菌試験1>と同様の手法で抗菌試験を実施した。
【0151】
<抗菌試験3>
JIS R 1752:2020を参考に、大腸菌(NBRC3972)を対象にして、以下の手法で抗菌試験を実施した。
【0152】
紫外線照射による清浄化を行った5cm×5cmの塗膜に試験菌液0.1mlを接種し、前記菌液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で暗所8時間静置した。その後、回収した菌液を希釈し、寒天培地にて培養した。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗菌活性値を求めた。算出式は、R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At(R:抗菌活性値、U0:無加工品の接種直後の生菌数の対数値の平均値、Ut:無加工品の8時間後の生菌数の対数値の平均値、At:加工品の8時間後の生菌数の対数値の平均値)で表される。尚、加工品は試験対象物を含む分散体を製膜した塗膜、無加工品は合成樹脂およびポリウレタン樹脂および溶剤から成る溶液を製膜した塗膜である。
【0153】
<抗菌試験4>
大腸菌(NBRC3972)の代わりに黄色ブドウ球菌(NBRC12732)を用いた以外は<抗菌試験3>と同様の手法で抗菌試験を実施した。
【0154】
<抗ウイルス試験1>
JIS R 1756:2020を参考に、バクテリオファージQβ(NBRC20012、宿主大腸菌(NBRC106373))を対象にして、以下の手法で抗ウイルス試験を実施した。
【0155】
5cm×5cmの塗膜に試験ファージ液を接種し、前記ファージ液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で暗所4時間静置した。その後、回収したファージ液を希釈し、寒天培地にて培養した。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗ウイルス活性値を求めた。算出式は、VD:抗ウイルス活性値(暗所):[VD=Log(BD)-Log(CD)](D:暗所、BD:暗所における4時間静置後の無加工品の感染価、CD:暗所における4時間静置後の加工品の感染価)で表される。尚、加工品は試験対象物を含む分散体を製膜した塗膜、無加工品はPETフィルムである。
【0156】
<抗ウイルス試験2>
JIS R 1756:2020を参考に、バクテリオファージQβ(NBRC20012、宿主大腸菌(NBRC106373))を対象にして、以下の手法で抗ウイルス試験を実施した。
【0157】
5cm×5cmの塗膜に試験ファージ液を接種し、前記ファージ液をフィルムまたはガラスに密着させた状態で暗所4時間静置した。その後、回収したファージ液を希釈し、寒天培地にて培養した。培養後、発生したコロニー数を比較することで抗ウイルス活性値を求めた。算出式は、VD:抗ウイルス活性値(暗所):[VD=Log(BD)-Log(CD)](D:暗所、BD:暗所における4時間静置後の無加工品の感染価、CD:暗所における4時間静置後の加工品の感染価)で表される。尚、加工品は試験対象物を含む分散体を製膜した塗膜、無加工品は合成樹脂およびポリウレタン樹脂および溶剤から成る溶液を製膜した塗膜である。
【0158】
<抗ウイルス試験3>
バクテリオファージQβ(NBRC20012、宿主大腸菌(NBRC106373))の代わりにバクテリオファージΦ6(NBRC105899、宿主Pseudomonas syringae(NBRC14084))を用いた以外は<抗ウイルス試験2>と同様の手法で抗ウイルス試験を実施した。
【0159】
実施例1、比較例1、2の塗膜に対して<抗菌試験1>を実施した。結果を表4に示す。
【0160】
【表4】

【0161】
実施例1、比較例1、2の塗膜に対して<抗菌試験2>を実施した。結果を表5に示す。
【0162】
【表5】
【0163】
実施例3、5~10、12、13、及び、比較例5~10、12、13に対して<抗菌試験3>を実施した。その結果を表6に示す。
【0164】
【表6】



【0165】
実施例2、4~15、比較例3~13に対して<抗菌試験4>を実施した。その結果を表7に示す。
【0166】
【表7】



【0167】
実施例1、比較例1、2の塗膜に対して<抗ウイルス試験1>を実施した。結果を表8に示す。
【0168】
【表8】



【0169】
実施例2、3、5~10、12~13、比較例3~10、12、13に対して<抗ウイルス試験2>を実施した。その結果を表9に示す。
【0170】
【表9】


【0171】
実施例2~11、14~15、比較例3~11に対して<抗ウイルス試験3>を実施した。その結果を表10に示す。
【0172】
【表10】


【0173】
表4、表5、表8の結果より、実施例1の塗膜は、比較例1,2の塗膜と比較して、優れた抗菌性、抗ウイルス性を示すことがわかった。
【0174】
表7、表9、表10の結果より、実施例2の塗膜は、比較例3、4の塗膜と比較して、優れた抗菌性、抗ウイルス性を示すことがわかった。実施例2と比較例4を比較すると、ただ塗膜作製時に顔料および脂肪酸金属塩を混合するよりも、組成物の調製で得た組成物を用いて塗膜を作製した方が、高い抗菌性、抗ウイルス性が発現することが判明した。
【0175】
表4、表5~表10の実施例1~4、比較例1~4の結果より、各種脂肪酸金属塩を用いた組成物は、優れた抗菌性、抗ウイルス性を示すことがわかった。したがって、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を構成する脂肪酸金属塩は種々の脂肪酸金属塩を使用することが可能であると言える。
【0176】
表6、表7、表9,表10の実施例5~11、比較例5~11の結果より、組成物の調製をすることで、抗菌性、抗ウイルス性を有していない有機顔料の抗菌活性、抗ウイルス活性を向上させることができるとわかった。したがって、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を構成する顔料は種々の有機顔料を使用することが可能であると言える。
【0177】
表6、表7、表9の実施例12、13、比較例12、13の結果より、組成物の調製をすることで、抗菌性、抗ウイルス性を有していない無機顔料の抗菌活性、抗ウイルス活性が向上することがわかった。したがって、本発明の抗菌剤、抗ウイルス剤を構成する顔料は種々の無機顔料を使用することが可能であると言える。
【0178】
表7,表10の実施例2、14、15の結果より、いずれも高い抗菌性、抗ウイルス性を有しているが、鉄フタロシアニンに対してネオデカン酸ネオジムの割合を大きくするにつれて抗菌性、抗ウイルス性が少し低下することがわかった。これは、ネオデカン酸ネオジムが粘着性固体であることに起因し、鉄フタロシアニンに対してネオデカン酸ネオジムの割合を大きくするにつれて、組成物の凝集が大きくなり、組成物が塗膜に均一に分散しなかったため、抗菌性、抗ウイルス性が低下したと考えられる。
図1
図2